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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/10 20060101AFI20241015BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20241015BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20241015BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20241015BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20241015BHJP
   B01J 23/847 20060101ALI20241015BHJP
   B01J 29/076 20060101ALI20241015BHJP
   C10G 11/18 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B01J37/10
B01J37/02 101C
B01J37/08
B01J37/16
B01J37/12
B01J23/847 M
B01J29/076 M
C10G11/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020165162
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057087
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [1] (1)発行日 令和1年10月31日 (2)刊行物 石油学会 山形大会 招待講演 第49回石油・石油化学討論会 講演要旨 公益社団法人石油学会 発行 <資 料>第49回石油・石油化学討論会 講演要旨 抜粋 [2] (1)開催日(公開日) 令和1年10月31日 (2)集会名、開催場所 石油学会 山形大会 第49回石油・石油化学討論会(会期:令和1年10月31日、11月1日) 山形市双葉町1-2-3 山形テルサ D会場 <資 料>第49回石油・石油化学討論会・概要及び発表プログラム ウェブページ プリントアウト <資 料>第49回石油・石油化学討論会 研究発表スライド
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】千代田 範人
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014336(JP,A)
【文献】特開2004-203914(JP,A)
【文献】特開平11-179192(JP,A)
【文献】特表2012-512805(JP,A)
【文献】特開2005-262160(JP,A)
【文献】特開2020-147724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル化合物及び第1溶媒を含む第1液体と、第2溶媒を含む第2液体と、を流動接触分解触媒に含浸させた後、前記第1溶媒及び前記第2溶媒を除去し、含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を500~800℃で焼成し、焼成体を得る焼成工程と、前記焼成体に水蒸気を含む気体を接触処理する水蒸気処理工程と、を有し、
前記第1液体と、前記第2液体のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が10MPa 1/2 以上、かつ、前記第2液体の前記第1液体に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差(RED)が1超となるよう前記第1液体と、前記第2液体との組み合わせを選択し、
前記含浸工程は、前記第2液体を含浸させた後に、前記第1液体を含浸させ、
前記水蒸気処理工程は、還元性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第1気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる還元性水蒸気処理と、前記還元性水蒸気処理の後に、前記焼成体に酸化性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第2気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる酸化性水蒸気処理と、を含むサイクルを1回以上行う、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項2】
前記第1気体に含まれる還元性気体の割合が1~5体積%である、請求項1に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
前記第2気体に含まれる酸化性気体の割合が5~20体積%である、請求項1又は2に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項4】
前記サイクルを20~50回行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項5】
前記還元性水蒸気処理を総計で3~9時間行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項6】
前記酸化性水蒸気処理を総計で3~9時間行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項7】
前記第2気体は、二酸化硫黄を1000~4000体積ppm含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解反応は、流動接触分解装置において、重質油をはじめとする原料油を高温で流動接触分解触媒に接触させることにより、原料油を分解して、ガソリンや灯油・軽油などの付加価値の高い分解油を得る反応である。流動接触分解触媒としては、例えば、ゼオライト及び活性アルミナを主成分として含む固体酸触媒が使用される。流動接触分解反応において、流動接触分解触媒は、反応により生成したコークの堆積、原料油中に含まれる金属の堆積により活性が低下する。
【0003】
コークの堆積による活性の低下は、流動接触分解反応の際にコークが生成し、前記コークが流動接触分解触媒の活性点を被覆、細孔を閉塞することにより起こる。
【0004】
そこで、流動接触分解装置ではコークが堆積した流動接触分解触媒を、スチームによりストリッピングしたのち、再生塔へ移送し、空気流通下、高温でコークを燃焼除去することによって流動接触分解触媒を再生し、反応に再利用する。
【0005】
金属の堆積による活性低下は、原料油として重質油を使用した場合、前記重質油中にはニッケル、バナジウム、鉄、銅などの金属が有機金属化合物(例えば、ポルフィリン)の形態で多量に存在しており、これらの金属が流動接触分解触媒によって脱メタルされ、流動接触分解触媒上に堆積することにより起こる。すなわち、流動接触分解触媒への金属の堆積と共に分解活性が低下し、実質的に所期の転化率を達成できなくなる。さらに、水素の発生量とコークの生成量が著しく増加し、流動接触分解装置の運転を困難にする。それに伴い、望ましい液状製品の収率が低下する。
【0006】
上述の金属の中でも、特にバナジウムは流動接触分解触媒の活性成分であるゼオライトの結晶構造を破壊し、分解活性を低下させる。また、ニッケルは脱水素触媒活性を有しているため、水素、コークを著しく増加させ、結果として流動接触分解触媒の分解活性を低下させるとともに、流動接触分解装置の運転を困難にする。
【0007】
コークの堆積により活性が低下した流動接触分解触媒は、上述した通り、流動接触分解装置の再生塔で空気流通下、高温でコークを燃焼除去することにより、流動接触分解装置内で再生することが可能である。一方、金属の堆積により活性が低下した流動接触分解触媒を、流動接触分解装置内で再生することは実質的に不可能である。そのため、活性が低下した流動接触分解触媒の一部を定期的あるいは定常的に抜出、必要量の新触媒を投入することによって、流動接触分解装置内の流動接触分解触媒の活性を維持するという方法がとられている。このように流動接触分解装置内における流動接触分解触媒は、投入と抜出しを行いながら活性を一定に保っていることから平衡触媒と呼ばれている。
【0008】
したがって、流動接触分解触媒の性能を評価する上では、新触媒ではなく、平衡触媒の活性を評価する必要がある。一方、平衡触媒を得るためには、活性が低下した触媒の抜出し及び新触媒の投入を行いながら一定時間以上、流動接触分解反応を行わなければならない。したがって、流動接触分解触媒の性能を評価するために、簡便な模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法が望まれている。
【0009】
模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法としては、新触媒の乾燥工程、乾燥した新触媒へのニッケル及びバナジウムの含浸工程、得られた含浸体の焼成工程、並びに得られた焼成体の水蒸気処理工程からなるMitchell法が知られている。一方、Mitchell法は簡便な方法であるものの、性能の面では、実機平衡触媒を精度よく再現できていない。
【0010】
特許文献1には、実機平衡触媒においては、ニッケルはegg shell型で偏在しており、バナジウムは均一に分布していることが記載されている。一方、Mitchell法により製造された模擬平衡化触媒においては、ニッケル、バナジウムともに均一に分布しており、この分布の相違が活性に影響を与えていることが示唆されている。
【0011】
特許文献1には、触媒槽から新触媒を連続的に供給する工程と、供給された新触媒と、金属を付着させた金属付着触媒とを空気と高温水蒸気との混合雰囲気に導入して、新触媒及び金属付着触媒を所定温度に昇温すると共に新触媒及び金属付着触媒を焼成かつスチーミング処理し、処理した新触媒及び金属付着触媒からなる混合触媒を連続的に送出する昇温・焼成・スチーミング工程と、混合触媒を高温状態に維持しつつ移送する移送工程と、移送された混合触媒を所定の冷却温度に冷却する冷却工程と、金属又は金属化合物を溶媒に溶解した金属溶液を不活性ガスでアトマイジングして生成した噴霧状の溶液を混合触媒に付着させ、昇温し、溶媒を蒸発させて金属付着触媒を連続的に生成する金属付着工程と、不活性ガスを導入して混合触媒をストリッピングし、混合触媒に付着した溶液の蒸気を分離させて得た金属付着触媒を連続的に送出するストリッピング工程とを備え、ストリッピング工程を経た金属付着触媒を連続的に昇温・焼成・スチーミング工程に送出し、新触媒を昇温・焼成・スチーミング工程に導入しつつ、新触媒及び金属付着触媒を昇温・焼成・スチーミング工程とストリッピング工程との間で循環させることを特徴とする模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法が開示されている。
【0012】
前記製造方法により製造された模擬平衡化流動接触分解触媒は、実機平衡触媒と同様に、ニッケルがegg shell型で偏在しており、バナジウムが均一に分布しており、性能の面でも実機平衡触媒を精度よく再現可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平11-179192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した通り、Mitchell法は簡便な方法であるものの、性能の面では、実機平衡触媒を精度よく再現できていない。特に、Mitchell法により製造された模擬平衡化触媒では、ニッケルが均一に分布していることにより、ニッケルの脱水素触媒活性が実機平衡触媒より高くなり、コークの生成量が実機平衡触媒よりも多くなる。
また、特許文献1に記載の製造方法により製造された模擬平衡化流動接触分解触媒は、実機平衡触媒の性能を精度よく再現可能であるものの、工程が複雑であり、それに伴い、専用の設備が必要であり、かつ製造に時間がかかるという問題がある。
【0015】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、実機平衡触媒の性能を精度よく再現可能であり、かつ簡便な工程で製造可能な、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法を提供することを課題とする。特に、コークの生成量に関し、実機平衡触媒の性能を精度よく再現可能であり、かつ簡便な工程で製造可能な、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を有する。
[1] ニッケル化合物及び第1溶媒を含む第1液体と、第2溶媒を含む第2液体と、を流動接触分解触媒に含浸させた後、前記第1溶媒及び前記第2溶媒を除去し、含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を500~800℃で焼成し、焼成体を得る焼成工程と、前記焼成体に水蒸気を含む気体を接触処理する水蒸気処理工程と、を有し、前記第1液体と、前記第2液体のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が所定の値となるよう前記第1液体と、前記第2液体との組み合わせを選択し、前記水蒸気処理工程は、還元性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第1気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる還元性水蒸気処理と、前記還元性水蒸気処理の後に、前記焼成体に酸化性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第2気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる酸化性水蒸気処理と、を含むサイクルを1回以上行う、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[2] 前記第1気体に含まれる還元性気体の割合が1~5体積%である、[1]に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[3] 前記第2気体に含まれる酸化性気体の割合が5~20体積%である、[1]又は[2]に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[4] 前記サイクルを20~50回行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[5] 前記還元性水蒸気処理を総計で3~9時間行う、[1]~[4]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[6] 前記酸化性水蒸気処理を総計で3~9時間行う、[1]~[5]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[7] 前記第2気体は、二酸化硫黄を1000~4000体積ppm含む、[1]~[6]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[8] 前記Raが10MPa1/2以上である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[9] 前記第2液体の前記第1液体に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差(RED)が1超である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
[10] 前記第2液体を含浸させた後に、前記第1液体を含浸させる、[1]~[9]のいずれか一項に記載の模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実機平衡触媒の性能を精度よく再現可能であり、かつ簡便な工程で製造可能な、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法を提供することができる。特に、コークの生成量に関し、実機平衡触媒の性能を精度よく再現可能であり、かつ簡便な工程で製造可能な、模擬平衡化流動接触分解触媒の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ハンセン溶解度パラメータ及び相互作用半径の求め方を示す模式図である。
図2】第1液体のハンセン溶解度パラメータと、第2液体のハンセン溶解度パラメータとの距離を示す模式図である。
図3】実施例1の触媒AのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素の分布を示したグラフである。
図4】実施例1の触媒AのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素のマッピング図である。
図5】比較例1の触媒CのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素の分布を示したグラフである。
図6】比較例1の触媒CのEPMA分析によって得られた、ニッケル元素のマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の記載は本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されず、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0020】
本明細書において「溶媒」とは、常圧(101,325Pa)、20℃において液体状態である金属元素を含まない1種の化合物からなる物質を意味する。
本明細書において「沸点」とは、常圧(101,325Pa)における沸点を意味する。
本明細書において「全細孔容積」は、水銀圧入法により測定することができる。
本明細書において、模擬平衡化流動接触分解触媒の深さ方向の金属成分の分布は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)分析によって行うことができる。
本明細書において、「流動接触分解触媒」は流動接触分解触媒の新触媒を意味し、「模擬平衡化流動接触分解新触媒」は本発明の製造方法により製造される流動接触分解触媒の平衡触媒を模した流動接触分解触媒を意味する。
【0021】
本実施形態の模擬平衡化流動接触分解触媒(以下、単に「模擬平衡化触媒」ともいう。)の製造方法(以下、単に「触媒の製造方法」ともいう。)は、ニッケル化合物及び第1溶媒を含む第1液体と、第2溶媒を含む第2液体と、を流動接触分解触媒に含浸させた後、前記第1溶媒及び前記第2溶媒を除去し、含浸体を得る含浸工程と、前記含浸体を500~800℃で焼成し、焼成体を得る焼成工程と、前記焼成体に水蒸気を含む気体を接触処理する水蒸気処理工程と、を有する。前記第1液体と、前記第2液体のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が所定の値となるよう前記第1液体と、前記第2液体との組み合わせを選択する。前記水蒸気処理工程は、還元性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第1気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる還元性水蒸気処理と、前記還元性水蒸気処理の後に、前記焼成体に酸化性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第2気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる酸化性水蒸気処理と、を含むサイクルを1回以上行う。
以下、各工程について説明を行う。
【0022】
≪含浸工程≫
本実施形態の含浸工程は、ニッケル化合物及び第1溶媒を含む第1液体と、第2溶媒を含む第2液体と、を流動接触分解触媒に含浸させた後、前記第1溶媒及び前記第2溶媒を除去し、含浸体を得る。前記第1液体と、前記第2液体のハンセン溶解度パラメータの距離(Ra)が所定の値となるよう前記第1液体と、前記第2液体との組み合わせを選択する。
【0023】
<ハンセン溶解度パラメータ>
ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter(以下、単に「HSP」ともいう。)は、分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすいとの考えに基づいている。HSPは、分子間の分散力に由来するエネルギー(δd)、分子間の双極子相互作用に由来するエネルギー(δp)、及び分子間の水素結合に由来するエネルギー(δh)から構成される。これらの3つのパラメータは3次元空間(ハンセン空間)における座標とみなすことができる。
【0024】
HSP値が未知の評価試料におけるHSP値は以下の方法で算出することができる。
HSP値(δd、δp、δh)を三次元空間にプロットすることにより特定されるハンセン溶解度パラメータ空間において、既知のHPS値を有する複数の純物質(1種の化合物からなる物質)をプロットするとともに、上記純物質に対する評価試料の溶解性の有無によってハンセン球を特定し、当該ハンセン球の中心値を求めることで評価試料のHSP値を算出することが出来る(ハンセン球法)。
また評価試料のHSP値は、平均分子構造の情報から原子団寄与法を用いて算出することも出来る。
ハンセン球法の場合も、原子団寄与法の場合も、評価試料のHSP値を算出する場合、例えばコンピューターソフトウェアHansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)を使用して算出することができる。
ハンセン球法の場合、評価試料は純物質であってもよく、混合物であってもよい。
【0025】
上記ハンセン球の中心値、すなわちHSP値(δd、δp、δh)の求め方について、図1を用いて説明する。
先ず、図1に例示する(分散力項δd、双極子間力項δp及び水素結合力項δhを座標軸とする)三次元空間に既知のHSP値を有する15~30個程度の純物質のHSP値をプロットする。
このとき、図1に示すように、例えば、評価試料に溶解性を示す純物質を○印、評価試料に溶解性を示さない純物質を×印で表記する。次いで、プロットされた評価試料の溶解性に基づき、溶解性を示した純物質(図1で○印で示す)を包含し、かつ溶解性を示さなかった純物質(図1に×印で示す)を包含しない仮想球のうち、最小半径を有するものを(図1に球状に示す)ハンセン球Sとして求める。
上記ハンセン球Sを成す半径(上記最少半径)が図中に○印で示す純物質を溶解し相溶性を示す相互作用半径Rとなり、また、得られたハンセン球Sの中心値(δd、δp、δh)が評価試料のHSP値となる。
ハンセン球を求めるために使用する上記純物質のHSP値としては例えば、分散力項δdが10~25MPa1/2程度であり、双極子間力項δpが0~20MPa1/2程度であり、水素結合力項δhが0~20MPa1/2程度である。
また、溶解性は温度に依存するため、上記ハンセン球を求める際は、実際に評価試料の溶解を行う温度にて溶解性試験を行うことが好ましい。
【0026】
評価試料が2物質以上からなる混合物である場合、混合物のHSP値は、上述の方法により求めてもよいし、以下のように混合物を構成する物質のHSP値を加重平均して求めてもよい。
混合物Lが、物質L~Lからなり、混合物の混合前のすべての物質の体積の合計に対する物質L~Lの含有割合をそれぞれ、V(L)~V(L)とする。物質L~LのHSP値をそれぞれ、[δd(L)、δp(L)、δh(L)]~[δd(L)、δp(L)、δh(L)]とすると、混合物のHSP値である[δd(L)、δp(L)、δh(L)]は、下式3~5により求めることができる。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
次に図2は、本実施形態の第1液体のHSP値と、第2液体のHSP値の距離を示す模式図である。第1液体のHSP値を(δd、δp、δh)とし、第2液体のHSP値を(δd、δp、δh)とした時に、HSP値の距離(以下、単に「Ra」ともいう。)は、下式1により算出することができる。
Ra={4×(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh}0.5 式1
【0031】
本実施形態においては、第1液体と、第2液体のRaを所定の値とすることで、模擬平衡化触媒の深さ方向の、第1液体に含まれるニッケル化合物に由来するニッケル成分の分布を制御することができる。Raの値が大きいほどの深さ方向に対して第1液体に含まれるニッケル化合物に由来するニッケル成分をシャープに偏在させることができ(すなわち、FCC触媒の外部に偏在させることができ)、小さいほど緩やかな分布を形成することができる。
FCC触媒の深さ方向において、第1液体に含まれるニッケル化合物に由来するニッケル成分を偏在させる場合、Raは10MPa1/2以上であることが好ましく、12MPa1/2以上であることがより好ましく、14MPa1/2以上であることがさらに好ましい。Raが前記下限値以上であると、得られる模擬平衡化触媒におけるニッケル成分の深さ方向の分布の制御が行いやすくなる。なお、Raは使用するニッケル化合物、溶媒(第1溶媒、第2溶媒)によって値は大きく異なるため、上限値に限定はないが、実質的には30以下程度となる場合が多い。
【0032】
本実施形態においては、第2液体の第1液体に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差が1超であることが好ましい。
第2液体の第1液体に対するハンセン溶解度パラメータに基づく相対的エネルギー差(以下、単に「RED」ともいう。)は、第1液体の相互作用半径をRとしたときに下式2により算出することができる。
RED=Ra/R式2
【0033】
本実施形態においては、REDは1超であることが好ましい。REDが1超であると、得られる模擬平衡化触媒におけるニッケル化合物に由来するニッケル成分の深さ方向の分布の制御が行いやすくなる。なお、REDは使用するニッケル化合物、溶媒(第1溶媒、第2溶媒)によって値は大きく異なるため、上限値に限定はないが、実質的には10以下程度となる場合が多い。
【0034】
本実施形態の触媒の製造方法で使用される第1液体、第2液体、及び流動接触分解触媒について以下に説明する。
【0035】
<第1液体>
本実施形態において第1液体は、ニッケル化合物及び第1溶媒を含む。より具体的には、第1液体は、ニッケル化合物が第1溶媒に溶解した溶液である。以下、第1液体に含まれるニッケル化合物及び第1溶媒について説明する。
【0036】
第1液体に含まれるニッケル化合物の形態は、第1溶媒に対する溶解度、使用する第2液体、及び目的とするRaやRED等により適宜選択すればよいが、塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩、カルボン酸塩等の有機塩又はキレート化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物、アンミン錯体、アルコキシド化合物、アルキル化合物等が例として挙げられる。
このようなニッケル化合物としては、オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル等が例として挙げられる。オクチル酸ニッケル中のオクチル基は直鎖のオクチル基(n-オクチル基)でも分岐のオクチル基でもよく、中でも2-エチルヘキサン酸ニッケルが好ましい。
【0037】
ニッケル化合物は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0038】
第1液体は、ニッケル化合物以外にその他の金属化合物を含んでいてもよい。その他の金属化合物としては、流動接触分解反応の原料油に含まれる金属が挙げられ、バナジウム、鉄、ナトリウム、亜鉛、アルミニウム、バリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉛、モリブデン、クロム、カドミウム、ヒ素、セレン、ケイ素等が例示される。中でも流動接触分解触媒の活性低下に対する寄与が大きい観点からバナジウムが含まれることが好ましい。
【0039】
第1液体に含まれるニッケル以外の金属化合物の形態は、第1溶媒に対する溶解度、使用する第2液体、及び目的とするRaやRED等により適宜選択すればよいが、塩化物、硫化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩、カルボン酸塩等の有機塩又はキレート化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物、アンミン錯体、アルコキシド化合物、アルキル化合物等が例として挙げられる。
このようなニッケル以外の金属化合物としては、オクチル酸金属化合物、ナフテン酸金属化合物等が例として挙げられる。ニッケル以外の金属化合物としてバナジウム化合物を使用する場合、オクチル酸バナジウム、ナフテン酸バナジウムが挙げられる。オクチル酸バナジウム中のオクチル基は直鎖のオクチル基(n-オクチル基)でも分岐のオクチル基でもよく、中でも2-エチルヘキサン酸バナジウムが好ましい。
【0040】
ニッケル以外の金属化合物としてバナジウム化合物を使用する場合、バナジウム化合物は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
第1溶媒は、ニッケル化合物及びニッケル以外の金属化合物の溶解度、使用する第2液体、及び目的とするRaやRED等により適宜選択すればよいが、水、有機溶媒が例として挙げられる。
有機溶媒としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル等のエステル類、アセトン、ジイソブチルケトン、エチルメチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2ピロリドン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等のエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2-フルオロエタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド基を有する有機溶媒、アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル等のニトリル基を有する有機溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート基を有する有機溶媒、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、n-ペンタン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、1-オクタデセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、2,2,4-トリメチルペンタン等の炭化水素等が例として挙げられる。
この中でも1溶媒としては、トルエン、キシレンが好ましい。
【0042】
第1溶媒の沸点は、特に限定されないが、例えば50~150℃であることが好ましく、70~130℃であることがより好ましく、80~110℃であることがさらに好ましい。第1溶媒の沸点が前記範囲の下限値以上であると、第1液体を流動接触分解触媒に含浸後、第1溶媒が一定期間、流動接触分解触媒の細孔内に留まることになる。第1溶媒の沸点が前記範囲の上限値以下であると、後述の第1溶媒の除去の際、容易に第1溶媒を除去することができる。
【0043】
第1溶媒は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
<第2液体>
本実施形態において第2液体は、第2溶媒を含む。第2液体は、ニッケル化合物を含まないことが好ましい。また、第2液体は、ニッケル以外の金属化合物を含んでいてもよい。以下、第2液体に含まれる第2溶媒について説明する。
【0045】
第2溶媒は、ニッケル以外の金属化合物の溶解度(第2液体がニッケル以外の金属化合物を含む場合)、使用する第1液体、及び目的とするRaやRED等により適宜選択すればよいが、水、有機溶媒が例として挙げられる。有機溶媒としては、第1溶媒で説明した有機溶媒を用いることができる。
【0046】
第2溶媒は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
第2液体は、ニッケル以外の金属化合物を含んでいてもよい。
前記ニッケル以外の金属化合物としては、第1液体で説明したニッケル以外の金属化合物を用いることができる。
ニッケル以外の金属化合物の形態は、第2溶媒に対する溶解度、使用する第1液体、及び目的とするRaやRED等により、第1液体に含まれるニッケル以外の金属化合物においてすでに説明した形態から適宜選択すればよい。
【0048】
(バナジウムの担持)
第1液体及び第2液体にバナジウム化合物が含まれない場合、本分野で公知の含浸法によりバナジウム化合物を含浸することにより、バナジウムを担持してもよい。バナジウム化合物の含浸は、後述の流動接触分解触媒、含浸体、焼成体のいずれに対して行ってもよい。
上述した通り、ニッケルは脱水素触媒活性を有するため、コークの生成量に大きな影響を及ぼす。一方、バナジウムは流動接触分解触媒の活性成分であるゼオライトの結晶構造を破壊し、分解活性を低下させる。実機平衡触媒のゼオライトの結晶構造の破壊による分解活性の低下に関しては、後述の水蒸気処理工程の条件を調整することにより、再現することが可能である。したがって、本発明において、バナジウムは第1液体に含まれていてもよく、第2液体に含まれていてもよく、第1液体及び第2液体とは別に別途担持してもよい。
【0049】
(ニッケル及びバナジウムの担持量)
ニッケル、バナジウムの担持量は、対象となる模擬平衡化触媒を元素分析して得られたニッケル、バナジウムの含有量を基に適宜設定すればよい。ニッケルの担持量としては通常0.05~1質量%であり、バナジウムの担持量としては通常0.05~1質量%である。
【0050】
<流動接触分解触媒>
本実施形態において流動接触分解触媒は、本分野で公知の流動接触分解を際限なく使用することができる。流動接触分解触媒は、ゼオライトを含むことが好ましい。
【0051】
流動接触分解触媒が含有するゼオライトとしては、特に限定されないが、例えば、ソーダライトケージ構造を有するゼオライト、βゼオライト、ZSM-5型ゼオライトが挙げられ、その中でもソーダライトケージ構造を有するゼオライトを含むことが好ましい。流動接触分解触媒の総質量に対するゼオライトの含有割合は、25~45質量%であることが好ましく、28~42質量%であることがより好ましく、30~40質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
本明細書において、ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとは、ソーダライトケージ構造、すなわちアルミニウム及びケイ素四面体を基本単位とし、頂点の酸素をアルミニウム又はケイ素が共有することにより形成される立体的な正八面体の結晶構造の各頂点を切り落とした、四員環や六員環等により規定される十四面体結晶構造により構成される空隙を有し、このソーダライトケージ同士が結合する場所や方法が変化することによって、種々の細孔構造、骨格密度、チャンネル構造を有するものを意味する。
【0053】
上記ソーダライトケージ構造を有するゼオライトとしては、ソーダライト、A型ゼオライト、EMT、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、安定化Y型ゼオライト等から選ばれる一種以上を挙げることができ、安定化Y型ゼオライトであることが好ましい。
【0054】
安定化Y型ゼオライトは、Y型ゼオライトを出発原料として合成され、Y型ゼオライトと比較して、結晶化度の劣化に対して耐性を示すものであり、一般には、Y型ゼオライトに対し高温での水蒸気処理を数回行った後、必要に応じて、塩酸等の鉱酸、水酸化ナトリウム等の塩基、フッ化カルシウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤で処理することにより製造される。
上記方法で得られた安定化Y型ゼオライトは、水素、アンモニウムあるいは多価金属から選ばれるカチオンでイオン交換された形で使用することができる。また、安定化Y型ゼオライトとして、より安定性に優れたヒートショック結晶性アルミノシリケートゼオライト(特許第2544317号公報参照)を使用することもできる。
【0055】
本実施形態の流動接触分解触媒は、さらに結合剤、粘土鉱物等を含むことが好ましい。
結合剤としては、例えば、シリカゾルが例として挙げられる。シリカゾルを使用することにより、流動接触分解触媒を造粒するときの成形性が向上し、容易に球状化することを可能にする。また、造粒後の流動接触分解触媒の流動性及び耐摩耗性を容易に向上することができる。流動接触分解触媒の総質量に対する結合剤の含有割合は15~35質量%であることが好ましく、18~32質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。
【0056】
粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、カオリナイト、ハロイサイト、ベントナイト、アタパルガイト、ボーキサイト等を挙げることができる。また、本実施形態の流動接触分解触媒においては、シリカ、シリカ-アルミナ(上述のゼオライトを除く)、アルミナ、シリカ-マグネシア、アルミナ-マグネシア、リン-アルミナ、シリカ-ジルコニア、シリカ-マグネシア-アルミナ等の通常の流動接触分解触媒に使用される公知の酸化物の微粒子を上記粘土鉱物と併用することができる。
流動接触分解触媒の総質量に対する粘土鉱物と酸化物の含有割合の和は、35~55質量%であることが好ましく、38~52質量%であることがより好ましく、40~50質量%であることがさらに好ましい。
流動接触分解触媒の総質量に対する粘土鉱物の含有割合は、25~50質量%であることが好ましく、30~45質量%であることがより好ましく、32~42質量%であることがさらに好ましい。
【0057】
また、本実施形態の流動接触分解触媒は、ゼオライト安定性向上剤を含んでいてもよい。ゼオライト安定性向上剤は、ゼオライト結晶の崩壊を抑制する機能を有する。ゼオライト安定性向上剤としてはリン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、第一リン酸アルミニウム及びその他の水溶性リン酸塩等のリン系ゼオライト安定性向上剤、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、ディスプロシウム及びホルミウム等の希土類金属系ゼオライト安定性向上剤があげられる。流動接触分解触媒がゼオライト安定性向上剤を含む場合、流動接触分解触媒の総質量に対するゼオライト安定性向上剤の含有割合は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0058】
本実施形態の流動接触分解触媒の比表面積は、500~850m/gであることが好ましく、600~850m/gであることがより好ましい。本実施形態の流動接触分解触媒の全細孔容積は、0.05~0.20mL/gであることが好ましく、0.08~0.15mL/gであることがより好ましい。
【0059】
流動接触分解触媒は一定の大きさに造粒された上で、流動接触分解反応に使用される。流動接触分解触媒の粒子径は、通常流動接触分解反応に使用可能な粒子径であれば、特に制限されないが、粒子径が20~150μmの範囲内にあるものが好ましい。
流動接触分解触媒の粒子径は、例えば、筒井理化学器械製“ミクロ形電磁振動ふるい器 M-2型”により測定することができる。
【0060】
<含浸法>
含浸法としては、流動接触分解触媒をその保持可能な最大溶液(溶媒)量に対して過剰の含浸液に浸した後に乾燥することにより、担持成分を担持する「蒸発乾固法」、流動接触分解触媒をその保持可能な最大溶液(溶媒)量に対して過剰の含浸液に浸した後に、ろ過等の固液分離により担持成分を担持する「平衡吸着法」、流動接触分解触媒にその保持可能な最大溶液(溶媒)量とほぼ同体積の含浸液を含浸し、乾燥させることにより、担持成分を担持する細孔充填法(Incipient Wetness法)が例として挙げられる。保持可能な最大溶液(溶媒)量として、流動接触分解触媒の全細孔容積の値を使用してもよい。
本実施形態においては、流動接触分解触媒の細孔内に充填される第1液体と、第2液体との体積比等を容易に調整しやすい観点から、細孔充填法が好ましい。
【0061】
(細孔充填法)
細孔充填法においては、第1液体と、第2液体とをそれぞれ含浸液として別々に逐次含浸することが好ましく、第2液体を含浸させた後に、第1液体を含浸させることが好ましい。このような細孔充填法における具体的な含浸手順としては、第2液体を流動接触分解触媒に含浸して含浸前駆体を得、前記含浸前駆体にさらに第1液体を含浸する方法が挙げられる。
【0062】
前記方法によると、第1液体に含まれるニッケル化合物が流動接触分解触媒の外層に担持されたegg shell型の構造を有する模擬平衡化流動接触分解触媒を得ることができる。前記方法では、まず、第2液体を流動接触分解触媒に含浸して含浸前駆体1を得る。その後、含浸前駆体にさらに第1液体を含浸すると、第2液体が流動接触分解触媒の内部に存在し、第1液体が流動接触分解触媒の外部に存在する含浸前駆体2が得られると考えられる。
この含浸前駆体2から、第1溶媒及び第2溶媒を除去すると、第1液体に含まれるニッケル化合物がそのまま流動接触分解触媒の外部に担持された含浸体が得られると考えられる。
【0063】
前記方法において、第1液体と、第2液体との体積比(第1液体の体積:第2液体の体積)は、特に限定されないが、例えば1:99~30:70であることが好ましく、5:95~25:75であることがより好ましく、8:92~20:80であることがさらに好ましい。
【0064】
前記方法において、流動接触分解触媒の保持可能な最大溶液(溶媒)量に対する第1液体と、第2液体の総体積の割合は、90~110%であることが好ましく、93~105%であることがより好ましく、95~100%であることがさらに好ましい。
【0065】
前記方法において、流動接触分解触媒の保持可能な最大溶液(溶媒)量に対する第1液体の体積の割合は、5~30%であることが好ましく、7~25%であることがより好ましく、9~20%であることがさらに好ましい。
【0066】
前記方法において、流動接触分解触媒の保持可能な最大溶液(溶媒)量に対する第2液体の体積の割合は、70~105%であることが好ましく、75~98%であることがより好ましく、80~91%であることがさらに好ましい。
【0067】
本実施形態の流動接触分解触媒は、微小粒子であるため、粒子間にも溶液(溶媒)を吸収する。したがって、流動接触分解触媒が保持可能な最大溶液(溶媒)量は、流動接触分解触媒の全細孔容積の8~12倍となる。
【0068】
<溶媒除去方法>
上記含浸方法によって得られた含浸前駆体2から第1溶媒及び第2溶媒の除去を行い、含浸体を得る。乾燥は常圧で行ってもよく、減圧で行ってもよい。また、乾燥温度は、除去する溶媒の乾燥を行う圧力における沸点等を勘案して適宜選択を行えばよいが、例えば第1溶媒及び第2溶媒の中で最も沸点高い溶媒の沸点の-10~30℃の範囲であることが好ましく、-5~20℃の範囲であることがより好ましい。前記乾燥温度で乾燥を行う場合、乾燥時間は0.5~1時間といった短時間で乾燥してもよく、12~24時間といった長時間をかけて乾燥してもよい。
乾燥温度は、例えば、80~120℃であり、90~110℃であってもよい。
【0069】
≪焼成工程≫
本実施形態の焼成工程は、前記含浸体を500~800℃で焼成し、焼成体を得る。焼成は、酸素等の酸化性気体を含む気体の雰囲気中で行うことが好ましい。焼成温度は、500~800℃であり、550~750℃であることが好ましく、600~700℃であることがより好ましい。焼成温度が前記範囲内であると、焼成によるゼオライト崩壊を抑制しつつ、担持した金属を酸化物に変換させることができる。
【0070】
≪水蒸気処理工程≫
本実施形態の水蒸気処理工程は、前記焼成体に水蒸気を含む気体を接触処理する。水蒸気処理工程は、還元性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第1気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる還元性水蒸気処理と、前記還元性水蒸気処理の後に、前記焼成体に酸化性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第2気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる酸化性水蒸気処理と、を含むサイクルを1回以上行う。
【0071】
流動接触分解反応は、原料油が気化し還元性ガスである炭素水素ガスで反応器内が満たされるため反応器内は還元雰囲気となる。また、流動接触分解触媒に堆積したコークの燃焼を行うため、再生塔内は酸化雰囲気となる。本実施形態の水蒸気処理工程は、実機の上記雰囲気を模すことにより、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づくと考えられる。特に脱水素触媒活性を有するニッケルのシンタリングの度合い(ニッケルの粒径)を実機平衡触媒に近づけることができると考えられる。その結果、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができると考えられる。特に、実機平衡触媒と同等のコーク生成量である模擬平衡化触媒を得ることができると考えられる。
【0072】
水蒸気処理工程の方式は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが、例えば、前記焼成体を処理装置に充填し、前記第1気体、前記第2気体等を流通させることにより行うことができる。処理装置に充填された焼成体は、固定床でもよく、流動床でもよく、移動床でもよい。中でも流動床であることが好ましい。
【0073】
(還元性水蒸気処理)
還元性水蒸気処理は、還元性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第1気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる処理である。
【0074】
第1気体中の水蒸気の含有割合は、30~70体積%であり、35~65体積%であることが好ましく、40~60体積%であることがさらに好ましい。水蒸気の含有割合が前記範囲内であると、実機の再生雰囲気と類似した状況となり、実機平衡触媒と同等の活性を持った模擬平衡化触媒が得られる。
【0075】
還元性気体としては、本願の効果を得られる限り特に限定されないが、メタン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等の炭化水素、水素、一酸化炭素等が例として挙げられ、プロピレン、ブテン等の不飽和炭化水素が好ましい。第1気体中の還元性気体の含有割合は、1~5体積%であることが好ましく、1.5~4体積%であることがより好ましく、2~4体積%であることがさらに好ましい。還元性気体の含有割合が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0076】
還元性気体は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
第1気体には、水蒸気、還元性気体以外の気体が含まれていてもよく、このような気体としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性気体が例として挙げられる。不活性気体の含有割合は、上述の水蒸気及び還元性気体の含有割合に対応して、第1気体が100体積%となるよう適宜設定すればよい。
第1気体には、後述の酸化性気体が実質的に含まれていないことが好ましい。酸化性気体が実質的に含まれないとは、第1気体中の酸化性気体の含有割合が0.1体積%以下であることを意味する。
【0078】
不活性気体は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0079】
焼成体に対する第1気体のガス空間速度(Gas Hourly Space Velocity:GHSV)は、300~700h-1であり、350~650h-1であることが好ましく、400~600h-1であることがより好ましい。焼成体に対する第1気体のGHSVが前記範囲内であると、流動床で処理を行う場合、処理装置内の焼成体が完全な流動状態となり、焼成体に対して十分な量の第1気体が供給されることによりニッケル等の担持金属に対する還元効果が得られやすくなる。
GHSVは、処理装置に充填された焼成体の体積と、第1気体の流量から得ることができる。
【0080】
還元性水蒸気処理の温度は、700~900℃であり、750~850℃であることが好ましく、770~800℃であることがより好ましい。還元性水蒸気処理の温度が前記範囲内であると、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
還元性水蒸気処理中の圧力は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが、例えば0.05~0.15MPaでもよく、0.2~0.5MPaでもよい。
【0081】
(酸化性水蒸気処理)
酸化性水蒸気処理は、前記還元性水蒸気処理の後に、酸化性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第2気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる処理である。
【0082】
第2気体中の水蒸気の含有割合は、30~70体積%であり、35~65体積%であることが好ましく、40~60体積%であることがさらに好ましい。水蒸気の含有割合が前記範囲内であると、実機の再生雰囲気と類似した状況となり、実機平衡触媒と同等の活性を持った模擬平衡化触媒が得られる。
【0083】
酸化性気体としては、本願の効果を得られる限り特に限定されないが、酸素、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄、二酸化塩素等が例として挙げられ、酸素、二酸化硫黄が好ましい。第2気体中の酸化性気体の含有割合は、5~20体積%であることが好ましく、7~15体積%であることがより好ましく、8~13体積%であることがさらに好ましい。酸化性気体の含有割合が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0084】
酸化性気体は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0085】
第2気体は、二酸化硫黄を含むことが好ましい。第2気体中の酸化硫黄の含有割合は、1000~4000体積ppmであることが好ましく、1200~3000体積ppmであることがより好ましく、1500~2500体積ppmであることがさらに好ましい。二酸化硫黄の含有割合が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0086】
第2気体には、水蒸気、酸化性気体以外の気体が含まれていてもよく、このような気体としては、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性気体が例として挙げられる。不活性気体の含有割合は、上述の水蒸気及び酸化性気体の含有割合に対応して、第2気体が100体積%となるよう適宜設定すればよい。
第2気体には、上述の還元性気体が実質的に含まれていないことが好ましい。還元性気体が実質的に含まれないとは、第1気体中の還元性気体の含有割合が0.1体積%以下であることを意味する。
【0087】
不活性気体は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0088】
焼成体に対する第2気体のGHSVは、300~700h-1であり、350~650h-1であることが好ましく、400~600h-1であることがより好ましい。焼成体に対する第2気体のGHSVが前記範囲内であると、流動床で処理を行う場合、処理装置内の焼成体が完全な流動状態となり、焼成体に対して十分な量の第2気体が供給されることによりニッケル等の担持金属に対する酸化効果が得られやすくなる。
【0089】
酸化性水蒸気処理の温度は、700~900℃であり、750~850℃であることが好ましく、770~800℃であることがより好ましい。酸化性水蒸気処理の温度が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
酸化性水蒸気処理中の圧力は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが、例えば0.05~0.15MPaでもよく、0.2~0.5MPaでもよい。
【0090】
(不活性水蒸気処理)
本実施形態の水蒸気処理工程は、還元性水蒸気処理の前後、及び/又は酸化性水蒸気処理の前後に不活性気体及び30~70体積%の水蒸気を含む第3気体を、温度700~900℃、GHSV300~700h-1の条件で前記焼成体に接触処理させる不活性水蒸気処理を含んでもよい。
【0091】
第3気体中の水蒸気の含有割合は、30~70体積%であることが好ましく、35~65体積%であることがより好ましく、40~60体積%であることがさらに好ましい。
【0092】
不活性気体としては、本願の効果を得られる限り特に限定されないが、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性気体が例として挙げられる。不活性気体の含有割合は、上述の水蒸気の含有割合に対応して、第3気体が100体積%となるよう適宜設定すればよい。
【0093】
不活性気体は1種類を単独で用いてよく、2種類以上を併用してもよい。
【0094】
第3気体には、上述の還元性気体及び酸化性気体が実質的に含まれていないことが好ましい。還元性気体及び酸化性気体が実質的に含まれないとは、第3気体中の還元性気体及び酸化性気体の合計含有割合が0.1体積%以下であることを意味する。
【0095】
焼成体に対する第3気体のGHSVは、300~700h-1であることが好ましく、350~650h-1であることがより好ましく、400~600h-1であることがさらに好ましい。焼成体に対する第3気体のGHSVが前記範囲内であると、流動床で処理を行う場合、処理装置内の焼成体が完全な流動状態となり、焼成体に対して十分な量の第3気体が供給されることにより反応器内に残存している還元性ガス、及び/又は酸化性ガスを取り除くことができる。
【0096】
不活性水蒸気処理の温度は、700~900℃であることが好ましく、750~850℃であることがより好ましく、770~800℃であることがさらに好ましい。不活性水蒸気処理の温度が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
不活性水蒸気処理中の圧力は、本発明の効果が得られる限り、特に限定されないが、例えば0.05~0.15MPaでもよく、0.2~0.5MPaでもよい。
【0097】
不活性水蒸気処理は、還元性水蒸気処理と酸化性水蒸気処理の間に行うことが好ましい。例えば、還元性水蒸気処理の後でかつ、酸化性水蒸気処理の前に不活性水蒸気処理を行うことにより、酸化性水蒸気処理を開始するまでに、処理装置内から第1気体に含まれる還元性気体を除くことができる。この場合、酸化性水蒸気処理を開始する際の処理装置内の全気体の体積に対する、還元性気体の含有割合は、0.1体積%以下であることが好ましい。
【0098】
また、不活性水蒸気処理は、前記サイクル間に行ってもよい。例えば、酸化性水蒸気処理の後でかつ、還元性水蒸気処理の前に不活性水蒸気処理を行うことにより、還元性水蒸気処理を開始するまでに、処理装置内から第2気体に含まれる酸化性気体を除くことができる。この場合、還元性水蒸気処理を開始する際の処理装置内の全気体の体積に対する、酸化性気体の含有割合は、0.1体積%以下であることが好ましい。
【0099】
(サイクル)
本明細書において、サイクルは、還元性水蒸気処理と、前記還元性水蒸気処理の後に行う、酸化性水蒸気処理と、を含む。具体的には、サイクルは、還元性水蒸気処理1回と、前記還元性水蒸気処理の後に行う、酸化性水蒸気処理1回と、を含む。なお、複数の還元性水蒸気処理の間に不活性水蒸気処理を行った場合(還元性水蒸気処理→不活性水蒸気処理→還元性水蒸気処理)は、還元性水蒸気処理1回とする。同様に、複数の酸化性水蒸気処理の間に不活性水蒸気処理を行った場合(酸化性水蒸気処理→不活性水蒸気処理→酸化性水蒸気処理)は、酸化性水蒸気処理1回とする。また、上述した通り、還元性水蒸気処理と、酸化性水蒸気処理の間に不活性水蒸気処理を行ってもよい。
【0100】
前記サイクルは、20~50回行うことが好ましく、25~45回行うことがより好ましく、30~40回行うことがさらに好ましい。サイクルの回数が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0101】
水蒸気処理工程において、前記還元性水蒸気処理を総計で3~9時間行うことが好ましく、4~8時間行うことがより好ましく、5~7時間行うことがさらに好ましい。還元性水蒸気処理の総計が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0102】
水蒸気処理工程において、前記酸化性水蒸気処理を総計で3~9時間行うことが好ましく、4~8時間行うことがより好ましく、5~7時間行うことがさらに好ましい。酸化性水蒸気処理の総計が前記範囲内であると、ニッケル等の担持金属の状態が実機平衡触媒に近づき、実機平衡触媒と同等の活性を持つ模擬平衡化触媒を得ることができる。
【0103】
実機平衡触媒と模擬平衡化触媒の活性を比較する場合、転化率、水素及び炭素数1~2の炭化水素からなるドライガスの収率、炭素数3~4の炭化水素からなるLPGの収率、ガソリン留分の収率、中間留分(LCO)の収率、重質留分(SLO)の収率、コークの収率を比較することが好ましい。中でも、模擬平衡化触媒の転化率、並びに流動接触分解反応の運転に大きな影響を与える水素の収率及びコークの収率が実機平衡触媒と近い値となることが好ましい。
【0104】
転化率、水素の収率、コークの収率の調整は、前記焼成工程、前記水蒸気処理工程の条件を調整することにより可能である。具体的には、前記焼成工程、水蒸気処理工程の条件をより過酷にすることにより、転化率、水素の収率、及びコークの収率を下げることができる。条件をより過酷にするとは、前記焼成工程の焼成温度を高くすること、前記水蒸気処理工程中の前記サイクルの数を増やすことが例として挙げられる。また、前記還元性水蒸気処理を行う総計の時間を長くする、処理温度、第1気体のGHSVを高くする、第1気体中の水蒸気の濃度を高くすることなども例として挙げられる。さらに、前記酸化性水蒸気処理を行う総計の時間を長くする、処理温度、第2気体のGHSVを高くする、第2気体中の水蒸気の濃度を高くすることなども例として挙げられる。
【実施例
【0105】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
流動接触分解触媒の全細孔容積の測定、模擬平衡化触媒のEPMA分析、模擬平衡化触媒の活性評価は以下の方法で行った。
【0107】
(流動接触分解触媒の全細孔容積の測定)
流動接触分解触媒の全細孔容積は、水銀圧入装置として、ポロシメーター(MICROMERITICS AUTO-PORE 9200:島津製作所製)を使用して測定した。
【0108】
(模擬平衡化触媒のEPMA分析)
模擬平衡化触媒のEPMA分析は、電子プローブマイクロアナライザー(日本電子株式会社製EPMA、JXA―8600MX)を用いて行った。測定条件は加速電圧15kV、入射電流1×10-7A、測定点間のインターバル10μm、計数時間0.3secで行った。測定触媒の断面は、触媒をMMA(methyl methacrylate)に包埋し、研磨装置を用いて研磨することにより作製した。
EPMA分析から得られるニッケル元素のマッピング図(図4、6)において、黄色で表示された部分が最もニッケル濃度が高い部分であり、緑、青色の順でニッケルの濃度が下がっていく。黒で表示される部分にはニッケルが存在しない。
【0109】
<HPS値、R等の算出>
後述の第1液体及び第2液体について、HSPiPを使用して、ハンセン球法によりハンセン球を決定し、HSP値及びRを求めた。同様に、上記溶媒について、HSPiPを使用して、ハンセン球法によりハンセン球を決定し、HSP値を求めた。なお、ハンセン球を求める際の溶解性の判断は25℃を基準に行った。
【0110】
(触媒の活性評価)
後述の実施例等で製造された模擬平衡化触媒9gを流動接触分解装置に充填した。原料油を1.2g/分で供給し、反応温度500℃、再生温度700℃で反応を行い、分解油を得た。分解油の分析は、ガスクロマトグラフィーにより行った。
具体的には、得られた分解油を、Agilent technologies社製のAC Simdis Analyzerを用いてガスクロ蒸留法にて解析し、Dry Gas(水素、炭素数1~2の炭化水素)、LPG(炭素数3~4の炭化水素)、ガソリン留分(沸点27~190℃)、中間留分(LCO:沸点190℃超350℃以下)、重質留分(SLO:沸点350℃超)の生成物量を解析した。また、コーク(Coke)の生成量は再生塔におけるCOおよびCO濃度より解析、算出した。さらに、Dry Gas、LPG、ガソリン留分に含まれる成分をガスクロマトグラフィーにより、定量した。
転化率は、100%-LCOの収率(質量%)-SLOの収率(質量%)より算出した。
表1中のCnは、炭素数がnの炭化水素を示す。
【0111】
[製造例1]
シリカゾル(結合剤)42.0g(乾燥基準、SiO換算量)を25%硫酸で希釈し、攪拌することによりシリカゾルの水溶液を得た。安定化Y型ゼオライト76.0g(乾燥基準)に蒸留水を加え、ゼオライトスラリーを調製した。上記のシリカゾル水溶液に、カオリナイト71.4g(乾燥基準)とアルミナ水和酸化物10g(乾燥基準)を加えて混合し、さらに上記のゼオライトスラリーを加えて、ディスパーサーを用いて10分間攪拌混合して水性スラリーを得た。得られた水性スラリーを210℃の入口温度、及び140℃の出口温度の条件で噴霧乾燥し、得られた微小球体を触媒前駆体とした。前記触媒前駆体を、60℃の5質量%の硫酸アンモニウム水溶液3Lで2回イオン交換した後、さらに3Lの蒸留水で洗浄した。次いで、洗浄した微小球体を、乾燥基準での酸化ランタン含有量が0.3質量%となるように硝酸ランタン水溶液で15分間イオン交換し、次いで、3Lの蒸留水で洗浄した。その後、乾燥機中、110℃で一晩乾燥し、流動接触分解触媒を得た。流動接触分解触媒の全細孔容積は、0.09mL/gであった。
【0112】
[参考例1]
製造例1で得られた流動接触分解触媒を用いて実機運転を行い、実機平衡触媒を得た。得られた実機平衡触媒の活性評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例1]
ニッケル化合物として2-エチルヘキサン酸ニッケルを、第1溶媒としてトルエン(沸点:110.6℃)を選択し、かつニッケル以外の金属化合物として2-エチルヘキサン酸バナジウムを選択し、ニッケル濃度が6質量%であり、バナジウムの濃度が2質量%である、トルエン溶液を第1液体として用いた。なお、第1液体に含まれるニッケルとバナジウムの量は上述の実機平衡触媒と同じとなるよう調整を行った。第2液体として、2,2,4-トリメチルペンタン(沸点:99℃)を使用した。第1液体と、第2液体のRaは15.9であり、第2液体の第1液体に対するREDは1.99であった。
製造例1で得られた流動接触分解触媒について、あらかじめ第1溶媒あるいは第2溶媒を触媒に浸漬させ、触媒が保持可能な最大溶媒量を測定した。最大溶媒量は0.86mL/g-catであった。
上記流動接触分解触媒の保持可能な最大溶媒量に対し80%の体積の第2液体をFCC新触媒に含浸し、含浸前駆体1を得た。含浸前駆体1に、上記流動接触分解触媒の保持可能な最大溶媒量に対し20%の体積の第1液体を、含浸前駆体1を撹拌しながら添加することにより含浸し、含浸前駆体2を得た。
得られた含浸前駆体2を110℃で0.5時間乾燥を行い、含浸体を得た。得られた含浸体を空気雰囲気下、600℃で2時間、焼成し、焼成体1を得た。
得られた焼成体1に対し、以下のサイクルを1サイクルとして、30サイクルの水蒸気処理工程を行い、触媒Aを得た。触媒AのEPMA分析結果を図3及び4に示す。図3及び図4から明らかなように、ニッケルが触媒の外層に分布していることが確認された。
得られた触媒Aの活性評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(水蒸気処理工程における1サイクル)
1.60体積%の水蒸気と、38%体積%の窒素と、2体積%のプロピレンの混合気体(第1気体)を流動接触分解装置に充填した焼成体1に対して、常圧、温度770℃、GHSV400h-1の条件で、10分間接触処理した。
2.60体積%の水蒸気と、40体積%の窒素の混合気体(第3気体)を流動接触分解装置に充填した焼成体1に対して、常圧、温度770℃、GHSV400h-1の条件で、10分間接触処理した。
3.60体積%の水蒸気と、39.84体積%の空気と、1600体積ppmの二酸化硫黄の混合気体(第2気体)を流動接触分解装置に充填した焼成体1に対して、常圧、温度770℃、GHSV400h-1の条件で、10分間接触処理した。
4.60体積%の水蒸気と、40体積%の窒素の混合気体(第3気体)を流動接触分解装置に充填した焼成体1に対して、常圧、温度770℃、GHSV400h-1の条件で、10分間接触処理した。
【0115】
[実施例2]
実施例1において、含浸体を、空気雰囲気下、600℃で2時間、焼成に代えて、700℃で24時間、焼成し、焼成体2を得た。
得られた焼成体2に対して、実施例1と同様にして、30サイクルの水蒸気処理工程を行い、触媒Bを得た。触媒BのEPMA分析により、ニッケルが触媒の外層に分布していることが確認された。
得られた触媒Bの活性評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
[比較例1]
実施例1で調製した第1液体をシクロヘキサンで希釈して含浸溶液を調製した。上記流動接触分解触媒の保持可能な最大溶媒量に対し100%の体積の前記含浸溶液を流動接触分解触媒に含浸し、含浸前駆体3を得た。なお、第1液体に含まれるニッケルとバナジウムの量は上述の実機平衡触媒と同じとなるよう調整を行った。
得られた含浸前駆体3を110℃で0.5時間乾燥を行い、含浸体を得た。得られた含浸体を空気雰囲気下、600℃で2時間、焼成し、焼成体3を得た。
100体積%の水蒸気を流動接触分解装置に充填した焼成体3に対して、常圧、温度800℃、GHSV400h-1の条件で、3時間接触処理し、触媒Cを得た。触媒CのEPMA分析結果を図5及び6に示す。図5及び図6から明らかなように上述の触媒Aと比較して、ニッケルが触媒に均一に分布していることが確認された。
得られた触媒Cの活性評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
[比較例2]
比較例1と同様の方法で焼成体3を得た。
得られた焼成体3に対して、実施例1と同様にして、30サイクルの水蒸気処理工程を行い、触媒Dを得た。触媒DのEPMA分析により、ニッケルが触媒に均一に分布していることが確認された。
得られた触媒Dの活性評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で焼成体1を得た。
比較例1と同様に、100体積%の水蒸気を流動接触分解装置に充填した焼成体1に対して、常圧、温度800℃、GHSV400h-1の条件で、3時間接触処理し、触媒Eを得た。触媒EのEPMA分析により、ニッケルが触媒の外層に分布していることが確認された。
得られた触媒Eを用いて、流動接触分解反応を行った。結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例1、実施例2では、転化率、水素の収率、コークの収率を中心に、参考例に極めて近い反応成績が得られた。実施例2と参考例の転化率は1%程度異なるが、上述したように、水蒸気処理工程の条件をマイルドにすることにより、転化率の調整が可能であり、その場合、コークの収率も上がると考えられることから、参考例の実機平衡触媒の反応成績により近づくと考えられる。
【0121】
比較例1、3では、水素の収率、コークの収率を中心に、参考例と異なる反応成績となった。比較例1、3の転化率を参考例の転化率に合わせるために、100体積%の水蒸気処理の条件をマイルドにすることも考えられるが、その場合、コークの収率も上がると考えられ、参考例のコーク収率からより外れることになる。したがって、比較例1、2を、コークの収率の観点から参考例の反応成績により近づけることは困難であることがわかった。
【0122】
比較例2では、水素の収率を中心に、参考例と異なる反応成績となった。比較例2の転化率を参考例の転化率に合わせるために、水蒸気処理工程の条件をマイルドにすることも考えられるが、その場合、コークの収率も上がると考えられ、参考例のコーク収率からより外れることになる。比較例2のコークの収率を参考例のコークの収率に合わせるために、水蒸気処理工程の条件を過酷にすることも考えられるが、本願の発明者が検討した結果、比較例2においては、水蒸気処理工程の条件を過酷にしてもコークの収率が下がらないことがわかった。この結果は、比較例2の触媒においてはニッケルが均一に担持されていることから、ニッケルのシンタリングが起こりづらいことに起因するものと推定された。したがって、比較例2を、コークの収率の観点から参考例の反応成績により近づけることは困難であることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6