IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トリニティ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-塗料充填量制御システム 図1
  • 特許-塗料充填量制御システム 図2
  • 特許-塗料充填量制御システム 図3
  • 特許-塗料充填量制御システム 図4
  • 特許-塗料充填量制御システム 図5
  • 特許-塗料充填量制御システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】塗料充填量制御システム
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/10 20060101AFI20241015BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20241015BHJP
   B05B 12/14 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B05C11/10
B05C11/00
B05B12/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020200994
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088877
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】服部 吉起
【審査官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-101319(JP,A)
【文献】特開2018-043185(JP,A)
【文献】特開2014-237070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 11/10
B05C 11/00
B05B 12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形または変位可能な区画体を隔てて互いに区画される塗料室及び塗料押出液室を有する塗料カートリッジと、
前記塗料室内に充填される塗料が流れる塗料充填経路と、
前記塗料室内の塗料を排出させるために前記塗料押出液室内に充填される塗料押出液が流れる塗料押出液経路と、
前記塗料押出液経路上に設置され、前記塗料押出液室内からの前記塗料押出液の回収量を計測するとともに、前記塗料押出液室内への前記塗料押出液の供給量を計測する流量計と、
前記塗料押出液の回収量が示す前記塗料の充填量と、前記塗料押出液の供給量が示す残塗料量との差から算出される前記塗料の使用量の推移を監視し、前記塗料の充填量を前記塗料の使用量に応じた最適量に設定変更する充填量制御手段と
前記塗料室内への前記塗料の充填時間を計測するタイマと
を備え、
前記充填量制御手段は、前記タイマによって計測された前記充填時間に基づいて、前記塗料室内への前記塗料の充填量を算出する
ことを特徴とする塗料充填量制御システム。
【請求項2】
前記塗料の使用量を記憶する記憶手段を備え、
前記充填量制御手段は、前記記憶手段に記憶されている所定回数分の前記塗料の使用量に基づいて、前記使用量の平均値を算出し、前記残塗料量に関する補正値を前記平均値に加算したものを最適な前記充填量とする
ことを特徴とする請求項1に記載の塗料充填量制御システム。
【請求項3】
変形または変位可能な区画体を隔てて互いに区画される塗料室及び塗料押出液室を有する塗料カートリッジと、
前記塗料室内に充填される塗料が流れる塗料充填経路と、
前記塗料室内の塗料を排出させるために前記塗料押出液室内に充填される塗料押出液が流れる塗料押出液経路と、
前記塗料押出液経路上に設置され、前記塗料押出液室内からの前記塗料押出液の回収量を計測するとともに、前記塗料押出液室内への前記塗料押出液の供給量を計測する流量計と、
前記塗料押出液の回収量が示す前記塗料の充填量と、前記塗料押出液の供給量が示す残塗料量との差から算出される前記塗料の使用量の推移を監視し、前記塗料の充填量を前記塗料の使用量に応じた最適量に設定変更する充填量制御手段と、
前記塗料の使用量を記憶する記憶手段
を備え、
前記充填量制御手段は、前記記憶手段に記憶されている所定回数分の前記塗料の使用量に基づいて、前記使用量の平均値を算出し、前記残塗料量に関する補正値を前記平均値に加算したものを最適な前記充填量とする
ことを特徴とする塗料充填量制御システム。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記塗料の種類ごとに異なる複数の前記補正値を有し、
前記充填量制御手段は、前記塗料の種類に応じて複数の前記補正値の中から1つの補正値を選択し、選択した補正値を前記平均値に加算する
ことを特徴とする請求項3に記載の塗料充填量制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料カートリッジに対する塗料の最適な充填量を設定する塗料充填量制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボディなどの被塗装物を塗装する塗装システムにおいては、高品質な塗装が要求されるため、例えば静電塗装機のような、塗着効率や塗膜の平滑性などに優れた塗装機が用いられている。
【0003】
塗装機では、塗料を霧化するための回転霧化頭が設けられており、その回転霧化頭を回転させることにより、塗料粒子が霧化されて塗装が行われる。なお、塗装機としては、例えば、塗料カートリッジを装着して定量の塗料押出液を充填することにより、塗料カートリッジ内の塗料を押し出して回転霧化頭に供給し、塗装を行うようにしたものがある。
【0004】
また、塗料カートリッジを装着した状態で、塗料カートリッジ内に塗料を充填する塗料充填装置も提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。例えば、図5に示されるように、塗料カートリッジ71は、ピストン72を隔てて互いに区画される塗料室73及び塗料押出液室74を有している。そして、塗料P1は、塗料充填装置81の塗料充填経路82を介して塗料室73内に充填される(図5(a)参照)。これに伴い、塗料押出液室74内の塗料押出液P2は、塗料P1の充填分だけ排出され、塗料押出液経路83を介して回収される。
【0005】
なお、塗料室73内への塗料P1の充填が終了すると、塗料カートリッジ71は、塗料充填装置81から取り外されて塗装機に装着される。そして、塗装機に装着された状態で、別の駆動源によって塗料押出液室74内に塗料押出液P2が供給されると、それに伴って、塗料室73内の塗料P1が塗装機の回転霧化頭より吐出され、塗装が実施される。
【0006】
その後、塗装が終了すると、塗料カートリッジ71は、塗装機から取り外されて再度塗料充填装置81に装着される。そして、塗料押出液室74内に塗料押出液P2を供給して、塗料室73内から塗料P1を塗料排出経路84を介して押し出した後、塗料充填経路82にシンナーを供給することにより、塗料充填経路82内に残存する塗料P1を洗浄する(図5(b)参照)。その後、塗料室73内に次の塗料が充填される(図5(a)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-176328号公報(図6等)
【文献】特許第4976417号公報(図4図5等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、塗料室73内への塗料P1の充填は、タイマを用いて塗料P1の充填時間を計測することにより行われる。即ち、タイマが充填時間を計測し、充填時間が所定時間となったときに塗料P1の充填を終了する。ところが、塗料P1の使用量は、塗色や塗装プログラムごとに異なるものの、塗料P1の充填量は、塗色や塗装プログラムに関係なく一定である。その結果、塗色や塗装プログラムによっては、塗装後の塗料室73内の残塗料量が多くなってしまう。また、塗料P1の充填をタイマを用いて行う場合には、塗料P1の充填量を高精度に制御できないため、充填量のバラツキが大きくなり、残塗料量も大きくなる傾向にある(図6(a),(b)参照)。さらに、充填量の変更は、作業者が適宜行う必要があるため、作業負荷が大きいという問題もある。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、残塗料量を削減でき、かつ塗料の充填量の変更にかかる作業負荷を軽減できる塗料充填量制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、変形または変位可能な区画体を隔てて互いに区画される塗料室及び塗料押出液室を有する塗料カートリッジと、前記塗料室内に充填される塗料が流れる塗料充填経路と、前記塗料室内の塗料を排出させるために前記塗料押出液室内に充填される塗料押出液が流れる塗料押出液経路と、前記塗料押出液経路上に設置され、前記塗料押出液室内からの前記塗料押出液の回収量を計測するとともに、前記塗料押出液室内への前記塗料押出液の供給量を計測する流量計と、前記塗料押出液の回収量が示す前記塗料の充填量と、前記塗料押出液の供給量が示す残塗料量との差から算出される前記塗料の使用量の推移を監視し、前記塗料の充填量を前記塗料の使用量に応じた最適量に設定変更する充填量制御手段と、前記塗料室内への前記塗料の充填時間を計測するタイマとを備え、前記充填量制御手段は、前記タイマによって計測された前記充填時間に基づいて、前記塗料室内への前記塗料の充填量を算出することを特徴とする塗料充填量制御システムをその要旨とする。
【0011】
請求項1に記載の発明によると、充填量制御手段が、流量計が計測した塗料押出液の回収量が示す塗料の充填量と、同じく流量計が計測した塗料押出液の供給量が示す残塗料量との差から、塗料の使用量を算出することにより、使用量の推移を監視している。このため、塗色や塗装プログラムが変更される等して塗料の使用量が変更されたとしても、使用量に応じた最適値に塗料の充填量を設定変更することができる。その結果、塗装後の塗料室内の残塗料量が削減される。また、充填量制御手段によって、塗料の充填量が自動的に設定変更されるため、充填量変更時における作業者の作業負荷を減らすことができる。
【0012】
ここで、塗料カートリッジ内にて変形可能に設けられた区画体としては、ダイヤフラム、ベローズ、塗料パックなどが挙げられる。また、塗料カートリッジ内にて変位可能に設けられた区画体としては、ピストンなどが挙げられる。なお、区画体として変形しないピストンを用いる場合、流量計は、塗料押出液の体積(回収量及び供給量)を精度良く計測することができる。
【0013】
さらに、流量計としては、流体(塗料押出液)の通過に伴って回転するギヤの回転数を数えることにより、流体の流量を計測するギヤ式流量計、超音波を用いて流体の流量を計測する超音波式流量計、電磁誘導による起電力を利用して流体の流量を計測する電磁式流量計、流体が物体を通過するときに発生する渦(カルマン渦)を圧電素子で検出することにより、流体の流量を計測するカルマン渦式流量計、流体が回す羽根車から発生するパルス波を電圧信号に変換し、変換した電圧信号から流量を計測する羽根車式流量計などが挙げられる。なお、流量計としてギヤ式流量計を用いれば、流体(塗料押出液)を直接計測するため、流体の流量を高精度に計測することができる。
【0015】
また請求項1に記載の発明によると、例えば流量計による計測が行われない場合でも、タイマによって塗料室内への塗料の充填時間を計測することにより、塗料室内への塗料の充填量を算出することができる。また、例えば、タイマによって計測された充填時間と、流量計によって計測された塗料押出液の回収量との両方に基づいて算出すれば、塗料室内への塗料の充填量を高い信頼性で正確に算出することができる。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項において、前記塗料の使用量を記憶する記憶手段を備え、前記充填量制御手段は、前記記憶手段に記憶されている所定回数分の前記塗料の使用量に基づいて、前記使用量の平均値を算出し、前記残塗料量に関する補正値を前記平均値に加算したものを最適な前記充填量とすることをその要旨とする。
【0017】
請求項2に記載の発明によると、充填量制御手段が、所定回分の使用量の平均値を算出し、残塗料量に関する補正値を平均値に加算したものを最適な充填量としている。これにより、それぞれの塗料の使用量にバラツキがあったとしても、使用量が適切な値に平均化されるため、充填量を精度良く算出することができる。なお、「残塗料量に関する補正値」とは、使用量の平均値に加算することにより得られる最適な充填量を、使用後(塗装後)における塗料室内の残塗料量をできるだけ少なくし、かつ塗料室内の塗料が不足しないようにするための値である
また上記課題を解決するために、請求項3に記載の発明は、変形または変位可能な区画体を隔てて互いに区画される塗料室及び塗料押出液室を有する塗料カートリッジと、前記塗料室内に充填される塗料が流れる塗料充填経路と、前記塗料室内の塗料を排出させるために前記塗料押出液室内に充填される塗料押出液が流れる塗料押出液経路と、前記塗料押出液経路上に設置され、前記塗料押出液室内からの前記塗料押出液の回収量を計測するとともに、前記塗料押出液室内への前記塗料押出液の供給量を計測する流量計と、前記塗料押出液の回収量が示す前記塗料の充填量と、前記塗料押出液の供給量が示す残塗料量との差から算出される前記塗料の使用量の推移を監視し、前記塗料の充填量を前記塗料の使用量に応じた最適量に設定変更する充填量制御手段と、前記塗料の使用量を記憶する記憶手段とを備え、前記充填量制御手段は、前記記憶手段に記憶されている所定回数分の前記塗料の使用量に基づいて、前記使用量の平均値を算出し、前記残塗料量に関する補正値を前記平均値に加算したものを最適な前記充填量とすることを特徴とする塗料充填量制御システムをその要旨とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項3において、前記記憶手段は、前記塗料の種類ごとに異なる複数の前記補正値を有し、前記充填量制御手段は、前記塗料の種類に応じて複数の前記補正値の中から1つの補正値を選択し、選択した補正値を前記平均値に加算することをその要旨とする。
【0019】
請求項4に記載の発明によると、塗料の種類ごとに異なる複数の補正値の中から選択した1つの補正値を使用量の平均値に加算することにより、塗料の充填量を、塗料の種類に応じたより最適な充填量に設定変更することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1~4に記載の発明によると、残塗料量を削減でき、かつ塗料の充填量の変更にかかる作業負荷を軽減できる塗料充填量制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態における塗装機を示す概略断面図。
図2】本実施形態における塗料充填量制御システムを示す構成図。
図3】(a)は、排出工程を示す説明図、(b)は、塗料の使用量が減少したときの排出工程を示す説明図、(c)は、塗料の充填量を最適量に設定変更した後の充填工程を示す説明図。
図4】(a)は、塗料の充填量及び使用量の推移を概略的に示すイメージ図、(b)は、残塗料量の推移を概略的に示すイメージ図。
図5】(a),(b)は、従来技術における塗料充填装置の使用方法を示す説明図。
図6】(a)は、塗料の充填量及び使用量の推移を概略的に示すイメージ図、(b)は、残塗料量の推移を概略的に示すイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、図1に示される塗装機1の構成について説明する。塗装機1は、塗装用ロボットのアーム(図示略)の先端に装着されている。塗装機1を構成する塗装機本体2の正面には、回転霧化頭3が回転可能に取り付けられている。なお、この回転霧化頭3には、図示しない高電圧発生器から高電圧が印加されるようになっている。即ち、本実施形態の塗装機1は、塗料P3を負に帯電し、自動車ボディなどの被塗装物をアースした状態で、塗装を行う静電塗装機である。
【0024】
また、塗装機本体2の背面に設けられた装着部には、塗料カートリッジ11が着脱可能に取り付けられている。この塗料カートリッジ11は、耐溶剤性の樹脂からなり、略筒状をなしている。塗料カートリッジ11は、塗装機本体2の装着部に接続可能な接続端面12を有している。
【0025】
図1に示されるように、塗料カートリッジ11内には、変位可能なピストン13(区画体)が設けられている。ピストン13は、塗料カートリッジ11の内部領域を、塗料P3が充填される塗料室14と、塗料P3を塗料室14から押し出すための塗料押出液P4が給排される塗料押出液室15とに区画しており、塗料P3と塗料押出液P4との接触を防止する機能を有している。ここで、本実施形態で用いられる塗料P3は、導電性を有する静電塗装用水性塗料であり、本実施形態で用いられる塗料押出液P4は、一定の絶縁性を有する酢酸ブチルなどの液体である。
【0026】
なお、ピストン13は、塗料押出液室15内に塗料押出液P4が充填された際に下方に変位する。これに伴い、塗料室14内の塗料P3は塗料カートリッジ11の外部領域に押し出される。また、ピストン13は、塗料室14内に塗料P3が充填された際に上方に変位する。これに伴い、塗料押出液室15内の塗料押出液P4は、塗料カートリッジ11の外部領域に押し出される。
【0027】
図1に示されるように、塗料カートリッジ11内には、塗料室14と塗料カートリッジ11の外部領域との間を連通しうる塗料経路16が設けられている。塗料経路16の先端は塗料室14内にて開口し、塗料経路16の基端部は、塗料カートリッジ11内に設けられた塗料ストップ弁17に連結されている。また、塗料カートリッジ11内には、塗料押出液室15と塗料カートリッジ11の外部領域との間を連通しうる塗料押出液経路18が設けられている。塗料押出液経路18の先端は塗料押出液室15内にて開口し、塗料押出液経路18の基端部は、塗料カートリッジ11内に設けられた塗料押出液ストップ弁19に連結されている。
【0028】
図1に示されるように、塗料室14は、塗料カートリッジ11内に挿入された塗料排出配管4に連通している。塗料排出配管4は、塗装機本体2内に挿入された際に、塗料室14内の塗料P3を排出して回転霧化頭3に供給する通路である。また、塗料押出液経路18は、塗料押出液ストップ弁19を介して塗装機本体2内の塗料押出液通路(図示略)に連通している。塗料押出液通路は、塗装用ロボットのアームに沿って延びる配管を介して塗料カートリッジ11の塗料押出液室15内に塗料押出液P4を供給する通路である。
【0029】
なお、塗料カートリッジ11には、図2に示される塗料充填量制御システム20に取り付けられた状態で塗料P3が充填されるようになっている。図2に示されるように、塗料充填量制御システム20は、塗料充填装置21及び塗料押出液配管22(塗料押出液経路)などを備えている。塗料充填装置21にはカートリッジ取付部23が設けられ、カートリッジ取付部23の上面には塗料カートリッジ11が着脱可能に取り付けられている。なお、この状態において、塗料カートリッジ11内には塗料が充填されるようになる。
【0030】
また、カートリッジ取付部23の下面には、複数のカラーバルブ25を有する塗料マニホールド24が取り付けられている。塗料マニホールド24内には、カラーバルブ25を開状態に切り替えた際に、塗料タンク(図示略)内に溜められた塗料P3を塗料室14内に導く塗料充填経路26が設けられている。また、塗料充填経路26には、エア源(図示略)からエアが供給されるとともに、シンナー貯留タンク(図示略)からシンナーが供給されるようになっている。
【0031】
また、図2に示される塗料充填装置21は、塗料押出液配管22を介して塗料押出液貯留容器(図示略)に接続されている。塗料押出液配管22は、塗料押出液貯留容器に溜められた塗料押出液P4を塗料押出液室15に供給する経路である。また、塗料押出液配管22は、塗料押出液室15から排出される塗料押出液P4を塗料押出液貯留容器に戻す経路である。
【0032】
そして、塗料押出液配管22上には流量計31が設置されている。流量計31は、塗料押出液室15内からの塗料押出液P4の回収量を計測するとともに、塗料押出液室15内への塗料押出液P4の供給量を計測する。なお、本実施形態の流量計31は、塗料押出液配管22に連通するハウジング内にギヤを収容してなり、塗料押出液P4の通過に伴って回転するギヤの回転数を数えることにより、塗料押出液P4の流量を計測するギヤ式流量計である。
【0033】
次に、塗料充填量制御システム20の電気的構成について説明する。
【0034】
図2に示されるように、塗料充填量制御システム20はパソコン41を備えており、パソコン41は、CPU42、ROM43、RAM44、入出力回路等により構成されている。CPU42には、キーボード45やディスプレイ46などが接続されている。また、CPU42には、塗料ストップ弁17、塗料押出液ストップ弁19、カラーバルブ25及び流量計31が接続されている。さらに、ROM43には、塗料充填量制御システム20を制御するためのプログラム(塗装プログラムなど)が記憶されている。なお、塗装プログラムは、被塗装物の種類(例えば、自動車ボディ、自動車部品等)や被塗装物の部位(例えば、ボンネット、ドア等)ごとに異なる塗装用ロボットの駆動態様を示している。
【0035】
次に、塗料P3の充填量の制御方法を説明する。本実施形態では、塗色1(例えば緑色)の塗料P3(図4(a)参照)であっても、塗色2(例えば赤色)の塗料P3(図4(a)参照)であっても、同じ制御が行われる。
【0036】
まず、充填工程を行い、塗料カートリッジ11を塗料充填装置21のカートリッジ取付部23に取り付ける(図2参照)。この状態において、CPU42がカラーバルブ25及び塗料ストップ弁17に駆動信号を出力すると、カラーバルブ25及び塗料ストップ弁17が開状態に切り替わり、塗料充填経路26と塗料経路16とが連通する。その結果、塗料タンク内の塗料P3が、塗料充填経路26、塗料ストップ弁17及び塗料経路16を順番に通過し、塗料室14内に充填される。このとき、CPU42が備えるタイマは、塗料室14内への塗料P3の充填時間を計測し、計測した充填時間をRAM4に記憶する。
【0037】
また、CPU42は、カラーバルブ25及び塗料ストップ弁17に駆動信号を出力するのと同時に、塗料押出液ストップ弁19に駆動信号を出力し、塗料押出液ストップ弁19を開状態に切り替える。その結果、塗料押出液室15内の塗料押出液P4は、塗料室14内に塗料P3が充填されてピストン13が上方に変位するのに伴い、塗料押出液室15から押し出される。そして、塗料押出液P4は、塗料押出液経路18、塗料押出液ストップ弁19及び塗料押出液配管22を順番に通過し、塗料押出液貯留容器に流れ込む。このとき、塗料押出液配管22上に設置された流量計31は、塗料押出液室15内からの塗料押出液P4の回収量を計測し、CPU42に対して回収量計測信号を出力する。
【0038】
そして、塗料室14内への塗料P3の充填が完了すると、塗装工程を行い、塗料カートリッジ11を、塗料充填装置21のカートリッジ取付部23から取り外して塗装機1の塗装機本体2に装着する(図1参照)。この状態において、塗料カートリッジ11の塗料押出液室15内には、別の駆動源によって塗料押出液P4が供給される。それに伴い、ピストン13が下方に変位するため、塗料室14内の塗料P3は、塗料排出配管4を通過して回転霧化頭3より吐出され、塗装が実施される。
【0039】
その後、塗装が終了すると、排出工程を行い、塗料カートリッジ11を、塗装機1の塗装機本体2から取り外して塗料充填装置21のカートリッジ取付部23に装着する(図3(a)参照)。この状態において、CPU42から塗料押出液ストップ弁19に駆動信号を出力すると、塗料押出液ストップ弁19が開状態に切り替わり、塗料押出液配管22と塗料押出液経路18とが連通する。その結果、塗料押出液貯留容器内の塗料押出液P4が、塗料押出液配管22、塗料押出液ストップ弁19及び塗料押出液経路18を順番に通過し、塗料押出液室15内に充填される。これに伴い、ピストン13が下方に変位するため、塗料室14内に残存する塗料P3(残塗料)は、塗料排出配管4を通過して外部に排出される。また、流量計31は、塗料押出液室15内への塗料押出液P4の供給量を計測し、CPU42に対して供給量計測信号を出力する。
【0040】
続く算出工程において、CPU42は、塗料押出液P4の回収量(回収量計測信号)が示す塗料P3の充填量と、塗料押出液P4の供給量(供給量計測信号)が示す残塗料量との差に基づいて、塗料P3の使用量を算出する。そして、CPU42は、算出した塗料P3の使用量をRAM44にログとして記憶する。さらに、CPU42は、塗料P3の充填量及び残塗料量もRAM44に記憶する。即ち、RAM44は、『記憶手段』としての機能を有している。
【0041】
そして、CPU42は、塗料P3の使用量の推移を、塗料充填量制御システム20が作動しているあいだ常時監視する。さらに、CPU42は、塗料P3の充填量を塗料P3の使用量に応じた最適量に設定変更する。即ち、CPU42は、『充填量制御手段』としての機能を有している。具体的に言うと、CPU42は、RAM44に記憶されている所定回数分(本実施形態では、直近のN回分)の塗料P3の使用量に基づいて、使用量の平均値を算出する。なお、回数は、作業者によって設定可能となっている。そして、平均値の算出に用いられるN回分の使用量のうち、所定の範囲外にあるものがあれば、CPU42は、所定の範囲外にある塗料P3の使用量を、本来あり得ないかけ離れた数値であるとして除外し、残った使用量から平均値を算出する。さらに、CPU42は、算出した平均値に対して残塗料量に関する補正値を加算したものを、最適な充填量(最適量)とする。詳述すると、RAM44には、塗料P3の種類(本実施形態では塗色)ごとに異なる複数の補正値が記憶されている。そして、CPU42は、塗料P3の塗色に応じて複数の補正値の中から1つの補正値を選択し、選択した補正値を平均値に加算し、それを最適な充填量とする。ここで、「残塗料量に関する補正値」とは、最適な充填量を、塗装後における塗料室14内の残塗料量をできるだけ少なくし、かつ塗料室14内の塗料P3が不足しないようにするための値である。
【0042】
なお、図4(a)は、塗料P3の充填量及び使用量の推移を概略的に示すイメージ図、図4(b)は、残塗料量の推移を概略的に示すイメージ図である。例えば、被塗装物の塗装品質を変更するために、塗料P3の使用量を意図的に減少させることがある(図4(a)の「塗色2の塗料P3の使用量」を参照)。この場合、塗料P3の使用量が減少してから塗料P3の充填量が最適値に設定変更されるまでの期間T1においては、使用量が減少したにもかかわらず、塗料P3の充填量は減少しない(図4(a)の「塗色2の塗料P3の充填量」を参照)。その結果、塗料室14内の残塗料量が一時的に増加する(図3(b)、及び図4(b)の「塗色2の残塗料」を参照)。その後、CPU42は、次回の充填工程において、塗料P3を、上述の算出工程で算出した最適な充填量(最適値)だけ塗料室14内に充填する(図3(c)参照)。その結果、期間T2において、塗料P3の充填量が自動的に減少(変更)し(図4(a)の「塗色2の塗料P3の充填量」を参照)、残塗料量が自動的に減少する(図4(b)の「塗色2の残塗料」を参照)。
【0043】
また、上述の制御は、同じ塗色の塗料P3が用いられている間、充填工程→塗装工程→排出工程→算出工程→充填工程→…の順で繰り返し行われる。そして、現時点の塗色の塗料P3を用いた塗装が終了すると、算出工程後に洗浄工程が行われる。具体的には、まず、エア源のエアを塗料充填経路26に供給し、塗料充填経路26内に溜まった塗料P3を外部に押し出す。次に、エア源から塗料充填経路26へのエアの供給を終了した後、シンナー貯留タンクから塗料充填経路26へのシンナーの供給を開始する。その結果、塗料充填経路26内に残存する塗料P3がシンナーによって洗浄される。そして、次の充填工程が開始され、別の塗色の塗料P3が塗料室14内に充填される。
【0044】
なお、本実施形態では、万が一流量計31が故障した場合であっても、タイマ制御により塗料P3を充填することができる。また、塗料室14内への塗料P3の充填作業が中断した場合であっても、塗料P3の充填量を知ることにより、残りの塗料P3を塗料室14内に正確に充填することができる。例えば、CPU42は、塗料押出液P4の回収量(即ち、塗料P3の充填量)を示す回収量計測信号が所定の待機時間内に入力されたか否かを算出する。そして、回収量計測信号が待機時間内に入力されない場合、CPU42は、流量計31による計測結果よりも、タイマによる計測結果を優先させる。具体的に言うと、CPU42は、充填工程においてタイマで計測されてRAM44に記憶された塗料P3の充填時間に基づいて、塗料室14内への塗料P3の充填量を算出する。
【0045】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
【0046】
(1)本実施形態の塗料充填量制御システム20によれば、CPU42が、流量計31が計測した塗料押出液P4の回収量が示す塗料P3の充填量と、同じく流量計31が計測した塗料押出液P4の供給量が示す残塗料量との差から、塗料P3の使用量を算出することにより、使用量の推移を監視している。このため、塗料P3の使用量が変更されたとしても、使用量に応じた最適値に塗料P3の充填量を設定変更することができる。その結果、塗装後の塗料室14内の残塗料量が削減される。また、CPU42によって、塗料P3の充填量が自動的に設定変更されるため、充填量変更時における作業者の作業負荷を減らすことができる。
【0047】
(2)本実施形態では、通常時において、流量計31を用いて液体(塗料押出液P4)の体積を直接的に計測している。このため、タイマで計測した塗料P3の充填時間に基づいて液体(塗料P3)の体積を間接的に計測する従来技術(図6(a)参照)に比べて、計測される塗料P3の充填量のバラツキが小さくなる(図4(a)参照)。
【0048】
(3)本実施形態では、塗料P3の充填量を最適量に設定変更する場合において、RAM44に記憶されている直近のN回分の塗料P3の使用量の平均値を算出する。そのときに、CPU42は、所定の範囲外にある使用量を除外したうえで、平均値を算出している。例えば、本来の使用量が180cc程度である場合に、RAM44に記憶されている使用量の1つが50ccのような本来あり得ないかけ離れた数値であるとき、CPU42は、50ccの使用量を除外したうえで平均値を算出している。その結果、算出した平均値に基づいて、最適な充填量(最適量)を高精度に得ることができる。
【0049】
(4)例えば、流量計31を塗料充填経路26上に設置し、塗料室14内への塗料P3の充填量と、塗料室14内からの塗料P3の排出量(残塗料量)とを直接的に計測することが考えられる。しかし、流量計31の計測対象である塗料P3は変更されるため、流量計31によって塗料P3の充填量及び残塗料量を精度良く計測できない可能性がある。
【0050】
そこで、本実施形態では、流量計31を塗料押出液配管22上に設置し、塗料押出液室15内からの塗料押出液P4の回収量を計測することで塗料P4の充填量を間接的に得る。そして、塗料押出液室15内への塗料押出液P4の供給量を計測することで残塗料量を間接的に得ている。この場合、塗料P3の塗色が変更されたとしても、流量計31の計測対象である塗料押出液P4は常に同じであるため、流量計31によって塗料押出液P4の回収量及び供給量を精度良く計測することができる。しかも、本実施形態の塗料押出液P4は、圧力が加わっても体積が変化しない液体(酢酸ブチル)であるため、塗料押出液P4の回収量及び供給量をより高精度に計測することができる。
【0051】
なお、上記実施形態を以下のように変更してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、CPU42によって、自動的に塗料P3の充填量が最適量に設定変更されていた。しかし、CPU42は、充填量を最適量に設定変更してよいかを確認するメッセージを、例えばパソコン41のディスプレイ46などに表示させてもよい。そして、作業者が了解する旨をキーボード45などを用いて入力したことを契機として、CPU42が、充填量を最適量に設定変更する制御を行ってもよい。
【0053】
・上記実施形態では、流量計31による計測が行われない場合に、CPU42が備えるタイマによって塗料室14内への塗料P3の充填時間を計測することにより、塗料室14内への塗料P3の充填量を算出していた。しかし、タイマによって計測された充填時間と、流量計31によって計測された塗料押出液P4の回収量との両方に基づいて、塗料室14内への塗料P3の充填量を算出してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、塗料P3の充填量を最適量に設定変更する際に、CPU42が、直近のN回分の塗料P3の使用量に基づいて、使用量の平均値を算出し、算出した平均値に基づいて最適な充填量(最適量)を得ていた。しかし、CPU42は、直近のN+1回分以上の塗料P3の使用量に基づいて、使用量の平均値を算出してもよいし、直近のN-1回分以下の塗料P3の使用量に基づいて、使用量の平均値を算出してもよい。また、CPU42は、直近の1回分の塗料P3の使用量に基づいて、最適な充填量を得てもよい。即ち、CPU42は、使用量の平均値を算出しなくてもよい。
【0055】
・さらに、上記実施形態では、CPU42が、RAM44に記憶されている複数の補正値の中から1つの補正値を選択し、選択した補正値を使用量の平均値に加算したものを最適な充填量としていた。しかし、CPU42は、常に同じ補正値を平均値に加算し、それを最適な充填量としてもよい。また、CPU42は、補正値を加算せずに、平均値をそのまま最適な充填量としてもよい。
【0056】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0057】
(1)請求項3または4において、前記充填量制御手段は、前記平均値の算出に用いられる所定回数分の前記塗料の使用量のうち、所定の範囲外にある前記使用量を除外したうえで、前記平均値を算出することを特徴とする塗料充填量制御システム。
【0058】
(2)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記区画体はピストンであり、前記塗料室に前記塗料を充填した際に、前記ピストンの変位に伴って前記塗料押出液室内の前記塗料押出液が前記塗料押出液経路に押し出されるとともに、前記塗料押出液室に前記塗料押出液を充填した際に、前記ピストンの変位に伴って前記塗料室内の前記塗料が押し出されることを特徴とする塗料充填量制御システム。
【符号の説明】
【0059】
11…塗料カートリッジ
13…区画体としてのピストン
14…塗料室
15…塗料押出液室
20…塗料充填量制御システム
22…塗料押出液経路としての塗料押出液配管
26…塗料充填経路
31…流量計
42…充填量制御手段としてのCPU
44…記憶手段としてのRAM
P3…塗料
P4…塗料押出液
図1
図2
図3
図4
図5
図6