(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】魚類用フロック化飼料
(51)【国際特許分類】
A23K 40/10 20160101AFI20241015BHJP
A23K 10/22 20160101ALI20241015BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20241015BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20241015BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20241015BHJP
A23K 20/20 20160101ALI20241015BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20241015BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20241015BHJP
A23K 10/10 20160101ALI20241015BHJP
【FI】
A23K40/10
A23K10/22
A23K10/20
A23K10/30
A23K20/147
A23K20/20
A23K20/163
A23K50/80
A23K10/10
(21)【出願番号】P 2020548199
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033259
(87)【国際公開番号】W WO2020059429
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018175689
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】永田 良一
(72)【発明者】
【氏名】川上 優
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-092243(JP,A)
【文献】特開平11-253111(JP,A)
【文献】特開平05-268884(JP,A)
【文献】特開2018-108049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類成分のいずれか又は2種以上である主栄養素
を含む原料を攪拌し,ペースト状飼料を得る工程であるペースト状飼料の作成工程と,
前記ペースト状飼料に溶媒を加え懸濁液を得る工程である懸濁液作成工程と,
前記懸濁液に凝集促進物質を添加する凝集促進物質添加工程と,
前記凝集促進物質添加工程の後に,前記懸濁液を静置する静置工程と,
前記静置工程の後に,フロック化した魚類用フロック化飼料を回収する飼料回収工程とを含む,
魚類用フロック化飼料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の魚類用フロック化飼料の製造方法であって,
前記凝集促進物質添加工程の後であり,かつ前記静置工程の前に,前記懸濁液を攪拌する攪拌工程をさらに含む,魚類用フロック化飼料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の魚類用フロック化飼料の製造方法であって,
前記懸濁液は,スピルリナ,及びナンノクロロプシスのいずれか又は2種以上をさらに含む,魚類用フロック化飼料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の魚類用フロック化飼料の製造方法によって製造された魚類用フロック化飼料を用いた魚類の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚類の飼料,飼料の製造方法,及び魚類の飼育方法に関する。より詳しく説明すると,本発明は,フロック化した魚類の飼料などに関する。
【背景技術】
【0002】
サメ卵などを含むペースト状飼料は,ニホンウナギ(Anguilla japonica)仔魚の生育に唯一成功している飼料である(特許文献1参照)。そこからさらに,サメ卵を基本として,低分子化させた大豆ペプチド,オキアミエキス,ビタミン類などを加えた栄養強化飼料が開発されている(特許文献2参照)。
【0003】
従来のアブラツノザメ卵をベースとしたペースト状飼料は,ニホンウナギ仔魚の消化吸収能に併せて開発された飼料である。しかしながら,本ペースト状飼料は,飼育水槽に加えた場合,時間経過につれペースト内の微粒子が分散しコロイド溶液になることで飼育水が懸濁し,また粘性が高いため水槽底面に付着し容易に解離しないといった問題がある。特に含有している油脂による水質汚染の問題があり,飼育水の汚濁によって水槽壁面が汚染され,飼育水と壁面で病原菌が増殖し,それによって感染による飼育仔魚の大量死が度々認められる。そのため,ペースト状飼料を飼育仔魚に与えた場合,細菌の増殖を防除するため,ペースト状飼料の洗い流しや,1日1回飼育仔魚の別水槽への移動,定期的な水槽の洗浄といった作業が必要など,飼育作業の重負担が問題となっている。
【0004】
このように,従来知られているサメ卵や鶏卵黄などを用いたペースト状飼料では,水槽内の水質悪化などの問題や餌が水中に拡散し易く餌料効率が低く,養殖魚1尾辺りの飼育作業効率が著しく低いため,さらなる開発の余地がある。そのため,産業的用途に有効に用い得る飼料が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-253111号公報
【文献】特開2005-13116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペースト状飼料や微細粒子状飼料の嗜好性を損なうことなく,飼育水や水槽壁面への汚染を抑制できる魚類用飼料,飼料の製造方法,及びその飼料を用いた魚類の飼育方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は,基本的には,ペースト状などの魚類用飼料を適切にフロック化させることで,飼料による汚染を防止でき,魚類の飼育が容易になるという実施例による知見に基づく。
【0008】
魚類用フロック化飼料
この明細書における魚類用フロック化飼料は,卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類系成分のいずれか又は2種以上である主栄養素と,凝集促進物質とを含む。
凝集促進物質の例は,γ-ポリグルタミン酸系凝集剤,活性炭含有凝集剤,キトサン系凝集剤,及び無機系凝集剤のいずれか又は2種以上である。魚類用フロック化飼料は,ウナギ仔魚用の飼料として好ましく用いられる。
【0009】
魚類用フロック化飼料の製造方法
この明細書における魚類用フロック化飼料の製造方法は,凝集促進物質添加工程と,静置工程と,飼料回収工程とを含む。
凝集促進物質添加工程は,卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類成分のいずれか又は2種以上である主栄養素を含む懸濁液に凝集促進物質を添加する工程である。
静置工程は,凝集促進物質添加工程の後に,懸濁液を静置する工程である。
飼料回収工程は,静置工程の後に,フロック化した魚類用フロック化飼料を回収する工程である。
【0010】
上記の方法は,凝集促進物質添加工程の後であり,かつ静置工程の前に,懸濁液を攪拌する攪拌工程をさらに含んでもよい。
懸濁液は,スピルリナ,及びナンノクロロプシスのいずれか又は2種以上をさらに含んでもよい。
【0011】
魚類の飼育方法
この明細書における魚類の飼育方法は,上記した魚類用フロック化飼料の製造方法によって製造された魚類用フロック化飼料を用いた魚類の飼育方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
従来のペースト状飼料や微細粒子状飼料は,飼育水を汚染させやすかった。一方,魚類用フロック化飼料は,ペースト状飼料や微細粒子状飼料の嗜好性を損なうことなく,粘性を低下させることができ,飼育水や水槽壁面への汚染を抑制できる。このため,魚類を飼育する際の水質汚染などを防止でき,容易に魚類を飼育できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は,フロック化飼料を作製する工程を説明するためのフロー図の例を示す。
【
図2】
図2は,上記の方法により得られた,細断化前のバイオ系フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
【
図3】
図3は,ペースト状飼料とバイオ系(ポリグルタミン酸系)フロック化飼料を添加した水槽内における濁度の変化を示す図面に代わるグラフである。
【
図4】
図4は,無機系(カーボン系)フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
図4Aは,無機系(カーボン系)フロック化飼料を示し,
図4Bはスピルリナ混入フロック化飼料を示し,
図4Cはナンノクロロプシス混入フロック化飼料を示す。
【
図5】
図5は,飼料の状況を示す図面に代わる写真である。
【
図6】
図6は,有機系(キトサン系)フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
図6Aは有機系フロック化飼料(1)を示し,
図6Bは有機系フロック化飼料(2)を示す。
【
図7】
図7は,飼料の状況を示す図面に代わる写真である。
図7の左はペースト状飼料を示し,
図7の右はフロック化飼料を示す。
【
図8】
図8は,フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0015】
魚類用フロック化飼料
この明細書における魚類用フロック化飼料は,卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類系成分のいずれか又は2種以上である主栄養素と,凝集促進物質とを含む。主栄養素は,卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類系成分を単独でも2種以上含んでいてもよい。凝集促進物質は残留成分であり,飼料に大量に残留している必要はない。魚類用フロック化飼料は,フロック状態の魚類の餌である。フロック状態とは,原材料や微生物などが集合した状態を意味する。
【0016】
魚類用フロック化飼料における魚類(つまりフロック化飼料が投与される対象となる魚類)は,特に限定されない。魚類は,水産対象種であることが好ましい。魚類の例は,ウナギ目魚類,特に浮遊仔魚(レプトケファルス幼生)であることが好ましい。ウナギ目魚類の例は,ニホンウナギ(Anguilla japonica)などのウナギ科魚類や,マアナゴ(Conger myriaster)などのアナゴ科魚類,ハモ(Muraenesox cinereus)などのハモ科魚類である。
レプトケファルス幼生は,ニホンウナギの場合,孵化した後,開口し餌を食べ始める,全長5~7mmの5日もしくは6日齢仔魚から,変態開始前,最大伸長期に達した全長50mm台のサイズまでを指す。
【0017】
卵成分
卵成分の例は,乳化作用が期待できるアブラツノザメサメ卵,鶏卵黄粉末及びそれら以外の魚卵又は動物の卵由来の成分である。これらの卵成分は,酵素処理品であってもよい。卵成分は,魚類用フロック化飼料を100重量%とすると(水分を除いた重量,以下同様),10重量%以上80重量%以下であることが好ましく,20重量%以上60重量%以下でもよいし,30重量%以上60重量%以下でも,10重量%以上30重量%以下でもよい。
【0018】
動物タンパク質
動物タンパク質の例は,オキアミエキスや、卵白由来のタンパク質である。タンパク質は,ペプチドやアミノ酸であってもよい。タンパク質,ペプチド及びアミノ酸は,魚類用フロック化飼料を100重量%とすると,5重量%以上60重量%以下でもよいし,10重量%以上40重量%以下でもよいし,5重量%以上30重量%以下でもよい。低分子化ペプチドとしてキューピー社製ぺプチファイン,ファーマフーズ社のランペップが好ましい。
【0019】
植物タンパク質
植物タンパク質の例は,大豆由来のタンパク質である。タンパク質は,ペプチドやアミノ酸であってもよい。タンパク質,ペプチド及びアミノ酸は,魚類用フロック化飼料を100重量%とすると,5重量%以上60重量%以下でもよいし,10重量%以上40重量%以下でもよいし,5重量%以上30重量%以下でもよい。低分子化ペプチドとして,例えば,不二製油社製のハイニュートシリーズが好ましい。
藻類や植物プランクトンの生体や,その粉末体を植物タンパク質源として用いてもよい。魚類用フロック化飼料を100重量%とすると,藻類や植物プランクトンの生体や,その粉末体は,0.1重量%以上80重量%以下含まれていてもよく,5重量%以上60重量%以下でもよいし,10重量%以上40重量%以下でもよいし,5重量%以上30重量%以下でもよい。藻類や植物プランクトンの例は,クロレラ類,キートセロス類ナンノクロロプシスや,スピルリナ類,ドナリエラ,ユーグレナ類である。スピルリナ類は,らせん構造であるためフロックを形成しやすくなるので好ましい。植物プランクトンは透明細胞外ポリマー粒子を産生することから,凝集効果を高めることが期待される。
【0020】
魚介類系成分の例は,フィッシュソリュブルである。
【0021】
凝集促進物質の例は,γ-ポリグルタミン酸系凝集剤,活性炭含有凝集剤,キトサン系凝集剤,及び無機系凝集剤のいずれかである。凝集促進物質は,カオチン性,アニオン性,ノニオン性,アルミニウム系,鉄塩系,ポリシリカ鉄系,キチン・キトサン系のいずれかの凝集剤や,活性シリカ,アルギン酸ソーダ,カーボンブラックなどの炭素微粒子など,懸濁液中の飼料成分を凝集し,フロック化することが可能な物質であればよい。凝集促進物質は細菌類より産生するなどした生物由来のバイオ凝集剤であってもよい。凝集促進物質は,豆腐の凝固剤として使用されている,塩化マグネシウム(MgCl2)などのにがり成分や,塩化カルシウム(CaCl2),硫酸カルシウム(CaSO4),グルコノデルタラクトン,石灰(Ca(OH)2)であってもよい。これらの凝集促進物質は,単一種類を用いてもよいし,2種以上の混合物を用いてもよい。凝集促進物質は,残留成分であるので,魚類用フロック化飼料を100重量%とすると,0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましく,0.05重量%以上1重量%以下でもよいし,0.1重量%以上1重量%以下でも,1重量%以上3重量%以下でもよい。
【0022】
魚類用フロック化飼料の製造方法
この明細書における魚類用フロック化飼料の製造方法は,凝集促進物質添加工程と,静置工程と,飼料回収工程とを含む。
【0023】
凝集促進物質添加工程は,卵成分,動物タンパク質,植物タンパク質,及び魚介類成分のいずれか又は2種以上である主栄養素を含む懸濁液に凝集促進物質を添加する工程である。
【0024】
懸濁液
懸濁液は,例えば,原料を混合等してペースト状飼料を作成し,ペースト状飼料を溶媒に滴下することで,得ればよい。この際,ペースト状飼料は,コロイド粒子や微細粒子を含む。コロイドや微細粒子の粒子径は,例えば1mm以下であり,0.5mm以下でもよい。溶媒(溶液)の例は,蒸留水,人工海水,海水,希釈海水,希釈人工海水,及び生理食塩水のいずれか又はそれらの混合物である。
【0025】
フロック化された飼料を目的の粒子径に調整するために,細菌類を加えて分解させ,細分化を期待することもできる。その際に使用する種の例は,硝化細菌類,枯草菌,納豆菌(Bacillus subtilis var. natto),乳酸菌類(Lactobacillales),酵母類(Saccharomyces),コウジ菌類(Aspergillus)である。細菌類は,上記のように飼料に加えても良いし,フロック化飼料を給餌した際に水槽内に加えても良い。
【0026】
懸濁液は,スピルリナ,及びナンノクロロプシスのいずれか又は2種以上をさらに含んでもよい。
【0027】
懸濁液を攪拌する攪拌工程
懸濁液を攪拌する攪拌工程を有する場合,懸濁液を適宜攪拌すればよい。
【0028】
静置工程は,凝集促進物質添加工程の後に,懸濁液を静置する工程である。この工程は,上記した攪拌工程の後であってもよい。静置工程により,溶液の下方にフロック化した飼料が集まり,上澄みとフロック化部分に分離される。
【0029】
飼料回収工程は,静置工程の後に,フロック化した魚類用フロック化飼料を回収する工程である。
魚類用フロック化飼料を回収するためには,例えば,上澄みとフロック化部分からフロック化部分を取り出せばよい。フロック化部分の取り出し方の例は,ろ過や,遠心分離である。フロック化部分は,ホモジナイザーやミキサー等で細断してもよい。
【0030】
魚類の飼育方法
この明細書における魚類の飼育方法は,上記した魚類用フロック化飼料の製造方法によって製造された魚類用フロック化飼料を用いた魚類の飼育方法に関する。
【0031】
養殖魚を収容する水槽は特に限定されない。水槽は,1L容積の小型水槽から,数100トンクラスの大型化水槽まで使用できる。給餌時は止水状態や流水下共に可能である。給餌方法は水槽底面や壁面に撒いたり,重層化させたり,飼育水中に拡散して使用することができる。
【0032】
フロック化飼料は,水槽底面や壁面に撒いてもよい。飼育水中において水流などの影響により過剰な分散を抑制する目的として,ペクチン,グアーガム,キサンタンガム,カラギーナン,カルボキシルメチルセルロースなどの増粘剤を加えてもよい。フロック化飼料を給餌した際に細菌類を水槽内に加えても良い。
【実施例1】
【0033】
図1は,フロック化飼料を作製する工程を説明するためのフロー図の例を示す。
図1に示されるように,この工程は,フロック化,攪拌,懸濁,混合,及びろ過の各工程を含む。
【0034】
ペースト状飼料の作製
ペースト状の飼料は,以下の原料を用いた。
アブラツノザメ卵 48g
ハイニュートHK(不二製油社製) 4g
オキアミエキス 25g
これらの原料をミキサーで撹拌し,流動性のあるペースト状飼料を作製した。
【0035】
フロック化
人工海水100から500mLにペースト状飼料を1-10mL加え,撹拌してコロイド溶液を作製した。凝集促進物質添加時のコロイド溶液は,pH7.0から9.0の中性範囲にあることが好ましく,pHが強アルカリ性や強酸性の場合は,コロイド溶液の凝集が不十分となる傾向がある。コロイド溶液のpHが前記範囲外の場合には,pH調整剤,塩酸や水酸化ナトリウムなどを用いてpH調整を行うこともできる。また,用意する溶液は,蒸留水や生理食塩水や海水を用いることもできる。また,用意する溶液は,常温で可能であるが,飼料成分の変性する可能性を考慮して,冷却水(4℃)を用意することが好ましい。
【0036】
中性のコロイド溶液に凝集促進物質を添加してスターラーを用いて撹拌することによって,コロイド溶液全体がフロックを形成するので,しばらく静置させフロックが沈殿するのを待った。
【0037】
この際凝集促進物質として,養殖魚への毒性がないものであれば,市販されている凝集剤を用いることができる。例えば,ポリグルタミン酸を主原料とした日本ポリグル社製のPGa21Caは,一般的な使用濃度および方法で用いればよく,ペースト状飼料を加えた0.2~2.0%水溶液重量に対し換算で0.1質量%から1.0質量%添加した。
【0038】
フロックが形成されたら,遠心分離や濾紙を用いて分別した。遠心分離は,多本架遠心機などを用い,回転数は50から3000rpmが好ましく,100から1000rpmがより好ましかった。遠心は常温で可能であるが,冷却して(4℃)で遠心することが好ましかった。
【0039】
分別した水溶液をペースト状飼料に加え,次の凝集操作に用いても良い。
【0040】
形成されたフロック状飼料は,フロックサイズが大きい場合はホモジナイザーやミキサー等で細断してもよかった。細断したフロック飼料に蒸留水などの水溶液を新たに加え,メッシュやふるいに流し込み,フロック化飼料の大きさを分画した。メッシュ目は対象魚種の経口サイズに併せて選択した。メッシュ目は1μmから1mmのサイズが好ましく,さらに10から200μmのサイズが好ましかった。
【0041】
図2は,上記の方法により得られた,細断化前のバイオ系フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
【実施例2】
【0042】
フロック化飼料の作成
ペースト状の飼料は,以下の原料を用いた。
アブラツノザメ卵 48g
ハイニュートHK(不二製油社製) 4g
オキアミエキス 25g
ビタミンMix 1g
【0043】
上記の原料をミキサーで撹拌し,流動性のあるペースト状飼料を作製した。次に,32‰に調整した人工海水を500mL用意し,上記ペースト状飼料をピペットにて5mL添加し,スターラーを用いて懸濁させた。コロイド化させた溶液中に,日本ポリグル社製PGa21Caを0.1gずつ添加し,フロック化の状態を観察した。PGa21Caは0.5gから1.0gの範囲で加え,目的のフロックが掲載された時点で静置し,フロックの沈殿を促進した。上澄みを取り除いた後,遠沈管に移し替え,4℃で300rpmにて5分間遠心をおこない,沈殿物をフロック化飼料とした。
【0044】
試験方法
濁度実験
10L円形アクリル水槽を2基用意し,水槽内に濾過海水を注水し,容積を5Lとした。次に上記で示した3mLのペースト状飼料と,ペースト状飼料3mLに相当するフロック化飼料をそれぞれの水槽内にピペットで投与し,ペースト状飼料投与区,フロック化飼料投与区とした。投与期間中と投与後15分間止水し,後に1分間に0.5Lの流量で飼料をそれぞれ洗い流した。止水時間以外はすべて23℃の濾過海水を掛け流しした。
【0045】
濁度測定
水槽底面に付着した飼料を完全に洗い流した時点を基点とし,時間経過毎に水槽内の海水を2mLサンプリングした。分光光度計を用いて600nmで濁度を測定した。
【0046】
試験結果:
図3は,ペースト状飼料とバイオ系(ポリグルタミン酸系)フロック化飼料を添加した水槽内における濁度の変化を示す図面に代わるグラフである。
図3に示されるように,フロック化飼料投与区の方が洗浄開始時から濁度が低く,フロック化飼料はペースト状飼料よりも水槽内の濁りを抑えることができることが示された。
【実施例3】
【0047】
無機系フロック化飼料の作製
ペースト状の飼料は,以下の原料を用いた。
アブラツノザメ卵 48g
ランペップ(ファーマフーズ社製) 12g
フィッシュソリュブル 4g
マルトース 6g
オキアミエキス 50g
ビタミンMix 1g
上記原料をミキサーで撹拌し,流動性のあるペースト状飼料を作製した。
【0048】
基本無機系フロック化飼料の作製
上記ペースト状飼料を基に無機系(カーボン系)フロック化飼料を作製した。
蒸留水500mL内に,上記ペースト状飼料を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁し,コロイド化させた。さらに スペックプラント社製カーボンフロックを0.2g加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。このようにして無機系(カーボン系)フロック化飼料を得た。
【0049】
スピルリナ混入フロック化飼料の作成
コンフルエントに達したスピルリナ培養液300mLに200mLの蒸留水を加え500mLとしたスピルリナ入り希釈培養液に,上記ペースト状餌を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらに スペックプラント社製カーボンフロックを0.5g加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。このようにしてスピルリナ混入フロック化飼料を得た。
【0050】
ナンノクロロプシス混入フロック化飼料の作成
コンフルエントに達したナンノクロロプシス培養液500mL(第一製網社製KW-21培養液添加32‰人工海水500mLに,上記ペースト状餌を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらにスペックプラント社製カーボンフロック0.5g加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。このようにしてナンノクロロプシス混入フロック化飼料を得た。
【0051】
上法によってフロック化飼料の製作が可能である事が分かった。懸濁液を製作する際に使用する溶液は,蒸留水や人工海水など用途に合わせて選択することが可能であり,また植物プランクトンもフロック化飼料の材料として利用できることが分かった。
図4は,無機系(カーボン系)フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
図4Aは,無機系(カーボン系)フロック化飼料を示し,
図4Bはスピルリナ混入フロック化飼料を示し,
図4Cはナンノクロロプシス混入フロック化飼料を示す。
【実施例4】
【0052】
有機系(キトサン系)フロック化飼料の作製
ペースト状の飼料は,以下の原料を用いた。
鶏卵黄粉末(キューピー社製) 15g
ランペップ(ファーマフーズ社製) 20g
ハイパーグリーン(マリンテック社製) 5g
ビタミンMix 1g
蒸留水 40g
上記原料をミキサーで撹拌し,流動性のあるペースト状飼料を作製した。
【0053】
有機系フロック化飼料(1)の作成
蒸留水300mL内に,上記ペースト状飼料を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらに 富士エンジニアリング社製フジクリーンを0.5g加え,完全に溶解した後,10N水酸化ナトリウム溶液を250μm加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。
【0054】
有機系フロック化飼料(2)の作成
蒸留水300mL内に,上記ペースト状飼料を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらに 富士エンジニアリング社製フジクリーン0.3g,塩化マグネシウム・6水和物1.0g,塩化カルシウム・2水和物を1.0g加え,完全に溶解した後,10N水酸化ナトリウム溶液を100μm加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。
【0055】
上法によってフロック化飼料の製作が可能である事が分かった。また塩化カルシウムや塩化マグネシウムと言った,にがり成分がフロック化する際の補助剤として有効である事が分かった。
蒸留水300mL内に,上記ペースト状飼料を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらに 富士エンジニアリング社製フジクリーンを0.5g加え,完全に溶解した後,10N水酸化ナトリウム溶液を250μm加え,さらに5分間混ぜた後静置し,フロックを沈殿させた。
【0056】
図5は,飼料の状況を示す図面に代わる写真である。
図5は,左はペースト状飼料を示し,中央は有機系フロック化飼料(1)を示し,右は有機系フロック化飼料(2)を示す。
図6は,有機系(キトサン系)フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
図6Aは有機系フロック化飼料(1)を示し,
図6Bは有機系フロック化飼料(2)を示す。
【実施例5】
【0057】
ペースト状の飼料は,以下の原料を用いた。
鶏卵黄粉末(キューピー社製) 15g
ランペップ(ファーマフーズ社製) 20g
フィッシュソリュブル 4g
ハイパーグリーン(マリンテック社製) 5g
ビタミンMix 1g
蒸留水 40g
上記原料をミキサーで撹拌し,流動性のあるペースト状飼料を作製した。
【0058】
蒸留水300mL内に,上記ペースト状飼料を1mL添加し,スターラーを用いて5分間懸濁しコロイド化させた。さらにガイアテック社製アラゴフロックを0.4g加え,完全に溶解した後静置し,フロックを沈殿させた。
【0059】
上法によってフロック化飼料の製作が可能である事が分かった。
図7は,飼料の状況を示す図面に代わる写真である。
図7の左はペースト状飼料を示し,
図7の右はフロック化飼料を示す。
図8は,フロック化飼料を示す図面に代わる写真である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は,養魚産業などにおいて利用されうる。