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特許7571122窒化ホウ素粒子、並びに、該窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物及び収容体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粒子、並びに、該窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物及び収容体
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20241015BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241015BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08L101/00
C08K3/38
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022510628
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012390
(87)【国際公開番号】W WO2021193764
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020055894
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】久保渕 啓
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 智成
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056438(JP,A)
【文献】特開2010-180066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0155052(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1931719(CN,A)
【文献】XU, F. et al.,Inorganic Chemistry,2003年12月18日,Vol.43,pp.822-829,<DOI: 10.1021/ic0348751>
【文献】TANG, C. et al.,Advanced Functional Materials,2008年10月30日,Vol.18,pp.3653-3661,<DOI: 10.1002/adfm.200800493>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/583 - 35/5835
C08L 101/00
C08K 3/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低結晶性の窒化ホウ素を含む中心部と、
前記中心部の周りを囲うように配置され、高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部と、を備え
平均円形度が0.8以上であり、
平均粒子径が0.15μm以上であり、
放熱部材の形成に用いられる、窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
樹脂と、請求項1に記載の窒化ホウ素粒子と、を含有する樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の窒化ホウ素粒子と、前記窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粒子、並びに、該窒化ホウ素粒子を含む樹脂組成物及び収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の電子部品においては、使用時に発生する熱を効率的に放熱するための放熱部材が用いられる。放熱部材は、例えば、熱伝導率が高いセラミックス粒子を含有する。セラミックス粒子としては、高熱伝導率、高絶縁性、低比誘電率等の特性を有している窒化ホウ素粒子が注目されている。
【0003】
窒化ホウ素粒子の製造方法としては、種々の方法が知られている。当該製造方法の一つとして、アンモニア/ホウ酸アルコキシドのモル比が1~10のホウ酸アルコキシドとアンモニアを不活性ガス気流中、750℃以上、30秒以内で反応させた後、アンモニアガス、又は、アンモニアガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下、1,000~1,600℃、1時間以上で熱処理後、さらに、不活性ガス雰囲気下、1,800~2,200℃、0.5時間以上で焼成する製造方法が挙げられる(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/122379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した製造方法では、条件を変えながら少なくとも三段階に分けて加熱を行う必要があるが、窒化ホウ素粒子をより効率良く製造するためには、プロセスの簡素化が望まれる。一方で、プロセスの簡素化によって、窒化ホウ素粒子に求められる熱伝導率といった特性が損なわれることは避けなければならない。
【0006】
そこで、本発明の一側面は、従来より簡便に製造可能でありながら、従来と同等の熱伝導率を有する窒化ホウ素粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来は、高い熱伝導率を得るために、粒子全体において窒化ホウ素をできる限り結晶化させる必要があると考えられていたが、本発明者らが鋭意検討したところ、粒子の周囲部の結晶化が充分に進んでいれば、粒子の中心部の窒化ホウ素の結晶化が不充分であっても、驚くべきことに、窒化ホウ素粒子の熱伝導率に悪影響がないことを見出した。つまり、窒化ホウ素を結晶化する工程を簡素化しても、従来と同等の熱伝導率が得られることが見出された。
【0008】
本発明の一側面は、低結晶性の窒化ホウ素を含む中心部と、中心部の周りを囲うように配置され、高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部と、を備える窒化ホウ素粒子である。
【0009】
上記窒化ホウ素粒子の平均円形度は、0.8以上であってよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、樹脂と、上記の窒化ホウ素粒子と、を含有する樹脂組成物である。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記の窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、従来より簡便に製造可能でありながら、従来と同等の熱伝導率を有する窒化ホウ素粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例の窒化ホウ素粒子全体のTEM像である。
図2図1における窒化ホウ素粒子の周囲部SのTEM像である。
図3図2における窒化ホウ素粒子の領域S1についてFFT解析を行った結果を示す図及びグラフである。
図4図1における窒化ホウ素粒子の周囲部Sの領域S2~S5についてFFT解析を行った結果を示す図である。
図5図1における窒化ホウ素粒子の周囲部Sの領域S2~S5についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
図6図1における窒化ホウ素粒子の中心部Cの領域C1~C4についてFFT解析を行った結果を示す図である。
図7図1における窒化ホウ素粒子の中心部Cの領域C1~C4についてFFT解析を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施形態は、低結晶性の窒化ホウ素を含む中心部と、中心部の周りを囲うように配置され、高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部と、を備える窒化ホウ素粒子である。
【0016】
本明細書において、「高結晶性」とは、以下の方法により取得される窒化ホウ素粒子のFFT像において、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在する状態を意味し、「低結晶性」とは、当該輝点(ピーク)が存在しない状態を意味する。輝点(ピーク)が存在するとは、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲において、B-スプライン法にてバックグラウンドを差し引いた後の強度Sがノイズ強度Nに対して15倍以上となる点が存在することを意味する。ここで、ノイズ強度Nは、B-スプライン法にてバックグラウンド処理を行った後、上記逆格子空間上の4nm-1を超え6nm-1以下の範囲における標準偏差の値と定義される。また、輝点(ピーク)には、波数方向又は円周方向に揺らぎをもつものも含むこととする。高結晶性の窒化ホウ素を含む周囲部では、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲において、上記強度Sが上記ノイズ強度Nに対して、好ましくは20倍以上、より好ましくは23倍以上、更に好ましくは25倍以上となる点が存在してよい。
【0017】
(FFT像の取得方法)
まず、透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用いて、以下の条件にて、窒化ホウ素粒子の400,000倍のTEM像を取得する。
対物レンズ絞り:φ120μm
集束レンズ絞り:φ150μm
記録媒体:AMETEK社製「OrisusSC1000A1」
Bining:2
露光時間:0.5秒間
また、TEM観察及び後述するFFT解析のために、画像解析ソフト(例えば、AMETEC社製「GMS3」)を用いる。
続いて、得られたTEM像における8.556nm角の領域に対してFFT解析を行い、256×256ピクセルのFFT像を取得する。
【0018】
窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、窒化ホウ素粒子の粒子径をdとしたときに、例えば、0.1d以上、0.15d以上、又は0.2d以上であってよく、0.6d以下、0.5以下、0.4d以下、0.35d以下、又は0.3d以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、例えば、1nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、又は30nm以上であってよく、400nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、上述したとおり定義される「高結晶性」の部分、すなわち、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在する部分の径を意味する。
【0019】
窒化ホウ素粒子中の周囲部の厚さは、窒化ホウ素粒子の粒子径をdとしたときに、例えば、0.3d以上、0.33d以上、又は0.35d以上であってよく、0.45d以下、0.43d以下、又は0.4d以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の中心部の径は、例えば、5nm以上、10nm以上、20nm以上、40nm以上、又は60nm以上であってよく、450nm以下、300nm以下、200nm以下、又は100nm以下であってよい。窒化ホウ素粒子中の周囲部の厚さは、上述したとおり定義される「低結晶性」の部分、すなわち、上記逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が存在しない部分の厚さを意味する。
【0020】
窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、窒化ホウ素粒子と樹脂とを混合した際の粘度増加を抑制できる観点から、好ましくは、0.01μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上、又は0.15μm以上であり、窒化ホウ素粒子を含む放熱部材(以下、単に「放熱部材」ともいう)の絶縁破壊特性を向上させる観点から、1μm以下、0.8μm以下、0.6μm以下、又は0.4μm以下であってよい。
【0021】
窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、以下の手順により測定される。
窒化ホウ素粒子を分散させる分散媒として蒸留水を用い、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを用い、0.125質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製する。この水溶液中に0.1g/80mLの比率で窒化ホウ素粒子を加え、超音波ホモジナイザー(例えば、日本精機製作所製「US-300E」)により、AMPLITUDE(振幅)80%にて超音波分散を1分30秒間で1回行うことで、窒化ホウ素粒子の分散液を調製する。この分散液を60rpmで撹拌しながら分取し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製「LS-13 320」)により体積基準の粒度分布を測定する。このとき、水の屈折率として1.33を用い、窒化ホウ素粒子の屈折率として1.7を用いる。測定結果から、累積粒度分布の累積値50%の粒径(メジアン径、d50)として平均粒子径を算出する。なお、このように測定される平均粒子径は、窒化ホウ素粒子の一次粒子に加えて、当該一次粒子同士が凝集した粒子(二次粒子)も含む窒化ホウ素粒子の平均粒子径であると考えられる。
【0022】
窒化ホウ素粒子は、放熱部材を作製する際の充填性を向上させ、放熱部材の特性(熱伝導性、誘電率など)を等方的にする観点から、好ましくは、球状、又は球状に近い形状を有している。同様の観点から、窒化ホウ素粒子の平均円形度は、好ましくは、0.8以上、0.82以上、0.84以上、0.86以上、0.88以上、0.90以上、0.91以上、0.92以上、0.93以上、又は0.94以上であってよい。
【0023】
窒化ホウ素粒子の平均円形度は、以下の手順で測定される。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した窒化ホウ素粒子の像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製「MacView」)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出する。投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L
に従って円形度を求める。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度と定義する。
【0024】
以上説明したような窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素の結晶成長を敢えて不完全な状態で止めることによって得られる。窒化ホウ素粒子の製造においては、粒子の周囲部から中心部に向けて徐々に結晶成長が進行するところ、窒化ホウ素の結晶成長を不完全な状態で止めることにより、得られる窒化ホウ素粒子においては、周囲部に含まれる窒化ホウ素が高結晶性である一方で、中心部に含まれる窒化ホウ素が低結晶性となる。
【0025】
以下、上述した窒化ホウ素粒子の製造方法について具体的に説明する。上述した窒化ホウ素粒子は、例えば、ホウ酸エステルとアンモニアとを750~1400℃で反応させて窒化ホウ素粒子の前駆体を得る第1の工程と、前駆体を1000~1600℃で加熱して窒化ホウ素粒子を得る第2の工程と、を備える製造方法により得られる。
【0026】
第1の工程では、例えば、抵抗加熱炉内に設置された反応管(例えば石英管)を加熱して、750~1500℃まで昇温する。一方、不活性ガスを液状のホウ酸エステルに通した上で反応管に導入することにより、ホウ酸エステルが反応管に導入される。他方、アンモニアガスを反応管に直接導入する。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガス、及び窒素ガスが挙げられる。ホウ酸エステルは、例えばアルキルホウ酸エステルであってよく、好ましくはホウ酸トリメチルである。
【0027】
ホウ酸エステルの導入量に対するアンモニアの導入量のモル比(アンモニア/ホウ酸エステル)は、例えば、1以上であってよく、10以下であってよい。
【0028】
導入されたホウ酸エステル及びアンモニアは、加熱された反応管内で反応し、窒化ホウ素粒子の前駆体を生成する。この前駆体は、非結晶性の窒化ホウ素を含んでおり、例えば白色の粉末であってよい。生成した前駆体の一部は反応管内に付着するが、前駆体の多くは、不活性ガスや未反応のアンモニアガスにより、反応管の先に取り付けられた回収容器に送られて回収される。
【0029】
第1の工程においてホウ酸エステルとアンモニアとを反応させる時間(反応時間)は、好ましくは、30秒間以内である。反応時間は、ホウ酸エステル及びアンモニアが、反応管のうち750~1400℃に加熱された部分(加熱部分)にとどまる時間であり、ホウ酸エステル及びアンモニアを導入する際のガス流量と、抵抗加熱炉内に設置された反応管の長さ(反応管の加熱部分の長さ)とによって、調整することができる。
【0030】
第2の工程では、第1の工程で得られた前駆体を、抵抗加熱炉内に設置された別の反応管(例えばアルミナ管)に入れ、窒素ガス及びアンモニアガスをそれぞれ別々に反応管内に導入する。このとき導入するガスは、アンモニアガスのみであってもよい。窒素ガス及びアンモニアガスの流量は、それぞれ、反応時間が所望の値となるように適宜調整されればよい。例えば、アンモニアガスの流量が多いほど、反応時間が短くなる。
【0031】
続いて、反応管を1000~1600℃に加熱する。加熱する時間は、例えば、1時間以上であってよく、10時間以下であってよい。これにより、前駆体中の窒化ホウ素の結晶化を進行させ、窒化ホウ素粒子を得る。ただし、前駆体中のすべての窒化ホウ素は結晶化されずに、低結晶性の窒化ホウ素が窒化ホウ素粒子の内部に残留する。
【0032】
この製造方法は、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を1800℃以上で加熱する工程(従来は窒化ホウ素の結晶成長を促進するために実施されていた工程)を備えていない。すなわち、この製造方法では、第2の工程における加熱後に、目的とする窒化ホウ素粒子が、不完全に結晶成長した状態で得られる。この製造方法は、第2の工程の後に、第2の工程で得られた窒化ホウ素粒子を、1700℃以上、1600℃以上、1500℃以上、1400℃以上、1300℃以上、1200℃以上、1100℃以上、1000℃以上、900℃以上、800℃以上、700℃以上、600℃以上、500℃以上、400℃以上、300℃以上、200℃以上、100℃以上、50℃以上、40℃以上、又は30℃以上で加熱する工程を備えていなくてもよい。
【0033】
上述した窒化ホウ素粒子は、例えば、放熱部材に好適に用いられる。窒化ホウ素粒子は、放熱部材に用いられる場合、例えば樹脂と共に混合された樹脂組成物の形態で用いられる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、樹脂と、上記の窒化ホウ素粒子とを含有する樹脂組成物である。この樹脂組成物は、放熱部材として好適に用いられる。
【0034】
上記の窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、優れた放熱性能が得られやすい観点から、好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上であり、更に好ましくは50体積%以上であり、成形時に空隙の発生、並びに、絶縁性及び機械強度の低下を抑制できる観点から、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下、更に好ましくは70体積%以下である。
【0035】
樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、及びAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0036】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、15体積%以上、20体積%以上、又は30体積%以上であってよく、70体積%以下、60体積%以下、又は50体積%以下であってよい。
【0037】
樹脂組成物は、樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有していてよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、及びイミダゾール化合物が挙げられる。硬化剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0038】
窒化ホウ素粒子は、例えば、容器に収容された形態で流通し得る。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の窒化ホウ素粒子と、窒化ホウ素粒子を収容する容器と、を備える収容体である。容器は、窒化ホウ素粒子を収容できる形状を有していればよく、例えば、袋、箱、瓶、缶等であってよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
(窒化ホウ素粒子の作製)
まず、第1の工程では、抵抗加熱炉内に設置された反応管(石英管)を加熱して、1150℃まで昇温した。一方、窒素ガスをホウ酸トリメチルに通した上で反応管に導入することにより、ホウ酸トリメチルを反応管に導入した。他方、アンモニアガスを反応管に直接導入した。ホウ酸トリメチルの導入量に対するアンモニアの導入量のモル比(アンモニア/ホウ酸トリメチル)は、4.5とした。これにより、ホウ酸トリメチルとアンモニアとを反応させて、窒化ホウ素粒子の前駆体(白色粉末)を得た。なお、反応時間は10秒間であった。
【0041】
続いて、第2の工程では、第1の工程で得られた前駆体を、抵抗加熱炉内に設置された別の反応管(アルミナ管)に入れ、窒素ガス10L/分、及びアンモニアガス15L/分の流量でそれぞれ別々に反応管内に導入した。そして、反応管を1500℃で2.5時間加熱した。これにより、窒化ホウ素粒子を得た。
【0042】
(窒化ホウ素粒子の観察及び結晶性の評価)
透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製「JEM-2100」)を用いて、以下の条件にて得られた窒化ホウ素粒子を観察した。
対物レンズ絞り:φ120μm
集束レンズ絞り:φ150μm
記録媒体:AMETEK社製「OrisusSC1000A1」
Bining:2
露光時間:0.5秒間
また、TEM観察及び後述するFFT解析のための画像解析ソフトとして、AMETEK社製「GMS3」を用いた。
【0043】
得られた窒化ホウ素粒子全体のTEM明視野像(倍率:100,000倍)を図1に示す。また、図1に示される窒化ホウ素粒子の周囲部Sについて、400,000倍で観察したTEM暗視野像を図2に示す。
【0044】
続いて、図2における8.556nm角の領域S1に対してFFT解析を行い、256×256ピクセルのFFT像を取得した。得られたFFT図形について、図3(a),(b)に示すように、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認された。つまり、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける領域S1は、高結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0045】
また、図4に示すように、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける他の領域S2~S5についても、領域S1と同様にしてFFT解析を行った。その結果、図4及び図5に示すように、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認された。つまり、窒化ホウ素粒子の周囲部Sにおける領域S2~S5も、高結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0046】
また、図1に示される窒化ホウ素粒子の中心部Cについて、400,000倍で観察したTEM暗視野像を図6に示す。図6に示すように、窒化ホウ素粒子の中心部Cにおける領域C1~C4についても、領域S1と同様にしてFFT解析を行った。その結果、図6及び図7に示すように、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲で、h-BN(0002)面由来の周期性による輝点(ピーク)が確認されなかった。つまり、窒化ホウ素粒子の中心部Cにおける領域C1~C4は、低結晶性の窒化ホウ素で構成されていることが確認された。
【0047】
なお、図3(b)、図5及び図7に示すグラフは、B-スプライン法にてバックグラウンドを差し引いた後の強度を示すグラフである。また、図3(b)図5及び図7に示すグラフより、領域S1~S5及びC1~C4の各領域について、逆格子空間上の1~4nm-1の範囲における最大強度(相対強度)Smaxと、ノイズ強度(逆格子空間上の4nm-1を超え6nm-1以下の範囲における標準偏差)Nと、これらの比(Smax/N)とを求めた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
以上のとおり、得られた窒化ホウ素粒子の周囲部には高結晶性の窒化ホウ素が含まれており(上述した輝点(ピーク)が確認できる領域が支配的であり)、中心部には低結晶性の窒化ホウ素が含まれている(上述した輝点(ピーク)が確認できない領域が支配的である)ことが分かった。また、中心部の径は約40nmであり、周囲部の厚さは約50nmであった。
【0050】
(平均円形度の測定)
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られた窒化ホウ素粒子のSEM像(倍率:10,000倍、画像解像度:1280×1024ピクセル)を撮影した。得られたSEM像について、画像解析ソフト(例えば、マウンテック社製「MacView」)を用いた画像解析により、窒化ホウ素粒子の投影面積(S)及び周囲長(L)を算出した。次に、投影面積(S)及び周囲長(L)を用いて、以下に式:
円形度=4πS/L
に従って円形度を求めた。任意に選ばれた100個の窒化ホウ素粒子について求めた円形度の平均値を平均円形度として算出した。得られた窒化ホウ素粒子の平均円形度は、0.94であった。
【0051】
(平均粒子径の測定)
窒化ホウ素粒子を分散させる分散媒として蒸留水を用い、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを用い、0.125質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製した。この水溶液中に0.1g/80mLの比率で得られた窒化ホウ素粒子を加え、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製「US-300E」)により、AMPLITUDE(振幅)80%にて超音波分散を1分30秒間で1回行うことで、窒化ホウ素粒子の分散液を調製した。この分散液を60rpmで撹拌しながら分取し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製「LS-13 320」)により体積基準の粒度分布を測定した。このとき、水の屈折率として1.33を用い、窒化ホウ素粒子の屈折率として1.7を用いた。測定結果から、累積粒度分布の累積値50%の粒径(メジアン径、d50)として平均粒子径を算出した。得られた窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、510nmであった。
【0052】
[比較例1]
実施例1の第2の工程の後に、窒化ホウ素粒子を窒化ホウ素製ルツボに入れ、誘導加熱炉において、窒素雰囲気下にて2000℃で5時間加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較用窒化ホウ素粒子を得た。つまり、比較例1では、従来の製造方法により比較用窒化ホウ素粒子を得た。
【0053】
<熱伝導率の測定>
実施例1で得られた窒化ホウ素粒子、及び比較例1で得られた比較用窒化ホウ素粒子について、以下の手順で熱伝導率を測定した。
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、「HP4032」)100質量部と、硬化剤としてイミダゾール類(四国化成社製、「2E4MZ-CN))10質量部との混合物に対し、窒化ホウ素粒子を40体積%となるように混合して樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、PET製シート上に厚みが1.0mmになるように塗布した後、500Paの減圧脱泡を10分間行った。その後、温度150℃、圧力160kg/cm条件で60分間のプレス加熱加圧を行って、0.5mmのシートを作製した。
得られたシートから10mm×10mmの大きさの測定用試料を切り出し、キセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、「LFA447NanoFlash」)を用いたレーザーフラッシュ法により、測定用試料の熱拡散率A(m/秒)を測定した。また、測定用試料の比重B(kg/m)をアルキメデス法により測定した。また、測定用試料の比熱容量C(J/(kg・K))を、示差走査熱量計(株式会社リガク製、「ThermoPlusEvoDSC8230」)を用いて測定した。これらの各物性値を用いて、熱伝導率H(W/(m・K))をH=A×B×Cの式から求めた。
【0054】
その結果、実施例1で得られた窒化ホウ素粒子は1.13W/(m・K)を示し、比較例1で得られた比較用窒化ホウ素粒子は1.12W/(m・K)を示した。このように、実施例1では、窒素雰囲気下にて2000℃で5時間加熱するという比較例1の工程(従来の製造方法で実施される工程)を省略したにもかかわらず、比較例1と同等の熱伝導率を有する窒化ホウ素粒子を得ることができた。
図1
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図7