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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】車輌用描画装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/26 20060101AFI20241015BHJP
   B60Q 1/34 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B60Q1/26 Z
B60Q1/34 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021545171
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2020030562
(87)【国際公開番号】W WO2021049232
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019163835
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】柴田 裕一
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114048(WO,A1)
【文献】特開2002-015709(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138150(WO,A1)
【文献】特開2016-193689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/26
B60Q 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンバー色の光によって路面に表示を描画する車輌用描画装置であって、
前記表示の輝度を路面描画輝度とし走行されている車輌の周辺環境における輝度を背景輝度としたときに、
前記路面描画輝度と前記背景輝度によって算出される前記路面描画輝度の前記背景輝度に対する輝度コントラストが0.2以上になるように前記アンバー色の光が照射される
車輌用描画装置。
【請求項2】
ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで点消灯が行われる
請求項1に記載の車輌用描画装置。
【請求項3】
前記輝度コントラストが1.0未満になるように前記アンバー色の光が照射される
請求項1又は請求項2に記載の車輌用描画装置。
【請求項4】
アンバー色の光によって路面に表示を描画する車輌用描画装置であって、
配光パターンにおける最大光度がターンシグナルランプから照射される光の配光パターンにおける最大光度に対して3倍以上20倍以下にされ
前記表示の照度を水平面照度とし走行されている車輌の周辺環境における照度を環境照度としたときに、
前記環境照度に対する前記水平面照度の比が0.2以上にされた
車輌用描画装置。
【請求項5】
前記ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで点消灯が行われる
請求項4に記載の車輌用描画装置。
【請求項6】
前記表示が複数描画され、
前記複数の表示を描画する光のうち少なくとも一つの前記表示を描画する光の配光パターンにおける最大光度が前記ターンシグナルランプから照射される光の配光パターンにおける最大光度に対して3倍以上にされた
請求項4又は請求項5に記載の車輌用描画装置。
【請求項7】
照射される光に対する減光制御が可能にされた
請求項4又は請求項5に記載の車輌用描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面に所定の表示を描画する車輌用描画装置についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌には標識灯として機能する各種の車輌用灯具、例えば、ターンシグナルランプやストップランプやテールランプ等が設けられている。これらの車輌用灯具から光が照射されることにより、他の車輌の搭乗者や歩行者等が車輌の走行状態や走行方向を認識し易くなり、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能が発揮される。
【0003】
一方、車輌には、上記のような標識灯として機能する車輌用灯具の他に、自車輌の運行に関連する情報、例えば、右左折時における進行方向に関連する情報等を路面に描画する車輌用描画装置を有するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】2016-193689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような車輌用描画装置においては、路面に描画される表示の良好な視認性が確保され、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能が発揮されることにより安全性の向上が図られることが望ましい。
【0006】
特に、日没直前の薄暗い時間帯は車輌の周辺環境における背景輝度が概ね800lx(ルクス)程度にされ、走行されている車輌の存在を最も気付き難い時間帯とされており、この時間帯においても他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能が発揮されることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、路面に描画される表示の視認性の向上を図り、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能を発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1に、本発明に係る車輌用描画装置は、アンバー色の光によって路面に表示を描画する車輌用描画装置であって、前記表示の輝度を路面描画輝度とし走行されている車輌の周辺環境における輝度を背景輝度としたときに、前記路面描画輝度と前記背景輝度によって算出される輝度コントラストが0.2以上になるように前記アンバー色の光が照射されるものである。
【0009】
これにより、路面描画輝度の背景輝度に対する輝度コントラストが高くなる。
【0010】
第2に、上記した本発明に係る車輌用描画装置においては、ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで点消灯が行われることが望ましい。
【0011】
これにより、ターンシグナルランプの点灯及び消灯と車輌用描画装置の点灯及び消灯とが同じタイミングで行われる。
【0012】
第3に、上記した本発明に係る車輌用描画装置においては、前記輝度コントラストが1.0未満になるように前記アンバー色の光が照射されることが望ましい。
【0013】
これにより、輝度コントラストが一定以下の値になるため、車輌用描画装置から路面へ向けて照射される光の量が少なくなる。
【0014】
第4に、別の本発明に係る車輌用描画装置は、アンバー色の光によって路面に表示を描画する車輌用描画装置であって、配光パターンにおける最大光度がターンシグナルランプから照射される光の配光パターンにおける最大光度に対して3倍以上にされたものである。
【0015】
これにより、路面描画輝度の背景輝度に対する輝度コントラストを高くすることが可能になる。
【0016】
第5に、上記した別の本発明に係る車輌用描画装置においては、前記ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで点消灯が行われることが望ましい。
【0017】
これにより、ターンシグナルランプの点灯及び消灯と車輌用描画装置の点灯及び消灯とが同じタイミングで行われる。
【0018】
第6に、上記した別の本発明に係る車輌用描画装置においては、前記表示が複数描画され、前記複数の表示を描画する光のうち少なくとも一つの前記表示を描画する光の配光パターンにおける最大光度が前記ターンシグナルランプから照射される光の配光パターンにおける最大光度に対して3倍以上にされることが望ましい。
【0019】
これにより、路面描画輝度の背景輝度に対する輝度コントラストを少なくとも一つの表示において高くすることが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、路面描画輝度の背景輝度に対する輝度コントラストが高くなるため、路面に描画される表示の視認性が向上し、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図2乃至図6と共に本発明車輌用描画装置の実施の形態を示すものであり、本図は、車輌用描画装置を有する車輌を示す側面図である。
図2】二輪車が側方に存在する場合に表示が描画された例を示す平面図である。
図3】遮蔽物に遮蔽された位置に歩行者が存在する場合に表示が描画された例を示す平面図である。
図4】表示の形状の例を示す平面図である。
図5】輝度コントラストと検出率の関係を示すグラフ図である。
図6】ターンシグナルランプから照射される光と車輌用描画装置から照射される光の配光パターンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明車輌用描画装置を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0023】
<車輌用描画装置及び車輌用灯具の構成等>
先ず、車輌100に設けられた車輌用描画装置1及び車輌用灯具20の構成等について説明する(図1乃至図4参照)。
【0024】
車輌用描画装置1は、例えば、車輌100の前端部における左右両端部にそれぞれ取り付けられて配置された車輌用灯具20の内部に、ターンシグナルランプ用の灯具ユニット共に描画ユニットとして設けられている(図1参照)。尚、車輌用描画装置1は車輌用灯具20とは別に車輌100の前端部における左右両端部にそれぞれ取り付けられて配置されていてもよい。
【0025】
車輌用描画装置1は、例えば、車輌100において、高さhの取付位置から路面200へ向けて光を照射する構成にされており、光軸上の照射距離dにおける照射位置と路面200の角度がθとされる。車輌用描画装置1からはアンバー色の光が路面200へ向けて照射され、アンバー色の光は主波長が580nm~600nmにされている。
【0026】
また、車輌100においては、アンバー色の光がターンシグナルランプの光として車輌用灯具20から照射され、ターンシグナルランプにおけるアンバー色の光も主波長が580nm~600nmにされている。ターンシグナルランプの光の照射は一定時間毎に点消灯が繰り返される点滅状態又は時間差をもって複数の光源が順次点灯し全ての光源が同時に消灯する所謂シーケンシャル状態にされている。
【0027】
車輌用描画装置1から照射される光によって路面200に表示10、10、・・・が描画される(図2及び図3参照)。左側の車輌用描画装置1からは前斜め左方へ向けて光が照射され、車輌100の左右方向における中央線Lを基準として路面200における前斜め左方の位置に表示10、10、・・・が描画される。右側の車輌用描画装置1からは前斜め右方へ向けて光が照射され、車輌100の左右方向における中央線Lを基準として路面200における前斜め右方の位置に表示10、10、・・・が描画される。
【0028】
尚、車輌用描画装置1においては、左側の表示10、10、・・・又は右側の表示10、10、・・・の双方が同時には描画されないが、図2には、理解を容易にするために、左側の表示10、10、・・・と右側の表示10、10、・・・の双方を実線と破線によって示す。
【0029】
車輌用描画装置1から照射された光によって路面200に描画される表示10は一つであってもよく複数が並んでいてもよい。表示10を描画する光の照射の開始は、例えば、ターンシグナルランプから照射される光の開始と同じタイミングで行われる。従って、表示10は車輌100が交差点や曲がり角を左折又は右折するときに路面200に描画され、左折時のターンシグナルランプの光の照射時には左側の車輌用描画装置1から光が照射され、右折時のターンシグナルランプの光の照射時には右側の車輌用描画装置1から光が照射される。
【0030】
上記のように、表示10を描画する光の照射の開始とターンシグナルランプから照射される光の開始とは同じタイミングで行われるが、双方の光の照射の開始は、例えば、車輌100における運転者のウインカーレバーの操作によって行われる。
【0031】
他の車輌の搭乗者や歩行者等の車輌100の搭乗者以外の者は、ターンシグナルランプの点灯によって車輌100の存在や車輌100の進行方向に関して注意喚起を促されるが、車輌用描画装置1から照射される光によって描画される表示10により車輌100の存在や車輌100の進行方向に関して一層の注意喚起が促される。
【0032】
ターンシグナルランプからは車輌100の進行方向やその周囲に光が照射され、ターンシグナルランプから照射される光は路面200を照射する光としての機能は低い。一方、車輌用描画装置1から照射される光によっては路面200に表示10が描画されるため、車輌用描画装置1から照射される光によってターンシグナルランプから照射される光の機能が補われる。特に、前斜め下方や前方を向いて歩行する歩行者や前斜め下方や前方を向いて運転する他の車輌の運転者においては表示10が視野に入り易く、表示10によって歩行者に対する注意喚起機能のより一層の向上を図ることができる。
【0033】
また、例えば、バイクや自転車等の二輪車30が車輌100の側方を走行したり車輌100の側方をすり抜けようとしたときに、車輌100の運転者が左折を意図してウインカーレバーを操作した場合には、ターンシグナルランプの点滅が行われると共に路面200における前斜め左方の位置に表示10、10、・・・が描画される(図2参照)。従って、表示10、10、・・・の描画により、二輪車30の運転者には車輌100の左折の意図が認識され、車輌100の進行方向に関して二輪車30の運転者に注意喚起が促される。これにより、二輪車30の車輌100による巻込事故や二輪車30と車輌100の衝突事故が防止され、二輪車30の搭乗者と車輌100の搭乗者との双方の安全性の向上を図ることができる。
【0034】
さらに、例えば、建築物や壁等の遮蔽物300によって車輌100の運転者と歩行者40や他の車輌の運転者とが互いに存在を認識できない曲がり角に差し掛かったときに、車輌100の運転者が左折や右折を意図してウインカーレバーを操作した場合に、ターンシグナルランプの点滅が行われると共に路面200における前斜め左方又は前斜め右方の位置に表示10、10、・・・が描画される(図3参照)。従って、表示10、10、・・・の描画により、歩行者40等には遮蔽物300によって遮蔽されている位置で走行中の車輌100の存在や車輌100の左折又は右折の意図が認識され、車輌100の存在及び進行方向に関して歩行者40等に注意喚起が促される。従って、歩行者40等と車輌100の出会い頭による衝突が防止され、歩行者40等と車輌100の搭乗者との双方の安全性の向上を図ることができる。
【0035】
車輌用描画装置1からはターンシグナルランプと同様に、点滅状態又はシーケンシャル状態の光が照射される。従って、ターンシグナルランプから点滅状態で光が照射される場合に車輌用描画装置1から点滅状態又はシーケンシャル状態で光が照射されてもよく、ターンシグナルランプからシーケンシャル状態で光が照射される場合に車輌用描画装置1から点滅状態又はシーケンシャル状態で光が照射されてもよい。
【0036】
但し、車輌用描画装置1とターンシグナルランプからともに光が点滅状態で照射される場合には点消灯のタイミングが同一にされることが望ましく、また、車輌用描画装置1とターンシグナルランプからともに光がシーケンシャル状態で照射される場合にも点消灯のタイミングが同一にされることが望ましい。このように車輌用描画装置1とターンシグナルランプからともに光が同一の点消灯状態で照射される場合に点消灯のタイミングが同一にされることにより、車輌用描画装置1とターンシグナルランプから連動して光が照射されるため、注意喚起をすべき光として双方の光が認識され易く、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い安全性を確保することができる。尚、光が点滅状態で照射される場合には点滅の周波数が、例えば、1~2Hz程度にされる。
【0037】
また、車輌用描画装置1の点灯が走行される車輌100の周辺環境や他の車輌用灯具との関係に応じて行われる構成にされてもよい。例えば、周辺環境における輝度を表す背景輝度が夕方から明け方までのような一定以下の輝度である場合に車輌用描画装置1の点灯が行われたり、車輌100が昼間に路面等を照射するデイタイムランニングランプを有している場合にデイタイムランニングランプの消灯時間に合わせて車輌用描画装置1の点灯が開始される構成にすることが可能である。
【0038】
上記のように、車輌100の左折時又は右折時にはターンシグナルランプから光が照射されると共に車輌用描画装置1から光が照射されるが、車輌100の左折後又は右折後は車輌用描画装置1の消灯がターンシグナルランプの消灯に先立って行われることが望ましい。ターンシグナルランプの消灯は車輌100の左折後又は右折後におけるハンドルの戻り遅れによって左折後又は右折後の一定時間点灯している可能性があるが、左折後又は右折後には必要のない表示10が存在すると他の車輌の搭乗者等に対して誤認を生じるおそれがある。従って、上記のように車輌100の左折後又は右折後に車輌用描画装置1の消灯がターンシグナルランプの消灯に先立って行われることにより、他の車輌の搭乗者等に対する誤認の発生を防止することができる。
【0039】
車輌用描画装置1から光が照射されると、上記したように、車輌100の走行位置を基準として路面200における前斜め側方(前斜め左方又は前斜め右方)の位置に表示10、10、・・・が描画され、表示10、10、・・・は、例えば、照射方向において並ぶ状態で描画される(図2及び図3参照)。路面200に描画される表示10の形状としては、他の車輌の搭乗者や歩行者等において車輌100の進行予定方向を想定し易い形状であれば任意であり、例えば、少なくとも先端側の部分の幅が進行予定方向へ行くに従って小さくなる先細りの形状であることが望ましい(図4参照)。このような形状の代表例として、光の照射方向Pを基準として二つの平行四辺形が線対称の状態で連続した形状(図4の上段参照)やホームベース型の形状(図4の中段参照)や矢印型の形状(図4の下段参照)等がある。尚、図4に示すFRは車輌100の前後方向を示す線である。
【0040】
これらの表示10を示す各形状の先端側の部分において、照射方向Pに対して傾斜する線分の方向を傾斜方向Qとすると、照射方向Pに対する傾斜方向Qが為す角度Rは120度未満にされることが望ましい。角度Rが120度未満にされることにより、各形状の先端側の部分が鋭角な形状に認識され易く、他の車輌の搭乗者や歩行者等において車輌100の進行予定方向を想定し易くなり、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い安全性を確保することができる。
【0041】
尚、車輌100においては、左側の車輌用描画装置1から照射される光によって描画される表示10と右側の車輌用描画装置1から照射される光によって描画される表示10とが同じ形状にされていてもよく異なる形状にされていてもよい。
【0042】
<車輌用描画装置から照射される光の条件>
次に、車輌用描画装置1から照射される光の背景輝度との関係における条件について説明する(図1及び図5参照)。
【0043】
車輌用描画装置1から照射される光によって描画される表示10の輝度を路面描画輝度Loとし、走行されている車輌100の周辺環境における輝度を背景輝度Lbとすると、輝度コントラストCは以下の数式1によって算出される。
【0044】
【数1】
【0045】
図5は、路面に表示が描画された場合において、輝度コントラストに対する人による表示の検出率を異なる背景輝度において測定したデータを示す図である。横軸は輝度コントラストであり、縦軸は検出率であり、測定は背景輝度として800lx(ルクス)、100lx、50lx及び10lxの四つの異なる背景輝度において行った。800lxは日没直前頃の環境における背景輝度であり、100lxは日没直後の環境における背景輝度であり、50lxは夜間の明るい交差点の環境における背景輝度であり、10lxは夜間の暗い交差点の環境における背景輝度である。
【0046】
図5に示すように、何れの背景輝度においても、輝度コントラストが0.2以上であれば検出率が100%になり、他の車輌の搭乗者や歩行者等の全ての者が表示を検出することができる結果が得られた。
【0047】
そこで、車輌用描画装置1においては、路面描画輝度Loと背景輝度Lbによって算出される輝度コントラストCが0.2以上になるようにアンバー色の光が照射される構成にされている。具体的には、車輌用描画装置1において輝度コントラストCが0.2以上になる光度を以下のようにして定めている。
【0048】
車輌用描画装置1から照射される光の光度を光度Iとすると、車輌100における車輌用描画装置1の取付位置の高さhと光の照射距離dと照射距離dにおける照射位置と路面200の角度θとの関係(図1参照)において、路面に描画される表示の照度(水平面照度)Edrwは以下の数式2によって算出される。
【0049】
【数2】
【0050】
輝度と照度は比例するため、輝度コントラストCは路面の照度におけるコントラストに一致され、水平面照度Edrwと走行される車輌100の周辺環境における照度である環境照度Eenvとの数式3によって算出される比は輝度コントラストCに一致される。
【0051】
【数3】
【0052】
従って、数式3で算出された「Edrw/Eenv」が0.2以上であれば、輝度コントラストCの値も0.2以上の値になり、図5で示した何れの背景輝度においても、検出率が100%になり、他の車輌の搭乗者や歩行者等の全ての者が表示10を検出することができる。
【0053】
水平面照度Edrwは、数式2において示したように、光度Iと高さhと照射距離dと角度θに基づいて算出される値であるため、車輌用描画装置1においては、環境照度Eenvに応じて高さhと照射距離dと角度θと必要な水平面照度Edrwに基づいて光度Iを定め、「Edrw/Eenv」(=輝度コントラストC)が0.2以上になる所定の光度のアンバー色の光が路面へ向けて照射されるように構成されている。
【0054】
この場合に、例えば、測定データにおいて周囲の環境が最も明るい状況の800lxの場合に輝度コントラストが0.2以上になる光度を定め、800lxの状況において定めた光度以上にされた光が車輌用描画装置1から照射される構成にすることにより、10lx~800lxの何れの環境においても輝度コントラストを0.2以上にすることができる。
【0055】
尚、車輌100においては、路面200の輝度を検出する検出カメラを設け、検出カメラによって検出された路面200の輝度に基づいて輝度コントラストが0.2以上になる光度の光が車輌用描画装置1から照射されるように制御する構成にされていてもよい。
【0056】
また、車輌100において環境照度を検出する照度センサーを設け、照度センサーによって検出された環境照度に基づいて輝度コントラストが0.2以上になる光度の光が車輌用描画装置1から照射されるように制御する構成にされていてもよい。
【0057】
さらに、雨天等の場合にワイパーが作動されているときや検出カメラによって路面が冠水状態であることが検出されたときには、車輌用描画装置1から照射された光によって他の車輌の搭乗者や歩行者等に対して幻惑光が発生するおそれがあるが、このような状況において車輌用描画装置1から照射される光に対する減光制御が行われ幻惑光の発生を抑制する構成にされてもよい。
【0058】
尚、輝度コントラストは0.2以上であればよいが、車輌用描画装置1から照射される光の光度は光量を低減するために小さいことが望ましく、輝度コントラストは1.0未満であることが望ましく、0.9以下であることがより望ましい。
【0059】
上記したように、車輌用描画装置1にあっては、路面描画輝度Loと背景輝度Lbによって算出される輝度コントラストCが0.2以上になるようにアンバー色の光が照射される。
【0060】
従って、路面描画輝度Loの背景輝度Lcに対する輝度コントラストCが高くなるため、路面200に描画される表示10の視認性が向上し、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能を発揮させることができる。
【0061】
また、ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで車輌用描画装置1の点消灯が行われることにより、ターンシグナルランプの点灯及び消灯と車輌用描画装置1の点灯及び消灯とが同じタイミングで行われる。
【0062】
従って、他の車輌の搭乗者や歩行者等が車輌用描画装置1を有する車輌100の存在をより認識し易くなり、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能の一層の向上を図ることができる。
【0063】
さらに、輝度コントラストが1.0未満、より望ましくは0.9以下になるようにアンバー色の光が照射されることにより、輝度コントラストが一定以下の値になるため、車輌用描画装置1から路面200へ向けて照射される光の量が少なくなり、消費電力の低減を図った上で他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能の向上を図ることができる。
【0064】
尚、車輌用描画装置1においては、表示10、10、・・・を描画する光のうち少なくとも一つの表示10を描画する光が照射されるときの輝度コントラストが0.2以上になるようにされていてもよい。
【0065】
このような構成にすることにより、少なくとも一つの表示10の視認性が高くなり、車輌用描画装置1から照射される光の光量の低減を考慮した上で他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能の向上を図ることができる。
【0066】
<車輌用描画装置から照射される光の別の条件>
次いで、車輌用描画装置1から照射される光のターンシグナルランプとの関係における条件について説明する(図6参照)。
【0067】
図6は、車輌100の前端部に設けられたターンシグナルランプから照射される光の配光パターンTと左側の車輌用描画装置1から照射される光の配光パターンSLと右側の車輌用描画装置1から照射される光の配光パターンSRとを模式的に示す図である。図6において、Vは鉛直線を示し、Hは車輌100の運転者から見たときの水平線を示し、Tmは配光パターンTの中央点を示し、Lmは配光パターンSLの中央点を示し、Rmは配光パターンSRの中央点を示す。
【0068】
図6に示すように、車輌100の前端部に設けられたターンシグナルランプから出射される光によって車輌100の前方から側方に亘る領域が照射される。一方、車輌用描画装置1から照射される光は配光パターンTより下方の領域へ向かう。このとき車輌用描画装置1の光軸はターンシグナルランプの光軸に対して下側に5度以上傾斜するようにされている。また、左側の車輌用描画装置1からは前後方向に対して、例えば、10度から45度斜め左方の範囲へ向けて光が照射され、右側の車輌用描画装置1からは前後方向に対して、例えば、10度から45度斜め右方の範囲へ向けて光が照射される。
【0069】
このように車輌用描画装置1の光軸がターンシグナルランプの光軸に対して下側に5度以上傾斜する構成にされ、左右の車輌用描画装置1、1から前後方向に対して10度から45度斜め側方の範囲へ向けて光が照射されることにより、車輌100の近傍の路面200に表示10、10、・・・を描画することが可能にされている。
【0070】
従って、車輌100の側方に存在する二輪車30の搭乗者や歩行者40等に加え、隣の車線を走行している他の車輌の搭乗者からも表示10、10、・・・を視認することが可能になり、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能を確保することができる。
【0071】
また、車輌用描画装置1の光軸がターンシグナルランプの光軸に対して下側に5度以上傾斜する構成にされることにより、車輌100におけるヘッドランプの照射領域から外れた領域に車輌用描画装置1から光を照射することが可能になり、表示10、10、・・・の一層の視認性の向上を図ることができる。
【0072】
ターンシグナルランプから照射される光は配光パターンTの中央点Tmにおいて最高光度Mtとなり、左側の車輌用描画装置1から照射される光は配光パターンSLの中央点Lmにおいて最高光度Msとなり、右側の車輌用描画装置1から照射される光は配光パターンSRの中央点Rmにおいて最高光度Msとなる。
【0073】
車輌100においては、最高光度Mtと最高光度Msの関係について最高光度Msが最高光度Mtの3倍以上にされている。尚、最高光度Msは最高光度Mtの3倍以上にされているが、車輌用描画装置1から照射される光の光量の低減を考慮して最高光度Mtの20倍以下にされることが望ましい。
【0074】
例えば、車輌用描画装置1から照射される光の最高光度Msが1500cdにされターンシグナルランプから照射される光の最高光度Tsが500cdにされて最高光度Msが最高光度Mtの3倍にされている場合に、車輌用描画装置1の車輌100に対する取付位置の高さhが0.7mとされ車輌用描画装置1から照射される光の照射距離dが3.0mであるとすると、環境照度Eenvが1941lx以下であれば輝度コントラストCが0.2以上になる。
【0075】
このように最高光度Msが最高光度Mtの3倍以上にされることにより、800lx以下の環境照度において十分に高い輝度コントラストを確保することが可能になる。
【0076】
上記したように、車輌用描画装置1にあっては、配光パターンSLと配光パターンSRにおける最大光度Msがターンシグナルランプから照射される光の配光パターンTにおける最大光度Mtに対して3倍以上にされている。
【0077】
従って、路面描画輝度Loの背景輝度Lcに対する輝度コントラストCを高くすることが可能になるため、路面200に描画される表示10の視認性が向上し、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する高い注意喚起機能を発揮させることができる。
【0078】
また、ターンシグナルランプの点消灯と同じタイミングで車輌用描画装置1の点消灯が行われることにより、ターンシグナルランプの点灯及び消灯と車輌用描画装置1の点灯及び消灯とが同じタイミングで行われる。
【0079】
従って、他の車輌の搭乗者や歩行者等が車輌用描画装置1を有する車輌100の存在をより認識し易くなり、他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能の一層の向上を図ることができる。
【0080】
尚、車輌用描画装置1においては、表示10、10、・・・を描画する光のうち少なくとも一つの表示10を描画する光の配光パターンSにおける最大光度Msがターンシグナルランプから照射される光の配光パターンTにおける最大光度Mtに対して3倍以上にされてもよい。
【0081】
このような構成にすることにより、少なくとも一つの表示10を描画する光に関し輝度コントラストを0.2以上にすることが可能になるため、少なくとも一つの表示10の視認性が高くなり、車輌用描画装置1から照射される光の光量の低減を考慮した上で他の車輌の搭乗者や歩行者等に対する注意喚起機能の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0082】
1…車輌用描画装置、10…表示、100…車輌、200…路面
図1
図2
図3
図4
図5
図6