(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241015BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G03G15/20 510
H05B3/00 335
(21)【出願番号】P 2020162244
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】中本 淳嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亞弘
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-071284(JP,A)
【文献】特開2017-021325(JP,A)
【文献】特開2015-102718(JP,A)
【文献】特開平05-127550(JP,A)
【文献】特開2016-188916(JP,A)
【文献】特開2015-129792(JP,A)
【文献】特開2017-173359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
発熱体を有するヒータと、
前記発熱体により加熱される第1の回転体と、
前記第1の回転体とともにニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータの前記第1の回転体に対向する面とは反対側の面に隣接して配置され、前記第1の回転体の長手方向の温度分布を均熱する均熱部材と、
を備え、
前記均熱部材の前記長手方向の中央を含む領域を第1の領域、前記第1の領域よりも前記長手方向において端部側の領域を第2の領域、前記第2の領域よりも前記長手方向において端部側の領域を第3の領域とする場合、前記均熱部材の前記第1の領域の単位長さ当たりの熱容量をCα、前記第2の領域の単位長さ当たりの熱容量をCβ、前記第3の領域の単位長さ当たりの熱容量をCγとすると、
前記熱容量Cα>前記熱容量Cβ、かつ、前記熱容量Cγ>前記熱容量Cβ
であ
り、
前記第2の領域は、前記長手方向の長さである幅が最大の記録材の端部が前記第1の回転体を通過する位置に対応した領域であり、
前記第2の領域は、前記均熱部材を貫通する開口部、又は前記均熱部材を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記第2の領域の内側に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部との間を前記均熱部材の短手方向に同一の長さで前記第2の領域を貫通する前記開口部を有し、前記第2の領域の前記短手方向のそれぞれの端部に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部とに接続された連結部を有することを特徴とする請求項
1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記第2の領域は、前記第2の領域の前記均熱部材の短手方向のそれぞれの端部に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部との間を前記短手方向に同一の長さで前記第2の領域を切り欠いた前記切り欠き部を有し、前記第2の領域の内側に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部とに接続された連結部を有することを特徴とする請求項
1に記載の定着装置。
【請求項4】
前記熱容量Cβは、一定であることを特徴とする請求項
2又は請求項
3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第2の領域は、前記第2の領域の内側に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部との間を前記均熱部材の短手方向の長さが前記第3の領域に向かって大きくなる前記第2の領域を貫通する前記開口部を有し、前記第2の領域の前記短手方向のそれぞれの端部に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部とに接続された連結部を有することを特徴とする請求項
1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記第2の領域は、前記第2の領域の前記均熱部材の短手方向のそれぞれの端部に、前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部との間を前記第3の領域に向かって前記短手方向の長さが大きくなる前記第2の領域を切り欠いた前記切り欠き部を有し、前記第2の領域の内側に前記第1の領域の端部と前記第3の領域の端部とに接続された連結部を有することを特徴とする請求項
1に記載の定着装置。
【請求項7】
前記連結部の前記短手方向の長さは、前記第1の領域の端部から前記第3の領域の端部に向かって小さくなることを特徴とする請求項
5又は請求項
6に記載の定着装置。
【請求項8】
前記熱容量Cβは、前記第1の領域の端部から前記第3の領域の端部に向かって小さくなることを特徴とする請求項
4から請求項
7のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項9】
前記第1の回転体は、フィルムであることを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項10】
前記
ヒータは、前記フィルムの内面に接するように設けられており、
前記ニップ部は、前記フィルムを介して前記
ヒータと前記第2の回転体により形成されていることを特徴とする請求項
9に記載の定着装置。
【請求項11】
記録材に未定着のトナー像を形成する画像形成手段と、
記録材上の未定着のトナー像を定着する請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材上に画像を形成する画像形成装置に用いられる定着装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置では、記録材上に転写されたトナー像は、定着装置によって加熱、加圧されて、記録材上に定着される。定着方式としては、発熱部材と筒状フィルムを用いたフィルム定着方式が広く知られている。また、搬送可能な最大サイズの記録材より幅の狭い記録材を連続して搬送した際の、記録材が通過しない非通紙領域における定着装置の過度の昇温(以下、非通紙部昇温という)を抑制する手段として、次のような構成が知られている。すなわち、発熱部材と発熱部材を保持する保持部材との間に熱伝導率が発熱部材よりも大きい均熱部材を配置し、発熱部材の熱が奪われる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、画像形成装置の高速化に伴い、ユーザが印刷開始を指示してから、1枚目の記録材が排出されるまでの時間(ファーストプリントアウトタイム、以下、FPOTという)を短縮し、ユーザの待ち時間を削減することが求められている。上述した発熱部材と発熱部材を保持する保持部材との間に、熱伝導率が発熱部材よりも大きい均熱部材を配置する構成は、非通紙部昇温の抑制には有効である。ところが、均熱部材により、発熱部材であるヒータの熱が奪われることにより、定着フィルムの温度が画像形成に適した温度まで上昇する時間が長くなり、FPOTの短縮のためには課題となっている。
【0005】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明では、以下の構成を備える。
【0007】
(1)記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、発熱体を有するヒータと、前記発熱体により加熱される第1の回転体と、前記第1の回転体とともにニップ部を形成する第2の回転体と、前記ヒータの前記第1の回転体に対向する面とは反対側の面に隣接して配置され、前記第1の回転体の長手方向の温度分布を均熱する均熱部材と、を備え、前記均熱部材の前記長手方向の中央を含む領域を第1の領域、前記第1の領域よりも前記長手方向において端部側の領域を第2の領域、前記第2の領域よりも前記長手方向において端部側の領域を第3の領域とする場合、前記均熱部材の前記第1の領域の単位長さ当たりの熱容量をCα、前記第2の領域の単位長さ当たりの熱容量をCβ、前記第3の領域の単位長さ当たりの熱容量をCγとすると、前記熱容量Cα>前記熱容量Cβ、かつ、前記熱容量Cγ>前記熱容量Cβであり、前記第2の領域は、前記長手方向の長さである幅が最大の記録材の端部が前記第1の回転体を通過する位置に対応した領域であり、前記第2の領域は、前記均熱部材を貫通する開口部、又は前記均熱部材を切り欠いた切り欠き部を有することを特徴とする定着装置。
【0008】
(2)記録材に未定着のトナー像を形成する画像形成手段と、記録材上の未定着のトナー像を定着する前記(1)に記載の定着装置と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の画像形成装置の構成を示す概略断面図
【
図6】実施例の定着フィルムの温度プロファイルを表したグラフ
【
図10】実施例の均熱部材のその他の構成を示す模式図
【
図11】実施例の均熱部材のその他の構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施例において、記録材を定着ニップ部に通すことを、通紙するという。また、発熱体が発熱している領域で、記録材が通紙していない領域を非通紙領域(又は非通紙部)といい、記録材が通紙している領域を通紙領域(又は通紙部)という。更に、非通紙領域が通紙領域に比べて温度が高くなってしまう現象を、非通紙部昇温という。
【実施例】
【0012】
[画像形成装置の構成]
図1は、本実施例の定着装置102を備えた画像形成装置100の構成を示す断面図である。
図1に示す画像形成装置100において、記録材Pにトナー像を形成する画像形成部101(図中、点線で囲まれた部分)は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色のトナー像を形成する、4つの画像形成ステーションPa、Pb、Pc、Pdを有している。更に、画像形成部101は、各画像形成ステーションPa、Pb、Pc、Pdに対応して設けられ、各画像形成ステーションの、後述する感光ドラムに静電潜像を形成するレーザスキャナ3a、3b、3c、3dを有している。各画像形成ステーションPa、Pb、Pc、Pdは、像担持体としての筒状の感光ドラム1a、1b、1c、1dと、帯電ローラ2a、2b、2c、2dと、現像ローラ41a、41b、41c、41dを備える現像器4a、4b、4c、4dを有している。各画像形成ステーションPa、Pb、Pc、Pdは同一の構成であり、各部材の末尾に付したa、b、c、dは画像形成ステーションPa、Pb、Pc、Pdの部材であることを示している。以下では、特定の画像形成ステーションの部材を指す場合を除き、符号末尾のa、b、c、dを省略する。帯電ローラ2は、感光ドラム1を一様な電位に帯電し、一様な電位に帯電された感光ドラム1に、レーザスキャナ3が画像データに応じてレーザ光を照射することにより、感光ドラム1上に画像データに応じた静電潜像が形成される。そして、現像器4が、感光ドラム1上の静電潜像に現像ローラ41でトナーを付着させることにより、感光ドラム1上にトナー像が形成される。感光ドラム1上に形成されたトナー像は、感光ドラム1に対向する位置に設けられた一次転写部材6により、図中矢印方向(時計回り方向)に回転する中間転写ベルト7に、順次、重畳して転写される。なお、中間転写ベルト7に転写されずに感光ドラム1上に残ったトナー像は、クリーナ5のクリーニングブレード51によって除去される。中間転写ベルト7に転写されたトナー像は、記録材Pに転写するために、二次転写ローラ8へと移動する。
【0013】
一方、給紙カセット9には、記録材Pが収容されており、画像形成動作がスタートすると、給紙ローラ10により1枚ずつ、搬送路へと給送される。給紙ローラ10により給送された記録材Pは、搬送ローラ11によって、中間転写ベルト7と二次転写ローラ8とが当接して形成された二次転写ニップ部に搬送され、二次転写ニップ部にて、中間転写ベルト7上のトナー像が記録材Pに転写される。
【0014】
二次転写ニップ部にてトナー像が転写された記録材Pは、定着装置102に搬送されて、加熱、加圧処理が行われ、トナー像は記録材Pに定着される。そして、定着装置102を通過した記録材Pは、排紙ローラ12によって、排出部13に排出される。
【0015】
[定着装置の構成]
図2は、本実施例の定着装置102の概略構成を示す断面図である。
図3(a)は、定着装置102に用いるセラミックヒータ21の概略構成を示す模式断面図、
図3(b)は、セラミックヒータ21を定着フィルム24のフィルム摺動面側から見たときの模式図である。また、
図3(c)は、定着フィルム24の温度分布を均熱化する均熱部材22を定着フィルム24のフィルム非摺動面側から見たときの模式図である。
図4は、セラミックヒータ21への電力供給を制御する制御系を説明するブロック図である。
【0016】
図2に示すように、本実施例の定着装置102は、加熱回転体としての加熱ユニット20と、定着フィルム24と定着ニップ部を形成する加圧回転体としての加圧ローラ30と、を有している。加熱ユニット20、加圧ローラ30は、いずれも記録材Pの搬送方向を示す記録材搬送方向と直交する方向に長い部材である。以下では、加熱ユニット20、加圧ローラ30を構成する部材の記録材搬送方向と直交する方向を長手方向、記録材搬送方向に平行な方向を短手方向という。
【0017】
(加熱ユニット)
図2に示すように、加熱ユニット20は、セラミックヒータ21(以下、ヒータ21という)、均熱部材22、サーミスタ23、筒状の定着フィルム24と、定着フィルムガイド25を有している。定着フィルムガイド25は、耐熱性材料を用いて、短手方向の断面が略凹字形状に形成されている。定着フィルムガイド25の加圧ローラ30と対向する側には、長手方向に沿って溝25Aが形成されており、ヒータ21及び均熱部材22は、定着フィルムガイド25の溝25Aに支持されている。
【0018】
図3(a)は、
図2に示した定着フィルムガイド25の溝25Aに支持されたヒータ21及び均熱部材22を拡大した図であり、均熱部材22の上部(フィルム非摺動面側)には、ヒータ21の温度を検知するサーミスタ23A、23Bが配置されている。
図3(a)に示すように、ヒータ21は、アルミナ、窒化アルミ等のセラミックを主成分とする薄板状の基板21Aを有している。基板21Aの定着フィルム24のフィルム摺動面側の面には、基板21Aの長手方向に沿って、銀、パラジウム等を主成分とした発熱抵抗体21Bが配置されている。更に、発熱抵抗体21Bを覆うように、ガラス又はフッ素樹脂、ポリイミド等の耐熱樹脂を主成分とする保護層21Cが形成されている。
【0019】
図3(b)は、
図3(a)に示すヒータ21を定着フィルム24の摺動面側から見たときの図であり、図中左右方向がヒータ21の長手方向であり、図中上下方向がヒータ21の短手方向である。
図3(b)に示すように、基板21Aの定着フィルム24のフィルム摺動面側には、発熱抵抗体21B、発熱抵抗体21Bと電気的に接続された導電部21E、導電部21Eに電流を流すための電極21Fがパターン印刷されている。また、保護層21C(図中、破線で表示)が、基板21A上に形成された発熱抵抗体21B、及び導電部21Eを覆うように形成されている。
【0020】
一方、
図3(c)は、
図3(a)に示すヒータ21を定着フィルム24のフィルム非摺動面側から見たときの図であり、図中左右方向がヒータ21の長手方向であり、図中上下方向がヒータ21の短手方向である。
図3(c)に示すように、基板21Aのフィルム摺動面の反対側のフィルム非摺動面側には、均熱部材22が配置されており、均熱部材22の長手方向の長さは基板21Aの長手方向の長さよりも短い。更に、均熱部材22上には、均熱部材22を介して、ヒータ21の温度を検知するメインサーミスタ23A、サブサーミスタ23Bが設置されている。メインサーミスタ23Aは、ヒータ21の長手方向の中央に配置され、ヒータ21の記録材Pが通過する通紙領域の温度を検知する。一方、サブサーミスタ23Bは、均熱部材22の長手方向の端部の近傍に配置されている。サブサーミスタ23Bは、小サイズの記録材Pに印刷する際、あるいは大サイズの記録材Pを基板21Aの長手方向端部側に片寄せして印刷する際に、記録材Pが通過しない基板21Aの長手方向端部側の非通紙領域の温度を検知するために設けられている。そして、サブサーミスタ23Bによって、ヒータ21の記録材Pが通過しない非通紙領域の温度を検知している。
【0021】
図2に示すように、定着フィルム24は、フィルムの内周長が定着フィルムガイド25の外周長より所定長だけ長くなるように筒状に形成され、定着フィルムガイド25に無張力にてルーズに外嵌されている。定着フィルム24は、ポリイミドを主成分とする無端帯状のフィルム基層の外周面を、PFAを主成分とする無端帯状の表面層により被覆された二層構造となっている。
【0022】
(加圧ローラ)
図2に示すように、加圧ローラ30は、鉄、SUS、アルミニウム等の金属材料からなる芯金30Aを有している。そして、芯金30Aの回転軸の外周面上には、シリコーンゴムなどを主成分とする弾性層30Bが形成されており、更に、弾性層30Bの外周面上には、PTFE、PFA又はFEPなどを主成分とする離型層30Cが形成されている。なお、芯金30Aの長手方向の両端部は、定着装置102のフレームに回転可能に支持されており、モータMによって駆動されるギアが固着されている。
【0023】
[定着装置の動作]
次に、
図2、
図4を用いて、定着装置102の定着処理動作について説明する。
図2において、定着装置102を制御する制御部50は、CPU(不図示)、CPUが実行するプログラムやデータを記憶したROM(不図示)、及び一時的なデータの記憶に用いるRAM(不図示)を有している。制御部50のCPUは、画像形成の開始を指示するプリント信号に応じて、モータMを駆動し、加圧ローラ30を図中矢印方向(反時計回り方向)に回転させる。加圧ローラ30の回転に追従して、加熱ユニット20の定着フィルム24は、定着フィルム24の内周面(内面)が、ヒータ21及び定着フィルムガイド25に摺動しながら、図中矢印方向(時計回り方向)に回転する。
【0024】
図4は、制御部50によるヒータ21への電力供給制御を説明するブロック図である。商用交流電源54から出力された交流電圧は、トライアック52を介して、ヒータ21の電極21F(
図3(b))に供給される。電極21Fに供給された交流電圧は、導電部21E(
図3(b))を通じて、発熱抵抗体21Bに供給され、発熱抵抗体21Bは、電力供給されることにより発熱する。その結果、ヒータ21は、急速に昇温して、定着ニップ部で定着フィルム24を加熱する。制御部50は、均熱部材22を介して、ヒータ21の温度を検知するメインサーミスタ23Aが検知した検知温度を、A/D変換回路53を介して取得する。そして、制御部50は、取得した検知温度に基づいて、ヒータ21が定着温度(目標温度)を維持するように、トライアック52のオン・オフ制御を行うことにより、商用交流電源54からヒータ21へ供給する電力供給量を制御する。
【0025】
図2に示すように、二次転写ニップ部にて未定着トナー像Tが転写された記録材Pは、定着ニップ部において、加圧ローラ30と定着フィルム24の外周面(表面)とで挟持搬送されつつ、定着フィルム24表面の熱により加熱される。これにより、未定着トナー像は、記録材P上に定着される。そして、制御部50は、トナー像Tが定着された記録材Pが定着装置102を通過した後に、モータMの駆動を停止し、トライアック52をオフにして、商用交流電源54からヒータ21への電力供給を停止する。
【0026】
[非通紙部昇温への対策とFPOTの関係]
定着装置102に最大通紙領域より幅の狭い小サイズの記録材Pを連続的に通紙させた場合には、定着フィルム24の温度は、記録材Pと接触する通紙部に比べ、記録材Pと非接触となる非通紙部の方がより高温になる。そのため、小サイズの記録材Pの通紙終了後に、定着装置102により幅広の記録材Pが通紙されると、通紙部と非通紙部との温度差による定着率の差によって、画質不良が生じるという課題がある。非通紙部昇温対策としては、ヒータ21と定着フィルムガイド25との間に均熱部材22を配置する方法があり、用いる均熱部材22の熱伝導率が高ければ高いほど、非通紙部の昇温をより抑制することができる。一方で、定着装置102の立ち上がり時間を短縮してFPOTを短縮するには、ヒータ21に接する部材の熱容量を小さくすることが効果的である。ところが、非通紙部昇温対策に均熱部材22を用いることは、均熱部材22が熱を奪うことにより、定着装置102の立ち上がり時間が延びることになってしまう。すなわち、非通紙部昇温の抑制とFPOTの短縮とは、トレードオフの関係にある。
【0027】
[均熱部材の構成(構成例1)]
図5(a)は、
図3(c)に示す本実施例の構成例1の均熱部材22の概略構成を示す模式図、
図5(b)は、
図5(a)に示す均熱部材22の図中長手方向右側の端部近傍を拡大した模式図である。均熱部材22には、ヒータ21の温度を長手方向で均一化させるために、熱伝導性に優れた材料を用いることが望ましい。そのため、均熱部材22には、SUSやアルミ、アルミ合金、銅、銀、金、鉄、炭素鋼、グラファイト合金等の金属材料や、グラファイトシート等のカーボン材料のような熱伝導率が高く、必要以上の熱を奪わない適度な熱容量を有する材料が使用される。本実施例では、均熱部材22として、アルミを使用している。
【0028】
図5(a)において、均熱部材22の長手方向(図中左右方向)の長さは、228mmであり、定着装置102を通過する記録材Pの最大サイズの紙幅216mmよりも長い。また、均熱部材22の短手方向(図中上下方向)の長さは7mmであり、厚さ(板厚)は0.3mmである。
図5(a)、(b)に示すように、均熱部材22には、長手方向の端部から6mm内側の最大サイズ紙幅の位置から、長手方向の中心側に向かって、長手方向が20mm、短手方向が4mmの均熱部材22を貫通する長方形状の開口部26が設けられている。また、開口部26は、均熱部材22の短手方向の中心に対称な形状で、開口部26の短手方向の各端部は、それぞれ均熱部材22の短手方向の端部から1.5mm内側に位置している。更に、開口部26の長手方向の均熱部材22の端部に近い側の端部は、記録材Pの最大サイズ紙幅が通過する、均熱部材22の端部から6mm内側に位置している。また、開口部26は、均熱部材22の長手方向の両方の端部近傍(後述する領域β)に配置され、その配置位置は、均熱部材22の長手方向の中心を軸に左右対称となっている。
【0029】
図5(a)に示すように、本実施例では、均熱部材22の長手方向の中心軸を境に、均熱部材22の長手方向の中心軸から端部に向かって、均熱部材22の領域は、領域α、領域β、領域γの3つの領域に分けられている。詳細には、領域αは、均熱部材22の長手方向中心から長手方向の端部に向かって88mmまでの領域であり、領域βは、領域αの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部に向かって20mmの領域である。また、領域γは、領域βの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部までの6mmの領域である。なお、上述した開口部26は、領域βに設けられている。均熱部材22の領域α、β、γの単位長さ当たりの熱容量をそれぞれCα、Cβ、Cγとすると、熱容量Cα>熱容量Cβ、かつ、熱容量Cγ>熱容量Cβとなる。すなわち、領域βの熱容量Cβは、開口部26が設けられていることにより、領域αの熱容量Cα、領域γの熱容量Cγよりも小さくなっている。また、
図5(a)、(b)において、本実施例における均熱部材22は、長手方向の中心を軸に左右対称であるため、鏡像の位置にある領域α、β、γ、及び単位長さ当たりの熱容量Cα、Cβ、Cγは、括弧付きで示している。
【0030】
[均熱部材の構成による定着フィルムの温度プロファイルの違い]
上述したトレードオフの関係にある、非通紙部昇温の抑制とFPOTの短縮は、
図5に示す本実施例の均熱部材22を用いることにより、非通紙部昇温を抑制すると共にFPOTも短縮させることができ、課題を解消することができる。
【0031】
図6は、室温から立ち上げた定着装置102において、1枚目の記録材Pが定着ニップ部に到達する直前の定着フィルム24の長手方向の温度プロファイルを模式的に表したグラフである。
図6の上部に示す図は、定着装置102のヒータ21、本実施例の均熱部材22、従来の均熱部材22の構成及び位置関係を示す模式図である。
図6のグラフの縦軸は、定着フィルム24の温度(単位:℃)を示し、横軸は、本実施例、及び従来の均熱部材22の長手方向の位置を示している。
図6において、実線で示すグラフは、開口部を有しない従来の均熱部材22を用いた場合の定着フィルム24の長手方向の温度プロファイルである。一方、破線で示すグラフは、
図5に示す本実施例の均熱部材22を用いた場合の定着フィルム24の長手方向の温度プロファイルである。
【0032】
図6を用いて、本実施例の均熱部材22が均熱効果を奏すると共に、FPOTを短縮させることができるメカニズムについて説明する。
図6に示すように、本実施例の均熱部材22、及び従来の均熱部材22の長手方向の温度プロファイルにおいて、放熱と熱拡散によって、定着フィルム24の長手方向中心から長手方向端部に向かって、温度が下がっている。ところが、本実施例の均熱部材22を用いた場合の温度プロファイルは、従来の均熱部材22を用いた場合の温度プロファイルに比べて、定着フィルム24の長手方向端部の下がり幅が小さい。定着装置102の立上げ時において、ヒータ21に隣接している均熱部材22はヒータ21の熱を奪うことになる。ところが、本実施例の均熱部材22は、長手方向端部の領域βにおける単位長さ当たりの熱容量Cβが、領域α、γの熱容量Cα、Cγに比べて小さいため、ヒータ21から奪う熱量も小さい。これにより、本実施例の均熱部材22を用いた場合には、定着フィルム24の長手方向端部における高い温度を実現している。
【0033】
通常、記録材Pの最大サイズ紙幅中で最も温度の低い領域に転写されたトナー像でも、定着装置102に通紙されることにより記録材Pに定着されるように、ヒータ21の立ち上げ時間が設定される。ところが、
図6のグラフが示す状態で定着可能温度が180℃であるとすると、従来の均熱部材22を使用した場合は、長手方向端部(すなわち、記録材Pの最大サイズ紙幅)における温度が170℃から180℃になるまで、立ち上げ時間を延長する必要がある。一方、本実施例の均熱部材22を用いた場合には、
図6のグラフが示す状態で、記録材Pの最大サイズ紙幅における温度が定着可能温度である180℃になっているため、均熱効果を奏すると共に、従来例に比べてFPOTを短縮することができる。また、十分な均熱効果を得るには、開口部26を有する均熱部材22の領域βを配置する位置は、通紙可能な記録材Pの最大サイズ紙幅の内側に留めておくことも重要である。これは、非通紙域で、かつヒータ21が存在する領域に隣接する領域(均熱部材22の領域γのうち、ヒータ21と隣接する領域)の均熱部材22が、十分な熱容量Cγを有することで、非通紙部昇温をより抑制する効果が得られるためである。
【0034】
[均熱部材の熱容量測定]
均熱部材22の熱容量は、材質の質量と比熱との積で表されるため、均熱部材22の長手方向の単位長さ当たりの熱容量は、次の(式1)により算出することができる。
単位長さ当たりの熱容量=定圧比熱×質量/長手方向長さ・・・(式1)
【0035】
なお、定圧比熱は、例えば、示差走査熱量測定装置(商品名:DSC823e、メトラートレド株式会社製)を用いることにより求めることができる。このようにして算出した本実施例の均熱部材22の各領域α、β、における単位長さ当たりの熱容量(単位:J/K・m)を表1に示す。表1では、均熱部材22の領域α、γの長手方向の単位長さ当たりの熱容量は等しい。また、領域βにおける長手方向の単位長さ当たりの熱容量は、開口部26を有しているため、領域α、γの熱容量に比べて小さく、開口部と均熱部材の面積の割合に応じた熱容量となっている。
【表1】
【0036】
[均熱部材の熱伝導率測定]
本実施例における熱伝導率の測定には、非定常熱線法を用いた。具体的には、測定装置QTM-500(京都電子工業社製)による非定常熱線法(プローブ法)によって熱伝導率の測定を行い、プローブにはPD-13を使用した。なお、熱伝導率λは、次の(式2)により算出することができる。
【数1】
(式2)において、Qは熱線の単位長さ・単位時間当たりの放出熱量、T1、T2は、それぞれ時間t1、t2のときの熱線の温度とする。
【0037】
測定結果に基づいて、時間tの対数を横軸に、温度上昇ΔTを縦軸にとってプロットし、プロットされた点を結ぶと、直線が得られ、得られた直線の勾配から熱伝導率が求められる。測定結果に基づいて得られた均熱部材22とヒータ21の熱伝導率を表2に示す。表2には、均熱部材22の領域α、β、γ、及びヒータ21のそれぞれについて、材質、及び、熱伝導率(単位:W/m・K)が示されている。均熱部材22の材質はアルミニウムであるが、領域βには開口部があるため、材質に空気が含まれている。また、ヒータ21の材質はアルミナ、ガラス等である。表2に示すように、均熱部材22の領域α、γの熱伝導率は等しく、領域βにおける熱伝導率は、開口部26を有しているため、領域α、γの熱伝導率に比べて小さく、開口部と均熱部材の面積の割合に応じた熱伝導率となっている。
【表2】
【0038】
続いて、本実施例の
図5に示す均熱部材22の構成(構成例1)の効果を定量的に測定するため、非通紙部昇温の測定、及びFPOT測定を行う。なお、後述するように、構成例1の効果を比較するために、構成例1とは異なる構成の構成例2、構成例1の構成を変更した比較例、そして、従来の均熱部材の構成の従来例についても、測定を行った。
【0039】
[非通紙部昇温の測定]
画像形成装置100において、温度15℃、湿度10%の環境下にて、測定対象の均熱部材22を装着した定着装置102を十分に冷却した状態で、非通紙部昇温の測定を行った。ここでは、A4サイズの坪量128g/m2のカラーレーザNPI上質厚紙(キヤノン社製)を最大スループットにて連続200枚プリントした場合の、定着フィルム24の表面温度の測定を行った。本来、カラーレーザNPI上質厚紙のような坪量の大きい記録材を使用する場合には、スループットを下げて通紙することが正しい運用方法である。本実験では、ユーザが記録材の坪量情報を間違えて入力した場合を想定して、意図的に最大スループットでプリントを行った。測定した定着フィルム24の表面温度の最高温度を、以下に示すAランク~Dランクにランク分けを行い、Bランク以上、すなわち、Aランク及びBランクに属する定着フィルム24の表面温度を、良好な非通紙部昇温とした。
(Aランク):231℃~235℃
(Bランク):236℃~240℃
(Cランク):241℃~245℃
(Dランク):246℃~250℃
【0040】
[FPOT測定]
画像形成装置100において、温度15℃、湿度10%の環境下にて、測定対象の均熱部材22を装着した定着装置102を十分に冷却した状態で、FPOTの測定を行った。ここでは、LTR(レター)サイズの坪量90g/m2のLASERJET PAPER(Hewlett-Packard社製)を、最大スループットにて1枚プリントした場合の、プリント開始からプリント完了までの時間の測定を行った。ただし、FPOTの測定において、いずれの均熱部材22の構成においても定着性が等しくなるように、記録材が定着装置102に突入するまでに要する時間を変化させた。そのため、定着装置102において、領域βにおける単位長さ当たりの熱容量が大きい構成の均熱部材22の場合には、均熱部材22の長手方向端部の温度が上昇しにくい。その結果、記録材が定着装置102に突入するまでの時間を長く取ることになり、FPOTが長くなる。プリント開始からプリント完了までに要した時間を、以下に示すAランク~Dランクにランク分けし、Bランク以上、すなわちAランク及びBランクを、良好なFPOTとした。
(Aランク):9.6秒~10.0秒
(Bランク):10.1秒~10.5秒
(Cランク):10.6秒~11.0秒
(Dランク):11.1秒~11.6秒
【0041】
なお、上述した
図5に示す構成例1の実験結果との比較を行うため、以下に説明する、構成例1とは異なる構成の構成例2、構成例1の構成を変更した比較例、そして、従来の均熱部材の構成の従来例についても、非通紙部昇温の測定、FPOT測定を行った。
【0042】
[均熱部材の構成(構成例2)]
図7は、上述した
図5に示す均熱部材22の構成例1の構成に準じているが、構成例1とは異なる構成の均熱部材22の構成(構成例2)を示す図である。
図7(a)は、本実施例の構成例2の均熱部材22の概略構成を示す模式図、
図7(b)は、
図7(a)に示す均熱部材22の図中長手方向右側の端部近傍を拡大した模式図である。
【0043】
図7(a)において、均熱部材22の長手方向(図中左右方向)の長さは228mmであり、均熱部材22の短手方向(図中上下方向)の長さは7mmであり、厚さ(板厚)は0.3mmであり、均熱部材22の大きさは、構成例1と同じ大きさである。また、構成例2の均熱部材22も、構成例1と同様に、領域α、領域β、領域γの3つの領域に分けられている。詳細には、領域αは、均熱部材22の長手方向中心から長手方向の端部に向かって95mmまでの領域であり、領域βは、領域αの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部に向かって13mmの領域である。また、領域γは、領域βの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部までの6mmの領域である。構成例1と構成例2の均熱部材22の領域αの大きさは、それぞれ88mm、95mmであり、領域βの大きさは、それぞれ20mm、13mmであり、領域γの大きさは、共に6mmである。領域α、βの大きさは、構成例1と構成例2では異なっているが、領域γの大きさは構成例1と構成例2で同一である。均熱部材22の領域α、β、γの単位長さ当たりの熱容量をそれぞれCα、Cβ、Cγとすると、熱容量Cα>熱容量Cβ、かつ、熱容量Cγ>熱容量Cβとなる。
【0044】
また、
図7に示すように、構成例2の均熱部材22には、長手方向の端部から6mm内側の最大サイズ紙幅の位置から、長手方向の中心に向かって、長手方向(高さ)が20mm、短手方向(底辺)が4mmの二等辺三角形状の開口部27が設けられている。そして、開口部27は、均熱部材22の短手方向の中心軸に対称な形状を有している。更に、開口部27の長手方向の均熱部材22の端部に近い側の端部(二等辺三角形状の底辺に対応)は、記録材Pの最大サイズ紙幅が通過する、均熱部材22の端部から6mm内側に位置している。また、開口部27は、均熱部材22の長手方向の両方の端部近傍に配置され、その配置位置は、均熱部材22の長手方向の中心を軸に左右対称となっている。このように、構成例2の均熱部材22の領域βでは、単位長さ当たりの熱容量が長手方向端部に向かって減少する構成となっている。一方、構成例1の均熱部材22の領域βでは、単位長さ当たりの熱容量は一定の構成となっている。定着装置102の立上げ時に定着フィルム24の長手方向端部で不足する熱量は、長手方向の最端部に向かうほど顕著に現れる。一方で、定着フィルム24の長手方向の最端部より中心側では、不足する熱量は少ない。構成例2では、定着フィルム24において不足する熱量の勾配に合わせて、均熱部材22の領域βの熱容量に勾配を持たせることで、より非通紙部昇温に効果を奏する構成となっている。なお、
図7(a)、(b)において、本実施例における均熱部材22は、長手方向の中心を軸に左右対称であるため、鏡像の位置にある領域α、β、γ、及び単位長さ当たりの熱容量Cα、Cβ、Cγは、括弧付きで示している。
【0045】
[従来例の均熱部材の構成]
図8は、従来例の構成の均熱部材22の構成を示す模式図である。
図8において、均熱部材22の長手方向(図中左右方向)の長さは228mmであり、均熱部材22の短手方向(図中上下方向)の長さは7mmであり、厚さ(板厚)は0.3mmであり、均熱部材22の大きさは、構成例1、2と同じ大きさである。また、従来例の均熱部材22は、構成例1、2とは異なり、領域βに開口部を有しておらず、領域α、β、γの熱容量Cα、Cβ、Cγが同一であり、長手方向に熱容量の変化がない構成となっている。そのため、定着装置102の立上げ時に、定着フィルム24の長手方向端部において、ヒータ21の熱が均熱部材22に奪われることで、定着フィルム24の長手方向端部の温度が上がりにくい構成となっており、FPOTの短縮には不利な構成となっている。なお、
図8において、本実施例における均熱部材22は、長手方向の中心を軸に左右対称であるため、鏡像の位置にある領域α、β、γ、及び単位長さ当たりの熱容量Cα、Cβ、Cγは、括弧付きで示している。
【0046】
[比較例の均熱部材の構成]
図9は、上述した
図5、
図7に示す均熱部材22の構成例1、2の構成に準じているが、構成例1、2とは異なる構成の均熱部材22の構成(比較例)を示す図である。
図9において、均熱部材22の長手方向(図中左右方向)の長さは228mmであり、均熱部材22の短手方向(図中上下方向)の長さは7mmであり、厚さ(板厚)は0.3mmであり、均熱部材22の大きさは、構成例1、2と同じ大きさである。また、比較例の均熱部材22も、構成例1、2と同様に、領域α、領域β、領域γの3つの領域に分けられている。詳細には、領域αは、均熱部材22の長手方向中心から長手方向の端部に向かって95mmまでの領域であり、領域βは、領域αの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部に向かって13mmの領域である。また、領域γは、領域βの長手方向の端部から均熱部材22の長手方向の端部までの6mmの領域である。領域α、β、γの大きさは、構成例1とは異なるが、構成例2と同じ大きさである。
【0047】
また、領域βについては、構成例1、2共に開口部を有する構成となっているが、比較例では、領域βは、領域αと領域γとを分離する領域となっており、構成例1、2のように領域αと領域γとは均熱部材22により連結されていない構成となっている。その結果、比較例の構成は、非通紙部昇温によって、均熱部材22のうち長手方向端部の領域が加熱されるが、長手方向端部の熱を長手方向の中央部へと伝導させにくい構成となっている。なお、
図9において、本実施例における均熱部材22は、長手方向の中心を軸に左右対称であるため、鏡像の位置にある領域α、β、γ、及び単位長さ当たりの熱容量Cα、Cβ、Cγは、括弧付きで示している。
【0048】
[各均熱部材を装着した定着装置の非通紙部昇温、FPOTの評価結果]
以下に示す表3は、上述した各々の構成の均熱部材22を装着した定着装置102を用いて、非通紙部昇温による定着フィルム24の最高温度、FPOTの測定結果、測定結果に基づく評価結果をまとめた表である。
【表3】
【0049】
表3では、上から順に、構成例1、構成例2、従来例、比較例についての測定結果、評価結果が示されている。また、表3では、左側から順に、各構成における領域α、β、γにおける単位長さ当たりの熱容量Cα、Cβ、Cγ(単位:J/K・m)、熱容量Cα、Cβ、Cγの大小関係、領域βにおける均熱部材22とヒータ21の熱伝導率の大小関係の項目を示している。更に、表3では、最も右側の2項目で、非通紙部昇温(単位:℃)の測定結果と評価結果、FPOT(単位:秒)の測定結果と評価結果を示している。
【0050】
表3に示すように、領域αの熱容量Cαについては、いずれの構成例について同じ熱容量となっている。領域βの熱容量Cβについては、構成例1の熱容量は、構成例2の熱容量よりも小さい値となっており、比較例の熱容量は領域βには均熱部材がないため、0.00となっている。なお、従来例については、領域βに開口部が存在しないため、熱容量は領域αと同じ熱容量となる。また、領域γの熱容量Cγについては、構成例1、2、従来例、比較例の熱容量は、共に同一熱容量となっている。
【0051】
熱容量Cα、Cβ、Cγの大小関係については、熱容量Cα>熱容量Cβ、かつ、熱容量Cγ>熱容量Cβの条件を満足しているかどうかを、○(満足している)、×(満足していない)で表示している。表3に示すように、構成例1、2、比較例については、条件を満足しており、従来例については、領域βの熱容量Cβは領域α、γの熱容量Cα、Cγと同じため、条件を満足していない。また、領域βにおける均熱部材22とヒータ21の熱伝導率の大小関係については、均熱部材22の熱伝導率>ヒータ21の熱伝導率の条件を満足しているかどうかを、○(満足している)、×(満足していない)で表示している。表3に示すように、構成例1、2、従来例については、条件を満足しており、比較例については、領域βの熱伝導率は0.00となっているが、ヒータ21の熱伝導率は表2より30W/m・Kであるため、条件を満足していない。
【0052】
また、非通紙部昇温の測定結果と評価結果については、構成例1は235℃でAランク、構成例2は232℃でAランク、従来例は231℃でAランク、比較例は250℃でDランクとなっている。FPOT(単位:秒)の測定結果と評価結果については、構成例1は10.0秒でAランク、構成例2は10.0秒でAランク、従来例は11.5秒でDランク、比較例は9.9秒でAランクとなっている。
【0053】
(構成例1の評価)
図5に示す構成例1は、均熱部材22の単位長さ当たりの熱容量がCα>Cβ、かつ、Cγ>Cβを満たし、更に、開口部を有する領域βは、通紙可能な記録材Pの最大サイズ紙幅よりも長手方向の中央側に配置された構成になっている。その結果、表3に示すように、非通紙部昇温、FPOT共にAランクとなっている。
【0054】
(構成例2の評価)
図7に示す構成例2は、均熱部材22の領域βに設けられた開口部の形状が、長手方向の端部に向かうにつれて、短手方向の長さが大きくなる二等辺三角形状を有している。そのため、領域βにおける単位長さ当たりの熱容量が長手方向の端部に向かって減少する構成となっている。このように、定着装置102の立上げ時に、定着フィルム24の長手方向端部で不足する熱量の勾配に合わせて、均熱部材22の領域βの熱容量に勾配を持たせることにより、FPOTが大きくならず、非通紙部昇温時の最高温度を下げることができている。その結果、表3に示すように、非通紙部昇温、FPOT共にAランクとなっている。
【0055】
(従来例の評価)
図8に示す従来例の構成は、開口部が設けられていないため、均熱部材22の各領域における熱容量が同一で、熱容量の変化がない構成となっている。構成例1、2のように開口部が設けられていないため、非通紙部昇温は構成例1、2よりも低い温度でAランクとなっており、非通紙部昇温の抑制には効果的な構成となっている。一方、定着装置102の立上げ時には、ヒータ21の熱は長手方向端部において、構成例1、2より多く均熱部材22に奪われる(移動する)ことになり、定着フィルム24の長手方向端部の温度が上がりにくくなる。その結果、構成例1、2のFPOT(10秒)に比べて、FPOTが11.5秒と長くなり、Dランクとなっている。
【0056】
(比較例の評価)
図9に示す比較例の構成は、均熱部材22の領域αと領域γとが、均熱部材22がない領域βで分断された構成となっている。そのため、定着装置102の立上げ時に、長手方向端部においてヒータ21の熱が均熱部材22に奪われにくく(伝導されにくく)、定着フィルム24の長手方向端部の温度が上がりやすい構成のため、FPOTは最も短い9.8秒でAランクとなっている。一方、均熱部材22において、領域αと領域γとが均熱部材を介して連結されていない。そのため、非通紙部昇温によって、通紙可能な記録材Pの最大サイズ紙幅よりも長手方向端部側の領域γの均熱部材22が加熱された際に、領域βの熱容量Cβが0.00と小さいために、均熱効果を得にくい構成となっている。その結果、非通紙部昇温時の最大温度が250℃と高くなり、Dランクとなっている。
【0057】
[まとめ]
本実施例の
図5に示す構成(構成例1)の均熱部材22を装着した定着装置102を搭載した画像形成装置100では、非通紙部昇温評価、及びFPOT共にAランクであり、良好な結果が得られた。構成例1の均熱部材22の構成は、領域αの熱容量Cα>領域βの熱容量Cβ、かつ、領域γの熱容量Cγ>領域βの熱容量Cβを満足している。更に、構成例1の均熱部材22では、開口部26を有する領域βは通紙可能な記録材Pの最大サイズ紙幅よりも長手方向中央側に配置され、領域βにおける均熱部材22の熱伝導率はヒータ21の熱伝導率より大きくする構成としている。これにより、構成例1の均熱部材22は、非通紙部昇温の抑制とFPOTの短縮を両立させることができる。なお、領域βの開口部の形状が二等辺三角形状の開口部27を有する構成例2の均熱部材22を装着した定着装置102を搭載した画像形成装置100においても、構成例1と同様に、非通紙部昇温評価、及びFPOT共にAランクであった。
【0058】
以上説明したように、本実施例によれば、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することができる。
【0059】
[その他の実施例]
図5に示すように、本実施例の構成例1では、均熱部材22の領域βに開口部26を設けることで、領域αの熱容量Cα>領域βの熱容量Cβ、かつ、領域γの熱容量Cγ>領域βの熱容量Cβを満たしている。例えば、開口部を設けるのではなく、切り欠きを入れることで、上述した熱容量の大小関係を満足するようにしてもよい。
図10(a)は、領域βの短手方向の両方の端部側に切り欠きを入れた構成の均熱部材22を示す模式図であり、
図10(b)は、
図10(a)に示す均熱部材22の図中長手方向右側の端部近傍を拡大した模式図である。
図10に示す均熱部材22の領域βの構成は、
図5に示す均熱部材22の領域βにおける均熱部材と開口部の関係が逆になった構成となっている。すなわち、
図10に示す均熱部材22の領域βでは、
図5に示す領域βの開口部の領域が均熱部材の領域となり、領域αと領域γとを連結している均熱部材の領域(連結部)が切り欠き部の領域となっている。また、均熱部材22の領域βに開口部や切り欠き部を設けるのではなく、例えば、領域βの板厚方向の厚みを領域α、領域γの厚みとは異なる厚みに変更することにより、上述した熱容量の大小関係を満足するようにしてもよい。いずれの構成であっても、単位面積当たりの熱容量がCα>CβかつCγ>Cβの大小関係を満足するという関係にあればよく、本発明は均熱部材22の形状を特定の形状に限定するものではない。
【0060】
また、
図7に示すように、本実施例の構成例2では、均熱部材22の領域βに、単位長さ当たりの熱容量が長手方向端部に向かって減少するように二等辺三角形状の開口部27を設けている。これにより、領域αの熱容量Cα>領域βの熱容量Cβ、かつ、領域γの熱容量Cγ>領域βの熱容量Cβを満たしている。例えば、上述したその他の構成例のように、開口部を設けるのではなく、切り欠きを入れることで、単位長さ当たりの熱容量が長手方向端部に向かって減少し、上述した熱容量の大小関係を満足するようにしてもよい。
図11(a)は、領域βに切り欠きを入れた構成の均熱部材22を示す模式図であり、
図11(b)は、
図11(a)に示す均熱部材22の長手方向右側の端部近傍を拡大した模式図である。
図7に示す構成例2の均熱部材22の領域βでは、最大サイズ紙幅の位置から、長手方向の中心に向かって、二等辺三角形状の開口部が設けられていた。
図11では、領域βの短手方向の両方の端部において、領域βの領域α側の端部から領域γ側の端部に向かって、三角形状の切り欠き部が形成され、領域βの中央部は、領域αと領域γとを連結する均熱部材の領域(連結部)となっている。また、均熱部材22の板厚方向の厚みを変化させることで、上述した熱容量の大小関係を満足し、かつ、単位長さ当たりの熱容量が均熱部材22の長手方向端部に向かって減少する構成にしてもよい。いずれの構成であっても、単位面積当たりの熱容量がCα>CβかつCγ>Cβの大小関係を満足し、単位長さ当たりの熱容量が長手方向端部に向かって減少するという関係にあればよく、本発明は均熱部材22の形状を特定の形状に限定するものではない。
【0061】
以上説明したしたように、その他の実施例においても、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することができる。
【符号の説明】
【0062】
21 ヒータ
22 均熱部材
24 定着フィルム
30 加圧ローラ