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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】電界測定装置及び電界測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
G01R29/08 E
G01R29/08 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021096957
(22)【出願日】2021-06-09
(65)【公開番号】P2022188710
(43)【公開日】2022-12-21
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智比古
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-199076(JP,U)
【文献】特開平06-235739(JP,A)
【文献】特開2001-136081(JP,A)
【文献】特開平10-185970(JP,A)
【文献】特開平02-084803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/109545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の電極を含み、電界に起因して電圧信号が発生する電界検出部と、
直列抵抗を介して前記電圧信号が入力され、前記電圧信号をバッファ又は増幅して前記電圧信号を出力する増幅器と、
基準静電容量を有し、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間に出力端が接続された基準容量素子と、
前記基準容量素子の入力端に接続され、ステップ波を発生するステップ波発生部と、
前記増幅器から出力される前記電圧信号が入力され、入力された前記電圧信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、
前記アナログデジタル変換部によって、前記電圧信号を前記デジタル信号に変換した後、前記電圧信号を処理する情報処理部と、
を備え、
前記情報処理部は、
前記ステップ波発生部を用いて、前記基準容量素子を介して、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間を通して前記ステップ波を前記増幅器に入力し、前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合の、前記増幅器の出力のステップ応答を示す波形であるステップ応答波形を取得し、
前記ステップ応答波形に基づいて、
前記電界に起因して発生する前記2枚の電極間の電極間電圧と、
前記電圧信号が示す電圧、前記基準静電容量、前記増幅器が有する寄生容量である入力静電容量及び前記電極間の静電容量である電極間静電容量と、
の関係に基づいて導出可能な振幅補正係数を算出し、
前記振幅補正係数を用いて、前記増幅器から出力される前記電圧信号の補正を行い、補正した前記電圧信号を、前記電極間電圧に対応する前記電界として取得する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電界測定装置において、
前記情報処理部は、
前記ステップ応答波形に基づいて、
前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合において、前記ステップ波を入力した時点の前記増幅器の入力端の電圧の波高を示す第1波高値及び定常状態に達した場合の前記増幅器の入力端の前記電圧の波高を示す第2波高値を取得し、
前記第1波高値を、前記第1波高値から前記第2波高値を引いた差分により除することにより、前記振幅補正係数を算出する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電界測定装置において、
前記ステップ波発生部は、
前記ステップ波を商用電源周波数の整数倍の周波数で出力する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電界測定装置において、
前記直列抵抗は、前記直列抵抗の抵抗値と前記電極間静電容量との積が、前記所定のサンプリング周期より大きくなるように設定される、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電界測定装置において、
前記増幅器の出力端と前記増幅器の入力端との間の帰還経路に、前記基準容量素子が設けられ、
前記基準容量素子と前記増幅器と前記ステップ波発生部との接続状態を、
前記基準容量素子の入力端と前記増幅器の出力端との間が接続された第1接続状態、及び、前記ステップ波発生部の出力端と前記基準容量素子の入力端との間が接続された第2接続状態の何れかの状態に設定するスイッチ部を更に有し、
前記情報処理部は、
前記ステップ応答波形を取得しない場合には、前記スイッチ部の接続状態を、前記第1接続状態に設定し、
前記ステップ応答波形を取得する場合には、前記スイッチ部の接続状態を、前記第2接続状態に設定する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電界測定装置において、
前記帰還経路において、前記増幅器の出力端と前記基準容量素子の入力端との間に所定の増幅率を有する帰還アンプが設けられ、
前記情報処理部は、
前記ステップ応答波形に基づいて、
前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合において、前記ステップ波を入力した時点の前記増幅器の入力端の電圧の波高を示す第1波高値及び定常状態に達した場合の前記増幅器の入力端の電圧の波高を示す第2波高値を取得し、
前記第1波高値及び前記第2波高値を、前記振幅補正係数と、前記第1波高値、前記第2波高値、前記ステップ波の振幅及び前記増幅率との関係を表す関係式に適用することにより、前記振幅補正係数を算出する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の電界測定装置において、
前記アナログデジタル変換部の前段に設けられた第1アンチエイリアスフィルタ及び第2アンチエイリアスフィルタと、
前記第1アンチエイリアスフィルタから入力される信号及び前記第2アンチエイリアスフィルタから入力される信号の何れか一方を、前記アナログデジタル変換部に出力する信号切り替え部と、
を備え、
前記第1アンチエイリアスフィルタの上限カットオフ周波数は、前記第2アンチエイリアスフィルタの上限カットオフ周波数より高くなるように構成され、
前記情報処理部は、
前記ステップ応答波形を取得する場合には、前記第1アンチエイリアスフィルタから入力される信号を前記アナログデジタル変換部に出力するように、前記信号切り替え部を設定し、
前記ステップ応答波形を取得しない場合には、前記第2アンチエイリアスフィルタから入力される信号を前記アナログデジタル変換部に出力するように、前記信号切り替え部を設定する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項8】
請求項5に記載の電界測定装置において、
前記情報処理部は、
前記ステップ応答波形を取得しない場合には、前記所定のサンプリング周期を第1サンプリング周期に設定するように、前記アナログデジタル変換部を設定し、
前記ステップ応答波形を取得する場合には、前記所定のサンプリング周期を前記第1サンプリング周期より短い第2サンプリング周期に設定するように、前記アナログデジタル変換部を設定する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電界測定装置において、
外部に前記補正後の前記電圧信号を送信する無線機を含み、
前記情報処理部は、前記無線機によって、補正した後の前記電圧信号を前記外部に送信する、
ように構成された、
電界測定装置。
【請求項10】
2枚の電極を含む電界検出部によって、電界に起因する電圧信号を発生させることと、
直列抵抗を介して前記電圧信号を増幅器に入力し、前記増幅器によって前記電圧信号をバッファ又は増幅して前記電圧信号を前記増幅器から出力させることと、
基準静電容量を有し、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間に出力端が接続された基準容量素子の入力端に接続されたステップ波発生部によって、ステップ波を発生させることと、
前記増幅器から出力される前記電圧信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換することと、
前記電圧信号を前記デジタル信号に変換した後、前記電圧信号を処理することと、
を行う、電界測定方法であって、
前記基準容量素子を介して、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間を通して前記ステップ波を前記増幅器に入力し、前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合の、前記増幅器の出力のステップ応答を示す波形であるステップ応答波形を取得し、
前記ステップ応答波形に基づいて、
前記電界に起因して発生する前記2枚の電極間の電極間電圧と、
前記電圧信号が示す電圧、前記基準静電容量、前記増幅器が有する寄生容量である入力静電容量及び前記電極間の静電容量である電極間静電容量と、
の関係に基づいて導出可能な振幅補正係数を算出し、
前記振幅補正係数を用いて、前記増幅器から出力される前記電圧信号の補正を行い、補正した前記電圧信号を、前記電極間電圧に対応する前記電界として取得する、
電界測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間中の電界を測定する電界測定装置及び電界測定方法に関する。更に詳しくは、本発明は、商用電源に起因する電界を測定する電界測定装置及び電界測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自由空間中を飛び交う電界には、無線通信のための無線機に起因した高周波の電界や、電気機器や送電線に起因する低周波の電界などのような商用電源に起因する低周波の電界が存在する。
【0003】
商用電源に起因する電界は、電気機器や送電線が通電しているときのみこれらの周辺の自由空間中に発生する。一方、商用電源に起因する電界は、電気機器や送電線が通電していないときには、発生しない。
【0004】
また、電気機器においては、電気機器が通電している場合であっても、故障により漏電が発生することにより本来帯電すべきでない箇所が帯電した場合、電気機器の周辺の自由空間中の電界は、正常時に比べて変化する。従って、電気機器の周辺の自由空間中の電界を監視(測定)することによって、通電の有無及び漏電発生の有無を確認できるので、電気機器の周辺の自由空間中の電界を監視(測定)することは、例えば、感電事故防止に有用である。
【0005】
商用電源に起因する電界の測定には、電界アンテナが使用される。典型的な電界アンテナは、離間し且つ対向する2つの電極板で構成される。電極板間の電界が電極板間に生じる電圧として検出される。
【0006】
この電圧を電界アンテナ外部から読み出す際の電界アンテナの出力インピーダンスは、電極板間の非常に小さい値(例えば、20pF)の静電容量となるので、高くなる。従って、この微小な値の容量性を示す電界アンテナから電圧を読み出すためには、高入力インピーダンスの読み出し回路が必要となる。
【0007】
特許文献1は、そのような電界アンテナ向けの読み出し回路として、帰還回路を用いて読み出し回路初段の増幅器のバイアス電流を供給する構成を有する読み出し回路を開示する。
【0008】
この読み出し回路は、読み出し回路のインピーダンスを高くすることができるので、効率的に電界アンテナから電圧を読み出すことができる。この読み出し回路の高入力インピーダンス化手法は、増幅器入力に並列に接続された帰還回路のインピーダンスに周波数特性を持たせる。具体的には、帰還回路のインピーダンスが、信号周波数では高インピーダンスにされ、DC(Direct Current(直流))では低インピーダンスにされることで、増幅器に対し安定的にバイアス電流を供給しつつ、電界アンテナからは増幅器が高インピーダンスに見えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2007-502423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の読み出し回路では、読み出し回路が含む増幅器に寄生的な入力容量成分が発生する。この寄生的な入力容量成分(入力容量)もまた増幅器入力に並列接続されるので、この入力容量による読み出し回路の入力インピーダンスの低下は阻止できない。
【0011】
一般に、増幅器が半導体で構成される場合(例えばディスクリート部品の差動増幅器で構成される場合)、増幅器が有する入力容量は数pFに及び、電界アンテナの出力容量に対して無視できない大きさとなる。
【0012】
従って、電界アンテナを読み出し回路に接続した場合に、電界アンテナから出力される電圧信号の振幅が減衰してしまうので、特許文献1の読み出し回路では、高感度な電界の読み出しができなくなってしまう。このため、特許文献1の読み出し回路では、電界の測定精度が低下してしまう問題があった。
【0013】
本発明は上述した課題を対処するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、電界の測定精度を向上できる電界測定装置及び電界測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明の電界測定装置は、2枚の電極を含み、電界に起因して電圧信号が発生する電界検出部と、直列抵抗を介して前記電圧信号が入力され、前記電圧信号をバッファ又は増幅して前記電圧信号を出力する増幅器と、基準静電容量を有し、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間に出力端が接続された基準容量素子と、前記基準容量素子の入力端に接続され、ステップ波を発生するステップ波発生部と、前記増幅器から出力される前記電圧信号が入力され、入力された前記電圧信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換するアナログデジタル変換部と、前記アナログデジタル変換部によって、前記電圧信号を前記デジタル信号に変換した後、前記電圧信号を処理する情報処理部と、を備え、前記情報処理部は、前記ステップ波発生部を用いて、前記基準容量素子を介して、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間を通して前記ステップ波を前記増幅器に入力し、前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合の、前記増幅器の出力のステップ応答を示す波形であるステップ応答波形を取得し、前記ステップ応答波形に基づいて、前記電界に起因して発生する前記2枚の電極間の電極間電圧と、前記電圧信号が示す電圧、前記基準静電容量、前記増幅器が有する寄生容量である入力静電容量及び前記電極間の静電容量である電極間静電容量と、の関係に基づいて導出可能な振幅補正係数を算出し、前記振幅補正係数を用いて、前記増幅器から出力される前記電圧信号の補正を行い、補正した前記電圧信号を、前記電極間電圧に対応する前記電界として取得する、ように構成されている。
【0015】
本発明の電界測定方法は、2枚の電極を含む電界検出部によって、電界に起因する電圧信号を発生させることと、直列抵抗を介して前記電圧信号を増幅器に入力し、前記増幅器によって前記電圧信号をバッファ又は増幅して前記電圧信号を前記増幅器から出力させることと、基準静電容量を有し、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間に出力端が接続された基準容量素子の入力端に接続されたステップ波発生部によって、ステップ波を発生させることと、前記増幅器から出力される前記電圧信号を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換することと、前記電圧信号を前記デジタル信号に変換した後、前記電圧信号を処理することと、を行う、電界測定方法であって、前記基準容量素子を介して、前記直列抵抗の出力端と前記増幅器の入力端との間を通して前記ステップ波を前記増幅器に入力し、前記ステップ波を前記増幅器に入力した場合の、前記増幅器の出力のステップ応答を示す波形であるステップ応答波形を取得し、前記ステップ応答波形に基づいて、前記電界に起因して発生する前記2枚の電極間の電極間電圧と、前記電圧信号が示す電圧、前記基準静電容量、前記増幅器が有する寄生容量である入力静電容量及び前記電極間の静電容量である電極間静電容量と、の関係に基づいて導出可能な振幅補正係数を算出し、前記振幅補正係数を用いて、前記増幅器から出力される前記電圧信号の補正を行い、補正した前記電圧信号を、前記電極間電圧に対応する前記電界として取得する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電界の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の第1実施形態に係る電界測定装置の構成を示す概略構成図である。
図2図2は振幅補正係数の計算方法を説明するために使用される数式を示す図である。
図3図3は静電容量の相対値を測定する時の電圧波形を示す図である。
図4図4は商用電源からの電界信号が存在する場合において、静電容量の測定値を測定する時の波形合成の方法を説明するための図である。
図5図5はマイコンが実行する処理を説明するためのフローチャートである。
図6図6は本発明の第2実施形態に係る電界測定装置の構成を示す概略構成図である。
図7図7は振幅補正係数の計算方法を説明するために使用される数式を示す図である。
図8図8はマイコンが実行する処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<背景技術の詳細及び本発明の概要>>
まず、本発明の理解を容易にするため、背景技術の詳細及び本発明の概要について説明する。既述したとおり、電界アンテナ向けの読み出し回路として、例えば、特許文献1(特表2007-502423号公報)が開示されている。特許文献1では、帰還回路を用いて読み出し回路初段の増幅器のバイアス電流を供給する読み出し回路の構成が示されている。これにより、読み出し回路のインピーダンスを高くし、効率的に電界アンテナから電圧を読み出すことができる。
【0019】
ところで、特許文献1における読み出し回路の高入力インピーダンス化手法は、増幅器入力に並列に接続された帰還回路のインピーダンスに周波数特性を持たせている。具体的には、特許文献1の読み出し回路では、信号周波数では高インピーダンスとし、DCでは低インピーダンスとする。これにより、特許文献1の読み出し回路では、増幅器に対し安定的にバイアス電流を供給しつつ、電界アンテナからは増幅器が高インピーダンスに見えるようにしている。しかしながら、本構成では、この寄生的な入力容量成分(入力容量)もまた増幅器入力に並列接続されるので、この入力容量による読み出し回路の入力インピーダンスの低下を阻止できない。一般に、増幅器が半導体で構成される場合であって例えばディスクリート部品の差動増幅器で構成される場合、増幅器が有する入力容量は数pFに及び、電界アンテナの出力容量に対して無視できない大きさとなる。その結果、電界アンテナと読み出し回路の結合において信号振幅が減衰してしまい、高感度な電界の読み出しができなくなってしまう。特許文献1には、前記の帰還回路において正帰還を行い、電界アンテナから見た帰還回路のインピーダンスを負の容量性とすることで増幅器の入力容量を打ち消す構成も開示されている。しかし、この構成では、打ち消し量が多く両者の容量の和が負となると回路が不安定となり発振に至ってしまうという課題がある。そのため、打ち消し量は増幅器の入力容量よりも小さくする必要があり、この構成を用いても入力容量を完全に打ち消すことはできない。また、半導体で構成される増幅器においては、入力容量の値は製造プロセスにより大きくばらつくことがあり、回路の量産時において入力容量の打ち消し量の設定は個々の回路に個別に行わなければならず、コストが高くなってしまう。また、入力容量のばらつきは電界アンテナと読み出し回路の結合にも影響し、電界アンテナと読み出し回路のトータルでの電界から電圧への変換ゲインが回路ごとにばらついてしまう。これによって、電界測定値に誤差が生じてしまうという課題がある。本発明は、これらの課題を鑑みてなされた。本発明の目的の一つは、読み出し回路に含まれる増幅器の入力容量(寄生容量)によって振幅が減衰してしまう電界アンテナで発生する電圧信号(「電界信号」とも称呼される場合がある。)を適正に補正することによって、電界の測定精度を向上できる電界測定装置を提供することにある。
【0020】
以下、本発明の各実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
<<第1実施形態>>
<構成>
本発明の第1実施形態に係る電界測定装置について説明する。本発明の第1実施形態に係る電界測定装置は、図1に示すように、電界アンテナ1と、読み出し回路2と、無線機3とを含む。
【0022】
電界アンテナ1は、対向し且つ離間した2枚の電極板11及び電極板12で構成される。電極板11及び電極板12は、自由空間中の電界を受信し、電界の大きさに応じた、アナログ信号である電圧信号100(電界信号)を発生し、電圧信号100を出力する。電圧信号100は、信号線を介して読み出し回路2に入力される。
【0023】
読み出し回路2は、高出力インピーダンスを有する電界アンテナ1から出力される電圧信号100を、高入力インピーダンスで受け、アナログ信号からデジタル信号237に変換して無線機3に出力するための回路である。
【0024】
読み出し回路2は、直列抵抗210と、増幅器220と、マイクロコンピュータMC1(以下、「マイコンMC1」と称呼される。)と、を含む。読み出し回路2は、更に、基準容量素子230と、バイアス回路240と、アッテネータ250とを含む。
【0025】
増幅器220は、高入力インピーダンスを有する。増幅器220には、高出力インピーダンスの電界アンテナ1(電界プローブとして機能する電界アンテナ1)からの電圧信号100が、直列抵抗210を介して入力される。増幅器220は、電圧信号100を増幅又はバッファして出力する(本例においては、バッファして出力する。)。
【0026】
増幅器220は、例えば、入力インピーダンスの高いFET入力型のオペアンプで構成することができる。増幅器220の入力バイアス電流は、バイアス回路240を通じて供給される。バイアス回路240は、増幅器220の入力バイアス電流が微小な場合には抵抗値の大きな抵抗としてもよいし、特許文献1のように帰還回路として高インピーダンスにしてもよい。なお、説明の便宜上、図1において、増幅器220は、理想的な増幅器である理想増幅器221と寄生容量222とを含む等価回路で表されている。
【0027】
マイコンMC1は、マイクロコンピュータであり、CPU、ROM、RAM、読み書き可能な不揮発性メモリ及びインターフェースI/Fなどを含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。
【0028】
マイコンMC1は、増幅器220から出力される電圧信号を処理する情報処理部として機能し、機能ブロックとして、AD変換器231と、振幅補正部232と、補正係数算出部233と、GPIO(General-purpose input/output)234とを含む。なお、マイコンMC1は、マイクロコンピュータに代えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やその他回路手段で実装してもよい。AD変換器231は、マイコンMC1に内蔵されておらず、マイコンMC1の外部に設けられていてもよい。
【0029】
AD変換器231には、増幅器220から出力されたアナログ信号である電圧信号201が入力される。AD変換器231は、アナログ信号をデジタル信号に変換するコンバータであり、「アナログデジタル変換部」として機能する。AD変換器231は、電圧信号201を所定のサンプリング周波数(サンプリング周期)でデジタル信号に変換し、デジタル信号に変換された電圧信号201Dを出力する。
【0030】
振幅補正部232には、AD変換器231から出力された電圧信号201Dが入力される。振幅補正部232は、振幅補正係数kを用いて、電圧信号201Dを補正し、補正後の電圧信号201Dであるデジタル信号237を無線機3に供給する。なお、振幅補正係数kについては、のちに詳述する。
【0031】
補正係数算出部233は、GPIO234を通じて、所定のタイミングでステップ波を、基準静電容量C230を有する基準容量素子230を介して、直列抵抗210の出力端と増幅器220の入力端との間の接続点に入力する。この場合、ステップ波と電圧信号100(電界信号)とが重畳された電圧信号100Sが増幅器220に入力され、増幅器220から電圧信号201Sが出力される。この電圧信号201Sは、増幅器220の出力のステップ応答の波形(以下、「ステップ応答波形236」と称呼される。)を含む。なお、以下では、説明の便宜上、ステップ応答波形236を含まない電圧信号201と、ステップ応答波形を含む電圧信号201Sとを区別するために、電圧信号201Sは、「ステップ応答信号201S」とも称呼される。
【0032】
AD変換器231は、ステップ応答信号201Sを所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換し、デジタル信号に変換されたステップ応答信号201DSを出力する。補正係数算出部233には、ステップ応答信号201DSが入力される。補正係数算出部233は、ステップ応答信号201DSに含まれるステップ応答波形236に基づいて、上述した振幅補正係数kを計算する。更に、補正係数算出部233は、計算した振幅補正係数kを振幅補正部232に出力する。なお、振幅補正係数kの計算方法についても、のちに詳述する。
【0033】
無線機3は、振幅補正部232によって補正された後の電圧信号201Dであるデジタル信号237を無線通信によって、電圧測定装置の外部に存在する管理サーバ(不図示)に送信する。管理サーバは、受信したデジタル信号237を、電極板11及び電極板12間の電界(電圧V0に対応する電界)として取得する。なお、電界測定装置は、無線機3を省略した構成であってもよい。
【0034】
以下、補正係数算出部233が実行する振幅補正係数k及びその計算方法について、詳細に説明する。なお、上述したように、本例において、増幅器220は増幅率が「1」であるバッファとして機能する。
【0035】
増幅器220はゼロでない寄生容量を有している。既述した通り、図1では、増幅器220が持つ寄生容量が、「寄生容量222」と明示されている。更に、理想増幅器221は寄生容量を有さない理想的な増幅器として、表現されている。
【0036】
電界アンテナ1にて発生する電圧信号100は、寄生容量222の影響によって、電界アンテナ1の電極板11及び12間の電界を示す(電界に対応する)電圧V0(「電界アンテナ1の出力開放電圧V0」又は「信号源電圧V0」とも称呼される。)の振幅に比べて、減衰している。即ち、図1のブロックB1に示すように、電界アンテナ1は、電圧V0と、容量101との等価回路で表され、電圧信号100は、電圧V0の振幅に比べて、その振幅が減衰してしまう。
【0037】
寄生容量222による信号振幅の減衰は、電界アンテナ1の電極板間容量との比で決まる。即ち、観測をしたい商用電源の周波数(信号周波数)において、電圧信号100の電圧V100は、電圧V0の分圧で表すことができることから、電圧V0(V)と電圧V100(V100)との関係は、図2の式(1)により表すことができる。なお、式(1)中、C1(C)は電界アンテナ1の電極板間静電容量(容量101の静電容量)を示し、C222(C222)は寄生容量222の静電容量を示し、C230(C230)は基準容量素子230の静電容量を示す。
【0038】
式(1)からわかるように、C222が増幅器220の製造ばらつきによりばらついたとき、電界アンテナ1からの読み出しのゲインが変動してしまい、高精度な電界の測定ができない。なお、ここで、電圧信号100の信号周波数において、C1、C222、C230のインピーダンスは、バイアス回路240のインピーダンスと比較して十分小さく設定され、且つ、直列抵抗210のインピーダンスよりも十分大きく設定されているものとする。
【0039】
式(1)で表される電圧信号100(電圧V100)の減衰は、「C1」と、「C1+C222+C230」との相対値が分かれば、信号処理によって補正が可能となる。
【0040】
この相対値は、ステップ波を、基準容量素子230を介して増幅器入力200(増幅器220の入力端と直列抵抗210の出力端との間の接続点)に注入した際の読み出し回路2の各部の動作波形に基づいて、測定することが可能である。
【0041】
以下、図3を参照しながら、ステップ波を注入した際の各部の動作波形により、C1と、「C1+C222+C230」との相対値を測定する方法について説明する。
【0042】
図3中、電圧V203は、GPIO234が発生するステップ波を、アッテネータ250に通した後の電圧信号203の電圧を示す。なお、GPIO234は、0V(GND)レベルか電源電圧の2値しか出力できないので、アッテネータ250により適切な振幅になるようにステップ波を減衰させる。減衰させる理由は、増幅器入力200の電圧が増幅器220の入力電圧レンジに収まるようにするためである。また、振幅が大きいと増幅器220が大信号動作し動作が不安定になる場合があるからである。そのような必要がない場合、アッテネータ250は省略されてもよい。
【0043】
図3中、電圧VSTEPは、電圧信号203におけるステップ波の振幅を示す。電圧V200は、ステップ波が基準容量素子230に入力された場合の増幅器入力200の電圧を示す。
【0044】
図3に示すように、ステップ波(即ち、電圧信号203)が基準容量素子230に入力されると、図3の電圧V200が示すように、時刻t(=0)にて、電圧V200は、瞬間的にステップ状に上昇する。これは、基準容量素子230(基準容量)と寄生容量222とでステップ波が分圧されるためである。従って、電圧V200の波高を示す第1波高値VA(V)は、図2の式(2)で表すことができる。
【0045】
その後、電圧V200は、直列抵抗210を介した電界アンテナ1の電極板間静電容量との電荷再配分により、1次のRC応答で波高が減少していく。このRC応答の時定数τは、図2の式(3)で定まる。なお、式(3)中、Rsは直列抵抗210の抵抗値である。
【0046】
ステップ波を入力した時点(t=0)から5τ経過後には電荷再配分は99%以上完了しており、増幅器入力200の電圧は、定常状態に達する。このときの波高(振幅)を第2波高値VBとすると、第2波高値VB(V)は図2の式(4)で表される。
【0047】
すると、式(2)及び式(4)を用いて式(1)を第1波高値VA及び第2波高値VBで図2の式(5-1)のように表わすことができる。更に、図2の式(5-1)は、図2の式(5-2)に変形できる。
【0048】
つまり、第1波高値VA及び第2波高値VBを測定すれば、測定した第1波高値VA及び第2波高値VBを、式(5-2)に適用することにより、減衰後の電圧V100から真の信号源電圧V0を算出できることがわかる。即ち、補正係数算出部233は、図2の式(6)によって示される振幅補正係数kを、測定した第1波高値VA及び第2波高値VBを式(6)に適用することにより求める。換言すると、補正係数算出部233は、測定した第1波高値VAを、第1波高値VAから第2波高値VBを引いた差分により除することにより、振幅補正係数kを算出する。そして、振幅補正部232は、振幅補正係数kをデジタル信号である電圧信号201Dに乗じることによって、寄生容量222の影響のない真の信号源電圧波形(デジタル信号237)を取得できることがわかる。
【0049】
電圧V200の第1波高値VA及び第2波高値VBの測定は、マイコンMC1がステップ波を入力した場合の増幅器220からの出力を、マイコンMC1が、そのAD変換器231を介して、取得することによって実行することができる。
【0050】
マイコンMC1がステップ波を入力した場合、増幅器220の出力のステップ応答信号201Sに含まれるステップ応答波形の電圧V201は、図3に示すように有限の応答時間により波高がなまる。更に、AD変換器231(AD変換)のサンプリングレート(サンプリング周波数)も有限であるため、瞬間的な第1波高値VA(波高)の直接的な観測は困難である。そこで、マイコンMC1は、AD変換器231がサンプリング周期Tsでサンプリングした電圧V201のステップ応答波形(RC応答波形)に基づいて、ステップ波を入力した時点の増幅器220の入力(増幅器入力200)の第1波高値VAを推定することによって、第1波高値VAを取得する。具体的に述べると、マイコンMC1は、電圧V201のRC応答波形を指数関数で外挿していき、ステップ波を入力したタイミングでの第1波高値VAを示す電圧値(図3では時刻t0のV201の推定値VA)を読み取ることで第1波高値VAを取得することができる。
【0051】
なお、このサンプル点の外挿をより適正に実行するためには、サンプリング周期Tsは、例えば式(3)の時定数τよりも短いことが好ましい(換言すると、式(3)の時定数τは、サンプリング周期Tsよりも大きいことが好ましい。)。例えば、具体的に数値例を述べると、C1=20pF、C222=4pF、C230=3pFであるとき、AD変換器231のサンプリング周波数が標準的なマイコンでの値である100kHzであるとすると、Rsは1.9MΩ以上であることが好ましい。
【0052】
第1波高値VAをより高精度に測定するために時定数τの期間内に複数のサンプリング点が必要な場合は、Rsを更に増加するように設定することが好ましい。ただし、Rsの値はバイアス回路240のインピーダンスよりも十分小さく設定されることがより好ましい。これは、直列抵抗210を介した電荷再配分が静定して第2波高値VBが測定できる前にバイアス回路240により電荷が抜けてしまうのを防止するためである。
【0053】
以上説明した振幅補正係数kを用いて電界測定を行う電界測定装置では、電界を測定する実運用前に振幅補正係数kを取得しておくことができる。しかし、長期にわたる電界測定や温度など環境条件の変化の激しい状況では、汚れの付着や半導体の劣化及び温度特性によってC222やC1の値が変化する可能性がある。
【0054】
そのような場合には、電界測定装置は、実運用中に容量測定(振幅補正係数kの計算)を行うのが望ましい。その際には、ステップ応答に重畳した電界信号波形が、第1波高値VA及び第2波高値VBの測定の障害となる可能性がある。
【0055】
そこで、図4に示すように、商用電源起因の電界測定においては、電界信号周波数が50Hzや60Hzなどと既知であるため、電界測定装置は、電界信号周波数(商用電源周波数)の整数倍の周波数でステップ応答を測定することが好ましい。これにより、電界測定装置は、応答波形を平均化(平均化処理)することによって、電界信号波形を打ち消し、且つ、ステップ応答波形を強めあうことができる。
【0056】
<振幅補正係数kを計算するための実際の動作>
補正係数算出部233は、振幅補正係数kを計算するために、次のように動作する。即ち、補正係数算出部233は、所定のタイミングで、GPIO234に対してトリガ信号238を送り、アッテネータ250と基準容量素子230とを介して、直列抵抗210の出力端及び増幅器220の入力端との間に、図3のV203に示すステップ波を注入する(入力する。)。
【0057】
これにより、増幅器220には、電圧信号100にステップ応答が重畳された電圧信号100Sが入力される。このときの増幅器220の出力である電圧信号201S(ステップ応答信号201S)は、信号線を通りマイコンMC1に入力される。このステップ応答信号201Sは、図3のV201に示す、増幅器220の出力のステップ応答を示す波形(以下、「ステップ応答波形」と称呼される。)を含む。
【0058】
マイコンMC1は、ステップ応答信号201Sを、マイコンMC1に内蔵のAD変換器231でアナログ信号からデジタル信号に変換し、補正係数算出部233に入力する。
【0059】
補正係数算出部233は、ステップ応答波形をAD変換器231から出力された、デジタル信号に変換されたステップ応答信号201DSから取得する。補正係数算出部233は、ステップ応答波形に基づいて、既述したように、振幅補正係数kを計算する。
【0060】
<マイクロコンピュータの具体的動作>
以上の処理フローは、全て補正係数算出部233で行われ、マイコンMC1のプログラムとして実行される。マイコンMC1は、図5に示すフローチャートにより示したルーチンを実行するように構成される。
【0061】
電界測定装置は、予め定められた時刻又はイベントとなるまで電界測定を待機するように構成される。従って、マイコンMC1は、図5のステップS1から処理を開始してステップS2に進むと、現時点が電界測定時刻か否かを判定する。
【0062】
現時点が電界測定時刻ではない場合、マイコンMC1はステップS2にて「No」と判定して再びステップS2の処理を実行する。
【0063】
現時点が電界測定時刻である場合、マイコンMC1はステップS2にて「Yes」と判定して、ステップS3に進む。ステップS3にて、マイコンMC1は、ステップ応答波形236をN個集めたか否かを判定する。即ち、マイコンMC1は、後述のステップS4乃至ステップS9の処理により集めたステップ応答波形236の数がN個(N個以上)であるか否かを判定する。
【0064】
マイコンMC1がステップ応答波形236をN個集めていない場合、マイコンMC1はステップS3にて「No」と判定して、以下に述べるステップS4乃至ステップS9の処理を順に実行する。
ステップS4:マイコンMC1は、ステップ応答波形236の記録を開始する。
ステップS5:マイコンMC1は、Ts1秒間だけ待機する。
ステップS6:マイコンMC1は、ステップ波をGPIO234から出力する。
ステップS7:マイコンMC1は、Ts2秒間だけ待機する。
ステップS8:マイコンMC1は、ステップ応答波形236の記録を終了する。
ステップS9:マイコンMC1は、ステップ応答波形記録までTw秒待機する。
【0065】
ステップS3乃至ステップS9は、V201のステップ応答波形をN個集める処理である。これらの処理は、Nが2以上の場合、既述の平均化処理を行うために実行される処理となる。平均化処理を行わない場合にはNに1を代入して(N=1)これらの処理が実行されてもよい。
【0066】
マイコンMC1がステップS3乃至ステップS9の処理を実行することにより、ステップS3にて、マイコンMC1がステップ応答波形236をN個集めると、マイコンMC1はステップS3にて「Yes」と判定してステップS10に進む。なお、上述の処理では、ステップ応答波形の測定間隔は、Ts1とTs2とTwとの合計時間になる。本例において、この合計時間が、電圧信号の周期の整数分の1に設定されている。従って、その後の平均化処理(ステップS10)によって、電圧信号の波形を打ち消し、且つ、ステップ応答波形を強めあうことができる。
【0067】
ステップS10にて、マイコンMC1は、N個のステップ応答波形を含む電圧信号の平均化処理を行う。その後、マイコンMC1は、ステップS11に進み、平均化処理後のステップ応答波形に対して、第1波高値VA及び第2波高値VBの読み取りを行う。上述した外挿処理による第1波高値VAの読み取りは、このステップS11にて行われる。
【0068】
その後、マイコンMC1は、ステップS12に進み、第1波高値VA及び第2波高値VBがそれぞれ規定の範囲内であるか否かを判定する。
【0069】
マイコンMC1は、第1波高値VA及び第2波高値VBの少なくとも一つが規定外であれば電界測定装置の故障と判断する。第1波高値VA及び第2波高値VBの値は、C222及びC1の値で規定されるため、第1波高値VA及び第2波高値VBの少なくとも一つの値が設計上期待される範囲外の値である場合には、C222及び/又はC1に(即ち、電界アンテナ1及び/又は増幅器220)に、何らかの異常が発生している可能性があると判断できるからである。
【0070】
従って、第1波高値VA及び第2波高値VBの少なくとも一つが規定外である場合、マイコンMC1はステップS12にて「No」と判定してステップS13に進む。
【0071】
ステップS13にて、マイコンMC1は、故障のアラート信号を、無線機3を通じて機器管理者に知らせる処理を行った後、ステップ14に進み、その動作を一旦終了する。
【0072】
ステップS12にて、第1波高値VA及び第2波高値VBが共に規定の範囲内である場合、マイコンMC1は、「Yes」と判定して以下に述べるステップS15乃至ステップS19の処理を順に実行する。
ステップS15:マイコンMC1は、既述したように、振幅補正係数kを計算する。
ステップS16:マイコンMC1は、電圧信号201D(電界信号)の波形測定を行う。
ステップS17:マイコンMC1は、振幅補正係数kを用いて電圧信号201D(電界信号)の振幅を補正計算する。
ステップS18:マイコンMC1は、無線機3にて振幅補正後のデジタル信号237(電界信号波形)を送出する。
ステップS19:マイコンMC1は、処理を一旦終了する。
【0073】
本発明の第1実施形態に係る電界測定装置は、振幅補正係数kを算出するキャリブレーション工程(ステップS3からステップS15までの処理)を行っている。本例において、電界測定装置は、図5のルーチンを実行する毎に、キャリブレーション工程を、ステップS16以降の処理(電界測定を行う処理)の前に、行うように構成されている。しかし、電界測定装置は、図5のルーチンを実行する毎に、キャリブレーション工程を行う必要はない。電界測定装置は、図5のルーチンを実行することにより、振幅補正係数kを算出した後に、図5のルーチンを実行する場合、図5のルーチンからステップS3乃至ステップS15の処理を省略したルーチンを実行してもよい。
【0074】
即ち、キャリブレーション工程(ステップS3からステップS15までの処理)はC222やC1の値の変動の影響を補正するために実行される。このため、キャリブレーション工程の頻度は、電界測定頻度や電界測定装置の設置環境によって適切に変えることが消費電力や処理時間の観点からは望ましい。例えば毎秒のように電界測定を行う場合において、キャリブレーション工程は、毎回行う必要はなく毎時行えばよい。キャリブレーション工程を省略する場合、既述した通り、マイコンMC1は、ステップS3乃至ステップS15の処理を省略し、ステップS2の次にステップS16を実行すればよい。
【0075】
<効果>
以上説明したように、第1実施形態に係る電界測定装置は、未知の寄生容量222が電界アンテナ1の読み出し回路2に存在する場合であっても、寄生容量222による電界信号の減衰を振幅補正することができるので、電界の測定精度を向上できる。更に、この電界測定装置によれば、マイコンMC1を使用することによって、高価な部品を使用しない簡単な構成によって、寄生容量222による電界信号の減衰を振幅補正することが可能となる。従って、この電界測定装置は、電界の測定精度の向上に加えて、コストも低減できる。
【0076】
<<第2実施形態>>
<構成>
本発明の第2実施形態に係る電界測定装置について説明する。第2実施形態に係る電界測定装置は、図6に示すように、アナログスイッチ260と、帰還アンプ270と、帯域幅の異なる2種類のアンチエイリアスフィルタ281及び282と、マルチプレクサ239とが、第1実施形態に係る電界測定装置に対して追加されている。以上の点以外、図1に示す第1実施形態に係る電界測定装置と同様の構成を有する。
【0077】
アナログスイッチ260は、マイコンMC1からの指令に応じて、アッテネータ250と帰還アンプ270と基準容量素子230との接続状態を第1接続状態及び第2接続状態の何れかに切り替える(設定する)ためのスイッチである。
【0078】
第1接続状態は、帰還アンプ270の出力端と基準容量素子230の入力端との間が接続された状態である。第2接続状態は、アッテネータ250の出力端と基準容量素子230の入力端との間が接続された状態である。
【0079】
帰還アンプ270は、増幅器220の出力端と増幅器220の入力端との間の帰還経路に設けられている。
【0080】
アンチエイリアスフィルタ281(以下、「第1フィルタ281」と称呼される。)は、上限カットオフ周波数が所定の第1周波数に設定された広帯域のアンチエイリアスフィルタである。アンチエイリアスフィルタ282(以下、「第2フィルタ282」と称呼される。)は、上限カットオフ周波数が所定の第1周波数より低い第2周波数に設定された、第1フィルタ281に比べて狭帯域のアンチエイリアスフィルタである。
【0081】
マルチプレクサ239は、マイコンMC1からの指令に基づいて、第1フィルタ281から入力される信号及び第2フィルタ282から入力される信号の何れか一方を、AD変換器231へ出力する信号切り替え器である。
【0082】
<概要>
電界測定装置において、基準容量素子230は、ステップ応答測定時以外の通常電界測定時には役割がなく、増幅器入力200に接続された信号振幅を減衰する容量にしかならない。このため、電界測定装置において、通常電界測定時には、基準容量素子230の存在を排除することが、SN比のよい電界測定を行うために望ましい。
【0083】
そこで、電界測定装置は、通常電界測定時には、切り替え信号206及びアナログスイッチ260によって、基準容量素子230と帰還アンプ270とを接続し、帰還アンプ270を増幅率1のバッファとして動作させる。これにより、電解測定装置は、増幅器入力200から見た基準容量素子230の容量値を等価的に0にできる。
【0084】
一般には、帰還アンプ270の増幅率をGとした場合には、電圧V0と電圧信号100の電圧V100の関係は、図7の式(7)で表される。
【0085】
本例において、帰還アンプ270の増幅率(G)は1である。Gを1とした場合にはC230の振幅への影響がなくなる。なお、Gは1より大きくされてもよい。Gが1よりも大きくされた場合には、等価的に負の静電容量を生み出すことができる。
【0086】
このとき、図2の式(2)及び式(4)を用いて、図7の式(7)を第1波高値VA及び第2波高値VBで表すと、図7の式(8)のようになる。即ち、この場合の振幅補正係数kは、式(8)の右辺のV0の係数の逆数であり、図7の式(9)となる。
【0087】
SN比のよい電界測定を行うためには、測定する電界の周波数帯域を信号周波数帯域に絞ることが望ましい。これに対して、ステップ応答の測定のためにはAD変換器231にて広帯域の信号が取得されなければならない。
【0088】
そこで、電界測定装置は、電界測定時には狭帯域の第2フィルタ282を用い、ステップ応答測定時には広帯域の第1フィルタ281を用いるように構成される。これにより、電界測定装置は、ステップ応答の測定に対応しつつSN比のよい電界測定を実行できる。
【0089】
更に、電界測定装置は、AD変換器231のサンプリング周波数を、電界測定時には低くし(例えば、第1サンプリング周波数(第1サンプリング周期)に設定し)、ステップ応答測定時には電界測定時より高くする(例えば、第1サンプリング周波数より高い第2サンプリング周波数(第1サンプリング周期より短い第2サンプリング周期)に設定する)ように構成される。このように、電界測定装置は、AD変換器231のサンプリング周波数を、必要に応じて動的に変えることによって、マイコンMC1の消費電力を抑えることができる。
【0090】
<マイクロコンピュータの具体的動作>
マイコンMC1は、図8に示すフローチャートにより示したルーチンを実行するように構成される。
このフローチャートは、以下の点のみにおいて図5のフローチャートと相違する。
図5のステップS2とステップS3との間にステップS250乃至ステップS252が追加されている。
図5のステップS15とステップS16との間にステップS1550乃至ステップ1552が追加されている。
【0091】
従って、以下ではこれらの相違点を中心として説明する。
【0092】
ステップS250:マイコンMC1は、AD変換器231を高速モードに設定する。即ち、マイコンMC1は、AD変換器231のサンプリング周波数を第2サンプリング周波数に設定する。
【0093】
ステップS251:マイコンMC1は、アナログスイッチの接続状態を、第2接続状態に切り替えることにより、帰還アンプ270を基準容量素子230から切り離す。
ステップS252:マイコンMC1は、広帯域の第1フィルタ281からの信号がマルチプレクサ239からAD変換器231に入力されるようにする。
【0094】
ステップS1550:マイコンMC1は、AD変換器231を低速モードに設定する。即ち、マイコンMC1は、AD変換器231のサンプリング周波数を第2サンプリング周波数より小さい第1サンプリング周波数に設定する。
ステップS1551:マイコンMC1は、アナログスイッチ260の接続状態を、第1接続状態に切り替えることにより、帰還アンプ270を基準容量素子230に接続する。
ステップS1552:マイコンMC1は、狭帯域の第2フィルタ282からの信号がマルチプレクサ239からAD変換器231に入力されるようにする。
【0095】
<効果>
以上説明したように、第2実施形態に係る電界測定装置は、ステップ応答の測定に対応しつつSN比のよい電界測定を実行できる。更に、この電界測定装置は、AD変換器231のサンプリング周波数を、必要に応じて動的に変えることによって、マイコンMC1の消費電力を抑えることができる。
【0096】
<<変形例>>
本発明は上記各実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、第2実施形態において、帰還アンプ270が省略されてもよい。更に、上記各実施形態の特徴は、本発明の範囲を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…電界アンテナ、2…読み出し回路、11,12…電極板、101…容量、210…直列抵抗、220…増幅器、230…基準容量素子、231…AD変換器、232…振幅補正部、233…補正係数算出部、234…GPIO、250…アッテネータ、222…寄生容量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8