(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/268 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
H01L21/268 E
H01L21/268 T
(21)【出願番号】P 2024543924
(86)(22)【出願日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2024026416
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593207765
【氏名又は名称】株式会社アイテス
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】高野 和美
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-10363(JP,A)
【文献】特許第7368041(JP,B1)
【文献】特開2021-14378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/268
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板層、及びエピタキシャル層を有する炭化珪素基板において、前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を低減又は消滅させた炭化珪素基板の製造方法であって、
前記炭化珪素基板に検査光を照射して前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された基底面転位(BPD)が存在する領域に、基底面転位(BPD)からショックレー型積層欠陥(SSF)を拡張させる拡張光を照射する拡張工程と、
前記拡張工程で基底面転位(BPD)から拡張したショックレー型積層欠陥(SSF)に、当該ショックレー型積層欠陥(SSF)を収縮させる収縮光を照射する収縮工程と、
を包含し、
前記検出工程で検出された基底面転位(BPD)が複数存在する場合、前記拡張工程は、基底面転位(BPD)が存在する一つの領域に前記拡張光を照射した後、前記収縮工程と同時並行で、基底面転位(BPD)が存在する別の領域に前記拡張光を照射し、基底面転位(BPD)が存在する全ての領域に対しこれを繰り返す炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記検査光は、波長が365nm以下であり、照度が1W/cm
2以下である請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記拡張光は、少なくとも前記基板層と前記エピタキシャル層との界面まで到達する波長及び照度を有する請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記拡張光は、波長が325~365nmであり、照度が10W/cm
2以上である請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記収縮光は、波長が975~1095nm、又は487~548nmである請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記拡張工程及び前記収縮工程において、前記拡張光及び前記収縮光を、ガルバノスキャナを用いて照射する請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記検出工程で検出された全ての基底面転位(BPD)に対し、前記拡張工程及び前記収縮工程を実施した後、前記炭化珪素基板に前記検査光を再度照射する追加検出工程をさらに包含し、
前記追加検出工程で基底面転位(BPD)が検出された場合、前記拡張工程及び前記収縮工程を行う請求項1~6の何れか一項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
基板層、及びエピタキシャル層を有する炭化珪素基板において、前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を低減又は消滅させた炭化珪素基板の製造装置であって、
前記炭化珪素基板に検査光を照射して前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された基底面転位(BPD)が存在する領域に、基底面転位(BPD)からショックレー型積層欠陥(SSF)を拡張させる拡張光を照射する拡張手段と、
前記拡張手段によって基底面転位(BPD)から拡張したショックレー型積層欠陥(SSF)に、当該ショックレー型積層欠陥(SSF)を収縮させる収縮光を照射する収縮手段と、
を包含し、
前記検出手段で検出された基底面転位(BPD)が複数存在する場合、前記拡張手段は、基底面転位(BPD)が存在する一つの領域に前記拡張光を照射した後、前記収縮手段によるショックレー型積層欠陥(SSF)の収縮と同時並行で、基底面転位(BPD)が存在する別の領域に前記拡張光を照射し、基底面転位(BPD)が存在する全ての領域に対しこれを繰り返す炭化珪素基板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板層、及びエピタキシャル層を有する炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、ワイドギャップ半導体であり、パワーデバイス分野において近年注目されている材料である。通常、パワーデバイスに用いる炭化珪素基板は、基板層上にエピタキシャル層を結晶成長させるエピタキシャル成長法により製造されるが、炭素原子と珪素原子との原子半径の差が大きいため、同じワイドギャップ半導体である窒化ガリウムと比較して、エピタキシャル層に結晶欠陥を生じやすい。結晶欠陥は、デバイス特性に影響を及ぼす順方向通電劣化の原因となるため、パワーデバイスの製造において問題となる。
【0003】
パワーデバイスにおける順方向通電劣化の発生は、エピタキシャル層中の基底面転位(以下、「BPD」と称する。)においてキャリアが捕捉され、捕捉されたキャリアの再結合エネルギーによりショックレー型積層欠陥(以下、「SSF」と称する。)が拡張することが原因であると考えられる。そこで、エピタキシャル成長法による成膜工程においてエピタキシャル層におけるBPDの形成を抑制する技術が開発されている。例えば、オフ角を4°に設定することで、基板層のBPDからエピタキシャル成長法により成膜されたエピタキシャル層に継承される結晶欠陥の95%以上を、貫通刃状転位(以下、「TED」と称する。)に構造変換させることができる。
【0004】
しかしながら、車載用途のパワーデバイスでは、特殊な状況、例えば脱輪時等により定格電流を超えた大電流が通電することがあり、このような場合、エピタキシャル層でTEDに変換されず、エピタキシャル層に貫通したBPD(エピタキシャル層に存在するBPD)からSSFが拡張することがある。また、電流密度が小さくても、長期にわたる使用によってSSFが拡張することがある。そのため、車載用途でのパワーデバイスのさらなる安定性向上のためには、炭化珪素基板の製造において、エピタキシャル層に存在するBPDを消滅させることが望まれる。
【0005】
従来、SSFの拡張を防止する炭化珪素基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載される炭化珪素基板の製造方法は、紫外光を照射することによりSSFをエピタキシャル層内に拡大するステップと、加熱によりSSFを縮小するステップとを含むことにより、SSFの拡張を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素基板の全表面に対し、SSFを拡張させるための紫外光を照射する必要があり、SSFの拡張を防止するために時間がかかるという問題がある。また、特許文献1の炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素基板全体を加熱することによりSSFを収縮させているため、SSFを拡大するステップとSSFを収縮するステップとを同時並行で行うことができない。そのため、特許文献1の製造方法を近年需要が高まっている大口径の炭化珪素基板に適用した場合、製造時間の増大を招くことになる。
【0008】
一方、炭化珪素基板は、高品質化の面で進歩を遂げており、特に、エピタキシャル層に存在するBPDは、1cm2あたり1個以下程度(6インチウェハの炭化珪素基板中に数個程度)にまで発生を抑えることが可能となっている。この点に関し、特許文献1の製造方法は、実際にはエピタキシャル層に存在するBPDが数個しかない高品質な炭化珪素基板であってもBPDが数多く存在すると想定し、炭化珪素基板の全面に対してSSFの拡張及び収縮を行っている。このため、BPDが存在しない領域に対してもSSFを拡張させるための紫外光を照射しており、非効率であった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、炭化珪素基板を効率的に製造可能な炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法の特徴構成は、
基板層、及びエピタキシャル層を有する炭化珪素基板において、前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を低減又は消滅させた炭化珪素基板の製造方法であって、
前記炭化珪素基板に検査光を照射して前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出された基底面転位(BPD)が存在する領域に、基底面転位(BPD)からショックレー型積層欠陥(SSF)を拡張させる拡張光を照射する拡張工程と、
前記拡張工程で基底面転位(BPD)から拡張したショックレー型積層欠陥(SSF)に、当該ショックレー型積層欠陥(SSF)を収縮させる収縮光を照射する収縮工程と、
を包含し、
前記検出工程で検出された基底面転位(BPD)が複数存在する場合、前記拡張工程は、基底面転位(BPD)が存在する一つの領域に前記拡張光を照射した後、前記収縮工程と同時並行で、基底面転位(BPD)が存在する別の領域に前記拡張光を照射し、基底面転位(BPD)が存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことにある。
【0011】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、検出工程により、炭化珪素基板に検査光を照射してエピタキシャル層に存在するBPDを検出し、拡張工程により検出工程で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光を照射することで、生じたキャリアがエピタキシャル層に存在するBPDに捕捉され、短時間でBPDからSSFを拡張させることができる。次いで、収縮工程により、拡張工程でBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光を照射することで、BPDから拡張したSSFを収縮させ、最終的にTEDに変換することができる。このように、拡張工程と収縮工程とを行うことで、エピタキシャル層に存在するBPDがTEDに変換され、エピタキシャル層に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。そして、エピタキシャル層に存在するBPDが消滅又は低減した炭化珪素基板は、歩留まりが大きいものとなり、当該基板のより広い領域をパワーデバイスの製造に用いることができる。検出工程で検出されたBPDが複数存在する場合においては、拡張工程は、BPDが存在する一つの領域に拡張光を照射した後、収縮工程と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことで、エピタキシャル層に存在するBPDを順番に消滅又は低減させることができる。このように、本発明によれば、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板を効率的に製造することが可能となる。
【0012】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記検査光は、波長が365nm以下であり、照度が1W/cm2以下であることが好ましい。
【0013】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、検査光は、波長が365nm以下であり、照度が1W/cm2以下であることで、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、炭化珪素基板を励起し、エピタキシャル層に存在するBPDからPL光を発光させることができる。したがって、エピタキシャル層に存在するBPDを適切に検出することができる。
【0014】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記拡張光は、少なくとも前記基板層と前記エピタキシャル層との界面まで到達する波長及び照度を有することが好ましい。
【0015】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、拡張光は、少なくとも基板層とエピタキシャル層との界面まで到達する波長及び照度を有することで、エピタキシャル層に存在するBPDからSSFを拡張させる際に、エピタキシャル層が埋まるまで目一杯にSSFを拡張させることができる。また、基板層とエピタキシャル層との界面(界面近傍)でTEDに変換されたBPDからもSSFを拡張させることができる。このように、エピタキシャル層に十分なキャリアを発生させることで、エピタキシャル層に存在するBPDからSSFを拡張させた後、拡張したSSFを収縮させて効率的にTEDに変換させることができる。したがって、本発明によれば、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板を効率的に製造することが可能となる。
【0016】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記拡張光は、波長が325~365nmであり、照度が10W/cm2以上であることが好ましい。
【0017】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、拡張光は、波長が325~365nmであり、照度が10W/cm2以上であるため、エピタキシャル層に十分なキャリアを発生させ、エピタキシャル層に存在するBPDからSSFを十分に拡張させることができる。SSFを十分に拡張させ、次いで、拡張したSSFを収縮させることにより、エピタキシャル層に存在するBPDが効率的にTEDに変換されるため、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板を効率的に製造することが可能となる。
【0018】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記収縮光は、波長が975~1095nm、又は487~548nmであることが好ましい。
【0019】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、収縮光は、波長が975~1095nm、又は487~548nmであるため、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、SSFを収縮させることができる。したがって、エピタキシャル層に存在するBPDが消滅又は低減した炭化珪素基板を、任意のサイズに切断することにより、そのまま製品化することができる。
【0020】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記拡張工程及び前記収縮工程において、前記拡張光及び前記収縮光を、ガルバノスキャナを用いて照射することが好ましい。
【0021】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、拡張光及び収縮光を、ガルバノスキャナを用いて照射するため、炭化珪素基板に拡張光及び収縮光を高精度に照射することができる。また、拡張光及び収縮光を、ガルバノスキャナを用いて照射することで、拡張工程と収縮工程とを同時並行で行うことができる。したがって、エピタキシャル層に存在するBPDを効率的にTEDに変換して、BPDを消滅又は低減させることが可能となる。
【0022】
本発明にかかる炭化珪素基板の製造方法において、
前記検出工程で検出された全ての基底面転位(BPD)に対し、前記拡張工程及び前記収縮工程を実施した後、前記炭化珪素基板に前記検査光を再度照射する追加検出工程をさらに包含し、
前記追加検出工程で基底面転位(BPD)が検出された場合、前記拡張工程及び前記収縮工程を行うことが好ましい。
【0023】
本構成の炭化珪素基板の製造方法によれば、追加検出工程を行うことにより、エピタキシャル層にBPDが残存していたとしても、追加検出工程によりそれを検出できるので、拡張工程及び収縮工程を再度行い、エピタキシャル層に存在するBPDをTEDに変換して、BPDを確実に消滅させることができる。したがって、エピタキシャル層にBPDが存在しない高品質な炭化珪素基板を製造することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明にかかる炭化珪素基板の製造装置の特徴構成は、
基板層、及びエピタキシャル層を有する炭化珪素基板において、前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を低減又は消滅させた炭化珪素基板の製造装置であって、
前記炭化珪素基板に検査光を照射して前記エピタキシャル層に存在する基底面転位(BPD)を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された基底面転位(BPD)が存在する領域に、基底面転位(BPD)からショックレー型積層欠陥(SSF)を拡張させる拡張光を照射する拡張手段と、
前記拡張手段によって基底面転位(BPD)から拡張したショックレー型積層欠陥(SSF)に、当該ショックレー型積層欠陥(SSF)を収縮させる収縮光を照射する収縮手段と、
を包含し、
前記検出手段で検出された基底面転位(BPD)が複数存在する場合、前記拡張手段は、基底面転位(BPD)が存在する一つの領域に前記拡張光を照射した後、前記収縮手段によるショックレー型積層欠陥(SSF)の収縮と同時並行で、基底面転位(BPD)が存在する別の領域に前記拡張光を照射し、基底面転位(BPD)が存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことにある。
【0025】
本構成の炭化珪素基板の製造装置によれば、検出手段により、炭化珪素基板に検査光を照射してエピタキシャル層に存在するBPDを検出し、拡張手段により検出手段で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光を照射することで、生じたキャリアが、エピタキシャル層に存在するBPDに捕捉され、短時間でBPDからSSFを拡張させることができる。次いで、収縮手段により、拡張手段によってBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光を照射することで、BPDから拡張したSSFを収縮させ、最終的にTEDに変換することができる。このように、拡張光と収縮光を照射することで、エピタキシャル層に存在するBPDがTEDに変換され、エピタキシャル層に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。そして、エピタキシャル層に存在するBPDが消滅又は低減した炭化珪素基板は、歩留まりが大きいものとなり、当該基板のより広い領域を、パワーデバイスの製造に用いることができる。検出手段で検出されたBPDが複数存在する場合においては、拡張手段は、BPDが存在する一つの領域に拡張光を照射した後、収縮手段によるSSFの収縮と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことで、エピタキシャル層に存在するBPDを順番に消滅又は低減させることができる。このように、本発明によれば、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板を効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、炭化珪素基板を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、SSFの拡張を模式的に示す説明図であり、(a)はエピタキシャル層に存在するBPDからのSSFの拡張を示す斜視図、(b)は基板層とエピタキシャル層との界面でTEDに変換したBPDからのSSFの拡張を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、エピタキシャル層に存在するBPDがTEDに変換される過程を模式的に示す説明図であり、(a)はエピタキシャル層にBPDが存在する炭化珪素基板、(b)は(a)の炭化珪素基板に対して基板層とエピタキシャル層との界面まで到達する波長及び照度で拡張光を照射した後の炭化珪素基板、(c)は(b)の炭化珪素基板に対して収縮光を照射した後の炭化珪素基板を示す。
【
図4】
図4は、本発明の炭化珪素基板の製造装置の概略構成図である。
【
図5】
図5は、本発明の炭化珪素基板の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5のフローチャートにおけるS5の拡張工程及び収縮工程の具体例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置に関する実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成に限定されることは意図しない。なお、
図1~3に示される炭化珪素基板の層構造の厚み関係は、説明の容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の各層の厚みの大小関係を厳密に反映したものではない。
【0028】
〔炭化珪素基板〕
本発明の炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置を説明する前に、パワーデバイスの製造に用いる炭化珪素基板について説明する。
図1は、炭化珪素基板100を模式的に示す断面図である。
【0029】
炭化珪素基板100は、基板層101、及びエピタキシャル層102が積層された構造を有する。基板層101は、エピタキシャル成長法による薄膜製造のための下地となる炭化珪素単結晶(4H-SiC)の基板である。エピタキシャル層102は、エピタキシャル成長法により基板層101上に堆積された炭化珪素単結晶(4H-SiC)からなる薄膜である。基板層101とエピタキシャル層102との間には、界面Iが存在する。基板層101に存在するBPDは、界面Iを超えると、そのままエピタキシャル層102を貫通するか、或いは界面I又は界面I近傍のエピタキシャル層102(以下、単に「界面I」とする)でTEDに変換される。
【0030】
図2は、SSFの拡張を模式的に示す説明図であり、(a)はエピタキシャル層102に存在するBPDからのSSFの拡張を示す斜視図、(b)は基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換したBPDからのSSFの拡張を示す斜視図である。
図2(a)及び(b)では、炭化珪素基板100の一部を切り欠いて基底面に平行な平面を図示している。なお、基底面とは結晶構造を特定する際に用いるc軸[0001]に垂直な面である。また、
図2(b)では、切り欠いた領域に存在したTEDを破線により図示している。炭化珪素基板100を用いて製造されたパワーデバイスにおいて順方向通電劣化が発生するメカニズムは、通電により生じたキャリアがBPDに捕捉されて再結合することでBPDからSSFが拡張し、デバイスの特性が変化するというものである。このとき、エピタキシャル層102では、
図2(a)に示すように、SSFは、基底面と平行に形成されたBPDから基底面と平行な平面に沿って拡張し、三角形状となる。また、基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換したBPDからは、
図2(b)に示すように、SSFは、帯状となる。
【0031】
ここで、BPDからTEDへの変換点は、
図2(b)に示すように、炭化珪素基板100の表面から深い位置(基板層101とエピタキシャル層102との界面I)であるため、常温ではBPDからTEDへの変換点は動かない。しかしながら、高温にすることでBPDからTEDへの変換点を動かすことができる。その際、エピタキシャル層に存在するBPD、及び基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換したBPDからSSFを拡張させていくことで、基板層101からエピタキシャル層102に貫通したBPDを、効率よく、基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換させることができる。
【0032】
図3は、エピタキシャル層102に存在するBPDがTEDに変換される過程を模式的に示す説明図であり、(a)はエピタキシャル層102にBPDが存在する炭化珪素基板100a、(b)は(a)の炭化珪素基板100aに対して基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度で拡張光を照射した後の炭化珪素基板100b、(c)は(b)の炭化珪素基板100bに対して収縮光を照射した後の炭化珪素基板100cを示す。
図3(a)に示すように、基板層101に存在するBPDの多くは、基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換されるが、BPDの一部はエピタキシャル層102まで継承される。基板層101からエピタキシャル層102に貫通したBPD(エピタキシャル層102に存在するBPD)は、炭化珪素基板100への励起光の照射により生成されるキャリアの再結合により波長710nmのPL光を発光する。したがって、波長700nm以上の光を透過するフィルタを介して炭化珪素基板100を撮影したPL発光画像において、エピタキシャル層102にBPDが存在すると、周囲より明るい線状の欠陥像を確認することができる。PL発光画像において、BPDが存在すると判断した領域に対し、基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度で拡張光を照射すると、
図3(b)に示すように、エピタキシャル層102に存在するBPDからは三角形のSSF(淡色で示すSSF)が拡張し、同じ領域に存在する基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換されたBPDからは帯状のSSF(濃色で示すSSF)が生じる。これらのSSFは、エピタキシャル層が埋まるまで、目一杯に拡張させることが好ましい。拡張させたSSFに対し、SSFがさらに拡張しない波長で収縮光を照射すると、
図3(c)に示すように、三角形及び帯状のSSFが収縮するとともに、エピタキシャル層102に存在するBPDは界面IでTEDに変換される。このようにして、エピタキシャル層102に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。
【0033】
このような知見に基づき、本発明者は、パワーデバイスを製造する前のウェハ等の段階において、エピタキシャル層102に存在するBPDを低減又は消滅させた炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置を創作するに至った。
【0034】
〔炭化珪素基板の製造装置〕
図4は、本発明の炭化珪素基板の製造装置1の概略構成図である。炭化珪素基板の製造装置1は、載置台10に載置された炭化珪素基板100のエピタキシャル層102に存在するBPDを低減又は消滅させる装置である。
図4に示すように、炭化珪素基板の製造装置1は、検出手段2、拡張手段3、及び収縮手段4を備えている。検出手段2、拡張手段3、及び収縮手段4は、制御手段5によってそれぞれの動作が制御される。以下、炭化珪素基板の製造装置1の各構成について詳細に説明する。
【0035】
<検出手段>
検出手段2は、炭化珪素基板100に検査光L1を照射してエピタキシャル層102に存在するBPDを検出する手段である。検出手段2は、検査光照射部21、撮影部22、及び判定部23を有する。
【0036】
検査光照射部21は、検査光L1を、炭化珪素基板100の全体に照射する。検査光L1は、波長が365nm以下であり、照度が1W/cm2以下であることが好ましい。検査光L1は、上記の照射条件であれば、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、炭化珪素基板100を励起させることができる。検査光照射部21により、検査光L1を炭化珪素基板100の全体に照射することで、エピタキシャル層102に存在するBPDからPL光L2を発光させることができ、エピタキシャル層102に存在するBPDを適切に検出することができる。検査光照射部21の光源としては、例えば、紫外線レーザー、水銀キセノンランプ等を用いることができる。
【0037】
撮影部22は、PL発光している炭化珪素基板100を撮影する。撮影部22は、CCD(Charged-coupled devices)、CMOS(Complementary metal-oxide-semiconductor)等の固体撮像素子を二次元アレイ状に配列したイメージセンサーを有し、撮影部22への入射光を、イメージセンサーで検知するデジタルカメラを用いることができる。撮影部22は、炭化珪素基板100の任意の位置を、基板表面の法線方向から撮影できるように、移動可能に構成されることが好ましい。撮影部22は、波長が700nm以上の光を透過するフィルタ22aを有する。波長が700nm以上の光を透過するフィルタ22aは、BPDから放出される波長710nmのPL光を選択的に透過するものであり、例えば、700nm以上を透過帯域とするハイパスフィルタを用いることができる。検査光照射部21から検査光L1が照射された後、撮影部22は、フィルタ22aに炭化珪素基板100から発光したPL光L2を透過させ、PL発光画像を撮影する。このように撮影されたPL発光画像には、エピタキシャル層102にBPDが存在する位置に明るい線状の欠陥像が現れる。撮影部22は、撮影した画像を、例えば、ハードディスク等のストレージ(図示せず)に記録する。
【0038】
判定部23は、撮影部22で撮影されたPL発光画像を参照して、BPDが存在するか否かを判定する。判定部23は、CPU、メモリ、及びストレージ等を有するコンピュータにおいて、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、判定機能が実現される。具体的には、判定部23は、PL発光画像を画像解析することによって、線状の明るい欠陥像であるBPDの欠陥像を抽出し、BPDが存在していると判定する。欠陥像の抽出は、例えば、エッジ検出処理等により実行することができる。検出手段2は、判定部23によってBPDが存在していると判定された場合、判定部23によって抽出された欠陥像が生じた領域を、BPDが存在する領域として検出する。
【0039】
<拡張手段>
拡張手段3は、検出手段2で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光L3を照射する手段である。検出手段2で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光L3を照射することで、拡張光L3の照射により生じたキャリアが、エピタキシャル層102に存在するBPDに捕捉され、BPDからSSFを拡張させる。したがって、BPDが存在しない領域には拡張光L3が照射されないため、余分な時間がかかることなく、短時間でBPDからSSFを拡張させることができる。拡張光L3は、少なくとも基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度を有することが好ましい。拡張光L3が、少なくとも基板層101とエピタキシャル層102との界面まで到達する波長及び照度を有することで、エピタキシャル層102に存在するBPDからSSFを拡張させる際に、基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換されたBPDからもSSFを拡張させることができる。このように、エピタキシャル層102に十分なキャリアを発生させることで、エピタキシャル層102が埋まる程度まで、目一杯にSSFを拡張させることができ、SSFを収縮させた際にエピタキシャル層102に存在するBPDを効率的にTEDに変換させることができる。
【0040】
拡張光L3は、波長が325~365nmであり、照度が10W/cm2以上であることが好ましく、波長が355nmであり、照度が100W/cm2以上であることがより好ましい。拡張光L3の波長が325~365nmであり、照度が10W/cm2以上であることにより、エピタキシャル層102に十分なキャリアを発生させ、エピタキシャル層102に存在するBPDからSSFを十分に拡張させることができる。なお、拡張光L3の照度が10W/cm2より小さい場合、SSFの拡張速度が遅くなり、パワーデバイスの製造プロセスにおいて望まれる迅速な検査を行うことができない虞がある。拡張手段3は、少なくとも基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度を有する拡張光L3を照射できるものであればその種類は限定されず、例えば、YAGレーザー、He-Cdレーザー、InGaNレーザー等が挙げられる。これらの中でも、YAGレーザーの第三高調波(355nm)を用いることが好ましい。
【0041】
<収縮手段>
収縮手段4は、拡張手段3によってBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射する手段である。拡張手段3によってBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射することで、BPDから拡張したSSFを収縮させ、最終的にTEDに変換することができる。その結果、エピタキシャル層102に存在するBPDがTEDに変換されるため、エピタキシャル層102に存在するBPDを消滅又は低減させることができ、炭化珪素基板100のより広い領域を、パワーデバイスの製造に用いることができる。
【0042】
収縮光L4は、波長が975~1095nm、又は487~548nmであることが好ましく、波長が1064nm、又は532nmであることがより好ましい。収縮光L4の波長が975~1095nm、又は487~548nmであることにより、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、SSFを収縮させることができる。収縮手段4は、SSFの拡張が起こらない吸収端波長以上、又は吸収端波長以下の波長の収縮光L4を照射できるものであればその種類は限定されず、例えば、YAGレーザー、He-Cdレーザー、InGaNレーザー等が挙げられる。これらの中でも、YAGレーザーの基本波長(1064nm)、又は第二高調波(532nm)を用いることが好ましい。
【0043】
<制御手段>
制御手段5は、CPU、メモリ、ストレージ等を有するコンピュータにおいて、メモリに記録されているプログラムをCPUが読み出して実行することで、検出手段2、拡張手段3、及び収縮手段4の各動作を制御する機能が実現される。
【0044】
制御手段5は、検出手段2で検出されたBPDが複数存在する場合、拡張手段3が、BPDが存在する一つの領域に拡張光L3を照射した後、収縮手段4によるSSFの収縮と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光L3を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すように、拡張手段3及び収縮手段4を制御する。例えば、検出手段2で検出されたBPDが3つ(A、B、C)存在する場合、まず、拡張手段3は、Aに拡張光L3を照射してSSFを拡張させる。次に、収縮手段4は、Aから発生したSSFに収縮光L4を照射してSSFを収縮させ、同時並行で、拡張手段3は、Bに拡張光L3を照射してSSFを拡張させる。次に、収縮手段4は、Bから発生したSSFに収縮光L4を照射してSSFを収縮させ、同時並行で、拡張手段3は、Cに拡張光L3を照射してSSFを拡張させる。最後に、収縮手段4は、Cから発生したSSFに収縮光L4を照射してSSFを収縮させる。このように、検出手段2で検出されたBPDが複数存在する場合、拡張手段3は、BPDが存在する一つの領域に拡張光L3を照射した後、収縮手段4によるSSFの収縮と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光L3を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことで、効率的にエピタキシャル層102に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。
【0045】
拡張光L3及び収縮光L4は、ガルバノスキャナを用いて照射されることが好ましい。本実施形態では、
図4に示すように、拡張手段3は、光源31、集光部32、及びガルバノスキャナ33を含む。ガルバノスキャナ33は、X軸ガルバノミラー33x、Y軸ガルバノミラー33y、並びにX軸ガルバノミラー33x及びY軸ガルバノミラー33yを回転させるアクチュエータ(図示せず)を有する。光源31は、拡張光L3を生成する。集光部32は、光源31より出力された拡張光L3を集光し、所望のスポット径に調整する。ガルバノスキャナ33は、集光部32から出力された拡張光L3の照射方向を変えながら、拡張光L3を炭化珪素基板100に照射する。同様に、収縮手段4は、光源41、集光部42、及びガルバノスキャナ43を含む。ガルバノスキャナ43は、X軸ガルバノミラー43x、Y軸ガルバノミラー43y、並びにX軸ガルバノミラー43x及びY軸ガルバノミラー43yを回転させるアクチュエータ(図示せず)を有する。光源41は、収縮光L4を生成する。集光部42は、光源41より出力された収縮光L4を集光し、所望のスポット径に調整する。ガルバノスキャナ43は、集光部42から出力された収縮光L4の照射方向を変えながら、収縮光L4を炭化珪素基板100に照射する。このように、拡張手段3及び収縮手段4は、拡張光L3及び収縮光L4を、ガルバノスキャナ33、43を用いて照射するため、炭化珪素基板100に拡張光L3及び収縮光L4を高精度に照射することができ、SSFの拡張と収縮とを同時並行で行うことができる。したがって、エピタキシャル層102に存在するBPDを効率的にTEDに変換して、BPDを消滅又は低減させることが可能となる。なお、本実施形態において、拡張手段3及び収縮手段4に用いられるガルバノスキャナはそれぞれ一台ずつであるが、例えば、SSFの収縮より拡張に時間を要する場合、拡張光L3は、複数台のガルバノスキャナを用いて照射されてもよく、複数のBPDに対して同時並行で、拡張光L3を照射することができ、SSFが目一杯拡張されたものから収縮光L4を照射することで、より短時間で効率的にエピタキシャル層102に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。
【0046】
<載置台>
載置台10は、ヒーターを内蔵し、上面に載置された炭化珪素基板100を加熱する。載置台10は、拡張手段3及び収縮手段4により炭化珪素基板100に拡張光L3及び収縮光L4を照射する際に、炭化珪素基板100の温度が100~200℃になるように加熱することが好ましく、100~150℃になるように加熱することがより好ましい。炭化珪素基板100を100~200℃に加熱することで、キャリアの発生効率が向上し、拡張光L3及び収縮光L4を照射すると、短時間でSSFを拡張及び収縮させることができ、製造時間を短縮することができる。
【0047】
〔炭化珪素基板の製造方法〕
図5は、本発明の炭化珪素基板の製造方法の手順を示すフローチャートである。本発明の炭化珪素基板の製造方法は、
図4の炭化珪素基板の製造装置1を用いて、検出工程、拡張工程、及び収縮工程の各工程が順に実行され、さらに任意の工程として、追加検出工程が実行される。なお、
図5のフローチャートにおいて、図中記号「S」はステップを表す。
【0048】
<検出工程:S1~S4>
検出工程では、検出手段1によって、炭化珪素基板100に検査光L1を照射してエピタキシャル層102に存在するBPDを検出する。
【0049】
S1において、検査光照射部21は、炭化珪素基板100の全体に検査光L1を照射することで、炭化珪素基板100を励起し、PL光L2を発光させる。検出工程において、検査光L1は、波長が365nm以下であり、照度が1W/cm2以下であることが好ましい。上記の照射条件で検査光L1を照射することにより、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、炭化珪素基板100を励起し、エピタキシャル層102に存在するBPDからPL光L2を発光させることができる。したがって、エピタキシャル層102に存在するBPDを適切に検出することができる。
【0050】
S2において、撮影部22は、炭化珪素基板100がPL光L2を発光している状態で、波長が700nm以上の光を透過するフィルタ22aにPL光L2を透過させて、PL発光画像を撮影する。一般に、SiC-MOSFET等のパワーデバイスでは、エピタキシャル層102が厚み0.5~20μm程度に形成され、オフ角が4°に設定されるため、基板表面の法線方向から撮影したエピタキシャル層102中のBPDの長さは7~286μm程度となる。そのため、PL発光画像は、長さが7~286μm程度であるBPDを、複数画素に相当する大きさで撮影する。撮影工程では、炭化珪素基板100の全体を一括して撮影してもよいし、炭化珪素基板100を複数の領域に分割して撮影してもよい。
【0051】
S3において、判定部23は、撮影部22で撮影されたPL発光画像において線状の明るい欠陥像であるBPDの欠陥像を抽出し、BPDが存在するか否かを判定する。欠陥像の抽出は、例えば、エッジ検出処理等により実行することができる。PL発光画像を画像解析することによって、線状の明るい欠陥像であるBPDの欠陥像を抽出し、BPDが存在していると判定する。BPDが存在していると判定された場合(S3:YES)、判定部23によって抽出された線状の明るい欠陥像であるBPDの欠陥像が生じた領域を、BPDが存在する領域として検出する(S4)。BPDが存在していないと判定された場合(S3:NO)、炭化珪素基板100の製造を終了する。
【0052】
<拡張工程/収縮工程:S5>
S5において、拡張工程では、拡張手段3によって、検出工程で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光L3を照射し、収縮工程では、収縮手段4によって、拡張工程でBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射する。検出工程で検出されたBPDが存在する領域に、BPDからSSFを拡張させる拡張光L3を照射するすることで、拡張光L3の照射により生じたキャリアが、エピタキシャル層102に存在するBPDに捕捉され、短時間でBPDからSSFを拡張させることができる。次いで、収縮工程により、拡張工程でBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射することで、BPDから拡張したSSFを収縮させ、最終的にTEDに変換することができる。このように、拡張工程と収縮工程とを行うことで、エピタキシャル層102に存在するBPDがTEDに変換され、エピタキシャル層102に存在するBPDを消滅又は低減させることができる。そして、エピタキシャル層102に存在するBPDが消滅又は低減した炭化珪素基板100は、歩留まりが大きいものとなり、炭化珪素基板100のより広い領域をパワーデバイスの製造に用いることができる。
【0053】
拡張工程における拡張光L3は、少なくとも基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度を有することが好ましい。拡張光L3が、少なくとも基板層101とエピタキシャル層102との界面Iまで到達する波長及び照度を有することで、エピタキシャル層102に存在するBPDからSSFを拡張させる際に、エピタキシャル層102が埋まるまで、目一杯にSSFを拡張させることができる。また、基板層101とエピタキシャル層102との界面IでTEDに変換されたBPDからもSSFを拡張させることができる。このように、エピタキシャル層102に十分なキャリアを発生させることで、エピタキシャル層102に存在するBPDからSSFを拡張させた後、拡張したSSFを収縮させて効率的にTEDに変換させることができる。したがって、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板100を効率的に製造することが可能となる。
【0054】
拡張工程における拡張光L3は、波長が325~365nmであり、照度が10W/cm2以上であることが好ましい。上記の照射条件で拡張光L3を照射することにより、エピタキシャル層102に十分なキャリアを発生させ、エピタキシャル層102に存在するBPDからSSFを十分に拡張させることができる。SSFを十分に拡張させ、次いで、拡張したSSFを収縮させることにより、エピタキシャル層102に存在するBPDが効率的にTEDに変換されるため、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板100を効率的に製造することが可能となる。
【0055】
収縮工程における収縮光L4は、波長が975~1095nm、又は487~548nmであることが好ましい。上記の照射条件で収縮光L4を照射することにより、BPDからSSFをさらに拡張させることなく、SSFを収縮させることができる。したがって、エピタキシャル層102に存在するBPDが消滅又は低減した炭化珪素基板100を、任意のサイズに切断することにより、そのまま製品化することができる。
【0056】
検出工程で検出されたBPDが複数存在する場合、拡張工程は、BPDが存在する一つの領域に拡張光L3を照射した後、収縮工程と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光L3を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すことで、エピタキシャル層102に存在するBPDを順番に消滅又は低減させることができる。
【0057】
図6は、
図5のフローチャートにおけるS5の拡張工程及び収縮工程の具体例を示すタイムチャートである。
図6においては、検出工程で検出されたBPDが存在する領域がn個である場合を示す。まず、時刻t
0において、1個目のBPD(BPDが存在する領域)に対し、拡張工程が開始され、拡張手段3は、1個目のBPDに拡張光L3を照射する。次に、拡張工程によって、1個目のBPDからSSFを十分に拡張させた後、時刻t
1において、収縮工程が開始され、収縮手段4は、1個目のBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射する。時刻t
1においては、同時並行で、2個目のBPDに対し拡張工程が開始され、拡張手段3は、2個目のBPDに拡張光L3を照射する。同様に拡張工程と収縮工程とを繰り返し、最後は、時刻t
nにおいて、収縮工程が開始され、n個目のBPDから拡張したSSFに、SSFを収縮させる収縮光L4を照射する。本実施形態においては、n個目のBPDの収縮工程と、n+1個目のBPDの拡張工程を同時に開始しているが、例えば、収縮工程に時間がかかる場合、n個目のBPDの収縮工程の間に、n+1個目のBPDの拡張工程と、n+2個目のBPDの拡張工程とを行ってもよく、拡張工程と収縮工程の開始のタイミングは適宜設定することができる。
【0058】
拡張工程及び収縮工程において、拡張光L3及び収縮光L4を、ガルバノスキャナ33を用いて照射することが好ましい。ガルバノスキャナ33を用いて照射することで、炭化珪素基板100に拡張光L3及び収縮光L4を高精度に照射することができる。また、拡張光L3及び収縮光L4をそれぞれ別のガルバノスキャナを用いて照射することで、拡張工程と収縮工程とを同時並行で行うことができる。したがって、エピタキシャル層102に存在するBPDを効率的にTEDに変換して、BPDを消滅又は低減させることが可能となる。また、拡張工程及び収縮工程のそれぞれにおいて、複数台のガルバノスキャナを用いて拡張光L3及び収縮光L4を照射することができ、例えば、拡張光L3を2台のガルバノスキャナを用いて照射する場合、n個目のBPDとn+1個目のBPDの拡張工程を同時並行で行うことができ、より短時間でBPDからSSFを拡張させることができる。S5においては、制御手段5は、例えば、ガルバノスキャナを制御し、拡張光L3及び収縮光L4を任意のタイミングで任意の領域に照射する。
【0059】
<追加検出工程:S6>
追加検出工程とは、エピタキシャル層にBPDが残存しているかを確認する工程である。追加検出工程を行う場合(S6:YES)、S1に戻って、炭化珪素基板100に検査光L1を再度照射する追加検出工程を実行する。追加検出工程は、検出工程と同様であり、S1~S4を順に実行するものである。追加検出工程でBPDが検出された場合、拡張工程及び収縮工程(S5)を行う。追加検出工程を行わない場合(S6:NO)、炭化珪素基板100の製造を終了する。追加検出工程を行うことにより、エピタキシャル層102にBPDが残存していたとしても、追加検査工程によりそれを検出できるので、拡張工程及び収縮工程を再度行い、エピタキシャル層102に存在するBPDををTEDに変換して、BPDを確実に消滅させることができる。したがって、エピタキシャル層102にBPDが存在しない高品質な炭化珪素基板100を製造することができる。
【0060】
以上のように、本発明の炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置では、検出工程で検出されたBPDが複数存在する場合、拡張工程は、BPDが存在する一つの領域に拡張光を照射した後、収縮工程と同時並行で、BPDが存在する別の領域に拡張光を照射し、BPDが存在する全ての領域に対しこれを繰り返すため、BPDが低減した又は消滅した高品質な炭化珪素基板を効率的に製造することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の炭化珪素基板の製造方法、及び炭化珪素基板の製造装置は、SiC-MOSFET等のパワーデバイス素子の製造プロセスに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 炭化珪素基板の製造装置
2 検出手段
3 拡張手段
4 収縮手段
33、43 ガルバノスキャナ
100 炭化珪素基板
101 基板層
102 エピタキシャル層
L1 検査光
L3 拡張光
L4 収縮光
I 界面
【要約】
炭化珪素基板を効率的に製造可能な炭化珪素基板の製造方法を提供する。
基板層101、及びエピタキシャル層102を有する炭化珪素基板100において、エピタキシャル層102に存在する基底面転位(BPD)を低減又は消滅させた炭化珪素基板100の製造方法であって、炭化珪素基板100に検査光L1を照射してエピタキシャル層102に存在する基底面転位(BPD)を検出する検出工程と、検出工程で検出された基底面転位(BPD)が存在する領域に、基底面転位(BPD)からショックレー型積層欠陥(SSF)を拡張させる拡張光L3を照射する拡張工程と、拡張工程で基底面転位(BPD)から拡張したショックレー型積層欠陥(SSF)に、当該ショックレー型積層欠陥(SSF)を収縮させる収縮光L4を照射する収縮工程と、を包含し、検出工程で検出された基底面転位(BPD)が複数存在する場合、拡張工程は、基底面転位(BPD)が存在する一つの領域に拡張光を照射した後、収縮工程と同時並行で、基底面転位(BPD)が存在する別の領域に拡張光L3を照射し、基底面転位(BPD)が存在する全ての領域に対しこれを繰り返す。