(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】露光装置、露光方法、及び物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20241015BHJP
G02B 19/00 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G02B19/00
(21)【出願番号】P 2020090174
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】八講 学
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/146448(WO,A1)
【文献】特開平06-124870(JP,A)
【文献】特開平04-179958(JP,A)
【文献】特開2007-123897(JP,A)
【文献】米国特許第05552856(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86、7/20-7/24、9/00-9/02
H01L 21/027、21/30
G02B 19/00-21/00、21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長域と第2波長域とを含む光を用いて基板を露光する露光装置であって、
前記光でマスクを照明する照明光学系と、
前記マスクのパターンの像を前記基板に投影する投影光学系と、を有し、
前記照明光学系の瞳面には、前記第1波長域の第1光強度分布と、前記第2波長域の第2光強度分布と、を含む光強度分布が、前記第1光強度分布の少なくとも一部が前記第2光強度分布よりも前記照明光学系の光軸を中心として内側となるように形成され、
前記第2波長域は、前記第1波長域の最も長い照明波長よりも長い波長を含むことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記第1光強度分布は、前記光軸を中心とした円形状の光強度分布であることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記第2光強度分布は、前記光軸を中心とした輪帯形状の光強度分布であることを特徴とする請求項1又は2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記瞳面に形成される光強度分布は、回転対称であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記投影光学系の開口数をNA、前記マスクのパターンの周期をP、照明波長をλ、発光領域を規定する照明角度をσとしたときに、前記光の少なくとも1つのλ及びσの組み合わせが、
σ=λ/(2NA・P)
を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記第1波長域の光の少なくとも1つのλ及びσの組み合わせ、及び前記第2波長域の光の少なくとも1つのλ及びσの組み合わせが、
σ=λ/(2NA・P)
を満たすことを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記第1波長域及び前記第2波長域の少なくとも一方は、水銀ランプの輝線に対応する波長を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記第1波長域及び前記第2波長域の少なくとも一方は、波長幅が20nm以上の広帯域光を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項9】
前記第1波長域及び前記第2波長域の少なくとも一方は、水銀ランプの複数の輝線を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記第1波長域は、水銀ランプの輝線のi線に対応し、
前記第2波長域は、水銀ランプの輝線のg線、h線、i線に対応することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項11】
前記第1波長域及び前記第2波長域の少なくとも一方は、350nm以下の波長を含むことを特徴とする。請求項1乃至9のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項12】
前記照明光学系は、前記光強度分布を形成するための波長フィルタを含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項13】
前記第1波長域の最も長い波長は、前記第2波長域の最も短い波長よりも短い波長であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項14】
前記第1波長域と前記第2波長域は、互いに異なる水銀ランプの輝線に対応することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項15】
第1波長域と第2波長域とを含む波長域の光を用いて基板を露光する露光方法であって、
前記光でマスクを照明し、前記マスクのパターンの像を前記基板に投影する工程と、を有し、
前記工程では、前記第1波長域の第1光強度分布と、前記第2波長域の第2光強度分布と、を含む光強度分布を、照明光学系の瞳面に、前記第1光強度分布の少なくとも一部が前記第2光強度分布よりも前記照明光学系の光軸を中心として内側となるように形成し、
前記第2波長域は、前記第1波長域の照明波長よりも長い波長を含むことを特徴とする露光方法。
【請求項16】
請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する露光工程と、
前記露光工程で露光された基板を現像する現像工程と、
前記現像工程で現像された基板の処理を行う処理工程と、を含み、
前記処理工程で処理された基板から物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置、露光方法、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、マスク(原版)に形成されているパターンをプレート(基板)に転写する装置であって、照明光学系を介して被照射面であるマスクに光を照明し、投影光学系を介してマスクのパターンの像をプレート上に投影する。
【0003】
照明光学系は、光源からの光でオプティカルインテグレータを照明し、照明光学系の瞳面に相当するオプティカルインテグレータの射出面において2次光源を生成する。2次光源は、所定の形状及び所定の大きさを有する発光領域で形成される。また、2次光源を形成する発光領域は、マスクの各点を照明する光の角度分布に対応する。
【0004】
露光装置においては、微細なパターンに対する転写性能を向上させる技術として、超解像技術(RET:Resolution Enhancement Techniques)が知られている。RETの1つとして、マスクの各点を照明する光の角度分布を最適化する変形照明が知られている。
【0005】
特許文献1には、感度が低いレジストが塗布されているプレートにパターンを転写する際に生産性が低下してしまうという課題に対して、照明光学系内の瞳面に波長の異なる光強度分布を重畳して形成させることにより、照度を向上させる技術が記載されている。また、変形照明である輪帯照明を形成する場合、例えば、瞳外側では中心波長が約365nmであるi線、瞳内側では中心波長が約405nmであるh線を用いる例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、RETの1つである変形照明を用いて、照明光学系内の瞳面に波長の異なる光源像を重畳して形成することで、照度を向上することができる。しかしながら、光学系やパターンの性能の指標となる焦点深度やコントラストなどについては、変形照明による一般的な効果にとどまっている。つまり、広帯域の照明光(ブロードバンド照明光)において、転写性能を十分に発揮するような変形照明の構成にはなっていない。
【0008】
そこで、本発明は、ブロードバンド照明光において、プレートにパターンを転写する転写性能低下の抑制に有利な露光装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての露光装置は、第1波長域と第2波長域とを含む光を用いて基板を露光する露光装置であって、前記光でマスクを照明する照明光学系と、前記マスクのパターンの像を前記基板に投影する投影光学系と、を有し、前記照明光学系の瞳面には、前記第1波長域の第1光強度分布と、前記第2波長域の第2光強度分布と、を含む光強度分布が、前記第1光強度分布の少なくとも一部が前記第2光強度分布よりも前記照明光学系の光軸を中心として内側となるように形成され、前記第2波長域は、前記第1波長域の最も長い照明波長よりも長い波長を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えば、ブロードバンド照明光において、基板にパターンを転写する転写性能低下の抑制に有利な露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】単一の波長に対する輪帯照明の最適な照明条件を示す図である。
【
図4】複数の波長に対する輪帯照明の最適な照明条件を示す図である。
【
図5】照明条件に伴うコントラスト変化を示す図である。
【
図6】実施例1における変形照明の効果を示す図である。
【
図7】実施例2における変形照明の効果を示す図である。
【
図8】実施例3における変形照明の効果を示す図である。
【
図9】第1実施形態における変形照明の例を示す図である。
【
図10】変形照明における照明光学系の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。露光装置100は、複数の波長域を含む光でマスク(原版)9を照明し、プレート(基板)12にマスク9のパターンを転写するリソグラフィ装置である。露光装置100は、フラットパネルディスプレイ、半導体素子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などを製造するための装置であり、特に、フラットパネルディスプレイの製造に好適である。
【0014】
露光装置100は、光源からの光によって、被照明面であるマスク9を照明する照明光学系10と、マスク9に形成されたパターンの像をプレート12へと投影する投影光学系11とを有する。更に、露光装置100は、マスク9を保持し、駆動又は位置決めするマスクステージ13と、プレート12を保持し、駆動又は位置決めするプレートステージ38と、プレートステージ38に設けられた計測部14と、制御部15とを有する。マスク9は、投影光学系11の物体面に配置され、プレート12は、物体面と光学的に共役な位置である投影光学系11の像面に配置される。
【0015】
投影光学系11は、例えば、反射光学系であり、ミラー32、34及び36を含む。投影光学系11は、マスク9からの光をミラー32、34、36、34、32の順に反射し、マスク9の投影像をプレート12に形成する。投影光学系11が反射光学系で構成される場合、光源からの光の色収差が屈折光学系よりも小さい。このような構成は、複数の波長域を含む広帯域光(ブロードバンド照明光)を用いる場合に好適である。
【0016】
制御部15は、露光装置100の各部、即ち、照明光学系10、投影光学系11、マスクステージ13、プレートステージ38などを統括的に制御して露光装置100を動作させる。制御部15は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)、又は、プログラムが組み込まれた汎用又は専用のコンピュータ、又は、これらの全部又は一部の組み合わせによって構成される。
【0017】
図2は、露光装置100における照明光学系10の構成例を示す概略図である。照明光学系10は、例えば、光源1と、集光ミラー2と、コンデンサレンズ5と、フライアイレンズ7と、コンデンサレンズ8と、開口絞り61とを含む。
図2に示されていないが、コンデンサレンズ5とマスク9との間の光路には、マスク9を照明する光の断面が所定の形状及び所定の大きさとなるように、光源1からの光を整形する光学系が配置されても良い。光源1は、例えば、水銀ランプであり、波長が270nmから450nmの広帯域光を射出する。集光ミラー2は、光源1の出射光を集光させるために配置されている。光源1は、集光ミラー2の第1焦点3の付近に配置されており、集光ミラー2は、光源1の射出光を第2焦点4に集光する。
【0018】
コンデンサレンズ5は、第1焦点4に集光された光を平行光に変換する。コンデンサレンズ5で変換された光は、フライアイレンズ7の入射面7aに入射する。フライアイレンズ7は、複数の光学素子、具体的には、複数の微小なレンズで構成されたオプティカルインテグレータである。フライアイレンズ7は、入射面7aに入射した光から2次光源を射出面7bに形成する。フライアイレンズ7から射出された光は、複数のコンデンサレンズ8を介して、マスク9を重畳的に照明する。プレートステージ38には、フライアイレンズ7の射出面7bに形成される2次光源の形状や光強度を計測可能なイメージセンサ(例えば、CCDセンサ)である計測部14が設けられている。
【0019】
次に、超解像技術(RET:Resolution Enhancement Techniques)について説明する。RETの1つである輪帯照明や四重極照明などの変形照明(斜入射照明)は、投影光学系11の焦点深度(DOF:Depth of focus)や投影光学系11によって形成される投影像のコントラストの向上に有効である。輪帯照明は、照明光学系10の光軸を中心とする照明光学系の瞳座標において輪帯形状の光強度分布を持つ変形照明であり、輪帯照明の発光領域は、照明角度σによって規定される。以下の説明では、輪帯形状の発光領域の内側の半径を内σ、輪帯形状の発光領域の外側の半径を外σと呼ぶ。また、照明角度σは、瞳座標で表した場合、原点からの距離(半径)に相当し、照明角度σが大きければ大きい半径となり、照明角度σが小さければ小さい半径となる。
【0020】
また、上述したような変形照明は、例えば、照明光学系10の瞳面に相当するフライアイレンズ7(オプティカルインテグレータ)の射出面7bに開口絞り61を配置することによって実現可能である。開口絞り61によって変形照明の非発光領域の光を遮蔽することによって、所望の変形照明を得ることができる。
【0021】
一般的に変形照明では、変形照明でない場合と比較して転写性能の低下を抑制するように、発光領域の照明角度σが最適化される。例えば、輪帯照明に対しては、前述した内σと外σが最適化される。一方、本実施形態では、第1発光領域I1及び第2発光領域I2を含む複数の領域で構成される発光領域が照明光学系10の瞳面に形成され得る。第1発光領域I1及び第2発光領域I2は、互いに重ならない領域でありうるが、互いに重なる領域であってもよい。また、本実施形態では、第1発光領域I1からの第1波長域の第1光によってプレート12に形成される第1像と、第2発光領域I2からの第2波長域の第2光によってプレート12に形成される第2像とが合成される。
【0022】
変形照明は、半導体素子を製造するための露光装置において発達してきた技術である。半導体素子を製造するための露光装置では、光源から射出される光のスペクトルの半値全幅が20nm未満であるため、照明波長λは単一の照明波長λ(例えば、光強度が最も大きな波長や光強度の重み付けをした重心波長)として扱われる。一方、フラットパネルディスプレイを製造するための露光装置では、光源から射出される光のスペクトルの半値全幅が20nm以上である広帯域光(ブロードバンド照明光)が用いられうる。ここで、半値全幅とは、FWHM(Full Width at Half Maximum)と呼ばれる量であり、スペクトルの波長幅に相当する。また、ブロードバンド照明光という表現には、単一の輝線の帯域だけでなく、複数の輝線の帯域を有する光の意味も含まれる。
【0023】
広帯域(ブロードバンド)という表現は、KrFレーザー光またはArFレーザー光等のように半値全幅が小さい狭帯域(ナローバンド)という表現と区別する意味で用いられる。具体的には、本実施形態において、広帯域光という表現は、半値全幅が20nm以上であることを意味する。
【0024】
フラットパネルディスプレイを製造するための露光装置において、例えば、光源として水銀ランプを用いて、水銀ランプからの光における単一の輝線であるi線を用いる場合には、半値全幅は約6nmとなる。一方、水銀ランプからの光における複数の輝線であるg線(中心波長約436nm)、h線(中心波長約405nm)、i線(中心波長約365nm)を用いる場合には、半値全幅は80nm以上となる。より広い半値全幅の露光光を用いることで照度は増加させることが可能となり、それに伴い生産性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態では、変形照明における発光領域の照明角度σに加えて、照明波長λも最適化されうる。照明波長λを最適化することによって、コントラストや焦点深度(DOF)を含む転写性能を向上する効果が得られる。本実施形態におけるDOFとは、デフォーカスに伴う線幅変化が目標線幅CD(Critical Dimension)に対して10%以下の変化であるフォーカス範囲として定義する。
【0026】
一般的に、デフォーカスに伴うコントラストの低下を抑制することで、DOFの低下も抑制することが可能である。
図3を用いて、デフォーカスに伴うコントラストの低下を抑制する条件を説明する。
図3は、照明光の照明波長が290nm、投影光学系の開口数NAが0.12、線幅1μmのラインアンドスペースパターン(周期2μm)の場合のマスク9の透過光D
0
290及び1次の回折光D
1
290を示している。
図3の説明で示す照明波長、NA、線幅、及び周期は、説明のための一つの例に過ぎず、実際には任意に設定される。ここで、回折の式は、マスクパターンの周期Pと照明波長λに対して、入射角θ
in、回折角θ
outとして、
P・sinθ
in+P・sinθ
out=λ・・・(1)
となる。ここで、照明条件として入射角θ
inと回折角θ
outが等しい場合を考える。
図3は、入射角θ
inと回折角θ
outが等しい場合を図示したものであり、
図3に示したマスクの透過光D
0
290と、1次の回折光D
1
290は、光軸に対して対称に伝搬する。この照明条件は、デフォーカスに伴うコントラストの低下を抑制し、DOFを増大する条件に相当し、
2P・sinθ
in=λ
sinθ
in=λ/2P・・・(2)
となる。また、照明角度σを瞳座標で記載すると、sinθ
inを開口数NAで規格化した値となるので、DOFの低下を抑制する変形照明の照明角度をσ
cとしたとき、σ
cは投影光学系の開口数NAに対し、
σ
c=sinθ
in/NA=λ/(2NA・P)・・・(3)
を満たすことが望ましい。照明条件σ=λ/(2NA・P)を満たす場合には、DOFの低下の抑制と共に、ベストフォーカスにおけるコントラストを向上させる効果も期待できる。
【0027】
図4は、照明光の照明波長が290nmと365nmの2つの波長を含む光である場合のマスク9の透過光D
0
290、D
0
365、及び1次の回折光D
1
290、D
1
365を示している。また、その他の条件については、
図3の条件と同様であり、投影光学系の開口数NAが0.12、線幅1μmのラインアンドスペースパターン(周期2μm)である。
【0028】
図4(a)に示す照明では、
図3に示したように波長290nmに対しては、式(3)を満たす照明条件となっている。式(1)より、波長の変化に伴って回折角度は変化するため、式(3)の最適なσも波長に応じて変化する。したがって、
図4(a)では、照明波長が365nmである場合、式(3)の照明条件を満たさないため、透過光と回折光は光軸に対して対称に伝搬せずにDOFは低下してしまう。
【0029】
DOFの低下を抑制するためには、式(3)より、長波長の場合には、照明角度σが大きい照明光が望ましく、短波長の場合には、照明角度σが小さい照明光が望ましいことが分かる。
図4(b)に示す照明では、式(3)に従うように、波長別に異なる照明角度σで照明している。そのため、波長290nmと365nmの両方の波長に対して、透過光と回折光は光軸に対して対称に伝搬し、DOFの低下を抑制する効果が得られる。
【0030】
図5を用いて、式(3)を満たす照明条件が、デフォーカスに伴うコントラストの低下を抑制することを説明する。
図5は、空中像強度のコントラストを示す。投影光学系の開口数NAを0.10としている。
図5(a)~(c)のグラフは、露光パターンが線幅1.5μm(周期3.0μm)の7本ラインアンドスペースパターンの中央ラインにおけるコントラストを示す図である。
図5(d)~(f)のグラフは、露光パターンが線幅1.8μm(周期3.6μm)の7本ラインアンドスペースパターンの中央ラインにおけるコントラストである。
図5(a)、(d)のグラフは、デフォーカスが0μm、
図5(b)、(e)のグラフは、デフォーカス15μm、
図5(c)、(f)のグラフは、デフォーカス15μmからデフォーカス0μmを引いたコントラストである。
【0031】
図5(c)、(f)のグラフは、デフォーカスに伴うコントラストの悪化を示しており、濃い灰色になるほどコントラストの悪化が大きい。ここでデフォーカス15μmにおいてコントラストが0.3未満になる条件は、転写性能の観点で実用化されない条件として黒色にしている。
図5の横軸の波長は水銀スペクトルのg線、h線、i線を含む340~460nmとしている。
図5の縦軸は、輪帯照明における内σを表しており、外σは内σより0.05大きい値と仮定している。これは、実際上内σと外σを同一視できるほど細い輪帯照明に相当する。グラフ中の黒の実線は式(3)を満たす最適な照明条件である照明波長λと照明角度σの関係を示す。
図5から式(3)を満たす黒の実線で示された条件はデフォーカスに伴うコントラストの低下が小さいことがわかる。以上より、式(3)を満たす照明条件によって、デフォーカスに伴うコントラストの低下を抑制できることが分かる。
【0032】
式(3)を満たす最適な照明条件である黒の実線から大きく乖離した条件(特に、照明波長λが長波長側で照明角度σが小さい場合)では、コントラストが低く、デフォーカスに伴うコントラストの悪化も大きい。したがって、式(3)を満たす最適な照明条件から大きく乖離した条件に相当する照明波長λと照明角度σの組み合わせは、例えば、波長フィルタを用いることにより遮光することが望ましい。また、
図5(d)~(f)で示している線幅1.8μm(周期3.6μm)のパターンの方が、
図5(a)~(c)で示している線幅1.5μm(周期3.0μm)よりもコントラストが大きい。これは、一般的に、線幅が短い高精細なパターンの方が、コントラストが悪くなる傾向にあるためである。
【0033】
また、
図5は、式(3)を満たす最適な照明条件である黒の実線から少しはずれた条件においても、高いコントラストを示すものもある。
図5(d)に示すように、線幅1.8μmのパターン、デフォーカス0μmでは、黒の実線から大きく乖離した照明条件、例えば、照明波長365nm、照明角度σ=0において高いコントラストを示し、照明条件として採用できる可能性がある。照度を大きくしたい場合は、できる限り広い波長幅に設定し、且つ輪帯幅を大きくすることが望ましい。このため、性能面で実用可能なコントラストを示す範囲であるならば、最適な照明条件である黒の実線から大きく乖離した照明条件であったとしても良く、十分な転写性能を得たまま照度を大きくすることが可能になる。
【0034】
一般的な円形状の照明(即ち、内σがゼロの照明)に対しては、本実施形態の変形照明は、斜入射照明の効果でDOFが向上する。変形照明の1つの手法として知られる狭輪帯に対しては、本実施形態の変形照明は、照度の低下を抑制し、生産性の低下を抑制する効果がある。また、本実施形態の変形照明は、狭輪帯に比べ広い輪帯幅を用いるため、フライアイレンズで形成される照明強度の不均一性に伴う照度ムラが低減される。本実施形態の変形照明は、輪帯幅が狭い狭輪帯照明と比べ、特定の周期のパターンP以外の周期のパターンに対しても転写性能の低下を抑制できる。
【0035】
また、照明波長を短波長化することにより解像力を向上する手法もあるが、本実施形態の変形照明は、長波長の照明光を完全に遮光せずに、解像力を向上させている。そのため、長波長の照明光の光量も無駄なく使うことができるため、照度低下(即ち、生産性の低下)を抑制することができる。この他にも、本実施形態の変形照明は、位相シフトマスクの製造誤差に伴う解像力低下の抑制や、レジストパターンの側壁角度の制御などの効果が得られる場合がある。
【0036】
本実施形態の変形照明は、偏光照明に対して適用することも可能である。光源は水銀ランプに限定されず、LED光源や複数の半導体光源でブロードバンド照明を形成する場合も含まれる。照明光学系内の波長フィルタの透過率を調整して水銀ランプのスペクトル強度分布と異なる強度分布に調整してもよい。照明光学系にファイバーバンドルを用いてもよい。各波長域に適した、異なるσを有する第1発光領域I1と第2発光領域I2を用いることによって、転写性能の低下を抑制することができる。また、単一波長による変形照明と比較して、照明照度を向上させる効果も期待できる。
【0037】
本実施形態の変形照明は、式(3)を満たす照明条件であることを述べたが、第1発光領域I1における第1波長域λ1の全ての照明波長に対して、完全に式(3)満たす照明角度σを有する構成でも良いが、これに限らない。また、第2発光領域I2における第2波長域λ2の全ての照明波長に対して、完全に式(3)満たす照明角度σを有する構成でも良いが、これに限らない。式(3)を一部満たす照明条件であれば良く、例えば、第1発光領域I1の一部の照明波長と、第2発光領域I2の一部の照明波長に対して、式(3)を満たすような照明角度σを含む変形照明であれば良い。
【0038】
<実施例1>
図6を用いて、4種類の比較例と比べて本実施形態の実施例1における照明光の転写性能が高いことを示す。
図6は、比較例と実施例1の照明のシミュレーション結果を示す図である。開口数NAは0.10とした。マスクパターンは線幅1.8μm(周期3.6μm)の7本ラインアンドスペースパターンの中央ラインを評価した。
図6に示した照明形状の格子柄の領域の波長は340~460nmのブロードバンド光であり、これは水銀ランプの3つの輝線g線,h線,i線を含む。照明形状の斜線柄の領域の波長は340~390nmのブロードバンド光であり、これは水銀ランプの1つの輝線i線を含む。
【0039】
図6の左から順に説明する。比較例1は、内σ=0.00、外σ=0.90のg線、h線、i線の照明である。即ち、円形の光強度分布を示す照明である。比較例2は、内σ=0.00、外σ=0.83のg線、h線、i線の照明である。外σを0.83に設定している理由は、後述する本実施形態の照明と同じ照度とするためである。比較例3は、内σ=0.45、外σ=0.90のg線、h線、i線の輪帯照明である。比較例4は、内σ=0.00、外σ=0.45の領域はg線、h線、i線であり、内σ=0.45、外σ=0.90の領域はi線の照明である。比較例4では、内σ=0.00、外σ=0.45の領域において、内σ=0.45、外σ=0.90の領域よりも長い波長が含まれている。これは、後述する本実施形態とは照明角度σと照明波長λの関係が逆になっており、式(3)で示す最適な照明条件を満たさない構成となっている。
【0040】
実施例1は、内σ=0.00、外σ=0.45の領域はi線であり、内σ=0.45、外σ=0.90の領域はg線、h線、i線の照明である。実施例1では、内σ=0.45、外σ=0.90の領域において、内σ=0.00、外σ=0.45の領域よりも長い波長が含まれている。これは、式(3)で示す最適な照明条件を満たす構成となっている。
【0041】
比較例1~4と実施例1の照明の各性能を比較する。まず、規格化照度について比較する。規格化照度とは、比較例1の照度を1として他の照度を規格化したものであり、照明形状の面積と水銀ランプのスペクトル強度分布を考慮したものである。規格化照度は、比較例1が最も大きい。本実施形態の照明は、比較例3、4よりも大きく照度の面で性能を上回っている。尚、比較例2は、上述したように実施例1と同じ照度となるよう外σを定めているため、同じ規格化照度である。
【0042】
次に、コントラストについて比較する。本実施形態におけるコントラストとは、中央ラインの空中像強度のコントラストである。実施例1におけるコントラストは、比較例1~4と比較して大きいことが分かる。即ち、性能が向上していることを示している。
【0043】
次に、MEEF(Mask Error Enhancement Factor)について比較する。MEEFとは、マスク線幅誤差(製造誤差)ΔCDmaskに対するプレートに露光したレジストパターンの線幅誤差ΔCDresistの比であり、
MEEF=ΔCDresist/ΔCDmask・・・(4)
で定義される。MEEFは小さい値である程性能が良いことを示す。実施例1におけるMEEFは、比較例1~4と比較して小さいことが分かる。即ち、性能が向上していることを示している。
【0044】
次に、DOFについて比較する。DOFとは、デフォーカスに伴う線幅変化が、目標線幅CDに対して10%以下の変化であるフォーカス範囲であり、ベストフォーカスで1800nmの中央ラインが1980nm以下となるフォーカス範囲である。DOFは、大きい値である程性能が良いことを示す。実施例1におけるDOFは、比較例1、2、4と比較して大きいことが分かる。即ち、性能が向上していることを示している。ただし、実施例1と比較例3を比較した場合には、輪帯形状の照明である比較例3の方が、DOFは大きい。
【0045】
次に、側壁角度について比較する。側壁角度とは、中央ラインのレジストパターンのボトム部の角度である。側壁角度は、大きい値である(即ち、90°に近い)程性能が良いことを示す。実施例1における側壁角度は、比較例1~4と比較して大きいことが分かる。即ち、性能が向上していることを示している。
【0046】
上述した比較についてまとめる。実施例1の照明は、比較例1や比較例2で示す円形状の照明と比べて、コントラスト、MEEF、DOF、側壁角度に関する転写性能において性能が向上している。実施例1の照明は、比較例3で示す輪帯照明と比べて、より高い照度を持ち、かつコントラスト、MEEF、側壁角度に関する転写性能において高い性能を示している。また、実施例1の照明は、比較例4に対して、規格化照度、コントラスト、MEEF、DOF、側壁角度のすべてにおいて高い性能を示している。この結果から、照明領域ごとに波長を変えるのみでは解像力向上の効果は十分に得られず、式(3)を考慮してそれぞれの波長に対して適切な照明領域を用いる必要があることを示している。本実施形態の実施例1における照明では、式(3)を考慮してそれぞれの波長に対して適切な照明領域を用いているため、比較例1~4と比較して高い性能を示している。
【0047】
したがって、本実施形態の実施例1における照明は、式(3)で示す照明条件を満たす照明波長λと照明角度σを含むことで、転写性能の低下の抑制と大きな照度を両立することが可能となる。
【0048】
<実施例2>
実施例2では、実施例1とは異なるマスクパターンで本実施形態の照明を評価した結果について説明する。
図7を用いて、3種類の比較例と比べて本実施形態の実施例2における照明光の転写性能が高いことを示す。
【0049】
図7は、3種類の比較例と実施例2の照明のシミュレーション結果を示す図である。開口数NAは0.10としている。マスクパターンは線幅1.2μm(周期3.6μm)のスペース線幅がライン線幅の2倍である1次元ラインアンドスペースパターンとしている。
図7に示した照明形状の格子柄の領域の波長は340~460nmのブロードバンド光であり、これは水銀ランプの3つの輝線g線,h線,i線を含む。照明形状の斜線柄の領域の波長は340~390nmのブロードバンド光であり、これは水銀ランプの1つの輝線i線を含む。ここで、実施例2の照明形状については実施例1と同様であり、比較例1~3の照明形状についても実施例1で説明した比較例1~3と同様である。
【0050】
実施例2は、実施例1と同様に、比較例1、2に比べ規格化照度は劣るものの、コントラスト、MEEF、DOF、側壁角度において高い性能を示す。比較例3対しては、DOFは劣るものの、規格化照度、コントラスト、MEEF、側壁角度において高い性能を示す。
【0051】
したがって、本実施形態の実施例2における照明は、式(3)で示す照明条件を満たす照明波長λと照明角度σを含むことで、転写性能の低下の抑制と大きな照度を両立することが可能となる。
【0052】
<実施例3>
実施例3では、実施例1や実施例2では行っていなかった、波長フィルタの透過率を制御した場合における本実施形態の照明を評価した結果について説明する。また、実施例3は、実施例1や実施例2とは異なる開口数NA、マスクパターン、照明波長である。
図8を用いて、様々な比較例と比べて本実施形態の実施例3における照明光の転写性能が高いことを示す。
【0053】
図8は、比較例と実施例3の照明のシミュレーション結果を示す図である。開口数NAは0.12としている。マスクパターンは線幅1.2μm(周期2.4μm)の9本ラインアンドスペースパターンの中央ラインを評価している。
図8に示した照明形状の横縞柄の領域の波長は270~390nmのブロードバンド光であり、これは水銀ランプの輝線i線とi線よりも短い波長を含む。照明形状の縦縞柄と格子柄の領域の波長は270~350nmのブロードバンド光であり、350nm以下の波長は水銀ランプのi線よりも短い波長であり、i線は含まない。格子柄の領域は、縦縞柄に比べ透過率を25%とし、照度を小さくしている。後述するように、透過率を小さく設定することでDOFを増加させる効果がある。
【0054】
横縞柄の領域と縦縞柄の領域は、水銀ランプからの照明光強度をそのままに用いてもよいし、波長フィルタを介することで光を制御しても良い。照度は規格化照度として評価し、瞳全域で一律の透過率低下は任意とする。水銀ランプのスペクトル強度分布は、一般的な分布としたが、この分布に対する制約はない。
【0055】
比較例5は、内σ=0.00、外σ=0.90の円形領域において照明波長が270~390nmの照明である。比較例6は、内σ=0.45、外σ=0.90の輪帯領域において、照明波長が270~390nmの照明の輪帯照明である。比較例7は、内σ=0.00、外σ=0.55の円形領域において、照明波長が270~350nmであり、内σ=0.55、外σ=0.90の輪帯領域において、照明波長が270~390nmの照明である。比較例7は、式(3)と整合するように内σ=0.55、外σ=0.90の領域に、内σ=0.00、外σ=0.55の領域よりも長い波長が含まれる構成となっている。
【0056】
実施例3は、内σ=0.00、外σ=0.45の円形領域において、照明波長270~350nmであり、内σ=0.45、外σ=0.90の輪帯領域において、照明波長270~390nmの照明である。前述したように、格子縞で示した内σ=0.00、外σ=0.45の領域は、透過率を25%とすることで照度を落としている。
【0057】
比較例7は、比較例6と比較した場合、規格化照度、コントラスト、MEEF、側壁角度において高い性能を示しているが、DOFが大きく低下してしまっていることが分かる。そこで、実施例3の照明形状を用いることで、後述するようにDOFの低下を比較的抑えることができる。
【0058】
実施例3は、比較例5に比べて規格化照度は劣るものの、コントラスト、MEEF、DOF、側壁角度において高い性能を示した。比較例6に対しては、DOFはわずかに劣るものの、規格化照度、コントラスト、MEEF、側壁角度において高い性能を示した。比較例7に対しては、DOFの増大が顕著である。比較例7も本発明の実施例の1つであるが、実施例3では、波長フィルタの透過率を制御することで、DOF等の転写性能を調整することができる。
【0059】
したがって、本実施形態の実施例3における照明は、式(3)を考慮することに加えて、用いる波長フィルタの透過率を制御することで、転写性能の低下の抑制と大きな照度を両立することが可能となる。
【0060】
<実施例4>
実施例4では、実施例1~3で説明した照明形状とは異なる照明形状である本実施形態の照明について説明する。
【0061】
図9は、本実施形態における6種類の照明を示す図である。
図9(a)は、瞳内側の領域から瞳外側の領域に進むにつれて、i線、h線、g線と波長が長くなる照明形状である。これは、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす照明形状である。
図9(b)は、瞳内側の領域ではh線を用いており、瞳外側の領域ではg線、i線を用いている場合である。これは、内側で用いる波長よりも長波長のg線を外側で用いるため、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす照明形状である。
図9(c)は、瞳内側の領域がg線とh線とi線であり、瞳外側の領域がg線とh線を用いる場合である。瞳外側の領域の短波長(i線)をカットすることは、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす。また、内側の領域で用いる波長の重心波長と、外側で用いる波長の重心波長を比べると、外側で用いる重心波長の方が長い。重心波長とは、照明光のスペクトル分布を重みとして考慮した際の重心に相当する波長である。円形照明に用いられる第1波長域に、輪帯照明に用いられる第2波長域よりも短波長が含まれる実施例に相当する。
【0062】
また、これまでの説明では第1光強度分布が円形状で第2光強度分布が輪帯形状であるような回転対称となる光強度分布について述べてきたが、これに限らない。例えば、第1光強度分布が円形状ではなく輪帯形状であっても良いし、第2光強度分布が回転対称ではない形状でも良い。
【0063】
図9(d)は、瞳内側の輪帯形状の領域ではg線とi線を用いており、瞳外側の輪帯形状の領域ではh線を用いている場合である。これは、g線の強度が小さく内側における重心波長が外側における波長h線よりも短くなる場合、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす照明形状である。
図9(e)は、瞳内側の円形状の領域ではi線を用いており、瞳外側の輪帯形状が一部欠けているような構成の領域ではh線を用いている場合である。これは、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす照明形状である。
図9(f)は、瞳内側の円形状の領域と十字状になっている領域ではh線を用いており、瞳外側の輪帯形状が一部欠けているような構成の領域ではg線を用いている場合である。これは、式(3)に示す照明波長λと照明角度σの関係を満たす照明形状である。
【0064】
本実施形態の変形照明では、第1波長域を含む光を含む第1光強度分布の少なくとも一部が第2波長域を含む光を含む第2光強度分布よりも内側となるように、照明光学系の瞳面に光強度分布が形成されている。また、第1波長域は第2波長域の最も短い照明波長よりも短い波長を含むこと、又は第2波長域は第1波長領域の最も長い照明波長よりも長い波長を含むことの少なくとも一方を満たす。
【0065】
ここで、実施例4で用いたg線、h線、i線は相対的な波長の大小を示すために用いた例であり、波長を限定するものではない。実施例4では、実施例1~3で説明した照明形状とは異なる照明形状である場合においても、式(3)で示す照明条件を満たす照明波長λと照明角度σを含むことで、転写性能の低下の抑制と大きな照度を両立することが可能となる。
【0066】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で説明した照明を実現可能な照明光学系10の構成について説明する。
【0067】
図10(a)は、光源1を第1光源1a及び第2光源1bで構成した場合を示している。第1光源1aと第2光源1bは、互いに波長が異なる光を出射する。また第1光源1aと第2光源1bの波長は単一波長や狭い波長域の光でも良いし、ブロードバンド光でも良い。単一波長や狭い波長域の光源であっても、複数の光源を用いて、互いに異なる波長域を有する照明光を持つ場合には、ブロードバンド照明として扱う。
【0068】
第1実施形態で説明した変形照明の発光部は、第1発光領域I1と第2発光領域I2を含み、第1発光領域I1における第1波長域λ1と、第2発光領域I2における第2波長域λ2は異なる。この変形照明は、第1光源1aの照明光と、第2光源1bの照明光とを合成することで形成される。また、第1光源1aと第2光源1bとで互いに異なる発光領域を形成したのちに合成しても良い。また、第1波長域λ1と第2波長域λ2で同一の発光領域を形成し、波長フィルタで第1発光領域I1と第2発光領域I2の波長域を変えても良い。また、第1実施形態の実施例3で説明したように、フィルタの任意の領域において透過率を変えてもよい。また、光源1にはLED光源を用いても良く、光源1の数は2つではなく3つ以上であっても良い。
【0069】
図10(b)は、光源1を3つのブロードバンド光源1cで構成した場合を示している。ブロードバンド光源1cは波長域が広い光を出射する。3つのブロードバンド光源1cから出射される光は、同じ波長域とする。
図10(b)に示す波長フィルタ63a、63b、63cを用いることで、光源別に異なる波長域を持つ異なる発光領域を形成しても良い。また、波長フィルタ63a、63b、63cを用いずに、
図10(b)に示す波長フィルタ63dを用いることで、3つのブロードバンド光源1cからの照明光を合成後に異なる波長域を持つ発光領域を形成しても良い。また、波長フィルタ63a、63b、63cと、波長フィルタ63dは、組み合わせて用いても良い。波長フィルタ63a、63b、63c、63dは、回転するターレットに装備されても良いし、シフト駆動するラスタータイプの機構に装備されても良い。これにより、波長フィルタを用いる場合と用いない場合の切り替えが容易となる。
図10(b)には、光源1を構成する光源1cが3つである場合を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、光源1cは1つでも良く、光源1cの数は限定されない。本実施形態は、波長域の分割と発光領域の形成に関する方法を限定するものではない。
【0070】
波長フィルタは所望の波長の透過率を小さくすれば良く、所望の波長に対して完全に透過率をゼロに遮光しなくとも良い。また、発光領域の境界部で波長領域が完全に分割される必要はない。更に、波長フィルタによる波長選択に限らず、ホログラム素子や回折光学素子やプリズムを用いることで、照度の低下を抑制しても良い。
【0071】
<物品の製造方法>
次に、前述の露光装置を利用した物品(フラットパネルディスプレイ、液晶表示素子、半導体IC素子、MEMS等)の製造方法を説明する。物品の製造方法は、プレート上に塗布された感光剤に上記の露光装置を用いて潜像パターンを形成する工程(プレートを露光する工程)と、かかる工程で潜像パターンが形成されたプレートを現像する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の処理(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を行う工程を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、本発明は多重露光に適用することも可能である。また、変形照明の効果を増すために、NAを最適化しても良い。本発明の変形照明をマスクレス露光装置に適用しても良い。
【符号の説明】
【0073】
9 マスク
10 照明光学系
11 投影光学系
12 プレート
100 露光装置