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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】水硬性組成物用分散剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20241015BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20241015BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C04B24/26 E
C04B28/02
C04B24/26 B
C08F220/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020122056
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018729
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】指原 慶彰
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭介
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-136389(JP,A)
【文献】特開2017-001897(JP,A)
【文献】セメント粒子の分散性に及ぼすポリカルボン酸ポリマーの分子構造の影響,土木学会論文集,日本,2000年11月20日,2000巻, 662号,p. 17-27,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/2000/662/2000_662_17/_article/-char/ja
【文献】コンクリート便覧(第二版),日本,1996年02月15日,p. 58-59
【文献】コンクリート用骨材としての山砂に関する一実験,土木学会年次学術講演会講演集 第5部,1970年,p. 277-278,http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1970/25-05-0277.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00
C08F 301/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08F 283/01
C08F 290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す(A)成分と、下記に示す(B)成分と、任意に下記に示す(C)成分とを含有する、粘土含有水硬性組成物用分散剤であって、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物用分散剤。
<(A)成分>
下記式(A1)で表される構成単位(A1)及び下記式(A2)で表される構成単位(A2)を有する共重合体((B)成分及び(C)成分を除く)であって、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が5質量%以上23質量%未満であり、重量平均分子量が10000以上100000以下である、共重合体
【化1】

〔式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3aは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、naは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
<(B)成分>
下記式(B1)で表される構成単位(B1)及び下記式(B2)で表される構成単位(B2)を有する共重合体であって、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が5質量%未満であり、重量平均分子量が50000以上100000以下である、共重合体
【化2】

〔式中、R1b及びR2bは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3bは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、nbは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、100以上150以下の数である。〕
<(C)成分>
下記式(C1)で表される構成単位(C1)及び下記式(C2)で表される構成単位(C2)を有する共重合体であって、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上65質量%以下であり、重量平均分子量が20000以上50000以下である、共重合体
【化3】

〔式中、R1c及びR2cは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3cは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、ncは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【請求項2】
(B)成分と(C)成分とを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量及び(C)成分の含有量の少なくとも一方の割合が、1質量%以上である、請求項1に記載の粘土含有水硬性組成物用分散剤。
【請求項3】
水硬性粉体と、骨材と、粘土と、水と、下記に示す(A)成分と、下記に示す(B)成分及び下記に示す(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を含有する、粘土含有水硬性組成物であって、
骨材の含有量に対する粘土の含有量の割合が1質量%以上5質量%以下であり、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物。
<(A)成分>
下記式(A1)で表される構成単位(A1)及び下記式(A2)で表される構成単位(A2)を有する共重合体((B)成分及び(C)成分を除く)であって、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が5質量%以上23質量%未満であり、重量平均分子量が10000以上100000以下である、共重合体
【化4】

〔式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3aは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、naは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
<(B)成分>
下記式(B1)で表される構成単位(B1)及び下記式(B2)で表される構成単位(B2)を有する共重合体であって、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が5質量%未満であり、重量平均分子量が50000以上100000以下である、共重合体
【化5】

〔式中、R1b及びR2bは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3bは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、nbは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、100以上150以下の数である。〕
<(C)成分>
下記式(C1)で表される構成単位(C1)及び下記式(C2)で表される構成単位(C2)を有する共重合体であって、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上65質量%以下であり、重量平均分子量が20000以上50000以下である、共重合体
【化6】

〔式中、R1c及びR2cは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3cは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、ncは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【請求項4】
(B)成分と(C)成分とを含有し、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量及び(C)成分の含有量の少なくとも一方の割合が、1質量%以上である、請求項3に記載の粘土含有水硬性組成物。
【請求項5】
水硬性粉体と、粘土を含有する骨材と、水と、下記に示す(A)成分と、下記に示す(B)成分及び下記に示す(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を混合する、粘土含有水硬性組成物の製造方法であって、
骨材が粘土を1質量%以上5質量%以下含有し、
(A)成分の混合量と(B)成分の混合量の(C)成分の混合量の合計に対する、(B)成分の混合量と(C)成分の混合量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物の製造方法。
<(A)成分>
下記式(A1)で表される構成単位(A1)及び下記式(A2)で表される構成単位(A2)を有する共重合体((B)成分及び(C)成分を除く)であって、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が5質量%以上23質量%未満であり、重量平均分子量が10000以上100000以下である、共重合体
【化7】

〔式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3aは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、naは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
<(B)成分>
下記式(B1)で表される構成単位(B1)及び下記式(B2)で表される構成単位(B2)を有する共重合体であって、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が5質量%未満であり、重量平均分子量が50000以上100000以下である、共重合体
【化8】

〔式中、R1b及びR2bは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3bは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、nbは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、100以上150以下の数である。〕
<(C)成分>
下記式(C1)で表される構成単位(C1)及び下記式(C2)で表される構成単位(C2)を有する共重合体であって、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上65質量%以下であり、重量平均分子量が20000以上50000以下である、共重合体
【化9】

〔式中、R1c及びR2cは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3cは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、ncは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【請求項6】
(B)成分と(C)成分とを混合し、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量の(C)成分の混合量の合計に対する、(B)成分の混合量及び(C)成分の混合量の少なくとも一方の割合が、1質量%以上である、請求項5に記載の粘土含有水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート等の水硬性組成物に対して、流動性を付与するためにナフタレン系、メラミン系、アミノスルホン酸系、ポリカルボン酸系等の混和剤が用いられている。分散剤等の混和剤については、水硬性組成物に対する流動性の付与、流動性の保持性(流動保持性)、硬化遅延の防止など、種々の性能が求められ、ポリカルボン酸系混和剤(分散剤)についてもこうした観点から改善が提案されている。
【0003】
例えば、流動性や流動保持性などを考慮して、ポリカルボン酸系重合体を複数組み合わせて用いることが提案されている。
特許文献1には、ポリカルボン酸系共重合体を含有する水硬性粉体用分散剤であって、ポリカルボン酸系共重合体として、アルキレンオキシ基の平均付加モル数が15以上80以下である単量体(1a)と不飽和カルボン酸系単量体(b)とを構成単量体として所定量含む共重合体(I)と、アルキレンオキシ基の平均付加モル数が100以上300以下である(2a)と不飽和カルボン酸系単量体(b)とを構成単量体として所定量含む共重合体(II)とを含有し、ポリカルボン酸系共重合体中、共重合体(I)と共重合体(II)の合計の割合が75質量%以上であり、共重合体(I)における単量体(1a)と単量体(b)の合計に対する単量体(b)のモル%(X1b)と、共重合体(II)における単量体(2a)と単量体(b)の合計に対する単量体(b)のモル%(X2b)の差の絶対値が15以上50以下であり、共重合体(I)/共重合体(II)の質量比が50/50以上95/5以下である、水硬性粉体用分散剤が開示されている。
また、特許文献2には、(メタ)アクリル酸等の特定の単量体(A)とポリオキシアルキレン基を有するエチレン系不飽和カルボン酸誘導体等の特定の単量体(B)とを特定の重量比及び特定のモル比の両方を満たすように共重合させて得られた共重合体からなるセメント分散剤用効力増強剤、並びに、当該セメント分散剤用効力増強剤とセメント分散剤とを所定の重量比で含有するセメント分散剤組成物が開示されている。
【0004】
また、コンクリートやモルタルに用いる骨材の影響を考慮して、ポリカルボン酸系分散剤を改良する技術が提案されている。
特許文献3には、粘土含有骨材を含有する水和性セメント系組成物が示す粘土活性およびスランプ保持を改善する方法であって、粘土を含有していて前記粘土がポリカルボキシレート系分散剤を吸収するか或は他の様式でそれの用量効率を低下させるように作用する骨材と一緒に少なくとも1種のカチオン性化合物および少なくとも1種のポリ-ヒドロキシルもしくはヒドロキシルカルボン酸もしくはこれの塩を組み合わせることを含んで成る方法が開示されている。
また、特許文献4には、一般式(A1)で表される特定の単量体A1とカルボン酸基及び/又はリン酸基を有する単量体とを重合して得られる共重合体A(共重合体Bを除く)と、一般式(B1)で表される特定の単量体B1と2-ヒドロキシエチルアクリレートとを構成単量体中95重量%以上で重合して得られる重量平均分子量6000~27000の共重合体Bと、を含有する水硬性組成物用混和剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-1897号公報
【文献】特表2001-316151号公報
【文献】特開2011-136844号公報
【文献】特開2013-133241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリカルボン酸系分散剤は、ナフタレン系分散剤などに比べて添加量あたりの水硬性組成物硬化体の強度が高いが、一方で、骨材に含まれる粘土成分の影響を受けやすい。一般に、ポリカルボン酸系分散剤は、骨材中の粘土の量により、水硬性組成物の初期流動性や流動保持性が変動しやすい。
コンクリートやモルタルなどの水硬性組成物に用いる骨材は、採取場所により粘土量が異なっており、また、コンクリート工場などでは異なる採取場所から入手した様々な種類の骨材を組み合わせて使用することが多く、骨材中の粘土量にはバラツキがあるのが実状である。コンクリートやモルタルなどの水硬性組成物では、単位容積中に骨材の占める割合が比較的大きいため、ポリカルボン酸系分散剤も骨材中の粘土の影響を受けやすい。その結果、作業性が安定せず、また、目的とする流動性を得るための必要添加量にもぶれが生じることがあった。
【0007】
本発明は、粘土を含む骨材を用いた場合でも、水硬性組成物に優れた流動性を付与できる、ポリカルボン酸系の水硬性組成物用分散剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記に示す(A)成分と、下記に示す(B)成分及び下記に示す(C)成分から選ばれる1種以上の成分とを含有する、粘土含有水硬性組成物用分散剤であって、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物用分散剤に関する。
<(A)成分>
下記式(A1)で表される構成単位(A1)及び下記式(A2)で表される構成単位(A2)を有する共重合体((B)成分及び(C)成分を除く)であって、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が5質量%以上23質量%未満である、共重合体
【0009】
【化1】
【0010】
〔式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3aは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、naは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
<(B)成分>
下記式(B1)で表される構成単位(B1)及び下記式(B2)で表される構成単位(B2)を有する共重合体であって、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が5質量%未満であり、重量平均分子量が50000以上100000以下である、共重合体
【0011】
【化2】
【0012】
〔式中、R1b及びR2bは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3bは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、nbは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、100以上150以下の数である。〕
<(C)成分>
下記式(C1)で表される構成単位(C1)及び下記式(C2)で表される構成単位(C2)を有する共重合体であって、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上65質量%以下であり、重量平均分子量が20000以上50000以下である、共重合体
【0013】
【化3】
【0014】
〔式中、R1c及びR2cは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3cは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、ncは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【0015】
また、本発明は、水硬性粉体と、骨材と、粘土と、水と、前記(A)成分と、前記(B)成分及び前記(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を含有する、粘土含有水硬性組成物であって、
骨材の含有量に対する粘土の含有量の割合が1質量%以上5質量%以下であり、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、水硬性粉体と、粘土を含有する骨材と、水と、前記(A)成分と、前記(B)成分及び前記(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を混合する、粘土含有水硬性組成物の製造方法であって、
骨材が粘土を1質量%以上5質量%以下含有し、
(A)成分の混合量と(B)成分の混合量の(C)成分の混合量の合計に対する、(B)成分の混合量と(C)成分の混合量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、本発明は、粘土を含む骨材を用いた場合でも、水硬性組成物に優れた流動性を付与できる、ポリカルボン酸系の水硬性組成物用分散剤が提供される。また、本発明によれば、粘土を含む骨材を用いた場合でも、優れた流動性を示す水硬性組成物及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<粘土含有水硬性組成物用分散剤>
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、(A)成分と、(B)成分及び(C)成分から選ばれる1種以上の成分とを、所定の割合で含有する。
【0019】
(A)成分は、下記式(A1)で表される構成単位(A1)及び下記式(A2)で表される構成単位(A2)を有する共重合体((B)成分及び(C)成分を除く)であって、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が5質量%以上23質量%未満である、共重合体である。
【0020】
【化4】
【0021】
〔式中、R1a及びR2aは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3aは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、naは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【0022】
式(A1)中、R1aは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(A1)中、Mは、水素原子またはナトリウムが好ましい。
【0023】
構成単位(A1)は、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩から選ばれる単量体を用いて得ることができる。塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(例えば炭素数2以上8以下)アンモニウム塩などが挙げられる。
【0024】
式(A2)中、R2aは、メチル基が好ましい。
式(A2)中、R3aは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(A2)中、Xは、直接結合手又はカルボニル基が好ましい。
式(A2)中、naは、エチレンオキシ基の平均付加モル数であり、5以上、好ましくは7以上、そして、150以下、好ましくは120以下である。
【0025】
構成単位(A2)は、対応する単量体、例えば、(1)ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル、(2)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル、(3)ポリエチレングリコールと、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、又はイソプレニルアルコールとのモノエーテル、(4)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアリルアルコール又はメタリルアルコールとのエーテル、及び(5)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アリルアルコール又はメタリルアルコールへのエチレンオキシド付加物から選ばれる単量体を用いて得ることができる。
【0026】
(A)成分の共重合体は、初期流動性確保の観点から、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が、質量基準で、5質量%以上、好ましくは8質量%以上、そして、23質量%未満、好ましくは20質量%以下、より好ましくは19質量%以下、更に好ましくは18質量%以下である。この割合は、〔構成単位(A1)の質量%/[構成単位(A1)の質量%+構成単位(A2)の質量%]〕×100で求められる。
また、(A)成分の共重合体は、初期流動性確保の観点から、構成単位(A1)と構成単位(A2)の合計に対する構成単位(A1)の割合が、モル基準で、好ましくは40モル%以上、より好ましくは45モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは93モル%以下、更に好ましくは91モル%以下である。この割合は、〔構成単位(A1)のモル%/[構成単位(A1)のモル%+構成単位(A2)のモル%]〕×100で求められる。
【0027】
(A)成分の共重合体は、構成単位(A1)、構成単位(A2)以外の構成単位〔以下、構成単位(A3)ともいう〕を有していてもよい。構成単位(A3)としては、例えば、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル(HEMA-P)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などが挙げられる。
【0028】
(A)成分の共重合体は、流動性確保の観点から、全構成単位中、構成単位(A1)及び構成単位(A2)の割合が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0029】
(A)成分の共重合体は、分散性確保の観点から、重量平均分子量が、好ましくは10000以上、より好ましくは30000以上、そして、好ましくは100000以下、より好ましくは80000以下である。この重量平均分子量は、高速GPC(HLC-8320GPC) 東ソー株式会社、検出器:RI、カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(アニオン)、移動相:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1、流量:1.0ml/min.、カラム温度:40℃、標準物質:ポリエチレングリコール)で測定されたものである。
【0030】
(B)成分は、下記式(B1)で表される構成単位(B1)及び下記式(B2)で表される構成単位(B2)を有する共重合体であって、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が5質量%未満であり、重量平均分子量が50000以上100000以下である、共重合体である。
【0031】
【化5】
【0032】
〔式中、R1b及びR2bは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3bは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、nbは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、100以上150以下の数である。〕
【0033】
式(B1)中、R1bは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(B1)中、Mは、水素原子またはナトリウムが好ましい。
【0034】
構成単位(B1)は、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩から選ばれる単量体を用いて得ることができる。塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(例えば炭素数2以上8以下)アンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
式(B2)中、R2bは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(B2)中、R3bは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(B2)中、Xは、直接結合手又はカルボニル基が好ましい。
式(B2)中、nbは、エチレンオキシ基の平均付加モル数であり、100以上、好ましくは110以上、そして、150以下、好ましくは130以下である。
【0036】
構成単位(B2)は、対応する単量体、例えば、(1)ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル、(2)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル、(3)ポリエチレングリコールと、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、又はイソプレニルアルコールとのモノエーテル、(4)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアリルアルコール又はメタリルアルコールとのエーテル、及び(5)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アリルアルコール又はメタリルアルコールへのエチレンオキシド付加物から選ばれる単量体を用いて得ることができる。
【0037】
(B)成分の共重合体は、粘土への吸着性の観点から、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が、質量基準で、5質量%未満であり、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、そして、好ましくは0.1質量%以上である。この割合は、〔構成単位(B1)の質量%/[構成単位(B1)の質量%+構成単位(B2)の質量%]〕×100で求められる。
また、(B)成分の共重合体は、粘土への吸着性の観点から、構成単位(B1)と構成単位(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が、モル基準で、好ましくは70モル%以下、より好ましくは65モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。この割合は、〔構成単位(B1)のモル%/[構成単位(B1)のモル%+構成単位(B2)のモル%]〕×100で求められる。
【0038】
(B)成分の共重合体は、構成単位(B1)、構成単位(B2)以外の構成単位〔以下、構成単位(B3)ともいう〕を有していてもよい。構成単位(B3)としては、例えば、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル(HEMA-P)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が挙げられる。
【0039】
(B)成分の共重合体は、粘土への吸着性の観点から、全構成単位中、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の割合が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0040】
(B)成分の共重合体は、粘土への吸着性の観点から、重量平均分子量が、50000以上、好ましくは60000以上、そして、100000以下、より好ましくは90000以下である。この重量平均分子量は、(A)成分と同様に測定されたものである。
【0041】
(C)成分は、下記式(C1)で表される構成単位(C1)及び下記式(C2)で表される構成単位(C2)を有する共重合体であって、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上65質量%以下であり、重量平均分子量が20000以上50000以下である、共重合体である。
【0042】
【化6】
【0043】
〔式中、R1c及びR2cは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、R3cは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基を示し、Mは、水素原子又は塩となる対イオンを示し、Xは、炭素数1以上6以下の2価のアルキレン基、直接結合手又はカルボニル基を示し、ncは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、5以上150以下の数である。〕
【0044】
式(C1)中、R1cは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(C1)中、Mは、水素原子またはナトリウムが好ましい。
構成単位(C1)は、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの塩から選ばれる単量体を用いて得ることができる。塩は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(例えば炭素数2以上8以下)アンモニウム塩などが挙げられる。
【0045】
式(C2)中、R2cは、水素原子またはメチル基が好ましい。
式(C2)中、R3cは、水素原子またはナトリウムが好ましい。
式(C2)中、Xは、直接結合手又はカルボニル基が好ましい。
式(C2)中、ncは、エチレンオキシ基の平均付加モル数であり、5以上、好ましくは8以上、そして、150以下、好ましくは130以下である。
【0046】
構成単位(C2)は、対応する単量体、例えば、(1)ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル、(2)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル、(3)ポリエチレングリコールと、ビニルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、又はイソプレニルアルコールとのモノエーテル、(4)メトキシポリエチレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールとアリルアルコール又はメタリルアルコールとのエーテル、及び(5)アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アリルアルコール又はメタリルアルコールへのエチレンオキシド付加物から選ばれる単量体を用いて得ることができる。
【0047】
(C)成分の共重合体は、セメントへの吸着性の観点から、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が23質量%以上、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、そして、65質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。この割合は、〔構成単位(C1)の質量%/[構成単位(C1)の質量%+構成単位(C2)の質量%]〕×100で求められる。
また、(C)成分の共重合体は、セメントへの吸着性の観点から、構成単位(C1)と構成単位(C2)の合計に対する構成単位(C1)の割合が、モル基準で、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上、そして、好ましくは99モル%以下、より好ましくは98モル%以下、更に好ましくは97モル%以下である。この割合は、〔構成単位(C1)のモル%/[構成単位(C1)のモル%+構成単位(C2)のモル%]〕×100で求められる。
【0048】
(C)成分の共重合体は、構成単位(C1)、構成単位(C2)以外の構成単位〔以下、構成単位(C3)ともいう〕を有していてもよい。構成単位(C3)としては、例えば、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル(HEMA-P)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、が挙げられる。
【0049】
(C)成分の共重合体は、粘土への吸着性の観点から、全構成単位中、構成単位(C1)及び構成単位(C2)の割合が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0050】
(C)成分の共重合体は、分散性確保の観点から、重量平均分子量が、好ましくは20000以上、より好ましくは25000以上、そして、粘土への吸着抑制の観点から好ましくは50000以下、より好ましくは40000以下である。この重量平均分子量は、(A)成分と同様に測定されたものである。
【0051】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である。本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、(A)成分を含有し、且つ(B)成分及び/又は(C)成分を含有する。
【0052】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、粘土への吸着と粘土とセメントのヘテロ凝集抑制の観点から、当該分散剤中の(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上、好ましくは7質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。この割合(質量%)は、〔[(B)成分の含有量+(C)成分の含有量]/[(A)成分の含有量+(B)成分の含有量+(C)成分の含有量]〕×100で求められる。
【0053】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤が、(B)成分と(C)成分の両方を含有する場合、それらの合計が前記割合を満たせばよい。本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤が、(B)成分と(C)成分の両方を含有する場合、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量及び(C)成分の含有量の少なくとも一方の割合は、1質量%以上、更に3質量%以上であってよい。
【0054】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、任意成分として、遅延剤、硬化促進剤、AE剤、膨張剤、起泡剤、増粘剤、流動化剤、発泡剤、防水剤、消泡剤などの成分〔(A)~(C)成分に該当するものを除く〕を含有することができる。
【0055】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、水を含有することができる。本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、液体組成物であってもよい。
【0056】
本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤は、粘土を含有する水硬性組成物に用いられる。粘土としては、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリンライトが挙げられる。粘土は、例えば、骨材などの水硬性組成物の製造原料に付随して水硬性組成物中に混入する。
【0057】
<粘土含有水硬性組成物>
本発明は、水硬性粉体と、骨材と、粘土と、水と、前記(A)成分と、前記(B)成分及び前記(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を含有する、粘土含有水硬性組成物であって、
骨材の含有量に対する粘土の含有量の割合が1質量%以上5質量%以下であり、
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物を提供する。
【0058】
本発明の粘土含有水硬性組成物には、本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、本発明の粘土含有水硬性組成物における、(A)成分、(B)成分、(C)成分の具体例及び好ましい態様なども、本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤と同じである。また、本発明の粘土含有水硬性組成物における、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合の好ましい範囲も、本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤と同じである。
【0059】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、分散性確保のための粘土吸着及びヘテロ凝集抑制の観点から、当該組成物中の(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の(C)成分の含有量の合計に対する、(B)成分の含有量と(C)成分の含有量の合計の割合が、5質量%以上、好ましくは7質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。
【0060】
水硬性粉体とは水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポソラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。ここで、水硬性粉体が、セメントなどの水和反応により硬化する物性を有する粉体の他、ポゾラン作用を有する粉体、潜在水硬性を有する粉体、及び石粉(炭酸カルシウム粉末)から選ばれる粉体を含む場合、本発明では、それらの量も水硬性粉体の量に算入する。また、水和反応により硬化する物性を有する粉体が、高強度混和材を含有する場合、高強度混和材の量も水硬性粉体の量に算入する。これは、水硬性粉体の質量が関係する質量部や質量比などにおいても同様である。
【0061】
骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JISA0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0062】
本発明の(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分とを所定条件で組み合わせて用いることにより、粘土を含む骨材を用いても、あるいは、骨材中の粘土の含有量が変動しても、安定した流動性を水硬性組成物に付与することができる。そのため、骨材として、粘土を含有する骨材を用いることができる。粘土を含有する骨材は、例えば、粘土の含有量が、骨材中、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。本発明では、JIS A 1103で測定された骨材中の微粒分量を、骨材中の粘土の含有量とすることができる。
【0063】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、流動性確保の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分を、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、更により好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、更により好ましくは0.5質量部以下含有する。
【0064】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、粘土への犠牲吸着能の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、(B)成分を、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、更により好ましくは0.005質量部以上、そして、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.08質量部以下、更により好ましくは0.05質量部以下含有する。
【0065】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、ヘテロ凝集抑制の観点から、水硬性粉体100質量部に対して、(C)成分を、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、更により好ましくは0.005質量部以上、そして、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.08質量部以下、更により好ましくは0.05質量部以下含有する。
【0066】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)、通常W/Pと略記されるが、水硬性粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が、強度発現性と作業性の観点から、好ましくは15%以上、より好ましくは25%以上、そして、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下である。
【0067】
粘土含有水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、コンクリート1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、粘土含有水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m以上、より好ましくは600kg/m以上、更に好ましくは700kg/m以上であり、そして、好ましくは1,000kg/m以下、より好ましくは900kg/m以下である。
粘土含有水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m以上、より好ましくは900kg/m以上、更に好ましくは1,000kg/m以上であり、そして、好ましくは2,000kg/m以下、より好ましくは1,800kg/m以下、更に好ましくは1,700kg/m以下である。
【0068】
本発明の粘土含有水硬性組成物は、任意成分として、遅延剤、硬化促進剤、AE剤、膨張剤、起泡剤、増粘剤、流動化剤、発泡剤、防水剤、消泡剤などの成分〔(A)~(C)成分に該当するものを除く〕を含有することができる。
【0069】
本発明の粘土含有水硬性組成物を、公知の方法で硬化させることで硬化体を得ることができる。水硬性組成物の硬化は、硬化体の用途、形状などを考慮して実施できる。
【0070】
<粘土含有水硬性組成物の製造方法>
本発明は、水硬性粉体と、粘土を含有する骨材と、水と、前記(A)成分と、前記(B)成分及び前記(C)成分から選ばれる1種以上の成分と、を混合する、粘土含有水硬性組成物の製造方法であって、
骨材が粘土を1質量%以上5質量%以下含有し、
(A)成分の混合量と(B)成分の混合量の(C)成分の混合量の合計に対する、(B)成分の混合量と(C)成分の混合量の合計の割合が、5質量%以上20質量%以下である、
粘土含有水硬性組成物の製造方法を提供する。
【0071】
本発明の粘土含有水硬性組成物の製造方法には、本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤、及び粘土含有水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。本発明の粘土含有水硬性組成物の製造方法に用いる水硬性粉体、骨材、(A)成分、(B)成分、(C)成分、任意成分の具体例、好ましい態様などは、本発明の水硬性組成物用添加剤及び水硬性組成物と同じである。また、本発明の粘土含有水硬性組成物用分散剤と粘土含有水硬性組成物における、各成分の含有量は混合量に置き換えて、好ましい範囲を本発明の粘土含有水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【0072】
本発明の粘土含有水硬性組成物の製造方法では、粘土への吸着とヘテロ凝集抑制の観点から、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量の(C)成分の混合量の合計に対する、(B)成分の混合量と(C)成分の混合量の合計の合計の割合が、5質量%以上、好ましくは7質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは15質量%以下である。
【0073】
本発明の粘土含有水硬性組成物の製造方法は、成分を混合する順序に縛られるものではないが、より手軽に高い効果を得る方法として、例えば、水硬性粉体と粘土を含有する骨材とを混合し、次いで、(A)成分、(B)及び/又は(C)成分並びに水を含有する混練液を混合する方法が挙げられる。例えば、水硬性粉体と粗骨材と細骨材とを所定時間、例えば5秒以上60秒秒以下、混合し、(A)成分、(B)及び/又は(C)成分並びに水を含む混練液を混合する方法が挙げられる。混合は、公知のミキサーで行うことができる。前記混練液は、水溶液又は水懸濁液であってよい。
【0074】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、(A)成分、(B)成分、(C)成分を、水硬性粉体に対して、それぞれ、本発明の粘土含有水硬性組成物で述べた範囲となるように混合することができる。
すなわち、本発明の水硬性組成物の製造方法では、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分を、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、更により好ましくは0.05質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、更により好ましくは0.5質量部以下混合する。
また、本発明の水硬性組成物の製造方法では、水硬性粉体100質量部に対して、(B)成分を、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、更により好ましくは0.005質量部以上、そして、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.08質量部以下、更により好ましくは0.05質量部以下混合する。
また、本発明の水硬性組成物の製造方法では、水硬性粉体100質量部に対して、(C)成分を、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、更により好ましくは0.005質量部以上、そして、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.08質量部以下、更により好ましくは0.05質量部以下混合する。
【0075】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、意成分として、遅延剤、硬化促進剤、AE剤、膨張剤、起泡剤、増粘剤、流動化剤、発泡剤、防水剤、消泡剤などの成分〔(A)~(C)成分に該当するものを除く〕を混合することができる。
【0076】
また、本発明の水硬性組成物の製造方法では、施工性の観点から、水と水硬性粉体とを、水/水硬性粉体比(質量%)が、好ましくは15%以上、より好ましくは25%以上、そして、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下となるように混合する。
【実施例
【0077】
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分として以下のものを用いた。(D)成分は、(A)成分、(B)成分、(C)成分以外の共重合体である。
【0078】
<(A)成分>
・A-1:アクリル酸/メタリルエーテル(55)=82/18(モル%)=12.0/88.0(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量40000
・A-2:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=80/20(モル%)=6.0/94.0(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量53000
・A-3:アクリル酸/MEPEG(55)エステル=82/18(モル%)=12.0/88.0(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量50000
・A-4:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=90/10(モル%)=12.5/87.5(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量39000
・A-5:メタクリル酸/MEPEG(9)エステル=47/53(モル%)=13.3/86.7(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量70000
【0079】
<(B)成分>
・B-1:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=65/35(モル%)=2.9/97.1(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量60000
【0080】
<(C)成分>
・C-1:メタクリル酸/MEPEG(9)エステル=90/10(モル%)=60.9/39.1(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量36000
・C-2:メタクリル酸/MEPEG(9)エステル=80/20(モル%)=41.0/59.0(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量37000
・C-3:メタクリル酸/MEPEG(9)エステル=75/25(モル%)=34.2/65.8(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量35000
・C-4:メタクリル酸/MEPEG(9)エステル=70/30(モル%)=28.8/71.2(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量34000
・C-5:メタクリル酸/MEPEG(23)エステル=90/10(モル%)=41.1/58.9(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量31000
・C-6:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=95/5(モル%)=23.2/76.8(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量33000
・C-7:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=95/5(モル%)=23.2/76.8(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量25000
【0081】
<(D)成分>
・D-1:メタクリル酸/MEPEG(23)エステル=40/60(モル%)=4.9/95.1(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量45000
・D-2:メタクリル酸/MEPEG(120)エステル=95/5(モル%)=23.2/76.8(質量%)の共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量64000
【0082】
上記各共重合体の単量体は、以下のものである。
・メタリルエーテル(55):メタリルアルコールのエチレンオキシド付加物(平均付加モル数55)
・MEPEG(9)エステル:メトキシポリエチレングリコール(9)モノメタクリレート(かっこ内の数字は、エチレンオキシドの平均付加モル数である。以下同様)
・MEPEG(23)エステル:メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート
・MEPEG(55)エステル:メトキシポリエチレングリコール(23)モノメタクリレート
・MEPEG(120)エステル:メトキシポリエチレングリコール(120)モノメタクリレート
【0083】
<製造例1:共重合体A-1の製造>
共重合体A-1を次のように製造した。
撹拌機付きガラス製反応容器にメタリルエーテル(55)を215.9gと水136.7gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。その後、過酸化水素(35%)を0.92g添加した。アクリル酸34.57gを34.6gの水を混ぜ合わせたものと、3-メルカプトプロピオン酸1.63gを水18.0gに混ぜたもの、の2者をそれぞれ3.0時間かけて、また、L-アスコルビン酸0.42gを水41.28gに溶解したものを3.5時間かけて前記容器内に滴下した。その後、1時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に48%水酸化ナトリウム水溶液15.98gで中和し、重量平均分子量40000の共重合体A-1と水とを含む反応生成物を得た。
【0084】
<製造例2:共重合体C-7の製造>
共重合体C-7を次のように製造した。
撹拌機付きガラス製反応容器に水410.1gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。MEPEG(120)エステルとメタクリル酸を含む水溶液432.86g(有効分60.85質量%、水分39.15質量%、MEPEG(120)エステルの含有量222.37g、メタクリル酸の含有量12.84g)とメタクリル酸を54.38gと3-メルカプトプロピオン酸9.16gを混合溶解したもの、過硫酸アンモニウム4.69gを水18.75gに溶解したもの、の2者を、それぞれ1.5時間かけて、前記容器内に滴下した。次に過硫酸アンモニウム3.75gを水15.00gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後、1時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に48%水酸化ナトリウム水溶液48.56gで中和し、重量平均分子量25000の共重合体C-7と水とを含む反応生成物を得た。
【0085】
表中の他の共重合体についても、上記と同様に、ただし、単量体の種類及び使用量を変更して製造した。表1に、(A)~(D)成分の単量体組成と重量平均分子量を示した。
【0086】
【表1】
【0087】
(1-1)粘土含有水硬性組成物用分散剤の調製
(A)~(C)成分及びその他の成分を、セメントに対する添加剤が表2、3の通りとなるように混合して、粘土含有水硬性組成物用分散剤を調製した。その際、(A)成分、(B)成分、(D)は、それぞれ、40質量%濃度の水溶液で用いた。また、(C)成分は、濃度35質量%の水溶液で用いた。なお、その他の成分のPEG13000は、数平均分子量13000のポリエチレングリコールである。
【0088】
(2-1)モルタルの調製
モルタルミキサー(株式会社ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りをモルタルミキサーの低速回転(63rpm)にて10秒行い、調製した粘土含有水硬性組成物用分散剤を含む練り水(W)を加えた。そして、モルタルミキサーの低速回転(63rpm)にて120秒間本混練りして、モルタルを調製した。モルタルの配合条件は、いずれの温度のモルタルも、セメント400g、細骨材672g、スミクレー28gであり、水/セメント比(W/C)は35質量%とした。また粘土含有水硬性組成物用分散剤は、(A)~(D)成分の含有量が、セメント100質量部に対して、表2、3の量となるように練り水に添加した。この例は、細骨材が4質量%の粘土(スミクレー)を含むことを想定したものである。
【0089】
モルタルの調製に用いた成分は以下のものである。
・水(W):上水道水を用いた。
・セメント(C):普通ポルトランドセメント(二種混合:太平洋セメント/住友大阪セメント=1/1、質量比) 密度3.16g/cm
・細骨材(S):城陽産山砂 密度2.55g/cm
・スミクレー(住友大阪セメント) 密度2.70g/cm
【0090】
(2-2)モルタルの流動性評価
JIS R 5201の試験方法(フロー試験)に従って、混練の始期から2分後の流動性を評価した。混練の始期は、モルタルミキサーに練り水(W)を加えてセメントと練り水が最初に接した時点である。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】