(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】化学的に安定したポリマーゲルのための架橋性プレポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 299/02 20060101AFI20241015BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20241015BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20241015BHJP
A61K 6/891 20200101ALI20241015BHJP
【FI】
C08F299/02
A61K6/62
A61K6/887
A61K6/891
(21)【出願番号】P 2022573707
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2021062554
(87)【国際公開番号】W WO2021239463
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-02
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522164112
【氏名又は名称】オドネ エージー
【氏名又は名称原語表記】Odne AG
(74)【代理人】
【識別番号】110003487
【氏名又は名称】弁理士法人東海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビスピンホフ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】シュモッカー,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,アーロン
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110330639(CN,A)
【文献】特開2017-155212(JP,A)
【文献】特開2013-205569(JP,A)
【文献】特開平03-186854(JP,A)
【文献】HERMES R.,Preparation and characterization of amphilic membranes with lyotropic mesophases for simulation of skin permeation resistance,PHARMAZIE,1995年,50(7),p.481-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
A61K6
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物を調製するための方法であって、
a)好適な溶媒中に、
i)前記化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマーであって、前記水溶性架橋性プレポリマーが、式I:
を有し、式中、
Bは、
ポリ(エチレングリコール)(PEG):
であって、式中、nが1~450の繰り返し単位を含む、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、
オリゴ(エチレングリコール)(EG):
であって、式中、mが1~12の繰り返し単位を含む、オリゴ(エチレングリコール)(EG)、
ポロキサマー:
であって、式中、p、q、sが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、ポロキサマー、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポリキサマー、
からなる群より選択されるバックボーンであり、
Lは、C3~C18の直鎖又は分岐アルキル鎖の中から選択されるリンカーであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOであるとき、R2はH又はOHでなく、
但し、L=C3(n-プロピル、i-プロピル)であるとき、末端基R1及びR2はアクリルアミドでない、水溶性架橋性プレポリマー、又は
ii)前記化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマーであって、前記水溶性架橋性プレポリマーが、式II:
を有し、式中、
Bは、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポリキサマーからなるバックボーンであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOであるとき、R2はH又はOHでない、
水溶性架橋性プレポリマー、
のいずれかを溶解する工程と、
b)フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を添加する工程
であって、前記フェノール系ラジカル安定剤は、未置換の又はメチル、エチル、イソプロピルもしくはtert-ブチル置換のフェノール類又はそれらの混合物から本質的になる群より選択される、添加する工程と、
c)ラジカル重合開始剤を添加する工程と、
d)重合又は架橋ステップを適用して、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップc)の前記ラジカル重合開始剤が、一般的な紫外線(UV)、紫線、青線、又は他の可視光応答型光開始剤からなる光開始剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光開始剤が、キノン、α-ヒドロキシケトン、アシルゲルマニウム誘導体、ビス(アシル)ホスフィンオキシド誘導体及びモノ(アシル)ホシフィンオキシド誘導体又はそれらの混合物を含む群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記好適な溶媒が、水、アセトン、DMSO又はアルコール又はそれらの混合物から本質的になる、請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物の前駆組成物であって、前記前駆組成物が、
i)前記化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための安定した水溶性架橋性プレポリマーであって、前記水溶性架橋性プレポリマーが式I:
を有し、式中、
Bは、
ポリ(エチレングリコール)(PEG):
であって、式中、nが1~450の繰り返し単位を含む、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、
オリゴ(エチレングリコール)(EG):
であって、式中、mが1~12の繰り返し単位を含む、オリゴ(エチレングリコール)(EG)、
ポロキサマー:
であって、式中、p、q、sが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、ポロキサマー、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポロキサマー、
からなる群より選択されるバックボーンであり、
Lは、C3~C18の直鎖又は分岐アルキル鎖の中から選択されるリンカーであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOであるとき、R2はH又はOHでなく、
但し、L=C3(n-プロピル、i-プロピル)であるとき、末端基R1及びR2はアクリルアミドでない、水溶性架橋性プレポリマー、又は
ii)前記化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマーであって、前記水溶性架橋性プレポリマーが、式II:
を有し、式中、
Bは、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポロキサマーからなるバックボーンであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOであるとき、R2はH又はOHでない、
水溶性架橋性プレポリマー、
のいずれかを5~95重量%、好適な溶媒を5~95重量%。フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を0.001~10重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~10重量%で含
み、
前記フェノール系ラジカル安定剤は、未置換の又はメチル、エチル、イソプロピルもしくはtert-ブチル置換のフェノール類又はそれらの混合物から本質的になる群より選択される、前駆組成物。
【請求項6】
無機フィラーを1~90重量%で更に含む、請求項
5に記載の前駆組成物。
【請求項7】
前記無機フィラーが粉末又は懸濁液であり、非水溶性酸化金属又は金属塩を含む群より選択される、請求項
6に記載の前駆組成物。
【請求項8】
請求項
5~7のいずれか一項に記載の前駆組成物を架橋することによって得ることができる、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物であって、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物が、8週間にわたって57℃で水中に保管され、続いて水又は溶媒を除去するために洗浄ステップ及び真空乾燥ステップにかけられた後に、初期の乾燥質量の少なくとも95%を保持する、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物。
【請求項9】
請求項
1~3のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物であって、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物が、8週間にわたって57℃で水中に保管され、続いて水又は溶媒を除去するために洗浄ステップ及び真空乾燥ステップにかけられた後に、初期の乾燥質量の少なくとも95%を保持する、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物。
【請求項10】
請求項
5~7のいずれか一項に記載の前記前駆組成物を含む、医療用又は歯科用フィラー前駆組成物。
【請求項11】
化学的に安定した架橋
歯科用ポリマーゲル組成物の調製のための水溶性架橋性
歯科用プレポリマーであって、前記水溶性架橋性
歯科用プレポリマーが、式I:
を有し、式中、
Bは、
ポリ(エチレングリコール)(PEG):
であって、式中、nが1~450の繰り返し単位を含む、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、
オリゴ(エチレングリコール)(EG):
であって、式中、mが1~12の繰り返し単位を含む、オリゴ(エチレングリコール)(EG)、
ポロキサマー:
であって、式中、p、q、sが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、ポロキサマー、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポリキサマー、
からなる群より選択されるバックボーンであり、
Lは、C3~C18の直鎖又は分岐アルキル鎖の中から選択されるリンカーであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOであるとき、R2はH又はOHでなく、
但し、m=8であるとき、LはC11(ウンデシル)でない、水溶性架橋性
歯科用プレポリマー。
【請求項12】
R1及びR2が、アクリレート及び/又はメタクリレートからなる群より選択される、請求項
11に記載の水溶性架橋性
歯科用プレポリマー。
【請求項13】
前記リンカーがC4~C6の直鎖又は分岐アルキル鎖である、請求項
11又は
12に記載の水溶性架橋性
歯科用プレポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的に安定している架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマー、それを調製するための方法、それを含有する組成物、及び医療用又は歯科用フィラー組成物などとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲルは、多くの生物医学用途(生体組織工学、創傷縫合、組織接着剤やシーラント)について調査されている。これらは架橋性基を有する水溶性プレポリマーの溶液を化学架橋することによって得ることができる。プレポリマーは、PEGジメタクリレート(PEG-DMA、CAS:25852-47-5)など、ポリ(エチレングリコール)(PEG)の二官能性架橋性誘導体であり得る。
【0003】
ヒドロゲルの主要な利点は、それらが水ベースであることであり、よって、それらの前駆体は水溶性である。これにより、水溶性でなければその使用は不可能であった、水を溶媒として必要とする生物医学用途のセットへの使用を可能とする。しかしながら、前記前駆体の本来的に必要な親水性によって親水性材料に至り、それによって架橋後に水とのより強い相互作用、ひいては潜在的により高い分解又は水との不安定性をもたらす。
【0004】
ヒドロゲルのほとんどの用途では、数日から数週間以内に生理学上の条件下で材料が分解することが望ましい。これを達成するには、しばしば、安定したポリエーテル(例えば、PEG)が加水分解的に化学変化しやすいポリエステル(ポリ乳酸、ポリカプロラクトン)とコポリマー内で組み合わされる。ポリエステル部分の加水分解はゲルを分解可能にする(参照文献[4])。
【0005】
しかしながら、(例えばPEG-DMAから作られた)純粋なポリエステル系ヒドロゲルでさえも、PEGバックボーンと架橋性末端基との間のエステル結合の加水分解性不安定性によって、数週間から数か月間の期間で分解する。エステル結合の代わりにアミド結合を有するPEGジアクリルアミド(PEG-DAAm、CAS:160556-48-9)がより加水分解的に安定している代替物として示唆された(参照文献[1],[2])。しかしながら、出願人らはPEG-DMA又はPEG-DAAmに基づくヒドロゲルが、生理学上の条件下にて数か月以内で著しく分解することを見出した。PEGメタクリレート及びPEGアクリルアミドにおけるエステル結合及びアミド結合は、中性のpHであっても予想を超える速さで分解する。更に、「反転メタクリレート」末端基を有するPEG誘導体が、PEG-DMAの加水分解的に安定した代替物として提案されていた(参照文献[11]~[14])。これらの誘導体はPEGアクリレートとマイケル反応におけるチオールの反応と同様の反応速度を示し(参照文献[11])、また、酸化還元開始剤系を使用してフリーラジカルプロセスにて架橋され得る(参照文献[13])。しかしながら、出願人らは1~2分間の照射時間以内での迅速な光重合はこのようなプレポリマーでは不可能であることを見出している。したがって、向上した加水分解安定性を有する架橋性プレポリマーが、数年間の長期にわたる安定性を必要とする用途では必須である。
【0006】
加えて、ポリ(エチレングリコール)自体が、酸化条件下、例えば考古学の人工遺物用コーティングとして使用されるときなど、おそらくは末端水酸基及び/又は内部エーテル部分の酸化によって、分解することが知られている(参照文献[3],[8]~[10])。したがって、PEG系ヒドロゲルの分解は、バックポーンと末端基との間のエステル/アミド結合の加水分解の組み合わせ、またバックボーン内のエーテル基の酸化分解であることが予想される(参照文献[1],[5]~[7])。このようなヒドロゲルは大気下で保管したときには内部の炭素-酸素結合の酸化を通じて分解すると示された一方で、水中で保管されたときには、この効果はより低い酸素濃度によって低減された(参照文献[6])。加えて、出願人らは、PEG-DMA及びPEG-DAAm系ヒドロゲルでの加速劣化試験における酸化変性生成物を検出することができた。
【0007】
したがって、長期的に化学的に安定した親水性又はポリマーのゲルの調製には、加水分解的に安定したプレポリマーに加えて、好適な抗酸化剤が必要である。抗酸化剤として、フェノール類が、ポリマー、化粧品、医薬品、及び食品における酸化変性を抑制するために一般的に使用される。加えて、フリーラジカル重合を抑制することで、硬化性モノマーやポリマー組成物の保管性及び寿命を向上させるために、一般的に適用される。意図した硬化時には、開始剤系より生成されたラジカルが安定剤によって閉じ込められるため、それらが消費されるまで、重合は阻止又は妨害される。これによって、硬化された調合物は抗酸化剤を含まなくなり、したがって、同じくラジカルプロセスを通じて作用する酸化変性に対して保護されなくなるであろう。
【0008】
したがって、化学的に安定した架橋ポリマーゲルに変化可能なプレポリマー調合物の調製のための抗酸化剤は、十分に酸化変性を抑制しなければならない一方で、硬化工程中に生成されたフリーラジカルに対しては、硬化工程を妨げることなく、この反応中には消費されないように、不活性のままでなければならない。まとめると、以下の特性を満たす必要がある。
【0009】
水性プレポリマー調合物との親和性を有する。
【0010】
いずれのフリーラジカル系重合/架橋プロセスをも阻害せず、又はそのようなプロセス中に消費されない一方で、酸素ラジカル系変性を効果的に阻害する。
【0011】
硬化後の架橋性ポリマーゲル組成物が保持され、長期にわたる酸化安定性が保証される。
【0012】
最も一般的には、フェノール系抗酸化剤は、プレポリマー調合物に不溶性であるか、必要な製品寿命にわたって安定していないか、又はフリーラジカル重合に対して悪影響を与えるように見出された。
【0013】
この知識に基づいて、本発明の目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマー、また化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製に好適な抗酸化剤を含む組成物を提供することであり、これらは具体的には酸化的にかつ加水分解的に耐性を有し、より一般的には、化学分解に対して耐性を有することで、長期にわたる予想外の安定性が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
PEG-DMA又はPEG-DAAmに基づくヒドロゲルで得られた還元乾燥重量と比較した加速劣化実験後の常時乾燥重量によって示されるように、疎水性リンカーを有する官能性PEG誘導体に基づくヒドロゲルは、加水分解に対して著しい安定性を発揮した。しかしながら、これらの試料のエージング溶媒は引き続き酸化分解生成物の痕跡を示した。プレポリマー溶液が好適な抗酸化剤を含有していたときには、これらの分解生成物は観察されなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的のうちの1つは、化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマーを提供することであって、前記水溶性架橋性プレポリマーは、式I:
を有し、式中、
Bは、
ポリ(エチレングリコール)(PEG):
であって、式中、nが1~450の繰り返し単位を含む、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、
オリゴ(エチレングリコール)(EG):
であって、式中、mが1~12の繰り返し単位を含む、オリゴ(エチレングリコール)(EG)、
ポロキサマー:
であって、式中、p、q、sが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、ポロキサマー、
逆ポロキサマー(Inverse Poloxamer):
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポロキサマー、
からなる群より選択されるバックボーンであり、
Lは、C
3~C
18の直鎖又は分岐アルキル鎖より選択されるリンカーであり、
R1及びR2は、末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rはアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでなく、L=C
3(n-プロピル、i-プロピル)であるとき、末端基R1及びR2はアクリルアミドでない。
【0016】
好ましくは、水溶性架橋性プレポリマーは式Iを有するが、但し、m=8であるとき、LはC11(ウンデシル)でない。
【0017】
一実施形態では、水溶性架橋性プレポリマーは、化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性歯科用プレポリマーであり、前記水溶性架橋性歯科用プレポリマーは式Iを有する。
【0018】
好ましくは、R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rはアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでない。
【0019】
本発明の別の目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性プレポリマーを提供することであって、前記水溶性架橋性プレポリマーは、式II:
を有し、式中、
Bは、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポリキサマーからなるバックボーンであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rはアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでない。
【0020】
一実施形態では、水溶性架橋性プレポリマーは、化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲルの調製のための水溶性架橋性歯科用プレポリマーであり、前記水溶性架橋性歯科用プレポリマーは式IIを有する。
【0021】
好ましくは、R1及びR2は、H,OH、アクリレート、メタクリレート、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rはアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択されており、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでない。
【0022】
本発明の更なる目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物、好ましくは化学的に安定した架橋歯科用ゲル組成物を調製するための方法を提供することであって、前記方法は、
a)本明細書に記載の水溶性架橋性プレポリマーを好適な溶媒に溶解する工程と、
b)フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を添加する工程と、
c)ラジカル重合開始剤を添加する工程と、
d)重合又は架橋工程を適用して、前記化学的に安定した耐性ポリマーゲル組成物を形成する工程と、を含む。
【0023】
好ましくは、ラジカル重合開始剤は好適な溶媒中の溶液、又は微細懸濁液のいずれかとして提供される。
【0024】
本発明のまだ別の目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲルの前駆組成物、例えば化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲル組成物の歯科用前駆組成物を提供することである。前駆組成物は好ましくは、本発明の安定した水溶性架橋性プレポリマーを5~95重量%、好適な溶媒を5~95重量%、フェノール系又はアミノオキシルラジカル安定剤を0.001~10重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~10重量%で含む。
【0025】
本発明はまた、本発明に係る前駆組成物を架橋することで得ることができる化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物を提供し、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物は、8週間にわたって57℃で水中に保管され、次いで水又は溶媒を除去するために洗浄工程及び真空乾燥工程を経た後に、初期乾燥質量の少なくとも95%を保持する。
【0026】
また、本発明の前駆組成物を含む、医療用又は歯科用フィラー前駆組成物、好ましくは歯科用フィラー前駆組成物をも包含する。
【0027】
本発明の他の目的及び利点は、当業者には、以下の図示的な図面及び付随する請求項を参照して進行する、続く詳細な説明の査閲によって明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】応用例5に係る光重合効率試験中に異なるプレポリマーから得られたヒドロゲル試料の写真。
【
図2】光重合効率を分析するために用いられたセットアップの概略表示。参照符号は以下のとおりである。 301=2mLポリスチレンキュベット、302=液体プレポリマー組成物、303=固体化ヒドロゲル、304=レーザ光。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書に記載の方法及び材料に類似する又は等価の物を、本発明の実施又は試験に使用できるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。全ての刊行物、特許出願、特許、及び本明細書で言及された他の参照文献は、それらの全体が参照によって援用される。本明細書で議論されている刊行物及び出願は、本出願の出願日前の開示のためだけに提供されている。本明細書に記載されるいずれも、従来発明を理由に本発明がそのような刊行物に先行するものと見なされないことを認めると解釈されるべきではない。加えて、材料、方法、及び実施例は例示目的のみのものであり、限定する意図はない。
【0030】
矛盾が生じる場合には、本明細書が、定義を含めて、優先されるものとする。
【0031】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的な用語は、本明細書の主題が属する当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、以下の定義が、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0032】
明細書及び請求項で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容がそうでないように明示しない限り、複数形を含む。
【0033】
「1つ以上」、「少なくとも」、「に限定されない」、又は他の同様の句などの広義の言葉及び句の存在は、そのような広義の句が存在しない場合に狭義の場合が意図される又は必要とされると意味するようには読まれないものとする。
【0034】
用語「好ましい」及び「好ましくは」は、特定の利益を、特定の状況下でもたらすことができる開示の実施形態を指す。しかしながら、同一又は他の状況下で、他の実施形態も好まれ得る。更に、1つ以上の好ましい実施形態の記載は他の実施形態が有用でないことを暗示せず、開示の範囲から他の実施形態を排除する意図はない。
【0035】
ある特性又は特徴を参照しての用語「実質的に」は、その特性又は特徴が、呈されているその特性又は特徴の逆のものより大きな度合いで呈されていることを意味する。
【0036】
また、「又は」の使用は、別途記載のない限り、「及び/又は」を意味する。
【0037】
同様に、「備える(comprise)」、「備える(comprises)」、「備えている(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含んでいる(including)」は入替可能であり、限定する意図はない。用語「備える(comprise)」は概して含むの意味で、つまり、1つ以上の特徴又は構成要素の存在を許可する意味で、使用されている。
【0038】
更に、様々な実施形態の説明が用語「備えている(comprising)」を使用しているところでは、当業者であれば、いくつかの具体的な場合、一実施形態が表現「から本質的になる」又は「からなる」を用いて代替的に説明できることを理解できるであろう。
【0039】
また、本明細書では、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数字を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5等を含む)。
【0040】
別途指定のない限り、明細書及び実施形態において使用される、数量又は原材料、特性の測定値等を表す全ての数字は、全ての場合に用語「約」で修飾されていると理解されるべきである。したがって、逆に指定されない限り、先の明細書及び添付の実施形態の一覧に記載される数値パラメータは、本開示の教示を用いて当業者が得ようとする望ましい特性に応じて変動し得る。少なくとも、かつ請求された実施形態の範囲の均等論の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは報告された有意な桁数に照らして、及び通常の四捨五入手法を適用して、少なくとも解釈されるべきである。
【0041】
本開示のフレームにおいて、用語「組成物」は用語「調合物」と入替可能に用いられる。「組成物」は、本明細書にて使用される場合、ある特定の方法で調製されて特定の目的のために使用される、原材料又は化合物の混合物を指す。概念はまた、異なる化合物が組み合わされて最終製品を製造するというプロセスに明らかにリンクしている。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロゲル」は、膨潤剤が水溶液であるゲルを指す。ヒドロゲルは、架橋ポリマー鎖の網目構造から構成される高分子ポリマーゲルである。ヒドロゲルは全部ではないがほとんどが親水性プレポリマーから合成されており、水が分散媒体であるコロイダルゲルとして時折見出される。ヒドロゲルは高吸収性の天然又は合成高分子網目構造である。それらの特徴の結果、ヒドロゲルは、数Pa~数MPa間の弾性率、数Pa~数十又は数百のMPaまでの範囲の極限強さ、強固であるが弾性の典型的な機械特性を発現させ、変形は0.001%未満から数千倍までの範囲であり得る。(ヒドロ)ゲルのいくつかの物理特性は濃度に依存する。(ヒドロ)ゲル濃度の上昇はその孔半径、形態、又は異なる分子に対する透過性を変化させ得る。当業者であれば、(ヒドロ)ゲルの容量又は寸法(長さ、幅、及び厚さ)が、即時のニーズ、例えば(ヒドロ)ゲルが移植される領域若しくは環境、又は生分解性である必要があるか否かなどによって選択され得ることを認識するであろう。
【0043】
ポリマー化学では、「架橋すること」は通常、ポリマーの物理特性における変化を促進するための架橋結合の使用を指す。用語の架橋結合は、1つのポリマー鎖を別のものと連結させるための結合である。これらの連結は、共有結合(化学的架橋結合)又は水素結合、疎水性相互作用若しくは鎖のからみあい(物理的架橋結合)の形態を取り得る。ポリマーは合成ポリマー又は天然ポリマーのいずれであってもよい。架橋することは、2つのポリマー鎖をつなぐために結合又は化学結合の比較的短い配列を形成するプロセスの一般的な用語である。ポリマー化学では、合成ポリマーが「架橋している」とある場合、これは通常、ポリマーのかたまり全体が架橋方法に暴露されていることを意味する。機械特性の結果的な変更は、架橋結合の密度に大きく依存する。低い架橋結合の密度はポリマー溶融物の粘度を上昇させる。中間の架橋結合の密度はグミ状のポリマーを弾性特性及び潜在的な高強度を有する材料に変換する。非常に高い架橋結合の密度は、フェノール-ホルムアルデヒド材料のように、材料を非常に剛性又はガラス質にさせ得る。架橋結合は、熱、圧力、pHの変化、又は照射によって開始され得る化学反応によって形成可能である。例えば、重合されていない又は部分的に重合されている材料を、架橋試薬と呼ばれる特定の薬品と混合することで、架橋結合を形成する化学反応が得られる。架橋結合はまた、電子ビーム、ガンマ放射線、又は紫外線光などの照射源への曝露を通して、通常は熱可塑性である材料においても誘発され得る。
【0044】
用語「架橋性」は、「架橋結合」されることができるプレポリマーとして本明細書にも定義される材料を指す。
【0045】
用語「プレポリマー(pre-polymer又はprepolymer)」は、反応して中間分子量状態となったモノマー又はモノマー系を指す。この材料は、反応基による更なる重合で、完全に硬化した高分子量の架橋結合状態に成り得る。よって、反応ポリマーの未反応モノマーとの混合物も、プレポリマーと見なし得る。用語「プレポリマー」及び「ポリマー前駆体」は入替可能である。プレポリマーは、のちに完全に重合可能である、安定した通常は部分的に重合された化学中間生成物である。用語「硬化」は、例えば、熱、光、放射、eビーム、マイクロ波、化学反応、又はその組み合わせによる、任意の機構による組成物の硬化又は部分硬化を意味する。
【0046】
用語「硬化した」は、硬化することによって硬化又は部分的に硬化された(例えば、(共)重合又は架橋された)材料又は組成物を指す。
【0047】
「前駆体」、「前駆組成物」、又は「ポリマー前駆体」は、化学反応(重合)前の物質を指す。用語「プレポリマー」、「ポリマー前駆体」又は「ポリマー中間生成物」は入替可能である。
【0048】
用語「化学的に安定した架橋ポリマーゲル」及び「化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物」は入替可能である。
【0049】
「ポリマーゲル」は、溶媒内で膨潤している架橋ポリマー網目構造として広く定義されている。架橋ポリマーゲルは特異な化学的及び物理的特性を有する。そのうちの1つは、電界の印加、並びに溶媒組成、pH及び温度の変更に応じた、極端な容積変化である。ポリマーゲルのそのような特性は、モノマー単位の化学構造及び組成、一次及び高次構造、ポリマー鎖と溶媒との間での相互作用、分子運動などによる。特に、それらの固有の特性は、線状ポリマーとは異なり、架橋結合によって形成された三次元の網目構造から生じる。
【0050】
「化学的安定性」又は「化学的に安定した」は、化学反応において化合物が変化することに対する耐性を指す。いくつかの化合物は非常に安定していて変化に耐性を有するが、他は不安定であり、水、溶媒、空気又は他の因子の存在で劣化する。すなわち、内部反応による、若しくは空気、熱、光、圧力などの作用による、変化又は分解に耐えるという材料の傾向である。化学的に安定した材料はより反応性が低く、したがってより劣化に耐性がある。化学物質は、環境内又は通常の使用中に特に反応性でない場合に安定していると言われ、その求められる有用性の期間で有用な特性を保持する。特に、有用性は、空気、水分又は熱の存在下で、かつ用途の予想条件下で保持される。
【0051】
特に、本発明の化学的に安定した架橋ポリマーゲルは、加水分解的かつ酸化的に、安定しているか耐性を有するゲル材料を指す。
【0052】
「加水分解的安定性」は、架橋ポリマーゲルなどの材料の、水又は水分の存在下での化学分解(加水分解)に耐える特性である。
【0053】
加水分解は、水の分子が1つ以上の化学結合を破断する任意の化学反応である。この用語は、水が求核試薬となる置換反応、脱離反応、及び破砕反応について広く使用される。このポリマーゲルの安定性はまた、アルコールなどの他の溶媒にも拡張される。
【0054】
「酸化」に対する安定性又は耐性は、分子酸素又は酸素ラジカルの追加によって化学物質が変化しないプロセスである。
【0055】
酸化は、分子、原子、又はイオンによる反応中での電子の損失である。酸化は、分子、原子、又はイオンの酸化状態が上昇したときに起きる。反対のプロセスは還元と呼ばれ、電子を獲得したとき、又は原子、分子、又はイオンの酸化状態が低下したときに起きる。
【0056】
ポリマー科学では、ポリマーの「バックボーン」鎖は共有結合された原子の最も長い系列であり、共に分子の連続鎖を形成する。この科学は、炭素バックボーンからなる有機ポリマーと、主族元素のみしか含まないバックボーンを有する無機ポリマーとの研究に細分化されている。
【0057】
「リンカー」は、共有結合又は少なくとも2つの化合物を共有的に結びつける原子の鎖を備える化学部分を指す。リンカーは化合物の任意の合成的に可能な場所に連結することができるが、好ましくは化合物の所望の活動を妨げることを避ける様態で連結される。リンカーは概して当該技術にて既知である。
【0058】
「末端基」は、ポリマー合成及び特徴付けの重要な側面である。ポリマー化学では、末端基は高分子又はオリゴマー(IUPAC)の末端にある官能性又は構成単位である。ポリマー合成では、縮合重合やフリーラジカル型の重合のように、末端基が一般的に使用され、ポリマーの平均長さを判定するために例えば核磁気共鳴(NMR)によって分析することができる。末端基が使用される他のポリマーの特徴付けの方法は、赤外分析法やラマン分析法のような質量分析法及び振動分析法である。これらの基はポリマーの分析のために重要であるだけでなく、新しいコポリマーを生成するためにポリマー鎖にグラフトする又はポリマー鎖からグラフトするのにも有用である。最後に、これらはポリマーを架橋するのにも使用することができる。
【0059】
ある部分を参照して本明細書で使用される用語「置換された」は、前記部分にある水素原子のうちの1つ以上、特に5つまで、特に1、2、又は3つが、対応する数の記載の置換基によって互いに独立して入れ替えられていることを意味する。本明細書で使用される用語「任意選択的に置換された」は、置換された、又は置換されていないことを意味する。もちろん、置換基は化学的に可能な場所にのみあり、当業者は特定の置換が可能かどうかを不相応な努力を要することなく(経験的に又は理論的に)判断できることが理解されよう。
【0060】
2つ以上の部分が原子又は基のリストから「それぞれ独立して」選択されると記載されているとき、これは、それらの部分が同一であっても異なっていてもよいことを意味する。したがって、各部分の識別は、1つ以上の他の部分の識別とは独立している。
【0061】
本明細書に使用される場合、用語「アルキル」は、任意選択的に1つ又はいくつかのラジカルで置換された直鎖アルキル基、分岐鎖アルキル基を含む、飽和及び不飽和脂肪族基を指す。特定の実施形態では、直鎖又は分岐鎖アルキルはそのバックボーンに約30又はそれより少ない炭素原子(例えば、直鎖ではC1~C30、分岐鎖ではC3~C30)を有し、あるいは、約20又はそれより少ない、例えば1~6の炭素(低級アルキルと定義される)を有する。好ましくは、本発明のアルキル類は、1~30、より好ましくは1~20、更により好ましくは3~18、より好ましくは3~8、より好ましくは3~6、及び最も好ましくは4~6の炭素原子を有し、直鎖又は分岐鎖である。用語「C1~C6アルキル」は、1~6の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル鎖を表す。例示的なC1~C6アルキル基には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ネオ-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、等が含まれる。
【0062】
ポロキサマーは、2つのポリオキシエチレンの親水鎖(PEO、PEG、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール))が側面に位置するポリオキシプロピレンの中央疎水性鎖(PPO、PPG、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール))からなる非イオン性三ブロックコポリマー(PEG-PPG-PEG)である(Almeidaら、2013a、From:Nanostructures for Novel Therapy、2017年)。ポロキサマーはまた、商標名Synperonics(登録商標)、Pluronic(登録商標)、及びKolliphor(登録商標)で知られている。
【0063】
逆ポロキサマーは、例えば商標名Pluronic(登録商標)10R5で知られる、2つの疎水性基が側面に位置する逆ブロックタイプの中央親水性鎖(PPG-PEG-PPG)を指す。
【0064】
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート、又はそれらの組み合わせの手短な参照であり、
「(メタ)アクリルの」は、アクリルの、メタクリルの、又はそれらの組み合わせの手短な参照であり、
「メタ」アクリル」は、アクリル、メタクリル、又はそれらの組み合わせの手短な参照である。
【0065】
「逆メタクリレート」は、アルキル2-((X)メチル)アクリレートの手短な参照であり、式中、Xは以下に示す共重合結合の変形である。
【0066】
測定値は、±記号が付いた数値の後ろにあるデータのサンプルセットについての単一の標準偏差(68%信頼区間)を含んで与えられている。
【0067】
本発明の目的の1つは、水溶性架橋性プレポリマー、例えば水溶性架橋性歯科用プレポリマーを、化学的に安定した架橋ポリマーゲル、好ましくは化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲルの調製のために提供することであって、前記水溶性架橋性プレポリマーは、式I:
を有し、式中、
Bは、
ポリ(エチレングリコール)(PEG):
であって、式中、nが1~450の繰り返し単位を含む、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、
オリゴ(エチレングリコール)(EG):
であって、式中、mが1~12の繰り返し単位を含む、オリゴ(エチレングリコール)(EG)、
ポロキサマー:
であって、式中、p、q、sが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、ポロキサマー、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zは互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポロキサマー、
からなる群より選択されるバックボーンであり、
LはC
3~C
18の直鎖又は分岐アルキル鎖より選択されるリンカーであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2は、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択され、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHではなく、
かつL=C
3(n-プロピル、i-プロピル)であるとき、末端基R1及びR2はアクリルアミドでない。
【0068】
好ましくは、水溶性架橋性プレポリマーは式Iを有するが、但し、m=8であるとき、LはC11(ウンデシル)でない。
【0069】
好ましくは、R1及びR2は、H,OH、アクリレート、メタクリレート、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択され、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでない。
【0070】
当業者であれば、ポリ(エチレングリコール)などのポリマーが、通常は正確な分子量ではなく分子量分布を有することを明らかに分かるであろう。分子量M、ひいては、繰り返し単位の数、nは、平均値で出されている。これに対して、オリゴマー、例えば、ジ、トリ、又はテトラ(エチレングリコール)などは正確な分子量と繰り返し単位の数mを有する。
【0071】
本明細書では、ポリマーの名称又は略字の後に与えられる数字はその数平均分子量(Mn)を、例えばPEG 2kはMn=2000g/molのポリ(エチレングリコール)を、指す。
【0072】
本発明の別の目的は、水溶性架橋性プレポリマー、好ましくは水溶性架橋性歯科用プレポリマーを、化学的に安定した架橋ポリマーゲル、好ましくは化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲルの調製のために提供することであって、前記水溶性架橋性プレポリマーは式II:
を有し、式中、
Bは、
逆ポロキサマー:
であって、式中、x、y、zが互いに独立しており、1~200の繰り返し単位を含む、逆ポロキサマーからなるバックボーンであり、
R1及びR2は末端基であって、R1はR2に等しいか異なり、R1及びR2が、H,OH、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rはアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホン、ビニル尿素、炭酸ビニル、ビニルカルバメート、ビニルチオエステル、ビニルチオ尿素からなる群より選択され、但し、R1がH又はOHであるとき、R2はH又はOHでない。
【0073】
好ましくは、R1及びR2は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホンからなる群より選択される。
【0074】
好ましくは、R1及びR2は、アクリレート、メタクリレート、ブタ-3-エン-2-オン、式
の逆メタクリレートであって、式中、Rがアルキルであり、X=O,NHである逆メタクリレート、ビニルスルホンからなる群より選択される。
【0075】
より好ましくは、R1及びR2は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される。
【0076】
好ましくは、リンカーはC4~C6の直鎖又は分岐アルキルである。
【0077】
好ましい実施形態では、使用される水溶性架橋性プレポリマーは、いくつかの実施形態では、天然高分子材料(即ち、非合成ポリマー、自然界で見つけることのできるポリマー)及び/又は、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン、寒天/アガロース、キトサン、フィブリン、プロテオグリカンなどの細胞外マトリックス(ECM)から派生するポリマー、ポリアミノ酸又はその誘導体、好ましくはポリリジン又はゼラチンメチルセルロース、カルボメチルセルロース、多糖類とその誘導体、好ましくはヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸又はアルギン酸塩などのグリコサミノグリカン類、ヌクレオチド、ポリ脂質、脂肪酸、ポリ乳酸、乳酸、カチオンポリアリルアンモニウムクロリドや任意のその誘導体、その断片、及びそれらの任意の組み合わせなどを含む、包括的でないリストより選択される1つ以上の化合物を含み得る。
【0078】
水溶性架橋性プレポリマーはまた、1つ又はいくつかの合成若しくは半合成生分解性材料を含むことができる。材料の分解率に応じて、細胞がそこに転移して、恐らく入れ替わることができる。このような材料の例としては、水酸燐灰石、乳酸-グリコール酸共重合体、ラクチド及びグリコリドポリマー、カプロラクトンポリマー、ヒドロキシ酪酸、ポリ無水物、ポリエステル類、ポリホスファゼン類、ポリリン酸エステル類、ポリカプロラクトン(PCL)又はPCL、カプロラクトン、ウレイドピリミジノン、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、及びポリ(グリセロールセバシン酸アクリレート)の組み合わせが挙げられる。
【0079】
本発明による更に好適なプレポリマーは、ポリプロピレン、ポリプロピレンオキシド又はそれらの誘導体、ポリメチレンオキシド又はその誘導体、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド又はそれらの誘導体、ポリアクリレート又はその誘導体、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)又はその誘導体、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)及びその誘導体に加えて、それらの組み合わせ並びに任意のそれらのポリマーを含有するコポリマーを含む、包括的でないリストから選択される1つ以上の化合物を含み得る。
【0080】
一実施形態では、水溶性プレポリマー組成物は、第四級アンモニウム化合物(QAC)、セファロスポリン、ペニシリン、アミノグリコシド、ゲンタマイシン、バンコマイシン又はウンデシレン酸、抗菌性ペプチド、ポリ(D,l-ラクチド)、(PDLLA)、銀ナノ粒子、又は修飾キトサンなどの、抗微生物性、抗菌性、抗真菌性又は抗ウイルス性材料を含む。
【0081】
最も好ましい実施形態では、水溶性プレポリマー材料は、組成物を針で注射可能な公的な形態に保つため、架橋されていないか最小限にしか架橋されていない。必要であれば、架橋剤及びそれらの量を操作者の裁量で選択することができ、当業者であれば、慣例に基づいてそのようなパラメータを容易に考察することができるであろう。
【0082】
本発明の更なる目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物、例えば化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲルを調製するための方法を提供することであって、前記方法は、
a)上に定義したとおりの本発明の水溶性架橋性プレポリマーを好適な溶媒に溶解する工程と、
b)フェノール系又はアミノオキシルラジカル安定剤を添加する工程と、
c)ラジカル重合開始剤を、好適な溶媒中の溶液として、又は微細懸濁液として添加する工程と、
d)重合又は架橋工程を適用して、前記化学的に安定した耐性ポリマーゲル組成物を形成する工程と、
を含む。
【0083】
ここで、工程a)~c)は入替可能であり、最後の工程が工程d)に係る重合又は架橋からなるのであれば、任意の他の順番で行われ得る。
【0084】
「フェノール系ラジカル」又はフェノール系酸化防止剤(AO)は、一次酸化防止剤としても知られるが、酸化しやすい有機基質のための非常に効果的な非変色安定剤である。これらはフリーラジカル捕捉剤として作用し、完成した生成物、すなわち安定した架橋ポリマーゲル組成物を保護するために主に使用される。加えて、硬化性モノマー及びポリマー組成物の保管性及び寿命を、フリーラジカル重合を抑制することによって向上させるために一般的に適用される。
【0085】
好ましい実施形態によれば、フェノール系ラジカル安定剤は、未置換の又はメチル、エチルもしくはtert-ブチル置換されたフェノール、又はそれらの混合物から本質的になる群より選択される。
【0086】
「アミノキシルラジカル」は、R2N-O・官能基を含有する化学種である。これらはニトロキシルラジカルやニトロキシドとしても知られているが、IUPACは、ニトロ基の存在を間違って示唆するために、これらの用語の使用を推奨していない。これらはラジカルであり、ヒドロキシルアミン類及びN-オキソアンモニウム塩と構造的に関連し、それらと共に一連の酸化還元工程を介して相互交換することができる。TEMPO及びTEMPOL(4-ヒドロキシ-TEMPO)などの立体障害型アミノキシル類は分解しにくい(安定した)ラジカルである。これらはラジカル捕捉剤、阻害剤又は安定剤として使用される。当業者には、フェノチアジン又はガルビノキシルなどの他のラジカル捕捉剤又は分解しにくい(安定した)ラジカルを代替的に使用することができるということは明らかであろう。
【0087】
用語「好適な溶媒」とは、組成物の成分が必要な濃度で均一的に溶解することができる硬化性組成物内に(共)重合せず、重合反応を阻害しない溶媒である非反応性溶媒を指す。
【0088】
好ましい実施形態によれば、好適な溶媒は、水(脱イオン又はイオン若しくは緩衝剤を含有する)、アセトン、DMSO又はアルコール又はそれらの混合物から本質的になる。本発明の別の実施形態では、好適な溶媒は、他の試薬又は化合物を含有することができる。更に別の実施形態では、これらの試薬又は化合物は、NaOCl、EDTA、HEDP、クロルヘキシジン、NaOH、Ca(OH)­2、又は歯の根管の洗浄、殺菌、又はイリゲーションに一般的に使用される他の試薬である。
【0089】
本明細書では「硬化剤」とも呼ばれている用語「ラジカル重合開始剤」は、フリーラジカルを生成してフリーラジカル重合反応を開始させる化学化合物を指す。フリーラジカルの生成は、熱的に不安定な化合物の分解によって熱的にトリガすることができる(「熱開始剤」)、又は光化学的にトリガすることができる(「光開始剤」)。当業者であれば、熱開始剤の熱作用バリアは他の化合物を添加することによって低減させることができ、その結果、いわゆる「酸化還元」又は「二成分」開始剤又は開始系をもたらすことをよく理解できるであろう。
【0090】
構造内に注入されると、又はされている間に硬化させるために、本明細書では「架橋剤」又は「硬化剤」とも呼ばれるラジカル重合開始剤が必要となる。なお、硬化剤が、水溶性架橋性プレポリマーを化学的に架橋するために採用され得ることが認識される。
【0091】
好ましい実施形態では、硬化剤は光開始剤である。「光開始剤」とは紫外線(UV)又は可視光などの電磁放射に曝露されたときに、反応性種(フリーラジカル、カチオン又はアニオン)を生成する分子である。好適な可視光又は紫外線光活性の光開始剤の例としては、ITX 4-イソプロピル-9-チオキサンテノン、ルシリンTPO 2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキシド、イルガキュア184 1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、イルガキュア2959 1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、イルガキュア819 ホスフィンオキシド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)、LAPリチウム フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート、リボフラビン 7,8-ジメチル-10-((2R,3R,4S)-2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル)ベンゾ[g]プテリジン-2,4(31-1,1OH)-ジオン、ローズベンガル 4,5,6,7-テトラクロロ-2’,4’,5’,7’-テトラヨウドフルオレセイン、PL-BDK ベンジルジメチルケタル、PL-CPK 1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニル-ケトン、PL-HMPP 2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン、カンファーキノン、3-(4-カンタキュアBPQベンゾイルフェノキシ)-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチル-1-プロパナミニウム-クロリド、APi-180 ヒドロキシアルキルプロパノン、ビス(アシル)ホスフィンオキシド又はモノ(アシル)ホシフィンオキシド系開始剤が挙げられる。一実施形態では、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸(BAPO-OH)などのビス(アシル)ホスフィンオキシド由来(BAPO)光開始剤が使用される。好適なBAPO光開始剤の他の例は、以下の参照文献などに挙げられている:K.Dietliker,A compilation of photoinitiators commercially available for UV today,SITA Technology Ltd,Edinbergh,London,2002、J.V.Crivello,K.Dietliker,G.Bradley,Photoinitiators for free radical cationic & anionic photopolymerisation,John Wiley & Sons,Chichester,West Sussex,England,New York,1998.、S.Benedikt,J.Wang,M.Markovic,N.Moszner,K.Dietliker,A.Ovsianikov,H.Grutzmacher,R.Liska,J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2016,54,473-479.、T.Majima,W.Schnabel,W.Weber,Makromol.Chem.1991,192,2307-2315、S.Li,F.Wu,M.Li,E.Wang,Polymer 2005,46,1 1934-1 1939、M.A.Tasdelen,B.Karagoz,N.Bicak,Y.Tagci,Polymer Bulletin 2008,59,759-766、B.D.Fairbanks,M.P.Schwartz,C.N Bowman,K.S.Anseth,Biomaterials 2009,30,6702-6707.、A.Huber,A.Kuschel,T.Ott,G.Santiso-Quinones,D.Stein,J.Brauer,R.Kissner,F.Krumeich,H.Schonberg,J.Levalois-Grutzmacher,H.Grutzmacher,Angew.Chem.2012,124,4726^1730.G.、Muller,M.Zalibera,G.Gescheidt,A.Rosenthal,G.Santiso-Quinones,K.Dietliker,H.Grutzmacher,Macromol. Rapid Commun. 2015,36,553-557、国際公開第2006056541号、国際公開第2011003772号、国際公開第2014053455号、国際公開第2014095724号、国際公開第2019175112号、国際公開第2019175319号。
【0092】
特定の実施形態では、工程c)のラジカル重合開始剤は、一般的なUV、紫、青、又は他の可視光応答型光開始剤からなる光開始剤である。
【0093】
別の実施形態では、光開始剤は、UV、可視光又は赤外光を用いた二光子吸収などの多光子プロセスを通して活性であることができる。
【0094】
好ましくは、前記光開始剤は、キノン、α-ヒドロキシケトン、アシルゲルマニウム誘導体、ビス(アシル)ホスフィンオキシド誘導体及びモノ(アシル)ホスフィンオキシド誘導体又はそれらの混合物を含む群より選択される。
【0095】
本発明の更なる目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物の前駆組成物を提供することであり、前記前駆組成物は、本発明に係る安定した水溶性架橋性プレポリマーを5~95重量%、好適な溶媒を5~95重量%、フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を0.001~10重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~10重量%で含む。好ましくは、前駆組成物は、化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲル組成物の歯科用前駆組成物である。歯科用前駆組成物は、好ましくは、本発明に係る安定した水溶性架橋性歯科用プレポリマーを5~95重量%、好適な溶媒を5~95重量%、フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を0.001~10重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~10重量%で含む。
【0096】
本発明のまだ更なる目的は、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物の前駆組成物を提供することであって、前記前駆組成物は、本発明による安定した水溶性架橋性プレポリマーを5~80重量%、好適な溶媒を20~95重量%、フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を0.001~5重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~5重量%で含む。
【0097】
好ましくは、前駆組成物は、化学的に安定した架橋歯科用ポリマーゲル組成物の歯科用前駆組成物である。歯科用前駆組成物は、好ましくは、本発明による安定した水溶性架橋性歯科用プレポリマーを5~80重量%、好適な溶媒を20~95重量%、フェノール系又はアミノキシルラジカル安定剤を0.001~5重量%、及びラジカル重合開始剤を0.001~5重量%で含む。
【0098】
当業者であれば、本明細書に記載するとおりの本発明の前駆組成物は変形や修正が可能であり、前記前駆組成物の比率は示された量以上又は以下に調節可能であることを認識されるであろう。
【0099】
一実施形態によれば、前駆組成物は、無機フィラー(本明細書で添加剤とも呼ばれる)を1~90重量%で更に含む。無機フィラーは、機械的、物理的、又は光学的特性を調節するために含まれ得る。
【0100】
好ましくは、無機フィラーは粉末又は懸濁液であり、非水溶性酸化金属又は金属塩を含む群より選択される。
【0101】
一実施形態によれば、前駆組成物は、その(主としてだが排他的ではなく)機械的特性を修正して向上させる他の無機又は有機、天然又は合成、モノマー又はポリマーフィラー(若しくは添加剤)を更に含む。有機繊維(例えば、ケブラー(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、セルロース繊維又は炭素繊維)を用いた補強もまた、可能である。
【0102】
用語「粉末」は、振られたり傾けられたりすると自由に流れることができる、多数の微細粒子からなる乾燥バルク材料を意味する。
【0103】
用語「粒子」又は「微粒子」は、幾何学的に決定され得る形状を有する固体である物質を意味する。形状は規則的であっても不規則であってもよい。粒子は、例えば粒子寸法及び粒子寸法分布に対して典型的に分析することができる。一粒子は、1つ以上の晶子を含むことができる。よって、一粒子は、1つ以上の結晶相を含むことができる。
【0104】
フィラーは、例えば歯科用途で使用する組成物に組み込むのに好適な多岐にわたる種類の材料の1つ以上、例えば歯科用コンポジット及び歯科用(例えば、冠)物品などに現在使用されているフィラーなどから選択され得る。フィラーは一般的に非毒性であり、口内での使用に好適である。フィラーは、放射線不透過性、放射線透過性、又は非放射線不透過性であり得る。いくつかの実施形態では、フィラーは典型的に、少なくとも1.25、1.3、1.33、1.470、1.480、1.500、1.510、1.520、1.530、又は1.540の屈折率を有する。
【0105】
また、本発明の前駆組成物を架橋することによって得ることができる化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物をも提供し、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物は、8週間にわたって57℃にて水中に保管され、次いで、全ての水又は溶媒を除去するために洗浄ステップ及び真空乾燥ステップにかけられた後に、初期の乾燥質量の少なくとも95%を保持する。
【0106】
併せて、本発明による方法によって得ることができる化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物をも包含し、前記化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物は、8週間にわたって57℃にて水中に保管され、次いで、全ての水又は溶媒を除去するために洗浄ステップ及び真空乾燥ステップにかけられた後に、初期の乾燥質量の少なくとも95%を保持する。
【0107】
本発明はまた、上記の発明に係る前駆組成物を含む、医療用又は歯科用フィラー前駆組成物、好ましくは歯科用フィラー前駆組成物をも予期している。
【0108】
本明細書で使用される場合、「医療用又は歯科用フィラー組成物」とは、非網羅的に、静脈、動脈、骨、歯、又は任意の他の天然組織などにある、ヒト又は動物の体内にある空洞構造を埋めて、歯科、神経科、心血管科若しくは整形外科分野又はヒト若しくは獣医学の任意の他の分野内の任意の医療状態を治癒又は緩和することができる材料を指す。更に、任意の天然組織又は表面に接着又は結合するためにも用いられ得る。歯科用フィラー組成物は、歯、顎骨、頬粘膜内の空洞構造を埋めて閉じるために用いられる。硬化性歯科用フィラー組成物は更に、歯科用物品を歯の構造に結合させ、歯の表面にコーティング(例えば、シーラント又はバーニッシュ)を形成する、口に直接配置されてそこで硬化される修復材として使用される、又は代替的に後に口内に接着される補綴を口外で作製するために使用することができる。
【0109】
硬化性歯科用フィラー組成物には、例えば、接着剤(例えば、歯科用及び/又は歯列矯正用接着剤)、セメント(例えば、1液セメント)、プライマー(例えば、歯列矯正用プライマー)、ライナー(歯の感度を低減するために窩洞のベースに塗布される)や、シーラント(例えば、虫歯の穴や裂溝用シーラント)及びバーニッシュ、歯内療法用シーラント(例えば、エポキシ樹脂系シーラント)などのコーティング、並びに歯科用フィリングなどの樹脂修復材(即時重合コンポジットとも呼ばれる)や、歯科用インプラントのための物品、冠、及びブリッジが含まれる。高充填歯科用組成物はまた、ミルブランクにも使用されており、これから冠が製造され得る。
【0110】
驚くことに、出願人らは、上述の、疎水性リンカーを有する官能性PEG誘導体に基づく本発明の架橋ポリマーゲル組成物が、PEG-DMA又はPEG-DAAmに基づく架橋ポリマーゲル組成物で得られた還元乾燥重量と比較して、加速劣化実験後の常時乾燥重量によって示された著しい化学安定性を示すことに気付いた。誘導体はPEGより、実施例1~11に示すように、3~5つの合成ステップで得ることができる。PEGは最初にPEG-ジメシレートに変換され、これを次に好適なジオールのモノアルコキシドと反応させ、続いてアクリロイル又はメタクリロイルクロリドでエステル化して、対応する(メタ)アクリレートを得る。対応する(メタ)アクリルアミドを得るには、リンカー含有PEGがジメシレートを介して対応するジアミンに変換され、続いてアクリロイル又はメタクリロイルクロリドでアミド化するが、これはPEGをPEG DAAmに変換する、文献上で確立された手順に類似している。[Browning,M.B.;Cosgriff-Hernandez,E.Biomacromolecules 2012,13(3)、779]
【0111】
比較例2に示すように、PEG-DMA系及びPEG-DAAm系の架橋ポリマーゲル組成物もまた、水性環境下で著しく分解し、8週間にわたって57℃で経年劣化させると、その乾燥含量の18%までが遊離する。予想に反して、PEG-DAAmに基づく架橋ポリマーゲル組成物試料は、PEG-DMAにおけるエステル結合よりも本来加水分解的に耐性を有しているはずのPEG-DAAmにおけるアミド結合にかかわらず、PEG-DMAに基づくもの(12.3%)より大きな度合い(18%)で分解する。PEG-DAAmは、PEG-DMAよりも著しく低い重合質量(PEG-DMAの場合の53%に比べて11%、比較例1)によって示されるように、光重合し架橋する効率がずっと低い。低い重合効率は、より低い度合いの架橋結合、ひいてはより脆いゲルの網目構造につながり、PEG-DAAm系の架橋ポリマーゲル組成物の化学安定性に悪い影響を及ぼす。
【0112】
これらの欠点の組み合わせによって、PEG-DMA及びPEG-DAAmは、効率的な重合及び長期にわたる化学安定性が必要な用途のための架橋ポリマーゲル組成物の前駆体としては、使用することができない。これに対して、脂肪族のリンカーを有する上述の官能性PEG誘導体は効率よく重合することができ、ヒドロゲル又は本発明の架橋ポリマーゲル組成物の調製を著しい化学安定性をもって行うことができる。よって、例えば生理学的な条件下で安定したままでいなければならず分解しない架橋ポリマーゲル組成物のための、好適な前駆体である。
【0113】
比較例1及び2に示すように、疎水性リンカーを有するPEGメタクリレート誘導体はPEG-DMAより効率よく重合し(共にそれぞれ79%重合質量対53%)、上昇した温度で処置した後でも100%の乾燥重量を保つ。好ましい実施形態では、脂肪族リンカーは誘導体の疎水性を上昇させ、それは、重合効率と、架橋ポリマーゲルの化学分解及び親水的な破壊作用に対する耐性に肯定的な影響を与える。
【0114】
リンカーの安定性向上効果は、非飽和メタクリレート末端基の代わりに脂肪族リンカーのある又は脂肪族リンカーのない飽和エステルを有する非架橋性化合物がそれらの加水分解耐性の観点から比較されている、比較例3で更に示されている。リンカーのない誘導体において加水分解生成物が短時間で明確に検出された一方で、リンカー含有誘導体は安定したままであった。
【0115】
しかしながら、PEG含有架橋ポリマーゲル組成物は末端基加水分解を通じてだけではなく、酸化変性を通じても分解され得る。酸化環境内での長期にわたる安定性を保証するには、変性性酸素種を閉じ込める好適な抗酸化剤又は安定剤が必要である。
【0116】
好ましい実施形態では、好適な抗酸化剤は以下の特性を満たす。
【0117】
水溶性プレポリマー調合物との親和性を有する。
【0118】
いずれのフリーラジカル系重合/架橋プロセスをも阻害せず、又はそのようなプロセス中に消費されない一方で、酸素ラジカル系変性を効果的に阻害する。
【0119】
硬化後の架橋性ポリマーゲル組成物が保持され、長期にわたる酸化安定性が保証される。
【0120】
最も一般的には、フェノール系抗酸化剤はプレポリマー調合物には不溶性であるか、又は必要な製品寿命にわたって安定していない。加えて、多くのこのような化合物はフリーラジカル重合を阻害する。このような抗酸化剤を架橋性プレポリマー調合物に添加することは、その架橋効率を低下させる。更に、フリーラジカル架橋結合プロセス中に抗酸化剤が消費されているであろうことから、このような抗酸化剤は、酸化変性から架橋ポリマーゲル組成物を保護しない。
【0121】
したがって、本発明の別の実施形態は、水性プレポリマー調合物に溶解可能又は混和可能であり、架橋ポリマーゲル組成物の酸化変性を阻害して架橋ポリマーゲル網目構造内で保持される、好適な抗酸化剤を開示する。また別の実施形態は、予想に反して、フリーラジカル重合に影響を与えることなく、この反応を通して消費されずに、酸化変性を阻害する抗酸化剤を開示する(比較例4)。
【0122】
本発明の別の実施形態では、上述の本発明の化学的に安定したプレポリマー及び抗酸化剤を好適なラジカル重合開始剤及び重合又は架橋工程と組み合わせて、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物を形成する方法を記載している。本発明の一実施形態では、架橋結合は光重合によって行われる。
【0123】
本発明の別の側面は、化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物の上述した前駆組成物である。一実施形態では、組成物は、無機又は他のフィラーを更に含み、粘度、接着性、親水性若しくは疎水性、弾性率、最大応力変形、圧縮強さ、平衡膨潤率、膨張量、内部浸透圧、色、屈折率又は放射線不透過性など、組成物又は結果として得られる架橋ポリマーゲル組成物の機械的、物理的又は光学的特性を調節する。
【0124】
このような組成物は、医療又は歯科分野、好ましくは歯科分野における注射可能な硬化性フィラーとして、又は安定した水ベースの材料が、空洞構造を埋めるか表面を被覆するために必要な任意の他の用途に適用できる。好ましい実施形態では、PEG系プレポリマーの使用に加えて不活性かつ非毒性の溶媒として水を使用することによって、優れた生体親和性を有する調合物を調製することが可能になる。まだ別の実施形態では、このような調合物は、本明細書に開示するプレポリマーの代わりにPEG-DMAを含有する調合物の生体親和性と少なくとも同等に高い、例えば生体外の細胞毒のアッセイにおいて>70%の細胞生死判別によって証明される生体親和性を示す。
【0125】
別の実施形態では、調節可能な粘度が高表面湿潤性を可能とし、そしてこのような調合物の親水性が細いカニューレ又はカテーテル(内径20μm~1mm)を通って注入されることを可能とし、例えば複合分岐管状歯科用根管系についてしばしば不十分な充填をもたらす既存の高粘度、ペースト様シーラー、フィラー又はセメントとは逆に、細くて小さい、分岐又は複合空洞構造(直径5μm~2mm、長さ1mm~20cm)の完全な充填を可能とする。
【0126】
また別の実施形態では、調合物は、より大きいバルク構造を充填するために使用することもできる。架橋によって調合物を架橋ポリマーゲル組成物に変換することで、ヒト又は動物の体の全ての部分にインプラント材料を低侵襲性で配置することが可能になる。これに対して、歯科用、歯列矯正用、眼科用、神経用、又は心血管用の用途では、既存の医療用フィラーはしばしば毒性のあるモノマー又は溶媒の使用を必要とする一方で、それらの高粘度が細いカニューラ又はカテーテルを通す用途を妨げる。
【0127】
別の好ましい実施形態では、一般的に架橋時に起きる重合収縮は、周囲環境からの水又は他の液体の取込みからの自己拡張詰め込みによって相殺される。よって、このような調合物は、例えば歯内療法においてシーラーの収縮が充填された根管への細菌漏洩ひいては根管系の際感染につながるような、収縮に基づく漏れや他の処置不首尾を回避しながら、ヒト又は動物の体内にある空洞構造を密封するのに用いることができる。
【0128】
本発明の別の側面は、上記の方法によって、又は上記の前駆組成物を架橋することによって得られた化学的に安定した架橋ポリマーゲル組成物を記載する。組織様機械的特性、高生体親和性、高弾性率、最大応力変形、及び圧縮強さなどのヒドロゲル又は他の架橋ポリマーゲル組成物の一般的な利点をもたらしつつ、これらのゲルは生理的条件下にて化学的に安定している。よって、これらは永久的に窩洞又は他の空洞構造をシールするために、医療分野又は歯科分野において適用可能である。
【0129】
ヒドロゲル又は他のポリマーゲル組成物の上述の利点に加えて、好ましくは、歯内療法でのシーラントとしての用途は、調節可能な機械特性から益する。これにより、天然パルプ組織と類似する機械特性を有する歯内療法用シーラーを調製することを可能とし、再治療の場合に必要となる、シーラーの取り外しを容易にする。
【0130】
本発明の別の実施形態では、本発明の化学的に安定した架橋ポリマーゲルは、バクテリアなどの微生物の移動または漏洩に対する耐性シールを提供するが、ポリマーゲルが経時的に分解する場合にはこのようにはならない。
【0131】
また別の実施形態では、本発明の化学的に安定した架橋ポリマーゲルは、ゲルの圧縮、牽引又は膨潤などの機械的な刺激に対して永久的に耐性を有する。好ましくは、変形/ひずみの場合には、それらは0.001%~10%の間である。別の好ましい実施形態では、変形/ひずみは2~109サイクルで材料に周期的に印加されている。
【0132】
当業者であれば、本明細書に記載の発明は、具体的に記載されているもの以外の変形や修正が可能であると認識するであろう。本発明は、その趣旨や本質的な特徴から逸脱することなく、全てのそのような変形及び修正を含むと理解されるべきである。本発明はまた、本明細書で個別に又は集約的に言及された又は示された全てのステップ、特性、組成物及び化合物、並びに、任意及び全ての組み合わせ、又は前記ステップ又は特徴の任意の2つ以上を含む。したがって、本開示は、例示された全ての側面において考慮され、限定的ではなく、本発明の範囲は添付の請求項によって示されており、均等論の内容及び範囲内で起こり得る全ての変更が包含されていることが意図される。
【0133】
様々な参照文献がこの明細書中で引用されており、その各々がその全体で参照によって本明細書に組み込まれている。
【0134】
上述の説明は、以下の実施例を参照することでより完全に理解されるであろう。しかしながら、かかる実施例は、本発明を実施する方法を例示するものであって、本発明の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0135】
<実施例1>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにポリ(エチレングリコール)(1当量)を加えた。ジクロロメタン(DCM、0.17M)及びトリエチルアミン(1.6当量)を添加し、溶液を0℃に冷却した。メタンスルホニルクロリド(1.25当量)を次にゆっくり添加し、反応を0℃で45分間攪拌して、一晩、室温まで暖めた。完了後、反応を水で冷やし、DCMで抽出した。水相をDCMで洗浄した。混合有機層は硫酸マグネシウムで乾燥させた。混合物をろ過し、濾液を約5%容量となるまで減圧下で濃縮した。結果的に得られた原油生成物を、室温にて、素早く拡散されているジエチルエーテルに添加し、30分間撹拌した。次に混合物を0℃に冷却して、更に30分間撹拌した。沈殿物をフリットで真空濾過を介して回収し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で乾燥して、ポリ(エチレングリコール)ジメシレート(PEG DOM)を白い個体として得た。1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.34~4.27(m、4H、MsOCH2)、3.72~3.63(m、4H、CH2)、3.51(br s、バックボーン)、3.17(s、6H、CH3)。
【0136】
<実施例2>
磁気攪拌子付き丸底フラスコに乾燥THF(PEG DOMに対して0.15M)及び水素化ナトリウム(2当量、鉱油分散体60%)をアルゴン雰囲気下で加えた。溶液を氷浴で冷却し、1,3-プロパンジオール(2.5当量)をゆっくり添加した。混合物を、室温まで暖めながら6時間撹拌した。次に、ポリエチレングリコールジメシレート(1当量)を混合物にゆっくり添加した。次に還流冷却器を接続して、反応を一晩、加熱還流した。完全変換に到達したら、反応混合物を室温に冷却した。冷却後、水とジクロロメタンを添加した。更に水相をジクロロメタンで抽出した(2/3回)。混合有機抽出物を硫化マグネシウムで乾燥させて、ざっと5%容量まで減圧下で濃縮した。残る残渣を激しく攪拌し、次いで実質的な沈殿物が観察されるまでジエチルエーテルを添加した。溶液は、沈殿物の収量を最大化するために、更に氷浴にて冷却した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で更に乾燥して、生成物を白い個体として得た。PEG DP 2k(ジ-n-プロピル):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.34(t、J=5.2Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、1.63(p、J=6.5Hz、4H、CH2)。
【0137】
<実施例3>
磁気攪拌子付き丸底フラスコに乾燥THF(PEG DOMに対して0.15M)及び水素化ナトリウム(2当量、鉱油分散体60%)をアルゴン雰囲気下で加えた。溶液を氷浴で冷却し、1,2-プロパンジオール(2.5当量)をゆっくり添加した。混合物を、室温まで暖めながら5時間撹拌した。次に、混合物にポリエチレングリコールジメシレート(1当量)をゆっくり添加した。次に還流冷却器を接続して、反応を一晩、加熱還流した。完全変換に到達したら、反応混合物を室温に冷却した。冷却後、水とジクロロメタンを添加した。更に水相をジクロロメタンで抽出した(2/3回)。混合有機抽出物を硫化マグネシウムで乾燥させて、ざっと5%容量まで減圧下で濃縮した。残る残渣を激しく攪拌し、次いで実質的な沈殿物が観察されるまでジエチルエーテルを添加した。溶液は、沈殿物の収量を最大化するために更に氷浴にて冷却した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で更に乾燥して、生成物を白い個体として得た。PEG DiP 2k(ジ-i-プロピル、(S)-プロパン-1,2-ジオールより):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.51(d、J=4.5Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、3.43~3.33(m、2H、CH)、1.01(d、J=6.1Hz、6H、CH3)。
【0138】
<実施例4>
他のリンカーを同様に導入した。PEG DBu 2k(ジ-n-ブチル):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.34(t、J=5.0Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、3.37(t、J=6.0Hz、4H、CH2)、1.58~1.34(m、8H、CH2)。PEG DiBu 2k(ジ-i-ブチル):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.36(t、J=5.3Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、3.30~3.12(m、4H、CH2)、1.74(h、J=6.6Hz、2H、CH)、0.83(d、J=6.8Hz、6H、CH3)。PEG DPe 2k(ジ-n-ペンチル):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.32(t、J=5.0Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、3.36(t、J=6.1Hz、4H)、1.56~1.22(m、12H、CH2)。PEG DHe 2k(ジ-n-ヘキシル):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.30(t、J=5.0Hz、2H、OH)、3.51(br s、バックボーン)、3.36(t、J=6.0Hz、4H、CH2)、1.53~1.21(m、16H、CH2)。
【0139】
<実施例5>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにポリ(エチレングリコール)ジ(プロパン-3-オル)(PEG DP 2k、1当量)を加えて、乾燥DCM(0.17M)中に溶解した。トリエチルアミン(1.5当量)を溶液に添加した。次に、メタクリロイルクロリド(新たに蒸留、1.3当量)を0℃で添加して、反応を暗い中で一晩、25℃で撹拌した。完了後、混合物を、DCMを溶離液として使用して、塩基性アルミナのカラムに通した。濾液を約5%容量まで減圧下で濃縮した。結果として得られた原油生成物を、素早く撹拌されているジエチルエーテルに室温で添加し、30分間撹拌した。混合物を次に0℃に冷却して、更に30分間撹拌した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で乾燥して生成物を白い個体として得た。PEG DPMA 2k(ジ-n-プロピルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.01(dd、J=0.8、1.7Hz、2H、ビニル)、5.47(t、J=1.7Hz、2H、ビニル)、4.16(t、J=6.4Hz、4H、CO2CH2)、3.57(br s、バックボーン)、3.49(t、J=6.4Hz、4H、CH2)、1.92~1.84(m、4H、CH2)、1.86(s、6H、CH3);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.3、136.3、125.2、70.6、70.5、70.2、67.7、61.8、28.9、18.2。
【0140】
<実施例6>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにポリ(エチレングリコール)ジ(プロパン-2-オル)(PEG DiP 2k、1当量)を加えて、乾燥DCM(0.17M)中に溶解した。トリエチルアミン(1.5当量)を溶液に添加した。次に、メタクリロイルクロリド(新たに蒸留、1.3当量)を0℃で添加して、反応を暗い中で一晩、25℃で撹拌した。完了後、混合物を、DCMを溶離液として使用して、塩基性アルミナのカラムに通した。濾液を約5%容量まで減圧下で濃縮した。結果として得られた原油生成物を、素早く撹拌されているジエチルエーテルに室温で添加し、30分間撹拌した。混合物を次に0℃に冷却して、更に30分間撹拌した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で更に乾燥して生成物を白い個体として得た。PEG DiPMA 2k(ジ-i-プロピルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.08(s、1H)、5.52(s、1H)、5.17~5.01(m、1H)、4.31~4.22(m、1H)、4.13~4.04(m、1H)、3.62(s、バックボーン)、1.91(s、3H)、1.23(d、J=6.4Hz、3H);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):136.60、125.38、73.70、70.55、69.78、18.35、16.70。
【0141】
<実施例7>
他のエステル化反応を同様に行った。
【0142】
PEG DMA 2k(ジメタクリレート):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.10(s、2H、ビニル)、5.54(s、2H、ビニル)、4.35~4.17(m、4H、CO2CH2)、3.77~3.66(m、4H)、3.61(br s、バックボーン)、1.92(s、6H、CH3);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):166.9、135.8、125.4、70.3、68.8、63.6、18.1。PEG DBuMA 2k(ジ-n-ブチルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、200MHz)δ(ppm):6.07(s、2H、ビニル)、5.52(s、2H、ビニル)、4.14(t、J=6.1Hz、4H、CO2CH2)、3.62(br s、バックボーン)、3.47(t、J=6.1Hz、4H、CH2)、1.91(s、6H、CH3)、1.81~1.55(m、8H);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.5、136.5、125.4、70.9、70.7、70.7、70.3、64.6、26.3、25.5、18.4。PEG DiBuMA 2k(ジ-i-ブチルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.04(s、2H、ビニル)、5.50(s、2H、ビニル)、4.09(dd、J=10.8,5.7Hz、2H、CH2)、4.00(dd、J=10.9,6.1Hz、2H、CH2)、3.59(s、バックボーン)、3.42~3.29(m、6H、CH3)、2.11(h、J=6.4Hz、2H、CH)、1.89(s、6H、CH3)、0.93(d、J=6.9Hz、6H、CH3);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.4、136.5、125.3、73.3、70.6、66.7、33.3、18.4、14.1。PEG DPeMA 2k(ジ-n-ペンチルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、200MHz)δ(ppm):6.09(s、2H、ビニル)、5.54(s、2H、ビニル)、4.14(t、J=6.5Hz、4H、CO2CH2)、3.64(br s、バックボーン)、3.47(t、J=6.3Hz、4H、CH2)、1.94(s、6H、CH3)、1.80~1.54(m、8H)、1.52~1.36(m、4H);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.6、136.6、125.30、71.2、70.7、70.2、64.7、29.3、28.5、22.7、18.4。PEG DHeMA 2k(ジ-n-ヘキシルメタクリレート):1H NMR(CDCl3、200MHz)δ(ppm):6.05(s、2H、ビニル)、5.51(s、2H、ビニル)、4.10(t、J=6.5Hz、4H、CO2CH2)、3.63~3.36(br s、バックボーン)、1.90(s、6H、CH3)、1.76~1.45(m、8H)、1.44~1.27(m、8H);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.5、136.5、125.2、71.3、70.6、70.1、64.7、29.6、28.6、25.9、25.8、18.4。
【0143】
<実施例8>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにポリ(エチレングリコール)ジメシレートを移した。25%水性アンモニア溶液(約5mL/mmol又は粘度が低下するまで)をフラスコに添加し、ストッパー及び金属クランプで密閉した。反応を約3日間、激しく撹拌した。H NMRによって完全変換を確認後、水性層をジクロロメタンで3/4回抽出して、混合有機抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥して減圧下にて、粘性オイルまで濃縮した。残る残渣を激しく攪拌し、次に、実質的な沈殿物が観察されるまでジエチルエーテルを添加した。溶液を、沈殿物の収量を最大化するために氷浴にて更に冷却した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄し、高真空下で更に乾燥して生成物を白い個体として得た。PEG DAm 2k(ジアミン):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):3.51(br s、バックボーン)、3.36(t、J=5.8Hz、4H、CH2)、2.66(t、J=5.7Hz、4H、CH2)。
【0144】
<実施例9>
他のアミノ化反応を、それぞれのジメシル化合物より同様に行った。PEG DPAm 2k(ジ-n-プロピルアミン):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.24(t、J=6.3Hz、4H、NH2)、3.51(br s、バックボーン)、3.15(s、4H、CH2)、1.89(p、J=6.2Hz、4H、CH2)。PEG DiPAm 2k(ジ-i-プロピルアミン):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):4.51(d、J=4.6Hz、4H、NH2)、3.51(br s、バックボーン)、1.01(d、J=6.2Hz、6H、CH3)。PEG DBuAm 2k(ジ-n-ブチルアミン):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):3.54(br s、バックボーン)、3.37(t、J=6.2Hz、4H、OCH2)、2.61(t、J=6.8Hz、4H、OCH2)1.58~1.29(m、8H、CH2)。PEG DiBuAm 2k(ジ-i-ブチルアミン):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):3.51(br s、バックボーン)、1.63(o、J=6.7Hz、2H、CH)、0.82(d、J=6.7Hz、6H、CH3)。PEG DPeAm 2k(ジ-n-ペンチルアミン):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):3.64(br s、バックボーン)、3.50(t、J=5.8Hz、4H、OCH2)、2.96(t、J=7.0Hz、4H、OCH2)、1.82~1.41(m、12H、CH2)。PEG DHeAm 2k(ジ-n-ヘキシルアミン):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):3.64(br s、バックボーン)、3.46(t、J=6.7Hz、4H、OCH2)、2.80(t、J=7.2Hz、4H、OCH2)、1.67~1.46(m、8H、CH2)、1.43~1.28(m、8H、CH2)。
【0145】
<実施例10>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにポリ(エチレングリコール)ジアミン(1当量)を加えて、ジクロロメタン(0.18M)中に溶解した。アクリロイルクロリド(蒸留後、1.65当量)を添加し、水酸化ナトリウム溶液(1M、1.6当量)を続けて添加した。この二相の溶液を1.5時間(最大5時間まで可能)にわたって25℃で激しく撹拌した。反応が完了に到達すると(H NMRによって評価)、水酸化ナトリウム溶液(1M、1.6当量)を添加して、混合物を5分間撹拌した。混合物を分離用ファンネルに移し、水性層をDCMを用いて抽出した。有機相を塩基性アルミナのプラグに通した(溶液が変色する)。プラグを溶離液としてのDCMで洗浄した。溶媒を次に減圧下で、粘性オイルまで除去した。残る残渣を素早く撹拌した。次に、より多くの目視できる沈殿物が観察されるまで、ジエチルエーテルを添加した。溶液を、収量を最大化するために更に氷浴で冷却した。沈殿物をフリットでの真空濾過を介して収集し、ジエチルエーテルで洗浄した。白い粉を、エーテルを除去するために高真空下で乾燥して、続いて水を除去するために凍結乾燥した。PEG DAAm 2k(ジアクリルアミド):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.54(br s、2H、NH)、6.28(dd、J=1.5,17.0Hz、2H、ビニル)、6.14(dd、J=10.0,17.0Hz、2H、ビニル)、5.61(d、J=10.0Hz、2H、ビニル)、3.63(br s、バックボーン)、3.52(dd、J=5.0,10.1Hz、4H、CH2);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):165.7、131.2、126.2、70.7、70.4、69.9、39.4。
【0146】
<実施例11>
他のアミド化反応を、それぞれのジアミノ化合物より同様に行った。PEG DPAAm 2k(ジ-n-プロピルアクリルアミド):1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.66(br s、2H、NH)、6.25(d、J=16.9Hz、2H、ビニル)、6.11(dd、J=17.0,10.1Hz、2H、ビニル)、5.58(d、J=10.0Hz、2H、ビニル)、3.63(br s、バックボーン)、1.86~1.76(m、4H、CH2);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):165.8、131.3、126.0、70.7、70.3、70.1、38.4、28.7。PEG DiPAAm 2k(ジ-i-プロピルアクリルアミド):1H NMR(D2O、300MHz)δ(ppm):6.31(dd、J=17.1,9.7Hz、2H、ビニル)、6.21(dd、J=17.1,1.9Hz、2H、ビニル)、5.79(dd、J=9.6,1.9Hz、2H、ビニル)、3.74(br s、バックボーン)、3.32(t、J=5.9Hz、4H、NCH2)、1.68~1.54(m、6H、CH3);13C NMR(D2O、300MHz)δ(ppm):168.3、130.2、127.1、70.5、69.6、69.2、39.1、26.1、25.1。PEG DiBuAAm 2k(ジ-i-ブチルアクリルアミド):1H NMR(D2O、300MHz)δ(ppm):6.33(dd、J=17.1,9.8Hz、2H、ビニル)、6.22(d、J=16.3Hz、2H、ビニル)、5.81(d、J=10.5Hz、2H、ビニル)、3.74(br s、バックボーン)、3.57~3.41(m、4H、CH2)、3.38~3.17(m、4H、CH2)、2.07(o、J=6.9Hz、2H、CH)、0.97(d、J=6.8Hz、6H、CH3);13C NMR(D2O、300MHz)δ(ppm):168.4、130.2、127.2、74.2、69.6、42.5、33.1、14.3。PEG DBuAAm 2k(ジ-n-ブチルアクリルアミド):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ(ppm):6.20(dd、J=17.1,9.9Hz、1H)、6.05(dd、J=17.1,2.5Hz、1H)、5.55(dd、J=9.9,2.5Hz、1H)、3.51(s、131H)、3.42~3.34(m、2H)、3.17~3.07(m、2H)、1.55~1.42(m、6H);13C NMR(DMSO-d6、300Hz)δ(ppm):164.37、131.86、124.68、69.75、69.46、38.28、26.69、25.83。PEG DPeAAm 2k(ジ-n-ペンチルアクリルアミド):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ8.03(t、J=5.6Hz、2H、NH2)、6.20(dd、J=17.1,9.9Hz、2H、ビニル)、6.05(dd、J=17.1,2.5Hz、2H、ビニル)、5.5(dd、J=9.9,2.5Hz、2H、ビニル)、3.51(s、バックボーン)、3.37(t、J=6.5Hz、6H、OCH2)、3.11(q、J=6.5Hz、4H、NCH2)、1.57~1.19(m、17H);1H NMR(CDCl3、300MHz)δ6.25(dd、J=17.0,1.7Hz、2H、ビニル)、6.08(dd、J=17.0,10.1Hz、2H、ビニル)、5.93(s、2H、NH2)、5.58(dd、J=10.1,1.8Hz、2H、ビニル)、3.62(s、バックボーン)、3.44(t、J=6.2Hz、8H、OCH2)、3.30(q、J=6.7Hz、5H、NCH2)、1.55(dq、J=11.7,7.2Hz、11H)、1.38(tt、J=10.8,5.9Hz、6H);13C NMR(DMSO-d6、300MHz)δ164.4、131.9、124.6、69.8、38.5、29.0、28.9、28.9、23.2。PEG DHeAAm 2k(ジ-n-ヘキシルアクリルアミド):1H NMR(DMSO-d6、300MHz)δ8.02(t、J=5.6Hz、2H、NH2)、6.20(dd、J=17.1,9.9Hz、2H、ビニル)、6.05(dd、J=17.1,2.5Hz、2H、ビニル)、5.54(dd、J=9.9,2.5Hz、2H、ビニル)、3.51(s、バックボーン)、3.36(t、J=6.5Hz、9H、OCH2)、3.10(q、J=6.6Hz、5H、NCH2)、1.58~1.13(m、25H);1H NMR(CDCl3、300MHz)δ6.24(dd、J=17.0,1.7Hz、2H、ビニル)、6.07(dd、J=17.0,10.1Hz、2H、ビニル)、5.86(s、2H、NH2)、5.57(dd、J=10.1,1.8Hz、2H、ビニル)、3.61(s、バックボーン)、3.46~3.34(m、9H、OCH2)、3.28(td、J=7.2,5.9Hz、5H、NCH2)、1.53(dq、J=14.1,6.8,5.2Hz、13H)、1.33(dq、J=7.1,3.7Hz、13H);13C NMR(DMSO-d6、300MHz)δ164.3、131.9、124.6、69.8、29.2、29.1、29.0、26.3、25.5、25.4。
【0147】
<実施例12>
磁気攪拌子付き丸底フラスコにPluronic(登録商標)10R5(1当量)を加え、乾燥DCM(0.1M)中に溶解した。溶液に乾燥トリエチルアミン(2当量)を添加した。次にメタクリロイルクロリド(新たに蒸留、1.75当量)を0℃で添加して、反応を一晩、25℃で暗い中で撹拌した。完了後、反応を水で冷やしてDCMで抽出した。混合有機抽出物を塩基性アルミナのプラグを通して、DCMで溶離した。次に溶媒を減圧化で除去して粘性オイルとした。原油残渣を水に溶解して、Spectra/Por6膜管内で水に対して24時間、濾膜分析した。濾膜分析した溶液を、次に乾燥状態まで凍結乾燥して、生成物10R5-DMAを無色の粘性オイルとして得た。1H NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):6.08(dd、J=1.0,1.8Hz、2H、ビニル)5.53~5.52(m、2H、ビニル)、5.09~5.02(m、1H、CH)、3.63~3.36(m、PEG及びPPG CHバックボーン)、3.41(t、J=6.5Hz、4H、CH2)、1.92(m、6H、CH3)、1.26~1.23(m、6H、CH3)、1.13~1.11(m、PPG CH3バックボーン);13C NMR(CDCl3、300MHz)δ(ppm):167.1、136.8、125.3、75.6、75.5、75.3、70.7、70.7、18.4、17.5、17.4、16.9。
【0148】
<応用例1>
ヒドロゲル試料を、実施例5~7、10又は11にしたがって調製したプレポリマーの溶液(30%w/w)、光開始剤(0.25%w/w)、及び脱イオン水(69.75%w/w)をピペットで円柱試料用モールド(V=250μL、φ=8mm、高さ=5mm)に取ることによって調製し、400~460nm波長の青色光源を使用して光重合した。
【0149】
<応用例2>
応用例1にしたがって調製したヒドロゲル試料の安定性を、加速劣化実験で検討した。ヒドロゲル試料を脱イオン水に8週間にわたって57℃で浸漬して、経年劣化プロセスを加速させた。経年劣化期間の最後にヒドロゲルを取り出し、真空炉で乾燥させてから重さを測った。乾燥含量を非経年劣化試料の乾燥含量と比較し、乾燥含量の損失を材料分解の尺度として利用した。
【0150】
<応用例3>
ヒドロゲルの安定性に対する様々な抗酸化剤の影響を、応用例1に記載するような光重合前にプレポリマー調合物に特定の抗酸化剤をドープし、続いて重水(D2O)中での加速劣化試験を行うことで、検証した。液中に、蟻酸などの分解マーカーが形成されていることで、NMR分光法によって分解の検出が観察された。これを、内部基準を追加することで数量化した。
【0151】
<応用例4>
抗酸化剤の保持特性を、応用例3にしたがって抗酸化剤ドープ試料を調製し経年劣化させることで、試験した。ヒドロゲル試料を中で経年劣化させた重水を毎週交換して、次に重水を試験した。液中に、蟻酸などの分解マーカーが形成されていることで、NMR分光法によって分解の検出が観察された。これを、内部基準を追加することで数量化した。
【0152】
<応用例5>
光重合効率を、硬化ポリマー質量の重量測定によって検査した。実施例5~7、10又は11にしたがって調製したプレポリマー(15%w/w)と光開始剤(0.1%w/w)とを含有する溶液を脱イオン水中に調製した。予め混合された溶液の500mgを2mLのポリスチレンキュベットに加え、側面からレーザ(λ=405nm、p=10mW)で60秒間照射した。固体ヒドロゲルを取り除き、残る液体を除くために拭いて、重さを測った。固体硬化材料対非硬化液体材料の比率を計算して、光重合効率の尺度として使用した。この試験のいくつかの結果を
図1に示す。用いられたセットアップは
図2に示しており、301はポリスチレンキュベットを表し、302は液体プレポリマー組成物を表し、303は固体化ヒドロゲルを表し、304はレーザ光を表す。
【0153】
<比較例1>
プレポリマーPEG-DMA(実施例7にしたがって調製)、リンカー含有PEGジメタクリレート(実施例5~7)、PEG-DAAm(実施例10)、リンカー含有PEGジアクリルアミド(実施例11)及び10R5-ジメタクリレート(実施例12)の光重合効率を、応用例5にしたがって比較した。
【0154】
<比較例2>
プレポリマーPEG-DMA(実施例7にしたがって調製)、リンカー含有PEGジメタクリレート(実施例5~7)、PEG-DAAm(実施例10)、リンカー含有PEG-DPAAm(実施例11)及び10R5-ジメタクリレート(実施例12)のヒドロゲル試料の安定性を、応用例2に従って比較した。
【0155】
<比較例3>
モデル比較加水分解試験を、重水中、30%w/wの濃度でPEGジイソブチレート及びPEGジ(ブタン-1,4-ジイルイソブチレート)を用いて行った。10日間にわたって57℃でMEHQ(0.5%w/w)の存在下で加速劣化させた後、加水分解生成物(イソ酪酸)が1H NMR分光法によってPEGジイソブチレート中にのみ観察され、一方でブチルリンカーとの誘導体(PEGジ(ブタン-1,4-ジイルイソブチレート))は、いかなる加水分解生成物をも示さなかった。
【0156】
<比較例4>
応用例3による抗酸化剤試験では、プレポリマー調合物にBHT(1%DMSOを有する)又はフェノザンナトリウムをプレポリマー調合物に添加することで分解は観察されず、これは分解マーカーの不在によって示された。これに対して、抗酸化剤を含有しないヒドロゲル試料は、1週間の加速劣化後にかなりの量のマーカー(1.2mM)を示した。同時に、これらの抗酸化剤の存在下で、応用例5による光重合効率試験においてポリマー質量の低下は観察されなかった。
【0157】
<比較例5>
BHT及びフェノザンナトリウムの保持を、応用例5にしたがって検証した。ヒドロゲル試料におけるBHTの保持は、3週間にわたる浸出実験によって、浸出溶媒における分解マーカー及び抗酸化剤の欠如によって証明された一方で、フェノザンナトリウムを含有する試料は3週間後に分解マーカーを示した(1.4mM)。
【0158】
<参照文献>
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