(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241015BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241015BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241015BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241015BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/02 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/48
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2023517918
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 KR2021013822
(87)【国際公開番号】W WO2022080762
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134080
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523096539
【氏名又は名称】エス-マテリアルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、キー・スン
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、イ-シク
(72)【発明者】
【氏名】ムーン、スン-ワン
(72)【発明者】
【氏名】ユー、ヒョウン-グン
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-505948(JP,A)
【文献】特開2017-188329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロサイズのマイクロシリコン粉末をミリングによってナノサイズのナノシリコン粉末
に微細化する段階と、
前記ナノシリコン粉末を表面酸化させてナノシリコン粉末の表面に非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x(1<x<2)層を形成することによってSiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末を得る段階と、
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を黒鉛粉末と混合した後、ミリングして前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を前記黒鉛粉末の基地に分散させる段階と、を含む、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン粉末のミリングによって得られたナノシリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲である、請求項1に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ミリングは、機械的ミリングによって6~10時間の範囲で行われる、請求項2に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ナノシリコン粉末の表面にSiO
x(1<x<2)層を形成する段階で、SiO
x(1<x<2)相を得るための熱処理条件は、熱処理時間が2時間である
場合、350℃~450℃の範囲で設定される、請求項1に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項5】
前記SiO
x(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲である、請求項1に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項6】
前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x(1<x<2)層の表面にグラフェン層を形成する段階をさらに含む、請求項1に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ミリング時間は2時間以下である、請求項6に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項8】
前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末を黒鉛粉末と混合してミリングするとき、前記黒鉛粉末の結晶性が50%以上に維持されるようにミリング時間を設定する、請求項6に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項9】
マイクロシリコン粉末を用意した後、高エネルギーミリングによって微細化工程を行ってナノシリコン粉末を得る段階と、
前記ナノシリコン粉末を表面酸化させてナノシリコン粉末の表面に非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x(1<x<2)層を形成してSiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末を得る段階と、
前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末と黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行い、前記黒鉛粉末の基地(matrix)に前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末を分散させ、前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x(1<x<2)層の表面にグラフェン層を形成する段階と、を含む、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項10】
混合される前記黒鉛粉末は
、前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末と黒鉛粉末の全体について、25wt%で設定される、請求項9に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
【請求項11】
ナノシリコン粉末と、
前記ナノシリコン粉末の表面に、表面酸化によって形成された非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x(1<x<2)層と、
前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末が分散している黒鉛基地(matrix)と、を含み、
前記SiO
xで表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x(1<x<2)層の表面にはグラフェン層が形成される、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
【請求項12】
前
記ナノシリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲で設定される、請求項11に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
【請求項13】
前記SiO
x(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲で設定される、請求項11に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
【請求項14】
前記黒鉛基地の結晶性は50%以上に設定される、請求項11に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用陰極素材に関し、より詳しくは、超微細シリコン粉末の表面に低温酸化反応でSiOx(1<x<2)層を形成した後、伝導性に優れた黒鉛粉末とのミリングによってナノ複合構造化することによって放電容量、効率およびサイクル特性が向上した陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の陰極として使用される炭素電極は、電池の充電および放電効率に優れた長所があるが、375mAh/gの低い理論容量により高い電池容量を要求する次世代リチウムイオン電池の陰極材料に使用するには制約が伴う。
【0003】
陰極材料として用いられるシリコン(Si)の場合、3600mAh/g程度の高い理論容量を有しているが、リチウムイオン電池の充電時、LiがSiと反応してLi44Siを形成し、約400%に至る大きな体積膨張を起こすことになる。このような体積膨張は、シリコン材質からなるリチウムイオン電池の陰極材のクラック(crack)または電気的短絡(short)を誘発して充放電寿命および効率の低下につながる。
【0004】
SiOxナノ粉末は、ほぼ1500mAh/gの高い電池容量を有し、これはSiOxの酸素濃度によって異なる。ナノサイズのSiOxナノ粉末をリチウムイオン電池の陰極材料に用いる場合、体積膨張が発生しないのでクラックまたは短絡などの問題を未然に防止できる効果がある。
【0005】
非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiOx(1<x<2)は、充放電過程で酸化リチウム(Li2O)、リチウムシリケート(Li4SiO4)などの酸化物が優先的に生産されるため、シリコンのリチウム/脱リチウム化による体積変化(約300%)を緩和できる緩衝材として作用し、電極内部のストレスを軽減(応力緩和)させる特徴がある。その結果、純粋なシリコンに比べて充放電容量は低いが、長寿命の安定的なサイクル特性を有することが知られている。
【0006】
公知のSiOx粉末素材の放電容量が相対的に低い理由は、リチウムと反応するためのシリコンの相分率が純粋なシリコン(Si)に比べて非常に少なく、SiOxがリチウムイオンと反応時にリチウム酸化物(Li2O)などの不可逆相を優先的に形成するためである。
【0007】
韓国特許第10-1081864号(特許文献1)(揮発性に優れた高純度SiOxナノ粉末の製造方法およびその製造装置)は、シリコンを溶融し、その表面にガスを噴射して数十ナノメートル(nm)の大きさのSiOx粉末を製造する方法である。これは、シリコン溶湯表面に発生する蒸気に酸素ガスを接触させて表面反応を誘導することで高い生産性は期待しにくい。溶湯温度を調節して蒸気圧を高めることで発生蒸気量を調節する過程で均一な酸素と反応を誘導しにくい問題もある。
【0008】
韓国特許第10-1999191号(特許文献2)および同第10-1586816号(特許文献3)は、SiとSiO2原料粉末を混合した後、高温加熱および粉砕してSiOx粉末を得て、粉末表面をMgと反応させてSiOx粉末の表面にMg、Siの複合酸化物(MgSiO3(enstatite)、Mg2SiO4(foresterite))を形成する技術である。
【0009】
特許文献2および特許文献3のこのような表面改質は、充放電過程でリチウムとの反応で形成される不可逆相のリチウム酸化物(SiOx->Li2O)の形成を遅延させる効果があり、これは初期充放電容量の低下を抑制する効果がある。しかし、特許文献2および特許文献3の方法は、粉末表面に均一な酸化物層を形成しにくい問題があるので特性の改善に制限がある。
【0010】
韓国特許公開第10-2007-0105874号公報(特許文献4)((SiOx(x<1)の製造方法)は、Si酸化物および金属の蒸気を発生させる前駆体(出発原料)を1100~2400℃の温度範囲の不活性ガス雰囲気下で加熱してシリコン酸化物と金属との混合蒸気を蒸着面に析出させて捕集する方法である。
【0011】
特許文献4は、生産性が低く、均一かつ一定の厚さの表面酸化膜が形成されにくく、エネルギー費用(電気エネルギー)が高いという技術的、経済的な問題がある。
【0012】
韓国特許公開第10-2005-0119214号公報(特許文献5)は、シリコン酸化物と金属粉末との混合物を真空中で加熱してSiOxガスを発生させ、これを低温の析出部でSiOx析出体を製造する方法である。
【0013】
また、パルスプラズマを用いて分散性が良いSiOxナノ粉末を製造する方法に対する研究結果がThin Solid Films 518(2010)(非特許文献1)に報告されているが、反応性ガスおよび酸素の流量などの工程変数制御によって酸化反応が制限されたSiOxナノ粉末の製造技術が報告されている。
【0014】
このように、従来技術の核心は、シリコンの蒸発および雰囲気ガスとの反応でナノサイズのSiOx粉末の製造(特許文献1)、シリコンとSiO2粉末との混合および高温反応でSiOx粉末の製造および粉砕、Mgなどの活性金属と反応させて(Mg、Si)Oxなどの複合酸化物を形成して不可逆相のLi2Oの形成を抑制する技術(特許文献2、特許文献3)に整理することができる。
【0015】
しかし、充放電初期に不可逆酸化物の形成による容量の低下(1サイクルの充放電容量の低下)が非常に大きく、蒸気相を得る製造工程の場合、蒸発速度が遅いので生産性が低く、高温の加熱過程でエネルギー費用が増加し、酸化膜の分率および厚さなどの微細組織の制御が難しくて再現性を達成しにくい工程の技術的限界がある。
【0016】
また、SiOx層が形成されたシリコン粉末は、充放電過程で大きな体積変化とともに電子を生成するが、これを集電体(銅板)に伝達するためには伝導性に優れた基地組織が必要である。従来は伝導性が低い非晶質炭素(amorphous carbon)に基地組織を形成することによって電荷移動抵抗(charge transfer resistance)が大きく、その結果、充放電サイクル特性(容量維持、充放電効率)に悪い影響を及ぼすことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】韓国特許第10-1081864号
【文献】韓国特許第10-1999191号
【文献】韓国特許第10-1586816号
【文献】韓国特許公開第10-2007-0105874号公報
【文献】韓国特許公開第10-2005-0119214号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】Thin Solid Films 518(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高エネルギーミリングで超微細シリコン粉末を製造し、粉末の表面に低温酸化反応でSiOx(非化学量論的シリコン酸化物、1<x<2)層を形成した後、これを伝導性に優れた黒鉛粉末と混合してナノ複合構造体を形成することであり、これによって充放電容量、効率およびサイクル特性を向上させるところにある。最終的には、SiOxで表面処理されたナノシリコン粉末と高伝導性の黒鉛基地からなる複合素材の製造および陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末およびその製造方法を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、シリコン酸化物SiOx(非化学量論的シリコン酸化物、1<x<2)相の分率が50%以上、好ましくは、純粋なSiOx相から構成し、低温酸化で精密に酸化させてLiイオンとの反応性に優れ、粉末内部のシリコンとLiイオンの反応で発生する体積変化(膨張)を緩和するために効果的な陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末およびその製造方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、SiOx層が形成されたシリコン粉末から充放電過程で大きな体積の変化とともに電子を生成して集電体(銅板)に伝達するとき、伝導性に優れたグラフェン(graphene)層を含む黒鉛構造の炭素基地組織を活用することによって、電荷移動抵抗を減少させて充放電サイクル特性(容量維持、充放電効率)を向上させることができる陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するための本発明の一実施形態による陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法は、マイクロサイズのマイクロシリコン粉末をミリングによってナノサイズのナノシリコン粉末に微細化する段階と、前記ナノシリコン粉末を低温で表面酸化させてナノシリコン粉末の表面にSiOx(1<x<2)層を形成する段階と、表面にSiOx(1<x<2)層が形成された前記シリコン粉末を黒鉛粉末と混合してミリングすることによって黒鉛粉末の基地表面にSiOx(1<x<2)層が形成されたシリコン粉末を分散させる段階と、を含む。
【0023】
前記ナノシリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲で設定することが好ましい。
【0024】
前記ミリングは、機械的ミリングによって6~10時間の範囲で行うことができる。
【0025】
さらに、前記ナノシリコン粉末の表面にSiOx(1<x<2)層を形成する段階で、SiOx(1<x<2)相を得るための好ましい熱処理条件は、熱処理時間が2時間である場合、350℃~450℃の範囲で設定される。
【0026】
前記SiOx(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲で設定される。
【0027】
また、表面にSiOx(1<x<2)層が形成されたシリコン粉末を黒鉛粉末と混合してミリングするとき、前記黒鉛粉末の結晶性を維持する範囲でミリング時間を設定することができる。この場合、前記ミリング時間は2時間以下であり、黒鉛粉末の結晶性は50%以上に設定することができる。
【0028】
さらに、表面にSiOx(1<x<2)層が形成されたシリコン粉末を黒鉛粉末と混合してミリングするとき、シリコン粉末と黒鉛粉末の相互間の摩擦によってSiOx(1<x<2)層の表面にグラフェン層を形成することができる。
【0029】
本発明の他の実施形態による陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法は、数十~数百マイクロシリコン粉末を用意した後、高エネルギーミリングによって微細化工程を行ってナノシリコン粉末を得る段階と、前記ナノシリコン粉末を酸化熱処理してナノシリコン粉末の表面にSiOx(1<x<2)化学構造のシリコン酸化膜を形成する段階と、前記シリコン酸化膜で表面改質されたシリコン粉末と高伝導性黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行って黒鉛粉末の基地(matrix)にSiOxで表面処理されたシリコン粉末が分散したシリコンナノ複合構造体粉末を形成する段階と、を含む。
【0030】
前記シリコン酸化膜で表面改質されたシリコン粉末と混合される黒鉛粉末は、25wt%で設定される。
【0031】
前記シリコン酸化膜は、分率として最小50%であり、好ましくは、純粋なSiOx(1<x<2)相であり得る。
【0032】
前記プラネタリーミリング(planetary milling)によってSiOx(1<x<2)層が形成されたシリコン粉末と板状黒鉛粉末との間には圧接が行われる。
【0033】
この場合、ミリング時間が長くなるほど、ミリングボールと粉末の比率が増加するほど黒鉛構造が崩壊(分解)するので、前記2つの変数を調節して黒鉛構造の分解率を調節することができる。黒鉛構造の分解率が増加するほど電気伝導性は減少する。黒鉛粉末の量は、シリコンが有する理論的容量(約3600mAh/g)を考慮して調節することができる。
【0034】
本発明の一実施形態による陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末は、シリコン粉末と、前記シリコン粉末の表面に低温酸化によって形成されたSiOx(1<x<2)層と、前記SiOxで表面処理されたシリコン粉末が分散している黒鉛基地(matrix)と、を含む。
【0035】
前記シリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲で設定され、前記SiOx(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲で設定される。
【0036】
本発明の一実施形態による陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末は、前記SiOx(1<x<2)層と黒鉛基地(matrix)との間に形成されたグラフェン層をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0037】
上述したように、本発明においては約50~200ナノメートル(nanometer)サイズの粒度を有する高エネルギーミリングで超微細シリコン粉末を製造し、粉末の表面に低温酸化反応でSiOx(非化学量論的シリコン酸化物)層を形成した後、これを伝導性黒鉛粉末と混合してプラネタリーミリング(planetary milling)することにより放電容量、効率およびサイクル特性が向上したシリコンナノ複合構造体粉末を提供することができる。
【0038】
つまり、シリコンナノ複合構造体粉末は、低温酸化によってシリコン酸化物SiOx相で形成されるので、従来の高温工程で製造された複合酸化物(SiOx+SiO2)に比べてLiイオンとの反応性に優れ、粉末内部のシリコンとLiイオンの反応で発生する体積変化(膨張)を緩和することに効果的である。
【0039】
特に、本発明は、超微細シリコン粉末の表面を数~数十ナノメートルの厚さのSiOxで表面を改質(modification)する効果があり、このような過程でシリコン粉末の大きさがさらに微細化される効果を得ることもできる。従来のSiO2(二酸化ケイ素)の代わりにリチウムイオンと反応に優れたSiOx(非化学量論的シリコン酸化物)を低温酸化反応で形成する特徴を有する。このような表面改質技術によりシリコンとリチウムイオンとの反応によって引き起こされる体積膨張を効果的に緩和させることができる長所を有する。
【0040】
SiOx層が形成されたシリコン粉末は、充放電過程で大きな体積の変化とともに電子を生成するが、これを集電体(銅板)に伝達するためには伝導性に優れた基地組織が必要である。従来は伝導性が低い非晶質炭素(amorphous carbon)で基地組織を形成したが、本発明では伝導性に優れた黒鉛構造およびグラフェンで構成される炭素基地組織を活用することによって電荷移動抵抗を減少させる効果があり、充放電サイクル特性(容量維持、充放電効率)を向上させるのに効果的である。
【0041】
つまり、シリコンとリチウムイオンとの反応(lithiation/deliation)で生産される電子は集電体である銅板に伝達されるが、この過程で電荷の移動抵抗を減少させるほど速い充放電速度でも容量を維持することができる。本発明では、伝導性黒鉛粉末を基地(matrix)に用いて電荷の移動抵抗を減少させ、その結果、充放電効率が最小99%以上を維持する特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末の製造方法を説明する製造工程図である。
【
図2】本発明により製造されたシリコンナノ複合構造体(Si/SiO
x@C)粉末の電子顕微鏡の写真であって、(a)粉末の走査電子顕微鏡の写真、(b)粉末の透過電子顕微鏡の拡大写真、(c)粉末内部の高分解能電子顕微鏡の組織拡大写真を示す。
【
図3】10時間の間高エネルギーミリングで製造された粉末を450℃、2時間空気中で酸化後、表面の化学構造をXPS(X線光電子分析装置)で照射した結果を示すグラフである。
【
図4】高エネルギーミリングで製造された純粋なシリコン粉末(nano-Si)、シリコン粉末に10nmの厚さのSiO
x層が形成された粉末(Si/SiO
x)、SiOx層の厚さが10nmであり、さらに黒鉛を25wt%添加してミリング(黒鉛結晶性50%)で製造された最終シリコンナノ複合構造体粉末(Si/SiO
x@C)の充放電サイクル特性(容量および効率変化)を比較して示すグラフである。
【
図5】本発明により製造された最終のシリコンナノ複合構造体粉末の充放電の速度の変化による容量変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付した図面を参照して本発明に係る実施例を詳しく説明する。この過程において図面に示された構成要素の大きさや形状などは、説明の明瞭性と便宜上、誇張して図示されることができる。
【0044】
図1は、本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末の製造方法を説明する製造工程図である。
【0045】
図1を参照すると、本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、約50~200nmサイズのナノシリコン粉末20の表面に低温酸化によってSiO
x(非化学量論的シリコン酸化物、1<x<2)層30が形成されており、SiO
xで表面処理されたシリコン粉末25と伝導性に優れた黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)によって
図2に示すような伝導性に優れた黒鉛粉末の基地(matrix)にSiO
xで表面処理されたシリコン粉末25が分散している構造を有している。
【0046】
本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、高温加熱時に生成されるSiO2(二酸化ケイ素)の代わりにリチウムイオンと反応に優れたSiOx(非化学量論的シリコン酸化物、1<x<2)層30を低温酸化反応で形成する。本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、このような表面改質の技術によりシリコン(Si)とリチウムイオンの反応によって引き起こされる体積膨張を効果的に緩和させることができる。
【0047】
前記のようにナノシリコン粉末20の表面にSiO2(二酸化ケイ素)膜が形成されることを防止し、100%SiOx相を得るための熱処理温度は350℃~450℃の範囲が好ましく、熱処理温度が350℃未満の場合SiOxの形成を実質的に期待しにくく、450℃超の場合には100%SiOx相が得られず、SiO2(二酸化ケイ素)の生成比率が漸次増加する。
【0048】
熱処理温度(つまり、酸化温度)が350℃~450℃の範囲の場合、ナノシリコン粉末20の表面に形成されるSiOx層30の厚さは5~20nmの範囲で形成され、熱処理温度の増加によりSiOx層30の厚さも増加する。熱処理温度が550℃に至ると、SiO2の分率が増加してSiOx/SiO2の比率が70%となり、熱処理温度が650℃となるとSiOx/SiO2の比率は50%に減少する。
【0049】
この場合、ナノシリコン粉末20の熱処理は2時間に固定した状態で行われたもので、熱処理時間が増加すると低い温度でも所望する厚さのSiOx層30が形成され、熱処理温度が高ければ短い熱処理時間でも所望する厚さのSiOx層30が形成される。
【0050】
本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、SiOx層30の厚さを調節することができ、厚さが増加するほどあるいは酸化温度が増加するほど充放電時のリチウム酸化物(Li2O)相分率が増加してLiイオンの消耗につながり、これは容量を低下させる要因の1つである。
【0051】
本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、SiOx層30の厚さが増加するほど粉末内部のナノシリコン粉末20の大きさが減少するため、シリコンの微細化効果を同時に有する。
【0052】
前述したように、本発明ではナノシリコン粉末表面に100%SiOx(1<x<2)相を得るための低温酸化熱処理を行う。
【0053】
本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末50は、伝導性に優れた黒鉛粉末の基地(matrix)にSiOxで表面処理されたシリコン粉末25が分散した構造を有するようにSiOxで表面処理されたシリコン粉末25と伝導性に優れた黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行う。
【0054】
プラネタリーミリング(planetary milling)は、ミリング対象物に比較的高い機械的エネルギーを印加する方式で表面にSiOx(1<x<2)層30が形成されたシリコン粉末25と板状黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行うと、粉末間の圧接を誘導することができる。
【0055】
ミリング時間が長くなるほど、ミリングボールと粉末の比率が増加するほど黒鉛構造が崩壊(分解)するので、前記2つの変数を調節して黒鉛構造の分解率を調節することができる。黒鉛構造の分解率が増加するほど電気伝導性は減少する。
【0056】
本発明では電気伝導性を考慮して黒鉛粉末の結晶性を50%以上に維持するためにミリング時間は2時間を超えない範囲内で行われる。
【0057】
表面改質されたシリコン粉末25と混合される板状黒鉛粉末の量はシリコンの理論的容量(約3600mAh/g)を考慮して調節することができ、例えば、25wt%を混合することが好ましい。
【0058】
以下、
図1を参照して本発明の一実施形態によるシリコンナノ複合構造体粉末の製造方法を説明する。
【0059】
まず、直径が約20μmの純粋なマイクロSi粉末10を用意した後(S11)、これを水平型高エネルギーミリング装置で最大12時間までミリングする微細化工程を行い、平均直径が約50~200nmサイズのナノシリコン粉末20を得た(S12)。
【0060】
ミリング時間が増加するほどマイクロSi粉末10は漸次微細化され、12時間後にはそれ以上微細化されない。
【0061】
前記高エネルギーミリングで製造されたナノシリコン粉末20は、250~650℃の温度で2時間の間酸化熱処理してナノシリコン粉末20の表面にSiOx(1<x<2)層30が形成され、表面改質されたシリコン粉末25を得た(S13)。熱処理温度が増加するほどSiOxに対するSiO2相(phase)が増加する。SiO2相はLiイオンと反応しないので、リチウム二次電池の陰極素材として使用するためにはSiOx相で存在することが好ましい。
【0062】
ナノシリコン粉末20の表面にSiOx(1<x<2)層30が形成され表面改質されたシリコン粉末25を高伝導性黒鉛粉末と混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行う(S14)。表面改質されたシリコン粉末25と黒鉛粉末とを混合してミリングすると、粉末間圧接が行われながらシリコン粉末25のSiOx(1<x<2)層30の表面に黒鉛(graphite)コーティングが行われる。
【0063】
この場合、黒鉛とシリコン粉末との摩擦と圧接でSiOx(1<x<2)層30の表面には黒鉛から分離された薄膜のグラフェン(Graphene)層40が形成される。一般に、グラフェンは炭素の同素体のうちの1つであって、銅よりも100倍以上電気をよく通し、シリコンより100倍以上電子の移動性が速いことが知られている。
【0064】
また、シリコン粉末で発生する電子の移動経路を確保し、電荷移動抵抗を減少させるためにシリコン粉末の表面に被膜を形成する黒鉛の結晶性を維持することが好ましい。
【0065】
以下、本発明に係るシリコンナノ複合構造体粉末の製造工程を詳細に説明する。表1は、本発明を実現するためのシリコンナノ複合構造体粉末の製造条件を調べるための試験条件を示す。
【0066】
【0067】
(マイクロシリコン粉末の微細化工程)
直径約20μmの低価の純粋なマイクロシリコン粉末(99.9%、Sigma-Aldrich,Co.)10を用意した後、高エネルギーミリングのために水平型高エネルギーミリング装置でステンレススチールボールとマイクロシリコン(Si)粉末10との比を15:1に固定し、ミリング時間を表1に示すように2、4、6、10、12時間(h)に設定してマイクロシリコン(Si)粉末10の微細化工程を行った。
【0068】
ミリング時間によりマイクロシリコン(Si)粉末10の大きさを評価した結果、6時間が経過すると直径が約0.2μm(200nm)まで減少し、10時間後には0.05μm(50nm)に微細化され、その後にはそれ以上の大きさの変化が現れないことが分かった。したがって、マイクロシリコン(Si)粉末10の大きさを0.05μm(50nm)~0.2μm(200nm)の範囲を有するナノシリコン(Si)粉末20に微細化するためのミリング時間は6~10時間であることが好ましい。
【0069】
(酸化熱処理工程)
このように製造された0.05~0.2μm(50~200nm)の大きさのナノシリコン(Si)粉末20を250~650℃の範囲で2時間酸化熱処理を行った。その結果、250℃ではSiOxの観察が不可能であり、350℃で約5nm、450℃で約10nm、550℃で約15nm、650℃で20nmの厚さにSiOxが形成されることを確認した。
【0070】
充放電容量を考慮すると、ナノシリコン(Si)粉末20の表面に被膜として形成されるSiOx層30の厚さの上限は20nmであることが好ましい。厚さが20nmを超えると、リチウム(lithium)イオンの移動度が減少して容量低下の要因になり得る。最も好ましい条件は、SiOxが100%形成されるための酸化熱処理温度、酸化熱処理時間で限定されるもので、前記実施例に基づいて適正温度の範囲内で熱処理時間を延長して厚さを調節することができる。
【0071】
SiOxの厚さだけでなく、酸化反応で形成されたシリコン酸化物の化学的構造が重要であるが、熱処理温度が増加するほどSiOxに対するSiO2相が増加したことが示された。表1のように、熱処理温度550℃でSiOx/SiO2(%)の比率が約70%と減少し、650℃では50%と減少した。熱処理温度が650℃を超える場合、SiO2相分率が50%以上と急激に増加して、電気化学的容量減少の主な要因になるので650℃を超えると好ましくない。
【0072】
SiO2相はLiイオンと反応しないのでSiOx相に存在することが好ましい。また、熱処理温度が350℃および450℃の場合、ナノシリコン(Si)粉末20の表面に100%SiOx相が得られる。したがって、100%SiOx相を得るための熱処理温度は350℃~450℃であることが好ましく、SiOx層30の厚さが最も厚く形成される最も好ましい熱処理温度は450℃である。
【0073】
(黒鉛基地と複合化工程)
表面改質されたシリコン(Si)粉末25は、シリコン(Si)とLiイオンの電気化学的反応で生成される電子の移動経路を確保し、シリコンの体積変化を緩和する目的で、シリコン(Si)粉末25の表面に黒鉛(graphite)を圧接させることによって伝導性に優れた黒鉛粉末の基地(matrix)にSiOxで表面処理されたシリコン粉末25が分散したシリコンナノ複合構造体粉末50を得た。
【0074】
シリコン粉末25の表面に黒鉛を圧接するために表面改質されたシリコン(Si)粉末25を黒鉛粉末と混合して0.5~4時間の範囲でプラネタリーミリング(planetary milling)を行った。
【0075】
黒鉛粉末の量は、設計容量(放電容量)により変化することができ、実施例では25wt%と設定した。ミリング条件は、ミリング用ビード(bead)としてジルコニア(Zirconia)を使用し、ビードと粉末との比率を10:1に固定した。2時間ミリングの場合、黒鉛粉末の結晶性が初期に比べて50%が崩壊し、4時間では約10%に減少した。
【0076】
本発明は、黒鉛の結晶分率が50%である2時間ミリング条件に基づいて達成された。黒鉛の結晶分率が50%未満になると、電荷移動抵抗が増加して充放電容量の低下につながる。但し、本発明に使用されたミリング装置は、プラネタリーミリング(planetary milling)以外にも、類似したミリング装置でも使用が可能で、この場合、黒鉛の結晶分率が最小50%を満たす条件に限定する。
【0077】
図2は、本発明により製造されたシリコンナノ複合構造体粉末の電子顕微鏡写真であって、(a)は合成された最終シリコンナノ複合構造体粉末50の形状を示し、(b)はシリコンナノ複合構造体粉末50の高倍率透過電子顕微鏡(TEM)イメージであり、(c)はシリコンナノ複合構造体粉末50の高分解能電子顕微鏡イメージである。
【0078】
図2(c)の電子顕微鏡イメージから、非晶質SiO
x層が形成されたことを確認することができ、外層にはグラフェン(graphene)層が薄く形成された。粉末の内部(中心部)は結晶質シリコンであり、その外側にSiO
x、グラフェン層が連続的に観察され、最外郭は炭素(黒鉛)基地組織である。
【0079】
本発明により製造されたシリコンナノ複合構造体粉末は、シリコン粉末表面に酸化反応でSiOx層が形成されることによって内側にあるシリコン粉末の大きさが減少する追加的な効果もある。
【0080】
図3は、10時間の間高エネルギーミリングで製造されたナノシリコン粉末を450℃、2時間の間空気中で酸化熱処理した後、表面の化学構造をXPS(X線光電子分析装置)で照射した結果を示すグラフである。
【0081】
図3を参照すると、Si-O結合エネルギー(Binding energy)のピークが102eV、104eV付近で観察され、これはSiO
x(1<x<2)相の形成を意味する。Si
0+は、純粋なシリコンの結合エネルギーである。SiO
2生成を意味する結合エネルギーのピークは観察されなかった。しかし、550℃、650℃の熱処理条件ではSiO
2が観察され、650℃の場合SiO
2相分率が約50%に現れた。これはLiイオンと反応しないSiO
2相が50%であるという事実を意味し、シリコンの充放電過程で発生する体積の膨張を緩和する役割を十分に果たさないことを意味する。結果的に、電気化学的特性を維持するための条件として100%SiO
x相が形成される酸化熱処理温度は450℃であることが好ましいという事実を確認することができる。
【0082】
図4は、本発明により製造されたシリコンナノ複合構造体粉末を用いたコインセルの充放電サイクル特性(容量および効率変化)を示す。
【0083】
図4で、nano-Siは高エネルギーミリングで製造された純粋なシリコン粉末、Si/SiO
xはシリコンにSiO
x層の厚さ10nmを形成した粉末、Si/SiO
x@CはSiO
x層を10nmの厚さに形成した後、黒鉛25wt%をさらに添加してミリングで圧接させた本発明の実施例の粉末をそれぞれ用いてコインセル(coin cell)を製作し、電気化学的特性を比較評価した結果である。
【0084】
コインセルは、coin-type half-cells(CR-2032)規定により製作され、80%の活物質(シリコン)、黒鉛系導電剤として10%のSFG6、導電剤として2%のケッチェンブラック(Ketjenblack)、バインダーとして8%のポリアクリル酸(polyacrylic acid;PAA)を使用した。スラリーを製作した後、スクリーンプリンティングし、乾燥後、円形にパンチングしてディスク状陰極板を製作し、基準(reference)電極としてLi foil、分離膜としてCelgard 2400 membrane、電解質はLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)を溶解したEC(ethylene carbonate)、DEC(diethyl carbonate)およびFEC(fluoroethylene carbonate)を5:70:25の体積比で混合したものを使用して、高純度Arガスが充填されたグローブボックスでコインセルを製作した。
【0085】
図4を参照すると、最初のサイクル(1サイクル)では0.1C rate(1C rateは完全充放電時間が1時間を意味する)、4番目のサイクルからは1C rateで総300サイクルの充放電を実施した結果である。
【0086】
その結果、純粋なシリコン粉末(nano-Si)に比べて表面にSiOxが形成されたシリコン粉末(Si/SiOx)や表面にグラフェンが形成されたシリコンナノ複合構造体粉末(Si/SiOx@C)の場合、優れた特性を示す。特に、グラフェンが形成されたシリコンナノ複合構造体粉末(Si/SiOx@C)の場合、初期の1サイクル容量が1748mAh/g、効率が87%であり、300サイクルでは容量1355mAh/g、容量維持率88%、平均効率99.4%の高効率、高容量の陰極素材としての優れた特性を示すことが分かった。
【0087】
図5は、本発明により製造されたシリコンナノ複合構造体粉末(Si/SiO
x@C)でセルを製造し、多様な速度で充放電試験を行い、充放電速度が容量変化に及ぼす効果(高速充放電性能)を評価した結果である。
図5において、1Cは1時間、3Cは20分内の充放電条件を意味する。
【0088】
図5を参照すると、繰り返された速度変化にも容量変化の再現性が維持される優れた性能を発揮した。高速充放電の後にも容量回復に殆ど差がなく、5Cの条件で容量が1000mAh/gを上回る非常に優れた結果を示した。これは高品質のSiO
x形成と伝導性に優れた黒鉛粉末特性がうまく融複合され、ナノ複合構造がよく形成されていることを示す結果である。
【0089】
上記のように、本発明に係る陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末は、従来のシリコンの蒸発、表面反応、凝縮などの方法でSiOx粉末を製造する方法とは異なり、
第一に、低価のマイクロシリコン粉末を機械的ミリング工程により50~200nmサイズ程度のナノシリコン粉末を短時間に製造し、
第二に、低温でナノシリコン粉末を表面酸化させることによってSiO2ではなく、SiOx(1<x<2)化学構造の表面層を形成し、
第三に、表面にSiOxが形成されたシリコン粉末(Si/SiOx)を黒鉛粉末と混合してミリングすることにおいて、ミリング条件を調節することによって伝導性の高い基地組織と複合化してシリコンナノ複合構造体粉末を得ることができる。
【0090】
したがって、本発明では従来のSiOx粉末とは化学的構造が全く異なり、粉末表面を均一に改質する効果がある。該過程でシリコン粉末表面に酸化反応でSiOx層が形成されるほどシリコン粉末の大きさが減少する付随的な効果を期待することもできる。
【0091】
また、本発明では伝導性に優れた黒鉛基地とナノ複合構造化して活物質シリコンとリチウムイオンとの反応で発生する電子を集電体(銅板)に移動させるとき、電荷移動抵抗を減少させる効果があり、サイクル特性および充放電効率に優れた特徴を有する。
【0092】
さらに、本発明では様々な速度で充放電試験を行い、充放電速度が容量変化に及ぼす効果(高速充放電性能)を評価した結果、繰り返された速度変化にも容量変化の再現性が維持される優れた性能を発揮した。これは、高品質のSiOx形成と伝導性に優れた黒鉛粉末特性がうまく融複合され、ナノ複合構造がよく形成されていることを示す。
【0093】
また、本発明では経済性の側面からも従来の蒸発法に基づいたSiOxの製造工程に比べてエネルギー費用が低く、生産性も高く、大量生産にも容易で、高性能シリコン陰極素材の価格競争力を強化することができる効果もある。
【0094】
以上、本発明を特定の好ましい実施例を例に挙げて説明したが、本発明は前記実施例に限定されず、本発明の精神から逸脱しない範囲内で当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって多様な変更および修正が可能であろう。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、放電容量、効率およびサイクル特性が向上した陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末をエネルギー費用が低く、生産性も高く、大量生産にも容易で、高性能シリコン陰極素材の価格競争力を有するリチウム二次電池用陰極活物質の分野に適用することができる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
マイクロサイズのマイクロシリコン粉末をミリングによってナノサイズのナノシリコン粉末で微細化する段階と、
前記ナノシリコン粉末を表面酸化させてナノシリコン粉末の表面に非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x
(1<x<2)層を形成することによってSiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を得る段階と、を含む、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[2]
前記シリコン粉末のミリングによって得られたナノシリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲である、[1]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[3]
前記ミリングは、機械的ミリングによって6~10時間の範囲で行われる、[2]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[4] 前記ナノシリコン粉末の表面にSiO
x
(1<x<2)層を形成する段階で、SiO
x
(1<x<2)相を得るための熱処理条件は、熱処理時間が2時間である時に350℃~450℃の範囲で設定される、[1]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[5]
前記SiO
x
(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲である、[1]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[6]
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を黒鉛粉末と混合した後、ミリングして前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を前記黒鉛粉末の基地に分散させ、前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x
(1<x<2)層の表面にグラフェン層を形成する段階をさらに含む、[1]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[7] 前記ミリング時間は2時間以下である、[6]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[8]
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を黒鉛粉末と混合してミリングするとき、前記黒鉛粉末の結晶性が50%以上に維持されるようにミリング時間を設定する、[6]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[9]
マイクロシリコン粉末を用意した後、高エネルギーミリングによって微細化工程を行ってナノシリコン粉末を得る段階と、
前記ナノシリコン粉末を表面酸化させてナノシリコン粉末の表面に非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x
(1<x<2)層を形成してSiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を得る段階と、
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末と黒鉛粉末を混合してプラネタリーミリング(planetary milling)を行い、前記黒鉛粉末の基地(matrix)に前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末を分散させ、前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x
(1<x<2)層の表面にグラフェン層を形成する段階と、を含む、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[10]
混合される前記黒鉛粉末は25wt%で設定される、[9]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末の製造方法。
[11]
ナノシリコン粉末と、
前記ナノシリコン粉末の表面に、表面酸化によって形成された非化学量論的(non-stoichiometric)非晶質シリコン酸化物SiO
x
(1<x<2)層と、
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末が分散している黒鉛基地(matrix)と、を含み、
前記SiO
x
で表面処理されたナノシリコン粉末のSiO
x
(1<x<2)層の表面にはグラフェン層が形成される、陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
[12]
前記シリコン粉末のミリングによって得られるナノシリコン粉末の大きさは50~200nmの範囲で設定される、[11]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
[13]
前記SiO
x
(1<x<2)層の厚さは5~20nmの範囲で設定される、[11]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。
[14]
前記黒鉛基地の結晶性は50%以上に設定される、[11]に記載の陰極素材用シリコンナノ複合構造体粉末。