(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241015BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/16 503
(21)【出願番号】P 2020205008
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大宅 修平
(72)【発明者】
【氏名】伊部 智
(72)【発明者】
【氏名】藤田 洋久
(72)【発明者】
【氏名】小倉 美香
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-178364(JP,A)
【文献】特開2018-051949(JP,A)
【文献】特開2015-077732(JP,A)
【文献】特開2002-331668(JP,A)
【文献】特開2016-043587(JP,A)
【文献】特開2011-183693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口が
吐出口配列方向に列を成した
第一吐出口列と第二吐出口列
とを有した吐出口プレートと、
前記吐出口プレートを支持し、かつ前記吐出口と連通した供給口を有する基板と、
前記吐出口プレートと前記基板との間に設けられ、前記吐出口プレートと前記基板との密着性を向上させる樹脂層と、
前記基板の周囲に付与された封止材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、
前記樹脂層は、前記供給口を覆って設けられ、前記供給口から供給された液体を前記吐出口へと導く複数の連通口を
前記第一吐出口列と前記第二吐出口列との間に有し、
前記連通口は、
前記第一吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第一連通口群と、前記第二吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第二連通口群と、
を成しており、
前記樹脂層は、前記第一連通口群が含む前記複数の列の間、及び、前記第二連通口群が含む前記複数の列の間に、前記吐出口配列方向に沿って延在する直線部を有し、
前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口の列の数は同数であり、
前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口は、同じ大きさで同形状であり、
前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口は、千鳥配置になっていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記連通口は、前記第一吐出口列に近い側の複数の第一連通口からなる第一連通口列と、前記第一連通口列よりも前記第一吐出口列から離れた複数の第二連通口からなる第二連通口列と、前記第二吐出口列に近い側の複数の第三連通口からなる第三連通口列と、前記第三連通口列よりも前記第二吐出口列から離れた複数の第四連通口からなる第四連通口列と、の列を成しており、
前記第一連通口列と前記第二連通口列との間および前記第三連通口列と前記第四連通口列との間の前記樹脂層は、前記直線部を有し、
前記第二連通口列と前記第四連通口列とは、前記吐出口配列方向と交差する方向に隣り合って設けられ、
前記第一連通口と前記第二連通口および前記第三連通口と前記第四連通口とは、千鳥配置になっている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記直線部は、前記第一連通口列および前記第
三連通口列の長さに亘って延在する直線を含む請求項
2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第一連通口列における前記第一連通口の第一ピッチと、前記第二連通口列における前記第二連通口の第二ピッチと
、前記第三連通口列における前記第三連通口の第三ピッチと、前記第四連通口列における前記第四連通口の第四ピッチとは、同一ピッチである請求項
2または3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第一連通口と前記第二連通口とは、前記第一ピッチおよび前記第二ピッチの半分のピッチ分ずれた千鳥配置になって
おり、
前記第三連通口と前記第四連通口とは、前記第三ピッチおよび前記第四ピッチの半分のピッチ分ずれた千鳥配置になっている請求項
4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第一連通口
と、前記第二連通口
と、前記第三連通口と、前記第四連通口とは、多角形形状である請求項
2ないし
5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第一連通口
と、前記第二連通口
と、前記第三連通口と、前記第四連通口とは、前記直線部に対して辺で接するように設けられている請求項
6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第一連通口
と、前記第二連通口
と、前記第三連通口と、前記第四連通口とは、正方形である請求項
6または
7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第一連通口および前記第二連通口は、前記
吐出口配列方向と交差する方向において部分的にオーバーラップして
おり、前記第三連通口および前記第四連通口は、前記吐出口配列方向と交差する方向において部分的にオーバーラップしている請求項
2ないし
8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第一連通口
と前記第二連通口の間
および前記第三連通口と前記第四連通口の間の前記樹脂層は、前記直線部と直交している請求項
2ないし
9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記吐出口プレートは、光を透過する半透明の樹脂である請求項1ないし
10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記直線部の幅が、2μm以上、8μm未満である請求項1ないし
11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第一連通口および前記第二連通口
および前記第三連通口および前記第四連通口における一辺の長さは、30μm以上、50μm未満である請求項
8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
基板を形成する工程と、
前記基板上に、樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層の上に、吐出口プレートを形成する工程と、
前記吐出口プレートに複数の吐出口が
吐出口配列方向に列を成した
第1吐出口列と第2吐出口列
とを形成する工程と、
前記基板に、前記基板を貫通した供給口を形成する工程と、
前記供給口が形成された前記基板の周囲に封止材を付与する工程と、を有した液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記樹脂層は前記供給口を覆って形成され、
前記樹脂層に、前記供給口から供給された液体を前記吐出口へと導く複数の連通口
を前記第1吐出口列と前記第2吐出口列との間に形成し、
前記連通口により、前記第1吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第1連通口群と、前記第2吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第2連通口群と、を形成し、
前記樹脂層に、前記第1連通口群が含む前記複数の列の間、及び、前記第2連通口群が含む前記複数の列の間に、前記吐出口配列方向に沿って延在する直線部を形成し、
前記第1連通口群に含まれる前記連通口の列の数と同数の、前記第2連通口群に含まれる前記連通口の列を形成し、
前記第1連通口群と前記第2連通口群とに含まれる前記連通口を、同じ大きさで同形状に形成し、
前記第1連通口群と前記第2連通口群とに含まれる前記連通口を千鳥配置に形成し、
前記直線部を確認して前記封止材の塗布量を調整することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタとして機能することが可能な層を備え、液体を吐出する液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体吐出ヘッドにおいて、基板の剛性に応じて部分的に封止材の量を異ならせて塗布することで、封止材の硬化収縮による応力で生じた引っ張り力を、基板の剛性に応じた引っ張り力とすることで、基板の変形を抑制することが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、先細状構造体からなる突起体と、貫通孔と、を有するゴミを捕集するフィルタを備えた液体吐出ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-77732号公報
【文献】特開2012-196944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、封止材はロット毎に特性が異なる場合があり、特許文献1の方法では、基板に対して実際に作用する封止材の応力の影響がどの程度であるかは分かりづらく、封止材のロット毎のばらつきによって、基板の変形や破損が生じる虞がある。
【0006】
また、特許文献2のようなフィルタを形成するには工程が煩雑となる虞がある。
【0007】
よって本発明は、基板の変形や破損を抑制し、且つ工程を複雑化することなくフィルタとして機能することが可能な層の形成が可能な液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口が吐出口配列方向に列を成した第一吐出口列と第二吐出口列とを有した吐出口プレートと、前記吐出口プレートを支持し、かつ前記吐出口と連通した供給口を有する基板と、前記吐出口プレートと前記基板との間に設けられ、前記吐出口プレートと前記基板との密着性を向上させる樹脂層と、前記基板の周囲に付与された封止材と、を備えた液体吐出ヘッドであって、前記樹脂層は、前記供給口を覆って設けられ、前記供給口から供給された液体を前記吐出口へと導く複数の連通口を前記第一吐出口列と前記第二吐出口列との間に有し、前記連通口は、前記第一吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第一連通口群と、前記第二吐出口列に対応して設けられ、前記連通口が複数の列を成した第二連通口群と、を成しており、前記樹脂層は、前記第一連通口群が含む前記複数の列の間、及び、前記第二連通口群が含む前記複数の列の間に、前記吐出口配列方向に沿って延在する直線部を有し、前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口の列の数は同数であり、前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口は、同じ大きさで同形状であり、前記第一連通口群と前記第二連通口群とに含まれる前記連通口は、千鳥配置になっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板の変形や破損を抑制し、且つ工程を複雑化することなくフィルタとして機能することが可能な層の形成が可能な液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ノズルプレートの一部分を省略して示した液体吐出ヘッドの斜視図である。
【
図3】記録素子基板の変形と共に変形する有機樹脂層を示した図である。
【
図4】液体吐出ヘッドの製造方法を工程順に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態を適用可能な液体吐出ヘッド1の内部構造がわかるように、ノズルプレート2の一部分を省略して示す斜視図である。液体吐出ヘッド1は、記録素子5を備えた記録素子基板4と、記録素子基板4に支持されたノズルプレート(吐出口プレート)2と、を備えている。ノズルプレート2は、記録素子基板4の記録素子5が設けられた面と対向する対向面を貫通して設けられた複数の孔を有している。ノズルプレート2は、樹脂材料で構成されており、複数の孔はフォトリソグラフィ技術やエッチング技術を用いて一括して設けられている。
【0013】
ここで、ノズルプレート2に設けられた孔は、記録素子5が設けられた記録素子基板4の面と対向する位置に開口する第1の開口部と、液体を吐出する側に設けられた第2の開口部と、を連通することで設けられている。複数の孔は、記録素子5により発生される熱エネルギを利用して液体を吐出する吐出口3として用いられ、所定のピッチで一列に配列した吐出口列を構成している。
【0014】
記録素子基板4に設けられる記録素子5としては、電気熱変換素子(ヒーター)または、圧電素子(ピエゾ素子)等を用いることができる。記録素子基板4における吐出口列に対向する位置には、複数の吐出口3と対応して複数の記録素子5が設けられており、複数の記録素子5は記録素子列を成している。記録素子列は記録素子基板4に2列設けられており、記録素子列の間の位置には、記録素子基板4を貫通して設けられ、記録素子5にインクを供給するためのインク供給口6が設けられている。さらに、ノズルプレート2と記録素子基板4とが接合される事で、ノズルプレート2に凹部として設けられた空間は、液体が通るインク流路7となる。またノズルプレート2と記録素子基板4との間には、ノズルプレート2と記録素子基板4との密着性を高めるための不図示の密着層が設けられている。
【0015】
記録素子基板4には、記録素子5に電気を供給するのに用いるコンタクトパッド8が設けられている。記録素子基板4のコンタクトパッド8へ電気的な接続を行い、記録素子5に電気が供給されて液体の吐出動作を行う。
【0016】
図2は、液体吐出ヘッド1を示す図であり、
図2(a)は、
図1のII-IIにおける断面図、
図2(b)は、
図2(a)のIIb-IIbにおける断面図である。液体吐出ヘッド1では、記録素子5や不図示の電気配線層、不図示の電気絶縁層などを積層する。記録素子基板4上に、電気絶縁層をインクから保護する目的およびノズルプレート2と記録素子基板4との密着性向上を目的として有機樹脂層9が設けられている。有機樹脂層9は、記録素子基板4を貫通して設けられたインク供給口6を覆って設けられ、有機樹脂層9には、インク供給口6上に複数の連通口10が設けられている。インク供給口6から供給されたインクは、連通口10を通過してインク流路7に入る。
【0017】
有機樹脂層9には例えば、商品名:HL-1200CH(日立化成株式会社製)およびHPC-5020(日立化成株式会社製)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、感光性レジストである、商品名:PR-1000D1(日本化薬株式会社製)およびSU-8(日本化薬株式会社)等を用いてもよい。
【0018】
有機樹脂層9は、記録素子基板4上の電気絶縁層をインクから保護するために設けられているが、インク供給口6からインク流路7へのインクの流れにおいては抵抗体となるため、薄く形成されることが好ましい。具体的にはインクへの耐性の観点から厚さ1μm以上、インク吐出特性の観点から厚さ3μm以下が好ましい。これにより、吐出特性を損なうことなく、記録素子基板4上の配線層をインクから保護することができる。
【0019】
また、有機樹脂層9は、インクに含まれたゴミ等のインク流路7への侵入を防ぐフィルタとしての機能を有する。インク供給口6から供給されたインクが有機樹脂層9の連通口10を通過してインク流路7へ侵入する際に、連通口10の孔の寸法よりも大きなゴミは有機樹脂層9に捕集される。これによって、インク供給口6から供給されたインク内のゴミ等がインク流路7へ侵入することを防ぐことができる。本実施形態では、有機樹脂層9を形成する際に、フィルタの形状にパターニングすることで、有機樹脂層9にフィルタ機能を付加することができるため、容易にフィルタを形成することができる。
【0020】
液体吐出ヘッド1は、記録素子基板4が、インクなどの液体を収容する不図示のタンクと接着剤により接合される。また、記録素子基板4と、コンタクトパッド8を介して接合される不図示の電気配線基板と、の電気接合部は、インクが触れることによるショートや腐食、また外部から作用する力による断線等から保護するために、電気接合部を封止材により被覆保護される。
【0021】
熱硬化性の樹脂である封止材は、加熱されることで硬化するが、硬化後に冷却することで収縮する。封止材が収縮する際に封止材の内部には応力が発生し、記録素子基板4を封止材側に引っ張る。このような応力による引っ張る力を記録素子基板4の全体に均等にかけるために、記録素子基板4は、電気接合部のみならず記録素子基板4の周囲を封止材により被覆保護される。
【0022】
しかし、封止材の塗布量調整の制御ミス、あるいは封止材の材料ロットのばらつきによって、ごく稀に記録素子基板4の破損に至る場合がある。これは、引っ張られる力に記録素子基板4の剛性が耐えられないことが一因と考えられる。このような記録素子基板4の破損を防ぐには、記録素子基板4が破損しない程度の引っ張り力となるように封止材の量を調整することが求められる。しかし、封止材の応力による引っ張り力が、実際にどの程度だけ記録素子基板4に作用しているかは分かりづらく、封止材のロット毎のばらつきによって記録素子基板4の変形や破損が生じる虞があった。
【0023】
そこで、本実施形態では、有機樹脂層9を用いて記録素子基板4の変形を目視で確認することで、記録素子基板4にかかる引っ張り力の程度を確認し、封止材の塗布量調整の手間を簡素化する。以下、この方法について詳細に説明する。
【0024】
図2に示すように、本実施形態の有機樹脂層9は、記録素子基板4における1つの吐出口列と対応して、2列の連通口10の列を備えており、記録素子基板4には2列の吐出口列があることから、有機樹脂層9は、4列の連通口10の列を備えている。各吐出口列に対応する2列の連通口10の列は同様であるため、以下では一方の吐出口列に対応する2列の連通口10の列について説明する。
【0025】
ここで、2列の連通口10の列のうち吐出口列に近い側の列の連通口10を第一連通口13、吐出口列から遠い側の列の連通口10を第二連通口14とする。第一連通口13および第二連通口14のそれぞれは、吐出口列が延在する方向(矢印x方向)に延びる直線状に配置されており、第一連通口13の列および第二連通口14の列が隣接して設けられている。第一連通口13および第二連通口14は、形状が正方形であり、第一連通口13の列におけるピッチ(第一ピッチ)と、第二連通口14の列におけるピッチ(第二ピッチ)とが同一ピッチで設けられている。また、第一連通口13および第二連通口14の矢印x方向における位置は、互いに半ピッチ分ずれて設けられている。つまり、第一連通口13の列と第二連通口14の列とでは、第一連通口13と第二連通口14とが千鳥状に配置されている。また、第一連通口13の列と第二連通口14の列との間は、有機樹脂層9が直線状(略直線)となった直線部20が構成されている。直線部20は、吐出口列の配列方向に延在しており、直線部20の幅は、2μm以上、8μm未満が好ましい。また、第一連通口13および第二連通口14における一辺の長さは、30μm以上、50μm未満が好ましい。なお、直線部20は、吐出口列の配列方向に、少なくとも、複数の第一連通口13または複数の第二連通口14に亘って延在していればよい。
【0026】
以下、記録素子基板4と有機樹脂層9との変形について説明する。
【0027】
封止材の硬化によって記録素子基板4に生じる引っ張り力によって記録素子基板4は変形する。記録素子基板4の変形に伴って、記録素子基板4上に設けられた有機樹脂層9も記録素子基板4と同時に変形する。有機樹脂層9の変形では、貫通孔である連通口が設けられている部分が最も変形しやすく変形量も多くなる。
【0028】
図3は、記録素子基板4の変形と共に変形する有機樹脂層9を示した図である。
図3のように有機樹脂層9は、変形することで連通口10の形状が変わる。本実施形態では、有機樹脂層9の変形前に四角形だった連通口10の形状は、有機樹脂層9の変形後に五角形に変わっている。つまり、直線状に設けられた第一連通口13の列(第一連通口列)と第二連通口14の列(第二連通口列)との間の有機樹脂層9の直線部20が、有機樹脂層9の変形によって直線状からジグザグ状に変わることで、連通口10の形状が四角形から五角形に変わる。なお、変形前の連通口10の形状は、四角形に限定するものではなく、変形後の連通口10の形状も五角形に限定するものではない。つまり、連通口10の形状は、直線状に設けられた第一連通口13の列と第二連通口14の列との間の有機樹脂層9の直線部20が直線状から変形(本実施形態ではジグザグ状に変形)するのを認識できる多角形形状であればよい。その際、連通口10が直線部20に対して、辺で接するように連通口10を設けることで、直線部20の変形がより分かり易くなる。
【0029】
また、本実施形態のように、第一連通口13の列と第二連通口14の列との間の有機樹脂層9の直線部20に対して、隣接する第一連通口13(又は隣接する第二連通口14)同士の間の有機樹脂層9が、直交することが好ましい(
図2参照)。直線部20に対して、隣接する第一連通口13(又は隣接する第二連通口14)同士の間の有機樹脂層9が直交することで、直線部20の変形がより分かり易くなる。更には、本実施形態のように、矢印x方向と交差する矢印y方向において、第一連通口13と第二連通口14とが部分的にオーバーラップするように配置されていることが好ましい。矢印y方向において、第一連通口13と第二連通口14とが部分的にオーバーラップして配置されていると、第一連通口13の列と第二連通口14の列との間の有機樹脂層9の変形がより分かり易くなる。
【0030】
このように、本実施形態では、記録素子基板4と共に有機樹脂層9が変形することによって直線部20が変形することで、記録素子基板4が破損に至る前兆を目視で確認することができる。直線部20の変形を目視で判断することで記録素子基板4の変形を認知することができるため、計測器等を用いることなく記録素子基板4の変形を認知することができる。ノズルプレート2は半透明の樹脂であり、光を透過するため、ユーザは、ノズルプレート2を介して有機樹脂層9における直線部20の変形を目視で確認することができる。
【0031】
ユーザは、直線部20が変形したのを確認した場合には、封止材の塗布量が多く、記録素子基板4に強い引っ張り力が生じており破損の虞があると判断することができる。そこで、次の液体吐出ヘッド1の製造において、記録素子基板4の周囲を被覆保護する封止材の塗布量を減らすことで、記録素子基板4の破損や変形を抑制することができる。このように、直線部20の形状を目視で確認することで、封止材の塗布量の増減の判断が可能となり、塗布量の調整を容易に行うことができる。
【0032】
なお、直線部20の変形を、目視ではなく画像認識等の装置で検出して変形の有無を判定してもよい。
【0033】
また、このようなフィルタの機能を有する有機樹脂層9は、有機樹脂層9のパターニングの際に、フィルタとして機能するようにパターニングすることで形成することができる。そのため、フィルタを形成する工程として新たに工程を追加することなくゴミ捕集フィルタを容易に形成することができる。
【0034】
図4は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の製造方法を工程順に示した図である。以下、図面を参照して液体吐出ヘッド1の製造方法を説明する。
【0035】
図4(a)に示すようにSi結晶方位が〈100〉面のSi基板40(記録素子基板4)上に、蓄熱層(不図示)として熱酸化によりSiO
2を0.6μmの厚さで形成する。その後フォトリソグラフィ法によりレジスト(不図示)をエッチングマスクとし、その後、CF
4を用いて反応性イオンエッチングを行うことで蓄熱層のパターニングを形成する。続いて、スパッタリング法により、記録素子5としてTaSiNを厚さ0.01μmで成膜する。次に電気配線層(不図示)としてAlを、スパッタリング法により蒸着させ、0.6μmの厚さで成膜する。フォトレジスト法によりレジストをエッチングマスクとし、BCl
3、Cl
2ガスを混合する。反応性イオンエッチングにより所定の形状にエッチングする。
【0036】
その後、O2プラズマアッシングおよび剥離液によりレジストを除去する。再びフォトリソグラフィ法によりエッチングマスクを形成し、記録素子5上のAlをウェットエッチングにより除去し、再びO2プラズマアッシングおよび剥離液によりレジストを除去し、記録素子5および電気配線層(不図示)を形成する。次に、電気絶縁層としてSiN膜をCVD法によって0.3μmの厚さで成膜し、耐キャビテーション層(不図示)としてTaをスパッタリング法にて0.2μmの厚さで成膜する。
【0037】
続いてフォトリソグラフィ法によりエッチングマスクを形成し、CF4を用いた反応性イオンエッチングによって所定の形状にエッチングし、O2プラズマアッシングおよび剥離液によりレジストを除去し、電気絶縁層(不図示)を形成する。さらにフォトリソグラフィ法によりエッチングマスクを形成し、CF4を用いた反応性イオンエッチングによって所定の形状にエッチングし、O2プラズマアッシングおよび剥離液によりレジストを除去し、耐キャビテーション層(不図示)を形成する。この際、インク供給口6の開口部となる耐キャビテーション層は除去されるよう形成する。
【0038】
続いて
図4(b)に示すように、有機樹脂層9としてポリエーテルアミド樹脂であるHL-1200CH(日立化成株式会社製)をスピンコート法にて2.0μmの厚さで塗布する。さらにフォトリソグラフィ法によりレジスト(不図示)をエッチングマスクとし、その後、CF
4を用いて反応性イオンエッチングを行うことで有機樹脂層9を形成する。この際、のちに形成するインク供給口6上の位置において有機樹脂層9をパターニングし、本実施形態では、一辺の長さが35μmの正方形となるように連通口10を形成する。
【0039】
また、本実施形態では、第一連通口13と第二連通口14との間の有機樹脂層9(直線部20)は、5μm幅で長手方向に直線的に延在するように形成する。さらに隣り合う第一連通口13と第二連通口14とは、半分のピッチでずれた千鳥配置にて形成する。
【0040】
続いて
図4(c)では、基板上にポジ型感光性樹脂層11としてODUR1010A(東京応化工業製)を用いスピンコート法にて15μmの厚さで塗布し、フォトリソグラフィ工程により、パターニングを行いインク流路7のパターンとなる部分を形成する。次にポジ型感光性樹脂層11のパターンが形成された上層にノズルプレート2の部材となるネガ型感光性樹脂層をスピンコート法にて10μmの厚さで成膜し、パターニングすることで吐出口3のパターンを形成する。ネガ型感光性樹脂層としてはEHPE-3150(ダイセル化学工業製)のエポキシ樹脂に感光材を加えたものを使用する。
【0041】
次に、
図4(d)に示すように、記録素子基板4を83℃のTMAH水溶液(濃度22%)中に所定の時間浸漬して異方性エッチングを施し、インク供給口6を形成する。なお異方性エッチングの際、記録素子基板4の表面側にTMAH水溶液が回り込まないように、樹脂レジスト12により記録素子基板4の表面側を保護する。記録素子基板4の裏面側より、バッファードフッ酸によりウェットエッチングを行い、蓄熱層を除去することでインク供給口6を開口する。
【0042】
その後、
図4(e)に示すように記録素子基板4の表面を保護していた樹脂レジスト12、インク流路7のパターンを形成していたポジ型感光性樹脂層11、を除去することでノズルプレート2にインク流路7が形成される。
【0043】
このようにして形成された記録素子基板4は、ダイシングによりチップ単位に切り出された後、インク供給のためのタンク(不図示)に接続される。さらにコンタクトパッド8を介して記録素子基板4と電気配線基板とが電気的に接合され、記録素子基板4の周囲に封止材を付与し被覆保護した。本実施形態では、上記の方法での塗布量検討の結果、40mgの封止材を用いて記録素子基板4の周囲の被覆保護を行った。
【0044】
その後、加熱により封止材を硬化させたのち、インク供給口6上部の連通口10および直線部20を確認したところ、直線部20が変形するほど延伸していなかった。
【0045】
このように作製した液体吐出ヘッドにて熱衝撃試験を実施した。試験条件は、0℃→100℃→0℃の温度変化を1サイクル(1時間)として200サイクルを繰り返す、現実起こり得る環境変化の想定よりも過酷なものとした。試験後、液体吐出ヘッドの電気特性を測定するとともに、記録媒体に印刷し画像評価を行ったが、何れも異常は見受けられなかった。また、液体吐出ヘッドの外観を、金属顕微鏡を使用して観察したが、記録素子基板の破損等は確認されなかった。
【0046】
図5は、比較例として連通口が千鳥配置されていない有機樹脂層50を示した図である。
図5(a)は、変形前の有機樹脂層50であり、
図5(b)は、変形後の有機樹脂層50である。変形前に正方形の形状であった連通口51は、記録素子基板4の変形と共に変形し、変形後には、長方形に変わっている。しかし、正方形から長方形への形状の変化は、正方形の一部の辺が伸びているか否かで判断することから、目視での見極めが困難である。
【0047】
また、第一連通口の列52と第二連通口の列53との間の有機樹脂層50は、変形前も変形後も直線状を維持している。そのため、有機樹脂層50の変形を第一連通口の列52と第二連通口の列53との間の有機樹脂層50から判断するのは困難である。
【0048】
上記のように、連通口51が千鳥配置されていない有機樹脂層50の場合、変形を目視で判断するのは困難である。これに対し、本実施形態のように、連通口10が千鳥配置された有機樹脂層9の場合、第一連通口13の列と第二連通口14の列との間の有機樹脂層9の直線部20を目視することで、変形の有無を容易に判断することができる。更に、有機樹脂層9をフィルタとして用いることから、フィルタの形成を容易に行うことができる。
【0049】
このように、有機樹脂層9において、連通口10を千鳥配置とし、第一連通口13の列と第二連通口14の列との間の有機樹脂層9に直線部20を設ける。これによって、基板の変形や破損を抑制し、且つ工程を複雑化することなくゴミ捕集フィルタの形成が可能な液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法を実現することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 液体吐出ヘッド
2 ノズルプレート
3 吐出口
4 記録素子基板
6 インク供給口
9 有機樹脂層
10 連通口
13 第一連通口
14 第二連通口
20 直線部