IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図1
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図2
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図3
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図4
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図5
  • 特許-アルカリ金属含有物の処理方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】アルカリ金属含有物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20220101AFI20241015BHJP
【FI】
B09B3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021023342
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125641
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-157230(JP,A)
【文献】特開2020-099885(JP,A)
【文献】特開2013-013843(JP,A)
【文献】特開2004-059754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/70
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形状のアルカリ金属含有物を、塩素含有物と共に酸素濃度10%以下の雰囲気下で加熱して、加熱処理物を得る工程(a)を有し、
前記アルカリ金属含有物が、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、
前記工程(a)は、1000℃~1200℃の温度に加熱する工程を含むことを特徴とする、アルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項2】
前記工程(a)で得られた前記加熱処理物を水洗してスラリーを得る工程(b)と、
前記工程(b)で得られた前記スラリーを固液分離して、前記アルカリ金属含有物よりもアルカリ金属の含有率が低下されたケーキを得る工程(c)とを有することを特徴とする、請求項1に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項3】
前記工程(a)の前に、前記アルカリ金属含有物を粒径5mm以下に粉砕する工程(d)を有し、
前記工程(a)は、前記工程(d)を経た前記アルカリ金属含有物を前記塩素含有物と共に加熱する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項4】
前記工程(a)は、前記アルカリ金属含有物中の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、前記塩素含有物中の全塩素のモル量(M2)の比率(M2/M1)が、1~5の範囲内で混合された、前記アルカリ金属含有物と前記塩素含有物との混合物を加熱する工程であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【請求項5】
前記塩素含有物は、CaCl2又はMgCl2の少なくとも一方が含有された、工業原料、廃プラスチック、及び廃ポリ塩化ビニルからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ金属含有物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属含有物の処理方法に関し、特に石炭灰に代わる粘土代替からアルカリ金属を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化への影響に鑑み、近年、石炭火力発電所の利用率を低下させていく流れがあり、石炭灰の発生数量の低下が見込まれている。このため、セメント原料用の石炭灰が不足することが予想されており、石炭灰に変わる粘土代替の確保が求められる。
【0003】
しかしながら、石炭灰以外の粘土代替にはアルカリ金属を高濃度で含むものが多い。セメントにアルカリ金属が多く含まれてしまうと、アルカリ骨材反応等を生じさせることから、一般的にアルカリ金属はセメントにとっては忌避成分とされている。このため、石炭灰以外の粘土代替を、石炭灰に代わるセメント原料として利用するためには、アルカリ金属の除去が必要となっており、その除去技術の開発が進められている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-39038号公報
【文献】特開2004-59754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石炭灰以外の粘土代替の例としては、木質バイオマスの燃焼で発生する燃焼灰(以後、「木質バイオマス灰」と称する場合がある。)、建設発生土、廃コンクリートの再生微粉等が考えられる。これらの粘土代替は、石炭灰やごみ焼却灰等と比較すると、アルカリ金属、特にカリウムの含有量が多い。よって、これらの粘土代替をセメント原料として利用するためには、アルカリ金属を効率的に除去する必要がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、従来よりもアルカリ金属含有物からアルカリ金属を効率的に除去することを可能にする、アルカリ金属含有物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法は、固形状のアルカリ金属含有物を、塩素含有物と共に酸素濃度10%以下の雰囲気下で加熱して、加熱処理物を得る工程(a)を有することを特徴とする。
【0008】
上記特許文献1や特許文献2に記載されているように、従来、アルカリ金属含有物からアルカリ金属を除去する方法として、塩素含有物と共にアルカリ金属含有物を加熱して、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属を水溶性塩(アルカリ金属塩化物)に変化させる方法(いわゆる「塩化焙焼」)が知られている。本発明者らの鋭意研究の結果、塩化焙焼を低酸素濃度の雰囲気で行うことで、アルカリ金属を従来よりも高効率で除去できることを新たに見出した。この理由は、低酸素濃度の雰囲気で塩化焙焼を行うことで、塩素の揮発が抑制された結果、アルカリ金属をアルカリ金属塩に変化させやすくなったものと考えられる。詳細は、「発明を実施するための形態」の項で、実施例を参照しつつ後述される。
【0009】
なお、塩化焙焼の際の雰囲気中の酸素濃度は、10%以下とするのが好ましく、5%以下とするのがより好ましい。なお、雰囲気に含まれる酸素以外の気体としては、典型的には窒素であるが、二酸化炭素等、他の気体が含まれていても構わない。
【0010】
上記方法で得られた加熱処理物には、アルカリ金属含有物に含まれていたアルカリ金属の多くが、アルカリ金属塩に変化した状態で含まれる。このため、例えば水洗処理を行うことで水に溶解させることで、アルカリ金属の含有率が低下した残渣を得ることができる。また、水洗処理以外の方法で、加熱処理物からアルカリ金属塩を除去(分離)しても構わない。アルカリ金属塩が除去された残渣は、処理前のアルカリ金属含有物と比べて、アルカリ金属の含有率が大幅に低下しているため、石炭灰に代わるセメント原料として有効に利用できる。
【0011】
前記アルカリ金属含有物の処理方法は、
前記工程(a)で得られた前記加熱処理物を水洗してスラリーを得る工程(b)と、
前記工程(b)で得られた前記スラリーを固液分離して、前記アルカリ金属含有物よりもアルカリ金属の含有率が低下されたケーキを得る工程(c)とを有するものとしても構わない。
【0012】
上記方法によれば、工程(a)を経て加熱処理物中に固相として固定されたアルカリ金属塩が、工程(b)によって液相中に溶出される。よって、工程(c)に係る固液分離工程を経て、アルカリ金属を含む液体が除去された後に得られる残渣(ケーキ)は、アルカリ金属の含有率が低下できている。特に、上記方法によれば、工程(a)において、低酸素濃度でアルカリ金属含有物が塩素含有物と共に加熱処理が行われているため、工程(a)の終了後には、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属の多くがアルカリ金属塩に変化できている。この結果、工程(c)で得られるケーキは、処理前のアルカリ金属含有物と比較して、アルカリ金属含有率が大幅に低下される。
【0013】
前記工程(a)は、650℃~1200℃の温度に加熱する工程を含むものとしても構わない。
【0014】
加熱温度が650℃未満である場合には、温度が低いためにアルカリ金属をアルカリ金属塩化物に変化させにくくなることがある。また、加熱温度が1200℃を超える場合には、塩素含有物に含まれる塩素が揮発しやすくなり、アルカリ金属に対する接触量が減って反応性が低下する可能性がある。また、アルカリ金属含有物の種類によっては、部分的な溶融や大径化が生じて、塩化焙焼の反応速度が遅くなることがある。
【0015】
前記アルカリ金属含有物は、木質バイオマス燃焼灰の飛灰及び主灰からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものとしても構わない。
【0016】
前記アルカリ金属含有物は、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものとしても構わない。この場合、前記工程(a)は、1000℃~1200℃の温度に加熱する工程を含むものとするのが好適である。
【0017】
木質バイオマス燃焼灰は、カリウムがガラスの形態(K2O・4SiO2)で含まれることが多いが、建設発生土や廃コンクリートの再生微粉はカリウムがカリ長石(KAlSi38)の形態で含まれることが多い。本発明者らの鋭意研究の結果、カリ長石を含むアルカリ金属含有物に対しては、低酸素濃度の雰囲気で1000℃~1200℃の温度で加熱することによって、アルカリ金属塩に変化させやすくなることを新たに見出した。
【0018】
一方、木質バイオマス燃焼灰等、ガラスの形態でアルカリ金属を含むアルカリ金属含有物の場合には、加熱温度が1000℃未満であってもアルカリ金属塩に効率的に変化させることができる。加熱温度が高くなるほど塩素含有物に含まれる塩素の揮発が進行して塩化焙焼の効率が下がるため、処理対象のアルカリ金属含有物が木質バイオマス燃焼灰のみからなる場合には、加熱温度を650℃~1000℃とするのが好ましく、800℃~1000℃とするのがより好ましい。
【0019】
なお、処理対象のアルカリ金属含有物として、ガラスの形態でアルカリ金属を含むものと、カリ長石の形態でアルカリ金属を含むものの双方が含まれる場合には、加熱温度としては、後者の温度範囲、すなわち1000℃~1200℃とするのが好適である。ただし、より効率的な塩化焙焼を行う観点からは、木質バイオマス燃焼灰に対する塩化焙焼と、建設発生土や廃コンクリートの再生微粉に対する塩化焙焼とは、それぞれ好適な温度範囲に設定した上で個別に実行されるのがより好ましい。
【0020】
前記アルカリ金属含有物の処理方法は、
前記工程(a)の前に、前記アルカリ金属含有物を粒径5mm以下に粉砕する工程(d)を有し、
前記工程(a)は、前記工程(d)を経た前記アルカリ金属含有物を前記塩素含有物と共に加熱する工程を含むものとしても構わない。
【0021】
アルカリ金属含有物には、アルカリ金属が全体的に満遍なく含まれていることが想定される。上記方法のように、加熱工程(a)の前に粉砕処理(d)を行うことでアルカリ金属の露出面積が増加するため、加熱工程(a)において塩素含有物に含まれる塩素との反応性が向上し、より高効率でアルカリ金属塩に変化させることができる。なお、本明細書において、「粒径」とは、対象物が通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0022】
前記工程(a)は、前記アルカリ金属含有物中の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、前記塩素含有物中の全塩素のモル量(M2)の比率(M2/M1)が、1~5の範囲内で混合された、前記アルカリ金属含有物と前記塩素含有物との混合物を加熱する工程であるものとしても構わない。
【0023】
上記方法によれば、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属の多くを効率的に水溶性の塩に変化させることができる。前記M2/M1の値が5を超えると、塩化焙焼に寄与しない塩素が残存してしまい、一部の塩素含有物を無駄にするおそれがある。また、前記M2/M1の値が1を下回る場合には、工程(a)の完了後に得られた加熱処理物にも、依然として難溶性のアルカリ金属が一定程度含まれるおそれがある。
【0024】
前記塩素含有物は、CaCl2又はMgCl2の少なくとも一方が含有された、工業原料、廃プラスチック、及び廃ポリ塩化ビニルからなる群から選ばれた1種又は2種以上を含むものとしても構わない。
【0025】
上記の方法によれば、塩素を含有する廃棄物である、廃プラスチック、廃ポリ塩化ビニル等を有効利用することができる。また、塩素含有物としてCaCl2やMgCl2等の工業原料を用いると、アルカリ金属の塩化物の形成のための条件をより容易に至適化することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アルカリ金属含有物に含まれるアルカリ金属の存在形態に関わらず、アルカリ金属を高効率でアルカリ金属塩化物に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】アルカリ金属含有物の処理方法の手順を模式的に示すフローチャートである。
図2図1に示す方法を実施する装置の一例を模式的に示すブロック図である。
図3】加熱雰囲気を異ならせて塩化カルシウムを加熱したときのTG曲線である。
図4】加熱雰囲気と塩素含有量を異ならせてバイオマス灰を加熱したときの、カリウム除去率の結果を示すグラフであり、後述の表4の結果に対応する。
図5】加熱雰囲気と加熱温度を異ならせて真砂土を加熱したときの、カリウム除去率の結果を示すグラフであり、後述の表5の結果に対応する。
図6】加熱雰囲気に含まれる酸素濃度を異ならせてバイオマス灰を加熱したときの、カリウム除去率と酸素濃度の関係を示すグラフであり、後述の表6の結果に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明が適用される、処理対象としてのアルカリ金属含有物としては、アルカリ金属成分を高濃度に含有する非可燃性のアルカリ金属含有物であればよく、特に制限はないが、例えば木質バイオマス灰の飛灰や主灰、建設発生土、及び廃コンクリートの再生微粉等が挙げられる。
【0029】
木質バイオマス灰は、アルカリ金属(Na,K)を塩化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩ガラスとして含有し、R2O換算(R2O=Na2O+0.658×K2O)で、木質バイオマス灰の飛灰では3質量%~50質量%程度、木質バイオマス灰の主灰では3質量%~20質量%程度を含んでいる。
【0030】
また、建設発生土及び廃コンクリートの再生微粉は、アルカリ金属(Na,K)を長石(曹長石、カリ長石)の形態で含有し、R2O換算で、2質量%~8質量%程度を含んでいる。
【0031】
本発明によれば、上記のようなアルカリ金属含有物中に含まれるアルカリ金属成分の濃度を、上記R2O換算で2.5質量%以下、より典型的には2.0質量%以下にまで低減することができる。そして、これを例えばセメント原料として有効利用することができる。アルカリ金属含有物中のアルカリ金属の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法などが好ましく例示される。
【0032】
以下、本発明についてより具体的に図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、これら図面と共に説明する態様に限定されるものではない。
【0033】
図1は、本発明に係るアルカリ金属含有物の処理方法の手順を模式的に示すフローチャートである。また、図2は、図1に示す方法を実施する装置(以下、「処理装置1」と称する。)の一例を模式的に示すブロック図である。図2において、アルカリ金属含有物等の固体及び水等の液体の流れを矢印付きの実線で示し、気体の流れを矢印付き破線で示している。
【0034】
図1に示す方法は、粉砕処理工程S1、加熱処理工程S2、水洗処理工程S3、及び固液分離処理工程S4を含む。また、図2に示すように、図1に示す方法を実施するための処理装置1は、粉砕装置3、加熱装置7、及び水洗装置9を備えて構成される。なお、後述するように、粉砕処理工程S1はアルカリ金属含有物の性状に応じて適宜省略できる。
【0035】
以下、図1に示す各工程での処理内容につき、適宜図2を参照しながら詳述する。
【0036】
(粉砕処理工程S1)
粉砕処理工程S1は、供給された固形状のアルカリ金属含有物A1を、後段の各工程S2~S4において効率的に処理できる大きさにまで粉砕する工程である。図2に示す処理装置1では、粉砕装置3によって粉砕処理工程S1が実行される。
【0037】
具体的には、粉砕処理工程S1を経て得られるアルカリ金属含有物粉砕物A2の粒径は、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下である。アルカリ金属含有物粉砕物A2の粒径の下限値に特に制限はないが、後段の加熱処理工程S2において、燃焼排ガスによってアルカリ金属含有物粉砕物A2が加熱装置7の加熱炉の外に排出されないようにする観点から、1μm以上である。なお、上述したように、本明細書における「粒径」とは、対象物(ここではアルカリ金属含有物粉砕物A2)が通過する最小の篩いの目開きを指す。
【0038】
粉砕装置3は、粒径が5mm以下となるように、塊状のアルカリ金属含有物A1を粉砕することが望ましく、その設備仕様は塊状のアルカリ金属含有物A1の性状に応じて適宜設定すればよい。粉砕装置3は、複数の装置の組み合わせであってもよい。
【0039】
具体的には、粉砕装置3としては、チューブミル、竪型ローラーミル、ジョークラッシャ、ジャイレトリクラッシャ、コーンクラッシャ、インパクトクラッシャ、ロールクラッシャ及びエアロフォールミル等が好適に使用できる。なお、これらの装置を複数組合せて粉砕装置3とする場合、各粉砕機の間に分級機を併設して閉回路粉砕システムを構築することによって、粒度の揃ったアルカリ金属含有物粉砕物A2を効率的に得ることができる。この場合の分級機としては、所定の分級点でアルカリ金属含有物粉砕物A2を分級できるものであれば特に限定されず、篩い(面内運動篩い、振動篩い)、重力式分級機、慣性力式分級機、サイクロン等の遠心式分級機、サイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機等が好適に使用できる。なかでも、設備の簡便性と操作、調整の容易性からサイクロンエアセパレータ等の回転羽根付きの遠心式分級機が好ましい。粉砕装置3として、分級機や篩い網が内蔵された粉砕機を用いることもできる。
【0040】
なお、供給された固形状のアルカリ金属含有物A1が、有姿において前記の好ましい粒径を満足する場合には、この粉砕処理工程S1を省略できる。図1では、アルカリ金属含有物A1が、粉砕処理工程S1を経て加熱処理工程S2に送られる場合と、粉砕処理工程S1を経ずに直接加熱処理工程S2に送られる場合の双方が模式的に図示されている。また、図2では、供給されたアルカリ金属含有物A1が粉砕装置3で粉砕されて得られたアルカリ金属含有物粉砕物A2がアルカリ金属含有物供給装置4に送られる場合と、供給されたアルカリ金属含有物A1が直接アルカリ金属含有物供給装置4に送られる場合の双方が模式的に図示されている。
【0041】
この粉砕処理工程S1が、工程(d)に対応する。
【0042】
(加熱処理工程S2)
加熱処理工程S2は、基準を満たす粒径のアルカリ金属含有物A1又はアルカリ金属含有物粉砕物A2を塩素含有物CLと共に加熱する工程である。図2に示す処理装置1では、加熱装置7によって加熱処理工程S2が実行される。なお、以下では、煩雑さを避ける観点から、加熱装置7に導入されるアルカリ金属含有物A1とアルカリ金属含有物粉砕物A2を、「アルカリ金属含有物A1(A2)」と総称する。
【0043】
この加熱処理工程S2により、アルカリ金属含有物A1(A2)に含まれるアルカリ金属が、アルカリ金属塩化物に変化する。
【0044】
図2に示す処理装置1は、加熱装置7に対してアルカリ金属含有物A1(A2)を供給するためのアルカリ金属含有物供給装置4を備えている。
【0045】
アルカリ金属含有物供給装置4は、アルカリ金属含有物A1(A2)を収容するホッパを含み、付設された排出量調整バルブによって、ホッパから加熱装置7に向かって排出されるアルカリ金属含有物A1(A2)の供給量の調整が可能であるものとしても構わない。このようなホッパとしては、バルブの調整によって定量的に排出できるものであれば特に限定されず、ロスインウエイト方式のホッパや、定量フィーダ又はロータリフィーダが付設されたホッパ等が好適に使用できる。
【0046】
図2に示す処理装置1は、受入れた塩素含有物CLを加熱装置7へ供給するための塩素含有物供給装置5を備えている。塩素含有物CLとしては、塩素を含み且つ多量のアルカリ金属を含有しないものであれば特に限定されないが、廃ポリ塩化ビニル等のモノマー中に有機塩素を少なくとも一つ含む廃プラスチックや、塩化カルシウム等の無機化合物塩素が混入する可燃性廃棄物を好適に利用できる。塩素含有物供給装置5には、受入れた塩素含有物CLの貯槽が付設されていてもよい。
【0047】
塩素含有物CLは、塩素を0.8質量%以上含有するのが好ましく、1.2質量%以上含有するのがより好ましく、2質量%以上含有するのが特に好ましい。なお、ここでいう塩素含有物CL中の塩素の濃度は、周知の方法で測定することができ、例えば、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法を利用することができる。
【0048】
塩素含有物CLは、加熱処理工程S2において、アルカリ金属含有物A1(A2)中のアルカリ金属と塩素含有物CL中の塩素との反応を効率的に行う観点から、サイズが小さく、アルカリ金属含有物A1(A2)に隣り合って存在するのが好ましい。具体的には、塩素含有物CLの大きさは、アルカリ金属含有物A1(A2)の大きさと同程度であればよく、粒径は、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下である。
【0049】
上記の観点から、塩素含有物供給装置5に付設された貯槽の上流側に、受入れた塩素含有物CLから粗大物を除去するための分級装置や粗大物を所定の粒度にするための粉砕分級装置が付設されていてもよい。これらの分級装置や粉砕分級装置は、受入れた塩素含有物CLの状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0050】
塩素含有物供給装置5は、好適には、排出量調整バルブ等の排出量調整装置が付設されることで、加熱装置7への塩素含有物CLの供給量の調整が可能な構成である。この場合、排出量調整装置を適切に制御することで、加熱装置7に供給される塩素量を適切に管理できる。
【0051】
具体的には、加熱処理工程S2で処理されるアルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLの割合は、単位時間中に加熱処理工程S2に供せられるアルカリ金属含有物A1(A2)中の全アルカリ金属成分のモル量(M1)に対する、単位時間中に加熱処理工程S2に供せられる塩素含有物CL中の全塩素のモル量(M2)の比率(M2/M1)の値が1~5となるように、設定されるのが好ましい。なお、前記比率(M2/M1)の値は、2以上5以下であるのがより好ましい。比率(M2/M1)の値が1を下回ると、塩素量が少ないためにアルカリ金属含有物A1(A2)中のアルカリ金属成分のうち、塩素と反応できないアルカリ金属成分が多く残存してしまう場合がある。また、逆に比率(M2/M1)の値が5を超えると、揮発、散逸する塩素量が多くなって設備の腐食の進行を速めてしまう場合がある。
【0052】
加熱装置7は、上述したように、アルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLとを一緒に加熱する。具体的には、塩素含有物供給装置5からは塩素含有物CLが、アルカリ金属含有物供給装置4からはアルカリ金属含有物A1(A2)が、それぞれ加熱装置7に供給され、加熱装置7において塩素含有物CLとアルカリ金属含有物A1(A2)とが一緒に加熱される。これにより、アルカリ金属含有物A1(A2)内のアルカリ金属と塩素含有物CL中の塩素とが反応し、アルカリ金属の塩化物が生成される。
【0053】
加熱処理工程S2における加熱温度は、アルカリ金属含有物A1(A2)中のアルカリ金属と塩素含有物CL中の塩素による塩化焙焼を効率的に生じさせつつ、アルカリ金属含有物A1(A2)を溶融させない観点から、650℃~1200℃が好ましい。
【0054】
なお、後述するように、アルカリ金属含有物A1(A2)に含まれるアルカリ金属の存在形態によって、より好ましい温度条件が異なる。具体的には、アルカリ金属含有物A1が木質バイオマス燃焼灰等のように、ガラスの形態でアルカリ金属を含有している場合には、1000℃以下であっても効率的な塩化焙焼が生じることから、650℃~1000℃とするのがより好ましく、800℃~1000℃とするのが特に好ましい。また、アルカリ金属含有物A1が建設発生土や廃コンクリートの再生微粉のように、長石(特にカリ長石)の形態でアルカリ金属を含有している場合には、800℃程度の温度条件では塩化焙焼による効果が十分には得られないことがあるため、1000℃~1200℃とするのがより好ましい。
【0055】
特に、加熱処理工程S2における加熱温度を高温にすると、塩素含有物CLから塩素が揮発しやすくなる。塩素が多く揮発してしまうと、アルカリ金属含有物A1(A2)に含まれるアルカリ金属と塩素との接触確率が低下し、アルカリ金属がアルカリ金属塩化物に変化する割合が低下することが想定される。そして、加熱温度が高温になればなるほど、この課題は顕著になる。
【0056】
そこで、加熱処理工程S2を特に800℃を超えるような高温で行った場合であっても、アルカリ金属をアルカリ金属塩化物に効率的に変化させるべく、本発明においては、加熱処理工程S2が低酸素濃度の雰囲気下で行われる。具体的には、雰囲気中の酸素濃度を10%以下とするのが好ましく、5%以下とするのがより好ましい。なお、雰囲気中の酸素濃度の下限値は0%であり、典型的には窒素雰囲気である。
【0057】
この理由として、本発明者らは、雰囲気中に含まれる酸素が多い場合(例えば大気雰囲気)には、以下の(1)式の反応が支配的になり、雰囲気中に含まれる酸素が少ない場合(例えば窒素雰囲気)には、以下の(2)式の反応が支配的になるためと考えている。なお、以下の(1)式及び(2)式では、塩素含有物CLの例としてCaCl2(塩化カルシウム)を挙げている。実施例を参照して後述されるように、Cl2(塩素)の揮発速度よりもCaCl2の揮発速度の方が遅いことが確認された。
CaCl2(s) + 1/2O2(g) → CaO(s) + Cl2(g) …(1)
CaCl2(s) → CaCl2(g) …(2)
【0058】
加熱処理工程S2における加熱時間は、加熱温度に応じて10分間~2時間の範囲内で適宜設定すればよい。この加熱時間は、アルカリ金属含有物A1(A2)中のアルカリ金属と塩素含有物CL中の塩素とを十分に反応させる観点から、加熱温度が高い場合には短く、加熱温度が低い場合には長くする必要がある。具体的には、アルカリ金属含有物A1(A2)が木質バイオマス灰である場合、加熱温度が650℃の場合は30分間~2時間、加熱温度が1000℃の場合は10分間~60分間とするのが好適である。また、アルカリ金属含有物A1(A2)が建設発生土や廃コンクリートの再生微粉である場合、加熱温度が1000℃の場合は30分間~2時間、加熱温度が1200℃の場合は10分間~60分間とするのが好適である。
【0059】
加熱装置7では、アルカリ金属塩の生成反応を効率的に生じさせるために、アルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLは十分に混合された状態で加熱されることが望ましい。かかる観点から、加熱装置7を内燃式ロータリーキルンで構成することができる。焼成炉が回転運動するロータリーキルンであれば、被加熱処理物であるアルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLとの混合及び撹拌を物理的且つ連続的に行いながら、加熱処理を行うことが可能である。
【0060】
加熱装置7内の雰囲気は、上述したように、酸素濃度が10%以下であるのが好ましく、図2の例では、ガス源34から吸気ファン33を通じて燃焼用のガスG1が加熱装置7内に送り込まれている。なお、ここでいうガス源34としては、空気から酸素を分離する空気分離装置としても構わないし、他の燃焼炉からの排ガスが排出されるガス排出路としても構わない。
【0061】
また、加熱装置7に対して、吸気ファン33を通じて大気を流入させるものとしても構わない。この場合、加熱装置7内の雰囲気の酸素濃度を低下させるために、吸気量と燃料の焚量が適宜調整されるものとして構わない。
【0062】
ロータリーキルンでは、吸気ファン33によって内燃バーナ31の燃焼用ガスとして用いられたガスG1が、キルン内部をアルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLの流れに対して向流する方向に流れた後、燃焼排ガスG2としてキルン外に排出される。
【0063】
なお、アルカリ金属及び塩素は、加熱処理の際には共に揮発しやすい成分であることから、燃焼排ガスG2にアルカリ金属と塩素が含まれる場合がある。よって、例えば、加熱装置7の排気系の煙道中で、温度がアルカリ金属の塩化物の凝固点を下回る箇所において、当該塩化物の析出が生じる場合がある。かかる塩化物は、回収して肥料等に用いることも可能である。
【0064】
加熱装置7は、アルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLとの混合物を650℃~1200℃の温度範囲(好適には800℃~1200℃)で加熱できるものであれば特に限定されず、固定炉、ストーカ炉、ロータリーキルン、流動床炉、竪型炉、多段炉等の加熱炉が使用できる。なかでも、物理的撹拌が行えるという観点からは、上記のロータリーキルンが好ましい。
【0065】
加熱装置7には、供給されたアルカリ金属含有物A1(A2)の貯槽が付設されていてもよい。さらに、かかる貯槽からアルカリ金属含有物A1(A2)を定量的に加熱装置7に供給するための供給装置が付設されていてもよい。この場合、アルカリ金属含有物供給装置4が加熱装置7と一体化されていても構わない。
【0066】
加熱装置7からは、アルカリ金属をアルカリ金属塩化物に変化した態様で含有するアルカリ金属含有物A1(A2)と塩素含有物CLの焼却残渣との混合物である加熱処理物P1が排出される。排出された加熱処理物P1は、水洗装置9に送出される。
【0067】
この加熱処理工程S2が、工程(a)に対応する。
【0068】
(水洗処理工程S3)
水洗処理工程S3は、加熱処理工程S2で得られた加熱処理物P1を水洗する工程である。この水洗処理工程S3により、加熱処理物P1に含まれる水溶性のアルカリ金属塩化物が溶解除去される。図2に示す処理装置1では、水洗装置9によってこの水洗処理工程S3が実行される。
【0069】
この水洗処理工程S3で用いられる溶媒としては、工水(真水)が好ましい。塩化カリウム(KCl)や塩化ナトリウム(NaCl)は、共に水への溶解度は非常に高く、また水温を変えても溶解度は大きく変わらないことから、溶出槽で溶媒として用いる水は、常温の水を、加熱処理工程S2から供給された加熱処理物P1の質量の3倍量以上、好ましくは4倍量以上、より好ましくは5倍量以上の量を用いればよい。
【0070】
水洗装置9では、加熱装置7から供給された加熱処理物P1と水W1とを混合してスラリーLr1を生成した後、スラリーLr1の撹拌を継続して、加熱処理物P1中の水溶性のアルカリ金属塩を水に溶解させる。
【0071】
一例として、図2に示す水洗装置9には、加熱処理物P1の供給ホッパ11と、水W1の供給装置13が付設されている。また、水洗装置9には、加熱処理物P1と水W1の混合、並びに、前記混合によって生成されたスラリーLr1を攪拌するためのスラリー攪拌装置35が付設されている。スラリー攪拌装置35としては、例えば、一般的な、パドル型やスクリュー型のものを用いればよく、図2に示す実施形態では撹拌翼を備えている。
【0072】
供給ホッパ11の上流側に、受入れた加熱処理物P1中の大径物を適当な大きさに粉砕するための粉砕装置が付設されていてもよい。この粉砕装置は、加熱処理工程S2から供給された加熱処理物P1の状態に応じて適宜に使用するようにしてもよい。
【0073】
水洗処理工程S3におけるスラリーLr1の撹拌時間は、10分以上が好ましく、15分以上がより好ましく、20分以上が特に好ましい。通常、水溶性のアルカリ金属塩は水に非常に溶けやすいので、スラリーLr1の撹拌に特段の条件は必要とならない。
【0074】
この水洗処理工程S3が、工程(b)に対応する。
【0075】
(固液分離処理工程S4)
水洗処理工程S3によって、アルカリ金属が水に溶解された状態のスラリーLr1は、後段に設置された固液分離装置17によって、含水率が有効に低減されてセメント原料等として利用可能な固体物(ケーキC1)と排水W3とに分離される。
【0076】
スラリーLr1を固液分離装置17に輸送する際には、スラリー用渦巻きポンプ、ピストンポンプ、及び、モーノポンプ、ホースポンプ等の汎用のスラリー液用輸送装置(不図示)を用いればよい。
【0077】
固液分離装置17としては、フィルタープレス、加圧葉状濾過装置、スクリュープレス、ベルトプレス、ベルトフィルター等の汎用のろ過装置等を用いればよい。図2に示す実施形態では、固液分離装置17がフィルタープレスで構成されている場合が図示されている。
【0078】
固液分離装置17には、洗浄水W2の供給装置15が付設されており、輸送されたスラリーLr1を、水洗処理物のケーキC1(固相)と、アルカリ金属を含む排水W3(液相)とに分離する。このとき、ケーキC1は洗浄水W2で洗浄されつつ分離される。洗浄水W2としては、常温の水を、水洗処理物の質量の3倍量以上、好ましくは4倍量以上、より好ましくは5倍量以上の量だけ用いればよい。
【0079】
固液分離装置17によって分離されたケーキC1は、アルカリ金属成分の濃度が2.5質量%以下、より典型的には2.0質量%以下にまで低減されているので、セメント原料等に有効に利用することができる。ここでいうアルカリ金属の濃度とは、周知の方法での分析値、例えば、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠した方法による分析値や、酸分解試料についてのICP発光分光分析法による分析値を指す。
【0080】
この固液分離処理工程S4が、工程(c)に対応する。
【実施例
【0081】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するために具体的な試験例を示すが、本発明はこれら試験例の態様に限定されるものではない。
【0082】
(検証1)
塩素含有物CLとしての例である塩化カルシウムを熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)に設置し、大気雰囲気と窒素雰囲気の2パターンでそれぞれ温度を変化させながら重量の変化の態様を計測した。この結果をTG曲線として図3に示す。なお、図3において横軸は温度[℃]を示し、縦軸は、処理前のサンプルの重量に対する、重量の減少量(処理後重量-処理前重量)の比率を示している。
【0083】
図3によれば、800℃近傍まで加熱した場合、温度上昇による重量の減少はほとんど生じていない。しかし、850℃を超えるような温度条件になると、窒素雰囲気に比べて大気雰囲気の場合には、温度上昇に伴う重量の減少率が高いことが分かる。特に800℃~1300℃の範囲内においては、窒素雰囲気で塩化カルシウムを加熱した場合、大気雰囲気の場合よりも重量の減少量は少ない。なお、窒素雰囲気の場合であっても、1200℃を超えるような温度条件下であれば、温度が上昇するに伴って重量の減少率は高まっていることが確認される。
【0084】
大気のように酸素を多く含む雰囲気下で塩化カルシウムを加熱した場合、上述した(1)式の反応が支配的となり、塩素が揮発したことで重量が減少したものと考えられる。念の為、(1)式を再掲する。
CaCl2(s) + 1/2O2(g) → CaO(s) + Cl2(g) …(1)
【0085】
一方で、酸素濃度が低い又は酸素を含まない雰囲気(ここでは窒素雰囲気)で塩化カルシウムを加熱した場合、上述した(2)式の反応が支配的となり、加熱対象物である塩化カルシウム自体が揮発したことで重量が減少したものと考えられる。念の為、(2)式を再掲する。
CaCl2(s) → CaCl2(g) …(2)
【0086】
そして、図3の結果からは、塩素の揮発速度が、塩化カルシウムの揮発速度よりも速いことを示唆するものである。つまり、例えば加熱処理工程S2において塩素含有物CLとアルカリ金属含有物A1(A2)の混合物を1000℃程度で加熱することを想定すると、加熱装置7の加熱炉が大気雰囲気である場合には、塩素含有物CLから塩素が揮発しやすく、アルカリ金属含有物A1(A2)との反応効率が低下してしまうことを意味する。これに対し、加熱装置7の加熱炉が窒素雰囲気である場合には、塩素の揮発が抑制される結果、塩素含有物CLに含まれる塩素とアルカリ金属含有物A1(A2)に含まれるアルカリ金属との接触確率を高く維持することができ、アルカリ金属塩化物を高効率で生成できることが分かる。なお、この検証では、塩素含有物CLとしてCaCl2(塩化カルシウム)を用いる場合を取り上げたが、MgCl2(塩化マグネシウム)、BaCl2(塩化バリウム)の場合であっても、同様の結果が得られる。
【0087】
(検証2)
アルカリ金属含有物A1として、2種類の材料が用いられた。第一の材料は、バイオマス発電プラント(循環流動層ボイラ)の排ガス集塵機(バグフィルタ)で捕集された木質バイオマス灰の飛灰であり、第二の材料は真砂土であった。表1には、アルカリ金属については酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で、その他の化学成分にはペレット試料の蛍光X線分析法による分析で得られた結果であり、それぞれの化学組成を示す。なお、表1のR2Oは、上述したように、本組成物中の全アルカリ金属成分量として「R2O=Na2O+0.658×K2O」で算定された値を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
また、表2にはアルカリ金属含有物A1の第一の材料としての木質バイオマス灰のXRD解析結果を示し、表3にはアルカリ金属含有物A1の第二の材料としての真砂土のXRD解析結果を示す。なお、表2及び表3では、XRD解析の結果、多量の存在が確認されたものを「◎」、存在が確認されたものを「○」、微量に存在が確認されたものを「△」と表記している。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表2より、木質バイオマス灰には、アルカリ金属としてのカリウムが主としてガラスの形態で存在しているのに対し、真砂土には。カリウムが長石(カリ長石)の形態で多く存在していることが分かる。
【0093】
上記のアルカリ金属含有物A1に、そのアルカリ金属含有物A1中のアルカリ金属成分としてのカリウムの含有量(mol)に対して所定倍率のモル数を有する塩素含有物(CaCl2試薬粉末)を混合した後、温度及び雰囲気を表4~表6に示す条件に設定した状態で、恒温電気炉に60分間静置して加熱処理物P1とした。その後、加熱処理物P1の4倍量の水で室温下で30分間撹拌し、得られたスラリーLr1を吸引ろ過後、スラリーLr1作成時と同量の水で洗浄、ろ過して、ケーキC1を作成した。なお、加熱に利用されたアルカリ金属含有物A1の粒径は、木質バイオマス灰の場合35μm(メジアン径)、真砂土の場合155μm(メジアン径)であった。
【0094】
得られたケーキC1について、アルカリ金属成分の含有量を、酸分解試料のICP発光分光分析法による分析で求めた。この結果を表4~表6、及び図4図6に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
なお、表4~表6において、試験条件を識別するための水準符号として、#A11や#B11等を用いているが、この符号の#の次のアルファベット(A,B)は、アルカリ金属含有物A1として利用されたサンプルの種別を示しており、「A」がバイオマス灰に対応し、「B」が真砂土に対応する。また、アルファベットの次に表示される数字(1,2)は、加熱時の雰囲気を示しており、「1」が大気雰囲気を含む15%以上の酸素濃度の場合に対応し、「2」が窒素雰囲気を含む10%以下の酸素濃度の場合に対応する。なお、最も末尾に付された数字は、相互を区別するための識別子に対応する。
【0099】
また、K除去率は、以下の(3)式で算定された値が採用された。
K除去率=[d1-{(1-d2)-d3}×d4]/d1 …(3)
ただし、(3)式内の各記号は、それぞれ以下の値である。
d1: 加熱処理前のアルカリ金属含有物A1に含まれるK(カリウム)の含有率(濃度)
d2: 加熱処理工程S2によるアルカリ金属含有物A1の重量減少率
d3: 水洗処理工程S3及び固液分離処理工程S4によるアルカリ金属含有物A1の重量減少率
d4: 固液分離処理工程S4の後に得られたケーキC1に含まれるKの含有率(濃度)
【0100】
なお、実験で利用されたバイオマス灰の処理前のK含有率d1=3.4%であり、真砂土の処理前のK含有率d1=3.6%であった。
【0101】
表4では、アルカリ金属含有物A1としてバイオマス灰を用いた場合において、加熱温度を800℃で共通とし、加熱雰囲気を大気とした場合(水準#A11~#A13)と、加熱雰囲気を窒素とした場合(水準#A21~#A23)とで、それぞれ塩素含有物CLの混合量を変化させたときの、カリウムの除去量の比較結果が示されている。図4は、表4の結果をグラフ化したものである。
【0102】
水準#A11と水準#A21を対比すると、塩素含有物CLの混合量が同一であっても、大気雰囲気より窒素雰囲気の方がカリウム除去率が高いことが分かる。この傾向は、水準#A12と水準#A22の対比、水準#A13と水準#A23の対比によっても理解される。
【0103】
なお、加熱雰囲気を大気とした水準#A11~#A13を比較すると、Cl/Kを低下させた場合、すなわち塩素含有物CLの混合量を低下させた場合、アルカリ金属含有物A1からのK除去率は明らかに低下する。これに対し、加熱雰囲気を窒素とした水準#A21~#A23を比較すると、Cl/Kを低下させても、加熱雰囲気を大気とした場合に比べて、K除去率の低下の程度は緩和されている。言い換えれば、Cl/K=1である水準#A21の場合であっても、加熱雰囲気を大気としたCl/K=2の場合(水準#A13)とほぼ同程度のK除去率が実現されている。このことから、加熱雰囲気を大気から窒素にすることで、加熱処理工程S2で利用される塩素含有物CLの量を減らしながらも、同等以上のカリウム除去率が実現できることが分かる。
【0104】
表5では、アルカリ金属含有物A1として真砂土を用いた場合において、塩素含有物CLの混合量を共通とした上で、加熱雰囲気を大気とした場合(水準#B11~#B14)と、加熱雰囲気を窒素とした場合(水準#B21~#B24)とで、それぞれ加熱温度を800℃~1200℃で変化させたときの、カリウムの除去量の比較結果が示されている。図5は、表5の結果をグラフ化したものである。
【0105】
水準#B12と水準#B22、水準#B13と水準#B23、及び水準#B14と水準#B24をそれぞれ対比すると、加熱温度が1000℃以上の場合には、加熱温度及び塩素含有物CLの混合量が同一であっても、大気雰囲気より窒素雰囲気の方がカリウム除去率が高いことが分かる。
【0106】
これに対し、加熱温度が800℃の場合、水準#B11と水準#B21を対比すると、大気雰囲気と窒素雰囲気とで、カリウム除去率に実質的な差が認められない。この結果は、真砂土の場合、カリウムがカリ長石の形態で存在していることから、800℃では塩素との反応速度が低く、雰囲気による反応量の差が生じなかったことに由来するものと推定される。
【0107】
つまり、表5及び図5の結果からは、アルカリ金属含有物A1として真砂土を用いた場合、言い換えればカリ長石の形態でカリウムが含まれる材料を用いる場合には、加熱温度を1000℃以上とした上で、且つ加熱雰囲気を低酸素濃度とするのが好適であることが分かる。
【0108】
表6では、アルカリ金属含有物A1としてバイオマス灰を用いた場合において、加熱温度及び塩素含有物CLの混合量を共通とした上で(加熱温度800℃、Cl/K=1)、加熱雰囲気に含まれる酸素濃度を0%~21%の範囲内で変化させたときの、カリウムの除去量の比較結果が示されている。図6は、表6の結果をグラフ化したものである。
【0109】
なお、表6において、雰囲気中の酸素濃度が0%の場合とは窒素雰囲気に対応し、表4における水準#A21と同一である。また、表6において、雰囲気中の酸素濃度が21%の場合とは大気雰囲気に対応し、表4における水準#A11と同一である。
【0110】
図6によれば、雰囲気中の酸素濃度を0%~10%の範囲内で変化させると、酸素濃度が増加するに連れて、ほぼ線形的にK除去率が低下していることが分かる。これに対し、酸素濃度が10%を超えると、K除去率の低下の程度は緩和されることが分かる。特に、酸素濃度が15%以上の場合には、K除去率の値について大気雰囲気の場合と大きな差が生じないことが分かる。
【0111】
つまり、図6及び表6の結果からは、酸素濃度を10%以下として加熱処理を行うことで、加熱処理工程S2で利用される塩素含有物CLの量が同一であっても、カリウム除去率を高められることが分かる。この結果は、雰囲気中の酸素濃度を低くしたことで上記(1)式よりも(2)式の反応が支配的となった結果、塩素の揮発の進行が抑制されて塩素とアルカリ金属含有物A1に含まれるアルカリ金属との接触確率が高く維持されて、アルカリ金属塩化物を高効率で生成できたことを示唆するものである。
【符号の説明】
【0112】
1 :処理装置
3 :粉砕装置
4 :アルカリ金属含有物供給装置
5 :塩素含有物供給装置
7 :加熱装置
9 :水洗装置
11 :供給ホッパ
13 :水供給装置
15 :洗浄水供給装置
17 :固液分離装置
31 :内燃バーナ
33 :吸気ファン
34 :ガス源
35 :スラリー攪拌装置
A1 :アルカリ金属含有物
A2 :アルカリ金属含有物粉砕物
C1 :ケーキ
CL :塩素含有物
G1 :雰囲気用ガス
G2 :燃焼排ガス
Lr1 :スラリー
P1 :加熱処理物
W1 :水
W2 :洗浄水
W3 :排水
図1
図2
図3
図4
図5
図6