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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/00 20060101AFI20241015BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20241015BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241015BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241015BHJP
   C08F 222/40 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
C08F279/00
B32B15/085 Z
C08F2/44 C
H05K1/03 610H
C08F222/40
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020197380
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085610
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】菅藤 諒介
(72)【発明者】
【氏名】石垣 雄平
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-039995(JP,A)
【文献】特開2010-280771(JP,A)
【文献】特開2009-161743(JP,A)
【文献】特開2010-280860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08F
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(4)の条件
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万以下である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位と前記芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
をすべて満たすオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と、
一個以上の芳香環を有するビスマレイミドである極性単量体と
を含む組成物であって、
共振器法によって求められる、前記組成物の硬化物の誘電率の、測定周波数範囲27GHz~42GHzにおける値が、2.7以下であり、
共振器法によって求められる、前記組成物の硬化物の誘電正接の、測定周波数範囲27GHz~42GHzにおける値が、1.5×10-3以下であり、
JPCA規格「電子回路基板規格 第3版」第16項「プリント配線板用材料規格」に基づいて、熱機械的分析装置(TMA:Thermomechanical Analyzer、BRUKER AXS社製、現ネッチ・ジャパン社製)を使用し、幅3~5mm、厚さ0.5~0.6mm、チャック間15~20mm、引張り加重10g、昇温速度:10℃/分の条件で測定して得られる25℃~150℃の間の平均値から求められる、前記組成物のCTE(線膨張率)が、130ppm/K以下である
ことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記極性単量体が有する前記芳香環は、炭素数1以上の基を一個以上その環上に有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記極性単量体が、下記構造式を有するビスマレイミドであって、
式中、R 1 、R 1 ´はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上の置換基である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記共重合体と前記極性単量体の合計100質量部に対して、前記極性単量体の量が0.1~30質量部の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記共重合体が、下記(1)~(4)の条件
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万以下である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位と前記芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
をすべて満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
25℃における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率を、250℃における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率で割った値が、20以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
さらに、芳香族ビニル化合物単量体及び芳香族ポリエン単量体からなる群から選択される一種以上である第二の単量体、及び/又は樹脂を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記共重合体100質量部に対して、前記第二の単量体及び/又は樹脂を300質量部以下含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
さらに硬化剤を含む請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
硬化性である請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を硬化して得られる成形体。
【請求項12】
シートである請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
電気絶縁材料である請求項11又は12に記載の成形体。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を含む層と、金属箔とを含む積層体。
【請求項15】
請求項14に記載の積層体を硬化してなる硬化物。
【請求項16】
請求項15に記載の硬化物を含む、単層CCL、多層CCL、単層FCCL、又は多層FCCL基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
通信周波数がギガヘルツ帯及びそれ以上の高周波帯に移行することにより、低誘電特性を有する絶縁材料に対するニーズが高まっている。ポリエチレン等のポリオレフィンやポリスチレン等の芳香族ビニル化合物重合体は、分子構造中に極性基を持たないため、優れた低誘電率、低誘電正接を示す材料として知られている。しかし、これらは耐熱性が結晶融点又はガラス転移温度に依存するため電気絶縁体としての耐熱性に課題があり、さらに熱可塑性樹脂であるために製膜プロセス上の課題がある(特許文献1)。
【0003】
パーフルオロエチレン等のフッ素系樹脂は優れた低誘電率、低誘電損失と耐熱性に優れた特徴を有するが成形加工、膜成形が困難でありデバイス適性が低い。また、配線の銅箔との接着力にも課題がある。一方、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の後硬化樹脂を用いた基板、絶縁材料はその耐熱性、易取り扱い性から広く用いられてきているが、誘電率、誘電損失が比較的高く、高周波用の絶縁材料としては改善が望まれている(特許文献2)。
【0004】
オレフィン系及びスチレン系の重合体セグメントからなるグラフト、又はブロック共重合体からなる電気絶縁材料が提案されている(特許文献3)。当該材料はオレフィンやスチレン系の炭化水素系重合体の本質的な低誘電率、低誘電損失性に着目している。その製造方法は、市販のポリエチレン、ポリプロピレンにスチレンモノマー、ジビニルベンゼンモノマーとラジカル重合開始剤の存在下、一般的なグラフト重合を行うもので、このような手法ではグラフト効率(架橋密度)が上がらず、ポリマーの均一性が十分でないという課題がある。さらに、得られたポリマーはゲルを含んでおり、加工性、充填性が悪いという課題があった。当該材料は、熱可塑性樹脂で耐熱性が十分でなく、4-メチル-1-ペンテン系等の耐熱性樹脂を加える必要がある。したがって当該材料は、所定の場所に塗布あるいは充填した後硬化させる成形方法に適用することは困難である。
【0005】
特許文献4~6には、特定の重合触媒から得られ、特定の組成、配合のエチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-ポリエン共重合体及び非極性ビニル化合物からなる硬化体が示され、また一般的なシリカ等のフィラーとの組成物も記載されている。
【0006】
また、樹脂シートを成形するにあたって充填剤(フィラー)を添加することは知られており、そうした充填剤として、特許文献7、8に記載のような球状シリカを用いることも行われている。しかし、樹脂の種類と充填剤の種類の組み合わせがどのような効果をもたらすのかについては十分に検討されてきていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭52-031272号公報
【文献】特開平6-192392号公報
【文献】特開平11-060645号公報
【文献】特開2010-280771号公報
【文献】特開2009-161743号公報
【文献】特開2010-280860号公報
【文献】特開2003-165718号公報
【文献】特表2013-528558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
成形加工が容易な熱可塑性の組成物であっても、高周波信号伝送用の絶縁材料に求められる優れた低誘電特性を有する硬化物が望まれてきている。特に、高温曝露を伴う、はんだのリフロー工程が施されることになる電子基板用途の場合、求められる適性の要件が厳しく、実際の使用に堪える材料は限られてくる。このため、そうした優れた低誘電特性を持つ材料の提供が望まれてきている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明では以下の態様を提供できる。
【0010】
態様1.
オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体と、
極性単量体と
を含む組成物であって、
共振器法によって求められる、前記組成物の硬化物の誘電率の、測定周波数範囲27GHz~42GHzにおける値が、2.7以下であり、
共振器法によって求められる、前記組成物の硬化物の誘電正接の、測定周波数範囲27GHz~42GHzにおける値が、1.5×10-3以下であり、
JPCA規格「電子回路基板規格 第3版」第16項「プリント配線板用材料規格」に基づいて求められる、前記組成物のCTE(線膨張率)が、130ppm/K以下である
ことを特徴とする、組成物。
【0011】
態様2.
前記極性単量体が、マレイミド、ビスマレイミド、無水マレイン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種以上である、態様1に記載の組成物。
【0012】
態様3.
前記極性単量体が、芳香環を有するビスマレイミドであって、前記芳香環は、炭素数1以上の基を一個以上その環上に有する、態様1又は2に記載の組成物。
【0013】
態様4.
前記共重合体と前記極性単量体の合計100質量部に対して、前記極性単量体の量が0.1~30質量部の範囲である、態様1~3のいずれかに記載の組成物。
【0014】
態様5.
前記共重合体が、下記(1)~(4)の条件
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万以下である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位と前記芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
をすべて満たす、態様1~4のいずれかに記載の組成物。
【0015】
態様6.
25℃における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率を、250℃における前記組成物の硬化物の貯蔵弾性率で割った値が、20以下であることを特徴とする、態様1~5のいずれかに記載の組成物。
【0016】
態様7.
さらに、芳香族ビニル化合物単量体及び芳香族ポリエン単量体からなる群から選択される一種以上である第二の単量体、及び/又は樹脂を含む、態様1~6のいずれかに記載の組成物。
【0017】
態様8.
前記共重合体100質量部に対して、前記第二の単量体及び/又は樹脂を300質量部以下含む、態様7に記載の組成物。
【0018】
態様9.
さらに硬化剤を含む態様1~8のいずれかに記載の組成物。
【0019】
態様10.
硬化性である態様1~9のいずれかに記載の組成物。
【0020】
態様11.
態様1~10のいずれかに記載の組成物を硬化して得られる成形体。
【0021】
態様12.
シートである態様11に記載の成形体。
【0022】
態様13.
電気絶縁材料である態様11又は12に記載の成形体。
【0023】
態様14.
態様1~10のいずれかに記載の組成物を含む層と、金属箔とを含む積層体。
【0024】
態様15.
態様14に記載の積層体を硬化してなる硬化物。
【0025】
態様16.
態様15に記載の硬化物を含む、単層CCL、多層CCL、単層FCCL、又は多層FCCL基板。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、その硬化物(硬化体)が優れた低誘電特性を有する組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。本明細書においては、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を単に共重合体と記載する場合がある。本明細書における数値範囲は、別段の断わりがない限りは、その上限値及び下限値を含むものとする。本明細書においてシートとは、フィルムの概念をも包含するものとする。また、本明細書においてフィルムと記載されていても、シートの概念をも包含するものとする。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを包摂する概念である。
【0028】
<組成物>
本明細書において、組成物(硬化性組成物)を樹脂組成物又は硬化性樹脂組成物と記載する場合がある。本発明の組成物は、後述する一定の範囲の組成、分子量範囲を有するオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含む。また本組成物はさらに、後述する「極性単量体」を含む。さらに本組成物は、後述する「その他の添加樹脂成分」、「無機充填剤」、「極性単量体以外の単量体」、「硬化剤」等のその他の成分を一種以上を含んでいてもよい。
【0029】
<オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体>
本発明において使用可能な、一般的なオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の製造方法の例は、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報、国際公開第00/37517号等に記載されている。本オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体は以下の(1)~(4)の条件をすべて満たす。
(1)共重合体の数平均分子量が500以上10万以下、好ましくは5000以上10万以下、より好ましくは2万以上10万以下、さらに好ましくは3万以上10万以下である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上20個未満、好ましくは1.5個以上7個未満、より好ましくは2個以上5個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、オレフィン単量体単位と前記芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【0030】
本オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(本明細書においては単に「共重合体」とも略記する場合がある)は、オレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各単量体を共重合することで得られる。
【0031】
オレフィン単量体とは、炭素数2以上20以下のαオレフィン及び炭素数5以上20以下の環状オレフィンから選ばれる一種以上であり、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。炭素数2以上20以下のαオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デカン、1-ドデカン、4-メチル-1-ペンテン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセンが例示できる。炭素数5以上20以下の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、シクロペンテンが例示できる。オレフィンとして好ましくは、エチレンとエチレン以外のαオレフィンや環状オレフィンの組み合わせ、又はエチレン単独である。エチレン単独、又は含まれるエチレン以外のαオレフィン/エチレンの質量比が1/7以下、より好ましくは1/10以下の場合は、得られる硬化物の銅箔や銅配線との剥離強度を高くすることができ、好ましい。さらに好ましくは、共重合体に含まれるエチレン以外のαオレフィン単量体単位の含量が6質量%以下、最も好ましくは4質量%以下、又はオレフィンがエチレン単独である。この場合、さらに銅箔や銅配線との剥離強度を高くすることができ、より好ましい。また好ましい、エチレンとエチレン以外のαオレフィンの組み合わせでは、最終的に得られる硬化物のエチレン-αオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン連鎖のガラス転移温度はαオレフィンの種類、含量により、おおむね-60℃~-10℃の範囲で自由に調整することができる。
【0032】
芳香族ビニル化合物単量体は、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、例えばスチレン、パラメチルスチレン、パライソブチルスチレン、各種ビニルナフタレン、各種ビニルアントラセンが例示できる。
【0033】
芳香族ポリエン単量体としては、その分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンであり、好ましくは炭素数8以上20以下のポリエンである。芳香族ポリエン単量体としては、好ましくは分子内にビニル基を複数有する炭素数8以上20以下のポリエンであり、さらに好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン又はこれらの混合物、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、p-2-プロペニルスチレン、p-3-ブテニルスチレン等の芳香族ビニル構造を有し、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。また、特開2004-087639号公報に記載されている二官能性芳香族ビニル化合物、例えば1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン(略称:BVPE)を用いることもできる。この中で好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン、又はこれらの混合物が用いられ、最も好ましくはメタ及びパラジビニルベンゼンの混合物が用いられる。本明細書ではこれらジビニルベンゼンをジビニルベンゼン類と記す。芳香族ポリエンとしてジビニルベンゼン類を用いた場合、硬化処理を行う際に硬化効率が高く、硬化が容易であるため好ましい。
【0034】
以上のオレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各単量体としては、他に極性基、例えば酸素原子、窒素原子等を含むオレフィン、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ビニル化合物、又は、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ポリエンを含んでいてもよいが、これら極性基を含む単量体の総質量は、本組成物の総質量の10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、極性基を含む単量体を含まないことが最も好ましい。当該単量体を10質量%以下にすることにより、本組成物を硬化して得られる硬化物の低誘電特性の向上(低誘電率、低誘電損失を適切な値とすること)ができる。なお念の為、ここの文脈で言う「極性基を含む単量体」というのはあくまで上記共重合体中の成分を指しているのであって、本組成物が当該共重合体とは別に含む「極性単量体」のことではない旨には留意されたい。
【0035】
本共重合体の数平均分子量は、500以上10万以下、好ましくは5000以上10万以下、より好ましくは2万以上10万以下、さらに好ましくは3万以上10万以下である。このような範囲にすることで、未硬化の状態で樹脂等の付加成分を添加してもべた付きにくくなり、熱可塑性を向上できる効果が得られ、さらに最終的に得られる硬化物に高い破断点強度、高い破断点伸び等の良好な物性を容易に付与できる。数平均分子量が500以上であると、未硬化の段階での組成物の力学物性が高く、また粘着性が低いため、本組成物は熱可塑性樹脂としての成形加工が容易である。数平均分子量が10万以下であると、成形加工性が向上する。本共重合体に含まれる芳香族ビニル化合物単量体単位の含量は0質量%以上70質量%以下、好ましくは0質量%以上70質量%未満、より好ましくは10質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上55質量%以下である。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が70質量%以下である場合には、最終的に得られる組成物の硬化物のガラス転移温度が室温付近とならず、低温での靱性や伸びが向上する。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、本共重合体の芳香族性が向上し、難燃剤やフィラーとのなじみが良くなり、難燃剤がブリードアウトせず、フィラーを充填しやすい効果が得られる。また芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、銅箔や銅配線との剥離強度が高い組成物の硬化物が得られる。
【0036】
本共重合体において、芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量は数平均分子量あたり1.5個以上20個未満、好ましくは1.5個以上7個未満、より好ましくは2個以上5個未満である。ビニル基及び/又はビニレン基の含有量のことを、以下「ビニル基含有量」と総称することもある。ビニル基含有量が1.5個未満では架橋効率が低く、十分な架橋密度の硬化物を得ることが難しくなる。ビニル基含有量が増えると、最終的に得られる硬化物の、常温下及び高温下における力学物性を向上することが容易になる。本共重合体中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量は、当業者に公知のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求める標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と、1H-NMR測定により得られる芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量やビニレン基含有量とを比較することで得ることができる。例として、1H-NMR測定により得られる各ピーク面積の強度比較により、共重合体中の芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量が0.142質量%であり、GPC測定による標準ポリスチレン換算数平均分子量が70927の場合、本数平均分子量中の芳香族ポリエン単位に由来するビニル基の分子量は、これらの積である100.8となり、これをビニル基の式量27で割ることで、3.7となる。すなわち、本共重合体中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量は3.7個である。共重合体の1H-NMR測定で得られるピークの帰属は文献により公知である。また、1H-NMR測定で得られるピーク面積の比較から共重合体の組成を求める方法も公知である。また本明細書では共重合体中のジビニルベンゼン単位の含量をジビニルベンゼン単位に由来するビニル基のピーク強度(1H-NMR測定による)から求めている。すなわちジビニルベンゼン単位に由来するビニル基含有量から、当該ビニル基1個は共重合体中のジビニルベンゼンユニット1個に由来するとしてジビニルベンゼン単位の含量を求めている。
【0037】
本共重合体において、好ましいオレフィン単量体単位含量は30質量%以上であり、特に好ましくは45質量%以上である。前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計は100質量%である。オレフィン単量体単位含量が30質量%以上だと、最終的に得られる硬化物の靱性(伸び)が向上し、硬化途中での割れや、硬化物の耐衝撃性の低下、硬化物のヒートサイクル試験中での割れが発生しない。本共重合体において、好ましいオレフィン単量体単位含量は90質量%以下である。
【0038】
本共重合体において、芳香族ビニル化合物単量体単位を含まない、オレフィン-芳香族ポリエン共重合体として、具体的にはエチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-プロピレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ブテン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-オクテン-ジビニルベンゼン共重合体が好適なものとして例示できる。
【0039】
本共重合体において、芳香族ビニル化合物単量体単位を含む、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体としては、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-プロピレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-ヘキセン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチレン-1-オクテン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が例示できる。本発明に用いられる前記共重合体は、例えば国際公開第00/37517号、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報に記載の製造方法で製造できる。本組成物が含んでよい共重合体の量は用途に応じて任意に設定できる。好ましい実施形態においては、共重合体と極性単量体の合計100質量部に対して、共重合体の量が70~99.9質量部、より好ましくは80~99.9質量部、さらに好ましくは85~99.9質量部の範囲であってよい。共重合体の量をこの範囲にすることで、得られる硬化物の誘電率や誘電正接を適切に制御しやすくなる。
【0040】
<極性単量体>
本発明の組成物が含む極性単量体とは、極性基を有する等の理由で分子構造上に極性を有する単量体のことを言う。そうした極性単量体により、本組成物の硬化物に、絶縁材料として必要な他の材料との接着性を付与できるだけでなく、硬化物の誘電率と誘電正接とを共に低く抑えることが可能となる。一般に、或る材料の誘電率の増減と誘電正接の増減とは相反する傾向となることが知られている。つまり、一方を下げれば他方が上がってしまうということが起きやすく、両者を共に低くするということは無理があると従来は考えられてきた。しかし本発明者は、極性単量体を添加した組成物の硬化物においてその架橋密度が向上し、それにより誘電率と誘電正接とを共に低く抑えられることを見出し、本発明を完成させたものである。本発明によれば、例えば誘電率を2.7以下(さらに好ましくは2.5以下)に、かつ誘電正接を1.5×10-3以下(さらに好ましくは1.2×10-3以下)に抑えるという顕著な効果が得られる。
【0041】
しかも極性単量体を含んだ組成物では、その硬化物のCTE(線膨張率)をも低く抑えられるという効果までもが得られる。これらの効果の両立は従来困難であると考えられてきており、それを覆した本発明によれば、きわめて有用な絶縁材料を提供できることになる。
【0042】
上述の極性単量体としては、各種のマレイミド類、ビスマレイミド類、無水マレイン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。本発明に使用可能なマレイミド類、ビスマレイミド類は例えば国際公開第2016/114287号や特開2008-291227号公報に記載されており、例えば大和化成工業社やDesigner molecules inc社から購入できる。これらマレイミド基含有化合物は、有機溶剤への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ポリアミノビスマレイミド化合物として用いてもよい。ポリアミノビスマレイミド化合物は、例えば、末端に2個のマレイミド基を有する化合物と分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とをマイケル付加反応させることにより得られる。少量の添加で高い架橋効率を得ようとする場合、二官能基以上の多官能基を有する極性単量体、例えばビスマレイミド類、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、並びにそれらの誘導体等が好ましい。
【0043】
好ましい実施形態においては、一個以上の芳香環を有するビスマレイミドを極性単量体として使用でき、さらに好ましくは炭素数1以上の置換基(アルキル基等の脂肪族置換基やシクロアルキル基などの環状脂肪族置換基等)を一個以上その芳香環上に有するビスマレイミドを使用できる。さらに好ましい実施形態では、下記構造式を有するビスマレイミドを使用できる。
【化1】
式中、R1、R1´はそれぞれ独立に(各々が同一であっても異なっていてもよい)、水素原子又は炭素数1以上(好ましくは炭素数1~20)の置換基であり、そうした置換基としては直鎖又は分鎖のアルキル基(メチル基、エチル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基等)、(メタ)アクリロイル基、アシル基、置換又は非置換のアリール基等が例示できる。また式中のR2は、結合(すなわち、二つの芳香環が直接結合する)であるか、あるいは、炭素数1以上(好ましくは炭素数1~20)の二価リンカー基(例えば直鎖又は分鎖のアルキレン基、エーテル基等)である。好ましくは水素原子以外のR1、R1´がこのように芳香環上に複数存在することにより、得られる架橋構造の剛直性が向上し、本発明の効果に資すると考えられる。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、そのような芳香環を有するビスマレイミドは単に絶縁性が高いだけではなく、嵩高い置換基の存在によって分子構造が容易に捻れることなく、上記共重合体との架橋構造を剛直に構成できると考えられるため、特に顕著な効果が得られると推測できる。
1はメチル基が好ましい。R1´はエチル基が好ましい。R2はメチレン基が好ましい。
【0044】
別の好ましい実施形態では、長鎖脂肪族置換基(例えば、炭素数5~20程度のアルキル基)を有する多官能(メタ)アクリレート誘導体を極性単量体として使用できる。多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物をいう。そうした長鎖脂肪族置換基は嵩高いため、極性単量体と上記共重合体との架橋構造を剛直に維持できると考えられる。
【0045】
本組成物が含んでよい極性単量体の量は用途に応じて任意に設定できる。好ましい実施形態においては、共重合体と極性単量体の合計100質量部に対して、極性単量体の量が0.1~30質量部、より好ましくは0.1~20質量部、さらに好ましくは0.1~15質量部の範囲であってよい。極性単量体の量をこの範囲にすることで、得られる硬化物の誘電率や誘電正接を適切に制御しやすくなる。
【0046】
極性単量体の分子量は10000未満が好ましく、6000未満がより好ましい。
【0047】
<添加樹脂(本組成物が含んでよい上記共重合体以外の樹脂)>
本組成物中の樹脂成分中には、上記共重合体以外の樹脂化合物(以下、単に「添加樹脂」とも称する)をさらに含めてもよい。添加樹脂としては、本組成物のもたらす効果を損わないかぎりにおいて任意のものを使用でき、好ましくは後述する炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる一種以上を使用できる。この中では、ポリフェニレンエーテル又は炭化水素系エラストマーがさらに好ましい。炭化水素系エラストマーの中では、共役ジエン系重合体が好ましい。共役ジエン系重合体の中では、1,2-ポリブタジエンが好ましい。炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる一種以上を用いることで、極性単量体の効果を促進できる効果がある。添加樹脂の量は、共重合体100質量部に対し、好ましくは合計1~500質量部、さらに好ましくは合計1~300質量部の範囲であってよい。
【0048】
<炭化水素系エラストマー>
炭化水素系エラストマーの量は、共重合体100質量部に対し、1~500質量部が好ましく、1~200質量部がより好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる炭化水素系エラストマーは、数平均分子量が2万以上、好ましくは3万以上であってよい。炭化水素系エラストマーの例としては、エチレン系やプロピレン系のエラストマー、共役ジエン系重合体や芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)から選ばれる単数又は複数のエラストマーが挙げられる。エチレン系エラストマーとしては、エチレン-オクテン共重合体やエチレン-1-ヘキセン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、EPR、EPDMが挙げられる。プロピレン系エラストマーとしては、アタクティックポリプロピレン、低立体規則性のポリプロピレン、プロピレン-1-ブテン共重合体等のプロピレン-αオレフィン共重合体が挙げられる。
【0049】
<共役ジエン系重合体>
共役ジエン系重合体としては、ポリブタジエンや1,2-ポリブタジエンが挙げられる。芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)としては、SBS、SIS、SEBS、SEPS、SEEPS、SEEBS等が例示できる。好適に用いることができる1,2-ポリブタジエンは、例えば、JSR社の製品として入手できるほか、日本曹達社から、液状ポリブタジエン:製品名B-1000、B-2000、B-3000の製品名で入手できる。また、好適に用いることができる1,2-ポリブタジエン構造を含む共重合体としては、TOTAL CRAY VALLEY社の「Ricon100」が例示できる。これら炭化水素系エラストマーから選ばれる単数又は複数の樹脂が、特に室温(25℃)で液状(概ね300000mPa・s以下)の場合、本発明の組成物の未硬化状態での取扱性や成形加工性(熱可塑性樹脂としての取り扱い性)の観点からはその使用量は、共重合体100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、特に好ましくは1~20質量部の範囲である。
【0050】
<ポリフェニレンエーテル>
ポリフェニレンエーテルとしては、市販の公知のポリフェニレンエーテルを用いることができる。ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は任意であり、組成物の成形加工性を考慮すると数平均分子量は好ましくは1万以下、最も好ましくは5000以下である。また数平均分子量は好ましくは500以上であってよい。また、本発明の組成物の硬化を目的とした添加の場合、分子末端が変性されていることが好ましく、及び/又は、一分子内に複数の官能基を有していることが好ましい。官能基としては、アリル基、ビニル基、エポキシ基等が挙げられる。官能基としては、ラジカル重合性の官能基が好ましい。ラジカル重合性の官能基としては、ビニル基が好ましい。ビニル基としては、(メタ)アクリル基や芳香族ビニル基が好ましい。つまり、本発明の組成物においては、分子鎖の両末端がラジカル重合性の官能基で変性されている二官能性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。このようなポリフェニレンエーテルとしてはSABIC社のNoryl(商標)SA9000等が挙げられ、特に好ましくは三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St)を用いることができる。本発明の組成物に用いるポリフェニレンエーテルの量は、共重合体100質量部に対し、1~500質量部が好ましく、1~300質量部がより好ましく、1~200質量部がさらに好ましい。
【0051】
<芳香族ポリエン系樹脂>
芳香族ポリエン系樹脂とは、日鉄ケミカル&マテリアル社製、ジビニルベンゼン系反応性多分岐共重合体(PDV)を包含する。このようなPDVは、例えば文献「多官能芳香族ビニル共重合体の合成とそれを用いた新規IPN型低誘電損失材料の開発」(川辺正直他、エレクトロニクス実装学会誌 p125、Vol.12 No.2(2009))に記載されている。また芳香族ポリエン系樹脂としては、上述した芳香族ポリエン単量体を主構成単位とする芳香族ポリエン重合体樹脂も挙げられる。
【0052】
<硬化剤>
本組成物が含んでよい硬化剤としては、従来芳香族ポリエン、芳香族ビニル化合物の重合、又は硬化に使用できる公知の硬化剤を用いてよい。このような硬化剤には、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤が例示できるが、好ましくはラジカル重合開始剤を用いてよい。好ましくは、有機過酸化物系(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等であり、用途、条件に応じて自由に選択できる。有機過酸化物が掲載されたカタログは日油社ホームページ、例えば
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01a.html
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01b.html
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01c.html
からダウンロード可能である。また有機過酸化物は富士フイルム和光純薬社や東京化成工業社のカタログ等にも記載されている。本発明に用いられる硬化剤はこれらの会社より入手できる。また公知の光、紫外線、放射線を用いる光重合開始剤を硬化剤として用いることも出来る。光重合開始剤を用いる硬化剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、又は光アニオン重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤は例えば東京化成工業社から入手できる。さらに、放射線あるいは電子線そのものによる硬化も可能である。また、硬化剤を含まず、含まれる原料の熱重合による架橋、硬化を行うことも可能である。
【0053】
硬化剤の使用量に特に制限はないが、一般的には組成物100質量部(硬化剤及び溶剤を除くことが好ましい)に対し、0.01~10質量部が好ましい。過酸化物系(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等の硬化剤を用いる場合には、その半減期を考慮し、適切な温度、時間で硬化処理を行う。この場合の条件は、硬化剤に合わせて任意であるが、一般的には50℃から180℃程度の温度範囲が適当である。
【0054】
<その他の単量体>
本組成物はさらに、上述した極性単量体以外の単量体(以下、「第二の単量体」又は「第二単量体」とも称する)を含んでもよい。そうした第二単量体の量は任意であるが、好ましくは共重合体100質量部に対し300質量部以下であってよい。なお本組成物は実質的に第二単量体を含まなくてもよい。第二単量体を含む場合、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。第二単量体が300質量部以下だと未硬化の組成物は粘稠な性質を帯びず、熱可塑性樹脂としての成形加工が容易になる。また、揮発しやすい第二単量体の含量が一定以下だと、未硬化の段階での臭気が問題にならない。組成物に溶剤を添加して製品形態をワニス状にした場合、使用に際し溶媒の蒸発と共に単量体が失われ、第二単量体の実質的な含量が低下し易いという課題がある。また、製品形態が未硬化シートの場合、第二単量体を一定量以下含むと、保管する際の第二単量体の含量の変化が起こりにくい。本発明の組成物に好適に用いることができる第二単量体は、分子量1000未満が好ましく、500未満がより好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる単量体は、芳香族ビニル化合物単量体、芳香族ポリエン単量体、及び/又は極性単量体である。当該単量体としてはラジカル重合開始剤により重合させることが可能な単量体が好ましく、芳香族ビニル化合物や芳香族ポリエンからなる群の一種以上がより好ましい。また、特開2003-212941号公報記載のBVPE(1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン)も好適に用いることができる。
【0055】
硬化物の高温での力学強度(弾性率)を高める観点からは、共重合体100質量部に対し、芳香族ビニル化合物は50質量部以上250質量部以下が好ましく、80質量部以上200質量部以下がより好ましい。硬化物の高温での力学強度(弾性率)を高める観点からは、共重合体100質量部に対し、芳香族ポリエンは1質量部以上30質量部以下が好ましい。芳香族ビニル化合物と芳香族ポリエンを用いる場合、芳香族ビニル化合物と芳香族ポリエンの質量比は、芳香族ビニル化合物と芳香族ポリエンの合計100質量部中、芳香族ビニル化合物:芳香族ポリエン=70~99:1~30が好ましく、85~95:5~15がより好ましい。
【0056】
<溶剤>
本発明の組成物に対し、必要に応じて適切な溶剤(溶媒)を添加してもよい。溶剤は、組成物の粘度、流動性を調節するために用いる。溶剤としては、揮発性のものが好ましく、例えばシクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、アセトン、イソプロパノール等が用いられる。またその使用量は、硬化前の組成物の熱可塑性樹脂としての成形加工性や取扱いの観点から、上記共重合体100質量部に対し10質量部以下が好ましく、硬化前の組成物の熱可塑性樹脂としての成形加工性や取扱いの観点から、また硬化中、硬化後の除去の点からは、溶剤は実質的に用いないことがより好ましい。実質的に用いないとは、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0質量部が最も好ましい。また、ワニスとして使用する場合には、本発明の組成物に対し、適切な溶剤を添加することが好ましい。溶剤は、組成物のワニスとしての粘度、流動性を調節するために用いる。溶剤としては、大気圧下での沸点が高いと、すなわち揮発性が低いと、塗布した膜の厚さが均一になるため、ある程度以上の沸点を有する溶剤が好ましい。好ましい沸点は大気圧下で100℃以上、より好ましくは130℃以上300℃以下である。このようなワニスに適する溶剤としては、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、アセトン、エチルベンゼン、リモネン、混合アルカン、混合芳香族系溶媒、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等が用いられる。またその使用量は、本発明の組成物100質量部に対し10~2000質量部の範囲が好ましく、5~500質量部がより好ましく、10~300質量部がさらに好ましい。
【0057】
本明細書における、上記共重合体その他のポリマーの数平均分子量の求め方は以下の通りである。分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)として求められる。測定は以下の条件で行える。
【0058】
(数平均分子量1000以上の場合)
カラム:TSKgel MultiporeHxl-M φ7.8×300mm(東ソー社製)を2本直列に繋いで用いる。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
検出器:RI検出器(示差屈折率検出器)
【0059】
(数平均分子量1000未満の場合)
カラム:TSKgelG3000HXL φ7.8×300mm(東ソー社製)1本、TSKgelG2000HXL φ7.8×300mm(東ソー社製)1本、TSKgelG1000HXL φ7.8×300mm(東ソー社製)4本を直列に繋いで用いる。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:0.5ml/min.
検出器:RI検出器(示差屈折率検出器)
【0060】
<充填剤>
本組成物にはさらに、用途に応じて任意の量の充填剤(フィラー)を添加してもよい。そうした充填剤は無機充填剤であってもよく、熱膨張率のコントロール、熱伝導性のコントロール、低価格化を目的として添加できる。充填剤の使用量は例えば共重合体と極性単量体の合計100質量部に対し2000質量部にも達する程多くしてもかまわない。特に無機充填剤の添加の際には、公知の表面変性剤、例えばシランカップリング剤等を用いることが好ましい。特に、本発明の目的の一つである、低誘電率、低誘電損失性に優れた組成物を目的とする場合、無機充填剤としてはボロンナイトライド(BN)又はシリカ、特に溶融シリカが好ましい。低誘電特性という観点からは、大量に添加配合すると特に誘電率が高くなってしまうため、好ましくは共重合体と極性単量体の合計100質量部に対して、500質量部未満、さらに好ましくは400質量部未満の充填剤を用いる。さらには低誘電特性(低誘電率、低誘電損失正接)を改善、向上させるために中空の充填剤や空隙の多い形状の充填剤を添加しても良い。
【0061】
充填剤としてシリカを使用する場合、好ましくは球状シリカ粉末を使用でき、より好ましくは表面処理をしたシリカを使用できる。以下、シリカを球状シリカ粉末ということもある。共重合体及び極性単量体の合計と、球状シリカ粉末との体積比は95~50:5~50の範囲であり、より好ましくは90~70:10~30の範囲であり、さらに好ましくは85~75:15~25の範囲であってよい。
【0062】
表面処理をしたシリカとは、原料シリカに対して表面処理をすることによって誘電正接を低減させたものを指す。そうした表面処理としては例えば加熱処理、シランカップリング剤を含む各種カップリング剤処理が挙げられる。好ましくは、そうした表面処理として、本出願人による国際公開第2020/195205号及び係属中の特願2020-077291号に記載された手法を使用できる。好ましい実施形態では、シリカとして球状シリカ粉末を用いてよく、その球状シリカ粉末が受ける表面処理が、原料の球状シリカ粉末を500~1100℃の温度、好ましくは500~1000℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1000~26400(℃・h)、好ましくは1800~17600(℃・h)とする所定時間、加熱処理するものであってよい。当該処理は、原料シリカの粉末を、不活性雰囲気(窒素やアルゴン等)下で粉体を流動させながら行うのが好ましい。その処理の温度、時間の設定は、得られるシリカが下記(a)~(b)の条件の少なくとも一つを満たすように選択するのが好ましい。
(a)25~30℃/minの条件で1000℃まで昇温した際に、500℃~1000℃における脱離する水分子数が0.01mmol/g以下である。
(b)比表面積が1~30m2/g、好ましくは3~10m2/gである。
上記条件を満たすと、樹脂成分との混合が容易になり、しかも誘電正接を低減できる効果が得られる。
【0063】
シリカとして球状シリカ粉末を用いる場合、その球状シリカ粉末の平均粒子径(d50)は0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.3~1μmが最も好ましい。d50は累積体積50%の値である。
【0064】
表面処理を行った直後のシリカは、炉内にて自然放冷してよく、200℃以下に冷却した後に真空乾燥器内で乾燥させ、その後、防湿アルミ袋にて回収するようにしてよい。
【0065】
原料となるシリカの製造方法としては任意のものを使用でき、例えば、融点以上の温度の高温域を通過させて球状化させて球状シリカ粉末を得る粉末溶融法が挙げられる。表面処理する前のシリカにおいては、拡散反射FT-IR法にて測定したシリカの波数3735cm-1~3755cm-1のピーク強度をA、波数3660cm-1~3680cm-1のピーク強度をBとしたとき、B/Aが3.0以下であることが好ましい。
【0066】
シリカの密度は1.8~2.4g/cm3が好ましい。この範囲であれば、シリカ粒子内の空隙が適切な量になること、シリカ結晶構造が適切になり熱膨張率を適度に抑えられるという効果が得られる。
【0067】
シリカとして球状シリカ粉末を用いる場合、その球状シリカ粉末の平均円形度は、0.85以上が好ましく、さらに好ましくは0.90以上であってよい。平均円形度が0.85以上であれば、樹脂成分と混合した際に、粘度が増加しすぎず、流動性が低下しにくいので、加工性や充填性が向上する。また、シリカとして球状シリカ粉末と、それ以外のシリカ(好ましくは溶融シリカ)とを組み合わせて使用することも可能である。
【0068】
<その他の充填剤>
また、必要に応じて上記表面処理をしたシリカ以外の公知の無機、あるいは有機充填剤をさらに添加してもよい。これら充填剤は、熱膨張率のコントロール、熱伝導性のコントロール、低価格化を目的として添加され、その使用量は目的により任意である。本発明の組成物は、特に無機充填剤を多く含むことが可能で、その添加可能な量は最大で、共重合体100質量部に対し2000質量部に達する事ができる。特に無機充填剤の添加の際には、公知の表面変性剤、例えばシランカップリング剤等を用いることが好ましい。特に、本発明の目的の一つである、低誘電率、低誘電損失性に優れた組成物を目的とする場合、無機充填剤としてはボロンナイトライド(BN)が好ましい。低誘電特性という観点からは、大量に添加配合すると特に誘電率が高くなってしまうため、好ましくは共重合体100質量部に対して500質量部未満、さらに好ましくは400質量部未満の充填剤を用いる。さらには低誘電特性(低誘電率、低誘電損失正接)を改善、向上させるために中空の充填剤や空隙の多い形状の充填剤を添加してもよい。
【0069】
また、無機充填剤の代わりに、高分子量ポリエチレン又は超高分子量ポリエチレン等の有機充填剤を用いることも可能である。有機充填剤はそれ自身架橋していることが耐熱性の観点からは好ましく、微粒子あるいは粉末の状態で配合されるのが好ましい。これら有機充填剤によっても、誘電率、誘電正接の上昇を抑えることができる。
【0070】
一方、本発明の組成物に、1GHzにおける誘電率が好ましくは3~10000、より好ましくは5~10000の高誘電率絶縁体充填剤を混合し分散することによって、誘電正接(誘電損失)の増大を抑制しつつ、誘電率が20以下である高誘電率絶縁層を有する絶縁硬化物を作成できる。絶縁硬化物からなるフィルムの誘電率を高くすることによって回路の小型化、コンデンサの高容量化が可能となり高周波用電気部品の小型化等に寄与できる。高誘電率層、低誘電正接絶縁層はキャパシタ、共振回路用インダクタ、フィルター、アンテナ等の用途に適する。本発明に用いる高誘電率絶縁体充填剤としては、無機充填剤、又は、絶縁処理を施した金属粒子が挙げられる。具体的な例は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等公知の高誘電率無機充填剤であり、他の例は例えば特開2004-087639号公報に具体的に記載されている。
【0071】
<その他の添加物>
本組成物はさらに、難燃剤、表面変性剤から選ばれる単数又は複数を含んでもよい。本発明の組成物は硬化物のマトリクスになり得、そして硬化した際に他の材料の充填性に優れるために、これら充填剤、難燃剤、表面変性剤から選ばれる単数、又は複数を含み、硬化させた後であってもその硬化物は耐衝撃性や靱性を示しやすい。
【0072】
<難燃剤>
本発明の組成物には公知の難燃剤を使用できる。好ましい難燃剤は、低誘電率、低誘電正接を保持する観点からは、リン酸エステル又はこれらの縮合体等の公知の有機リン系や公知の臭素系難燃剤や赤リンである。特にリン酸エステルの中でも、分子内にキシレニル基を複数有する化合物が、難燃性と低誘電正接性の観点から好ましい。
【0073】
さらに難燃剤以外に難燃助剤として三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン系化合物、又はメラミン、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,3,4-(1H,3H,5H)-トリオン、2,4,6-トリアリロキシ1,3,5-トリアジン等の含窒素化合物を添加してもよい。これら難燃剤、難燃助剤の合計は、組成物100質量部に対して通常は1~100質量部が好ましい。また、前記ポリフェニレンエーテル(PPE)系の低誘電率かつ難燃性に優れる樹脂を難燃剤100質量部に対し、30~200質量部使用してもよい。
【0074】
<表面変性剤>
本発明の組成物には、充填剤や銅板、配線との密着性向上を目的に、各種の表面変性剤を含んでよい。表面変性剤以外の本発明の組成物100質量部に対して表面変性剤の使用量は0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。表面変性剤としては、各種のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。各種のシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤は、単数又は複数を用いてもよい。
【0075】
本発明においては、上記範囲で組成物の共重合体、単量体、添加樹脂、及び必要に応じて溶剤の配合比を変更することで、あるいはさらに、難燃剤や充填剤、表面変性剤の配合比を変えることで、本硬化性樹脂、あるいは組成物の流動化温度を、その目的、成形方法にあわせて調整できる。具体的には、本発明の組成物は、「熱可塑性の組成物」、「半硬化状態(Bステージシート等)」、「ワニス」という製品形態を取ることができる。
【0076】
本発明の組成物は、前記のように共重合体と他の一種以上の成分とを混合・溶解又は溶融して得られるが、混合、溶解、溶融の方法は任意の公知の方法が採用できる。
【0077】
<熱可塑性の組成物、成形体>
本発明の組成物は、一定以上の範囲の分子量を有する共重合体を用い、しかも所定の前記添加樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂の性状を示すこともできる。そのため、架橋を起こさない条件下、熱可塑性樹脂としての公知の成形加工方法により、実質的に未硬化の状態でシート、チューブ、短冊、ペレット等の形状に成形できる。成形体は、その後架橋(硬化)させてよい。
【0078】
また本組成物の好ましい実施形態は以下の通りである。室温で液状の樹脂を除く、添加樹脂として前記炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー、又は芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂を一定割合以上含む場合は、同様に未硬化の状態で熱可塑性樹脂としての成形加工が容易となる。具体的には好ましくは共重合体100質量部に対し、前記炭化水素系エラストマー(液状樹脂を除く)、及び/又はポリフェニレンエーテルを30~200質量部の範囲で添加できる。また添加樹脂が室温で液状の場合は、共重合体100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、特に好ましくは1~20質量部の範囲で添加できる。本熱可塑性の組成物に用いる極性単量体の量は、好ましくは共重合体と極性単量体の合計100質量部に対し15質量部以下であってよい。用いる共重合体の数平均分子量は500以上10万以下、好ましくは2万以上10万以下、より好ましくは3万以上10万以下である。以上の熱可塑性の組成物は、硬化剤の作用温度以下でその熱可塑性を利用し、あらかじめシート等の各種形状に成形し、必要に応じ半導体素子や配線、又は基板と積層とを組み合わせた後に加熱硬化、接着させてよい。
【0079】
本発明の組成物は、硬化剤の作用温度あるいは分解温度以下の温度で加熱溶融された組成物を公知の方法で成形したシートで提供されてもよい。シートへの成形は、Tダイによる押出成形、二本ロール、基材フィルム状への押出ラミネートでもよい。この場合、硬化剤の作用温度、あるいは分解温度以下で溶融し、室温付近では固体となるよう、組成物の組成、共重合体/単量体の質量比、あるいは溶剤、添加樹脂、難燃剤の選択、調整を行う。この場合のシートは実質的に未硬化状態である。その後、各種加工、組み立て工程を経て、最終的に硬化剤の作用温度、あるいは分解温度以上の温度、時間で処理し完全硬化させる。このような手法は、太陽電池(太陽光発電装置)のエチレン-酢酸ビニル樹脂系の架橋封止剤シートに用いられている、一般的な技術である。
【0080】
<半硬化状態(Bステージシート等)の成形体>
また、本発明の組成物は、部分的に架橋した状態、例えばその中に含まれる硬化剤の一部を反応させ半硬化させた状態(いわゆるBステージ状態)の成形体、例えばシート、チューブ等にすることも可能である。例えば硬化温度が異なる複数の硬化剤及び/又は硬化条件を採用することで、半硬化させ、溶融粘度や流動性を制御しBステージ状態にすることができる。すなわち、第一段階の硬化(部分硬化)により、本硬化性樹脂や組成物を取扱容易なBステージシートに成形し、これを電子デバイス、基板に積層し圧着させた後に第二段階の硬化(完全硬化)を行い、最終形状とすることも可能である。この場合、組成物の組成、すなわち共重合体/単量体の質量比を選択し、必要であれば溶剤、添加樹脂、難燃剤を添加し、さらに過酸化物等の硬化剤を含む組成物を部分硬化させ、シート状(Bステージ状態)に調整し、デバイスを成形、組み立て後に、加圧下で加熱し完全硬化させることができる。組成物を部分硬化させる方法としては、公知の方法が採用できる。例えば分解温度の異なる過酸化物を併用し、一方のみが実質的に作用する温度で所定時間処理し、半硬化物シートを得て、最終的にすべての硬化剤が作用する温度で、十分な時間にて処理し、完全硬化させる方法がある。
【0081】
さらに、成形体がシートであってもよい。シートは、シート状を維持できる程度に未硬化(半硬化)であるか、又は完全硬化後のものであってもよい。組成物の硬化の程度は、公知の動的粘弾性測定法(DMA、Dynamic Mechanical Analysis)により定量的に測定可能である。
【0082】
<ワニス状である組成物、及びその成形体>
本発明の組成物は、その組成や配合比により粘稠液体状のワニス状とすることもできる。例えば十分な量の溶剤を用いることで、及び/又は液状の単量体を適量用いることでワニス状にできる。特にワニスとして使用する場合には、本発明の組成物に対し、適切な溶剤を添加することが好ましい。溶剤は、組成物のワニスとしての粘度、流動性を調節するために用いる。溶剤としては、大気圧下での沸点が高いと、すなわち揮発性が低いと、塗布した膜の厚さが均一になるため、ある程度以上の沸点を有する溶剤が好ましい。好ましい沸点は大気圧下で概ね100以上、好ましくは110℃以上300℃以下である。このようなワニスに適する溶剤としては、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、リモネン、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル等が用いられる。またその使用量は、本発明の組成物100質量部に対し10~2000質量部の範囲が好ましい。本発明のワニス状である組成物は、重合により得た本発明の共重合体を含む重合液を利用して作ることもできる。例えば重合液を濃縮あるいは残留モノマーを除く処理を行ってもよく、必要であれば溶剤や他の樹脂成分、各種添加剤等を加え、成分濃度や溶液粘度を調整する等して、製造することもできる。
【0083】
当該ワニスは例えば基材上に塗布し、あるいは含浸させ、溶媒等を乾燥等により除去し、未硬化あるいは半硬化の成形体にできる。一般的に本成形体は、シート、フィルム、テープ状の形態を有する。得られた未硬化あるいは半硬化の成形体を硬化する。
【0084】
<硬化>
組成物の硬化は含まれる硬化剤の硬化条件(温度、時間、圧力)を参考に、公知の方法で行うことができる。用いられる硬化剤が過酸化物の場合は、過酸化物ごとに開示されている半減期温度等を参考に硬化条件を決定することができる。
【0085】
<組成物の硬化物>
本発明の組成物から得られる硬化物の誘電率及び誘電正接は、公知の共振器法(空洞共振器摂動法や平衡型円板共振器法等)によって測定されるものである。本明細書においては共振器法を、測定周波数範囲27GHz~42GHzで行うものとする。本硬化物の誘電率は好ましくは2.7以下2.0以上、特に好ましくは2.5以下2.0以上であってよい。本硬化物の誘電正接は1.5×10-3以下であり、好ましくは0.3×10-3以上1.5×10-3以下であってよい。また本硬化物の体積抵抗率は、好ましくは1×1015Ω・cm以上である。これらの値は、例えば、3GHz以上の高周波用電気絶縁材料として好ましい値である。本発明の組成物に用いられる共重合体は比較的軟質で引張伸びに富むために、これを用いた組成物から得られる硬化物は、十分な力学物性を示しつつ、比較的耐衝撃性が高く、基材の熱膨張に追従できる特徴を有することが出来る。すなわち、本発明の硬化物は室温(23℃)で測定した引張弾性率が好ましくは30GPa未満、0.5GPa以上である。また特に充填剤を比較的多く配合した場合、本引張弾性率は3GPa以上20GPa以下の値を取ることもある。また引張破断点強度が好ましくは200MPa未満、3MPa以上、かつ引張破断点伸びが好ましくは0.1%以上300%未満、さらに好ましくは1%以上50%未満である。また特に充填剤を比較的多く配合した場合、本引張破断点伸びは30%未満の値を取ることもある。当業者らは、本明細書及び公知資料に記載の情報を参考に、上記物性パラメーターを有する、組成物の配合を決定し、硬化物を作成できる。本発明の組成物から得られた硬化物は、組成物における極性単量体の量や、その他の単量体の成分としての芳香族ポリエンの量を一定割合以下に抑えた条件下でも、実用上十分な耐熱性や高温下での力学物性を示すことができる。単量体や単量体の成分としての芳香族ポリエンを一定割合以下に抑えることは、前記のように、未硬化状態であっても熱可塑性樹脂としての成形加工性を保つためにも重要である。
【0086】
また本硬化物の250℃における貯蔵弾性率は、10MPa以上10GPa以下であり、好ましくは15MPa以上1GPa以下の範囲であってよい。このような貯蔵弾性率を有することにより、硬化物が基材・基板用途に適する硬さとなる効果がある。
【0087】
好ましい実施形態においては、本組成物の硬化物は、25℃における貯蔵弾性率を250℃における貯蔵弾性率で割った比の値が小さい(すなわち、高温下でも過度に粘弾性を喪失しない)。この性質は本組成物の架橋密度が高温下でも減少しにくいことを示している。当該比の値は20以下であることが好ましく、2以上であることが好ましく、10以下であるのがより好ましく、2以上10以下であるのがさらに好ましい。本組成物の硬化物の貯蔵弾性率は、既知の動的粘弾性測定装置を用いて測定できる。
【0088】
<組成物の用途一般>
本発明の組成物は、単層又は多層であるプリント基板、フレキシブルプリント基板、いわゆる単層又は多層CCL(カッパークラッドラミネート)、単層又は多層FCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板といった、基材・基板として用いることができる。また、配線用、好ましくは高周波信号の配線用の各種絶縁材料、例えばカバーレイ、ソルダーレジスト、ビルドアップ材、層間絶縁剤、ボンディングシート、層間接着剤、フリップチップボンダー用のバンプシートとして用いることができる。
【0089】
<組成物の未硬化シート又は部分硬化シートとしての用途>
本発明の組成物の未硬化シート又は部分硬化シートは、高周波用電気絶縁材料として好適に用いることができる。例えばビルドアップフィルム、ボンディングシート、カバーレイシート、フリップチップボンダー用のバンプシートあるいは基板用の絶縁層や接着層として好適に使用することができる。本発明の組成物は、従来使用されてきたエポキシ樹脂やシリコーン樹脂のシートの代わりとして用いられる。本発明の組成物は、硬化処理を行うことにより、低誘電率、低誘電損失の硬化絶縁層や硬化マトリクス相を形成することができる。シートの厚さは一般的に1~300μmである。本シートは、ガラスクロスやセラミックス繊維等の織布や不織布を含んでいてもよい。本シートは、含浸させてもよく、これらと多層になっていてもよい。また、携帯電話等のアンテナケーブルとして、従来の同軸ケーブルの代わりに本シートで一部又は全部を絶縁された、柔軟な折り曲げ可能な配線を使用することができる。例えば、LCP(液晶ポリマー)やPPEシート、フッ素系樹脂、又はポリイミド樹脂を基材として本発明のシート又はBステージシート(カバーレイシート)で配線を被覆して硬化させ、基材と接着し、絶縁材料として使用することができる。
【0090】
本発明の組成物を用いて得られた硬化物が絶縁層である多層配線基板は誘電損失が少ない高周波特性の優れた配線基板となり得る。この場合、低誘電損失性以外にハンダに耐えうる耐熱性と、ヒートサイクルあるいは熱膨張差による応力に耐えうる、ある程度の軟質性と伸び、耐衝撃性がメリットとなる。例えば、ガラスや石英からなるクロス、不織布、フィルム材、セラミック基板、ガラス基板、エポキシ等の汎用樹脂板、汎用積層板等のコア材と本硬化物からなる絶縁層付導体箔をラミネート、プレスすることで配線基板を作製することが可能である。またコア材(例えば、内層)に本組成物を含むスラリー、又は溶液を塗布し乾燥、硬化させて絶縁層を形成してもよい。絶縁層の厚さは一般的に1~300μmである。この様な多層配線基板は、多層化、集積化して用いることも可能である。
【0091】
本発明の特にワニス状の組成物を硬化して得られる硬化物は、前記のように電気絶縁材料として好適に使用でき、特にポッティング材、表面コート剤、カバーレイ、ソルダーレジスト、ビルドアップ材、アンダーフィル材、充填絶縁剤、層間絶縁剤、層間接着剤として、あるいは硬化物としてプリント基板、フレキシブルプリント基板、CCL(銅張積層板、カッパークラッドラミネート)基板、FCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板として、あるいはビルドアップフィルム、ボンディングシート、カバーレイシート、フリップチップボンダー用のバンプシートの硬化物として電気絶縁材料、特に高周波用電気絶縁材料として使用できる。
【0092】
本発明は別な観点では、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含み、250℃における貯蔵弾性率が10MPa以上10GPa以下、かつ23℃、10GHz又は25GHz~40GHzの誘電率が3.5以下2.0以上、誘電正接が1.2×10-3以下である、電気絶縁材料を提供できる。
【0093】
本発明の未硬化又は半硬化の熱可塑性の組成物は、特に接着剤塗布や接着処理を行わなくとも、加熱加圧処理で金属箔、特に配線用の銅箔と接着させることで、積層体を得ることもできる。ここで金属箔とは、金属の配線を含む概念である。特に前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体において、好ましくは芳香族ビニル化合物含量が10質量%以上の共重合体を用いた場合、及び/又は、オレフィンがエチレン単独であるか、又はオレフィンに含まれるエチレン単量体成分に対するエチレン以外のオレフィン単量体成分の質量比が1/7以下であることで、日本工業規格(JIS) C6481:1996に準じた測定で、1N/mm以上の剥離強度を与えることができる。さらには、1.3N/mm以上の剥離強度を与えることがより好ましい。さらに好ましくは、上記共重合体において、オレフィンがエチレン単独であるか、又はオレフィンに含まれるエチレン単量体成分に対するエチレン以外のオレフィン単量体成分が1/10以下、最も好ましくは共重合体に含まれるエチレン以外のαオレフィン単量体単位の含量が4質量%以下、あるいはオレフィンがエチレン単独であれば、当該剥離強度をさらに向上可能である。一般的には、接着処理を行うことで、銅張積層シート等の積層体の誘電特性は悪化することが知られており、そのような処理を行わなくとも、日本工業規格(JIS) C6481:1996に準じた測定で、1N/mm以上の剥離強度を与えることが好ましい。このように、本発明の未硬化又は半硬化の熱可塑性の組成物は、特に接着剤塗布や接着処理を行わなくとも、加熱加圧処理等の硬化処理で配線用の銅箔等の金属箔と接着させることが可能である。しかし本発明においては、金属箔やその他部材との接着性付与に関して、さらに前記「表面変性剤」を添加することを含む他の接着性付与対策(接着剤塗布や接着処理等)を実施することを何ら妨げるものではない。上記積層体を硬化して硬化物を得ることももちろん可能である。
【0094】
本発明の未硬化または半硬化の組成物はまた、LCP(液晶ポリマー)層と共に比較的温和な硬化条件で硬化し高い接着強度を与えることが出来る。ここでLCP層とは具体的にはLCPシートやフィルムであってよい。そのため、例えばLCPシート、金属箔好ましくは銅箔、本発明の組成物を含む各種積層体とすることが出来る。本積層体の層の数や積層の順序は任意である。本発明のこのような例として、本発明の組成物は金属箔(銅箔)とLCPシートの接着層として有用である。本発明の組成物は金属箔、LCPシート双方に高い接着性を示すことが出来る。従来LCPシートと銅箔の接着は、LCPの融点(概ね280℃~330℃)あるいはそれに近い温度まで加熱し圧着させる必要があった。しかし、本発明の組成物を接着層として用いることにより、より低い温度で、実質的には本発明の組成物の硬化温度付近での圧着でLCPと金属箔を接着させることが可能である。その際に本発明の組成物の硬化体の低誘電率、低誘電正接値は、本積層体の特に高周波信号伝送用の配線として有用性を付与する。本積層体の別な例としては、LCP層上に配置された金属配線、好ましくは銅配線をLCP層側とは対抗する側から本発明の組成物の硬化体層でカバーする構造が挙げられる。LCP基板配線上のいわゆるカバーレイとしての用途である。
【0095】
ここでLCP(液晶ポリマー)としては、溶融時に液晶状態あるいは光学的に複屈折する性質を有する熱可塑性ポリマーを指す。LCPとしては、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーや溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーがある。液晶ポリマーは、熱変形温度によって、I型、II型、III型と分類され、いずれの型であっても構わない。液晶ポリマーとしては、例えば、熱可塑性の芳香族液晶ポリエステル、又はこれにアミド結合が導入された熱可塑性の芳香族液晶ポリエステルアミドなどを挙げることができる。LCPは、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カーボネート結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。LCPの融点は、DSC法で、220~400℃であることが好ましく、260~380℃であることがより好ましい。融点が前記範囲内にあると、押出成形性に優れ、かつ耐熱性に優れたフィルム、シートを得ることができる。このようなLCPは、例えば上野製薬社、住友化学社、ポリプラスチックス社から入手することが出来る。ここで、LCPシートとは公知のLCPシートであり、その厚さも任意である。LCPシートは、Tダイ押出法やインフレーション法、エンドレスベルト(ダブルベルトプレス)法等の公知の方法で得ることが出来る。
【0096】
本発明の組成物、例えば硬化性組成物は、熱可塑性樹脂としての性質を有する。またその硬化性組成物を硬化して得られる硬化物は、優れた低誘電特性を有し、かつ高温下の貯蔵弾性率も高く、かつ熱膨張係数(熱膨張係数、CTE)も小さいため、特に各種電子基板用途に適する。
【実施例
【0097】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0098】
合成例、比較合成例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
【0099】
共重合体中のエチレン、ヘキセン、スチレン、ジビニルベンゼン由来のビニル基単位の含有量の決定は、1H-NMRで、それぞれに帰属されるピーク面積強度から行った。試料は重1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解し、測定は、80~130℃で行った。
【0100】
<数平均分子量>
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
(数平均分子量1000以上の場合)
カラム:TSKgel MultiporeHxl-M φ7.8×300mm(東ソー社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
検出器:RI検出器(示差屈折率検出器)
【0101】
<ガラス転移温度(DSC測定)>
DSC測定は、セイコー電子社製DSC6200を用い、窒素気流下で行った。すなわち樹脂10mgを用い、α-アルミナ10mgをレファレンスとして、アルミニウムパンを用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から240℃まで昇温した後に20℃/分で-120℃まで冷却した。その後240℃まで昇温速度10℃/分で昇温しながらDSC測定を行い、ガラス転移温度を求めた。ここで言うガラス転移温度は、JIS K7121:2012の補外ガラス転移開始温度であり、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になる点で引いた接線との交点の温度である。
【0102】
<平均粒子径(d50)>
レーザー回折式粒度測定器(ベックマン・コールター社「モデルLS-230」型)から得られる体積粒度分布曲線より求めた。
【0103】
<比表面積>
測定用セルに試料を1g充填し、Mountech社製 Macsorb HM model-1201全自動比表面積系測定装置(BET一点法)により比表面積を測定した。測定前の脱気条件は、200℃-10分とした。吸着ガスは窒素とした。
【0104】
<誘電率及び誘電損失(誘電正接)>
誘電率、誘電正接は平衡型円板共振器(キーサイト・テクノロジー社製)を使用し同様に誘電特性の評価を実施した。平衡型円板共振器での誘電特性評価方法は、シートから切り出した試料(直径3cm、厚0.2~0.6mm)を2枚準備し、間に銅箔を挟み共振器内にセットし、27~42GHzに出現したピークの共振周波数(f0)、無負荷Q値(Qu)を測定した。f0より誘電率、Quより誘電正接(tanδc)を、当該共振器に付属の解析ソフト(Balanced type circular disk resonator (method) calculator、平衡型円板共振器法解析ソフトウェア)にて算出した。測定温度は23℃、湿度は50%RHであった。
【0105】
<CTE(線膨張率)>
CTEはJPCA規格「電子回路基板規格 第3版」第16項プリント配線板用材料規格を参考に、熱機械的分析装置(TMA:Thermomechanical Analyzer、BRUKER AXS社製、現ネッチ・ジャパン社製)を使用し、幅3~5mm、厚さ0.5~0.6mm、チャック間15~20mm、引張り加重10g、昇温速度:10℃/分の条件で測定し、25℃~150℃の間の平均値を求めた。本発明に係る組成物では、CTEは、130ppm/K以下であることが求められる。
【0106】
<貯蔵弾性率の測定>
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社、旧レオメトリックス社RSA-G2)を使用し、周波数1Hz、温度領域-60℃~+300℃の範囲で測定した。厚み約0.1~0.3mmのフィルムから測定用サンプル(3mm×40mm)を切り出して測定し、貯蔵弾性率を求めた。測定に関わる主要測定パラメーターは以下の通りである。
測定周波数1Hz
昇温速度3℃/分
サンプル測定長10mm
歪み 0.1%
【0107】
<オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体>
国際公開第00/37517号、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報の製造方法を参考に、モノマー量、比、重合圧力、重合温度を適宜変更し、P-1の共重合体を得た。オレフィン単量体単位と前記芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計を100質量%にした。表1に共重合体の組成、数平均分子量を示す。
【0108】
主な原料は以下の通りである。
ジビニルベンゼンは、日鉄ケミカル&マテリアル社製ジビニルベンゼン(メタ、パラ混合品、ジビニルベンゼン純度81%)を用いた。硬化剤は、日油社製パーヘキシン25B(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3)を用いた。極性単量体として、BMI-5100(大和化成工業社製、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド)、TAIC(三菱ケミカル社製、トリアリルイソシアヌレート)を用いた。他に、OPE-2St(三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー)を用いた。
【0109】
シリカは、デンカ社製SFP-130MC(d50=0.6μm、比表面積6.2m2/g)の誘電正接低減処理品(「処理SFP-130MC」)を用いた。SFP-130MC誘電正接低減処理品は、本出願人による国際公開第2020/195205号及び係属中の特願2020-077291号に記載の方法により製造した、表面処理した球状シリカ粉末である。具体的には、原料の球状シリカ粉末(デンカ社製SFP-130MC)を500~1000℃の温度で、加熱温度(℃)×加熱時間(h)を1800~17600(℃・h)とする所定時間、加熱処理したものを用いた。当該処理は、原料シリカの粉末を、不活性雰囲気下で粉体を流動させながら行った。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
実施例1
加熱、冷却ジャケット、攪拌翼付きの容器を用い、合成例で得られたP-1(エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)を90質量部と、極性単量体としてBMI-5100(大和化成工業社製、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド)を10質量部とを、約40℃で攪拌し溶解した。さらに、硬化剤パーヘキシン25B(日油社製)を、上記混合物100質量部に対して1質量部加えて溶解し、攪拌混合し、ワニス状の組成物を得た。
【0113】
得られた組成物を、さらにあわとり練太郎(シンキー社製)で攪拌した後に、あらかじめ加温したセロハン張りのガラス板上に設置したシリコーンゴム製型枠(枠の厚さ0.5mm、又は1.0mm)に流し込み、60℃において22時間かけて大気圧から10hPaまで減圧し、更に3時間乾燥させて乾燥シートを得た。さらにその上にガラス板で挟んでクリップで密着させ、窒素雰囲気下、120℃30分、150℃30分、その後200℃2時間加熱処理した。終了後、硝子板及び型枠等を外し、シート状の硬化物を得た。
【0114】
実施例2
シート状の硬化物として得た実施例1の組成物80vol%(体積%)に対し、20vol%のシリカフィラー(SFP-130MC誘電正接低減処理品)を加えて攪拌しスラリー状のワニスとした他は、実施例1と同様に行った。
【0115】
実施例3
P-1を85質量部と、BMI-5100を15質量部とを配合した他は、実施例1と同様に行った。
【0116】
比較例1~5
それぞれ表2に示す成分組成とした他は、実施例1と同様にして各比較例に係るシート状の硬化物を得た。
【0117】
実施例1~3で得られた組成物シートの硬化物は、上記測定周波数で測定された誘電率と誘電正接とが共に非常に低くなり、しかもCTEも130ppm/Kを下回る値を示した。さらに、いずれの実施例でも25℃における貯蔵弾性率を250℃における貯蔵弾性率で割った値が低くなり、高温下でも架橋密度が維持されることを裏づけた。
【0118】
一方比較例1~4で得られたシートの硬化物はいずれもCTEが高すぎ、特にCCL用途には適さなかった。また比較例5はCTEは低かったものの、比較例3と同様に誘電正接が高すぎた。また比較例1では全般に粘度が低すぎ、試料が伸びてしまって貯蔵弾性率が測定不能であった。比較例2~3も、250℃においては粘度が低すぎ、試料が伸びてしまって貯蔵弾性率が測定不能であった。
【0119】
以上の結果より、本組成物の硬化物は優れた低誘電特性と低CTE特性を示し、CCL用として実用上十分な硬化物である。したがって本発明では特に高周波用の電気絶縁材料を提供可能であることが裏付けられた。本硬化物は、薄膜の電気絶縁材料、高周波用の電気絶縁材料として好適に使用できる。本硬化物は、プリント基板、フレキシブルプリント基板、単層あるいは多層のCCL(カッパークラッドラミネート)基板、単層あるいは多層のFCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板として有用である。またこれらの層間接着層、層間絶縁層としても好適に使用できる。