(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】付加的上重ねプロセスから得られ、非平滑表面を完全に均一に被覆する、テクスチャ付与された薄い膜
(51)【国際特許分類】
C23C 4/06 20160101AFI20241015BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20241015BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241015BHJP
C23C 4/129 20160101ALI20241015BHJP
【FI】
C23C4/06
B32B3/30
B32B9/00 A
C23C4/129
(21)【出願番号】P 2019568366
(86)(22)【出願日】2018-06-11
(86)【国際出願番号】 US2018036861
(87)【国際公開番号】W WO2018236609
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2019-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アーディー・エス・クレイマン
(72)【発明者】
【氏名】ダムイン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ケイシー・ヒューズ
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-301302(JP,A)
【文献】”Demands, Potentials, and Economic Aspects of Thermal Spraying with Suspensions: A Critical Review”,Journal of Thermal Spray Technology,2015年,Vol.24, No.7,p.1143-1152
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テクスチャ付与された薄い膜であって、
パターンを特徴とする非平滑表面を含む基材を含み、前記パターンは、所定の数の山部及び谷部を有し、
前記テクスチャ付与された薄い膜は、前記非平滑表面全体に沿って連続的に延在し、前記テクスチャ付与された薄い膜は、
0.05~1マイクロメート
ルの粒子サイズの微粒子を含み、
前記テクスチャ付与された薄いコーティングは、最大厚に対する最小厚の比が、0.6~1.0の範囲となるように、25マイクロメートル以下の前記最小厚及び前記最大厚を有し、前記非平滑表面の前記パターンに実質的に一致する膜テクスチャを生成する、テクスチャ付与された薄い膜。
【請求項2】
前記非平滑表面は、ワークロール、エンボスロール、彫刻ロール、ローレットロール、ピンチロール、カレンダーロール、ブリケッティングロール、波付けロール、及びゴデットロールからなる群から選択される、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項3】
前記膜は、5~25マイクロメートルの範囲の厚さを有する、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項4】
前記微粒子の有効径は、
0.05~1マイクロメートルの範囲である、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項5】
1.5マイクロメートル未満の表面粗さ(Ra)を更に含む、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項6】
900~1400の範囲の微小硬度(HV300)を更に含む、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項7】
前記膜は、WC-CoCr、WC-Co、WC-Ni及びCrC-NiCrからなる群から選択される組成物を含む、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項8】
前記パターンは、波状に画定された輪郭プロファイルを有する、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項9】
前記パターンは、正弦波状又は台形状である、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項10】
前記基材の前記非平滑表面は、前記テクスチャ付与された薄い膜が前記非平滑表面全体に沿って連続的に延在していることにより、前記パターンが十分に保存されている、請求項1に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項11】
テクスチャ付与された薄い膜であって、
パターンを特徴とする非平滑表面を含む基材を含み、前記パターンは、所定の数の山部及び谷部によって画定される輪郭プロファイルを特徴とし、
前記テクスチャ付与された薄い膜は、前記非平滑表面全体に沿って連続的に延在して、(i)それぞれが非平滑表面の対応する前記山部の前記輪郭プロファイルに一致する、コーティングされた山部と、(ii)それぞれが前記非平滑表面の対応する前記谷部の前記輪郭プロファイルに一致する、コーティングされた谷部と、を生成し、
前記テクスチャ付与された薄い膜は、微粒子を含み、
前記テクスチャ付与された薄い膜は、最大厚に対する最小厚の比が、0.6~1.0の範囲となるように、25マイクロメートル以下の前記最小厚及び前記最大厚を有する、テクスチャ付与された薄い膜。
【請求項12】
前記微粒子は、
0.05~1マイクロメート
ルの有効径を有する、請求項11に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項13】
前記微粒子は、単層膜を生成するようにナノサイズである、請求項11に記載のテクスチャ付与された薄い膜。
【請求項14】
基材の外側表面に沿って完全に被覆された前記基材を、前記基材の前記外側表面のテクスチャプロファイルを実質的に変化させることもなく劣化させることもなく生成するための方法であって、前記方法は、
前記基材に前記外側表面を提供する工程であって、前記外側表面は、前記テクスチャプロファイルによって画定されるように非平滑であることを特徴とするパターンを有する、工程と、
付加的成膜装置を提供する工程であって、前記付加的成膜装置は、燃焼室及びノズルを備える、工程と、
高温ガス流出物を生成する工程と、
微粒子を含む液体原料であって、前記微粒子が前記液体内に懸濁している液体原料を前記高温ガス流出物に供給する工程であって、前記微粒子は、0.1~5マイクロメートルの範囲のサイズを有する、工程と、
溶融微粒子流出物を生成する工程と、
前記溶融微粒子流出物を前記非平滑テクスチャプロファイル上に方向付けて、前記非平滑表面の前記パターンに実質的に一致するテクスチャ付与された膜を生成する工程と、を含む、方法。
【請求項15】
前記溶融微粒子流出物を、前記基材に沿って連続的に広がるように前記基材上に衝突させる工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶融微粒子流出物を前記基材上に25マイクロメートル以下の厚さまで蓄積する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記基材は、ワークロール、エンボスロール、彫刻ロール、ローレットロール、ピンチロール、カレンダーロール、ブリケッティングロール、波付けロール、及びゴデットロールからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記溶融微粒子流出物が、前記基材の前記表面に対して90度よりも小さな角度で前記基材に衝突するように、前記溶融微粒子流出物を前記非平滑テクスチャプロファイル上に方向付ける工程を更に含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な用途で使用するための、非平滑表面上に塗布される連続的なテクスチャ付与された薄い膜に関し、膜は、下地の表面テクスチャに上重ねされている非平滑表面の下地の表面テクスチャを十分に保持する。
【背景技術】
【0002】
コーティングされた基材表面の多くは、基材表面の下地である表面テクスチャ又はパターンを維持するか、あるいは下地である表面テクスチャ又はパターンを大幅に劣化させないコーティングを必要とする。用語「テクスチャ」、「表面テクスチャ」及び「パターン」は、本明細書において使用される際、全体を通して、同じ意味を有するように意図されていることを理解されたい。本明細書において使用される際、全体を通して、用語「基材」は、ある特定のランダム又は非ランダムな、表面パターン、又はテクスチャ付与されたプロファイルを特徴とする任意の非平滑表面を指す。基材としては、金属表面及び合金表面のような任意の好適な種類の材料が挙げられる。
【0003】
基材の1つの例は、ある特定のパターン又は表面テクスチャを生成するための、凹部又は溝、及び/又は隆起した突起の形体を有するエンボスロールである。基材の別の例は、あらかじめ画定された表面テクスチャを有するワークロールである。例えば、ある特定の表面テクスチャを有する、金属又は金属合金(例えば、鋼、チタン、銅、黄銅、及びアルミニウムでの使用のためのワークロールは、圧延されたワークピース及び他の製品を製造するために必要とされ得る。本明細書において使用される際、全体を通して、「ワークピース」及び「製品」は、コーティングされた基材が、例えば、ストリップ、スラブ、又はその他の圧延シート金属、及び他のシート製品を含む、圧延プロセス又は最終用途(例えば、熱処理、アニーリングなど)の一部として接触し得る任意の種類の材料を指す。熱間圧延機及び冷間圧延機が動作するためのテクスチャ加工されたワークロールには、ワークロールを通過するワークピース材料の厚さの大幅な減少を可能にすることを含むある利益がある。
【0004】
更に、ワークロールの表面テクスチャは、それがなければ潤滑剤が枯渇するロールバイト(熱間圧延に関連する極端な温度がもたらす潤滑剤の枯渇)に、潤滑剤を取り込むように作用する可能性があるから、望ましいものであり、次いで、そのような潤滑剤は、ロール/スラブ界面に排出され、そのときに、ロール表面とスラブ表面との間の接着による材料の転移を実質的に最小化し、かつ、スラブ表面が、冷間圧延スタンドに入るとき、スラブ表面上に巻き込まれるデブリ及びスマッジを最小化するように作用する。
【0005】
また更に、シート鋼の製造に使用される大型の冷間圧延機及び調質圧延機のワークロールは、綿密に画定されてテクスチャ加工された表面を備えている必要がある。そして、シート鋼が、ロールを通過する際、このテクスチャが、シート鋼に付与される。その後、シートが、ある必要なプロファイル、例えば、車体シェルへと形成される際、シートが備えている表面テクスチャは、まず、シートのプレス中に必要とされる、油による潤滑において、その後、金属シェルの塗装において、非常に重要な役割を果たす。自動車産業及び他の用途のためのシート鋼のプレス加工において、表面粗さ及び表面潤滑性についてある一定の品質が必要であることが当技術分野において知られている。
【0006】
多くのコーティングプロセスが採用されてきたが、これらは、好適な摩耗寿命をもたらさない。1つの例は、今日、広く利用されている、硬質クロムめっきプロセスである。しかしながら、硬質クロムめっきプロセスの主な欠点は、六価クロムを用いることである。六価クロムの発癌特性のために、Cr(VI)化合物の認可されていない使用は、欧州連合において、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(Regulation on Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)(REACH)によって、2017年9月から禁止される。
【0007】
代替として、ワークピース表面にコーティングを付着させながら、下地の表面のテクスチャを生成する放電表面処理(electrical discharge coating)(EDC)が検討されてきた。EDCは、金属基板上に放電テクスチャ加工された表面を有する硬質かつ耐摩耗性の層を作るための、表面合金化/コーティングプロセスである。表面合金化によりロール耐摩耗性を改善するために、放電テクスチャ加工中は、圧粉体及び/又は焼結金属炭化物電極が使用されてきた。EDCプロセス中、電流は、電極を通って流れ、火花間隙内の誘電体のイオン化を引き起こす。イオン化の間、8000Kを超える温度が生じることとなり、その温度で、電極及びワークピース表面の局所的な溶融及び気化が起きて、コーティング表面が生成される。その所産物は、ワークピース表面への、許容できないほどの低いレベルの炭化タングステンの付着を示す傾向があり、それによって、結果として耐摩耗性が不十分となる。
【0008】
また更に、他の現在のコーティングプロセスは、一般に、非平滑表面の下地の表面テクスチャ又はプロファイルを保存することができない。今日、コーティングが、例えば、テクスチャ加工、エンボス加工、彫刻加工、エッチング加工又はローレット加工によって生成することができる非平滑表面に塗布される場合、厚い保護コーティングが上に付着すると、不均一な表面が失われる。
【0009】
現在のコーティングプロセスの欠点を考慮すると、保護のための耐摩耗性を付与し、かつ非平滑表面の下地の表面テクスチャ又はプロファイルを実質的に劣化させないように、十分な膜量まで非平滑基材表面をコーティングすることができ、それによって、下地の表面テクスチャ又はプロファイルを十分に保存する、改良されたコーティング及びその製造プロセスが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
一態様では、所定の数の山部及び谷部を有するパターンを特徴とする、非平滑表面を含む基材を含む、テクスチャ付与された薄い膜が提供される。テクスチャ付与された薄い膜は、非平滑表面全体に沿って連続的に延在する。このテクスチャ加工された薄い膜は、付加的上重ね(additive overlaying)装置によって供給される微粒子の液体原料から得られる。微粒子は、約5マイクロメートル以下の有効径を有する。テクスチャ付与された薄いコーティングは、最大厚に対する最小厚の比が、約0.6~約1.0の範囲となるように、約25マイクロメートル以下の最小厚及び最大厚を有し、それによって、非平滑表面のパターンに実質的に適合する膜テクスチャを生成する。
【0011】
第2の態様では、パターンを特徴とする、非平滑表面を含む基材を含む、テクスチャ付与された薄い膜が提供される。パターンは、所定の数の山部及び谷部によって画定される輪郭プロファイルを特徴とする。テクスチャ付与された薄い膜は、非平滑表面全体に沿って連続的に延在し、(i)それぞれが非平滑表面の対応する山部の輪郭プロファイルに適合するコーティングされた山部と、(ii)それぞれが非平滑表面の対応する谷部の輪郭プロファイルに適合する、コーティングされた谷部と、を生成する。このテクスチャ加工された薄い膜は、付加的上重ね装置によって供給される液体原料微粒子から得られる。テクスチャ付与された薄い膜は、最大厚に対する最小厚の比が、約0.6~約1.0の範囲となるように、約25マイクロメートル以下の最小厚及び最大厚を有する。
【0012】
第3の態様では、基材の外側表面のテクスチャプロファイルを実質的に変化させることもなく劣化させることもなく、基材の外側表面に沿って完全に被覆された基材を生成するための方法であって、方法は、基材に外側表面を提供する工程であって、外側表面が、テクスチャプロファイルによって画定されるように非平滑であることを特徴とするパターンを有する、工程と、付加的上重ね装置を提供する工程であって、付加的上重ね装置は、燃焼室及びノズルを備える、工程と、高温ガス流出物を生成する工程と、微粒子の液体原料を高温ガス流出物に供給する工程であって、微粒子が、0.1~5マイクロメートルの範囲のサイズを有する、工程と、溶融微粒子流出物を生成する工程と、溶融微粒子流出物を非平滑テクスチャプロファイル上に方向付けて、非平滑表面のパターンに実質的に適合するテクスチャ加工された膜を生成する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】基材の非平滑上面を示す図であって、非平滑上面は、非平滑上面に沿って従来の溶射コーティングが施され、非平滑表面の山部及び谷部に沿うコーティング厚は不均一であり、下地のテクスチャは劣化している。
【
図1b】本発明の原理による、均一な被覆及び厚さを有し、山部及び谷部に沿って連続的に延在するテクスチャ付与された薄い膜を有する、
図1aと同じ基材の非平滑上面を示す図であり、本発明の原理によって、テクスチャ付与された薄い膜は、付加的上重ねプロセスから得られる。
【
図2a】基材の非平滑上面の別の例を示す図であって、非平滑上面は、非平滑上面に沿って従来の溶射コーティングが施され、非平滑表面の山部及び谷部に沿うコーティング厚は不均一であり、下地のテクスチャは劣化している。
【
図2b】本発明の原理による、均一な被覆及び厚さを有し、山部及び谷部に沿って連続的に延在するテクスチャ付与された薄い膜を有する、
図2aと同じ基材の非平滑上面を示す図であり、本発明の原理によって、テクスチャ付与された薄い膜は、付加的上重ねプロセスから得られる。
【
図3】付加的上重ねプロセスのためのシステムの代表的な概略図である。
【
図4】本発明の原理による、非平滑基材の下地のパターンに実質的に適合するように非平滑表面全体を覆うテクスチャ付与された比較的薄い膜の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、溶射コーティングが、テクスチャ加工、エンボス加工、彫刻加工、エッチング加工又はローレット加工によって生成することができる非平滑表面上に塗布される場合、不均一な表面(すなわち、表面テクスチャ、プロファイル又はパターン)の精細さは、在来の溶射コーティングによって失われるか、又は被覆されることを認識している。本発明は、非平滑表面の必要な耐摩耗性を維持しながら、非平滑表面への阻害を克服するための新規な解決策を提供する。好ましくは粒子のサイズが約0.1~5マイクロメートルの範囲の炭化物原料による付加的上重ねプロセスは、薄く、テクスチャ付与された、高密度かつ耐摩耗性の膜を生成することによって、従来の溶射コーティングの欠点を克服することができる。
【0015】
本発明の一態様は、非平滑基材表面の、結果として得られた下地のテクスチャ又はパターンを実質的に維持しながら、所望の耐摩耗性及び耐食性を概ね生み出すことができる膜に着目する。テクスチャ付与された薄い膜は、クロムめっきもEDCも伴わないことを特徴とし、付加的上重ね装置によって供給される約5マイクロメートル以下の大きさの微粒子の液体原料から得られる。
【0016】
本発明は、非平滑表面の表面テクスチャ又はパターンを保持する必要性を有する任意の種類の基材とともに利用できることを理解されたい。エンボスロール、彫刻ロール、エッチングロール、ローレットロール、ピンチロール、カレンダーロール、ブリケッティングロール、波付けロール、計量ロール、牽引ロール、ゴデットロール、及びクリンピングロールなどの種々の非平滑基材を用いることができる。好ましい実施形態では、基材は、金属合金(例えば、鋼又はアルミニウム合金)又はその他の非金属ワークピースを圧延するためのプロセスで利用できるようなワークロールであり得る。
【0017】
本発明は、非平滑なテクスチャ付与された表面をコーティングするために乾燥粉末を利用することの、予想される欠点を認識している。具体的には、
図1aは、非平滑表面10に沿って延在する、乾燥粉末ベースのコーティング15を示す。非平滑上面10は、一連の所定の数の山部及び谷部として画定されるパターンを特徴とする、代表的な非平滑表面を有するものとしてその全体が示されている。非平滑上面10の上部は、実質的に波状であるいくらか輪郭がついたプロファイルとして、テクスチャ加工された表面であることが示されている。上面10は、任意の他のプロファイル形状を有し得ることを理解されたい。簡潔に表すために、非平滑上面10は、一定の縮尺で描かれておらず、非平滑表面10の残部は、意図的に省略されている。非平滑表面10のその他の細部は、本発明の原理をよりよく明確化するために、意図的に省略されている。コーティングされた山部を11a、12a、13a、14aとし、対応するコーティングされた谷部を11b、12b、13b、14bとする。山部11a、12a、13a、14aのそれぞれは、等しい高さを有するものとして示され、谷部11b、12b、13b、14bのそれぞれは、等しい深さを有するものとして示されている。しかしながら、本発明は、山部及び谷部の任意の形体を想到していることを理解されたい。
【0018】
本発明は、溶射装置内の凝集効果を回避するために、比較的大きい粒子のサイズが、使用されなければならないことの結果として、乾燥粉末ベースのコーティング15が、山部11a、12a、13a、14aと比較すると、谷部11b、12b、13b及び14b内に、より多く蓄積する傾向を有することを認識している。結果として、比較的大きいサイズの溶融粉末微粒子の付着は、山部11a、12a、13a、14a並びに谷部11b、12b、13b及び14bに沿う実質的に均一な被覆を得るために必要な程度に制御することができないから、非平滑表面10の下地のパターンは失われる。乾燥粉末ベースのコーティング15は、効果が弱くなるか、又は谷部11b、12b、13b、14bの特徴を鈍化することによって表面プロファイル10を縮小させて、非平滑表面10の局所的な表面テクスチャを阻害する。このように、乾燥粉末ベースのコーティング15の全体的な表面テクスチャは、特定の最終用途(例えば、エンボスロール用途)に関して不十分である。
【0019】
代わりに、本発明の原理にしたがって、
図1bは、5マイクロメートル以下の大きさの固形物の液体原料から得られた、テクスチャ付与された薄い膜16を示す。膜16は、付加的上重ね装置によって供給される。テクスチャ付与された薄い膜16は、均一に付着して、コーティングされた山部11a’、12a’、13a’及び14a’、並びにコーティングされた谷部11b’、12b’、13b’及び14b’を生成する。加えて、膜16が、0.6~1.0、好ましくは0.7~1.0、より好ましくは0.8~1.0の、最大厚に対する最小厚の比を特徴とするように、山部及び谷部の被覆は、非平滑表面10の全長に沿って実質的に均一かつ完全となっている。
図1bは、テクスチャ付与された薄い膜16が、非平滑表面10の下地のパターンに実質的に適合することを示す。具体的には、テクスチャ付与された薄い膜16は、非平滑表面10全体に沿って連続的に延在し、(i)それぞれが非平滑表面10の対応する山部の輪郭プロファイルに適合する、コーティングされた山部11a’、12a’、13a’及び14a’、並びに(ii)それぞれが非平滑表面10の対応する谷の輪郭プロファイルに適合する、コーティングされた谷部11b’、12b’、13b’及び14b’を生成する。膜16は、非平滑表面10に沿って連続的に延在する。最終的には、露出したままである谷部又は山部がないこととなる。膜16は、25マイクロメートル以下、好ましくは5~15マイクロメートル、より好ましくは5~10マイクロメートルの厚さを呈する。
【0020】
膜は、輪郭がついた非平滑表面(例えば、
図1a)に塗布される従来の溶射コーティングよりも、大幅に薄くすることができるが、それでもなお、コーティング16は、非平滑表面10の耐摩耗性を維持又は増大させることができる。
図1bの膜16は、特定の用途で、下地のテクスチャ加工パターンを変化させることもなく劣化させることもなく、テクスチャ付与されたパターンを有する複雑な形状に対して最大の耐摩耗性及び耐食性を生じさせるように、最大の表面被覆が必要とされる場合に特に有利である。
【0021】
その他の非平滑表面に対する本発明の利益が用いられてもよい。例えば、
図2bは、全長に沿って実質的に正方形状の波パターンを有する非平滑表面20を示す。
図2bは、付加的上重ね装置によって供給される5マイクロメートル以下の固体微粒子の液体原料から得られた、テクスチャ付与された薄い膜18を示す。テクスチャ付与された薄い膜18は、均一に付着して、コーティングされた山部21a’、22a’、23a’及び24a’、並びにコーティングされた谷部21b’、22b’、23b’及び24b’を生成する。加えて、膜18が、0.6~1.0、好ましくは0.7~1.0、より好ましくは0.8~1.0の、最大厚に対する最小厚の比を特徴とするように、山部及び谷部の被覆は、非平滑表面20の全長に沿って実質的に均一かつ完全となっている。
【0022】
図2bは、テクスチャ付与された薄い膜18が、非平滑表面20の下地のパターンに実質的に適合して、非平滑表面20の下地のテクスチャを維持することを示す。具体的には、テクスチャ付与された薄い膜18は、非平滑表面20全体に沿って連続的に延在し、(i)それぞれが非平滑表面20の対応する山部の輪郭プロファイルに適合する、コーティングされた山部21a’、22a’、23a’及び24a’、並びに(ii)それぞれが非平滑表面20の対応する谷の輪郭プロファイルに適合する、コーティングされた谷部21b’、22b’、23b’及び24b’を生成する。膜18は、非平滑表面20に沿って連続的に延在する。最終的には、露出したままにしておかれている谷部又は山部がないこととなる。膜16は、25マイクロメートル以下、好ましくは5~15マイクロメートル、より好ましくは5~10マイクロメートルの厚さを呈する。
【0023】
対照的に、
図2aは、乾燥粉末ベースのコーティング17が、非平滑表面20に沿う均一な被覆を生成しないことが予想されることを示している。
図1bと同様に、コーティングされた谷部21b、22b及び23bの厚さが、コーティングされた山部21a、22a、23a及び24aの厚さよりも大きくなるように、より多くのコーティング17が、山部よりも谷の中に蓄積する。最終的には、コーティングがテクスチャ付与されず、非平滑表面20の輪郭に実質的に適合せず、それによって非平滑表面20の下地のパターンが変化し、又は劣化することとなる。
【0024】
本発明の一態様では、微粒子のサイズ(すなわち、有効径)は、5マイクロメートル以下であり、好ましくは0.1~3マイクロメートルの範囲、より好ましくは0.5~2.5マイクロメートルである。好ましい実施形態におけるコーティング厚は、5~25マイクロメートルの範囲であり得る。これらの属性の組み合わせは、好ましくは約1.5マイクロメートル未満の、テクスチャ付与された薄い膜16及び20の表面粗さ(Ra)をもたらすことができる。
【0025】
驚くべきことに、溶射コーティングと比較して、それぞれ、
図1b及び
図2bの本発明の塗布される膜16及び18の量の大幅な低減は、本発明の硬度、耐摩耗性又は耐食性の特性を低下させることがない。例として、一実施形態では、それぞれ、
図1b及び
図2bの本発明の膜16及び18は、典型的な硬質クロムめっきの表面と同等又はそれよりも良好な、900~1400の範囲の微小硬度(HV300)を有し、非平滑表面に沿って付着した本発明の膜の総体積に対して、0.5vol%以下の最小限の気孔率を有する。
【0026】
本発明の薄い及びテクスチャ加工された膜は、例えば、限定的であることを意図するものではないが、WC-CoCr、WC-Co、WC-Ni又はCrC-NiCrのような、炭化タングステン含有組成物によるかかる特性を付与することができる。炭化タングステン含有膜は、好ましくは0.05~1ミクロンの範囲内の炭化物粒子サイズで、非平滑表面に沿って延在する。炭化タングステン組成物に対応する原料は、焼結微粒子又は噴霧乾燥した焼結微粒子から得ることができ、原料は、任意の好適な溶媒、有機物又は無機物を含むことができ、1つの好ましい実施形態では、エタノールベースの液体である。テクスチャ付与された薄い膜はまた、非常に攻撃的な環境に耐えるために、基材の非平滑表面の耐摩耗性、耐食性、及び微小硬度の保護特性を付与するために好適である、原料の懸濁液材料から得られた他の組成物を有してもよいということを理解されたい。
【0027】
別の実施形態では、膜は、サブミクロン粒子まで十分に微粒子化された、ナノサイズの粉末微粒子の液体原料から得ることができる。サブミクロン粒子は、非平滑表面の山部及び谷部のそれぞれの上に、実質的に連続してかつ好ましくは単層被覆で、付加的上重ね装置から付着されて、山部及び谷部のそれぞれに沿って、本明細書で前述したものよりも厚さが低減され得る、テクスチャ付与された単層膜を生成する。単層被覆は、不必要に材料の無駄を生じさせることなく、非平滑表面に接触する微粒子の量を低減する。更に、
図1b及び
図2bのナノサイズ型の膜16及び18は、非平滑表面の下地のパターンの保存性を向上させることができる。したがって、部分的にコーティングされた基材の全体的な表面テクスチャは、実質的に変わらないままである。テクスチャ付与された薄い膜を生成するための、ナノサイズの膜を使用する単層被覆か、又は複数の別個の層の積層かという選択は、所望の積載能力など最終用途に依拠してもよい。積載能力が大きくなるにつれて、テクスチャ付与された薄い膜を生成するために、複数の別個の層を積層することを必要とし得る。
【0028】
本発明の膜を生成するためのシステム及び方法は、高温ガス流出物を生成する燃焼室を有する付加的上重ね装置を使用する。
図3は、粉末微粒子を有する液体原料が付加的上重ね装置の燃焼室内に供給されて、非平滑表面に向けられることができる溶融微粒子流出物の流れを生じさせる代表的なシステム及び方法を示す。5マイクロメートル以下のサイズを有する液体原料の微粒子は、高温ガス内に供給され、それによって、非平滑表面のパターンに適合するように非平滑表面上に向けられることができる流出物が生成される。微粒子のサイズは5マイクロメートル以下であり、それによって、膜が、非平滑基材に沿って25マイクロメートル以下の厚さを有するように、微粒子が、付着することが可能となり、それによって、膜が、基材の下地のパターンに実質的に適合できるようになる。
【実施例1】
【0029】
付加的上重ね装置を使用して、テクスチャ付与されたプロファイルを有する非平滑な金属表面上に、テクスチャ付与された薄い膜を生成した。20wt%の固形分を含有するエタノールベースの原料を、86wt%WC-10wt%Co-4wt%Crの名目組成(nominal composition)を有する微粒子(粒子のサイズのメジアン径(d50)2.35マイクロメートル)を使用して調製した。液体原料をポットから70psiの圧力及び1ガロン/時間の流量で付加的上重ね装置内に供給し、付加的上重ね装置の燃焼室内に供給される可燃性混合物を使用して、4インチの溶射距離で基材に塗布した。
【0030】
図4の顕微鏡写真は、500倍の倍率で得られたものであり、目視検査時に、緻密な膜微細構造が、4回の試行後に8マイクロメートル未満のアズデポ状態膜厚を生じさせるということを達成したことを示している。顕微鏡写真は、膜が、非平滑金属表面の輪郭に実質的に適合していることを示している。目視観察により、金属表面全体が被覆されていると判定された。露出した箇所は検出されなかった。
【0031】
本発明の好ましい実施形態とみなされるものを示し、説明してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の種々の修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。例えば、本明細書で説明される付加的上重ね膜及び塗布の方法は、基材の非平滑表面に直接的又は間接的に適用することができる。更に、ワークロールの他に、例えば、限定的であることを意図するものではないが、エンボスロール、彫刻ロール、エッチングロール、ローレットロール、ピンチロール、カレンダーロール、ブリケッティングロール、波付けロール、計量ロール、牽引ロール、ゴデットロール、クリンピングロールなどの、任意の種類の基材を採用できることを理解されたい。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たないいかなるものにも限定されないことを意図する。