(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】クリップの取付構造
(51)【国際特許分類】
F16B 19/00 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
F16B19/00 C
F16B19/00 N
(21)【出願番号】P 2021007707
(22)【出願日】2021-01-21
【審査請求日】2023-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】308011351
【氏名又は名称】大和化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】吉橋 清裕
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-276109(JP,A)
【文献】特開2015-086989(JP,A)
【文献】特開2020-172951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付部材の円柱状の挿入孔に対し、頭部から下方に突出する脚部を挿入する形でクリップが取り付けられるクリップの取付構造であって、
前記クリップは、非弾性変形状態において前記脚部の外周面から外向きに延びる板状の係合突起部を、前記挿入孔への挿入方向において複数有し、
前記係合突起部は、上面又は下面において前記脚部の軸線から最も離れた位置となる最外縁部に、角R半径0.2mm未満に鋭化された鋭化角部を有し、
前記鋭化角部は、前記挿入孔に挿入される時には前記係合突起部を弾性変形させる形で前記挿入孔の内周壁面上を摺動する一方で、挿入された後には
前記挿入孔内での前記係合突起部の弾性復帰により
前記挿入孔内で前記内周壁面に食い込んだ係合状態を形成し、前記クリップの前記挿入孔からの抜けを阻止する係合角部を含み、
前記係合突起部は、前記上面と前記下面とそれらを接続する側面とを有し、
前記係合角部は、前記側面のうち前記軸線から最も遠い位置にある先端面の下縁に設けられ、
前記係合角部と前記軸線とを含む断面で見て、前記先端面と前記下面との成す角度が90°より小さいことを特徴とするクリップの取付構造。
【請求項2】
被取付部材の円柱状の挿入孔に対し、頭部から下方に突出する脚部を挿入する形でクリップが取り付けられるクリップの取付構造であって、
前記クリップは、非弾性変形状態において前記脚部の外周面から外向きに延びる板状の係合突起部を、前記挿入孔への挿入方向において複数有し、
前記係合突起部は、上面又は下面において前記脚部の軸線から最も離れた位置となる最外縁部に、角R半径0.2mm未満に鋭化された鋭化角部を有し、
前記鋭化角部は、前記挿入孔に挿入される時には前記係合突起部を弾性変形させる形で前記挿入孔の内周壁面上を摺動する一方で、挿入された後には
前記挿入孔内での前記係合突起部の弾性復帰により
前記挿入孔内で前記内周壁面に食い込んだ係合状態を形成し、前記クリップの前記挿入孔からの抜けを阻止する係合角部を含
み、
前記係合突起部は、前記上面と前記下面とそれらを接続する側面とを有し、
前記係合角部は、前記側面のうち前記軸線から最も遠い位置にある先端面の、前記軸線に対する周方向の両端側に設けられ、
前記クリップは補強板部を有し、
前記補強板部は、前記脚部の外周面における周方向の複数位置から外向きに突出する形で挿入方向に延び、
前記係合突起部は、周方向において隣接する前記補強板部の間をまたがるように形成され、
前記係合突起部には、前記周方向の前記両端側に設けられた一方の前記係合角部と前記軸線を含む断面には現れず、前記両端側に設けられた他方の前記係合角部と前記軸線を含む断面には前記係合突起部を上下に貫通するように現れる切り欠き部が形成されることを特徴とするクリップの取付構造。
【請求項3】
前記係合突起部は、その長さをL1、その板厚をL2としたときに、少なくともその長さ方向における前記脚部側の8割の区間においてL1×1/3≦L2を満たす
請求項1又は請求項2に記載のクリップの取付構造。
【請求項4】
各前記係合角部は、前記脚部の軸線と同軸をなす予め定められた螺旋上に分散して位置することによりねじ山として機能するものであり、前記係合状態となった前記クリップを前記軸線周りにおいて所定方向へ回転させることで前記挿入孔から抜き取り可能である
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のクリップの取付構造。
【請求項5】
前記脚部が前記挿入孔に対し所定の深さまで挿入されたときに、音、触感、および形状変化のいずれか1以上を発生させる挿入完了伝達手段を有する請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載のクリップの取付構造。
【請求項6】
前記クリップは、前記脚部が前記被取付部材とは別の挟持部材の貫通孔を貫通した先で、前記挿入孔に挿入する形で前記被取付部材に対し取り付けられる請求項1ないし請求項
5のいずれか1項に記載のクリップの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリップの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クリップ本体の軸部を対象部材の台座に対して差し込み、その上で操作片によってクリップ本体を軸線回りに回転させることにより、締結刃が台座の周面に食い込んでクリップ本体と対象部材とを結合させるクリップの取付構造について記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のクリップの場合、挿入した後に回転させるという2操作が必要となるため、作業性において劣る。また、クリップ本体の軸部が挿入される台座の軸心孔は、長孔形状という特殊形状をなしているため汎用性が低く、よりシンプルな形状であることが望まれている。
【0005】
本発明の課題は、被取付部材に取り付ける作業がより容易化され、かつ被取付部材の取付部がよりシンプルな形状とされたクリップの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するためのクリップの取付構造は、
被取付部材の円柱状の挿入孔に対し、頭部から下方に突出する脚部を挿入する形でクリップが取り付けられるクリップの取付構造であって、
前記クリップは、非弾性変形状態において前記脚部の外周面から外向きに延びる板状の係合突起部を、前記挿入孔への挿入方向において複数有し、
前記係合突起部は、上面又は下面において前記脚部の軸線から最も離れた位置となる最外縁部に、角R半径0.2mm未満に鋭化された鋭化角部を有し、
前記鋭化角部は、前記挿入孔に挿入される時には前記係合突起部を弾性変形させる形で前記挿入孔の内周壁面上を摺動する一方で、挿入された後には前記係合突起部の弾性復帰により前記内周壁面に食い込んだ係合状態を形成し、前記クリップの前記挿入孔からの抜けを阻止する係合角部を含むことを特徴とする。
【0007】
上記本発明の構成によれば、シンプルな円柱状の挿入孔に挿入され、その内周壁面に圧接する係合突起部においてその最外縁に位置する角部に対し、従来のように滑らかに湾曲するアールが設けられるのではなく、アールがほぼ無い鋭化された角部が設けられる。これにより、係合突起部は、鋭化角部(係合角部)が挿入孔の内周壁面により容易かつより強固に食い込むから、単純に脚部を挿入するだけで挿入孔からの抜けを確実に阻止できる。従来のように、食い込みを発生させるために、長孔に挿入した後に回転させるような手間は生じない。
【0008】
前記係合突起部は、その長さをL1、その板厚をL2としたときに、少なくともその長さ方向における前記脚部側の8割の区間においてL1×1/3≦L2であることを満たすように形成できる。この構成によれば、各係合突起部が先端に近い位置まで一定以上の厚みを持って形成される。このため、各係合突起部は剛性が高くなり、挿入孔の内周壁面に対し係合角部がより強固に食い込みやすい。また、食い込んだ後に抜き方向への力が作用しても、各係合突起部はその剛性によって撓みにくいから、その力に十分に耐えて抜けを阻止できる。従来のクリップにおける当該部位は、挿入時に挿入抵抗が減じられるよう撓ませることを前提に設計されているため、本発明のような厚みにはなり得ない。
【0009】
なお、この場合の係合突起部の長さL1は、各係合突起部の係合角部のうち少なくとも1つに関し、その係合角部と脚部の軸線とを含む断面において、当該係合角部の頂点Pから該係合突起部と脚部との接続点Qに至る直線PQの長さとして定める。係合突起部の板厚L2は、係合突起部において、上面及び下面のうち係合角部を有する面に対する直交方向において、当該面から他方の面までの長さと定める。係合突起部の長さ方向は、直線PQの延出方向として定める。係合突起部において係合角部が複数存在する場合は、いずれかの係合角部を含む上記断面において、L2とL1とが上記関係を満たしていればよい。
【0010】
各前記係合角部は、前記脚部の軸線と同軸をなす予め定められた螺旋上に分散して位置することによりねじ山として機能するものであり、前記係合状態となった前記クリップを前記軸線周りにおいて所定方向へ回転させることで前記挿入孔から抜き取り可能にできる。この構成によれば、例えば脚部上端の頭部に、所定の治具によってクリップを前記螺旋の上昇方向側へと回転させるための係合部(治具用係合部:例えば十字状の溝)を設けることで、当該治具によって挿入孔からクリップを取り外すことができ、クリップの再利用が可能になる。
【0011】
前記脚部が前記挿入孔に対し所定の深さまで挿入されたときに、音、触感、および形状変化のいずれか1つ以上を発生させる挿入完了伝達手段を有することができる。この構成によれば、挿入孔にクリップを挿入するときに、その作業者に対して組み付け完了を知らせることができる。このため、挿入孔にクリップを所定の深さまで確実に挿入させることができる。組み付け作業をする場所によっては、音が聞こえにくい場所もあり得るため、触感や形状変化によって組み付け完了が伝達可能とされていれば、作業者にとってよりわかりやすくなる。
【0012】
前記クリップは、前記脚部が前記被取付部材とは別の挟持部材の貫通孔を貫通した先で、前記挿入孔に挿入する形で前記被取付部材に対し取り付けられるようにできる。この構成によれば、強固に組み付く被取付部材とクリップとの間に、第三の部材である挟持部材が挟み込まれ、挟持状態になる。これにより、これら3者をより強固に組み付けた構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第一実施例のクリップの取付構造の分解斜視図。
【
図8】
図1のクリップを斜め下方から見た部分拡大斜視図。
【
図10】
図1のクリップを被取付部材に取り付ける手順を、
図3のX-X断面を用いて説明する断面図。
【
図13】クリップが挿入孔に挿入されていくときの第一の係合突起部を、
図4のA-A断面を用いて模式的に示した断面図。
【
図16】クリップが挿入孔に挿入されていくときの第二の係合突起部を、
図4のB-B断面を用いて模式的に示した断面図。
【
図19】第一変形例のクリップの取付構造の分解斜視図。
【
図20】
図19のクリップを被取付部材に取り付ける手順を説明するための断面図。
【
図23】第二変形例のクリップの取付構造の分解斜視図。
【
図24】
図23のクリップを被取付部材に取り付ける手順を説明するための断面図。
【
図34】クリップが挿入孔に挿入されていくときの第一の係合突起部を、
図31のE-E断面を用いて模式的に示した断面図。
【
図37】第四変形例のクリップの取付構造の断面図。
【
図38】第五変形例のクリップが挿入孔に挿入されていくときの係合突起部を模式的に示した断面図。
【
図41】係合突起部の板厚を規定する別の方法を、
図4のA-A断面を用いて模式的に示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施例におけるクリップの取付構造は、
図1 に示す被取付部材10の円柱状の挿入孔11に対し、
図1~
図3に示すクリップ1が脚部2を挿入する形で取り付けられて形成された構造100(
図12参照)である。ここでの被取付部材10は車両用の部材であり、その主面に対し略鉛直方向に軸線を有した直円柱の挿入孔11が形成されている。
【0016】
なお、本発明における円柱状の挿入孔とは、略円柱状をなす所定の円柱形状の外周面と同一の曲面上に環状を形成する形で内周壁面を有する孔であればよく、底面や開口の形状に限定は無く、貫通孔であっても有底孔であってもよい。また、略円柱状とは、挿入孔の軸線に対し直交する径方向の孔幅(直径)に対し誤差±5%を有するものや、抜きテーパ角度1度以下のものが含まれるとする。上述した略鉛直方向についても、これらの誤差が許容されるとする。
【0017】
クリップ1は、
図2 及び
図3 に示すように、頭部4と、頭部4から下方に突出する脚部2と、脚部2の外周面から上方斜め外向きに延びる板状の係合突起部3と、を一体に有する。ここでのクリップ1及び被取付部材10は樹脂射出成形体として形成されている。
【0018】
脚部2は、被取付部材10の挿入孔11に対し、頭部4の下端(先端)から挿入される柱状の部位である。脚部2の軸線2zの方向(軸線方向)が挿入孔11への挿入方向Iと一致している。
【0019】
頭部4は、脚部2の上端(基端)においてその軸線2z側から外向き(外周側)に膨出した形状をなす。ここでの頭部4は、軸線2zを中心に略円盤状に拡がっている。脚部2が挿入孔11に挿入された時、頭部4は、その下面4Dが挿入孔11の開口周辺面12に対し対向・対面するから、挿入孔11には挿入されない(
図10~
図12参照)。
【0020】
係合突起部3は、
図2及び
図3に示すように、脚部2において挿入方向Iに等間隔おきに複数並んで形成される。各係合突起部3は、自然状態(弾性変形を生じていない非弾性変形状態)において脚部2の外周面から上方斜め外向きに延びる板状に形成される。各係合突起部3は、脚部2側を支点にしてその逆の先端側を上下に弾性変形することが可能である。
【0021】
また、各係合突起部3は、上面3C及び下面3Dのいずれか一方(ここでは下面3Dのみ)において、その外縁部に、脚部2の軸線2zから最も離れた位置となる最外縁部を有する。ここでは、
図4に示すように、全ての係合突起部3において、下面3Dの外縁部3d0~3d4に最外縁部3d1、3d3を特定できる。そして、少なくともその最外縁部3d1、3d3が、角R半径0.2mm未満、より望ましくは角R半径0.1mm以下に鋭化された鋭化角部として形成される。それら鋭化角部3d1、3d3は、
図10~
図12に示すクリップ1の挿入孔11への挿入時及び挿入後(挿入完了後)において、その内周壁面11rと干渉・係合する係合角部(3d1、3d3)として機能する(
図13~
図15及び
図16~
図18参照)。
【0022】
なお、本実施例では、各係合突起部3の下面3Dの外縁部3d0~3d4の全てが上述の鋭化角部であり、角R半径0mmとされている。下面3Dは平坦面をなす。一方で、各係合突起部3において、下面3Dの外縁部3d0~3d4を除くその他全ての角部(例えば角面a、b、c、e、f、g、h)については、いずれも緩やかな湾曲面(アール)として形成されている。上面3Cは平坦面をなす。
【0023】
係合角部3d1、3d3は、挿入孔11に挿入される時には、その内周壁面11r上を摺動し(
図14及び
図17参照)、係合突起部3に対し先端側(係合角部3d1、3d3側)を上向きに撓ませる弾性変形を生じさせる。一方で、係合角部3d1、3d3は、挿入孔11に挿入された後(挿入完了後)に、係合突起部3の弾性復帰により内周壁面11rに食い込んだ係合状態を形成する(
図15及び
図18参照)。この係合により、クリップ1の挿入孔11からの抜けが阻止され、クリップ1は被取付部材10に取り付けられて取付構造100が形成される。
【0024】
ここでの係合角部3d1、3d3は、各係合突起部3において脚部2の軸線2zから最も遠い位置にある先端面3Tの、軸線2zに対する周方向の両端側の角面e、gの下縁である(
図5~
図7及び
図9の破線円内)。この先端面3Tは、下面3Dと共に係合角部3d1、3d3を形成する面であり、下面3Dとの接続部である係合角部3d1、3d3から上下方向に延びる立面をなす。さらにこの先端面3Tは、係合突起部3の全側面3A、3B、3Tのうちの一部であって、平坦な中央とその外周で湾曲する角部を含めた面t、c、e、f、g、hにより構成される。なお、側面3Aは面s、a(
図6参照)により構成され、側面3Bは面u、b(
図7参照)により構成される。
【0025】
また、係合突起部3は、本発明では従来のものよりも厚く形成される。さらにいえば、係合突起部3は、基端側だけでなく先端側まで厚く形成され、基端側から先端側にかけての全体にわたって従来よりも高い剛性を有する。これにより、脚部2が挿入孔11への挿入された後(挿入完了後)、係合突起部3が内周壁面11rに対しより食い込みやすくなっている。
【0026】
係合突起部3の板厚は、以下の規定を満たすように形成される。即ち、板状をなす係合突起部は、その長さをL1、その板厚をL2としたときに、少なくともその長さ方向における脚部2側の8割の区間(OQ)において板厚L2が長さL1の1/3以上(L1×1/3≦L2)であることを満たすように形成される。
【0027】
なお、この場合、係合突起部3の長さL1は、各係合突起部3の係合角部3d1、3d3のうち少なくとも1つ(ここでは3d1)に関し、その係合角部(3d1)と脚部2の軸線2zとを含む断面(
図13参照)において、当該係合角部3d1の頂点Pから該係合突起部3と脚部2との接続点Qに至る直線PQの長さとして定める。係合突起部3の板厚L2は、係合突起部3において、上面及び下面のうち係合角部3d1、3d3を有する面(ここでは下面3D)に対する直交方向において、当該面(下面3D)から他方の面(上面3C)までの長さと定める。係合突起部3の長さ方向は、直線PQの延出方向として定める。本実施例にように係合突起部3に複数の係合角部3d1、3d3が存在する場合、上記したL1とL2の関係は、複数の係合角部3d1、3d3のうちの全てにおいて満たされる必要は無く、いずれか(ここでは3d1)1以上が満たしていればよい。
【0028】
さらにここでの係合突起部3の板厚L2は、係合突起部3の上記長さ方向における脚部2とは逆の先端側の2割の区間(PO)において、以下のように規定される。即ち、係合突起部3は、上記断面(
図13参照)の係合突起部3の先端側の2割の区間(PO)において、直線PQと直交する方向で該係合突起部3を切断する時の切断線Cの、直線PQとは逆側の端点により形成される外縁線Mが、その外縁線Mの脚部2側の端Rから当該係合角部3d1の頂点Pに至る直線RPと一致する位置かそれよりも外側(直線PQから離れる側)の位置を通過するように規定される。
【0029】
上記のように板厚L2が規定された係合突起部3は、従来よりも厚く形成され、脚部2の挿入孔11への挿入時及び挿入後においては、その先端面3Tが挿入孔11の内周壁面11rに対し近接対向する形状となる。本実施例における係合突起部3の先端面3Tは、下縁の一部(係合角部3d1、3d3)を内周壁面11rに食い込ませる形で内周壁面11rに対し接近する一方で、上縁側も内周壁面11rに対し近接した位置をとり、先端面3T全体が内周壁面11rに対し傾斜した面をなす。ここでの先端面3Tは、係合突起部3が自然状態(非弾性変形状態)の時(
図13及び
図16参照)には、係合角部3d1と係合角部3d3との双方において、径方向における軸線2zの方向とのなす角度θnが0度以上30度以下又は平行となる。
【0030】
なお、ここでのθnは、係合突起部3が自然状態(非弾性変形状態)の時において、先端面3Tと、軸線2zと略平行をなす内周壁面11rとのなす角度として図示されている。
図14、
図15、
図17、
図18のθs、θbは係合突起部3の内周壁面11r摺動時又は係合突起部3の係合状態の時において、先端面3Tと、軸線2zの方向(内周壁面11r)とのなす角度を示している。
【0031】
また、クリップ1は、
図2及び
図3に示すように、補強板部6を有する。補強板部6は、脚部2の外周面における周方向の複数位置から(ここでは外周面の四方から:
図4参照)外向きに突出する形で挿入方向Iに延びる板状をなす。係合突起部3は、ここでは周方向において隣接する補強板部6の間をまたがるように形成されている。これにより、係合突起部3の強度・剛性を高め、係合突起部3を内周壁面11rに対し確実に食い込むようにしている(
図7参照)。
【0032】
また、各係合突起部3は、
図4及び
図5に示すように、それぞれ周方向の両側で接続している両補強板部6との接続近傍領域においてその外側が切り欠かれており、切欠き部3V、3Uが形成されている。これにより、係合突起部3の弾性をその先端側(先端面3T側)においてわずかに高め、挿入孔11への挿入をある程度容易化している。
【0033】
切欠き部3Vは、係合角部3d1と脚部2の軸線2zとを含む断面(
図4のA-A断面:
図13~
図15参照)には現れないが、係合角部3d3と脚部2の軸線2zとを含む断面(
図4のB-B断面:
図16~
図18図参照)には現れる。つまり、係合突起部3において、係合角部3d3側は、その中間に切欠き部3Vが存在することで、その切り欠き部3Vよりも外側の先端側(係合角部3d1側)がやや撓みやすい。したがって、本実施例の係合突起部3は、先端側まで剛性が高く、挿入孔11の内周壁面11rに対し深く確実に食い込む効果を有する第一の係合角部3d1と、切欠き部3Vによって先端側が第一の係合角部3d1よりも撓みやすく、弾性変形による挿入容易化の効果を付加された第二の係合角部3d3と、を有する。なお、係合突起部3の板厚L2は、当該係合突起部3において係合角部が複数存在する場合にはそれらのうち少なくとも1つの係合角部が基準となる形で規定されていればよい。本実施例では第一の係合角部3d1が基準となっており、当該第一の係合角部3d1を基準として定められるL1とL2が、上述の板厚L2の規定を満たしている。
【0034】
本実施例の係合突起部3についてより具体的に説明する。
【0035】
係合突起部3は、
図2に示すように、脚部2の軸線2zに対し直交する直交方向(径方向)のうち、第一直交方向2xの第一側(
図2右側)とその逆の第二側(
図2左側)において、軸線2zを挟んで対称に形成される。また、係合突起部3は、
図3に示すように、軸線2zと第一直交方向2xとの双方と直交する第二直交方向2yの第一側(
図3右側)とその逆の第二側(
図3左側)においても、軸線2zを挟んで対称に形成される。本実施例の係合突起部3は、
図4に示すように、脚部2の周方向において脚部2を取り囲むように4つ存在し、それら4つの係合突起部3の組が、軸線2zの方向(軸線方向)に所定間隔おきに並ぶ形で複数組形成されている。
【0036】
また、
図4に示すように、第一直交方向2xの第一側(
図4上側)及び第二側(
図4下側)においてそれぞれ補強板部6を挟んで隣接して存在する2つの係合突起部3のペアは、
図2においては、左右の補強板部6の手前側に図示されている係合突起部3と、左右の補強板部6の奥側にあるため図示されていない係合突起部3である。
図2の左側で補強板部6の手前側と奥側に存在する係合突起部3のペアは、第一直交方向2xにおいて脚部2の軸線2zに対し同じ角度で斜め上方外向き(
図2では斜め上方左向き)に延びる平板状をなし、
図6に示すように、挿入方向Iの手前側の上面3C同士及び奥側の下面3D同士が、それぞれ同一平面S1、S2上をひろがる。ここでの平面S1とS2は互いに平行な平面をなす。他方、
図2の右側で補強板部6の手前側と奥側に存在する係合突起部3のペアは、第一直交方向2xにおいて脚部2の軸線2zに対し同じ角度で斜め上方外向き(
図2では斜め上方右向き)に延びる平板状をなし、
図6の上面3CとS1、下面3DとS2の関係と同様に、挿入方向Iの手前側の上面3C同士及び奥側の下面3D同士が、それぞれ同一平面S3、S4上をひろがる。ここでの平面S3とS4も互いに平行な平面をなす。
【0037】
また、クリップ1は、
図2 に示すように、本発明の挿入完了伝達手段として弾性係止片5を有する。
【0038】
挿入完了伝達手段は、脚部2が挿入孔11に対し所定の深さまで挿入された挿入完了時に、音、触感、および形状変化のいずれか1つ以上を発生させ、取付作業者に取付完了を伝える手段である。
【0039】
本実施例において挿入完了伝達手段をなす弾性係止片5は、頭部4の下面4Dから(脚部2の上端側からでもよい)、自然状態(非弾性変形状態)において挿入方向Iに向かって脚部2から離れるよう斜め外向きに延びる弾性片部5Mと、その先端側に設けられ、弾性片部5Mが挿入方向Iの手前側に向けて弾性変形することにより頭部4の外縁上方に回り込んで係止し、自然状態位置への復帰を阻止する係止状態を形成可能な先端係止部5Lと、を有する。
【0040】
この弾性係止片5は、弾性片部5Mにおいて頭部4(又は脚部2)と接続する基端側が、弾性片部5Mの長さ方向の他の区間よりも弾性変形が容易となるように形成される。これにより弾性係止片5は、
図10~
図12に示すように、基端側を支点にして先端側を上下に揺動(回動)可能となる。この揺動により弾性係止片5は、先端係止部5Lを頭部4の外縁に設けられた外縁係止部4Lに接近させることができ、さらにこれを乗り越えることで当該外縁係止部4Lとの係止状態(下方への抜け止め状態:
図12参照)を形成できる。
【0041】
そして、組み付け作業者は、先端係止部5Lが外縁係止部4Lを乗り越えるときに発生する音と触感を感じ取ることができ、さらにはその形状変化についても視認することができるから、クリップ1の脚部2が挿入孔11に対し所定の深さまで挿入されて組み付けが完了したことを認識できる。この係止状態において弾性片部5Mは、挿入孔11の開口周辺面12によって頭部4の下面4D側へと押し付けられ、下面4Dに沿って外向きに延びた状態に維持される。
【0042】
なお、ここでの弾性係止片5は、軸線2zとの直交方向(ここでは第一直交方向2x)においてその軸線2zを挟んだ両側に形成されている。また、頭部4では、弾性係止片5の先端係止部5Lが係止する外縁係止部4Lが、先端係止部5Lが乗り越えやすいように軸線2z周辺の中心領域よりも薄い薄肉部として形成されている。
【0043】
クリップ1を被取付部材10に取り付ける取付手順を、
図10~
図18を用いて説明する。
【0044】
まずは
図10に示すように、クリップ1の脚部2を、頭部4とは逆に位置する先端2Tから、被取付部材10の円柱状の挿入孔11に対し双方の軸線2z、11zを一致させる形で挿入する。脚部2の先端2Tは先細り形状をなしており、挿入孔11への挿入が容易化されている。
【0045】
挿入孔11への脚部2の挿入が進むと、挿入孔11の開口周辺面12に対し、係合突起部3のうち最下段の4つの係合突起部3が当接する(
図13及び
図16参照)。ただし、脚部2を挿入孔11へさらに押し込むことにより、係合突起部3は、その先端側が挿入方向Iの手前側(上側)に向けて弾性変形する形で挿入孔11内に押し込まれ、係合角部3d1、3d3が内周壁面11r上を摺動する形で脚部2の挿入が進んでいく(
図14及び
図17参照)。最下段の係合突起部3が挿入孔11内に押し込まれると、その次の段の係合突起部3が挿入孔11の開口周辺面12に当接し、それを押し込むと今度はその次の段の係合突起部3が開口周辺面12に当接する。つまり、当接するたびに脚部2を挿入孔11へさらに押し込んでいくことで、脚部2が挿入孔11に挿入されていく。挿入孔11内に押し込まれた係合突起部3は全て、それぞれの先端側で上方に撓む弾性変形が生じ、それぞれの係合角部3d1、3d3が内周壁面11r上を摺動する(
図14及び
図17参照)。
【0046】
ただし、実際のところ、取付作業者は、挿入孔11に対し係合突起部3を1段1段順に押し込んでいくというよりは、1回の押込みによって、挿入孔11に対し係合突起部3の最終段(最上段)まで、あるいは最終段付近まで一気に押し込むことになる。
【0047】
係合突起部3が挿入孔11内に進入していくと、
図11に示すように、弾性係止片5が挿入孔11の開口周辺面12と接触する。さらに進入すると、弾性係止片5は、開口周辺面12によって頭部4に接近するように押し上げられ、基端側を支点に揺動(回動)する。これにより、先端係止部5Lが頭部4の外縁に下側から接近する。そして、最終段(最上段)の係合突起部3が挿入孔11内に進入して、脚部2が挿入孔11に対し所定の深さまで挿入されたときには、弾性係止片5はさらに揺動(回動)し、
図12に示すように、先端係止部5Lが頭部4の外縁を乗り越え、乗り越えた先で当該外縁(外縁係止部4L)と係止した係止状態となる。これにより、クリップ1の挿入孔11への挿入が完了し、取付構造100が形成される。
【0048】
脚部2が挿入孔11内に進入している段階において、係合突起部3は、
図14及び
図17に示すように、クリップ1を挿入孔11に挿入する力により、先端側を挿入方向Iの逆向き(上側)へ向けて撓ませつつ内周壁面11r上を摺動する。ところが、クリップ1の挿入孔11への挿入が完了して上記挿入力が解除されると、係合突起部3は弾性復帰を生じて、係合角部3d1、3d3が内周壁面11rに対する食い込みを開始する。そして、
図15及び
図18に示すように、この食い込みによって、クリップ1の脚部2は、挿入孔11に対し抜け止め固定された状態となる。このようにクリップ1は、挿入孔11に対し食い込みという係合状態を形成する形で固定され、被取付部材10に対する取付構造100が形成される。
【0049】
なお、本実施例においては、上記の食い込みが進んだ結果、係合角部3d1、3d3だけでなく、それらをつなぐ鋭化角部3d2も内周壁面11rに対し食い込んでいる。ただし、鋭化角部3d2は、クリップ1を挿入孔11に挿入する時に内周壁面11rに対し非接触であり、内周壁面11r上を摺動しない。このため、鋭化角部3d2は、鋭化角部3d2は、クリップ1の挿入時に摺動抵抗が無いにもかかわらず、挿入後に内周壁面11rに食い込むことが可能な準係合角部(補助係合角部といってもよい)として機能する。なお、係合角部が存在していれば、準係合角部は無くてもよい。
【0050】
クリップ1の取付作業者は、クリップ1を挿入孔11に挿入する際、挿入孔11の開口周辺面12に係合突起部3が順々に当接・接触していくと、その都度発生する接触音を聞くことができる。また、この取付作業者は、こうした接触音と同時に、接触したことによる触感も感じ取ることができる。ところが、各係合突起部3は同形状をなして形成されているから、これらの接触音及び触感だけでは、クリップ1が挿入孔11に対し所定の深さ挿入されたか否か、即ち挿入が完了したか否かを判断することができない。
【0051】
これに対し本実施例では、クリップ1の挿入孔11への挿入完了の際に、弾性係止片5の先端係止部5Lが頭部4の外縁を乗り越え、乗り越えた先で当該外縁と係止した係止状態となる。この係止時には音と触感が発生するから、これらによってクリップ1の挿入孔11への挿入完了を判断することができる。係合突起部3と弾性係止片5とは、剛性も形状も全く違うものであるから、発生する音も触感も全く異質である。よって、係合突起部3により発生する音や触感とは明確に区別して認識できる。さらにいえば、弾性係止片5の係止状態も目視で明らかであるから、目視によっても挿入完了を判断できる。
【0052】
以上、本発明の一実施例を説明したが、これはあくまでも例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、追加及び省略等の種々の変更が可能である。
【0053】
以下、上記した実施例とは別の実施例やそれら実施例の変形例について説明する。なお、上記実施例と共通の機能を有する部位には同一符号を付して詳細な説明を省略する。また、上記実施例と、下記変形例及び別実施例とは、技術的な矛盾を生じない範囲において適宜組み合わせて実施できる。
【0054】
上記実施例における被取付部材10は、少なくとも円柱状の挿入孔を有した部材であればよく、上記実施例のものでなくてもよい。
【0055】
上記実施例における挿入完了伝達手段(弾性係止片5)は、音や触感、形状変化によってクリップ1の挿入孔11への挿入完了を取付作業者が認識できるが、挿入完了に伴い音や触感、形状変化のいずれか1以上が発生すればよい。それらの中でも、触感及び形状変化のいずれか又は双方が発生するようになっていれば、作業空間が騒音等のひどい空間であったとしても、取付作業者が挿入完了を認識できる。なお、本発明においては、挿入完了伝達手段(上記実施例の弾性係止片5)を省略することも可能である。
【0056】
上記実施例の第一変形例について、
図19~
図22を用いて説明する。
【0057】
第一変形例では、
図19に示すように、上記実施例と同形状のクリップ1と、筒状に突出するボス13を有した被取付部材10(ここでは板状部材)と、クリップ1の頭部4と被取付部材10との間に挟持される挟持部材20(相手部材)と、を備える取付構造100(
図22参照)が形成される。挟持部材20には貫通孔21が形成され、被取付部材10には、主面から突出するボス13に円柱状の挿入孔11が形成されている。クリップ1は、脚部2が板状の挟持部材20の貫通孔21を貫通した先で、挿入孔11に挿入された形で被取付部材10に取り付けられ、これにより被取付部材10との間に挟持部材20が挟持された形のクリップ1の取付構造100(
図22参照)が形成される。つまり、この取付構造100は、クリップ1を用いて挟持部材20を被取付部材10に組み付けた構造である。
【0058】
この場合の、クリップ1を被取付部材10に取り付ける取付手順は、まずは、脚部2を板状の挟持部材20の貫通孔21を挿入し、その先で被取付部材10の挿入孔11にも挿入する(
図20参照)。その後は、上記実施例と同様にして、脚部2を貫通孔21及び挿入孔11に挿入していくことになる(
図21→
図22参照)。脚部2の挿入孔11への挿入も上記実施例と同じであり、係合突起部3が弾性変形する形で内周壁面11r上を摺動する形でなされる(
図14参照)。最終段(最上段)の係合突起部3が挿入孔11内に進入して、脚部2が挿入孔11に対し所定の深さまで挿入されたときには、
図22に示すように、挟持部材20が被取付部材10の開口周辺面12と当接(密着)し、かつその逆側で挟持部材20の貫通孔21の開口周辺面22が弾性係止片5(挿入完了伝達手段)と接触した状態となり、開口周辺面22が弾性係止片5を頭部4に接近するように押し上げる。この押し上げにより、弾性係止片5は、先端係止部5Lが頭部4の外縁を乗り越えて係止状態となる。これにより、クリップ1の挿入孔11への挿入が完了する。この完了を、係止に伴う音や触感、係止状態の目視(形状変化の目視)等によって、取付作業者が認識できる点も上記実施例と同様である。また、この完了時に、係合突起部3が挿入孔11の内周壁面11rに食い込むことも、上記実施例と同じである(
図15参照)。
【0059】
上記実施例の第二変形例について、
図23~
図26を用いて説明する。
【0060】
第二変形例では、
図23に示すように、上記実施例と頭部4以外が同形状のクリップ1と、円筒状の挿入孔11を有した被取付部材10と、を備える取付構造100(
図26参照)が形成される。頭部4は、ここでは脚部2の端部から、脚部2の先端側に向けて外向きに拡がる傘形状をなし、その外周部4Rが本発明の挿入完了伝達手段をなす。
【0061】
この場合、クリップ1を被取付部材10に取り付ける取付手順は、基本的には上記実施例と同様である(
図24→
図25参照)。ただし、脚部2が挿入孔11に対し挿入され、所定の深さまで達したときには、
図26に示すように、傘状の頭部4の外周部4Rが、被取付部材10の開口周辺面12と接触した状態となり、開口周辺面12が外周部4Rを上方に押し上げる。この押し上げにより、外周部4Rは、脚部2の先端側に向けて外向きに拡がる傘形状(
図25参照)から、外周側が押し上げられるよう屈曲した逆さ傘形状(
図26参照)となる。これにより、クリップ1の挿入孔11への挿入が完了し、クリップ1の取付構造100が形成される。なお、この完了は、外周部4Rの屈曲に伴う音や触感、逆さ傘形状の目視(形状変化の目視)等によって、取付作業者が容易に認識できる。
【0062】
上記実施例の第三変形例について、
図27~
図33を用いて説明する。
【0063】
第三変形例のクリップ1は、
図27及び
図28に示すように、係合突起部3の一部が係合突起部9となっている点を除けば、上記実施例とほぼ同形状である。係合突起部9は、係合突起部3と同様に、脚部2において挿入方向Iに複数並んで形成される。そして、各係合突起部3、9の係合角部3d1、3d3、9d1、9d3は、脚部2の軸線2zと同軸の螺旋上に分散して位置するように形成される。螺旋上に分散して位置することにより、クリップ1は、取付構造100が形成された状態においては挿入孔11から上方に直接引き抜くことはできないが、軸線2z周りに所定方向へ回転させることによりネジのように抜き取ることができる。
【0064】
各係合突起部3、9の係合角部3d1、3d3、9d1、9d3は、軸線2zと同軸の1の螺旋、又は同軸でその軸線2zの方向(軸線方向)において平行に並ぶ複数の螺旋上(ここでは互いに重なることの無い2つの螺旋H1、H2上)に分散して形成される(
図27参照)。このため、例えば頭部4に、所定の治具(例えばドライバー)によってクリップ1を前記螺旋の上昇方向側へと回転させるための係合部8(治具用係合部:ここでは十字状の溝)を設けることで、当該治具によって挿入孔11から容易にクリップを取り外すことができる。また、クリップ1の再利用も可能になる。
【0065】
第三変形例の係合突起部3、9は、
図29及び
図30に示すように、補助板部6を挟んで隣接する一方の係合突起部3が、自然状態(非弾性変形状態)において脚部2の外周面から上方斜め外向きに延びる板状に形成され、上記実施例と同様の形状をなす。ところが、他方の係合突起部9が、自然状態において脚部2の外周面から下方斜め外向きに延びる板状に形成される。なお、それら係合突起部3、9が、脚部2側を支点にして先端側を上下に弾性変形できることは上記実施例と同様である。なお、係合突起部3については上記実施例と同形状をなすため説明を省略する。
【0066】
係合突起部9について具体的に説明する。下方斜め外向きに延びる係合突起部9には、下面9Dの外縁部9d0~9d4のうち軸線2zから最も離れた位置にある最外縁部9d1、9d3が、鋭化角部として形成される(
図31~
図33参照)。なお、ここでは全ての外縁部9d0~9d4が鋭化角部とされている。最外縁部をなす鋭化角部9d1、9d3は、クリップ1の挿入孔11への挿入時及び挿入後にその内周壁面11rと干渉・係合する係合角部として機能する。係合角部9d1、9d3は、挿入孔11に挿入される時には、その内周壁面11r上を摺動し(
図32参照)、係合突起部9に対し先端側(鋭化角部9d1、9d3側)を上向きに撓ませる弾性変形を生じさせる一方、挿入された後には、係合突起部3の弾性復帰により内周壁面11rに食い込んだ係合状態を形成する(
図33参照)。
【0067】
なお、この第三変形例においては、鋭化角部9d1が第一の係合角部であり、鋭化角部9d3が第二鋭化角部である。上面9C及び下面9Dは互いに平行な平坦面である。側面9A、9B、9Tのうちの側面9Tが係合突起部9の先端面をなす。
【0068】
また、係合突起部3、9の厚みについては、上記実施例と同様の規定が適用されている(
図13及び
図34参照)。係合突起部9についても、係合突起部3と同様の規定(
図34参照)に基づく厚みで形成されており、脚部2の挿入孔11への挿入時(
図35参照)及び挿入後(
図36参照)においては、その先端面3Tが挿入孔11の内周壁面11rに対し近接対向する形状となる。ここでの先端面9Tは、自然状態(非弾性変形状態)の時(
図34参照)には、径方向における軸線2zの方向(内周壁面11r)とのなす角度θnが0度以上30度以下となるように傾斜する。
【0069】
上記実施例の第四変形例について、
図37を用いて説明する。
【0070】
第四実施例では、クリップ1の頭部4に被取付部材10とは異なる他部材30を組み付けけるための組付け部7が設けられている。そして、その組付け部7に他部材30が組み付けられている状態でクリップ1の取付構造100が形成されている。
【0071】
上記実施例の第五変形例について、
図38~
図40を用いて説明する。
【0072】
第五実施例では、脚部2から斜め下方に延びる係合突起部9の上面9Cの外縁部のうち、脚部2の軸線2zから最も離れた位置に最外縁部9c1を有しており、その最外縁部9c1が鋭化角部として形成され、係合角部として機能している。このため、係合角部9c1は、挿入孔11に挿入される時には、その内周壁面11r上を摺動し(
図32参照)、係合突起部9に対し先端側(鋭化角部9d1、9d3側)を上向きに撓ませる弾性変形を生じさせる一方、挿入された後には、係合突起部9の弾性復帰により内周壁面11rに食い込んだ係合状態を形成する(
図33参照)。なお、
図38~
図40に示す断面は、
図13と同様の断面であり、係合突起部9において、係合角部9c1と脚部2の軸線2zとを含むよう切断した断面である。なお、第五実施例の係合突起部9は、脚部2から斜め上方に延びる係合突起部3に置き換えてもよい。
【0073】
本発明に適用可能な係合突起部3の板厚L2については、別の方法で規定されてもよい。
【0074】
例えば、上記実施例の規定で用いたP、Qを、上記とは異なる方法で設定してもよい。即ち、
図41の係合突起部3は、
図13と同様に係合突起部3を切断されて図示された断面であり、その断面において、係合角部3d1を頂点Pと設定し、頂点Pから係合突起部3の基端側(脚部2側)へと続く稜線に対し係合角部3d1を通過するように設定される近似直線と、脚部2から係合突起部3を切断した切断面Dとの交点を、該係合突起部3と脚部2との接続点Qとして設定することができる。これらは、係合突起部3の下面3Dや上面3Cが平坦でない場合、係合突起部3と脚部2と滑らかにつなぐよう設けられた、係合突起部3の基端側下部又は上部をなす肉盛部3Eが大きい場合等において有効である。
【0075】
また、係合突起部3の板厚L2は、以下のように規定されてもよい。即ち、係合突起部3は、自然状態(非弾性変形状態)のとき、係合角部3d1、3d2の少なくとも1つ(ここでは3d1)に関しては、その係合角部3d1と脚部2の軸線2zとを含む
図13や
図41の断面において、直線PQの区間のうちの先端側の2割の区間(PO)を除いた脚部2側の8割の区間(OQ)で切断線Cの長さL2が、切断する位置に関わらずL1×1/3≦L2であることを満たし、かつ先端側の2割の区間(PO)で、切断線Cの直線PQとは逆側の端点により形成される外縁線Mが、その外縁線Mの脚部2側の端Rから当該係合角部3d1の頂点Sに至る直線RSと一致する位置かそれよりも外側の位置を通過する、というようにして板厚L2を規定してもよい。
【0076】
なお、本発明における係合突起部の板厚は、上述された全ての規定の中で、少なくとも1つを満たしていればよい。
【符号の説明】
【0077】
100 クリップの取付構造
1 クリップ
2 脚部
3、9 係合突起部
3d0~3d4、9d0~9d4、9c1 外縁部(鋭化角部)
3d1、3d3、9d1、9d3、9c1 係合角部
4 頭部
4R 外周部(挿入完了伝達手段)
5 弾性係止片(挿入完了伝達手段)
10 被取付部材
11 挿入孔
20 挟持部材
21 貫通孔
L1 係合突起部の長さ
L2 係合突起部の板厚
I 挿入方向