(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 1/541 20120101AFI20241015BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
D04H1/541
A61F13/511 300
A61F13/511 100
(21)【出願番号】P 2020070612
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】張 凡
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 吉彦
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-255525(JP,A)
【文献】特開2019-044319(JP,A)
【文献】特開2016-041858(JP,A)
【文献】特表2005-520704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00ー18/04
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
前記熱可塑性繊維が、2つ以上の異なる樹脂成分を含有する芯鞘型の複合繊維からなり、前記複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きく、
厚み中心部で前記繊維同士の融着点にバインダーが存在し、
50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上であり、
2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であって、
下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(1)および(2)のいずれか一方又は両方の要件を満たす、不織布。
(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上である。
(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【請求項2】
前記圧縮解放後の不織布変形ストロークが1mm以上6mm以下である請求項1記載の不織布。
【請求項3】
熱可塑性繊維からなる請求項1又は2記載の不織布。
【請求項4】
前記複合繊維の伸度が100%以下である請求項
1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
繊維の縦配向度が55%以上である請求項1~
4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
前記バインダーの質量が前記不織布の質量の1%以上15%以下である請求項
1~5のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の不織布を有する吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
おむつ等の吸収性物品には不織布が用いられることが多い。この不織布について種々の機能を持たせる技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、吸収性物品の厚み回復性を高める観点から、接着剤を含浸又は塗布して形成されたレジンボンド不織布を吸収性物品に組み込むことが記載されている。具体的には、前記レジンボンド不織布は、吸収性物品の肌に触れない部材として配置されている。
また、特許文献2~4には、繊維ウェブを予め凹凸形状に賦形して不織布化して、圧縮回復率やクッション性等を高めた凹凸不織布が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-187088号公報
【文献】特開2012-136791号公報
【文献】特開2019-44320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不織布は、例えば、吸収性物品等の製品に組み込まれ包装袋に封入された状態で圧縮圧力を受け、該包装袋から取り出された際に、優れた厚み回復性が求められる。
しかし、坪量を高めることなくこれまで以上に厚みを高めようとした場合に、その厚み回復性は、封入前の厚みと比較して未だ十分とは言えず改善の余地がある。この点、特許文献1記載のレジンボンド不織布は、繊維集合体全体に接着剤を含浸又は塗布して形成されたものであるため、エアスルー不織布と比較すると肌触りに改善の余地がある。そのため、レジンボンド不織布では、不織布の持つふっくらとした風合いを維持しながら厚み回復性を更に向上させることは困難である。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、厚み回復性に優れ、ふっくらとした風合いが維持される不織布に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布である。
本発明の不織布は、50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上であることが好ましい。
本発明の不織布は、2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であることが好ましい。
本発明の不織布は、(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上であることが好ましい。
本発明の不織布は、(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下であることが好ましい。
本発明の不織布は、上記(1)および(2)のいずれか一方又は両方の要件を満たす不織布ことが好ましい。
上記(1)および(2)における圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率は、下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【0008】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、特許請求の範囲及び下記の記載からより明らかになるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明の不織布は、厚み回復性に優れ、ふっくらとした風合いが維持される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】繊維の縦配向度の測定方法において用いられる観察画面の一部を正方形の基準線と共に示した模式図である。
【
図2】不織布の厚み中心部でのバインダーの繊維交点上の存在の有無の確認方法において用いられる観察画像の一部を基準円と共に示した模式図である。
【
図3】(A)は、フラットな形状の不織布において、厚み中心部を通り、不織布面(平面)を形成する繊維層に対して直交する断面Aを切り取る位置(A-A線)を示した側面図であり、(B)は、厚み中心部を通り、前記断面Aに直交する断面Bを切り取る位置(B-B線)を示した側面図である。
【
図4】(A)は、凹凸形状の不織布において、厚み中心部を通り、不織布面(凸部頂部と凹部底部とを繋ぐ凹凸面)を形成する繊維層に直交する断面Aを切り取る位置(A-A線)を示した側面図であり、(B)は、厚み中心部を通り、前記断面Aに直交する断面Bを切り取る位置(B-B線)を示した側面図である。
【
図5】不織布の凹凸形状の具体例1を模式的に示す一部断面斜視図である。
【
図6】不織布の凹凸形状の具体例2の一方の面側の平面を示す図面代用写真である。
【
図7】
図6に示した不織布のC-C線部分断面図である。
【
図8】
図6に示した不織布のD-D線部分断面図である。
【
図9】
図6に示した不織布の反対面側の平面を示す図面代用写真である。
【
図10】
図9に示した不織布のE-E線部分断面図である。
【
図11】
図9に示した不織布のF-F線部分断面図である。
【
図12】実施例8における不織布試料の製造工程を模式的に示す説明であり、(A)は支持体雄材上に繊維ウエブを配し、支持体雌材を前記繊維ウエブ上から支持体雄材に押し込む工程を示す説明図であり、(B)は支持体雌材の上方から第1の熱風を突き付けて繊維ウエブを賦形する工程を示す説明図であり、(C)は支持体雌材を取り除いて、賦形された繊維ウエブの上方から第2の熱風を吹き付けて繊維同士を融着させる工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の不織布の好ましい実施形態について説明する。
本発明の不織布は、熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する。融着点は、交差する繊維同士の接点において繊維同士が結着している部分である。より具体的には、前記融着点は、不織布の製造過程において、熱処理によって熱可塑性繊維の表面が一部溶融し、その溶融によって繊維同士が結着したものである。本発明の不織布としては、例えばエアスルー不織布が用いられる。
【0012】
熱可塑性繊維としてはこの種の物品に用いられる種々のものを特に制限なく採用できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどのポリエステル系樹脂とその共重合体;低密度ポリエチレン(以下、ポリエチレンをPEという)、中密度PE、高密度PE、直鎖状低密度PE、超高分子量PEなどの各種PE系樹脂;通常のチーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒を使用して重合されるアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックなどの各種ポリプロピレン(以下、ポリプロピレンをPPという)系樹脂;各種ポリメチルペンテン系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、エチレン-プロピレン共重合樹脂などの各種ポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチックが使用できる。
【0013】
本発明の不織布は、50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上ある。ここで50Pa荷重とは、不織布表面の毛羽立ちなどを抑える程度の荷重を意味し、不織布の見かけ厚みを適正に測定するために必要な荷重である。50Paの荷重は、例えば、直径2.5cm、質量2.45gの円形プレートを不織布に載置することで不織布に加えられる。
前述の見かけ厚みとは、不織布を水平面に静置したときに、該水平面と、該水平面に接する不織布の一方の面とは反対面の側の最も外側の部位に接する仮想平面との間の、該水平面に対する鉛直方向の距離を意味する(以下、この水平面に対する鉛直方向を単に「鉛直方向」ということがある)。上記の「一方の面」及び「反対面」は、不織布の表裏面であり、前記水平面に対し鉛直方向に水平面から最も遠い面と、水平面に最も近い面とである。前記見かけ厚みは、例えば本発明の不織布が両面に凹凸形状を有する場合、一方の面側の凸部の頂部の位置と他方の面側の凸部の頂部の位置との間の鉛直方向の距離である。
また、本明細書において、前記一方の面側を第1面側とも言い、符号1Aを付して称することがある。前記反対面側を第2面側とも言い、符号1Bを付して称することがある。本実施形態の不織布において、反対面(第2面)側が使用時の肌に触れない面側(非肌面側)となる。
【0014】
(50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの測定方法)
測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製する。レーザー厚さ計(オムロン株式会社製、高精度変位センサZS-LD80(商品名)。本明細書で用いられるレーザー厚さ計は全てこれである。)を使用し、前記測定試料に対して50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、平均値を測定対象の不織布の見かけ厚みとする。
なお、測定対象の不織布が製品に組み込まれている場合は、コールドスプレー等の冷却手段で接着剤等の接着力を弱め、製品から不織布を取り出して上記の測定を行う。この不織布を取り出す方法は、本明細書中の他の測定においても同様に適用される。
測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
【0015】
本発明の不織布は、上記の50Pa荷重(鉛直方向の荷重)時の不織布の見かけ厚みを有することが好ましく、これによりふっくらとした風合いを備えるものとなる。これは、繊維の縦配向度に起因するものであり、縦配向度が高くなることで不織布の嵩が向上する。また、縦配向の繊維が存在することで、低目付でありながら高い嵩を実現することができる。これより、本発明の不織布に触れた者は、厚みによる嵩高さと柔らかい肌触りとを感じることができる。
この観点から、本発明の不織布は、上記の50Pa荷重時の不織布の見かけ厚み5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることが更に好ましく、7mm以上であることが殊更好ましい。
本発明の不織布は、不織布強度を担保する観点から、上記の50Pa荷重時の不織布の見かけ厚み9mm以下であることが好ましく、8.5mm以下であることがより好ましい。
【0016】
加えて、本発明の不織布は、2.5kPaで加圧(鉛直方向に加圧)されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの50%以下になることが好ましい。上記の2.5kPaの加圧は、例えば本発明の不織布を吸収性物品など不織布製品の構成部材として組み込み、該不織布物品を販売用の包装体として包装袋に封入された状態で通常想定される荷重を意味する。すなわち、2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みがこの上限以下となることにより、包装袋内に本発明の不織布を構成部材として有する不織布製品を、コンパクトに収容することが可能となる。通常、包装袋へは不織布を圧縮して封入するため、消費者が開封して使用する際、不織布は封入による圧縮保存状態を経ている。そのため、圧縮保存状態を想定した評価が重要となる。この2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みは、前述の(50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの測定方法)における荷重を2.5kPaにして測定することができる。
【0017】
これによって、本発明の不織布は十分な厚みによるふっくらとした風合いを備えながら、包装体への封入が可能な高い圧縮特性を有する。
この観点から、本発明の不織布は、上記の2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの33.3%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
また、本発明の不織布は、繊維同士の融着点の融着状態を保持し、前記荷重後の繊維の形状回復性を保持する観点から、上記の2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの10%以上であることが好ましく、12.5%以上であることがより好ましく、16.7%以上であることが更に好ましい。
【0018】
これと同時に、本発明の不織布は、下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(1)および(2)のいずれか一方又は両方の要件を満たすことが好ましい。
(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上である。
(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下である。
【0019】
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。この測定は、前述の(50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの測定方法)に基づいて行う。
(b)次いで、以下の「加圧処理」を施す。20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この時不織布が0.7mmとなるよう例えばスペーサーをかませるなどして圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【0020】
これにより、本発明の不織布は、十分な厚みを有しながら、高い圧縮特性を有して、ふっくらとした風合い、すなわち高いクッション性を備え、かつ、圧縮解放後の高い厚み回復性を有する。
このような効果は、本発明1の不織布が、後述する繊維の縦配向性、及び/又は、繊維交点上に存在するバインダーの構成を有することにより更に高められる。
より具体的には、繊維の縦配向度を高めた繊維によって低目付で嵩高い不織布を形成するとともに、縦配向した繊維の座屈による圧縮変形量の向上により、嵩高く高圧縮特性を生み出すことができる。
また、繊維交点にバインダーが存在することで繊維融着交点での塑性変形による潰れを抑制し、高芯比繊維を用いた緩和弾性率の向上により、圧縮解放後の厚み回復性を効果的に実現することができる。
これにより、前記ふっくらとした風合いを圧縮後でも維持し得るものとなる。すなわち、本発明の不織布は、厚みによる嵩高さと圧縮による柔らかい肌触りを肌に感じながら、高圧縮の包装体内への封入を可能にし、かつ、包装体開封後において、本来のふっくらとした風合いを肌で実感させることができる。また、本発明の不織布は、圧縮の前後を通じて、十分な厚みと優れたクッション性とを両立させ、かつ保持し続けることができる。
【0021】
この観点から、本発明の不織布は、上記の圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。
同様の観点から、本発明の不織布は、上記の圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2.3mm以上がであることがより好ましく、2.5mm以上であることが更に好ましい。
上記の圧縮解放後の厚み回復性は“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”が大きいほど良い。
【0022】
本発明の不織布は、やわらかい風合いとする観点から、上記の圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましい。
同様の観点から、本発明の不織布は、上記の圧縮解放後の不織布見かけ厚みが4mm以下であることがより好ましく、3.8mm以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の不織布は、圧縮解放後の不織布変形ストロークが、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましい。
また、本発明の不織布は、厚み方向の不織布強度を担保する観点から、上記の圧縮解放後の不織布変形ストロークが、6mm以下であることが好ましく、5.5mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが更に好ましい。
これにより、本発明の不織布は、前述の特性に加えて、包装体封入後も柔らかさを感じる変形量をより保持し得るものとなる。
上記の圧縮解放後の不織布変形ストロークとは、不織布の長期圧縮後のクッション性を表す指標であり、不織布の圧縮荷重時における圧縮方向の変形量を定量化したものである。この値が大きいほど不織布がふっくらとした風合いを有することを意味する。これにより、人が不織布に触れた際のふっくらさ、クッション性を定量的に表すことが可能となる。圧縮変形ストロークが大きくなるよう不織布構成を作ることで、ふっくらとした風合いを実現する不織布の製作が可能となる。この不織布変形ストロークは下記の測定方法によって得ることができる。
【0024】
(圧縮解放後の不織布変形ストロークの測定方法)
測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製する。測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。上記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)中の加圧処理を施す。その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、この圧縮解放後の不織布見かけ厚みをAとする。
次に、加圧処理後の測定試料に対して、2.5kPa加圧時の厚みを同様に測定し、この厚みをBとする。
最後に、下記の式にて不織布変形ストロークを算出する。
“圧縮解放後の不織布変形ストローク[mm]”=A-B
【0025】
このような本発明の不織布は、不織布における種々の構造によって実現される。例えば、不織布が下記a~iの層を有することが挙げられる。
a.天然繊維層
b.部分的にエンボス圧着部を有する中空繊維の層
c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層
d.エラストマー繊維の層
e.低伸度繊維の層
f.未融着の繊維層
g.複数枚の凹凸不織布を積層させた層
h.繊維の縦配向性を有する層
i.繊維交点にバインダーが存在する層
【0026】
これらの層は、本発明の不織布の全体にあってもよく、一部にあってもよい。一部にある場合、これらの層は、不織布の厚み中間層にあることが好ましい。また、圧縮力を受ける面の反対面側にあることが好ましい。反対面とは、例えば本発明の不織布を吸収性物品の表面シートとして用いた場合には、非肌面である。加えて、本発明の不織布は、下記に示す層のいずれか1つを有していてもよく、複数を有していてもよい。本発明の不織布が下記に示す層の複数を有する場合、その複数の層がそれぞれ分かれた層になっていてもよく、1つの層の中でそれぞれの構成が混在する層となっていてもよい。
なお、上記の不織布の「厚み中間層」とは、50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みについて、上層25%、中間層50%、下層25%と定義したときの、「中間層50%」の部分を意味する。
【0027】
特に、前記a、d、f、hの層は、前述の厚み中間層にあることが好ましい。
前記b、c、e、gの層は、不織布全体を構成していることが好ましい。
前記iの層は、不織布の片側70%を構成していることが好ましい。
【0028】
以下、上記a~iについて詳述する。
a.天然繊維層
この層においては、熱可塑性繊維とは異なって、天然繊維を用いた層である。ここでいう天然繊維は、特に限定されないがセルロース繊維や綿などが好ましい。セルロース繊維を例として説明すると、セルロース繊維が繊維同士の交点において熱融着せず、繊維同士の変形が比較的自由にされている。セルロース繊維が捲縮していたり、螺旋状にされていたりすることによりカールしていることが好ましい。
本発明の不織布は、天然繊維層を有することにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。このようなセルロース繊維としては、この種の物品において通常用いられるものを特に制限なく採用できる。例えば、特表2017-526473号の段落[0098]及び[0291]に記載のものなどが挙げられる。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、例えば、天然繊維を熱可塑性繊維に混綿する、もしくは熱可塑性繊維の層で挟む。次いで、エンボスロールやエアスルー法にて固定するようなサーマルボンド法、またはニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化する。
【0029】
b.部分的にエンボス圧着部を有する中空繊維の層
この中空繊維は、内部に空気を含んでおり、エンボス圧着部によって中空における空気を閉じ込めた構造を備える。これにより、前記中空繊維は、チューブ状の風船のように、曲げに対する回復性を備える。
本発明の不織布は、このような部分的にエンボス圧着部を有する中空繊維の層を有することにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂を用いた中空繊維を使用し、エンボスロールなどで繊維間を圧着して不織布化する。
【0030】
c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層
上記の芯鞘型の複合繊維は、具体的には、2つ以上の異なる樹脂成分を構成成分として含有する繊維である。この融点に関し、芯の樹脂成分よりも鞘の樹脂成分の方でガラス転移温度が低い場合(例えば、芯の樹脂成分がPETで、鞘の樹脂成分がPE)、ガラス転移温度の低い樹脂成分の質量比を小さくすることで、不織布の厚みの回復性を高められる。このようになる要因としては、次のようなことが考えられる。ガラス転移温度の低い樹脂は、緩和弾性率が低いことが知られている。また、緩和弾性率が低いと変形に対して回復に対して回復しづらいことも知られている。従って、ガラス転移温度の低い樹脂成分をできるだけ少なくすることによって、より高い厚み回復性を不織布に付与できると考えられる。
この芯鞘型の複合繊維は、芯成分と鞘成分とが同心円状に配置されている構成を有することが好ましい。
「前記複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい」とは、複合繊維の質量に占める芯成分の質量割合が、複合繊維の質量に占める鞘成分の質量割合より大きいこと意味する。このような芯鞘型の複合繊維としては、この種の物品において通常用いられるものを特に制限なく採用できる。例えば、特開2019-44321号公報の段落[0051]に記載のものを採用することができる。
上記のような芯鞘型の複合繊維は、熱可塑性繊維として、他の繊維と交点において熱融着して融着点を形成する。
本発明の不織布は、上記のような芯鞘型の複合繊維の層を有することにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、エアスルー法などのサーマルボンド法を用いることが好ましい。
【0031】
(芯鞘型の複合繊維における異なる樹脂成分の確認方法)
下記の方法によって測定したときの融点ピークから、複合繊維に含まれている樹脂成分が2種類以上か否かを判断する。吸熱ピークのカウントについては、5℃以上離れたところにピークが現れた場合、異なる種類の樹脂成分と判断する。
(1) 測定試料として0.01gの不織布試料を用意する。
(2) 示差走査熱量計「DSC7000X」(商品名、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、不織布試料0.01gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。
(3) 昇温速度10℃/minで300℃まで昇温し、吸熱ピークを測定する。
【0032】
(芯鞘型の複合繊維の質量に占める芯成分及び鞘成分の質量割合の測定方法)
測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製する。測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
前記測定試料を液体窒素で凍結させた後、不織布を平面視した際の繊維の流れ方向に直交するよう不織布の厚み断面をカミソリ刃による切断で作製し、芯鞘型の複合繊維の断面を得る。卓上走査電子顕微鏡(SEM)JCM-6000Plus(日本電子株式会社製、商品名。本明細書で用いられるSEMは全てこれである。)を用いて、前記複合繊維の断面を倍率2000倍で観察する。観察画面の大きさは縦:43μm、横:60μmを拡大したものとする。
芯成分と鞘成分の断面積を測定し、単位長さ当たりの体積を算出し、それぞれの樹脂成分の密度から芯鞘比(質量比)を算出する。繊維10本分の測定結果の平均値を芯鞘比の測定データとする。なお、樹脂成分の密度はプラスチック材料総覧(加工技術研究会)の値を用いる。
【0033】
d.エラストマー繊維の層
本発明の不織布は、弾性を備えたエラストマー繊維の層を有することによって、圧縮後の厚み回復性が高くなる。ここで言う「エラストマー」とは、伸長時に脆性破壊せず弾性を有するものと定義される。エラストマー繊維は、通常用いられるものを特に制限なく採用でき、例えば特開2007-321293号公報の段落[0010]~[0060]記載の熱可塑性エラストマーの繊維が挙げられる。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂を用いたエラストマー繊維を用いるか、熱可塑性エラストマーの繊維を熱可塑性繊維に混綿する、もしくは熱可塑性繊維の層で挟む。そしてエンボスロールやエアスルー法にて固定するようなサーマルボンド法、またはニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化する。
【0034】
e.低伸度繊維の層
低伸度繊維とは、JIS L1015 7.7.1に準じて測定した伸度(破断伸度)が100%以下である繊維を言う。
前述の「c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層」の中に前記低伸度繊維があることによって、本発明の不織布の厚み回復性はより高められる。また、本発明の不織布において、前述の「c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層」よりも当該「e.低伸度繊維の層」の方が厚み回復性に支配的である。
このような低伸度繊維は、伸長しがたいため形状変化が小さい。
そのため、本発明の不織布は、低伸度繊維の層を含むことにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。この観点から、低伸度繊維の伸度は、90%以下がより好ましく、85%以下が更に好ましい。
また、低伸度繊維の伸度は、繊維間の融着を強固にし、不織布強度を強くする観点から、40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましい。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、例えば、エンボスロールやエアスルー法にて固定するようなサーマルボンド法、またはニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化する。
【0035】
f.未融着の繊維層
未融着の繊維層とは、繊維同士の交点が結着していない状態の層のことである。具体的には、熱可塑性繊維による熱融着のない層である。また、バインダーによる接着や機械的結合のない層である。
このような層の繊維としては、高融点樹脂からなる繊維であることが好ましい。
未融着の繊維層は、繊維同士の変形が比較的自由である。そのため、本発明の不織布は、未融着の繊維層を含むことにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。
この観点から、前記未融着の繊維層は特に前述の厚み中間層のあることが好ましい。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、例えば、高融点樹脂からなる繊維を熱可塑性繊維に混綿し、ニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化する。もしくは高融点樹脂からなる繊維を熱可塑性繊維の層で挟みエンボスロールやエアスルー法にて固定するようなサーマルボンド法、またはニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化する。
【0036】
g.複数枚の凹凸不織布を積層させた層
一方の凹凸不織布の凸部を一方の面に向け、他方の凹凸不織布の凸部を反対面に向けて、それぞれの不織布の凹部の底部同士を接合することにより、厚みを確保しながら凹部同士で互いの凹凸構造を支え合う。これにより、凹凸不織布を積層させた層の形状保持性が高まる。加えて、互いの凹凸不織布が備える凹部の空間が、凹凸不織布を積層させた層の柔軟性を高め柔らかい肌触りとクッション性とを向上させる。このような凹凸不織布を積層させた層の具体例としては、特開2013-194333号公報の
図1に示すものが挙げられる。
また、凹凸不織布同士を積層する方法としては、通常とり得る種々の方法を特に制限なく採用できる。例えば、エンボス加工、熱風処理による熱融着、ホットメルト接着剤による接合が挙げられる。やわらかい風合いを維持する観点から、エンボス加工よりも、熱風処理による熱融着、ホットメルト接着剤による接合が好ましい。
この凹凸不織布を積層させた層は2枚からなるものに限らず、3枚以上でもよい。3枚以上の場合、一方の面側と反対面側との間にさらに積層させることが挙げられる。
本発明の不織布は、このような複数枚の凹凸不織布を積層させた層を有することにより、形状保持性、柔軟性、柔らかい肌触り及びクッション性に優れ、圧縮後の厚み回復性が高くなる。
【0037】
h.繊維の縦配向性を有する層
繊維の縦配向性とは、不織布の厚み方向に繊維が向いていることを言いう。ここで言う厚み方向は、前述のとおり、不織布の一方の面を水平面に静置した場合の該水平面に対する鉛直方向を意味する。このような繊維の縦配向性を有する層としては、例えば、特開平5-263345号公報の段落[0005]~[0026]に記載のものが挙げられる。
繊維の縦配向性を有する層は、厚み方向の圧縮力を受けてもへたり難く、形状回復性が高い。
そのため、本発明の不織布は、このような繊維の縦配向性を有する層を有することにより圧縮後の厚み回復性が高くなる。特に、前述の圧縮解放後の不織布変形ストロークをより優れたものとすることができる。
このような観点から、繊維の縦配向性を有する層は、本発明の不織布における厚み中間層の部位に少なくとも存在することが好ましい。
この層を不織布として構成する方法は特に限定されないが、熱可塑性繊維を用いてエンボスロールやエアスルー法にて固定するサーマルボンド法、またはニードルパンチ法やスパンレース法を用いて不織布化することが好ましい。
【0038】
上記の繊維の縦配向性は、繊維の縦配向度によって示される。前記「縦配向度」とは、下記(繊維の縦配向度の測定方法)によって測定される値であり、厚み方向成分を持つ繊維の向きが揃っている程度を示す値である。
なお、前記「厚み方向成分を持つ繊維」とは、本発明の不織布の表裏面のうちの一方の面を上にして水平面に静置した際に、該水平面に対してベクトルとして垂直方向成分を持つ繊維を言う。本明細書において「厚み方向」とは、垂直方向成分がゼロ超であることを意味する。また、「厚み方向成分を持つ繊維」は「縦配向した繊維」と同義である。
【0039】
前記縦配向度は、不織布の圧縮後の厚み回復性を高める観点から、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上が更に好ましい。
また、前記縦配向度は、不織布強度を高める観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下が更に好ましい。
【0040】
(繊維の縦配向度の測定方法)
(1) 不織布試料を液体窒素で凍結させて水平面に静置する。次いで、前記不織布試料の、前記水平面に対する鉛直方向の厚み50%の位置にある部分(厚み中心部)の厚み断面(前記鉛直方向の断面)を、カミソリ刃による切断で作製する。
(2) 前記厚み断面に対し、SEMを用いて35倍で観察し、観察画像を撮像する。
(3) 前記観察画像について、0.5mm×0.5mm(観察画像内の寸法)の正方形をなす基準線Lを付す。ここで基準線Lは、前記水平面に沿う方向に一致させた上辺L1及び下辺L2、並びに前記鉛直方向に一致させた左辺L3及び右辺L4にて構成される。
(4) 正方形の各辺からなる基準線に繊維が通過する延べ本数をそれぞれ数える。正方形の上下辺L1及びL2の基準線Lを通る繊維の延べ本数を「上下繊維本数」、正方形の左右辺L3及びL4の基準線Lを通る繊維の延べ本数を「左右繊維本数」とする。
(5) 不織布の繊維の縦配向度Qは、(上下繊維本数)/(上下繊維本数+左右繊維本数)×100として算出する。
これらを同一の不織布試料で各3点観察画像を用意・測定し、平均したものを測定値のデータとする。
なお、
図1は、正方形の基準線Lを付した観察画面を示している。同図では、黒点71が、基準線L(L1~L4)を繊維7が通過する位置である。
【0041】
なお、前記「厚み中心部」とは、前述にて定義した不織布の「見かけ厚み」における水平面と仮想平面との間の、該水平面に対する鉛直方向の距離の50%の位置にある部分を意味する。
ここでの不織布の厚みは前述の(50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの測定方法)に基づいて測定される。
【0042】
i.繊維交点にバインダーが存在する層
繊維交点とは、2本以上の繊維が交差している部分を言う。繊維交点に存在するバインダーは、繊維同士が交差して重なる部分の外側表面を覆っていることが好ましい。また、バインダーは、繊維交点に存在しながら、繊維交点以外の繊維表面にまで延出して存在することが好ましい。
また、本発明の不織布の厚み中心部でバインダーが繊維交点に存在することが好ましい。すなわち、繊維交点にバインダーが存在する層が本発明の不織布の厚み中心部にあることが好ましい。
【0043】
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する本発明の不織布において、繊維交点にバインダーを有する層があることにより、前記バインダーが繊維同士の立体交差を回復させる作用をする。すなわち、本発明の不織布に対して一方の面側から圧縮力(押圧力)を加えると、該圧縮力によって繊維交点における繊維の立体交差が潰される。しかし、前記圧縮力を取り除くと、前記バインダーによって繊維交点における繊維の立体交差の配置が回復される。
本発明の不織布は、繊維交点にバインダーが存在する層における上記作用によって、圧縮後の厚み回復性が高くなる。
【0044】
このようなバインダーは、繊維交点の表面に固着して流れ落ちない粘性又は結着性を有する。また、バインダーは、不織布のクッション性に必要な繊維交点における繊維の可動性を担保する軟性を有する一方で、可動後の繊維間の位置関係を元に回復させる粘性又は結着性を備える。さらにバインダーは、弾性を有することが前述の作用の観点から好ましい。
【0045】
バインダーとしては種々用いることができる。例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、酢酸ビニル・エチレン系樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどが挙げられる。
特に、繊維交点における繊維の立体交差の配置を復元し得る粘性、結着性及び軟性を有するものとして、アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエンゴムなどが好ましい。
【0046】
(不織布の厚み中心部でのバインダーの繊維交点上の存在の有無の確認方法)
(1) 測定試料として0.3gの不織布試料を用意する。次いで、酢酸エチル100mLを入れたビーカーに該不織布試料を入れて、30分間撹拌し、該不織布試料を取り出し乾燥させる。これにより、スキンケア剤、ホットメルト型接着剤等の不織布試料に付着していた成分を洗い流す。
(2) 繊維表面に固着しているバインダーを繊維と異なる色に染色して両者を識別する鑑別試薬(繊維鑑別試薬ボウケンステインII、一般財団法人ボーケン品質評価機構製)を用いて、不織布試料の染色処理を行う。
(3) 不織布試料を液体窒素で凍結させた後、カミソリ刃による切断で不織布試料の厚み中心部を通る断面を2つ作製する。1つは、不織布試料の厚み中心部を通る断面A(厚み中心部を通り、不織布面を形成する繊維層に直交する断面)を作製する。もう1つは、不織布試料の厚み中心部を通り、前記断面Aに直交する断面Bを作製する。
なお、上記断面は、不織布平面におけるMD(Machine Direction)方向(製造工程における機械流れ方向)に沿う断面、CD(Cross Diection)方向(前記機械流れ方向に直交する方向)に沿う断面、その間の任意の断面のいずれでもよい。少なくともいずれか1つの平面方向に沿う、厚み中心部を通る断面で所定の要件を満たせばよい。
(4) 前記(3)によって作製した試料を、断面を上に向けて水平面に静置する。静置した状態で、デジタルマイクロスコープVHX-900(商品名、株式会社キーエンス製)を用いて100倍で観察画像を撮像する。
(5) 上記2つの断面の観察画像に対し、観察画像内に直径1.0mm(観察画像内の寸法)の基準円Cを付する。基準円C内の繊維交点数(N)と、該繊維交点数(N)の中で、染色された繊維交点数(Nb)をカウントする。カウントした結果、染色された繊維交点数(Nb)の大きい方の断面を測定対象とする。(観察画像においてピントの合っている範囲が測定対象となる。)
繊維交点は、繊維同士が融着したものも融着していないものもカウントする。
断面Aの厚み中心部の観察画像を得る際は、低倍率から断面試料を観察画面中央に調整し、倍率を上げていくことで、厚み中心部を特定するものとする。
(6) 次いで、下記式(S1)に基づいて、不織布の厚み中心部での単位面積当たりの、バインダーの繊維交点上の存在率を算出する。
H(%)=Nb÷N×100 (S1)
H:単位面積当たりの、バインダーの繊維交点上の存在率
Nb:基準円C内の染色された繊維交点数
N:基準円C内の繊維交点数(Nbも含めてカウント)
これらを同一不織布試料で各3点、それぞれ2ずつの観察画像を用意・測定する。断面AとBのうちバインダーの繊維交点上の存在率の測定結果で値の大きい方を採用し、平均したものを測定値のデータとする。
なお、
図2は、観察画面に付した基準円C内に、繊維7同士が交わる複数の繊維交点6、染色された繊維交点61が存在することを示している。
【0047】
前記(3)の2つの断面A及びBは、例えば次のような断面である。
不織布が平面方向にも厚み方向にも繊維層が連続して凹凸が無く、フラットな形状を有する場合、断面Aは、厚み中心部を通り、不織布面(平面)を形成する繊維層に対して直交する断面である。この場合、断面Bは、厚み中心部を通り、不織布平面に沿った断面である。具体的には、断面Aは、
図3(A)示すように、不織布100Sの厚み中心部105を通る鉛直方向のA-A線に沿った断面である。断面Bは、
図3(B)に示すように、不織布100Sの厚み中心部105の位置における水平方向のB-B線に沿った断面である。
また、不織布の繊維層が厚み方向に蛇行して凸部と凹部とを交互に備えた凹凸形状を有する場合、断面Aは、厚み中心部を通り、不織布面(凸部頂部と凹部底部とを繋ぐ壁面)を形成する繊維層に直交する断面である。この場合、断面Bは、厚み中心部を通り、不織布面(凸部頂部と凹部底部とを繋ぐ壁面)を形成する繊維層に沿った断面である。具体的には、断面Aは、
図4(A)に示すように、不織布100Wの厚み中心部105を通るA-A線に沿った断面である。断面Bは、
図4(B)に示すように、不織布100Wの厚み中心部105の位置におけるB-B線(A-A線に直交する線)に沿った断面である。
【0048】
上記(2)の染色処理の処理内容を説明する。
(2-1) ボウケンステインIIの容器をよく振りまぜ、充分に混合させる。
(2-2) 混合させたボウケンステインnIIを200mL程度の大きさのビーカーに1.5mL取り、脱イオン水を加え、全量が30mLとなるように、染液を作成する。
(2-3) 染液を加熱し、沸とう前の90℃程度のときに不織布試料を投入し、2分間95℃で煮沸させる。
(2-4) 不織布試料を取り出し充分水洗いした後、乾燥させる。
(2-5) 鑑別色と比較し判定する。例えば、アクリル系樹脂又はスチレン・ブタジエンゴムを含むバインダーは赤色に染色され、繊維が白色のままとなる(ただし、バインダーの染色は、バインダー成分によって異なる。)。
【0049】
前記バインダーは、不織布の構成繊維とは異なる樹脂成分であり、不織布化した後の構成繊維の表面に固着されている。
例えば、不織布の一面に対して、スプレー等によってバインダーを吹き付けて繊維交点に固着させる。バインダーの吹き付けは、不織布の肌に触れる面とは反対の面側から行うことが肌に触れた際のべたつき感を抑える観点から好ましい。
同様の観点から、バインダーの吹き付け質量は、不織布の単位面積あたり、5g/m2以下が好ましい。
また、バインダーの繊維交点に対する作用を効果的に発現させる観点から、バインダーの吹き付け質量は、不織布の単位面積あたり、0.3g/m2以上が好ましい。
【0050】
本発明の不織布において、バインダーによる作用を効果的に発現させる観点から、不織布の質量に占めるバインダーの質量の割合は1%以上が好ましい。
また、本発明の不織布において、ふっくらとした風合いを実現する観点から、不織布の質量に占めるバインダーの質量の割合は15%以下が好ましい。
【0051】
(バインダー質量の不織布の質量に占める割合の測定方法)
(1) 前記(不織布の厚み中心部でのバインダーの繊維交点上の存在の有無の確認方法)の(1)と同じ処理を行った不織布試料を合計1.0g用意する。
(2) 不織布試料を0.1mm四方で細切れに裁断する。この細切れとなった試料を1.0gビーカーへ入れ、ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、HFIPとも言う)を加えて、HFIP不溶分とHFIP可溶分に分離する。これにより、繊維のPET成分を溶解させる。
(3) 前記(2)で得られたHFIP不溶分に加熱キシレン130℃を加えて、充分に撹拌し、ろ過することで、加熱キシレン不溶分と加熱キシレン可溶分に分離する。これにより、繊維のPP成分、PE成分を溶解させる。
(4) 前記(3)で得られたHFIP不溶分加熱キシレン不溶分について秤量を測定し、TG/DTA測定を行う。TG/DTA測定において燃焼した量をバインダー質量と定義する(繊維には酸化チタンなどの添加物が含まれていてもよい。もし繊維が酸化チタンを有している場合、これにより、バインダーと酸化チタンを分離できる。)。
(5) 前記(4)で得たバインダー質量を前記(1)で調製した不織布試料1.0gで除して、バインダー質量の割合(%)を算出する。
【0052】
前記(バインダー質量の不織布資料に占める割合の測定方法)では、バインダーの吹き付け面に関係なく、不織布全体に含有されるバインダー固着量を、不織布の質量に占める質量割合として、繊維との対比における相対的な関係として把握することができる。
【0053】
前記バインダーは、不織布の厚み中心部での繊維交点に存在する限り、それ以外の繊維交点に更に存在していてもよい。また、バインダーが存在する繊維交点は、繊維同士の融着点であってもよく、融着していない繊維同士の交差部分であってもよい。
バインダーは粘着性を有することから、少量で前述の効果を発揮することができる。そのため、バインダーが存在する繊維交点は、繊維同士の融着点であることが好ましい。融着していない繊維同士の交差部分に比べて、融着点では既に結着された交点を形成しているために、バインダーによる交点の形成が不要である。これにより、繊維同士の融着点では、融着していない繊維交点に比べて、厚み回復性のための少量のバインダーを存在させればよく、バインダーの弾性による厚み回復効果が該バインダーの粘着性によって低減するのを回避することができる。
前記バインダーが繊維同士の融着点に存在すると、固定された繊維同士の位置関係(立体交差関係)をより強固に維持することができる。
また、前記バインダーが融着していない繊維同士の交差部分に存在すると、押圧時の柔らかな変形性を有しながら、繊維同士の位置関係(立体交差関係)を回復させることができる。
不織布の厚み回復性と柔らかなクッション性との両立の観点から、繊維同士の融着点及び融着していない繊維同士の交差部分の両方に前記バインダーが存在することが好ましい。この場合、バインダーが存在する不織布の厚み中心部での繊維交点の数としては、融着した繊維交点数>融着していない繊維交点数であることが好ましい。
【0054】
本発明の不織布は、熱可塑性繊維からなることが好ましい。例えば、前述のb~iの層で構成されていることが好ましい。これにより、繊維同士の融着点を起点として元の形状への復元が促進されやすく、回復性及びクッション性をより向上させることができる。
【0055】
また本発明の不織布は、熱可塑性繊維の中でも、前述の「c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層」に示される複合繊維からなることが好ましい。具体的には、本発明の不織布は、2つ以上の異なる樹脂成分を含有する複合繊維からなることが好ましく、前記複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きいことが好ましい。
【0056】
さらに本発明の不織布において、上記の複合繊維は、前述の「d.エラストマー繊維の層」に示されるエラストマー繊維よりも、「e.低伸度繊維の層」に示される低伸度繊維であることが好ましい。すなわち、前記複合繊維の伸度が100%以下であることが好ましく、前述の「e.低伸度繊維の層」において示した範囲にあることがより好ましい。これにより、エラストマー繊維で発生する自重および微小な圧力での変形が抑えられ、回復性の効果がより表れやすくなる。
【0057】
また、本発明の不織布は、厚み中心部で繊維同士の融着点が存在することが好ましい。例えば、不織布の厚み中心部に、前述のb~e、g~iの層を有することが好ましい。これにより、厚み中心部において圧縮によって繊維が偏ることなく、繊維間の融着点を起点とした復元力が層内で均一に発揮され、回復性およびクッション性にムラが生まれることを防ぐことができる。
【0058】
前記「厚み中心部」の定義及び厚みの測定方法は、前述したとおりである。上記の融着点は下記の方法によって確認することができる。
【0059】
(不織布の厚み中心部における繊維同士の融着点の存在の有無の確認方法)
(1) 測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、不織布試料を作製する。測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
(2) 前記(繊維の縦配向度の測定方法)の(1)及び(2)と同じ処理を行って、不織布試料の厚み中心部の観察画像を得る。その際、低倍率から断面試料を観察画面中央に調整し、倍率を上げていくことで、厚み中心部を特定するものとする。
(3) 観察画像内に直径0.5mm(観察画像内の寸法)の基準円を付し、円内の繊維同士の融着数を数え、融着点の存在の有無を測定する(観察画像においてピントの合っている範囲が測定対象となる。)。また融着点の数をカウントし、これらを同一サンプルで各3点観察画像を用意・測定し平均したものを、単位面積あたりの融着点数の測定値データとする。
【0060】
本発明の不織布において、単位面積あたりの厚み中心部の融着点の数は、不織布強度の観点から、100個/mm2以上が好ましく、120個/mm2以上がより好ましく、150個/mm2以上が更に好ましい。
また、単位面積あたりの厚み中心部の融着点の数は、不織布にやわらかい風合いを付与する観点から、300個/mm2以下が好ましく、250個/mm2以下がより好ましく、220個/mm2以下が更に好ましい。
【0061】
また、本発明の不織布において、ふっくらとした風合いの観点から、前述の「g.複数枚の凹凸不織布を積層させた層」において示したようなエンボス加工された部分(以下、エンボス部ともいう)の領域が少ないほどよい。そのため、下記方法にて測定されるエンボス率が15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。
前記エンボス率の下限は特に設定されるものではないが、0%以上である。
【0062】
(エンボス率の測定方法)
(1) 不織布試料中で最もエンボス率高い部分を選定し、測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製する。測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
(2) 不織布を水平に静置した状態で、観察画像を撮像する。観察画像に対し50mm×50mm四方におけるフィルム化している部分の面積率をエンボス率として測定する。これらを同一サンプルで各3点観察画像を用意・測定し、平均したものを測定値のデータとする。フィルム化している部分とは、繊維径を超える凹凸が無い面であり、繊維径以下の凹凸で形成された面又は該繊維径以下の凹凸の無い平坦な面を指す。
【0063】
また、本発明の不織布は、上記のエンボス率で凹凸形状を有することが好ましい。この凹凸形状は、本発明の不織布の一方の面及びその反対面の少なくともいずれかの面にあることが好ましく、両方の面にあることがより好ましい。これにより、エンボス部が空間を保持しやすくなり、回復性及びクッション性をより向上させることができる。
【0064】
さらに本発明の不織布は、前述の「h.繊維の縦配向性を有する層」において示した数値範囲の繊維の縦配向度を有することが好ましい。このような繊維の縦配向度を、本発明の不織布の少なくとも厚み中間層の部位に有することが好ましい。
また、本発明の不織布において、前述の「i.繊維交点にバインダーが存在する層」において示したように、厚み中心部でバインダーが繊維交点に存在することが好ましい。また、前記バインダーの質量が本発明の不織布の質量に占める割合が、前述の「i.繊維交点にバインダーが存在する層」において示した範囲にあることが好ましい。
【0065】
本発明の不織布は、前述の50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みによる嵩高さを有しながら、優れた圧縮特性とふっくらとした風合いと具備する観点から、坪量は、100g/m2以下が好ましく、60g/m2以下がより好ましく、40g/m2以下が更に好ましい。
また、坪量の下限は特に制限されるものでは無いが、不織布の地合を良好にする観点から、8g/m2以上が好ましく、10g/m2以上がより好ましく、15g/m2以上が更に好ましい。
【0066】
本発明の不織布は、上記の構成を有しながら、該不織布の厚み方向において凸部、凹部及び該凸部と該凹部とを繋ぐ壁部を具備する凹凸形状を有することが好ましい。凹凸形状にすることで、本発明の不織布は、坪量を抑えながらより嵩高く(厚みがあり)、肌触りが良いものとなる。これにより、本発明の不織布は、前述の圧縮特性によるふっくらとした風合い、すなわち高いクッション性をより優れたものとすることができる。
【0067】
本発明1の不織布が凹凸形状を有する場合、種々の凹凸形状を用いることができる。また、肌に触れる素材として通常用いられる種々のものを用いることができる。
例えば、不織布の凹凸形状としては、凸部が中実のもの、凸部が中空のもの、繊維層が一層構造のもの、繊維層が二層構造のもの、凸部が平面方向に散点状に配置されているもの、凸部及び凹部が畝溝状に配置されているものなど様々な種類がある。また、片面に限らず、両面に凹凸する形状を有するのものであってもよい。
その中でも、凹凸形状の凸部が中空であり、不織布の両面に凹凸形状を有する、一層構造の不織布が好ましい。例えば、下記の不織布80(具体例1)や不織布90(具体例2)がある。
これらについて以下に説明する。
【0068】
不織布80(具体例1)は、熱可塑性繊維を含む一層構造を有し、下記に示す凹凸形状を有する。また、不織布80は、前述の(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
すなわち、第1面(一方の面)1A側及び第2面(反対面)1B側の外面繊維層81、82と、第1面1A側の外面繊維層1と第2面1B側の外面繊維層2との間に配在した複数の連結部83とを有する。第1面1A側の外面繊維層81及び第2面1B側の外面繊維層82と連結部83とは相互に一部繊維が融着している。
また、第2面1B側の外面繊維層82と連結部83には、バインダーが繊維交絡点に存在しており、繊維交絡点を覆うようにバインダーが付着している。
この外面繊維層81、82と連結部83とにより、不織布80は、その厚み方向において中空の凸部、凹部及び該凸部と該凹部とを繋ぐ壁部を具備する凹凸形状を有する。この凹凸形状は、第1面1A側及び第2面1B側の両方に形成されている。具体的には、第1面1A側において外面繊維層81がなす凸部81と外面繊維層81間の凹部88とが凹凸形状を有する。第2面1B側において外面繊維層82がなす凸部82と外面繊維層82間の凹部89とが凹凸形状を有する。外面繊維層81がなす凸部81及び外面繊維層82がなす凸部82はいずれも中空である。連結部83は、凸部81と凹部88(凸部82と凹部89)とを繋ぐ壁部83をなしている。
この不織布80について、特開2019-44319号公報の段落[0010]~[0048]に記載の種々の構成を採用することができる。例えば、不織布80の凹凸形状は、第1面1A側において外面繊維層81がなす凸部81とその間の凹部88とが畝溝状に配置された形状であってもよい。同様に、第2面1B側において外面繊維層82がなす凸部82とその間の凹部89とが畝溝状に配置された形状であってもよい。また、外面繊維層81、82は、平面方向に繊維が配向していてもよい。連結部83がなす壁部83は縦配向した繊維を有していてもよい。第1面1A側の凸部となる外面繊維層1が、不織布の平面視交差する異なる方向のそれぞれに沿って延出する長さを有する2種(第1外面繊維層81A及び第2外面繊維層81B)を有していてもよい。複数の連結部83は、不織布の平面視交差する異なる方向のそれぞれの方向に沿って配され、該連結部83の壁面の向きを互いに異ならせた2種(第1連結部83A及び第2連結部83B)を有していてもよい。この場合、第1連結部83A及び第2連結部83Bは、互いに壁面の向きが異なっていても、繊維が縦配向していてもよい。
この不織布80は典型的には
図5に示された形状を有する。
このような不織布80は、特開2019-44319号公報の段落[0049]~[0057]に記載の方法によって製造することができる。
【0069】
不織布90(具体例2)は、熱可塑性繊維を含む一層構造を有し、下記に示す凹凸形状を有する。不織布90は、前述の(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
すなわち、第1面(一方の面)1A側には、不織布の厚み方向において第1面1A側に突出する複数の縦畝部911が、平面視した第1面1A側の一方向に延びて配されている。縦畝部911は、第1面1A側の一方向とは異なる平面視した第1面1A側の他方向に離間して並んで配されている。加えて、第1面1A側の他方向に延びる横畝部921が縦畝部911を繋いで配されている。縦畝部911及び横畝部921はそれぞれ中空の凸部を形成している。不織布90は、その厚み方向において、縦畝部911及び横畝部921とその間の凹部922とによって、凸部、凹部、及び該凸部と該凹部とを繋ぐ壁部911Wを具備する凹凸形状を有する。第1面1A側において、縦畝部911及び横畝部921がなす凸部は、不織布90の平面視交差する異なる方向のそれぞれに沿って延出する長さを有する。この場合、不織布90の第1面側における凹凸形状は、縦畝部911及び横畝部921のそれぞれがなす凸部とその間の凹部とが畝溝状に配置された形状であってもよい。
また、第2面(反対面)1B側には、平面視した第2面1B側の一方向に延び、かつ第2面1B側の一方向とは異なる第2面1B側の他方向に並ぶ複数の中空の凸条部931が配されている。また、複数の凸条部931に挟まれた凹条部936が第2面1B側の一方向に延びている。不織布90の第2面1B側における凹凸形状は、凸条部931と凹条部936とが畝溝状に配置された形状を有する。凸条部931は、複数の凸部934が尾根状に連なってなり、平面視において幅が細い部分と太い部分とが交互に繋がって配されている。尾根状に連なっている凸部934の間はやや低い窪み935がある。不織布90は、その厚み方向において、凸条部931及び凹条部936によって、凸部、凹部及び該凸部と該凹部とを繋ぐ壁部931Wを具備する凹凸形状を有する。
また、凸条部931及び凹条部936、壁部931Wには、バインダーが繊維交絡点に存在しており、繊維交絡点を覆うようにバインダーが付着している。
不織布90について、特開2019-44320号公報の段落[0012]~[0058]に記載の種々の構成を採用することができる。例えば、縦畝部911を構成する繊維と横畝部921を構成する繊維の配向方向が異なっていてもよい。縦畝部911の高さと横畝部912の高さが異なっていてもよく、横畝部921が不織布90の厚み方向に湾曲していてもよく、均等の高さとしていてもよい。また、第2面1B側から平面視した凸条部931の幅方向の輪郭を構成する二本の線のそれぞれが複数の弧を有する曲線であってもよい。凸条部931の側部に毛羽が配されていてもよい。
この不織布90は典型的には
図6~11に示された形状を有する。
このような不織布90は、特開2019-44320号公報の段落[0059]~[0065]に記載の方法によって製造することができる。
【0070】
このような本発明の不織布は各種用途に用いることができる。
例えば、本発明の不織布は、おむつ、生理用ナプキン、パンティーライナー、尿取りパッド等の吸収性物品に用いることができる。吸収性物品は、典型的には液透過性の表面シート、裏面シート、それらに挟まれた吸収体を有する。本発明の不織布は、その中でも特に表面シートとして好適に使用することができる。さらに、吸収性物品のギャザー部のシート、外装シート、ウイング部のシートとして利用する形態も挙げられる。
また、本発明の不織布は、アイマスクやマスクの構成部材として用いることができる。
【0071】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の不織布及び吸収性物品を開示する。
【0072】
<1>
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上であり、
2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であって、
下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(1)および(2)のいずれか一方又は両方の要件を満たす、不織布。
(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上である。
(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【0073】
<2>
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上であり、
2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であって、
下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(1)の要件を満たす、不織布。
(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【0074】
<3>
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上であり、
2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であって、
下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(2)の要件を満たす、不織布。
(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
<4>
熱可塑性繊維を含み、繊維同士の融着点を有する不織布であって、
50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みが4mm以上9mm以下であり、
2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚みが、前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの半分以下であって、
下記(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)によって得られる値が、下記(1)および(2)の両方の要件を満たす、不織布。
(1)圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率が40%以上80%以下である。
(2)圧縮解放後の不織布見かけ厚みが2mm以上8mm以下である。
(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)
(a)“圧縮前の不織布見かけ厚み”として、測定試料の不織布に対して50Pa荷重をかけ、その見かけ厚みを測定する。
(b)次いで、20kPaの荷重で測定試料の不織布を0.7mmまで圧縮する。この圧縮状態を50℃雰囲気下で24時間保持した後、圧縮状態から解放し、25℃雰囲気下で30分間放置する。
(c)その後レーザー厚さ計を使用し、50Paの荷重時の厚さを測定する。3箇所測定し、その平均値を測定データとし、“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”を得る。
(d)最後に、下記の式にて不織布見かけ厚みの回復率を算出する。
“圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率[%]”
=“圧縮解放後の不織布見かけ厚み”÷“圧縮前の不織布見かけ厚み”×100
【0075】
<5>
前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みは、5mm以上であり、6mm以上が好ましく、7mm以上がより好ましい、前記<1>~<4>のいずれか1に記載の不織布。
<6>
前記50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みは9mm以下であり、8.5mm以下が好ましい、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の不織布。
<7>
前記圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率は45%以上であり、50%以上が好ましい、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の不織布。
<8>
前記圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率は80%以下であり、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の不織布。
【0076】
<9>
前記圧縮解放後の不織布変形ストロークが1mm以上6mm以下である前記<1>~<8>のいずれか1に記載の不織布。
<10>
前記圧縮解放後の不織布変形ストロークが1.5mm以上であり、2mm以上が好ましい、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の不織布。
<11>
前記圧縮解放後の不織布変形ストロークが5.5mm以下であり、5mm以下が好ましい、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の不織布。
【0077】
<12>
熱可塑性繊維からなる、前記<1>~<11>のいずれか1に記載の不織布。
<13>
2つ以上の異なる樹脂成分を含有する芯鞘型の複合繊維からなり、前記複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい前記<1>~<12>のいずれか1に記載の不織布。
<14>
前記2つ以上の異なる樹脂成分の吸熱ピークが5℃以上離れている前記<13>に記載の不織布。
<15>
前記複合繊維の伸度が100%以下であり、90%以下が好ましく、85%以下がより好ましい、前記<1>~<14>のいずれか1に記載の不織布。
<16>
前記複合繊維の伸度が40%以上であり、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい、前記<1>~<15>のいずれか1に記載の不織布。
【0078】
<17>
厚み中心部で繊維同士の融着点が存在する前記<1>~<16>のいずれか1に記載の不織布。
<18>
単位面積あたりの厚み中心部の融着点の数は、100個/mm2以上300個/mm2以下である前記<17>に記載の不織布。
<19>
エンボス率が15%以下で凹凸形状を有し、前記エンボス率は10%以下が好ましく、5%以下が好ましく、0%以上が好ましい、前記<1>~<18>のいずれか1に記載の不織布。
【0079】
<20>
繊維の縦配向度が55%以上であり、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい、前記<1>~<19>のいずれか1に記載の不織布。
<21>
繊維の縦配向度が95%以下であり、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい、前記<1>~<20>のいずれか1に記載の不織布。
【0080】
<22>
厚み中心部でバインダーが繊維交点に存在する前記<1>~<21>のいずれか1に記載の不織布。
<23>
前記バインダーが存在する繊維交点は、繊維同士の融着点である前記<22>に記載に不織布。
<24>
前記バインダーの質量が前記不織布の質量の1%以上15%以下である前記<23>に記載の不織布。
【0081】
<25>
前記不織布の厚み方向において凸部、凹部及び該凸部と該凹部とを繋ぐ壁部を具備する凹凸形状を有する前記<1>~<24>のいずれか1に記載の不織布。
<26>
前記凹凸形状は、凸部が中実のもの、凸部が中空のもの、繊維層が一層構造のもの、繊維層が二層構造のもの、凸部が平面方向に散点状に配置されているもの、凸部及び凹部が畝溝状に配置されているもの、から選ばれる1の構造又は複数を組み合わせた構造を有する、前記<25>に記載の不織布。
<27>
両面に凹凸する形状を有する前記<1>~<26>のいずれか1に記載の不織布。
<28>
不織布の表裏面のうち一方の面と該一方の面に対して反対側の反対面とを有する不織布であって、
前記一方の面側及び前記反対面側の外面繊維層と、前記一方の面側の外面繊維層と前記反対面側の外面繊維層との間に配在した複数の連結部とを有し、
前記一方の面側の外面繊維層及び前記反対面側の外面繊維層と前記連結部とは相互に一部繊維が融着している、前記<1>~<27>のいずれか1に記載の不織布。
<29>
不織布の表裏面のうち一方の面と、該一方の面に対して反対側の反対面とを有する不織布であって、
前記一方の面側に、
前記不織布の厚み方向において該一方の面側に突出する複数の縦畝部が、平面視した一方の面側の一方向に延び、かつ該一方の面側の一方向とは異なる平面視した一方の面側の他方向に離間して並んで配され、
前記一方の面側の他方向に延びる横畝部が前記縦畝部を繋いで配されている、前記<1>~<28>のいずれか1に記載の不織布。
<30>
前記一方の面側の縦畝部及び横畝部のそれぞれがなす凸部とその間の凹部とが畝溝状に配置された凹凸形状を有する前記<29>に記載の不織布。
<31>
一方向に延びる凸条部を有し、該凸条部は、複数の凸部が尾根状に連なってなり、平面視において幅が細い部分と太い部分とが交互に繋がった形状を有する、前記<1>~<30>のいずれか1に記載の不織布。
【0082】
<32>
前記<1>~<31>のいずれか1に記載の不織布を有する吸収性物品。
<33>
肌当接面側に配された表面シート、非肌当接面側に配された裏面シート、表面シートと裏面シートに挟まれた吸収体を有し、
前記<1>~<31>のいずれか1に記載の不織布を表面シートとして有する吸収性物品。
【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表1中における、「-」は、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。
【0084】
表1の「50Pa荷重時の不織布の見かけ厚み」及び「2.5kPaで加圧されたときの不織布の見かけ厚み」は、前述の(50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みの測定方法)に準拠して測定した。表1の「圧縮解放後の不織布見かけ厚み」、「圧縮解放後の不織布見かけ厚みの回復率」及び「圧縮解放後の不織布変形ストローク」は、前述の(圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び厚み回復率の測定方法)及び(圧縮解放後の不織布変形ストロークの測定方法)に基づいて測定した。
また、表1の「芯鞘質量比」は前述の(芯鞘型の複合繊維の質量に占める芯成分及び鞘成分の質量割合の測定方法)に基づいて測定し、「伸度」はJIS L1015 7.7.1に準じて測定した。
さらに表1の「厚み中心部での繊維同士の融着点の有無」、「エンボス率」、「繊維の縦配向度」、「厚み中心部での繊維交点のバインダーの有無」は、前述の(不織布の厚み中心部における繊維同士の融着点の存在の有無の確認方法)、(エンボス率の測定方法)、(繊維の縦配向度の測定方法)及び(不織布の厚み中心部でのバインダーの繊維交点上の存在の有無の確認方法)に基づいて測定した。
【0085】
(実施例1)
(1)原料不織布の作製
表1に示す繊維径の芯鞘型の熱可塑性複合繊維を用いて、エアスルー法によって
図6~11に示す凹凸形状の原料不織布を作製した。原料不織布の大きさは、100mm×100mmとした。
具体的には、特許文献4の段落[0059]~[0065]に記載の製造方法に基づき作製した。このとき第1の熱風による吹き付け処理は、温度160℃、風速54m/秒、吹き付け時間6秒の条件で行った。第2の熱風による吹き付け処理は、温度160℃、風速6m/秒、吹き付け時間6秒の条件で行った。
(2)バインダー塗布液の調製
固形分50%程のバインダー溶液を10質量%、脱イオン水を90質量%となるように混ぜ、バインダー塗布液を調整した。バインダーは市販のアクリルエマルションの内、高弾性のタイプを使用した。
(3)バインダー塗布液の吹き付け
次いで、原料不織布に対し、凸条部931及び凹条部936が配された第2面(反対面)1Bに対し、スプレーによってバインダー塗布液を均等に塗布した。バインダー塗布液の塗布量は3.5g/m
2とした。これはバインダー塗布前後の不織布質量変化により測定した。
これにより、表1に示す坪量を有する、実施例1の不織布試料A1を作製した。バインダーは不織布の厚み方向中心部まで付着し、特に繊維交点へ多く付着するように存在していた。
この不織布試料A1は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)、(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0086】
(実施例2)
坪量を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして、実施例2の不織布試料A2を作製した。バインダーは不織布の厚み方向中心部まで付着し、特に繊維交点へ多く付着するように存在していた。
この不織布試料A2は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)、(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0087】
(実施例3)
繊維径と坪量を表1に示すとおりとした以外は実施例1と同様にして、実施例3の不織布試料A3を作製した。
この不織布試料A3は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)、(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0088】
(実施例4)
特許文献4の段落[0059]~[0065]に記載の作製方法において、支持体の突起の高さを6.0mmに変更することで50Pa荷重時の不織布の見かけ厚みと坪量を表1に示すとおりとし、実施例1のものよりも嵩を低くした以外は実施例1と同様にして、実施例4の不織布試料A4を作製した。
この不織布試料A4は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)、(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0089】
(実施例5)
熱可塑性複合繊維の芯鞘比と坪量を表1に示すとおりとした以外は、実施例4と同様にして実施例5の不織布試料A5を作製した。熱可塑性複合繊維の伸度は、前記芯鞘比によって、表1に示すとおり、実施例1のものよりも低くなっていた。
この不織布試料A5は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)及び(h.繊維の縦配向性を有する層)の要件を満たす。
【0090】
(実施例6)
熱可塑性複合繊維の芯鞘比及び伸度、坪量、繊維径を表1に示すとおりとし、熱可塑性複合繊維に代えて弾性を有するエラストマー繊維を用いた以外は、実施例4と同様にして実施例6の不織布試料A6を作製した。
この不織布試料A6は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(d.エラストマー繊維の層)及び(h.繊維の縦配向性を有する層)の要件を満たす。
【0091】
(実施例7)
複合繊維の構成成分を表1のとおりとし、厚み中心部で繊維交点同士を未融着(融着交点無し)にし、坪量を表1に示すとおりとし、以下に示した以外は、実施例4と同様にして実施例7の不織布試料A7を作製した。
具体的には、特許文献4の段落[0059]~[0065]に記載の方法によって作成した。
上記の不織布の製造に用いる繊維ウエブは次の方法で準備した。すなわち、繊度3.5dtexの芯鞘型(PET(芯):PE(鞘)=5:5(質量比))の熱可塑性繊維を用いて、坪量10g/m2の繊維ウエブAを2枚作製した。次に、繊度3.5dtexの単一繊維(PET:100%)の繊維を用いて、坪量10g/m2の繊維ウエブBを1枚作製した。繊維ウエブBを繊維ウエブAで上下から挟み込んだものを繊維ウエブとして用いた。
この不織布試料A7は、前述の(e.低伸度繊維の層)及び(f.未融着の繊維層)の要件を満たす。
【0092】
(実施例8)
原料不織布として、特開2019-44319号公報の段落[0049]~[0057]に記載の製造方法によって、
図12に示す支持体を用いて作製した以外は実施例1と同様の方法によって、実施例8の不織布試料A8を作製した。不織布試料A8は、
図5に示す凹凸形状を有するものとした。
なお、上記の製造方法において、
図12に示す支持体雄材120として、突起121の高さを8mmとし、角柱形状、上面から見ると2mm×2mmの正方形のものを用いた。角柱のピッチはMD方向、CD方向それぞれ5mmとした。
図12に示す支持体雌材130として、支持体雄材120の凹部122に対応する格子状の突起131を有する金属製のものを用い、支持体雄材120の突起121間に押し込んだ。支持体雌材130の隣り合った突起121、121間は5mmピッチで配置されており、支持体雄材120と支持体雌材130が押し込まれた時の繊維が入る空間は片側0.5mmで、支持体雄材120の突起120の両側合わせて1mmあった。熱風による吹き付け処理は、温度160℃、風速6m/秒、吹き付け時間6秒の条件にて行った。
この不織布試料A8は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)、(e.低伸度繊維の層)、(h.繊維の縦配向性を有する層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0093】
(比較例1)
表1に示す繊維径の芯鞘型の熱可塑性複合繊維を用いて、エアスルー法によって特許文献3の実施例1に記載の凹凸形状の不織布を作製した。坪量は表1に示すとおりとした。該不織布にはバインダー塗布液を塗布することなく、そのまま比較例1の不織布試料C1とした。
この不織布試料C1は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)及び(e.低伸度繊維の層)の要件を満たす。
【0094】
(比較例2)
表1に示す繊維径の芯鞘型の熱可塑性複合繊維を用いて、エアスルー法によって、凹凸の無いフラットな不織布を作製した。坪量は表1に示すとおりとした。該不織布にはバインダー塗布液を塗布することなく、そのまま比較例2の不織布試料C2とした。
この不織布試料C2は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)及び(e.低伸度繊維の層)の要件を満たす。
【0095】
(比較例3)
表1に示す繊維径の繊維(PET)を用いて、特許文献1の実施例1に記載のレジンボンド不織布を作製した。作製には実施例1で用いたレジンボンド塗布液を用いてスプレー塗布した。塗布量は16.6g/m2とした。このレジンボンド不織布を比較例3の不織布試料C3とした。
不織布試料C3は、凹凸形状を有さずフラット形状を有するものであった。
また、この不織布試料C3は、前述の(e.低伸度繊維の層)、(f.未融着の繊維層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0096】
(比較例4)
中国にて販売されていたThe Procter & Gamble Company製パンパース超薄干爽(2018年5月入手)のMサイズテープおむつから、表面材の裏に配置されている不織布を取り出して酢酸エチル100mLのビーカーに不織布試料を入れて30分間撹拌後、該不織布試料を取り出し乾燥させた。これにより得た不織布を比較例4の不織布試料C4とした。
不織布試料C4は、凹凸形状を有さずフラット形状を有するものであった。
また、この不織布試料C4は、前述の(e.低伸度繊維の層)、(f.未融着の繊維層)及び(i.繊維交点にバインダーが存在する層)の要件を満たす。
【0097】
(比較例5)
特開2012-136803号に記載の実施例1に基づき、比較例5の不織布試料C5を作製した。
この不織布試料C5は、前述の(c.芯鞘型の複合繊維であって、該複合繊維の芯鞘質量比について、芯比が鞘比より大きい繊維の層)及び(e.低伸度繊維の層)の要件を満たす。
【0098】
上記実施例、比較例について下記の測定及び試験を行った。
(1)下記表1中の項目6~11及び13~15の測定
各項目に対応する前述の各測定方法に基づいて、各不織布試料に対し測定した。
(2)下記表1中の項目12の測定
前述の(不織布の厚み中心部でのバインダーの繊維交点上の存在の有無の確認方法)を準用して、不織布の表裏面それぞれの面側(第1面側及び第2面側)の観察画像内において染色された繊維交点の有無を測定した。
(3)下記表1中の項目16の試験(風合い:MMD(平均摩擦係数の変動)試験)
自動表面試験機(KESFB4-A-SE:カトーテック株式会社製)を用いて、不織布表面の平均摩擦係数の変動:MMDを測定した。20cm×20cmの試験片を準備し、平滑な金属平面の試験台に取りつけた。接触子を49cNの力で接触面を試験片に圧着し、試験片を0.1cm/秒の一定速度で水平に2cm移動させた。試験片には19.6cN/cmの一軸張力が与えられた。接触子は、0.5mm径のピアノ線を20本並べ幅10mmでU字状に曲げたもので、重錘によって49cNの力で接触面を試験片に圧着させた。摩擦係数の平均偏差の測定値はMMD値で表される。この測定をMD及びCDともに行い、下記式(S2)により平均値を出し、これを摩擦係数の平均偏差とした。
摩擦係数の平均偏差={(MMDMD
2+MMDCD
2)/2}1/2 (S2)
この摩擦係数の平均偏差は、摩擦のばらつきの程度を示し、値が小さいほど手で触ったときのなめらかさが高いことを示す。
【0099】
【0100】
表1に示すとおり、実施例1~8の不織布試料A1~A8は、50Pa荷重時の見かけ厚みが4mm以上で比較例2~5の不織布試料C2~C5よりも厚みあり、圧縮解放後の不織布見かけ厚み及び回復率のいずれか一方又は両方が比較例1~5の不織布試料C1~C5よりも大きく、優れた厚み回復性を示していた。また、50Pa荷重時の見かけ厚みから2.5kPaで加圧されたときの見かけ厚みへの圧縮性も十分高いものであった。これにより、実施例1~8の不織布試料A1~A8は、肌が不織布表面に触れた程度の軽荷重(50Pa荷重)時、十分な厚みを感じることができ、強く押し込む重荷重(2.5kPa荷重)の加圧時、十分に厚みが潰れて、柔らかい変形性、クッション性を感じることができた。この変化する触感が、圧縮解放後においても維持されていた。すなわち、本発明の不織布は、高いクッション性を有し、ふっくらとした風合いが圧縮前及び圧縮解放後を通して感じられるものであることが分かった。
さらに、実施例1~3の不織布試料A1~A8は、バインダーを含む比較例3~5の不織布C3~C5よりもMMDが十分小さく、風合いに優れていた。これは、実施例1~3の不織布試料A1~A8が、前述の50Pa荷重時の見掛け厚み及び圧縮解放後の不織布見かけ厚みが比較例3~5の不織布C3~C5よりも大きいことによる。加えて、実施例1~3の不織布試料A1~A8が前記の厚み特性によってバインダー自身の凹凸や粘着性の影響を抑えて、手で触ったときの高い滑らかさを実現していたこともにもよる。
なお、風合いを示すMMD(平均摩擦係数の変動)の測定においては、摩擦を測定する端子が、繊維表面のバインダー由来の不規則な粘着力を受けて平均摩擦係数の変動が大きくなる。また、バインダーにより繊維同士が強く結合し、硬化した場合、不織布表面の摩擦力を端子が拾う際、柔軟に変形することができず、端子への摩擦力が変動する。これらによって生じる繊維の硬化やべたつきなどのミクロな現象が、風合いでは大きな差を生む。表1に示すMMD値の差は、数値として小さいとしても、繊細な肌表面の感覚として有意的な風合いの差を意味する。
【0101】
本明細書に記載された数値の制限または範囲は、その数値の制限または範囲において示された末端の値を含む。また、数値の制限または範囲内にあるすべての値と部分範囲は、明記されているように明確に含まれる。
本明細書で使用される単数の単語などは「1つまたは複数」の意味を持つ。
明らかに、上記の教示に照らして、本発明に対して多様な修正および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明を実施できることを理解されたい。
上記のすべての特許および他の参考文献は、詳細に説明されている場合と同じように、これらを参照することにより本明細書に完全に組み込まれている。
【符号の説明】
【0102】
6 繊維交点
61 染色された繊維交点
7 繊維
71 黒点
80、90 凹凸形状の不織布
100S、100W 不織布
105 不織布の厚み中心部
C 基準円
L、L1、L2、L3、L4 基準線