(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ろう付け材、ろう付け部材および熱交換器
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20241015BHJP
B23K 35/28 20060101ALN20241015BHJP
C22C 21/02 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
B23K35/363 H
B23K35/28 310A
C22C21/02
(21)【出願番号】P 2021540754
(86)(22)【出願日】2020-08-13
(86)【国際出願番号】 JP2020030799
(87)【国際公開番号】W WO2021033624
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019150324
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】田鶴 葵
(72)【発明者】
【氏名】森家 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】木賀 大悟
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-314380(JP,A)
【文献】特開昭53-033952(JP,A)
【文献】国際公開第2007/080160(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/040128(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235906(WO,A1)
【文献】特開2009-166122(JP,A)
【文献】特開2014-237145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/28
C22C 21/00 - 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金を、ろう付けするためのろう付け材であって、
フッ化物系フラックスと、
固形化剤と、
塗膜均質補助剤と
を含み、
25℃で固形であ
り、
前記塗膜均質補助剤は、
10℃の条件下で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)19±2°の範囲中で最もピーク幅が大きいピークの半値幅が、1°以上であり、
炭素数10以上のカルボン酸と炭素数8未満のアルコールとのエステル類、炭素数10未満のカルボン酸と炭素数8以上のアルコールとのエステル類、および、炭素数10以上のアセタール類からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、
前記固形化剤は、
25℃で固体状態である、常温固体炭化水素、常温固体アルキルアルコール、常温固体エーテルアルコール、および高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、
前記高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、炭素数10以上のカルボン酸と炭素数8以上のアルコールとのエステル類であり、前記半値幅が1°未満であることを特徴とする、ろう付け材。
【請求項2】
前記塗膜均質補助剤の分子量が1000以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のろう付け材。
【請求項3】
前記塗膜均質補助剤は、前記半値幅が1°以上10°以下である
ことを特徴とする、請求項1に記載のろう付け材。
【請求項4】
さらに、ろう材粉末を含み、
前記ろう材粉末が、アルミニウムと共晶合金を形成し得る金属、および/または、前記金属とアルミニウムとの合金からなる
ことを特徴とする、請求項1に記載のろう付け材。
【請求項5】
アルミニウムまたはアルミニウム合金と、
請求項1に記載のろう付け材を、前記アルミニウムまたは前記アルミニウム合金に塗布してなる塗膜と
を備えることを特徴とする、ろう付け部材。
【請求項6】
請求項
5に記載のろう付け部材を備えることを特徴とする、熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け材、ろう付け部材および熱交換器に関し、詳しくは、アルミニウムまたはアルミニウム合金をろう付けするためのろう付け材、それを塗布してなる塗膜を備えるろう付け部材、および、そのろう付け部材を備える熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材を溶接する場合において、溶接される金属部材の酸化物を除去するために、フラックスが用いられる。
【0003】
通常、フラックスは液状であるため、フラックスを溶接部位に塗布すると、フラックスが流動する場合がある。また、フラックスが液状である場合には、塗膜を固化させるために、溶剤の乾燥設備が必要であり、製造ラインの複雑化を惹起する場合があり、さらに、液状フラックスの飛散などにより、作業性に劣る場合がある。
【0004】
そこで、製造ラインの簡略化および作業性の向上を図るため、固形のフラックスを用いることが検討されており、例えば、ろう材粉末と、フッ化物系フラックス粉末と、常温で固体のワックスとを均一に配合してなるろう付け組成物が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、上記したろう付け組成物を、固体状態のまま被塗物に接触させ、必要に応じて摩擦することにより、ろう付け組成物を被塗物に塗布する場合、均質な塗布が困難である。
【0007】
本発明は、塗膜均一性に優れるろう付け材、それを塗布してなる塗膜を備えるろう付け部材、および、そのろう付け部材を備える熱交換器である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を、ろう付けするためのろう付け材であって、フッ化物系フラックスと、固形化剤と、塗膜均質補助剤とを含み、25℃で固形である、ろう付け材を含んでいる。
【0009】
本発明[2]は、前記塗膜均質補助剤は、10℃の条件下で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)19±2°の範囲中で最もピーク幅が大きいピークの半値幅が、1°以上であり、炭素数10以上のカルボン酸と炭素数8未満のアルコールとのエステル類、炭素数10未満のカルボン酸と炭素数8以上のアルコールとのエステル類、および、炭素数10以上のアセタール類からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、上記[1]に記載のろう付け材を含んでいる。
【0010】
本発明[3]は、前記塗膜均質補助剤の分子量が1000以下である、上記[1]または[2]に記載のろう付け材を含んでいる。
【0011】
本発明[4]は、前記塗膜均質補助剤は、前記半値幅が1°以上10°以下である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のろう付け材を含んでいる。
【0012】
本発明[5]は、さらに、ろう材粉末を含み、前記ろう材粉末が、アルミニウムと共晶合金を形成し得る金属、および/または、前記金属とアルミニウムとの合金からなる、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のろう付け材を含んでいる。
【0013】
本発明[6]は、アルミニウムまたはアルミニウム合金と、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のろう付け材を、前記アルミニウムまたは前記アルミニウム合金に塗布してなる塗膜とを備える、ろう付け部材を含んでいる。
【0014】
本発明[7]は、上記[6]に記載のろう付け部材を備える、熱交換器を含んでいる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のろう付け材は、フッ化物系フラックスと、固形化剤と、塗膜均質補助剤とを含み、25℃で固形であるため、塗膜均一性に優れる。
【0016】
本発明のろう付け部材は、本発明のろう付け材を塗布してなる塗膜を備えるため、塗膜均一性に優れる。
【0017】
本発明の熱交換器は、本発明のろう付け部材を用いて得られるので、塗膜均一性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、合成例1で得られるステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルアクリレート=アセタールの10℃でのX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のろう付け材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を、ろう付けするためのろう付け材であって、フッ化物系フラックスと、固形化剤と、塗膜均質補助剤とを含有する。
【0020】
フッ化物系フラックスとしては、例えば、Cs-Al-F系フラックス、K-Al-F系フラックス、K-Zn-F系フラックスなどが挙げられる。
【0021】
Cs-Al-F系フラックスは、セシウム(Cs)、アルミニウム(Al)およびフッ素(F)を含有するフッ化物系フラックスであって、例えば、フルオロアルミン酸セシウム(非反応性セシウム系フラックス)が挙げられる。具体的には、CsAlF4、Cs2AlF5、Cs3AlF6などが挙げられる。
【0022】
K-Al-F系フラックスは、カリウム(K)、アルミニウム(Al)およびフッ素(F)を含有するフッ化物系フラックスであって、例えば、フルオロアルミン酸カリウムなどが挙げられる。具体的には、KAlF4、K2AlF5、K3AlF6などが挙げられる。
【0023】
K-Zn-F系フラックスは、カリウム(K)、亜鉛(Zn)およびフッ素(F)を含有するフッ化物系フラックスであって、例えば、フッ化亜鉛酸カリウムなどが挙げられる。具体的には、例えば、KZnF3などが挙げられる。
【0024】
フッ化物系フラックスとしては、好ましくは、K-Al-F系フラックスが挙げられる。
【0025】
これらフッ化物系フラックスは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0026】
フッ化物系フラックスの配合割合は、フッ化物系フラックス、固形化剤および塗膜均質補助剤(以下、フッ化物系フラックス、固形化剤および塗膜均質補助剤をまとめて、「ろう付け成分」とする。)の総量に対して、ろう付け性(ろう切れ)の観点から、例えば、1質量%以上、好ましくは、10質量%以上、より好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、また、塗膜均一性の観点から、例えば、80質量%以下、好ましくは、60質量%以下である。
【0027】
また、ろう付け成分の含有割合は、ろう付け材の総量に対して、例えば、50質量%以上、好ましくは、70質量%以上であり、例えば、100質量%以下であり、例えば、ろう付け材が後述するろう材を含む場合には、好ましくは、90質量%以下、より好ましくは、80質量%以下である。
【0028】
固形化剤は、ろう付け材が、25℃において固形となるように溶融温度を調整し、保形性を向上させる成分(ゲル化剤を除く。)である。なお、本発明において、25℃は常温である。また、25℃で固体状態であることを、「常温固体」と称する場合がある。
【0029】
本発明において、固形化剤は、常温固体炭化水素、常温固体アルキルアルコール、常温固体エーテルアルコール、および、高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であると定義される。
【0030】
常温固体炭化水素としては、例えば、天然ワックス、合成ワックスなどの常温固体ワックスが挙げられる。
【0031】
天然ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックスなどが挙げられる。
【0032】
合成ワックスとしては、例えば、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどが挙げられる。
【0033】
これら常温固体炭化水素は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0034】
常温固体炭化水素としては、好ましくは、天然ワックス、より好ましくは、パラフィンワックスが挙げられる。
【0035】
常温固体炭化水素の配合割合は、保形性および塗膜均一性の観点から、ろう付け成分の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、99質量%以下、より好ましくは、98質量%以下、さらに好ましくは、95質量%以下である。
【0036】
また、常温固体炭化水素の配合割合は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、100質量部以上、さらに好ましくは、150質量部以上であり、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0037】
常温固体アルキルアルコールとしては、例えば、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール)、エイコサノールなどの炭素数14~30のノルマルアルコール(直鎖アルキルアルコール)、例えば、1,6-ヘキサンジオールなどの炭素数6~30のノルマルジアルコール、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの炭素数5~30の多価アルコールなどが挙げられる。
【0038】
これら常温固体アルキルアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0039】
常温固体アルキルアルコールの配合割合は、保形性および塗膜均一性の観点から、ろう付け成分の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、12質量%以上、さらに好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、99質量%以下、より好ましくは、98質量%以下、さらに好ましくは、95質量%以下である。
【0040】
また、常温固体アルキルアルコールの配合割合は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、35質量部以上、さらに好ましくは、100質量部以上であり、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0041】
常温固体エーテルアルコールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコールなどのポリエーテルグリコール、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのポリエーテルモノオールなどのポリエーテルアルコールなどが挙げられる。
【0042】
なお、これらポリエーテルアルコールの分子量は、25℃で固体状態となるように、調整される。例えば、常温固体エーテルアルコールにおいて、ポリオキシエチレングリコールの重量平均分子量は、1000以上である。
【0043】
これら常温固体エーテルアルコールは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0044】
常温固体エーテルアルコールの配合割合は、保形性および塗膜均一性の観点から、ろう付け成分の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、12質量%以上、さらに好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、99質量%以下、より好ましくは、98質量%以下、さらに好ましくは、95質量%以下である。
【0045】
また、常温固体エーテルアルコールの配合割合は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、35質量部以上、さらに好ましくは、100質量部以上であり、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0046】
高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、炭素数10以上のカルボン酸(後述)と、炭素数8以上のアルコール(後述)との反応生成物であるエステル類である。
【0047】
より具体的には、高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、25℃で固体(常温固体)であり、また、10℃で比較的高い結晶性を有するエステルであり、詳しくは、後述の10℃で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)19±2°の範囲中で最もピーク面積幅が大きいピークの半値幅が1°未満のエステルである。このような高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、ろう付け材の保形性を向上させる。
【0048】
なお、高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、1分子以上の炭素数10以上のカルボン酸(後述)と、1分子以上の炭素数8以上のアルコール(後述)とを、公知の方法でエステル化反応させることにより、得られる。
【0049】
高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルとして、より具体的には、例えば、カルナバワックス、キャンデリラワックス、トリアコンタニルパルミチン酸などが挙げられる。
【0050】
高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0051】
高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルの配合割合は、保形性および塗膜均一性の観点から、ろう付け成分の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、12質量%以上、さらに好ましくは、20質量%以上、さらに好ましくは、30質量%以上であり、また、例えば、99質量%以下、より好ましくは、98質量%以下、さらに好ましくは、95質量%以下である。
【0052】
また、高炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルの配合割合は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、35質量部以上、さらに好ましくは、100質量部以上であり、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0053】
これら固形化剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0054】
固形化剤として、好ましくは、常温固体炭化水素の単独使用、常温固体アルキルアルコールの単独使用が挙げられる。なお、固形化剤として、常温固体炭化水素および常温固体アルキルアルコールを併用することもできる。常温固体炭化水素および常温固体アルキルアルコールを併用する場合、常温固体炭化水素の配合割合、および、常温固体アルキルアルコールの配合割合は、上記の範囲で、適宜調整される。
【0055】
固形化剤の配合割合(総量)は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、35質量部以上、さらに好ましくは、100質量部以上であり、また、例えば、2000質量部以下、好ましくは、1000質量部以下、より好ましくは、500質量部以下、さらに好ましくは、300質量部以下である。
【0056】
塗膜均質補助剤は、ろう付け成分中における固形化剤同士の相互作用を低減させ、ろう付け材を崩れやすくすることで、塗膜の均一性(均質性)を向上させる成分である。なお、塗膜均質補助剤の常温(25℃)における性状は、特に制限されず、固体であってもよく、液体であってもよい。
【0057】
このような塗膜均質補助剤は、10℃では固体であり、かつ、比較的低い結晶性を有する。
【0058】
より具体的には、結晶性を有する有機化合物とは、10℃で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)5°~85°における結晶性由来のピーク面積/(結晶性由来のピーク面積+非結晶性由来のピーク面積)で定義される結晶化度が0以上の有機化合物を示す。
【0059】
また、そのような結晶性を有する有機化合物のうち、塗膜均質補助剤(結晶性が比較的低い有機化合物)とは、10℃で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)19±2°の範囲中で最もピーク面積幅が大きいピークの半値幅が1°以上である有機化合物であると定義される。
【0060】
塗膜均質補助剤の上記半値幅として、具体的には、例えば、1°以上、好ましくは、1.5°以上、より好ましくは、2.0°以上、さらに好ましくは、3.5°以上であり、上限は特に限定されないが、例えば、10°以下、好ましくは、9.0°以下、より好ましくは、8.0°以下、さらに好ましくは、6.0°以下、とりわけ好ましくは、5.0°以下である。
【0061】
また、本発明において、塗膜均質補助剤は、高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステル、低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステル、および、高炭素アセタールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0062】
換言すれば、本発明において、塗膜均質補助剤は、上記半値幅が1°以上であり、高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステル、低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステル、および、高炭素アセタールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であると定義される。なお、塗膜均質補助剤は、化学構造により上記固形化剤とは区別される。すなわち、塗膜均質補助剤は、上記の固形化剤を含まない。また、塗膜均質補助剤は、化学構造によって界面活性剤とも区別される。すなわち、塗膜均質補助剤は、界面活性剤を含まない。
【0063】
高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルは、炭素数10以上のカルボン酸と炭素数8未満のアルコールとの反応生成物であるエステル類である。
【0064】
高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルにおいて、炭素数10以上のカルボン酸としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リグノセリン酸などの炭素数10以上のモノカルボン酸、例えば、デカン二酸、ドデカン二酸などの炭素数10以上のジカルボン酸およびこれらの無水物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0065】
カルボン酸の炭素数として、具体的には、10以上、好ましくは、14以上、より好ましくは、16以上、さらに好ましくは、18以上である。
【0066】
高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルにおいて、炭素数8未満のアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアルコールなどの炭素数8未満の1価アルコール、例えば、メタンジオール、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオールなどの炭素数8未満の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0067】
アルコールの炭素数として、具体的には、8未満、好ましくは、7以下、より好ましくは、6以下、さらに好ましくは、4以下である。
【0068】
なお、高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルは、1分子以上の炭素数10以上のカルボン酸と、1分子以上の炭素数8未満のアルコールとを、公知のエステル触媒の存在下、適宜の条件でエステル化反応させることによって得られる。
【0069】
高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルとして、より具体的には、例えば、ミリスチン酸メチル(半値幅3.4°)、ミリスチン酸メトキシメチルブタン(半値幅1.1°)などのミリスチン酸エステル、例えば、パルミチン酸メチル(半値幅3.4°)などのパルミチン酸エステル、例えば、ステアリン酸メチル(半値幅3.3°)、ステアリン酸ブチル(半値幅3.8°)、ステアリン酸メトキシメチルブタン(半値幅1.1°)などのステアリン酸エステル、例えば、ジカプリン酸ブチル(半値幅2.0°)、ジカプリン酸ヘキシル(半値幅1.5°)などのジカプリン酸エステル、リグノセリン酸メチル(半値幅3.0°)などのリグノセリン酸エステルなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0070】
低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、炭素数10未満のカルボン酸と炭素数8以上のアルコールとの反応生成物であるエステル類である。
【0071】
低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルにおいて、炭素数10未満のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、アクリル酸、メタクリル酸などの炭素数10未満のモノカルボン酸、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、水添フタル酸、水添イソフタル酸、水添テレフタル酸などの炭素数10未満のジカルボン酸およびこれらの無水物などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0072】
カルボン酸の炭素数として、具体的には、10未満、好ましくは、9以下、より好ましくは、5以下である。
【0073】
低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルにおいて、炭素数8以上のアルコールとしては、例えば、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコールなどの炭素数8以上の1価アルコール、例えば、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの炭素数8以上の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0074】
アルコールの炭素数として、具体的には、8以上、好ましくは、14以上、より好ましくは、18以上である。
【0075】
なお、低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルは、1分子以上の炭素数10未満のカルボン酸と、1分子以上の炭素数8以上のアルコールとを、公知のエステル触媒の存在下、適宜の条件でエステル化反応させることによって得られる。
【0076】
低炭素カルボン酸-高炭素アルコールエステルとして、より具体的には、例えば、水添フタル酸ステアリル(半値幅3.5°)、水添フタル酸ラウリル(半値幅3.0°)、メタクリル酸ステアリル(ステアリルメタクリレート(半値幅1.0°))などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0077】
高炭素アセタールは、炭素数10以上のアセタール類である。
【0078】
高炭素アセタールのアルデヒドまたはケトンの炭素数として、具体的には、10以上、好ましくは、14以上、より好ましくは、18以上である。
【0079】
より具体的には、高炭素アセタールとしては、例えば、ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルアクリレート=アセタール(SteAc-VEEA、半値幅4.5°)、ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルメタクリレート=アセタール(SteAc-VEEM、半値幅4.5°)などの炭素数10~30のアセタール類などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0080】
高炭素アセタールは、例えば、1分子以上の炭素数10以上のカルボン酸と、(メタ)アクリレート(例えば、ビニルエーテルエトキシ(メタ)アクリレート)などとを、必要により触媒の存在下、適宜の条件でアセタール化反応させることによって得られる。
【0081】
これら塗膜均質補助剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0082】
塗膜均質補助剤として、好ましくは、高炭素カルボン酸-低炭素アルコールエステルが挙げられ、より好ましくは、ステアリン酸エステルが挙げられる。
【0083】
また、塗膜均質補助剤の分子量は、塗膜均一性の観点から、例えば、20以上、好ましくは、50以上であり、例えば、1000以下、好ましくは、500以下である。
【0084】
なお、塗膜均質補助剤が単量体である場合、その分子量は、分子骨格および原子数から算出することができる。また、塗膜均質補助剤が重合体である場合、その分子量は、重量平均分子量として、ゲルパーミエーションクロマトグラフ測定による標準ポリスチレン換算分子量として求められる。そして、塗膜均質補助剤の分子量は、各成分の分子量の平均値として算出される。
【0085】
塗膜均質補助剤の含有割合は、ろう付け成分の総量に対して、例えば、60質量%以下、好ましくは、55質量%以下、より好ましくは、50質量%以下、さらに好ましくは、40質量%以下、とりわけ好ましくは、25質量%以下であり、例えば、1質量%以上、好ましくは、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、10質量%以上、さらに好ましくは、15質量%以上である。
【0086】
また、塗膜均質補助剤の含有割合は、塗膜均一性の観点から、固形化剤の総量100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上、より好ましくは、8質量部以上であり、例えば、100質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、50質量部以下である。
【0087】
また、塗膜均質補助剤の配合割合は、フッ化物系フラックス100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、5質量部以上、より好ましくは、8質量部以上であり、例えば、100質量部以下、好ましくは、80質量部以下、より好ましくは、50質量部以下である。
【0088】
これら塗膜均質補助剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0089】
さらに、ろう付け材は、必要に応じて、ろう材を含有することができる。
【0090】
ろう材としては、例えば、アルミニウムと共晶合金を形成し得る金属からなるろう材が挙げられ、また、そのような金属とアルミニウムとの合金からなるろう材も挙げられる。
【0091】
ろう材として、より具体的には、例えば、金属ケイ素、ケイ素-アルミニウム合金、これらに少量のマグネシウム、銅、ゲルマニウムなどを含む合金などが挙げられる。
【0092】
また、ろう材は、好ましくは、粉末状に調製される。すなわち、ろう材として、好ましくは、ろう材粉末が挙げられる。ろう材粉末の平均粒子径は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0093】
ろう付け材が、ろう材を含めば、アルミニウムまたはアルミニウム合金のろう付けにおいて、作業効率に優れる。
【0094】
ろう材の配合割合は、ろう付け成分100質量部に対して、例えば、3質量部以上、好ましくは、5質量部以上、より好ましくは、10質量部以上であり、また、例えば、300質量部以下、好ましくは、100質量部以下、より好ましくは、50質量部以下、さらに好ましくは、45質量部以下である。
【0095】
また、ろう材の配合割合は、ろう付け材の総量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは、10質量%以上、より好ましくは、20質量%以上であり、例えば、60質量%以下、好ましくは、40質量%以下、より好ましくは、30質量%以下である。
【0096】
加えて、ろう付け材には、必要に応じて、例えば、酸化防止剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、腐食防止剤(例えば、ベンゾトリアゾールなど)、消泡剤(例えば、シリコンオイルなど)、増粘剤(例えば、脂肪酸アミド、ポリアミドなど)、着色剤などの各種添加剤を、ろう付け材の総量に対して5質量%以下の割合で、含有させることができる。
【0097】
そして、ろう付け材は、上記の各成分を、上記の配合割合で、公知の方法により混合および撹拌することにより得ることができる。このとき、フッ化物系フラックス、固形化剤および塗膜均質補助剤が均一に混合された後、固形化剤によってろう付け材が固形化される。すなわち、上記ろう付け材は、固形であり、詳しくは、25℃において固形である。
【0098】
また、上記ろう付け材では、塗膜均質補助剤によって固形化剤同士の相互作用が低減されるため、ろう付け材は、崩れやすくなっている。
【0099】
25℃において固形とは、「消防危第11号 危険物の規制に関する政令等の一部を改正する政令(危険物の試験及び性状に係る部分)並びに危険物の試験及び性状に関する省令の公布について(通知)」に記載される「液状の確認方法」に記載される手法に従って、25℃において試験を実施した結果、「液状でない」と判定されることと定義される。
【0100】
また、ろう付け材は、加熱により軟化する。
【0101】
より具体的には、例えば、上記のろう付け材をアルミニウムまたはアルミニウム合金に塗布する場合、詳しくは後述するように、固形状態で用いてもよいが、ろう付け材を加熱により溶融させて用いてもよい。
【0102】
加熱温度としては、例えば、40℃以上、好ましくは、60℃以上、より好ましくは、70℃以上、さらに好ましくは、80℃以上、とりわけ好ましくは、90℃以上であり、例えば、400℃以下、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、200℃以下、さらに好ましくは、180℃以下、とりわけ好ましくは、150℃以下である。
【0103】
すなわち、上記のろう付け材は、とりわけ好ましくは、150℃以下において溶融する。換言すれば、ろう付け材は、少なくとも150℃では溶融状態であることが好ましい。
【0104】
このような場合、ろう付け材の150℃(溶融状態)における粘度は、例えば、0.001Pa・s以上、好ましくは、0.003Pa・s以上、より好ましくは、0.006Pa・s以上、さらに好ましくは、0.02Pa・s以上、とりわけ好ましくは、0.05Pa・s以上であり、例えば、300Pa・s以下、好ましくは、100Pa・s以下である。
【0105】
150℃における粘度が上記範囲であれば、とりわけ優れた塗膜均一性を得ることができる。
【0106】
なお、150℃における粘度は、レオメーターにより測定される。
【0107】
そして、上記ろう付け材は、フッ化物系フラックスと、固形化剤と、塗膜均質補助剤とを含み、25℃で固形であるため、塗膜均一性に優れる。
【0108】
そのため、上記ろう付け材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部材(Al部材)のろう付けに用いられる。
【0109】
より具体的には、上記ろう付け材は、例えば、加熱により溶融され、ジェットディスペンサーなどにより被塗物に塗布されるか、または、固体状態のまま押圧されることにより、溶融することなく被塗物に塗布される。
【0110】
好ましくは、上記ろう付け材は、固体状態のまま押圧されることにより、溶融することなく被塗物に塗布される。このような場合の塗布方法としては、例えば、国際公開WO2018/235906号に記載されるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部材(Al部材)と、固体状態のろう付け材とを接触させた状態で、Al部材をロール式搬送機などによって巻取り、ろう付け材に対して相対移動させる方法などが挙げられる。このような方法により、固形のろう付け材が削れ、その削れたろう付け材が、Al部材に付着(塗布)する。
【0111】
そして、上記のろう付け材を用いれば、固体状態のまま被塗物に接触させて塗布する場合にも、塗膜均一性に優れる。
【0112】
そのため、上記のろう付け材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製品に対して、好適に用いられる。具体的には、上記のろう付け材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を備えるろう付け部材の製造や、そのろう付け部材を用いる熱交換器の製造において、好適に用いられる。
【0113】
そして、得られるろう付け部材は、上記したろう付け材を塗布してなる塗膜を備えるため、塗膜均一性に優れる。また、熱交換器は、上記のろう付け部材を用いて得られるので、塗膜均一性に優れる。
【実施例】
【0114】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0115】
1.測定方法
(1)半値幅
塗膜均質補助剤を、以下の条件でX線分析した。
【0116】
より具体的には、塗膜均質補助剤を溶融させた後、3cm四方の型に流し込み1日かけて10℃で結晶化させた。
【0117】
このようにして得られた試料に対し、10℃でXRD(X-Ray Diffraction)分析して、回折ピークを測定した。これを基に分離幅(2θ)0.5°でピークの分離を行いフィッティングを行い、塗膜均質補助剤のピークの帰属とその半値幅を測定した。
【0118】
これにより、「10℃の条件下で得られるX線回折パターンにおいて、回折角(2θ)19±2°の範囲中で最もピーク幅が大きいピークの半値幅」を、求めた。
【0119】
なお、測定条件を下記する。
光源:Empyrean X線管球、使用エネルギー:40kV・15mA、X線露出時間:260秒、検出器:Medipix3 PIXcel検出器、測定範囲:5°~85°、ステップサイズ:0.0027166°2θ、ゴニオメーター半径:145mm
また、後述の合成例1で得られるステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルアクリレート=アセタールの10℃でのX線回折パターンを、
図1に示す。
【0120】
2.塗膜均質補助剤の合成
合成例1
ステアリン酸(商品名 STEARIC ACID 98%、ミヨシ油脂社製)60部と、ビニルエーテルエトキシアクリレート40部(商品名:VEEA、日油社製)とを混合した後、100℃に加熱し5時間反応させることで、ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルアクリレート=アセタール(以下SteAC-VEEAと称する。半値幅4.5°、分子量470)を得た。
【0121】
合成例2
ステアリン酸(商品名 STEARIC ACID 98%、ミヨシ油脂社製)60部と、ビニルエーテルエトキシメタクリレート40部(商品名:VEEM、日油社製)とを混合した後、合成例1と同様に反応させ、ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルメタクリレート=アセタール(以下SteAC-VEEMと称する、半値幅4.5°、分子量484)を得た。
【0122】
合成例3
ステアリン酸(商品名 STEARIC ACID 98%、ミヨシ油脂社製)70.6部と、3-メトキシ-3-メチル-1-ブチルアルコール(商品名:ソルフィット、クラレ社製)29.4部とを混合し、エステル触媒(商品名:IRGANOX1425、BASF社製)0.05部を加え、160℃まで加熱し12時間撹拌することにより、ステアリン酸メトキシメチルブタン(半値幅1.1°、分子量384)を得た。
【0123】
合成例4
カプリン酸(商品名:カプリン酸98、ミヨシ油脂社製)79.3部と、ブタンジオール(商品名:1級1,4-ブタンジオール、キシダ化学社製)20.7部とを混合し、合成例3と同様に反応させて、ジカプリン酸ブチル(半値幅2.0°、分子量398)を得た。
【0124】
合成例5
カプリン酸(商品名:カプリン酸98、ミヨシ油脂社製)74.5部と、ヘキサンジオール(商品名:1,6-ヘキサンジオール、宇部興産社製)25.5部とを混合し、合成例3と同様に反応させて、ジカプリン酸ヘキシル(半値幅1.5°、分子量426)を得た。
【0125】
合成例6
ステアリルアルコール(商品名:カルコール8098、花王社製)63.7部と、水添フタル酸の無水物(商品名:リカシッドHH、新日本理化社製)36.3部とを混合し、触媒としてトリフェニルフォスフィン(商品名:PP-360、ケイ・アイ化成社製)0.05部を添加し、120℃で8時間反応させて、無水フタル酸ステアリル(半値幅3.5°、分子量438)を得た。
【0126】
3.ろう付け材の製造
実施例1
表1に示す配合処方に従って、ろう付け材を得た。
【0127】
具体的には、フッ化アルミン酸カリウム系フラックス50.0部と、パラフィンワックス45.0部、および、塗膜均質補助剤として、上記合成例1のSteAC-VEEAを5.0部加熱混合し、所定の型に流し入れて、冷却および成形することによって、ろう付け材を得た。
【0128】
ろう付け材は、25℃で固形であった。
【0129】
実施例2~実施例19、および、比較例1~比較例2
表1~表2に示す配合処方に変更した以外は、実施例1と同様にして、ろう付け材を得た。
【0130】
なお、ろう材について、Al-12%Siは、Siを12%含有するAlろう材(製品名ECKA Aluminium-Silicon 12AN <0.025mm、ECKA Granules Germany GmbH社製)である。
【0131】
4.評価
(1)塗膜均一性
各実施例および各比較例のろう付け材を100℃で溶融させ、直径10cm(内径9cm)の円筒状の型(アルミシフォンケーキ型10cm)に流し入れ、室温で1時間放置して、固化させた。得られた円筒状の試料の内空に回転軸を挿入し、曲面の幅が5cmかつ曲面が回転軸に平行になるように試料を削り、塗布用のサンプルを作成した。
【0132】
その後、得られた円筒状のサンプルを、固形材押付塗布機(ダイセキ製)にセットし、150m/minで搬送しているアルミニウム基材(長さ:250m、幅:5cm、厚み100μm)に対して押圧した。また、このとき、サンプルの回転軸をドリル(マキタ製、DF-458D)により2000rpmで回転させ、設定荷重10kgとした。
【0133】
これにより、ろう付け材が固体状態で塗布されたアルミニウム基材を得た。
【0134】
その後、塗布均一性について、次の基準で優劣を評価した。その結果を表1~表2に示す。
【0135】
すなわち、作成した試験片を光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ VHX-1000 キーエンス製)を用いて、所定条件(倍率:20倍・照明:リング照明・照明強度:50%・反射光除去)でアルミニウム基材を観察した。
【0136】
そして、得られた観察画像における明るさの上限と下限とを、それぞれ、255と0として、140を境に二値化処理した。
【0137】
その後、得られた観察画像中、輝度が高い(明るい)領域が塗布膜の形成領域であるとして、その塗布膜の形成領域(塗膜面積)の全体に対する比率を算出し、以下の基準で評価した。なお、より塗膜面積の大きいものが、均一性に優れているとした。
【0138】
S:塗膜面積が100%未満、92%以上。
【0139】
A:塗膜面積が91%未満、84%以上。
【0140】
B:塗膜面積が83%未満、76%以上。
【0141】
C:塗膜面積が75%未満、66%以上。
【0142】
×:塗膜面積が66%以下。
【0143】
※:塗膜形成が困難であるため、下記の通り塗膜面積を補正して評価した。
【0144】
すなわち、塗布用のサンプルを作成するため、ろう付け材を100℃で溶融させたとき、ろう付け材が均質な液体にならなかった。また、溶融したろう付け材を円筒状の型に流し入れ、固化したろう付け材を削っても、所望の円筒状に形成できず、曲面が不規則な形状であった。そして、得られたサンプルをアルミニウム基材に塗布すると、得られた塗膜は、サンプルが塗布されていない部分(膜の穴)を有していた。そのため、得られた塗膜の「仮塗膜面積」を、以下の通り補正し、「塗膜面積」として評価した。
【0145】
より具体的には、まず、サンプルの塗布前に、色素を含む溶液を、サンプルの曲面に塗った。そして、その表面形状を紙に転写させて、スキャナで画像として取り込んだ。次いで、その転写像を、画像解析ソフトImageJ(Wayne Rasband、バージョン1.52a)により二値化処理した。なお、二値化処理では、転写像のピークに対して95%以下のカウント数を境とした。その後、所望の転写形状(所望形状のサンプルと紙との接触面積)に対する、実際のサンプルと紙との実際の接触面積の割合を測定し、補正用パラメータとした。そして、下記式に従って、塗膜面積を補正した。
【0146】
補正後の塗膜面積 = 補正前の仮塗膜面積/補正用パラメータ
(2)ろう付け性
(2-1)外観
各実施例および各比較例のろう付け材を、90℃で加熱し溶融させた後、アルミニウム部材(150mm×70mm×0.8mm)に、フッ化物系フラックスの塗布量が10g/m2となるように直径10mmの円で塗布し、試験片を作成した。
【0147】
その後、上記試験片をろう付け炉(箱形電気炉、ノリタケTGF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付けした。
【0148】
そして、以下の試験での性能の優劣を評価した。その結果を表1~表2に示す。
【0149】
ろう付け試験後の外観を次の基準で目視にて評価した。
A:黒色がほとんど見られなかった。
B:黒色が塗布領域の一部に見られた。
【0150】
(2-2)ろう切れ
各実施例および各比較例のろう付け材を、90℃で加熱し溶融させた後、アルミニウム合金にケイ素-アルミニウム合金(ろう材)をクラッドしたブレージングシートよりなるアルミニウム部材(JIS-BAS121P(クラッド率 10%)、60mm× 25mm× 1.0mm)に、フッ化物系フラックスの塗布量が10g/m2となるように全面に刷毛により塗布し、水平材として作成した。次に、アルミニウム合金(JIS-A3003、55mm× 25mm× 1.0mm)を垂直材として前記水平材に逆T字型に組み付けて、ステンレスワイヤーで固定し、ろう付け評価用の試験片を作成した。
【0151】
その後、上記試験片をろう付け炉(箱形電気炉、ノリタケTGF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付けした。
【0152】
そして、以下の試験での性能の優劣を評価した。その結果を表1~表2に示す。
【0153】
ろう付け試験後のフィレットを次の基準で目視にて評価した。
〇:水平材と垂直材が接する部位の全体に途切れなくフィレットが形成された。
×:水平材と垂直材が接する部分の一部にフィレットが形成されるが、フッ化物系フラックスの分散性が悪く均一に塗布されないため、フィレットに途切れが確認された。
【0154】
(3)塗膜密着性
各実施例および各比較例のろう付け材を100℃で溶融させ、直径10cm(内径9cm)の円筒状の型(アルミシフォンケーキ型10cm)に流し入れ、室温で1時間放置して、固化させた。得られた円筒状の試料の内空に回転軸を挿入し、曲面の幅が5cmかつ曲面が回転軸に平行になるように試料を削り、塗布用のサンプルを作成した。
【0155】
その後、得られた円筒状のサンプルを、固形材押付塗布機(ダイセキ製)にセットし、150m/minで搬送しているアルミニウム基材(長さ:250m、幅:5cm、厚み100μm)に対して押圧した。また、このとき、サンプルの回転軸をドリル(マキタ製、DF-458D)により2000rpmで回転させ、設定荷重10kgとした。
【0156】
これにより、ろう付け材が固体状態で塗布されたアルミニウム基材を得た。
【0157】
その後、塗膜密着性について、次の基準で優劣を評価した。その結果を表1~表2に示す。
【0158】
すなわち、作成した試験片をトライボギア(新東化学工業社製)を用いて所定の条件(スピード:60mm/min、スケール:7mm、カウント:シングル、牽引力:20N、スチールウール:ボンスター#0000)で摩耗試験を行い、アルミニウム基材に対する塗膜の密着性を評価した。
【0159】
S:50gの荷重をかけた際に、塗膜の脱落による基材の露出がなかった。
【0160】
A:40gの荷重をかけた際に、塗膜の脱落により基材が露出しなかった。
【0161】
B:30gの荷重をかけた際に、塗膜の脱落により基材が露出しなかった。
【0162】
C:10gの荷重をかけた際に、塗膜の脱落による基材の露出がなかった。
【0163】
D:5gの荷重をかけた際に、塗膜の脱落による基材の露出がなかった。
【0164】
【0165】
【0166】
なお、表中の各成分の詳細は、以下の通りである。
・ろう材
Al-12%Si:Si12%含有Alろう材、製品名ECKA Aluminium-Silicon 12AN <0.025mm、ECKA Granules Germany GmbH社製
・フッ化物系フラックス
K-Al-F系フラックス:製品名ノコロックフラックス、SOLVAY社製
・固形化剤
パラフィンワックス:製品名Paraffin Wax-135、日本精蝋社製
ステアリルアルコール:製品名カルコール8098、花王(融点59℃)
・塗膜均質補助剤
SteAc-VEEA:ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルアクリレート=アセタール、半値幅4.5°、合成例1
SteAc-VEEM:ステアリルアルデヒドメチルエチルジエチルエーテルメタクリレート=アセタール、半値幅4.5°、合成例2
ステアリルメタクリレート:製品名SMA 、三菱ガス化学社製、半値幅1.0、分子量339
ステアリン酸メトキシメチルブタン:半値幅1.1°、分子量384、合成例3
ステアリン酸メチル:製品名ステアリン酸メチル95、日油社製、半値幅3.3°、分子量298
ステアリン酸ブチル:製品名ステアリン酸ブチル、日油社製、半値幅3.8°、分子量340
ジカプリン酸ブチル:半値幅2.0°、分子量398、合成例4
ジカプリン酸ヘキシル:半値幅1.5°、分子量426、合成例5
無水フタル酸ステアリル:半値幅3.5°、分子量438、合成例6
リグノセリン酸メチル:製品名Methyl Lignocerate、東京化学工業社製、半値幅3.0°、分子量382
パルミチン酸メチル:製品名Methyl Palmitate、東京化学工業社製、半値幅3.4°、分子量270
ミリスチン酸メチル:製品名Methyl Myristate、東京化学工業社製、半値幅3.4°、分子量242
ポリエチレン:製品名ニポロンハード7300A、東ソー社製、半値幅4.5°、分子量20,000
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明のろう付け材およびろう付け部材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を備える熱交換器の製造において、好適に用いられる。