(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】仮設覆工床版、仮設覆工床版の取付け構造、及び仮設覆工床版の取付け方法
(51)【国際特許分類】
E01C 9/08 20060101AFI20241015BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20241015BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20241015BHJP
E01D 24/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
E01C9/08 A
E01D19/12
E01D22/00 A
E01D24/00
(21)【出願番号】P 2021034115
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000179915
【氏名又は名称】ジェコス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 重洋
(72)【発明者】
【氏名】丈達 康太
(72)【発明者】
【氏名】久保 輝晃
(72)【発明者】
【氏名】横木 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】有冨 敏也
(72)【発明者】
【氏名】西口 正仁
(72)【発明者】
【氏名】村山 正輝
(72)【発明者】
【氏名】阿南 克之
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001536(JP,A)
【文献】実開平5-77309(JP,U)
【文献】特開2017-115573(JP,A)
【文献】特開昭58-150604(JP,A)
【文献】実公昭46-27566(JP,Y1)
【文献】特開平6-313305(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0070700(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第02000592(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 9/08
E01D 19/12
E01D 22/00
E01D 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設床版を撤去したのちの橋梁主桁に設けられる仮設覆工床版であって、
床版本体と、該床版本体の下面側であって前記橋梁主桁と当接する位置に設けられる回転式支承装置と、を備え、
前記回転式支承装置は、
橋軸方向に延在するピンを備えるピン支承と、
該ピン支承の下沓に着脱自在に設置される沓座と、
を備えることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項2】
請求項1に記載の仮設覆工床版において、
前記沓座が、
切り欠きを形成された支持板と、
該支持板の上面に積層される高さ調整板と、
を備えることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項3】
請求項1または2に記載の仮設覆工床版において、
前記床版本体に橋軸方向の軸力を導入する軸力導入部材を備え、
該軸力導入部材は、前記橋梁主桁の上方であって前記床版本体の側端部に設けられることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の仮設覆工床版において、
前記床版本体の上面に外周縁部を残して設けられる先行仮舗装部と、
前記外周縁部に対して着脱自在に設けられ、隣接する既設床版もしくは新設床版に跨って配置される隙間塞ぎ部材と、
を備えることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項5】
請求項4に記載の仮設覆工床版において、
前記先行仮舗装部が、角欠け防止部材を介して隅部を保護されていることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の仮設覆工床版において、
前記床版本体の橋軸直角方向におけるいずれか一方の端部上面に、配置位置を調整可能に設けられる地覆と、
該地覆に対して着脱自在に設けられる防護柵と、
を備えることを特徴とする仮設覆工床版。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の仮設覆工床版の取付け構造であって、
前記橋梁主桁に、前記回転式支承装置が載置されるとともに、
該回転式支承装置の前記沓座と前記橋梁主桁とが、固定金具を介して着脱自在に固定されていることを特徴とする仮設覆工床版の取付け構造。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の仮設覆工床版の取付け方法であって、
前記橋梁主桁に、前記回転式支承装置を載置したのち、
該回転式支承装置の前記沓座と前記橋梁主桁とを、固定金具を介して着脱自在に固定することを特徴とする仮設覆工床版の取付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の既設床版を新設床版に取り替える床版取替え工法に用いる仮設覆工床版、仮設覆工床版の取付け構造、及び仮設覆工床版の取付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、上り車線用の橋梁と下り車線用の橋梁とを備える大規模な道路橋において、橋梁の既設床版を新設床版に取替える更新工事を行う際には、上り車線用と下り車線用の橋梁のうち、いずれか一方の橋梁を全面通行止めにして更新工事を行い、他方の橋梁を対面通行規制している。
【0003】
しかし、都市部等の重交通路や長大トンネルに挟まれた山間部等では、長期間にわたって対面通行規制を実施すると、周辺地域の交通環境に悪影響を及ぼしかねない。このため、夜間のみ車線規制を行って更新工事を行い、昼間は全面交通解放する方法が望まれている。
【0004】
このような中、例えば特許文献1には、工事交通規制時間帯と交通解放時間帯とを交互に繰り返しながら、既設床版をプレキャスト造の新設床版に取替える橋梁の床版取替え工法が開示されている。具体的には、鋼製の主桁に設置されている既設床版を撤去し、撤去後の主桁にプレキャストコンクリート造の新設床版を設置するまでに必要な作業を、中断可能な複数の工程に分割する。そして、工事交通規制時間帯にいずれかの工程を実施したのち、主桁の上面に仮設覆工床版を設置するとともに仮舗装を行って車両が通行可能な状態とし、交通開放時間帯を迎える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、夜間に工事交通規制時間帯を設定して、限られた時間の中で実施可能な工程を終了させ、昼間には、車両が通行可能な交通開放時間帯を確保することが可能となる。
【0007】
しかし、仮設覆工床版を主桁の上面に設置する場合、隣り合う既設床版や先行して設置した新設床版と路面が連続するよう、勾配や路面高を合わせる調整作業が必要となるなど、設置作業が煩雑となりやすい。
【0008】
また、既設床版を撤去した直後の主桁上面は、スタッドジベル等が残存した状態にある場合が多い。このため、仮設覆工床版には、既設のスタッドジベルとの干渉を回避し、交通開放時にガタツキを生じたり、隣接する既設床版等から伝達された振動により位置移動が生じるといった挙動を抑制した状態で、主桁上に設置することの可能な構造が求められる。
【0009】
さらに、仮設覆工床版を設ける位置によっては、高欄や防護柵が必要となる場合もあり、一般道路の開口を一時的に塞ぐ際に広く採用されている覆工板を仮設覆工床版に採用すると、これに対応することができない。仮に、高欄や防護柵として機能する部材を別途準備し、これを覆工板に設置できた場合にも、経済性に劣るだけでなく作業が煩雑となりやすい。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、簡略な構成で橋梁主桁上面への取付け設置作業の効率化を図ることの可能な、仮設覆工床版、仮設覆工床版の取付け構造、及び仮設覆工床版の取付け方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の仮設覆工床版は、既設床版を撤去したのちの橋梁主桁に設けられる仮設覆工床版であって、床版本体と、該床版本体の下面側であって前記橋梁主桁と当接する位置に設けられる回転式支承装置と、を備え、前記回転式支承装置は、橋軸方向に延在するピンを備えるピン支承と、該ピン支承の下沓に着脱自在に設置される沓座と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の仮設覆工床版は、前記沓座が、切り欠きを形成された支持板と、該支持板の上面に積層される高さ調整板と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の仮設覆工床版によれば、床版本体の下面側であって橋梁主桁と当接する位置に設けられる回転式支承装置が、橋軸方向に延在するピンを備えるピン支承を備える。これにより、高低差を設けて並列配置された複数の橋梁主桁に設置されることで勾配が設けられていた既設床版を撤去し、その位置に仮設覆工床版を載置するのみで、仮設覆工床版に撤去した既設床版と同様の勾配を得ることができ、勾配を調整する作業の効率化を図ることが可能となる。
【0014】
また、沓座に高さ調整板を備えることで予め、仮設覆工床版の路面高が既設床版の路面高と合致するよう、沓座の高さを調整しておくことができる。これにより、仮設覆工床版の位置決めに係る作業の合理化を図り、施工精度の向上及び工期短縮を図ることが可能となる。
【0015】
加えて、切り欠きが形成された支持板の上面に高さ調整板を積層し沓座を形成すると、支持板の切り欠きに、既設床版を撤去したのちの主桁上面に残置されたスタッドジベルを収納した状態で、沓座を橋梁主桁の上面に配置できる。したがって、橋梁床版の上面に対する下処理が終了していない状態であっても、スタッドジベルとの干渉を回避して、ガタツキや隣接する既設床版等から伝達された振動により位置移動が生じるといった挙動を抑制し、安定した状態で仮設覆工床版を設置することが可能となる。
【0016】
本発明の仮設覆工床版は、前記床版本体に橋軸方向の軸力を導入する軸力導入部材を備え、該軸力導入部材は、前記床版本体の側端部に設けられることを特徴とする。
【0017】
本発明の仮設覆工床版によれば、床版本体を橋梁主桁の上面に設置したのち、橋軸方向に隣り合う他の仮設覆工床版や既設床版、もしくは新設床版に軸力導入部材を当接させることで軸力を導入でき、簡略な構成で橋軸方向の連続化を図ることが可能となる。
【0018】
本発明の仮設覆工床版は、前記床版本体の上面に外周縁部を残して設けられる先行仮舗装部と、前記外周縁部に対して着脱自在に設けられ、隣接する既設床版もしくは新設床版に跨って配置される隙間塞ぎ部材と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の仮設覆工床版は、前記先行仮舗装部が角欠け防止部材を介して隅部を保護されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の仮設覆工床版によれば、あらかじめ先行仮舗装部を敷設するから、仮設覆工床版を橋梁主桁に設置したのち、隣り合う他の床版と連続するように設ける仮舗装の敷設エリアを小さくできる。これにより、仮舗装の敷設に係る作業時間を大幅に短縮することができる。
【0021】
また、先行仮舗装部の隅部を角欠け防止部材で保護することから、耐久性が向上するため、仮設覆工床版を繰り返し再利用することが可能となる。
【0022】
また、隣接する既設床版もしくは新設床版に跨って配置される隙間塞ぎ部材を備えることから、一般に仮舗装を敷設する前に実施する必要のある、仮設覆工床版と隣り合う他の床版との隙間を埋める間詰め処理を省略できる。これにより、仮舗装に係る作業時間をさらに短縮できるとともに、仮設覆工床版の撤去作業も迅速に行うことも可能となる。
【0023】
さらに、隙間塞ぎ部材は、予め仮設覆工床版に取り付けておくことも可能であり、こうすると、仮設覆工床版を橋梁主桁に設置したのちの作業時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0024】
本発明の仮設覆工床版は、前記床版本体の橋軸直角方向におけるいずれか一方の端部上面であって、配置位置を調整可能に設けられる地覆と、該地覆に対して着脱自在に設けられる防護柵と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の仮設覆工床版によれば、防護柵が設けられていることから、仮設覆工床版を橋梁主桁に設置するのみで、この防護柵を、隣り合う既設床版や新設床版の高欄と連続させることができ、高欄に開口を生じさせることがない。また、防護柵が設置される地覆の位置を調整できるため、隣り合う既設床版や新設床版の高欄との通り合わせ作業を、容易に実施することが可能となる。
【0026】
本発明の仮設覆工床版の取付け構造は、前記橋梁主桁に、前記回転式支承装置が載置されるとともに、該回転式支承装置の前記沓座と前記橋梁主桁とが、固定金具を介して着脱自在に固定されていることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の仮設覆工床版の取付け方法は、前記橋梁主桁に、前記回転式支承装置を載置したのち、該回転式支承装置の前記沓座と前記橋梁主桁とを、固定金具を介して着脱自在に固定することを特徴とする。
【0028】
本発明の仮設覆工床版の取付け構造及び仮設覆工床版の取付け方法によれば、仮設覆工床版を、回転式支承装置を利用して橋梁主桁に着脱自在に設けることもできるから、仮設覆工床版の設置に係る作業効率を向上できるだけでなく、撤去時の作業の効率化を図ることも可能となる。また撤去後の仮設覆工床版は、取付け及び撤去作業に伴う大きな損傷が生じないから、再利用が可能であり経済的である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、床版本体の下面側であって橋梁主桁と当接する位置に回転式支承装置を設ける簡略な構成で、橋梁主桁上面へ仮設覆工床版を取付ける際の作業の効率化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施の形態における半断面床版取り換え工法を説明する図である。
【
図2】本発明の実施の形態における仮設覆工床版の大まかな設置手順を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における仮設覆工床版の平面を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における床版本体の平面を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における床版本体の断面を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における鋼製地覆及び防護柵の詳細を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態における仮設覆工床版の側面及び断面を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態における仮設覆工床版の下面を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態における回転支承装置の詳細を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態における組立て用架台を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態における軸力導入部材の詳細を示す図である(
図3のc部分)。
【
図12】本発明の実施の形態における軸力導入部材の詳細を示す図である(
図3のd部分)。
【
図13】本発明の実施の形態における隙間塞ぎ部材及び後行隙間塞ぎ部材を取り付けた仮設覆工床版を示す図である。
【
図14】本発明の実施の形態における隙間塞ぎ部材を取り付けた仮設覆工床版を床版吊り具で吊り下げる様子を示す図である。
【
図15】本発明の実施の形態における隙間塞ぎ部材の詳細を示す図である。
【
図16】本発明の実施の形態における仮設覆工床版を取付ける手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の仮設覆工床版は、既設床版をプレキャストコンクリート造の新設床版に取替える橋梁の更新工事において、既設床版を撤去したのちの橋梁主桁に対して一時的に設置し、工事期間中における交通解放時間帯の確保を可能にしようとするものである。
【0032】
交通開放時間帯を確保しながら橋梁の更新工事を実施する方法としては、主に、通行止めを行って更新工事を行う全断面施工を採用し、通行止め規制時間帯と交通解放時間帯とを交互に繰り返す方法と、車線規制を行って更新工事を行う半断面床版取替え工法を採用し、車線規制時間帯と交通解放時間帯とを交互に繰り返す方法がある。
【0033】
仮設覆工床版は、いずれの方法にも採用可能であるが、本実施の形態では、半断面床版取替え工法に採用する場合を事例に挙げ、
図1~
図16を参照しつつその詳細を説明する。
【0034】
≪≪半断面床版取替え工法≫≫
半断面床版取替え工法は、
図1(a)で示すように、例えば、上り2車線用の橋梁B1と下り2車線用の橋梁B2を備える道路橋Bにおいて、橋梁B1を車線規制し、走行車線側と追い越し車線側の、いずれか一方の半断面分の既設床版1を新設床版に取替え、これと前後して、他方側の半断面分の既設床版1も同様に新設床版に取替える方法である。
【0035】
半断面分の既設床版1を新設床版に取替える手順としては、まず、
図1(b)で示すように走行車線側に作業区画Dを設定し、この作業区画Dの既設床版1に橋軸直角方向の切断線2を設けて複数の既設床版片3を形成しておく。なお、本実施の形態では、6体の既設床版片3を形成する場合を事例に挙げており、これらはいずれも撤去したのちの車両搬送が可能な大きさに形成されている。
【0036】
次に、
図2(a)で示すように、例えば6枚の既設床版片3のうちの2枚を既設床版1から切り離して撤去する。すると、既設床版片3の撤去跡に、I形鋼よりなる橋梁主桁4の一部が露出するから、この露出した橋梁主桁4の上フランジ上面に対して下処理を行うとともに、新たなスタッドジベル(図示せず)を設置する。
【0037】
このような、上フランジ上面の下処理から新たなスタッドジベルの設置に至る一連の作業は煩雑で、多大な作業時間を要する場合が多い。このため、これらの作業を工事の中断が可能な複数の工程に分割する。そのうえで、工事交通規制時間帯内で実施可能な工程を複数連続して、もしくは1つの工程のみ実施する。
【0038】
こののち、
図2(b)で示すように、いずれかの工程が終了したところで交通解放時間帯を迎える前に、橋梁主桁4上に仮設覆工床版100を設置するとともに必要部分に仮舗装5を施して、
図2(c)で示すように、車両の通行が可能な状態とする。これにより、交通解放時間帯を迎えると、工事を中断した状態であっても仮設覆工床版100を利用して交通解放を実施することができる。
【0039】
そして、複数の工程に分割した一連の作業のうち、新たなスタッドジベルを設置する工程が終了したところで、新設床版を設置する。これら作業を残り4枚の既設床版片3についても同様に実施して、作業区間Dのすべての既設床版片3を撤去し新設床版に取り替える。
【0040】
このように、半断面床版取替え工法を採用すると、工事交通規制時間帯を夜間に設定すれば、昼間の交通解放を実現することができる。したがって、既設床版の取替え工事を実施する橋梁が都市部等の重交通路上や長大トンネルに挟まれた山間部等にある場合にも、周辺地域の交通環境への影響を最小限に抑えつつ、工事を進捗させることが可能となる。
【0041】
≪≪仮設覆工床版≫≫
上記のとおり、仮設覆工床版100は、既設床版片3を撤去したのちの橋梁主桁4に設置され車両の通行を一時的に可能にするものである。
【0042】
その構造は、
図3で示すように、床版本体10の上面に予め先行仮舗装部14が設けられているとともに、防護柵64が着脱自在に設置されている。また、床版本体10の下面にはその内側に、
図7(b)及び
図8で示すように、複数の回転式支承装置20が設けられている。
【0043】
さらに、橋軸方向の側端部には、
図11及び
図12で示すような、軸力導入部材30が設けられ、床版本体10の上面の外周縁部には、
図13及び
図14で示すような、隙間塞ぎ部材40及び後行隙間塞ぎ部材50が設けられている。
【0044】
≪床版本体≫
床版本体10は、
図4(a)(b)で示すように、複数の床版主桁11と差し込み桁12と敷板13とを備えている。床版主桁11は橋軸直角方向に延在し、複数が間隔を有して並列配置されている。差し込み桁12は橋軸方向に延在し、隣り合う床版主桁11を連結するように、間隔を設けて複数が配置されている。また、敷板13は、隣り合う床版主桁11の間に形成された開口を塞ぐようにして差し込み桁12の上面に設置されている。
【0045】
床版主桁11及び差し込み桁12はともに長尺鋼材であればをいずれを採用してもよく、本実施の形態ではH形鋼を採用する場合を事例に挙げている。また、敷板13には、敷鉄板や縞鋼板等が採用される。これらは、
図5で示すように、床版主桁11に設けらたスチフナー111と差し込み桁12のウェブがガセットプレート16を介して接続され、敷板13が、差し込み桁12の上フランジに接続されている。
【0046】
≪先行仮舗装部≫
こうして形成された床版本体10の上面には、先行仮舗装部14が所定の厚さで敷設されている。また、先行仮舗装部14は、
図3で示すように、床版本体10の外周縁部を残した状態でその内側に敷設され、角欠け防止部材15により囲繞されている。角欠け防止部材15は、
図5で示すように、床版本体10の上面に溶接等の固定手段により固定された、例えばアングル材により構成されている。
【0047】
このように、角欠け防止部材15で先行仮舗装部14の隅角部を保護すると隅欠けが生じにくく、仮設覆工床版100の繰り返し利用が可能となる。また、予め先行仮舗装部14を敷設しておくと、
図2(b)で示すように仮設覆工床版100を橋梁主桁4に設置したのち、
図2(c)で示すように、後行して敷設する仮舗装5の敷設エリアを小さくできるため、仮舗装5の作業時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
≪防護柵≫
また、防護柵64は、
図4(b)及び
図6で示すように、床版本体10における橋軸直角方向の一方側に、鋼製地覆60を介して着脱自在に設置されている。鋼製地覆60は、
図6で示すように防護柵64が設置される地覆本体61と、地覆本体61を床版本体10に設置する固定部材62と、防護柵64の姿勢を鉛直にするために用いる調整金具63とを備える。
【0049】
地覆本体61は、フランジ611を立設させた態様で橋軸方向に延在し、フランジ611に当接する固定部材62と締結用ボルトF1で締結することにより床版本体10の上面に設置されている。固定部材62はアングル材によりなり、地覆本体61を挟んでこれと平行に対をなして延在し、複数の床版主桁11に対して締結用ボルトF1で締結されている。
【0050】
このとき、
図4(a)で示すように、固定部材62のボルト孔621は橋軸方向に延びる長孔に形成され、床版主桁11のボルト孔116は橋軸直角方向に延びる長孔に形成されている。したがって、
図6で示すように、締結用ボルトF1で締結する際、固定部材62の床版本体10に対する締結位置を、橋軸方向及び橋軸直角方向のいずれにも調整できる。これにより、固定部材62を介して固定される鋼製地覆60の位置が調整されることとなる。
【0051】
防護柵64は、
図6で示すように、下端にベースプレート6411が設けられた支柱641と、支柱641に設けられたブラケット642と、ブラケット642の先端に設けられたビーム643とを備えている。支柱641は、ベースプレート6411と地覆本体61のウェブ612とを締結用ボルトF1で締結することで、鋼製地覆60に立設されている。
【0052】
ブラケット642は、支柱641の上端近傍の側面に2本の締結用ボルトF1を利用して締結されているが、支柱641に設けた2つのボルト孔のうちの一方が、円弧孔644に形成されている。これにより、ブラケット642を支柱641に締結する際に取り付け角度を適宜調整でき、よってビーム643を、支柱641と平行な姿勢だけでなく、上向きもしくは下向きの姿勢に変更することが可能となる。
【0053】
したがって、鋼製地覆60に防護柵64を設置した際、支柱641が鉛直軸に対して傾斜して立設している場合にも、ビーム643を鉛直軸に平行な姿勢に調整することができる。このようなビーム643の姿勢調整は、調整金具63を用いた支柱641の姿勢調整によっても実施することもできる。
【0054】
調整金具63は、
図6で示すように、床版本体10と固定部材62の間、もしくは地覆本体61のウェブ612と支柱641のベースプレート6411との間に介装して使用する。その形状は、鋼製地覆60を床版本体10に設置した際、地覆本体61のウェブ612を水平にできれば、いずれでもよい。
【0055】
このような調整金具63を採用すれば、地覆本体61のウェブ612に防護柵64を設置するのみで、
図7(a)(b)で示すように、支柱641を垂直に立設できる。したがって、ブラケット642の角度調整を行わなくても、ビーム643を鉛直軸に平行な姿勢に配置することができる。なお、調整金具63は、現場で適宜製作してもよいし、仮設覆工床版100を橋梁主桁4に設置する際の勾配に基づいて、予め製作しておいてもよい。
【0056】
このように、防護柵64は、鋼製地覆60を介して床版本体10の上面上で橋軸方向及び橋軸直角方向に設置位置の調整ができ、また、ビーム643の姿勢を調整可能に構成している。したがって、仮設覆工床版100を橋梁主桁4に設置した際、例えば
図13で示すように、隣接する既設床版1や先行して設置した新設床版200の高欄に対して、容易に通り合わせを行うことが可能となる。
【0057】
≪回転式支承装置≫
回転式支承装置20は、
図8で示すように、床版本体10の下面であって、内側に位置する床版主桁11の橋梁主桁4と対向する位置に設置されている。その構造は、
図7(b)及び
図9で示すように、橋梁主桁4の上面に配置する沓座22と沓座22の上面に設置するピン支承21と、を備えている。
【0058】
ピン支承21は、
図9で示すように、橋梁主桁4と平行(橋軸方向)に配置されるピン212と、その上下に設けられる上沓211及び下沓213とを備える。また、沓座22は、切り欠きが設けられることによりくし形状に形成された支持板221と、支持板221に積層される高さ調整板222とを備えている。
【0059】
くし形状の支持板221は、橋梁主桁4の上面にある既設のスタッドジベル4aを切り欠き部に収納できる形状に形成されている。こうすると、既設のスタッドジベル4aが除去しきれていない状態であっても、これらとの干渉を抑制して橋梁主桁4の上面に回転式支承装置20を設置でき、ガタツキ等を生じることなく安定した状態で設置することが可能となる。
【0060】
なお、切り欠き部の数量や形状はなんら制約はなく、既設のスタッドジベル4aの配置状況に応じて適切な形状に形成すればよい。さらに、支持板221はくし形状に限定されるものではなく、既設のスタッドジベル4aが収納できれば、長孔等を設けた板材であってもよい。
【0061】
上記の沓座22はピン支承21の下沓213に対して、頭部の上面が平坦であり座面が円錐形状に形成された、皿加工ボルトF2で締結されることにより一体に形成される。また、沓座22を構成する支持板221の下面側であって皿加工ボルトF2の座面が当接する部分は、皿加工ボルトF2の頭部が収まるよう皿穴加工(ザグリ加工)がなされている。これにより、沓座22を橋梁主桁4の上面に対して、皿加工ボルトF2の頭部が干渉することなく、安定して載置させることができる。また、上沓211と床版主桁11とを締結用ボルトF1で締結することにより、
図8で示すように、床版本体10の下面における必要箇所に、回転式支承装置20を予め設置することができる。
【0062】
したがって、高低差を設けて並列配置された複数の橋梁主桁4に設置されることで勾配が設けられていた既設床版1を撤去し、露出した橋梁主桁4の上面に回転式支承装置20を予め設置した状態の仮設覆工床版100を載置する。すると、ピン支承21が回転して仮設覆工床版100は、撤去した既設床版1と同様の勾配が設けられた状態で橋梁主桁4の上面に設置されるから、勾配を調整する手間が省略でき設置作業の効率化を図ることが可能となる。
【0063】
また、仮設覆工床版100の路面高は、
図9で示すように、沓座22を構成する高さ調整板222の数量を適宜変更することで調整できる。これにより、
図13で示すように、橋軸方向に既設床版1や新設床版200が隣接する状態において、これらの舗装面に仮設覆工床版100における先行仮舗装部14の上面を容易に合致させることが可能となる。
【0064】
そして、橋梁主桁4に載置された回転式支承装置20は、
図7(b)で示すように支持板221と橋梁主桁4の上フランジとを挟締金具23で挟締することにより、着脱自在に固定することができる。これにより、仮設覆工床版100の設置作業だけでなく、撤去作業も容易に実施することが可能となる。
【0065】
≪軸力導入部材≫
軸力導入部材30は、
図11(a)(b)で示すように、床版本体10における橋軸方向の側端部であって、橋梁主桁4の直上に設けられている。その構造は、ユニブロック等の伸縮装置31と軸力調整板32とを備えている。軸力調整板32は、鋼板や鋼材よりなるブロックにより構成され、伸縮装置31の伸縮方向に複数を重ね合うようにして設けられる。また、床版本体10の下面側には、
図8で示すように、軸力伝達プレート17が、床版主桁11どうしを連結するようにして、軸力導入部材30の取付け位置を挟む両側にそれぞれ設置されている。
【0066】
軸力導入部材30が、隣り合う仮設覆工床版100の間に位置する場合には、
図11(b)で示すように、各々が備える床版主桁11のウェブ113に押圧力を作用させることができる。なお、軸力導入部材30は、隣り合う仮設覆工床版100に押圧力を作用させることの可能な構成を有していればいずれでもよく、伸縮装置31のみでもよい。
【0067】
一方、軸力導入部材30が、新設床版200と仮設覆工床版100の間に位置する場合には、
図12(a)(b)で示すように、軸力調整板32を利用して接合鉄筋202を保護する。具体的には、プレキャストコンクリート造の新設床版200は一般に、新設床版本体201の側面から橋軸方向及び橋軸直角方向に、接合鉄筋202が突出した形状を有している。このため、軸力調整板32に接合鉄筋貫通部321を設け、これに接合鉄筋202を挿通させる。
【0068】
これにより、接合鉄筋202と軸力導入部材30との干渉を回避するとともに、軸力導入作業による接合鉄筋202の変形を抑制する。また、伸縮装置31を伸長させることにより生じる押圧力を、軸力調整板32を介して新設床版本体201の側面に作用させて、効率よく軸力を導入することができる。なお、接合鉄筋貫通部321の形状はいずれを採用してもよく、
図12(b)で示すように、軸力調整板32に切り欠きを設けることにより形成してもよいし、接合鉄筋202の貫通可能な貫通孔を設けてもよい。
【0069】
このような構成を有する軸力導入部材30は、橋梁主桁4に床版本体10を設置したのちに、取り付ける構成となっている。このため、床版主桁11の上フランジ112に切り欠き部114を設け、作業空間を確保している。
【0070】
切り欠き部114は、
図11(a)及び
図12(a)で示すように、床版主桁11の上フランジ112であって橋梁主桁4の軸線上から偏芯した位置に設けている。ただし、仮設覆工床版100とこれに隣接する他の床版との間に、軸力導入部材30の取付け作業が可能な程度のすき間がある場合には、必ずしも切り欠き部114を設けなくてもよい。また、切り欠き部114を設置する場合であっても、その設置位置は、床版主桁11の上フランジ112に限定されるものではない。
【0071】
例えば、切り欠き部114を床版主桁11の下フランジ115に設けてもよい。こうすると、軸力導入部材30の設置作業を床版本体10の下方側から実施できる。これにより、床版本体10上で他の作業を実施したい場合に、これらの作業と軸力導入部材30の設置作業とを並行して進捗させることができ、作業効率を向上させることが可能となる。
【0072】
≪隙間塞ぎ部材≫
隙間塞ぎ部材40は、
図14で示すように少なくとも、床版主桁11における切り欠き部114が設けられた部分と、仮設覆工床版100の隅部とを避けた位置に設置される。その構造は、
図15で示すように、塞ぎ板本体41と、床版支持部材42と、載置部材43とにより構成されている。
【0073】
以下に、仮設覆工床版100と橋軸方向に隣り合う新設床版200との隙間を塞ぐ隙間塞ぎ部材40を事例に挙げ、その詳細を説明すると次のとおりである。
【0074】
塞ぎ板本体41は、
図15で示すように、鋼板等の板材よりなり、床版主桁11の上フランジ112に設けた係止ボルト117に係止された状態で、上フランジ112からこれと平行な方向に張り出している。係止ボルト117は、塞ぎ板本体41に設けた橋軸方向に延在する切り欠き状の被係止部411を貫通している。したがって、係止ボルト117に設けたナットによる締結を緩めると、塞ぎ板本体41はその張り出し量を調整することが可能となっている。この、塞ぎ板本体41の張り出した端部には、新設床版200の新設床版本体201に当接させる載置部材43が設けられている。
【0075】
載置部材43は、塞ぎ板本体41を貫通して設けられた調整ボルト431と、調整ボルト431の下端部に設けられた当接板432とにより構成されている。当接板432は、塞ぎ板本体41と平行な姿勢で配置され、調整ボルト431を介してその高さ位置を調整することで、新設床版本体201の上面に当接させる。これにより塞ぎ板本体41は、張り出し側端部が載置部材43を介して新設床版本体201に支持される態様となる。
【0076】
床版支持部材42は、塞ぎ板本体41を貫通して設けられた締め付けボルト421と、締め付けボルト421の下端部に設けられた床版当接金具422とにより構成されている。締め付けボルト421は、
図13で示すように、塞ぎ板本体41に設けた橋軸直角方向に延在する長孔に形成されたボルト孔412を貫通している。
【0077】
また、
図15で示すように、床版当接金具422は、塞ぎ板本体41の張り出し端部よりさらに新設床版200に向けて張り出すように配置されており、締め付けボルト421を介してその高さ位置を調整することで、新設床版本体201の下面に当接させることができる。
【0078】
これにより、交通開放時に仮設覆工床版100を介して上下方向の振動が塞ぎ板本体41に生じた場合にも、上記の床版支持部材42と載置部材43により拘束されて、塞ぎ板本体41がガタつく挙動が抑制される。したがって、隙間塞ぎ部材40を用いて安定した状態で確実に、かつ着脱が容易な態様で、架設覆工床版とこれに隣接する他の床版との隙間を塞ぐことができる。
【0079】
さらに、
図2(b)(c)で示すように、橋梁主桁4上に設置したのちの床版本体10に対して、間詰め処理を省略して、塞ぎ板本体41の上面に仮舗装5を設けることができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
【0080】
上記の、橋軸方向に隣り合う新設床版200との隙間を塞ぐ隙間塞ぎ部材40では、係止ボルト117を貫通させる被係止部411を、
図13で示すように、橋軸方向に延在する切り欠き状に形成した。これは、仮設覆工床版100の配置位置を橋軸方向に微調整する場合に対応させるためである。したがって、隙間塞ぎ部材40で橋軸直角方向に隣り合う床版との隙間を塞ぐ場合は、被係止部411は円孔でよい。
【0081】
このような構成の隙間塞ぎ部材40は、
図14で示すように、予め床版本体10に設置しておく。こうすると、仮設覆工床版100を橋梁主桁4上に吊り下げて設置すると同時に、隣接する他の床版との隙間を塞ぐことが可能となり、橋梁主桁4上で実施する作業を削減することが可能となる。
【0082】
≪後行隙間塞ぎ部材≫
後行隙間塞ぎ部材50は、
図13で示すように、鋼板等の板材よりなる連結板51と、隣り合う隙間塞ぎ部材40の塞ぎ板本体41とを連結する連結金具52とを備えている。これらは、
図13及び
図14で示すように、床版本体10の隅部と、床版主桁11における切り欠き部114が設けられた部分とに設置される。
【0083】
≪≪仮設覆工床版の取付方法≫≫
上記の構成を有する仮設覆工床版100を橋梁主桁4に取り付ける手順を、
図16に示すフローに沿って説明する。なお、ここでは
図13で示すように、先行して設置した新設床版200が存在し、この新設床版200と既設床版1との間に、2体の仮設覆工床版100を設置する場合を事例に挙げて説明する。
【0084】
≪先行仮舗装部、防護柵及び隙間塞ぎ部材の取付け≫
図14で示すように、床版本体10に、先行仮舗装部14を設けるとともに、鋼製地覆60及び防護柵64、隙間塞ぎ部材40を取り付ける。また、床版本体10を構成する床版主桁11に、吊り治具301を取り付け、床版吊り具300にて吊り下げ可能となるよう連結する。
【0085】
なお、吊り治具301は、いずれの手段で床版本体10に取り付けてもよいが、例えば、床版主桁11の上フランジ112にタップ加工を施し、着脱自在に吊り治具301を設けると良い。
【0086】
≪回転式支承装置の取付け≫
床版本体10の下面に、回転式支承装置20を設置する。設置方法はいずれでもよいが、例えば、
図10(a)(b)で示すような組立架台を用いると、取り付け作業を容易に実施することができる。なお、床版本体10に先行仮舗装部14、鋼製地覆60、防護柵64及び隙間塞ぎ部材40を取り付ける作業と、回転式支承装置20を取り付ける作業は、いずれの順序で実施してもよい。
【0087】
≪組立て用架台≫
組立て用架台400は、
図10(a)で示すように、作業現場や組立て工場等に設置される架台ベース401と、床版支持台402と、方杖403とを備えている。床版支持台402が、架台ベース401上で回動ピン4021を支点にして鉛直方向に回転することにより、起立もしくは倒伏する。回動ピン4021は、略長方形をなす床版支持台402の短手方向の一方の端部に配置され、他方の端部にはワイヤー等の牽引材500を係止可能な係止治具4022が設置されている。
【0088】
また、架台ベース401には、床版支持台402が任意の角度まで起立したところで当接し、回動を停止させるストッパー4012が設けられている。これにより、係止治具4022に係止した牽引材500をけん引すると、架台ベース401上で倒伏姿勢の床版支持台402を、
図10で示すように、ストッパー4012に当接するまで範囲内の角度で、容易に起立するさせることができる。
【0089】
方杖403は、架台ベース401に対して起立した床版支持台402の姿勢を保持するものであり、一方の端部が床版支持台402に回動自在に連結され、他方の端部には、架台ベース401に締結可能な締結ピン404が設けられている。締結ピン404は、架台ベース401に設けられた円孔よりなる固定孔4011に締結されている。これにより、締結ピン404の不慮のゆるみによる事故の可能性を抑止しつつ、床版支持台402を所定の傾斜角度で起立させることができる。
【0090】
固定孔4011は、1か所でもよいが
図10(a)で示すように、回動ピン4021に対して直交する方向に間隔を設けて複数か所に形成してもよい。こうすると、複数の固定孔4011のうち、いずれか1つを選択して締結ピン404を締結することにより、床版支持台402の傾斜角度を調整できる。また、
図10(a)では、固定孔4011を3つ設けた場合を事例に挙げているが、その数量は何ら限定されるものではない。なお、固定孔4011は、その形状を回動ピン4021に対して直交する方向に延在する長孔に形成してもよい。
【0091】
上記の組立て用架台400は、床版支持台402に床版本体10を設置した状態で起立姿勢を保持できるウェイトバランスで、架台ベース401と床版支持台402が製作されている。また、架台ベース401に吊り金具4013を設けておくと、組立て用架台400だけでなく、床版本体10に回転式支承装置20を取り付けたのちの仮設覆工床版100を併せて吊持することも可能となる。
【0092】
≪回転式支承装置20の床版本体10への取付け方法≫
まず、倒伏姿勢にある床版支持台402の上面に、
図4で示すように、床版吊り具300を介して床版本体10を吊り下ろし、
図10(b)で示すように、挟締金具405で両者を挟締する。
【0093】
次に、牽引材500により床版支持台402をけん引して、
図10(a)で示すように、床版支持台402とともに床版本体10を所望の角度まで起立させる。こののち、締結ピン404を締結して架台ベース401に方杖403を固定し、床版支持台402を所望の角度の起立姿勢で保持する。
【0094】
こののち、
図8で示すように、床版本体10の下面における所定位置に、回転式支承装置20を取り付ける。回転式支承装置20は、仮設覆工床版100を橋梁主桁4に設置した際に求められる路面高を考慮し、予め高さ調整板222の数量を調整しておくとよい。これにより、床版本体10を裏返す等の手間を要することなく、下面に回転式支承装置20を設置することができる。
【0095】
≪橋梁主桁の上面に吊り下ろし≫
回転式支承装置20の取付作業を、仮設覆工床版100の設置予定位置近傍で実施した場合には、床版吊り具300を利用して回転式支承装置20が取り付けられた仮設覆工床版100を吊持し、組立て用架台400から橋梁主桁4の上面に吊り下ろす。
【0096】
一方、組立て用架台400を用いた回転式支承装置20の取付作業を、床版取り換え工事の現場とは異なる場所で実施した場合には、仮設覆工床版100を組立て用架台400とともに現場まで搬送するとよい。こののち、床版吊り具300を利用して仮設覆工床版100を吊持し、組立て用架台400から橋梁主桁4の上面に吊り下ろす。
【0097】
仮設覆工床版100を橋梁主桁4の上面に載置すると、
図7(b)で示すように、回転式支承装置20を介して仮設覆工床版100が所望の路面高および勾配をもった姿勢となる。この状態で、回転式支承装置20の沓座22を構成する支持板221と橋梁主桁4の上フランジとを挟締金具23で挟締することにより、仮設覆工床版100を着脱自在に固定する。
【0098】
≪荷重伝達部材の設置及び路面高の調整≫
回転式支承装置20の固定作業と同時に、もしくはこれと前後して、
図7(a)で示すように、仮設覆工床版100における床版本体10の外側に位置する床版主桁11と橋梁主桁4との間に、荷重伝達部材70を介装する。
【0099】
≪荷重伝達部材≫
回転式支承装置20が取り付けられた仮設覆工床版100は、橋梁主桁4に載置するのみで、所望の高さ及び勾配をもって橋梁主桁4上に配置される。このため、
図3及び
図7(a)で示すように、床版本体10の外側に位置する床版主桁11と橋梁主桁4との間には、仮設覆工床版100の荷重を回転式支承装置20と分担して支持することのできる荷重伝達部材70を設置すれば足りる。
【0100】
荷重伝達部材70は、仮設覆工床版100の鉛直荷重を橋梁主桁4へ伝達できる構造を有するものであればいずれでもよい。本実施の形態では、例えばユニブロック等の伸縮装置71と、伸縮装置71を支持する支持板72とにより構成している。
図7(a)で示すように、支持板72を橋梁主桁4の上フランジに挟締金具23で挟締したのち、支持板72上で伸縮装置71を伸長させる。
【0101】
床版主桁11の下面に当接するまで伸縮装置71を伸長させ、仮設覆工床版100の鉛直荷重を回転式支承装置20と分担支持する。なお、支持板72は、必ずしも設けなくてもよいが、橋梁主桁4の上面に既存のスタッドジベルが存在する場合には、回転式支承装置20で採用している支持板221と同様のものを採用すると、効率よく仮設覆工床版100の鉛直荷重を橋梁主桁4へ伝達できる。
【0102】
≪路面高の調整≫
仮設覆工床版100とこれに隣接する他の床版(既設床版1や先行して設置した新設床版200)との間で、路面高が合致しているかを確認し、微調整が必要な場合には、例えば、回転式支承装置20に備えた高さ調整板222の数量を変更するなど、適宜調整を行う。
【0103】
≪軸力導入部材の設置及び軸力導入≫
上記の作業を繰り返し、2体の仮設覆工床版100を橋梁主桁4に対して着脱自在に固定したのち、
図11で示すように、隣り合う仮設覆工床版100の間に軸力導入部材30を取り付ける。同様に、
図12で示すように、仮設覆工床版100と橋軸方向に隣り合う他の床版(既設床版1及び新設床版200)との間にも、軸力導入部材30を取り付ける。
【0104】
軸力導入部材30を設置したところで、伸縮装置31を伸長して軸力を導入し、2体の仮設覆工床版100と橋軸方向に隣り合う他の床版との連続化を図る。なお、軸力導入部材30の設置作業用に設けた切り欠き部114が、床版主桁11の上フランジ112に設けられている場合には、仮設覆工床版100の上方から、下フランジ115に設けられている場合には、仮設覆工床版100の下方から、軸力導入に係る作業を実施できる。
【0105】
≪隙間塞ぎ部材の固定及び後行隙間塞ぎ部材の設置≫
隙間塞ぎ部材40の塞ぎ板本体41で、仮設覆工床版100と橋軸方向に隣り合う他の床版との隙間が塞がっていることを確認したのち、床版支持部材42及び載置部材43を仮設覆工床版100に隣り合う他の床版に当接させて、塞ぎ板本体41を拘束する。
【0106】
塞ぎ板本体41で隙間が十分塞がれていない場合には、
図15で示すように、塞ぎ板本体41に係止された係止ボルト117のナットによる締結を緩め、塞ぎ板本体41の張り出し量を適宜調整すればよい。こののち、隙間塞ぎ部材40が設けられていない、仮設覆工床版100の隅部と床版主桁11の切り欠き部114がある部分に、後行隙間塞ぎ部材50を構成する連結板51を配置する。そして、この連結板51と隣接する隙間塞ぎ部材40の塞ぎ板本体41と連結金具52を介して連結する。
【0107】
≪仮舗装の敷設≫
図13で示すように、仮設覆工床版100と隣り合う他の床版(既設床版1及び新設床版200)との間の隙間が、隙間塞ぎ部材40との後行隙間塞ぎ部材50とにより塞がれたところで、
図2(c)で示すように、これらの上面に仮舗装5を設ける。また、隣り合う仮設覆工床版100の間も、床版主桁11の切り欠き部114を鋼板等により塞いだのち、同様に仮舗装5を設ける。こうして、仮設覆工床版100の上面は、先行仮舗装部14とこれを囲繞する仮舗装5により、全面が舗装された状態となる。
【0108】
≪防護柵の位置調整≫
上記の手順で仮設覆工床版100を橋梁主桁4に対して取り付けたのち、仮舗装5を設ける作業の間に、もしくはこれらと並行して適宜、防護柵64と既設床版1の高欄とが連続し、かつ両者の間に開口が生じないよう、仮設覆工床版100における防護柵64の設置位置を調整し、通りを合わせる。
【0109】
鋼製地覆60の調整は、
図4(a)(b)及び
図6で示すように、固定部材62の床版本体10に対する位置調整により実施できる。防護柵64の支柱641は、地覆本体61と支柱641の間、もしくは固定部材62と床版本体10との間に調整金具63を介装することで、その姿勢を鉛直に修正できる。さらに、ビーム643は、支柱6に対するブラケット642の取り付け角度により、その向き姿勢を調整できる。
【0110】
上記の仮設覆工床版100によれば、少なくとも床版本体10に、先行仮舗装部14、防護柵64、回転式支承装置20が及び隙間塞ぎ部材40を予め設置した状態の仮設覆工床版100を、橋梁主桁4に設置できる。これにより、仮設覆工床版100を橋梁主桁4の上面に吊り下ろしたのちに実施する、勾配や路面高を調整する作業、隣り合う床版との隙間の間詰め作業を省略できるとともに、仮舗装5の打設エリアの縮小及び防護柵64の通り合わせの簡略化に伴に伴う作業時間短縮化を図ることができる。
【0111】
これにより、橋梁主桁4上で実施する作業を大幅に削減でき、作業時間が夜間の工事交通規制時間帯に限定されるような場合にも、効率よく床版取替え工事を進捗させつつ、昼間の交通開放時間帯を確保することが可能となる。なお、鋼製地覆60、防護柵64及び隙間塞ぎ部材40は、必ずしもすべてを事前に床版本体10に取り付けなくてもよく、いずれかを選択してもよいし、設置しなくてもよい。
【0112】
本発明の仮設覆工床版、仮設覆工床版の取付け構造、及び仮設覆工床版の取付け方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0113】
本実施の形態では、
図1及び
図2で示すような、橋梁B1の横断面を走行車線側と追い越し車線側の半分に分割したうちの、走行車線側の半断面を一時的に賄う場合を事例に挙げた。このため、仮設覆工床版100に防護柵64を設けているが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0114】
半断面床版取替え工法を採用して、例えば、上り3車線用の橋梁の床版取り換え工事を実施する場合には、各車線ごとに既設床版を分割(橋軸直角方向に3分割)して工事を行う場合もある。このような場合には、防護柵64の取付場所を確保していない床版本体10を準備し、上面に先行仮舗装部14のみが設けられた仮設覆工床版100も採用すると良い。
【0115】
また、本実施の形態では、仮設覆工床版100を平面視長方形に形成する場合を事例に挙げたが、その形状はこれに限定されるものではなく、既設床版1の撤去跡に形成された開口に応じて、適宜最適な形状に形成すると良い。
【0116】
さらに、仮設覆工床版100の橋軸方向の長さを既設床版片3と同程度に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、
図1で示すように、既設床版片3の橋軸方向の長さL1より小さい、例えば1/2および1/4のものを準備してもよい。
【0117】
こうすると、例えば、既設床版片3の切断予定位置と、橋梁主桁4の上フランジ上面に設置された添接板とが重なるなど、不慮の事態により、既設床版片3の橋軸方向長さL1を変更する場合がある。このような、既設床版片3の橋軸方向の長さL1を施工途中で変更する必要が生じた場合であっても、橋軸方向長さの異なる仮設覆工床版100を組み合わせることにより、適宜対応することが可能となる。
【符号の説明】
【0118】
1 既設床版
2 切断線
3 既設床版片
4 橋梁主桁
4a スタッドジベル
5 仮舗装
100 仮設覆工床版
10 床版本体
11 床版主桁
111 スチフナー
112 上フランジ
113 ウェブ
114 切り欠き部
115 下フランジ
116 ボルト孔
117 係止ボルト
12 差し込み桁
13 敷板
14 先行仮舗装部
15 角欠け防止部材
16 ガセットプレート
17 軸力伝達プレート
20 回転式支承装置
21 ピン支承
211 上沓
212 ピン
213 下沓
22 沓座
221 支持板
222 高さ調整板
23 挟締金具(固定金具)
30 軸力導入部材
31 伸縮装置
32 軸力調整板
321 接合鉄筋貫通部
40 隙間塞ぎ部材
41 塞ぎ板本体
411 被係止部
412 ボルト孔
42 床版支持部材
421 締め付けボルト
422 床版当接金具
43 載置部材
431 調整ボルト
432 当接板
50 後行隙間塞ぎ部材
51 連結板
52 連結金具
60 鋼製地覆
61 地覆本体
62 固定部材
621 ボルト孔
63 調整金具
64 防護柵
641 支柱
6411 ベースプレート
642 ブラケット
643 ビーム
644 円弧孔
70 荷重伝達部材
71 伸縮装置
72 支持板
200 新設床版
201 新設床版本体
202 接合鉄筋
300 床版吊り具
301 吊り治具
400 組立て用架台
401 架台ベース
4011 固定孔
4012 ストッパー
4013 吊り金具
402 床版支持台
4021 回動ピン
4022 係止治具
403 方杖
404 締結ピン
405 挟締金具
500 牽引材
B 道路橋
B1 橋梁(上り2車線)
B2 橋梁(下り2車線)
D 作業区間
F1 締結用ボルト
F2 皿加工ボルト