(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】制御された構造を有するビニル芳香族ポリマーの合成のための重合方法
(51)【国際特許分類】
C08F 12/06 20060101AFI20241015BHJP
C08F 4/10 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C08F12/06
C08F4/10
(21)【出願番号】P 2020562186
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 IB2019053763
(87)【国際公開番号】W WO2019215626
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】102018000005186
(32)【優先日】2018-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】519463673
【氏名又は名称】ベルサリス エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゲルフィ フランコ
(72)【発明者】
【氏名】フェランド アンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】ロンゴ アルド
(72)【発明者】
【氏名】ブッファーニ ミルコ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527463(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0276101(US,A1)
【文献】国際公開第2012/020545(WO,A1)
【文献】特表2001-514697(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175221(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/00~12/36
C08F 4/00~ 4/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性官能基を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とが制御されるビニル芳香族ポリマーを合成する重合方法であって、電子移動により再生成する活性剤(ARGET)による原子移動ラジカル重合(ATRP)反応によりビニル芳香族モノマーを重合させる工程を含み、前記反応は、25℃から110℃の間に含まれる温度で不活性ガス雰囲気中にてハロゲン化第二銅及び多座アミン配位子を含む錯体触媒の存在下で実施され、前記反応には2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤、前記反応において酸を中和するために必要な最小量のアルカリ金属(重)炭酸塩、酢酸エチル/エタノール、酢酸メチル/メタノール、酢酸イソプロピル/イソプロパノール、及び酢酸tert-ブチル/tert-ブタノールからなる群より選択される脂肪族アルコール及び同脂肪族アルコールの酢酸エステルの溶剤ペア、並びに任意に還元剤が前記アルカリ金属(重)炭酸塩2molに対して1mol以下の量で供給されるが、但し、3つ以上の活性ハロゲンを有する開始剤、又はポリビニルモノマー若しくはイニマーは使用されない、方法。
【請求項2】
前記還元剤が100℃以下の温度で存在する場合に、可溶性の分岐状ポリマー構造が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビニル芳香族モノマーは、一般式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素又はメチル基であり、nは、0又は1~3の整数であり、Yは、塩素若しくは臭素から選択されるハロゲンであり、又はYは、1個~3個の炭素原子を有するアルキル基若しくはアルコキシ基である)を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチル-スチレン、ビニルトルエン異性体、エチルスチレン異性体、プロピルスチレン異性体、クロロスチレン異性体、ブロモスチレン異性体、メトキシスチレン異性体
、及びそれらの混合物から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ビニル芳香族モノマーは、スチレン及びスチレンとα-メチル-スチレンとの混合物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤は、式X
2-C-(R1)R2を有し、式中、Xは、F、Cl、Br又はIから選択されるハロゲンであり、R2が芳香族基である場合にR1はHであり、又はR2が1個~30個の炭素原子を含む線状アルキル若しくは分岐状アルキルを有するカルボン酸基からなるアルキルエステルである場合に、R1は、1個~20個の炭素原子を有する線状構造若しくは分岐状構造を有する脂肪族アルキル基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Xは、塩素及び臭素から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤は、(ジクロロメチル)ベンゼン、2,2-ジクロロブタン酸メチル、2,2-ジクロロプロパン酸エチル、2,2-ジクロロ酪酸メチルから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記重合反応が60℃~70℃の範囲の温度で実施され、前記溶剤ペアが酢酸エチル及びエチルアルコールを含む混合物である場合に、不溶性の架橋したポリマー構造が得られる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多座アミン配位子は、ハロゲン化第二銅のモル数に対して等モル量で又は最大200mol%の過剰の配位子で存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ハロゲン化第二銅の濃度は、開始剤分子のモル濃度に対して1/5から1/20の間に含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
多座アミン配位子の分子対銅原子又はハロゲン化第二銅のモル数でのモル比は、1/1から2/1の間で変化する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ハロゲン化第二銅におけるハロゲンは、塩素又は臭素から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記(重)炭酸塩のアルカリ金属は、Li、Na、K、Rb、Csから選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記重合反応の開始時に又はその間に、アスコルビン酸
、有機スズ化合物、有機酸、アスコルビン酸の
塩及びエステル、アルデヒド類又はフェノール類、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、
並びにトコフェロールから選択される還元剤が添加される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記還元剤は、2-エチルヘキサン酸スズ、クエン酸、シュウ酸、tert-ブチルカテコールから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記還元剤は、前記(重)炭酸塩よりも低いモル量で存在する、請求項15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性官能基を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とを制御することができるビニル芳香族ポリマーの合成方法に関する。
【0002】
こうして製造されたポリマーは、3つ以上のポリマー鎖を生成することができる多官能性開始剤を使用せずに、分岐状ポリマー構造を得るために使用されるポリビニルモノマー又はイニマーを使用せずに、低濃度の錯体触媒の使用及び低い成分コストのおかげで抑えられたコストで、そのまま使用することができる又はブロックポリマーの製造のために使用することができる。
【0003】
上記方法では、本明細書ではARGET-ATRPとして示される、ビニル芳香族モノマーの電子移動により再生成する活性剤(Activator ReGenerated by Electron Transfer)(ARGET)による原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization)(ATRP)反応が使用される。
【0004】
上記方法は、そのまま使用されるべき線状、分岐状、ブロック状の官能化されたビニル芳香族ポリマーの合成に適用することができる。上記方法は更に、ビニル芳香族ポリマー及び他の不適合性ポリマーを含む適合性ポリマー組成物を作製するために、反応性機能、接着性機能、難燃性機能、帯電防止機能、又は殺細菌性機能を有するビニル芳香族組成物の調製のために適用され得る。
【0005】
架橋した構造を有するポリマーは、鎖間に共有化学結合が認められなくても、せいぜいモノマー又は適切な溶剤で膨潤する不溶性ポリマーを意味する。同様に、分岐状構造を有するポリマーは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との間の比率によって定められる2より大きなMw/Mnで示される多分散性を示す可溶性ポリマーであり、粘度測定的検出又は多角度レーザー光散乱(MALLS)で測定されるMwは、鎖間の分岐点において共有化学結合が認められなくても、屈折率検出で測定されるMwに対して20%より大きい。線状鎖を有するポリマーは、粘度測定的検出又は多角度レーザー光散乱(MALLS)で測定されるMwが、屈折率検出で測定されるMwより20%大きい最大値とほぼ等しいポリマーである。
【0006】
本特許出願では、(メタ)アクリルという用語は、アクリル化合物又はメタクリル化合物を意味し、(重)炭酸塩という用語は、炭酸塩化合物又は重炭酸塩化合物を意味する。
【0007】
本特許出願では、本書に含まれる全ての作業条件は、特に指定されていなくても、好ましい条件とみなさねばならない。
【0008】
本書の目的のために、「含む(comprise)」又は「含む(include)」という用語はまた、「~にある(consist in)」又は「実質的に~からなる(essentially consisting of)」という用語も含む。
【0009】
本書の目的のために、間隔の定義は特段の定めがない限り常に極値を含む。
【背景技術】
【0010】
特許文献1は、電子移動により再生成する活性剤(ARGET)による原子移動ラジカル重合(ATRP)を記載している。
【0011】
特に、この特許は、還元剤と、少なくとも1種の遷移金属を有する触媒及びラジカル開始剤を当初含み、遷移金属とラジカル開始剤との間のモル比が0.05未満で最大0.01である重合手段との存在下で、共重合可能なモノマーを重合させることができる重合方法を記載している。
【0012】
触媒は、遷移金属に加えて多座アミン配位子を更に含む。還元剤は、触媒の金属を還元して、開始剤から又はドーマント型のラジカル鎖からハロゲンを可逆的に抜き出し、モノマーの添加により成長を可能にするラジカルを形成するのに際して、その触媒を活性化させるために適切でなければならない。還元剤は無機又は有機のいずれかであり、例えば、アスコルビン酸、第一スズ化合物、還元糖、メルカプタン類、アルコール類であり得る。ARGET-ATRP反応は、溶剤及び塩基の存在下で実施され得る。触媒の金属に対して過剰な多座アミン配位子は、反応速度を増加させる。還元剤の不存在下で、線状ポリマーを得るために、モノハロゲン化開始剤及びジハロゲン化開始剤が使用され、分岐状ポリマーを得るために、トリハロゲン化開始剤及びポリハロゲン化開始剤、多ビニルコモノマー及びイニマーが使用され得る。スチレンのようなビニル芳香族モノマーを用いた例では、反応は110℃の温度で行われる。
【0013】
特許文献2は、銅ベースの錯体触媒を使用する(メタ)アクリル酸から誘導されたモノマーに適用されるARGET-ATRP方法を記載している。上記触媒は、5重量ppm~30重量ppmの銅原子と、配位子として7mmol%以下のモル量の多座アミンとを含み、ここで、上記アミンは、銅原子の総含有量に対して150mol%以下のモル量で存在する。
【0014】
反応物系は、少なくとも1種の還元剤及び少なくとも1種の塩基を更に含む。還元剤には、アルコール類、アルデヒド類、フェノール類、及びアスコルビン酸等の有機酸、並びにアスコルビン酸の塩及びエステルが含まれる。塩基は、モノアミン有機化合物若しくはポリアミン有機化合物、又はナトリウムメトキシド、カリウムエトキシド、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、アスコルビン酸塩を含む、リチウム、ナトリウム及びカルシウムの無機化合物である。アスコルビン酸が還元剤として使用される場合に、(メタ)アクリルモノマーの制御された重合のためのARGET-ATRP方法は、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンを含む有機混合物又は水性混合物等の、アスコルビン酸を溶解するのに適した溶剤中で実施され得る。
【0015】
得られた(メタ)アクリルポリマーは、1.1~1.8の範囲の分子量分布を有する。
【0016】
ATRP合成方法は、反応性官能基を有する制御された線状、分岐状の構造を有するポリマーの製造に適している。重合反応の制御は、ポリマー鎖の不活性(ドーマント)型と活性(リビング)型との間のバランスによって調整され、このバランスは更に多座アミン配位子と共に使用される触媒系の酸化還元バランスに依存する。上記配位子は、非特許文献1に記載されているように、反応系中に存在するモノマー及びハロゲンに基づいて選択される。開始剤は、不活性型のポリマー鎖よりも反応性が高いことで、ポリマー鎖の開始がそれらの成長に対して促進されるように選択される。ATRP方法で実施される合成では、ビニル芳香族モノマーは(メタ)アクリルモノマーよりも反応性が低く、反応バランスをドーマント型から活性型にシフトする際に、より高い温度又はより効果的な配位子を必要とする。ラジカル鎖の停止の80%超がカップリングによって起こるビニル芳香族モノマーでは、二官能性開始剤、すなわち1分子当たり2つのハロゲンを有する開始剤を使用することで、活性型の2つのラジカル鎖のカップリングによる停止の場合にも反応の制御を維持することができる。それというのも、生成された鎖は、2つの反応している鎖の合計によって定められる長さを有するとはいえ、2つのハロゲン化末端を維持するからである。線状構造又は分岐状構造は、反応物の温度又は濃度を変更することによって改変することはできないが、少なくとも3つの官能基を有する多官能性開始剤、又は1分子当たり少なくとも2つのビニル基を有するポリビニルモノマー、又はポリマー鎖の成長におけるモノマーとしても新たな鎖の開始剤としても作用し得るハロゲン基を有するビニルモノマー(イニマーとしても知られる)を挿入するか否かによってのみ改変することができる。
【0017】
これまでに知られているARGET-ATRPは、ATRP方法に関して得ることができるポリマー構造の種類を改変することなく、反応の実施に必要な遷移金属又は多座アミン配位子を含む触媒の量を最大20倍超削減することにより、ATRP方法をより安価にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許第7,893,174号
【文献】米国特許第8,933,183号
【非特許文献】
【0019】
【文献】Journal of The American Chemical Society (2008 130(32) 10702-10713)
【発明の概要】
【0020】
本出願人は、鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とを制御することができるビニル芳香族ポリマーの合成方法であって、本書ではARGET-ATRPとして示される、ビニル芳香族モノマーの電子移動により再生成する活性剤(ARGET)による原子移動ラジカル重合(ATRP)反応を使用する、方法を見出した。
【0021】
生成されたポリマーの構造(線状、分岐状、又は架橋)を、分岐化物質又は架橋化物質、すなわち、少なくとも3つの官能基を有する多官能性開始剤、分岐状ポリマー構造をもたらし得るポリビニルモノマー又はイニマーを添加することなく、ただ反応温度及び/又は反応混合物の成分、特に反応物及び溶剤ペアの相対量を調整するだけで得ることができる。
【0022】
このように、全て同じ反応物系の成分を用いて、100℃で線状ポリマーを得ることが可能であり、70℃で架橋したポリマーを得ることが可能である。
【0023】
したがって、本発明の主題は、鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性官能基を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とが制御されるビニル芳香族ポリマーを合成する重合方法であって、電子移動により再生成する活性剤(ARGET)による原子移動ラジカル重合(ATRP)反応によりビニル芳香族モノマーを重合させる工程を含み、前記反応は、25℃から110℃の間に含まれる温度で不活性ガス雰囲気中にてハロゲン化第二銅及び多座アミン配位子を含む錯体触媒の存在下で実施され、前記反応には2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤、アルカリ金属(重)炭酸塩、脂肪族アルコール及び同脂肪族アルコールの酢酸エステルの溶剤ペア、並びに場合によってはアスコルビン酸が供給されるが、但し、3つ以上の活性ハロゲンを有する開始剤、又はポリビニルモノマー若しくはイニマーは使用されない、方法である。
【0024】
本特許出願による方法の利点は、鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とが制御されるビニル芳香族ポリマーを製造可能であることからなり、このビニル芳香族ポリマーは、3つ以上の官能基を有する多官能性開始剤、分岐状ポリマー構造を得るために使用されるポリビニルモノマー及びイニマーを使用せずに、低い錯体触媒濃度及び他の必要な成分の低いコストのため抑えられたコストで、ブロックポリマーの製造のために使用することができる。
【0025】
上記方法により、高価な反応物を導入することなく、反応混合物の温度及び組成を変更することによって、ビニル芳香族ポリマーの構造を多岐にわたり制御することが可能となる。
【0026】
詳細な説明
ここで、本特許出願による方法を詳細に説明する。
【0027】
ビニル芳香族モノマーは、電子移動により再生成する活性剤(ARGET)による原子移動ラジカル重合(ATRP)反応に供される。反応は、不活性ガス雰囲気中にて、25℃から110℃の間に含まれる温度で実施される。2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤、アルカリ金属(重)炭酸塩、脂肪族アルコール及び同脂肪族アルコールの酢酸エステルの溶剤ペア、並びに場合によってはアスコルビン酸が反応に供給されるが、但し、3つ以上の活性ハロゲンを有する開始剤、又はポリビニルモノマー若しくはイニマーは使用されない。
【0028】
このような方法を通じて、反応混合物を形成する化合物の温度及び濃度を制御することによって、鎖中のモノマーの配列と、反応性官能基又は種々の極性を有する線状、分岐状の可溶性の構造又は架橋した不溶性の構造とが得られるビニル芳香族ポリマーが得られる。
【0029】
反応混合物が少なくとも1種のビニル芳香族モノマー、2つのジェミナルなハロゲンを有する少なくとも1種の有機開始剤、ハロゲン化第二銅及び多座アミン配位子を含む少なくとも1種の触媒、アルカリ金属(重)炭酸塩、並びに脂肪族アルコール及び同脂肪族アルコールの酢酸エステルの溶剤ペアを含む場合に、本発明の方法によるARGET-ATRPによって線状構造を有するビニル芳香族ポリマーが合成される。反応は、不活性ガス雰囲気中にて、好ましくは70℃から110℃の間に含まれる温度、より好ましくは80℃から110℃の間に含まれる温度、更により好ましくは90℃から110℃の間に含まれる温度、更により好ましくは90℃から100℃の間に含まれる温度で実施され得る。
【0030】
反応混合物中に、線状構造を有するビニル芳香族ポリマーの合成について列記された成分に加えて、アスコルビン酸が存在する場合に、100℃以下の温度で、(可溶性の)分岐状ポリマー構造を得ることができ、60℃から70℃の間に含まれる温度で、溶剤ペアが酢酸エチル及びエタノールから構成される場合に、(不溶性の)架橋したポリマー構造を得ることができる。分岐状ポリマー又は架橋したポリマーの形成について列記された反応混合物の全ての他の成分の存在下であるが、2つのジェミナルなハロゲンの代わりに1つだけのハロゲンを有する有機開始剤を用いると、25℃から110℃の間に含まれる温度で、線状構造を有するポリマーだけが得られる。アルカリ金属(重)炭酸塩が存在しないと、線状ポリマー、分岐状ポリマー又は架橋したポリマーの形成について列記された反応混合物の全ての他の成分の存在下であっても、25℃から110℃の間に含まれる温度では、重合は起こらない。
【0031】
本特許出願による方法に使用することができる前記ビニル芳香族モノマーは、一般式(I):
【化1】
(式中、Rは、水素又はメチル基であり、nは、0又は1~3の整数であり、Yは、塩素若しくは臭素から選択されるハロゲンであり、又はYは、1個~3個の炭素原子を有するアルキル基若しくはアルコキシ基である)を有する。
【0032】
好ましい式(I)を有するビニル芳香族モノマーは、スチレン、α-メチル-スチレン、ビニルトルエン異性体、エチルスチレン異性体、プロピルスチレン異性体、クロロスチレン異性体、ブロモスチレン異性体、メトキシスチレン異性体、アセトキシスチレン異性体、及びそれらの混合物から選択される。更に好ましくは、前記ビニル芳香族モノマーは、スチレン及びスチレンとα-メチル-スチレンとの混合物から選択することができる。
【0033】
本特許出願において説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用することができる2つのジェミナルなハロゲンを有する開始剤は、式X2-C-(R1)R2を有し、式中、Xは、F、Cl、Br又はIから選択されるハロゲンであり、R2が芳香族基であり、好ましくはフェニル又は置換フェニルから選択される場合にR1はHであり、又はR2が1個~30個の炭素原子、好ましくは1個~20個の炭素原子、より好ましくは1個~10個の炭素原子を含む線状アルキル若しくは分岐状アルキルを有するカルボキシル基を含むアルキルエステルである場合に、R1は、1個~20個の炭素原子、好ましくは2個~15個の炭素原子、より好ましくは2個~10個の炭素原子を有する線状構造若しくは分岐状構造を有する脂肪族アルキル基である。
【0034】
Xは、好ましくは塩素及び臭素から選択され、更により好ましくは、Xは、塩素であり、塩素は、H+イオンとして生成され得る不安定な水素原子を有するプロトン性溶剤が使用される場合により適しており、使用することができるプロトン性溶剤は、アルコール類、ジオール類、ポリオール類、フルオロアルコール類又はカルボン酸から選択することができ、メタノール及びエタノールがより好ましい。
【0035】
プロトン性溶剤は、Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry, 2014, 52(15), 2175-2184に記載されている。
【0036】
2つのジェミナルなハロゲンを(同じ炭素原子上に)有する(ジハロゲン化)開始剤は、より大きなリビング特性を保証する。それというのも、これらの開始剤は、ビニル芳香族ポリマーの場合のようにラジカル鎖がその活性化段階に一般にカップリングによって停止する場合にも、ハロゲン官能基を鎖末端として維持することができるからである。有効であるには、ジハロゲン化開始剤は、不活性型で成長するビニル芳香族鎖の同じ末端ハロゲン以上の反応性を有する両方のハロゲンを有さなければならない。開始剤の2つのハロゲンの1つが、末端ハロゲンを有するビニル芳香族鎖に対して初期形態でより安定であるならば、ポリマー鎖は生長し続け、新しい鎖が開始することはない。非ジェミナルで対称的な二官能性開始剤は同じ反応性を有するため、一方のハロゲンが活性であれば、もう一方も活性である。説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用されるジェミナルな二官能性開始剤において、第2のハロゲンは、反応に起因してビニル芳香族鎖の末端となった第1のハロゲン以上の反応性を維持するため、完全に制御された反応の理想的な場合に、不均化による停止反応及び鎖末端ハロゲンの除去を伴う移動なしに、開始剤分子による二重機能及び2つのビニル芳香族鎖の生長が保証される。好ましい2つのジェミナルなハロゲンを有する開始剤は、ハロゲン化ベンザル、2-ブロモ-イソ酪酸エチル、(ジクロロメチル)ベンゼン、CuCl2、2,2-ジクロロブタン酸メチル、2-クロロイソブタン酸エチル、2,2-ジクロロプロパン酸エチル、2,2-ジクロロ酪酸メチルから選択される。好ましい開始剤は、2,2-ジクロロプロパン酸エチル及び塩化ベンザルである。
【0037】
本特許出願で説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用することができる溶剤は、脂肪族アルコールの酢酸エステル及び前記脂肪族アルコール自体を含む混合物である。
【0038】
アルコールが初期モノマーの量よりも多量であるが、ビニル芳香族ポリマーを不溶性にする量で存在する場合に、分散重合が得られる。
【0039】
説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用することができる脂肪族アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、tert-ブタノールから選択することができる。メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールも、酸化型の触媒に対する還元性物質である。
【0040】
説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用することができる脂肪族アルコールの酢酸エステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、及び酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸tert-ブチルから選択することができる。
【0041】
脂肪族アルコールの酢酸エステルと脂肪族アルコール自体との間の溶剤の好ましい混合物は、酢酸エチル及びエチルアルコール、酢酸メチル及びメタノール、酢酸イソプロピル及びイソプロパノール、酢酸tert-ブチル及びtert-ブタノールから選択される。
【0042】
その高い環境適合性によっても最も好ましい溶剤混合物は、酢酸エチル及びエチルアルコールを含む混合物であり得る。
【0043】
60℃から70℃の間の温度範囲で、同じ容量のモノマー及び溶剤系を用いると、酢酸エチルとエタノールとの間の比率が7/1以上である場合に、架橋は観察されないが、比率が3/1以下の場合には、エタノールの量が増えるにつれて架橋が進んで存在する。
【0044】
したがって、60℃から70℃の間の温度範囲では、酢酸エチル/エタノールを溶剤ペアとして使用する場合に、1/1から7/1の間に含まれる比率、好ましくは1/1から3/1の間に含まれる比率で、架橋した不溶性ポリマーの形成が観察される。
【0045】
酢酸エチル/エタノールとは異なる溶剤ペアを同じ温度範囲で使用すると、分岐状であるが不溶性ではないポリマーが形成される。
【0046】
さらに、溶剤及び反応混合物の極性が増加するにつれて、反応速度が増加することが観察される。
【0047】
説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用される錯体触媒は、ハロゲン化第二銅及び多座アミン配位子を含む。ハロゲン化第二銅のハロゲンは、好ましくは、開始剤に存在するのと同じハロゲンである。多座アミン配位子は、銅のグラム原子に相当するハロゲン化第二銅のモル数に対して等モル量で又は最大200mol%の過剰の配位子で存在し得る。
【0048】
ARGET-ATRP方法は、銅塩及び配位子から形成される触媒の必要とされるモル濃度が、反応混合物に最初に存在する開始剤に対して大幅に低いという利点を有する。
【0049】
本特許出願による方法では、1/5から1/20の間に含まれる、好ましくは1/10から1/20の間に含まれる、より好ましくは1/15から1/20の間に含まれる、二ハロゲン化銅のモル濃度対開始剤の分子のモル濃度を使用することが好ましい。反応混合物1リットル当たりのグラム原子で表現される銅原子の濃度対開始剤の分子のモル濃度が1/20未満であると、特に初期反応混合物中のビニル芳香族モノマーに対する開始剤量が1mol%未満であると、最適な反応の制御は保証されない。2つのジェミナルなハロゲンを有する有機開始剤、ビニル芳香族モノマーの溶剤系、炭酸塩、及び還元性化合物の濃度に対して触媒の濃度が変動しても、同じ反応条件下で得られるポリマーの構造は改変されない。不溶性ポリマーが1/5の触媒対開始剤で得られる場合に、1/20でも種々の成分の濃度、温度、及び反応時間に関して全て同じ反応条件下で、不溶性ポリマーが得られる。
【0050】
ハロゲン化銅で使用されるハロゲンは、好ましくは開始剤のハロゲンと同じであり、好ましくは、塩素又は臭素から選択され、塩素が最も好ましい。
【0051】
非特許文献1に記載されるように、多座アミン配位子は、その構造に基づいて、ハロゲン原子を終端とするビニル芳香族ポリマー鎖の不活性型と活性ラジカル型との間のバランスで触媒の有効性を調整することを可能にする。より高い活性の配位子は、フリーラジカルの濃度を高め、より速い反応速度を得ることができるが、高濃度の反応性ラジカルが鎖の成長及びそれらの停止とモノマーへの移動との両方を促進するため、構造の制御を低下させる。開始剤から又はドーマント鎖からハロゲンを抜き出す際の配位子の活性は、多座アミン2,2’-ビピリジン(bpy)からペンタメチルジエチレントリアミン(PentaMethylDiEthyleneTriAmine)(PMDETA)、トリス[(2-ピリジル)メチル]-アミン(Tris[(2-Pyridyl)Methyl]-Amine)(TPMA)、5,5,7,12,12,14-ヘキサメチル-1,4,8,11-テトラ-アザシクロ-テトラデカン(5,5,7,12,12,14-hexaMethyl-1,4,8,11-tetra-azaCyclo-tetradecane)(Me6Cyclam)に渡るときに増加し、同じ開始剤及びモノマーでは、臭素は塩素からより容易に抜き出すことが可能である。
【0052】
銅の分子又はモル数に対して多座アミン配位子の分子又はモル数が過剰であると、反応速度が高まるが、その成分はより高価であるため、本発明による方法では、1/1から2/1の間の、好ましくは1.5/1の、より好ましくは1/1の多座アミン配位子の分子対銅の原子又はハロゲン化銅のモル数のモル比が使用される。
【0053】
2,2’-ビピリジン(bpy)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス[(2-ピリジル)メチル]-アミン(TPMA)及び5,5,7,12,12,14-ヘキサメチル-1,4,8,11-テトラ-アザシクロ-テトラデカン(Me6Cyclam)から選択される多座アミンが好ましい。
【0054】
説明され、特許請求の範囲に記載される方法では、アルカリ金属(重)炭酸塩を使用せねばならず、それを用いないとビニル芳香族モノマーの重合反応は起こらない。この化合物は通常、無水で使用され、反応混合物中に500ミクロン以下の寸法を有する粉末の形で分散される。Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びRaから選択されるアルカリ金属の(重)炭酸塩が好ましく、ナトリウム及びカリウムの(重)炭酸塩がより好ましく、広く普及していて工面しやすいため最も好ましいのはナトリウムの(重)炭酸塩である。
【0055】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸のアルカリ金属塩、2-エチルヘキサン酸スズ等の有機スズ化合物、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸の塩及びエステルから選択される有機酸、アルデヒド類又はフェノール類から選択される有機物質、例えばtert-ブチルカテコール(ビニル芳香族モノマーの貯蔵において酸化防止剤として使用される)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)及びトコフェロールから選択される還元性化合物が、重合反応の開始時に又は重合反応の間に反応混合物に添加され得る。説明され、特許請求の範囲に記載される方法で使用される更なる還元剤は、脂肪族アルコールの酢酸エステル及び脂肪族アルコールの溶剤ペアにおいて銅(II)原子に対して大過剰に存在するアルコール並びに多座アミン配位子であり得る。
【0056】
還元性化合物は、(重)炭酸塩よりも低いモル量で、好ましくは2molの(重)炭酸塩当たり1mol以下の還元剤で存在し得る。驚くべきことに、本発明によるARGET-ATRP方法において制御された量及び反応条件でアスコルビン酸を使用することにより、ビニル芳香族ポリマーを、分岐状の可溶性の、線状の構造で得ることができ、溶剤ペアがエタノールを含む場合には、三官能性若しくは多官能性開始剤又はジビニルモノマーを使用せずに、架橋した不溶性の構造で得ることができる。
【0057】
無水アルカリ金属(重)炭酸塩が存在しないと、アルコールにより反応混合物中に溶解されたアスコルビン酸等の還元剤が存在しても、反応は起こらない。
【0058】
制御された重合反応は、他の還元剤を用いて実施することもできるが、アスコルビン酸の存在下でのみ、分岐状の可溶性ポリマーの形成が観察され、溶剤ペアが酢酸エチル及びエタノールから構成されている場合に、60℃から70℃の間の温度範囲で、不溶性のポリマーが形成される。
【0059】
本発明のARGET-ATRP方法において、アルカリ金属(重)炭酸塩を含む無機塩基は、反応が起こるために不可欠である。溶剤系のアルコールに加えて他の還元剤が存在しても、アルカリ金属(重)炭酸塩を用いないと、ビニル芳香族モノマーの重合は起こらない。無機(重)炭酸塩の塩基の機能は、反応混合物中に存在するあらゆる酸を中和し、活性ラジカル鎖の形成が優位になるように非常に効果的にバランスをシフトすることである。したがって、(重)炭酸塩は、十分に高い反応速度を得るのに必要な最少量であるが、反応を制御不能にしないような量で添加される。(重)炭酸塩は、反応混合物中に可溶性ではなく、その表面上で活性であるため、500μm以下、好ましくは200μm以下の平均直径を有する(重)炭酸ナトリウム又は(重)炭酸カリウムを使用することが好ましい。その低コスト及び広い入手可能性のために、好ましい塩基性塩は炭酸ナトリウムである。
【0060】
ARGET-ATRP方法の初期反応混合物では、銅は酸化型(II)で供給されるため、銅を還元型(I)に還元して開始ラジカルを形成するために又はラジカル鎖の成長のために、少なくとも1種の還元剤の存在が必要である。
【0061】
還元剤が銅(II)原子に対してより低いモル量で反応混合物に存在する場合に、この方法はAGET-ATRPと呼ばれ、還元剤が銅(II)原子以上のモル量で存在する場合に、この方法はARGET-ATRPと呼ばれる。本特許出願によるARGET-ATRP方法では、還元剤は、脂肪族アルコールの酢酸エステル及び脂肪族アルコールの溶剤ペアにおいて銅(II)原子に対して大過剰に存在するアルコールであり得る。多座アミン配位子も還元剤であり得るが、そのコストが高いため、多座アミン配位子を、最小濃度で銅原子との1対1のモル比で使用することが有益である。
【0062】
重合反応は、25℃から110℃の間に含まれる温度で実施され得る。重合反応は、溶剤混合物が最も揮発性の高い成分である反応混合物の反応及び沸点に基づき、大気圧又は最大20barの超大気圧で実施することができる。
【0063】
ここで、本発明の幾つかの適用例を説明するが、非限定的な説明を目的とするにすぎず、これらは本発明による好ましい実施形態を表す。
【実施例】
【0064】
全ての実施例において、説明され、特許請求の範囲に記載される重合反応は、大気圧で実施される。
【0065】
反応混合物中で使用される成分
ビニル芳香族ポリマーの合成において以下の物質を使用した:
ビニル芳香族モノマー:空気雰囲気中にて10重量ppm(parts per million)のtert-ブチルカテコール(TBC)で安定化されたスチレン(St)(Versalis S.p.A.社製)、
溶剤及び還元系:酢酸エチル(AcOEt)、酢酸メチル(AcOMet)、酢酸イソプロピル(AcOiPr)、酢酸tert-ブチル(AcOtBu)、メタノール(Met-OH)、エタノール(Et-OH)、イソプロパノール(i-Pr-OH)、tert-ブタノール(tBu-OH)、ジクロロメタン(Merck Sigma-Aldrich社)、
無機塩基:無水(重)炭酸ナトリウム(Carlo Erba社)、
還元剤:アスコルビン酸(AA)、tert-ブチルカテコール(TBC)、2-エチルヘキサン酸スズ(II)(Sn(oct)2)(Merck Sigma-Aldrich社)、
配位子:トリス(2-ピリジルメチル)アミン(TPMA)、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)(Merck Sigma-Aldrich社)、
開始剤及びハロゲン化第二銅:2-ブロモイソ酪酸エチル(EBiB)、(ジクロロメチル)ベンゼン(Cl2TOL)、CuCl2(Merck Sigma-Aldrich社)。
【0066】
2,2-ジクロロプロパン酸エチル(DCPE)、2,2-ジクロロブタン酸メチル(DCBM)及び2-クロロイソブタン酸エチル(ECiB)を、以下に報告されるように合成した。
【0067】
DCPEの合成
2,2-ジクロロプロピオン酸ナトリウム(Merck社、90%、100g、1.2mol)及びメタノール(Merck Sigma-Aldrich社、99.8%、250ml)を、マグネチックアンカースターラーを備えた500ml容の二つ口フラスコ中に挿入する。H2SO4(Merck Sigma-Aldrich社、96%、40ml)を、氷水浴(T=4℃)中で撹拌しながら滴下漏斗を用いて約30分間かけて添加する。反応が終わったら、白色の懸濁液を更に1時間撹拌した。真空蒸留によって、溶液を固体から分離する。溶剤を回転蒸発器に取り出し、液体をエタノール(Merck Sigma-Aldrich社、98%、200ml)中に再溶解させ、2mlのH2SO4(Merck Sigma-Aldrich社、96%)を添加し、磁気撹拌しながら油浴中で78℃に8時間加熱して還流させる。溶液を放冷した後に、マイクロ蒸留装置(SAPLT ROHRシステムHMS 500C(100段)、T浴=130℃、Tマントル=78℃、t還流=9秒、t取り出し=0.1秒)を通して蒸留する。得られた黄色の油は、分光法(1H-NMR)によって決定された93%の滴定濃度を有する。
【0068】
DCBMの合成
リービッヒ冷却器と、マグネチックアンカースターラーと、反応ガスの輸送に使用されるテフロン(登録商標)ピペットが通過する穿孔可能なバッフルを備えたネジ付きキャップとを備える円筒形管形反応器を使用して、Synthesis 2012 44 605-609に記載されているように合成された2,2-ジクロロブタン酸の塩化物をメタノールとエステル化することによって、2,2-ジクロロブタン酸メチルの合成を行った。塩化tert-ブチルアンモニウム(TBAC、2.7g、9.6mmol)及び塩化ブタノイル(100ml、0.955mol)が充填された反応室を、溶液中にO2を吹き込み(40ml/分~50ml/分)バブリングさせながら100℃に加熱した。100℃に達したら、Cl2流を開放し、100℃の温度に維持しつつ30分間かけて上記溶液に添加し(35ml/分~45ml/分)、次いで、反応混合物を30分毎に5℃ずつ115℃まで加熱して、7時間を上回り合計9時間までの反応時間にわたりこれを保持する。酸素及び塩素の流れを維持して、反応混合物を120℃に加熱し、次いで、この温度で合計11時間30分にわたり保持し、最後にこれを125℃に加熱し、そのような温度を合計13時間まで維持した。反応が終わったら、粗生成物を一つ口フラスコに移し、そこで1-ヘキサデセンを添加して、Cl2の残留物を全て除去する。この反応を2回繰り返し、粗生成物を蒸留して、塩化2,2-ジクロロブタノイルを分離する(収率約94%)。反応中間体を100mlのメタノール中に溶解した後に、還流下で4時間加熱する。生成物を真空蒸留し、NMRによって分析する(純度99%超)。
【0069】
ECiBの合成
マグネチックアンカースターラーと、冷却器と、酸蒸気洗浄塔とを備える500mL容の二つ口フラスコ中に、以下のものをこの順序で挿入した:1-ヒドロキシイソ酪酸エチル(Merck, Sigma-Adrich社、800mL、600mmol)、CH2Cl2(160mL)、SOCl2(Merck, Sigma-Adrich社、60mL、827mmol)及びDMF(Merck, Sigma-Adrich社、0.8mL)。溶液を撹拌して、8時間還流させた。室温に冷却した後に、H2O(100mL)を添加し、重炭酸塩を徐々に添加してこれを中和した(CO2の大量の形成が観察される)。有機相を分液漏斗で分離し、無水Na2CO3を収容しているカラム上で無水化する。2つの反応の溶出液を500mL容のフラスコに収集し、AIBN(Merck, Sigma-Adrich社、1g)を添加し、18時間還流して、ECiBと並行して形成されるメタクリル酸エチルを重合させる。次いで、最初の蒸留を行って、ポリメタクリレートの大部分からエステルを回収する(油浴T=125℃、ボイラーT=85℃~100℃及びp=230mbar~80mbar)。次いで、得られた留出物を再び分画して(油浴T=120℃、ボイラーT=90℃~100℃及びp=190mbar)、ECiBを回収する(例えば、190mmHgで90℃~93℃)。119.2gの無色の液体が収集される(収率66%、GC純度99.5%超)。
【0070】
ARGET-ATRP合成装置
ビニル芳香族ポリマーのARGET-ATRP合成を実施するために、制御された雰囲気(アルゴン又は窒素)中で反応を実施するのに適したガラス部品であるシュレンク反応器を反応容器として使用した(25mLの有用な反応容量、内径2.5cmで、長さ2cm及び直径1cmを有する卵形のマグネチックアンカースターラーを備える)。使用される装置は、反応物を輸送するためのネジ付きキャップと、ガス分配器に接続するためのニードルバルブとを備えている。このシュレンク反応器の構成は、反応温度よりも低い沸点を有する溶剤を用いて、わずかな圧力下で反応を実施するのに適している。ネジ付きキャップには穴が開いており、内圧が高すぎる場合にラプチャーディスクとしても機能し得るテフロン(登録商標)コーティングされた側面を有するガスケットが設けられている。アルゴン又は窒素下で実施される全ての反応について、固形反応物を最初に挿入した後に、雰囲気を少なくとも3回の真空/不活性ガスサイクルで変更する(指示として、3分間の真空に対して、不活性ガスについては、水銀バルブからのバブリングの再出現によって期間が規定される)。この時点で、関連する順序において、液体反応物(又は固形反応物及び溶剤の溶液)を、シリンジピペットを用いてシュレンク反応器を開放して不活性ガスを自由に流すことによって、又はバッフルを貫く金属ニードルを備えたシリンジを用いて挿入することができる。この操作が終了したら、ネジ付きキャップの締め付けを確認し、ニードルをしっかりと閉じて、最後にガス分配器を遮断する。最後に、シュレンクフラスコを恒温液中に浸漬させる(必要であれば)。上述のように、この特定の反応器は、真空導管及び不活性ガスを完備した装置であるガス分配器に連結されており、その一方で、栓の作動により単一の出口に接続され得る。真空ポンプは分配器に直接接続されているが、分配器と不活性ガスシリンダーとの間の直接的な接合は不可能である。容易に調整可能であるように二段目が十分に精密である二段式減圧弁を通して、不活性ガスがシリンダーから分配され、そこから不活性ガスは導管内のガスの圧力を固定するように適合された装置に入る。これは、Hgカラムの高さが作動圧力を決定し、それを超えると外部へのガスのバブリングが始まる水銀バブラーによって達成される。こうして、ガラス部品の一切の加圧の問題が防止される。順化の間に不活性ガスをシュレンクバキューム(Schlenk vacuum)に向けて送る重要な工程で、圧力変化(外気を呼び戻す可能性がある)を減らすためには、バブラーの上部に1リットル~2リットルの予備容量がなければならない。様々な装置の全ての継手は、低ガス透過性を保証するPVCゴムで作られている。
【0071】
一般的な実験手順:反応物の溶液の調製
触媒錯体CuCl2-TPMAの滴定された1mLの溶液(=0.2mol%)(メタノール、エタノール、イソプロパノール又はtert-ブタノール中)の調製
(1)10mL容量のメスフラスコ中に351mgのCuCl2を量り入れ、これをアルコールで溶解させて、容量に合わせる(この溶液は毎月新しいのと取り替える)。
【0072】
(2)10mL容量のメスフラスコ中に151.6mgのTPMAを量り入れる。配位子を4mlのアルコール中に溶解させ、事前に調製された2mLのCuCl2溶液を添加する。次いで、新たなアルコールで容量に合わせる。溶解度が不十分である場合には、完全に溶解されるまで掻き混ぜる。
【0073】
触媒錯体CuCl2-PMDETAの滴定された1mLの溶液(=0.2mol%)(エタノール中)の調製
(1)10mL容量のメスフラスコ中に351mgのCuCl2を量り入れ、これをエタノールで溶解させて、容量に合わせる(この溶液は毎月新しいのと取り替える)。
【0074】
(2)10mL容量のメスフラスコ中に90.5mg(109mL)のPMDETAを容量測定的に添加する。
【0075】
PMDETAを4mlのエタノール中に溶解させ、事前に調製された2mLのCuCl2溶液を添加する。次いで、新たなエタノールで容量に合わせる。溶解度が不十分である場合には、完全に溶解されるまで掻き混ぜる。
【0076】
DCPEの滴定された溶液(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸tert-ブチル中)の調製
酢酸アルコール(5mL)が充填された10mL容のメスフラスコ中に、400μLのDCPE(2.76mM)を容量測定的に挿入する。この溶液を新たな溶剤で容量に合わせる。
【0077】
CAMの滴定された溶液(酢酸エチル中)の調製
AcOEt(5mL)が充填された10mL容のメスフラスコ中に、140μLのCAM(1.381mM)を容量測定的に挿入した。次いで、この溶液を新たな溶剤で容量に合わせた。
【0078】
2-エチルヘキサン酸Sn(II)の滴定された溶液(酢酸エチル中)の調製
10mL容のメスフラスコ中に、酢酸エチル中の85%の2-エチルヘキサン酸Sn(II)(1.305mM)を0.6220g量り入れる。次いで、この溶液を新たな酢酸エチルで容量に合わせた。この溶液は72時間以内に使用され、その後は、再調製される必要がある。
【0079】
酢酸エチル中のtert-ブチルカテコール(TBC)の滴定された溶液の調製
10mL容のメスフラスコ中に、0.2126gのTBC(1.305mM)を量り入れて、新たな酢酸エチルで容量に合わせる。
【0080】
反応混合物の成分を4段階でシュレンク反応器中に添加するための一般的な方法(3mLのスチレン、3mLの酢酸エチル及び1mLのエタノールを有する反応混合物の例):
a)秤量容器内でアスコルビン酸(供給される場合)及び炭酸ナトリウムを秤量し、固体をシュレンク反応器中に導入し、アルゴン雰囲気を生成する。
b)スチレン(3mL)を5mL容の目盛り付きピペットで添加する。
c)2mLのAcOEt(5mL容の目盛り付きピペットで添加)及び1mLのAcOEt中のDCPE溶液(2mL容の目盛り付きピペットで添加)で希釈する。
d)CuCl2-TPMA錯体のエタノール溶液(1mL)を、振盪させながら、2mL容の目盛り付きピペットで導入する。
【0081】
反応の実施及び生成されたポリスチレンの分離
シュレンク反応器中に含まれる反応混合物を、マグネチックアンカースターラーを使用して400rpmで撹拌しながら固定された温度及び時間で油(又は水)浴中にて温度調節する。次いで、シュレンク反応器を空気中で15分間冷却した後に、その内容物をCH2Cl2(典型的には、20mL以上)で希釈する。次いで、ジクロロメタン溶液を大量のメタノール(250mL)に滴下してポリスチレンを沈殿させる。必要に応じて、ポリスチレンの沈殿及び濾過を促進するために、この時点で、少量(約2mL)のHCl(10%水性)を添加することができる(重量/容量)。これを2時間~3時間デカンテーションさせて、事前に秤量された濾過漏斗P4(75mL)で濾過する。
【0082】
分子量分布の測定法
得られたTHF中に可溶なポリマーの分子量分布を、屈折率(RI)検出器、粘度計(VISCO)及び多角度レーザー光散乱(MALLS)検出器を備えた液体ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって実施した。MALLS検出器によって、RI検出器を用いて得られた同じMwに対して20%大きい重量平均分子量(Mw)を示すポリマーは分岐状とみなされる。
【0083】
GPC機器は、
デガッサーを備えたWaters社製のAlliance E2695ポンプインジェクターモジュール、
プレカラム及び寸法300×7.8mm、粒度5μ、細孔106Å、105Å、104Å、103Åの4つのPhenogelカラム(Phenomenex社)を備えるWaters社製のオーブン、
Waters社製の410屈折率RI検出器、
固有の定格粘度を有するViscotek社製の多分散性標準で較正されたViscotek社製のT50A粘度計検出器、
を備える。
【0084】
実験的試験は、ここに報告される実験条件下で実施した:
THF溶剤、
カラム温度30℃、
流速1ml/分、
トルエン内部標準、
注入容量200マイクロリットル。
【0085】
試料(多分散)を1mg/mlの濃度で注入する。2170Daから4340000Daの間に含まれる分子量Mpを有する20種の単分散ポリスチレンの標準を注入し、全ての分子量について固有粘度及び溶出容量を記録することによって、ユニバーサル検量線を作成する。
【0086】
データの取得及び処理は、Empower2(Waters社)ソフトウェア及びOmnisec v.4.6.1ソフトウェア(Viscotek社)を介して行われる。
【0087】
実施例及び表は、配合、温度(T)及び反応時間(時間)、挿入された初期質量に対する重合されたスチレン割合(X)、RI検出器で測定された数平均分子量(Mn)、RI検出器で測定されたMw/Mn、得られた線状又は分岐状又は架橋した構造を示し、n.d.の表示は、測定不可能な測定値を示す。
【0088】
全ての実施例では、ARGET-ATRP反応を、シュレンク装置中で上記の一般的な方法によって実施した。
【0089】
実施例1~実施例9
同じ配合及び異なる反応温度での線状ポリマー、分岐状ポリマー、及び架橋したポリマーの形成
以下のものをシュレンク反応器中に導入した:3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OH及びモル割合[St]:[DCPE]:[CuCl2-TPMA]:[AA]:[Na2CO3]=100:1.06:0.2:0.5:1.5の反応物。
【0090】
【0091】
予想されるように、転化率(X)は温度(T)及び反応時間(t)と共に増加する。90℃から110℃では、線状ポリマーが得られるが、80℃及び43℃では、分岐状ポリマー構造が得られ、60℃では、架橋したポリマー(ゲル状、不溶性)が得られる。
【0092】
比較例10~比較例12
Na2CO3が存在しないと又は還元剤であるアスコルビン酸の濃度に対してNa2CO3が不足していると、ポリマーは形成されない。
【0093】
3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OHをシュレンク反応器中に挿入し、表2の配合にてT=100℃でt=18時間にわたり反応を実施した。
【0094】
【0095】
比較例10では、ARGET-ATRP重合を実施するために、Cu(II)、銅原子と等しいモル濃度の多座アミン配位子TPMA、還元剤としてのエタノール及びアスコルビン酸等の全ての成分が存在するが、Na2CO3が存在しないと、重合反応は起こらない。実施例11では、還元剤としてエタノールのみを用いても、Na2CO3がないと、重合反応は起こらない。実施例12では、還元剤としてアスコルビン酸をNa2CO3と等しいモル濃度で用いても、重合反応は起こらない。
【0096】
実施例13~実施例21
Na2CO3又はNaHCO3が存在し、アスコルビン酸が存在しない場合には、線状ポリマーが形成される。
【0097】
3mLのスチレン(実施例21では6mL)、3mLのAcOEt、1mLのEt-OHを、表3の配合及び条件でシュレンク反応器中に導入した。
【0098】
【0099】
実施例13では、アスコルビン酸を用いないと、Na2CO3の存在下で、重合反応が起こり、また、高いスチレン転化率(98%)で、Mw/Mnが2より大きくても、分岐状ポリマーは得られない。同様に、実施例17~実施例20では、実施例5~実施例8と類似であるが、アスコルビン酸を含まない反応条件で、線状ポリマーが得られる。実施例21では、100molのスチレンに対して0.25molのNa2CO3を用いると、理論上と等しいMnを有する線状ポリマーが生成され、この線状ポリマーは、開始剤の分子が2つのポリマー鎖を開始する理想的な「制御されたリビング」重合で得られることとなる。
【0100】
実施例22~実施例24
アスコルビン酸とは異なる還元剤を用いると、Na2CO3の存在下で、分岐状ポリマー又は架橋したポリマーは得られない。
【0101】
3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OHをシュレンク反応器中に挿入し、表4の配合及び条件にてT=70℃でt=18時間にわたり反応を実施した。
【0102】
【0103】
実施例22では、スチレンに対する0.05%に等しい触媒CuCl2-TPMAのモル濃度で、アスコルビン酸還元剤を用いると、架橋したポリマーが得られることとなるのに対して、実施例23及び実施例24では、アスコルビン酸の代わりに2-エチルヘキサン酸スズ(II)及びtert-ブチルカテコールを用いると、線状ポリマーが得られる。
【0104】
実施例25~実施例29及び比較例30~比較例32
ジェミナルな二官能性開始剤DCPE、Cl2TOL及びDCBMを用いた分岐状ポリマーの形成、並びに単官能性開始剤CEB、EBiB、ECiBを用いた線状ポリマーの形成
3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OHをシュレンク反応器中に挿入し、表5の配合及び条件にて反応温度T℃で時間t時間にわたり反応を実施した。
【0105】
【0106】
ジェミナルな二塩素化開始剤を用いる実施例25~実施例29では、分岐状ポリマーが得られるのに対して、モノハロゲン化開始剤を用いるが、他の条件は同じである実施例30~実施例32では、線状ポリマーが得られる。
【0107】
実施例33及び実施例34
実施例2及び実施例15の条件におけるTPMAの代わりのPMDETA配位子の使用
3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OH及びその他の反応物を、表6に列記される割合及び条件でシュレンク反応器中に挿入した。
【0108】
【0109】
配位子PMDETAは、活性ポリマー種の形成においてTPMAよりも効果が低く、他の反応条件が同じであると、転化率がより低い。
【0110】
実施例35~実施例40
3mLのスチレン及びAcOEt/Et-OHとは異なる溶剤混合物を同じ容量基準の量(3mL/1mL)で用いると、実施例2及び実施例15の条件で、非常に様々な結果が得られる(実施例2:[St]:[DCPE]:[CuCl2-TPMA]:[AA]:[Na2CO3]=100:1.06:0.2:0.5:1.5、T=100℃、t=4.5時間、実施例15:[St]:[DCPE]:[CuCl2-TPMA]:[AA]:[Na2CO3]=100:1.06:0.2:0:1.5、T=100℃、t=4.5時間)。
【0111】
表7に報告される量及び反応条件で、溶剤及び反応物をシュレンク反応器中に導入した。
【0112】
【0113】
AA及び溶剤ペアAcOMet/Met-OHを用いると、実施例35では、AcOEt/Et-OHを用いた実施例2と同様の収率及び実施例2よりも低いMw/Mnでポリマーが得られる。一方で、溶剤ペアAcOi-Pr/i-Pr-OH及びAcOt-Bu/t-Bu-OHを用いると、実施例36及び実施例37では、ポリスチレンは得られない(X=0%)。これらの場合に、該溶剤ペアは触媒Cu(II)-TPMA及びAAを溶解せず、炭酸ナトリウムと共に凝集して、反応器の壁部に堆積される有色の残留物を形成する傾向があることが観察される。
【0114】
AAを用いずに、溶剤ペアAcOMet/Met-OHを用いると、実施例38では、AcOEt/Et-OHを用いた実施例15よりわずかに高い収率及びMw/Mnでポリマーが得られる。溶剤ペアAcOi-Pr/i-Pr-OHを用いると、実施例39では、実施例15よりも明らかに高い収率が得られ、Mw/Mnは実施例15よりわずかに高いのに対して、AcOt-Bu/t-Bu-OHを用いると、実施例40では、AcOEt/Et-OHを用いた実施例15と同様の収率が得られるが、Mw/Mnは実施例15に対してより高い。
【0115】
実施例41
実施例7と同様の反応条件及び配合条件では、AcOEt/Et-OHの代わりに溶剤ペアAcOMet/Met-OHを用いると、不溶性ポリマーは得られないが、高いMw/Mnを有する高度に分岐したポリマーが得られる。
【0116】
以下のものをシュレンク反応器中に挿入した:3mLのスチレン及びAcOMet/Met-OH(3mL/1mL)、以下に報告される反応物間の濃度比[St]:[DCPE]:[CuCl2-TPMA]:[AA]:[Na2CO3]=100:1.06:0.2:0.5:1.5。得られた結果を表8に列記する。
【0117】
【0118】
実施例42~実施例46
AcOEt/Et-OHの様々な容量比では、60℃で、架橋した不溶性ポリマー又は分岐状の可溶性ポリマーを得ることができる。
【0119】
3mLのスチレン及びその他の反応物を、以下に列記される割合及び条件でシュレンク反応器中に挿入した:[St]:[DCPE]:[CuCl2-TPMA]:[AA]:[Na2CO3]=100:1.06:0.05:0.5:1.5、T=60℃。溶剤混合物は、表9に規定されるように構成されている。
【0120】
【0121】
実施例42~実施例44では、Et-OH含有量が増加するにつれ、反応速度が増加し、より低い倍率で架橋が観察される。0.5mLのEt-OH及びAcOEt/Et-OHの容量比7/1を用いた実施例45では、反応速度がより遅く、実施例46では、実施例42と同じAcOEt/Et-OH比で、溶剤の量を2倍にすることによって、架橋は達成されない(不溶性ポリマーは形成されない)。
【0122】
実施例47~実施例50
様々な量のDCPE、AcOEt/Et-OH及びAA/Na2CO3と共に3mLのスチレンを18時間にわたり70℃で用いると、架橋した不溶性ポリマー及び線状の可溶性ポリマーが得られる。
【0123】
3mLのスチレンをシュレンク反応器に挿入し、反応を70℃で18時間実施し、その他の反応物を表10に列記される割合で挿入した。
【0124】
【0125】
実施例48において実施例47に対して開始剤とアスコルビン酸との間の比率[DCPE]:[AA]を1.06:0.5から2.12:0.5に増加させることによって、他の成分の量、溶剤混合物の容量、温度(70℃)及び反応時間(18時間)が同じであると、不溶性ポリマーは形成されないが、わずかに低い転化率で線状ポリマーが形成される。実施例48の線状ポリマーは、その他の濃度、温度及び反応時間が同じで、また実施例49のようにEt-OHの量を2mLに増加させてAcOEt/Et-OH(2mL/2mL)とすることでも得られ、ここでは、スチレンの転化率の増加がX=83%で観察される。実施例50では、実施例47(ここでは、[DCPE]:[AA]は1.06:0.5である)と同じように、[DCPE]:[AA]比を2.12:1に戻すと、完全なスチレン転化率で不溶性ポリマーが得られる。
【0126】
実施例51~実施例53
3mLのスチレン、3mLのAcOEt、1mLのEt-OH、スチレンを基準に計算して1.06mol%のDCPE、0.5mol%/1.5mol%のAA/Na2CO3を用いて、反応を60℃で18時間実施し、CuCl2-TPMAのモル濃度を初期開始剤(DCPE)に対してモル基準で1/5(=0.2%のモル濃度)から1/20(=0.05%のモル濃度)まで変化させると、表11に報告されるようにポリマーのタイプに変化は生じない。
【0127】
【0128】
触媒の濃度は、不溶性ポリマーの形成には無関係である。
【0129】
実施例54及び実施例55
3mLのAcOEt及び1mLのEt-OHを用いて60℃で反応を18時間実施し、ジェミナルな二官能性開始剤DCPEの含有量を半分に減らすと、表12に報告されるように不溶性ポリマーはもはや得られない。
【0130】
【0131】
実施例54では、実施例53に対してDCPE開始剤の量を半分にすることにより、高度に分岐しているが不溶性ではないポリマーが得られる。実施例55では、実施例53に対してスチレンの量を2倍にすることにより、再び分岐した可溶性ポリマーが得られるが、その溶液は実施例54よりも粘度が低い。
【0132】
実施例56~実施例59
3mLのスチレン、3mLのAcOEt及び1mLのジEt-OH、[St]に対して1.06mol%のDCPE開始剤及び0.05mol%のCuCl2-TPMA触媒を用いて、反応を60℃で18時間実施して、AAの含有量若しくはNa2CO3の含有量又は両方を、実施例53の[St]を基準に計算されるAA/Na2CO3(0.5mol%/1.5mol%)に対して減らすと、表13に報告されるように不溶性ポリマーはもはや得られない。
【0133】
【0134】
その他の条件を同じにして、実施例53では、[St]に対して0.5mol%のAA及び1.5mol%のNa2CO3を用いると、不溶性ポリマーが得られた。また、実施例58では、AAを[St]に対して0.75mol%に増加させることにより、不溶性ポリマーが得られる。実施例59では、Na2CO3を[St]に対して1.0mol%に減少させることにより、分岐状ポリマーが得られ、実施例56及び実施例57では、AA/Na2CO3を0.25/0.75及び0.25/1.5に減少させることにより、線状ポリマーが得られる。
【0135】
比較例60
実施例42では、3mLのスチレン(26.1mmol)、3mLのAcOEt及び1mLのEt-OH、[St]に対して1.06mol%のDCPE開始剤、0.05mol%のCuCl2-TPMA触媒、及び0.5mol%/1.5mol%のAA/Na2CO3の含有量で、反応を60℃で13時間を実施することにより、不溶性の(架橋した)ポリマーが約74%のX(スチレン転化率)で得られた。同じ反応及び配合条件下(反応時間は13時間ではなく15時間)で、3.25mLのアクリル酸エチル(EA、26.1mmol)を3mLのスチレンで置き換えると、表14に報告されるように線状ポリマーが得られる。
【0136】