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特許7570966多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、該方法および該プログラム
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  • 特許-多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、該方法および該プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、該方法および該プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/22 20060101AFI20241015BHJP
   G05B 19/4069 20060101ALI20241015BHJP
   G05B 19/42 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
B25J9/22 A
G05B19/4069
G05B19/42 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021068897
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163830
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】澤川 史明
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-362191(JP,A)
【文献】特開平07-182017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレータであって、
前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力部と、
前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理を実行する形状処理部と、
前記形状処理部で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理を実行する長さ処理部と、
前記線状部材の実長と前記長さ処理部で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力部で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力部で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する形状決定部とを備え、
前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、
前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、
前記形状決定部は、前記形状処理を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する、
多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ。
【請求項2】
前記形状決定部は、前記長さ処理部で求めた前記線状部材の長さが前記線状部材の実長より長い場合に、前記線状部材における終点位置を変更する、
請求項1記載の多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ。
【請求項3】
所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法であって、
前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力工程と、
前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理工程と、
前記形状処理工程で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理工程と、
前記線状部材の実長と前記長さ処理工程で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力工程で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力工程で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する形状決定工程とを備え、
前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、
前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、
前記形状決定工程は、前記形状処理工程を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する、
多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法。
【請求項4】
所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレーションプログラムであって、
コンピュータに、
前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力工程と、
前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理工程と、
前記形状処理工程で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理工程と、
前記線状部材の実長と前記長さ処理工程で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力工程で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力工程で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する形状決定工程とを実行させ、
前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、
前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、
前記形状決定工程は、前記形状処理工程を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する、
多関節ロボットの線状部材形状シミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば垂直6軸ロボット等の多関節ロボットは、その開発の発展により、様々な産業分野で多用されている。この主の多関節ロボットは、動作目的に応じて予め教示された動作の動作データ(動作プログラム、教示プログラム)に従って動作する。教示方法には、稼働中の多関節ロボットを停止することなく、動作プログラムが作成できることから、いわゆるオフライン教示方法が用いられることが多い。このオフライン教示方法は、実空間の実ロボットをコンピュータの仮想空間の仮想ロボットモデルとして再現し、この仮想ロボットモデルに実ロボットの動作を模擬させることによって、実ロボットの動作を確認し、動作プログラムを作成する方法である。
【0003】
この多関節ロボットには、用途に応じたツールがアーム先端に取り付けられ、このツールに給電するためのケーブルや、前記ツールに原材料等を供給するためのチューブあるいは前記原材料の線材等の線状部材が付属することがある。このため、オフライン教示方法では、このような線状部材の状態も模擬する必要があり、このようなオフライン教示方法は、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示された線状材のシミュレーション方法は、ロボットに付属している線条材を支持している複数の固定点の座標と、該固定点における接線ベクトルと、隣接する固定点間の線条材の長さとを認識し、前記ロボットの可動部位の移動量に基づき、前記固定点と接線ベクトルとの座標位置の変換を行い、変換後の固定点と接線ベクトルの座標位置の値と、前記隣接する固定点間の線条材の長さとに基づいて、該隣接する固定点間の線条材の形状を表す曲線式の係数を算出し、ロボットの動作に追従することにより発生する、付属している線条材の変形を予測するものである。
【0005】
前記特許文献2に開示された、ロボットオフライン教示システムにおけるケーブル表示装置は、アームとそのアーム先端に装着されるハンドとを備えるロボットを画面に表示するとともに、このロボットを画面上で操作してそのロボットに所要の動作を教示するロボットオフライン教示システムにおいて、前記ロボットに装着されたケーブルの捩り状態もしくはそのケーブルの前記アーム周りへの巻き付き状態を検出するケーブル状態検出手段と、このケーブル状態検出手段により検出されたケーブル状態を前記画面に描画する描画手段とを備え、前記ケーブル状態検出手段は、前記アームおよび/またはハンドの軸心周りの合計回転角度と、前記ケーブルの基端側および先端側の各固定部における取付角度とに基づいて前記ケーブルの捩り状態もしくは巻き付き状態を検出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平07-182017号公報
【文献】特開2004-074368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に開示された線状材のシミュレーション方法では、線条材の形状は、2点の位置およびその接線ベクトルから、3次曲線で近似され、表示される。この2点の位置およびその接線ベクトルでは、ケーブルの巻き付き等の複雑な形状を近似曲線で表現することが難しい。
【0008】
一方、前記特許文献2に開示されたロボットオフライン教示システムにおけるケーブル表示装置では、その[0023]段落および図5(b)等に記載されているように、画面上へのケーブルの描画は、上部アームの周囲を取り囲むように円弧状に連続する点(球)の集合体によりなされている。このような点の集合では、ケーブルがどのような形状で例えばアームに巻き付いているのか判らないため、ケーブルの形状を勘案して教示動作(動作プログラム)を直感的に修正することが難しい。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、より複雑な形状であっても、線状部材の形状を近似曲線で求めることができる多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレータであって、前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力部と、前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理を実行する形状処理部と、前記形状処理部で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理を実行する長さ処理部と、前記線状部材の実長と前記長さ処理部で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力部で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力部で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する形状決定部とを備え、前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、前記形状決定部は、前記形状処理を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する。
【0011】
このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、線状部材における始点位置と終点位置との間に、前記線状部材が通る1または複数の通過点を設定できるので、例えば巻き付き等の、より複雑な形状の線状部材を表現できる。したがって、上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、より複雑な形状であっても、線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0013】
このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、前記繰り返しにおける1回の移動量および移動方向を調整パラメータとして持つので、例えば線状部材の癖を考慮した線状部材のたわみ等の形状の線状部材を表現できる。したがって、上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、例えば線状部材の癖によるたわみ等を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0014】
このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、ベクトルの大きさを調整することで、線状部材の剛性を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる
【0015】
これによれば、多関節ロボットのアームに巻き付いた線状部材の形状を近似曲線で求めることができる多関節ロボットの線状部材形状シミュレータが提供できる。
【0016】
他の一態様では、これら上述の多関節ロボットの線状部材形状シミュレータにおいて、前記形状決定部は、前記長さ処理部で求めた前記線状部材の長さが前記線状部材の実長より長い場合に、前記線状部材における終点位置を変更する。好ましくは、上述の多関節ロボットの線状部材形状シミュレータにおいて、前記形状決定部は、所定の変更方向に所定の範囲内で所定の変更量だけ前記線状部材における終点位置を変更する。
【0017】
このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、形状処理を実行する際に、前記線状部材における終点位置を変更するので、例えばツールバランサー等の、線状部材における終点位置を調節する装置(器具)を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0020】
本発明の他の一態様にかかる多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法は、所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法であって、前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力工程と、前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理工程と、前記形状処理工程で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理工程と、前記線状部材の実長と前記長さ処理工程で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力工程で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力工程で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する形状決定工程とを備え、前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、前記形状決定工程は、前記形状処理工程を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する。
【0021】
本発明の他の一態様にかかる多関節ロボットの線状部材形状シミュレーションプログラムは、所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める多関節ロボットの線状部材形状シミュレーションプログラムであって、コンピュータに、前記線状部材の始点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記始点位置での接線方向を表す始点ベクトル、前記線状部材の終点位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記終点位置での接線方向を表す終点ベクトル、前記始点位置と前記終点位置との間に、前記線状部材が通る1又は複数の通過点の位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記通過点での接線方向を表す通過点ベクトル、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、前記線状部材の形状を表す曲線における前記調整用通過点での接線方向を表す調整用通過点ベクトル、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力工程と、前記始点位置、前記始点ベクトル、前記終点位置、前記終点ベクトル、前記通過点の位置、前記通過点ベクトル、前記調整用通過点の位置および前記調整用通過点ベクトルに基づいて前記線状部材の形状を求める形状処理工程と、前記形状処理工程で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理工程と、前記線状部材の実長と前記長さ処理工程で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力工程で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力工程で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する形状決定工程とを実行させ、前記1又は複数の通過点のうちの少なくとも1つは、前記多関節ロボットのアームに前記線状部材が巻き付くように設定されており、前記調整パラメータは、前記調整用通過点を移動せるための、前記形状処理工程および前記長さ処理工程を繰り返し実行する際の1回分の移動量および移動方向であり、前記形状決定工程は、前記形状処理工程を実行する際に、前記調整用通過点の位置を、前記調整パラメータの1回分の移動量で前記調整パラメータの移動方向へ移動させた位置に、変更する。
【0022】
このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法および該プログラムは、線状部材における始点位置と終点位置との間に、前記線状部材が通る1または複数の通過点を設定できるので、例えば巻き付き等の、より複雑な形状の線状部材を表現できる。したがって、上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレーション方法および該プログラムは、より複雑な形状であっても、線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、より複雑な形状であっても、線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータを備える溶接システムの概略構成を説明するための図である。
図2】前記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータの構成を示すブロック図である。
図3】線状部材の一例であるガイドケーブルにおける各点を説明するための図である。
図4】一例として、アームにガイドケーブルを巻き付けるように通過点を設定する場合を説明するための図である。
図5】ガイドケーブルの癖を考慮した調整用通過点の移動方向を説明するための図である。
図6】前記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータの動作を示すフローチャートである。
図7】変形形態でのシミュレーション結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0026】
実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、所定の姿勢の多関節ロボットにおける、前記多関節ロボットに付属する線状部材の形状を求める装置である。前記線状部材は、一方向に長尺な線状の部材であって、その形状を変形できる前記部材であれば、任意の部材であってよく、例えば、用途に応じてアーム先端に取り付けられたツールに給電するためのケーブルや、前記ツールに原材料等を供給するためのチューブあるいは前記原材料の線材等である。この多関節ロボットの線状部材形状シミュレータは、前記線状部材における始点位置と終点位置との間に、前記線状部材が通る1または複数の通過点の位置、前記線状部材が通り、前記線状部材の長さを調整する調整用通過点の初期位置、および、前記調整用通過点の調整パラメータを入力する入力部と、前記線状部材の形状を求める形状処理を実行する形状処理部と、前記形状処理部で求めた前記線状部材の形状での前記線状部材の長さを求める長さ処理を実行する長さ処理部と、前記線状部材の実長と前記長さ処理部で求めた前記線状部材の長さとの差が許容値以下となるまで、前記入力部で入力された通過点の位置を用いるとともに前記入力部で入力された調整用通過点の初期位置を初期値として用いて、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する形状決定部とを備え、前記形状決定部は、前記形状処理を実行する際に、前記調整パラメータを変更する。以下、このような多関節ロボットの線状部材形状シミュレータならびにこれに実装される線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムについて、溶接システムに適用された場合を例に、より具体的に説明する。なお、多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ、該方法および該プログラムは、溶接システムへの適用に限定されるものではなく、前記線状部材が付属する多関節ロボットを用いる任意のシステムに適用できる。
【0027】
図1は、実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータを備える溶接システムの概略構成を説明するための図である。図1Aは、全体構成を示し、図1Bは、移動装置を備える場合を示し、図1Cは、アームにワイヤ送給装置WSを備える場合を示す。図2は、前記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータの構成を示すブロック図である。図3は、線状部材の一例であるガイドケーブルにおける各点を説明するための図である。図3では、ガイドケーブルのシミュレーション前の初期状態の形状を相対的に長い破線(- - -)で示し、ガイドケーブルのシミュレーション後の状態の形状を相対的に短い破線(・ ・ ・)で示す。図4は、一例として、アームにガイドケーブルを巻き付けるように通過点を設定する場合を説明するための図である。図5は、ガイドケーブルの癖を考慮した調整用通過点の移動方向を説明するための図である。図5Aは、側面図であり、図5Bは、正面図である。
【0028】
実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータを備える溶接システムSYは、例えば、図1Aに示すように、多関節ロボットMRと、制御装置CLと、教示ペンダントTPと、オフライン教示装置TCとを備える。
【0029】
多関節ロボットMRは、制御装置CLに接続され、制御装置CLの制御に従って動作する、複数の関節を持つアームAMを備えるロボットであり、例えば、6個の第1ないし第6関節J1~J6を備える自由度6の垂直6軸ロボットである。アームAMの先端の手首部WRには、ツールの一例として本実施形態では溶接トーチWTが設けられ、多関節ロボットMRは、溶接トーチWTから送り出される溶接ワイヤによりアーク溶接でワークWKを溶接できる。ガイドケーブルGCは、前記溶接ワイヤを案内する、一方向に長尺なチューブ状の部材(中空な部材)であり、前記溶接ワイヤは、ガイドケーブルGCの内部を通って溶接トーチWTへ案内され、溶接トーチWTに供給される。ガイドケーブルGCの一方端部は、手首部WRに設置されたケーブル把持部CHによって把持されて支持される。ガイドケーブルGCの他方端は、例えば、図1Cに示すように、前記先端とは反対の端部であって第4関節J4付近におけるアームAMの上部に設置され、前記溶接ワイヤを供給するワイヤ送給装置WSによって支持されてよいが、本実施形態では、例えば、図1Bに示すように、多関節ロボットMRの上方の所定位置に配置された移動装置MDによって支持される。移動装置MDは、例えばツールバランサーを備えて構成され、ガイドケーブルGCの他方端を所定の範囲内で所定の移動方向、例えば、上下方向(z方向)に移動することでガイドケーブルGCの他方端の位置を変更する装置である。ガイドケーブルGCの他方端を所定の基準位置(z0)から、下方向(-z方向)の位置(z1)に下げることで、ガイドケーブルGCの他方端の位置を多関節ロボットMRのアームAMに近づけることにより、ガイドケーブルGCの可動域を変更できる。ガイドケーブルGCは、多関節ロボットに付属する線状部材の一例である。
【0030】
教示ペンダントTPは、制御装置CLに接続され、多関節ロボットMRを手動操作するためのハンディ型の操作装置である。教示ペンダントTPを用いた、多関節ロボットMRの動作に対する教示(ティーチング)では、手動操作によって多関節ロボットMRを実際に動作させることによって、ワークWKに対する溶接トーチWTの移動経路や位置等が教示される。
【0031】
オフライン教示装置TCは、多関節ロボットMRをコンピュータの仮想空間における仮想ロボットモデルとして再現し、この仮想ロボットモデルに前記多関節ロボットMRの動作を模擬させることによって、動作目的に応じて多関節ロボットMRを動作させるための動作データ(動作プログラム、教示プログラム)を作成する装置である。このオフライン教示装置TCで作成された動作データは、例えばデータを記録(または記憶)する記録媒体(記憶媒体)に記録(記憶)され、この記録媒体から制御装置CLに読み込まれ、制御装置CLに記憶される。前記記録媒体(記憶媒体)は、例えば、フレキシブルディスクや、CD-R(Compact Disc Recordable)や、DVD-R(Digital Versatile Disc Recordable)や、USB(Universal Serial Bus)メモリや、SDカード(登録商標)等である。なお、前記動作データは、オフライン教示装置TCと制御装置CLとを通信可能に接続することで、データ通信によりオフライン教示装置TCから制御装置CLへ送信され、制御装置CLに記憶されてもよい。
【0032】
実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータDは、本実施形態では、一例として、このオフライン教示装置TCに備えられている。
【0033】
制御装置CLは、多関節ロボットMRを、教示ペンダントTPやオフライン教示装置TCで予め教示され作成された動作データ(動作プログラム、教示プログラム)に従って、多関節ロボットMRを制御し、溶接トーチWTでワークWKを溶接するための装置である。
【0034】
前記オフライン教示装置TCに備えられた、実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータDは、例えば、図2に示すように、制御処理部1と、入力部2と、表示部3と、インターフェース部(IF部)4と、記憶部5とを備える。
【0035】
入力部2は、制御処理部1に接続され、例えば教示開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば動作データの名称や移動装置MDの有無等の、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)の稼働を行う上で必要な各種データを線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)に入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。
【0036】
本実施形態では、入力部2には、例えば、図3に示すように、多関節ロボットMRの所定の第1姿勢での、前記線状部材の一例であるガイドケーブルGCにおける始点psの位置(始点位置)Psおよびその始点ベクトルVs、前記初期姿勢でのガイドケーブルGCにおける終点peの位置(終点位置)Peおよびその終点ベクトルVe、ならびに、ガイドケーブルGCの実長Lrが入力される。前記始点ベクトルVsは、ガイドケーブルGCの形状を表す曲線における始点位置Psでの接線方向を表すベクトルであり、前記終点ベクトルVeは、ガイドケーブルGCの形状を表す曲線における終点位置Peでの接線方向を表すベクトルである。
【0037】
そして、入力部2には、例えば、図3に示すように、これら始点psの始点位置Psと終点peの終点位置Peとの間にガイドケーブルGCが通る1または複数の通過点piの位置(通過点位置)Pi、前記ガイドケーブルGCが通り、前記ガイドケーブルGCの長さLを調整する調整用通過点qの位置(調整用通過点位置)Qの初期位置、および、前記調整用通過点の調整パラメータが入力される(i=1、2、3、・・・)。なお、図3において、Viは、前記通過点piにおけるベクトル(通過点ベクトル)を表し、Uは、前記調整用通過点qにおけるベクトル(調整用通過点ベクトル)を表す。
【0038】
この通過点piを設定する際に、例えば、図4に示すように、アームAMにガイドケーブルGCが巻き付くように通過点p1、p2が設定されてよい。これにより、例えば巻き付き等の、より複雑な形状のガイドケーブルGCが表現できる。なお、ガイドケーブルGCのアームAMへの巻き付きは、必ずしもアームAM周りを1周する必要はなく、1周未満であってよい。図4に示す例では、ガイドケーブルGCは、アームAMに半周程度で巻き付いている。
【0039】
前記調整用通過点qの調整パラメータは、例えば、本実施形態では、ガイドケーブルGCの形状を求めるための、前記形状処理および前記長さ処理の繰り返しにおける1回の移動量△Mおよび移動方向Umである。前記1回の移動量△Mは、予め適宜な値に設定される。前記移動方向Umは、任意に設定されてよいが、ガイドケーブルGCに付いた癖を考慮して設定することで、例えば癖を考慮したたわみ等の形状のガイドケーブルGCが表現できる。例えば、図5に示すように、紙面平面視にて右上方向に曲がり癖がガイドケーブルGCに付いている場合では、この曲がり癖の方向を表すベクトル(癖ベクトル)Vhが設定され、これと重力のベクトル(重力ベクトル)Vgとの合成ベクトルの方向に、移動方向Umが設定される。
【0040】
表示部3は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、入力部2から入力されたコマンドやデータ、および、オフライン教示装置TC(線状部材形状シミュレータD)によって生成された仮想空間における仮想ロボットモデル(ガイドケーブルGCを含む)等を表示する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置等である。
【0041】
なお、入力部2および表示部3は、タッチパネルより構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部2は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置である。このタッチパネルでは、表示部3の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示部3に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置に触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)に入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)が提供される。
【0042】
IF部4は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部4は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であっても良い。
【0043】
記憶部5は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、例えば、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)の各部2~5を制御する制御プログラムや、線状部材の一例であるガイドケーブルGCの形状を求める形状処理を実行する形状処理プログラムや、前記形状処理プログラムで求めた前記ガイドケーブルGCの形状でのガイドケーブルGCの長さLを求める長さ処理を実行する長さ処理プログラムや、前記ガイドケーブルGCの実長Lrと前記長さ処理プログラムで求めた前記ガイドケーブルGCの長さLとの差が許容値以下となるまで、前記入力部2で入力された通過点piの位置Piを用いるとともに前記入力部2で入力された調整用通過点qの初期位置Qを初期値として用いて、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行する形状決定プログラム等が含まれる。前記各種の所定のデータには、例えば前記許容値等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部5は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部5は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部1のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。また、記憶部5は、比較的記憶容量の大きいハードディスク装置を備えて構成されてもよい。
【0044】
制御処理部1は、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)の各部2~5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、多関節ロボットMRを仮想空間の仮想ロボットモデルとして再現し、この仮想ロボットモデルに多関節ロボットMRの動作を模擬させることによって、動作目的に応じた多関節ロボットMRの動作の動作データ(動作プログラム、教示プログラム)を生成し、その際に、所定の姿勢の多関節ロボットMRにおける、前記多関節ロボットMRに付属する線状部材の一例であるガイドケーブルGCの形状を求めるための回路である。制御処理部1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部1は、制御処理プログラムが実行されることによって、制御部11、形状処理部12、長さ処理部13および形状決定部14を機能的に備える。
【0045】
制御部11は、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)の各部2~5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)の全体制御を司るものである。
【0046】
形状処理部12は、前記線状部材の一例であるガイドケーブルGCの形状を求める形状処理を実行するものである。より具体的には、まず、形状処理部12は、多関節ロボットMRを第1姿勢から、前記動作データに基づいて次の所定の第2姿勢に動作した場合の動作後におけるガイドケーブルGCの始点位置Ps、始点ベクトルVs、終点位置Peおよび終点ベクトルVeを、いわゆる順変換処理によって求める。前記順変換処理は、大略、多関節ロボットMRの各関節値に基づいて、各リンクの位置およびその姿勢、ならびに、多関節ロボットMRの先端の位置およびその姿勢を求める処理であり、公知の常套手段が用いられる。そして、形状処理部12は、始点位置Ps、始点ベクトルVs、終点位置Pe、終点ベクトルVe、通過点位置Pi、通過点ベクトルVi、調整用通過点位置Qおよび調整用通過点ベクトルUに基づいてガイドケーブルGCの形状を求める。より詳しくは、例えば、形状処理部12は、各位置Ps、Pe、Pi、Qを通り、各位置Ps、Pe、Pi、Qでの各接線が各ベクトルVs、Ve、Vi、Uの各方向に一致するスプライン曲線をガイドケーブルGCの形状として求める。
【0047】
xyz直交座標系において、媒介変数をtとしたx=f(t)、y=f(t)、z=f(t)となるスプライン曲線S(t)は、次式1で与えられる。ガイドケーブルGCの通る各点ps、pe、pi、qの各位置Ps、Pe、Pi、Qは、次式2-1~2-3で与えられる。各点ps、pe、pi、qの各単位ベクトルをV=(Vxi、Vyi、Vzi)とし、各単位ベクトルの重みをwとした場合、スプライン曲線の境界条件は、次式3によって与えられ、これにより、スプライン曲線S(t)の各係数A、B、C、Dが求められる。ここで、Wsは、始点psに対する重みであり、Weは、終点peに対する重みである。これらw重みは、後述の変形形態において詳述されるが、ここでは、予め適宜な値に設定される。
【0048】
【数1】
【0049】
【数2】
【0050】
【数3】
【0051】
長さ処理部13は、形状処理部12で求めた、前記線状部材の一例であるガイドケーブルGCの形状での長さLを求める長さ処理を実行するものである。前記長さLは、次式4によって求められる。
【0052】
【数4】
【0053】
形状決定部14は、前記線状部材の一例であるガイドケーブルGCの実長Lrと前記長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLとの差が許容値Th以下となるまで、前記入力部2で入力された通過点piの通過点位置Piを用いるとともに前記入力部2で入力された調整用通過点qの初期位置Qを初期値として用いて、前記形状処理および前記長さ処理を繰り返し実行するものである。前記許容値Thは、ガイドケーブルGCの実長Lr等を勘案することによって、例えば7[mm]や5[mm]や3[mm]等の適宜な値に決定される。
【0054】
本実施形態では、前記形状決定部14は、このガイドケーブルGCの形状を求めるための繰り返しにおける前記形状処理を実行する際に、前記調整パラメータを変更(更新)する。より具体的には、形状決定部14は、調整用通過点位置Qを、1回分の移動量△Mで移動方向Umへ移動させた位置に変更する。
【0055】
そして、本実施形態では、前記形状決定部14は、前記形状処理を実行する際に、長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLが前記ガイドケーブルGCの実長Lrより長い場合に、所定の変更方向に所定の範囲内で所定の変更量△zだけ前記ガイドケーブルGCにおける終点位置peを変更する。前記所定の変更方向は、移動装置MDによってガイドケーブルGCの他方端の位置を移動できる方向であり、図1Bに示す例では-z方向である。前記所定の範囲は、移動装置MDによってガイドケーブルGCの他方端の位置を変更できる範囲であり、図1Bに示す例ではz0からz1までの範囲である。前記所定の変更量△zは、例えば、本実施形態では、ガイドケーブルGCの形状を求めるための、前記形状処理および前記長さ処理の繰り返しにおける1回の変更量△zである。前記1回の変更量△zは、予め適宜な値に設定される。
【0056】
これら制御処理部1、入力部2、表示部3、IF部4および記憶部5は、例えば、デスクトップ型やノート型等のコンピュータによって構成可能である。これら各部1~5を構成するコンピュータは、例えば、溶接工場におけるオペレーションルームに配置され、コンソールに組み込まれてよく(コンソールと兼用されてよく)、あるいは、コンソールと別体であってもよい。
【0057】
次に、本実施形態の動作について説明する。図6は、前記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータの動作を示すフローチャートである。
【0058】
このような構成の多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)は、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部1には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部11、形状処理部12、長さ処理部13および形状決定部14が機能的に構成される。
【0059】
図6において、線状部材の形状決定に関し、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)は、まず、初期設定を行う(S1)。この初期設定では、オペレータ(ユーザ)は、入力部2から、多関節ロボットMRの第1姿勢でのガイドケーブルGCにおいて、始点位置Ps、始点ベクトルVs、終点位置Pe、終点ベクトルVe、ガイドケーブルGCの実長Lr、および、移動装置MDの有無(図1Bに示す例では有り、図1Cに示す例では無し)を入力する。本実施形態では、例えば移動装置MD有りが入力される。これにより、線状部材形状シミュレータDは、入力部2からこれらの入力を受け付け、これらを記憶部5に記憶する。移動装置MDが有りの場合では、前記オペレータは、さらに、入力部2から、変更方向(図1Bに示す例では-z方向)、ガイドケーブルGCの形状を求めるための繰り返しにおける1回の変更量△zおよびその範囲(図1Bに示す例ではz0~z1)を入力する。これにより、線状部材形状シミュレータDは、入力部2からこれらの入力を受け付け、これらを記憶部5に記憶する。なお、許容値Thは、この初期設定の処理S1で入力され、記憶されてよく、あるいは、予め記憶されてもよい(プログラムに予め組み込まれてもよい)。
【0060】
次に、線状部材形状シミュレータDは、制御処理部1の形状処理部12によって、多関節ロボットMRを第1姿勢から、前記動作データに基づいて次の所定の第2姿勢に動作した場合の動作後におけるガイドケーブルGCの始点位置Ps、始点ベクトルVs、終点位置Peおよび終点ベクトルVeを順変換処理によって求める(S2)。
【0061】
次に、線状部材形状シミュレータDは、通過点pi、qの設定を行う(S3)。オペレータは、入力部2から、通過点位置Pi、通過点ベクトルVi、調整用通過点位置Qの初期位置、調整用通過点ベクトルU、ガイドケーブルGCの形状を求めるための繰り返しにおける1回の移動量△Mおよび移動方向Umを入力する。これにより、線状部材形状シミュレータDは、入力部2からこれらの入力を受け付け、これらを記憶部5に記憶する。
【0062】
図4に示すように、ガイドケーブルGCがアームAMに巻き付く場合には、ガイドケーブルGCを多関節ロボットMRのアームAMに巻き付かせる通過点piを設定し、その通過点位置Piを入力する。移動方向Umは、直接的に入力されてもよいが、本実施形態では、図5を用いて上述したように、ガイドケーブルGCの曲がり癖の方向を表す癖ベクトルVhで間接的に入力される。制御処理部1は、癖ベクトルVhと重力ベクトルVgとの合成ベクトルを求め、この合成ベクトルの方向を移動方向Umとして設定する。
【0063】
次に、線状部材形状シミュレータDは、形状処理部12によって、始点位置Ps、始点ベクトルVs、終点位置Pe、終点ベクトルVe、通過点位置Pi、通過点ベクトルVi、調整用通過点位置Qおよび調整用通過点ベクトルUに基づいてガイドケーブルGCの形状を求める(S4、形状処理)。本実施形態では、境界条件により各係数A、B、C、Dを求めることによって、ガイドケーブルGCの形状を表すスプライン曲線S(t)が求められる。
【0064】
次に、線状部材形状シミュレータDは、制御処理部1の長さ処理部13によって、形状処理部12で求めたガイドケーブルGCの形状での長さLを求める(S5、長さ処理)。
【0065】
次に、線状部材形状シミュレータDは、制御処理部1の形状決定部14によって、ガイドケーブルGCの実長Lrと処理S5によって長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLとの差が許容値Th以下であるか否かを判定する(S6)。この判定の結果、前記差が許容値Th以下ではない場合(前記差が許容値Thを超える場合、No)には、線状部材形状シミュレータDは、次に、処理S7を実行する。一方、前記差が許容値Th以下である場合(Yes)には、線状部材形状シミュレータD(オフライン教示装置TC)は、本処理を終了し、このように求められた形状でガイドケーブルGCを、表示部3に表示されている仮想空間の仮想ロボットモデルに対し、表示する。
【0066】
前記処理S7では、線状部材形状シミュレータDは、制御処理部1の形状決定部14によって、移動装置MDの有無を判定する。この判定の結果、移動装置MDの有りの場合(有り、Yes)には、線状部材形状シミュレータDは、次に、処理S8を実行し、前記判定の結果、移動装置MDの無しの場合(無し、No)には、線状部材形状シミュレータDは、次に、処理S9を実行する。
【0067】
この処理S8では、線状部材形状シミュレータDは、形状決定部14によって、長さ調整が必要か否かを判定する。より具体的には、形状決定部14は、ガイドケーブルGCにおける実長Lrと処理S5によって長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLとを比較し、この比較の結果、ガイドケーブルGCにおける実長Lrより処理S5によって長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLが長い場合には、調整が必要と判定され(Yes)、線状部材形状シミュレータDは、次に、処理S10を実行する。一方、前記比較の結果、ガイドケーブルGCにおける実長Lrより処理S5によって長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLが長くない場合(ガイドケーブルGCにおける実長Lrより処理S5によって長さ処理部13で求めたガイドケーブルGCの長さLが短い場合)には、調整が必要ないと判定され(No)、線状部材形状シミュレータDは、次に、処理S9を実行する。
【0068】
前記処理S9では、線状部材形状シミュレータDは、形状決定部14によって、調整用通過点位置Qを、1回分の移動量△Mで移動方向Umへ移動させた位置に変更し、次に、処理S4を実行する(処理が処理S4に戻される)。
【0069】
前記処理S10では、線状部材形状シミュレータDは、形状決定部14によって、ガイドケーブルGCの終点位置peを、回分の変更量△zで変更方向(図1Bに示す例では-z方向)へ移動させた位置に変更し、次に、処理S4を実行する(処理が処理S4に戻される)。
【0070】
なお、ガイドケーブルGCの形状を求めるための繰り返しの回数が予め設定された所定の回数に達した場合に、この繰り返しが強制的に終了され、ガイドケーブルGCの形状が決定できない旨が表示部3に表示されてもよい。この表示により、新たに図6に示す上述の各処理が開始され、処理S3では、オペレータは、前回とは異なる通過点piおよび調整用通過点qを設定すればよい。
【0071】
以上説明したように、実施形態における多関節ロボットの線状部材形状シミュレータDならびにこれに実装された線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、線状部材の一例であるガイドケーブルGCにおける始点位置psと終点位置peとの間に、前記線状部材が通る1または複数の通過点piを設定できるので、例えば巻き付き等の、より複雑な形状の線状部材を表現できる。したがって、上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、より複雑な形状であっても、線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0072】
上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、前記繰り返しにおける1回の移動量△Mおよび移動方向Umを調整パラメータとして持つので、例えば線状部材の癖を考慮した線状部材のたわみ等の形状の線状部材を表現できる。したがって、上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、例えば線状部材の癖によるたわみ等を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0073】
上記多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムは、形状処理を実行する際に、線状部材の一例であるガイドケーブルGCにおける終点位置peを変更するので、例えばツールバランサー等の、ガイドケーブルGCにおける終点位置peを調節する装置(器具)を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0074】
本実施形態によれば、多関節ロボットMRのアームAMに巻き付いた線状部材の形状を近似曲線で求めることができる多関節ロボットの線状部材形状シミュレータD、線状部材形状シミュレーション方法および線状部材形状シミュレーションプログラムが提供できる。
【0075】
なお、上述の実施形態では、形状処理部12は、始点位置Ps、前記始点位置PsでのベクトルVs、終点位置Pe、前記終点位置PeでのベクトルVe、前記通過点piの位置Pi、前記通過点piの位置PiでのベクトルVi、調整用通過点qの位置Qおよび前記調整用通過点qの位置QでのベクトルUに基づいて線状部材の形状を求めている。これによれば、ベクトルの大きさを調整することで、線状部材の剛性を考慮して線状部材の形状を近似曲線で求めることができる。
【0076】
より具体的には、上述の例では、式1ないし式3によって線状部材の形状が求められており、式3における各ベクトルの重みwを調整することによって線状部材の剛性が表現できる。始点psおよび終点peに対する各重みWs、Weを調整したシミュレーション結果の一例が図7に示されている。
【0077】
図7は、変形形態でのシミュレーション結果を説明するための図である。図7Aは、Ws=We=1の場合の結果を示し、図7Bは、Ws=We=2の場合の結果を示し、図7Cは、Ws=We=3の場合の結果を示す。これら図7Aないし図7Cにおける調整用通過点qに対する重みwは、1である。
【0078】
図7Aないし図7Cの各図を比較すると分かるように、始点psおよび終点peに対する各重みWs、Weが大きくなるに従って、ガイドケーブルGCは、始点psおよび終点peでの各ベクトルVs、Veの方向から曲がりにくくなっており、したがって、始点psおよび終点peに対する各重みWs、WeでガイドケーブルGCの始終端の剛性が表現できている。
【0079】
また、巻き付き等のより複雑な形状のガイドケーブルGCを表現するときに設定する通過点piや調整用通過点qでの各ベクトルの重みwを調整することで、始終端以外のガイドケーブルGCの剛性を表現することができる。
【0080】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0081】
TC オフライン教示装置
D 多関節ロボットの線状部材形状シミュレータ
MR 多関節ロボット
1 制御処理部
2 入力部
3 表示部
5 記憶部
11 制御部
12 形状処理部
13 長さ処理部
14 形状決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7