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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ヒータ、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241015BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241015BHJP
   G03G 21/16 20060101ALI20241015BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20241015BHJP
   H05B 3/03 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G03G15/20 515
G03G15/00 680
G03G21/16 152
H05B3/10 A
H05B3/03
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020112790
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011571
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 佑介
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-218856(JP,A)
【文献】特開2019-057472(JP,A)
【文献】特開2010-061833(JP,A)
【文献】特開2009-063813(JP,A)
【文献】特開2003-043843(JP,A)
【文献】特開2001-222173(JP,A)
【文献】特開平09-325628(JP,A)
【文献】中国実用新案第201130302(CN,Y)
【文献】特開2006-134831(JP,A)
【文献】実開昭63-038350(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/00
G03G 21/16
H05B 3/10
H05B 3/03
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属で形成された基板と、
前記基板の面上に絶縁材料で形成された絶縁層と、
前記絶縁層上に配置され通電により発熱する発熱体と、
前記絶縁層上に配置され、前記発熱体と電気的に接続された第1導電部と、
前記発熱体と前記基板とを電気的に接続する第2導電部と、
を有し、前記基板が前記発熱体を発熱させるための導電経路となっており、前記第2導電部と前記基板の間には前記発熱体が介在しておらず、前記第1導電部と前記基板との間に電圧を印加されることで、前記第1導電部、前記発熱体、前記第2導電部、前記基板の順に電流が流れて前記発熱体が発熱することを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記発熱体は、前記基板の長手方向に沿って延びており、
前記第1導電部は、前記長手方向における前記発熱体の一端と接続され、
前記第2導電部は、前記長手方向における前記発熱体の他端と接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記第2導電部は、前記基板の長手方向における前記絶縁層の端部を介して、前記発熱体と前記基板を接続している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記絶縁層には、前記基板が露出する開口部が形成されており、
前記第2導電部は、前記開口部を介して前記発熱体と前記基板とを接続している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項5】
前記基板の前記絶縁層が設けられた前記面とは異なるいずれかの面に、電源と接続するための接続部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のヒータ。
【請求項6】
筒状のフィルムと、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のヒータと、前記ヒータを保持する保持部材とを備え、前記フィルムの内側に配置されたニップ部形成ユニットと、
前記フィルムを挟んで前記ニップ部形成ユニットに対向し、前記フィルムとの間にニップ部を形成する加圧部材と、
を有し、前記ニップ部で記録材を挟持して搬送しながら記録材上の画像を記録材に定着させる定着装置。
【請求項7】
回転する像担持体と、
前記像担持体から記録材にトナー画像を転写する転写手段と、
前記転写手段によって前記記録材に転写されたトナー画像を記録材に定着させる、請求項6に記載の定着装置と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像の熱定着に使用可能なヒータ、ヒータを備える定着装置、及び、定着装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式のプリンタ、複写機、複合機等の画像形成装置には、記録材に転写されたトナー画像を加熱して記録材に定着させる熱定着式の定着装置が搭載されている。定着装置としては、セラミックス等の基板上に抵抗発熱体のパターンを形成したヒータと、ヒータに摺動しながら回転する定着フィルムと、定着フィルムを介してヒータとの間にニップ部を形成する加圧ローラとを有するものがある。特許文献1には、セラミックスに比べて熱応力に対する強度に優れた金属製の基板を採用した定着装置用のヒータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-275671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、画像形成装置の高速化や省エネ化を実現するため、定着装置用のヒータには発熱量の向上が求められている。しかし、抵抗発熱体、又は抵抗発熱体に給電するための導体パターン等が過熱によって断線しないように、抵抗発熱体及び導体パターン等のパターン幅を太くする等の対策が必要となることが、ヒータの小型化を難しくしていた。
【0005】
本発明は、上記の技術をさらに発展させたものであり、例えば発熱量の確保とヒータの小型化との両立を可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、金属で形成された基板と、前記基板の面上に絶縁材料で形成された絶縁層と、前記絶縁層上に配置され通電により発熱する発熱体と、前記絶縁層上に配置され、前記発熱体と電気的に接続された第1導電部と、前記発熱体と前記基板とを電気的に接続する第2導電部と、を有し、前記基板が前記発熱体を発熱させるための導電経路となっており、前記第2導電部と前記基板の間には前記発熱体が介在しておらず、前記第1導電部と前記基板との間に電圧を印加されることで、前記第1導電部、前記発熱体、前記第2導電部、前記基板の順に電流が流れて前記発熱体が発熱することを特徴とするヒータである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発熱量の確保とヒータの小型化との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係るヒータの短手方向の断面図(a)、平面図(b)及び長手方向の断面図(c)。
図2】実施例1に係るヒータの駆動回路図。
図3】参考例に係るヒータの短手方向の断面図(a)、平面図(b)及び長手方向の断面図(c)。
図4】実施例2に係るヒータの短手方向の断面図(a)、平面図(b)及び長手方向の断面図(c)。
図5】実施例3に係るヒータの短手方向の断面図(a)、平面図(b)及び長手方向の断面図(c)。
図6】実施例4に係る定着装置の断面図。
図7】実施例4に係る画像形成装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1(a~c)に本開示の実施例1に係るヒータ100(定着装置用の加熱手段)の構成を表す概略図を示す。
【0011】
以下の説明において、ヒータ100を構成する基板の最も長い辺の方向(定着装置における記録材の搬送方向に垂直な方向、定着装置のニップ部の長手方向、画像形成時の主走査方向)を、ヒータ100の「長手方向X」とする。ヒータ100の長手方向に対して垂直な方向の内で、基板の主面(発熱体が配置される面)に沿った代表的な方向をヒータ100の「短手方向Y」とする。また、長手方向及び短手方向に対して垂直な方向(基板の主面の法線方向)を、ヒータ100の「厚さ方向Z」とする。
【0012】
<ヒータの層構造>
図1(a)は、ヒータ100を短手方向Y及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を長手方向Xに見た断面図である。図1(b)は、ヒータ100を厚さ方向Zにおいて発熱体102が配置されている側から見た平面図である。図1(c)は、ヒータ100を長手方向X及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を短手方向Yに見た断面図である。
【0013】
図1(a~c)に示すように、ヒータ100は、金属又は合金を少なくとも主材とした細長い板形状の基板101(金属基板)と、通電により発熱する発熱層としての発熱体102と、を有する。ヒータ100は、さらに、発熱体102と基板101とを絶縁する絶縁層103と、発熱体102を保護する保護層104と、を有している。また、ヒータ100は、製造時の基材の反りを防止するために、発熱体102がある面とは反対側の面にも絶縁層105を有している。
【0014】
基板101に用いられる材料としては、ステンレス、ニッケル、銅、アルミ、及びそれらを主材とする合金が好適に用いられる。これらのうち、ステンレスが強度、耐熱性、腐食の観点で最も好ましい。ステンレスの種類としては特に限定されず、必要な機械的強度、次項で述べる絶縁層103,105、発熱体102の形成に合わせた線膨張係数、市場における板材の入手のし易さ等を考慮して適宜選べば良い。一例を挙げると、クロム系ステンレス(400系)のマルテンサイト系及びフェライト系がステンレスの中でも線膨張係数が比較的低く、絶縁層103,105、発熱体102の形成がし易く好適に用いられる。
【0015】
基板101の厚みは、強度や熱容量、放熱性能を考慮して決めればよい。基板101の厚みが小さい(つまり薄い)場合は、熱容量が小さいためクイックスタートには有利だが、薄すぎると発熱体102の加熱成型時に歪み等の問題が生じ易くなる。逆に基板101の厚みが大きい(つまり厚い)場合は、発熱体102の加熱成型時の歪みの面では有利であるが、厚すぎると熱容量が大きいためクイックスタートには不利となる。基板101の好ましい厚みは、量産性やコスト、性能のバランスを考慮した場合0.2~2.0mmである。なお、クイックスタートとは、画像形成装置が画像形成動作を行っていない待機状態又は電源OFF状態からヒータ100の加熱が開始された際に、温度が熱定着に適切な値まで上昇して画像形成動作を実行可能な状態となるまでの所要時間の短さを表す。
【0016】
絶縁層103,105と保護層104の材質は特に限定はされないが、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある絶縁材料を選択する必要がある。材質としてはガラスやPI(ポリイミド)が耐熱性の観点で好ましく、ガラスの場合の具体的粉末材料の選定は、本実施形態の特性を損なわない範囲で適宜選択されれば良い。必要に応じて絶縁性を有する熱伝導フィラーなどを混合させても良い。
【0017】
絶縁層103、保護層104及び絶縁層105は同じ材質を用いても、異なる材質を用いても何ら問題はない。厚みに関しても同様に絶縁層103,105と保護層104で同じにしても良いし、必要に応じて変更しても問題ない。基板101の面上にガラスやPI(ポリイミド)の絶縁層を形成する際には、材料間の線膨張係数差により絶縁層にクラックや剥がれが生じないように、基板と絶縁層材料の線膨張係数を適宜調整する必要がある。
【0018】
<発熱体の構成>
発熱体102は、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合した発熱抵抗体ペーストを絶縁層上に印刷した後、焼成したものである。発熱抵抗体ペーストを焼成すると(C)の有機結着成分が焼失し(A)、(B)成分が残るため、導電成分とガラス成分とを含有する発熱体102が形成される。
【0019】
ここで、(A)の導電成分としては、銀・パラジウム(Ag・Pd)、酸化ルテニウム(RuO)、等の単独もしくは複合で用いられ、0.1[Ω/□]~100[kΩ/□]のシート抵抗値とするのが好適である。また、上記(A)~(C)以外においても本実施形態の特性を損なわない程度の微量であれば他の材料が含まれることは問題ない。
【0020】
<給電用電極・導体パターンの構成>
次に、ヒータ100において発熱体102に電流を流す(通電する)ための回路構成を説明する。図1(b、c)に示すように、ヒータ100は、給電用電極105a,106aと、導体パターン105b,106bと、を有している。また、以下で説明するように、本実施形態では金属製の基板101も発熱体102を発熱させるための電流が流れる回路の一部として構成されている。
【0021】
図1(b、c)において、給電用電極105a,106a及び導体パターン105b,106bは、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)や銀・白金(Ag・Pt)合金、銀・パラジウム(Ag・Pd)合金などを導電成分として含んでいる。給電用電極105a,106a及び導体パターン105b,106bは、発熱抵抗体ペーストと同様に、(A)導電成分、(B)ガラス成分、(C)有機結着成分を混合したペーストを印刷後、焼成することで形成されている。
【0022】
一方の給電用電極105a及び導体パターン105bは、絶縁層103上に形成されている。導体パターン105bは、絶縁層103上において長手方向Xに延びて給電用電極105aと発熱体102の一端とを電気的に接続しており、少なくとも一部を保護層104によって覆われている。これに対し、給電用電極105aの少なくとも一部は保護層104から露出しており、後述の電源回路に接続可能である。給電用電極105a及び導体パターン105bは、発熱体102に通電を行うための第1導電部として機能する。
【0023】
他方の給電用電極106aは、基板101上に直接形成されている。給電用電極106aの少なくとも一部は保護層104から露出しており、後述の電源回路に接続可能である。本実施形態において、2つの給電用電極106aは、発熱体102に対して長手方向Xの同じ側であって、厚さ方向Zにおいて発熱体102と同じ側に配置されている。給電用電極106aは、発熱体102に通電を行うために、第1導電部と共に電源回路に接続される接続部として機能する。
【0024】
他方の導体パターン106bは、長手方向Xにおける発熱体102の他端から絶縁層103の表面に沿って長手方向Xに延び、長手方向Xにおける絶縁層103の端部に沿って屈曲して基板101と接続されている(図1(c)参照)。つまり、導体パターン106bは、発熱体102と、導電性を有する基板101とを電気的に接続する第2導電部として機能する。
【0025】
給電用電極105a,106aと導体パターン105b,106bは、発熱体102に給電するために電流が流れる部材であり、いずれも体積抵抗が発熱体102に比べて十分低く設定される。
【0026】
ここで、前述の発熱抵抗体ペースト、給電用電極ペースト及び導体パターンペーストは、基板101の融点より低い温度で軟化溶融する材質を選択し、かつ、実使用上の温度を鑑みて耐熱性のある材料を選択する必要がある。さらに、給電用電極106aと導体パターン106bは、基板101との必要な密着度に応じ、ガラスフィラーなどを混合させてもよい。
【0027】
上述の絶縁層103,105、保護層104、給電用電極105a,106a及び導体パターン105b,106bの成形方法としては特に限定されないが、一例としてはスクリーン印刷法等で平滑に成形することができる。他にも、蒸着法等を利用して成形してもよい。
【0028】
<ヒータ駆動回路>
図2に本実施形態のヒータ100の駆動回路の構成例を示す。図に示すように、ヒータ100を電源としての商用交流電源200に接続することで、電源電圧を発熱体102へ供給し、発熱体102を発熱させることが可能である。このとき、発熱体102への電力供給は、ヒータ100の給電用電極105a,106a、導体パターン106b,106b及び基板101を介して行われる。
【0029】
また、電源電圧と給電用電極106aとの間に介在するトライアック202の通電/遮断により、発熱体102への通電/遮断を行ってヒータ100の発熱量を制御することが可能である。抵抗203,204は、いずれもトライアック202のためのバイアス抵抗で、フォトトライアックカプラ205は一次・二次間の絶縁を確保しつつ、トライアック202の制御を行うためのデバイスである。
【0030】
CPU209は、温度検知素子としてのサーミスタ210が検知した温度に基づいて、例えば予め設定されている目標温度に近付けるように、トライアック202を制御する。具体的には、温度変化に応じたサーミスタ210の抵抗値変化が抵抗211との分圧として検知され、A/D変換によりデジタル値に変換された温度情報(検知温度信号)としてCPU209に入力される。CPU209は、入力された検知温度信号に基づき、ヒータ駆動指示信号を出力する。ヒータ駆動指示信号は抵抗208を介してトランジスタ207に入力され、トランジスタ207によりフォトトライアックカプラ205がON/OFFされる。そして、発光ダイオード205aの点灯/消灯に応じてトライアック202が通電/遮断されることで、ヒータ100の通電/遮断が行われる。なお、抵抗206は、発光ダイオード205aの電流を制限するための抵抗である。
【0031】
なお、ここに示す駆動回路は一例であり、回路構成の異なる駆動回路を給電用電極105a,106aに接続してヒータ100を作動させてもよい。
【0032】
<実施例1と比較例の比較>
本実施形態の利点を説明するため、図3(a~c)に示す比較例のヒータ300と比較しながら説明する。
【0033】
図3(a)に示すように、比較例におけるヒータ300も本実施形態と同様に、金属製の基板301と、通電により発熱する発熱体302と、発熱体302と基板301とを絶縁する絶縁層303と、発熱体302を保護する保護層304と、を有する。また、製造時の基材の反りを防止するために、発熱体302がある面とは反対側の面にも絶縁層305を有している。
【0034】
本実施形態と異なるのは、図3(b、c)に示すように、比較例は給電用電極306a及び導体パターン306bが全て絶縁層303上に印刷・焼成されている点である。即ち、比較例においては、発熱体302に給電を行うためのヒータ回路(発熱体302、給電用電極305a,306b及び導体パターン305b,306bからなる回路)が全て絶縁層303上に設けられている。基板301は絶縁層303によってヒータ回路から絶縁されているため、給電用電極305a,306aを電源電圧に接続しても基板301には電流が流れない。
【0035】
ここで、図1(a)に示すように、本実施形態における基板101上の回路配置領域の短手幅Wは、発熱体102の短手方向Yの最大幅である短手幅W1に等しく、次の式(1)で表される。
W = W1 (1)
ただし、回路配置領域とは、厚さ方向Zに見た場合にヒータ回路を実装するために基板101上に必要な領域(以下、回路配置領域とする)を指し、短手幅Wとは、回路配置領域の短手方向Yの最大幅である。
【0036】
一方、比較例における基板301上の回路配置領域の短手幅W’は、次の式(2)で表される。ただし、発熱体302の短手方向Yの最大幅をW’1、導体パターン306bの短手方向Yの最大幅をW2、発熱体302と導体パターン306bとの間に製造上必要な距離をW3とする。
W’= W’1 + W2 + W3 (2)
【0037】
本実施形態と比較例における発熱体の短手幅W1,W’1が等しい場合、本実施形態の方が(W2+W3)だけ回路配置領域の短手幅が小さくなることが分かる。これは、比較例では発熱体102に対して短手方向Yに導体パターン306bを並べて配置しているのに対し、本実施形態では金属製の基板101を、導体パターン306bの機能を代替する回路要素として活用しているからである。なお、比較例の構成において、給電用電極306a及び導体パターン306bを発熱体302を挟んで給電用電極305aの反対側に配置して、短手方向Yの小型化を図ることも考えられる。しかし、給電用電極305a,306aが遠く離れていると、ヒータ300に電力を供給する電源回路の接点も遠く離れることになり、接点の配線スペースが必要となって定着装置全体の小型化にはつながらない。
【0038】
ところで、比較例において短手幅W’を小さくしようとすると、W’1やW3を小さくする必要がある。しかし、W’1又はW3を小さく(発熱体302の幅を狭く)すると、過熱による断線の可能性があり、又は断線を防ぐために発熱量の低下を受け入れざるを得ない。これに対し、本実施例によれば、発熱体102の短手幅W1を確保しつつ回路配置領域の短手幅Wを小さく抑えることが可能となり、発熱量の確保とヒータ100の小型化を両立することができる。
【0039】
なお、式(1)では、発熱体102の短手幅W1が給電用電極105a及び導体パターン105bの短手方向Yの最大幅以上であるものとして説明した。通電により発熱する発熱体102の過熱を防ぐため、通常、この条件は満たされる。しかしながら、給電用電極105a又は導体パターン105bの短手方向Yの幅が発熱体102の短手幅W1より大きい場合であっても、そのような回路要素と導体パターン106bが短手方向Yに並ぶ図3(b)の配置をとる必要がないことは同様である。従って、発熱体102の短手幅W1と給電用電極105a及び導体パターン105bの短手幅との大小関係によらず、本実施例によれば発熱量の確保とヒータ100の小型化を両立することができる。
【実施例2】
【0040】
実施例2として、絶縁層に設けられた開口部を介して発熱体と基板とが導通される実施形態を、図4(a~c)を用いて説明する。以下、実施例1と共通の参照符号を付した要素は、実施例1と実質的に同様の構成及び作用を有するものとし、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0041】
図4(a)は、本実施形態のヒータ100Aを短手方向Y及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を長手方向Xに見た断面図である。図1(b)は、ヒータ100Aを厚さ方向Zにおいて発熱体102が配置されている側から見た平面図である。図1(c)は、ヒータ100Aを長手方向X及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を短手方向Yに見た断面図である。
【0042】
図4(b、c)に示すように、実施例1と異なり、発熱体102と基板101を絶縁する絶縁層103には、厚さ方向Zに見た絶縁層103の外縁部の内側に、絶縁層103の表面から基板101まで貫通する開口部401が設けられている。そして、第2導電部としての導体パターン106bは、長手方向Xにおける発熱体102の端部から開口部401を介して基板101まで形成されている。これにより、発熱体102と導電性の基板101とが電気的に接続されている。
【0043】
ここで、実施例1のように絶縁層103の端部に沿って屈曲する導体パターン106b(図1(c))をスクリーン印刷で形成しようとした場合を考える。この場合、絶縁層103の端部に絶縁層103の厚み分の断差があることにより、導体パターン106に十分な膜厚を確保することが難しい場合がある。導体パターン106の膜厚が不足していると、発熱体102と基板101との間に導通不良が発生する懸念がある。
【0044】
これに対し、図4(a~c)に示すように絶縁層103に開口部401を設けて開口部401の内側に導体パターン106bのペーストを塗布するようにすれば、導体パターン106bの印刷形成はより容易になる。従って、絶縁層103の厚み等の条件によらず、導体パターン106bの厚さを確保して、発熱体102と基板101との導通不良が生じる可能性をさらに低減することが可能となる。
【実施例3】
【0045】
実施例3として、給電用電極の配置を変更した実施形態を、図5(a~c)を用いて説明する。以下、実施例1、2と共通の参照符号を付した要素は、実施例1、2と実質的に同様の構成及び作用を有するものとし、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0046】
図5(a)は、本実施形態のヒータ100Bを短手方向Y及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を長手方向Xに見た断面図である。図1(b)は、ヒータ100Bを厚さ方向Zにおいて発熱体102が配置されている側から見た平面図である。図1(c)は、ヒータ100Bを長手方向X及び厚さ方向Zに広がる仮想平面で切断した断面を短手方向Yに見た断面図である。
【0047】
図5(b、c)に示すように、本実施形態では、基板101と接続されている給電用電極506a(接続部)を、実施例1、2とは異なり、ヒータ100Bの発熱体102が設けられている面(図5(a、c)で上側の面)とは異なる面に設けている。図5(a~c)に示す構成例では、発熱体102、給電用電極105a及び導体パターン105b,106bが設けられた面とは厚さ方向Zで反対側の面に給電用電極506aを配置している。
【0048】
ここで、図1(b、c)や図4(b、c)に示す実施例1、2の構成では、発熱体102、給電用電極105a及び導体パターン105b,106bと同じ面に給電用電極106aが配置されていた。そのため、給電用電極106aはこれらの回路要素と長手方向Xに並ぶように配置されており、給電用電極106aの長手方向Xの幅の分、回路配置領域の長手方向Xの幅が大きくなっているとも言えた。
【0049】
これに対し、本実施例では、発熱体102、給電用電極105a及び導体パターン105b,106bとは異なる面に給電用電極106aを配置した。このため、給電用電極106aの長手方向Xの位置を例えば給電用電極105aの長手方向Xの位置とオーバーラップさせることができる(図5(c))。従って、本実施例の構成により、少なくとも給電用電極506aの長手方向Xの最大幅Lの分、基板101の長手方向Xの必要長さが小さくなり、ヒータ100Bのさらなる小型化が可能となる。
【0050】
なお、本実施例では、厚さ方向Zにおいて発熱体102や給電用電極105aとは反対側の基板101の面に給電用電極506aを設けたが、さらに他の面(例えば短手方向Yの側面)に給電用電極506aを設けてもよい。
【実施例4】
【0051】
実施例4として、実施例1で説明したヒータ100を備えた定着装置600について、図6及び図7を用いて説明する。以下、実施例1と共通の参照符号を付した要素は、実施例1と実質的に同様の構成及び作用を有するものとする。
【0052】
図6に示す定着装置600は、記録材Pに転写されたトナー画像をニップ部Nにおいて加熱することで記録材Pに定着させる熱定着方式の像加熱装置である。定着装置600は、定着部材である筒状のフィルム601と、フィルム601の内部空間に配置されたヒータ100と、ヒータ100を保持する保持部材602と、加圧部材としての加圧ローラ30と、を有する。保持部材602に保持されたヒータ100と、ヒータ100に対向する加圧ローラ30とは、フィルム601を介して圧接しており、これによってニップ部Nが形成されている。つまり、ヒータ100及び保持部材602は、本実施例におけるニップ部形成ユニットとして機能する。
【0053】
フィルム601は、エンドレスベルトやエンドレスフィルムとも称される筒状に形成された耐熱フィルムであり、少なくともベース層を有している。ベース層の材質は、ポリイミド等の耐熱樹脂、又はステンレス等の金属である。また、フィルム601の表面には耐熱ゴム等の弾性層を設けてもよい。加圧ローラ604は、鉄やアルミニウム等の材質の芯金605と、シリコーンゴム等の材質の弾性層606を有する。
【0054】
ヒータ100は、耐熱樹脂製の保持部材602に保持されている。図示した構成例において、ヒータ100は、ヒータ100の長手方向Xがフィルム601及び加圧ローラ30の回転軸線の方向と略平行で、短手方向Yがニップ部Nにおける記録材Pの搬送方向と略平行となるように配置されている。また、厚さ方向Zに関して発熱体102が配置されている側のヒータ100の表面(保護層104)がフィルム601の内面と接触するように配置されている。
【0055】
保持部材602は、フィルム601の回転を案内するガイド機能も有している。保持部材602は、定着装置600の枠体に固定されたステー603から不図示のバネによって図中下向きの付勢力を受けている。このバネの付勢力により、ニップ部Nにはトナー画像を加圧する圧力が発生する。
【0056】
加圧ローラ604は、不図示の駆動源から動力を受けて図中反時計回りに回転する。加圧ローラ604が回転することによって、フィルム601が従動して図中時計回りに回転する。また、トナー画像が形成された記録材Pがニップ部Nに到達するまでにヒータ100への通電が開始され、記録材Pのニップ部Nの通過中はニップ部Nの温度がトナー画像の熱定着に適した目標温度に維持される。
【0057】
図7は、画像形成装置の一例として、電子写真技術を用いたレーザビームプリンタ(以下、単にプリンタ700とする)を示している。プリンタ700は、画像形成動作の実行指示を受けると、スキャナユニット3が画像情報に応じたレーザ光を像担持体としての感光体1に照射する。帯電ローラ2によって所定の極性に予め帯電させられた感光体1の表面がレーザ光によって走査されることで、感光体1の表面には画像情報に応じた静電潜像が形成される。その後、現像器4が感光体1にトナーを供給し、静電潜像を現像してトナー画像として可視化する。
【0058】
感光体1の矢印R1方向への回転により、感光体1に担持されているトナー画像は転写部である転写ニップに到達する。転写ニップは、感光体1と、転写手段としての転写ローラ5との間に形成されるニップ部である。転写ローラ5に電圧が印加されることで、カセット6からピックアップローラ7によって給送されてくる記録材Pに対し、トナー画像が転写される。転写ニップを通過した感光体1の表面はクリーナ8でクリーニングされる。トナー画像が転写された記録材Pは、定着装置600へ向けて搬送される。
【0059】
そして、図6に示す定着装置600は、ニップ部Nにおいて記録材Pを挟持して搬送しながら記録材上のトナー画像に熱及び圧力を加える定着処理を施す。これによってトナーが溶融し、その後冷えて固まることで、記録材Pに定着した定着画像が得られる。
【0060】
定着装置600を通過した記録材Pは、排出ローラ10(図7)によってトレイ11に排出される。なお、記録材Pとして、普通紙及び厚紙等の紙、プラスチックフィルム、布、コート紙のような表面処理が施されたシート材、封筒やインデックス紙等の特殊形状のシート材等、サイズ及び材質の異なる多様なシートを使用可能である。また、ここでは感光体1から記録材Pにトナー画像を直接転写する方式を挙げたが、感光体に形成したトナー画像を中間転写ベルト等の中間転写体を介して記録材に転写する方式の画像形成装置に対して以下で説明する技術を適用してもよい。
【0061】
このように、本実施形態のヒータ100を定着装置600に使用することにより、定着装置600の小型化、ひいてはプリンタ700の小型化を図ることが可能となる。
【0062】
なお、実施例1のヒータ100に代えて実施例2,3のヒータ100A,100Bを定着装置600に用いてもよい。また、図6に示した構成例に限らず、厚さ方向Zに関して発熱体102が配置されているヒータ100の面とは反対側の面(絶縁層105)がフィルム601の内面と接触するように配置してもよい。
【0063】
また、図6の定着装置600では、ヒータ100がフィルム601の内面に直接接触しているが、ヒータ100とフィルム601内面との間に、熱伝導性が高い板状又はシート状の部材(例えば材質が合金鉄やアルミのシート状の部材)を配置してもよい。つまり、ヒータ100がフィルム601の内面と摺動する摺動部材を介してフィルムを加熱する構成のニップ部形成ユニットを用いてもよい。
【0064】
(その他の実施形態)
以上、例示的な実施形態により本開示に係る技術を説明したが、ここに挙げた実施形態は例示に過ぎない。即ち、実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、配置並びに装置の動作態様等は、本技術が適用される条件により適宜変更されるべきものであり、特許請求の範囲に記載された内容は実施形態に限定して解釈すべきものではない。
【符号の説明】
【0065】
100,100A,100B…ヒータ/101…基板/102…発熱体/103…絶縁層/105a,105b…第1導電部(給電用電極、導体パターン)/106b…第2導電部(導体パターン)/401…開口部/506a…接続部(給電用電極)/600…定着装置/601…フィルム/602…保持部材/604…加圧部材(加圧ローラ)/700…画像形成装置(プリンタ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7