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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ビール様発泡性飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/00 20060101AFI20241015BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20241015BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20241015BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C12C7/00 B
C12G3/06
C12G3/04
A23L2/00 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019222283
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021090370
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】前川 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲ジュン▼穆
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188341(JP,A)
【文献】特開2015-216904(JP,A)
【文献】Brewing for the Planet,CRAFT BEER MUSES[online],[検索日:2024年9月24日],2014年04月22日,https://www.craftbeer.com/craft-beer-muses/brewing-for-the-planet
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
A23L
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽使用比率が10~50%の麦汁を調製する工程と、
前記麦汁を、煮沸する工程を含み、
前記煮沸する工程は、15分以下で行われ、
前記煮沸する工程は、前記麦汁の蒸発率を2.7%以下になるように制御する工程を含み、
前記煮沸する工程において、前記麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン濃度が0.1ppb以上に維持されるか、または、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度が0.2ppb以上に維持される、
ビール様発泡性飲料の製造方法。
【請求項2】
前記煮沸する工程において、前記麦汁に加えられるエネルギーが、1~100kJ/kg麦汁である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記煮沸する工程が、10分以下で行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
更に、前記煮沸する工程の後に、前記麦汁を発酵させる工程を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記麦汁が、淡色麦芽及びクリスタル(カラメル)麦芽から選択される少なくとも1種を含んでいる、請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
更に、前記麦汁の色度を、20°EBC以下になるように調整する工程を含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記煮沸する工程において、前記麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの合計濃度が0.25ppb以上に維持される、請求項1乃至6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール様発泡性飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールに似た味を有する発泡性飲料(以下、ビール様発泡性飲料)として、麦芽使用比率が低い(例えば50%以下)飲料が知られている。麦芽使用比率が低い飲料においては、ビールに比べて味の厚みが乏しくなる傾向にある。
【0003】
上記に関連して、特許文献1(特開2014-10号公報)には、所定の糖化力を有する濃色麦芽の発酵原料全体に対する使用比率が10質量%以上であり、所定の最終発酵度とすることを特徴とする低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-10号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、所定の濃色麦芽を使用し、所定の最終発酵度を採用すれば、低アルコール発酵麦芽飲料において、飲み応えのある飲料が得られると考えられる。
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、低アルコール発酵麦芽飲料に関する技術であって、麦芽使用比率が低い飲料において、どのように味の厚みを得るのかについての技術ではない。また、特許文献1に記載の発明では、所定の濃色麦芽を使用するため、ビール様発泡性飲料の外観に制約が生じる。
【0006】
麦芽使用比率が低いビール様発泡性飲料において、味の厚みを増すことができる新たな技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンが、ビール様発泡性飲料における味の厚みに寄与していることを見出し、これを利用して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の事項を含んでいる。
[1]麦芽使用比率が50%以下の麦汁を調製する工程と、前記麦汁を、煮沸する工程を含み、前記煮沸する工程は、前記麦汁の蒸発率を2.7%以下になるように制御する工程を含む、ビール様発泡性飲料の製造方法。
[2]前記煮沸する工程において、前記麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン濃度が0.1ppb以上に維持されるか、または、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度が0.2ppb以上に維持される、[1]に記載のビール様発泡性飲料の製造方法。
[3]前記煮沸する工程において、前記麦汁に加えられるエネルギーが、1~100kJ/kg麦汁である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記煮沸する工程が、15分以下で行われる、[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]更に、前記煮沸する工程の後に、前記麦汁を発酵させる工程を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記麦汁が、淡色麦芽及びクリスタル(カラメル)麦芽から選択される少なくとも1種を含んでいる、[1]乃至[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]更に、前記麦汁の色度を、20°EBC以下になるように調整する工程を含む、[1]乃至[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記煮沸する工程において、前記麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの合計濃度が0.25ppb以上に維持される、[1]乃至[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]麦芽使用比率が50%以下であり、2-エチル-3-メチルピラジンを0.1ppb以上の量で含むか、または、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類を0.2ppb以上の量で含む、ビール様発泡性飲料。
[10]麦芽使用比率が50%以下の麦汁を調製する工程と、前記麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン濃度を0.1ppb以上になるように調整するか、または、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種であるジメチルピラジン類の濃度を0.2ppb以上になるように調整する工程と、を含む、ビール様発泡性飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、麦芽使用比率が低いビール様発泡性飲料において、味の厚みを増すことができる新たな技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施態様について説明する。
【0010】
1:ビール様発泡性飲料
本実施態様に係る飲料は、ビール様発泡性飲料である。
「ビール様発泡性飲料」とは、ビールと同等、又はビールに似た風味、味覚及びテクスチャーを有する発泡性の飲料を意味する。
【0011】
本実施態様に係る飲料は、50%以下の麦芽使用比率を有する。「麦芽使用比率」とは、水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(質量%)である。麦芽使用比率は、好ましくは10~50%、より好ましくは15~50%である。
【0012】
本実施態様に係る飲料は、0.1ppb以上の2-エチル-3-メチルピラジンを含有する。本発明者の知見によれば、2-エチル-3-メチルピラジンは、ビール様発泡性飲料における味の厚みに寄与している。0.1ppb以上の濃度で2-エチル-3-メチルピラジンを含有させることにより、味に厚みのあるビール様発泡性飲料が得られる。2-エチル-3-メチルピラジンの濃度は、好ましくは0.1~5.0ppb、より好ましくは0.1~1.5ppb、更に好ましくは0.1~1.0ppb、最も好ましくは0.1~0.5ppbである。
【0013】
あるいは、本実施態様に係る飲料は、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンから選ばれる少なくとも一種(以下、ジメチルピラジン類という)を、0.2ppb以上の濃度(両化合物を含む場合は合計濃度)で含んでいる。本発明者の知見によれば、ジメチルピラジン類も、ビール様発泡性飲料における味の厚みに寄与している。0.2ppb以上の濃度でジメチルピラジン類を含有させることにより、味に厚みのあるビール様発泡性飲料が得られる。
ジメチルピラジン類の濃度は、より好ましくは0.2~8.0ppb、更に好ましくは0.2~2.5ppb、最も好ましくは0.2~1.0ppbである。
【0014】
2-エチル-3-メチルピラジン及びジメチルピラジン類の濃度は、固相抽出カラムを用いて前処理したサンプルから、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)を用いて測定することができる。
具体的には、以下の条件を用いて、測定することができる。
(前処理)
内部標準液(2-methyl-3-propylpyrazine)を加えたビールサンプルを用意し、InertSep SAX固相カラム(ジーエルサイエンス社製)を用いて固相抽出を行う。その素通り画分を回収し、クエン酸ナトリウム緩衝液を用いてpH4.5~5.0に合わせる。
(抽出)
前処理液に対してNaCl、5gとジクロロメタン5mlを加えて振とうし、液々抽出を行う。遠心分離後ジクロロメタン層を回収し、水層部分に対してジクロロメタン5mlを加え、振とうによる液々抽出を行い、ジクロロメタン層を回収する。この一連の操作を計2回行う。
回収したジクロロメタン層に無水硫酸ナトリウムを加え、脱水後窒素パージにより濃縮する。
(GC/MS条件)
・ガスクロマトグラフィー:GC-6890(Agilent Technologies社製)
・検出器:MS-5973(Agilent Technologies社製)
・カラム:DB-17(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚0.5μm)(Agilent Technologies社製)
・オーブン昇温条件:40℃(5分)→5℃/分→220℃(0分) →10℃/分→280℃(5分)
・注入口温度:230℃
・注入条件:注入量:1μl、 パルスドスプリットレスモード
・流量:1.0ml/分(キャリアガス:He)
・イオン化条件:70 eV
・測定モード:シングルイオン-モニタリングモード(single ion-monitoring(SIM) mode)
・定量:表1に記載の通りの当該香気成分と内部標準品のターゲットイオン(T.I)とクオリファヤーイオン(Q.I)によるピークエリア面積を用いて標準添加法を準拠し、実施する。
【表1】
【0015】
好ましくは、本実施態様に係る飲料においては、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの合計濃度が、0.25ppb以上である。この合計濃度は、より好ましくは0.25~10.0ppb、更に好ましくは0.25~5.0ppb、更に好ましくは0.25~3.0ppb、最も好ましくは0.25~1.5ppbである。
【0016】
本実施態様に係る飲料は、淡色麦芽又はクリスタル(カラメル)麦芽を含んでいることが好ましい。既述のように、濃色麦芽を用いることにより味の厚みを得ることも考えられるが、濃色麦芽を用いた場合、飲料の色合いが濃くなってしまい、外観に制約が生じやすい。また、飲料の渋味や酸味が増え、飲み難くなる場合もある。
これに対して、本実施態様によれば、上述のように、濃色麦芽とは異なる手段により味の厚みを増すことができる。従って、淡色麦芽又はクリスタル(カラメル)麦芽を用いた場合であっても、所望する味の厚みを得ることができる。淡色麦芽又はクリスタル(カラメル)麦芽を用いることにより、外観上の制約なく、また、渋味や酸味を増すことなく、所望する味の厚みを得ることができる。
なお、淡色麦芽とは、色度が6°EBC以下である麦芽をいう。麦芽の色度は、「EBCビール分析法 4.7.1 (麦芽の)色度 (吸光光度法(RM))」に記載された手順に従って測定することができる。
【0017】
本実施態様に係る飲料は、20°EBC以下の色度を有していることが好ましい。飲料の色度は、より好ましくは6~12°EBCである。飲料の色度は、例えば、原料として使用される麦芽の種類等を適当に選択することにより、調整できる。
飲料の色度は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。
本実施態様に係る飲料は、発酵飲料であっても非発酵飲料であってもよい。好ましくは、発酵飲料である。
本実施態様に係る飲料は、アルコール飲料(エタノール濃度が1容量%以上の飲料)であってもよいし、非アルコール飲料(エタノール濃度が1容量%未満の飲料)であってもよい。好ましくは、アルコール飲料である。エタノール濃度は、例えば、3~9%、好ましくは4~7%である。
本実施態様に係る飲料の苦味価は、特に限定されるものではないが、例えば、10~30BUとすることができる。
本実施態様に係る飲料の真正エキスは、特に限定されるものではないが、例えば、2~3.5%とすることができる。
本実施態様に係る飲料のアミノ態窒素は、特に限定されるものではないが、例えば、3~10mg/100mlとすることができる。
【0018】
2:ビール様発泡性飲料の製造方法
続いて、本実施態様に係るビール様発泡性飲料の製造方法について説明する。
本実施態様に係る製造方法は、麦芽使用比率が50%以下の麦汁を調製する工程と、麦汁を煮沸する工程を含む。
煮沸する工程では、麦汁の蒸発率が、2.7%以下になるように制御される。
「蒸発率」とは、下記式により求められるパラメータである。
(式)蒸発率=(煮沸前の麦汁量(容量L))-煮沸後の麦汁量(容量(L))÷煮沸開始前麦汁量(容量L)×100(%)
【0019】
麦汁中には、通常、麦芽を由来として、2-エチル-3-メチルピラジン、およびジメチルピラジン類が含まれている。これらの濃度は、それぞれ、麦汁を煮沸すると、減少していく。
本実施態様によれば、麦汁の蒸発率が2.7%以下に制御されるため、十分な味の厚みが得られるような量で、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンが残存する。
【0020】
以下、一例を挙げて、本実施態様に係る製造方法を詳細に説明する。
(A)麦汁の調整
まず、麦芽使用比率が50%以下の麦汁を調製する。
具体的には、麦芽の粉砕物と、麦芽以外の穀物原料(米、コーンスターチ等のデンプン質等)とを用意し、これらを温水中で混合・加温する。必要に応じて、糖化酵素を添加してもよい。これにより、麦芽の酵素、および添加された糖化酵素により、混合物の糖化反応が進み、糖化液が得られる。得られた糖化液を濾過することにより、麦汁が得られる。
あるいは、麦芽粉砕物の懸濁液を糖化させ、穀皮を分離した後、ショ糖等の麦芽以外の原料を加えることにより、麦汁を得ることも可能である。
なお、麦汁には、ホップ、食物繊維、果汁、苦味料、着色料、香草、および香料等が必要に応じて更に添加されてもよい。
【0021】
(B)麦汁の煮沸
次いで、麦汁を煮沸する。尚、本発明において、麦汁を煮沸する工程とは、「煮沸釜内で」麦汁が98℃以上に保温された状態で、更に麦汁に対して加熱が行われている工程をいう。すなわち、「煮沸釜内で」麦汁が98℃以上に保温されていたとしても、麦汁に対して熱が加えられていない状態は、本発明における「煮沸する工程」にはあたらない。
上述の通り、煮沸する工程においては、麦汁の蒸発率が2.7%以下になるように制御される。麦汁の蒸発率は、好ましくは2.5%以下、より好ましくは0.8~2.4%、更に好ましくは0.8~2.0%である。
また、本工程では、前記麦汁に加えられるエネルギーが、1~100kJ/kg麦汁であることが好ましく、20~70kJ/kg麦汁であることがより好ましい。
煮沸する工程の時間は、15分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、2~10分であることが更に好ましい。
【0022】
麦汁の煮沸に用いる装置は特に限定されるものではないが、好ましくは、内部沸騰方式の煮沸釜が用いられる。より好ましくは、加熱時に麦汁の対流が生じるような煮沸釜が用いられる。そのような煮沸釜としては、内部に加熱管が設けられており、その加熱管に加熱された蒸気が供給されるように構成された装置が挙げられる。このような煮沸釜を用いる場合、加熱管に蒸気を供給することにより、加熱管を介して麦汁が加熱される。加熱管を介した加熱時には、麦汁に対流が生じる。
【0023】
上述のように煮沸条件を制御することにより、例えば、煮沸する工程において、2-エチル-3-メチルピラジン濃度を0.1ppb以上に維持することができる。あるいは、ジメチルピラジン類の濃度を0.2ppb以上に維持することができる。また、2-エチル-3-メチルピラジン、2-エチル-3,6-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの合計濃度を、0.25ppb以上に維持することができる。
【0024】
(C)沈殿物の除去
煮沸完了後、煮沸によって生じたたんぱく質等の沈殿物を除去する。例えば、煮沸後、麦汁をワールプール等と呼ばれる固液分離槽に移送し、沈殿物を固液分離する。
【0025】
(D)冷却
沈殿物の除去後、麦汁を発酵に適切な温度にまで、熱交換機(プレートクーラー)等を用いて、冷却する。
【0026】
(E)発酵
次いで、冷却した麦汁に酵母を接種して、発酵を行う。冷却された麦汁は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。
【0027】
(F)熟成
さらに、発酵後の麦汁を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。その後、熟成後の発酵液を濾過し、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去する。これにより、目的のビール様発泡性飲料を得ることができる。
【0028】
尚、発酵及び熟成工程を省略し、煮沸後(あるいは沈殿物除去後)の溶液に炭酸ガスを添加すれば、非発酵のビール様発泡性飲料を得ることもできる。
【0029】
(変形例)
上述の実施態様においては、煮沸時の蒸発率を制御することにより、2-エチル-3-メチルピラジン、またはジメチルピラジン類の濃度が制御される態様について説明した。
しかしながら、蒸発率の制御以外の手法により、2-エチル-3-メチルピラジン、またはジメチルピラジン類の濃度を調整しても、所望する味の厚みを得ることが可能である。
すなわち、本変形例に係る製造方法は、麦芽使用比率が50%以下の麦汁を調製する工程と、その麦汁における2-エチル-3-メチルピラジン濃度を0.1ppb以上になるように調整するか、または、前記麦汁におけるジメチルピラジン類の濃度を0.2ppb以上になるように調整する工程(以下、濃度調整工程という)とを含んでいる。濃度調整工程は、例えば、2-エチル-3-メチルピラジン、またはジメチルピラジン類を添加剤として麦汁に添加することにより、実施することができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明についてより詳細に説明するため、実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0031】
[実験例1]
(例1)
淡色麦芽290kg(色度4.3°EBC)、クリスタル麦芽20kg及び未発芽大麦340kgを糖化し、76℃で酵素失活を行った。得られた液(麦汁)を濾過した。ろ過後、麦汁を煮沸釜に入れ、3100Lになるように水を加えた。その後、麦汁を煮沸し、3070Lの麦汁を得た。その後、湯を加え3100Lになるように液量を再調整した後、沈殿物を除去した。沈殿物の濾過後、熱交換器によって麦汁を冷却した。冷却後、麦汁に酵母を添加し7日間発酵させた。発酵後、11.5℃で7日、麦汁を熟成させた。その後、熟成後の麦汁を濾過し、壜に詰め、例1に係る飲料とした。
なお、煮沸工程は、内部に加熱管が設けられた煮沸釜を用いて実施した。すなわち、加熱管に加熱した蒸気を供給することにより、麦汁を煮沸した。煮沸時には、麦汁が対流した。煮沸温度は100℃であった。蒸発率は、1.0%であった。麦汁が98℃以上に保持されていた時間は80分であり、このうち蒸気投入時間(すなわち煮沸する工程の時間)は7分であった。煮沸する工程において麦汁に加えられるエネルギーは、22.7kJ/kg麦汁であった。
得られた飲料の色度は、10°EBCであった。
【0032】
(例2~例4)
煮沸工程における煮沸条件を、表2に示される変更した以外は例1と同様の方法により、例2~4に係る飲料を得た。
【0033】
得られた例1~例4に係る飲料について、2-エチル-3-メチルピラジン、およびジメチルピラジン類の濃度を測定した。
また、6名のパネリストによる官能評価により、味の厚みを評価した。官能評価は、下記の基準で行い、6名のパネリストの平均値を結果とした。
(味の厚み)
5:かなり味の厚みが感じられる。
4:味の厚みが感じられる。
3:少し味の厚みが感じられる。(3以上が良い)
2:やや味が軽快である。
1:味が軽快である。
【0034】
煮沸条件、成分濃度、および官能評価の結果を、得られたコメントともに表2に示す。
表2に示されるように、蒸発率が大きくなるに従い、味の厚みが減る傾向にあった。蒸発率が2.5%以下である例1及び例2に係る飲料において、味の厚みが3を超え、良好であった。
また、蒸発率が大きくなるに従い、2-エチル-3-メチルピラジン、およびジメチルピラジン類の濃度が減少していく傾向にあった。
【0035】
[実験例2]
市販のビール様発泡性飲料(発酵麦芽飲料、商品名、クリアアサヒ、麦芽使用比率50%未満、アルコール度数5容量%、)を対照として準備した。対照に係る飲料の2-エチル-3-メチルピラジン濃度、およびジメチルピラジン類の濃度は、表3に示されるように、それぞれ、0.04ppb及び0.06ppbであった。
更に、対照に係る飲料に、2-エチル-3-メチルピラジン、およびジメチルピラジン類(2-エチル-3,6-ジメチルピラジン及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジンの混合物)を、それぞれ表3及び表4に示される濃度となるように添加し、例5~例12に係る飲料を得た。
得られた各飲料について、味の厚みを実験例1と同様の方法及び基準を用いて、官能評価により評価した。
【0036】
官能評価の結果を、得られたコメントともに表3及び表4に示す。
表3に示されるように、2-エチル-3-メチルピラジンの濃度が増えるに従い、味の厚みが増していく傾向にあった。すなわち、2-エチル-3-メチルピラジンが、ビール様発泡性飲料における味の厚みに寄与していることが判った。2-エチル-3-メチルピラジン濃度が0.1ppb以上である例5~例8に係る飲料では、味の厚みが3を超えており、良好であった。また、2-エチル-3-メチルピラジン濃度が0.1~1.5ppbの範囲内にある例5~例7に係る飲料では、否定的なコメントも得られておらず、ビール様発泡性飲料として良好な味を有していた。
【0037】
表4に示されるように、ジメチルピラジン類の濃度が増えるに従い、味の厚みが増していく傾向にあった。すなわち、ジメチルピラジン類が、ビール様発泡性飲料における味の厚みに寄与していることが判った。
ジメチルピラジン類の濃度が0.2ppb以上である例9~例12に係る飲料では、味の厚みが3を超えており、良好であった。また、ジメチルピラジン類の濃度が0.2~2.5ppbの範囲内にある例9~例11に係る飲料では、否定的なコメントも得られておらず、ビール様発泡性飲料として良好な味を有していた。
【0038】
【表2】
【表3】
【表4】