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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/443 20060101AFI20241015BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241015BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A61K31/443
A61P35/00
A61P35/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021537404
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030363
(87)【国際公開番号】W WO2021025148
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019146701
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 純章
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141616(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/111234(WO,A1)
【文献】MARUYAMA Dai et al.,Blood,2017年,130(Supplement 1),4070
【文献】ISHIDA Takashi et al.,J Clin Oncol,2016年,Vol.34, No.34,p.4086-4093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有する抗CCR4
抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の治療剤。
【請求項2】
抗CCR4抗体がモガムリズマブである請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を治療するための医薬組成物の製造に
おける、上記式(I)
で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の使用。
【請求項4】
抗CCR4抗体がモガムリズマブである請求項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)で表される化合物またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有する抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療剤に関し、特に、モガムリズマブ抵抗性のがんの治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T cell leukemia/lymphoma, ATL)は、50~60年という長い潜伏期間にHTLV-1感染末梢血T細胞に複数の遺伝子異常が蓄積しがん化が引き起こされる。現在世界には2000万人以上のヒト成人T細胞白血病ウイルスI型(Human T-cell Leukemia Virus Type I, HTLV-1)感染者(キャリア)がいると考えられ、我が国では、108万人以上の感染者が存在し毎年約1200人のATLが発症していると考えられている(非特許文献1)。HTLV-1による細胞の不死化や腫瘍化、治療抵抗性などの分子メカニズムは不明な点が多く、ATLに対する有効な治療法や感染細胞を選択的に除去する方法は未だに存在しない。ATLに対する分子標的薬である抗CCR4抗体の登場により治療成績が向上したが、未だに予後は悪性リンパ腫の中で最低であり(非特許文献3)、急性型ATLに対する化学療法の治療成績は全生存期間中央値が12.7ヶ月(非特許文献4)、再発例に対する抗CCR4抗体の治療成績は13.7ヶ月である(非特許文献5)。従って、分子レベルの病態解明を基盤にして、ウイルス感染の予防と白血病発症の予防、新規治療法開発が急務である。
【0003】
多数のATL臨床検体を用いた遺伝子発現の大規模解析の結果から、ATL細胞は非常に均一で異常な遺伝子発現パターンをもつ集団であることが明らかにされた(非特許文献6)。さらに、ATL細胞には特徴的なシグナル伝達系の異常があり腫瘍細胞の生存や増殖の基軸となっているが、その背景にはエピジェネティックな異常の蓄積があることが明らかとなってきた(非特許文献7)。
【0004】
ポリコームファミリーは、ヒストン修飾を介したクロマチン制御を通じて遺伝子発現を負に制御する。Enhancer of zeste homologue 1/2 (EZH1/2)はヒストンH3K27をトリメチル化するPolycomb repressive complex 2 (PRC2)の活性中心である。EZH1とEZH2は互いに機能を補償しあい、細胞内のエピゲノムを維持している。EZH2の阻害は細胞全体のH3K27のメチル化レベルの減少につながるが、EZH1による補償効果によりその効果は限定的となる。EZH1とEZH2を同時に阻害することでメチル化をより効果的に消失させることができる(非特許文献8)。PRC2構成因子の異常はがんや幹細胞機能の異常につながることが示されており、特にEZH2の遺伝子異常や発現亢進から誘導されるメチル化H3K27me3の蓄積は多くのがんで同定されており、EZH2を中心に新たながんの分子標的として精力的に研究が進められている(非特許文献9、10)。
【0005】
ATLにおけるポリコームファミリーの異常は,網羅的遺伝子発現解析によって明らかにされた(非特許文献6,11)。その中でもEZH2の過剰発現が顕著であり,細胞全体のH3K27のメチル化レベルの亢進も検出されている。またEZH2依存的なmiR-31の抑制が結果的にNF-κB inducing kinase (NIK)の発現を引き起こしNF-κB経路を恒常的に活性化することが明らかになっており、EZH2がATLの分子標的として有効であると考えられている。EZH1/2二重阻害剤としては、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドおよびその製薬上許容される塩が知られている(特許文献1、2)。
【0006】
現在のところ、抗CCR4抗体抵抗性となってしまったATL患者に対する効果的な治療方法は未確立である。例えば、2017年に再発または難治性ATLを適応として承認された免疫調節薬であるレナリドミドの第II相試験において、抗CCR4抗体であるモガムリズマブによる治療歴のあるATL患者への奏効率は18%程度となっている(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2015141616
【文献】WO2017018499
【非特許文献】
【0008】
【文献】Yamaguchi K, Watanabe T., Int J Hematol 2002; 76 Suppl 2: 240.
【文献】Iwanaga, M et al., Blood 2010;116(8):1211-9.
【文献】Vose, Armitage, J et al., J Clin Oncol 2008;26(25):4124-30.
【文献】Utsunomiya, A et. al., J Clin Oncol 2007;25(34):5458-64.
【文献】Ishida, Joh, et. al., J Clin Oncol 2012;30(8):837-42.
【文献】Yamagishi M et al., Cancer Cell 2012; 21: 121.
【文献】Yamagishi M, Watanabe T., Front Microbiol 2012; 3: 334.
【文献】Shen, X et al., Mol Cell 2008;32(4):491-502.
【文献】Sparmann A, van Lohuizen M., Nat Rev Cancer 2006; 6: 846.
【文献】Lund, Adams, Copland., Leukemia 2014;28(1):44-9.
【文献】Sasaki D, et al., Haematologica 2011; 96: 712.
【文献】Ishida T, et al., J Clin Oncol 2016;34(34):4086-4093.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、抗CCR4抗体による治療歴のあるATL患者、つまり抗CCR4抗体抵抗性となってしまったATL患者に対して優れた効果を有する治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、EZH1/2二重阻害剤である、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩について、抗CCR4抗体抵抗性のがん(特に、モガムリズマブ抵抗性のがん)に対する優れた効果を見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、次の(1)~(12)に関する。
【0011】
(1)下記式(I)
【化1】
【0012】
で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有する抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療剤。
(2)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(1)に記載の治療剤。
(3)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(1)または(2)に記載の治療剤。
(4)抗CCR4抗体抵抗性のがんを罹患した患者において抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療する方法であって、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を投与することを含む、方法。
(5)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(4)に記載の方法。
(6)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(4)または(5)に記載の方法。
(7)抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療のための式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩。
(8)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(7)に記載の化合物、またはその製薬上許容される塩。
(9)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(7)または(8)に記載の化合物、またはその製薬上許容される塩。
(10)抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療するための医薬組成物の製造における、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の使用。
(11)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(10)に記載の使用。
(12)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(10)または(11)に記載の使用。
【0013】
本発明の別の態様としては、次の(1)~(9)に関する。
【0014】
(1)(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有する抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療剤。
(2)(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩を有効成分として含有する抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療剤。
(3)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(1)または(2)に記載の治療剤。
(4)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(1)から(3)のいずれか1に記載の治療剤。
(5)抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療する方法であって、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその製薬上許容される塩を投与することを含む、方法。
(6)抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療する方法であって、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩を投与することを含む、方法。
(7)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(5)または(6)に記載の方法。
(8)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(5)から(7)のいずれか1に記載の方法。
(9)抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療のための(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその製薬上許容される塩。
(10)抗CCR4抗体抵抗性のがんの治療のための(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩。
(11)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(9)または(10)に記載の化合物、またはその製薬上許容される塩。
(12)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(9)から(11)のいずれか1に記載の化合物、またはその製薬上許容される塩。
(13)抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療するための医薬組成物の製造における、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド、またはその製薬上許容される塩の使用。
(14)抗CCR4抗体抵抗性のがんを治療するための医薬組成物の製造における、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸塩の使用。
(15)抗CCR4抗体がモガムリズマブである(13)または(14)に記載の使用。
(16)がんが成人T細胞白血病リンパ腫である(13)乃至(15)のいずれか1に記載の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、抗CCR4抗体による治療歴のあるATL患者、つまり抗CCR4抗体抵抗性となってしまったATL患者に対して優れた効果を有する治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の式(I)で示される化合物は、下記の化学構造を有し、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミドとも呼ばれる。式(I)の化合物は、例えば、WO2015141616に記載の方法によって製造することができる。
【0017】
【化2】
【0018】
本発明において「製薬上許容される塩」とは、著しい毒性を有さず、医薬組成物として使用され得る塩をいう。本発明の式(I)で示される化合物は、酸と反応させることにより塩にすることができる。例えば、フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のようなC-Cアルキルスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリ-ルスルホン酸塩、酢酸塩、りんご酸塩、フマ-ル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、アジピン酸塩等の有機酸塩;及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩等を挙げることができるが、これらに制限されない。
【0019】
本発明の式(I)で示される化合物の製薬上許容される塩は、最も好ましくは、(2R)-7-クロロ-2-[trans-4-(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]-N-[(4,6-ジメチル-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-イル)メチル]-2,4-ジメチル-1,3-ベンゾジオキソール-5-カルボキサミド p-トルエンスルホン酸である。(以下、「臨床化合物」という。)
【0020】
本発明の式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩は、大気中に放置したり、または、再結晶したりすることにより、水分子を取り込んで、水和物となる場合があり、そのような水和物も本発明に包含される。
【0021】
本発明の式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩は、溶媒中に放置されたり、または、再結晶したりすることにより、ある種の溶媒を吸収し、溶媒和物となる場合があり、そのような溶媒和物も本発明に包含される。
【0022】
本発明の式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩には、全ての異性体(ジアステレオ異性体、光学異性体、幾何異性体、回転異性体等)が包含される。
【0023】
本発明の式(I)で示される化合物においては、これらの異性体およびこれらの異性体の混合物がすべて単一の式で示されている。従って、本発明はこれらの異性体およびこれらの異性体の任意の割合の混合物をもすべて含むものである。
【0024】
本明細書において、「がん」とは全ての悪性腫瘍を意味する。
【0025】
がんは、「固形がん」と「血液がん」に分類することができる。固形がんは、「上皮細胞がん」と「非上皮細胞がん」に分類することができる。上皮細胞がんは、上皮細胞から発生するがんであり、例えば、肺がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、前立腺がん、膵臓がん、大腸がん、乳がん、および卵巣がん等が挙げられる。非上皮細胞がんは、骨や筋肉などの非上皮細胞から発生するがんであり、例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、および横紋筋肉腫等が挙げられる。血液がんは、造血器から発生するがんであり、例えば、悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫等に分類することができる。
【0026】
本発明の治療対象のがんとして、好ましくは悪性リンパ腫および白血病である。更に好ましくは、非ホジキンリンパ腫であり、より好ましくは、成人T細胞白血病リンパ腫である。
【0027】
本明細書では、「成人T細胞白血病リンパ腫」(以下、単に「ATL」ということがある)とは、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染が原因となって惹起される白血病/リンパ腫である。ATLは、「成人T細胞白血病」又は「成人T細胞リンパ腫」とも呼ばれることがある。
【0028】
ATLの診断は、対象の臨床症状から医師により判断することができる。また、ATLは、HTLV-1がプロウイルスとしてゲノムに組込まれたT細胞がモノクローナルに増殖して生じる疾病であり、ATLの診断は、対象から得られたサンプル中のATL細胞のDNAにHTLV-1プロウイルスがモノクローナルに組込まれていることをサザンブロット法などにより検出することにより診断することができる。
【0029】
本明細書では、「治療する」及びその派生語は、がんを発症した患者において、がんの臨床症状の寛解、緩和及び/又は悪化の遅延を意味する。
【0030】
後述する試験例によれば、式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩は、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の増殖を低下させること、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の生存率を低下させること、及び/又は抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を死滅させることができる。従って、本発明によれば、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の増殖を低下させること、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の生存率を低下させること、及び/又は抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を死滅させることに用いるための組成物又は医薬組成物であって、式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩を含む組成物が提供される。本発明によれば、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の増殖を低下させること、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の生存率を低下させること、及び/又は抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を死滅させることに用いるための組成物又は医薬組成物の製造における、式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩の使用が提供される。本発明によれば、その必要のある対象において、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の増殖を低下させる、抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の生存率を低下させる、及び/又は抗CCR4抗体抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を死滅させる方法であって、該対象に式(I)で示される化合物もしくはその製薬上許容される塩を投与することを含む方法が提供される。
【0031】
本明細書において、「抗CCR4抗体」とは、Chemokine receptor type 4に対する抗体を意味する。例えば、モガムリズマブ等が知られている。
【0032】
本明細書において、「抗CCR4抗体抵抗性」とは、がん(好ましくは成人T細胞白血病リンパ腫)に対して抗CCR4抗体が効果を奏さなくなった状態をいう。効果を奏さないとは、抗CCR4抗体の投与によって増殖が抑制されていたがんが、抗CCR4抗体を投与しているにも関わらず再度増殖を開始した状態をいう。がんが増殖しているか否かは通常の方法を用いて確認することができる。確認方法としては、例えば、血液検査または骨髄検査による血液中あるいは骨髄中におけるHTLV-1ウイルス感染に起因する異常T細胞の増加の有無の確認、リンパ節の腫脹のCT検査等による確認、肝脾腫大の内視鏡検査等による確認、または皮膚病変の皮膚生検等による確認、等が挙げられる。
【0033】
本明細書において、「抗CCR4抗体による治療歴がある」とは、抗CCR4抗体による治療を行っていたが、抗CCR4抗体が効果を奏さなくなった結果、抗CCR4抗体による治療を中止したことを意味し、抗CCR4抗体抵抗性と同義である。
【0034】
本明細書における、「モガムリズマブ」は、抗CCR4抗体に分類される抗がん剤であり、商品名「ポテリジオ」として世界各国で使用されている。
【0035】
本明細書における、「レナリドミド」は、免疫調節薬に分類される抗がん剤であり、商品名「レブラミド」として世界各国で使用されている。
【0036】
本発明の一態様としては、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有するレナリドミド抵抗性のがんの治療剤、である。好ましくは、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を有効成分として含有するレナリドミド抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の治療剤、である。
【0037】
本発明の別の一態様としては、レナリドミド抵抗性のがんを治療する方法であって、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を投与することを含む方法、である。好ましくは、レナリドミド抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を治療する方法であって、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を投与することを含む方法、である。
【0038】
本発明の別の一態様としては、レナリドミド抵抗性のがんの治療のための上記式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、である。好ましくは、レナリドミド抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫の治療のための上記式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩、である。
【0039】
本発明の別の一態様としては、レナリドミド抵抗性のがんを治療するための医薬組成物の製造における、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の使用、である。好ましくは、レナリドミド抵抗性の成人T細胞白血病リンパ腫を治療するための医薬組成物の製造における、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩の使用、である。
【0040】
更に、本発明の別の一態様としては、式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を投与することによる、モガムリズマブ投与歴がある再発又は難治性成人T細胞白血病リンパ腫患者、あるいはモガムリズマブ適応外で1レジメン以上の全身化学療法を施行した後の再発又は難治性成人T細胞白血病リンパ腫患者を治療する方法である。
【0041】
本発明の式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩は、他の抗腫瘍剤や他の治療法(例えば、放射線療法、免疫療法)と併用してもよい。
【0042】
本発明の式(I)で示される化合物、またはその製薬上許容される塩を医薬組成物として調製する場合、用いられる製薬上許容される担体としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤などが挙げられるが、これらに制限されない。本発明の化合物もしくはその製薬上許容される塩は、治療目的などに応じて、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの各種形態とすることができる。また、例えば、リポソーム送達系の形態で投与することもできる。当該リポソームには、治療上の有用な特性を増進する補助部分(例えば、抗体やリガンドなど)を付加することもできる。
【0043】
患者への投与は、経口的な投与でも非経口的な投与でも可能である。非経口的な投与としては、例えば、静脈投与、動脈投与、筋肉内投与、胸腔内投与、腹腔内投与、標的部位(例えば、腫瘍)への直接投与などが挙げられる。
【0044】
投与量は、目的の疾患を治療するのに有効な量であれば特に制限はなく、患者の年齢、体重、症状、健康状態、疾患の進行状況などに応じて、適宜選択すればよい。投与頻度としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1日あたりの投与量を、1日に1回で投与してもよいし、複数回に分けて投与してもよい。本発明の薬剤をヒトに投与する場合、有効成分の投与量の範囲は、1日当たり、通常、約0.01mg/kg体重~約500mg/kg体重、好ましくは、約0.1mg/kg体重~約100mg/kg体重である。ヒトに投与する場合、好ましくは、1日あたり1回、あるいは2~4回に分けて投与され、適当な間隔で繰り返すことが好ましい。
【0045】
なお、本発明の化合物もしくはその製薬上許容される塩を試薬として調製する場合、必要に応じて、滅菌水や生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、試薬として許容される他の成分を含むことができる。当該試薬は、目的に応じた対象(例えば、細胞やその分画物、組織、実験動物など)に、目的に応じた投与量で投与して、例えば、EZH1/2を阻害し腫瘍の増殖を抑制することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0047】
以下の実施例で用いられる略号は、次のような意味を有する。
CR:Complete Remission 完全寛解
CRu:Uncertified Complete Remission 不確定完全寛解
PR:Partial Remission部分寛解
SD:Stable Disease病勢安定
PD:Progressive Disease病勢進行
PFS:Progression-Free Survival無増悪生存期間
NE:Not Evaluable 評価不能
【0048】
実施例1 非ホジキンリンパ腫患者への臨床化合物の投与
非ホジキンリンパ腫患者へ臨床化合物を投与する臨床試験を行い、投与患者のうちATL患者について解析を行った。
【0049】
(治験対象患者)
選択基準
1) 血液細胞学的又は病理学的に非ホジキンリンパ腫と診断された患者
2) 標準的治療法がない、又は標準的治療法に不応もしくは不耐となった患者
3) ECOG performance statusが0か1の患者
4) 18歳以上(米国)、20歳以上(日本)
除外基準
1) 以下のいずれかの既往症(登録前6ヵ月以内)又は合併症を有する患者
2) 治験責任医師又は治験分担医師によってコントロール不良と判断された糖尿病、慢性うっ血性心不全(NYHA心機能分類クラスIII以上)、不安定狭心症、血管形成術、ステント・グラフト留置術、又は心筋梗塞の既往、症候性もしくは治療を要する不整脈又は無症候性の持続性心室性頻拍(ただし無症候性のコントロール可能な心房細動は除く)、その他、治験責任医師又は治験分担医師によってコントロール不良と判断された疾患
3) 活動性の結核性疾患、単純ヘルペス、全身の真菌症、抗菌剤・抗ウイルス剤・抗真菌剤・ステロイド剤の投与が必要な活動性の感染症を有する患者
【0050】
(治験デザイン)
本治験は、再発又は難治性(標準治療法がない、又は標準的治療法に不応もしくは不耐)の非ホジキンリンパ腫患者(ATL患者を含む)を対象に臨床化合物を投与した際の安全性、忍容性、薬物動態、および抗腫瘍効果等を検討することを目的とした、多施設共同非盲検第I相試験である。選択基準を満たし、除外基準に該当しない被験者に対して低用量から臨床化合物を反復投与し、忍容性が確認できれば次のコホートの用量を漸増し、本治験の中で用量制限毒性および次相推奨用量を決定する。
臨床化合物は、各被験者へ1日1回連日経口投与し、忍容不能な毒性が発現する、または疾患進行を認めるまで投与を継続した。個々の被験者は、臨床化合物の最終投与日から30日後、または他の抗がん剤治療を開始する、どちらか早い日まで観察し安全性を評価した。抗腫瘍効果は原則8週間間隔で実施し、Definition, prognostic factors, treatment, and response criteria of adult T-cell leukemia-lymphoma: a proposal from an international consensus meeting” (J Clin Oncol. 2009;27[3]:453-9)に基づき評価した。
最初のコホートの用量は非臨床試験の結果を元に、150 mg 1日1回とした。次コホートの用量は、用量制限毒性発現の有無の情報を元に修正版連続再評価法(modified continual reassessment method: mCRM)で推奨される用量、並びにその時点までに得られているすべての安全性(用量制限毒性以外の有害事象および臨床検査値異常を含む)、薬物動態、バイオマーカー、および有効性の情報を総合的に評価して、治験依頼者と治験責任医師、外部専門家と協議し決定した。
【0051】
(剤形、投与量、投与経路)
臨床化合物の投与量は、コホートごとに予め決定した。臨床化合物は用量の異なる2種類のカプセル剤を組み合わせて提供した。投与方法は1日1回連日経口投与した。
【0052】
(抗腫瘍効果の確認)
ATLに対する治療効果判定は、Definition, prognostic factors, treatment, and response criteria of adult T-cell leukemia-lymphoma: a proposal from an international consensus meeting” (J Clin Oncol. 2009;27[3]:453-9)に基づき実施した。治療開始前に、被験者の病態に応じて、CTスキャン、骨髄検査、内視鏡検査、血液検査のうち必要な検査を実施し標的病変を定め、原則として8週間間隔で病変の変化を診断した。
【0053】
(試験結果)
治験の中間データにおいて、有効性評価が可能な再発又は難治性ATL患者での奏効率は44.4%(9名中4名[CRu:1名、PR:3名])(95%CI:13.7~78.8)、病勢コントロール率(SD以上の効果を示した患者の割合)は77.8%(9名中7名)であった。特に、モガムリズマブ治療歴のある6名のうち、3名で奏効(CRu:1名、PR:2名)、2名でSDが認められた。また、再発又は難治性ATL患者9名でのPFSの中央値は16.1週間であり、対象患者とほぼ同様の患者での疫学データによれば生存期間中央値が8.3~10.6ヶ月であることからも(Katsuya H, et al. Blood. 2015;126(24):2570-7)、本臨床化合物は新たな治療選択肢になり得ると考えられた。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例2 モガムリズマブ投与歴がある再発又は難治性のATL患者、あるいはモガムリズマブ不耐・適応外で1 レジメン以上の全身化学療法を施行した後の再発又は難治性のATL患者への臨床化合物の投与
【0056】
(治験対象患者)
モガムリズマブ投与歴がある再発又は難治性のATL患者、あるいはモガムリズマブ不耐・適応外で1 レジメン以上の全身化学療法を施行した後の再発又は難治性のATL患者
【0057】
(剤形、投与量、投与経路)
臨床化合物の投与量は、これまでに得られたデータに基づき最も適切と考えられた投与量を選択し、試験計画書などに明記する。臨床化合物は用量の異なる2種類の錠剤を組み合わせて提供する。投与方法は1日1回連日経口投与する。
【0058】
(抗腫瘍効果の確認)
ATLに対する治療効果判定は、Definition, prognostic factors, treatment, and response criteria of adult T-cell leukemia-lymphoma: a proposal from an international consensus meeting” (J Clin Oncol. 2009;27[3]:453-9)に基づき実施する。治療開始前に、被験者の病態に応じて、CTスキャン、骨髄検査、内視鏡検査、血液検査のうち必要な検査を実施し標的病変を定め、病変の変化を診断する。主治医の判定に加え、社外に判定委員会を設置し、独立且つ統一した判定を実施する。
例えば、奏効率(完全寛解[complete remission: CR]率、不確定完全寛解[uncertified complete remission: CRu]率、及び部分寛解[partial remission: PR]率の合計)、奏効期間、無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)、及び全生存期間(overall survival: OS)を副次評価項目に設定し、有効性を探索的に評価する。