(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 3/10 20060101AFI20241015BHJP
B64C 27/26 20060101ALI20241015BHJP
B64D 33/10 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B64C3/10
B64C27/26
B64D33/10
(21)【出願番号】P 2021208250
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺沼 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】真塩 享
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0305005(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0087653(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0105268(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0344104(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0135425(US,A1)
【文献】国際公開第2021/210065(WO,A1)
【文献】特開2021-119080(JP,A)
【文献】独国実用新案第202014004877(DE,U1)
【文献】特開2021-154802(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0354048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/38
B64C 3/36
B64C 5/00- 5/18
B64C 27/00-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体と、
前記胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、
前記翼体により前記胴体から
側方に離間して支持されたブームと、
前記ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、
を備え、前記ブームは、上面視において、前端及び後端に対して胴部が前記胴体から離間する方向に湾曲しつつ前後方向に延びる形状を有するとともに、正面視において、上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有する、航空機。
【請求項2】
前記ブームは、前記少なくとも1つのロータが有する前記1以上のブレードを回転する回転装置及び該回転装置を冷却するためのラジエータを格納し、該ラジエータを格納する格納部分に対して下端が上側に位置する底上部分を有する、請求項1に記載の航空機。
【請求項3】
前記底上部分は、少なくとも、前記ブームのうちの前記前端及び後端に対して湾曲する前記胴部の中央に位置する、請求項2に記載の航空機。
【請求項4】
前記底上部分は、少なくとも、前記ブームのうちの前記前端及び後端に対して湾曲する前記胴部の前側に位置する、請求項2又は3に記載の航空機。
【請求項5】
前記ブームは、前記回転装置を格納するロータ位置の上端が前記格納部分に対して上側に位置する形状を有する、請求項2から4のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項6】
前記ブームは、4つのロータの回転装置を、前方から後方に並ぶ第1ロータ位置、第2ロータ位置、第3ロータ位置、及び第4ロータ位置にそれぞれ格納し、
前記格納部分は、前記第1ロータ位置の後側に位置する第1格納部分及び前記第3ロータ位置の後側に位置する第2格納部分を含む、請求項2から5のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項7】
前記底上部分は、前記第2ロータ位置及び前記第3ロータ位置の間に位置する、請求項6に記載の航空機。
【請求項8】
前記底上部分は、前記第2ロータ位置の前側に位置する、請求項6又は7に記載の航空機。
【請求項9】
前記ブームは、前記第1ロータ位置から前記第4ロータ位置の間のロータ間部分のうち、前記格納部分を含まないロータ間部分にて前記格納部分より小さい幅を有する、請求項6から8のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項10】
前記ブームは、前記格納部分から前記底上部分にかけて下端が傾斜する、請求項2から9のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項11】
前記ブーム
の前記前端
は、上面視において丸く湾曲
するとともに、側面視において上側から下側にかけて斜め後方に傾斜する形状を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項12】
前記ブームの前記後端は、上面視において後方に向かって先細るとともに、側面視において下側から上側に斜め後方に傾斜する形状を有する、請求項11に記載の航空機。
【請求項13】
前記胴体の後端に設けられて、巡航時に推力を発生する1以上のブレードを有する巡航用ロータをさらに備える、請求項1から
12のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項14】
前記ブームは、前後方向のすべての位置で正面視において、上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の航空機。
【請求項15】
胴体と、
前記胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、
前記翼体により前記胴体から離間して支持されたブームと、
前記ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、
を備え、前記ブームは、上面視において、前端及び後端に対して胴部が前記胴体から離間する方向に湾曲しつつ前後方向に延びる形状を有するとともに、前記前後方向に対する左右方向の中心を通る高さ方向に平行な中心軸に対して略左右対称な断面形状を有し、正面視において上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有する、航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胴体の左右に配置される離着陸用(VTOL)ロータにより鉛直方向に昇降することで離着陸し、胴体の後部に配置される巡航用ロータにより水平方向に飛行する垂直離着陸型航空機(垂直離着陸機又は単に航空機とも呼ぶ)が知られている。ここで、特許文献1には、VTOLロータにより生成される空気流(ダウンウォッシュ)を下方に向けるよう涙滴形状(翼型形状とも呼ぶ)を有し、さらに空気流を方向制御するよう構成されたブーム制御エフェクタを備える航空機が開示されている。一方で、機体全体を規定サイズ内に収めるとともにより大きなロータを数多く配置するために、複数のVTOLロータは胴体の側方に非直線状に配列される(例えば特許文献2参照)。
特許文献1 米国特許出願公開第2019/0135425号明細書
特許文献2 米国特許出願公開第2019/0047342号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、非直線状に配列される複数のVTOLロータを1つのブームで支持するには、ブームを側方に湾曲させつつ前後方向に延びるよう成形する必要がある。斯かる湾曲形状のブームは、航空機の巡航時に強い抵抗を受けるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様においては、胴体と、胴体から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する翼体と、翼体により胴体から離間して支持されたブームと、ブーム上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレードを有する少なくとも1つのロータと、を備え、ブームは、上面視において、前端及び後端に対して胴部が胴体から離間する方向に湾曲しつつ前後方向に延びる形状を有するとともに、正面視において、上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有する、航空機が提供される。
【0005】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態に係る航空機の構成を上面視において示す。
【
図3】
図2Aにおける基準線CCに関する空気流導引構造の断面構造を示す。
【
図4A】空気流導引構造の上側の構成及びインレットの配置を示す。
【
図4B】空気流導引構造の下側の構成及びアウトレットの配置を示す。
【
図5B】比較例に係るブームが巡航時に受ける空気抵抗(上下方向断面での圧力分布)の数値流体力学による解析結果を示す。
【
図5C】比較例に係るブームが巡航時に受ける空気抵抗(前後方向断面での圧力分布)の数値流体力学による解析結果を示す。
【
図6B】本実施形態に係るブーム及び比較例に係るブームが巡航時に受ける空気抵抗(前後方向断面及び上下方向断面での圧力分布)の数値流体力学による解析結果を示す。
【
図6C】本実施形態に係るブーム及び比較例に係るブームが巡航時及び垂直離着陸時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。
【
図7A】ブーム形状及び冷却装置の配置の例を示す。
【
図7B】
図7Aに示した複数のブームのそれぞれについて巡航時及びVTOL時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1に、本実施形態に係る航空機100の構成を上面視において示す。航空機100は、電動モータを駆動源として有するロータを備え、離着陸用(VTOL)ロータを用いて推力を発生して鉛直方向に離着陸するとともに巡航用ロータ(クルーズロータとも呼ぶ)を用いて推力を発生して水平方向に飛行する垂直離着陸機であり、バッテリ及びモータジェネレータのそれぞれから供給される電力で電動モータを動作させるとともにモータジェネレータによりバッテリを充電することができるハイブリッド機でもある。本実施形態に係る航空機100は、特に巡航時に受ける抵抗を抑制可能なブームを備えるものであり、胴体12、前翼14、後翼16、2つのブーム18、8つのVTOLロータ20、2つの巡航用ロータ29、冷却システム60、及び空気流導引構造70を備える。なお、VTOLロータ20a,20b,20c,20dの1以上のブレード23の回転面及び回転方向を2点鎖線及び矢印を用いて示す。
【0009】
胴体12は、乗員、乗客が搭乗し、貨物等を搭載するためのスペースを提供するとともに、バッテリ、モータジェネレータ(いずれも不図示)等の装置を格納する構造体である。胴体12は、中心軸Lに対して左右対称であり、中心軸Lに平行な前後方向に延び且つ水平面内で中心軸Lに直交する左右方向に細い形状を有する。ここで、中心軸Lに平行な方向を前後方向、図面左方及び図面右方をそれぞれ前方(F)及び後方(B)、水平面内で中心軸Lに直交する方向を幅方向(又は左右方向)、図面上方及び図面下方をそれぞれ右方(R)及び左方(L)とする。また、鉛直方向は、これらの前後方向及び幅方向のそれぞれに直交し、鉛直方向上向き及び下向きをそれぞれ上方(U)及び下方(L)とも呼ぶ。胴体12は、上面視において丸く湾曲した前端、胴部に対して幾らか細く絞られた幅方向に平行な後端を有する。
【0010】
前翼14は、胴体12から側方に延設されて、巡航時に、すなわち前方へ移動することにより揚力を発生する翼体であり、航空機100の先尾翼として機能する。前翼14は、中心部から2つの翼体をそれぞれ左前方及び右前方に延ばしたV字形状を有し、V字形状の開きを前方に向けて中心部にて胴体12の胴部前側の上部に固定される。前翼14は、2つの翼体のそれぞれの複線に配置されるエレベータ14aを含む。
【0011】
後翼16は、胴体12から側方に延設されて、巡航時に、すなわち前方へ移動することにより揚力を発生する翼体であり、空気抵抗を小さくする後退翼として機能する。後翼16は、中心部から2つの翼体をそれぞれ左後方及び右後方に延ばしたV字形状を有し、V字形状の開きを後方に向けて中心部にて胴体12の後端の上部にパイロン32を介して固定される。後翼16は、2つの翼体のそれぞれの複線に配置されるエレボン16a、翼端に配置される垂直尾翼16bを含む。
【0012】
ここで、後翼16の翼面積は前翼14よりも大きく、後翼16の翼幅は前翼よりも長い。それにより、前方へ移動することにより後翼16が発生する揚力は前翼14が発生する揚力よりも大きく、後翼16は、航空機100の主翼として機能する。なお、前翼14及び後翼16の翼面積、長さ等は、それぞれが発生する揚力のバランス、重心位置、巡航時の機体の姿勢等に基づいて定めてよい。
【0013】
2つのブーム18は、前翼14及び後翼16により胴体12からそれぞれ左右に離間して支持される構造体であり、後述するVTOLロータ20及び冷却システム60の構成各部を支持又は格納する機能を果たす。2つのブーム18は、上面視において、前端及び後端に対して胴部が胴体12から離間する方向に弧状に湾曲しつつ前後方向に延びる筒形状を有するとともに、正面視において上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦(すなわち、前後左右方向に略平行)な断面形状を有し、対をなして胴体12(すなわち、中心軸L)に対して左右対称に配置される。なお、2つのブーム18は、前後方向に延び且つ幅方向に弧状に湾曲するとしたが、弧状に限らず鉤状に屈曲してもよい。2つのブーム18は、前側端部を前翼14より前方に位置して、前側胴部(前側の2つのVTOLロータ20a,20bの間)にて前翼14の先端に支持されるとともに後側端部を後翼16より後方に位置して、後側胴部(後側の2つのVTOLロータ20c,20dの間)にて後翼16に支持される。
【0014】
図2Aに、ブーム18の内部構成を示す。ブーム18は、スキン18a、リブ18b、スパー18cを含む。スキン18aは、ブーム18の表面を構成する部材であり、翼型の断面形状を有して側方に弧状に湾曲しつつ前後方向に延びる筒状に成形されている。スキン18aは、VTOLロータ20が配置される箇所において上方に高く盛り上がるとともに左右方向に拡がって空間18dを形成し、冷却システム60が配置される箇所において幾らか上方に高く盛り上がるとともに左右方向に拡がって空間18eを形成する。リブ18bは、翼型の板状部材であり、前後方向の複数個所に配置されてスキン18aを内側から保持する。なお、リブ18bによりブーム18内の空間18d,18eが区画される。スパー18cは、前後方向に延びる棒状部材であり、リブ18b、その他の部材を支持する骨格を構成する。なお、巡航時に受ける抵抗が抑制されるブーム形状については後述する。
【0015】
8つのVTOLロータ20(20a~20d)は、2つのブーム18に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生するロータである。8つのVTOLロータ20のうちの4つのVTOLロータ20a~20dが左側のブーム18に略等間隔に支持され、残りの4つのVTOLロータ20a~20dが右側のブーム18に略等間隔に支持される。ここで、VTOLロータ20aが最前に、2つのVTOLロータ20b,20cが前翼14及び後翼16の間でそれぞれ前後に、VTOLロータ20dが最後に配置される。左側のVTOLロータ20a~20d及び右側の4つのVTOLロータ20a~20dのうち、前後方向に関する位置が等しい各2つの左右のVTOLロータ20a~20dは対をなし、
図1に示すように、互いに逆方向に回転するよう制御される。特に断らない限り、8つのVTOLロータ20a~20dのそれぞれを単にVTOLロータ20と称する。
【0016】
VTOLロータ20は、1以上のブレード23、モータ21、及びインバータ22を有する。なお、モータ21及びインバータ22を電気コンポーネントとも呼ぶ。なお、
図2Aに、8つのVTOLロータ20を代表して、左側のVTOLロータ20cの構成及びこれを格納する左側のブーム18の内部構造を示している。
【0017】
1以上のブレード23は、
図2Aに示すようにブーム18上に支持されて、回転することで鉛直方向に推力を発生する羽根状部材である。本実施形態では、ブレード23の数は2つとするが、1又は3以上の任意の数でよい。1以上のブレード23は、前翼14及び後翼16より高い位置に支持される。なお、
図1において、各VTOLロータ20の1以上のブレード23の回転面を2点鎖線を用いて示している。
【0018】
モータ21は、上下方向に向けられた回転軸21aを有し、これを介して先端に固定されたブレード23を回転する電動モータであり、支持部材を介してスパー18cに支持されて、ブーム18の空間18dに収容される。
【0019】
インバータ22は、バッテリから直流電力供給を受け、交流電力に変換してモータ21に供給する装置であり、スパー18cによりモータ21の下方に支持される。インバータ22は、モータ21の回転速度を制御することができる。
【0020】
2つの巡航用ロータ29は、胴体12の後端に支持されて、巡航時に推力を発生するロータである。巡航用ロータ29は、胴体12の後端に固定された円筒形のダクト54内で中心軸Lに対して左右に並んで配置され、ダクト54内に支持されて、回転することで前方に推力を発生する1以上のブレード、前後方向に向けられた回転軸を有し、これを介して先端に固定された1以上のブレードを回転するモータ、及びバッテリから直流電力供給を受け、交流電力に変換してモータに供給するインバータ(いずれも不図示)を有する。インバータは、モータの回転速度を制御することができる。
【0021】
冷却システム60は、ブーム18内に配置されたラジエータ61を用いてVTOLロータ20を構成するモータ21及びインバータ22を液冷方式で冷却するシステムである。本実施形態では、複数(一例として2つ)のVTOLロータ20に対して1つの冷却システム60、全4つの冷却システム60を設けることとするが、これに限らず、1つのVTOLロータ20に対して1つの冷却システム60を設けることとしてもよい。冷却システム60は、ラジエータ61、ポンプ62、冷却液タンク63、及び配管64,65を含む。なお、冷却液として水を使用することができる。
【0022】
図2B及び
図2Cに、それぞれ正面視及び側面視において、ラジエータ61の構成を示す。ラジエータ61は、モータ21及びインバータ22を冷却するための冷却液を冷却する熱交換器である。なお、ラジエータ61は、支持部材61fを用いて2つのリブ18bの間に支持されるとともに、後述する空気流導引構造70によりブーム18内に格納される。ラジエータ61のブーム18内の配置については後述する。ラジエータ61は、冷却液を上下に流す複数のチューブ61a、複数のチューブ61aのそれぞれに固定されて空気流が接触する表面積を増大する複数のフィン61b、複数のチューブ61aに冷却液を送る上側タンク61c、複数のチューブ61aから冷却液を受ける下側タンク61d、複数のフィン61bに空気流を送る2つのファン61eを有する。
【0023】
複数のチューブ61aは横方向に配列され、複数のフィン61bとともに正面視矩形状に組み立てられ、その上側に上側タンク61c、下側に下側タンク61dが固定されてラジエータ本体を構成する。後述するポンプ62が作動することにより、モータ21及びインバータ22を巡回して加熱された冷却液が配管64を介して上側タンクに61cに送り込まれ、複数のチューブ61aのそれぞれを下方に流れて冷却されて下側タンク61dに送られ、配管65を介してモータ21及びインバータ22に送られる。このとき、2つのファン61eが作動して、空気流をラジエータ本体の一側(
図2Cにおける右側)から送り込んで複数のフィン61bに接触させることで空気流とラジエータ本体との間で熱交換させる。加熱された空気流はラジエータ本体の他側(
図2Cにおける左側)から抜け出て排気される。
【0024】
ポンプ62は、配管65を介してラジエータ61に接続され、それから冷却された冷却液を受けてモータ21及びインバータ22に送り込む。これに伴い、モータ21及びインバータ22を通って加熱された冷却液は配管64を介してラジエータ61に送り込まれる。
【0025】
冷却液タンク63は、冷却液を蓄える容器である。例えば冷却液が不足した場合に、冷却液タンク63から冷却液が冷却回路に送られて冷却液が補充される。
【0026】
配管64,65は、冷却液を輸送するための部材であり、ラジエータ61及びポンプ62をモータ21及びインバータ22に接続して、冷却液が巡回する冷却回路を構成する。
【0027】
図2Dに、冷却回路の構成を示す。配管64により、ラジエータ61の上側タンク61cがモータ21及びインバータ22に接続される。なお、本実施形態では2つのVTOLロータ20に対して1つの冷却システムを設けていることから、図示したモータ21は、2つのVTOLロータ20のモータ21を直列又は並列に接続したものを意味し、図示したインバータ22は、2つのVTOLロータ20のインバータ22を直列又は並列に接続したものを意味する。配管65により、ラジエータ61の下側タンク61dがポンプ62を介してモータ21及びインバータ22に接続される。冷却液タンク63は配管65に接続される。ポンプ62が作動することにより、モータ21及びインバータ22において加熱された冷却液が配管64を介してラジエータ61に送られ、ラジエータ61で冷却された冷却液が配管65を介してモータ21及びインバータ22に送られる。
【0028】
なお、冷却システム60が提供する冷却回路において、モータ21及びインバータ22はポンプ62の下流に直列に接続されるとしたが、これに代えて並列に接続されてもよい。また、その他の電気コンポーネントをモータ21及びインバータ22と直列又は並列に接続してもよい。また、冷却システム60では、1つのラジエータ61、ポンプ62、及びタンク63によりモータ21及びインバータ22の両方を冷却するよう冷却回路を構成したが、これに代えて、モータ21及びインバータ22のそれぞれにラジエータ61、ポンプ62、及びタンク63を接続してモータ21及びインバータ22を個別に冷却する2つの独立の冷却回路を構成してもよい。
【0029】
なお、冷却システム60と同様に構成される冷却システムを、巡航用ロータ29の電気コンポーネントを冷却するために設けてもよい。
【0030】
図3に、
図2Aにおける基準線CCに関する空気流導引構造70の断面構造を示す。なお、空気流導引構造70の幅方向に関する中心軸を中心軸L
70とする。中心軸L
70は、VTOLロータ20の回転軸21aと平行である。空気流導引構造70は、ブーム18の一部に設けられてラジエータ61を格納する格納部分を構成するとともに、1以上のブレード23の回転により生ずる空気流をブーム18内のラジエータ61に導引する構造であり、上側構造体71及び下側構造体72を有する。
【0031】
上側構造体71は、ブーム18の胴部に挿入されて上辺及び左側辺を形成する略逆L字状の断面を有する部材である。上側構造体71は、中実に成形してよく、上辺の先端は右斜め上方に傾斜し、上辺の下面に斜め下向きの前後方向に延びる凹部71bが形成され、左側辺の内面(すなわち右面)は、前後方向に直交する面上において凹部71bから左方に膨らみ、幾らか右方に戻りつつ下方に延びる流線形状に形成されている。上側構造体71の上辺は、上側構造体71及び下側構造体72の間に形成されるインレット70aの上側に架設される梁体71aとして機能する。それにより、空気流導引構造70を含むブーム18に加わる曲げ応力に抗することができる。
【0032】
下側構造体72は、ブーム18の胴部に挿入されて下辺及び右側辺を形成する略L字状の断面を有する部材である。下側構造体72は、中実に成形してよく、下辺の上面に斜め上向きの前後方向に延びる凹部72bが形成され、下辺の左先端は下方を向き、右側辺の上端は右斜め上方に傾斜し、右側辺の内面(すなわち左面)は、前後方向に直交する面上において上端から左方に幾らか膨らみ、そして幾らか右方に戻りつつ下方に延びる流線形状に成形されている。下側構造体72の下辺は、上側構造体71及び下側構造体72の間に形成されるアウトレット70bの下側に架設される梁体72aとして機能する。それにより、空気流導引構造70を含むブーム18に加わる曲げ応力に抗することができる。
【0033】
上述の構成の上側構造体71及び下側構造体72を用いて空気流導引構造70を組み立てることで、上側に空気流を取り込むためのインレット70a及び下側に空気流を吐き出すためのアウトレット70bがブーム18内に形成される。まず、ラジエータ61及びファン61eを重ね、次いで、上側構造体71をスパー18cに固定し、上側構造体71の凹部71bにラジエータ61の上側タンク61cを嵌入し且つ上側タンク61cに設けられたブラケットをスパー18cに固定し、次いで、下側構造体72をスパー18cに固定し、そして、下側構造体72の凹部72bにラジエータ61の下側タンク61dを嵌入し且つ下側タンク61dに設けられたブラケットをスパー18cに固定することで、空気流導引構造70がブーム18の胴部に一体的に組み立てられる。このとき、ラジエータ61及びファン61eは支持部材61fを用いてブーム18内の2つのリブ18bの間に支持される。
【0034】
それにより、上側構造体71の上辺及び下側構造体72の右側辺の間にインレット70aがラジエータ61の一面(吸引面)側に位置して形成され、上側構造体71の左側辺及び下側構造体72の下辺の間にアウトレット70bがラジエータ61の他面(排気面)側に位置して形成される。それとともに、ラジエータ61は、ブーム18内でインレット70aとアウトレット70bとの間に配置され、VTOLロータ20の回転軸21a(すなわち、中心軸L70)に対して吸引面をインレット70a側に向け、排気面をアウトレット70b側に向けて傾設されることとなる。さらに、2つのファン61eがラジエータ61の排気面側に配置される。なお、2つのファン61eはラジエータ61の吸気面側に配置されてもよい。
【0035】
図4Aに、ブーム18に設けられた空気流導引構造70の上側の構成を示す。空気流導引構造70は、一例として、左側のVTOLロータ20cを冷却するラジエータ61を含む構造であり、2つのVTOLロータ20c,20dの回転軸21aの間(すなわち、VTOLロータ20cの後側)のブーム胴部に設けられる。空気流導引構造70により、インレット70aは、ブーム18の表面上で2つのVTOLロータ20c,20dの回転軸21aの間に設けられ、2つのVTOLロータ20c,20dのうちの一方、本例では特にVTOLロータ20cの1以上のブレード23の回転面の下方に位置するブーム18の表面のうち、正面視においてVTOLロータ20cの回転軸21a(中心軸L
70)に対して1以上のブレード23の回転方向(本例では左方)に向かう側、すなわち回転方向に対する逆側(本例では右側)に設けられている。
【0036】
ここで、VTOLロータ20のブレード23は、推力を発生するために回転面に対してピッチ角を有する(
図2A参照)。そのため、ブレード23が例えば
図4Aに示すように時計回りに回転すると、下方に対してブレード23の回転移動方向に傾いた方向、すなわち左斜め下方(
図3の白抜き矢印の方向)に空気流が発生する。そこで、空気流導引構造70において、インレット70aが、正面視においてVTOLロータ20cの回転軸21a(中心軸L
70)に対して右側に設けられることで、2つのVTOLロータ20c,20dが起動した際に少なくとも一方のロータ、本例では特にVTOLロータ20cの1以上のブレード23の回転により生じる空気流をインレット70aを介して効率良くブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0037】
また、
図3に示すように、空気流導引構造70の上側構造体71の上辺の先端は右斜め上方に傾斜し、下側構造体72の右側辺の上端は右斜め上方に傾斜しているため、空気流導引構造70において上側構造体71の上辺の先端と下側構造体72の右側辺の上端とが対向することで、インレット70aは、中心軸L
70に対してVTOLロータ20bのブレード23の回転方向(
図3では左方)に対向して右斜め上向きに傾設される。それにより、VTOLロータ20bの1以上のブレード23の回転により生じる空気流をインレット70aを介して効率良くブーム18内のラジエータ61に導くことができる。
【0038】
図4Bに、先述の空気流導引構造70の下側の構成を示す。空気流導引構造70により、アウトレット70bが、ブーム18の下側でインレット70aに対向する位置に設けられる。それにより、上側のインレット70aを介して導入された空気流がブーム18内部を通って下側のアウトレット70bから下方に排出されることで、空気流を効率良くブーム18内部に通すことができる。
【0039】
アウトレット70bは、ブーム18の下部のうち、正面視において、本例ではVTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対して1以上のブレード23の回転方向(本例では左方)を追う側、すなわち回転方向に対応する側(本例では左側)に設けられている。つまり、アウトレットは、ブーム18の下部のうち、VTOLロータ20bの回転軸21a(中心軸L70)に対してインレット70aの逆側に位置する。それにより、インレット70aを介して導入される空気流のブーム18内の流路が長くなり長距離に亘ってラジエータ61に接触してアウトレット70bから導出されることで、効率良くラジエータ61を冷却することができる。
【0040】
また、
図3に示すように、空気流導引構造70の下側構造体72の下辺の左先端は下方を向き、上側構造体71の左側辺の右内面は下方に向かって流線形状に成形されているため、空気流導引構造70において下側構造体72の下辺の左先端と上側構造体71の左側辺の下端とが対向することで、アウトレット70bは、右斜め上向きに傾設されるインレット70aに対してより下方を向く。それにより、インレット70aを介して左斜め下方に向かってブーム18内部に導入される空気流がアウトレット70bを介してより下方を向いて導出されることで、ブーム18(すなわち、航空機100の機体)に加わる鉛直方向の推力を増大することができる。また、このような空気流導引構造70の構造により、ファン61eの出力をブーム18(すなわち、機体)に加わる鉛直方向の推力として利用することもできる。
【0041】
なお、空気流導引構造70において、インレット70aはブーム18の上部に設けることとしたが、これに限らず、VTOLロータ20が起動した際に1以上のブレード23の回転により生ずる空気流を効率良くブーム18内に導き入れることができれば、ブーム18の上部から側部の間の任意の位置に設けてもよい。
【0042】
巡航時に受ける空気抵抗が抑制されるブームの形状について説明する。
【0043】
図5Aに、比較例に係るブーム18'の形状を示す。なお、ブーム18'は胴体12の左側に配置されるブームであり、右側のブームはこれと左右対称に構成される。ここで、上段に側面視におけるブーム18'の形状、中段に上面視におけるブーム18'の形状、下段に正面視における基準線AA上でのブーム18'の断面形状を示す。VTOLロータ20a,20b,20c,20dが設置される、すなわちそれらのモータ21が格納される位置(ロータ位置)Pa,Pb,Pc,Pdを一点鎖線で示す。
【0044】
ブーム18'は、VTOLロータ20の回転により生成されるダウンウォッシュが下方にスムースに流れ、それにより空気抵抗が緩和されるよう、下段に示すように正面視において上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細る翼型の断面形状を有するように成形するのが望ましい。しかし、ブーム18'は、上段に示すように側面視において、VTOLロータ20a,20b,20c,20dのロータ位置Pa,Pb,Pc,Pdで上端が隆起するとともに、中段に示すように上面視において、前端及び後端に対して胴部が左方に弧状に湾曲しつつ前後方向に延びるように成形されることで、巡航時に受ける空気抵抗が増大する。
【0045】
図5Bに、比較例に係るブーム18'が巡航時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。ここで、上段及び下段に、それぞれ、
図5Aに示した基準線GG,HHのそれぞれにおける上下方向断面での空気流の圧力分布(静圧)を示す。なお、下段の圧力分布において、点線は上面視において重畳するブーム18'の断面形状を示し、横方向に流れる白線は空気流の流線を表す。
【0046】
巡航時においてブーム18'は前方から後方に向かう空気流を受ける。それにより、基準線GG、すなわち上下方向に関するブーム18'のおよそ中心を含む平面上で、ブーム18'の前端の前側、ロータ位置Pa,Pb間のやや前側の左(すなわち外側)、ロータ位置Pb,Pc間のやや後側の右(すなわち内側)、ロータ位置Pc,Pd間の前側の右(すなわち、内側)、後端の後側に高い圧力領域(+)が生じるとともに、ロータ位置Pa,Pb間の右(すなわち内側)、ロータ位置Pb,Pc間の左(すなわち外側)、ロータ位置Pc,Pd間の左(すなわち、外側)に低い圧力領域が生じる。その他、ロータ位置Pa,Pb,Pc,Pdのそれぞれの左右により低い圧力領域(-)が生じる。
【0047】
このようなブーム18'の左右での圧力差により、基準線HH、すなわちブーム18'のおよそ下端を含む平面上で、矢印(1)で示すように、ロータ位置Pa,Pb間で左から右(外側から内側)にブーム18'の下方を流れる空気流が生じるとともに、矢印(2)で示すように、ロータ位置Pcの前側及びロータ位置Pc,Pd間で右から左(内側から外側)にブーム18'の下方を流れる空気流が生じる。
【0048】
図5Cに、比較例に係るブーム18'が巡航時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。ここでは、
図5Aに示した基準線AA、A'A'、BB、CC、DD、EE、FFのそれぞれにおける前後方向断面での空気流の圧力分布(静圧及び動圧の総和である全圧)を示す。なお、白線は、空気流の流線を示す。基準線AA、すなわちロータ位置Paの直後では、空気流は、局所的な圧力勾配を呈することなく、ブーム18'の周囲にほぼ一定の圧力分布で後方に流れる理想状態にある。
【0049】
しかし、基準線A'A'、すなわちロータ位置Pa,Pb間では、空気流は、上述の通り左から右(外側から内側)にブーム18'の下方を流れ、これがブーム18'の右側面にまわり込むことで、ブーム18'の下端の直右に低圧領域、すなわち渦e1が発生している。また、空気流は、左から右(外側から内側)にブーム18'の上方を流れ、これがブーム18'の右側面にまわり込むことで、ブーム18'の右上の近傍に別の低圧領域、すなわち渦e2が発生している。これらの渦e1,e2は、基準線BB、すなわちロータ位置Pbの直後におけるように、後方に進むにつれてブーム18'から右方に離れつつ増大する。
【0050】
基準線CC、すなわちロータ位置Pb,Pc間では、渦e1,e2がさらに増大するとともに、空気流は、上述の通り右から左(内側から外側)にブーム18'の下方を流れ、これがブーム18'の左側面にまわり込むことで、ブーム18'の下端の直左に別の低圧領域、すなわち渦e3を発生する。
【0051】
基準線DD及びEE、すなわちロータ位置Pcの直後及びロータ位置Pc,Pd間では、渦e1,e3がさらに増大してブームの左方に移動するとともに、空気流は、上述の通り右から左(内側から外側)にブーム18'の下方を流れ、これがブーム18'の左側面にまわり込むことで、ブーム18'の下端の直左に別の低圧領域、すなわち渦e4を発生する。また、空気流は、右から左(内側から外側)にブーム18'の上方を流れ、これがブーム18'の左側面にまわり込むことで、ブーム18'の左上の近傍に別の低圧領域、すなわち渦e5を発生する。
【0052】
基準線FF、すなわちロータ位置Pdの直後では、渦e1,e3,e4がさらに増大してブームの左方に移動するとともに、さらにブーム18'の左下に別の渦e6を発生する。
【0053】
ブーム18'が前方から空気流を受けた際に渦e1,e2,e3,e4,e5,e6が発生することで空気流のスムースな流れが抑制され、ブーム18'が受ける空気抵抗が増大することとなる。
【0054】
図6Aに、本実施形態に係るブーム18の形状を示す。なお、ブーム18は胴体12の左側に配置されるブームであり、右側のブームはこれと左右対称に構成される。ここで、上段に側面視におけるブーム18の形状及び各基準線上での正面視における断面形状、中段に上面視におけるブーム18の形状、下段に正面視における基準線AA上でのブーム18の断面形状を示す。VTOLロータ20a,20b,20c,20dが設置される、すなわちそれらのモータ21が格納される位置(ロータ位置Pa,Pb,Pc,Pd)を一点鎖線で示す。
【0055】
ブーム18は、比較例に係るブーム18'と同様に上面視において、前端及び後端に対して胴部が左方に弧状に湾曲しつつ前後方向に延びるように成形され、しかし前後方向のすべての位置で正面視において、上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦(すなわち、前後左右方向に略平行)な翼型の断面形状を有するように成形されている。ブーム18は、格納部分61a12,61a32、底上部分18f、傾斜部分18h、及び隆起部分18gを含む。
【0056】
格納部分61a
12,61a
32は、冷却システム60のラジエータ61を格納するロータ部分であり、先述の空気流導引構造70によりブーム18に設けられる。格納部分61a
12,61a
32においても、
図6A下段或いは
図3に示すように、下側が略平坦な翼型の断面を有する。本実施形態に係るブーム18では、ロータ位置Paの後側に位置する第1格納部分61a
12及びロータ位置Pcの後側に位置する第2格納部分61a
32を含む。第1格納部分61a
12は、VTOLロータ20a,20bのそれぞれの電気コンポーネントを冷却するためのラジエータ61が格納される。なお、第1格納部分61a
12及びロータ位置Pbの間においてブーム18が前翼14に接続される。第2格納部分61a
32は、VTOLロータ20c,20dのそれぞれの電気コンポーネントを冷却するためのラジエータ61が格納される。なお、第2格納部分61a
32及びロータ位置Pdの間においてブーム18が後翼16に接続される。
【0057】
底上部分18fは、格納部分61a
12,61a
32に対して下端(すなわち、底面)が上側に位置する形状を有するブーム部分である。ここで、底上部分18fは、少なくとも、ブーム18のうちの前端及び後端に対して湾曲する胴部の中央、すなわちロータ位置Pb,Pc間に位置する。それにより、
図5Bに示した(2)のように巡航時にブーム18の胴部の湾曲中央の下方を空気流が内から外向きに横切ることで渦e
3,e
4,e
6が発生するのを回避することができる。また、底上部分18fは、ブーム18のうちの前端及び後端に対して湾曲する胴部の前側、すなわちロータ位置Pbの前側に位置する。それにより、
図5Aに示した(1)のように巡航時にブーム18の胴部の湾曲中央の下方を空気流が外から内向きに横切ることで渦e
1が発生するのを回避することができる。
【0058】
このように、ブーム18が、格納部分61a12,61a32を除いた少なくとも一部においてブーム18の底面を上げて上下方向に関する厚さを小さくすることで、ラジエータ61を格納する空間18dを確保しつつ、巡航時にブーム18の下方を空気流が左右に流れることで発生する渦のような空気流の乱れを解消又は抑制することができる。
【0059】
なお、底上部分18fは、さらに、ブーム18の後端、すなわちロータ位置Pdの前側及び後側にも設けられている。
【0060】
傾斜部分18hは、格納部分61a12,61a32のそれぞれから隣接する底上部分18fにかけて下端(底面)が上向きに傾斜するブーム部分である。このように、ブーム18が、格納部分61a12,61a32と隣接する底上部分18fとの間に段部を形成せず、緩やかに傾斜して底面を上げることで、ブーム18の下方を流れる空気流の乱れを抑制することができる。
【0061】
隆起部分18gは、VTOLロータ20のロータ位置Pa~Pd、すなわちそれらのモータ21を格納する位置で上端がその他の部分、例えば格納部分61a12,61a32に対して上側に隆起する形状を有するブーム部分である。隆起部分18gの上端が格納部分61a12,61a32の上端に対して上側に位置することで、隆起部分18gの下端を下げることなくモータ21、その他のVTOLロータ20の電気コンポーネントを格納する空間18dを確保することができる。
【0062】
さらに、ブーム18の先端は、上面視において丸く湾曲するとともに、側面視において上側から下側にかけて斜め後方に傾斜する。ブーム18の後端は、上面視において後方に向かって先細るとともに、側面視において下側から上側に斜め後方に傾斜する。これにより、巡航時にブーム18が受ける空気抵抗をさらに抑制することができる。
【0063】
また、ブーム18は、ロータ位置Pa~Pd間のロータ間部分のうち、格納部分61a12,61a32を含まないロータ間部分、本例ではロータ位置Pb,Pc間のロータ間部分にて、ラジエータ61を格納する格納部分61a12,61a32及びVTOLロータ20の電気コンポーネントを格納するロータ位置Pa~Pdより小さい幅を有する。構造物の少ないブーム部分の幅を小さくすることで、ブーム18が軽量化される。
【0064】
図6Bに、本実施形態に係るブーム18及び比較例に係るブーム18'が巡航時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。ここで、下段及び上段にそれぞれブーム18及びブーム18'について、中央に上下方向断面での空気流の圧力分布(静圧)、左に中央図の基準線AAにおける前後方向断面での圧力分布(全圧)、右に中央図の基準線BBにおける前後方向断面での圧力分布(全圧)を示す。なお、白線は空気流の流線を示す。
【0065】
ブーム18'についての解析結果は、先に
図5B及び
図5Cを用いて説明したように、ロータ位置Pa,Pb間のやや前側の左右(すなわち、外側及び内側)で圧力差が生じることで、空気流が、ブーム18'の前側の下方及び上方のそれぞれを左から右(外側から内側)に流れ、そして右側面にまわり込む。それにより、基準線AA、すなわちロータ位置Pbの後側で、ブーム18'の下端の近傍及び上端の近傍にそれぞれ低圧領域、すなわち渦が発生している。また、ロータ位置Pb,Pc間のやや後側及びロータ位置Pc,Pd間の左右(外側及び内側)で圧力差が生じることで、空気流が、ブーム18'の中央から後側の下方及び上方のそれぞれを右から左(内側から外側)に流れ、そして左側面にまわり込む。それにより、基準線BB、すなわちロータ位置Pdにて、ブーム18'の左側面の近傍から左上にわたる領域に大きな低圧領域、すなわち渦が発生している。
【0066】
それに対して、ブーム18についての解析結果によると、ロータ位置Pbの前側に底上部分18fを設けたことで、ロータ位置Pa,Pb間の左右(すなわち、外側及び内側)の圧力差が緩和され、ブーム18の前側の下方及び上方のそれぞれを左から右(外側から内側)に流れ、そして右側面にまわり込む空気流が弱まっている。それにより、基準線AA、すなわちロータ位置Pbの後側で、ブーム18の下端の近傍及び上端の近傍にそれぞれ低圧領域が狭い範囲に発生する、すなわち小さい渦が発生するにすぎない。また、ブーム18の胴部の中央、すなわちロータ位置Pb,Pc間に底上部分18fを設けたことで、ロータ位置Pb,Pc間及びロータ位置Pc,Pd間の左右(外側及び内側)の圧力差が緩和され、ブーム18の中央から後側までの下方及び上方のそれぞれを右から左(内側から外側)に流れ、そして右側面にまわり込む空気流が弱まっている。それにより、基準線BB、すなわちロータ位置Pdにて、ブーム18の下端の左に低圧領域が発生しているものの、ブーム18'に対して発生した左側面の近傍から左上にわたる大きな低圧領域の発生は回避されている。従って、ブーム18に対して、巡航時に受ける空気抵抗が抑制されることがわかる。
【0067】
なお、ブーム18'は上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細る翼型の断面形状を有することで、空気流は、ブーム18'の上端から左右に分かれ、湾曲する上面に沿って下り、ブーム18'の先細り始める側面から乖離して左右に広がりつつ下方に流れる。それに対して、ブーム18は上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦(すなわち、前後左右方向に略平行)に成形された翼型の断面形状を有することで、空気流は、ブーム18'の場合と同様に、ブーム18の上端から左右に分かれ、湾曲する上面に沿って下り、ブーム18の先細り始める側面から乖離して左右に広がりつつ下方に流れ、さらに空気流が平坦面の下方にまわり込んで乱れる。それにより、垂直離着陸時にブーム18が受ける空気抵抗が大きくなり得る。
【0068】
図6Cに、本実施形態に係るブーム18及び比較例に係るブーム18'が巡航時及び垂直離着陸時に受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。ブーム18'に対して、ブーム18の垂直離着陸時の空気抵抗が約1割大きいのに対して、ブーム18の巡航時の空気抵抗は約6割緩和される。従って、本実施形態に係るブーム18の形状を採用したことで、垂直離着陸時の空気抵抗をほとんど増大させることなく巡航時の空気抵抗を緩和することができる。
【0069】
図7Aに、ブーム形状及びラジエータ61の格納部分の配置の例を示す。例1(No.1)のブームは、本実施形態に係るブーム18であり、ロータ位置Pa,Pcの後側にそれぞれ格納部分61a
12,61a
32、ロータ位置Pbの前側、ロータ位置Pb,Pc間、及びロータ位置Pdの前後に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例2(No.2)のブームは、ロータ位置Pa,Pbの後側及びロータ位置Pcの前後にそれぞれ格納部分61a
12,61a
22,61a
31,61a
32、ロータ位置Pbの前側及びロータ位置Pdの前後に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例3(No.3)のブームは、ロータ位置Pbの前後及びロータ位置Pcの前後にそれぞれ格納部分61a
21,61a
22,61a
31,61a
32、ロータ位置Paの後側及びロータ位置Pdの前後に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例4(No.4)のブームは、ロータ位置Paの後側、ロータ位置Pbの前後、及びロータ位置Pcの前後にそれぞれ格納部分61a
12,61a
21,61a
22,61a
31,61a
32、ロータ位置Pdの前後に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例5(No.5)のブームは、ロータ位置Pbの前後、ロータ位置Pcの前側、及びロータ位置Pdの前側にそれぞれ格納部分61a
21,61a
22,61a
31,61a
41、ロータ位置Paの後側及びロータ位置Pcの後側に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例6(No.6)のブームは、ロータ位置Paの後側、ロータ位置Pbの後側、ロータ位置Pcの前側、及びロータ位置Pdの前側にそれぞれ格納部分61a
12,61a
22,61a
31,61a
41、ロータ位置Pbの前側及びロータ位置Pcの後側に底上部分18f、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含む。例7(No.7)のブームは、先述の比較例に係るブーム18'であり、ロータ位置Paの後側、ロータ位置Pbの前後、ロータ位置Pcの前後、及びロータ位置Pdの前側にそれぞれ格納部分61a
12,61a
21,61a
22,61a
31,61a
32,61a
41、ロータ位置Pa~Pdのそれぞれに隆起部分18gを含み、底上部分18fを含まない。例8(No.8)のブームは、ロータ位置Paの後側、ロータ位置Pbの前後、ロータ位置Pcの前後、及びロータ位置Pdの前側にそれぞれ格納部分61a
12,61a
21,61a
22,61a
31,61a
32,61a
41を含み、底上部分18f及び隆起部分18gを含まない。なお、これらのブームは、共通して、前端及び後端に対して胴部が側方に弧状に湾曲しつつ前後方向に延びるよう成形されている。
【0070】
図7Bに、例1から例8のブームのそれぞれについて巡航時及び垂直離着陸時にブームが受ける空気抵抗の数値流体力学による解析結果を示す。横軸は巡航時に受ける空気抵抗であり、縦軸は垂直離着陸時に受ける空気抵抗である。例7のブーム(変形例に係るブーム18')は、先述の通り、垂直離着陸時の空気抵抗は小さいが、巡航時の空気抵抗が大きい。例8のブームは、隆起部分18gを含まないことで例7のブームより垂直離着陸時の空気抵抗が小さく、巡航時の空気抵抗が大きい。それに対して、例1から例6のブームは、底上部分18fを含むことで、例7のブームより垂直離着陸時の空気抵抗が幾らか大きいが、巡航時の空気抵抗が緩和される。ここで、ロータ位置Pbの前側(又はロータ位置Paの後側)及びロータ位置Pdの前後に底上部分18fを含む例1から例3のブームについて巡航時の抵抗が緩和されている。それらのなかでも、さらにロータ位置Pb,Pc間に底上部分18fを含む例1のブームについて巡航時の抵抗がさらに緩和されている。これらの結果より、本実施形態に係るブーム18のように、ロータ位置Pb,Pc間及びロータ位置Pbの前側にてブームの下端を上げることが巡航時の抵抗を緩和するのに有効であることがわかる。
【0071】
本実施形態に係る航空機100は、胴体12、胴体12から側方に延設されて、巡航時に揚力を発生する前翼14及び後翼16、前翼14及び後翼16により胴体12から離間して支持されたブーム18、ブーム18上に支持されて、離着陸時に鉛直方向の推力を発生する1以上のブレード23を有する少なくとも1つのVTOLロータ20を備え、ブーム18は、上面視において、前端及び後端に対して胴部が胴体12から離間する方向に湾曲しつつ前後方向に延びる形状を有するとともに、正面視において、上側が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有する。ブーム18が、上面視において、前端及び後端に対して胴部が胴体12から離間する方向に湾曲しつつ前後方向に延びる形状を有することで、巡航時にブーム18の下方を空気流が横切ることで乱れ(特に渦)が発生するところ、ブーム18が、正面視において、上端が丸く湾曲し、上側から下側に向かって先細り、且つ下側が略平坦な断面形状を有することで、空気流の乱れを解消又は抑制することができ、それにより巡航時にブームが受ける空気抵抗が緩和され、小さい抵抗で巡航することが可能となる。
【0072】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0073】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0074】
12…胴体、14…前翼、14a…エレベータ、16…後翼、16a…エレボン、16b…垂直尾翼、18,18'…ブーム、18a…スキン、18b…リブ、18c…スパー、18d,18e…空間、18f…底上部分、18g…隆起部分、18h…傾斜部分、20(20a,20b,20c,20d)…VTOLロータ、21…モータ、21a…回転軸、22…インバータ、23…ブレード、29…巡航用ロータ、32…パイロン、54…ダクト、60…冷却システム、61…ラジエータ、61a…チューブ、61a12,61a21,61a22,61a31,61a32,61a41…格納部分、61b…フィン、61c…上側タンク、61d…下側タンク、61e…ファン、61f…支持部材、62…ポンプ、63…冷却液タンク、64,65…配管、70…空気流導引構造、70a…インレット、70b…アウトレット、71…上側構造体、71a…梁体、71b…凹部、72…下側構造体、72a…梁体、72b…凹部、100…航空機、L,L70…中心軸、Pa,Pb,Pc,Pd…ロータ位置、e1,e2,e3,e4,e5,e6…渦。