(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
F02M25/08 Z
(21)【出願番号】P 2021129132
(22)【出願日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷田 侑也
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-019396(JP,A)
【文献】特開2004-162685(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061135(WO,A1)
【文献】特開2022-185308(JP,A)
【文献】特開2019-019761(JP,A)
【文献】特開2005-113869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、
少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、
制御装置とを備え、
前記制御装置は
前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、
推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、
この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくとも前記キャニスタを含
み燃料タンクを含まない検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されている、漏れ検出装置。
【請求項2】
請求項1の漏れ検出装置であって、前記制御装置は、推定された前記蒸発燃料の残存量が所定の基準値以上の場合には正圧に基づく検出方式を選択し、それ以外の場合には負圧に基づく検出方式を選択するよう構成されている、漏れ検出装置。
【請求項3】
請求項1または2の漏れ検出装置であって、前記制御装置は前記キャニスタからパージされた蒸発燃料の濃度に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている、漏れ検出装置。
【請求項4】
請求項3の漏れ検出装置であって、前記制御装置は前記濃度と前記蒸発燃料の残存量との関係に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている、漏れ検出装置。
【請求項5】
蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、
少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、
制御装置とを備え、前記制御装置は
前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、
推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、
この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくとも前記キャニスタを含む検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されており、
前記制御装置は前記キャニスタからパージされた蒸発燃料の濃度に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されており、
前記制御装置は前記濃度に基づいて所定の期間内の積算パージ燃料量を算出し、この積算パージ燃料量に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている、漏れ検出装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかの漏れ検出装置であって、
検出対象領域内に正圧を印加する正圧印加装置と、
検出対象領域内に負圧を印加する負圧印加装置とを備えており、
前記制御装置は、前記正圧印加装置と前記負圧印加装置を選択的に動作させることにより前記検出対象領域内に正圧または負圧を印加するように構成されている、漏れ検出装置。
【請求項7】
蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、
少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、
制御装置とを備え、前記制御装置は
前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、
推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、
この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくとも前記キャニスタを含む検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されており、
検出対象領域内に正圧を印加する正圧印加装置と、
検出対象領域内に負圧を印加する負圧印加装置とを備えており、
前記制御装置は、前記正圧印加装置と前記負圧印加装置を選択的に動作させることにより前記検出対象領域内に正圧または負圧を印加するように構成されており、
前記制御装置は、
選択した検出方式に合致する必要な大きさの正圧または負圧が既に前記蒸発燃料処理システム内に存在するかどうかを判定し、
必要な大きさの正圧または負圧が既に存在すると判定した場合には、前記正圧印加装置や前記負圧印加装置を用いることなく、その既に存在している正圧または負圧に基づいて漏れ検出を行うように構成されている、漏れ検出装置。
【請求項8】
蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、
少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、
制御装置とを備え、前記制御装置は
前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、
推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、
この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくとも前記キャニスタを含む検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されており、
検出対象領域内に正圧を印加する正圧印加装置と、
検出対象領域内に負圧を印加する負圧印加装置とを備えており、
前記制御装置は、前記正圧印加装置と前記負圧印加装置を選択的に動作させることにより前記検出対象領域内に正圧または負圧を印加するように構成されており、
前記負圧印加装置は前記キャニスタから流体を燃料タンクに吸引することで前記キャニスタに負圧を印加する、漏れ検出装置。
【請求項9】
蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、
少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、
制御装置とを備え、前記制御装置は
前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、
推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、
この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくとも前記キャニスタを含む検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されており、
検出対象領域内に正圧を印加する正圧印加装置と、
検出対象領域内に負圧を印加する負圧印加装置とを備えており、
前記制御装置は、前記正圧印加装置と前記負圧印加装置を選択的に動作させることにより前記検出対象領域内に正圧または負圧を印加するように構成されており、
前記正圧印加装置は、大気から前記キャニスタを介して空気を燃料タンクに吸引することで前記燃料タンクに正圧を印加し、その正圧を有する前記燃料タンクから流体を前記キャニスタに移動させることで前記キャニスタに正圧を印加する、漏れ検出装置。
【請求項10】
請求項8または9の漏れ検出装置であって、
燃料供給ポンプから圧送される燃料によって駆動されるアスピレータを備えており、このアスピレータによって前記キャニスタから流体を前記燃料タンクに吸引する、漏れ検出装置。
【請求項11】
請求項6の漏れ検出装置であって、前記キャニスタと大気との間に可逆ポンプを備えており、この可逆ポンプが前記正圧印加装置と前記負圧印加装置とを構成している、漏れ検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン車では、燃料タンクで蒸発した燃料をキャニスタ内に吸着して蓄積し、その蓄積された燃料蒸気をエンジン作動時に吸気管へとパージする蒸発燃料処理システムを備える。一部の蒸発燃料処理システムは、燃料タンク、キャニスタやそれらの周辺の検出対象領域に穴開きがないかどうかを自動的に診断する漏れ検出装置を備える。例えば国際公開第2014/061135号にはそのような漏れ検出装置が開示されている。
【0003】
漏れ検出には正圧式と負圧式がある。正圧式の診断では、システム内に強制的に正圧を導入した後に検出対象領域を密閉状態にし、例えば内圧が大気圧に向かって低下する速さに基づいて漏れの有無を判定する。負圧式も同様に、負圧を導入した後の検出対象領域の内圧が上昇する速さを用いて診断を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャニスタ内の活性炭などの吸着材の表面に吸着する蒸発燃料の量は、周囲の気相における燃料濃度(分圧)に依存する。様々な吸着材料について、一定の温度における飽和(平衡)吸着量の濃度依存性を表す吸着等温線が良く知られている。したがって、例えば、キャニスタ内に蒸発燃料が多く存在しているときに漏れ検出のためにキャニスタに負圧を印加すると、平衡状態に向かうべく燃料蒸気が吸着材から脱離する。このように、吸着されていた燃料蒸気がキャニスタから湧き出したり、逆にキャニスタに新たな燃料蒸気が吸着したりすると、検出対象領域の内圧が変化するため、結果的に漏れ検出の精度に影響を与える可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ひとつの態様は、蒸発燃料処理システムの漏れ検出装置であって、少なくともキャニスタを含む蒸発燃料処理システムと、制御装置とを備え、制御装置は前記キャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定し、推定された前記蒸発燃料の残存量に応じて正圧に基づく漏れ検出と負圧に基づく漏れ検出のいずれかの検出方式を選択し、この選択した検出方式を用い、密閉状態の少なくともキャニスタを含む検出対象領域内に存在する正圧または負圧の時間変化に基づいて漏れを検出するよう構成されている。これにより、キャニスタの燃料蒸気の残存量に起因する漏れ検出の精度低下を抑制できる。
【0007】
実施形態によっては、前記制御装置は、推定された前記蒸発燃料の残存量が所定の基準値以上の場合には正圧に基づく検出方式を選択し、それ以外の場合には負圧に基づく検出方式を選択するよう構成されている。これにより、正圧と負圧のいずれを使用するかを基準値を用いて簡単に判断できる。
【0008】
実施形態によっては、前記制御装置は前記キャニスタからパージされた蒸発燃料の濃度に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている。こうすることにより、通常エンジン制御に用いられる蒸発燃料の濃度を利用してキャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定することが可能となる。
【0009】
実施形態によっては、前記制御装置は前記濃度と前記蒸発燃料の残存量との関係に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている。こうすることにより、その時点の蒸発燃料の濃度から簡便に残存量を推定することが可能となる。
【0010】
実施形態によっては、前記制御装置は前記濃度に基づいて所定の期間内の積算パージ燃料量を算出し、この積算パージ燃料量に基づいて前記蒸発燃料の残存量を推定するよう構成されている。これにより、残存量を時間変化まで考慮して精度よく推定することが可能となる。
【0011】
実施形態によっては、検出対象領域内に正圧を印加する正圧印加装置と、検出対象領域内に負圧を印加する負圧印加装置とを備えており、前記制御装置は、前記正圧印加装置と前記負圧印加装置を選択的に動作させることにより前記検出対象領域内に正圧または負圧を印加するように構成されている。これにより、漏れ検出のために正圧または負圧を強制的に作り出すことが容易となる。
【0012】
実施形態によっては、前記制御装置は、選択した検出方式に合致する必要な大きさの正圧または負圧が既に前記蒸発燃料処理システム内に存在するかどうかを判定し、必要な大きさの正圧または負圧が既に存在すると判定した場合には、前記正圧印加装置や前記負圧印加装置を用いることなく、その既に存在している正圧または負圧に基づいて漏れ検出を行うように構成されている。これにより、正圧印加装置や負圧印加装置を駆動する電力を抑えつつ漏れ検出を行うことが可能である。
【0013】
実施形態によっては、前記負圧印加装置は前記キャニスタから流体を燃料タンクに吸引することで前記キャニスタに負圧を印加する。これにより、キャニスタに吸着されている蒸発燃料の濃度分布を燃料タンク側に移動させることができ、キャニスタから大気への蒸発燃料の排出を抑制することが可能である。
【0014】
実施形態によっては、前記正圧印加装置は、大気から前記キャニスタを介して空気を前記燃料タンクに吸引することで前記燃料タンクに正圧を印加し、その正圧を有する前記燃料タンクから流体を前記キャニスタに移動させることで前記キャニスタに正圧を印加する。これにより、キャニスタに吸着されている蒸発燃料の濃度分布を燃料タンク側に移動させることができ、キャニスタから大気への蒸発燃料の排出を抑制することが可能である。
【0015】
実施形態によっては、前記漏れ検出装置はさらに、燃料供給ポンプから圧送される燃料によって駆動されるアスピレータを備えており、このアスピレータによって前記キャニスタから流体を前記燃料タンクに吸引する。これにより、燃料供給ポンプから圧送される燃料の運動量を利用してキャニスタに正圧または負圧を作り出すことが可能となる。
【0016】
実施形態によっては、前記漏れ検出装置はさらに、前記キャニスタと大気との間に可逆ポンプを備えており、この可逆ポンプが前記正圧印加装置と前記負圧印加装置とを構成している。これにより、一つの可逆ポンプで正圧と負圧を作り出すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ひとつの実施形態として漏れ検出装置を備えた蒸発燃料処理システムの構成図である。
【
図2】ひとつの実施形態として漏れ検出の方式を決定するための流れを示す図である。
【
図3】
図1のシステムのキャニスタに対し正圧式での漏れ検出を行うためのタイミングチャートである。
【
図4】アスピレータを駆動して大気からタンクに正圧を蓄積させているときのシステムを示す図である。
【
図5】封鎖弁を開放してタンクからキャニスタに正圧を導入しているときのシステムを示す図である。
【
図6】
図1のシステムのキャニスタに対し負圧式での漏れ検出を行うためのタイミングチャートである。
【
図7】アスピレータを駆動してキャニスタに負圧を印加しているときのシステムを示す図である。
【
図8】別の実施形態として正負圧切替ポンプを用いた漏れ検出装置を含む蒸発燃料処理システムの構成図である。
【
図9】正負圧切替ポンプを駆動してキャニスタに正圧を導入するためのタイミングチャートである。
【
図10】正負圧切替ポンプを逆向きに駆動してキャニスタに負圧を導入するためのタイミングチャートである。
【
図11】別の実施形態としてパージ制御弁(VSV)を開放して吸気管内の負圧をキャニスタとタンクに導入するためのタイミングチャートである。
【
図12】別の実施形態として、タンクに自然発生していた負圧を開放した後にキャニスタに正圧を導入するためのタイミングチャートである。
【
図13】タンクに自然発生していた正圧を開放した後にキャニスタに負圧を導入するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら様々な実施形態を説明する。
【0019】
[蒸発燃料処理システム]
図1は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジン6を備えた車両に搭載できる、一つの実施形態としての蒸発燃料処理システムを示す。蒸発燃料処理システムは、燃料タンク2と、この燃料タンク2内で蒸発した燃料蒸気を一時的に蓄積するためのキャニスタ4を備える。キャニスタ4のタンクポートには、燃料タンク2の気相部分と連通するようにベーパ通路が接続される。キャニスタ4の大気ポートには、一端が大気弁16を介して大気に開放された大気通路36が連通して接続される。燃料タンク2内で蒸発した燃料蒸気はベーパ通路を通してキャニスタ4に流入し、キャニスタ4内の活性炭などを含んだ吸着層5に吸着し、蓄積される。ベーパ通路の途中には封鎖弁12が設けられる。そのため、封鎖弁12と大気弁16が開放されている場合、燃料タンク2の燃料蒸気圧が相対的に高くなると燃料タンク2中の蒸発燃料がキャニスタ4に流れ込んで蓄積される。キャニスタ4にはケースの内部の温度と圧力をそれぞれ検知する温度センサ27と圧力センサ28が設けられる。
【0020】
キャニスタ4のパージポートには、パージ通路39が吸着層5のタンク側と連通するように接続され、パージ通路39の他端は、エンジン6の吸気通路に連通して接続される。パージ通路39の途中にはパージ制御弁14が設けられる。エンジン6が作動中でかつパージ制御弁14と大気弁16が開放されている状態では、キャニスタ4に蓄積されていた燃料蒸気がエンジン6の吸気負圧により吸入されて、エンジン6内で燃焼させられる。なお、
図3などに示すタイミングチャートにおいては、パージ制御弁14をVSV(吸気切替弁)、大気弁16をCCV(キャニスタ閉鎖弁)と表記している。
【0021】
燃料タンク2の底部には燃料タンク2内の燃料をエンジン6に供給するための燃料ポンプ8が設置される。燃料ポンプ8により送出された燃料は燃料供給通路56を通して、例えばインジェクタから吸気管に噴霧される。燃料タンク2には気相の温度と圧力をそれぞれ検知する温度センサ22と圧力センサ24が設けられる。
【0022】
[アスピレータ]
図1に示すように、燃料タンク2内には、キャニスタ4から燃料タンク2に流体を引き込むためのアスピレータ40が設けられる。アスピレータ40は燃料ポンプから送出された高圧の燃料によって駆動させることができる。この場合、燃料供給通路56からは、燃料ポンプからの燃料の一部をアスピレータ40に導く分岐通路52を分岐させる。分岐通路52の途中には分岐弁20が設けられる。アスピレータ40の吸引ポート42には、キャニスタ4の吸着層5のタンク側と連通するように吸引通路54が接続される。吸引通路54の途中には遮断弁18が設けられる。
【0023】
アスピレータ40は、詳細は図示しないが、流路が収束する収束部と、拡大する拡大部(ディフューザ)とを備え、これらの間は流路断面積が狭い絞り部となっている。またアスピレータ40は、導入ポート41から導入された燃料を絞り部に向けて噴射するノズルを備える。燃料ポンプ8から送出された燃料の一部は分岐通路52を通してアスピレータ40内へ導入される。導入された燃料はノズルから収束部を通して絞り部に向かって高速で噴射される。このとき、燃料流の断面積の減少によるベンチュリ効果によって、燃料流の周囲に負圧となる減圧空間が形成される。これにより、減圧空間と連通する吸引通路54やキャニスタ4にも吸引力が印加される。吸引通路54を通して吸引ポート42から吸引された流体(例えばキャニスタ4からの燃料蒸気を含む気体)は、ノズルから噴射された燃料と共にディフューザを通り、吐出ポート43から燃料タンク2に吐き出される。吸引通路54の途中に圧力センサ26を設けることにより、アスピレータ40の減圧空間の圧力に基づく燃料の飽和蒸気圧特性の決定などにこれを利用することも可能である。
【0024】
[制御装置]
図1に示すように、漏れ検出装置は、プロセッサ、メモリを含む電子制御装置(ECU)60を含む。ECU60は、温度センサ22、27、圧力センサ24、26、28などの検知器からデータ信号を受け取るよう構成される。また、ECU60は、封鎖弁12、パージ制御弁14、大気弁16、遮断弁18、分岐弁20などの弁や、燃料ポンプ8などの機器に制御信号を送信することによりその機器の動作を制御できるよう構成される。
【0025】
[漏れ検出]
図2は一つの実施形態としての漏れ検出のプロセスを示す流れ図である。以下に説明する漏れ検出のプロセスは、基本的にECU60のメモリに保存されたプログラムをプロセッサで実行することにより行う。漏れ検出は、例えば、エンジン6の停止(キーオフ)を検知した後に開始する。漏れ検出を行うには検出対象領域30を閉鎖する必要があり、このためにECU60は適切な弁を閉じる。一つの実施形態として、検出対象領域30は、
図1に破線で示すように、キャニスタ4を含み燃料タンク2を含まない閉鎖系とすることができ、この場合、封鎖弁12、パージ制御弁14、大気弁16、遮断弁18を閉じることとなる。別の実施形態として、検出対象領域はキャニスタ4と燃料タンク2の両方を含む閉鎖系とすることも可能である。この場合、パージ制御弁14と大気弁16とを閉じ、封鎖弁12を開いておくことになる。図示しない実施形態として封鎖弁12を有さない非密閉タンクシステムが採用される場合には、キャニスタ4と燃料タンク2の両方を含む領域を検出対象とすることしかできない。
【0026】
[漏れ検出の方式]
漏れ検出の方式は、蒸気圧式と印加圧式に大別される。また、漏れ検出は正圧式と負圧式に分類することもできる。例えば、蒸気圧式は、強制的な圧力印加を行うことなく、自然に発生した燃料の蒸気圧を含むシステム内の全圧が後述のように十分な正圧または負圧となっている場合に実施できる。一方で、印加圧式の漏れ検出の実施は、検出対象領域30に強制的に正圧または負圧を導入することから始まる。なお、負圧式の「漏れ」診断で直接確かめているのは大気から蒸発燃料処理システム内への「漏入」があるかどうかであるが、当然ながら診断の目的は大気への燃料蒸気の「漏出」が起こりうるかどうかの判断である。本願では、負圧式の場合も単に「漏れ検出」と言うことがある。
【0027】
[実行条件の確認]
まず、漏れ検出を実施するための条件が満たされているかを確認する。例えば、検出対象領域30の温度や圧力の時間変化が一定値以下となっていることを確認する(
図2、S10)。そして、条件が満たされていない場合は、満たされるまで待機することができる。
【0028】
[正圧式と負圧式の選定]
次に、漏れ検出の方式を選定するプロセスに進む。正圧式と負圧式の選定は、キャニスタ4における蒸発燃料の残存量に基づいて行う。ここでいう蒸発燃料の残存量とは、キャニスタ4内の吸着層5の吸着材料の表面に吸着している蒸発燃料のみならず、吸着層(複数ある場合)同士の間の空間など、キャニスタ4のケース内に存在している蒸発燃料の量を意図している。上述のようなキャニスタ4における蒸発燃料の残存量は正確な値を知ることができないが、後述のように、種々の方法で推測することは可能である(
図2、S12)。実施形態によっては、蒸発燃料の残存量が所定の基準値以上の場合には正圧式を選択し、それ以外の場合には負圧式を選択するようにしてもよい(S14、S16、S18)。この基準値は、あらかじめ決められた一定値であってもよいし、温度などの環境パラメータに依存して決められる値であってもよい。前述の通り、キャニスタ内に蒸発燃料が多く存在しているときに漏れ検出のためにキャニスタに負圧を印加すると、平衡状態に向かうべく燃料蒸気が吸着材から脱離する。このように、吸着されていた燃料蒸気がキャニスタから湧き出すと、その分だけ漏れ検出中に検出対象領域30の内圧が上昇するため、結果的に漏れ検出の精度に影響を与える可能性がある。したがって、キャニスタ4における蒸発燃料の残存量が比較的多い場合には正圧式を選択することにより、漏れ検出の精度低下を抑制できる。同様の理由から、キャニスタ4における蒸発燃料の残存量が比較的少ない場合には負圧式を選択することが有効である。
【0029】
[蒸発燃料の残存量の推定方法]
蒸発燃料の残存量は、キャニスタ4からパージされた蒸発燃料の濃度(パージ燃料濃度)に基づいて推定するようにしてもよい。このパージ燃料濃度は、例えば、通常排気管に配置された空燃比計(酸素センサを利用したもの)を通じて算出される混合気の空燃比に基づいて、間接的に測定することができる。あるいは、パージ通路に燃料濃度センサ(例えば炭化水素濃度センサ)を配置してパージ燃料濃度を直接測定することもできる。このようにすることにより、通常エンジン制御に用いられる蒸発燃料の濃度を利用してキャニスタ内の蒸発燃料の残存量を推定することが可能となる。
【0030】
一つの実施形態として、蒸発燃料の残存量は、パージ燃料濃度とキャニスタ4における蒸発燃料の残存量との関係に基づいて推定するようにしてもよい。このようにすることにより、その時点の蒸発燃料の濃度から簡便に残存量を推定することが可能となる。大気から取り込まれたパージ空気がキャニスタ4を通るとき、キャニスタ4における蒸発燃料の残存量が多いほどパージ燃料濃度は高くなると考えられる。この関係は一定の相関にあると仮定してもよいが、例えば、エンジン6の吸気負圧とパージ制御弁14の制御量(チョッピング制御のデューティ比など)とをパラメータとして決まる関係としてあらかじめ与えてもよい。
【0031】
別の実施形態として、パージ燃料濃度に基づいて所定の期間内の積算パージ燃料量を算出し、この積算パージ燃料量から蒸発燃料の残存量を推定するようにしてもよい。これにより、残存量を時間変化まで考慮して精度よく推定することが可能となる。積算パージ燃料量はパージ燃料濃度とパージ制御弁14を通るパージ流の流量(パージ流量)とパージ時間から算出できる。パージ流量はパージ通路に配置された流量計で測定してもよいし、エンジン6の吸気負圧とパージ制御弁14の制御量に基づいて推定あるいは学習することもできる。積算パージ燃料量は、前回の給油時以降に行われたパージについての積算値でもよいし、直前の一回の走行(トリップ)中に行われたパージについての積算値でもよい。給油時にはキャニスタ4に最大量の蒸発燃料が吸着したと仮定することができる。したがって、給油時以降(あるいは直前の一回の走行中)に所定の量の蒸発燃料がキャニスタ4からパージされていればキャニスタ4における蒸発燃料の残存量が前述の所定の基準値以下になっていると推定することができる。
【0032】
[蒸気圧式]
次に、検出対象領域内に強制的に圧力を印加することなく蒸気圧式を用いて漏れ検出を実施することが可能かどうかを判定する(
図2、S20)。封鎖弁12が開放されている場合やそもそも封鎖弁12を有さない場合は、圧力センサ24、28を用いてキャニスタ4と燃料タンク2の両方を含む領域に必要な大きさの正圧または負圧が存在するかを確認する。封鎖弁12が閉鎖されている場合は、燃料タンク2に蓄積された正圧または負圧を封鎖弁12の開放によりキャニスタ4に印加することによりキャニスタ4(検出対象領域)に必要な大きさの正圧または負圧が生じるかどうかを確認する。必要とされる正圧または負圧は、例えば、大気圧の上下5kPaの圧力とすることができる。必要な大きさの圧力が存在すると判定した場合は蒸気圧式で漏れ検出を実行する(S23)。これにより、後述のようにアスピレータ40や可逆ポンプ70(
図8)を圧力創出手段として駆動する電力を抑えることが可能である。
【0033】
[印加圧式:アスピレータの利用]
蒸気圧式が利用できず印加圧式を用いる場合は、以下に説明するような様々な圧力創出手段を用いて検出対象領域内に正圧または負圧を強制的に印加する(S22)。正圧式が選択された場合、一つの実施形態として、
図3に示すように、大気弁16(CCV)と遮断弁18を開き、アスピレータ40を作動させてキャニスタ4を通して燃料タンク2に正圧を導入する(t1および
図4)。その後、アスピレータ40を停止し大気弁16(と遮断弁18)を閉じてから封鎖弁12を開くことによりキャニスタ4を正圧にする(t2および
図5)。負圧式が選択された場合、
図6に示すように、大気弁16と遮断弁18を開きアスピレータ40を作動させてキャニスタ4を通して燃料タンク2に正圧を導入する(t1)。次に、アスピレータ40を作動させたまま途中で大気弁16を閉じることによりキャニスタ4に負圧を導入する(t2および
図7)。最後にアスピレータ40を停止し遮断弁18を閉じる(t3)。以上のようにキャニスタ4から流体を燃料タンクに移動させると、キャニスタ4内の蒸発燃料の濃度分布が燃料タンク2側に偏る(バックパージされる)。これにより、駐車中にキャニスタ4から大気に蒸発燃料が放出されること(DBL)が抑制されると期待できる。
【0034】
[印加圧式:可逆ポンプの利用]
図8に示すように、別の実施形態として、ポンピング方向を反転可能な可逆ポンプ70を大気通路36に設け、この可逆ポンプ70を創圧ポンプとして利用して検出対象領域30に必要な正圧または負圧を導入することも可能である。また、この実施形態の場合、アスピレータ40や吸引通路54は設けなくてもよい。この可逆ポンプ70は、例えば、大気通路36の連通状態を切り替えるための遮断弁18と、キャニスタ4の内圧を検出するための圧力センサとともにモジュール化したいわゆるキーオフポンプモジュールの一部として設けてもよい。正圧式が選択された場合、
図9に示すように、まず大気弁16を開き可逆ポンプ70を一方向に回転させることによりキャニスタ4に正圧を導入する(t1)。負圧式が選択された場合、
図10に示すように、大気弁16を開き可逆ポンプ70を逆方向に回転させることによりキャニスタ4に負圧を導入する(t1)。なお、これらの場合に封鎖弁12を開けておくと燃料タンク2にも正圧または負圧を導入することができ、キャニスタ4と燃料タンク2の両方を含む領域を漏れ検出の対象とすることができる。必要な正圧または負圧が導入されたら可逆ポンプ70を停止させる(t2)。
【0035】
[印加圧式:エンジン負圧の利用]
負圧式が選択された場合、
図11に示すように、別の実施形態として、エンジン停止(キーオフ)直後にパージ制御弁14を開くことにより、吸気管に残っていた負圧をキャニスタ4に導入することも可能である(t1)。このとき、封鎖弁12を開けておくことで、キャニスタ4だけでなく燃料タンク2にも負圧を導入し、キャニスタ4と燃料タンク2の両方を含む領域を検出対象とすることができる。
【0036】
[自然発生していた圧力の正負が異なる場合]
負圧を用いた蒸気圧式での漏れ検出が可能であるにもかかわらずキャニスタ4内の残存量に基づいて正圧式が選択された場合もありうる。このように、利用できる圧力と必要な圧力の正負が異なる場合、燃料タンク2のみを対象とする蒸気圧式での漏れ検出はできても、キャニスタ4を含む領域を対象とする蒸気圧式での漏れ検出を行うことはできない。しかしながら、その圧力を開放してからキャニスタ4を含む領域を対象とする漏れ検出を印加圧式で行うことが可能である。正圧式が選択された場合、
図12に示すように、まず大気弁16と封鎖弁12とを開くことにより燃料タンク2の負圧を除去してから(t1)、例えばアスピレータ40を利用することによりキャニスタ4に正圧を印加することができる。負圧式が選択された場合も同様に、
図13に示すように、まず大気弁16と封鎖弁12とを開くことにより燃料タンク2の正圧を除去してから、例えばアスピレータ40を利用することによりキャニスタ4に負圧を印加することができる。
【0037】
[漏れ検出の実施]
ECU60は、上述のようにして決定した診断方式(正圧式または負圧式)により、所定の検出対象領域30の漏れ検出を実施する(
図2、S22、S23)。漏れ検出の判定基準は、基本的には、キャニスタ4、燃料タンク2、通路を形成する配管など、検出対象領域30のどこかに所定の大きさの穴が一つ生じた場合に発生すると推定される圧力変化とすることができる。一つの実施形態として、圧力センサ28を用いて測定した圧力が基準速度よりも速く大気圧に向かって上昇あるいは下降した場合に漏れがあると判定することができる。例えば負圧式の場合、閉じ込められた負圧が基準速度よりも速く大気圧に向かって上昇する場合に漏れがあると判定する。正圧式の場合、閉じ込められた正圧が基準速度よりも速く大気圧に向かって低下する場合に漏れがあると判定する。
【0038】
別の実施形態として、検出対象領域30に負圧を導入する間あるいは導入した後に圧力センサ28を用いて測定した圧力の低下速度が基準速度よりも遅い場合に漏れがあると判定することも可能である。正圧を用いる場合も同様である。
【0039】
[漏れ発生の警告]
漏れがあると判定した場合、例えば、ECU60はその後のエンジン6の作動時に車室内の警告灯を点灯させることができる。これにより、運転者に対し蒸発燃料処理システムに漏れが生じていることを知らせることができる。
【0040】
以上、本明細書に開示の技術を特定の実施形態について説明したが、これらの実施形態に限定されることなく、当業者であれば各種の変形、改善、省略などが可能である。
【符号の説明】
【0041】
2 燃料タンク
4 キャニスタ
6 エンジン
8 燃料ポンプ
12 封鎖弁
14 パージ制御弁
16 大気弁
18 遮断弁
20 分岐弁
22、27 温度センサ
24、26、28 圧力センサ
30 検出対象領域
36 大気通路
40 アスピレータ
54 吸引通路
56 燃料供給通路
60 電子制御装置(ECU)
70 可逆ポンプ(創圧ポンプ)