(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】手技シミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 23/30 20060101AFI20241015BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
G09B23/30
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2021575674
(86)(22)【出願日】2021-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2021000614
(87)【国際公開番号】W WO2021157285
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020017102
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】小崎 浩司
(72)【発明者】
【氏名】野澤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】深水 淳一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 誠
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-140334(JP,A)
【文献】特開2016-057451(JP,A)
【文献】国際公開第2019/005868(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/075732(WO,A1)
【文献】米国特許第09852660(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0161347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
17/00-19/26
23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する第1貯留槽と、
複数の分岐部を通じて下流に向けて複数の分岐流路に分岐し、且つ前記分岐部及び前記分岐流路が同じ高さに形成された組織モデルと、
前記第1貯留槽の前記液体を前記組織モデルに供給するポンプと、
前記分岐流路から流出する前記液体を貯留する第2貯留槽と、
前記分岐流路の出口と前記第2貯留槽とを繋ぐ配管と、
前記配管の途上に設けられ、前記第2貯留槽よりも下方に前記液体を排出するドレイン流路に前記分岐流路を選択的に連通させる切換弁と、
前記切換弁と前記分岐流路の出口との間の前記配管の途上に設けられたフィルタ部材と、を備えた、手技シミュレータ。
【請求項2】
請求項1記載の手技シミュレータであって、前記配管は前記第2貯留槽の下端付近に接続され、前記第2貯留槽は、前記組織モデルより高い位置に前記液体の液面を維持する、手技シミュレータ。
【請求項3】
請求項2記載の手技シミュレータであって、前記配管は、前記組織モデルと同じ高さで前記第2貯留槽に接続される、手技シミュレータ。
【請求項4】
請求項3記載の手技シミュレータであって、前記配管よりも高い位置で前記第2貯留槽に接続され、前記第2貯留槽の前記液体を前記第1貯留槽に還流させる還流配管を備えた、手技シミュレータ。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の手技シミュレータであって、各々の前記分岐流路に設けられた前記フィルタ部材が一列に並んで配置される、手技シミュレータ。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の手技シミュレータであって、前記ドレイン流路から排出される前記液体を収容する第3貯留槽を備え、該第3貯留槽の液面は、前記組織モデルよりも低い位置にある、手技シミュレータ。
【請求項7】
請求項6記載の手技シミュレータであって、前記第2貯留槽は前記組織モデルから水平方向に離間した位置に設けられ、前記第3貯留槽は前記第2貯留槽と前記組織モデルとの間に配置される、手技シミュレータ。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の手技シミュレータであって、前記第1貯留槽は前記組織モデルの下に配置される、手技シミュレータ。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の手技シミュレータであって、前記組織モデル及び前記配管を撮像する撮像装置と、前記撮像装置が撮像した映像を表示する表示装置と、を備えた、手技シミュレータ。
【請求項10】
請求項9記載の手技シミュレータであって、さらに、前記組織モデル、前記配管及び前記フィルタ部材を照明する照明装置を備えた、手技シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルを用いた手技の訓練に用いる手技シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓癌、前立腺腫瘍、子宮筋腫等に対して、動脈内に挿入したカテーテルを通じて、造影剤等の診断剤、抗ガン剤及び塞栓物質等の治療剤を投与して、診断及び治療をする技術が知られている。治療においては、癌や腫瘍等の組織に選択的に治療剤を投与するとともに、正常組織にはできる限り治療剤が流れないようにすることが望ましい。
【0003】
近年、癌組織には微小な動脈血管が形成されることで、動脈流が集中することに着目したB-TACE(Balloon Occluded Trans Arterial Chemo Embolization)等の手技が以下に報告されている。
【0004】
米国特許第9844383号明細書
【0005】
入江、他2名、「Dense Accumulation of Lipiodol Emulsion in Hepatocellular Carcinoma Nodule during Selective Balloon-occluded Arterial Stump Pressure」、Cardio Vascular and Intervention Radiology、2013年、36号、p.706-713
【0006】
松本、他9名、「Balloon-occluded arterial stump pressure before balloon-occluded transarterial chemoembolization」、Minimally Invasive Therapy & Allied Technologies, Volume 25, 2016 Issue 1、2015年9月25日、インターネット<URL: https://doi.org/10.3109/13645706.2015.1086381>
【0007】
B-TACEは、カテーテル先端部のバルーンで、動脈流が集中する癌組織より上流の動脈を塞栓して、正常組織と癌や腫瘍等の組織との間で局所的な血圧の較差(圧較差ともいう)を生じさせる経皮的治療手技である。B-TACEは、血管内に挿入して拡張させたバルーンの先端側から治療剤を投与することで、治療部位に特異的に治療剤を集中させることを特徴とする。
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、従来の治療に慣れている医師にとって、生体内で局所的、且つ、限られた条件下で発生する血液の流れを直感的に理解することは難しく、これらの手技が医療現場で普及しているとは言い難い現状である。
【0009】
そのため、バルーンで血管内を閉塞することによって圧較差が生じ、特定部位に選択的に治療剤を投与することが可能であることを実感できる手技シミュレータ及びそれを用いた手技訓練方法が求められている。
【0010】
以下の開示の一態様は、液体を貯留する第1貯留槽と、複数の分岐部を通じて下流に向けて複数の分岐流路に分岐し、且つ前記分岐部及び前記分岐流路が同じ高さに形成された組織モデルと、前記第1貯留槽の前記液体を前記組織モデルに供給するポンプと、前記分岐流路から流出する前記液体を貯留する第2貯留槽と、前記分岐流路の出口と前記第2貯留槽とを繋ぐ配管と、前記配管の途上に設けられ、前記第2貯留槽よりも下方に前記液体を排出するドレイン流路に前記分岐流路を選択的に連通させる切換弁と、前記切換弁と前記分岐流路の出口との間の前記配管の途上に設けられたフィルタ部材と、を備えた、手技シミュレータにある。
【0011】
別の一態様は、上記観点の手技シミュレータを用いた、手技訓練方法であり、前記第1貯留槽に液体を満たすステップと、前記ポンプを駆動させて、前記液体を、前記第1貯留槽、前記組織モデル、前記第2貯留槽の間で循環させるステップと、所定の前記分岐流路の出口に接続された前記配管の前記切換弁を介して前記液体をドレイン流路から排出させるステップと、前記組織モデルにカテーテルを挿入し、前記ドレイン流路に連通する前記分岐流路の上流部をバルーンで閉塞するステップと、前記バルーンの先端から造影剤又は治療剤を流すステップと、を有する手技訓練方法にある。
【0012】
上記観点の手技シミュレータ及びそれを用いた手技訓練方法によれば、分岐流路の下流にフィルタ部材と切換弁を設けたことにより分岐流路の間に圧較差を発生させることができ、フィルタ部材によって、特定部位に選択的に治療剤の投与が可能であることを実感させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】第1実施形態に係る手技シミュレータの平面図である。
【
図3】
図2の手技シミュレータの配管及びカテーテル導入部材を取り外した状態の斜視図である。
【
図4】
図2の手技シミュレータの組織モデルの断面図である。
【
図5】
図2の手技シミュレータの液体の循環経路を示す模式図である。
【
図6】
図2の手技シミュレータに使用するカテーテルの平面図である。
【
図7】
図2の手技シミュレータにおいて、所定の分岐流路にドレイン流路を連通させた際の液体の流れを示す説明図である。
【
図8】
図7の手技シミュレータの動作時に分岐流路の上流側をバルーンで閉塞したときの液体の流れを示す説明図である。
【
図9】第2実施形態に係る手技シミュレータの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
本実施形態は、肝臓癌の治療を模擬する手技シミュレータ10(
図2参照)について説明する。
【0016】
肝臓100は人間の腹部で最も大きな臓器であり、
図1に示すように、肝動脈102、肝静脈104、胆管及び門脈といった管路が通じている。なお、
図1において胆管及び門脈の図示は省略する。Claude Couinaudによる解剖学的分類によれば、肝臓100はS1~S8の8の亜区域に分けられるとされている。図中のS1は尾状葉、S2は左葉外側後区域、S3は左葉外側前区域、S4は左葉内側区域、S5は右葉前下区域、S6は右葉後下区域、S7は右葉後上区域、S8は右葉前上区域となっている。各々の亜区域は、機能的に独立しており、それぞれに血液等が流入又は流出する管路がある。したがって、病変部位の特定及び治療においては、8つの亜区域に分けることが有用である。
【0017】
肝臓癌の治療においては、肝動脈102からカテーテル60(
図6参照)を挿入し、癌組織が形成された亜区域に対して選択的に治療剤を投与する手技が行われる。癌組織は、微小な動脈血管を多数形成する。そのため、癌組織がある亜区域では、局所的に肝動脈102の血液が流れやすくなり、癌組織が無い正常な亜区域の肝動脈102との間に局所的な血圧の較差(圧較差)が生じる。ここで、肝動脈102の所定部位をカテーテル60の先端部のバルーン64で塞栓すると、圧較差により、癌組織に向けて選択的に血液が流れ込むようになる。この血液の流れを利用して、癌組織がある区域に対して、選択的に治療剤を投与する手技を行うことができる。
【0018】
本実施形態の手技シミュレータ10は、
図2に示すように、上記した肝臓100の動脈を模擬したものであり、8つの亜区域に対応するべく、8つの分岐流路42に分岐した組織モデル18を有している。手技シミュレータ10の分岐流路42の各々は、肝臓100の各亜区域(S1~S8)につながる動脈を模擬しており、カテーテル60を用いた癌治療の訓練に用いられる。
【0019】
手技シミュレータ10は、図示のように、第1貯留槽12、第2貯留槽14、第3貯留槽16、組織モデル18、ポンプ20、配管22、及びカテーテル導入部材24を含む。このうち、第1貯留槽12、第2貯留槽14、第3貯留槽16、組織モデル18、ポンプ20、及び配管22は、平坦な支持板26の上に配置されている。支持板26の上に、少なくとも第1貯留槽12、第2貯留槽14、第3貯留槽16、組織モデル18、ポンプ20の各々が取り付けられるようになっていることで、持ち運びやセットが容易となる。
【0020】
図3に示すように、支持板26の上には、トレー28が載置されている。トレー28は、第1貯留槽12、組織モデル18及びポンプ20をまとめて支持するための板状部材であり、その一端側には、第1貯留槽12が配置される。トレー28の他端側には、組織モデル18の上流部(始端部36)を支持する支柱28aが設けられている。また、トレー28の支柱28aと第1貯留槽12との間には、ポンプ20が配置される。第1貯留槽12は、トレー28から着脱可能となっている。
【0021】
第1貯留槽12は、組織モデル18内に導入するための液体を貯留する容器であり、平面視で矩形状に形成される。第1貯留槽12は、組織モデル18の下に配置されている。第1貯留槽12は、アクリル樹脂等の樹脂材料によって形成されている。第1貯留槽12は、その上端に開口部を有していてもよい。
【0022】
ポンプ20は、例えば遠心ポンプ等により構成され、第1貯留槽12に貯留された液体を第1貯留槽12の上方に設けられた組織モデル18に汲み上げる。
図2に示すように、ポンプ20の吸込口は、吸込流路29を介して第1貯留槽12に接続されている。ポンプ20の吐出口には、吐出配管27の一端が接続されている。吐出配管27の他端は、カテーテル導入部材24の導入ポート24aから分岐した液体供給口24bに接続されている。
【0023】
カテーテル導入部材24は、柔軟な管状の本体部24cと、本体部24cの基端側に設けられた導入ポート24aとを備えている。本体部24cの先端側は、組織モデル18の始端部36に接続されており、導入ポート24a及び液体供給口24bは、本体部24cを通じて、組織モデル18の流路38と連通している。ポンプ20から吐出された液体は、カテーテル導入部材24を介して、組織モデル18の始端部36に送り込まれる。
【0024】
導入ポート24aは、カテーテル60を血管内に挿入する挿入口を模擬している。導入ポート24aには、カテーテル60を挿入できるが、カテーテル導入部材24内部の液体が漏れ出さないように、不図示の弁が設けられている。
【0025】
図3に示すように、第1貯留槽12の上には、組織モデル18が配置されている。組織モデル18は、板状の支持部材30の上に取り付けられている。支持部材30は、第1貯留槽12の上端開口部の一部を覆うように架け渡された平板状の部材であり、その上面側には、組織モデル18の係合孔18aに挿入される突起部30aが設けられている。支持部材30の両側部には、配管22の屈曲部分を案内する配管ガイド31が設けられている。配管ガイド31は、配管22を内部に保持可能なU字状溝である。配管ガイド31は、平面視で円弧状に湾曲した一対の側壁部31aを有しており、これら一対の側壁部31aの間に、配管ガイド31に沿って配管22を湾曲させた状態で保持することで、配管22の閉塞を防止する。組織モデル18は、その係合孔18aが突起部30aに嵌め合うとともに、配管ガイド31に保持された配管22を通じて、支持部材30の上に簡易的に固定される。
【0026】
図4に示すように、組織モデル18は、アクリル樹脂等の透明な材料からなる流路形成ブロック32に設けられている。なお、組織モデル18は、シリコン樹脂等の軟質材(ゴム材)により構成されてもよい。この組織モデル18を構成する流路形成ブロック32は、複数の分岐部34を有しており、図示のように、上流側の始端部36から下流側に向けて樹形図状に分岐して、8本の分岐流路42に分岐している。始端部36に最も近い部分には、分岐部34aが形成されており、この分岐部34aで流路38が2つの分岐流路40a、40bに分岐する。分岐流路40a、40bは、分岐部34aの上流側の流路38に対して、左右に対称な角度で分岐しており、且つ互いに等しい長さに形成されている。
【0027】
分岐流路40a、40bの末端(下流側の端)には、それぞれ分岐部34b、34cが形成されている。分岐部34bでは、分岐流路40aが2つの分岐流路40c、40dに分岐する。分岐流路40c、40dは上流側の分岐流路40aの走行方向に対して対称な角度で左右に分岐する。分岐部34cでは、分岐流路40bが2つの分岐流路40e、40fに分岐する。分岐流路40e、40fは、上流側の分岐流路40bの走行方向に対して対称な角度で左右に分岐する。分岐流路40c~40fは、互いに略等しい長さに形成されている。
【0028】
分岐流路40c~40fの末端には、各々の分岐部34d~34gが形成されている。各々の分岐部34d~34gにおいて、分岐流路40c~40fの各々は、さらに2つの分岐流路42に分岐する。すなわち、組織モデル18は、最終的に8本の分岐流路42に分岐する。分岐流路42は、上流側の分岐流路40c~40fに対して等しい角度で左右に分岐しており、且つ8本の分岐流路42は略同じ長さに形成されている。
【0029】
組織モデル18において、始端部36から各分岐流路42の末端までの流路長は同じとなっている。また、全ての分岐部34a~34g及び分岐流路40a~40f、42が同一の平面に形成されている。これにより、組織モデル18における、各分岐流路42が同等の流量とすることができる。各8本の分岐流路42は、肝臓100(
図1参照)の亜区域S1~S8に繋がる8本の動脈を模している。
【0030】
また、組織モデル18において、分岐部34a~34gの下流には、分岐流路40a~40f、42同士を繋ぐ連結流路45が複数本ずつ設けられている。これらの連結流路45は、組織の側副血行路を模したものである。組織モデル18の内部の分岐流路40a~40f、42は、分岐部34a~34gを経るごとに、分岐前の内径の70~90%程度に細くなるように形成されている。人間の管組織に近づけるべく、分岐後の内径は分岐前の内径の80%(78~82%)とすると好適である。例えば、始端部36側の流路38の内径を5mmとした場合には、分岐流路40a、40bの内径は4mm程度、分岐流路40c~40fの内径は、それぞれ3.3mm程度とすることができる。また、分岐流路42の内径は、2.8mm程度とすることができる。さらに、連結流路45の内径は1.5~1.8mm程度とすることができる。
【0031】
このような組織モデル18は、組織モデル18の約半分の厚さを有する2枚の樹脂板を用意し、各々の樹脂板に流路38、分岐流路40a~40f、42及び連結流路45に対応する溝を形成する。そして、溝同士が一致するように2枚の樹脂板を重ね合わせて接合することで組織モデル18が作製される。
【0032】
分岐流路42の末端には、分岐流路42の出口としての接続ポート44が各々設けられている。
図2に示すように、それらの接続ポート44には、配管22の一端が接続する。配管22は、8本の分岐流路42に対応して8本設けられている。配管22は第2貯留槽14に向けて延びており、配管22の他端は第2貯留槽14の接続ポート52に接続する。なお、第2貯留槽14に向かう方向から大きく傾いた両側部の配管22は、配管ガイド31によって案内されて第2貯留槽14に向かう方向に湾曲している。
【0033】
各々の配管22には、フィルタ部材46と、三方活栓48とが設けられている。フィルタ部材46は、三方活栓48の上流側(すなわち、三方活栓48よりも組織モデル18側)に設けられており、癌細胞を模擬している。フィルタ部材46は、第1貯留槽12上に一列に並んで配置されている。
図5に示すように、フィルタ部材46は、円筒状のケーシング46aとケーシング46aの内部に充填されたフィルタ46bとを備える。ケーシング46aは、フィルタ46bの変色を視認可能とするべく、透明樹脂材料等の内部を視認可能な素材によって形成されている。フィルタ46bは、白色又は淡い色の材料によって形成されてなり、治療剤を模した着色料や、着色された塞栓剤を通ずると、着色する。使用者は、フィルタ46bの着色を視認することで、治療剤が目的部位に到達していることを確認できる。また、フィルタ部材46のケーシング46a内に塞栓剤を流すと、フィルタ46b内に徐々に塞栓剤が蓄積することが視認できる。さらに、フィルタ46bの塞栓が進むと、フィルタ46bに流入する塞栓剤の流入速度が低下することが視認できる。この現象は、実際の生体において、癌・腫瘍組織に塞栓剤が集積する現象と同様の液体の流れの変化を模擬している。これにより、特定の部位へ選択的に治療剤が投与されることを、使用者が実際に確認することができる。フィルタ46bは配管22に着脱可能に接続している。すなわち、フィルタ46bを使い捨て部材とすることもでき、この場合、手技シミュレータ10からフィルタ46bのみを取り外して廃棄することができる。
【0034】
三方活栓48には、分岐流路42から排出された液体を、組織モデル18よりも低い部位に排出するためのドレイン流路50が接続されている。三方活栓48は、分岐流路42を、第2貯留槽14とドレイン流路50とに選択的に連通させる。三方活栓48により、分岐流路42が第2貯留槽14に連通すると、液体は配管22を介して第2貯留槽14に流れ込む。また、三方活栓48により、分岐流路42がドレイン流路50に連通すると、分岐流路42から排出された液体がドレイン流路50を介して、組織モデル18よりも低い位置から排出される。三方活栓48で流路を切り替えることでドレイン流路50から液体が排出される。ドレイン流路50から排出された液体は、第3貯留槽16に貯留される。
【0035】
図2及び
図3に示すように、第2貯留槽14は、平面視で矩形状に形成された貯留槽であり、配管22から排出された液体を貯留する。この第2貯留槽14の容積は、第1貯留槽12の容積よりも小さい。
図3に示すように、第2貯留槽14は、台座14aによってその底面の位置が第1貯留槽12の上端付近となるように設けられている。なお、第2貯留槽14は、支持板26又は台座14aから着脱可能となっている。
【0036】
また、第2貯留槽14は、底部付近に設けられた8つの接続ポート52と、上端付近に設けられた1つの排出ポート54とを備えている。8つの接続ポート52は同じ高さに設けられており、各々に配管22の下流側の端部が接続されている。排出ポート54には、還流配管56の上流側の端部が接続されている。
【0037】
図5に示すように、還流配管56の下流側の端部は、第1貯留槽12の内部に配置されている。第2貯留槽14では、液体が排出ポート54の高さにまで貯留される。液面が排出ポート54の位置にまで到達すると、排出ポート54を介して第2貯留槽14から液体が排出される。排出ポート54から排出された液体は、落差によって還流配管56内を流れて第1貯留槽12に還流する。
【0038】
第3貯留槽16は、第1貯留槽12と第2貯留槽14との間に配置された貯留槽であり、平面視で矩形状に形成されている。第3貯留槽16の内部には、ドレイン流路50の末端が配置されている。第3貯留槽16は、ドレイン流路50から排出された液体を貯留する。第3貯留槽16は、例えばアクリル樹脂等の透明材料によって形成されており、下面側に反射板や平面型の発光器具等の照明手段を配置することで、配管22及びフィルタ部材46の下側から照明光を照射できる。なお、第3貯留槽16は、支持板26に着脱可能に固定されてもよい。
【0039】
図6に示すように、手技シミュレータ10に使用するためのカテーテル60は、カテーテル本体62と、カテーテル本体62の先端部に設けられた拡張及び収縮が可能なバルーン64と、カテーテル本体62の基端部に接続されるハブ66と、を備える。バルーン64は、カテーテル本体62に設けられた拡張用ルーメンを介して、ハブ66に設けられた拡張用ポート68に連通している。拡張用ポート68から拡張用液体を注入することで、バルーン64が拡張する。なお、
図6は、拡張状態のバルーン64を示している。なお、拡張用液体は、シリンジ等を用いて注入される。
【0040】
ハブ66は、ターゲットとする区域に延びる血管に、治療剤を注入するための注入用ポート72を有する。注入用ポート72は、カテーテル本体62の内部に設けられた注入用ルーメンを介して、カテーテル60の末端開口70に連通する。注入用ポート72から注入された治療剤は、末端開口70から血管内に導入される。なお、注入用ルーメンは、ガイドワイヤールーメンとしても機能する。
【0041】
次に、上記のように構成された手技シミュレータ10は以下のように作用する。
【0042】
使用者は、
図2に示すように手技シミュレータ10を組み立てた後、第1貯留槽12に液体を入れる。液体は、圧較差による着色された治療剤や着色水の流れの変化を視覚的に認識させるために、透明であることが好ましく、入手及び片付けが容易な水(水道水)を用いることができる。
【0043】
次に、使用者は、全ての配管22の三方活栓48が第2貯留槽14に連通していることを確認した後、ポンプ20を駆動させる。ポンプ20は、第1貯留槽12の液体を汲み上げて、カテーテル導入部材24を介して組織モデル18に液体を供給する。液体は、組織モデル18の流路38、分岐流路40a~40f、42を流れ、配管22を介して第2貯留槽14に貯留される。
図5に示すように、第2貯留槽14の液体は、還流配管56を介して第1貯留槽12に還流する。上記のように、ポンプ20によって、第1貯留槽12の液体は、カテーテル導入部材24、組織モデル18、配管22、第2貯留槽14及び還流配管56を経て、第1貯留槽12に戻る経路で、循環し続ける。
【0044】
第2貯留槽14では、液体の液面が排出ポート54の位置に保たれる。したがって、組織モデル18の内部の分岐流路40a~40f、42には、組織モデル18の高さと第2貯留槽14の液面の高さとの差分ΔH1に相当する水圧が作用する。この状態では、液体は組織モデル18の各分岐流路42を略同じ流量で流れ、癌組織がない健常な肝動脈102の流れを模擬できる。
【0045】
次に、使用者は、カテーテル導入部材24を介して、カテーテル60を組織モデル18に挿入する。使用者は、バルーン64を拡張していない状態で、カテーテル60の末端開口70から模擬治療剤を投与した場合の模擬治療剤の挙動を確認できる。使用者は、模擬治療剤として、着色された着色水を注入することで、健常な肝動脈102の流れを視認することができる。
【0046】
その後、使用者は、
図7に示すように、所定の分岐流路42に接続された配管22の三方活栓48を操作して、その分岐流路42をドレイン流路50に連通させる。これにより、所定の分岐流路42の液体は、組織モデル18よりも低い位置にあるドレイン流路50の末端部から排出される。所定の分岐流路42の水圧は、組織モデル18と第3貯留槽16の液面との落差ΔH2に相当する分だけ減少する。したがって、第2貯留槽14に連通する分岐流路42と、ドレイン流路50に連通する分岐流路42との間にΔH1+ΔH2の差に相当する圧較差が発生する。このように、分岐流路42をドレイン流路50に連通させることで、所定の区域に腫瘍組織が発生した場合の肝動脈102の流れを模擬できる。
【0047】
次に、使用者は、バルーン64を拡張していない状態で、カテーテル60の末端開口70から着色水を注入する。バルーン64を拡張していない状態では、着色水は、末端開口70の下流側にある全ての分岐流路42に流れる。これは、ポンプ20によって送り出される水圧が、ドレイン流路50に連通する分岐流路42及び第2貯留槽14に連通する分岐流路42の内圧よりも高いためである。
【0048】
次に、使用者は、
図8に示すように、分岐部34bの上流でカテーテル60のバルーン64を拡張して、分岐部34bよりも上流側の分岐流路40a及び連結流路45を閉塞させる場合の模擬治療剤の挙動を視認できる。使用者は、バルーン64を拡張した状態で、カテーテル本体62の末端開口70から着色水を注入する。着色水は、造影剤又は治療剤を模擬している。バルーン64によって、上流側の分岐流路40a及び連結流路45が閉塞されていることから、バルーン64の下流側の分岐流路40a、40c、40d、42は、ポンプ20による圧力を受けることがない。
【0049】
この場合、第2貯留槽14に連通する分岐流路42の圧力は、ドレイン流路50に連通する分岐流路42の圧力よりも相対的に高くなる。これにより、ドレイン流路50に連通する分岐流路42に向かって、第2貯留槽14に連通する分岐流路42から液体が引き込まれる。この状態で、カテーテル本体62の末端開口70から着色水を注入すると、着色水がドレイン流路50に連通した分岐流路42に対して選択的に流れ込む様子を視認できる。第2貯留槽14に連通する分岐流路42から、第2貯留槽14の液体が逆流することで、ドレイン流路50に連通する分岐流路42のみに液体が流れ込む状態を安定的に生みだすことができる。この状態は、第1貯留槽12の液体がなくなるまでの間、比較的長時間に亘って維持される。そのため、使用者はバルーン64の閉塞位置を様々な位置に変化させたり、ドレイン流路50に連通する分岐流路42の位置を変化させたりする等のトレーニングを行うことができる。これにより、使用者は、模擬治療剤の挙動に対する理解を深めることができる。
【0050】
また、ドレイン流路50に連通する分岐流路42に流れ込んだ着色水は、癌組織を模擬するフィルタ部材46を通過する際にフィルタ部材46を染色する。これにより、使用者は、癌組織に選択的に治療剤が到達していることを視認できる。また、着色水は、固形塞栓物質を含んでもよい。固形塞栓物質としては、ゼラチン、球状プラスチック(ビーズ)、蛍光片等が好適に用いられる。固形塞栓物質を流した場合には、使用者は、フィルタ部材46が徐々に目詰まりしてゆく様子を確認でき、模擬腫瘍組織としてのフィルタ部材46が目詰まりした際の血液の流れの変化を把握することができる。
【0051】
本実施形態の手技シミュレータ10は、以下の効果を奏する。
【0052】
本実施形態の血液を模した液体を貯留する第1貯留槽12と、複数の分岐部34a~34gを通じて下流に向けて複数の分岐流路40a~40f、42に分岐し、且つ分岐部34a~34g及び分岐流路40a~40f、42が同じ高さに形成された組織モデル18と、第1貯留槽12の液体を組織モデル18に供給するポンプ20と、分岐流路42から流出する液体を貯留する第2貯留槽14と、分岐流路42の出口と第2貯留槽14とを繋ぐ配管22と、配管22の途上に設けられ、第2貯留槽14よりも下方に液体を排出するドレイン流路50に分岐流路42を選択的に連通させる三方活栓48(切換弁)と、三方活栓48と分岐流路42の出口との間の配管22の途上に設けられ、内部を視認可能なフィルタ部材46と、を備えている。
【0053】
上記の手技シミュレータ10によれば、三方活栓48(切換弁)を操作することでドレイン流路50に連通した分岐流路42と、ドレイン流路50に連通していない分岐流路42との間に圧較差を生じさせることができ、分岐流路42の下流側に設けられたフィルタ部材46により癌組織を模擬することができる。そして、フィルタ部材46を視認することで、特定部位に選択的に治療剤の投与が可能であることを実感させることができる。
【0054】
上記の手技シミュレータ10において、配管22は第2貯留槽14の下端付近に接続され、第2貯留槽14は、組織モデル18より高い位置に液体の液面を維持するように構成してもよい。これにより、第2貯留槽14に連通する分岐流路42に第2貯留槽14の液面と組織モデル18の高さとの差分ΔH1に相当する圧力が作用する。
【0055】
上記の手技シミュレータ10において、配管22は、組織モデル18と同じ高さで第2貯留槽14に接続してもよい。このように構成することで、組織モデル18の各分岐流路42に作用する流動抵抗や圧力を同一に揃えることができる。
【0056】
上記の手技シミュレータ10は、配管22よりも高い位置で第2貯留槽14に接続され、第2貯留槽14の液体を第1貯留槽12に還流させる還流配管56を備えてもよい。これにより、第1貯留槽12内の液体の量が経時的に減少することを抑制できるため、使用者は、より長い時間に亘って、手技のシミュレーションを行える。
【0057】
上記の手技シミュレータ10において、各々の分岐流路42に設けられたフィルタ部材46が、組織モデル18の下流側に一列に並んで配置されている。これにより、使用者は、腫瘍を模擬したフィルタ部材46とそれ以外のフィルタ部材46との差異を容易に視認できる。
【0058】
上記の手技シミュレータ10において、ドレイン流路50から排出される液体を収容する第3貯留槽16を備え、第3貯留槽16の液面は組織モデル18よりも低い位置とすることができる。これにより、ドレイン流路50と連通した分岐流路42と、第2貯留槽14と連通した分岐流路42との間に、差分ΔH1と第3貯留槽16の液面と組織モデル18との落差ΔH2との和に相当する圧較差を発生させることができる。
【0059】
上記の手技シミュレータ10において、第2貯留槽14は組織モデル18から水平方向に離間した位置に設けられ、第3貯留槽16は第2貯留槽14と組織モデル18との間に配置されていてもよい。これにより、三方活栓48の下方に第3貯留槽16を配置することができ、ドレイン流路50の引き回しを簡素化できる。
【0060】
上記の手技シミュレータ10において、第1貯留槽12は組織モデル18の下に配置されてもよい。これにより、手技シミュレータ10の組織モデル18がコンパクトに配置される。
【0061】
上記の手技シミュレータ10において、組織モデル18及び配管22は透明な材料によって形成されていてもよい。これにより、使用者が着色水の流れを直接視認でき、特定部位に選択的に治療剤の投与が可能であることを容易に実感できるようになる。
【0062】
また、本実施形態の手技訓練方法は、上記の手技シミュレータ10を用いた、手技訓練方法であり、第1貯留槽12に液体を満たすステップと、ポンプ20を駆動させて、液体を第1貯留槽12、組織モデル18、第2貯留槽14の間で循環させるステップと、所定の分岐流路42の出口に接続された配管22の三方活栓48(切換弁)を介して液体をドレイン流路50から排出させるステップと、組織モデル18にカテーテル60を挿入し、ドレイン流路50に連通する分岐流路42の上流部をバルーン64で閉塞するステップと、バルーン64の先端から着色水(造影剤又は治療剤)を流すステップと、を有する。
【0063】
上記の手技訓練方法によれば、分岐流路42の間に圧較差を生じさることができ、フィルタ部材46により癌組織を模擬することができる。そして、バルーン64の先端から着色水を流すことで、癌組織を模したフィルタ部材46に選択的に治療剤の投与が可能であることを実感させることができる。
【0064】
(第2実施形態)
図9に示すように、本実施形態に係る手技シミュレータ10Aは、
図2に示す装置構成に加えて、さらに、組織モデル18及び配管22を撮像する撮像装置76と、撮像装置76が撮像した映像を表示する表示装置78とを有している。
【0065】
撮像装置76は、例えばスマートフォンや小型カメラ等で構成され、スタンド80によって、組織モデル18及び配管22の上方に配置されている。第3貯留槽16の下には、組織モデル18、配管22及びフィルタ部材46を照明する平面状の照明装置が設けられていてもよい。撮像装置76は、組織モデル18及び配管22を上方から見た映像を撮像する。撮像装置76は、例えばUSBケーブル等の通信ケーブル82を介して表示装置78に接続されており、撮像装置76が撮像した映像データは表示装置78に送られる。
【0066】
表示装置78は、比較的大きな表示画面78aを有する装置であり、例えば、液晶モニター、スクリーン、タブレット端末等を使用することができる。表示装置78の表示画面78aには、撮像装置76が撮像した画像(映像)がリアルタイムで表示される。
【0067】
本実施形態の手技シミュレータ10Aは、表示装置78の表示画面78aに現れる平面的な画像を見ながらカテーテル60を操作する訓練にも使用することができる。このような訓練は、X線透視装置を見ながら行う実際の手技に近い条件でカテーテル60の操作や、着色水の流れを把握することができる。
【0068】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。肝臓以外の臓器にできた癌・腫瘍組織をターゲットとした場合でも、対象臓器に応じた組織モデルを組み合わせることで、本発明を実施することができる。