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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】電子部品および情報読み取り方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20241015BHJP
   H01F 17/06 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H01F27/00 Q
H01F17/06 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020172652
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064119
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】外海 透
(72)【発明者】
【氏名】乾 京介
(72)【発明者】
【氏名】小柳 佑市
(72)【発明者】
【氏名】木村 出
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037516(JP,A)
【文献】特開2005-045103(JP,A)
【文献】特開2004-146763(JP,A)
【文献】特開2018-107198(JP,A)
【文献】特開2009-231380(JP,A)
【文献】特開2021-129075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、所定の記号を表し、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分と、前記素子本体が有する前記金属粒子分散体に分散している前記金属粒子が表面に現れる金属露出部分とが交互に繰り返されて形成されている表示パターンを有する電子部品。
【請求項2】
前記金属粒子分散体では、前記樹脂中に前記金属粒子が分散してあり、
前記金属露出部分は、前記金属粒子分散体の表面に所定パターンの凹部が形成されて前記金属粒子が露出している部分であり、前記樹脂露出部分は、前記凹部が形成されずに表面に前記樹脂が残っている部分である請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
前記金属粒子分散体の表面には、樹脂層が形成してあり、
前記金属露出部分は、前記樹脂層の表面に所定パターンの凹部が形成されて前記樹脂層が除去されている部分であり、前記樹脂露出部分は、前記凹部が形成されずに前記樹脂層が残っている部分である請求項1に記載の電子部品。
【請求項4】
前記金属露出部分は、前記樹脂露出部分に比較して、所定深さで凹んでいる請求項1~3のいずれかに記載の電子部品。
【請求項5】
前記金属粒子分散体の表面には、所定パターンで凹部が形成してあり、前記凹部には、樹脂が埋め込まれており、
前記樹脂露出部は、前記樹脂が埋め込まれている部分であり、前記金属露出部分は、前記凹部が形成されずに、前記金属粒子が露出している部分であり、
前記金属露出部分の表面に対して、前記樹脂露出部分の表面は、略同一平面上、または凹んでいる請求項1に記載の電子部品。
【請求項6】
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、磁性粒子が分散している磁性粒子分散体を有し、
前記磁性粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、所定の記号を表し、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分と、前記素子本体が有する前記磁性粒子分散体に分散している前記磁性粒子が表面に現れる磁性体露出部分とが交互に繰り返されて形成されている表示パターンを有する電子部品。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の電子部品の表示領域に、赤色光の波長よりも波長が短い特定光を照射し、その反射光から前記表示領域に含まれている情報を読み取ることを特徴とする電子部品からの情報読み取り方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報の書き込みと読み取りが容易な表示領域を有する電子部品と、その電子部品の表示領域に含まれる情報を容易に読み取ることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1にも示すように、電子部品の表面には、表示領域が設けられ、その電子部品の型番、製造ロット番号、電子部品の性能を示す識別記号、あるいは電子部品の向きなどの識別記号などの記号や文字が書き込まれることがある。このような表示領域に設けられる文字や記号(パーコードや二次元コードなども含む)は、レーザ刻印により形成されることが多い。
【0003】
しかも表示部に書き込まれている文字や記号の誤認識を防ぐために、電子部品の表面に深くレーザで刻印することが推奨されている。表示部に書き込まれている文字や記号の読み取りに際しての照明には、従来では、赤色光が用いられており、電子部品の表面に比較的に深く刻印しないと、表示部の読み取りが困難になることが常識であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-56475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、電子部品の表面に深く刻印しなくても情報の読み取りが可能な表示領域を有する電子部品および情報読み取り方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者等は、鋭意検討した結果、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分と、金属粒子が表面に現れる金属露出部分とが交互に繰り返される表示パターンによれば、特定色の光の波長よりも波長が短い光を照射することで、比較的に精度よく情報の読み取りが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、金属粒子が分散している金属粒子分散体を有し、
前記金属粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分と、前記金属粒子が表面に現れる金属露出部分とが交互に繰り返される表示パターンを有する。
【0008】
本発明の電子部品によれば、電子部品の素子本体の表面に、たとえばレーザなどにより深く刻印しなくても情報の読み取りが可能になる。そのため、電子部品の素子本体の表面に表示領域を作成するためのレーザ光を複数回のショット数で照射する必要がなくなると共に、レーザ光の出力を低減することが可能になる。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さな電子部品への表示領域の形成も可能になる。
【0009】
前記金属粒子分散体は、前記樹脂中に前記金属粒子が分散してある部分でもよく、前記金属露出部分は、前記金属粒子分散体の表面に所定パターンの凹部が形成されて前記金属粒子が露出している部分であってもよい。また、前記樹脂露出部分は、前記凹部が形成されずに表面に前記樹脂が残っている部分であってもよい。
【0010】
前記金属粒子分散体の表面には、樹脂層が形成してあってもよく、前記金属露出部分は、前記樹脂層の表面に所定パターンの凹部が形成されて前記樹脂層が除去されている部分であってもよい。また、前記樹脂露出部分は、前記凹部が形成されずに前記樹脂層が残っている部分であってもよい。
【0011】
たとえば前記金属露出部分は、前記樹脂露出部分に比較して、所定深さで凹んでいる。このような金属露出部分は、たとえばレーザ光などのエネルギー光を照射することで形成される。その際のレーザ光の出力は、従来のレーザ光の出力よりも小さくてよく、しかも、少ないショット数で形成することができる。
【0012】
前記金属粒子分散体の表面には、所定パターンで凹部が形成してあり、前記凹部には、樹脂が埋め込まれていてもよい。また、前記樹脂露出部は、前記樹脂が埋め込まれている部分であり、前記金属露出部分は、前記凹部が形成されずに、前記金属粒子が露出している部分であってもよい。前記金属露出部分の表面に対して、前記樹脂露出部分の表面は、略同一平面上、または凹んでいてもよい。
【0013】
本発明の別の観点に係る電子部品は、
素子本体を有する電子部品であって、
前記素子本体は、磁性粒子が分散している磁性粒子分散体を有し、
前記磁性粒子分散体は、その表面に、表示領域を有し、
前記表示領域は、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分と、前記磁性粒子が表面に現れる磁性体露出部分とが交互に繰り返される表示パターンを有する。
【0014】
本発明の別の観点に係る電子部品でも、電子部品の素子本体の表面に、たとえばレーザなどにより深く刻印しなくても情報の読み取りが可能になる。そのため、電子部品の素子本体の表面に表示領域を作成するためのレーザ光を複数回のショット数で照射する必要がなくなると共に、レーザ光の出力を低減することが可能になる。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さな電子部品への表示領域の形成も可能になる。
【0015】
本発明の電子部品からの情報読み取り方法は、
請求項1~6のいずれかに記載の電子部品の表示領域に、赤色光の波長よりも波長が短い特定光を照射し、その反射光から前記表示領域に含まれている情報を読み取ることを特徴とする。特定光の波長は、好ましくは緑色光の波長以下、さらに好ましくは青色光の波長以下、特に好ましくはUV光である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の一実施形態に係る電子部品の概略断面図である。
図2A図2A図1に示す表示領域の拡大断面図である。
図2B図2Bは本発明の他の実施形態に係る表示領域の拡大断面図である。
図2C図2Cは本発明のさらに他の実施形態に係る表示領域の拡大断面図である。
図2D図2Dは本発明のさらに他の実施形態に係る表示領域の拡大断面図である。
図3図3は本発明の実施形態に係る電子部品からの情報の読み取り方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
第1実施形態
図1に示すように、本発明の実施形態に係る電子部品としてのインダクタ2は、略直方体形状(略六面体)からなる素子本体4を有する。
【0019】
素子本体4は、上面4aと、上面4aとはZ軸方向の反対側に位置する底面4bと、X軸に沿って相互に反対側に位置する端面4c,4dと、図示されないY軸に沿って相互に反対側に位置する側面とを有する。素子本体4の寸法は、特に限定されない。たとえば、素子本体4のX軸方向の寸法を1.2~6.5mmとすることができ、Y軸方向の寸法を0.6~6.5mmとすることができ、高さ(Z軸)方向の寸法を、0.5~5.0mmとすることができる。
【0020】
素子本体4の底面4bには、一対の端子電極8が形成してある。一対の端子電極8は、X軸方向で離反して形成してあり、互いに絶縁してある。各端子電極8は、素子本体4の底面4bのみでなく、それぞれの近くに位置する端面4c,4dにも連続するように形成してある。
【0021】
本実施形態のインダクタ2では、この端子電極8に対して、図示しない配線などを介して外部回路が接続可能となっている。また、インダクタ2は、はんだや導電性接着剤などの接合部材を用いて、回路基板などの各種基板の上に実装可能となっている。基板に実装する場合、素子本体4の底面4bが実装面となり、端子電極8と基板とが、接合部材により接合される。
【0022】
素子本体4は、その内部において、コイル部5を有している。このコイル部5は、導体としてのワイヤ6をコイル状に巻回することで構成してある。本実施形態の図1において、コイル部5は、一般的なノーマルワイズで巻回された空芯コイルであるが、ワイヤ6の巻回方式は、これに限定されない。たとえば、ワイヤ6をα巻きした空芯コイルや、フラット巻またはエッジワイズ巻きした空芯コイルであってもよい。
【0023】
ワイヤ6は、主として銅などの低抵抗な金属を含む導体部と、その導体部の外周を覆う絶縁被膜とで構成してある。より具体的に、導体部は、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅、リン青銅や黄銅、丹銅、ベリリウム銅、銀-銅合金などの銅を含む合金、もしくは、銅被覆鋼線などで構成される。一方、絶縁被膜は、電気絶縁性を有していればよく、特に限定されない。たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ナイロン、ポリエステルなど、もしくは、上記のうち少なくとも2種の樹脂を混合した合成樹脂が例示される。また、本実施形態において、ワイヤ6は、図1に示すように、丸線であり、導体部の断面形状が、円形となっているが、丸線に限らず、平角線などであってもよい。
【0024】
図2Aに示すように、本実施形態における素子本体4は、たとえば金属粒子12と、樹脂14とを含む圧粉体で構成することができる。金属粒子12は、磁性材料であればよく、特に限定されない。たとえば、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Feを含むアモルファス合金、Feを含むナノ結晶合金など、その他の軟磁性合金が例示される。なお、金属粒子12には、適宜、副成分が添加してあってもよい。
【0025】
素子本体4に含まれる金属粒子12については、そのメディアン径(D50)を0.1μm~100μm程度とすることができる。また、金属粒子12は、D50が10μm~50μmの大粒子と、D50が1μm~9μmの中粒子と、D50が0.3μm~0.9μmの小粒子とを混ぜ合わせて構成してもよい。上記のような3種の粒子群の組合せの他に、大粒子と中粒子との組み合わせ、大粒子と小粒子との組み合わせ、中粒子と小粒子との組み合わせなどであってもよい。なお、大粒子と中粒子と小粒子とは、全て同種の材質で構成してもよく、あるいは異なる材質で構成することもできる。
【0026】
上記のように複数の粒子群を混ぜ合わせる場合、各粒子群の含有割合は、特に制限されない。たとえば、3種の粒子群(大粒子と中粒子と小粒子)を混ぜ合わせる場合、素子本体4の断面において、大粒子、中粒子、および小粒子が占める面積の総和を100%とすると、大粒子が占める面積は5%~30%とすることが好ましく、中粒子が占める面積は0%~30%とすることが好ましく、小粒子が占める面積は50%~90%とすることが好ましい。金属粒子12を、複数の粒子群で構成することで、素子本体4に含まれる金属粒子12の充填率を高めることができる。その結果、透磁率や渦電流損失、直流重畳特性などのインダクタ2の諸特性が向上する。
【0027】
なお、金属粒子12の粒径、および、各粒子群が占める面積は、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などで素子本体4の断面を観察し、得られた断面写真をソフトウェアにより画像解析することで測定できる。その際、金属粒子12の粒径は、円相当径換算で計測することが好ましい。
【0028】
また、素子本体4に含まれる金属粒子12は、当該粒子間が互いに絶縁されていてもよい。絶縁する方法としては、たとえば、粒子表面に絶縁被膜を形成する方法が挙げられる。絶縁被膜としては、樹脂または無機材料で形成する被膜、および、熱処理により粒子表面を酸化して形成する酸化被膜が挙げられる。樹脂または無機材料で絶縁被膜を形成する場合、樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
無機材料としては、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどのリン酸塩、ケイ酸ナトリウムなどのケイ酸塩(水ガラス)、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラス、硫酸塩ガラスなどが挙げられる。なお、金属粒子12の絶縁被膜の厚みは、5nm~200nmであることが好ましい。絶縁被膜を形成することで、粒子間の絶縁性を高めることができ、インダクタ2の耐電圧を向上させることができる。
【0030】
また、素子本体4に含まれる樹脂14としては、特に制限されないが、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリプロピレン(PP)、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。樹脂14の含有量は、金属粒子100重量部に対して、2.0重量部~10重量部とすることができる。
【0031】
図1に示すように、コイル部5を構成するワイヤ6の両端である一対のリード部6aは、それぞれ、コイル部5から素子本体4の外面(たとえば底面4b)に露出して端子電極8,8とそれぞれ接続してある。リード部6aは、いずれもワイヤ6で構成してあるが、底面4bに露出した箇所では、ワイヤ6の外周側に存在する絶縁被膜が除去されて、ワイヤ6の導体部が露出している。
【0032】
本実施形態において、端子電極8は、樹脂電極層を有していてもよい。また、端子電極8は、樹脂電極層とその他の電極層とを有する積層構造であってもよい。端子電極8を積層構造とする場合、樹脂電極層は、素子本体4の底面4bと接触する部分に位置し、その他の電極層は、単層でも複数層でもよく、その材質は特に限定されない。たとえば、その他の電極層は、Sn、Au、Cu、Ni、Pt、Ag、Pdなどの金属、または、これらの金属元素のうち少なくとも1種を含む合金で構成することができ、メッキやスパッタリングにより形成することができる。また、端子電極8の全体の厚みは、平均で、3μm~60μmとすることが好ましく、樹脂電極層の厚みは、1μm~50μmとすることが好ましい。
【0033】
端子電極8の樹脂電極層には、樹脂成分と導体粉末とが含まれる。樹脂電極層における樹脂成分は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で構成される。一方、導体粉末は、Ag、Au、Pd、Pt、Ni、Cu、Snなどの金属粉末、または、上記のうち少なくとも1種を含む合金の金属粉末で構成することができ、特にAgを主成分として含むことが好ましい。
【0034】
また、導体粉末の形状は、球に近い形状、長球状、不規則なブロック状、針状、扁平状とすることができ、特に、針状もしくは扁平状であることが好ましい。本実施形態において、扁平状の粒子とは、樹脂電極層の断面において、アスペクト比(短手方向の長さに対する長手方向の長さの比)が2~30である粒子を意味する。なお、導体粉末の平均粒径は、SEMやSTEMで樹脂電極層の断面を観察し、得られる断面写真を画像解析することで測定できる。その測定に際して、導体粉末の平均粒径は、最大長さ換算で算出する。
【0035】
樹脂電極層の断面において、樹脂成分および導体粉末が占める合計面積を100%とすると、導体粉末が占める面積は、60%以下であることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、素子本体4の上面4aに、単一または複数の表示領域10が形成してある。それぞれの表示領域10の面積は、特に限定されなず、素子本体4の上面4aの面積に対して、たとえば1/20~18/20程度である。
【0037】
図2Aに示すように、表示領域10では、素子本体4の表面に、樹脂14が表面に現れる樹脂露出部分14aと、金属粒子12が表面に現れる金属露出部分12aとが交互に繰り返される表示パターンが形成してある。本実施形態では、図1に示すコイル部5以外の部分では、素子本体4は、図2Aに示すように、樹脂14の中に磁性体の金属粒子12が分散してある金属粒子分散体15で構成してある。
【0038】
素子本体4を金型の内部で成形して作る場合には、素子本体4の外面が金型と接触する表面となり、その外面の一部である上面4aには、所定厚みの樹脂14の表面層が形成される。本実施形態では、素子本体4の上面4aに形成してある樹脂14の表面層を所定の表示パターンで除去することで、樹脂露出部分14aと金属露出部分12aとが交互に繰り返される表示パターンを、上面4aの表示領域10に形成してある。
【0039】
素子本体4の上面4aに形成してある樹脂14の表面層を所定の表示パターンで除去するために、本実施形態では、たとえばレーザ光などが用いられ、レーザ光を所定の表示パターンで、素子本体4の上面4aに照射する。そのことにより、樹脂14の表面層に所定パターンの凹部16が形成されて樹脂14の表面層が除去されて、凹部16の底に、金属粒子12が表面に多く現れる金属露出部分12aが形成される。
【0040】
また、レーザが照射されない部分は、凹部16が形成されずに樹脂14の表面層が残っている部分となり、樹脂露出部分14aを構成する。樹脂露出部分14aの樹脂14の厚みtは、特に限定されないが、好ましくは1μm~30μmである。
【0041】
また、図2Aでは、凹部16の深さは、樹脂露出部分14aの樹脂14の厚みtと同程度であるが、それよりも深くてもよいが、レーザ出力の低減化の観点からは、凹部16の深さとしては、20μm以下でもよく、さらには、5μm以下でもよい。また、凹部16の幅(X軸またはY軸に沿う幅)は、それぞれ、好ましくは30μm~100μmである。
【0042】
樹脂露出部分14aと金属露出部分12aとが交互に繰り返される表示パターンにより表される記号は、文字や数字、あるいはバーコード、二次元コード、データマトリックスコード、QRコード(登録商標)、Aztecコード、maxiコードなどが例示されるが、これらに限定されない。また、これらの記号により読み取ることができる情報も、特に限定されず、たとえば電子部品の型番、製造ロット番号、電子部品の性能を示す識別記号、あるいは電子部品の向きなどの識別記号、製造日、製造場所、製造方法、材料などが例示される。
【0043】
次に、本実施形態のインダクタ2の製造方法について、説明する。
【0044】
まず、素子本体4を作成する。素子本体4には、コイル部5がインサート成形される。素子本体4は、加熱加圧成形などのプレス法や、射出成形法などによって成形される。素子本体4を構成する原料としては、成形時に流動性がある複合材料が用いられる。具体的には、金属粒子12の原料粉と、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダとを混錬した複合材料を用いる。
【0045】
この複合材料には、適宜、溶媒、分散剤などが添加してあってもよい。また、図2Aに示す金属粒子12を、大粒子と中粒子と小粒子とで構成する場合、金属粒子12の原料粉全体に占める各粒子の配合比率は、所定の比率であることが好ましい。具体的に、大粒子の配合比率が50wt%~90wt%であることが好ましく、中粒子の配合比率が5wt%~30wt%であることが好ましく、小径粉の配合比率が0wt%~30wt%であることが好ましい。
【0046】
次に、素子本体4の底面4bの一部に露出しているリード部6a,6aの絶縁被膜を除去した後に、それぞれに対応して端子電極8,8を底面4bに形成し、リード部6a,6aと端子電極8,8とを、それぞれ接続する。
【0047】
端子電極8,8の形成は、たとえば以下のようにして行う。まず、素子本体4の底面4bの一部に、樹脂電極用ペーストを、印刷法などの手法によって塗布する。この際、樹脂電極用ペーストは、リード部6aが露出している底面4bを、それぞれ覆うように塗布する。
【0048】
なお、樹脂電極用ペーストには、樹脂成分となるバインダと、導体粉末となる金属原料粉末が含まれている。本実施形態において、金属原料粉末は、平均粒径が1μm~10μmであることが好ましく、3μm~5μmであることがより好ましい。
【0049】
素子本体4に樹脂電極用ペーストを塗布した後、素子本体4を所定の条件で加熱処理し、ペースト中のバインダ(樹脂成分)を硬化させる。加熱処理の条件は、使用するバインダの種類により適宜設定すればよい。こうして、素子本体4の底面4bおよび端面4c,4dに樹脂電極層が形成される。樹脂電極層の外面には、適宜、メッキ膜やスパッタ膜を形成してもよい。たとえば、樹脂電極層の外面に、Ni、Cu、Snなどのメッキ膜を形成して端子電極8,8を形成してもよい。以上のようにして、素子本体4に一対の端子電極8が形成されたインダクタ2が得られる。
【0050】
その後に、あるいは、端子電極8が形成される前に、素子本体4の上面4aで端子電極8,8が形成されていない部分に、たとえばレーザを照射して、表示領域10を形成する。
【0051】
レーザ光を所定の表示パターンで、素子本体4の上面4aに照射する。そのことにより、図2Aに示すように、樹脂14の表面層に所定パターンの凹部16が形成されて樹脂14の表面層が除去されて、凹部16の底に、金属粒子12が表面に多く現れる金属露出部分12aが形成される。
【0052】
レーザ光などのエネルギー光が照射されることで、凹部16の底に位置する金属粒子12は、その表面に絶縁被膜が形成してあったとしても、絶縁被膜も除去されて金属部が露出する。なお、金属粒子12の絶縁被膜がレーザ光で除去されなくとも、金属粒子12の絶縁被膜は、樹脂14の表面層の厚みtに比較してかなり薄いので、特定波長の光に対する金属露出部分12aの反射光と、特定波長の光に対する樹脂露出部分14aの反射光との間には、明確なコントラストが存在する。
【0053】
なお、金属露出部分12aでは、たとえば隣接する金属粒子12間の隙間などに樹脂14が含まれる場合や、樹脂14で多少覆われている金属粒子12も残ることがある。しかしながら、金属露出部分12aに残る樹脂の面積割合は、樹脂露出部分14aに比較して50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは5%以下に少ない。したがって、特定波長の光に対する金属露出部分12aの反射光と、特定波長の光に対する樹脂露出部分14aの反射光との間には、明確なコントラストが存在する。金属露出部分12aに残る樹脂の面積割合は、表示領域10に垂直な方向(Z軸方向)から観察して、金属露出部分12aの単位面積あたりに、金属粒子12ではなく樹脂14が観察される面積の割合である。
【0054】
また、表示領域10の表示パターンを形成するために使用するレーザ光は、波長が400nm以下であることが好ましい。すなわち、照射するレーザ光は、グリーンレーザ光(波長:532nm)よりも短波長なUVレーザ光などであることが好ましい。上記のように短波長なレーザを使用することで、大粒子や中粒子などの金属粒子12は除去されずに、表面層の樹脂14が選択的に除去される。
【0055】
本実施形態のインダクタ2では、素子本体14の外面(たとえば上面4a)に、たとえばレーザ光などにより深く刻印しなくても情報の読み取りが可能になる。そのため、インダクタ2の素子本体4の表面に表示領域10を作成するためのレーザ光を複数回のショット数で照射する必要がなくなると共に、レーザ光の出力を低減することが可能になる。また、微細な表示パターンの形成も可能になり、ごく小さなインダクタ2への表示領域10の形成も可能になる。
【0056】
すなわち、本実施形態では、図2Aに示すように、金属露出部分12aは、樹脂露出部分14aに比較して、所定深さで凹んでいる。このような金属露出部分12aは、たとえばレーザ光などのエネルギー光を照射することで形成される。その際のレーザ光の出力は、従来のレーザ光の出力よりも小さくてよく、しかも、少ないショット数で形成することができる。
【0057】
本実施形態のインダクタ2からの情報読み取り方法では、上述したインダクタ2の表示領域10に、赤色光の波長よりも波長が短い特定光を照射し、その反射光から表示領域10に含まれている情報を読み取ることができる。たとえば図3は、同じ本実施形態のインダクタ2の上面の表示領域10に、波長が長いIR(赤外光)の照明光から、FR(遠赤色光)、R(赤色光)、AM(橙色光)、G(緑色光)、B(青色光)およびUV(紫外光)と、順次、波長が短い照明光を当てて、通常のCCDカメラにより撮像した画像を示す。
【0058】
図3に示すように、照明光としては、赤色光の波長よりも波長が短い特定光の波長を有することで、表示領域10での文字や記号の認識が容易になることが確認できた。特に、特定光の波長は、好ましくは緑色光(G)の波長以下、さらに好ましくは青色光(B)の波長以下、特に好ましくはUV光である。
【0059】
図2Aに示す金属露出部分12aと樹脂露出部分14aとの繰り返しパターンは、凹部16の深さが浅い場合でも、特に、好ましくは緑色光(G)の波長以上、さらに好ましくは青色光(B)の波長以上、特に好ましくはUV光の照明光を照射することで、情報の読み取りが可能になることが確認できた。
【0060】
第2実施形態
図2Bに示すように、本発明の他の実施形態に係る電子部品としてのインダクタは、以下に示す以外は、前述した第1実施形態と同様であり、重複する部分の説明は省略し、以下、主として相違する部分について詳細に説明する。
【0061】
この実施形態のインダクタの表示領域10は、素子本体4の表面における表示領域10に対応する部分に、予め樹脂フィルム(樹脂層)14αを貼着した後に、所定パターンでレーザ光などのエネルギー光を当てて、所定パターンの凹部16を形成している。
【0062】
凹部16の底では、金属粒子分散体15に含まれる金属粒子12が露出し、金属露出部分12aを形成している。凹部16が形成されずに、所定パターンで残された樹脂フィルム14αは、樹脂露出部分14aを形成している。そのため、表示領域10には、所定パターンで残された樹脂フィルム14αから成る樹脂露出部分14aと、凹部16の底に形成された金属粒子21から成る金属露出部分12aとが交互に繰り返された表示パターンが形成される。
【0063】
各凹部16の深さは、図2Aに示す凹部16の深さと同程度、またはそれよりも深くてもよい。樹脂フィルム14αは、金属粒子12を含んでいないため、同じレーザ出力でも、図2Aに示す金属粒子分散体15の表面に形成される樹脂14の表面層よりは、各凹部16は、均一な深さで、より深く形成される可能性がある。
【0064】
第3実施形態
図2Cに示すように、本発明のさらに他の実施形態に係る電子部品としてのインダクタは、以下に示す以外は、前述した第1または第2実施形態と同様であり、重複する部分の説明は省略し、以下、主として相違する部分について詳細に説明する。
【0065】
この実施形態のインダクタの素子本体4αは、焼結された金属粒子12から成る金属粒子分散体15αで構成してあり、ほとんど樹脂を含まない。そのため、焼結後の金属粒子分散体15αの表面には、樹脂の表面層は形成されない。そこで、本実施形態では、焼結後の金属粒子分散体15αから成る素子本体4αの表面の一部に、所定パターンで樹脂塗布層(樹脂層)14βを形成する。その結果、樹脂塗布層14βが形成された樹脂露出部分14aと、樹脂塗布層14βが形成されなかった金属粒子12の表面部分から成る金属露出部分12aとが、所定の繰り返しパターンで表示領域10に形成される。
【0066】
なお、所定パターンの樹脂塗布層14βは、たとえばスクリーン印刷などの印刷法により形成してもよい。あるいは、所定パターンの樹脂塗布層14βは、焼結後の金属粒子分散体15αから成る素子本体4αの表面の一部に、ディピングまたは刷毛塗りなどの方法により所定面積の連続する樹脂塗布層14βを形成した後に、樹脂塗布層14βをパターニングして形成することもできる。パターニングは、レーザ光を所定パターンで照射することで行ってもよいし、露光およびエッチングなどを用いて行ってもよい。
【0067】
第4実施形態
図2Dに示すように、本発明のさらに他の実施形態に係る電子部品としてのインダクタは、以下に示す以外は、前述した第1~第3実施形態のいずれか、またはそれらの組み合わせと同様であり、重複する部分の説明は省略し、以下、主として相違する部分について詳細に説明する。
【0068】
この実施形態のインダクタの素子本体4αは、焼結された金属粒子12から成る金属粒子分散体15αで構成してあり、ほとんど樹脂を含まない。そのため、焼結後の金属粒子分散体15αの表面には、樹脂の表面層は形成されない。そこで、本実施形態では、焼結後の金属粒子分散体15αから成る素子本体4αの表面の一部に、所定パターンでレーザ光などのエネルギー光を照射することで、所定パターンの凹部16を形成する。その後に、所定パターンの凹部16に対応するパターンで、樹脂埋込部14γを形成する。
【0069】
その結果、樹脂埋込部14γが形成された樹脂露出部分14aと、樹脂埋込部14γが形成されなかった金属粒子12の表面部分から成る金属露出部分12aとが、所定の繰り返しパターンで表示領域10に形成される。なお、樹脂埋込部14γを所定パターンの凹部16に埋め込むための方法としては、たとえばスクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが例示される。本実施形態では、金属露出部分12aの表面に対して、樹脂露出部分14aの表面は、略同一平面上、または凹んでいてもよい。
【0070】
第5実施形態
本発明のさらに他の実施形態に係る電子部品としてのインダクタは、以下に示す以外は、前述した第1~第4実施形態のいずれか、またはそれらの組み合わせと同様であり、重複する部分の説明は省略し、以下、主として相違する部分について詳細に説明する。
【0071】
本実施形態では、前述した実施形態における金属粒子分散体15,15αの代わりに、金属以外の磁性体粒子が分散してある磁性粒子分散体を、素子本体が有している。また、本実施形態では、前述した実施形態における金属粒子12の代わりに、金属以外の磁性体粒子が用いられる。
【0072】
磁性粒子分散体は、その表面に、表示領域10を有し、表示領域10は、樹脂が表面に現れる樹脂露出部分14aと、磁性粒子が表面に現れる磁性体露出部分とが交互に繰り返される表示パターンを有する。金属以外の磁性体粒子としては、たとえばフェライト粒子が例示される。その場合には、金属粒子と同様にして表示領域10を形成する場合に、表面に深く刻印しなくても情報の読み取りが可能な表示領域を有するインダクタを得ることができる。
【0073】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0074】
たとえば、上述した実施形態では、表示領域10は、素子本体4の上面4aに形成してあるが、その他の外面(ただし、端子電極8,8が形成されていない素子本体4の外面)、たとえば素子本体4の側面に形成してもよい。
【0075】
また、素子本体4は、コイル部6を内蔵していなくてもよく、たとえばFT型、ET型、EI型、UU型、EE型、EER型、UI型、ドラム型、トロイダル型、ポット型、カップ型のコア自体であってもよい。
【0076】
また、本発明に係る電子部品は、インダクタに限定されず、トランス、チョークコイル、コモンモードフィルタなどの電子部品、もしくは、インダクタ素子とコンデンサ素子などの他の素子とを組み合わせた複合電子部品であってもよい。さらに、素子本体を構成する金属粒子分散体の金属粒子は、磁性粒子に限らず、磁性を持たない金属粒子であってもよく、セラミックスなど金属以外の粒子であってもかまわない。
【符号の説明】
【0077】
2 … インダクタ
4,4α … 素子本体
4a … 上面
4b … 底面
4c,4d … 端面
5 … コイル部
6 … ワイヤ
6a … リード部
8 … 端子電極
10… 表示領域
12… 金属粒子
12a… 金属露出部分
14… 樹脂
14a… 樹脂露出部分
14α… 樹脂フィルム(樹脂層)
14β… 樹脂塗布層(樹脂層)
14γ… 樹脂埋込部
15,15α… 金属粒子分散体
16… 凹部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3