(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241015BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20241015BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241015BHJP
C08L 81/06 20060101ALI20241015BHJP
C08G 75/18 20060101ALI20241015BHJP
C08G 75/0268 20160101ALI20241015BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/04
C08K3/22
C08L81/06
C08G75/18
C08G75/0268
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2020160171
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 研一
(72)【発明者】
【氏名】松島 貫太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 清瑚
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 央
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 健夫
(72)【発明者】
【氏名】藤林 輝久
(72)【発明者】
【氏名】木村 純也
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065842(JP,A)
【文献】特開2010-043191(JP,A)
【文献】特開平11-124480(JP,A)
【文献】特開2007-302822(JP,A)
【文献】国際公開第2021/040014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 75/00-75/32
G02B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料で被覆された金属酸化物粒子と、バインダー樹脂とを含む樹脂組成物であって、
該高分子材料、及び/又は、バインダー樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)、下記一般式(2)で表される構成単位(B)、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(C)からなる群より選択される少なくとも一種の構成単位を有する重合体を含み、
該樹脂組成物は、該高分子材料及び該バインダー樹脂が該重合体を含
み、該金属酸化物粒子の表面と該高分子材料とが共有結合により結合しているか、該高分子材料が該重合体を含み、該バインダー樹脂が(ポリ)スチレン骨格を有する化合物を含むか、又は、該高分子材料が該(ポリ)スチレン骨格を有する化合物を含み、該バインダー樹脂が該重合体を含み、
該高分子材料の被覆量は、該高分子材料で被覆された金属酸化物粒子100質量%に対して、10~50質量%である
ことを特徴とする光学用樹脂組成物。
【化1】
(式(1)~(3)中、X
1、X
2及びX
3は、同一又は異なって、置換基を有してもよいフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、ビフェニレン基又はトリフェニレン基を表す。)
【請求項2】
前記構成単位(A)は、下記一般式(1-1)で表される構成単位(A-1)であり、
前記構成単位(B)は、下記一般式(2-1)で表される構成単位(B-1)であり、
前記構成単位(C)は、下記一般式(3-1)で表される構成単位(C-1)であることを特徴とする請求項1に記載の光学用樹脂組成物。
【化2】
(式(1-1)、(2-1)及び(3-1)中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なって、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。aは、R
1の数を表し、0~4の整数である。bは、R
2の数を表し、0~4の整数である。cは、R
3の数を表し、0~4の整数である。)
【請求項3】
前記重合体は、主鎖の硫黄原子Sに結合した酸素原子Oと該主鎖の硫黄原子Sとの元素含有比率(O/S)が、0.02~1.3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物と金属酸化物粒子とが共有結合していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。より詳しくは、高屈折率で、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率材料として、芳香環を有するポリカーボネートやフルオレン骨格を有する高分子材料が知られている。LEDの光取り出し効率を向上する屈折率調整材料や撮像系のレンズ材料としては、アッベ数の大きい、すなわち光分散の小さい材料が求められている。このような高屈折率、かつ、光分散の小さい材料として、硫黄分子やハロゲン分子が導入された材料や金属酸化物ナノ粒子を含有した材料等が開発されている。
【0003】
高屈折率で、光分散の小さい、硫黄を含有した高分子材料については、これまでに種々検討されている。
例えば、特許文献1には、溶液状態での成形性に優れ、光学部材として使用できる成形材料として、ベンゼン環の2つの水素原子がメチル基に置換された、ポリアリーレンスルフィド骨格を有する成形材料が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、溶液状態での成形性に優れるとともに、1.70を超える高い屈折率を有する光学部材を形成できることができる成形材料として、ベンゼン環の1つの水素原子がメチル基に置換された、ポリアリーレンスルフィド骨格を有する成形材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-168790号公報
【文献】特開2017-52834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の成形材料は、屈折率や可視光透明性が充分に高いとは言えず、未だ改善の余地があった。また、近年は、高い屈折率だけでなく、透明性が高く、線膨張率が低い等の特性を有することにより、光学用途等、広範囲の用途に用いることができる高分子材料が求められていた。高い屈折率を実現するために、屈折率が高い金属酸化物粒子を添加する方法が知られているが、従来の成形材料にそのような粒子を添加した場合、上記粒子が凝集して、成形材料の取り扱い性が低下したり、成形品の透明性が低下するといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みて、高屈折率で、かつ、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れた、新たな光学材料となりうる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、硫黄含有成形材料について種々検討したところ、高分子材料で被覆された金属酸化物粒子とバインダー樹脂を含み、少なくとも上記高分子材料又は上記バインダー樹脂が含硫黄芳香族系重合体を含むことにより、屈折率が極めて高く、かつ、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れること、当該組成物は光学材料として有用であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、高分子材料で被覆された金属酸化物粒子と、バインダー樹脂とを含む樹脂組成物であって、高分子材料、及び/又は、バインダー樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)、下記一般式(2)で表される構成単位(B)、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(C)からなる群より選択される少なくとも一種の構成単位を有する重合体を含むことを特徴とする樹脂組成物である。
【0009】
【0010】
(上記一般式(1)~(3)中、X1、X2及びX3は、同一又は異なって、置換基を有してもよい2価の芳香族炭化水素基を表す。)
【0011】
上記構成単位(A)は、下記一般式(1-1)で表される構成単位(A-1)であり、上記構成単位(B)は、下記一般式(2-1)で表される構成単位(B-1)であり、上記構成単位(C)は、下記一般式(3-1)で表される構成単位(C-1)であることが好ましい。
【0012】
【0013】
(式(1-1)、(2-1)及び(3-1)中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。aは、R1の数を表し、0~4の整数である。bは、R2の数を表し、0~4の整数である。cは、R3の数を表し、0~4の整数である。)
【0014】
上記重合体は、主鎖の硫黄原子Sに結合した酸素原子Oと該主鎖の硫黄原子Sとの元素含有比率(O/S)が、0.1~1.5であることが好ましい。
【0015】
上記樹脂組成物は、更に、(ポリ)スチレン骨格を有する化合物を含むことが好ましい。
【0016】
上記樹脂組成物において、上記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物と金属酸化物粒子とが共有結合していることが好ましい。
【0017】
上記樹脂組成物は光学用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高屈折率で、かつ、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れた樹脂組成物を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、撮像系レンズ材料等の光学用途等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1で得られたブレンド膜の透過率の測定データを示した図である。
【
図2】実施例1で得られたブレンド膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0021】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、高分子材料で被覆された金属酸化物粒子と、バインダー樹脂とを含む樹脂組成物であって、上記高分子材料、及び/又は、バインダー樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位(A)、下記一般式(2)で表される構成単位(B)、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(C)からなる群より選択される少なくとも一種の構成単位を有する重合体を含むことを特徴とする。
【0022】
【化3】
(式(1)~(3)中、X
1、X
2及びX
3は、同一又は異なって、置換基を有してもよい2価の芳香族炭化水素基を表す。)
【0023】
本発明の樹脂組成物は、高屈折率で、かつ、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れる。本発明の樹脂組成物が、そのような特性を有するのは、金属酸化物粒子と高分子材料とが均一相溶し、粒子の凝集を抑制できるためと推測される。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、高分子材料で被覆された金属酸化物粒子と、バインダー樹脂とを含む。上記樹脂組成物において、高分子材料とバインダー樹脂の少なくとも一方は、上記構成単位(A)、(B)及び(C)からなる群より選択される少なくとも一種の構成単位を有する重合体を含む。上記重合体について、まず、説明する。
【0025】
<重合体>
本発明において、高分子材料及び/又はバインダー樹脂として使用される重合体は、上記一般式(1)で表される構成単位(A)、上記一般式(2)で表される構成単位(B)、及び、上記一般式(3)で表される構成単位(C)からなる群より選択される少なくとも一種の構成単位を有する重合体(以下、「重合体(X)」とも称する。)を含む。
【0026】
上記一般式(1)、(2)及び(3)において、X1、X2及びX3は、同一又は異なって、置換基を有してもよい2価の芳香族炭化水素基を表す。
上記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、トリフェニレン基、ビフェニレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。なかでも、光分散がより小さくなる点で、上記2価の芳香族炭化水素基は、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、ビフェニレン基、トリフェニレン基であることが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0027】
上記2価の芳香族炭化水素基が有する置換基(「置換基A」とも称する。)としては、好ましくは、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基(「置換基B」とも称する。)を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基が挙げられる。
【0028】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、なかでも、臭素原子が好ましい。
【0029】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、ヘプチル基等が挙げられる。なかでも、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0030】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、フェノキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。なかでも、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0031】
上記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基が好ましい。上記アリール基の炭素数は、6~30であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~12であることが更に好ましい。
【0032】
上記アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルオクチル基等が挙げられる。上記アラルキル基の炭素数は、7~14であることが好ましく、7~9であることがより好ましい。
【0033】
上記硫黄含有置換基としては、例えば、チオアルキル基、チオアリール基等が挙げられる。なかでも、チオアルキル基が好ましい。上記硫黄含有置換基の炭素数は、1~8であることが好ましく、1~6であることがより好ましく、1~4であることが更に好ましい。
【0034】
上記アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、及び、硫黄含有置換基は、更に置換基(置換基B)を有してもよく、当該置換基(置換基B)としては、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基が挙げられ、なかでも、高分子材料の溶解性の観点ではアルキル基が好ましく、金属酸化物粒子の分散性の観点ではハロゲン原子、水酸基が好ましく挙げられる。
【0035】
なかでも、上記樹脂組成物の屈折率をより一層高くすることができる点で、上記2価の芳香族炭化水素基が有する置換基(置換基A)としては、炭素数1~18のアルキル基、硫黄含有置換基がより好ましく、メチル基、チオアルキル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、金属酸化物粒子の分散性を向上しうる点で、上記2価の芳香族炭化水素基が有する置換基(置換基A)としては、水酸基、硫黄含有置換基がより好ましく、水酸基、チオアルキル基、チオアリール基が更に好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0036】
上記2価の芳香族炭化水素基が有する置換基Aの数は、特に限定されないが、高分子材料の屈折率がより一層高くなる点で、少ない方が好ましく、具体的には、1~6であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。
【0037】
上記構成単位(A)は、下記一般式(1-1)で表される構成単位(A-1)であることが好ましい。
【0038】
【0039】
(式中、R1は、同一又は異なって、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。aは、R1の数を表し、0~4の整数である。)
【0040】
上記構成単位(B)は、下記一般式(2-1)で表される構成単位(B-1)であることが好ましい。
【0041】
【0042】
(式中、R2は、同一又は異なって、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。bは、R2の数を表し、0~4の整数である。)
【0043】
上記構成単位(C)は、下記一般式(3-1)で表される構成単位(C-1)であることが好ましい。
【0044】
【0045】
(式中、R3は、同一又は異なって、ハロゲン原子、水酸基、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。cは、R3の数を表し、0~4の整数である。)
【0046】
上記R1、R2及びR3で表される、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、及び、硫黄含有置換基としては、上記一般式(1)におけるX1について説明したアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、及び、硫黄含有置換基と同様の基が好ましく挙げられる。
またこれらの基が有してもよい置換基としては、上述した置換基Bと同様の基が好ましく挙げられる。
上記R1、R2とR3は、それぞれ複数ある場合、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
a、b、cは、それぞれR1、R2、R3の置換基の数を表し、0~4の整数であり、好ましくは、0~3の整数であり、より好ましくは0~2の整数である。
【0048】
上記重合体(X)は、上記構成単位(A)、(B)及び(C)の交互共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
上記高分子材料は、1種又は2種以上の上記構成単位(A)、(B)、又は(C)をそれぞれ有してもよい。
【0049】
上記重合体(X)は、上記構成単位(A)、(B)及び(C)のうち、いずれか1つの構成単位のみを含む形態であってもよいし、2つの構成単位を含む形態であってもよいし、3つの構成単位を含む形態であってもよい。これらの形態やその含有割合は、上記樹脂組成物の目的や用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、上記重合体(X)は、より高い屈折率となりうる点で、上記構成単位(A)を含むことが好ましく、これを主成分として含むことがより好ましい。
また、上記重合体(X)は、溶解性と高屈折率を両立しうる点で、上記構成単位(B)を含むことが好ましく、これを主成分として含むことがより好ましい。
また、上記重合体(X)は、透明性と高屈折率を両立しうる点で、上記構成単位(C)を含むことが好ましく、これを主成分として含むことがより好ましい。
【0050】
上記の点より、上記重合体(X)において、上記構成単位(A)の含有割合は、高屈折率の観点では、重合体の全構成単位100モル%に対して、1~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることがより好ましく、50~100モル%であることが更に好ましい。
この場合、上記構成単位(B)及び構成単位(C)の合計含有割合は、全構成単位100モル%に対して、0~99モル%であることが好ましく、0~90モル%であることがより好ましく、0~50モル%であることが更に好ましい。
【0051】
上記重合体(X)において、上記構成単位(B)の含有割合は、溶解性に起因する高極性の観点では、重合体の全構成単位100モル%に対して、1~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることがより好ましく、50~100モル%であることが更に好ましい。
この場合、上記構成単位(A)及び構成単位(C)の合計含有割合は、全構成単位100モル%に対して、0~99モル%であることが好ましく、0~90モル%であることがより好ましく、0~50モル%であることが更に好ましい。
【0052】
上記重合体(X)において、上記構成単位(C)の含有割合は、高透明性の観点では、重合体の全構成単位100モル%に対して、1~100モル%であることが好ましく、10~100モル%であることがより好ましく、50~100モル%であることが更に好ましい。
この場合、上記構成単位(A)及び構成単位(B)の合計含有割合は、全構成単位100モル%に対して、0~99モル%であることが好ましく、0~90モル%であることがより好ましく、0~50モル%であることが更に好ましい。
【0053】
上記重合体(X)において、上記構成単位(A)、(B)及び(C)の合計含有割合は、重合体(X)の全構成単位100モル%に対して、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましく、95モル%以上であることが更により好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0054】
上記重合体(X)は、上記構成単位(A)と構成単位(B)と構成単位(C)以外の他の構成単位(D)を有していてもよい。
上記構成単位(D)としては、例えば、下記の単量体由来の構成単位が挙げられる。
(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸2-カルボキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-カルボキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-カルボキシブチル等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート等のリン酸基含有(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等のビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート等。
【0055】
上記構成単位(D)の含有割合は、重合体(X)の全構成単位100モル%に対して、0~80モル%であることが好ましく、0~50モル%であることがより好ましく、0~20モル%であることが更に好ましく、0~10モル%であることが更により好ましく、0~5モル%であることが特に好ましい。
【0056】
上記重合体(X)は、主鎖の硫黄原子Sに結合した酸素原子Oと上記主鎖の硫黄原子Sとの元素含有比率(O/S)が、0.1~1.5であることが好ましい。上記元素含有比率が上述の範囲であると、透明性や屈折率がより高くなる。
上記主鎖の硫黄原子Sとは、具体的には、例えば、上記一般式(1)で表される構成単位(A)において、主鎖にある-S-の硫黄原子Sを意味する。また、上記一般式(2)で表される構成単位(B)では、主鎖にある-SO-の硫黄原子Sを意味し、上記一般式(3)で表される構成単位(C)では、主鎖にある-SO2-の硫黄原子Sを意味する。
上記主鎖の硫黄原子Sに結合した酸素原子とは、具体的には、例えば、上記一般式(2)で表される構成単位(B)において、主鎖にある-SO-の酸素原子Oを意味し、上記一般式(3)で表される構成単位(C)では、主鎖にある-SO2-の酸素原子Oを意味する。
【0057】
上記元素含有比率(O/S)は、透明性をより一層高くすることができる点で、0.3以上であることがより好ましく、0.7以上であることが更に好ましく、屈折率をより一層高くすることができる点で、1.3以下であることがより好ましく、1.1以下であることが更に好ましい。
上記元素含有比率は、X線光電子分光装置(XPS)を用いて、酸素原子の1s軌道(O1s)、炭素原子の1s軌道(C1s)、硫黄原子の2p軌道(S2p)のピーク強度を評価測定することにより求めることができる。
【0058】
上記重合体(X)は、ガラス転移温度(Tg)が80~250℃であることが好ましい。ガラス転移温度が上述の範囲であると、成形加工を容易に行うことができる。上記ガラス転移温度は、耐熱性を高くするという観点で、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、成形加工を容易に行うという観点で、200℃以下であることがより好ましい。
上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、ベースラインと変曲点での接線の交点により評価する方法により求めることができる。
【0059】
上記重合体(X)は、S-Oの結合エネルギーが163eV~167eVであることが好ましい。S-Oの結合エネルギーが上述の範囲であると、屈折率と透明性をより高くすることができる。
上記S-O結合エネルギーは、X線光電子分光法(XPS)により測定して得られる硫黄原子の2p3/2軌道のピークトップの位置を評価することにより求めることができる。
【0060】
上記重合体(X)の重量平均分子量(Mw)は、500~10000000であることが好ましい。重量平均分子量が上述の範囲であると、光学材料として好適に使用することができる。上記重量平均分子量は、機械特性向上の観点で、1000以上であることがより好ましく、3000以上であることが更に好ましく、10000以上であることが更により好ましく、溶融粘度低減の観点で、1000000以下であることがより好ましく、100000以下であることが更に好ましい。
【0061】
上記重合体(X)の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1~10であることが好ましい。上記分散度が上述の範囲であると、成形が容易となる。成形性がより一層向上しうる点で、上記分散度は5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。
【0062】
上記重量平均分子量、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定して求めることができ、具体的には後述する実施例に記載の方法により求めることができる。分散度は、重量平均分子量を数平均分子量で除することにより求めることができる。
【0063】
上記重合体(X)の屈折率は、1.69以上であることが好ましい。屈折率が上述の範囲であると、光学材料(部材)、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に好適に使用することができる。上記屈折率は、1.7以上であることがより好ましく、1.71以上であることが更に好ましい。
上記屈折率は、測定試料として、上記重合体を用いて厚み50nmの膜を製膜し、分光エリプソメーターUVISEL(HORIBA Scientific社製)を使用し、Na D線(589nm)を用いて測定することにより求めることができる。
【0064】
上記重合体(X)のアッベ数は、10以上であることが好ましい。アッベ数が上述の範囲であると、光分散が小さく、レンズに適した光学材料とすることができる。上記アッベ数は、15以上であることがより好ましく、18以上であることが更に好ましく、20以上であることが更により好ましい。上記アッベ数は、光分散性を調整するという観点で、60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。
上記アッベ数は、上記屈折率と同様に、上記重合体を用いて製膜し、上記分光エリプソメーターを使用してD線(589.3nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)における屈折率を測定し、下記の計算式を用いて求めることができる。
アッベ数(vD)=(nD-1)/(nF-nC)
式中、nD、nF、nCはそれぞれ、フラウンホーファーのD線(589.3nm)、F線(486.1nm)、C線(658.3nm)における屈折率を表す。
【0065】
上記重合体(X)は、可視光透過率が70%以上であることが好ましい。上記可視光透過率が上述の範囲であると、光学材料として好適に使用することができる。上記可視光透過率は、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが更に好ましい。
上記可視光透過率は、平行線透過率であり、上記重合体からなる0.02mm厚みの薄膜を用いて、又は、0.02mmに厚みを規格化することで、分光光度計(例えば、日本分光製紫外可視赤外分光光度計V-700 series)により、積分球を使用せずに、空気対象で400nm~700nmの範囲を測定し、透過率の最低値を評価することで求めることができる。
【0066】
上記重合体(X)は、線膨張率が100ppm/℃以下であることが好ましい。上記重合体の線膨張率が上述の範囲であると、屈折率の温度依存性が小さい光学材料となり、光学材料、封止材、コーティング材等の各種用途に好適に使用することができる。上記線膨張率は、より温度依存性を低減しうる点で、60ppm/℃以下であることがより好ましく、30ppm/℃以下であることが更に好ましい。上記線膨張率の下限値は特に限定されないが、1ppm/℃以上であることが好ましく、3ppm/℃以上であることが更に好ましい。
上記線膨張率は、JIS K 7197:2012に準拠した方法により測定して求めることができる。
【0067】
上記重合体(X)は、熱可塑性であることが好ましい。上記重合体が熱可塑性であると、上記重合体からなるバインダー樹脂を含むことにより、薄膜を均質に形成できたり、複雑な形状を高精度で形成できるといった成形加工性が良好となり、広い用途への適用が容易になる。
【0068】
(重合体(X)の製造方法)
上記重合体(X)を製造する方法としては、上述した構成単位(A)~(C)の少なくとも一種を有する重合体を製造することができる方法であれば特に限定されず、硫黄含有単量体を含む単量体成分を重合する等、公知の重合方法で行うとよい。なかでも、上記重合体を効率良く製造することができる点で、上記重合体の製造方法は、硫黄含有単量体を含む単量体成分を重合して硫黄含有重合体を得る工程(1)と、酸化剤を使用して上記硫黄含有重合体を酸化させる工程(2)を含むことが好ましい。
【0069】
工程(1)
上記工程(1)において、使用する上記硫黄含有単量体は、硫黄原子を含む単量体であれば特に限定されないが、本発明の製造方法においては、硫黄含有単量体を酸化重合することにより硫黄含有重合体を得ることが好ましい。酸化重合により硫黄含有重合体を得ることができる硫黄含有単量体としては、ジスルフィド化合物、及び、チオール化合物が好ましく挙げられ、具体的には、例えば、下記一般式(4)で表されるジアリールジスルフィド化合物、及び、下記式(5)で表されるチオアリール化合物がより好ましく挙げられる。
【0070】
【0071】
上記一般式(4)及び(5)中、A1及びA2は、同一又は異なって、置換基を有してもよい1価の芳香族炭化水素基を表す。
A1及びA2で表される上記1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、上述した一般式(1)中のX1で表される2価の芳香族炭化水素基を1価の基にしたものが挙げられ、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリフェニル基、ビフェニル基、フェナントリル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ビフェニル基、又は、トリフェニル基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
【0072】
A1及びA2で表される上記1価の芳香族炭化水素基が有する置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、硫黄含有置換基等が挙げられる。上記ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、硫黄含有置換基としては、上述したそれぞれの基と同様の基が挙げられる。
【0073】
上記ジアリールジスルフィド化合物は、下記一般式(4-1)で表される化合物であることが好ましい。
上記チオアリール化合物は、下記一般式(5-1)で表される化合物であることが好ましい。
【0074】
【0075】
(式(4-1)及び(5-1)中、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基を表す。)
上記ハロゲン原子、又は、置換基を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、もしくは硫黄含有置換基は、それぞれ、上述した一般式(1-1)においてR1で表されるそれぞれの基と同様のものである。
また、これらの基が有してもよい置換基としては、上述した置換基Bと同様のものが挙げられるが、なかでも、ハロゲン原子、水酸基であることが好ましい。
【0076】
上記ジスルフィド化合物は、チオール化合物の酸化によっても調製することができる。そのため、上記重合工程においては、上記ジスルフィド化合物の前駆体として、チオール化合物を使用することもできる。チオール化合物2分子を酸化的に結合させることにより、ジスルフィド化合物を得ることができる。
【0077】
チオール化合物を酸化させてジスルフィド化合物を得る方法としては、特に限定されず、過酸化水素、ヨウ素等を用いて酸化させる方法等、公知の方法で行うことができる。
【0078】
上記硫黄含有単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0079】
上記重合は、酸化重合であることが好ましい。上記酸化重合としては、特に限定されず、キノン系化合物を使用する方法や、バナジウム化合物等の金属化合物を使用する方法等の公知の方法で行うことができる。なかでも、透明性を向上させることができる点で、上記酸化重合体は、キノン系酸化剤を使用して行われることが好ましい。単量体成分に対する使用量が少なく、廃棄物が少なくなるという点では、金属化合物を用いることが好ましい。
【0080】
上記キノン系酸化剤としては、例えば、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-パラベンゾキノン(DDQ)、2,3,5,6-テトラクロロパラベンゾキノン(クロラニル)、2,3,5,6-テトラブロモベンゾキノン(ブロマニル)、2,3,5,6-テトラフルオロパラベンゾキノン、アントラキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジブロモ-1,4-ナフトキノン、2,3-ジシアノ-1,4-ナフトキノン、3,4,5,6-テトラクロロオルトベンゾキノン(オルトクロラニル)、3,4,5,6-テトラブロモオルトベンゾキノン(オルトブロマニル)、3,4,5,6-テトラフルオロベンゾキノン等が挙げられる。なかでも、酸化力が高い点や、入手しやすい点から、DDQが好ましい。上記キノン系酸化剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上使用してもよい。
【0081】
上記キノン系酸化剤の添加量は、使用する硫黄含有単量体1モルに対して、0.1~3モルであることが好ましく、0.8~1.5モルであることがより好ましく、0.9~1.1モルであることが更に好ましい。
【0082】
上記キノン系酸化剤を使用する際、更に酸を添加してもよい。上記キノン系酸化剤が作用すると、キノン系化合物はハイドロキノンのジアニオンとなるが、酸を添加しておくと、そのジアニオンを安定化させることができ、酸化力を維持することができる。
【0083】
上記酸としては、特に限定されず、例えば、硫酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルフォン酸、トルエンスルフォン酸、トリフルオロメタンスルフォン酸、1,1,2,2-テトラフルオロエタンスルフォン酸、トリフルオロ酢酸、パーフルオロプロピオン酸、パーフルオロ酪酸等が挙げられる。なかでも、酸性度を高くする点で、トリフルオロ酢酸が好ましい。上記酸は、1種のみ使用してもよいし、2種以上使用してもよい。
【0084】
上記酸の添加量は、添加する上記キノン系酸化剤の総量100モルに対して、10~1000モルであることが好ましく、50~500モルであることがより好ましく、80~120モルであることが更に好ましい。
【0085】
反応温度は、重合が進行する温度であれば、特に限定されないが、上記酸化重合が進行しやすい点で、0~200℃であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上が更に好ましく、また、副反応を抑制することができる点で、180℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましい。
【0086】
反応時間は、特に限定されないが、通常、0.1~100時間であり、1~80時間であることが好ましく、5~50時間であることがより好ましく、10~24時間であることが更に好ましい。
【0087】
上記重合反応においては、溶媒を使用してもよい。好ましい溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0088】
上記重合反応においては、重合反応中に、硫黄含有単量体を含む単量体成分を逐次的に添加してもよい。
また、上述したチオール化合物を酸化重合してジスルフィド化合物を得た後に、得られたジスルフィド化合物を酸化重合する等の多段で重合を行ってもよい。
【0089】
工程(2)
上記工程(1)の後、酸化剤を使用して上記硫黄含有重合体を酸化させる。
使用する酸化剤としては、特に制限されず、公知のものを使用することができ、例えば、キノン系化合物、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、四酢酸鉛、酸酢酸タリウム、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノエチレン、セリウム(IV)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネート、過酸化物、又は、塩素酸等が挙げられる。
【0090】
なかでも、主鎖上に含まれる硫黄原子(-S-)を酸化してスルホニル(-SO2-)にするには、酸化剤として過酸化物、又は、塩素酸を使用することが好ましい。一方、スルフィニル(-SO-)にするには、酸化剤として、過酸化物、又は、塩素酸を使用することが好ましい。
【0091】
上記過酸化物としては、例えば、メタクロロ過安息香酸、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酢酸、t-ブチルハイドロパーオキシド等が挙げられる。
なかでも、上記硫黄含有重合体を溶解することができる溶剤と同じ溶剤に溶解できる点で、上記酸化剤は、過酸化物であることが好ましく、メタクロロ過安息香酸、過酸化水素であることがより好ましい。重合体が析出する水を用いない点に関して、また、過剰の酸化剤でスルホキシドまで酸化されることを抑制するという点では、上記酸化剤は、メタクロロ過安息香酸であることが更に好ましい。
【0092】
上記酸化剤の添加量は、所望の硫黄原子の酸化反応が進行するのであれば特に限定されないが、通常、硫黄含有重合体中の硫黄原子1モルに対し、0.1~10モルであることが好ましく、0.5~5モルであることがより好ましく、0.8~1.5モルであることが更に好ましい。
【0093】
上記酸化反応の反応温度は、所望の酸化反応が進行する温度であれば、特に限定されないが、上記酸化反応が進行しやすい点で、0~200℃であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上が更に好ましく、また、副反応を抑制する点で、180℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましい。
【0094】
反応時間は、特に限定されないが、通常、0.1~100時間であり、1~80時間であることが好ましく、5~50時間であることがより好ましく、10~24時間であることが更に好ましい。
【0095】
上記工程(2)の酸化反応においては、溶媒を使用してもよく、上記溶媒としては、上記工程(1)の重合工程において使用する溶媒と同様の溶媒を好ましく挙げることができる。
【0096】
上記工程(2)で得られた重合体は、酸等が残存している可能があるため、洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、特に限定されず、水、酸、塩基等を用いて洗浄する方法が挙げられる。また、未反応物を除去するために、フィルターを通したり、溶媒で重合体を洗浄したりしてもよい。上記溶媒としては特に限定されないが、反応溶媒と同じ溶媒を用いることができる。
【0097】
上記重合体(X)の製造方法においては、上記工程(1)及び(2)の他に、他の工程を有していてもよい。上記他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0098】
<高分子材料で被覆された金属酸化物粒子>
上記高分子材料で被覆された金属酸化物粒子とは、金属酸化物粒子の表面の一部又は全部に高分子材料が付着して、被覆層が形成されている状態の粒子である。上記付着とは、金属酸化物粒子の表面と高分子材料とが、共有結合により結合している状態を表す。このような結合状態は、例えば、溶媒により抽出・洗浄した場合、金属酸化物粒子と分離するかで確認することができる。
金属酸化物粒子の凝集を防ぐという観点で、上記金属酸化物粒子は、その表面の全部が高分子材料で被覆されていることが好ましい。
【0099】
上記被覆層の厚みは、高屈折化、及び、樹脂への分散性の観点で、0.1~100nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましく、1~10nmであることが更に好ましい。上記被覆層の厚みは、TGAによる熱分解の方法により測定して求めることができる。また、FE-SEMとTEMの比較により、被覆膜の膜厚を見積もることが可能である。
【0100】
上記被覆層の量(被覆量)は、上記高分子材料で被覆された金属酸化物粒子100質量%に対して0.1~500質量%であることが好ましく、5~100質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることが更に好ましい。
上記被覆層の含有量は、熱重量示差熱分析(TG-DTA)により測定して求めることができる。
【0101】
(金属酸化物粒子)
上記高分子材料で被覆される、金属酸化物粒子としては、1種の金属元素からなる単一金属酸化物、2種以上の金属元素からなる酸化物である複合酸化物、上記単一金属酸化物又は上記複合酸化物に異種元素が固溶した固溶体酸化物の粒子が挙げられる。上記異種元素は、金属元素であってもよいし、酸素以外の、窒素やフッ素等の非金属元素であってもよい。
上記金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、ケイ素(Si)、セリウム(Se)、インジウム(In)等が挙げられる。
【0102】
上記単一金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化インジウム等が挙げられる。
上記複合酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムジルコニウムストロンチウム、チタン酸バリウムジルコニウム、ジルコン酸チタン酸鉛等のペロブスカイト型複合酸化物;スピネル、チタン酸リチウム等のスピネル型複合酸化物;チタン酸アルミニウム等の複合酸化物が挙げられる。
上記固溶体酸化物としては、上記単一金属酸化物又は複合酸化物に異種金属元素及び/又は酸素以外の非金属元素、例えば窒素、フッ素が固溶したものである固溶体酸化物等が挙げられる。
これらの金属酸化物粒子は1種のみ使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0103】
なかでも、透明性をより一層向上させることができる点や、樹脂組成物の低線膨張化ができる点では、酸化ジルコニウム、酸化チタン、又は、二酸化ケイ素の粒子がより好ましく、樹脂組成物の屈折率を向上させる観点では、酸化ジルコニウム、又は、酸化チタンの粒子がより好ましい。また、高い比誘電率を有し、樹脂組成物を強誘電体材料、圧電材料として好適に使用できる点では、ペロブスカイト型酸化物粒子が好ましい。熱伝導率が高く、樹脂組成物を放熱材料として好適に使用できる点では、窒化ホウ素、水酸化アルミニウム、チタン酸アルミニウムの粒子が好ましい。
【0104】
また、上記金属酸化物粒子は、視光領域に吸収がない、又は、少ないために、無機物による着色が抑制された、無色透明な組成物が得られ易い点で、Ti、Zr、Ce、Zn、In、Al、Si、Snを金属元素の主成分とする酸化物粒子であることがより好ましく、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズの粒子であることが更に好ましい。
【0105】
上記金属酸化物粒子の形状は、特に制限されず、例えば不定形状、球状、板状、棒状、多面体状等のいずれであってもよい。
【0106】
上記金属酸化物粒子の平均粒子径は、1nm以上、1000nm以下であることが好ましい。上記金属酸化物粒子の平均粒子径が上述の範囲であると、可視光領域、赤外線領域の透過性を向上できる。上記金属酸化物粒子の平均粒子径は、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、また、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
上記平均粒子径は、上記金属酸化物をSEM(倍率1000~10万倍、好ましくは1万倍)で観察し、得られた画像を解析することにより、約10~1000個の個々の粒子(一次粒子)の粒子径(円面積相当径)を求め、個数基準の粒度分布による50%粒径を評価することにより求められる。画像解析には、公知の画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製Mac-View)を用いることができる。
【0107】
上記高分子材料で被覆された金属酸化物粒子の含有量は、上記樹脂組成物の目的、用途に応じて適宜設定することができるが、通常、上記樹脂組成物の固形分総量100質量%に対して、5~95質量%であることが好ましい。上記金属酸化物粒子の含有量は、高屈折である点で、樹脂組成物の固形分総量100質量%に対して、20質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることがより更に好ましく、透明性の観点では、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。
【0108】
(高分子材料で被覆された金属酸化物粒子の調製)
金属酸化物粒子を上記高分子材料で被覆する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、シランカップリング剤を用いる方法、リン酸基を有する化合物を反応させる方法、カルボン酸基を反応させる方法等が用いられるが、なかでも、シランカップリング剤を用いて、金属酸化物粒子を上記高分子材料で被覆する方法が好ましい。
【0109】
上記シランカップリング剤を用いる方法としては、例えば、シランカップリング剤を用いて金属酸化物粒子の表面処理を行い、次いで、表面処理された金属酸化物粒子と高分子材料とを反応させる方法が挙げられる。
【0110】
上記シランカップリング剤としては、特に限定されず、公知のシランカップリング剤を用いることができるが、なかでも、ハロゲン原子、ビニル基、アクリル基、メタクリル基を有するシランカップリング剤が好ましく、ハロゲン原子、ビニル基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
【0111】
上記ハロゲン原子を有するシランカップリング剤は、酸基と反応しうる基を有するシラン化合物と、酸基とハロゲン原子を有する化合物とを反応させることにより調製することができる。
上記酸基と反応し得る基としては、エポキシ基等が好ましく挙げられる。
上記酸基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基等が好ましく挙げられる。
【0112】
上記表面処理において、シランカップリング剤の使用量は、上記金属酸化物粒子100質量部に対して、0.1~1000質量部であることが好ましく、1~100質量部であることがより好ましく、10~80質量部であることが更に好ましい。
【0113】
上記表面処理において、処理温度は0~150℃であることが好ましく、10~100℃であることがより好ましい。処理時間は、1~100時間であることが好ましく、1~24時間であることがより好ましい。
【0114】
上記表面処理された金属酸化物粒子と上記高分子材料との反応において、上記高分子材料の使用量は、上記表面処理された金属酸化物粒子100質量部に対し、1~10000質量部であることが好ましく、10~1000質量部であることがより好ましい。
【0115】
上記表面処理された金属酸化物粒子と高分子材料との反応において、反応温度は、0~150℃であることが好ましく、10~120℃であることがより好ましい。
反応時間は、特に限定されないが、1~100時間であることが好ましく、1~48時間であることがより好ましい。
【0116】
上記表面処理工程や反応工程は、溶剤中で行ってもよい。使用する溶剤としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン、フルオロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゾトリフルオリド等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ニトロメタン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0117】
上述した表面処理工程や反応工程では、触媒等、通常の表面処理工程や反応工程で使用される添加剤を更に用いてもよい。それらの種類や使用量も公知技術から適宜設定するとよい。
【0118】
上記反応後、必要に応じて、洗浄工程や溶媒除去工程等の任意の工程を経て、上記高分子材料で表面を被覆された金属酸化物粒子を得ることができる。洗浄工程や溶媒除去工程は、公知の方法で行うことができる。
【0119】
上記表面処理された金属酸化物粒子と上記高分子材料との反応工程は、上記高分子材料を使用する代わりに、上記表面処理された金属酸化物粒子の存在下で、上記高分子材料を形成するための単量体成分を重合する工程であってもよい。このような方法でも、高分子材料で被覆された金属酸化物粒子を調製することができる。
【0120】
上記重合工程は、使用する単量体成分等に応じて、公知の重合方法から適宜選択して行うとよい。また、上記重合工程においては、開始剤や触媒、溶媒等の通常使用される公知の添加剤も適宜使用することができる。
【0121】
<バインダー樹脂>
本発明の樹脂組成物は、更に、バインダー樹脂を含む。
上述のとおり、上記バインダー樹脂は、上記重合体(X)を含むことが好ましい。
上記バインダー樹脂として、1種の上記重合体(X)を使用してもよいし、2種以上の上記重合体(X)を使用してもよい。
また、上記バインダー樹脂として使用される上記重合体(X)は、上記高分子材料として使用される上記重合体(X)と同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0122】
上記バインダー樹脂の含有量は、上記樹脂組成物の目的、用途に応じて適宜設定することができるが、上記樹脂組成物の固形分総量100質量%に対して、1~1000質量%であることが好ましい。上記バインダー樹脂の含有量は、柔軟性や耐割れ性を付与できる点で、樹脂組成物の固形分総量100質量%に対して、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、500質量%以下であることがより好ましく、200質量%以下であることが更に好ましい。
【0123】
<(ポリ)スチレン骨格を有する化合物>
本発明の樹脂組成物は、更に、(ポリ)スチレン骨格を有する化合物(以下、「化合物(Y)」とも称する。)を含むことが好ましい。上記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物は、上述した高分子材料、又は、バインダー樹脂として、上述した重合体(X)以外に使用することができる。例えば、本発明の樹脂組成物において、上記高分子材料として、上記重合体(X)を使用し、上記バインダー樹脂として、上記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物を使用する形態や、上記高分子材料として、上記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物を使用し、上記バインダー樹脂として、上記重合体(X)を使用する形態や、上記高分子材料と上記バインダー樹脂として、共に上記重合体(X)を使用する形態がある。なかでも、高屈折である点で、上記高分子材料と上記バインダー樹脂として、共に上記重合体(X)を使用する形態が好ましい。
【0124】
上記(ポリ)スチレン骨格を有する化合物(Y)とは、下記一般式(6)で表される構造を有する化合物である。
【0125】
【0126】
(式中、R12、R13及びR14は、同一又は異なって、水素原子、又は、メチル基を表す。R15、R16、R17、R18及びR19は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、又は、アルコキシ基を表す。)
【0127】
式中、R15、R16、R17、R18及びR19で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよいが、直鎖状、分岐鎖状が好ましい。上記アルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、1~3であることが更に好ましい。
【0128】
式中、R15、R16、R17、R18及びR19で表されるアルコキシ基は、炭素数1~18であることが好ましく、炭素数1~8であることがより好ましく、炭素数1~3であることが更に好ましい。
【0129】
上記化合物(Y)としては、具体的には、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン等の化合物、及び、これらの重合体等が挙げられる。なかでも、上記重合体(X)との相溶性が良好である点で、(ポリ)スチレンが好ましい。
【0130】
上記化合物(Y)は、上記重合体(X)との相溶性が高くなる点で、数平均分子量が500~30000000であることが好ましく、1000~100000であることがより好ましく、2000~10000であることが更に好ましい。
上記化合物(Y)は、分散度(Mw/Mn)が1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~2であることが更に好ましい。
上記数平均分子量、分散度は、上述した重合体(X)の分子量の測定方法と同様の方法で求めることができる。
【0131】
上記化合物(Y)のガラス転移温度(Tg)は、80~250℃であることが好ましく、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、200℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることが更に好ましい。
上記ガラス転移温度は、上述した重合体(X)のガラス転移温度と同様の方法にて求めることができる。
【0132】
上記化合物(Y)を含む樹脂組成物の場合、上記化合物(Y)は、上記金属酸化物粒子と共有結合していることが好ましい。この場合、上記化合物(Y)は、上記金属酸化物粒子を被覆する上記高分子材料として使用される。
上記化合物(Y)と上記金属酸化物粒子とが共有結合していることは、上述した金属酸化物粒子が上記高分子材料で被覆された状態を確認する方法と同様の方法で、確認することができる。
【0133】
上記化合物(Y)の含有量は、上記化合物(Y)を上記高分子材料として使用する場合は、上述した高分子材料の含有量であることが好ましい。また、上記化合物(Y)を上記バインダー樹脂として使用する場合は、上述したバインダー樹脂の含有量であることが好ましい。
【0134】
<その他の成分>
上記樹脂組成物は、上述した成分の他に、例えば、上述した以外の樹脂、顔料、染料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、反応性希釈剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、連鎖移動剤、熱重合開始剤、嫌気重合開始剤、重合禁止剤、無機充填剤、有機充填剤、カップリング剤等の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤、艶消し剤、消泡剤、レベリング剤、湿潤・分散剤、沈降防止剤、増粘剤・タレ防止剤、色分かれ防止剤、乳化剤、スリップ・スリキズ防止剤、皮張り防止剤、乾燥剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤(静電助剤)、溶媒等の成分を含有してもよい。これらの成分は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの成分は、公知のものから適宜選択して使用することができる。また、これらの配合量は、適宜設定することができる。
【0135】
また、上記樹脂組成物が光学材料用である場合は、光学材料の用途に応じて、適宜その他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては、具体的には、紫外線吸収剤、IRカット剤、反応性希釈剤、顔料、洗料、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、非反応性化合物、消泡剤等が好適に挙げられる。
【0136】
上記樹脂組成物は、ガラス転移温度(Tg)が80~400℃であることが好ましい。ガラス転移温度が上述の範囲であると、成形加工を容易に行うことができる。上記ガラス転移温度は、耐熱性を高くするという観点で、100℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることが更に好ましく、成形加工を容易に行うという観点で、300℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更に好ましい。
上記ガラス転移温度は、上述した重合体のガラス転移温度の測定方法と同様の方法により求めることができる。
【0137】
上記樹脂組成物は、屈折率が1.6以上であることが好ましい。屈折率が上述の範囲であると、光学材料等として好適に適用できる。上記屈折率は、1.65以上であることがより好ましく、1.7以上であることが更に好ましい。
上記屈折率は、上述した重合体の屈折率の測定方法と同様の方法により求めることができる。
【0138】
上記樹脂組成物は、アッベ数が10以上であることが好ましい。アッベ数が上述の範囲であると、光分散が小さく、レンズに適した光学材料となりうる。上記アッベ数は、15以上であることがより好ましく、20以上であることが更に好ましく、30以上であることが更により好ましい。上記アッベ数は、光分散性を調整するという観点で、60以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましい。
上記アッベ数は、上述した重合体のアッベ数の測定方法と同様の方法により求めることができる。
【0139】
上記樹脂組成物は、可視光透過率が75%以上であることが好ましい。可視光透過率が上述の範囲であると、光学材料に好適に使用できる。上記可視光透過率は、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが更に好ましい。
上記可視光透過率は、上述した重合体の可視光透過率の測定方法と同様の方法により求めることができる。
【0140】
上記樹脂組成物は、線膨張率が70ppm/℃以下であることが好ましい。上記樹脂組成物の線膨張率が上述の範囲であると、温度による屈折率変化が小さくなり、光学材料、封止材、コーティング材等の各種用途に好適に使用することができる。上記線膨張率は、温度変化による光学特性変化を抑制できる点で、50ppm/℃以下であることがより好ましく、20ppm/℃以下であることが更に好ましい。上記線膨張率の下限値は特に限定されないが、1ppm/℃以上であることが好ましく、3ppm/℃以上であることが更に好ましい。
上記線膨張率は、JIS K 7197:2012に準拠した方法により測定して求めることができる。
【0141】
上記樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されず、上記金属酸化物粒子と、バインダー樹脂と、必要に応じて他の成分とを混合する方法が挙げられる。上記混合としては、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、ニーダー、ブレンダー等の公知の手段が挙げられる。
【0142】
<用途>
本発明の樹脂組成物は、高屈折率で、かつ、透明性に優れるので、高屈折率、又は、高い透明性が要求される用途に好適に使用することができる。
【0143】
本発明の樹脂組成物は、例えば、撮像レンズ、光学材料(部材)、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に使用される。なかでも特に、光学材料、オプトデバイス部材、表示デバイス部材等に好適に使用され、光学用としてより好ましく使用される。このような用途として具体的には、例えば、眼鏡レンズ、(デジタル)カメラや携帯電話用カメラや車載カメラ等のカメラ用撮像レンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等のレンズ、LED用封止材、光学用接着剤、光伝送用接合材料、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラスやカバーガラス等の光学用途;フォトセンサー、フォトスイッチ、LED、発光素子、光導波管、合波器、分波器、断路器、光分割器、光ファイバー接着剤等のオプトデバイス用途;LCDや有機ELやPDP等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、ディスプレイ保護膜、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム、防曇フィルム等の表示デバイス用途等が挙げられる。
【0144】
上記樹脂組成物は、熱可塑性であることが好ましい。熱可塑性であると、成形加工が容易で、生産性にも優れる。
【0145】
上記樹脂組成物は、成形材料としても、好適に使用することができる。成形方法としては、特に限定されず、射出成形、押出成形、Tダイ法、インフレーション法等の、一般に熱可塑性樹脂の加工方法として公知の方法が挙げられる。また、キャスト法や塗布等の方法によって、所望の形状に成形してもよい。上記形状としては、特に限定されず、レンズ、シート、フィルム等の公知の種々の形状が挙げられる。
【0146】
以上のとおり、本発明の樹脂組成物は、高い屈折率を有し、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れ、光学用等の各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0148】
実施例において、各評価は下記の方法で行った。
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散度(Mw/Mn)>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定して、重合体の重量平均分子量及び数平均分子量を求めた。分散度は、重量平均分子量を数平均分子量で除して算出した。
装置:SHIMAZU、CBM-20A
検出器:示差屈折率検出器(RI)(SHIMAZU、SPD-20MA)、及び、紫外可視赤外分光光度計(SHIMAZU、SPD-20MA)
カラム:TOSOH、TSKgel SuperHM-N
カラム温度:40℃
流速:0.3mL/min
検量線:Polystyrene Standards
溶離液:クロロホルム
【0149】
<赤外分光分析(IR)>
下記の条件でIR測定を行った。
装置:JASCO社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-6100)
サンプル調製:約2mgのサンプルを約300mgの乾燥臭化カリウム(KBr)で希釈した。混合物を乳鉢および乳棒ですりつぶし、成型した。
【0150】
<熱重量分析(TGA、TG-DTA)>
下記の条件で測定を行った。
装置:リガク社製、TG8120
条件:測定温度範囲20-200℃(昇温速度:10.0deg/min、200℃到達後30分保持)
サンプリング間:1.0sec
雰囲気:N2 50mL/min
【0151】
<X線回折測定(XRD)>
下記の条件で測定を行った。
装置:リガク社製、RINT-UltimaIII
X線源:Cu Kα線
測定範囲:2θ=10-60°
サンプリング間隔:0.04°
走査速度:10°/分
【0152】
<ガラス転移温度(Tg)>
セイコー電子工業製示差走査熱量計(DSC)を使用し、リファレンスとしてα-アルミナを使用して、昇温速度10℃/分で、室温から250℃まで昇温して得られたDSC曲線から、ベースラインと変曲点での接線の交点により評価して求めた。
【0153】
<ブレンド膜の透過率>
分光光度計(日本分光製紫外可視赤外分光光度計V-700 series)により測定した。なお、空気を対照サンプルとした。可視光透過率を評価するために、400nmの透過率で評価した。
【0154】
<屈折率(nD)>
得られた膜について、HORIBA Scientific社製分光エリプソメーターUVISELを用い、入射前後の偏光の位相差と反射偏角比を測定した。入射光の波長(450nm)と入射角度(75°)は予め設定した値を使用し、複素屈折率が求められ、190-2000nmでの屈折率を算出し、波長589.3nmにおける屈折率を求めた。
製膜方法について記載がない場合は、ポリマー又は樹脂組成物の30mgを、1,1,2,2-テトラクロロエタン(1ml)に溶解させ、孔径0.2μmのメンブレンフィルターに通し、フィルターを通過した溶液を0.4ml採り、ガラス基板(2cm×2cm)上にドロップキャストして、膜厚約50nmの膜を得て、これを測定した。
【0155】
<元素含有比率O/S比>
ポリマー溶液0.25mlを、シリコンウェハ上にスピンコートすることにより製膜した試料を用いて、JEOL社製光電子分光装置(JPS-9010TR、XPS装置、光源:Mg、X線出力:400W)を用い、硫黄原子の2p軌道由来のピーク強度と酸素原子の1s軌道由来のピーク強度を測定し、その積分比を計算することでO/S比を算出した。必要に応じて、炭素原子の1s軌道由来のピーク強度も測定、その結果も考慮してO/S比を算出した。
なお、測定方法及び結合エネルギーの位置等は、Handbook of X-ray Photoelectron Spectroscopy(JEOL社、1991年3月発行)を参考とした。
【0156】
実施例1
(ポリ(2,6-ジメチルジスルフィド)(PMPS)の合成)
窒素雰囲気で、50mlの三口フラスコに、3,3’,5,5’-テトラメチルジフェニルジスルフィド(5g、18mmol)を、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-パラベンゾキノン(DDQ、2M)とトリフルオロメタンスルフォン酸(1M)の1,1,2,2-テトラクロロエタン溶液(10ml)に加え、40時間室温にて撹拌することで酸化重合を行った。40時間後に1,1,2,2-テトラクロロエタン溶液を塩酸酸性メタノールに滴下し、グラスフィルターで粉末を回収した。その後、水酸化カリウム水溶液(0.1M)及び純水で洗浄し、真空乾燥させてポリマー(PMPS)を得た。ポリマーのガラス転移温度は162℃であった。O/S比は、0.02であった。屈折率は1.69であった。
【0157】
(酸化チタン微粒子表面のブロモ修飾)
30mLフラスコ中で、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランSCA-ep(1.00g, 4.23 mmol)、及び、2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸(0.84g, 5.00 mmol)を4mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて70℃で20時間反応させた。水/クロロホルムによる分液、減圧乾燥を経て黄色粘性液体としてブロモ含有シランカップリング剤(SCA-Br)を得た。
続いて、アナターゼ型TiO2微粒子(Aldrich社製、粒径<25nm、1.0g)をトルエン(60mL)に分散させ、得られたSCA-Br(0.40g)及びトリエタノールアミン(TEA)(0.1mL)を添加し、N2雰囲気下50℃で24時間反応させた。透析膜中でトルエン及びクロロホルムにより洗浄、減圧乾燥を経て、白色粉末として表面にブロモ基を有する酸化チタン微粒子TiO2-Brを得た。
IRより、2900cm-1付近にC-H 伸縮、1700cm-1付近にC=O伸縮、1100cm-1付近にO-Si-O伸縮由来のピークが観測され、反応の進行を支持した。また、TGAより修飾部分は11wt%(TiO2-Br 1gあたり0.19mmolのBr開始剤)と算出された。
【0158】
(ATRP(Atom Transfer Radical Polymerization)による酸化チタン微粒子表面のポリスチレン修飾)
開始剤として、上記で得たTiO2-Br(0.10g,Br:1eq)、及び、2-ブロモイソ酪酸エチルEBiB(3eq)をアニソール中で撹拌し、モノマーとしてスチレン(460eq)、CuBr/PMDETA触媒(3eq)を加えて脱気し、90℃で24時間反応させた。反応後、反応溶液をクロロホルムに溶解・分散させ、遠心分離により上澄み液を回収し、メタノールへの沈殿精製により遊離ポリスチレンを除去した。遠心分離により得られた沈殿物を再度クロロホルムに分散させ、メタノールに沈殿精製し、遠心分離を経て、白色粉末としてポリスチレン修飾酸化チタン微粒子TiO2-PSを得た。微粒子TiO2-PSをTG-DTA評価し、ポリスチレン(PS)の分解重量より、TiO2/PSの重量比は78wt%/22wt%であり、Tgは90℃あった。PSの分子量評価より、Mn=6100、Mw/Mn=1.1であった。
IRより2900から3050cm-1付近に脂肪族および芳香環C-H伸縮、1500cm-1付近に芳香環伸縮が観測された。また、XRDより、アナターゼ型TiO2由来の結晶性ピーク、2θ=15°から30°付近にポリスチレン由来の非晶ブロードが観測された。以上より反応の進行を支持した。
【0159】
(TiO
2-PS/PMPSブレンド膜の相溶性評価、及び、光学特性)
上記で調製したTiO
2-PS(Tg:94℃)、及び、PMPS(Tg:162℃)を1/1の重量比で20mg/mLでトルエンに溶解・分散させて、樹脂組成物を調製した。
得られた樹脂組成物を、ガラス基板上にドロップキャスト法にて製膜した。ドロップキャストにより得られたブレンド膜は目視で透明であった。また、DSCにより、単一のガラス転移点(Tg:120℃)を示した。このことから、TiO
2-PSとPMPSの良好な相溶性(均一性)が確認された。
また、得られたブレンド膜の透過率を測定した。可視光域(400~700nm)において80%以上の高い透過率を示し、400nmで84.8%を示した。
図1に、実施例1で得られたブレンド膜の透過率の測定データを示す。
図2に、実施例1で得られたブレンド膜の写真を示す。
得られたブレンド膜の屈折率は、1.68であった。
以上より、実施例の樹脂組成物は、屈折率が高く、金属酸化物粒子の凝集抑制に優れ、透過率の高いブレンド膜を与えることが確認された。