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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20241015BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20241015BHJP
   F16H 61/684 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/02
F16H61/684
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020185062
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074743
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 真之
(72)【発明者】
【氏名】岸 大輔
(72)【発明者】
【氏名】西野 治彦
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-263260(JP,A)
【文献】米国特許第05984818(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/68-61/688
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプット軸、アウトプット軸、ラビニヨ型の遊星歯車機構、ならびに、油圧によりそれぞれ係合する第1係合要素、第2係合要素および第3係合要素を備え、前記第1係合要素の係合により、前記インプット軸と前記遊星歯車機構のリヤサンギヤとが連結され、前記第2係合要素の係合により、前記インプット軸と前記遊星歯車機構のキャリアとが連結され、前記第3係合要素の係合により、前記遊星歯車機構のフロントサンギヤが制動され、前記第1係合要素の係合ならびに前記第2係合要素および前記第3係合要素の解放により、1速段が構成され、前記第1係合要素および前記第3係合要素の係合ならびに前記第2係合要素の解放により、2速段が構成され、前記第1係合要素および前記第2係合要素の係合ならびに前記第3係合要素の解放により、3速段が構成され、前記第1係合要素の解放ならびに前記第2係合要素および前記第3係合要素の係合により、4速段が構成される有段式の自動変速機であって、ライン圧制御用ソレノイドバルブと、スリーブおよび前記スリーブ内に前記ライン圧制御用ソレノイドバルブから入力される油圧およびオイルポンプの発生油圧に応じて移動するスプールを備え、前記スリーブ内に、前記ライン圧制御用ソレノイドから入力される油圧が掛かる部位と、各部に供給される油圧の元圧となるライン圧が掛かる部位とが設けられて、それらの部位の間に前記スプールのランドが位置し、前記スプールの移動により、前記ライン圧を調圧するレギュレータバルブと、前記ライン圧制御用ソレノイドバルブから入力される油圧が一定以上に上昇するとスプールが正常位置からフェイル位置に移動するフェイルシフトバルブとを備え、前記フェイルシフトバルブの前記スプールが前記フェイル位置に位置することにより変速段を前記3速段に固定するフェイルセーフ機能が作動する前記自動変速機の制御装置であって、
変速比を変更する変速制御を行う変速制御手段と、
前記変速制御が行われていないときには、前記ライン圧を前記変速制御中の前記ライン圧に対して減圧し、前記変速制御中に変速動作が不安定と判断される条件が成立した場合に、前記変速制御が行われていないときの前記ライン圧を前記変速制御中と同じ前記ライン圧に上げるライン圧制御手段と、を含み、
前記変速制御手段は、前記ライン圧制御手段により、前記変速制御が行われていないときの前記ライン圧が前記変速制御中と同じ前記ライン圧に上げられている状態で、目標変速段が前記3速段以外の変速段であり、前記目標変速段を構成するために係合される前記係合要素が前記第3係合要素を含む場合に、前記第3係合要素に供給される油圧を前記自動変速機に入力されるトルクに応じた油圧に設定する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機として、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)や無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)など、車両の走行状況に応じて変速比を自動的に変更する自動変速機が広く知られている。自動変速機を搭載した車両では、エンジンの動力がトルクコンバータを介して自動変速機に入力され、自動変速機で変速された動力がデファレンシャルギヤなどを介して駆動輪に伝達される。
【0003】
自動変速機には、オイルポンプの発生油圧を調圧して各部に供給する油圧回路と、油圧回路から供給される油圧により動作する複数の油圧動作要素(クラッチ、プーリなど)とが備えられている。自動変速機では、油圧回路に含まれるバルブなどが制御されて、油圧動作要素の動作状態が変更されることにより、変速比が段階的または連続的に変更される。
【0004】
また、自動変速機では、制御装置により故障の有無が判定されており、故障が判定された場合、車両の危険回避のための走行を可能にするため、フェイルセーフ機能により変速比が1程度に固定される。
【0005】
すなわち、油圧回路には、フェイルセーフ機能のためのフェイルシフトバルブが設けられている。フェイルシフトバルブには、所定の油圧動作要素の動作を制御するための制御油圧と、各部に供給される油圧の元圧となるライン圧とが別々の入力ポートに入力される。また、フェイルシフトバルブには、スプールの位置を正常位置とフェイル位置とに切り替えるための信号圧が入力される。故障が判定されないときには、信号圧が所定の範囲内でフェイルシフトバルブのスプールが正常位置に位置するように、フェイルシフトバルブが設計されている。フェイルシフトバルブのスプールが正常位置に位置する状態では、フェイルシフトバルブから所定の油圧動作要素に制御油圧が供給されて、その油圧動作要素が制御油圧に応じて動作する。故障が判定された場合、フェイルシフトバルブのスプールが正常位置からフェイル位置に移動するよう、制御装置によりフェイルシフトバルブに入力される信号圧が上げられる。フェイルシフトバルブのスプールがフェイル位置に位置する状態では、フェイルシフトバルブからライン圧が出力されて、そのライン圧が所定の油圧動作要素に供給される。これにより、所定の油圧動作要素が一定の動作状態となって、変速比が1程度に固定され、車両の危険回避のための走行が可能となる。
【0006】
故障判定は、変速比の変更中(変速中)でないとき、つまり変速比が一定であるときに行われる。故障判定では、たとえば、トルクコンバータのタービンランナの回転数であるタービン回転数(自動変速機に入力される回転数)が検出されるとともに、自動変速機から出力されるアウトプット回転数が検出される。そして、タービン回転数の検出値とアウトプット回転数に制御上で推定される現在の変速比(すなわち、目標変速比)を乗じて得られる値との差がしきい値以上である状態が一定時間以上継続した場合、何らかの機械故障が生じていると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-67208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、従来の故障判定の手法では、たとえば、オイルポンプの発生油圧をライン圧に調圧するレギュレータバルブから油圧がリークする機械故障が生じても、その機械故障を判定できない。
【0009】
たとえば、レギュレータバルブからリークする油圧(リーク圧)によりフェイルシフトバルブに入力される信号圧が上昇する構成であれば、信号圧の上昇によりフェイルシフトバルブのスプールが正常位置からフェイル位置に移動し、変速比が1程度に固定された場合、従来の故障判定の手法で機械故障を判定することができる。
【0010】
しかし、変速中でないときにフェイルシフトバルブのスプールが移動するほどの高いリーク圧が発生しないと、レギュレータバルブから油圧がリークする機械故障を判定できない。とくに、燃費向上のために、変速中でないときにライン圧を低下させるライン圧制御が行われる構成では、変速中でないときにリーク圧が上がりにくい。
【0011】
本発明の目的は、自動変速機における機械故障を良好に判定できる、自動変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明に係る自動変速機の制御装置は、オイルポンプの発生油圧を各部に供給される油圧の元圧となるライン圧に調圧するレギュレータバルブと、信号圧が一定以上に上昇するとスプールが正常位置からフェイル位置に移動するフェイルシフトバルブとを備え、フェイルシフトバルブのスプールがフェイル位置に位置することにより変速比を固定するフェイルセーフ機能が作動する自動変速機の制御装置であって、変速比を変更する変速制御を行う変速制御手段と、変速制御手段による変速制御中に、変速動作が不安定と判断される条件が成立した場合に、変速制御が行われていないときのライン圧を通常よりも上げるライン圧制御手段とを含む。
【0013】
この構成によれば、変速比を変速する変速制御中に、その変速制御による変速動作が不安定と判断される条件が成立した場合、変速制御が行われていないときのライン圧が通常よりも上げられる。これにより、レギュレータバルブからの油圧のリークにより信号圧が上昇する機械故障が生じている場合、リーク量が増え、信号圧が一定以上に上昇し、フェイルシフトバルブのスプールが正常位置からフェイル位置に移動する。そして、フェイルシフトバルブのスプールがフェイル位置に位置することにより、変速比を固定するフェイルセーフ機能が作動する。
【0014】
そのため、変速制御が行われていないときに、自動変速機に入力されるインプット回転数と、自動変速機から出力されるアウトプット回転数とを検出して、インプット回転数の検出値とアウトプット回転数に制御上で推定される現在の変速比(すなわち、目標変速比)を乗じて得られる値との差がしきい値以上である状態が一定時間以上継続した場合に、機械故障が生じていると判定する故障判定の手法により、機械故障を良好に判定することができる。
【0015】
なお、変速制御が行われていないときのライン圧が通常の状態で、信号圧が一定以上に上昇して、フェイルシフトバルブのスプールが正常位置からフェイル位置に移動した場合には、変速制御による変速動作が不安定になるので、変速制御中に変速動作が不安定と判断される条件が成立した場合、その成立を以て、機械故障が生じていると判定することもできる。
【0016】
自動変速機は、油圧により係合する複数の係合要素の係合/解放の組合せにより複数の変速段が選択的に構成される有段式の自動変速機であり、変速制御手段は、ライン圧制御手段によりライン圧が上げられている状態で、目標変速段が特定の変速段以外の変速段であり、目標変速段を構成するために係合される係合要素が特定の変速段を構成するために係合される係合要素以外の他の係合要素を含む場合に、当該他の係合要素に供給される油圧を自動変速機に入力されるトルクに応じた油圧に設定してもよい。
【0017】
これにより、特定の変速段の係合要素以外の他の係合要素に油圧が供給されて、特定の変速段の係合要素と他の係合要素とが同時係合しても、他の係合要素がすぐに滑る。よって、その同時係合状態が継続すること(インターロック)を回避することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、自動変速機における機械故障を変速制御中および非変速制御中にかかわらず良好に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
図2】前進4段/後進1段の変速段を有する4速ATに備えられている係合要素の状態を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る制御装置を含む制御系の構成を示すブロック図である。
図4】油圧回路の要部構成を示す回路図である。
図5】故障判定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【0022】
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0023】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3および有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0024】
トルクコンバータ3は、ポンプインペラ11、タービンランナ12およびロックアップ機構(ロックアップクラッチ)13を備えている。ポンプインペラ11には、エンジン2の出力軸(E/G出力軸)が連結されており、ポンプインペラ11は、E/G出力軸と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ12は、ポンプインペラ11と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップ機構13は、ポンプインペラ11とタービンランナ12とを直結/分離するために設けられている。ロックアップ機構13が係合(ロックアップオン)されると、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが直結され、ロックアップ機構13が解放(ロックアップオフ)されると、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが分離される。
【0025】
ロックアップオフの状態において、E/G出力軸が回転されると、ポンプインペラ11が回転する。ポンプインペラ11が回転すると、ポンプインペラ11からタービンランナ12に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ12で受けられて、タービンランナ12が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ12には、E/G出力軸の動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。
【0026】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸が回転されると、E/G出力軸、ポンプインペラ11およびタービンランナ12が一体となって回転する。
【0027】
自動変速機4は、前進4段/後進1段の変速段を有する4速ATである。自動変速機4は、インプット軸21、アウトプット軸22、センタ軸23およびラビニヨ型の遊星歯車機構24を備えている。
【0028】
インプット軸21は、トルクコンバータ3のタービンランナ12に連結され、タービンランナ12と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0029】
アウトプット軸22は、インプット軸21と平行に設けられている。
【0030】
センタ軸23は、インプット軸21に対してエンジン2側と反対側に離間して、インプット軸21と同一の回転軸線上に設けられている。
【0031】
遊星歯車機構24には、フロントサンギヤ31、リヤサンギヤ32、キャリア33、リングギヤ34、ロングピニオンギヤ35およびショートピニオンギヤ36が含まれる。フロントサンギヤ31は、センタ軸23に相対回転可能に外嵌されている。リヤサンギヤ32は、フロントサンギヤ31に対してエンジン2側と反対側に設けられ、センタ軸23に相対回転可能に外嵌されている。キャリア33は、センタ軸23と一体的に回転可能に設けられ、ロングピニオンギヤ35およびショートピニオンギヤ36を回転可能に支持している。リングギヤ34は、リヤサンギヤ32の回転径方向の外側において、キャリア33の周囲を取り囲む円環状を有し、ロングピニオンギヤ35と噛合している。ロングピニオンギヤ35は、ショートピニオンギヤ36の軸長よりも長い軸長を有しており、フロントサンギヤ31と噛合している。ショートピニオンギヤ36は、リヤサンギヤ32およびロングピニオンギヤ35と噛合している。
【0032】
リングギヤ34には、第1出力ギヤ41が共通の回転軸線を有するように保持されている。第1出力ギヤ41には、アウトプット軸22に相対回転不能に支持された第2出力ギヤ42が噛合している。また、アウトプット軸22には、第3出力ギヤ43が相対回転不能に支持されており、第3出力ギヤ43は、デファレンシャルギヤ5に備えられたリングギヤ44と噛合している。これにより、リングギヤ34の回転は、第1出力ギヤ41、第2出力ギヤ42、アウトプット軸22および第3出力ギヤ43を経由してデファレンシャルギヤ5に伝達される。
【0033】
また、自動変速機4は、3個のクラッチC1~C3、2個のブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチFを備えている。
【0034】
クラッチC1は、インプット軸21とフロントサンギヤ31とを連結する係合状態と、その連結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0035】
クラッチC2は、インプット軸21とリヤサンギヤ32とを連結する係合状態と、その連結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0036】
クラッチC3は、インプット軸21とセンタ軸23(キャリア33)とを連結する係合状態と、その連結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0037】
ブレーキB1は、フロントサンギヤ31を制動する係合状態(オン)と、フロントサンギヤ31の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0038】
ブレーキB2は、キャリア33を制動する係合状態(オン)と、キャリア33の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0039】
ワンウェイクラッチFは、キャリア33の正転(エンジン2の出力軸と同方向の回転)のみを許容する。
【0040】
<係合表>
図2は、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジにおけるクラッチC1~C3、ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチFの状態を示す図である。
【0041】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジションおよびL(ロー)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。Pポジション、Rポジション、Nポジション、DポジションおよびLポジションは、それぞれ自動変速機4のPレンジ、Rレンジ、Nレンジ、DレンジおよびLレンジに対応している。Lレンジは、Dレンジの1速段である。
【0042】
図2において、「○」は、クラッチC1~C3、ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチFが係合状態であることを示し、無印(空白)は、クラッチC1~C3、ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチFが解放状態であることを示している。
【0043】
PレンジおよびNレンジでは、クラッチC1~C3およびブレーキB1,B2が解放される。
【0044】
Rレンジでは、クラッチC1およびブレーキB2が係合され、クラッチC2,C3およびブレーキB1が解放される。
【0045】
Dレンジの1速段では、クラッチC2およびワンウェイクラッチFが係合され、クラッチC1,C3およびブレーキB1,B2が解放される。
【0046】
Dレンジの2速段では、クラッチC2およびブレーキB1が係合され、クラッチC1,C3およびブレーキB2が解放される。
【0047】
Dレンジの3速段では、クラッチC2,C3が係合され、クラッチC1およびブレーキB1,B2が解放される。
【0048】
Dレンジの4速段では、クラッチC3およびブレーキB1が係合され、クラッチC1,C2およびブレーキB2が解放される。
【0049】
<車両の制御系>
図3は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0050】
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。図2には、複数のECUのうちの1つのECU51が示されている。
【0051】
ECU51には、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。ECU51に接続されたセンサには、たとえば、アクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ52と、車両1の走行に伴って回転する回転体の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する車速センサ53と、トルクコンバータ3のタービンランナ12の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサ54と、アウトプット軸22の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ55とが例示される。ECU51は、それらのセンサから入力される検出信号に基づいて、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合であるアクセル開度、車両1の車速、タービンランナ12の回転数であるタービン回転数およびアウトプット軸22の回転数であるアウトプット回転数を取得する。
【0052】
また、ECU51には、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0053】
トルクコンバータ3および自動変速機4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路56が備えられている。ECU51は、自動変速機4の変速段を切り替える変速制御などのため、油圧回路56に含まれる各種のバルブなどを制御する。
【0054】
ECU51の不揮発性メモリには、変速制御に用いられる変速線図が格納されている。変速線図は、各変速段の変速の条件となるアクセル開度および車速を定めたものであり、マップの形態でECU51の不揮発性メモリに格納されている。変速線図には、1速段から2速段へのアップシフト線図、2速段から3速段へのアップシフト線図、3速段から4速段へのアップシフト線図、4速段から3速段へのダウンシフト線図、3速段から2速段へのダウンシフト線図および2速段から1速段へのダウンシフト線図が含まれる。
【0055】
変速制御では、ECU51により、現在のアクセル開度および車速が取得される。そして、変速線図が参照されて、現在の変速段、アクセル開度および車速に応じた目標変速段が設定され、目標変速段が構成されるように、油圧回路56が制御されて、クラッチC1~C3およびブレーキB1,B2が選択的に係合/解放される。
【0056】
<油圧回路>
図4は、油圧回路56の要部構成を示す回路図である。
【0057】
自動変速機4には、オイルポンプ61およびオイルストレーナ62が備えられている。オイルポンプ61は、エンジン2の動力により駆動される機械式のオイルポンプであり、その底部に設けられたオイルパンからオイルストレーナ62を介してオイルを吸い上げることにより油圧を発生する。
【0058】
油圧回路56には、たとえば、プライマリレギュレータバルブ63と、ライン圧制御用ソレノイドバルブ(SLTソレノイドバルブ)64とが含まれる。
【0059】
プライマリレギュレータバルブ63は、オイルポンプ61の発生油圧を各部に供給される油圧の元圧となるライン圧に調圧するバルブである。プライマリレギュレータバルブ63には、ライン圧制御用ソレノイドバルブ64からライン圧を制御するための油圧が入力される。プライマリレギュレータバルブ63では、スプール65がライン圧制御用ソレノイドバルブ64から入力される油圧およびオイルポンプ61の発生油圧に応じて移動し、そのスプール65の位置に応じて、ライン圧のオイルが流通するライン圧油路66から引込油路67を通してポート68に入力される油圧が変化する。これにより、ライン圧油路66の油圧がライン圧制御用ソレノイドバルブ64から入力される油圧に比例したライン圧に調圧される。
【0060】
また、自動変速機4には、故障時に車両1の危険回避のための走行を可能にするフェイルセーフ機能が組み込まれている。油圧回路56には、そのフェイルセーフ機能のためのフェイルシフトバルブ69が設けられている。
【0061】
フェイルシフトバルブ69は、入力ポート71,72,73,74を有している。入力ポート71には、ソレノイドバルブ(図示せず)からクラッチC2を係合/解放を制御するための油圧であるC2ソレノイド圧が入力される。入力ポート72には、ソレノイドバルブ(図示せず)からクラッチC3を係合/解放を制御するための油圧であるC3ソレノイド圧が入力される。入力ポート73,74には、ライン圧が入力される。
【0062】
また、フェイルシフトバルブ69には、スプール75の位置を正常位置とフェイル位置とに切り替えるための信号圧として、ライン圧制御用ソレノイドバルブ64から油圧が入力される。通常はスプール75が正常位置に位置するように、フェイルシフトバルブ69が設計され、また、ライン圧制御用ソレノイドバルブ64の出力圧が設定されている。フェイルシフトバルブ69のスプール75が正常位置に位置する状態では、入力ポート71に入力されるC2ソレノイド圧が出力ポート76から出力されて、そのC2ソレノイド圧がクラッチC2に供給される。また、入力ポート72に入力されるC3ソレノイド圧が出力ポート77から出力されて、そのC3ソレノイド圧がクラッチC3に供給される。
【0063】
一方、スプール75がフェイル位置に位置する状態では、出力ポート76,77からライン圧が出力されて、そのライン圧がクラッチC2,C3に供給される。これにより、クラッチC2,C3が係合状態となって、自動変速機4の変速段が3速段に固定され、車両1の危険回避のための走行が可能となる。なお、図4には、スプール75がフェイル位置に位置する状態が示されている。
【0064】
<故障判定処理>
図5は、故障判定処理の流れを示すフローチャートである。
【0065】
たとえば、エンジン2の稼働中(アイドリングストップ制御による停止中も含む。)は、ECU51により、自動変速機4における機械故障を判定する故障判定処理が実行される。
【0066】
故障判定処理では、まず、変速制御中であるか否かが判断される(ステップS1)。
【0067】
変速制御中でない非変速制御時である場合(ステップS1のNO)、次に、減圧フラグに1がセットされているか否かが判断される(ステップS2)。減圧フラグは、AT油温条件などにより1がセットされる。
【0068】
減圧フラグに1がセットされている場合(ステップS2のYES)、ライン圧が変速制御中のライン圧に対して減圧される(ステップS3:ライン圧制御)。すなわち、非変速制御時には、ライン圧が変速制御中のライン圧よりも低い油圧に下げられる。
【0069】
その後、故障判定条件が成立しているか否かが判断される(ステップS4)。故障判定条件は、たとえば、タービン回転数の検出値とアウトプット回転数の検出値に制御上で推定される現在の変速比(すなわち、目標変速比)を乗じて得られる値との差がしきい値以上である状態が一定時間以上継続するという条件である。
【0070】
故障判定条件が成立していると判断された場合(ステップS4のYES)、自動変速機4に機械故障が生じていると判定される(ステップS5)。そして、それ以降は、変速比を(変速段を3速段に)固定するフェイルセーフ機能が作動する。
【0071】
一方、変速制御中である場合には(ステップS1のYES)、仮判定条件が成立しているか否かが判断される(ステップS6)。仮判定条件は、変速制御による変速動作が不安定と判断される条件であり、たとえば、次のA,B,C,Dの4つの条件である。
【0072】
A.変速時間(変速制御が継続している時間)が第1時間(たとえば、4秒間)以上である
B.アクセル開度の変化が一定以下の状態で変速時間が第1時間よりも短い時間に設定された第2時間(たとえば、3秒間)以上である
C.1速段から2速段への変速中にタービン回転数が所定値以下である状態が第3時間以上継続している
D.変速中にタービン回転数が変動した
【0073】
これらの4つの条件A~Dのいずれかが成立している場合、仮判定条件が成立していると判断される。そして、仮判定条件が成立していると判断された場合には(ステップS6のYES)、非変速制御時のライン圧の減圧が解除されて、その非変速制御時のライン圧が変速制御中と同じライン圧に増圧される(ステップS7)。また、減圧フラグが0にリセットされる(ステップS8)。さらに、ブレーキB1に供給される油圧が自動変速機4に入力されるトルクに応じた油圧となるように、ブレーキB1に供給されるB1ソレノイド圧を調圧する(ステップS9)。
【0074】
<作用効果>
プライマリレギュレータバルブ63からの油圧のリークにより、フェイルシフトバルブ69に入力される信号圧が上昇する機械故障が生じている場合、たとえば、プライマリレギュレータバルブ63から出力されるライン圧がライン圧制御用ソレノイドバルブ64から出力される信号圧にリークし、信号圧が上昇する機械故障が生じている場合、信号圧が一定以上に上昇して、フェイルシフトバルブ69のスプール75が正常位置からフェイル位置に移動する。スプール75がフェイル位置に位置する状態では、出力ポート76,77からライン圧が出力されて、そのライン圧がクラッチC2,C3に供給されることにより、クラッチC2,C3が係合状態となって、自動変速機4の変速段が3速段に固定される。また、リーク量によっては、フェイルシフトバルブ69のスプール75が正常位置からフェイル位置に向けて移動し、自動変速機4の変速段が3速段に変速しようとする。
【0075】
そのため、1速段から2速段への変速制御、3速段から4速段への変速制御および3速段から2速段への変速制御では、2速段または4速段に変速するように制御が働いているにもかかわらず、3速段が維持または自動変速機4が3速段に変速しようと動作するので、変速が完了せず、変速時間が第1時間または第2時間を超える。したがって、仮判定条件の条件Aまたは条件Bが成立する。
【0076】
また、1速段から2速段への変速制御では、ブレーキB1が係合されるだけであるから、タービン回転数が2速段の同期回転数以下に落ち込むことはないが、3速段が維持または自動変速機4が3速段に変速しようと動作するため、タービン回転数が3速段の同期回転数まで落ち込む。したがって、仮判定条件の条件Cが成立する。
【0077】
さらには、3速段から4速段への変速制御では、自動変速機4が3速段へ変速しようと動作することにより、トルクコンバータ3のタービンランナ12の回転数とその目標回転数との差の急変動が繰り返される。また、3速段から2速段への変速制御では、3速段が維持または自動変速機4が3速段に変速しようと動作するにより、トルクコンバータ3のタービンランナ12の回転数とその目標回転数との差の急変動が繰り返される。したがって、仮判定条件の条件Dが成立する。
【0078】
仮判定条件が成立している場合、変速制御が行われていないときのライン圧が通常よりも上げられる。これにより、プライマリレギュレータバルブ63からの油圧のリークによりフェイルシフトバルブ69に入力される信号圧が上昇する機械故障が生じている場合、リーク量が増え、信号圧が一定以上に上昇し、フェイルシフトバルブ69のスプール75が正常位置からフェイル位置に移動する。
【0079】
そのため、変速制御が行われていないときに、タービン回転数の検出値とアウトプット回転数の検出値に制御上で推定される現在の変速比を乗じて得られる値との差がしきい値以上である状態が一定時間以上継続した場合に、機械故障が生じていると判定する故障判定の手法により、機械故障を良好に判定することができる。
【0080】
なお、変速制御中に変速動作が不安定と判断される仮判定条件が成立した場合に、その成立を以て、機械故障が生じていると判定されてもよい。
【0081】
また、自動変速機4に機械故障が生じている場合と仮判定され、つまり仮判定条件が成立し、変速制御が行われていないときのライン圧が通常よりも上げられた場合、それ以降は、ブレーキB1に供給されるB1ソレノイド圧が自動変速機4に入力されるトルクに応じた油圧とされる。これにより、ライン圧により係合するクラッチC2,C3とブレーキB1とが同時係合しても、ブレーキB1がすぐに滑る。よって、その同時係合状態が継続すること(インターロック)を回避することができる。
【0082】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0083】
前述の実施形態では、自動変速機の一例として、前進4段/後進1段の変速段を有する4速ATである自動変速機4を取り上げたが、自動変速機は、前進3段/後進1段の変速段を有する3速ATであってもよいし、前進5段/後進1段の変速段を有する5速ATなど、前進5段以上の変速段を有する自動変速機であってもよい。
【0084】
また、自動変速機は、ベルト式の無段変速機など、変速比が連続的に変更可能な無段変速機であってもよい。ベルト式の無段変速機では、油圧により動作する複数の油圧動作要素がプライマリプーリ(シーブ)およびセカンダリプーリ(シーブ)であり、フェイルセーフ機能の作動により、自動変速機の変速比が1程度に固定されるとよい。
【0085】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0086】
4:自動変速機
51:ECU(制御装置)
61:オイルポンプ
63:プライマリレギュレータバルブ(レギュレータバルブ)
69:フェイルシフトバルブ
75:スプール
B1:ブレーキ(他の係合要素)
B2:ブレーキ(係合要素)
C1:クラッチ(係合要素)
C2,C3:クラッチ(特定の係合要素)
図1
図2
図3
図4
図5