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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20241015BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
F16J15/34 L
G01L5/00 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021071937
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166613
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 一磨
(72)【発明者】
【氏名】原 勇気
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-005498(JP,B1)
【文献】特表平05-508696(JP,A)
【文献】特開2019-138334(JP,A)
【文献】特表2012-529602(JP,A)
【文献】実開平04-073662(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0016303(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0106429(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転密封環を有し回転軸と一体回転可能である回転ユニットと、
前記回転密封環が摺接する静止密封環を有する静止ユニットと、
前記静止ユニットを、前記回転軸の回転方向となる周方向の変位を許容して支持するケースと、
前記静止ユニットと一体となって周方向に変位可能である変位部材と、
前記ケースに設けられ前記変位部材から受ける前記周方向の荷重を検出するセンサと、
を備え
前記ケースは、
前記静止ユニットの径方向外方に設けられ機器に固定される筒状のケース本体と、
前記ケース本体と前記静止ユニットとの間に形成される環状空間に設けられ当該ケース本体に対して当該静止ユニットを回転可能に支持する転がり軸受と、
を有し、
前記静止ユニットは、
環状のリテーナと、
前記静止密封環を保持する保持体と、
前記リテーナと前記保持体との間に設けられ前記静止密封環を前記回転密封環側へ付勢する弾性部材と、
前記リテーナと前記保持体との間で回転力を伝達可能であって前記リテーナに対する前記保持体の前記軸方向の変位を許容する連結部材と、
前記リテーナ及び前記保持体の径方向外方に設けられ当該リテーナと一体であって当該保持体とは非接触である筒体と、
を有し、
前記筒体に前記変位部材が取り付けられていて、前記筒体が前記転がり軸受によって支持されている、メカニカルシール。
【請求項2】
前記静止ユニットのうち軸方向一方側である第一部分が、前記転がり軸受によって支持されていて、
前記静止ユニットのうち軸方向他方側である第二部分が、前記ケース本体よりも軸方向他方側に突出していて、
前記変位部材は、前記第二部分に取り付けられている、請求項に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
回転密封環を有し回転軸と一体回転可能である回転ユニットと、
前記回転密封環が摺接する静止密封環を有する静止ユニットと、
前記静止ユニットを、前記回転軸の回転方向となる周方向の変位を許容して支持するケースと、
前記静止ユニットと一体となって周方向に変位可能である変位部材と、
前記ケースに設けられ前記変位部材から受ける前記周方向の荷重を検出するセンサと、
を備え
前記ケースは、前記静止ユニットの径方向外方に設けられている筒状のケース本体を有し、
前記ケース本体に、前記変位部材を隙間を有して貫通させる貫通孔が形成されている、メカニカルシール。
【請求項4】
前記ケースは、更に、前記静止ユニットに対して軸方向に接触可能である位置決め部材を有し、
前記ケース本体は、当該ケース本体の内周側に、前記静止ユニットの一部に対して径方向に接触可能であって当該一部を滑り接触させる周方向ガイド面を有する、請求項に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記静止ユニットは、
環状のリテーナと、
前記静止密封環を保持する保持体と、
前記リテーナと前記保持体との間に設けられ前記静止密封環を前記回転密封環側へ付勢する弾性部材と、
前記リテーナと前記保持体との間で回転力を伝達可能であって前記リテーナに対する前記保持体の前記軸方向の変位を許容する連結部材と、
を有し、
前記ケース本体は、前記保持体とは非接触であって、前記リテーナの外周面に滑り接触する前記周方向ガイド面を有し、
前記リテーナに前記変位部材が取り付けられている、請求項に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ又はブロア等の回転機器において、その機器ケーシングと回転軸との間で、内部の流体をシールする装置として、回転軸と一体回転する回転密封環と、機器ケーシング側に設けられていて前記回転密封環が摺接する静止密封環とを備えるメカニカルシールが知られている。このメカニカルシールでは、回転密封環と静止密封環との摺接面の状態が、密封性能に大きな影響を与えるため、前記摺接面の状態を監視する必要がある。そこで、前記摺接面における摩擦力に基づくパラメータを検出する機構が付加されているメカニカルシールが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-529602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のメカニカルシールでは、静止密封環(固定シールリング)に孔(凹所)が形成されていて、その孔にビームが接触して設けられている。そのビームは、機器ケーシングに固定のセンサハウジングに片持ち梁状となって支持されていて、そのビームに歪みセンサが取り付けられている。
【0005】
回転軸と共に回転密封環が回転すると、静止密封環との摺接面に摩擦力が生じ、静止密封環を回転させようとする回転力が発生する。その回転力が、前記孔で接触する前記ビームを撓ませ、ビームの歪がセンサによって検出される。前記摩擦力が大きくなると、前記回転力も大きくなり、ビームの歪みが大きく変化する。以上の構成により、前記摺接面の状態が監視される。
【0006】
特許文献1に開示の構成は、前記摺接面の摩擦力に起因する回転力が検出されるのではなく、その回転力によるビームの歪みがセンサによって検出される。前記摺接面の状態とビームの歪みとに相関はあるものの、精度良く前記摺接面の状態を監視することは困難になる場合があり、そのために特別なセンサが必要となる可能性がある。
【0007】
本発明は、回転密封環と静止密封環との摺接面の状態を汎用的なセンサを用いて測定することが可能となる新たな技術的手段を備えたメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のメカニカルシールは、回転密封環を有し回転軸と一体回転可能である回転ユニットと、前記回転密封環が摺接する静止密封環を有する静止ユニットと、前記静止ユニットを、前記回転軸の回転方向となる周方向の変位を許容して支持するケースと、前記静止ユニットと一体となって周方向に変位可能である変位部材と、前記ケースに設けられ前記変位部材から受ける前記周方向の荷重を検出するセンサと、を備える。
【0009】
前記メカニカルシールによれば、回転密封環と静止密封環との摺接面における摩擦に起因する回転力が、静止ユニットに作用し、静止ユニットが変位部材を伴ってケースに対して回転しようとする。ケースに設けられているセンサが、前記変位部材から受ける周方向の荷重を検出する。前記摩擦に起因する回転力が、変位部材から受ける周方向の荷重として検出されることから、前記摺接面の状態を汎用的なセンサを用いて測定することが可能となる。
【0010】
(2)また、好ましくは、前記ケースは、前記静止ユニットの径方向外方に設けられ機器に固定される筒状のケース本体と、前記ケース本体と前記静止ユニットとの間に形成される環状空間に設けられ当該ケース本体に対して当該静止ユニットを回転可能に支持する転がり軸受と、を有する。
この場合、機器に固定されるケース本体に対して静止ユニットが転がり軸受によって回転し易くなる。つまり、静止ユニットの回転抵抗が低減される。このため、前記摺接面における摩擦に起因して静止ユニットから変位部材に伝わる回転力が、静止ユニットにおける回転抵抗の影響を受け難くなり、センサの検出の感度が高まる。
【0011】
また、好ましくは、前記転がり軸受は、深溝玉軸受である。この場合、転がり軸受が1列であっても、静止ユニットを、周方向の変位を許容して支持すると共に、軸方向の変位を不能として支持することが可能となる。
【0012】
(3)また、前記(2)に記載のメカニカルシールにおいて、好ましくは、前記静止ユニットのうち軸方向一方側である第一部分が、前記転がり軸受によって支持されていて、前記静止ユニットのうち軸方向他方側である第二部分が、前記ケース本体よりも軸方向他方側に突出していて、前記変位部材は、前記第二部分に取り付けられている。この場合、変位部材はケースの軸方向他方側に露出した状態で設けられ、変位部材の管理が容易となる。
【0013】
(4)また、前記(2)または(3)に記載のメカニカルシールにおいて、好ましくは、前記静止ユニットは、環状のリテーナと、前記静止密封環を保持する保持体と、前記リテーナと前記保持体との間に設けられ前記静止密封環を前記回転密封環側へ付勢する弾性部材と、前記リテーナと前記保持体との間で回転力を伝達可能であって前記リテーナに対する前記保持体の前記軸方向の変位を許容する連結部材と、前記リテーナ及び前記保持体の径方向外方に設けられ当該リテーナと一体であって当該保持体とは非接触である筒体と、を有し、前記筒体に前記変位部材が取り付けられていて、前記筒体が前記転がり軸受によって支持されている。
この場合、転がり軸受によって筒体は支持されていて、その挙動が安定する。その筒体に変位部材が取り付けられていることから、センサによって正確な検出が可能となる。
【0014】
(5)前記(1)に記載のメカニカルシールにおいて、好ましくは、前記ケースは、前記静止ユニットの径方向外方に設けられている筒状のケース本体を有し、前記ケース本体に、前記変位部材を隙間を有して貫通させる貫通孔が形成されている。
この場合、ケース本体に貫通孔を形成することで、変位部材及びセンサを配置することができる。このため、従来の構成を大きく変更しなくても済む場合がある。
【0015】
(6)また、前記(5)に記載のメカニカルシールにおいて、好ましくは、前記ケースは、更に、前記静止ユニットに対して軸方向に接触可能である位置決め部材を有し、前記ケース本体は、当該ケース本体の内周側に、前記静止ユニットの一部に対して径方向に接触可能であって当該一部を滑り接触させる周方向ガイド面を有する。
この場合、静止ユニットを、周方向ガイド面に滑り接触させて周方向について変位可能とし、その静止ユニットを位置決め部材によって、軸方向について変位不能とする構成が得られる。
【0016】
(7)また、前記(6)に記載のメカニカルシールにおいて、好ましくは、前記静止ユニットは、環状のリテーナと、前記静止密封環を保持する保持体と、前記リテーナと前記保持体との間に設けられ前記静止密封環を前記回転密封環側へ付勢する弾性部材と、前記リテーナと前記保持体との間で回転力を伝達可能であって前記リテーナに対する前記保持体の前記軸方向の変位を許容する連結部材と、を有し、前記ケース本体は、前記保持体とは非接触であって、前記リテーナの外周面に滑り接触する前記周方向ガイド面を有し、前記リテーナに前記変位部材が取り付けられている。
【0017】
この場合、回転密封環と静止密封環との摺接面における摩擦に起因する回転力が、静止ユニットの静止密封環及び保持体から連結部材を介してリテーナに伝わる。ケース本体は、保持体と非接触であるのに対して、リテーナを周方向ガイド面で滑り接触させる。つまり、リテーナは、ケース本体に支持されていて挙動が安定するのに対して、保持体は、ケース本体に支持されておらずリテーナと比較して不安定な状態にある。前記回転力は保持体にも伝わるが、その保持体ではなく、挙動が安定するリテーナに、変位部材が取り付けられる。このため、センサによって正確な検出が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回転密封環と静止密封環との摺接面の状態を汎用的なセンサを用いて測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第一実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
図2】第一実施形態に係るメカニカルシールを機外側から見た図である。
図3】回転ユニット及び静止ユニットの説明図である。
図4】第二実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
図5】第二実施形態に係るメカニカルシールを機外側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔メカニカルシール全体について〕
図1は、第一実施形態に係るメカニカルシール10を示す断面図である。メカニカルシール10は、ポンプ、ブロア、または撹拌機等の回転機器7に用いられる。回転機器7は、回転軸8と、その回転軸8を包囲する機器ケーシング9とを備える。メカニカルシール10は、回転軸8と機器ケーシング9との間において、回転機器7の内部の流体をシールする。
【0021】
本開示の発明における方向について定義する。回転軸8の軸線Lに沿った方向及びその軸線Lに平行な方向を「軸方向」と定義する。その軸方向に関して、回転機器7の内部側(図1の右側)が軸方向一方側であり、これを「機内側」と称する。これに対して回転機器7の外部側(図1の左側)が軸方向他方側であり、これを「機外側」と称する。前記中心線Lに直交する方向を「径方向」と定義する。回転軸8の軸線Lを中心とする円に沿った方向を「周方向」と定義する。つまり、回転軸8の回転方向が周方向となる。
【0022】
メカニカルシール10は、機内側の被密封流体(溶剤、水又は油等)が機外側へ漏洩するのを防ぐ。そのために、メカニカルシール10は、後述するが、回転密封環16と静止密封環17とを有し、回転密封環16が静止密封環17に摺接する。図1に示す形態では、回転密封環16と静止密封環17との摺接部分18の径方向外側及び軸方向一方側が機内側の領域となり、その摺接部分18の径方向内側及び軸方向他方側が機外側の領域となる。
【0023】
メカニカルシール10は、回転ユニット11と、静止ユニット12と、ケース13とを備える。回転ユニット11は、回転密封環16を有するユニットであり、回転軸8と一体回転可能となる。静止ユニット12は、静止密封環17を有するユニットであり、ケース13に支持される。回転ユニット11及び静止ユニット12の具体的構成については後に説明する。
【0024】
ケース13は、静止ユニット12を、周方向の変位を許容して支持する。更に、ケース13は、静止ユニット12を、軸方向の変位を不能として支持する。ケース13が静止ユニット12を支持するための具体的構成については後に説明する。ケース13は、機器ケーシング9の機外側の端部に固定されている。ケース13は全体として筒形状を有する。
【0025】
メカニカルシール10は、更に、変位部材14と、荷重を検出するセンサ15とを備える。変位部材14は、静止ユニット12の一部に固定されていて、静止ユニット12と一体となって周方向に変位可能である。本実施形態では、変位部材14はピン状の部材である。センサ15は、ロードセルであり、変位部材14から受ける周方向の荷重を検出する。このために、センサ15の受圧面15aが周方向に向くようにして(図2参照)、センサ15はブラケット19を介してケース13に取り付けられている。図2は、第一実施形態に係るメカニカルシール10を機外側から見た図である。
【0026】
〔ケース13〕
図1において、ケース13は、ケース本体21と、転がり軸受22とを有する。ケース本体21は、機器ケーシング9にボルト23によって固定される。ケース本体21は、筒状であり、静止ユニット12の径方向外方に設けられる。ケース本体21は、機器ケーシング9に取り付けられる筒状部24と、筒状部24に止めねじ26(図2参照)によって取り付けられる環状のフランジ部25とを有する。センサ15はブラケット19を介してフランジ部25に取り付けられている。
【0027】
筒状部24は、その内周に段付き形状を有する。つまり、筒状部24は、第一内周面27と、第一内周面27よりも内径が大きい第二内周面28と、第一内周面27と第二内周面28との間であって機外側に向く環状の段付き面29とを有する。第二内周面28に転がり軸受22の外輪31が取り付けられている。外輪31が、段付き面29とフランジ部25とによって軸方向について挟まれた状態となり、筒状部24に固定される。
【0028】
転がり軸受22は、外輪31と、内輪32と、これら外輪31と内輪32との間に介在する複数の玉33とを有する。外輪31は、その内周側に断面凹円弧形状の溝を軌道面として有する。内輪32は、その外周側に断面凹円弧形状の溝を軌道面として有する。玉33は、外輪31の前記軌道面及び内輪32の前記軌道面を転がり接触する。このように、本実施形態の転がり軸受22は、深溝玉軸受である。
【0029】
静止ユニット12が有する後述の筒体56の外周側に内輪32が取り付けられている。転がり軸受22は、ケース本体21の筒状部24と、静止ユニット12の筒体56との間に形成される環状空間35に設けられている。転がり軸受22は、ケース本体21に対して静止ユニット12を回転可能に支持することができる。前記のとおり、転がり軸受22は深溝玉軸受である。このため、転がり軸受22は径方向の荷重を支持すると共に、軸方向の荷重についても支持する。よって、転がり軸受22は、1列であっても、静止ユニット12を、周方向の変位を許容して支持すると共に、軸方向の変位を不能として支持することが可能となる。
【0030】
〔回転ユニット11〕
図3は、回転ユニット11及び静止ユニット12の説明図である。回転ユニット11は、筒状のスリーブ41と、円環状のドライブリング42と、円環状の回転密封環16とを備える。スリーブ41は、回転軸8の外周面に嵌合して固定されていて、回転軸8と一体回転する。ドライブリング42は、スリーブ41の外周側であって機内側にセットスクリュー44によって取り付けられる。これにより、ドライブリング42とスリーブ41とは回転軸8と共に一体回転する。ドライブリング42の内周面とスリーブ41の外周面との間は、Oリング45によりシールされている。ドライブリング42の内周側であって機外側に周溝46が設けられている。周溝46の内周側に、機外側へ突出するピン47が取り付けられている。
【0031】
回転密封環16の内周側であって機内側に凹部48が形成されている。凹部48とピン47とは、周方向に一つまたは周方向に間隔をあけて複数設けられている。回転密封環16が周溝46に嵌った状態で、凹部48にピン47が嵌る。これにより、回転密封環16とドライブリング42とは相対回転が不能となり、回転密封環16は、ドライブリング42と一体回転する。回転密封環16は、その機外側の端面に、円環状となる第一のシール面16aを有する。回転密封環16と周溝46との間は、Oリング49によりシールされている。
【0032】
〔静止ユニット12〕
静止ユニット12は、環状の静止密封環17と、静止密封環17を保持する保持体52と、環状のリテーナ53と、複数の弾性部材54と、複数の連結部材55と、リテーナ53及び保持体52の径方向外方に設けられている筒体56とを備える。弾性部材54及び連結部材55は、リテーナ53と保持体52との間に設けられている。
【0033】
保持体52は、筒状の保持部材57と、環状のドライブカラー58とを含んで構成されている。保持部材57とドライブカラー58とは、ピン60によって結合されていて、相互間で回転力の伝達が可能となる。保持部材57の内周側であって機内側に周溝59が設けられている。
【0034】
静止密封環17は、その機内側の端面に、円環状となる第二のシール面17aを有する。静止密封環17は、周溝59に密着して嵌合することで保持部材57に固定される。このため、静止密封環17と保持部材57とは相互間で回転力の伝達が可能となる。静止密封環17は周溝59に例えば焼き嵌めによって取り付けられる。
【0035】
弾性部材54は、リテーナ53とドライブカラー58との間に設けられていて、本実施形態では、圧縮コイルばねである。リテーナ53に、有底の孔53aが周方向に沿って複数形成されていて、その孔53aそれぞれに弾性部材54が収容されている。弾性部材54の機内側の端部がドライブカラー58に軸方向から接触する。弾性部材54の弾性復元力によって、保持体52を通じて静止密封環17は回転密封環16側へ付勢される。
【0036】
連結部材55は、リテーナ53から保持体52にわたって設けられていて、本実施形態では、ボルトである。連結部材55の機内側の第一端部55aが、ドライブカラー58のボルト穴に締結されている。連結部材55の機外側の第二端部55bが、リテーナ53の段付き貫通穴(ザグリ穴)53bに設けられている。連結部材(ボルト)55は、周方向に沿って複数設けられている。
【0037】
連結部材55の中間部である軸部55cがリテーナ53の段付き貫通孔53bの内周面に接触可能であり、これにより、リテーナ53と保持体52(ドライブカラー58)との間で回転力の伝達が可能となる。連結部材55の第二端部55bが、リテーナ53の段付き貫通孔53b内で軸方向に変位可能であり、これにより、リテーナ53に対する保持体52の軸方向の変位が許容される。
【0038】
筒体56は、リテーナ53及び保持体52の径方向外方に設けられている筒本体部61と、筒本体部61の機外側に例えばボルトによって固定される環状の止め部材62とを有する。止め部材62の機内側に凹部63が設けられている。リテーナ53は、機外側に突出するピン64を有する。凹部63とピン64とは、周方向に一つまたは周方向に間隔をあけて複数設けられている。凹部63にピン64が嵌ることで、リテーナ53と筒体56とは相対回転が不能となり、リテーナ53と筒体56とは一体回転可能となる。
【0039】
筒本体部61は、その内周に段付き形状を有する。つまり、筒本体部61は、第三内周面65と、第三内周面65よりも内径が大きい第四内周面66と、第三内周面65と第四内周面66との間であって機外側に向く環状の段付き面67とを有する。第四内周面66にリテーナ53が取り付けられていて、そのリテーナ53が、段付き面67と止め部材62とによって軸方向について挟まれた状態となり、筒体56に固定される。以上より、筒体56とリテーナ53とは一体であり、これらは一体回転可能となる。
【0040】
リテーナ53は、筒体56(筒本体部61の第四内周面66)に接触した状態にある。これに対して、保持体52は、筒体56と非接触である。なお、保持体52(保持部材57)の外周面と筒体56(筒本体部61)の内周面との間は、Oリング68によりシールされているが、筒体56は保持体52を直接的に支えていない。
【0041】
筒本体部61の外周側であって機内側に、止めナット74が螺合するねじ部75が設けられている。筒本体部61は、その外周側であってねじ部75の機外側に、段付き形状を有する。つまり、筒本体部61は、第一外周面71と、第一外周面71よりも外径が大きい第二外周面72と、第一外周面71と第二外周面72との間であって機内側に向く環状の段付き面73とを有する。第一外周面71に転がり軸受22の内輪32が取り付けられていて、その内輪32が、段付き面73と止めナット74とによって軸方向について挟まれた状態となり、筒体56に固定される。
【0042】
図1に示すように、静止ユニット12が有する筒体56のうち、軸方向一方側である機内側の第一部分81が、転がり軸受22によって支持されている。筒体56のうち軸方向他方側である機外側の第二部分82が、ケース本体21よりも機外側に突出している。筒体56、及びその筒体56と一体となる静止ユニット12は、ケース13に対して軸線Lを中心として回転可能となる。筒体56に、変位部材14が取り付けられていて、筒体56と変位部材14とは一体となって回転可能となる。しかし、変位部材14が、センサ15の受圧面15aに接触することで、筒体56及び静止ユニット12の回転は規制される。
【0043】
本実施形態では(図2参照)回転軸8の回転方向が反時計回り方向であり、回転軸8が回転すると、回転密封環16と静止密封環17との摺接面(摺接部分18)における摩擦に起因して、静止密封環17に、回転軸8の回転方向と同方向の回転力が生じる。その回転力によって、静止ユニット12は同方向に回転しようとする。しかし、変位部材14が、センサ15の受圧面15aに対して反時計回り方向に接触することで、静止ユニット12は回転不能となる。この際、変位部材14がセンサ15に対して周方向の荷重を与える。センサ15がその荷重を検出する。
【0044】
図1に示すように、変位部材14は、筒体56のうち、ケース13から露出している第二部分82に取り付けられている。変位部材14は、前記のとおりピン状の部材である。変位部材14の先端に雄ねじ14aが形成されていて、筒体56(筒本体部61)の外周にその雄ねじ14aが螺合する雌ねじが形成されている。これにより、筒体56と変位部材14とは一体となって変位可能となる。
【0045】
〔第一実施形態に係るメカニカルシール10について〕
以上のように、図1から図3に示すメカニカルシール10は、回転ユニット11と、静止ユニット12と、ケース13と、変位部材14と、センサ15とを備える。回転ユニット11は、回転軸8と一体回転可能であって回転密封環16を有する。静止ユニット12は、回転密封環16が摺接する静止密封環17を有する。ケース13は、静止ユニット12を、軸方向の変位を不能として、かつ、周方向の変位(回転)を許容して支持する。変位部材14は、静止ユニット12と一体となって周方向に変位可能である。センサ15は、ケース13に設けられていて、変位部材14から受ける周方向の荷重を検出する。
【0046】
この構成を備えるメカニカルシール10によれば、回転軸8が回転している状態で、静止密封環17の第二のシール面17aに対して、回転密封環16の第一のシール面16aが滑り接触する。つまり、第一のシール面16a及び第二のシール面17aが、回転密封環16と静止密封環17との摺接面となる。その摺接面における摩擦に起因する回転力は、静止ユニット12に作用し、静止ユニット12が変位部材14を伴ってケース13に対して回転しようとする。
【0047】
回転しようとする変位部材14が、ケース13に設けられているセンサ15に接触し、センサ15は、変位部材14から受ける周方向の荷重を検出する。センサ15は、変位部材14の歪みを検出するのではなく、前記摩擦に起因する回転力を、変位部材14から受ける周方向の荷重として検出する。このため、第一のシール面16aと第二のシール面17aとの間の摺接面の状態を、汎用的なセンサ(荷重センサ)を用いて測定することが可能となる。
【0048】
前記摺接面における抵抗(摺動抵抗)が大きい場合、回転密封環16と静止密封環17との間で接触異常が生じている可能性がある。前記抵抗(摺動抵抗)が大きくなると、前記回転力が大きくなり、センサ15が変位部材14から受ける周方向の荷重も大きくなる。つまり、センサ15は大きな荷重を検出する。センサ15の検出値が既定値よりも大きい場合、例えばセンサ15と電気的につながる制御装置が、警報信号を出力する。このようにして、メカニカルシール10における異常(摺接面の接触異常)が監視される。
【0049】
第一実施形態では、ケース13は、機器ケーシング9に固定されている筒状のケース本体21の他に、転がり軸受22を有する。転がり軸受22は、ケース本体21と静止ユニット12(筒体56)との間に形成される環状空間35に設けられている。転がり軸受22は、ケース本体21に対して静止ユニット12を回転可能に支持する。
【0050】
ケース13が転がり軸受22を有するため、静止ユニット12は回転し易くなる。つまり、静止ユニット12の回転抵抗が低減される。このため、前記摺接面における摩擦に起因して静止ユニット12から変位部材14に伝わる回転力が、その静止ユニット12における回転抵抗の影響を受け難くなり、センサ15の検出の感度が高まる。
【0051】
静止ユニット12は、環状のリテーナ53と、静止密封環17を保持する保持体52と、圧縮コイルばねから成る弾性部材54と、ボルトから成る連結部材55と、筒体56とを有する。弾性部材54は、静止密封環17を回転密封環16側へ付勢する。連結部材55は、リテーナ53と保持体52との間で回転力を伝達可能であって、リテーナ53に対する保持体52の軸方向の変位を許容する。筒体56は、リテーナ53及び保持体52の径方向外方に設けられていて、リテーナ53と接触して一体であるが、保持体52とは非接触である。そして、筒体56に変位部材14が取り付けられている。筒体56が転がり軸受22によって支持されている。
【0052】
このように、静止ユニット12の筒体56が転がり軸受22によって支持されていて、筒体56の挙動が安定する。その筒体56に変位部材14が取り付けられている。このため、センサ15によって正確な検出が可能となる。
【0053】
静止ユニット12のうち機内側(軸方向一方側)である第一部分81が、転がり軸受22によって支持されている。静止ユニット12のうち機外側(軸方向他方側)である第二部分82が、ケース本体21よりも軸方向他方側に突出している。変位部材14は、前記第二部分82に取り付けられている。変位部材14は、ケース13の軸方向他方側に露出した状態で設けられていて、変位部材14及びその荷重を検出するセンサ15の管理が容易となる。
【0054】
〔第二実施形態に係るメカニカルシール10の構成〕
図4は、第二実施形態に係るメカニカルシール10を示す断面図である。図5は、第二実施形態に係るメカニカルシール10を機外側から見た図である。第二実施形態に係るメカニカルシール10は、図1に示す第一実施形態と比較すると、ケース13の構成、及び、静止ユニット12の一部の構成が異なり、回転ユニット11の構成は同じである。静止ユニット12に関しても、リテーナ53が異なるが、その他については同じである。第一実施形態における構成と同じ構成については、同じ符号が付されており、その説明を一部省略する。
【0055】
図4に示すように、ケース13は、静止ユニット12の径方向外方に設けられている筒状のケース本体21を有する。ケース本体21に、変位部材14を隙間eを有して貫通させる貫通孔37が形成されている。ケース13は、更に、環状の位置決め部材69を有する。位置決め部材69はボルト38によってケース本体21に固定されている。位置決め部材69は、静止ユニット12に対して軸方向に接触可能である。具体的に説明すると、位置決め部材69は、静止ユニット12のリテーナ53に機外側から接触可能である。
【0056】
静止ユニット12は、環状のリテーナ53と、静止密封環17を保持する保持体52と、リテーナ53と保持体52との間に設けられている弾性部材(圧縮コイルばね)54と、連結部材(ボルト)55とを有する。弾性部材54は、静止密封環17を回転密封環16側へ付勢する。連結部材55は、リテーナ53と保持体52との間で回転力を伝達可能であって、リテーナ53に対する保持体52の軸方向の変位を許容する。静止ユニット12に関する以上の点は、第一実施形態と同じである。
【0057】
図1及び図3に示す第一実施形態では、リテーナ53は、ケース13によって直接的に支持されておらず、筒体56及び転がり軸受22を介して支持されている。
これに対して、図4に示す第二実施形態では、リテーナ53は、ケース13に直接的に接触することで支持されている。つまり、ケース本体21は、その内周側に、周方向ガイド面85を有する。周方向ガイド面85は、静止ユニット12の一部であるリテーナ53に対して径方向に接触可能であって、リテーナ53を滑り接触させる面である。
【0058】
ケース13がリテーナ53を支持する構成について更に具体的に説明する。前記のとおり、ケース本体21は、リテーナ53の外周面に滑り接触する第一の周方向ガイド面85を有する。位置決め部材69は、リテーナ53の機外側の側面53cに滑り接触する第二の周方向ガイド面86を有する。このように、リテーナ53は、ケース13の各部に接触していて、軸方向及び径方向にガイドされる。そして、変位部材14は、リテーナ53に取り付けられている。
【0059】
これに対して、保持体52は、ケース本体21に非接触であり、ケース13によって軸方向及び径方向に直接的にガイドされていない。保持体52(保持部材57)の外周面とケース13(ケース本体21)の内周面との間は、Oリング78によりシールされているが、ケース13は保持体52を直接的に支えていない。
【0060】
第一の周方向ガイド面85は、円筒状の面であり、第二周方向ガイド面86は、円環状の面である。これら第一の周方向ガイド面85及び第二周方向ガイド面86に、摩擦抵抗を低減するためのコーティングが付されている。なお、第一の周方向ガイド面85及び第二周方向ガイド面86に接触するリテーナ53側に、前記コーティングが付されていてもよい。コーティングの例としてはフッ素コーティングである。前記コーティングについては省略されていてもよい。
【0061】
〔第二実施形態に係るメカニカルシール10について〕
以上のように、図4及び図5に示す第二実施形態に係るメカニカルシール10は、第一実施形態と同様に、回転ユニット11と、静止ユニット12と、ケース13と、変位部材14と、センサ15とを備える。回転ユニット11は、回転軸8と一体回転可能であって回転密封環16を有する。静止ユニット12は、回転密封環16が摺接する静止密封環17を有する。ケース13は、静止ユニット12を、軸方向の変位を不能として、かつ、周方向の変位(回転)を許容して支持する。変位部材14は、静止ユニット12と一体となって周方向に変位可能である。センサ15は、ケース13に設けられていて、変位部材14から受ける周方向の荷重を検出する。
【0062】
この構成を備えるメカニカルシール10によれば、第一実施形態と同様に、回転軸8が回転している状態で、静止密封環17の第二のシール面17aに対して、回転密封環16の第一のシール面16aが滑り接触する。つまり、第一のシール面16a及び第二のシール面17aが、回転密封環16と静止密封環17との摺接面となる。その摺接面における摩擦に起因する回転力は、静止ユニット12に作用し、静止ユニット12が変位部材14を伴ってケース13に対して回転しようとする。
【0063】
回転しようとする変位部材14が、ケース13に設けられているセンサ15に接触し、センサ15は、変位部材14から受ける周方向の荷重を検出する。センサ15は、変位部材14の歪みを検出するのではなく、前記摩擦に起因する回転力を、変位部材14から受ける周方向の荷重として検出する。このため、第一のシール面16aと第二のシール面17aとの間の摺接面の状態を、汎用的なセンサ(荷重センサ)を用いて測定することが可能となる。
【0064】
第二実施形態では、ケース13は、静止ユニット12の径方向外方に設けられている筒状のケース本体21を有する。そのケース本体21に、変位部材14を隙間eを有して貫通させる貫通孔37が形成されている。
なお、第一実施形態では転がり軸受22を追加的に設ける必要があり、ケース13及び静止ユニット12の構成を一部、従来の構成から変更する必要がある。
これに対して、第二実施形態では、ケース本体21に貫通孔37を形成することで、変位部材14及びセンサ15を配置することができる。このため、従来の構成を大きく変更しなくても済む場合がある。
【0065】
第二実施形態では、静止ユニット12は、環状のリテーナ53と、静止密封環17を保持する保持体52と、静止密封環17を回転密封環16側へ付勢する弾性部材54と、連結部材55とを有する。連結部材55は、リテーナ53と保持体52との間で回転力を伝達可能であって、リテーナ53に対する保持体52の軸方向の変位を許容する。ケース本体21は、第一の周方向ガイド面85を有する。第一の周方向ガイド面85は、保持体52とは非接触であって、リテーナ53の外周面に滑り接触する。
【0066】
回転密封環16と静止密封環17との摺接面における摩擦に起因する回転力は、静止ユニット12の静止密封環17及び保持体52から、連結部材55を介してリテーナ53に伝わる。ケース本体21は、保持体52と非接触であるのに対して、リテーナ53を第一の周方向ガイド面85で滑り接触させる。つまり、リテーナ53は、ケース本体21に支持されていて挙動が安定するのに対して、保持体52は、ケース本体21に支持されておらずリテーナ53と比較して不安定な状態にある。前記回転力は保持体52にも伝わるが、その保持体52ではなく、挙動が安定するリテーナ53に、変位部材14が取り付けられる。このため、センサ15によって正確な検出が可能となる。
【0067】
〔その他〕
前記各実施形態において、回転ユニット11は、回転密封環16を有していれば、図示する形態以外であってもよく、また、静止ユニット12は、静止密封環17を有していれば、図示する形態以外であってもよい。
前記各実施形態では、回転軸8の回転方向が一方向である。このため、変位部材14の片側にのみセンサ15が設けられている。
回転軸8が両方向に回転する場合、図示しないが、変位部材14の両側にセンサ15が設けられる。つまり、二つのセンサ15が変位部材14を挟むようにしてケース13に設けられる。この構成により、変位部材14は二つのセンサ15のうち、いずれか一方に接触し、静止ユニット12の回転が規制され、センサ15が荷重を検出する。
【0068】
前記実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、前記実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0069】
8 回転軸
10 メカニカルシール
11 回転ユニット
12 静止ユニット
13 ケース
14 変位部材
15 センサ
16 回転密封環
17 静止密封環
21 ケース本体
22 転がり軸受
35 環状空間
37 貫通孔
52 保持体
53 リテーナ
54 弾性部材
55 連結部材
56 筒体
69 位置決め部材
81 第一部分
82 第二部分
85 周方向ガイド面
e 隙間
図1
図2
図3
図4
図5