(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】新規の遺伝子間配列領域及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/82 20060101AFI20241015BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20241015BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20241015BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241015BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20241015BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20241015BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C12N15/82 Z ZNA
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12N5/10
C12P19/04 Z
C12P7/64
C12P21/00 Z
(21)【出願番号】P 2022502244
(86)(22)【出願日】2020-07-06
(86)【国際出願番号】 US2020040883
(87)【国際公開番号】W WO2021011216
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-29
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501231613
【氏名又は名称】モンサント テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】デイビス,イアン・ダブリュー
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0216201(US,A1)
【文献】特表2016-511003(JP,A)
【文献】Plant Cell Rep.,2012年,Vol.31,pp.13-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A01H 1/00-1/08
A01H 5/00-5/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えDNA分子であって、
a.配列番号1
又は4に対して少なくとも
95パーセントの配列同一性を有する
DNA配列
であって、但し、当該DNA配列を含むポリヌクレオチドがトランスジェニック植物において、第2の導入遺伝子発現カセットの発現に対する第1の導入遺伝子発現カセットの影響を低減するDNA配列、および
b.配列番号1又は4を含む
DNA配列、
からなる群から選択されるDNA配列を含む、前記組換えDNA分子。
【請求項2】
前記DNA配列が、ベクタースタック内の第1の発現カセットと第2の発現カセットとの間に挿入されている、請求項1に記載の組換えDNA分子。
【請求項3】
前記DNA配列が、配列番号1
又は4の前記DNA配列に対して少なくとも
97パーセントの配列同一性を有する
DNA配列であって、但し、当該DNA配列を含むポリヌクレオチドがトランスジェニック植物において、第2の導入遺伝子発現カセットの発現に対する第1の導入遺伝子発現カセットの影響を低減する、請求項1に記載の組換えDNA分子。
【請求項4】
前記DNA配列が、配列番号1
又は4の前記DNA配列に対して少なくとも
99パーセントの配列同一性を有する
DNA配列であって、但し、当該DNA配列を含むポリヌクレオチドがトランスジェニック植物において、第2の導入遺伝子発現カセットの発現に対する第1の導入遺伝子発現カセットの影響を低減する、請求項1に記載の組換えDNA分子。
【請求項5】
前記DNA配列が、配列番号1
又は4を含む、請求項1に記載の組換えDNA分子。
【請求項6】
請求項1に記載の組換えDNA分子を含む、トランスジェニック植物細胞。
【請求項7】
前記トランスジェニック植物細胞が、単子葉植物細胞である、請求項6に記載のトランスジェニック植物細胞。
【請求項8】
前記トランスジェニック植物細胞が、双子葉植物細胞である、請求項6に記載のトランスジェニック植物細胞。
【請求項9】
請求項1に記載の組換えDNA分子を含む、トランスジェニック植物、またはその部位。
【請求項10】
請求項9に記載のトランスジェニック植物の後代植物、またはその部位であって、
前記後代植物またはその部位が、前記組換えDNA分子を含む、前記後代植物、またはその部位。
【請求項11】
トランスジェニック種子であって、
前記種子が、請求項1に記載の組換え分子を含む、前記トランスジェニック種子。
【請求項12】
商品生産物を生産する方法であって、
請求項9に記載のトランスジェニック植物またはその部位を得ることと、それから前記商品生産物を生産することと、を含む、前記方法。
【請求項13】
前記商品生産物が、種子、加工種子、タンパク質濃縮物、タンパク質単離物、デンプン、穀物、植物の部位、種子油、バイオマス、細粉、及び粗粉である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ベクタースタックで形質転換されたトランスジェニック植物内で第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用を低減するための方法であって、
前記方法が、
a.第1の導入遺伝子発現カセット、
b.第2の導入遺伝子発現カセット、
c.前記
組換えDNA分子が前記第1の導入遺伝子発現カセットと前記第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入されている、請求項1に記載の組換えDNA分子、を含む異種トランスファーDNA(T-DNA)を含むベクタースタックで植物細胞を形質転換することと、
d.前記形質転換された植物細胞からトランスジェニック植物を再生することと、を含む、前記方法。
【請求項15】
配列番号1
又は4の前記DNA分子が、前記ベクタースタック内の前記第1の導入遺伝子発現カセットと前記第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入されている、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は、2019年7月18日に出願された米国仮出願第62/875,752号の利益を主張するものであり、同文献は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表の援用
コンピュータで読み取り可能な形式の配列表を含む「MONS472WO_ST25.txt」と名付けられたファイルは、2020年6月9日に作成された。このファイルは、38,698バイト(MS-Windows(登録商標)で測定)であり、(米国特許庁のEFS-Web出願システムを使用した)電子的提出によって同時に出願され、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本発明は、植物分子生物学及び植物遺伝子工学の分野に関する。より具体的には、本発明は、植物におけるある導入遺伝子カセットの、別の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減するのに有用なDNA分子に関する。
【背景技術】
【0004】
遺伝子間配列領域(「ISR」)は、2つ以上の導入遺伝子カセットの間に配置された場合に、ある導入遺伝子カセットの、別の導入遺伝子カセットに対する相互作用を低減して、カセットの間の発現エレメントの相互作用に起因する導入遺伝子カセットの発現パターンの変化を阻止する、DNA配列である。
【0005】
プロモーター、イントロン、及び3’非翻訳領域(3’UTR)等の発現カセットにおける発現エレメントは、隣接するまたは近隣の発現カセットの発現に影響を及ぼす可能性を有するシス作用エレメントを含む。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S)等の植物ウイルスプロモーターは、近傍の遺伝子の転写に影響を及ぼして、挿入部位から最大4.3Kb上流または下流の遺伝子を活性化し得る、エンハンサードメインで構成される(Gudynaite-Savitch et al.(2009)Strategies to mitigate transgene-promoter interactions.Plant Biotechnology Journal,7:472-485、Benfey et al.(1990)Tissue-specific expression from CaMV 35S enhancer subdomains in early stages of plant development.The EMBO Journal,9:1677-1684)。例えば、一例では、選択可能マーカーのコード配列を駆動するためのCaMV 35Sプロモーターを使用した選択カセットを含む植物形質転換ベクターにサブクローニングされた導入遺伝子カセットは、CaMV 35Sプロモーターの存在によって影響を受け、これによりこの導入遺伝子カセットの組織特異的発現が、より構成的なパターンに変化した(Yoo et al.(2005)The 35S promoter used in a selectable marker gene of a plant transformation vector affects the expression of the transgene.Planta,221:523-530)。
【0006】
植物バイオテクノロジーの分野において、単一のベクタースタック内でいくつかの農業的に重要な特性を導入するために、複数の導入遺伝子カセットを含むベクターを使用して植物を形質転換することが増えてきている。このプロセスの利点は、いくつかの農業形質を単一の遺伝子座に含めることができることであり、これにより、ベクタースタック植物を、追加の農業特性を含む別のトランスジェニック植物と共に育種する場合に、より効率的でより費用のかからない育種プロセスが可能になる。しかしながら、より多くの発現カセットがベクターにクローニングされるとき、ベクタースタック内で、ある発現カセットからの発現エレメントが別の発現カセットの発現プロファイルを変化させるかまたはそれに影響を及ぼす可能性がある。種子における発現等の組織発現の特定のパターンを提供するように設計された発現カセットは、ベクタースタック内の近隣の発現カセットの発現エレメントの間の相互作用の結果として発現を変えて、種子特異的発現パターンを、近隣の発現カセットにより酷似する発現パターンに変化させ得る。これは、種子特異的発現カセットの意図される表現型に悪影響を及ぼし得る。したがって、植物バイオテクノロジーにおいて、ベクタースタック内の隣接し近隣する発現カセットの相互作用を低減または阻止することができるDNA配列に対する必要性がある。
【0007】
故に、本発明者らは、本明細書において、トランスジェニック植物におけるベクタースタック内の発現カセットの相互作用を最小化する新規の合成ISRを開示する。これらのISRを単一のベクタースタック内の隣接する発現カセットの間に配置して、個々のカセットの発現エレメントの間の相互作用を阻止し、こうしてベクタースタック内の各発現カセットの意図される発現パターン及び発現レベルを維持することができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、植物において使用するための新規の合成遺伝子間配列領域すなわちISRを提供する。本発明はまた、ISRを含む組換えDNA構築物も提供する。本発明はまた、ISRを含むトランスジェニック植物細胞、植物、及び種子も提供する。一実施形態では、ISRは、ベクタースタック内の発現カセットの間に挿入されている。本発明はまた、ISRを使用するための方法、ならびにISRを含む組換えDNA構築物、ならびにISRを含むトランスジェニック植物細胞、植物、及び種子を作製及び使用するための方法も提供する。
【0009】
故に、一態様では、本発明は、(a)配列番号1~6のいずれかに対して少なくとも85パーセントの配列同一性を有する配列、及び(b)配列番号1~6のいずれかを含む配列からなる群から選択されるDNA配列を含む、組換えDNA分子を提供する。特定の実施形態では、組換えDNA分子は、配列番号1~6のいずれかのDNA配列に対して少なくとも約85パーセント、少なくとも約86パーセント、少なくとも約87パーセント、少なくとも約88パーセント、少なくとも約89パーセント、少なくとも約90パーセント、少なくとも91パーセント、少なくとも92パーセント、少なくとも93パーセント、少なくとも94パーセント、少なくとも95パーセント、少なくとも96パーセント、少なくとも97パーセント、少なくとも98パーセント、または少なくとも99パーセントの配列同一性を有するDNA配列を含む。
【0010】
別の態様では、(a)配列番号1~6のいずれかに対して少なくとも85パーセントの配列同一性を有する配列、及び(b)配列番号1~6のいずれかを含む配列からなる群から選択されるDNA配列を含む組換えDNA分子を含む、トランスジェニック植物細胞が本明細書に提供される。ある特定の実施形態では、トランスジェニック植物細胞は、単子葉植物細胞である。他の実施形態では、トランスジェニック植物細胞は、単子葉植物細胞または双子葉植物細胞である。
【0011】
なおもさらに別の態様では、(a)配列番号1~6のいずれかに対して少なくとも85パーセントの配列同一性を有する配列、及び(b)配列番号1~6のいずれかを含む配列からなる群から選択されるDNA配列を含む組換えDNA分子を含む、トランスジェニック植物、またはその部位が本明細書にさらに提供される。特定の実施形態では、トランスジェニック植物は、組換えDNA分子を含む任意の世代の後代植物である。成長したときにかかるトランスジェニック植物を生み出す、組換えDNA分子を含むトランスジェニック種子もまた、本明細書に提供される。
【0012】
別の態様では、本発明は、本発明の組換えDNA分子を含むトランスジェニック植物またはその部位を得ることと、それから商品生産物を生産することとを含む、商品生産物を生産する方法を提供する。一実施形態では、商品生産物は、種子、加工種子、タンパク質濃縮物、タンパク質単離物、デンプン、穀物、植物の部位、種子油、バイオマス、細粉、及び粗粉である。
【0013】
なおもさらに別の態様では、本発明は、ベクタースタックで形質転換されたトランスジェニック植物内で第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用を低減するための方法を提供し、該方法は、(a)第1の導入遺伝子カセット、(b)第2の導入遺伝子カセット、(c)(i)配列番号1~6のいずれかに対して少なくとも85パーセントの配列同一性を有する配列、及び(ii)配列番号1~6のいずれかを含む配列からなる群から選択される配列を含むDNA分子であって、該DNA分子が第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入されている、該DNA分子、を含む組換えDNA分子を含むベクタースタックで植物細胞を形質転換することと、(d)形質転換された植物細胞からトランスジェニック植物を再生することとを含む。ある特定の実施形態では、ベクタースタックは、2つよりも多くの発現カセットで構成される。さらなる実施形態では、配列番号1~6のいずれかのDNA分子は、ベクタースタック内の発現カセットの各々の間に挿入されている。
【0014】
配列の簡単な説明
配列番号1は、ISR4(配列番号4)ならびに5’末端及び3’末端の両方における3つの終止コドンを含む、遺伝子間配列領域ISR4_StopのDNA配列である。
【0015】
配列番号2は、遺伝子間配列領域ISR89のDNA配列である。
【0016】
配列番号3は、遺伝子間配列領域ISR2のDNA配列である。
【0017】
配列番号4は、遺伝子間配列領域ISR4のDNA配列である。
【0018】
配列番号5は、遺伝子間配列領域ISR97のDNA配列である。
【0019】
配列番号6は、遺伝子間配列領域ISR69のDNA配列である。
【0020】
配列番号7は、遺伝子間配列領域ISR88のDNA配列である。
【0021】
配列番号8は、遺伝子間配列領域ISR86のDNA配列である。
【0022】
配列番号9は、遺伝子間配列領域ISR_XのDNA配列である。
【0023】
配列番号10は、
図1A~Cで「E-CaMV.35S」として提示される、E-CaMV.35S.2xA1-B3-1:1:1というエンハンサーのDNA配列である。
【0024】
配列番号11は、
図1A~Cで「P-Os.Act1」として提示される、P-Os.Act1:67というプロモーターのDNA配列である。
【0025】
配列番号12は、
図1A~Cで「L-Ta.Lhcb1」として提示される、L-Ta.Lhcb1:1というリーダーまたは5’UTRのDNA配列である。
【0026】
配列番号13は、
図1A~Cで「I-Os.Act1」として提示される、I-Os.Act1-1:1:19というイントロンのDNA配列である。
【0027】
配列番号14は、
図1A~Cで「nptII-1」として提示される、CR-Ec.nptII-Tn5-1:1:3というネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするDNA配列である。
【0028】
配列番号15は、
図1A~Cで「T-Ta.Hsp17」として提示される、T-Ta.Hsp17-1:1:1という3’UTRのDNA配列である。
【0029】
配列番号16は、
図1A~Cで「P-Zm.39486」として提示される、P-Zm.39486-1:1:1というプロモーターのDNA配列である。
【0030】
配列番号17は、
図1A~Cで「L-Zm.39486」として提示される、L-Zm.39486-1:1:1というリーダーまたは5’UTRのDNA配列である。
【0031】
配列番号18は、
図1A~Cで「I-Zm.DnaK」として提示される、I-Zm.DnaK:1というイントロンのDNA配列である。
【0032】
配列番号19は、
図1A~Cで「GUS-1」として提示される、ジャガイモ光誘導性組織特異的ST-LS1遺伝子(Genbank受託:X04753)に由来するプロセシング可能なイントロンを有する、β-グルクロニダーゼの植物発現に最適化された合成コード配列(GUS-1:GOI-Ec.uidA+St.LS1.nno:1)のDNA配列である。
【0033】
配列番号20は、
図1A~Cで「T-Os.Mth」として提示される、T-Os.Mth-1:1:1という3’UTRのDNA配列である。
【0034】
配列番号21は、
図2A~Cで「P-FMV.35S」として提示される、P-FMV.35S-enh-1:1:2というプロモーターのDNA配列である。
【0035】
配列番号22は、
図2A~Cで「L-Ph.DnaK」として提示される、L-Ph.DnaK-1:1:3というリーダーまたは5’UTRのDNA配列である。
【0036】
配列番号23は、
図2A~Cで「nptII-2」として提示される、CR-Ec.nptII-Tn5-1:1:2というネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするDNA配列である。
【0037】
配列番号24は、
図2A~Cで「T-AC139600」として提示される、T-Mt.AC139600v16:1という3’UTRのDNA配列である。
【0038】
配列番号25は、
図2A~Cで「P-Gm.Sphas」として提示される、P-Gm.Sphas1:14というプロモーターのDNA配列である。
【0039】
配列番号26は、
図2A~Cで「L-Gm.Sphas」として提示される、L-Gm.Sphas1-1:1:1というリーダーまたは5’UTRのDNA配列である。
【0040】
配列番号27は、
図2A~Cで「GUS-2」として提示される、ジャガイモ光誘導性組織特異的ST-LS1遺伝子(Genbank受託:X04753)に由来するプロセシング可能なイントロンを有する、β-グルクロニダーゼの合成コード配列(GUS-2:GOI-GUS:1:2)のDNA配列である。
【0041】
配列番号28は、
図2A~Cで「T-AC145767」として提示される、T-Mt.AC145767v28:3という3’UTRのDNA配列である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】A~Cは、安定に形質転換されたトウモロコシ植物における単一のベクタースタック内の2つの導入遺伝子発現カセットの、互いの発現に対する相互作用を低減する上での合成遺伝子間配列領域(「ISR」)の有効性をアッセイするために使用されたベクタースタックの図表示である。これらの図における参照番号は、配列の簡単な説明に提示されるような各遺伝子エレメントについての対応する配列識別子を示す。Aは、エンハンサーなしの対照である対照ベクタースタックの導入遺伝子発現カセット構成を示す。エンハンサーなしの対照は、相反する向きにクローニングされた2つの導入遺伝子発現カセットで構成される。第1の導入遺伝子カセットは、T-Ta.Hsp17-1:1:1という3’UTR(配列番号15)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:3というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号14)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Os.Act1-1:1:19というイントロン(配列番号13)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ta.Lhcb1:1というリーダー(配列番号12)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Os.Act1:67というプロモーター(配列番号11)で構成される。第1の導入遺伝子カセットに対して相反方向にクローニングされた、第2の導入遺伝子カセットは、T-Os.Mth-1:1:1という3’UTR(配列番号20)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-Ec.uidA+St.LS1.nno:1というGUS-1をコードするコード配列(配列番号19)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Zm.DnaK:1というイントロン(配列番号18)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Zm.39486-1:1:1というリーダー(配列番号17)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Zm.39486-1:1:1という種子特異的プロモーター(配列番号16)で構成される。Bは、エンハンサーありの対照である対照ベクタースタックの導入遺伝子発現カセット構成を示す。エンハンサーありの対照は、T-Ta.Hsp17-1:1:1という3’UTR(配列番号15)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:3というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号14)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Os.Act1-1:1:19というイントロン(配列番号13)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ta.Lhcb1:1というリーダー(配列番号12)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Os.Act1:67というプロモーター(配列番号11)、5’側でこれに作動可能に連結された、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターに由来する特定のエンハンサー領域のタンデムリピートを含むE-CaMV.35S.2xA1-B3-1:1:1という強力なエンハンサー(配列番号10)で構成される。第1の導入遺伝子カセットに対して相反方向にクローニングされた、第2の導入遺伝子カセットは、T-Os.Mth-1:1:1という3’UTR(配列番号20)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-Ec.uidA+St.LS1.nno:1というGUS-1をコードするコード配列(配列番号19)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Zm.DnaK:1というイントロン(配列番号18)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Zm.39486-1:1:1というリーダー(配列番号17)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Zm.39486-1:1:1という種子特異的プロモーター(配列番号16)で構成される。Aにおけるエンハンサーありの対照は、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にISRを欠いている。結果として、第1の導入遺伝子発現カセットからのエンハンサーは、第2の導入遺伝子発現カセットにおける種子特異的プロモーターと相互作用してその発現を変化させ、第2の発現導入遺伝子カセットの発現を種子特異的なものから構成的なものに変える。Cにおいては、エンハンサーありの対照の第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にISRがクローニングされている。ISRが有効である場合、それは第1の導入遺伝子発現カセットにおけるエンハンサーの、第2の発現導入遺伝子カセットにおけるプロモーターの発現に対する相互作用を低減して、エンハンサーありの対照と比べて非種子組織における発現を低減することになる。
【
図2】A~Cは、安定に形質転換されたダイズ植物における単一のベクタースタック内の2つの導入遺伝子発現カセットの、互いの発現に対する相互作用を低減する上でのISRの有効性をアッセイするために使用されたベクタースタックの図表示である。これらの図における参照番号は、配列の簡単な説明に提示されるような各遺伝子エレメントについての対応する配列識別子を示す。Aは、エンハンサーなしの対照である対照ベクタースタックの導入遺伝子発現カセット構成を示す。エンハンサーなしの対照(A)は、T-Mt.AC145767v28:3という3’UTR(配列番号28)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-GUS:1:2というGUS-2をコードするコード配列(配列番号27)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Gm.Sphas1-1:1:1というリーダー(配列番号26)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Gm.Sphas1:14という種子特異的プロモーター(配列番号25)で構成される。種子特異的プロモーターは、エンハンサーなしの対照において主としてダイズ植物の種子におけるGUS発現を駆動することができる。Bは、エンハンサーありの対照である対照ベクタースタックの導入遺伝子発現カセット構成を示す。エンハンサーありの対照は、相反する向きにある2つの導入遺伝子発現カセットで構成される。第1の導入遺伝子カセットは、T-Mt.AC139600v16:1という3’UTR(配列番号24)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:2というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号23)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ph.DnaK-1:1:3というリーダー(配列番号22)、5’側でこれに作動可能に連結された、再構成され複製されたエンハンサーを有するP-FMV.35S-enh-1:1:2というゴマノハグサモザイクウイルス35Sプロモーターに由来する強力なプロモーター(配列番号21)で構成される。第1の導入遺伝子カセットに対して相反方向にクローニングされた、第2の導入遺伝子カセットは、T-Mt.AC145767v28:3という3’UTR(配列番号28)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-GUS:1:2というGUS-2をコードするコード配列(配列番号27)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Gm.Sphas1-1:1:1というリーダー(配列番号26)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Gm.Sphas1:14という種子特異的プロモーター(配列番号25)で構成される。エンハンサーありの対照は、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にISRを欠いている。結果として、第2の導入遺伝子発現カセットにおける種子特異的プロモーターの発現は、第1の導入遺伝子発現カセットにおけるゴマノハグサモザイクウイルス35Sプロモーターのエンハンサー領域によって影響を受けて、第2の発現導入遺伝子カセットの発現を種子特異的なものから構成的なものに変える。Cにおいては、エンハンサーありの対照の第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にISRがクローニングされている。ISRが有効である場合、それは第1の導入遺伝子発現カセットにおけるゴマノハグサモザイクウイルス35Sプロモーターのエンハンサー領域と、第2の導入遺伝子発現カセットにおけるプロモーターとの相互作用を低減して、エンハンサーありの対照と比べて非種子組織における発現を低減することになる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、トランスジェニック植物において使用するための新規の合成遺伝子間配列領域(「ISR」)を提供する。これらの新規の合成ISRのヌクレオチド配列は、配列番号1~6として提供される。これらの合成ISRは、第1の導入遺伝子カセットと第2の導入遺伝子との間に挿入された場合に、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットにおける発現エレメントの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する相互作用を低減する。本発明はまた、ISRを含むトランスジェニック植物細胞、植物、及び種子も提供する。本発明はまた、ISRを使用するための方法、ならびにISRを含む組換えDNA分子を作製及び使用するための方法も提供する。
【0044】
以下の定義及び方法は、本発明をよりよく定義し、本発明の実施にあたり当業者を導くために提供される。別途注記のない限り、用語は、関連技術分野の当業者により、従来の用法に従って理解されるものとする。
【0045】
ISR及び第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用
本明細書で使用されるとき、「相互作用」という用語は、ある特定の実施形態ではベクタースタックを使用して形質転換された、トランスジェニック植物において互いに近接して提供された場合の、第1の導入遺伝子発現カセットにおける1つまたは複数のエレメントの、第2の導入遺伝子発現カセットの発現パターンに対する効果を指す。
【0046】
各導入遺伝子発現カセット内の調節エレメントは、導入遺伝子の転写をもたらすトランス作用因子が結合する種々のシスエレメントで構成される。例えば、植物プロモーターは、転写の開始及び転写の効率に必須であるシスエレメントで構成される。加えて、植物プロモーターは、多くの場合、ストレス(ABRE及びAB14)、病原体(Wボックス)、または光(GT1-モチーフ)等の特定の刺激に応答して転写を調整し得る、他のシスエレメントモチーフで構成される。他のシスエレメントは、組織特異的または組織優先的発現を提供し得る(Porto et al.(2014)Plant Promoters:An Approach of Structure and Function.Mol.Biotechnol 56:38-49)。例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターは、2つのドメインでできているエンハンサー領域を含む。下流ドメインであるドメインAは、主に根において発現を付与する。ドメインA内の22塩基対領域以内にあるシスエレメントであるas-1が主として、この発現を担う。上流ドメインであるドメインBは、葉及び茎のほとんどの細胞種、ならびに根の維管束組織において発現を付与する(Benfey et al.(1990)Tissue-specific expression from CaMV 35S enhancer subdomains in early stages of plant development.The EMBO Journal,9:1677-1684)。
【0047】
植物ゲノムにおいて2つの導入遺伝子発現カセットが互いに隣接している場合、一方の導入遺伝子発現カセットの発現エレメントが他方の導入遺伝子発現カセットの発現を変化させる可能性がある。トランスジェニック植物におけるある導入遺伝子発現カセットと、隣接する導入遺伝子発現カセットとのこの「相互作用」は、エンハンサーありの対照により実施例2及び3で示される。
【0048】
「漏れ(leakiness)」とは、第1の発現カセットにおける発現エレメントの、第2の発現カセットの発現プロファイルに対する相互作用によって引き起こされる、組織における平均発現変化のレベルを説明するために使用される用語である。漏れは、エンハンサーありの対照の発現プロファイルを、ISRを有する試験ベクタースタック(2つの導入遺伝子カセットの間にISRが挿入されたエンハンサーありの対照で構成される)の発現プロファイルと比較することによって決定される。エンハンサーありの対照と比較したエンハンサーなしの対照の漏れは、100%である。ISRを含む構築物の漏れは、試験構築物の非標的組織における平均GUS発現量を、エンハンサーありの対照構築物の非標的組織における平均GUS発現量で割り、100を掛けることによって決定される。漏れの低減パーセントは、漏れパーセントを100パーセントから差し引くことによって決定される。
【0049】
「遺伝子間配列領域」または「ISR」とは、近隣のトランスジェニックカセットにおける発現エレメントの、互いの発現に対する相互作用を最小化するように設計された合成ヌクレオチド配列である。本明細書に開示される遺伝子間配列領域は、計算的に設計され、植物細胞を形質転換するために使用されるベクタースタック内の第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子発現カセットに対する相互作用を低減し、こうして各導入遺伝子発現カセットの発現プロファイルを、トランスジェニック植物において個々に観察される場合の発現プロファイルのように保存する能力についてアッセイされた。
【0050】
「合成ヌクレオチド配列」または「人工ヌクレオチド配列」とは、自然界に生じることが知られていないか、または天然に生じないヌクレオチド配列である。本発明の遺伝子間配列領域エレメントは、合成ヌクレオチド配列を含む。好ましくは、合成ヌクレオチド配列は、天然配列に対して拡張した相同性をほとんどまたは全く共有しない。この文脈における拡張した相同性とは、一般に、100%の配列同一性が約25ヌクレオチドの連続配列を超えて拡張していることを指す。
【0051】
実施例2では、相反する向きにある2つの導入遺伝子発現カセットで構成される2つのベクタースタックを使用して、対照トウモロコシ植物を形質転換した。一方の対照ベクタースタックは、抗生物質抵抗性遺伝子の発現を駆動するイネアクチン1プロモーターを含む第1の導入遺伝子発現カセット(エンハンサーなしの対照、
図1A)、及びGUS発現を駆動する種子優先的プロモーターを含んだ第2の導入遺伝子発現カセットを含んでいた。このベクタースタックで形質転換されたトウモロコシ植物は、GUSの種子優先的発現を示した。他方の対照ベクタースタック(エンハンサーありの対照)は、抗生物質抵抗性遺伝子の発現を駆動するイネアクチン1プロモーターに作動可能に連結された、CaMV 35Sに由来する強力なエンハンサーを含む第1の導入遺伝子発現カセット、及びGUS発現を駆動する種子優先的プロモーターを含んだ第2の導入遺伝子発現カセットを含んでいた。エンハンサーありの対照で形質転換されたトウモロコシ植物は、根、葉、葯、絹糸、及び種子において高レベルのGUS発現を示した。故に、エンハンサーありの対照において、第1の導入遺伝子発現カセットのエンハンサーは、第2の発現導入遺伝子カセットの発現プロファイルの発現パターンを変更して、第2の発現導入遺伝子カセットの発現を種子優先的なものから構成的なものに変えた。
【0052】
図1Cで示されるように、計算的に設計されたある特定のISRを、エンハンサーありの対照の第1の導入遺伝子カセットと第2の導入遺伝子カセットとの間に挿入した。ISR4_Stop(配列番号1)、ISR89(配列番号2)、及びISR97(配列番号5)というISRを第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入した場合、第1の導入遺伝子発現カセットの発現パターンの、第2の導入遺伝子発現カセットの発現パターンに対する相互作用における漏れパーセントは、それぞれ16%、8%、及び6%であった。故に、これらのISRは、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用をそれぞれ84%、92%、及び94%低減した。
【0053】
実施例3では、ダイズにおいて類似の実験設計を使用して、ある特定のISRの有効性を試験した。エンハンサーありの対照の第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間のISR2(配列番号3)、ISR4(配列番号4)、ISR69(配列番号6)挿入は、それぞれわずか3%、4%、及び5%の漏れを有して、第1の導入遺伝子発現カセットの発現パターンの、第2の導入遺伝子発現カセットの発現パターンに対する効果の低減をもたらした。これは、第1の導入遺伝子発現カセットにおける発現エレメントの、第2の導入遺伝子発現カセットの発現パターンに対する相互作用の、それぞれ97%、96%、及び95%の低減をもたらした。
【0054】
これらの実施例で示されるように、計算的に設計された全ての遺伝子間配列領域が相互作用を低減する上で効果的というわけではなかった。さらに、相互作用の低減をもたらしたISRであっても、その低減の程度は様々であった。例えば、ISR88(配列番号7)及びISR86(配列番号8)は、それぞれ61%及び32%の漏れを有して、トランスジェニックトウモロコシ植物において相互作用をそれぞれ39%及び68%低減したのみであった。相互作用のこの低減は、ISR4_Stopの84%、ISR89の92%、及びISR97の94%と比較した場合にはるかにより低かった。同様に、トランスジェニックダイズにおいて、ISR_X(配列番号9)は、ISR2の97%、ISR4の96%、及びISR69の95%と比較して、相互作用を76%低減したのみであった(漏れパーセント、24%)。故に、計算的に設計された各ISRは固有であり、異なるISRを異なる発現カセットと併用して、目的の1つまたは複数の遺伝子に対する所望の発現プロファイルに到達することができる。
【0055】
DNA分子
本明細書で使用されるとき、「DNA」または「DNA分子」という用語は、5’(上流)末端から3’(下流)末端に読み取られるゲノム起源または合成起源の二本鎖DNA分子(すなわち、デオキシリボヌクレオチド塩基の重合体またはDNA分子)を指す。本明細書で使用されるとき、「DNA配列」という用語は、DNA分子のヌクレオチド配列を指す。本明細書で使用される命名法は、米国連邦規則集37編1.822条の命名法に対応し、WIPO標準ST.25(1998)附属書2、表1及び3の表に定められる。
【0056】
本明細書で使用されるとき、「異種分子」とは、人間の介入なしには天然に一緒に生じないであろうDNA分子の組合せを含む分子である。例えば、異種分子とは、互いに対して異種である少なくとも2つのDNA分子から構成されているDNA分子、自然界に存在するDNA配列から逸脱するDNA配列を含むDNA分子、合成DNA配列を含むDNA分子、または遺伝子形質転換もしくは遺伝子編集によって宿主細胞のDNAに組み込まれたDNA分子であってもよい。
【0057】
本願における「単離されたDNA分子」または同等の用語もしくは語句への言及は、このDNA分子が、単独でまたは他の組成物と組み合わせて存在するが、その自然環境内には存在しないDNA分子であることを意味することが意図される。例えば、コード配列、イントロン配列、非翻訳リーダー配列、プロモーター配列、転写終結配列等のような、生物のゲノムのDNA内で天然に見出される核酸エレメントは、当該エレメントが生物のゲノム内にあり、当該エレメントが天然に見出されるゲノム内の位置にある限りは、「単離された」とは見なされない。しかしながら、これらのエレメントの各々、及びこれらのエレメントの下位部分は、当該エレメントが生物のゲノム内になく、当該エレメントが天然に見出されるゲノム内の位置にない限り、本開示の範囲内で「単離されている」とされよう。同様に、殺虫性タンパク質またはそのタンパク質の天然に生じる任意の殺虫性バリアントをコードするヌクレオチド配列は、当該ヌクレオチド配列が、当該タンパク質をコードする配列が天然に見出される細菌のDNA内にない限り、単離されたヌクレオチド配列とされよう。天然に生じる殺虫性タンパク質のアミノ酸配列をコードする合成ヌクレオチド配列は、本開示の目的において単離されていると見なされよう。本開示の目的において、任意のトランスジェニックヌクレオチド配列、すなわち、植物もしくは細菌の細胞のゲノム内に挿入されるか、または染色体外ベクター内に存在するDNAのヌクレオチド配列は、それが、細胞の形質転換に使用されるプラスミドもしくは類似の構造内に存在するか、植物もしくは細菌のゲノム内に存在するか、または植物もしくは細菌に由来する組織、後代、生物学的試料、もしくは商品生産物において検出可能量で存在するかを問わず、単離されたヌクレオチド配列であると見なされよう。
【0058】
本明細書で使用されるとき、「配列同一性」という用語は、2つの最適にアラインメントしたポリヌクレオチド配列または2つの最適にアラインメントしたポリペプチド配列が同一である程度を指す。最適な配列アラインメントは、2つの配列、例えば、参照配列ともう1つの配列とを手動でアラインメントして、適切な内部ヌクレオチド挿入、欠失、またはギャップを伴った配列アラインメント内のヌクレオチドマッチ数を最大化することによって作出される。本明細書で使用されるとき、「参照配列」という用語は、配列番号1~6として提供されるDNA配列を指す。
【0059】
本明細書で使用されるとき、「配列同一性パーセント」または「同一性パーセント」または「同一性%」という用語は、同一性の割合に100を掛けたものである。参照配列に対して最適にアラインメントした配列についての「同一性の割合」は、最適アラインメント内のヌクレオチドマッチ数を、参照配列内のヌクレオチド総数、例えば、全長の参照配列全体のヌクレオチド総数で割ったものである。故に、本発明の一実施形態は、本明細書で配列番号1~6として提供される参照配列に対して最適にアラインメントした場合に、参照配列に対して少なくとも約85パーセントの同一性、少なくとも約86パーセントの同一性、少なくとも約87パーセントの同一性、少なくとも約88パーセントの同一性、少なくとも約89パーセントの同一性、少なくとも約90パーセントの同一性、少なくとも約91パーセントの同一性、少なくとも約92パーセントの同一性、少なくとも約93パーセントの同一性、少なくとも約94パーセントの同一性、少なくとも約95パーセントの同一性、少なくとも約96パーセントの同一性、少なくとも約97パーセントの同一性、少なくとも約98パーセントの同一性、少なくとも約99パーセントの同一性、または少なくとも約100パーセントの同一性を有する配列を含む、DNA分子を提供する。ある特定の実施形態では、配列番号1~6のいずれかに対して所与の同一性パーセントを有する配列は、配列番号1~6のいずれかの全般的機能を維持し、すなわち、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減する同じまたは類似の能力を示す。ある特定の実施形態では、配列番号1~6のいずれかに対して所与の同一性パーセントを有する配列は、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減することに関して、配列番号1~6のいずれかの活性を有する。
【0060】
調節エレメント
プロモーター、リーダー(別名、5’UTR)、エンハンサー、イントロン、及び転写終結領域(または3’UTR)等の調節エレメントは、生細胞内での遺伝子の全体的発現において不可欠な役割を果たす。本明細書で使用されるとき、「調節エレメント」という用語は、遺伝子調節活性を有するDNA分子を指す。本明細書で使用されるとき、「遺伝子調節活性」という用語は、例えば、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の転写及び/または翻訳に影響を及ぼすことにより、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の発現に影響を及ぼす能力を指す。植物において機能するプロモーター、リーダー、エンハンサー、イントロン、及び3’UTR等の調節エレメントは、遺伝子工学による植物の表現型の変更に有用である。
【0061】
調節エレメントは、それらの遺伝子発現パターン、例えば、正及び/または負の効果、例えば、構成的発現または時間的、空間的、発達的、組織、環境的、生理学的、病理学的、細胞周期、及び/または化学的応答性の発現、ならびにそれらの任意の組合せ、加えて定量的または定性的指標によって特徴付けられ得る。本明細書で使用されるとき、「遺伝子発現パターン」とは、作動可能に連結されたDNA分子の、転写されたRNA分子への転写の任意のパターンである。転写されたRNA分子は、翻訳されてタンパク質分子を生み出す場合もあれば、アンチセンスRNAまたは他の調節RNA分子、例えば、二本鎖RNA(dsRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)等をもたらす場合もある。
【0062】
本明細書で使用されるとき、「タンパク質発現」という用語は、転写されたRNA分子の、タンパク質分子への翻訳の任意のパターンである。タンパク質発現は、その時間的、空間的、発達的、または形態学的な性質によって、加えて定量的または定性的指標によって特徴付けられ得る。
【0063】
プロモーターは、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の発現を調整するための調節エレメントとして有用である。本明細書で使用されるとき、「プロモーター」という用語は、一般に、転写を開始するためにRNAポリメラーゼII及び他のタンパク質(例えば、トランス作用転写因子)の認識及び結合に関与するDNA分子を指す。プロモーターは、遺伝子のゲノムコピーの5’非翻訳領域(5’UTR)から最初に単離されてもよい。代替的に、プロモーターは、合成的に生産または操作されたDNA分子であってもよい。また、プロモーターはキメラであってもよい。キメラプロモーターは、2つ以上の異種DNA分子の融合により生産される。本発明を実証する際に有用なプロモーターには、配列番号11、16、21、及び25として提供されるプロモーターエレメントが含まれる。
【0064】
本明細書で使用されるとき、「リーダー」という用語は、遺伝子の非翻訳5’領域(5’UTR)から単離され、転写開始部位(TSS)とタンパク質コード配列開始部位との間のヌクレオチドセグメントとして一般に定義される、DNA分子を指す。代替的に、リーダーは、合成的に生産または操作されたDNAエレメントであってもよい。リーダーは、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の発現を調整するための5’調節エレメントとして使用され得る。リーダー分子は、異種プロモーターまたはそれらのネイティブプロモーターと共に使用されてもよい。本発明を実証する際に有用なリーダーには、配列番号12、17、22、及び26が含まれる。
【0065】
本明細書で使用されるとき、「イントロン」という用語は、遺伝子から単離または同定され得、翻訳前のメッセンジャーRNA(mRNA)プロセシング中にスプライシング除去される領域として一般に定義され得る、DNA分子を指す。代替的に、イントロンは、合成的に生産または操作されたDNAエレメントであってもよい。イントロンは、作動可能に連結された遺伝子の転写をもたらすエンハンサーエレメントを含んでもよい。イントロンは、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の発現を調整するための調節エレメントとして使用されてもよい。構築物はイントロンを含んでもよく、このイントロンは、転写可能なDNA分子に対して異種である場合もそうでない場合もある。本発明を実証する際に有用なイントロンは、配列番号13及び18として提示される。
【0066】
本明細書で使用されるとき、「3’転写終結分子」、「3’非翻訳領域」、または「3’UTR」という用語は、mRNA分子の3’部分の非翻訳領域への転写中に使用されるDNA分子を指す。mRNA分子の3’非翻訳領域は、特異的切断及び3’ポリアデニル化(別名、ポリAテール)によって生成され得る。3’UTRは、転写可能なDNA分子に作動可能に連結され、その下流に位置してもよく、転写、mRNAプロセシング、または遺伝子発現に影響を及ぼすことができるポリアデニル化シグナル及び他の調節シグナルを含んでもよい。ポリAテールは、mRNAの安定性及び翻訳の開始において機能すると考えられている。
【0067】
本明細書で使用されるとき、「エンハンサー」または「エンハンサーエレメント」という用語は、シス作用調節エレメント(別名、シスエレメント)を指し、これは、作動可能に連結された転写可能なDNA分子の全体的発現パターンの一側面(ただし通常、単独では転写の駆動に不十分である)を付与する。プロモーターとは異なり、エンハンサーエレメントには、通常、転写開始部位(TSS)もしくはTATAボックス、または同等のDNA配列は含まれない。プロモーターまたはプロモーター断片は、作動可能に連結されたDNA配列の転写に影響を及ぼす1つまたは複数のエンハンサーエレメントを天然に含んでもよい。また、エンハンサーエレメントをプロモーターと融合させて、遺伝子発現の全体的調整の一側面を付与するキメラプロモーターシスエレメントを生み出してもよい。
【0068】
本明細書で使用されるとき、「バリアント」という用語は、組成が第1のDNA分子と類似しているが、同一ではない第2のDNA分子を指す。例えば、本明細書に開示されるISRのうちの1つのバリアントは、若干異なる配列組成を有するが、それが由来するISRと同じ様態でトランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減する能力を維持する。バリアントは、第1のDNA分子のより短いもしくは短縮バージョン、または第1のDNA分子の配列の改変バージョン、例えば、制限酵素部位が異なる、及び/または内部の欠失、置換、もしくは挿入を有するバージョンであり得る。「バリアント」はまた、参照配列の1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失、または挿入を含むヌクレオチド配列を有するISRも包含し得、ここで、派生的な遺伝子間配列領域エレメントは、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減するより高いもしくはより低い能力または同等の能力を有する。本発明において、配列番号1~6として提供されるポリヌクレオチド配列を使用して、組成が元のISRのDNA配列と類似しているが、同一ではない一方で、全般的機能、すなわち、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減する同じまたは類似の能力を依然として維持する、バリアントを作出してもよい。ある特定の実施形態では、配列番号1~6のいずれかのバリアントは、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減することに関して、配列番号1~6のいずれかの活性を有する。本発明のかかるバリアントの生産は、本開示に照らして当業者の技能範囲内に十分にあり、本発明の範囲内に包含される。
【0069】
ある特定の例では、ISRのバリアントは、配列番号1~6のいずれかの断片であってもよい。配列番号1~6の断片は、配列番号1~6のいずれかの少なくとも約50個の連続ヌクレオチド、少なくとも約100個の連続ヌクレオチド、少なくとも約150個の連続ヌクレオチド、少なくとも約200個の連続ヌクレオチド、少なくとも約250個の連続ヌクレオチド、少なくとも約300個の連続ヌクレオチド、少なくとも約350個の連続ヌクレオチド、少なくとも約400個の連続ヌクレオチド、少なくとも約450個の連続ヌクレオチド、少なくとも約500個の連続ヌクレオチド、少なくとも約550個の連続ヌクレオチド、少なくとも約600個の連続ヌクレオチド、少なくとも約650個の連続ヌクレオチド、少なくとも約700個の連続ヌクレオチド、少なくとも約750個の連続ヌクレオチド、少なくとも約800個の連続ヌクレオチド、少なくとも約850個の連続ヌクレオチド、少なくとも約900個の連続ヌクレオチド、少なくとも約950個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1000個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1100個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1200個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1300個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1400個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1500個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1600個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1700個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1800個の連続ヌクレオチド、少なくとも約1900個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2000個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2100個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2200個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2300個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2400個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2500個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2600個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2700個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2800個の連続ヌクレオチド、少なくとも約2900個の連続ヌクレオチド、少なくとも約3000個の連続ヌクレオチド、またはそれよりも多くを含んでもよい。ある特定の実施形態では、配列番号1~6のいずれかの断片は、トランスジェニック植物における第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子カセットの発現に対する影響を低減することに関して、配列番号1~6のいずれかの活性を有する。
【0070】
構築物
本明細書で使用されるとき、「構築物」という用語は、任意の供給源に由来し、ゲノム組み込みまたは自律複製が可能であり、少なくとも1つのDNA分子が別のDNA分子と機能的に作動する様態で連結された、すなわち作動可能に連結されたDNA分子を含む、任意の組換えDNA分子、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、ファージ、または線状もしくは環状のDNAもしくはRNA分子を意味する。本明細書で使用されるとき、「ベクター」という用語は、形質転換、すなわち、宿主細胞中に異種DNAまたはRNAを導入する目的で使用され得る、任意の構築物を意味する。「ベクタースタック」とは、形質転換のために一緒に積み重ねられた2つ以上のカセットで構成されるベクターである。ベクタースタック内の2つ以上の導入遺伝子発現カセットは、ベクタースタックを構築するために使用されたクローニングまたは合成の方法に応じて、わずかおよそ10ヌクレオチドからおよそ数百ヌクレオチド、または数千ヌクレオチド、またはそれよりも多くのヌクレオチドであり得る、DNA配列の断片によって分離される。本明細書で使用されるとき、「発現カセット」は、1つまたは複数の調節エレメント、典型的には少なくともプロモーター及び3’UTRに作動可能に連結された、少なくとも1つの転写可能なDNA分子を含むDNA分子を指す。
【0071】
本明細書で使用されるとき、「作動可能に連結された」という用語は、第1のDNA分子が第2のDNA分子に連結し、この第1のDNA分子が第2のDNA分子の機能に影響を及ぼすようにこれら第1及び第2のDNA分子が配置されていることを指す。これら2つのDNA分子は、単一の連続DNA分子の一部である場合もそうでない場合もあり、隣接する場合もそうでない場合もある。例えば、プロモーターが細胞において目的の転写可能なDNA分子の転写を調整する場合、このプロモーターは転写可能なDNA分子に作動可能に連結されている。例えば、リーダーは、DNA配列の転写または翻訳に影響を及ぼすことができる場合、DNA配列に作動可能に連結されている。
【0072】
転写可能なDNA分子が、タンパク質として翻訳及び発現される機能的mRNA分子に転写されるような様態で、構築物を組み立てて細胞に導入するための方法が、当該技術分野で既知である。本発明の実施に関して、構築物及び宿主細胞を調製及び使用するための従来の組成物及び方法は、当業者に周知である。高等植物における核酸の発現に有用な典型的なベクターは、当該技術分野で周知であり、これにはAgrobacterium tumefaciensのTiプラスミドに由来するベクター及びpCaMVCN転移制御ベクターが含まれる。
【0073】
本明細書に提供される調節エレメントのうちのいずれも含めて、種々の調節エレメントが構築物に含まれてもよい。任意のかかる調節エレメントは、他の調節エレメントと組み合わせて提供されてもよい。かかる組合せは、望ましい調節機能を生み出すように設計または変更され得る。一実施形態では、本発明の構築物は、3’UTRに作動可能に連結された転写可能なDNA分子に作動可能に連結された、少なくとも1つの調節エレメントを含む。
【0074】
本発明の構築物は、本明細書に提供されるまたは当該技術分野で既知の任意のプロモーターまたはリーダーを含んでもよい。例えば、本発明のプロモーターは、異種の非翻訳5’リーダー(例えば、熱ショックタンパク質遺伝子に由来するもの)に作動可能に連結されてもよい。代替的に、本発明のリーダーは、異種プロモーター、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35S転写物プロモーターに作動可能に連結されてもよい。
【0075】
転写可能なDNA分子
本明細書で使用されるとき、「転写可能なDNA分子」という用語は、RNA分子に転写されることができる任意のDNA分子を指し、これには、タンパク質コード配列を有するもの、及び遺伝子抑制に有用な配列を有するRNA分子を生み出すものが含まれるが、これらに限定されない。DNA分子の種類には、同じ植物からのDNA分子、別の植物からのDNA分子、異なる生物からのDNA分子、あるいは合成DNA分子、例えば、遺伝子のアンチセンスメッセージを含むDNA分子、または導入遺伝子の人工、合成、もしくは別様の変更バージョンをコードするDNA分子が含まれ得るが、これらに限定されない。本発明の構築物に組み込むための例示的な転写可能なDNA分子には、例えば、DNA分子が組み込まれる種以外の種に由来するDNA分子もしくは遺伝子、または同じ種を起源とするかもしくは同じ種に存在するが、古典的な育種技法ではなく遺伝子工学の方法によってレシピエント細胞に組み込まれる遺伝子が含まれる。
【0076】
「導入遺伝子」とは、少なくとも宿主細胞ゲノム内の位置に関して宿主細胞に対して異種である転写可能なDNA分子、及び/または細胞の現行世代もしくは任意の過去の世代に宿主細胞のゲノムに人工的に組み込まれた転写可能なDNA分子を指す。ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、農学的目的の遺伝子、例えば、植物における除草剤抵抗性を提供することができる遺伝子、または植物における植物害虫抵抗性を提供することができる遺伝子を含む。
【0077】
プロモーター等の調節エレメントは、調節エレメントに対して異種である転写可能なDNA分子に作動可能に連結されてもよい。本明細書で使用されるとき、「異種」という用語は、2つ以上のDNA分子の組合せにおいて、かかる組合せが自然界で通常は見出されない場合を指す。例えば、これら2つのDNA分子は異なる種に由来してもよく、及び/またはこれら2つのDNA分子は異なる遺伝子に由来してもよい(例えば、同じ種に由来する異なる遺伝子、または異なる種に由来する同じ遺伝子)。故に、調節エレメントは、作動可能に連結された転写可能なDNA分子に対して、かかる組合せが自然界で通常は見出されない場合、すなわち、転写可能なDNA分子が、調節エレメントに作動可能に連結されて天然に生じない場合、異種である。
【0078】
本明細書で使用されるとき、「組換えDNA分子」とは、人間の介入なしには天然に一緒に生じないであろうDNA分子の組合せを含むDNA分子である。例えば、組換えDNA分子とは、互いに対して異種である少なくとも2つのDNA分子から構成されているDNA分子、自然界に存在するDNA配列から逸脱するDNA配列を含むDNA分子、合成DNA配列を含むDNA分子、または遺伝子形質転換もしくは遺伝子編集によって宿主細胞のDNAに組み込まれたDNA分子であってもよい。
【0079】
転写可能なDNA分子は、一般に、転写物の発現が所望とされる任意のDNA分子であり得る。転写物のかかる発現により、結果として生じるmRNA分子の翻訳、ひいてはタンパク質の発現がもたらされ得る。代替的に、例えば、転写可能なDNA分子は、特定の遺伝子またはタンパク質の発現低下を最終的に引き起こすように設計され得る。一実施形態では、これは、アンチセンス方向に配向された転写可能なDNA分子を使用することによって遂行され得る。当業者は、かかるアンチセンス技術の使用に精通している。この様態で任意の遺伝子を負に調節してもよく、一実施形態では、転写可能なDNA分子は、dsRNA、siRNA、またはmiRNA分子の発現を介して特定の遺伝子を抑制するように設計されてもよい。
【0080】
選択可能マーカー
選択可能マーカー導入遺伝子もまた、本発明の調節エレメントと共に使用されてもよい。本明細書で使用される「選択可能マーカー導入遺伝子」という用語は、トランスジェニック植物、組織、もしくは細胞における発現、または発現の欠如が何らかの方式でスクリーニングまたはスコア化され得る、任意の転写可能なDNA分子を指す。本発明の実施において使用するための選択可能マーカー遺伝子、ならびにそれらの関連する選択及びスクリーニング技法は、当該技術分野で既知であり、これには、β-グルクロニダーゼ(GUS)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、抗生物質抵抗性を付与するタンパク質、及び除草剤抵抗性を付与するタンパク質をコードする転写可能なDNA分子が含まれるが、これらに限定されない。選択可能マーカー導入遺伝子の例は、配列番号18及び26として提供される。
【0081】
細胞形質転換
本発明はまた、転写可能なDNA分子に作動可能に連結された1つまたは複数の調節エレメントを含む、形質転換細胞及び植物を生産する方法も対象とする。
【0082】
「形質転換」という用語は、レシピエント宿主へのDNA分子の導入を指す。本明細書で使用されるとき、「宿主」という用語は、任意の細胞、組織、器官を含む細菌、真菌、もしくは植物、または細菌、真菌、もしくは植物の後代を指す。特に目的となる植物組織及び細胞には、プロトプラスト、カルス、根、塊茎、種子、茎、葉、実生、胚、及び花粉が含まれる。
【0083】
本明細書で使用されるとき、「形質転換された」という用語は、外来DNA分子(例えば、構築物またはベクタースタック)が導入された細胞、組織、器官、または生物を指す。導入されたDNA分子をレシピエント細胞、組織、器官、または生物のゲノムDNAに組み込んで、導入されたDNA分子が次の後代に受け継がれるようにしてもよい。「トランスジェニック」または「形質転換された」細胞または生物にはまた、細胞または生物の後代、及び交配でかかるトランスジェニック生物を親として用いた育種プログラムから生産され、外来DNA分子の存在からもたらされる変化した表現型を示す後代も含まれ得る。また、導入されたDNA分子をレシピエント細胞に一過性で導入して、導入されたDNA分子が次の後代に受け継がれないようにしてもよい。「トランスジェニック」という用語は、1つまたは複数の異種DNA分子を含む細菌、真菌、または植物を指す。
【0084】
DNA分子を植物細胞に導入するための、当業者に周知の方法が多数存在する。このプロセスは、一般に、好適な宿主細胞を選択するステップと、宿主細胞をベクターで形質転換するステップと、形質転換された宿主細胞を得るステップとを含む。本発明の実施において植物構築物を植物ゲノムに導入することによって植物細胞を形質転換するための方法及び材料には、周知でありかつ実証された方法のうちのいずれも含まれ得る。好適な方法には、とりわけ、細菌感染(例えば、Agrobacterium)、バイナリーBACベクター、DNAの直接送達(例えば、PEG媒介性形質転換、乾燥/阻害媒介性DNA取込み、エレクトロポレーション、炭化ケイ素繊維による撹拌、及びDNAコーティング粒子の加速)、及び遺伝子編集(例えば、CRISPR-Casシステム)が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
宿主細胞は、任意の細胞または生物、例えば、植物細胞、藻類細胞、藻類、真菌細胞、真菌、細菌細胞、または昆虫細胞であってもよい。特定の実施形態では、宿主細胞及び形質転換細胞には、作物植物からの細胞が含まれ得る。
【0086】
トランスジェニック植物は、その後、本発明のトランスジェニック植物細胞から再生され得る。従来の育種技法または自家受粉を使用して、このトランスジェニック植物から種子を生産してもよい。かかる種子、及びかかる種子から成長した結果として生じる後代植物は、本発明の組換えDNA分子を含み、したがってトランスジェニックとなる。
【0087】
本発明のトランスジェニック植物を自家受粉して、(組換えDNA分子に対してホモ接合性の)本発明のホモ接合性トランスジェニック植物の種子を提供することも、または非トランスジェニック植物もしくは異なるトランスジェニック植物と交配して、(組換えDNA分子に対しヘテロ接合性の)本発明のヘテロ接合性トランスジェニック植物の種子を提供することもできる。かかるホモ接合性及びヘテロ接合性のトランスジェニック植物はいずれも、本明細書で「後代植物」と称される。後代植物とは、元のトランスジェニック植物の系統を引き、本発明の組換えDNA分子を含むトランスジェニック植物である。本発明のトランスジェニック植物を使用して生産された種子を収穫し、これを使用して、本発明の構築物を含みかつ農学的目的の遺伝子を発現するトランスジェニック植物、すなわち本発明の後代植物の世代を成長させることができる。異なる作物に一般的に使用される育種方法の説明は、いくつかの参考文献のうちの1つに見出すことができ、例えば、Allard,Principles of Plant Breeding,John Wiley & Sons,NY,U.of CA,Davis,CA,50-98(1960)、Simmonds,Principles of Crop Improvement,Longman,Inc.,NY,369-399(1979)、Sneep and Hendriksen,Plant breeding Perspectives,Wageningen(ed),Center for Agricultural Publishing and Documentation(1979)、Fehr,Soybeans:Improvement,Production and Uses,2nd Edition,Monograph,16:249 (1987)、Fehr,Principles of Variety Development,Theory and Technique,(Vol.1)and Crop Species Soybean(Vol.2),Iowa State Univ.,Macmillan Pub.Co.,NY,360-376(1987)を参照されたい。
【0088】
形質転換された植物は、目的の遺伝子(単数または複数)の存在、ならびに本発明の調節エレメントによって付与される発現レベル及び/またはプロファイルについて解析され得る。当業者は、形質転換された植物の解析に利用可能な多数の方法を認識している。例えば、植物分析のための方法には、サザンブロットまたはノーザンブロット、PCRベースのアプローチ、生化学的解析、表現型スクリーニング法、圃場評価、及び免疫診断アッセイが含まれるが、これらに限定されない。転写可能なDNA分子の発現量は、TaqMan(登録商標)(Applied Biosystems(Foster City,CA))の試薬及び同製造業者により説明されるような方法を使用して測定することができ、PCRサイクル時間は、TaqMan(登録商標)Testing Matrixを使用して決定することができる。代替的に、Invader(登録商標)(Third Wave Technologies(Madison,WI))の試薬及び同製造業者により説明されるような方法を使用して、導入遺伝子の発現量を評価することができる。
【0089】
本発明はまた、本発明の植物の部位も提供する。植物の部位には、葉、茎、根、塊茎、種子、胚乳、胚珠、及び花粉が含まれるが、これらに限定されない。本発明の植物の部位は、生存可能、生存不能、再生可能、及び/または再生不可能であり得る。本発明はまた、本発明のDNA分子を含む形質転換された植物細胞も含み、これを提供する。本発明の形質転換またはトランスジェニック植物細胞には、再生可能及び/または再生不可能な植物細胞が含まれる。
【0090】
本発明はまた、本発明の組換えDNA分子を含むトランスジェニック植物またはその部位から生産される商品生産物も提供する。本発明の商品生産物は、配列番号1~6からなる群から選択されるDNA配列を含む、検出可能量のDNAを含む。本明細書で使用されるとき、「商品生産物」とは、本発明の組換えDNA分子を含むトランスジェニック植物、種子、植物細胞、または植物の部位に由来する材料から構成される任意の組成物または生産物を指す。商品生産物には、加工された種子、穀物、植物の部位、及び粗粉が含まれるが、これらに限定されない。本発明の商品生産物は、本発明の組換えDNA分子に対応する、検出可能量のDNAを含むことになる。商品生産物の含量または供給源を決定するために、試料中でのこのDNAのうちの1つまたは複数の検出を使用してもよい。本明細書で開示される検出方法を含めて、任意の標準的なDNA分子の検出方法を使用してもよい。
【0091】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより容易に理解され得、これらの実施例は、明記されない限り、例示説明として提供されるものであり、本発明を限定することは意図されない。当業者は、以下の実施例で開示される技法が、本発明の実施において良好に機能することが本発明者らによって発見された技法を代表するものであることを理解するはずである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態において多くの変更を行い、それでもなお同様のまたは類似の結果を得ることができることを理解するはずである。したがって、添付図面に記載または示される全ての事柄は、限定的な意味ではなく、例示説明として解釈されるものとする。
【実施例】
【0092】
実施例1
遺伝子間配列領域エレメントの設計、合成、及びクローニング
合成遺伝子間配列領域エレメント(「ISR」)は、アルゴリズム的方法により計算的に設計した。各ISRは、植物ゲノムへの挿入後に不要なタンパク質の生産を不用意にもたらし得る、いずれの可能性のあるオープンリーディングフレーム(ORF)も含まないように設計した。加えて、ISRのうちの多くは、ISRの5’末端及び3’末端に、6つ全てのリーディングフレームにおいて終止コドンを提供するような様態で位置付けられた終止コドンを含むように設計した。
【0093】
ひとたび設計すると、これらのISRを化学的に合成し、異種ベクタースタック内の導入遺伝子発現カセットの間にクローニングした。100個を優に超える合成遺伝子間配列領域エレメントを設計し、第1の導入遺伝子カセットと第2の導入遺伝子カセットとの相互作用を低減する合成ISRを特定するために、安定に形質転換されたトウモロコシ及びダイズ植物においてアッセイした。
【0094】
ある特定の設計及び試験されたISRが、表1に提示される。ISR4_Stopは、終止コドンがISR4の3’末端及び5’末端に付加された、ISR4のバリアントである。
【0095】
【0096】
実施例2及び3に提示されるように、配列番号1~6として提示される合成遺伝子間配列領域エレメントは、安定に形質転換されたトウモロコシ及びダイズ植物において、ベクタースタック内の第1の導入遺伝子カセットの、第2の導入遺伝子カセットに対する相互作用を低減する能力を示した。
【0097】
実施例2
安定に形質転換されたトウモロコシ植物におけるISR4_Stop、ISR89、及びISR97による導入遺伝子発現カセットの相互作用の低減
この実施例は、ISR4_Stop、ISR89、及びISR97というISRが、トウモロコシ植物を安定に形質転換するために使用されたベクタースタックの第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入された場合に、導入遺伝子発現カセットの相互作用を低減する能力を実証する。
【0098】
ISRが導入遺伝子発現カセットの相互作用を低減する能力を評価するために、トウモロコシ植物を、相反する向きにある2つの導入遺伝子発現カセットを含み、ISRがこれら2つの導入遺伝子発現カセットの間にある、バイナリー植物形質転換ベクタースタックで形質転換した。2つの対照ベクタースタックもまた、トウモロコシ植物の中へ形質転換させ、試験した。
【0099】
一方の対照ベクタースタック(
図1A、エンハンサーなしの対照)は、T-Ta.Hsp17-1:1:1という3’UTR(配列番号15)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:3というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号14)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Os.Act1-1:1:19というイントロン(配列番号13)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ta.Lhcb1:1というリーダー(配列番号12)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Os.Act1:67というプロモーター(配列番号11)を含む、第1の導入遺伝子発現カセットを含んでいた。第1の導入遺伝子発現カセットに対して相反する向きにクローニングされた第2の導入遺伝子発現カセットは、T-Os.Mth-1:1:1という3’UTR(配列番号20)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-Ec.uidA+St.LS1.nno:1というGUS-1をコードするコード配列(配列番号19)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Zm.DnaK:1というイントロン(配列番号18)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Zm.39486-1:1:1というリーダー(配列番号17)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Zm.39486-1:1:1という種子特異的プロモーター(配列番号16)を含んでいた。エンハンサーなしの対照ベクタースタックはまた、グリホサート選択を使用した形質転換細胞の選択に使用された追加の導入遺伝子発現カセットも含んでいた。
【0100】
他方の対照ベクタースタック(
図1B、エンハンサーありの対照)は、T-Ta.Hsp17-1:1:1という3’UTR(配列番号15)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:3というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号14)、5’側でこれに作動可能に連結されたI-Os.Act1-1:1:19というイントロン(配列番号13)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ta.Lhcb1:1というリーダー(配列番号12)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Os.Act1:67というプロモーター(配列番号11)、5’側でこれに作動可能に連結された、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターに由来する特定のエンハンサー領域のタンデムリピートを含むE-CaMV.35S.2xA1-B3-1:1:1という強力なエンハンサー(配列番号10)を含む、第1の導入遺伝子発現カセットを含んでいた。第1の導入遺伝子発現カセットに対して相反する向きにクローニングされた第2の導入遺伝子発現カセットは、種子特異的プロモーターを含み、上述したのと同じ導入遺伝子発現カセットであった。エンハンサーありの対照ベクタースタックはまた、グリホサート選択を使用した形質転換細胞の選択に使用された追加の導入遺伝子発現カセットも含んでいた。
【0101】
図1Cに図示されるように、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間の相互作用を低減する上でのISRの有効性をアッセイするために、ISR4_Stop(配列番号1)、ISR89(配列番号2)、ISR97(配列番号5)、ISR88(配列番号7)、及びISR86(配列番号8)というISRを、エンハンサーありの対照ベクタースタックの第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にクローニングした。当該技術分野で既知の方法と類似したAgrobacterium媒介性形質転換法を使用して、2つの対照ベクタースタック及びISRを含む5つのベクタースタックにより、品種LH244トウモロコシ植物細胞を形質転換した。形質転換された植物細胞を、全植物を形成するように誘導した。
【0102】
定性的及び定量的GUS解析を使用して、形質転換された植物の選択された植物器官及び組織における発現エレメントの活性を評価した。組織化学的染色によるGUS発現の定性的解析については、ホールマウント組織または切片化した組織を、1mg/mLのX-Gluc(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-b-グルクロニド)を含有するGUS染色液と共に37℃で5時間インキュベートし、35%EtOH及び50%酢酸で脱色した。解剖顕微鏡または複合顕微鏡下で、選択された植物器官または組織の青色呈色に関する目視検査によって、GUSの発現量を定性的に決定した。酵素アッセイによるGUS発現の定量的解析については、形質転換されたトウモロコシ植物の選択された組織から全タンパク質を抽出した。1~2マイクログラムの全タンパク質を、50マイクロリットルの総反応体積中1mM濃度の蛍光性基質である4-メチルウンベリフェリル(methyleumbelliferyl)-β-D-グルクロニド(MUG)と共にインキュベートした。37℃で1時間のインキュベーション後、350マイクロリットルの200mM重炭酸ナトリウム溶液を添加することによって、反応を停止させた。反応生成物である4-メチルウンベリフェロン(methlyumbelliferone)(4-MU)は、高pHで最大限に蛍光性であり、ここで、ヒドロキシル基はイオン化されている。塩基性の炭酸ナトリウム溶液の添加により、アッセイを停止させると同時に、蛍光生成物4-MUの定量のためにpHを調整する。形成された4-MUの量を、FLUOstar Omegaマイクロプレートリーダー(BMG LABTECH)(励起355nm、発光460nm)を使用してその蛍光を測定することによって推定した。GUS活性値は、ナノモル単位の4-MU/時間/mg全タンパク質で提供される。
【0103】
R0世代におけるGUS発現量に関して、以下の組織を試料採取した:V3段階の葉及び根、V7段階の葉及び根、VT段階の葉、根、ならびに葯及び絹糸、ならびに受粉から(DAP)21日後のR3段階の種子胚及び種子胚乳。表2は、栄養組織、生殖組織、及び種子組織における平均GUS発現量を示し、ここで、「bdl」は、GUS発現量が検出レベル未満であったことを示す。表3は、栄養組織及び生殖組織における平均GUS発現量を示す。エンハンサーありの対照は、第1の導入遺伝子発現カセットエンハンサーと第2の導入遺伝子発現カセットの種子特異的プロモーターとの完全な相互作用に相当すると見なされる。したがって、第1の導入遺伝子発現カセットの強力な構成的エンハンサーによって影響を受けた種子特異的プロモーターであるP-Zm.39486-1:1:1によって駆動された、GUSカセットからの栄養組織及び生殖組織の平均発現量は、100パーセントの漏れに相当する。ISRを含むベクタースタックの漏れパーセントは、ISRを含む構築物で形質転換された植物の栄養組織及び生殖組織における平均GUS発現量を、エンハンサーありの対照の栄養組織及び生殖組織における平均GUS発現量で割り、結果に100を掛けることによって決定した。
【0104】
【0105】
【0106】
表2に見て取れるように、エンハンサーありの対照は、エンハンサーなしの対照と比較したときに、安定に形質転換されたトウモロコシ植物の全ての組織において高いGUS発現量を示した。これは、第1の導入遺伝子発現カセットにおける強力なエンハンサーが、第2の導入遺伝子発現カセットの種子特異的発現パターンをより構成的な発現パターンに変更したことを実証する。
【0107】
表2に示されるように、第1の導入遺伝子発現カセットにおける強力なエンハンサーの、第2の導入遺伝子発現カセットに対する相互作用は、ISR4_Stop、ISR89、及びISR97というISRをカセットの間に挿入した場合に低減された。ISR4_Stop、ISR89、及びISR97を有するベクタースタック内の栄養組織及び生殖組織の平均GUS発現量は、エンハンサーありの対照のベクターのそれよりもはるかに低かった。ISR4_Stop、ISR89、及びISR97の漏れパーセントは、それぞれ16%、8%、及び6%であり、故に、2つの導入遺伝子発現カセットの間の相互作用のそれぞれ84%、92%、及び94%の低減を提供した。比較すると、ISR88及びISR86は、漏れがはるかにより高く(それぞれ61%及び32%)、2つの導入遺伝子発現カセットの間の相互作用をそれぞれ39%及び68%低減したのみであった。
【0108】
ISR4_Stop(配列番号1)、ISR89(配列番号2)、及びISR97(配列番号5)は、安定に形質転換されたトウモロコシ植物においてベクタースタック内の第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用を低減する能力を示した。
【0109】
実施例3
安定に形質転換されたダイズ植物におけるISR2及びISR4による導入遺伝子発現カセットの相互作用の低減
この実施例は、遺伝子間配列領域エレメントであるISR2及びISR4が、ダイズ植物を安定に形質転換するために使用されたベクタースタックの第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間に挿入された場合に、導入遺伝子発現カセットの相互作用を低減する能力を実証する。
【0110】
ISRが導入遺伝子発現カセットの相互作用を低減する能力を評価するために、ダイズ植物を、相反する向きにある2つの導入遺伝子発現カセットを含み、ISRがこれら2つの導入遺伝子発現カセットの間にある、バイナリー植物形質転換ベクタースタックで形質転換した。2つの対照ベクタースタックもまた、ダイズ植物の中へ形質転換させ、試験した。
【0111】
一方の対照ベクタースタック(
図2A、エンハンサーなしの対照)は、T-Mt.AC145767v28:3という3’UTR(配列番号28)、5’側でこれに作動可能に連結された、GOI-GUS:1:2というGUS-2をコードするコード配列(配列番号27)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Gm.Sphas1-1:1:1というリーダー(配列番号26)、5’側でこれに作動可能に連結されたP-Gm.Sphas1:14という種子特異的プロモーター(配列番号25)で構成される、単一の導入遺伝子発現カセットを含んでいた。エンハンサーなしの対照ベクタースタックはまた、抗生物質選択を使用した形質転換細胞の選択に使用された追加の導入遺伝子発現カセットも含んでいた。
【0112】
他方の対照ベクタースタック(
図2B、エンハンサーありの対照)は、相反する向きにある2つの導入遺伝子発現カセットを含んでいた。第1の導入遺伝子カセットは、T-Mt.AC139600v16:1という3’UTR(配列番号24)、5’側でこれに作動可能に連結されたCR-Ec.nptII-Tn5-1:1:2というネオマイシンホスホトランスフェラーゼのコード配列(配列番号23)、5’側でこれに作動可能に連結されたL-Ph.DnaK-1:1:3というリーダー(配列番号22)、5’側でこれに作動可能に連結された、再構成され複製されたエンハンサーを有するP-FMV.35S-enh-1:1:2というゴマノハグサモザイクウイルス35Sプロモーターに由来する強力なプロモーター(配列番号21)を含んでいた。第2の導入遺伝子発現カセットは、上述の種子特異的導入遺伝子発現カセットと同じであった。エンハンサーありの対照ベクタースタックはまた、抗生物質選択を使用した形質転換細胞の選択に使用された追加の導入遺伝子発現カセットも含んでいた。
【0113】
図2Cに図示されるように、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間の相互作用を低減する上でのISRの有効性をアッセイするために、ISR2(配列番号3)、ISR4(配列番号2)、ISR69(配列番号6)、及びISR_X(配列番号8)というISRを、エンハンサーありの対照ベクタースタックの第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの間にクローニングした。当該技術分野で既知の方法と類似したAgrobacterium媒介性形質転換法を使用して、エンハンサーなしの対照、エンハンサーありの対照、及びISRを含む3つのベクタースタックにより、品種A3555ダイズ植物細胞を形質転換した。形質転換された植物細胞を、全植物を形成するように誘導した。
【0114】
実施例2で前述したように定性的及び定量的GUS解析を行った。R0世代におけるGUS発現量に関して、以下の組織を試料採取した:Vn5根、Vn5シンク葉、Vn5ソース葉、R1ソース葉、R1葉柄、R1花、R3未熟種子、R3さや、R5子葉、黄さや(YP)胚、及び黄さや(YP)子葉。
【0115】
エンハンサーありの対照は、第1の導入遺伝子発現カセットエンハンサーと第2の導入遺伝子発現カセットの種子特異的プロモーターとの完全な相互作用に相当すると見なされる。したがって、第1の導入遺伝子発現カセットの強力な構成的エンハンサーによって影響を受けた種子特異的プロモーターであるP-Gm.Sphas1:14によって駆動された、GUSカセットからの栄養組織及び生殖組織の平均発現量は、100パーセントの漏れに相当する。ISRを含む構築物の漏れパーセントは、ISRを含む構築物で形質転換された植物のVn5、R1、及びR3組織における平均GUS発現量を、エンハンサーありの対照のVn5、R1、及びR3組織の平均GUS発現量で割り、結果に100を掛けることによって決定した。
【0116】
Vn5、R1、及びR3組織の平均GUS発現量が表4に提示され、ここで、「nd」は未決定を示す。R5及び黄さや組織の平均GUS発現量、Vn5、R1、及びR3組織の平均発現量、ならびに漏れパーセントが表5に提示される。
【0117】
【0118】
【0119】
表4に見て取れるように、エンハンサーなしの対照で形質転換された植物のVn5、R1、及びR3組織においては、非常にわずかなGUS発現量が観察される。エンハンサーありの対照で形質転換された植物は、Vn5、R1、及びR3組織において高いGUS発現量が観察されて、構成的発現パターンを示す。同様に、表5に見られるように、エンハンサーなしの対照で形質転換された植物は、P-Gm.Sphas1:14の既知の種子特異的発現パターンと一致するように、黄さや胚及び子葉においてのみ高いGUS発現量を示す。R5子葉においては、非常にわずかな発現が観察され、ここで、発現量は、R3未熟種子と比べて若干増加することがわかる。エンハンサーありの対照で形質転換された植物は、R5子葉における高レベルの発現、ならびにエンハンサーなしの対照で形質転換された植物と比べて黄さや胚及び子葉における増加を示す。故に、エンハンサーありの対照の第1の導入遺伝子発現カセットのP-FMV.35S-enh-1:1:2プロモーターに含まれていた強力なエンハンサーは、第2の導入遺伝子発現カセットのP-Gm.Sphas1:14と相互作用し、その種子特異的発現を構成的発現パターンに変えた。
【0120】
表5で示されるように、遺伝子間配列領域であるISR2、ISR4、及びISR69は、エンハンサーありの対照構成の第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子発現カセットに対する相互作用をそれぞれ97%、96%、及び95%低減することが可能であった(わずか3%、4%、及び5%の漏れであった)。ISR_Xは、エンハンサーありの対照構成の第1の導入遺伝子発現カセットの、第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用を低減する上でそれほど有効ではなく、24%の漏れを示した。ISR_Xは、ISR2、ISR4、及びISR69の97%、96%、95%と比較して、相互作用を76%低減したのみであった。
【0121】
ISR2(配列番号3)、ISR4(配列番号4)、及びISR69(配列番号6)は、安定に形質転換されたダイズ植物において、第1の導入遺伝子発現カセットと第2の導入遺伝子発現カセットとの相互作用を低減する能力を示した。
【0122】
本発明の原理を例示及び説明したが、かかる原理から逸脱することなく、本発明の配置及び詳細を変更することができることが、当業者には明らかであるはずである。発明者らは、特許請求の範囲の趣旨及び範囲内にある全ての変更形態を特許請求する。本明細書で引用される全ての刊行物及び公開された特許文献は、あたかも個々の刊行物または特許出願の各々が参照により援用されることが明確かつ個別に示されているのと同じ程度まで、これにより本明細書に援用される。
【配列表】