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特許7570955モータ制御装置、モータ制御方法およびモータ制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ制御方法およびモータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20241015BHJP
【FI】
H02P25/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021047707
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146640
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 典之
(72)【発明者】
【氏名】仙波 大助
(72)【発明者】
【氏名】大兼 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】笛木 正弘
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-236135(JP,A)
【文献】特開2008-193789(JP,A)
【文献】国際公開第2004/034562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P4/00
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記コイルに相電流を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を介して、前記相電流を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの回生動作において、前記コイルに前記相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するモード設定部と、
前記モード設定部により設定された前記電流供給モードでの駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備え
前記モード設定部は、電流偏差に応じて、前記第1モードまたは前記第2モードをリアルタイムに選択し、電流供給モードとして設定し、
前記制御部は、
前記電流偏差に応じて、前記コイルへ印加する電圧に対応する基準デューティー値を算出する基準デューティー算出部を備え、
前記モード設定部は、前記基準デューティー算出部により算出された前記基準デューティー値が閾値よりも小さい場合には、前記電流供給モードとして前記第1モードを選択し、前記基準デューティー値が前記閾値よりも大きい場合には、前記電流供給モードとして前記第2モードを選択する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記基準デューティー算出部は、前記相電流を相電流指令値に追従させるフィードバック制御を実行し、前記基準デューティー値は、フィードバック制御により設定される、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記基準デューティー値をD0、前記閾値をK、前記第1モードでの前記駆動信号のデューティー値をD1、前記第2モードでの前記駆動信号のデューティー値をD2としたとき、
前記駆動信号生成部は、
D1=D0×(1/K)
D2=(D0-K)×(1/1-K)
に設定する、請求項に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記モータの回転数、前記相電流指令値、または前記相電流に応じて、前記閾値を設定する閾値設定部を備える、請求項2または請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
モータを制御するモータ制御方法であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御方法は、
駆動回路を介して前記コイルに相電流を供給する供給ステップと、
前記供給ステップにおける前記相電流を制御する制御ステップと、
を備え、
前記制御ステップでは、
前記モータの回生動作において、電流供給モードとして、還流区間と回生区間とを繰り返す第1モード、および供給区間と還流区間とを繰り返す第2モードのいずれかを、順次選択し、
電流偏差に応じて、前記第1モードまたは前記第2モードをリアルタイムに選択し、電流供給モードとして設定し、
前記電流偏差に応じて、前記コイルへ印加する電圧に対応する基準デューティー値を算出し、
算出された前記基準デューティー値が閾値よりも小さい場合には、前記電流供給モードとして前記第1モードを選択し、前記基準デューティー値が前記閾値よりも大きい場合には、前記電流供給モードとして前記第2モードを選択する、モータ制御方法。
【請求項6】
モータと、前記モータを制御するモータ制御装置とを備えるモータ制御システムであって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記コイルに相電流を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を介して、前記相電流を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの回生動作において、前記コイルに前記相電流を供給する電流供給モードとして、還流区間と回生区間とを繰り返す第1モード、および供給区間と還流区間とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するモード設定部と、
前記モード設定部により設定された前記電流供給モードでの駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備え、
前記モード設定部は、電流偏差に応じて、前記第1モードまたは前記第2モードをリアルタイムに選択し、電流供給モードとして設定し、
前記制御部は、
前記電流偏差に応じて、前記コイルへ印加する電圧に対応する基準デューティー値を算出する基準デューティー算出部を備え、
前記モード設定部は、前記基準デューティー算出部により算出された前記基準デューティー値が閾値よりも小さい場合には、前記電流供給モードとして前記第1モードを選択し、前記基準デューティー値が前記閾値よりも大きい場合には、前記電流供給モードとして前記第2モードを選択する、モータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御するモータ制御装置およびモータの制御方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、供給モード、回生モードおよび還流モードを用いてSRモータ(スイッチト・リラクタンス・モータ)を制御するSRモータの制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-78490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車、ハイブリッド自動車にSRモータを適用する場合、極めて低い回転数まで減速トルクが要求される。例えば、下り坂を走行する場合、極低回転の状態でも高い減速トルクが要求される。低回転であっても、ある程度の回転数が確保される場合には、パルス幅変調により還流状態と回生状態の比率を制御することで電流(相電流)を制御することができる。しかし、さらに回転数が低い極低回転の場合には、還流状態において電流が上昇できず、電流の制御が困難となる。
【0005】
本発明は、極低回転の状態でも安定した動作を得ることができるモータ制御装置およびモータの制御方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、
モータを制御するモータ制御装置であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記コイルに相電流を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を介して、前記相電流を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの回生動作において、前記コイルに前記相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するモード設定部と、
前記モード設定部により設定された前記電流供給モードでの駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備える、モータ制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極低回転の状態でも安定した動作を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】3相のスイッチト・リラクタンス・モータおよびスイッチト・リラクタンス・モータを制御するモータ制御装置の構成を示す図である。
図2】ロータの回転角θと、力行領域および回生領域との関係を示す図である。
図3】供給区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図4】還流区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図5】回生区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図6】還流区間におけるu相の駆動回路の状態を示す図である。
図7】制御部のメイン処理を示すフローチャートである。
図7A】基準デューティー算出処理を示すフローチャートである。
図7B】モード選択処理を示すフローチャートである。
図7C】駆動信号生成処理を示すフローチャートである。
図8】各相のコイルに与えられる相電圧の波形と、各相のコイルにおける相電流の波形とを示す図である。
図9】閾値設定部の機能を示す図である。
図9A】閾値設定部の機能を示す図である。
図9B】閾値設定部の機能を示す図である。
図9C】閾値設定部の機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0010】
図1は、3相のスイッチト・リラクタンス・モータおよびスイッチト・リラクタンス・モータを制御するモータ制御装置の構成を示す図である。
【0011】
図1に示すように、モータ制御装置Mは、制御部1と、モータ10と、制御部1により制御されてモータ10を駆動する駆動回路20と、を備える。
【0012】
モータ10は、突極11A(図1)を有するステータコア11と、突極12A(図1)を有するロータ12と、ステータコア11の突極11Aに巻き回された各相(u相、v相およびw相)のコイル13u、13v、13wと、を備える。図1に示すように、コイル13uは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ巻き回され、2つのコイル13uは互いに直列に接続される。同様に、コイル13vは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ巻き回され、2つのコイル13vは互いに直列に接続される。コイル13wは互いに向かい合う2つの突極11Aにそれぞれ巻き回され、2つのコイル13wは互いに直列に接続される。なお、図1は6極モータを例示しているが、モータの極数は任意である。
【0013】
互いに直列に接続された各コイル13u、13v、13wに電流を流すと、各コイル13u、13v、13wに対応する突極11Aには、ロータ12の中心軸に対して回転対象の磁場が形成される。
【0014】
ロータ12の回転角は、レゾルバ15によって検出される。
【0015】
駆動回路20は、各相(u相、v相およびw相)の駆動回路20u、20v、20wを備える。駆動回路20uはコイル13uを、駆動回路20vはコイル13vを、駆動回路20wはコイル13wを、それぞれ独立駆動する。
【0016】
駆動回路20uは、直列接続されたコイル13uの一端に接続される高電位側スイッチング素子21uおよび低電位側スイッチング素子22uと、直列接続されたコイル13uの他端に接続される高電位側スイッチング素子23uおよび低電位側スイッチング素子24uと、を備える。
【0017】
本実施例では、各スイッチング素子21u~24uとしてn型FET(Field effect transistor)を用いた例を示しているが、任意の素子を用いることができる。駆動回路20v、20wを構成する後述のスイッチング素子も同様である。
【0018】
駆動回路20vは、直列接続されたコイル13vの一端に接続される高電位側スイッチング素子21vおよび低電位側スイッチング素子22vと、直列接続されたコイル13vの他端に接続される高電位側スイッチング素子23vおよび低電位側スイッチング素子24vと、を備える。
【0019】
駆動回路20wは、直列接続されたコイル13wの一端に接続される高電位側スイッチング素子21wおよび低電位側スイッチング素子22wと、直列接続されたコイル13wの他端に接続される高電位側スイッチング素子23wおよび低電位側スイッチング素子24wと、を備える。
【0020】
図1に示すように、高電位側スイッチング素子21u、21v、21wおよび高電位側スイッチング素子23u、23v、23wのドレインは、電源25の正極に、低電位側スイッチング素子22u、22v、22wおよび低電位側スイッチング素子24u、24v、24wのソースは、電源25の負極に、それぞれ接続される。
【0021】
また、電源25にはコンデンサ26が並列に接続されている。
【0022】
各相のコイル13u、コイル13v、コイル13wに流れる電流の値は、電流検出センサ28により検出される。
【0023】
本実施例のモータ制御装置Mは、上述した駆動回路20と、上述したレゾルバ15と、マイクロコンピュータ等を含む制御部1を含む。制御部1には、上位ECU(Electronic Control Unit)(図示せず)から各種の指令値が与えられる。なお、モータ制御装置は、上位ECUの機能の一部または全部を実現してもよい。
【0024】
図1に示すように、制御部1は、レゾルバ15から出力されるレゾルバ角(ロータ回転角)および指令値に基づいて、基準デューティー値D0を算出する基準デューティー算出部2と、基準デューティー算出部2により算出された基準デューティー値D0に基づいて、電流供給モードをリアルタイムに設定するモード設定部3と、基準デューティー算出部2により算出された基準デューティー値D0およびモード設定部3により設定された電流供給モードに従った駆動信号を生成する駆動信号生成部5と、制御部1での処理に必要な情報を格納する記憶部6と、後述する閾値をリアルタイムに設定する閾値設定部7と、を備える。
【0025】
ここで、指令値は、モータ10が生み出すべきトルク値やモータ10の目標回転速度をリアルタイムで規定する値である。基準デューティー算出部2は、モータ10のトルク値やモータ10の回転速度が指令値に追従するように、コイルへの印加電圧値に対応する基準デューティー値D0を介してフィードバック制御する。なお、指令値がトルク値である場合、トルク値はコイルに供給される相電流指令値と対応付けられ、例えば、テーブルとして記憶部6に格納される。指令値がトルク値の場合には、当該テーブルを参照して、電流検出センサ28により検出される電流検出値(図1)が相電流指令値に近づくように、すなわち電流偏差(電流検出値と相電流指令値との差分)が小さくなるように、基準デューティー値D0がリアルタイムに制御される。なお、本発明は、相電流を相電流指令値に近づけるような制御を行う場合に広く適用される。例えば、デューティー値を算出する処理を経由せずに、電流供給モードを選択、設定する制御を実行してもよい。
【0026】
基準デューティー算出部2から出力される基準デューティー値D0は、モード設定部3および駆動信号生成部5に与えられる。モード設定部3は、基準デューティー値D0と閾値とを比較し、その比較結果に応じて、電流供給モードを第1モードまたは第2モードに設定する。駆動信号生成部5は、基準デューティー算出部2から与えられた基準デューティー値D0とモード設定部3から与えられた電流供給モードに基づいて、駆動信号を生成する。駆動信号は、駆動回路20に出力され、スイッチング素子群の状態(オンまたはオフ)が制御される。
【0027】
図2は、ロータ12の回転角(電気角)θと、力行領域および回生領域との関係を示す図である。図2のグラフの縦軸に示すコイル13uのインダクタンスは、ロータ12の突極12Aとステータコア11との磁気的な結合の度合いに対応する。コイル13uのインダクタンスが最も高くなるθ=θ0の状態は、ロータ12の突極12Aとステータコア11の突極11Aとが正対する状態に相当する。
【0028】
図2に示すように、ロータ12の回転に従ってコイル13uのインダクタンスが増加する領域に力行領域が、ロータ12の回転に従ってコイル13uのインダクタンスが減少する領域に回生領域が、それぞれ位置付けられる。力行領域および回生領域はロータ12の回転角について、約120°ずつ確保され、基本的には力行領域においてコイル13uに通電することによりロータ12に正のトルクが与えられ、回生領域においてコイル13uに通電することによりロータ12に負のトルクが与えられる。
【0029】
コイル13uへの通電区間は、要求されるモータの特性等に応じて設定でき、例えば、力行動作に対して図2に示す通電区間100を、回生動作に対して通電区間200を、それぞれ設定することができる。この場合、通電区間100は、その開始角が、力行領域の開始角に先行する角度幅に相当する進角Δθ1と、通電区間100の長さに相当する通電角θ1とにより規定される。同様に、通電区間200は、その開始角が、回生領域の開始角に先行する角度幅に相当する進角Δθ2と、通電区間200の長さに相当する通電角θ2とにより規定される。
【0030】
コイル13uへ通電する通電区間、すなわち、進角Δθ1、通電角θ1、進角Δθ2および通電角θ2は、指令値やロータの回転速度(角速度)などに応じて変化する。進角Δθ1、通電角θ1、進角Δθ2および通電角θ2は、指令値やロータの回転速度(角速度)などに対応付けられて、記憶部6に記憶される。
【0031】
コイル13v、13wについても、コイル13uと同様に通電区間が規定される。
【0032】
図3図6は、u相の駆動回路20u(スイッチング素子21u~24u)の状態を示す図である。力行動作および回生動作における通電区間では、駆動回路20uは、図3図6に示すいずれかの状態をとる。なお、以下の説明では、u相について述べるが、v相、w相についても同様の動作が行われる。
【0033】
図3は、電源25またはコンデンサ26からコイル13uへ電流が供給される供給区間を示している。
【0034】
供給区間では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子24uがオンしており、他のスイッチング素子22u、23uがオフしている。供給区間では、コイル13uへ電流によりステータコア11の突極11Aが励磁される。供給区間では、コイル13uへ正電圧が印加される。
【0035】
図4は、コイル13uが電源25の正極から切り離され、コイル13uの電流が閉回路を還流する還流区間を示している。
【0036】
この還流区間では、スイッチング素子22uと、スイッチング素子24uがオンしており、他のスイッチング素子21u、23uがオフしている。還流区間では、コイル13uの両端が短絡される。
【0037】
図5は、コイル13uから電源25またはコンデンサ26へ電流が供給される回生区間を示している。
【0038】
回生区間では、スイッチング素子22uと、スイッチング素子23uがオンしており、他のスイッチング素子21u、24uがオフしている。回生区間では、コイル13uへ負電圧が印加される。
【0039】
図6は、コイル13uが電源25の負極から切り離され、コイル13uの電流が閉回路を還流する還流区間を示している。
【0040】
この還流区間では、スイッチング素子21uと、スイッチング素子23uがオンしており、他のスイッチング素子22u、24uがオフしている。図4の場合と同様、還流区間では、コイル13uの両端が短絡される。
【0041】
制御部1は、力行動作および回生動作のそれぞれにおいて、上記の供給区間、回生区間および還流区間のいずれかをリアルタイムに選択することで、モータ10の回転を制御している。
【0042】
以下、モータの回生動作であって、とくにモータ回転数の低い場合(低回転時)の動作について説明する。
【0043】
モータ10の回転数が低い回生動作時において、本実施例では、第1のモードおよび第2のモードのいずれかをリアルタイムに選択している。第1のモードは、相電圧が負電圧となる電流供給モードであり、還流区間(図4または図6の状態)と回生区間(図5の状態)とを繰り返す電流供給モードである。また、第2のモードは、相電圧が正電圧となる電流供給モードであり、供給区間(図3の状態)と還流区間(図4または図6の状態)とを繰り返す電流供給モードである。
【0044】
図7は、制御部1のメイン処理を示すフローチャートである。メイン処理は、一定周期(駆動信号を生成する制御周期)で繰り返される。
【0045】
図7のステップS100では、基準デューティー算出部2において基準デューティー算出処理が実行される。ステップS200では、モード設定部3において電流供給モードの選択処理が実行される。ステップS300では、駆動信号生成部5において駆動信号生成処理が実行され、メイン処理が終了する。
【0046】
図7Aは、基準デューティー算出処理を示すフローチャートである。基準デューティー算出処理は、基準デューティー算出部2により実行される。
【0047】
図7AのステップS102では、基準デューティー算出部2は、電流検出センサ28から各相のコイル13u、コイル13v、コイル13wに流れる相電流の値を取得する。ステップS104では、基準デューティー算出部2は、記憶部6にアクセスして上記の相電流指令値を取得する。
【0048】
ステップS106では、基準デューティー算出部2は、ステップS102で取得された相電流の値およびステップS104で取得された相電流指令値とに基づいて、基準デューティー値D0を算出し、リターンする。ここでは、基準デューティー算出部2は、フィードバック制御(PI制御、PID制御など)により、コイルへの印加電圧に対応する基準デューティー値D0を算出する。
【0049】
基準デューティー値D0は、0から1までの範囲で、コイルに印加される電圧の実効値が負電圧-V0から正電圧V0まで変化するパラメータである。電圧V0は、例えば、電源25(図1)の電圧に相当する。
【0050】
図7Bは、モード選択処理を示すフローチャートである。モード選択処理は、モード設定部3により実行される。
【0051】
図7BのステップS202では、モード設定部3は、基準デューティー算出部2において算出された基準デューティー値D0(ステップS106)を取得する。ステップS204では、モード設定部3は、閾値設定部7から閾値Kを取得する。閾値Kは電流供給モードを選択するためのパラメータ(デューティー値)である。閾値Kは、閾値設定部7において0から1の範囲で設定される。閾値Kの設定方法については後述する。
【0052】
ステップS206では、モード設定部3は、ステップS202で取得された基準デューティー値D0と、ステップS206で取得された閾値Kとを比較する。ここでは、モード設定部3は、基準デューティー値D0が閾値Kよりも大きいか否か判断し、判断が肯定されれば処理をステップS210へ進め、判断が否定されれば処理をステップS208へ進める。
【0053】
ステップS208では、モード設定部3は、電流供給モードを第1のモードに設定し、リターンする。ステップS210では、モード設定部3は、電流供給モードを第2のモードに設定し、リターンする。
【0054】
図7Cは、駆動信号生成処理を示すフローチャートである。駆動信号生成処理は、駆動信号生成部5により実行される。
【0055】
図7CのステップS302では、駆動信号生成部5は、モード設定部3により設定された電流供給モードが第1のモードか否か判断する。判断が肯定されれば、駆動信号生成部5は、ステップS304へ処理を移行させる。判断が否定されれば、すなわち、モード設定部3により設定された電流供給モードが第2のモードであれば、駆動信号生成部5は、ステップS306へ処理を移行させる。
【0056】
ステップS304では、駆動信号生成部5は、第1のモードのデューティー値D1を(1)式により算出する。
【0057】
D1=D0×(1/K)・・・(1)式
ここで、デューティー値D1は、第1のモードにおける還流区間の比率を示す。すなわち、第1のモードにおいて、還流区間の比率は、D1であり、回生区間の比率は、1-D1である。
【0058】
ステップS306では、駆動信号生成部5は、第2のモードのデューティー値D2を(2)式により算出する。
【0059】
D2=(D0-K)×(1/1-K)・・・(2)式
ここで、デューティー値D2は、第2のモードにおける供給区間の比率を示す。すなわち、第2のモードにおいて、供給区間の比率は、D2であり、還流区間の比率は、1-D2である。
【0060】
ステップS308では、駆動信号生成部5は、設定された電流供給モードのデューティー値D1またはデューティー値D2を設定し、駆動信号として出力する。これにより、設定された電流供給モード(第1のモードまたは第2のモード)と、設定されたデューティー値(デューティー値D1またはデューティー値D2)に対応する波形の電圧が、各相のコイル13u、コイル13v、コイル13wに与えられる。
【0061】
図8は、各相のコイル13u、コイル13v、コイル13wに与えられる相電圧の波形と、各相のコイル13u、コイル13v、コイル13wにおける相電流の波形とを示す図である。なお、図8において、供給区間、回生区間および還流区間に、それぞれ、「供給」、「回生」および「還流」と記載された区間が対応している。
【0062】
図8の状態Aは、第1のモードに設定されている場合を示している。第1のモードでは、通電区間200(図2)の最初にロータ12を励磁するための供給区間が設けられ、その後、回生区間と還流区間とが繰り返される。
【0063】
図8の状態Cは、第2のモードに設定されている場合を示している。第2のモードでは、通電区間200(図2)の最初にロータ12を励磁するための供給区間が設けられ、その後、還流区間と供給区間とが繰り返される。
【0064】
図8の状態Bは、通電区間200において、第1のモードと第2のモードとが混在する場合を示している。状態Bは、第1のモードから第2のモードへ、または第2のモードから第1のモードへの移行期間に発生する状態である。
【0065】
本実施例では、電流供給モードとして、還流区間と回生区間とを有する第1のモードと、供給区間と還流区間とを有する第2のモードとを備える。このため、相電圧を正電圧(供給の状態)から負電圧(回生の状態)の範囲まで、調整できるため、回生制動時に極低回転の領域まで安定して負のトルクを発生させることができる。仮に、第2のモードがなく、第1のモードのみの場合には、負電圧の範囲でしか相電圧を制御できず、正電圧が必要となる極低回転の領域では、負のトルクを得ることができない。
【0066】
また、本実施例では、2つのモードを用いることにより、相電圧を正電圧(供給の状態)から負電圧(回生の状態)まで、連続的に調整することができる。このため、相電流のオーバーシュートを防止できる。例えば、第1のモードでの動作の直後に、相電圧を急激に高くするような制御が不要となり、相電流のオーバーシュートを防止できる。
【0067】
また、仮に、第2のモードに代えて、供給区間と回生区間とを繰り返すモードを採用した場合でも、極低回転の領域で負のトルクを発生させることはできる。しかし、この場合には、相電圧が正電圧と負電圧との間で急激に変化することになる。例えば、電源25(図1)の電圧が400Vの場合には、-400Vと+400Vの差、すなわち800Vの幅で相電圧が切り替わることになる。このため、相電流のリップルが大きくなり、電流実効値が低くなるため、減速トルクが低下してしまう。また、相電流のオーバーシュートが発生し、駆動回路20などへの負担が大きくなる。
【0068】
また、図8の状態Bに示すように、本実施例では、2つのモードにそれぞれ還流区間が含まれるため、2つのモードを切り換える際に、相電圧が正電圧(供給の状態)から負電圧(回生の状態)との間で急激に変化する頻度が低くなる。このため、状態Aと状態Cの間で、状態Bを挟んで円滑に電流供給モードを切り換えることができる。電流供給モードの切り換え時においても、相電流のオーバーシュートなどを防止することができる。状態Bに示すように、本実施例では、1つの通電区間200(図2)内において、電流偏差に応じて、2つのモードをリアルタイムに切り換えることができる。
【0069】
一方、本実施例における第2のモードでは、相電圧が正電圧と0Vの範囲で切り替わる。例えば、電源25(図1)の電圧が400Vの場合には、相電圧の切り替わる幅が400Vに抑制される。このため、相電流の変動が抑制されて電流実効値が高くなり、安定した減速トルクを得ることができる。また、相電流のオーバーシュートも防止できる。
【0070】
図9図9Cは、閾値設定部の機能を示す図である。
【0071】
上記のように、閾値設定部7(図1)は、回転数(モータの回転数)などに応じて、閾値Kを設定する。すなわち、閾値Kはモータの回転数などに応じて変化する。
【0072】
図9は、閾値Kが0.5の場合を、図9Aは、閾値Kが0.7の場合を、図9Bは、閾値Kが0.3の場合を、図9Cは、閾値Kが1の場合を、それぞれ示している。図9図9Cにおける縦軸は、相電圧の電圧値(実効値)を示し、横軸は基準デューティー値D0を示している。
【0073】
図9図9Bに示すように、閾値Kに応じて、第1のモードおよび第2のモードの範囲が変化し、同じ基準デューティー値D0に対応する相電圧の電圧値(実効値)が変化する。これにより、基準デューティー値D0に応じて、順次選択される第1のモードと第2のモードの割合(時間的な割合)を変更することができる。
【0074】
例えば、閾値設定部7において、モータの回転数が低速になるに従って、閾値Kを小さくすることができる。これにより、電流供給モードが第2のモードに設定されやすくなるため、極低速時の減速トルクを安定して確保することが可能となる。モータの回転数と閾値Kとの関係は、テーブルとして記憶部6に記憶し、これを利用することができる。
【0075】
また、例えば、閾値設定部7において、モータの回転数が高速になるに従って、閾値Kを大きくし、モータの回転数が一定値を超える場合には、閾値Kを1に設定することができる。これにより、電流供給モードが第1のモードに設定されやすくなるため、第2のモード使用時に発生する損失が減って、全体として電力効率を向上させることができる。なお、第1のモードのみでの動作が可能であることが明らかな範囲では、図9Cに示すように、閾値Kを1に設定し、常時、電流供給モードを第1のモードに設定することができる。
【0076】
また、閾値設定部7において、モータの回転数以外のパラメータに基づいて、閾値Kを設定することができる。パラメータと閾値Kとの関係は、テーブルとして記憶部6に記憶し、これを利用することができる。
【0077】
例えば、閾値設定部7は、上記の相電流指令値または相電流(電流検出センサ28から得られる電流検出値)に応じて、閾値Kを設定することができる。この場合、相電流指令値が大きくなるにつれ、閾値Kを小さくすることができる。また、相電流指令値から相電流を減算した値が大きくなるにつれ、閾値Kを小さくすることができる。また、還流区間における相電流の増加幅の減少または相電流の減少幅の増大に応じて、閾値Kを小さくすることができる、
このように、本実施例では、閾値Kをモータの動作状態等に応じてきめ細かく設定することができるため、電流供給モードの割合を変更し、効率よくモータを動作させることができる。
【0078】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部または複数を組み合わせることも可能である。
【0079】
なお、以上の実施例に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0080】
[付記1]
モータ(10)を制御するモータ制御装置(M)であって、
前記モータは、
突極(11A)を有するステータコア(11)と、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイル(13u、13v、13w)と、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータ(12)とを備え、
前記モータ制御装置は、
前記コイルに相電流を供給する駆動回路(20)と、
前記駆動回路を介して、前記相電流を制御する制御部(1)と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの回生動作において、前記コイルに前記相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するモード設定部(3)と、
前記モード設定部により設定された前記電流供給モードでの駆動信号を生成する駆動信号生成部(5)と、
を備える、モータ制御装置。
【0081】
付記1の構成によれば、コイルに相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するので、モータの極低回転時においても減速トルクを確保することができる。
[付記2]
前記モータ設定部は、電流偏差に応じて、前記第1モードまたは前記第2モードをリアルタイムに選択し、電流供給モードとして設定する、付記1に記載のモータ制御装置。
付記2の構成によれば、電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、リアルタイムに選択し設定するので、モータの極低回転時においても減速トルクを確保することができる。
【0082】
[付記3]
前記制御部は、
前記電流偏差に応じて、前記コイルへ印加する電圧に対応する基準デューティー値を算出する基準デューティー算出部を備え、
前記モード設定部は、前記基準デューティー算出部により算出された前記基準デューティー値が閾値よりも小さい場合には、前記電流供給モードとして前記第1モードを選択し、前記基準デューティー値が前記閾値よりも大きい場合には、前記電流供給モードとして前記第2モードを選択する、付記2に記載のモータ制御装置。
【0083】
付記3の構成によれば、基準デューティー算出部により算出された基準デューティー値に応じて、相電圧を負電圧から正電圧まで制御することができる。
【0084】
[付記4]
前記基準デューティー算出部は、前記相電流を相電流指令値に追従させるフィードバック制御を実行し、前記基準デューティー値は、フィードバック制御により設定される、付記3に記載のモータ制御装置。
【0085】
付記4の構成によれば、相電流を相電流指令値に追従させるフィードバック制御を実行するので、フィードバック制御に従って、電流供給モードが設定される。
【0086】
[付記5]
前記基準デューティー値をD0、前記閾値をK、前記第1モードでの前記駆動信号のデューティー値をD1、前記第2モードでの前記駆動信号のデューティー値をD2としたとき、
前記駆動信号生成部は、
D1=D0×(1/K)
D2=(D0-K)×(1/1-K)
に設定する、付記4に記載のモータ制御装置。
【0087】
付記5の構成によれば、閾値に応じて第1モードでの駆動信号のデューティー値および第2モードでの駆動信号のデューティー値が算出される。
【0088】
[付記6]
前記制御部は、前記モータの回転数、前記相電流指令値、または前記相電流に応じて、前記閾値を設定する閾値設定部を備える、付記4または付記5に記載のモータ制御装置。
【0089】
付記6の構成によれば、閾値がモータの回転数、相電流指令値、または相電流に応じて設定されるので、第1モードおよび第2モードの割合をモータの動作状態等に応じて、細かく設定できる。
〔付記7〕
モータを制御するモータ制御方法であって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御方法は、
駆動回路を介して前記コイルに相電流を供給する供給ステップと、
前記供給ステップにおける前記相電流を制御する制御ステップと、
を備え、
前記制御ステップでは、
前記モータの回生動作において、電流供給モードとして、還流区間と回生区間とを繰り返す第1モード、および供給区間と還流区間とを繰り返す第2モードのいずれかを、順次選択するモータ制御方法。
付記7の構成によれば、コイルに相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するので、モータの極低回転時においても減速トルクを確保することができる。
〔付記8〕
モータと、前記モータを制御するモータ制御装置とを備えるモータ制御システムであって、
前記モータは、
突極を有するステータコアと、
前記ステータコアの前記突極に巻き回されたコイルと、
前記コイルにより発生する磁界により磁化されるロータとを備え、
前記モータ制御装置は、
前記コイルに相電流を供給する駆動回路と、
前記駆動回路を介して、前記相電流を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記モータの回生動作において、前記コイルに前記相電流を供給する電流供給モードとして、還流区間と回生区間とを繰り返す第1モード、および供給区間と還流区間とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するモード設定部と、
前記モード設定部により設定された前記電流供給モードでの駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備える、モータ制御システム。
付記8の構成によれば、コイルに相電流を供給する電流供給モードとして、還流状態と回生状態とを繰り返す第1モード、および供給状態と還流状態とを繰り返す第2モードのいずれかを、設定するので、モータの極低回転時においても減速トルクを確保することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 制御部
2 基準デューティー算出部
3 モード設定部
5 駆動信号生成部
6 記憶部
7 閾値設定部
10 モータ
11 ステータコア
12 ロータ
13u コイル
13v コイル
13w コイル
15 レゾルバ
20 駆動回路
M モータ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図9A
図9B
図9C