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特許7570842超音波画像評価装置および超音波画像評価装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】超音波画像評価装置および超音波画像評価装方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20241015BHJP
   G01N 29/30 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G01N29/06
G01N29/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020130353
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026746
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栞太
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0182832(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0339234(US,A1)
【文献】特開2018-054354(JP,A)
【文献】特開2019-039902(JP,A)
【文献】特表2020-503509(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111351860(CN,A)
【文献】特開2017-211259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイズドアレイ超音波探傷器による所定の箇所での超音波探傷による一つのオリジナル超音波画像に基づいて欠陥、き裂、剥離、減肉、介在物の少なくとも一つを含む検出対象の存在の有無を評価する超音波画像評価装置であって、
学習用の超音波画像データを用いて学習する判定器と、
記オリジナル超音波画像のディジタルデータであるオリジナル超音波画像データを収納するオリジナル超音波画像データ記憶部と、
前記オリジナル超音波画像データ記憶部から前記オリジナル超音波画像データの一部を、所定の方向に定められた重複幅にしたがって順次読み出してそれぞれの切り出し画像を出力する画像切り出し部と、
前記判定器を用いて、それぞれの前記切り出し画像について、前記検出対象の存在の有無に関する画像判定値を算出し、切り出し画像判定値として出力する切り出し画像判定部と、
それぞれの前記切り出し画像について算出された前記切り出し画像判定値に基づいて、前記オリジナル超音波画像についての前記検出対象の有無に関するオリジナル超音波画像判定値を算出するオリジナル超音波画像判定部と、
を備えることを特徴とする超音波画像評価装置。
【請求項2】
フェイズドアレイ超音波探傷器による所定の箇所での超音波探傷による一つのオリジナル超音波画像に基づいて欠陥、き裂、剥離、減肉、介在物の少なくとも一つを含む検出対象の存在の有無を評価する超音波画像評価装置であって、
学習用の超音波画像データである前記検出対象を含むというラベリングを施した超音波画像と、前記検出対象を含まないというラベリングを施した超音波画像とを複数枚用意し、それらを用いて学習し、前記検出対象の存在の有無の可能性の指標である画像判定値を算出する判定器と、
記オリジナル超音波画像のディジタルデータであるオリジナル超音波画像データを収納するオリジナル超音波画像データ記憶部と、
前記オリジナル超音波画像データ記憶部から前記オリジナル超音波画像データの一部を、所定の方向に定められた重複幅にしたがって順次読み出してそれぞれの切り出し画像を出力する画像切り出し部と、
前記判定器が出力する前記画像判定値を用いて、それぞれの前記切り出し画像について、前記切り出し画像の中における前記検出対象の有無に関する切り出し画像判定値を算出する切り出し画像判定部と、
それぞれの前記切り出し画像判定値を所定のしきい値と比較して、前記切り出し画像判定値が前記しきい値を超える前記切り出し画像を摘出し、摘出された前記切り出し画像の前記切り出し画像判定値を用いて、前記オリジナル超音波画像に所望の前記検出対象が含まれている可能性を示すオリジナル超音波画像判定値を算出するオリジナル超音波画像判定部と、
を備えることを特徴とする超音波画像評価装置。
【請求項3】
記所定の方向前記フェイズドアレイ超音波探傷器の超音波アレイプローブの長手方向であり、前記所定の方向の前記切り出し画像の幅は、前記超音波アレイプローブを構成する超音波素子の2個分に相当する領域の幅以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波画像評価装置。
【請求項4】
前記切り出し画像判定値をもとに、前記オリジナル超音波画像内に前記検出対象が含まれている可能性の高い前記切り出し画像を特定する画像内着目領域特定部をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の超音波画像評価装置。
【請求項5】
前記切り出し画像、前記切り出し画像判定値、前記オリジナル超音波画像判定値を含む演算結果を次評価者に出力する出力部をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の超音波画像評価装置。
【請求項6】
フェイズドアレイ超音波探傷器による所定の箇所での超音波探傷による一つのオリジナル超音波画像に基づいて欠陥、き裂、剥離、減肉、介在物の少なくとも一つを含む検出対象の存在の有無を評価する超音波画像評価方法であって、
判定器が学習用の超音波画像データを用いて学習により判定能力を確保する学習ステップと、
入力部が前記オリジナル超音波画像を読み込み、オリジナル超音波画像データ記憶部が前記オリジナル超音波画像のディジタルデータであるオリジナル超音波画像データを収納するオリジナル超音波画像読み込みステップと、
画像切り出し部が、前記オリジナル超音波画像データ記憶部から前記オリジナル超音波画像データの一部を、所定の方向に定められた重複幅にしたがって順次読み出し、それぞれの切り出し画像を出力する切り出しステップと、
切り出し画像判定部が、前記判定器を用いて、それぞれの前記切り出し画像について、前記検出対象の有無に関する画像判定値を算出し、切り出し画像判定値として出力し、演算結果記憶部が収納する切り出し画像判定ステップと、
オリジナル超音波画像判定部が、前記演算結果記憶部から前記切り出し画像判定値を読み出してオリジナル超音波画像判定を行い、前記切り出し画像判定値に基づいて、前記オリジナル超音波画像についての前記検出対象の有無に関するオリジナル超音波画像判定値を算出するオリジナル超音波画像判定ステップと、
を有することを特徴とする超音波画像評価方法
【請求項7】
出力部が、前記切り出し画像、前記切り出し画像判定値、前記オリジナル超音波画像判定値を含む演算結果を次評価者に出力する出力ステップをさらに有することを特徴とする請求項6に記載の超音波画像評価方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波画像評価装置および超音波画像評価装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷法は、構造物の検査を行う手段として広く使われている。当初は、単眼プローブを用いてエコーの波形を評価していたが、近年はフェイズドアレイ超音波探傷法の普及により、超音波探傷結果を画像化し、それを用いた評価も行われてきている。超音波探傷によって得られる超音波画像から欠陥があるかないかを判定するのは、主に資格や技能、経験を持った検査員であり、個々の専門知識と経験に基づいて判定を行っている。そのため検査員の技量によって判定結果にばらつきが生じる場合がある。
【0003】
そこで、超音波画像から信号処理またはAIなどを用いて自動判定する技術が知られている。例えば、超音波画像を機械学習の入力として欠陥検出する技術が知られている。この技術は1枚の画像について欠陥が含まれるか否かを判定するもので、画像処理を中心とした技術である。また、超音波画像から新たな画像を生成し、パターン認識アルゴリズムを用いて正常パターン画像と探傷画像を比較し、正常パターン画像と異なる探傷画像であった場合、その探傷画像内の形状エコーと欠陥エコーを判定することで、欠陥位置を検出する技術が知られており、この技術は欠陥の位置まで特定可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2020-503509号公報
【文献】国際公開第2015/001624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の、パターン認識アルゴリズムを用いて正常パターン画像と探傷画像を比較する技術では、探傷画像について個々のエコーを含む画像を切り出す作業があるが、作業のアルゴリズムは明らかではない。仮にノイズの強度が大きく、欠陥エコーが不明瞭な画像となった場合や、形状エコーと欠陥エコーが重なり合っている場合には、切出し作業が困難になる可能性があり、欠陥を見逃すおそれがある。また、切り出したエコーを形状エコーと欠陥エコーに分類し、教師データを作成しているが、欠陥エコーか形状エコーかの判断は、常に表示されているか否かで判断しており、溶接部の組織や内在物由来のエコーなども欠陥エコーと判断される可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は、欠陥等の検出対象がどの程度の確度で存在するかの評価を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る超音波画像評価装置は、フェイズドアレイ超音波探傷器による所定の箇所での超音波探傷による一つのオリジナル超音波画像に基づいて欠陥、き裂、剥離、減肉、介在物の少なくとも一つを含む検出対象の存在の有無を評価する超音波画像評価装置であって、学習用の超音波画像データを用いて学習する判定器と、前記オリジナル超音波画像のディジタルデータであるオリジナル超音波画像データを収納するオリジナル超音波画像データ記憶部と、前記オリジナル超音波画像データ記憶部から前記オリジナル超音波画像データの一部を、所定の方向に定められた重複幅にしたがって順次読み出してそれぞれの切り出し画像を出力する画像切り出し部と、前記判定器を用いて、それぞれの前記切り出し画像について、前記検出対象の存在の有無に関する画像判定値を算出し、切り出し画像判定値として出力する切り出し画像判定部と、それぞれの前記切り出し画像について算出された前記切り出し画像判定値に基づいて、前記オリジナル超音波画像についての前記検出対象の有無に関するオリジナル超音波画像判定値を算出するオリジナル超音波画像判定部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置で扱うオリジナル超音波画像データを提供する超音波探傷器がフェイズドアレイ超音波探傷器である場合の構成例を示す概念図である。
図2】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置で扱う超音波画像の例を示す画像図である。
図3】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置の構成を示すブロック図である。
図4】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置における画像切り出し部の処理内容の説明図である。
図5】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置の画像内着目領域特定部の処理内容の説明図である。
図6】第1の実施形態に係る超音波画像評価装置のオリジナル超音波画像判定部の処理内容の説明図である。
図7】第1の実施形態に係る超音波画像評価方法の手順を示すフロー図である。
図8】第2の実施形態に係る超音波画像評価装置の構成を示すブロック図である。
図9】第2の実施形態に係る超音波画像評価装置の着目画像特定部の処理内容の第1の説明図である。
図10】第2の実施形態に係る超音波画像評価装置の着目画像特定部の処理内容の第2の説明図である。
図11】第2の実施形態に係る超音波画像評価装置の着目補助画像特定部の処理内容の説明図である。
図12】第2の実施形態に係る超音波画像評価方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る超音波画像評価装置および超音波画像評価装方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
[第1の実施形態]
本実施形態は、超音波探傷によるオリジナル超音波画像に基づいて、欠陥等の検出対象がどの程度の確度で存在するかを評価するものである。
【0011】
まず、本実施形態に係る超音波画像評価装置および超音波画像評価方法が取り扱うオリジナル超音波画像について説明する。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係る超音波画像評価装置で扱う超音波画像データを提供する超音波探傷器がフェイズドアレイ超音波探傷器10である場合の構成例を示す概念図である。
【0013】
図1に示されたフェイズドアレイ超音波探傷器10においては、超音波アレイ探触子10aが、1次元または2次元のアレイ状に配列された複数の超音波素子11を有する。個々の超音波素子に加えるパルスのタイミングを電子的に制御することにより、方向、集束位置等を制御する。
【0014】
超音波アレイ探触子10aから測定対象1に照射された超音波は、遅延時間に従って入射および屈折角度が決定され、測定対象1の内部に伝搬する。内部に伝搬した超音波は、検出対象2で反射されて再び超音波アレイ探触子10aに到達する。また、検出対象2以外にも測定対象1の底面3や角部等からも、超音波は反射もしくは散乱され超音波アレイ探触子10aまで到達する。超音波アレイ探触子10aに到達したそれら反射波、散乱波は到達時間および受信素子が得た情報に基づいて映像化される。このようにして、測定対象1中にある欠陥等の検出対象2を検出する。
【0015】
たとえば、セクタースキャンでは、超音波アレイ探触子10aによる集束位置の角度を変化させることにより、2次元的に探傷を行う。
【0016】
また、リニアスキャンでは、図1に示すように、超音波アレイ探触子10a中で、たとえば斜線が施された複数の超音波素子11のグループにより所定の方向に送信し、このグループを、超音波素子11の配列方向(長手方向)に順次移動することにより、探傷範囲を移動して2次元的に探傷を行う。図1で示す探傷範囲1aは、フェイズドアレイ超音波探傷器10が図1に示す位置にあるときの、リニアスキャンの探傷範囲を示す。
【0017】
図2は、第1の実施形態に係る超音波画像評価装置で扱う超音波画像の例を示す画像図である。図2は、図1に示したリニアスキャンの場合の超音波画像である。
【0018】
したがって、この場合は、超音波画像は、探傷範囲1aについて得られた画像である。この画像で、欠陥等の検出対象2に対応する検出対象画像2aや底面3に対応する底面画像3aが含まれる。なお、検出対象2は、図2で示すような丸穴に限らず、たとえばき裂、剥離、減肉、介在物等を含めてもよく、以下、これらを含めて「検出対象2」というものとする。
【0019】
本実施形態に係る超音波画像評価装置および超音波画像評価方法では、このような画像を対象として評価を行うことから、この画像をオリジナル超音波画像142aと呼ぶものとする。
【0020】
次に、本実施形態に係る超音波画像評価装置について、以下に説明する。
【0021】
図3は、第1の実施形態に係る超音波画像評価装置100の構成を示すブロック図である。
超音波画像評価装置100は、入力部110、判定器120、演算部130、記憶部140、および出力部150を有する。
【0022】
入力部110は、判定器120の学習に用いる学習用超音波画像データ群、オリジナル超音波画像生成者による超音波探傷画像のディジタルデータであるオリジナル超音波画像データ142a、および、後述する演算部の各要素の処理に関する指令等の外部入力を受け入れる。
【0023】
なお、画像は、ディジタル処理化された形で処理されることから、「画像データ」と「画像」とは、互いに厳密に表現しようとすると煩雑となる。「画像データ」と「画像」は、一方が他方も意味している場合がある。
【0024】
ここで、オリジナル超音波画像生成者によるオリジナル超音波画像データ142aは、超音波画像を生成するフェイズドアレイ探傷器そのものによるものでもよいし、探傷器で得られた波形を超音波画像に描画する描画ソフトによるものでもよい。あるいは、これらもしくはこれらに類するものによって得られた超音波画像を保存したメディアやネットワークで接続されたデータベース等、超音波画像に関するデータを供給可能な手段によるものであれば何でもよい。
【0025】
また、これらのオリジナル超音波画像データ142aは、何らかの評価を行う前評価者が介在した後に供給されてもよい。この際、前評価者は人間であってもよいし、自動プログラムもしくは人間によって操作される自動プログラム、FPGAのような理論回路等でもよい。
【0026】
判定器120は、機械学習等に基づいて、多くの学習用の超音波画像においてたとえば、図2で示した検出対象2の検出対象画像2aや、底面3の底面画像3aの特徴を学習することにより、検出対象2の存在の有無の可能性の指標である画像判定値Xを算出する能力を確保する。
【0027】
たとえば、機械学習においては、検出対象2を含むというラベリングを施した超音波画像と、検出対象2を含まないというラベリングを施した超音波画像とを複数枚用意し、それらを用いて学習する。
【0028】
または、検出対象2の特徴量を複数個抽出し、それを教師として判定に用いる物体認識アルゴリズム等に基づいて検出対象2の存在の有無の可能性の指標である画像判定値Xを算出することでもよい。この際、検出対象2の特徴量としては、たとえば、エッジが閉曲線あるいはほぼ閉曲線であるなどのエッジの形状、超音波のエコーの合成波形の強度などが考えられる。
【0029】
あるいは、CNN(Convolutional Neural Network)などを用いたディープラーニングによって、検出対象2を識別して、直接に、検出対象2の存在の有無の可能性の指標である画像判定値Xを算出することでもよい。
【0030】
これらの学習の結果に基づいて、判定器120は、欠陥等の検出対象2の存在の有無の可能性の指標である画像判定値Xを算出する。
【0031】
特徴点を用いた場合には、画像判定値Xの算出は、たとえば、エッジの形状と超音波のエコーの合成波形の強度の2つの指標を用いる場合を例にとると、以下の式(1)により得られる。
X=[(Q+(Q1/2 (1)
ここで、Qはエッジの連続部分の割合(閉曲線ですべて連続している場合を1とする)、Qは超音波の合成波形の強度の最大強度部分の強度に対する比(最大1)である。
【0032】
なお、用いる指標は別のものでもよい。また、式(1)のようにベクトル(X,X)の長さの概念のような指標でなく、たとえば、これらの平均値、最小値あるいは最大値を用いてもよい。
【0033】
画像判定値Xの値は、0と1の間の数値で、検出対象2の存在の確率を示す指標として算出されてもよい。あるいは、画像判定値Xの値は、あるしきい値を超えれば1、越えなければ0等とし、しきい値は経験的に設定する等の方法を用いてもよい。
【0034】
以下では、画像判定値Xの値が、0と1の間の数値で、検出対象2の存在の確率を示す指標として算出されている場合を例にとって説明する。
【0035】
演算部130は、画像切り出し部131、切り出し画像判定部132、画像内着目領域特定部133、およびオリジナル超音波画像判定部134を有する。
【0036】
また、記憶部140は、判定器120関係のデータを記憶する判定器用データ記憶部141、オリジナル超音波画像データ142aを記憶するオリジナル超音波画像データ記憶部142、画像切り出し部131による切り出し画像データ143a(図4)を記憶する切り出し画像データ記憶部143、および演算部130内での判定等の結果を記憶する演算結果記憶部144を有する。オリジナル超音波画像データ142aおよび切り出し画像データ143aは、2次元的に配列されたデータから構成されている。
【0037】
以下、演算部130について説明する。
【0038】
図4は、画像切り出し部131の処理内容の説明図である。画像切り出し部131は、オリジナル超音波画像142aを、ウインドウに基づいて所定の方向に順次読み出して複数の切り出し画像143aを出力する。
【0039】
画像切り出し部131は、まず、入力部110を介して指令として読み込まれた読み出し方向、および読み出し幅Wにしたがって、読み出し幅W、読み出し深さDのウインドウ143bを設定する。ただし、読み出し深さDは、オリジナル超音波画像データ142aの読み出し方向に直行する方向の長さである。
【0040】
次に、画像切り出し部131は、入力部110を介して指令として読み込まれた重複幅ΔWにしたがって、ウインドウ幅すなわち読み出し幅W、ウインドウ深さDのウインドウ143bを順次ずらして、そのウインドウ143bに相当する分をオリジナル超音波画像データ142aから読み出す。このようにして、それぞれの切り出し画像143aが得られる。
【0041】
ここで、ウインドウ143bのウインドウ幅Wは一定でもよいし、変化してもよい。また、ウインドウ幅Wは、少なくとも、たとえば、超音波アレイ探触子10aを構成する超音波素子11の2つ分、また、想定される検出対象2が全て収まる幅であることが好ましい。
【0042】
1つのオリジナル超音波画像から、n個の切り出し画像143aが得られた場合、このn枚の切り出し画像143aを、切り出し画像群と呼ぶこととする。切り出し画像群は、演算結果記憶部144に記憶される。
【0043】
切り出し画像判定部132は、画像切り出し部131から出力された切り出し画像群のそれぞれの切り出し画像143aについて、判定器120を用いて、検出対象2の有無に関する切り出し画像判定値Xjを算出する。具体的には、それぞれの切り出し画像143aについて、判定器120が出力する画像判定値Xが、切り出し画像判定部132による切り出し画像判定値Xj、すなわち、切り出し画像143aの中に所望の検出対象2が含まれている可能性を表す切り出し画像判定値Xjとして出力される。
【0044】
切り出し画像判定部132が演算した結果であるn個の切り出し画像判定値Xjのグループは、演算結果記憶部144に記憶される。
【0045】
図5は、第1の実施形態に係る超音波画像評価装置の画像内着目領域特定部の処理内容の説明図である。
画像内着目領域特定部133は、オリジナル超音波画像142aにおいて特に検出対象2が存在する可能性の高い、画像内着目領域133aを設定する。画像内着目領域特定部133は、各切り出し画像143aについて切り出し画像判定部132が算出した切り出し画像判定値Xjが所定のしきい値を超える切り出し画像143aを、演算結果記憶部144から読み出し、オリジナル超音波画像142a中の着目すべき領域である画像内着目領域133aとして出力する。なお、しきい値は、後述するオリジナル超音波画像判定部134で使用するしきい値Xthと同じ値としてもよい。
【0046】
次に、オリジナル超音波画像判定部134について説明する。
【0047】
図6は、第1の実施形態に係る超音波画像評価装置のオリジナル超音波画像判定部134の処理内容の説明図である。図6の横軸は、順次切り出された切り出し画像の名称であり、a、b、c、d、e、f、gと、切り出し画像が7つの場合を例にとって示している。縦軸は、それぞれの切り出し画像について切り出し画像判定部132により出力された切り出し画像判定値Xjである。
【0048】
オリジナル超音波画像判定部134は、まず、切り出し画像判定部132による判定結果を記憶する演算結果記憶部144からそれぞれの切り出し画像判定値XjであるXa、Xb、Xc、Xd、Xe、Xf、Xgを読み出す。
【0049】
次に、オリジナル超音波画像判定部134は、それぞれの切り出し画像判定値Xjを所定のしきい値Xthと比較して、切り出し画像判定値Xjがしきい値Xthを超える切り出し画像を摘出する。図6の場合は、切り出し画像c、d、eが該当する。しきい値Xthの値はノイズとの識別等を考慮して設定する。また、しきい値Xthの値は、経験的に、たとえば0.5等と設定してもよい。設定方法としては、たとえば、Xthを変えながらクラス分類結果の検証を行い、切り出し画像判定結果と検出対象2の存在の有無の正答率が最も高い値を選択する等の方法がある。
【0050】
次に、オリジナル超音波画像判定部134は、摘出された切り出し画像c、d、eの切り出し画像判定値XjであるXc、Xd、Xeを用いて、オリジナル超音波画像142aに所望の検出対象2が含まれている可能性を示すオリジナル超音波画像判定値Yを算出する。
【0051】
オリジナル超音波画像判定値Yの算出は、たとえば、以下の式(2)のように、各要素のベクトル和の大きさとして算出してもよい。
Y=[(Xc)+(Xd)+(Xe)1/2 (2)
【0052】
あるいは、これらの平均値、最小値あるいは最大値を用いてもよい。
【0053】
さらには、オリジナル超音波画像判定値Yの算出は、切り出し画像判定値Xjの平均値あるいは最大値があるしきい値を超えるケースがいくつあるかを用いてもよい。
【0054】
あるいは、連続的な値として算出された値を、所定の値Ytを超えた場合は1、所定の値Yt未満の場合は0のように、1か0の値のみをとるような方法でもよい。所定の値Ytは、たとえば0.5など、経験的に設定できる。設定方法としては、たとえば、Ytを変えながらクラス分類結果の検証を行い、オリジナル超音波画像判定結果と検出対象2の存在の有無の正答率が最も高い値を選択する等の方法がある。
【0055】
出力部150は、オリジナル超音波画像データ記憶部142に収納されたオリジナル超音波画像データ142a、切り出し画像データ記憶部143に収納された切り出し画像データ143a、演算結果記憶部144に収納された切り出し画像判定値Xjおよびオリジナル超音波画像判定値Y等の演算結果を出力する。
【0056】
出力部150は、いわゆるPCモニタやタブレットのような表示機であってもよいし、これらの結果をまとめて記録したデータ群の保存媒体ないしはネットワークでつながった記録媒体等、次評価者がアクセスできるものであれば形態を問わない。
【0057】
次に、超音波画像評価方法について説明する。
図7は、第1の実施形態に係る超音波画像評価方法の手順を示すフロー図である。
【0058】
まず、学習ステップS10では、判定器120が、多数の学習用の超音波画像データを用いて学習し、判定能力を確保する(S10)。詳細には、まず、入力部110が、学習用超音波画像データを読み込む(ステップS11)。次に、判定器120が学習を行う(ステップS12)。
【0059】
また、入力部110が、オリジナル超音波画像142aを読み込む(ステップS20)。読み込まれたオリジナル超音波画像142aはオリジナル超音波画像データ記憶部142に収納される。
【0060】
次に、超音波画像評価(ステップS30)を実施する。ステップS30の詳細は、以下のとおりである。
【0061】
まず、画像切り出し部131が、オリジナル超音波画像データ記憶部142からオリジナル超音波画像142aを読み出し、画像切り出しを行う(ステップS31)。切り出された各切り出し画像143aは、切り出し画像データ記憶部143に収納される。
【0062】
次に、切り出し画像判定部132は、切り出し画像データ記憶部143に収納された各切り出し画像データ143aを順次読み出して、切り出し画像判定を行う(ステップS32)。
【0063】
また、画像内着目領域特定部133は、着目領域に該当する切り出し画像を特定する(ステップS33)。
【0064】
切り出し画像の判定結果である切り出し画像判定値Xj、および、着目領域は、演算結果記憶部144に収納される。
【0065】
次に、オリジナル超音波画像判定部134は、演算結果記憶部144から、各切り出し画像判定値Xjを読み出して、オリジナル超音波画像判定を行い、オリジナル超音波画像判定値Yを算出する(ステップS34)。
【0066】
超音波画像評価ステップS30で得られた結果は、出力部150に出力され、出力部150は、この結果を、次評価者に提示する(ステップS40)。
【0067】
以上のように、本実施形態は、欠陥等、見つけたい検出対象2がどの程度の確度で存在するかの評価を可能とする。
【0068】
[第2の実施形態]
図8は、第2の実施形態に係る超音波画像評価装置100aの構成を示すブロック図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
本実施形態は、複数のオリジナル超音波画像142aを対象とし、本実施形態に係る超音波画像評価装置100aは、着目画像特定部135および着目補助画像特定部136をさらに有する。
【0069】
ここで、複数のオリジナル画像142aは、同一の測定対象1について、複数の異なる測定条件のもとに得られたものである。ここで、測定条件は、たとえば、フェイズドアレイ超音波探傷器10の場合であれば、測定対象1に対する長手方向の測定位置、超音波の送信角度、たとえば測定対象1に荷重を加えて応力状態を変化させる場合の経過時間等のパラメータである。
【0070】
測定条件は、同一のパラメータに関して、離散的ではあるが連続的に近い状態で変化することが好ましい。すなわち、たとえば、長手方向の測定位置の場合なら、測定位置が、所定の長さ以内の間隔で変化する等である。ここで、所定の長さとは、たとえば、超音波アレイプローブを構成する素子の1ないし数個分程度の長さであり、互いに隣接する測定条件間での測定結果の間に互いの関係性が確保される長さである。
【0071】
図9は、第2の実施形態に係る超音波画像評価装置100aの着目画像特定部135の処理内容の第1の説明図である。図9の横軸は、各オリジナル超音波画像142aに関する1つのパラメータとしての測定条件であり、たとえば、フェイズドアレイ超音波探傷器10の長手方向の測定位置である。縦軸は、それぞれのオリジナル超音波画像142aについて、オリジナル超音波画像判定部134により算出されたオリジナル超音波画像判定値Yである。図9では、オリジナル超音波画像判定値Yが0か1で区分される算出方法の場合を例にとって示している。それぞれの測定条件におけるオリジナル超音波画像判定値Yを、黒丸で示している。
【0072】
着目画像特定部135は、オリジナル超音波画像データ記憶部142に収納されている複数のオリジナル超音波画像142aのうちから、オリジナル超音波画像判定部134によりオリジナル超音波画像判定値Yが1と算出されたオリジナル超音波画像142aを着目画像として特定し、特定した着目画像としてのオリジナル超音波画像データ142aを出力する。
【0073】
演算結果記憶部144は、この結果を記憶するとともに、出力部150が、外部に出力する。
【0074】
図10は、第2の実施形態に係る超音波画像評価装置100aの着目画像特定部の処理内容の第2の説明図である。
【0075】
ここで、説明のために、真実のオリジナル超音波画像判定値Yがどのようになっているかを、破線で示している。この真実のオリジナル超音波画像判定値Yに対して、図9で示した黒丸、すなわちオリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値YがYどのような関係にあるかを、図10において、〇、△、×で示している。
【0076】
ここで、〇は、真実のオリジナル超音波画像判定値Yが1で、オリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値Yも1の場合、および真実のオリジナル超音波画像判定値Yが0で、オリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値Yも0の場合を示す。△は、真実のオリジナル超音波画像判定値Yが0で、オリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値Yが1の場合を示す。また、×は、真実のオリジナル超音波画像判定値Yが1で、オリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値Yが0の場合を示す。
【0077】
検出漏れを避けたいという観点から見れば。△の場合は×の場合に比べて好ましいということになる。逆に、誤検出を避けたいという観点から見れば。×の場合は△の場合に比べて好ましいということになる。探傷という目的からは、前者が安全側と言える。
【0078】
着目画像特定部135は、図10で示す〇および△の場合、すなわち、オリジナル超音波画像判定部134が算出したオリジナル超音波画像判定値Yが1の場合について、前述のように、オリジナル超音波画像データ記憶部142に収納されているオリジナル超音波画像データ142aを読み出して出力する。
【0079】
着目補助画像特定部136は、着目画像特定部135が出力した着目画像としてのオリジナル画像142aに加え、さらに着目補助画像を付加して出力する。
【0080】
図11は、着目補助画像特定部136の処理内容の説明図である。
着目補助画像特定部136は、着目画像特定部135が特定した着目画像としてのオリジナル超音波画像データ142aに加えて、測定条件において、これらに隣接する所定の数の図11において◎印で示したオリジナル超音波画像データ142aを含めて出力する。
【0081】
ここで、所定の数は、多いほど、次評価者への情報は増え確実性は増すが次評価者の負担は増加する。多すぎれば、着目画像特定部135で特定した意味が薄れる。これらを勘案して、所定の数は、経験的に設定してもよい。図11では、所定の数が2の場合を示す。
【0082】
図12は、第2の実施形態に係る超音波画像評価方法の手順を示すフロー図である。
第1の実施形態と異なる部分についてのみ以下に説明する。
【0083】
まず、ステップS20のオリジナル画像読み込みは、入力部110が、複数のオリジナル超音波画像142aを読み込む。
【0084】
また、ステップS34のオリジナル超音波画像判定では、オリジナル超音波画像判定部134が、複数のオリジナル超音波画像142aについての複数のオリジナル超音波画像判定値Yを算出する。
【0085】
次に、着目画像特定部135は、複数のオリジナル超音波画像の中から、着目領域としてのオリジナル超音波画像142aを特定し、出力する(ステップS35)。
【0086】
さらに、着目補助画像特定部136は、ステップS35で特定されたオリジナル超音波画像と測定条件において、これらに隣接する所定の数のオリジナル超音波画像データ142aを含めて出力する(ステップS36)。
【0087】
以上のように、複数のオリジナル超音波画像を用いることにより、超音波画像評価の信頼性をさらに向上することができる。
【0088】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0089】
たとえば、実施形態では、切り出し画像判定部と、判定器とが、別個の場合を例にとって示したがこれに限定されない。たとえば、判定器と切り出し画像判定部が一体の装置であってもよい。
【0090】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0091】
実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…測定対象、2…検出対象、2a…検出対象画像、3…底面、3a…底面画像、10…フェイズドアレイ超音波探傷器、10a…探触子、11…超音波素子、100、100a…超音波画像評価装置、110…入力部、120…判定器、130…演算部、131…画像切り出し部、132…切り出し画像判定部、133…画像内着目領域特定部、133a…画像内着目領域、134…オリジナル超音波画像判定部、135…着目画像特定部、136…着目補助画像特定部、140…記憶部、141…判定器用データ記憶部、142…オリジナル超音波画像データ記憶部、142a…オリジナル超音波画像、143…切り出し画像データ記憶部、143a…切り出し画像データ、143b…ウインドウ、144…演算結果記憶部、150…出力部
図1
図2
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図12