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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】回転駆動装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20241015BHJP
   H02K 5/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H02K15/02 A
H02K5/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021104315
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003246
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(72)【発明者】
【氏名】横田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤森 琢也
(72)【発明者】
【氏名】久保 明仁
(72)【発明者】
【氏名】矢野 景太
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-153294(JP,A)
【文献】特開2002-027688(JP,A)
【文献】特開2021-052493(JP,A)
【文献】特許第6513240(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0326790(US,A1)
【文献】特開2014-017926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力伝達部材に連結されたロータ部材と、前記ロータ部材の径方向外側に装着されたステータと、前記回転駆動力伝達部材を有すると共に、前記ロータ部材及び前記ステータが内部に組み付けられたケースと、前記ステータの外周から半径外方向に延出し、前記ケースに対して該ステータの位置決めを行うステータ凸部と、前記ケースの内周から半径内方向に延出し、前記ステータ凸部と周方向で重畳するように配置されたケース凸部と、前記ステータ凸部と前記ケース凸部との間に設けられ、前記ケースに対して前記ステータ凸部を、組付時において周方向に沿って回動可能となるように配置された逃げ部とを備え、前記ケースへの組付時に固定治具によって前記ロータ部材と前記ステータとが互いに固定される回転駆動装置の製造方法であって、
前記固定治具を用いて前記ロータ部材と前記ステータとを一体的に固定してモジュールを構成する工程と、
前記モジュールに対して位相合わせ治具をセットする工程と、
前記モジュールを変位させ、前記回転駆動力伝達部材に設けられたスプロケットに前記位相合わせ治具を装着して前記ロータ部材と前記スプロケットとの位相を合わせる工程と、
前記モジュールのピン挿通孔に前記ケースとの相対位置出しピンを挿入して、前記ロータ部材と前記ステータと前記スプロケットと前記ケースとの位相を合わせる工程と、
前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具及び前記相対位置出しピンを取り外す工程と、
前記モジュールを変位させ、前記モジュールを前記ケース内に挿入する工程と、
前記逃げ部を介して、前記ケースに対して前記モジュール自体を回動させることで、前記ロータ部材を前記スプロケットに装着する工程と、
前記モジュールから前記固定治具を取り外す工程と、
を有することを特徴とする回転駆動装置の製造方法。
【請求項2】
回転駆動力伝達部材に連結されたロータ部材と、前記ロータ部材の径方向外側に装着されたステータと、前記回転駆動力伝達部材を有すると共に、前記ロータ部材及び前記ステータが内部に組み付けられたケースと、前記ステータの外周から半径外方向に延出し、前記ケースに対して該ステータの位置決めを行うステータ凸部と、前記ケースの内周から半径内方向に延出し、前記ステータ凸部と周方向で重畳するように配置されたケース凸部と、前記ステータ凸部と前記ケース凸部との間に設けられ、前記ケースに対して前記ステータ凸部を、組付時において周方向に沿って回動可能となるように配置された逃げ部とを備え、前記ケースへの組付時に固定治具によって前記ロータ部材と前記ステータとが互いに固定される回転駆動装置の製造方法であって、
前記固定治具を用いて前記ロータ部材と前記ステータとを一体的に固定してモジュールを構成する工程と、
前記回転駆動力伝達部材に設けられたスプロケットに対して位相合わせ治具をセットする工程と、
前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具を前記モジュールに装着して前記ロータ部材と前記スプロケットとの位相を合わせる工程と、
前記モジュールのピン挿通孔に前記ケースとの相対位置出しピンを挿入して、前記ロータ部材と前記ステータと前記スプロケットと前記ケースとの位相を合わせる工程と、
前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具及び前記相対位置出しピンを取り外す工程と、
前記モジュールを変位させ、前記モジュールを前記ケース内に挿入する工程と、
前記逃げ部を介して、前記ケースに対して前記モジュール自体を回動させることで、前記ロータ部材を前記スプロケットに装着する工程と、
前記モジュールから前記固定治具を取り外す工程と、
を有することを特徴とする回転駆動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ等の回転駆動装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータ及びロータをケーシングに組み付ける際、ステータとロータとの間に磁気吸引作用が働く。そこで、ステータを予めケーシングに対して組み付けた後、例えば、センタガイドを用いてスタータとのクリアランスを確保しながら、ロータを取り付ける手法がある。
【0003】
しかしながら、センタガイドを使用することができない場合には、例えば、特許文献1に示されているように、ステータとロータとを予め治具で固定し、この治具で固定されたステータ及びロータをケーシングに対して組み付けた後、治具を取り外す手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6513240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された製造方法では、ステータとロータとを治具によって固定した状態で組み付ける場合、ロータの位相がステータの位相に依存してしまう。このため、ロータとロータの下流側に配置された回転駆動力伝達部材(例えば、インプットシャフト等)との位相合わせが困難となり、組付性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、ロータとインプットシャフト等との位相合わせを簡便に遂行することが可能な回転駆動装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、回転駆動力伝達部材に連結されたロータ部材と、前記ロータ部材の径方向外側に装着されたステータと、前記回転駆動力伝達部材を有すると共に、前記ロータ部材及び前記ステータが内部に組み付けられたケースと、前記ステータの外周から半径外方向に延出し、前記ケースに対して該ステータの位置決めを行うステータ凸部と、前記ケースの内周から半径内方向に延出し、前記ステータ凸部と周方向で重畳するように配置されたケース凸部と、前記ステータ凸部と前記ケース凸部との間に設けられ、前記ケースに対して前記ステータ凸部を、組付時において周方向に沿って回動可能となるように配置された逃げ部とを備え、前記ケースへの組付時に固定治具によって前記ロータ部材と前記ステータとが互いに固定される回転駆動装置の製造方法であって、前記固定治具を用いて前記ロータ部材と前記ステータとを一体的に固定してモジュールを構成する工程と、前記モジュールに対して位相合わせ治具をセットする工程と、前記モジュールを変位させ、前記回転駆動力伝達部材に設けられたスプロケットに前記位相合わせ治具を装着して前記ロータ部材と前記スプロケットとの位相を合わせる工程と、前記モジュールのピン挿通孔に前記ケースとの相対位置出しピンを挿入して、前記ロータ部材と前記ステータと前記スプロケットと前記ケースとの位相を合わせる工程と、前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具及び前記相対位置出しピンを取り外す工程と、前記モジュールを変位させ、前記モジュールを前記ケース内に挿入する工程と、前記逃げ部を介して、前記ケースに対して前記モジュール自体を回動させることで、前記ロータ部材を前記スプロケットに装着する工程と、前記モジュールから前記固定治具を取り外す工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明は、回転駆動力伝達部材に連結されたロータ部材と、前記ロータ部材の径方向外側に装着されたステータと、前記回転駆動力伝達部材を有すると共に、前記ロータ部材及び前記ステータが内部に組み付けられたケースと、前記ステータの外周から半径外方向に延出し、前記ケースに対して該ステータの位置決めを行うステータ凸部と、前記ケースの内周から半径内方向に延出し、前記ステータ凸部と周方向で重畳するように配置されたケース凸部と、前記ステータ凸部と前記ケース凸部との間に設けられ、前記ケースに対して前記ステータ凸部を、組付時において周方向に沿って回動可能となるように配置された逃げ部とを備え、前記ケースへの組付時に固定治具によって前記ロータ部材と前記ステータとが互いに固定される回転駆動装置の製造方法であって、前記固定治具を用いて前記ロータ部材と前記ステータとを一体的に固定してモジュールを構成する工程と、前記回転駆動力伝達部材に設けられたスプロケットに対して位相合わせ治具をセットする工程と、前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具を前記モジュールに装着して前記ロータ部材と前記スプロケットとの位相を合わせる工程と、前記モジュールのピン挿通孔に前記ケースとの相対位置出しピンを挿入して、前記ロータ部材と前記ステータと前記スプロケットと前記ケースとの位相を合わせる工程と、前記モジュールを変位させ、前記位相合わせ治具及び前記相対位置出しピンを取り外す工程と、前記モジュールを変位させ、前記モジュールを前記ケース内に挿入する工程と、前記逃げ部を介して、前記ケースに対して前記モジュール自体を回動させることで、前記ロータ部材を前記スプロケットに装着する工程と、前記モジュールから前記固定治具を取り外す工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ロータとインプットシャフト等との位相合わせを簡便に遂行することが可能な回転駆動装置の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るモータが駆動システムに適用されたシステム構成図である。
図2】モータを構成するステータ及びロータの分解斜視図である。
図3】ステータ及びロータと、インプットシャフト及び支持部材の分解斜視図である。
図4】ステータ、ロータ、インプットシャフト、及び、支持部材の縦断面図である。
図5】スプロケット、支持部材、及び、インプットシャフトの分解斜視図である。
図6】ステータ凸部とケース凸部との間の逃げ部を示す平面図である。
図7】固定治具及び位相合わせ治具を用いて組み付ける工程を示す一部破断斜視図である。
図8図6の位相合わせ治具を分解した状態を示す分解斜視図である。
図9】位相合わせ治具を組み付けた状態を示す縦断面図である。
図10】相対位置出しピンの斜視図である。
図11】固定治具及び位相合わせ治具を用いて、ケースに対しステータ及びロータを組み付ける工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
図1に示されるように、本発明の実施形態に係るモータ(回転駆動装置)10が適用された駆動システムは、エンジン12と、エンジン12からの回転駆動力が伝達されるインプットシャフト(回転駆動力伝達部材)14と、このインプットシャフト14に連結されるロータ16と、ロータ16の内部に収容されるトルクコンバータ18と、ロータ16の外径側に装着されるステータ20と、エンジン12と反対側に配置され、インプットシャフト14に連結される変速機22と、この変速機22に接続されるディファレンシャル機構(図1に示すDIFF)24とを備えて構成されている。
【0012】
なお、本実施形態では、「ロータ部材」として、ロータ16の内部にトルクコンバータ18が配置された場合を例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、トルクコンバータ18が配置されていないロータ単品であってもよい。
【0013】
図2に示されるように、ロータ16は、有底円筒体からなるロータ本体部26と、ロータ本体部26の上端から半径外方向に向かって突出する環状フランジ部28と、ロータ本体部26の下部中心から下方に向かって延出する円筒延出部30とを備えて構成されている。
【0014】
図4に示されるように、ロータ本体部26の内部には、内側天井面から下方に向かって突出し、インプットシャフト14の先端部が挿通される円筒状の挿通部32が設けられている。この挿通部32の下方には、インプットシャフト14に設けられたスプライン部34(スプライン歯、図3図5参照))とスプライン嵌合するスプライン溝が形成されたスプライン溝部36と、インプットシャフト14を支持する支持部材38に設けられたスプライン部40(スプライン歯、図3図5参照)とスプライン嵌合するスプライン溝が形成されたスプライン溝部42とがそれぞれ配置されている。
【0015】
なお、インプットシャフト14に設けられたスプライン部34とスプライン溝部36とのスプライン嵌合部と、インプットシャフト14を支持する支持部材38に設けられたスプライン部40とスプライン溝部42とのスプライン嵌合部との位相は、スプラインの歯数に対応してずれている。このため、本実施形態では、後記するように、図11に示すステップS7の回動操作によって両者の位相合わせが遂行される。
【0016】
図2及び図3に示されるように、環状フランジ部28には、周方向に等角度離間して複数のスタッドボルト44が配置されている。各スタッドボルト44は、そのねじ部が環状フランジ部28の上面から上方に向かって突出するように設けられている。各スタッドボルト44は、後記する固定治具46のナット48に締結される(図7図8参照)。
【0017】
図2に示されるように、円筒延出部30の下端には、周方向に沿って等角度離間して配置された4つの位置決め用切欠部50が設けられている。各位置決め用切欠部50は、側面視して略矩形状を呈している。この位置決め用切欠部50は、インプットシャフト14を支持する支持部材38によって保持されるスプロケット55の内径突起部56が装着されるように設けられている(図3参照)。また、この位置決め用切欠部50は、モータ10の組付時において、後記する位相合わせ治具52の位置決め用凸部54が装着されるように設けられている(図7図8参照)。
【0018】
ステータ20は、ロータ16を外嵌する環状体からなり、図示しないステータコアと、ステータ巻線とを含んで構成されている。
【0019】
また、ステータ20の外周部には、略直径方向で互いに対向する位置に配置され(図6参照)、半径外方向に向かって突出する突出片からなる一組のタップ58a、58bが設けられている。なお、一方のタップ58aと他方のタップ58bとは、ステータ20の外周部に沿ってミラー形状で対称となるように配置されている(図6参照)。各タップ58a(58b)は、平面視して面取りされた矩形状を呈し、ステータ20の外周面に連続している(図6参照)。図6に示されるように、このタップ58a、58bには、後記する相対位置出しピン60(図10参照)を挿通させ、その先端をノックピン85に嵌挿するためのピン挿通孔(ノック孔)62と、ステータ20をケース72に締結するための締付孔64aと、後記する締付ボルト113(図7図8参照)を介して、固定治具46とステータ20とを締結する締付タップ孔64bとが反時計回り方向に沿ってそれぞれ配置されている。なお、締付孔64aは、ステータ20の外周縁部に沿って複数個配置されている(図6参照)。
【0020】
さらに、図6に示されるように、ステータ20の外周部には、半径外方向に向かって延出し、後記するケース72に対するステータ20の位置決めを行う複数のステータ凸部66が設けられている。この各ステータ凸部66には、ステータ20をケース72に締結するための締付孔64aが設けられている(図6参照)。
【0021】
図5に示されるように、インプットシャフト14は、円板状の台座部76と、この台座部76から上方に向かって突出するシャフト部78と、シャフト部78の上部側の外周面において、周方向に沿って複数のスプライン歯が連続して設けられたスプライン部34とから構成されている。なお、台座部76の下面は、変速機22(図1参照)に連結されている(図5参照)。
【0022】
図7に示されるように、ロータ16及びステータ20が組み付けられるケース72は、略円形状の開口部82を有するケース本体部84と、ディファレンシャル機構24の軸部86が外部に露出する円形状孔部88とを有している。ケース本体部84の側壁には、凹部を介して、円筒状を呈するノックピン85が装着されている。このノックピン85の内径部には、相対位置出しピン90のテーパ部70cが嵌挿されるノックピン装着孔74が設けられている。このノックピン装着孔74は、一組のタップ58a、58bと上下方向で対応する位置にそれぞれ配置されている。換言すると、一組のタップ58a、58bに挿通した相対位置出しピン60をノックピン85のノックピン装着孔74に挿入すると、ステータ20とケース72との位相が一致する。
【0023】
図6に示されるように、ケース本体部84には、側壁の内周から半径内方向に延出し、ステータ凸部66と周方向で重畳するように配置された複数のケース凸部94が設けられている。このケース凸部94は、平面視して、ステータ20の外周側に向かって円弧状に膨出するように設けられている。
【0024】
ステータ凸部66とケース凸部94との間には、ケース72に対してステータ凸部66を、組付時において周方向に沿って回転可能となるように配置された逃げ部96が設けられている。この逃げ部96は、周方向で重畳するように配置されたステータ凸部66とケース凸部94との間の周方向に沿った離間空間(空間部)によって構成されている。
【0025】
図3図5に示されるように、インプットシャフト14を回転自在に支持する支持部材38は、インプットシャフト14が挿通される貫通孔を有する円筒支持部114と、円筒支持部114の下端から半径外方向に向かって突出する平板状支持部116と、円筒支持部114の上端に設けられ、周方向に沿って複数のスプライン歯が設けられたスプライン部40と、平板状支持部116と近接する円筒支持部114の根本に設けられた環状部120とから構成されている。
【0026】
この環状部120には、略リング状を呈するスプロケット55が嵌挿される。スプロケット55の内側には、周方向に沿って等角度離間して配置された4つの内径突起部56が設けられている(図5参照)。この内径突起部56には、位相合わせ治具52が装着された際、円筒体110の下端に設けられた位置決め用切欠部115が装着されて位置決めされる(図8参照)。
【0027】
次に、ロータ16及びステータ20をケース72に組み付ける際に用いられる各種治具の構造について、以下詳細に説明する。
【0028】
先ず、ロータ16とステータ20とを一体的に固定する固定治具46について説明する。なお、本実施形態では、一体的に固定されたロータ16、ステータ20、及び、固定治具46を以下、「モジュール」という
【0029】
図7及び図8に示されるように、この固定治具46は、上側に設けられた小径の上側円板部100aと、下側に設けられた大径の下側円板部100bとが同軸状で一体的に構成されている。上側円板部100aの外周面と下側円板部100bの外周面との間には、環状段差部が設けられている。上側円板部100aの上面の外周側には、一対のハンドル102が径方向で対向するように装着されている。
【0030】
また、一対のハンドル102を結ぶ対角線と直交する方向には、一対のリング104が固定されている。このリング104には、例えば、ホイスト106(機械式ホイストや電動ホイスト等を含む)によって吊り上げ操作及び吊り下げ操作を行うためのワイヤが取り付けられる(図8参照)。なお、ホイスト106には、吊り上げ作業及び吊り下げ作業を効率的に遂行すると共に、後記する位相合わせをするときに摩擦力を軽減する無重力バランサが付設されているとよい。
【0031】
下側円板部100bの上面には、平面視して長円状を呈し、周方向に沿って離間する複数の締結用凹部108が配置されている。この締結用凹部108内には、ロータ16の外周面に配置されたスタッドボルト44に締結されるナット48が固定されている。
【0032】
また、下側円板部100bの外周部には、半径外方向に突出し、周方向に沿って等角度離間する複数(本実施形態では、例えば、4つ)の突出部109が設けられている。各突出部109の下方には、ステータ20側に向かって突出する治具ノック111が設けられている(図7の加相線参照)。この治具ノック111は、ステータ20の外周部から半径外方向に向かって突出するタップ115の治具ノック装着孔117(図6参照)に装着される。
【0033】
ディファレンシャル機構24は、ケース72の円形状孔部88から露出する軸部86を有している(図6参照)。この軸部86は、図示しない複数のディファレンシャルギヤと噛合し、図示しないレンチ等を用いて軸部86を所定方向に回動させることで、インプットシャフト14を所定方向に回動させることができる。
【0034】
次に、固定治具46によって一体的に固定されたロータ16及びステータ20の位相と、ケース72との位相との位相合わせを行う位相合わせ治具52について説明する。
【0035】
図8に示されるように、この位相合わせ治具52は、内部に軸方向に沿って貫通孔を有する円筒体110によって構成されている。この円筒体110の下端には、スプロケット55の内径突起部56が装着される位置決め用切欠部115が周方向に沿って等角度離間するように4つ設けられている。円筒体110の上端側には、環状溝を介してOリング112が装着されている。
【0036】
このOリング112の下方で円筒体110の上部側には、周方向に沿って等角度に離間する4つの位置決め用凸部54が設けられている。各位置決め用凸部54は、ロータ16から下方に向かって延出する円筒延出部30の下端に周方向に90度ずつ等角度離間する4つの位置決め用切欠部50にそれぞれ装着される(図7参照)。なお、円筒体110の上部側に設けられた位置決め用凸部54と、下端部に設けられた位置決め用切欠部115とは、それぞれ周方向で同位置となるように対応する位置に配置されている(図8参照)。
【0037】
ロータ16と、ステータ20と、ケース72と、スプロケット55とからなる四者の位相合わせを行うために、2本の相対位置出しピン60が用いられる。図10に示されるように、この相対位置出しピン60は、円柱状のシャフトからなるピン本体部70aと、ピン本体部70aの上部側に配置され、半径外方向に向かって突出する円板状の係止部70bと、係止部70bと反対側のピン本体部70aの下端部に設けられるテーパ部70cとが一体的に構成されている。なお、ピン本体部70aの中間部位には、ピン本体部70aの下側よりも直径が増大する段付部71が設けられている(図10参照)。
【0038】
係止部70bは、タップ58a、58bのノックピン挿通孔62に挿通された際、タップ58a、58bに当接して係止されるものである(図7参照)。テーパ部70cは、ケース72の凹部に固定されたノックピン85のノックピン装着孔74に装着されてケース72に対する相対位置出しピン60の挿通が規制されると共に、ノックピン装着孔74によって相対位置出しピン60が所望の位置精度で支持される(図7参照)。
【0039】
本実施形態に係るモータ10が適用された駆動システムは、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、図11に示すフローチャートに基づいてその製造方法について詳細に説明する。
【0040】
先ず、ロータ16とステータ20とを予め固定治具46で固定してモジュールを構成する(ステップS1)。具体的には、ロータ16の環状フランジ部28に設けられた複数のスタッドボルト44を、固定治具46の下側円板部100bの締結用凹部108内に固定されたナット48に対して締結する。
【0041】
また、固定治具46の下側円板部100bの突出部109に設けられたボルト挿通孔111に挿通されたボルト113を、ステータ20の外周部から半径外方向に向かって突出するタップ58a、58bのボルト締結孔64に対して締結する。これにより、ロータ16と、ステータ20と、固定治具46からなる三者が一体的に固定されてモジュールが構成される。
【0042】
次に、図8に示されるように、位相合わせ治具52をモジュールにセットする(ステップS2)。具体的には、位相合わせ治具52の円筒体110の上部側に設けられた各位置決め用凸部54を、ロータ16の中心から下方に向かって延出する円筒延出部30の下端に設けられた各位置決め用切欠部50に対してそれぞれ装着する。
【0043】
続いて、ホイスト106(図8参照)を操作してモジュール及び位相合わせ治具52を下降させ、スプロケット55に一度載せて位相を合わせる(ステップS3)。その際、位相合わせ治具52の円筒体110の下端に設けられた各位置決め用切欠部115に対して、スプロケット55の各内径突起部56をそれぞれ装着する(図7及び図9参照)。これにより、ロータ16とスプロケット55との位相が一致する。
【0044】
続いて、モジュールを構成するタップ58a、58bのピン挿通孔62に相対位置出しピン60をそれぞれ挿通させると共に、各相対位置出しピン60のテーパ部70cを含む下端をケース72のピン装着孔74にそれぞれ装着する(ステップS4)。これにより、ロータ16、ステータ20、ケース72、スプロケット55からなる四者の相対位置が所定位置に位置決めされる。
【0045】
続いて、ホイスト106を操作して、モジュールを上昇させて、位相合わせ治具52と相対位置出しピン60とをそれぞれ取り外す(ステップS5)。このとき、モジュールは、上下に移動するだけなので、四者の回動方向の相対位置は、ほとんど変化しない。さらに、ホイスト196を操作してモジュールを再度下降させ、モジュールをケース72の開口部82内に取り付ける(ステップS6)。その際、ロータ16の円筒延出部30に設けられた位置決め用切欠部50には、インプットシャフト14を支持する支持部材38によって保持されるスプロケット55の内径突起部56が装着される(図3参照)。
【0046】
さらに、図4に示されるインプットシャフト14に設けられたスプライン部34とスプライン溝部36とのスプライン嵌合部と、インプットシャフト14を支持する支持部材38に設けられたスプライン部40とスプライン溝部42とのスプライン嵌合部との位相は、スプラインの歯数に対応してずれている。このため、モジュールがケース72に取り付けられた状態において、必要に応じて、ケース72の円形状孔部88から露出するディファレンシャル機構24の軸部86を、例えば、レンチを用いて僅かに回動させ、及び/又は、固定治具46のハンドル102を用いてモジュール自体を僅かに回動させる(ステップS7)。この回動操作は、時計回り方向、又は、反時計回り方向のいずれであってもよい。この結果、本実施形態では、軸部86及び/又はモジュール自体の回動操作によって、インプットシャフト14に設けられたスプライン部34とスプライン溝部36とのスプライン嵌合部と、インプットシャフト14を支持する支持部材38に設けられたスプライン部40とスプライン溝部42とのスプライン嵌合部との間で位相合わせが行われる。
【0047】
本実施形態では、ステータ凸部66と、このステータ凸部66と周方向で重畳するケース凸部94との間に逃げ部96が設けられている。この回動操作の調整によってモジュール(ステータ凸部66)は、ケース72に対して、逃げ部96の離間空間の量だけ回動させることができる(図6の二点鎖線参照)。
【0048】
なお、軸部86の回動操作、及び、モジュール自体の回動操作は、少なくともいずれか一方、又は、その両方でロータ16とインプットシャフト14等の位相合わせ行うようにするとよい。これにより、ロータ16とインプットシャフト14等の位相合わせ作業を簡便且つ迅速に遂行することができる。
【0049】
最後に、ホイスト106を操作して、モジュールを組付完了位置まで降下させた後、ナット48及びボルト113を取り外してロータ16及びステータ20から固定治具46を取り外して組付工程が終了する(ステップS8)。
【0050】
さらに、本実施形態では、ステップS1~ステップS8の組付工程を行うことで、固定治具46によってロータ16とステータ20とが一体的に構成されている場合であっても、ロータ16とインプットシャフト14等の位相合わせが容易となる。
【0051】
なお、本実施形態では、ステップS2において、位相合わせ治具52をモジュール側にセットしているが、例えば、位相合わせ治具52を、スプロケット55側(ケース72側)にセットするようにしてもよい。すなわち、インプットシャフト14に設けられたスプロケット55に対して位相合わせ治具52をセットした後、ホイスト106を操作してモジュールを変位させ、位相合わせ治具52をモジュール(ロータ16の円筒延出部30)に装着してロータ16とスプロケット55との位相を合わせるようにしてもよい。これにより、ロータ16とインプットシャフト14等の位相合わせを容易に遂行することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 モータ
14 インプットシャフト(回転駆動力伝達部材)
16 ロータ(ロータ部材)
18 トルクコンバータ(ロータ部材)
20 ステータ
46 固定治具
52 位相合わせ治具
55 スプロケット
66 ステータ凸部
72 ケース
94 ケース凸部
96 逃げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11