(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】2相式活性汚泥法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20241015BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 M
C02F3/12 K
(21)【出願番号】P 2020154298
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】豊田 さゆり
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-028697(JP,A)
【文献】特開2008-264772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/12-3/34
C02F11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水を
、分散
状微生物が優占化し得るBOD高負荷槽である第1生物処理槽で処理し、該第1生物処理槽の処理水を活性汚泥処理する
BOD低負荷槽である第2生物処理槽に導入して生物処理する2相式活性汚泥法において、
前記第2生物処理槽で活性汚泥処理した後に固液分離した余剰汚泥の一部が、前記第1生物処理槽に汚泥返送されるように構成し
(但し、余剰汚泥が物理的及び/又は化学的処理を施して可溶化した後の可溶化処理汚泥である場合を除く)、返送するシーディング濃度を、シーディング濃度/原水BOD濃度の比が0.25以上1.6以下となるようにし、該第1生物処理槽におけるBOD容積負荷を1.5~20kg/m
3・日及びHRTを0.5~12時間に設定して処理し、その後に前記第1生物処理槽で処理した処理水を前記第2生物処理槽に導入し、
連続して生物処理することを特徴とする2相式活性汚泥法。
【請求項2】
前記シーディング濃度/原水BOD濃度の比が、0.5以上1.0以下である請求項1に記載の2相式活性汚泥法。
【請求項3】
第1生物処理槽で処理した処理水を導入する第2生物処理槽において、前記第1生物処理槽内で処理されずに残存したBOD処理と好気性消化を行う請求項1又は2に記載の2相式活性汚泥法。
【請求項4】
前記第1生物処理槽に汚泥返送されるようにするための方法が、第1生物処理槽へ直接汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている汚泥受槽を配置し、該汚泥受槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている計量槽を配置し、該計量槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、或いは、該計量槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に、第1生物処理槽と繋がっている調整槽を配置し、該調整槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法、の少なくともいずれかである請求項1~3のいずれか1項に記載の2相式活性汚泥法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2相式活性汚泥法に関し、詳しくは、従来の2相式活性汚泥法による有機性廃水の処理方法に比較して、発生する余剰汚泥の安定した削減に加えて、最終の処理水のCODCr値の低減を両立することができる実用価値の高い2相式活性汚泥法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くより行われている活性汚泥を利用して曝気槽(生物処理槽とも呼ぶ)で有機性廃水を生物処理する活性汚泥法において大きな問題である余剰汚泥を減容化する技術には、下記に挙げるような処理方法がある。例えば、余剰汚泥を嫌気性又は好気性消化する方法、返送汚泥の一部を、熱、特殊殺菌、ミルビーズ、薬剤、超音波、オゾンなどで可溶化し、曝気槽に返送する方法、余剰汚泥を嫌気性消化槽で処理後、消化性汚泥の一部をオゾンと接触させる方法などがある。
【0003】
しかし、上記した方法によって得られる余剰汚泥の減容効果は、従来の活性汚泥法と比べて一般的に30%~40%程度と低く、また、方法によっては、多大なエネルギーが必要であり、さらに、薬剤、オゾンなどによって可溶化して返送しただけでは減容効率は低いという問題がある。また、可溶化することで減容化した汚泥を曝気槽に返送して処理した場合は、曝気槽での処理が高負荷となり、処理性が悪化する可能性があるという別の問題が生じる。
【0004】
上記に対し、近年、高負荷運転ができ、余剰汚泥の減容化効果もある有機性廃水の処理方法として、分散状微生物が優占化し得るBOD高負荷槽(第1生物処理槽とも呼ぶ)で処理した後、活性汚泥を用いて行う通常の生物処理槽(第2生物処理槽又は低負荷槽とも呼ぶ)で処理する、2相式活性汚泥法での処理が開発され(特許文献1、2参照)、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭56-48235号公報
【文献】特許第3360076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、2相式活性汚泥法において、第1生物処理槽の高負荷槽が微生物増殖に十分必要なHRT(水理学的滞留時間)ではない場合や、廃水の水質変動が大きい場合、また、難生物分解性有機物含有の廃水を処理した場合は、安定した処理水水質が得られないという課題があることがわかった。具体的には、処理水のBOD値については安定して低減できても、従来の1槽で処理する活性汚泥法と比較すると、むしろ処理水の全有機物量のCODCrの値が高くなる場合があったり、処理水のCODCrの値を低減することができたとしても効果は僅かであり、この点で、難生物分解性有機物含有の廃水の生物処理に対しては、特に2相式活性汚泥法が有用であるとは言い難かった。また、本発明者らの検討によれば、2相式活性汚泥法で処理することで、従来の活性汚泥方式と比較して余剰汚泥量を削減できるものの、その減容効果は、種々のBOD値を示す変動する原水に対し、特別な制御等をすることなく、簡便に、いずれの原水に対しても高い減容化率を安定して実現できているとまでには至っておらず、種々のBOD値を示す変動する原水に対し、安定した汚泥の減容化を達成できる処理方法の開発が待望される。
【0007】
したがって、本発明の目的は、分散菌が生息するBOD高負荷槽で処理後、BOD低負荷槽で処理する2相式活性汚泥法において、種々のBOD値を示す変動する原水に対しても、従来のBOD低負荷槽で処理する活性汚泥法と比べて高い余剰汚泥の削減率を安定に維持でき、しかも、難生物分解性有機物含有の廃水の処理をした場合に、処理水のCODCr値を低減できる実用価値の高い2相式活性汚泥法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記の2相式活性汚泥法を提供する。本発明では、高負荷槽(第1生物処理槽)に汚泥を返送することをシーディングと呼び、返送する汚泥の濃度を「シーディング濃度」と呼ぶ。
【0009】
[1]有機性廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、該第1生物処理槽の処理水を活性汚泥処理する第2生物処理槽に導入して生物処理する2相式活性汚泥法において、前記第2生物処理槽で活性汚泥処理した後に固液分離した余剰汚泥の一部が、前記第1生物処理槽に汚泥返送されるように構成し、返送するシーディング濃度を、シーディング濃度/原水BOD濃度の比が0.25以上1.6以下となるようにし、該第1生物処理槽におけるBOD容積負荷を1.5~20kg/m3・日及びHRTを0.5~12時間に設定して処理し、その後に前記第1生物処理槽で処理した処理水を前記第2生物処理槽に導入し、連続して生物処理することを特徴とする2相式活性汚泥法。
【0010】
上記の2相式活性汚泥法の好ましい形態としては、下記が挙げられる。
[2]前記シーディング濃度/原水BOD濃度の比が、0.5以上1.0以下である上記[1]に記載の2相式活性汚泥法。
[3]第1生物処理槽で処理した処理水を導入する第2生物処理槽において、前記第1生物処理槽内で処理されずに残存したBOD処理と好気性消化を行う[1]又は[2]に記載の2相式活性汚泥法。
[4]前記第1生物処理槽に汚泥返送されるようにするための方法が、第1生物処理槽へ直接汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている汚泥受槽を配置し、該汚泥受槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている計量槽を配置し、該計量槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、或いは、該計量槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に、第1生物処理槽と繋がっている調整槽を配置し、該調整槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法、の少なくともいずれかである[1]~[3]のいずれかに記載の2相式活性汚泥法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1生物処理槽の運転条件を最適化することで、例えば、処理する廃水が水質変動の大きい廃水である場合にも、2相式活性汚泥法によって高めることのできる汚泥の削減率を安定に維持することが実現でき、また、例えば、処理する廃水が、難生物分解性有機物含有の廃水である場合も、処理水のCODCr値を低減することができ、良好な処理水水質が得られる、簡便な方法で、連続して良好な処理が可能な、実用価値の高い2相式活性汚泥法が提供される。また、本発明によれば、原水のBOD濃度等の処理条件にもよるが、処理水のCODCr値を低減できることに加えて、その変動を低減できる傾向がみられ、この点でも利用が期待できる有用な方法であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の2相式活性汚泥法を実施する一例の処理フローの概略を示す図である。
【
図2】高負荷槽への汚泥の添加割合(シーディング濃度/原水BOD濃度の比)に対する、高負荷槽での処理における溶解性有機物の除去率と、その変動の関係を示す図。
【
図3】高負荷槽への汚泥の添加割合(シーディング濃度/原水BOD濃度の比)に対する、高負荷槽での処理における溶解性有機物の除去率(平均値)との関係を示すグラフ。
【
図4】2相式活性汚泥法を実施した場合の、高負荷槽への汚泥の添加割合(シーディング濃度/原水BOD濃度の比)に対する、全生物処理系の汚泥発生量における汚泥削減率との関係を示すグラフ。
【
図5】2相式活性汚泥法を実施した場合の、高負荷槽の呼吸速度と、高負荷槽への汚泥の添加割合(シーディング濃度/原水BOD濃度の比)との関係を示すグラフ。
【
図6】2相式活性汚泥法を実施した場合の、高負荷槽の呼吸速度と、全生物処理系の汚泥発生量における汚泥削減率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に好ましい実施形態を挙げて、本発明の2相活性汚泥法について説明する。本発明の2相式活性汚泥法は、有機性廃水を分散菌が生息する第1生物処理槽で処理し、該第1生物処理槽の処理水を活性汚泥処理する第2生物処理槽に導入して生物処理する際に、前記第2生物処理槽で活性汚泥処理した後に固液分離した余剰汚泥の一部が、前記第1生物処理槽に汚泥返送されるように構成し、返送するシーディング濃度を、シーディング濃度/原水BOD濃度の比が0.25以上1.6以下となるようにし、該第1生物処理槽におけるBOD容積負荷を1.5~20kg/m3・日及びHRTを0.5~12時間に設定して処理し、その後に前記第1生物処理槽で処理した処理水を前記第2生物処理槽に導入して、連続して生物処理することを特徴とする。
【0014】
本発明の2相式活性汚泥法において重要なことは、第1生物処理槽に汚泥を返送すること、加えて、返送する汚泥量を、第1生物処理槽へ導入される原水のBOD濃度との比である(シーディング濃度/原水BOD濃度の比)が、0.25以上1.6以下となるように制御することにある。本発明者の検討によれば、さらに、シーディング濃度/原水BOD濃度の比)が、0.5以上1.0以下となるようにすることが好ましい。
【0015】
本発明者らの検討によれば、第1生物処理槽に汚泥を特定量返送することで、下記の効果が得られることがわかった。詳細については後述する。
(1)本発明の2相式活性汚泥法によれば、第1生物処理槽に汚泥を返送しない場合に比べて、第1生物処理槽での処理におけるBOD除去率の向上効果が得られるとともに、その変動を低減させることができる。具体的には、本発明で規定する要件を満たす条件で処理することで、第1生物処理槽での処理におけるBODの除去率は89%以上と高く、ほぼBODが消費された状態になり、また、BOD除去率の変動も少なくできる。
(2)2相活性汚泥法で廃水を処理した場合、従来の生物処理槽(低負荷槽)のみを使用して処理した場合よりも、最終的な処理水のCODCr値が高くなる場合や、最終的な処理水のCODCr値を低減できたとしても僅かであったのに対して、本発明の構成とすることで、上記(1)の効果を維持しつつ、最終的な処理水のCODCr値を低減できる。
【0016】
本発明者らの検討によれば、本発明において重要なことは、第1生物処理槽における生物処理を、汚泥が特定量返送された状態で行い、その後に、前記第1生物処理槽で処理した処理水を第2生物処理槽に導入して、連続して生物処理した点にあり、第1生物処理槽に汚泥を返送する具体的な方法は特に限定されない。具体的には、下記に挙げるような、第1生物処理槽に汚泥を返送するいずれの方法によっても、本発明の顕著な効果が得られる。すなわち、例えば、第1生物処理槽へ直接汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている汚泥受槽を配置し、該汚泥受槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に第1生物処理槽と繋がっている計量槽を配置し、該計量槽を介して第1生物処理槽へ汚泥を返送する方法、或いは、該計量槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法、第1生物処理槽の直前に、第1生物処理槽と繋がっている調整槽を配置し、該調整槽と第1生物処理槽との間の配管に汚泥を返送する方法などが挙げられる。なお、本明細書の試験例では、第1生物処理槽へ直接汚泥を返送する方法を用いた。
【実施例】
【0017】
本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
試験に用いる合成原水を、下記のようにして調製した。1Lの水道水に、グルコース7.8g、ポリペプトン6.75g、酵母エキス0.25g、リン2水素カリウム0.1g、硫酸マグネシウム7水和物0.5gを添加・混合し、滅菌後、合成原水とした。得られた合成原水の水質分析の結果を表1に示した。
【0018】
【0019】
[2相式活性汚泥法による通水試験の例1~3]
先に調製した滅菌後の合成原水1Lと、BOD:200mg/L(例1)、625mg/L(例2)、2000mg/L(例3)となるようにするために流量調整をした希釈水とを用いて、BOD値が異なる処理原水を得た。そして、それぞれの処理原水を、容積1Lの高負荷槽(第1生物処理槽)に流入させて、各原水について生物処理した。さらに、高負荷槽で処理した処理水を、容積9Lの低負荷槽(第2生物処理槽)に流入させて、連続して2相式活性汚泥法による処理を行った。低負荷槽のMLSSは、6000mg/Lとなるように運転管理した。
【0020】
2相式活性汚泥法による通水試験の、上記高負荷槽における処理では、
図1に示した通り、低負荷槽からの返送汚泥の一部を高負荷槽に返送しながら処理を行った。高負荷槽に汚泥を返送することをシーディングと呼び、シーディング濃度は、下記の式で求めた。表2に運転条件をまとめて示した。
シーディング濃度=返送汚泥濃度×汚泥返送量/(汚泥返送量+流入水量)
【0021】
2相式活性汚泥法による通水試験の例1~3では、それぞれシーディング濃度を下記の通りに設定した。具体的には、表2に示した通り、高負荷槽(第1生物処理槽)に流入させる処理原水のBOD濃度が200mg/Lの場合に、シーディング濃度を、シーディング濃度/原水BODが0~5倍になる範囲で段階的に変化させて試験した。また、高負荷槽(第1生物処理槽)に流入させる処理原水のBOD濃度が625mg/Lの場合は、シーディング濃度を、シーディング濃度/原水BODが0~4.8倍となる範囲で段階的に変化させて試験した。また、高負荷槽(第1生物処理槽)に流入させる処理原水のBOD濃度が2000mg/Lの場合は、0~2倍となる範囲で段階的に変化させて試験した。処理試験は、連続して1ヵ月間行った。
【0022】
そして、上記した各条件で処理した場合の処理状態を調べた。具体的には、全生物処理系(第1および第2生物処理槽)の汚泥転換率と、汚泥削減率を測定した。また、各高負荷槽の呼吸速度を算出して、これらの結果をまとめて表3に示した。ここで、有機性廃水を生物処理した場合における余剰汚泥量を減容化するためには、高負荷槽での溶解性BOD除去率が高いことが望まれる。
【0023】
[低負荷槽のみによる通水試験の従来例1~3]
従来例1~3として、先に2相式活性汚泥法による通水試験で述べたBOD濃度がそれぞれに異なる処理原水を、従来行われている低負荷槽(第2生物処理槽)1槽のみによる通水試験を行った。具体的には、容積10Lの低負荷槽に、先に述べた滅菌後の合成原水1Lと、BOD:200mg/L(従来例1)、625mg/L(従来例2)、2000mg/L(従来例3)となるようにするために流量調整した希釈水とを、処理原水としてそれぞれ流入させ、低負荷槽のみで生物処理を行った。低負荷槽のMLSSは6000mg/Lとなるように運転管理した。表2に、上記した運転条件をまとめて示した。なお、従来例1~3を、表中では従来1~3と記載した。
【0024】
【0025】
(評価結果)
先に述べた通り、表2に示したそれぞれの条件で1か月間、通水試験を行った。2相式活性汚泥法による試験例については、高負荷槽で処理して得た処理水のBOD値を継続して測定した。そして、高負荷槽へ流入させる汚泥量を変える(シーディング量を変える)ことで比率を変化させ、「シーディング濃度/原水BOD」の比率に対する、高負荷槽で処理した際の溶解性BOD除去率を、高負荷槽で処理して得た処理水中の溶解性有機物の値を示すBOD値から求めた。その結果、高負荷槽へ流入させた処理原水のBODの値の大小にかかわらず、下記に述べるように、高負荷槽へ汚泥返送をすることで、いずれの場合も、高負荷槽でBODがほぼ消費されることを確認した。
【0026】
表3に、表2に示したそれぞれの通水試験条件で1か月間、通水試験を行って得られた試験結果を示した。具体的には、1か月間の通水試験で、高負荷槽(第1処理槽)で行った処理について、高負荷槽での処理後の処理水のBODの値を測定し、溶解性有機物の除去率(表中は、BOD除去率と記載)を算出し、平均値と変動幅を示した。また、表3中に、高負荷槽(第1処理槽)内における呼吸速度(mg/g/Hr)を示した。高負荷槽を処理に用いていない従来例1~3に関しては、低負荷槽における呼吸速度を参考に示した。
【0027】
表3中の「汚泥転換率」は、それぞれの条件で、1か月間連続して行った各処理方法での全生物処理系における汚泥発生量/積算BOD負荷量×100で算出した値の平均値である。また、汚泥削減率は、上記で算出した汚泥転換率を用いた式、[(従来例の汚泥転換率-2相方式の汚泥転換率)/従来例の汚泥転換率]、で求めた値である。さらに、表3中に、低負荷槽で処理した後の、最終的な処理水についてのBOD値と、CODCr値をまとめて示した。表3中のBOD値及びCODCr値はいずれも、1か月間連続して行った通水試験で得られた処理水について測定した値の平均値である。表3中に(比較)とあるのは、本発明で規定する「高負荷槽に汚泥を返送するシーディング」を行わずに、高負荷槽で処理後に低負荷槽で処理をする、従来の2相活性汚泥法を実施した例であり、本発明の比較例に該当する。
【0028】
【0029】
表3に示されているように、2相式活性汚泥法による通水試験で、高負荷槽(第1生物処理槽)における処理の際に、従来の2相式活性汚泥法での処理と同様に、低負荷槽からの返送汚泥の一部を高負荷槽に返送することなく処理を行った比較例の場合は、最終的な処理水のCODCrの値が、低負荷槽のみで処理する従来例として示した活性汚泥法で処理した処理水のCODCrの値と比べて、高いか或いは同程度になることを確認した。
【0030】
上記に対し、表3に示されているように、本発明のように、低負荷槽からの返送汚泥の一部を高負荷槽に返送することで、最終の処理水のCODCrの値を低減できることを確認した。さらに、低負荷槽からの返送汚泥の一部を高負荷槽に返送する際に、「シーディング濃度/原水BOD」の比の値を本発明で規定する範囲内とすることで、上記した最終の処理水のCODCrの値を低減できる効果と、最終処理後の汚泥削減率を、安定して高い値に維持でき、これらの効果を両立できることを確認した。この際に、「シーディング濃度/原水BOD」の比の値を、0.5以上1.0以下の範囲内とすることで、より顕著な効果が得られることを見出した。
【0031】
図2及び
図3に、2相式活性汚泥法による各条件で行った試験例における高負荷槽(第1処理槽)で処理した際の、「シーディング濃度/原水BOD」と、「溶解性BOD除去率」との関係をグラフ化したものを示した。
図2は、通水試験を行った1か月間における毎日のデータをプロットしたものである。
図2中における矢印は、同一条件での処理における1か月間のデータのバラツキの程度を示している。
図2中の矢印によって示されている通り、処理原水のBOD値にかかわらず、「シーディング濃度/原水BOD」の比の値が大きくなると、高負荷槽での処理によって得られる「溶解性BOD除去率」が高く、しかも安定したものになる傾向があることがわかった。
【0032】
図3に、表3中の「シーディング濃度/原水BOD」と、表3中に記載した1か月間の処理における「溶解性BOD除去率(表3中は、BOD除去率と記載)」の平均値との関係をグラフに示した。
図3に示した通り、高負荷槽へ汚泥を返送して流入させることで、処理原水のBOD値にかかわらず、高負荷槽での処理における「溶解性BOD除去率」が大きくなることがわかった。また、「シーディング濃度/原水BOD」の比をより大きくした条件で2相式活性汚泥法による処理をしたとしても、高負荷槽での処理における「溶解性BOD除去率」は十分に大きくなっており、さらに大きくすることは望めないことに加えて、下記の課題が生じるので好ましくないことがわかった。
【0033】
上記したように、「シーディング濃度/原水BOD」の比が大きいほど、高負荷槽での処理後の処理水中の溶解性有機物(BOD)の処理性が安定する傾向にあった。しかし、表3にある通り、「シーディング濃度/原水BOD」の比を大きくすると、最終的な処理後における汚泥削減率は低くなり、好ましくないことを確認した。そして、表3に示した通り、高負荷槽へ流入させる汚泥量(汚泥返送)を、「シーディング濃度/原水BOD」の比が1.6以下になるように設定して処理した場合に、処理対象とする処理原水のBODの値によらず、最終的な処理後の汚泥削減率が20%、さらには50%を超えたものになり、上記構成によって汚泥削減率を安定して高く維持できることが確認された。すなわち、上記した条件を満たす2相式活性汚泥法による処理を行うことで、汚泥減容の点で、安定した良好な処理になることがわかった。上記した試験結果に基づき、本発明の2相式活性汚泥法では、得られる効果から「シーディング濃度/原水BOD」が1.6以下であるとする通水条件を満たす方法を実施例とした。また、本発明の方法では、処理を構成する「シーディング濃度/原水BOD」の比の下限値を、0.25以上とした。なお、本発明で規定する「シーディング濃度/原水BOD濃度の比が0.25以上1.6以下」の範囲外に該当する条件で行った試験例については、表3中に「(比)」と表示した。
【0034】
図4に、表3に示されている高負荷槽(第1処理槽)への汚泥の流入量の条件「シーディング濃度/原水BOD」と、全生物処理系の汚泥発生量における汚泥削減率の値との関係をグラフ化して示した。
図4に示されている通り、処理原水のBOD値にかかわらず、高負荷槽へ汚泥を返送する場合の「シーディング濃度/原水BOD」の比を1.6以下、より好ましくは1.3以下程度にすると、最終的な処理後の汚泥削減率を向上させることができる。
【0035】
図5に、表3に示されている高負荷槽(第1処理槽)への汚泥の流入量の条件「シーディング濃度/原水BOD」と、高負荷槽における呼吸速度の値との関係をグラフ化して示した。
図5に示されているように、処理原水のBOD値にかかわらず、高負荷槽へ汚泥を返送する場合の「シーディング濃度/原水BOD」の比の値を小さくすると、呼吸速度が順次大きくなる傾向が見られた。このことは、高負荷槽内の呼吸速度を測定することで、「シーディング濃度/原水BOD」の比の値を推定できる可能性を示している。換言すれば、高負荷槽内の呼吸速度によって、高負荷槽内への汚泥の流入量を制御することによっても、本発明の効果を得ることができることを示唆している。
【0036】
図6に、高負荷槽内の呼吸速度と、全生物処理系の汚泥発生量における汚泥削減率との相関を示した。
図6にある通り、高負荷槽内の呼吸速度と、全生物処理系の汚泥発生量における汚泥削減率とはよい相関を示した。このことから、高負荷槽内の呼吸速度を適宜に制御することで、本発明の2相活性汚泥法による処理で、汚泥削減率を向上させることができる可能性があることがわかった。なお、高負荷槽内の呼吸速度は、シーディング濃度を高めることで低下する。そして、シーディング濃度を高くし過ぎると、次第に呼吸速度が第2処理槽である低負荷槽に近づいてしまうので、第1処理槽の高負荷槽内における呼吸速度が37mg/g/Hr以上となるように汚泥返送を行うことが好ましい。