(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】加熱コイル及び焼入装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20241015BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20241015BHJP
F16D 3/205 20060101ALI20241015BHJP
H05B 6/38 20060101ALI20241015BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20241015BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20241015BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H05B6/36 E
F16D3/20 J
F16D3/205 M
H05B6/38
H05B6/44
C21D9/40 B
C21D1/10 B
(21)【出願番号】P 2021014014
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】北尾 和也
(72)【発明者】
【氏名】出口 慎吾
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-093354(JP,A)
【文献】特開平10-324911(JP,A)
【文献】実開平5-054535(JP,U)
【文献】特開2005-060799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/36
F16D 3/20
F16D 3/205
H05B 6/38
H05B 6/44
C21D 9/40
C21D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリポード型等速ジョイントの外輪の内周面に形成されているローラガイド溝の誘導加熱に用いられる加熱コイルであって、
前記外輪の一端側の開口を通して前記外輪の内部に挿入されるコイル本体と、
前記外輪の開口側端部の内周面に対向して配置される複数のシールド部材と、
を備え、
前記コイル本体は、
中心軸まわりの周方向に間隔をあけて配置されており、前記ローラガイド溝にそれぞれ収容される複数の加熱部と、
前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部の間に介在しており、前記外輪の前記開口から突出する複数の接続部であって、複数の前記加熱部を電源に直列に接続する複数の接続部と、
を備え、
前記加熱部は、前記中心軸に沿って延びる一対の加熱導体であって、前記ローラガイド溝の両側面に対向して配置される第1加熱導体及び第2加熱導体を有し、
前記接続部は、前記中心軸に沿って延びる一対の接続導体であって、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体から延びる第1接続導体と、他方の加熱部の前記第1加熱導体から延びる第2接続導体とを有し、
前記シールド部材は、前記接続部毎に設けられており、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間に配置された第1部分と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間に配置された第2部分と、を有しており、
前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間の周方向間隔は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間の周方向間隔よりも大きい加熱コイル。
【請求項2】
請求項1記載の加熱コイルであって、
前記コイル本体及び前記シールド部材を支持する支持体を備え、
前記シールド部材は、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間を前記中心軸に沿って変位可能に、前記支持体に支持されている加熱コイル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の加熱コイルであって、
前記シールド部材は、非磁性金属材料からなる加熱コイル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載の加熱コイルであって、
前記シールド部材の前記第1部分は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間隔より広い幅を有し、
前記シールド部材の前記第2部分は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間隔より狭い幅を有する加熱コイル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の加熱コイルと、
前記加熱コイルの前記加熱部によって前記ローラガイド溝が誘導加熱された前記外輪の内周面に対し、冷却液を噴射する冷却ジャケットと、
を備え、
前記加熱コイルと前記外輪との位置関係を固定した状態で前記ローラガイド溝を誘導加熱する焼入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリポード型等速ジョイントの外輪の内周面に形成されているローラガイド溝の誘導加熱に用いられる加熱コイル、及びこの加熱コイルを備える焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交差角を有する二軸間の動力伝達を行う等速ジョイントの一種として、伝達距離が可変なトリポード型等速ジョイントが知られている。トリポード型等速ジョイントは、外輪と、シャフトとを備える。外輪の内周面には、軸方向に延びる3つのローラガイド溝が設けられている。シャフトの先端部には、径方向に突出する3つの短軸が設けられており、各短軸にローラが装着されている。シャフトの先端部が外輪の内部に挿入され、ローラがローラガイド溝にそれぞれ収容される。ローラがローラガイド溝を摺動することにより、伝達距離が変更される。
【0003】
ローラと摺接するローラガイド溝の表面硬さを高めるために、ローラガイド溝が焼入れされる場合があり、焼入れの際の加熱は、例えば高周波誘導加熱によって行われる(特許文献1及び特許文献2参照)。また、外輪の内部に挿入されたシャフトの抜けを防止するために、例えばローラと当接するスナップリングが外輪に装着されるが、特許文献3及び特許文献4に記載されたトリポード型等速ジョイントでは、スナップリングに替えて、溝の内側に隆起した突出部がローラガイド溝の開口側端部に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平2-38459号公報
【文献】実開平5-54534号公報
【文献】特開平11-336782号公報
【文献】特開2006-153135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3及び特許文献4に記載されるトリポード型等速ジョイントのように、突出部をローラガイド溝の開口側端部に形成し、突起部とローラとの当接によってシャフトの抜けを防止することにより、スナップリングを省略し、さらにスナップリングが装着される溝を外輪に形成する加工を省略してコストを低減できる。しかし、突出部は、ローラガイド溝の開口側端部の材料を塑性的に変形させることによって形成される。したがって、ローラガイド溝が焼入れされる場合に、未焼入領域が開口側端部に設けられる必要がある。
【0006】
未焼入領域をローラガイド溝の開口側端部に設ける場合に、例えばローラガイド溝を高周波誘導加熱する際に、冷却液をローラガイド溝の開口側端部及び/又はその近傍に噴射して開口側端部の昇温を抑制することが考えられる。しかし、冷却液の噴射量は僅かであり、冷却液を安定して噴射することは極めて困難である。冷却液の噴射がばらつくことに起因して、開口側端部及びその近傍が過熱されてしまい、未焼入領域が安定に形成されず、焼割れ等の不具合も生じ得る。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、ローラガイド溝の開口側端部に未焼入領域を安定に形成できる加熱コイル及び焼入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の加熱コイルは、トリポード型等速ジョイントの外輪の内周面に形成されているローラガイド溝の誘導加熱に用いられる加熱コイルであって、前記外輪の一端側の開口を通して前記外輪の内部に挿入されるコイル本体と、前記外輪の開口側端部の内周面に対向して配置される複数のシールド部材と、を備え、前記コイル本体は、中心軸まわりの周方向に間隔をあけて配置されており、前記ローラガイド溝にそれぞれ収容される複数の加熱部と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部の間に介在しており、前記外輪の前記開口から突出する複数の接続部であって、複数の前記加熱部を電源に直列に接続する複数の接続部と、を備え、前記加熱部は、前記中心軸に沿って延びる一対の加熱導体であって、前記ローラガイド溝の両側面に対向して配置される第1加熱導体及び第2加熱導体を有し、前記接続部は、前記中心軸に沿って延びる一対の接続導体であって、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体から延びる第1接続導体と、他方の加熱部の前記第1加熱導体から延びる第2接続導体とを有し、前記シールド部材は、前記接続部毎に設けられており、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間に配置された第1部分と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間に配置された第2部分と、を有しており、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間の周方向間隔は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との周方向間隔よりも大きい。
【0009】
また、本発明の一態様の焼入装置は、前記加熱コイルと、前記加熱コイルの前記加熱部によって前記ローラガイド溝が誘導加熱された前記外輪の内周面に対し、冷却液を噴射する冷却ジャケットと、を備え、前記加熱コイルと前記外輪との位置関係を固定した状態で前記ローラガイド溝を誘導加熱する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ローラガイド溝の開口側端部に未焼入領域を安定に形成できる加熱コイル及び焼入装置を提供でき、トリポード型等速ジョイント及びその外輪の製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、トリポード型等速ジョイントの一例の断面図である。
【
図3】
図1の外輪のローラガイド溝の焼入れに用いられる焼入装置の模式図である。
【
図4】
図3の焼入装置の加熱コイルのコイル本体の斜視図である。
【
図6】
図4の加熱コイルのコイル本体の底面図である。
【
図7】
図4の加熱コイルによって誘導加熱される外輪に流れる誘導電流の流れを示す模式図である。
【
図8】
図4の加熱コイルを用いて焼入れされた外輪の焼入れパターンを示す模式図である。
【
図10】一部の実験例の加熱コイルの模式図である。
【
図11】
図3の焼入装置の加熱コイルのシールド部材の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び
図2は、本発明の実施形態を説明するための、トリポード型等速ジョイントの一例を示す。
【0013】
トリポード型等速ジョイント(以下、等速ジョイントと言う。)1は、外輪2と、シャフト3と、を備える。等速ジョイント1は、例えば自動車等の車両において、入力側のデファレンシャルと出力側のドライブシャフトとの間の動力伝達に用いられ、外輪2は、デファレンシャルに接続され、シャフト3はドライブシャフトとして構成される。
【0014】
外輪2は、軸方向の一端側に開口1aを有する。外輪2の内周面には、3つのローラガイド溝4と、3つの凸部5とが設けられている。3つのローラガイド溝4は、周方向に120°間隔で配置され、外輪2の開口端面2aから軸方向Aに延びている。3つの凸部5は、周方向B1に隣り合う2つのローラガイド溝4の間で、外輪2の開口端面2aから軸方向Aに延びている。
【0015】
シャフト3は、3つの短軸6を先端部に有する。3つの短軸6は、周方向B2に120°間隔で配置され、シャフト3の先端部から径方向に突出している。そして、各短軸6にはローラ7が装着されている(
図1では一部省略)。シャフト3の先端部は外輪2の内部に挿入され、ローラ7はローラガイド溝4に収容されている。ローラ7は、ローラガイド溝4の両側面4a,4bをローラガイド溝4の延在方向(前記外輪2の開口端面2aから軸方向Aに延びている方向)に摺動可能である。
【0016】
短軸6は、ローラ7を回転可能に支持しており、さらに短軸6の中心軸に対するローラ7の回転軸の傾きを許容してローラ7を支持している。ローラ7の回転軸の傾きを伴って外輪2の中心軸Aとシャフト3の中心軸Cとの間に交差角θが設定される。設定可能な交差角θを拡大する観点から、凸部5の開口側端部には、外輪2の開口1aを拡張するように傾斜したチャンファ面5bが形成されている。
【0017】
ローラ7がローラガイド溝4の両側面4a,4bを摺動することによって伝達距離(例えばデファレンシャルとドライブシャフトとの距離)が変更される。ローラ7と摺接するローラガイド溝4の両側面4a,4bは焼入れされており、両側面4a,4bの表面硬さが高められている。なお、両側面4a,4bと周方向に隣り合う凸部5の表面5aもまた焼入れされている。
【0018】
ただし、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの開口側端部及び凸部5の表面5aの開口側端部であるチャンファ面5bには、外輪2の開口端面2aに及ぶ未焼入領域がそれぞれ設けられている。そして、両側面4a,4bの未焼入領域には、ローラガイド溝4の内側に向けて隆起した突出部8が形成されている。突出部8は、例えば両側面4a,4bのエッジに沿って外輪2の開口端面2aにピン等を打ち込み、両側面4a,4bの未焼入領域の材料を塑性的に変形させることによって形成されている。突出部8とローラ7とが当接することにより、シャフト3は外輪2から抜け止めされている。
【0019】
図3から
図6は、本発明の実施形態を説明するための、焼入装置及び加熱コイルの一例を示す。
【0020】
焼入装置100は、上述した等速ジョイント1の外輪2の焼入れに用いられる。焼入装置100は、加熱コイル101と、第1冷却ジャケット102とを備える。加熱コイル101は、外輪2の一端側の開口1aを通して外輪2の内部に挿入され、外輪2のローラガイド溝4の両側面4a,4bを誘導加熱する。第1冷却ジャケット102は、加熱コイル101によってローラガイド溝4の両側面4a,4bが誘導加熱された外輪2の内周面に対して冷却液を噴射して両側面4a,4bを急冷する。これにより、両側面4a,4bが焼入れされる。
【0021】
焼入装置100は、第2冷却ジャケット103をさらに備える。第2冷却ジャケット103は、加熱コイル101によってローラガイド溝4の両側面4a,4bが誘導加熱されている際に、外輪2の外周面に対して冷却液を噴射する。これにより、外輪2の焼抜けが防止される。焼抜けとは、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの焼入れにおいて、焼入硬化層が内径側から外径側まで達することを言う。
【0022】
そして、焼入装置100は、加熱コイル101と外輪2との位置関係を固定した状態で、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの誘導加熱及び急冷を行う。加熱コイル101と外輪2とを、外輪2の軸方向Aに相対移動させながらローラガイド溝4の両側面4a,4bの誘導加熱及び急冷を行う場合に比べて、生産性に優れる。
【0023】
加熱コイル101は、コイル本体110と、複数のシールド部材111とを備える。コイル本体110は、外輪2の一端側の開口1aを通して外輪2の内部に挿入される3つの加熱部112A,112B,112Cと、外輪2の開口1aから突出する3つの接続部113A,113B,113Cとを有する。加熱部112A,112B,112Cは、コイル本体110の中心軸Xまわりに120°間隔で配置されており、外輪2の内部に挿入された場合に、外輪2のローラガイド溝4に配置される。
【0024】
加熱部112Aは、一対の第1加熱導体120及び第2加熱導体121を有する。第1加熱導体120は、中心軸Xに沿って延びており、ローラガイド溝4の一方の側面に対向して配置される。第2加熱導体121は、中心軸Xに沿って延びており、ローラガイド溝4の他方の側面に対向して配置される。外輪2の内周面の底側に配置される第1加熱導体120の先端部と第2加熱導体121の先端部とはブリッジ導体122を介して連結されており、加熱部112Aは、全体としてU字状に形成されている。加熱部112B及び加熱部112Cもまた、第1加熱導体120と、第2加熱導体121と、ブリッジ導体122とを有し、加熱部112Aと同様に、全体としてU字状に形成されている。
【0025】
接続部113Aは、一対の第1接続導体123及び第2接続導体124を有する。第1接続導体123は、加熱部112Aの第2加熱導体121から中心軸Xにそって延びている。第2接続導体124は、加熱部112Bの第1加熱導体120から中心軸Xに沿って延びている。第1接続導体123の先端部と第2接続導体124の先端部とはブリッジ導体125を介して連結されており、接続部113Aは、全体としてU字状に形成されている。接続部113Aは、周方向に隣り合う2つの加熱部112Aと加熱部112Bとを直列に接続している。
【0026】
接続部113Bは、一対の第1接続導体123及び第2接続導体124を有する。第1接続導体123は、加熱部112Bの第2加熱導体121から中心軸Xに沿って延びている。第2接続導体124は、加熱部112Cの第1加熱導体120から中心軸Xに沿って延びている。第1接続導体123の先端部と第2接続導体124の先端部とはブリッジ導体125を介して連結されており、接続部113Bは、接続部113Aと同様に、全体としてU字状に形成されている。接続部113Bは、周方向に隣り合う2つの加熱部112Bと加熱部112Cとを直列に接続している。
【0027】
接続部113Cは、一対の第1接続導体123及び第2接続導体124を有する。第1接続導体123は、加熱部112Cの第2加熱導体121から中心軸Xに沿って延びている。第2接続導体124は、加熱部112Aの第1加熱導体120から中心軸Xに沿って延びている。接続部113Cの第1接続導体123及び第2接続導体124は電源に接続され、加熱部112A,112B,112Cは、接続部113A,113B,113Cを介して電源に直列に接続される。
【0028】
加熱部112A,112B,112C及び接続部113A,113B,113Cを形成している導体群(第1加熱導体120、第2加熱導体121、ブリッジ導体122、第1接続導体123、第2接続導体124、及びブリッジ導体125)は管材からなり、一続きの内部流路126を形成している。内部流路126には水等の冷却液が流通される。通電によって発熱するコイル本体110は、内部流路126を流れる冷却液によって冷却される。
【0029】
接続部113A,113B,113Cそれぞれの第1接続導体123と第2接続導体124との間の周方向間隔D1は、周方向に隣り合う2つの加熱部(例えば加熱部112C及び加熱部112A)のうち一方の加熱部(例えば加熱部112C)の第2加熱導体121と他方の加熱部(例えば加熱部112A)の第1加熱導体120との間の周方向間隔D2よりも大きくなっている。
【0030】
シールド部材111は、接続部113A,113B,113C毎に設けられており、各接続部の第1接続導体123と第2接続導体124との間に配置された部分(以下「第1部分」という。)を有している。加熱部112A,112B,112Cそれぞれの第1加熱導体120及び第2加熱導体121は外輪2のローラガイド溝4よりも短く、ローラガイド溝4に収容される。したがって、第1接続導体123及び第2接続導体124の基端部側に配置されているシールド部材111は、外輪2の開口側端部の内側に収容され、凸部5のチャンファ面5bに対向して配置される。
【0031】
また、
図5に示すように、シールド部材111は、各接続部の第1接続導体123と第2接続導体124との間に配置されている前記第1部分に加えて、その第1部分から中心軸Xに沿って延びて各加熱部の間に入り込む凸部111aを有する。具体的には、凸部111aは、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間に配置されている。
【0032】
例えば、接続部113Aに設けられるシールド部材111の凸部111aは、
図4に示す点線丸印10の位置、すなわち加熱部112Aの第2加熱導体121と加熱部112Bの第1加熱導体120との間に配置される。また、同様に、凸部111aは、加熱部112Bの第2加熱導体121と加熱部112Cの第1加熱導体120との間、及び加熱部112Cの第2加熱導体121と加熱部112Aの第1加熱導体120との間にそれぞれ配置される(
図4に示す点線丸印10の図示は省略する)。なお、
図3においてはシールド部材111の凸部111aの図示を省略している。シールド部材111の形状については後述する(
図11参照)。
【0033】
周方向間隔D1が周方向間隔D2よりも大きいことから、第2加熱導体121と第1接続導体123との接合部、及び第1加熱導体120と第2接続導体124との接合部には段差が生じるが、これらの接合部は、例えば階段状に形成されてもよく、又はスロープ状に形成されてもよい。接合部の形状は、外輪2のローラガイド溝4の形状、第1接続導体123と第2接続導体124との間に配置されるシールド部材111の形状等に応じて適宜設定される。また、シールド部材111の形状も、外輪2の凸部5の形状等に応じて適宜設定でき、例えばチャンファ面5bが傾斜していることから、チャンファ面5bと対向してシールド部材111の表面も同様に傾斜してもよい。
【0034】
コイル本体110及び複数のシールド部材111は、支持体114によって支持されている。支持体114は、セラミックス等の絶縁材料からなる。加熱コイル101と外輪2との位置関係を固定した状態で、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの誘導加熱及び急冷を行う本例では、支持体114は、外輪2をさらに支持する。
【0035】
コイル本体110は、支持体114に固定されている。一方、シールド部材111は、適宜なスペーサ115を介して支持体114に対して着脱される。スペーサ115の厚みが変更されることにより、第1接続導体123と第2接続導体124との間におけるシールド部材111の位置が中心軸Xに沿って変化し、シールド部材111とチャンファ面5bとの距離が変化する。
【0036】
図7は、加熱コイル101によって誘導加熱される外輪2に流れる誘導電流を示し、
図8は外輪2の焼入れパターンを示す。なお、
図8において、斜線によるハッチングを付した領域は焼入領域を示している。
【0037】
電源からコイル本体110に高周波の電流が供給されることにより、外輪2の内周面に誘導電流Iが流れる。誘導電流Iは、基本的に加熱部112A,112B,112Cそれぞれの第1加熱導体120及び第2加熱導体121並びにブリッジ導体122に沿って流れ、ローラガイド溝4の両側面4a,4bをローラガイド溝4の延在方向に流れる。そして、外輪2の開口側端部において、誘導電流Iは、側面4a(又は側面4b)から、凸部5を周方向に挟んで隣り合う側面4b(又は側面4a)に、凸部5の表面5aを渡って流れる。
【0038】
ここで、第1加熱導体120及び第2加熱導体121は外輪2のローラガイド溝4よりも短く、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの開口側端部には、第1接続導体123及び第2接続導体124が対向して配置される。上述したとおり、第1接続導体123と第2接続導体124との間の周方向間隔D1は、第1加熱導体120と第2加熱導体121との間の周方向間隔D2よりも大きく設定されている(
図6参照)。したがって、両側面4a,4bとコイル本体110との間のコイルギャップが、両側面4a,4bの開口側端部において相対的に拡大される。さらに、凸部5の表面5aの開口側端部であるチャンファ面5bには、シールド部材111が対向して配置される。このため、両側面4a,4bの開口側端部及びチャンファ面5bにおける磁界が減弱され、両側面4a,4bの開口側端部及びチャンファ面5bの昇温が抑制される。これにより、
図8に示すように、両側面4a,4bの開口側端部及びチャンファ面5bに、外輪2の開口端面2aに及ぶ未焼入領域がそれぞれ設けられる。
【0039】
さらに、第1接続導体123と第2接続導体124との間の周方向間隔D1が相対的に大きく設定されていることにより、第1接続導体123と第2接続導体124との間に配置されるシールド部材111を大きくできる。これにより、シールド部材111に基づくチャンファ面5b等の昇温抑制効果を高められる。また、コイル本体110に近接して配置されているシールド部材111にも誘導電流が流れるが、シールド部材111の熱容量を高めてシールド部材111の溶損も防止できる。
【0040】
ローラガイド溝4の両側面4a,4bの開口側端部に設けられる未焼入領域の開口端面2aからの焼逃げ幅Wa及び凸部5のチャンファ面5bに設けられる未焼入領域の開口端面2aからの焼逃げ幅Wbは、シールド部材111とチャンファ面5bとの距離に基づいて調整可能である。そして、シールド部材111とチャンファ面5bとの距離は、シールド部材111と支持体114との間に介在するスペーサ115の厚みによって変更可能である。これにより、両側面4a,4bの焼逃げ幅Waを、焼入れの仕様に応じて適宜調整できるだけでなく、ローラガイド溝4の長さが異なる外輪2に対して共通の加熱コイル101を用いることも可能である。
【0041】
シールド部材111の材料は、鋼等の磁性金属材料でもよいし、銅等の非磁性金属材料でもよいが、チャンファ面5b等の昇温が過剰に抑制されることを回避する観点から、好ましくは非磁性金属材料である。
【0042】
以下、実験例について説明する。
図9は、実験例の外輪2を示す。
【0043】
実験例では、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの開口側端部に設ける未焼入領域の焼逃げ幅Waを4mm以上7mm以下に設定して両側面4a,4bの焼入れを行った。そして、焼入れされた外輪2を
図9に示す切断面a~fにて切断し、各切断面において焼逃げ幅Waを測定した。実験例1~実験例11では、
図10に示す加熱コイル201を用いて焼入れを行い、実験例12~14では、上述した加熱コイル101から凸部111aを省いたものを用いて焼入れを行った。
【0044】
ここで、
図10に示す加熱コイル201について説明すると、加熱コイル201はコイル本体210を備え、コイル本体210は、加熱コイル101のコイル本体110と同様に、3つの加熱部212と、3つの接続部213とを有する。ただし、接続部213の第1接続導体223と第2接続導体224との間の周方向間隔(
図6に示すD1)が、周方向に隣り合う2つの加熱部212のうち一方の加熱部212の第1加熱導体220と他方の加熱部212の第2加熱導体221との間の周方向間隔(
図6に示すD2)と同一に設定されている。また、加熱コイル201は、加熱コイル101のシールド部材111に替えてチャンファ冷却ジャケット211を備え、チャンファ冷却ジャケット211は、凸部5のチャンファ面5b及び外輪2の開口端面2aに対して冷却液を噴射する。
【0045】
実験例1~実験例11の測定結果を表1に示し、実験例12~実験例14の測定結果を表2に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
焼逃げ幅Waが4mm以上7mm以下の仕様に対し、D1=D2に設定され且つ冷却液を噴射することによってチャンファ面5bの昇温を抑制する加熱コイル201を用いて焼入れを行った実験例1~実験例11では、いずれの例も1つ以上の切断面において焼逃げ幅Waが上記仕様の範囲外となった。一方、D1>D2に設定され且つシールド部材111(凸部111aを除く)によってチャンファ面5bの昇温を抑制する加熱コイル101を用いて焼入れを行った実験例12~実験例14では、いずれ例も全ての切断面において焼逃げ幅Waが上記仕様の範囲内に収まった。以上から、加熱コイル101によれば、ローラガイド溝4の両側面4a,4bの開口側端部に未焼入領域を安定に形成できることがわかる。
【0049】
図11において、正面
図111Aは、シールド部材111の正面図であって、焼入装置100の側方から中心軸Xに向かって見たシールド部材111の形状を示している。側面
図111Bは、シールド部材111の側面図である。上面
図111Cは、シールド部材111の上面図である。
【0050】
シールド部材111は、上記の凸部111aと、本体部111bと、テーパ部111cと、を有する。本体部111b及びテーパ部111cは、接続部113の第1接続導体123と第2接続導体124との間に配置された第1部分を構成する。本体部111bは、スペーサ115を介して支持体114に対して着脱される部分である。テーパ部111cは、本体部111bの側面から中心軸X(焼入装置100の中心)に向かって延び、中心軸Xに近いほど幅が狭くなる形状である。
【0051】
凸部111aは、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間に配置された第2部分を構成する。凸部111aは、テーパ部111cの側面から上方に向かって延びている。また、シールド部材111の正面から見て(正面
図111Aで見て)、凸部111aの幅D4は、本体部111bの幅D3より狭くなっている。凸部111aのうち本体部111b及びテーパ部111cから突出する部分の高さ(中心軸X方向の長さ)は、一例としては15mmとすることができるが、これに限らず、コイル本体110の形状等に応じて設定される。
【0052】
本体部111bの幅D3は、接続部113A,113B,113Cそれぞれの第1接続導体123と第2接続導体124との間の間隔(周方向間隔D1に対応する直線間隔)より狭いが、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間の間隔(周方向間隔D2に対応する直線間隔)より広い。したがって、本体部111bは、接続部113A,113B,113Cそれぞれの第1接続導体123と第2接続導体124との間には配置可能であるが、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間には配置できない。
【0053】
一方で、凸部111aの幅D4は、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間の間隔(周方向間隔D2に対応する直線間隔)より狭い。したがって、凸部111aについては、周方向に隣り合う2つの加熱部のうち一方の加熱部の第2加熱導体121と他方の加熱部の第1加熱導体120との間に配置することができる。
【0054】
シールド部材111をこのような構成とすることにより、凸部111aを、各加熱部の第1加熱導体120と第2加熱導体121との間に入り込ませることができる。例えば、接続部113Aに設けられるシールド部材111の凸部111aを、
図4に示した点線丸印10の位置に配置することができる。
【0055】
これにより、凸部111aが無いシールド部材111を用いる場合(例えば上記の実験例12~実験例14)と比べて、第1加熱導体120及び第2加熱導体121からの輻射熱による凸部5のチャンファ面5bの加熱を抑制することができる。これによって、凸部5のチャンファ面5bの厚さ方向(
図3では水平方向H1、
図8では奥行方向H2)の焼入れの導入を抑制することができる。そのため、チャンファ面5bの厚さ方向における焼抜けを抑制できる。従って、チャンファ面5bにおける焼割れ等の不具合をより抑制することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、上述したように、3つの加熱部112A,112B,112C及び3つの接続部113A,113B,113Cで説明したが、本発明は3つのみに限定されない。
すなわち、ローラガイド溝4が複数(2個以上)ある場合は、前記複数のローラガイド溝にそれぞれ収容される複数(2個以上)の加熱部と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部の間に介在しており、前記外輪の前記開口から突出する複数(2個以上)の接続部であって、複数の前記加熱部を電源に直列に接続する複数(2個以上)の接続部と、を備えてもよい。
【0057】
好ましくは、本実施形態で上述したように、前記コイル本体は、中心軸まわりの周方向に間隔をあけて配置されており、前記ローラガイド溝にそれぞれ収容される3つの加熱部と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部の間に介在しており、前記外輪の前記開口から突出する3つの接続部であって、3つの前記加熱部を電源に直列に接続する3つの接続部とを備える。これにより、より確実に、本発明の効果を得ることができる。
【0058】
以上、説明したとおり、本明細書に開示された加熱コイルは、トリポード型等速ジョイントの外輪の内周面に形成されているローラガイド溝の誘導加熱に用いられる加熱コイルであって、前記外輪の一端側の開口を通して前記外輪の内部に挿入されるコイル本体と、前記外輪の開口側端部の内周面に対向して配置される複数のシールド部材と、を備え、前記コイル本体は、中心軸まわりの周方向に間隔をあけて配置されており、前記ローラガイド溝にそれぞれ収容される複数の加熱部と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部の間に介在しており、前記外輪の前記開口から突出する複数の接続部であって、複数の前記加熱部を電源に直列に接続する複数の接続部と、を備え、前記加熱部は、前記中心軸に沿って延びる一対の加熱導体であって、前記ローラガイド溝の両側面に対向して配置される第1加熱導体及び第2加熱導体を有し、前記接続部は、前記中心軸に沿って延びる一対の接続導体であって、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体から延びる第1接続導体と、他方の加熱部の前記第1加熱導体から延びる第2接続導体とを有し、前記シールド部材は、前記接続部毎に設けられており、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間に配置された第1部分と、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間に配置された第2部分と、を有しており、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間の周方向間隔は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間の周方向間隔よりも大きい。
【0059】
また、本明細書に開示された加熱コイルは、前記コイル本体及び前記シールド部材を支持する支持体を備え、前記シールド部材は、前記接続部の前記第1接続導体と前記第2接続導体との間を前記中心軸に沿って変位可能に、前記支持体に支持されている。
【0060】
また、本明細書に開示された加熱コイルは、前記シールド部材が、非磁性金属材料からなる。
【0061】
また、本明細書に開示された焼入装置は、前記加熱コイルと、前記加熱コイルの前記加熱部によって前記ローラガイド溝が誘導加熱された前記外輪の内周面に対し、冷却液を噴射する冷却ジャケットと、を備え、前記加熱コイルと前記外輪との位置関係を固定した状態で前記ローラガイド溝を誘導加熱する。
【0062】
また、本明細書に開示された焼入装置は、前記シールド部材の前記第1部分は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間隔より広い幅を有し、前記シールド部材の前記第2部分は、前記周方向に隣り合う2つの前記加熱部のうち一方の加熱部の前記第2加熱導体と他方の加熱部の前記第1加熱導体との間隔より狭い幅を有する。
【符号の説明】
【0063】
1 等速ジョイント
2 外輪
3 シャフト
4 ローラガイド溝
5 凸部
6 短軸
7 ローラ
8 突出部
100 焼入装置
101 加熱コイル
102 第1冷却ジャケット
103 第2冷却ジャケット
110 コイル本体
111 シールド部材
111a 凸部
111b 本体部
111c テーパ部
112A,112B,112C 加熱部
113A,113B,113C 接続部
114 支持体
115 スペーサ
120 第1加熱導体
121 第2加熱導体
122 ブリッジ導体
123 第1接続導体
124 第2接続導体
125 ブリッジ導体
126 内部流路