(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】光学物品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20241015BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241015BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241015BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241015BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241015BHJP
C09D 175/14 20060101ALI20241015BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241015BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G02B1/14
B32B27/18 Z
B32B27/40
C09D5/00 D
C09D7/61
C09D175/14
C09D201/00
C09D183/04
(21)【出願番号】P 2020219025
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境 政俊
(72)【発明者】
【氏名】清水 武洋
(72)【発明者】
【氏名】池末 隆史
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-091995(JP,A)
【文献】特開平01-266155(JP,A)
【文献】特開2009-197078(JP,A)
【文献】特開2011-099074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
B32B 27/18
B32B 27/40
C09D 5/00
C09D 7/61
C09D 175/14
C09D 201/00
C09D 183/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材、前記プラスチック基材表面の少なくとも一部に設けられたプライマー層、および前記プライマー層の前記プラスチック基材とは反対側の表面に設けられたハードコート層を備える光学物品であって、
前記プライマー層が、樹脂マトリックス、および動的光散乱法により測定されキュムライト解析法により求められる平均粒子径が20~100nmのシリカ粒子1を含み、
前記シリカ粒子1は、シリカのみからなる(ただし、不可避的な不純物を含んでいてもよい。)粒子、またはケイ素と、Ti、Fe、Zn、W、Sn、Ta、Zr、Sb、Nb、In、Ce、Al、Y、PbおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素Mとの酸化物からなり、金属元素Mの量が金属元素Mの酸化物に換算して1.5質量%以下である粒子であり、
前記ハードコート層が、シリカ系マトリックス、および動的光散乱法により測定されキュムライト解析法により求められる平均粒子径が3~20nmのシリカ粒子2を含み、
前記シリカ粒子1の平均粒子径/前記シリカ粒子2の平均粒子径の値が2.5~20である、
光学物品。
【請求項2】
前記樹脂マトリックスが、エチレン性不飽和結合含有基を有するポリウレタンから形成されたものである請求項1に記載の光学物品。
【請求項3】
前記樹脂マトリックスのJIS K7161に準拠して測定した伸び率が、150~200%の範囲にある請求項1または2に記載の光学物品。
【請求項4】
前記プラスチック基材が、ポリカーボネート樹脂基材、ポリアミド樹脂基材またはポリセルロース樹脂基材である請求項1~3のいずれか一項に記載の光学物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材上にシリカ粒子を含むプライマー層とハードコート層を備えた、光学レンズなどの光学物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学レンズ材料としては、無機ガラス基材に代わってプラスチック基材が中心的に使用されている。この要因としては、プラスチック基材は耐衝撃性、加工性、染色性等に優れていることが挙げられる。
【0003】
光学レンズに用いられるプラスチック基材としては、高い透明性を有することなどから従来、ポリカーボネート樹脂製の基材が主に使用されているが、傷つき易いことから、その表面にはハードコート層が設けられ、傷つきの防止が図られている。また、ハードコート層はプラスチック基材に密着し難いことから、これらの間にプライマー層が設けられて密着性が高められている。
【0004】
このような、プラスチック基材、プライマー層およびハードコート層を備える光学物品は、特許文献1、2等の多数の文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-150309号公報
【文献】国際公開第2007/026529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プラスチック基材、プライマー層およびハードコート層を備える従来の光学物品は、硬度(ハードコート層側表面の硬度)の点ではさらなる改善の余地があった。
このような課題に鑑み、本発明は、プラスチック基材上にプライマー層およびハードコート層を備えた、高い硬度(特に鉛筆硬度)を有する光学物品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、たとえば以下の[1]~[4]に関する。
[1]
プラスチック基材、前記プラスチック基材表面の少なくとも一部に設けられたプライマー層、および前記プライマー層の前記プラスチック基材とは反対側の表面に設けられたハードコート層を備える光学物品であって、
前記プライマー層が、樹脂マトリックス、および動的光散乱法により測定されキュムライト解析法により求められる平均粒子径が20~100nmのシリカ粒子1を含み、
前記ハードコート層が、シリカ系マトリックス、および動的光散乱法により測定されキュムライト解析法により求められる平均粒子径が3~20nmのシリカ粒子2を含み、
前記シリカ粒子1の平均粒子径/前記シリカ粒子2の平均粒子径の値が2.5~20である、
光学物品。
【0008】
[2]
前記樹脂マトリックスが、エチレン性不飽和結合含有基を有するポリウレタンから形成されたものである前記[1]の光学物品。
【0009】
[3]
前記樹脂マトリックスのJIS K7161に準拠して測定した伸び率が、150~200%の範囲にある前記[1]または[2]の光学物品。
【0010】
[4]
前記プラスチック基材が、ポリカーボネート樹脂基材、ポリアミド樹脂基材またはポリセルロース樹脂基材である前記[1]~[3]のいずれかの光学物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光学物品は、高い硬度を有する。本発明に係る光学物品は、さらに、外観(透明性)、ならびにプラスチック基材と、プライマー層およびハードコート層との密着性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る光学物品をさらに詳細に説明する。
本発明に係る光学物品は、プラスチック基材、前記プラスチック基材の表面に設けられたプライマー層、および前記プライマー層の、前記プラスチック基材とは反対側の表面に設けられたハードコート層を備え、前記プライマー層に含まれるシリカ粒子の粒径と、前記ハードコート層に含まれるシリカ粒子の粒径との間に、所定の関係を有している。
【0013】
本発明に係る光学物品は、たとえば、前記プラスチック基材の表面に、プライマー層形成用塗料からプライマー層を形成し、次いで前記プライマー層の前記プラスチック基材とは反対側の表面に、ハードコート層形成用塗料からハードコート層を形成することにより、製造することができる。
【0014】
まず、プライマー層形成用塗料およびハードコート層形成用塗料について詳述する。
[プライマー層形成用塗料]
前記プライマー層形成用塗料としては、たとえば(A)樹脂マトリックス形成成分、(B)シリカ粒子1、(C)溶媒、および任意に(D)添加物(以下、それぞれ成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)とも記載する。)を含有するプライマー層形成用塗料組成物(以下「プライマー塗料組成物」とも記載する。)が挙げられる。プライマー層形成用塗料組成物としては、従来公知のものを使用してもよい。
【0015】
各成分について詳述する。
(A)樹脂マトリックス形成成分
樹脂マトリックス形成成分(A)としては、たとえばポリウレタンおよびポリエステルが挙げられ、ポリウレタンが好ましい。
【0016】
ポリウレタンは、1液型または2液型のウレタン塗料、水系ポリウレタン分散液などの形態で用いられてもよく、これらの中でも水系ポリウレタン分散液(水の中にポリウレタン粒子が分散したもの)が好ましい。
【0017】
水系ポリウレタン分散液の中でも、自己乳化型のポリウレタンエマルジョンが好ましい。エマルジョン粒子の平均粒子径は、好ましくは80nm以下である。
水系ポリウレタン分散液は、好ましくはアニオン性である。
【0018】
水系ポリウレタン分散液に含まれるポリウレタンは、硬度の高い光学物品を得る観点から、好ましくはエチレン性不飽和結合含有基を有するポリウレタンのエマルジョン粒子である。
【0019】
エチレン性不飽和結合含有基は、好ましくは(メタ)アクリロイル基、さらに好ましくはアクリロイル基である。
樹脂マトリックス形成成分(A)としては、プライマー層の樹脂マトリックスを形成するための成分として従来公知のもの、たとえば特開平6-337376号公報に記載のポリウレタン樹脂、特開2011-99074号公報に記載の架橋構造を有するポリカーボネート系ポリウレタン化合物のアニオン性エマルジョン微粒子を使用してもよい。
【0020】
樹脂マトリックス形成成分から形成された膜のJIS K7161に準拠して測定した伸び率は、好ましくは150~200%の範囲にある。伸び率が上記範囲にあると、硬度の高い光学物品を製造することができる。
水系ポリウレタン分散液の市販品の例としては、楠本化成(株)製のNeoPac R-9699、第一工業製薬(株)製のスーパーフレックス110が挙げられる。
【0021】
(B)シリカ粒子1
前記シリカ粒子1は、動的光散乱法により測定されキュムラント解析法により求められる平均粒子径が20~100nm、好ましくは20~90nmの範囲にあるシリカ粒子である。
【0022】
平均粒子径が上記範囲にあるシリカ粒子1を用いることにより、硬度が高く、透明性が高い光学物品を製造することができる。一方、平均粒子径が上記下限値を下回ると、シリカ粒子は光学物品に対する衝撃または圧力を受け止め難くなり、光学物品の硬度が低下すると考えられる。また、平均粒子径が上記上限値を上回ると、プラスチック基材上にプライマー層形成用塗料組成物を塗布した際に、シリカ粒子の分散性が低くなり、光学物品の硬度が低下すると考えられる。
【0023】
前記シリカ粒子1は、シリカのみからなる(ただし、不可避的な不純物を含んでいてもよい。)粒子であってもよく、ケイ素と、Ti、Fe、Zn、W、Sn、Ta、Zr、Sb、Nb、In、Ce、Al、Y、PbおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素Mとの酸化物からなる粒子であってもよい。この金属元素Mの量は、本発明の効果を損なわない程度の少量であることが好ましく、シリカ粒子1中に、たとえば、金属元素Mの酸化物に換算して1.5質量%以下、好ましくは1.4質量%以下である。
【0024】
球状のシリカ粒子1の市販品の具体例としては、Cataloid(登録商標) SI-50、SI-45P、SI-80P(いずれも日揮触媒化成(株)製、シリカゾルの状態)が挙げられる。
【0025】
非球状(たとえば、異形、連結、鎖状)のシリカ粒子1としては、特開2005-186435号公報などに記載の従来公知の方法で製造したものが挙げられる。
前記シリカ粒子1としては、表面処理されていないシリカ粒子が好ましい。
【0026】
(C)溶媒
前記溶媒(C)は、水および/または有機溶媒であり、好ましくは水を含む。
前記有機溶媒としては、
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、イソプロピルグリコールなどのアルコール類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソプルピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類:
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類
などを使用することができる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(D)添加物
前記プライマー層形成用塗料組成物は、プライマー層形成用塗料に通常含まれ得る添加物(D)(以下「成分(D)」ともいう。)を含有してもよい。添加物(D)の例としては、界面活性剤が挙げられ、他の例として紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、架橋剤、色素(染料、顔料等)が挙げられる。
【0028】
各成分の割合
前記プライマー層形成用塗料組成物中の各成分の割合は、プライマー層中のシリカ粒子1の割合が後述する範囲となるように、適宜調整される。
【0029】
[ハードコート層形成用塗料]
前記ハードコート層形成用塗料としては、たとえば(E)シリカ系マトリックス形成成分、(F)シリカ粒子2、(G)溶媒および任意に(H)添加物(以下、それぞれ成分(E)、成分(F)、成分(G)、成分(H)とも記載する。)を含有するハードコート層形成用塗料組成物(以下「ハードコート塗料組成物」とも記載する。)が挙げられる。
【0030】
各成分について詳述する。
(E)シリカ系マトリックス形成成分
シリカ系マトリックス形成成分(E)としては、ハードコート層のシリカ系マトリックスを形成するための成分として従来公知のハードコート層形成用塗料に含まれる有機ケイ素化合物、たとえば特開2009-197078号公報の[0022]~[0030]に記載された有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0031】
前記有機ケイ素化合物としては、より具体的には、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物(以下「有機ケイ素化合物(e)」ともいう。)、その加水分解物および前記加水分解物の部分縮合物からなる群から選択される少なくとも1種の成分が挙げられる。
【0032】
R1R2
aSi(OR3)3-a …(I)
式(I)において、R1はビニル基、エポキシ基またはメタクリロキシ基を有する有機基を表し、好ましくはエポキシ基を有する有機基を表す。前記有機基中の炭素数は、好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。
【0033】
R2は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
R3は炭素数1~8の炭化水素基、炭素数8以下のアルコキシアルキル基または炭素数8以下のアシル基を表す。
【0034】
aは0または1を表す。
前記有機ケイ素化合物(e)としては、アルコキシシラン化合物が代表的なものであり、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、α-グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシランなどが好ましい。これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記有機ケイ素化合物(e)の加水分解物および該加水分解物の部分縮合物は、それぞれ前記有機ケイ素化合物(e)を無溶媒下またはアルコール(例えばメタノール)等の極性有機溶媒中で、酸および水(例えば塩酸)の存在下で部分加水分解または加水分解させたもの、および前記加水分解物をさらに部分縮合させたものである。これらの有機溶媒および水の一部または全部は、前記ハードコート層形成用塗料組成物を調製する際に、そのまま後述する溶媒(G)として使用してもよい。
【0036】
前記ハードコート層形成用塗料組成物を調製する際にシリカ粒子2(F)を後述するシリカゾルとして配合する場合には、前記加水分解および/または前記部分縮合は、前記有機ケイ素化合物(e)がシリカ粒子2(F)のゾルと混合された状態で実施されてもよく、混合前に実施されてもよい。
【0037】
(F)シリカ粒子2
前記シリカ粒子2は、動的光散乱法により測定されキュムラント解析法により求められる平均粒子径が3~20nm、好ましくは4~15nmの範囲にあるシリカ粒子である。
【0038】
シリカ粒子2は、シリカのみからなる(ただし、不可避的な不純物を含んでいてもよい。)粒子であってもよく、ケイ素と、Ti、Fe、Zn、W、Sn、Ta、Zr、Sb、Nb、In、Ce、Al、Y、PbおよびMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素Mとの酸化物からなる粒子であってもよい。この金属元素Mの量は、本発明の効果を損なわない程度の少量であることが好ましく、シリカ粒子2中に、たとえば、金属元素Mの酸化物に換算して1.5質量%以下、好ましくは1.4質量%以下である。
【0039】
シリカ粒子2は、特開2009-197078号公報などに記載の従来公知の方法で製造することができる。シリカ粒子2の市販品の具体例としては、Cataloid SI-550、SI-30、SI-40(いずれも日揮触媒化成(株)製、シリカゾルの状態)が挙げられる。
前記シリカ粒子2としては、シランカップリング剤等で表面処理されたシリカ粒子が好ましい。
【0040】
(G)溶媒
前記溶媒(G)の具体例としては、前記溶媒(C)の具体例として挙げた溶媒が挙げられる。
【0041】
(H)添加物
前記ハードコート層形成用塗料組成物は、ハードコート層形成用塗料に通常含まれ得る添加物(H)(以下「成分(H)」ともいう。)を含有してもよい。添加物(H)の例としては、硬化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、および色素(染料、顔料等)が挙げられる。
【0042】
硬化剤としては、従来公知のハードコート層形成用塗料に含まれ得る硬化剤、たとえば特開2009-197078号公報の[0033]~[0036]に記載された硬化剤が挙げられる。
【0043】
各成分の割合
前記ハードコート層形成用塗料組成物中の各成分の割合は、ハードコート層中のシリカ粒子2の割合が後述する範囲となるように、適宜調整される。
【0044】
[光学物品]
本発明に係る光学物品(たとえば、眼鏡レンズ等の光学レンズ、光学フィルム)は、プラスチック基材、プライマー層、およびハードコート層からを備えている。
【0045】
前記プライマー層は、前記プラスチック基材表面の少なくとも一部に設けられており、たとえば、板状またはフィルム状の前記プラスチック基材の一方の表面に設けられていてもよく、前記プラスチック基材の両面に設けられていてもよい。
【0046】
前記ハードコート層は、前記プライマー層の、前記プラスチック基材とは反対側の表面に設けられている。
本発明に係る光学物品は、その使用目的によっても異なるが、前記ハードコート層の前記プライマー層とは反対側の表面に、さらに反射防止膜、帯電防止膜、防汚性膜等の任意の層を備えていてもよい。前記任意の層は一層であってもよく、複数層であってもよい。
【0047】
プラスチック基材:
前記プラスチック基材の屈折率は、好ましくは1.45~1.65である。
前記プラスチック基材の例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリセルロース樹脂(トリアセチルセルロース等)が挙げられる。
【0048】
プライマー層およびハードコート層:
前記プライマー層は、樹脂マトリックスおよび前記シリカ粒子1を含む。前記樹脂マトリックス中には、前記シリカ粒子1が分散している。
【0049】
前記プライマー層中の、前記シリカ粒子1の割合は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%である。
プライマー層の膜厚は、好ましくは0.5~5.0μm、より好ましくは0.5~4.0μmの範囲にある。
【0050】
前記プライマー層は、たとえば前記プラスチック基材の表面に前記プライマー層形成用塗料を塗布し、硬化させることにより、形成することができる。硬化により、前記樹脂マトリックス形成成分から前記樹脂マトリックスが形成される。
【0051】
前記樹脂マトリックスは、好ましくはエチレン性不飽和結合含有基を有するポリウレタンから形成されたものである。エチレン性不飽和結合含有基は、好ましくは(メタ)アクリロイル基、さらに好ましくはアクリロイル基である。
【0052】
前記ハードコート層は、シリカ系マトリックスおよび前記シリカ粒子2を含む。前記シリカ系マトリックス中には、前記シリカ粒子2が分散している。
前記ハードコート層中の、前記シリカ粒子2の割合は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%である。
前記ハードコート層の膜厚は、好ましくは3.0~10.0μm、より好ましくは3.0~8.0μmの範囲にある。
【0053】
前記ハードコート層は、たとえば前記プライマー層の表面に前記ハードコート層形成用塗料を塗布し、硬化させることにより、形成することができる。硬化により、前記シリカ系マトリックス形成成分から前記シリカ系マトリックスが形成される。
【0054】
各塗料を硬化させる際には、たとえば、前記プラスチック基材の表面に前記プライマー層形成用塗料を塗布して60~120℃で3~30分間加熱して予備硬化を行い、予備硬化された塗膜の表面に前記ハードコート層形成用塗料を塗布して80~130℃で0.5~5時間加熱して本硬化を行ってもよい。
【0055】
シリカ粒子の粒子径:
上述のように、プライマー層に含まれるシリカ粒子1としては、上部(ハードコート層方向)からの衝撃や圧力を受け止める面積が大きいシリカ粒子が好ましく、かつプライマー層の透明性も考慮すると、シリカ粒子1の平均粒子径は、20~100nmであり、好ましくは20~90nmである。
【0056】
また、上述のように、ハードコート層に含まれるシリカ粒子2としては、表面積が大きく緻密化し易い、粒子径が小さいシリカ粒子が好ましいことから、シリカ粒子2の平均粒子径は、3~20nmであり、好ましくは4~15nmである。
【0057】
本発明に係る光学物品においては、プライマー層に含まれるシリカ粒子1の平均粒子径とハードコート層に含まれるシリカ粒子2の平均粒子径との関係が重要であり、シリカ粒子1の平均粒子径/シリカ粒子2の平均粒子径の値(以下「粒径比」とも記載する。)は、2.5~20であり、好ましく2.5~18である。粒径比がこの範囲にあると、上記の理由により、本発明の光学物品はハードコート層の表面において高い硬度を有する。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
[測定方法および評価試験方法]
実施例その他で採用された測定方法および評価試験方法は、以下の通りである。
(1)シリカ粒子の平均粒子径:
シリカ粒子の水分散ゾルに純水を混合して調製した固形分含有量0.15%の試料を、長さ1cm、幅1cm、高さ5cmの石英セルに入れて、動的光散乱法による超微粒子粒度分析装置(大塚電子(株)製、型式ELS-Z2)を用いて、粒子群の粒子径分布を測定した。この測定結果から、キュムラント法により平均粒子径を算出した。
【0060】
(2)プライマー層及びハードコート層の密着性:
実施例または比較例で作製したプライマー層及びハードコート層付きプラスチックレンズ基材のハードコート層側表面に、ナイフにより1mm間隔で基材に達するまで切れ目を入れて1平方mmのマス目を100個形成し、商品名「NICHIBAN」のセロハン製粘着テープを、マス目に押し付けた後、レンズ基材の面内方向に対して90度方向へ引っ張り、この操作を合計10回行い、剥離しないマス目の数を数えた。
【0061】
(3)塗膜の外観(曇り):
実施例または比較例で作製したプライマー層及びハードコート層付きプラスチックレンズ基材のヘーズを、色彩・濁度同時測定器 COH 400(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0062】
(4)光学物品の鉛筆硬度:
実施例または比較例で作製したプライマー層及びハードコート層付きプラスチックレンズ基材のハードコート層側表面の硬度を、JIS K5600に準じて鉛筆硬度試験器により測定した。
【0063】
[光学物品の製造]
(プライマー塗料組成物の調製)
[製造例P1]
ウレタンアクリル共重合体ディスパージョン(楠本化成(株)製、NeoPac R-9699、伸び率:160%、平均粒子径:77nm、固形分濃度:40質量%)124.5gを攪拌しながら、ここへ純水(高杉製薬(株)製)252.1g、メタノール(林純薬工業(株)製)496.4g、シリカ粒子(日揮触媒化成(株)製、カタロイドSI-45P、平均粒子径:45nm、固形分濃度:40.5質量%)を123.0g、レベリング剤(L-7604(東レ・ダウコーニング(株)製)のメタノール10%希釈品)4.0gを加え、室温で一昼夜撹拌して、プライマー塗料組成物(P1)を調製した。
プライマー塗料組成物(P1)の各成分の配合量(各成分の合計量を100質量部とした相対量で表示する。)を表1に示す。
【0064】
[製造例P2~P3、C1~C4]
各成分の種類および配合量を表1に記載のとおり変更したこと以外は製造例P1と同様にして、プライマー塗料組成物(P2)、(P3)、(C1)~(C4)をそれぞれ調製した。これらの塗料組成物における各成分の配合量を表1に示す。
【0065】
【0066】
(ハードコート塗料組成物の調製)
[製造例H1]
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社(株)製、A―187、固形分濃度:98.5質量%以上)131.9gにメタノール(林純薬工業(株)製)17.3gを混合し、撹拌しながら、この溶液の中に0.01Nの塩酸水溶液38.9gを滴下した。更に、この溶液を室温で一昼夜撹拌することでシラン化合物の加水分解を行った。
【0067】
次いで、この加水分解液に、メタノール3.08g、シリカ粒子(日揮触媒化成(株) 製 カタロイドSI-550、平均粒子径:5nm、固形分濃度:20.5質量%、分散媒:水)643.5g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(ダウケミカル日本(株)製)134.5g、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸(関東化学(株)製、純度:98質量%以上)11.3g、ジシアンジアミド(キシダ化学(株)製、純度:98質量%以上)8.1g、レベリング剤(DOWSILTM L-7001 Fluid(ダウ・東レ(株)製)のメタノール10%希釈品)7.6g、およびレベリング剤(DOWSILTM SH 28 Paint Additive(ダウ・東レ(株))のプロピレングリコールモノメチルエーテル10%希釈品)3.8gを加え、室温で一昼夜撹拌して、塗料組成物(H1)を調製した。
ハードコート塗料組成物(H1)の各成分の配合量(各成分の合計量を100質量部とした相対量で表示する。)および評価結果を表1に示す。
【0068】
[製造例H2、H3、C5]
各成分の種類および配合量を表2に記載のとおり変更したこと以外は製造例H1と同様にして、ハードコート塗料組成物(H2)、(H3)、(C5)をそれぞれ調製した。これらの塗料組成物における各成分の配合量を表2に示す。
【0069】
【0070】
(光学物品の製造)
[実施例1]
(プライマー層の形成)
40℃に加熱した5%のNaOH水溶液中に、プラスチックレンズ(ポリカーボネート樹脂製)を3分間浸漬することでエッチングを実施し、その後、レンズに付着した水酸化ナトリウムを水で十分に洗い流し、50℃で温風乾燥した。このように前処理を行ったプラスチックレンズ(ポリカーボネート樹脂製)基材の表面に、製造例P1で製造されたプライマー塗料組成物(P1)をディッピング法により塗布して塗膜を形成した。
【0071】
次に、前記塗膜を80℃で10分間、加熱処理して、塗膜(プライマー層)の硬化を行った。このようにして形成された前記プライマー層の硬化後の膜厚は0.9μmであった。
【0072】
(ハードコート層の形成)
プラスチックレンズ基材上に形成されたプライマー層の表面に、ハードコート塗料組成物(H1)をディッピング法により塗布して塗膜を形成した。
【0073】
次に、前記塗膜を100℃で10分間、乾燥させた後、120℃で1時間、加熱処理して、塗膜(ハードコート層)の硬化を行い、塗膜付きレンズ基材(以下「光学物品」ともいう。)を得た。このようにして形成された前記ハードコート層の硬化後の膜厚は5.2μmであった。
【0074】
[実施例2~6、比較例1~5]
プライマー塗料組成物およびハードコート塗料組成物として表3に記載のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして、光学物品を製造した。なお、実施例4では、ディッピング法における引き上げ速度を上げることによりプライマー層の厚さを調節した。光学物品の評価結果を表3に示す。
【0075】