IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士紡ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-研磨パッド 図1
  • 特許-研磨パッド 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/26 20120101AFI20241015BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B24B37/26
H01L21/304 622F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020199738
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087675
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柏田 太志
(72)【発明者】
【氏名】徳重 伸
(72)【発明者】
【氏名】高木 正孝
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-327567(JP,A)
【文献】特開2019-123031(JP,A)
【文献】特開2018-167370(JP,A)
【文献】特開2015-018835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/26
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備え、前記研磨面に格子状に形成されている格子溝が設けられている研磨パッドであって、
前記研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、当該研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、前記研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域とを有し、
前記第一領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、前記第二領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第二接触面積率よりも小さくなるように前記格子溝とは別に前記被研磨物と非接触の領域を設け
前記非接触の領域が、その中心から外周縁に向かう方向に、螺旋状に形成されている螺旋溝であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記第一領域における前記螺旋溝の溝幅が、前記第二領域における前記螺旋溝の溝幅よりも大きい、請求項に記載の研磨パッド。
【請求項3】
被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備え、前記研磨面に格子状に形成されている格子溝が設けられている研磨パッドであって、
前記研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、当該研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、前記研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域とを有し、
前記第一領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、前記第二領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第二接触面積率よりも小さくなるように前記格子溝とは別に前記被研磨物と非接触の領域を設け、
非接触の領域が、前記研磨面に対して垂直方向に前記研磨層を貫通する貫通孔であることを特徴とす研磨パッド。
【請求項4】
前記貫通孔が、前記研磨面の中心から外周縁に向かう方向に描かれる、螺旋状パターン、同心円状パターン又は放射線状パターン上に設けられている、請求項に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウエハ、半導体デバイス用シリコンウエハ、各種記録用ディスクの基板及び液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物の精密平面研磨を行う場合には、研磨パッドを用いて研磨加工する。より良好な研磨性能を得るために、研磨パッドに対して様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、化学機械研磨加工における研磨パッド面の平坦化が引き起こす不均一な研磨量の分布を補正すること等を目的として、表面において少なくとも隣接した領域間では異ならしめた密度分布を持つ溝群を複数の領域の各々に形成した研磨パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-94303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載するような研磨パッドでは、単一種の溝の密度分布を調整することによって、研磨面における研磨量の分布は均一化できる。しかしながら、研磨面における不均一な研磨量の分布を補正できる程度まで溝の密度を高くしてしまうと、被研磨物と接触する研磨面の部分が細分化されてしまっていることにより研磨面が変形し、研磨パッドの耐久性が劣る。また、研磨面が変形してしまうと、被研磨物の面品位も悪化する場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、研磨均一性に優れ、かつ耐久性の高い研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨シートを備え、研磨面に格子状に形成されている格子溝と、研磨面に対して垂直方向に研磨シートを貫通する貫通孔、あるいはその中心から外周縁に向かう方向に、螺旋状に形成されている螺旋溝とが設けられており、研磨面に、貫通孔あるいは螺旋溝によって被研磨物と接触し得る接触面積率が異なる所定の第一の領域及び第二の領域を有する研磨パッドを用いることで、優れた研磨均一性と、高い耐久性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨層を備え、前記研磨面に格子状に形成されている格子溝が設けられている研磨パッドであって、
前記研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、当該研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、前記研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域とを有し、
前記第一領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、前記第二領域における前記被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第二接触面積率よりも小さくなるように前記格子溝とは別に前記被研磨物と非接触の領域を設けることを特徴とする研磨パッド。
〔2〕
前記格子溝とは別に設ける前記被研磨物と非接触の領域が、その中心から外周縁に向かう方向に、螺旋状に形成されている螺旋溝であることを特徴とする、〔1〕に記載の研磨パッド。
〔3〕
前記第一領域における前記螺旋溝の溝幅が、前記第二領域における前記螺旋溝の溝幅よりも大きい、〔2〕に記載の研磨パッド。
〔4〕
前記研磨面の中心から外周縁に向かう方向に設けられている前記螺旋溝は、前記研磨面の半径1/3の円と交差する点において、前記格子溝以外の溝が形成されていない、〔2〕又は〔3〕に記載の研磨パッド。
〔5〕
前記格子溝とは別に設ける前記被研磨物と非接触の領域が、前記研磨面に対して垂直方向に前記研磨層を貫通する貫通孔であることを特徴とする、〔1〕に記載の研磨パッド。
〔6〕
前記貫通孔が、前記研磨面の中心から外周縁に向かう方向に描かれる、螺旋状パターン、同心円状パターン又は放射線状パターン上に設けられている、〔5〕に記載の研磨パッド。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る研磨パッドにおける格子溝及び螺旋溝のパターン例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る研磨パッドにおける格子溝及び貫通孔のパターン例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0011】
研磨パッド
本実施形態の研磨パッドは、被研磨物を研磨するための研磨面を有する研磨シートを備え、研磨面に格子状に形成されている格子溝が設けられている。
また、研磨パッドの研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域とを有している。
さらに、第一領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、第二領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第二接触面積率よりも小さい。
【0012】
従来、例えば特許文献1に記載の研磨パッドは、単一種の溝の密度分布を調整することによって、研磨面における研磨量の分布は均一化できる。しかしながら、研磨面における不均一な研磨量の分布を補正できる程度まで溝の密度を高くしてしまうと、被研磨物と接触する研磨面の部分が細分化されてしまっていることにより研磨面が変形し、研磨パッドの耐久性が劣る。また、研磨面が変形してしまうと、被研磨物の面品位も悪化する場合がある。ここで、本発明者らは、被研磨物であるウエハ等は、ウエハ中心と周辺で研磨程度に差ができやすく、研磨パッド中心から半径1/3の円に近い箇所が触れるウエハ周辺が特にウエハ中心との研磨程度の差が顕著であることに着目した。
まず、本実施形態の研磨パッドによれば、研磨面に格子状に形成されている格子溝が設けられていることによって、高いスラリー流動性が得られ、ズリ応力による変形が抑制されて、高い耐久性を得ることができる。次に、本実施形態の研磨パッドによれば、研磨パッドの研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域とを有し、第一領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、第二領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第二接触面積率よりも小さいことによって、ウエハ周辺の過研磨を抑制し、研磨均一性に優れる。ただし、本実施形態の研磨パッドが上記効果を奏する要因は、これに限定されない。
【0013】
図1は、本実施形態に係る研磨パッドにおける格子溝及び螺旋溝のパターン例を示す模式図である。研磨パッド1Aは、研磨面Pを有する研磨層10を備える。また、研磨パッド1Aの研磨面Pに、格子状に形成されている格子溝11が設けられている。研磨パッド1Aの研磨面Pには、格子溝11以外の溝として、その中心Cから外周縁Oに向かう方向に、螺旋状に形成されている螺旋溝が設けられている。螺旋溝は、中心Cから外周縁Oに向かう1の螺旋パターン上に螺旋溝21a及び螺旋溝21bが設けられている。また、上記螺旋パターンとは異なる方向に向かう螺旋パターン上に、螺旋溝21a及び螺旋溝21bと同様の、螺旋溝22a及び螺旋溝22bが設けられている。
ここで、螺旋溝は、被研磨物と接触しない溝であればよく、研磨層10における溝の深さは限定されない。螺旋溝は、上述したような2つの螺旋パターン上に設けられているものに限定されず、例えば、2~12の螺旋パターン上に設けられているものであってもよい。
【0014】
研磨面Pの中心Cから外周縁Oに向かう方向に設けられている螺旋溝21a、21bは、研磨面Pの半径1/3の円と交差する点において、螺旋溝が形成されておらず、分断されている。螺旋溝22a及び螺旋溝22bにおいても同様である。このような部分を有することによって、研磨パッドはより高い耐久性を得ることができる。また、螺旋溝21a、21bは、ウエハへの突発的に高い負荷がかかることを抑制するために、螺旋パターンと分断されている半径1/3の円と交差する点に対して、滑らかに丸まった形状を有している。
螺旋溝21aは、螺旋溝21bとは独立して、中心Cに対して90℃回転させた位置に設けられている。これは、螺旋溝22aについても、螺旋溝22bとは独立して、同様に回転させた位置に設けられている。この角度は、0~360℃の範囲で任意に調整できる。
【0015】
螺旋パターン上において、研磨面Pの半径1/3の円と交差する点から近いほど、螺旋溝の幅が大きくなるように調整されている。これにより、第一接触面積率は、第二接触面積率よりも小さくなる。また、螺旋溝の幅は、中心Cから外周縁Oに向かう螺旋パターンと、中心Cからの円との交点から、その円との同心円に対して引いた垂線から決めている。当該同心円は、中心Cから外周縁Oに向かって、等間隔に3~15本を設定することができる。
【0016】
図2は、本実施形態に係る研磨パッドにおける格子溝及び貫通孔のパターン例を示す模式図である。研磨パッド1Bは、研磨面Pを有する研磨層10を備える。また、研磨パッド1Bの研磨面Pに、格子状に形成されている格子溝11が設けられている。研磨パッド1Bの研磨面Pには、研磨面Pに対して垂直方向に研磨層10を貫通する貫通孔31が設けられている。貫通孔31は、研磨面Pの中心Cから外周縁Oに向かう方向に描かれる、1の螺旋パターン上に複数設けられている。なお、図2では、実線で螺旋パターンを示しているものの、これらの螺旋パターンは、貫通孔の位置を決めるためのガイド線を便宜上図中に示しているに過ぎず、研磨パッド上に設けられた溝ではない。
【0017】
貫通孔は、螺旋パターン上で一定の間隔を空けて設けられているが、螺旋パターンと研磨面Pの半径1/3の円とが交差する点から近いほど、貫通孔と貫通孔の間隔が小さくなるように調整されている。これにより、第一接触面積率は、第二接触面積率よりも小さくなる。ただし、第一接触面積率は、第二接触面積率よりも小さくなるように調整できれば、一定の間隔ではなく、ランダムに偏った配置に設けてもよい。
また、貫通孔が螺旋パターン上で一定の間隔を空ける方法としては、特に限定されないが、例えば中心Cから外周縁Oに向かって、等間隔に3~15本の同心円を設定し、螺旋パターンと同心円との交点において設ける方法が挙げられる。
【0018】
貫通孔は、上記螺旋パターンの代わりに、螺旋状パターン、同心円状パターン又は放射線状パターン上に設けられていてもよい。螺旋状パターンの螺旋は、上記螺旋パターンの螺旋の他にも、例えば対数螺旋、インボリュート曲線、双曲螺旋のいずれかであり、好ましくは対数螺旋である。螺旋の本数は特に限定されないが、例えば2~12本である。螺旋状パターン上に貫通孔が設けられることにより、スラリーが回転する研磨パッドP上で、スラリーは螺旋を描いて研磨パッド周辺より排出されるため、スラリー流動性に優れる。
【0019】
貫通孔31は、例えば直径が35~70cmの研磨パッドに対して、直径が1.5~4.0cmの孔である。直径が1.5cm以上であることにより、エッジ効果及び過研磨を抑制できる傾向にあり、直径が4.0cm以下であることにより、優れた研磨均一性を得ることができる。
貫通孔の数は、第一接触面積率は、第二接触面積率よりも小さくなれば特に限定されないが、例えば6~180個である。
【0020】
被研磨物との接触面積調節のために螺旋溝や貫通孔は設けられており、螺旋溝や貫通孔による非接触面積率は、各領域によって異なる。研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域における第一非接触面積率は5~20%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは6~18%の範囲である。第一非接触面積率が6%以上であることにより、ウエハの円周の過研磨を抑制できる傾向にあり、第一非接触面積率が18%以下であることにより、第一領域とそれ以外の領域での研磨差が大きくなることを抑制し、優れた研磨均一性を得ることができる。
【0021】
研磨面の半径1/2の円から外周縁までの第二領域における第二非接触面積率は10%以下であることが好ましく、より好ましくは9.5%以下である。第二非接触面積率が9.5%以下であることにより、研磨パッドの研磨レートを高く維持することができる。
第一非接触面積率と第二非接触面積率の差は0.5~15%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1~13%の範囲である。非接触面積率の差が1%以上であることにより、ウエハの円周の過研磨を抑制できる傾向にあり、非接触面積率の差が13%以下であることにより、第一領域とそれ以外の領域での研磨差が大きくなることを抑制し、優れた研磨均一性を得ることができる。
【0022】
また、後述する実施例において示すとおり、上述した第二領域の代わりに、研磨パッドの研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、研磨面の半径1/4の円から半径1/2の円までの第一領域と、当該第一領域以外の領域全体である第三領域を用いてもよい。第三領域は、研磨パッドの研磨面に、その中心から外周縁に向かう方向に、研磨面の中心から半径1/4の円までの領域と、第二領域とを併せた領域である。すなわち、第一領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第一接触面積率が、第三領域における被研磨物と接触し得る単位面積当たりの第三接触面積率よりも小さい。第二領域及び第二領域における上述した説明は、第三領域及び第三接触面積率に対して同様に適用される。
【0023】
研磨パッドは円形であってもよく、円形でなくてもよい。円形でない場合には、外周縁とは、研磨パッド上を被研磨物が通った最外周部分を外周縁と同様にみなす。
【0024】
以下、図1及び図2に示す研磨パッドに共通する、研磨パッドの詳細を述べる。
【0025】
研磨パッドは、不織布と、不織布に含浸した樹脂とを有する研磨層を備えた練磨パッドであって、研磨面を有する研磨層と、研磨機の研磨用定盤に研磨パッドを固定するための両面テープとをこの順に積層して含む。この例では、両面テープの一方の接着面に研磨層を、もう一方の接着面には離型紙が積層されている。
研磨層と両面テープとの間には、研磨層及び両面テープ以外の層(下層、支持層)があってもよい。研磨層及び両面テープ以外の層を設けることにより、ウエハのプロファイル(表面及び端部形状)を調整することができる。支持層としては、不織布、プラスチックシート、ゴム、スポンジ等が挙げられる。支持層の厚さは、特に限定されないが、0.1~3.0mmが好ましく、より好ましくは0.15~2.5mmであり、さらにより好ましくは0.35~2.0mmである。
【0026】
本実施形態の研磨層の厚さは、特に限定されないが、0.5mm以上7mm以下であることが好ましく、1mm以上5mm以下であることがより好ましい。研磨シートの厚さは、日本工業規格(JIS K 6550(1994))に記載された測定方法に準拠して測定される。つまり、研磨シートの厚み方向に初荷重として1cm2当たり480gの荷重をかけた(負荷した)ときの厚さである。
【0027】
研磨層を構成する不織布としては、研磨パッドの研磨層に使用されるものであれば特に限定されず、種々公知のものを用いることができる。そのような不織布としては、特に限定されないが、従来公知の常法、例えば、スパンボンド法、メルトブローン法、乾式法又は湿式法によって製造されたものであってもよい。また、本実施形態の研磨層に含まれる不織布として、市販のものを用いてもよい。上記不織布の例としては、ポリアミド系、ポリエステル系等の不織布を挙げることができる。また、不織布を得る際に繊維を交絡させる方法としても特に限定されず、例えば、ニードルパンチであってもよく、水流交絡であってもよい。不織布は上述した中から1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
本実施形態における不織布の繊度は、特に限定されないが、研磨時のスクラッチ発生減少の観点から、2~6dであると好ましい。
【0029】
本実施形態における不織布の目付けは、特に限定されないが、研磨パッド密度や不織布と樹脂の比率の観点から、150~1000g/m2であると好ましい。
【0030】
なお、研磨層が有する不織布は、1種類の繊維単独からなるものであってもよく、2種以上の繊維を含むものであってもよい。
【0031】
本実施形態における樹脂は、研磨パッドに備えられ得るものであれば特に限定されず、従来公知のものであってもよい。そのような樹脂としては、例えば、湿式含浸により不織布に含浸できる樹脂、及び乾式含浸により不織布に含浸できる樹脂が挙げられる。本実施形態の研磨層が含浸する樹脂としては、1種の樹脂を単独で、又は2種以上の樹脂を用いることができる。本実施形態においては、上記樹脂が、第1の樹脂と、第1の樹脂とは異なる第2の樹脂とを含むことが好ましい。
【0032】
上記第1の樹脂としては、いわゆる湿式含浸により不織布に含浸できるものであれば特に限定されず、種々公知のものを適用できる。そのような樹脂(以下、単に「湿式樹脂」ともいう。)の例としては、以下に限定されないが、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等のポリウレタン系、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系、アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系、ポリアミド系及びポリスチレン系が挙げられる。ポリウレタン樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。樹脂の100%モジュラスは、5MPa~30MPaであると好ましく、10MPa~20MPaであるとより好ましい。樹脂の100%モジュラスは、その樹脂からなるシートを100%伸ばしたとき、すなわち元の長さの2倍に伸ばしたとき、に掛かる荷重を単位面積で割った値である。
【0033】
上記第2の樹脂としては、いわゆる乾式含浸により不織布に含浸できるものであれば特に限定されず、種々公知のものを適用できる。第2の樹脂(以下、単に「乾式樹脂」ともいう。)は、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、硬化剤であるアミン化合物及び/又は多価アルコール化合物と、それらを溶解可能な溶媒とを含む溶液を用い、乾式法によって得ることができる。ここで、ウレタンプレポリマーとしては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、2,4-トリレンジイソシアネートとプレンツカテコールとの付加物、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールとの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、及びイソシアヌル酸とヘキサメチレンジイソシアネートとの付加物が挙げられる。また、硬化剤のうち、アミン化合物としては、例えば、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-メチル-2,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2-メチル-4,6-ビス(メチルチオ)-1,3-ベンゼンジアミン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[3-(イソプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルプロピルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(1-メチルペンチルアミノ)-4-ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2-ビス(3,5-ジアミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、トリメチルエチレンビス-4-アミノベンゾネート、及びポリテトラメチレンオキサイド-di-p-アミノベンゾネートが挙げられる。多価アルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、3-メチル-4,3-ペンタンジオール、3-メチル-4,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールメタンが挙げられる。これらのウレタンプレポリマー及び硬化剤は、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0034】
本実施形態の研磨パッドにおいて、研磨中の引張強度保持の観点から、不織布、第1の樹脂及び第2の樹脂の合計に対して、不織布の含有量が10~50質量%であり、かつ、第1の樹脂の含有量が10~60質量%であり、かつ、第2の樹脂の含有量が10~70質量%であることが好ましい。同様の観点から、不織布の含有量が20~40質量%であり、かつ、第1の樹脂の含有量が20~50質量%であり、かつ、第2の樹脂の含有量が20~60質量%であることがより好ましい。研磨パッドにおける不織布、第1の樹脂及び第2の樹脂の各含有量は、極性溶媒への溶解性(極性)の差や、アミン分解性の差を利用して、溶出する成分の質量又は残渣の質量より、求めることができる。また、後述する1次含浸工程後の研磨パッドの密度と、後述する浸漬工程後の研磨パッドの密度と、後述する2次含浸工程後の研磨パッドの密度と、をそれぞれ測定し、密度差から算出することもできる。なお、密度の測定は上記と同様にして測定できる。
【0035】
本実施形態の研磨パッドは、上述の不織布及び樹脂の他、本実施形態の所望の効果を阻害しない範囲において、通常の研磨パッドに含まれ得る各種添加剤を含んでもよい。そのような添加剤としては、以下に限定されないが、例えば、カーボンブラック等の顔料、親水性活性剤及び疎水性活性剤が挙げられる。
【0036】
本実施形態の研磨パッドの厚さは、特に限定されないが、ワークとの平坦な接触面を十分に確保する観点、平坦性を確保する観点及びスラリーを貯留する観点から、0.8~10mmであると好ましく、1.2~6mmであるとより好ましい。厚さは、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定される。具体的には、研磨パッドを10cm×10cm角に切り抜いて得た試料片3枚を用意し、各試料片毎に、厚さ測定器の所定位置にセットした後、480g/cm2の荷重をかけた加圧面を試料片の表面に載せ、5秒経過後に厚さを測定する。1枚の試料片につき、5箇所の厚さを測定し相加平均を算出し、さらに3枚の試料片の相加平均を求める。
【0037】
本実施形態の研磨層の密度(かさ密度)は、特に限定されないが、研磨パッドの永久歪みを抑制する観点、ワークとの接触面積の増大による作用点の圧力低下を抑制する観点、及びスラリー保持性を高める観点から、25℃において0.30g/cm3以上0.60g/cm3以下であると好ましく、0.35g/cm3以上0.55g/cm3以下であるとより好ましく、0.35g/cm3以上0.50g/cm3以下であるとさらに好ましい。密度は、日本工業規格(JIS K 6505)に準拠して測定される。具体的には、厚さの測定で用いたのと同様の試料片の質量を自動天秤で測定後、下記式:
密度(g/cm3)=質量(g)/(10(cm)×10(cm)×試料片の厚さ(cm))
により密度を算出し、3枚の試料片の相加平均を求める。
【0038】
本実施形態の研磨層のA硬度は、特に限定されないが、ワークとの良好な密着性を確保する観点及び研磨パッドの変形防止の観点から、50度以上95度以下であると好ましく、60度以上90度以下であるとより好ましい。A硬度は、25℃におけるものであり、日本工業規格(JIS K 6253)に準拠して測定される。より詳しくは、寸法が30mm×30mmの試料について、JIS K 7311に従って、ショアA デュロメータを用いて測定される。
【0039】
本実施形態の研磨層の圧縮率は、特に限定されないが、0.5%以上20%以下であると好ましく、1%以上10%以下であるとより好ましい。圧縮率が上記範囲内にあることにより、研磨パッド300が、研磨加工時に被研磨物上に存在する研磨屑等を、適度に拭き取って除去することができる傾向にある。したがって、特にスラリーの凝集物に起因する微小欠陥を抑制することができる傾向にある。圧縮率は、例えば、研磨シートにおける、研磨面Sに通じた開孔の大きさや数を調整することにより制御することができる。研磨層の圧縮率は、日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して、ショッパー型厚み測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて求めることができる。具体的には、室温において、無荷重の状態から初荷重を30秒間かけた後の厚みt0を測定し、次に厚みt0の状態から最終荷重をかけて、そのまま5分間放置後の厚みt1を測定する。これらから、圧縮率を下記式:
圧縮率(%)=(t0-t1)/t0×100
により算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終荷重は1120g/cm2
する。
【0040】
研磨パッドの圧縮弾性率は、ワークとの良好な密着性を確保する観点及び研磨パッドの変形防止の観点から、50~98%であると好ましく、60~95%であるとより好ましい。圧縮弾性率は日本工業規格(JIS L 1021)に準拠し、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて求めることができる。具体的には、室温において、無荷重の状態から初荷重を30秒間かけた後の厚みt0を測定し、次に厚みt0の状態から最終荷重を30秒間かけた後の厚みt1を測定する。次に、厚みt1の状態から全ての荷重を除き、5分間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚みt0’を測定する。これらから、圧縮弾性率を下記式:
圧縮弾性率(%)=(t0’-t1)/(t0-t1)×100
により算出する。このとき、初荷重は100g/cm2、最終荷重は1120g/cm2とする。
【0041】
研磨パッドの製造方法
次に、本実施形態の研磨パッドの製造方法の一例について説明する。
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、不織布に第1の樹脂を含む樹脂溶液を含浸させ、湿式凝固を行うことにより、樹脂含浸不織布を得る1次含浸工程と、樹脂含浸不織布を、第1の樹脂が可溶な溶媒に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程の後の樹脂含浸不織布を、第2の樹脂を含む樹脂溶液に含浸する2次含浸工程と、を有する。本実施形態の研磨パッドの製造方法は、上記のように構成されているため、耐薬品性に優れ、強酸化剤を用いた研磨に供した場合でも十分なライフを確保できる研磨パッドを得ることができる。
【0042】
上記1次含浸工程においては、不織布に樹脂溶液を含浸させた上で湿式凝固法により樹脂含浸不織布を得る。湿式凝固法とは、樹脂溶液を、樹脂に対して貧溶媒である凝固液に常温で浸漬することで樹脂を凝固再生させる方法である。本実施形態のように不織布に樹脂溶液を含浸させた上で湿式凝固法を用いる場合、凝固液中では、不織布の繊維に付着している樹脂溶液の表面で樹脂溶液の溶媒と凝固液との置換の進行により樹脂が繊維の表面に凝固再生される。
【0043】
上記1次含浸工程の具体例としては、次のとおりである。まず、上述したような湿式樹脂と、当該湿式樹脂を溶解可能であって、後述の凝固液に混和する溶媒と、必要に応じて研磨パッドに配合するその他の添加剤とを混合し、更に必要に応じて減圧下で脱泡して樹脂溶液を準備する。上記溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)及びジメチルスルホキシドが挙げられる。樹脂に対する良溶媒を選択する観点、さらに凝固浴に対して均一に混和させて湿式凝固をより容易にする観点から、第1の樹脂が、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる1種以上の溶媒に可溶であることが好ましい。同様に、上記溶媒が、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる1種以上の溶媒を含むことが好ましい。
【0044】
不織布の全体に亘って樹脂を含浸する観点、及び、樹脂の含浸量を十分に確保する観点から、上記樹脂溶液について、B型回転粘度計を用いて20℃で測定した粘度が8000cp以下であると好ましく、100cp~5000cpであるとより好ましく、400cp~3000cpであると更に好ましい。そのような粘度の数値範囲にある樹脂溶液を得る観点から、例えば、ポリウレタン樹脂を、樹脂溶液の全体量に対して5~25質量%の範囲、より好ましくは8~15質量%の範囲で溶媒に溶解させてもよい。樹脂溶液の粘性は、用いる樹脂の種類及び分子量にも依存するため、これらを総合的に考慮し、樹脂の選定、濃度設定等を行うことが好ましい。
【0045】
次に、樹脂溶液に不織布を十分に浸漬した後、樹脂溶液が付着した不織布から、1対のローラ間で加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落とすことで、樹脂溶液の不織布への付着量を所望の量に調整し、不織布に樹脂溶液を均一又は略均一に含浸させる。次いで、樹脂溶液を含浸した不織布を、樹脂に対する貧溶媒、例えば水、を主成分とする凝固液中に浸漬することにより、湿式樹脂を凝固再生させる。凝固液には、樹脂の再生速度を調整するために、樹脂溶液中の溶媒以外の極性溶媒等の有機溶媒を添加してもよい。また、凝固液の温度は、樹脂を凝固できる温度であれば特に限定されず、例えば、15~60℃であってもよい。
【0046】
本実施形態において、上述の湿式凝固を行ったのち、以下のような洗浄・乾燥工程に供することが好ましい。まず、湿式樹脂が凝固再生された不織布を水等の洗浄液中で洗浄し、不織布中に残存するDMF等の溶媒を除去する。洗浄後、不織布を洗浄液から引き上げ、マングルローラ等を用いて余分な洗浄液を絞り落とす。その後、不織布基材を、100℃~150℃の乾燥機中で乾燥させてもよい。また、上記乾燥の後、得られる樹脂含浸不織布をさらにスライス、バフ等による加工に供し、表層のスキン層を除去し、所定の厚さにすることが、次工程の浸漬工程の均一性を高める観点から好ましい。
【0047】
本実施形態における浸漬工程は、上述の樹脂含浸不織布を、上述の湿式樹脂が可溶な溶媒に浸漬させることで、当該湿式樹脂を溶媒に再溶解させる工程である。浸漬工程により、樹脂含浸不織布内部の気泡(例えば閉気孔及び開口部の小さい開気孔)が減少し、不織布と湿式樹脂との密着性が向上すると考えられる。浸漬工程に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、メチルエチルケトン(MEK)、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。また、浸漬させる際の温度条件としては、第1の樹脂の気泡を減少させ、かつ、溶媒への樹脂の溶出を防止する観点から、15.0~25.0℃であることが好ましく、浸漬時間としては、同様の観点から、5~30秒であることが好ましい。なお、上述の浸漬工程の後に、乾燥工程を設けることが好ましい。
【0048】
本実施形態における2次含浸工程は、浸漬工程の後の樹脂含浸不織布を、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを含む溶液に含浸する工程である。2次含浸工程により、上述した湿式樹脂の表面に乾式樹脂が形成されるものと推測される。
【0049】
2次含浸工程の具体例としては、まず、プレポリマーと、硬化剤と、それらを溶解可能な溶媒とを含む溶液を準備する。次に、溶液に浸漬工程の後の樹脂含浸不織布を浸漬した後、溶液が付着した樹脂含浸不織布から、1対のローラ間で加圧可能なマングルローラを用いて溶液を絞り落とすことで、溶液の樹脂含浸不織布への付着量を所望の量に調整し、樹脂含浸不織布に溶液を均一又は略均一に含浸させる。次いで、溶液を含浸させた樹脂含浸不織布を乾燥機内で乾燥させる。これにより、ウレタンプレポリマーと硬化剤により重合して、樹脂含浸不織布に乾式樹脂を含浸させた本実施形態の研磨パッドが得られる。乾燥温度としては、例えば、100℃~140℃であってもよい。
【0050】
上述した1次含浸工程、浸漬工程及び2次含浸工程を経ることで、本実施形態の所望の構成を有する研磨パッドが得られる。この研磨パッドは、以下に説明する内容に限定する趣旨ではないが、次のような構成を有しているものと推察される。すなわち、1次含浸工程を経ることで、不織布の表面に湿式樹脂が形成される。特に、1次含浸工程では湿式凝固を採用することにより、湿式樹脂が不織布内で均一付着する。ただし、この段階では、得られる樹脂含浸不織布の樹脂内部において、湿式凝固法に由来する微細な気泡が多く、不織布と湿式樹脂との密着性及び強度は十分とはいえない。次いで、浸漬工程を経ることで、湿式樹脂の微細な気泡に浸漬溶液が充填され、乾燥による加温により湿式樹脂が再溶解し、樹脂含浸不織布内部の微細な気泡(例えば閉気孔及び開口部の小さい開気孔)が減少すると共に、不織布に含浸している樹脂(湿式樹脂)が繊維周辺で高密度化するので、不織布の繊維と湿式樹脂との密着性が向上するとともに強度が向上する。また、微細気泡が減少することで、2次含浸工程における乾式樹脂の含浸の均一化や強度向上につながる。さらに、2次含浸工程を経ることで、不織布繊維上の湿式樹脂の層の表面に、さらに乾式樹脂の層が形成される。浸漬工程を経ずに2次含浸工程に移ると、樹脂含浸不織布内部の気泡内の空間への乾式樹脂の侵入が困難になり、乾式樹脂の付着が不均一になる。この場合、湿式樹脂と乾式樹脂が不均一に付着した状態となり、部分的に弾性特性や剛性特性が不均一になるため、研磨の際に研磨パッド内の樹脂が剥離し、寿命が短くなってしまう。また、強酸化剤への耐性に優れた乾式樹脂の存在しない気泡内に強酸化剤が侵入しやすくなるため、耐薬品性に劣ると共に、寿命が短くなってしまう。一方、本実施形態によると、浸漬工程において、気泡が減少するため、2次含浸工程において含浸可能な空隙が確保されるとともに通気性が改善され、乾式樹脂が侵入し難い箇所が少なくなり、乾式樹脂の存在する領域が増加する。そのため、乾式樹脂の存在しない領域への強酸化剤の侵入が抑制され、耐薬品性が向上し、寿命を長くすることができる。また、不織布に直接付着していない部分の湿式樹脂が減少するため、研磨の際に研磨パッド内の樹脂の剥離が抑制され、寿命を長くすることができる。このように、本実施形態の研磨パッドにおいては、不織布を基材とし、当該不織布上に湿式樹脂の層が形成され、当該湿式樹脂の層上に乾式樹脂の層が形成されるものと推察される。また、研磨パッドの全体としては、不織布と湿式樹脂の層との間の密着性及び湿式樹脂の層と乾式樹脂の層との密着性は、いずれも良好であるものと考えられる。
なお、1次含浸工程と浸漬工程を省略し、2次含浸工程により不織布に乾式樹脂を含浸させた場合、不織布と乾式樹脂の馴染が悪く、繊維と樹脂の密着性に問題が生じ、構造上の安定性を損ねることとなる。また、不織布に乾式樹脂のみを付着させ、湿式樹脂を付着させない場合、研磨パッドとして高硬度、低弾性となり、研磨中の被研磨物に対する追従性が悪く、研磨に支障をきたす。更に、乾式樹脂は湿式樹脂に比べ水分の保持性が悪いため、乾式樹脂のみでは研磨液の十分な保持が困難である。
【0051】
本実施形態の研磨パッドが上記のとおりに推察される構成を有していることは、以下に限定されないが、例えば、当該研磨パッドの引張強度保持率の値だけでなく、上述した通気度の値や、研磨パッドにおける不織布、第1の樹脂及び第2の樹脂の各含有量の値等から確認することができる。
【0052】
上述のようにして得られた研磨パッドは、その後、必要に応じて、円形等の所望の形状、寸法に裁断されてもよく、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を施されてもよい。
【0053】
得られた研磨パッドは、その表面が研磨面となるが、その研磨パッドを用いてワークを研磨する場合、予め、研磨パッドの研磨面とは反対側の面に、研磨層以外の層(例えば、下層、支持層)として不織布、プラスチックシート、ゴム、スポンジ等と貼り合わされていてもよい。また、研磨層以外の層における研磨層と接着していない面に、さらに、研磨機の研磨定盤に研磨パッドを貼着するための両面テープ(粘着層及び剥離紙を備えるもの)を貼り合わせてもよい。
【0054】
本実施形態の研磨パッドは、研磨面に格子溝や螺旋溝を設けるための溝加工を施し、必要に応じて貫通孔を設けるための穴加工(パンチング加工)を施す加工工程を有する。溝加工の手法としては公知の方法を適宜用いることが可能であり、例えば螺旋溝については、形状をプログラムしたCNC(Computer Numerical Control)ルーター機にて設けることができる。
【0055】
溝加工の溝の深さとしては、好ましくは0.1mm以上0.8mm以下である。上記の範囲の深さの溝が形成されると、研磨時の研磨面におけるスラリーの流動性が一層向上するため、研磨レートが一層向上する。
【0056】
以上、本実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。例えば、研磨シートは研磨加工状態を光学的に検出するための光透過部を有していてもよい。
【実施例
【0057】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定
されるものではない。
【0058】
実施例1
2.2dのポリエチレンテレフタレート繊維と、3.3dのポリエチレンテレフタレート繊維とを、その配合比が上記の順に2:1になるように配合して、厚さ3.5mmの不織布を得た。ポリウレタン樹脂(DIC社製、製品名「クリスボン」、23±2℃における100%モジュラス12MPa)55質量部、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)45質量部を混合することにより、樹脂溶液を調整した。上記の不織布を室温の上記樹脂溶液に浸漬させた後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて不織布に樹脂溶液を略均一に含侵させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、樹脂を凝固再生させて第1の樹脂を含浸する不織布を得た。
【0059】
第1の樹脂を含浸する不織布を凝固液から取り出し、更に水からなる洗浄液に浸漬して洗浄した後、乾燥させた。次いで、DMFと純水とを、この順に65:35の配合比で混合した溶媒に、上記で得られた第1の樹脂を含浸する不織布を浸漬した。その後、上記と同様の手順で、洗浄・乾燥を行った。
【0060】
ウレタンプレポリマー426質量部に対して、架橋剤74質量部、並びに有機溶媒としてDMF150質量部、及びメチルエチルケトン350質量部を配合しプレポリマー溶液を調製した。上記の浸漬後の第1の樹脂を含浸する不織布を室温の上記プレポリマー溶液に浸漬させた後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて不織布にプレポリマー溶液を略均一に含侵させた。上記不織布を乾燥させることで、第1の樹脂及び第2の樹脂を含浸する樹脂含浸不織布を得た。
【0061】
樹脂含浸不織布の表面をバフ処理し、表面のスキン層を除去することで研磨層を得た。研磨層を直径500mm円形に切り出し、バフ処理した研磨表面にピッチ15mm、幅3mmの格子溝を設けた。また、パンチングにて直径25mmの貫通孔を設けて、図2に示す研磨パッドを得た。
【0062】
比較例1
貫通孔を設けなかった以外は、実施例1と同様の方法で研磨パッドを得た。
【0063】
研磨試験
研磨パッドについて、以下の研磨条件で研磨加工を行い、研磨測定試験を行った。測定では、研磨パッドを研磨機の所定位置に装着し、ワーク(被研磨物)としてシリコンウエハを用いた。研磨パッドは、その表面を、予め、ダイヤモンドドレッサを用いて、圧力1.5kpa、研磨ヘッド及び研磨定盤の回転数60rpm、超純水供給量1000mL/min、ドレッシング時間10分のドレッシング条件でドレッシングしてから研磨評価に用いた。
【0064】
研磨条件
使用研磨機:不二越機械工業株式会社、製品名「MCP-150」
研磨速度(定盤回転数):60rpm
加工圧力:17kpa
スラリー:フジミインコーポレーテッド社製、製品名「COMPOL 80」(原液:水=1:7)
スラリー流量:780mL/min
研磨時間:60分
被研磨物:シリコンウエハ
【0065】
上記条件で研磨加工を行った後、シリコンウエハの中心から円周に向かって厚さを測定し、ウエハ中心との厚さの差を算出した。厚みの差が8μm以下であった場合を「〇」、8μm超過であった場合を「×」と評価した。
【0066】
各研磨パッドについて、貫通孔の直径等を表1に示す。なお、貫通孔が形成されている部分は、被研磨物に対して接触しない非接触部であるとして、面積及び面積率を算出した。
【0067】
【表1】
【0068】
表中の各項目の説明を下記に示す。
「貫通孔の直径」:ワークに対する接触面積調節のために設けた貫通孔の直径(cm)
「1/4~1/2範囲の非接触面積(cm2)」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の、貫通孔による接触面積調節でできた非接触面積(半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲に設けた貫通孔の面積の合計)
「1/4~1/2範囲の基準面積(cm2)」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の、貫通孔による接触面積調節を行っていないとした場合の、基準となる接触面積(半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の研磨パッドの面積)
「1/4~1/2範囲の非接触面積率」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の、基準面積に対する非接触面積の割合(貫通孔の面積/研磨パッドの面積×100)
「範囲外の非接触面積(cm2)」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲外(以下、単に「範囲外」と示す)の、貫通孔による接触面積調節でできた非接触面積(範囲外に設けた貫通孔の面積の合計)
「範囲外の基準面積(cm2)」:範囲外の、貫通孔による接触面積調節を行っていないとした場合の、基準となる接触面積(範囲外の研磨パッドの面積)
「範囲外の非接触面積率」:範囲外の、基準面積に対する非接触面積の割合(貫通孔の面積/研磨パッドの面積×100)
「非接触面積率の差」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の非接触面積率と、範囲外の非接触面積率との差(「1/4~1/2の範囲の非接触面積率」-「範囲外の非接触面積率」)
「1/2~円周の非接触面積(cm2)」:研磨面の中心から半径1/2の円から外周縁までの範囲の、貫通孔による接触面積調節でできた非接触面積(半径1/2の円から外周縁までの範囲に設けた貫通孔の面積の合計)
「1/2~円周の基準面積(cm2)」:研磨面の中心から半径1/2の円から外周縁までの範囲の、貫通孔による接触面積調節を行っていないとした場合の、基準となる接触面積(研磨面の中心から半径1/2の円から外周縁までの範囲の研磨パッドの面積)
「1/2~円周の非接触面積率」:研磨面の中心から半径1/2の円から外周縁までの範囲の、基準面積に対する非接触面積の割合(貫通孔の面積/研磨パッドの面積×100)
「非接触面積率の差」:研磨面の中心から半径1/4の円から半径1/2の円までの範囲の非接触面積率と、研磨面の中心から半径1/2の円から外周縁までの範囲の非接触面積率との差(「1/4~1/2の範囲の非接触面積率」-「1/2~円周の範囲の非接触面積率」)
「研磨試験」:研磨パッドを用いた、研磨試験の評価結果(ウエハの中心と外周との厚みの差が8μm以下なら〇、8μm超過なら×)
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の研磨パッドは、半導体、半導体デバイス用シリコンウエハ、各種記録用ディスクの基板、液晶ディスプレイ用ガラス基板等を被研磨物とする研磨加工に好適には用いられるので、それらの用途に産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0070】
1A、1B…研磨パッド
P…研磨面
10…研磨層
11…格子溝
C…中心
O…外周縁
21a、b、22a、b…螺旋溝
31…貫通孔
図1
図2