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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】塞栓剤キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20241015BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20241015BHJP
   A61B 17/12 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61L31/18
A61B17/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022511697
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008414
(87)【国際公開番号】W WO2021199884
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2020062464
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】生野 恵理
(72)【発明者】
【氏名】柴田 秀彬
【審査官】関 景輔
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/04
A61L 31/18
A61B 17/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項12】
2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物を、可視化剤を含むプライミング液に含浸することを有する、塞栓剤の準備方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塞栓剤キットおよび前記塞栓剤キットを用いる治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大動脈疾患(大動脈瘤や大動脈解離等)の治療には、患部の血管を人工血管に置き換える人工血管置換術が行われていた。しかしながら、この術式は、開胸や開腹を伴うため、患者への負担(侵襲)が大きく、入院が長期化するなどの問題があった。このような問題を考慮して、近年、この人工血管置換術の代わりに、ステントグラフトを用いる治療(ステントグラフト内挿術)が普及してきている。この術式は、ステントグラフトを細いカテーテルの中に収納して動脈瘤のある部位まで進め、収納してあったステントグラフトをカテーテルから放出・拡張させて、動脈瘤や解離のある部位(患部)に留置する。このステントグラフト内挿術は、低侵襲治療であり、患者の術後の経過が良好であるという利点がある。一方、上記ステントグラフト内挿術では、血液の漏出(エンドリーク)が生じることがある。エンドリークには、動脈瘤内への血液の漏出の仕方により、Type I~IVの4種のタイプがある。このうち、エンドリーク Type IIは、瘤内の圧力低下により、下腸間膜動脈や腰動脈(分岐血管)などから瘤内に血液が逆流するものであり、瘤を拡大させてしまうなどの症状を引き起こすことがある。このようなエンドリーク Type IIに対しては、ステントグラフト内挿術を行う前に、カテーテルを介して生体適合性流体組成物を塞栓物質としてエンドリークの原因となる血管内に導入して原因血管に塞栓形成する方法が知られている(特表2002-539853号公報(US 6,303,100 B1に相当))。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、エンドリークの原因となる血管は複数あり、そのすべてを塞栓することは困難である。また、塞栓形成過程を視認できるように、特表2002-539853号公報(US 6,303,100 B1に相当)に記載の生体適合性流体組成物は造影剤を含む(段落「0015」(US 6,303,100 B1のCol. 4, lines 1-11に相当))。しかし、留置後はその造影性が邪魔をして、血流を確認するために別途導入する造影剤による視認性を損ない、正確な画像診断が困難であるまたは不可能となるとの課題がある。
【0004】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、塞栓剤の導入時には良好な視認性が確保でき、導入後はその視認性を下げる技術を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、造影性の弱い塞栓剤を使用する前に別途可視化剤でプライミングすることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、上記目的は、内腔を有するカテーテルと、前記内腔内に充填された、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物と、可視化剤を含み、前記カテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液と、を有する、塞栓剤キットによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1-1】図1は、本発明の一実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図1-2】図1は、本発明の一実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図1-3】図1は、本発明の一実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図1-4】図1は、本発明の一実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図2-1】図2は、本発明の他の実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図2-2】図2は、本発明の他の実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図2-3】図2は、本発明の他の実施形態に係る塞栓剤の使用方法を説明する図である。
図3図3は、実施例1のプライム反応物1~3、プライミング液1およびプライミング液2のX線画像である。
図4図4は、実施例2のプライム反応物4~6、プライミング液1およびプライミング液2のX線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第一の側面は、内腔を有するカテーテルと、前記内腔内に充填された、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物と、可視化剤を含み、前記カテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液と、を有する、塞栓剤キットに関する。本発明の第一の側面に係る塞栓剤によれば、塞栓剤の導入時には良好な視認性が確保でき、導入後はその視認性を下げられる。
【0009】
本発明の第二の側面は、内腔を有するカテーテルと、前記内腔内に充填された、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物と、可視化剤を含み、前記カテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液と、を有する、塞栓剤キットに関する。本発明の第二の側面に係る塞栓剤によれば、塞栓剤の導入時には良好な視認性が確保でき、導入後はその視認性を下げられる。
【0010】
すなわち、本発明の第一および第二の側面は、内腔を有するカテーテルと;前記内腔内に充填された、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物と;可視化剤を含み、前記カテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液と、を有する、塞栓剤キットに関する。なお、本明細書において、「エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物」および「2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物」を一括して単に「本発明に係る反応物」または「反応物」とも称する。また、「可視化剤を含み、前記カテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液」を単に「プライミング液」とも称する。プライミング液でプライミングされた後の反応物を、「塞栓剤」または「プライム反応物」とも称する。
【0011】
本発明の塞栓剤キットによれば、導入する際には塞栓剤(プライム反応物)を良好に視認でき、塞栓剤を所定の部位に導入した後は、その視認性が低減する。このため、例えば、塞栓剤キットを動脈瘤に導入する場合に、塞栓剤を所定の部位に留置するまでは、塞栓剤の位置を良好に確認できる。一方、塞栓剤を所定の部位に留置した後は、その視認性が低下する。このため、瘤内に流れ込む分岐血管(例えば、下腸間膜動脈や腰動脈等)を介して造影剤を導入した際の造影剤の瘤への流入の有無を明瞭に確認できる。このため、本発明の塞栓剤キットを使用することにより、エンドリーク、特にエンドリーク Type
IIの有無を有効に確認できる。ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は下記推測に限定されるものではない。本発明の塞栓剤キットでは、造影性の弱い反応物と、可視化剤を含むプライミング液と、が別々に準備される。通常、塞栓剤はカテーテル内に収容され、使用前に、生理食塩水などを注入してカテーテル内腔の空気を除く(プライミング)。本発明では、反応物が収容されるカテーテルの内腔を、可視化剤を含むプライミング液でプライミングすることによって、カテーテル内腔の空気を除くと共に、反応物に造影性を付与する。このため、可視化剤を含むプライミング液でプライミングされた後のプライム反応物(塞栓剤、例えば、ハイドロゲルフィラメント)は、高密度の可視化剤を含む(塞栓剤中の可視化剤の単位体積当たりの含有量が高い)。ゆえに、塞栓剤を所定の部位に留置するまでは、塞栓剤の位置をX線等の適当な手段で良好に確認できる。一方、塞栓剤を所定の部位(例えば、動脈瘤)に留置した後は、可視化剤は、体液(例えば、血液)中に流出、拡散し、可視化剤の単位体積当たりの含有量(密度)が低下する。また、本発明に係る反応物は、体液(例えば、血液)との接触により膨潤する。このため、膨潤後の可視化剤の単位体積当たりの含有量(密度)は、膨潤前の可視化剤の単位体積当たりの含有量(密度)に比して低くなる。ゆえに、塞栓剤を所定の部位に留置した後は、X線等の適当な手段での視認性が大きく低下する。ゆえに、塞栓剤は、エンドリークの原因となる血管(例えば、下腸間膜動脈や腰動脈等)を介した瘤内への造影剤の流入の確認をほとんどまたは全く妨げない。ゆえに、本発明の塞栓剤を使用することにより、エンドリーク、特にエンドリーク Type
IIの有無を有効に確認できる。
【0012】
本発明の塞栓剤キットは、ステントグラフト内挿術と組み合わせると特に有効である。ゆえに、本発明の第三の側面は、本発明の塞栓剤キットおよびグラフト(特にステントグラフト)を有する、治療システムに関する。
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。本明細書において、「Xおよび/またはY」とは、XおよびYの少なくとも一方を含むことを意味し、「X単独」、「Y単独」および「XおよびYの組み合わせ」を包含する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%RHの条件で測定する。
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル」との語は、アクリルおよびメタクリルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリル酸」との語は、アクリル酸およびメタクリル酸の双方を包含する。同様に、「(メタ)アクリロイル」との語は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方を包含する。よって、例えば、「(メタ)アクリロイル基」との語は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の双方を包含する。
【0015】
[塞栓剤キット]
本発明の塞栓剤キットは、(1)内腔を有するカテーテル、(2)(1)のカテーテル内腔内に充填された、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物、および(3)可視化剤を含み、(1)のカテーテル内をプライミングするように構成されたプライミング液を有する。上述したように、本発明の塞栓剤キットは、造影性の弱い反応物と、可視化剤を含むプライミング液と、を別々に有する。なお、本発明の一形態では、反応物は、他の部材、例えば、支持部材(金属製の支持部材)を含まない。特に本発明に係る反応物は金属製の支持部材を含まないため、例えば、X線等の適当な手段で塞栓剤を観察した際に、金属由来のハレーション(アーチファクト、フレアまたは反射)を発生しないため、塞栓剤(プライム反応物)の位置をより鮮明に正確に確認できる。
【0016】
本発明に係る反応物は、いずれの形態を有していてもよい。例えば、フィラメント(繊維)状、粒子状、シート形状、短冊形状等が挙げられる。例えば、繊維状の反応物を適宜切断することで、塞栓剤を粒子状にすることができる。このよう得られた粒子状の反応物を長尺状のカテーテルに充填することにより、後述する充填済みカテーテルにできる。また、上記反応工程を管中ではなく、薄い鋳型内で行うことで、シート形状や短冊形状のハイドロゲルを得ることができる。このよう得られたシート形状や短冊形状のゲルを短軸方向に丸め、長尺状のカテーテル内に挿入することにより、後述する充填済みカテーテルにできる。これらのうち、所定の部位(例えば、瘤)への留置容易性、所定の部位(例えば、瘤)に留置後の膨潤性、遠位塞栓リスクの低減などの観点から、フィラメント(繊維)状が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、反応物は、フィラメント(繊維)状である。
【0017】
また、本発明に係る塞栓剤キットは、有効成分として、本発明に係る反応物およびプライミング液に加えて、他の成分を含んでもよい。ここで、他の成分としては、薬剤(例えば、血液凝固剤)などが使用できる。また、塞栓剤キットが他の成分を含む場合には、当該他の成分は、反応物および/もしくはプライミング液に含まれてもよい、または、反応物やプライミング液とは別個の形態(例えば、薬剤を含む溶液の形態)で含まれてもよい。また、他の成分の含有量は、塞栓剤キットの有効成分の全重量(反応物とプライミング液との合計重量)に対して、例えば、0重量%を超えて10重量%未満である。好ましくは、本発明に係る塞栓剤キットの有効成分は、本発明に係る反応物およびプライミング液から実質的に構成される。ここで、「塞栓剤キットの有効成分が反応物およびプライミング液から実質的に構成される」とは、塞栓剤キットの有効成分(例えば、反応物、プライミング液および他の成分)中の反応物およびプライミング液の含有量が95重量%以上であることを意味し、好ましくは98重量%以上(上限:100重量%)である。より好ましくは、発明に係る塞栓剤キットの有効成分は、本発明に係る反応物およびプライミング液から構成される(塞栓剤キット中の他の成分の含有量=0重量%)。特に好ましくは発明に係る塞栓剤キットの有効成分は本発明に係る繊維状の反応物およびプライミング液から構成される(塞栓剤キット中の他の成分の含有量=0重量%)。
【0018】
本発明に係る反応物は、生理条件下で水性液体との接触により膨潤する。本明細書において、「生理条件」とは、哺乳動物(例えば、ヒト)の体内または体表面における少なくとも1つの環境特性を有する条件を意味する。そのような特性は、等張環境、pH緩衝環境、水性環境、中性付近(約7)のpH、温度、またはそれらの組み合わせを包含する。また、「水性液体」は、例えば、等張液、水;血液、髄液、血漿、血清、ガラス体液、尿などの哺乳動物(例えば、ヒト)の体液を包含する。
【0019】
本発明に係る反応物の大きさは、特に制限されず、留置すべき瘤の大きさ、瘤に連結する下腸間膜動脈や腰動脈等の分岐血管の太さなどによって適切に選択されうる。例えば、反応物が繊維状である場合の膨潤前(乾燥状態)の反応物の直径は、0.1~5mm、好ましくは0.2~3mm程度である。また、膨潤前(乾燥状態)の反応物の長さは、0.5~200cm、好ましくは10~60cm程度である。本明細書において、「膨潤前(乾燥状態)」は、反応物を十分な時間(例えば、24時間)減圧乾燥した後の状態を意味する。
【0020】
(エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物)
(2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物)
反応物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物である。すなわち、反応物は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である(第一の側面)または2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である(第二の側面)。
【0021】
ここで、エチレン系不飽和モノマーは、アクリロイル基(CH=CH-C(=O)-)、メタクリロイル基(CH=C(CH)-C(=O)-)、ビニル基(CH=CH-)、アクリルアミド基(CH=CH-C(=O)-NH-)またはメタクリルアミド基(CH=C(CH)-C(=O)-NH-)等の末端に二重結合を有するモノマーである。具体的には、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2-(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸およびこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩);(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートおよびこれらの誘導体;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびこれらの4級化物;N-ビニルピロリジノンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。上記エチレン系不飽和モノマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時のより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーは、N-ビニルピロリジノン、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよびこれらの誘導体、ならびにアクリル酸、メタクリル酸およびこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時のさらなるより高い膨潤性、生体適合性、非生分解性等の観点から、エチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル酸またはこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩)であることがさらに好ましく、アクリル酸および/またはアクリル酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0022】
また、架橋剤は、エチレン系不飽和モノマーまたは2官能性マクロマーおよびエチレン系不飽和モノマーを架橋できるものであれば特に制限されず、公知の架橋剤が使用できる。具体的には、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、それらの誘導体などが挙げられる。上記架橋剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。体液と接触時の膨潤性の制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体であることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、架橋剤は、N、N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートおよびこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。また、体液と接触時の膨潤性のより制御しやすさ、生体適合性、非生分解性等の観点から、架橋剤は、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミドであることがより好ましく、N,N’-メチレンビスアクリルアミドであることが特に好ましい。
【0023】
2官能性マクロマーは、重合時に高分子鎖を架橋し、反応物(ゆえに塞栓剤)に柔軟性(可撓性)を付与する。このため、2官能性マクロマーを含む反応物(ゆえに塞栓剤)は屈曲部に対する追従性に優れる。ゆえに、カテーテルを介して塞栓剤を瘤内に留置する場合であっても、塞栓剤は屈曲部を容易に通過して瘤内に留置できる。ゆえに、本発明に係る反応物は、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物であることが好ましい。
【0024】
2官能性マクロマーは、2つの官能部位を含むものであれば特に制限されないが、1以上のエチレン系不飽和基および2つの官能部位を含む(2官能エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。ここで、1以上のエチレン系不飽和基は、官能部位の一方を形成してもまたは両方の官能部位を形成してもよい。2官能性マクロマーとしては、以下に制限されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体などが挙げられる。これらのうち、塞栓剤への柔軟性(可撓性)の付与効果などの観点から、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体であることが好ましい。ここで上記2官能性マクロマーは、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。すなわち、本発明の好ましい形態では、2官能性マクロマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートおよびポリ(エチレングリコール)ジメタクリレートならびにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。生体適合性および溶媒への溶解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリルアミドであることがより好ましい。分解性の観点からは、2官能性マクロマーは、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
【0025】
2官能性マクロマーの分子量は、特に制限されないが、塞栓剤への柔軟性(可撓性)の付与効果、膨潤倍率の向上などの観点から、低分子量である(2官能低分子量エチレン系不飽和成形性マクロマー)ことが好ましい。具体的には、2官能性マクロマーの分子量は、好ましくは約100~約50,000g/モル、より好ましくは約1,000~約20,000g/モル、特に好ましくは約2,000~約15,000g/モルである。
【0026】
本発明に係る反応物は、上記エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤ならびに必要であれば2官能性マクロマーに加えて、他のモノマー由来の構成単位(他の構成単位)を含んでもよい。ここで、他のモノマーは、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、2,4,6-トリヨードフェニルペンタ-4-エノエート、5-(メタ)アクリルアミド-2,4,6-トリヨード-n,n’-ビス-(2,3ジヒドロキシプロピル)イソフタルアミドN-ビニルピロリジノンなどが挙げられる。本発明に係る反応物が他の構成単位を有する場合の他の構成単位の量(含有量)は、本発明による効果(膨潤性、膨潤前後の視認性など)を阻害しないものであれば特に制限されない。具体的には、他の構成単位の量(含有量)は、反応物を構成する全構成単位に対して、10モル%未満であり、好ましくは5モル%未満であり、さらにより好ましくは1モル%未満である(下限値:0モル%超)。なお、その他の単量体に由来する構成単位が2種以上の構成単位から構成される場合には、上記その他の単量体に由来する構成単位の組成は、全構成単位の合計(100モル%)に対する、その他の単量体に由来する構成単位の合計の割合(モル比(モル%))である。なお、当該モル%は、反応物を製造する際の全単量体の合計仕込み量(モル)に対する他のモノマーの仕込み量(モル)の割合と実質的に同等である。特に好ましくは、反応物は他の構成単位を含まない(他の構成単位の量(含有量)は0モル%である)。
【0027】
反応物における各成分の量(含有量)は、特に制限されない。膨潤性のより増大効果、機械的強度などの観点から、エチレン系不飽和モノマーの量が多いことが好ましい。具体的には、例えば、反応物がエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である場合には、エチレン系不飽和モノマーの含有量は、反応物の全重量に対して、60重量%を超え、好ましくは80重量%以上100重量%未満、より好ましくは90重量%以上100重量%未満、特に好ましくは95重量%以上100重量%未満である。また、反応物が2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である場合には、エチレン系不飽和モノマーの含有量は、反応物の全重量に対して、好ましくは60重量%を超え、より好ましくは63~99重量%、さらにより好ましくは64重量%以上98重量%未満、特に好ましくは65~97重量%である。このような範囲であれば、得られる反応物は、体液(例えば、血液)との接触により、より高い膨潤倍率を発揮できる。すなわち、本発明の好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物は、前記エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の合計重量に対して、60重量%を超える割合でエチレン系不飽和モノマーを含む。本発明のより好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物は、前記エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の合計重量に対して、80重量%以上100重量%未満(さらに好ましくは90重量%以上100重量%未満、特に好ましくは95重量%以上100重量%未満)の割合でエチレン系不飽和モノマーを含む。または、本発明の好ましい形態では、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物は、前記2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の合計重量に対して、60重量%を超える割合でエチレン系不飽和モノマーを含む。本発明のより好ましい形態では、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物は、前記2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の合計重量に対して、63~99重量%(さらに好ましくは64重量%以上98重量%未満、特に好ましくは65~97重量%)の割合でエチレン系不飽和モノマーを含む。
【0028】
反応物がエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である場合には、架橋剤の含有量は、反応物の全重量に対して、3重量%未満、好ましくは0.0001~2重量%、より好ましくは0.0005重量%以上1重量%未満、特に好ましくは0.001重量%以上0.5重量%未満である。また、反応物が2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である場合には、架橋剤の含有量は、反応物の全重量に対して、3重量%未満、好ましくは0.0001~2重量%、より好ましくは0.0005重量%以上1重量%未満、特に好ましくは0.001重量%以上0.5重量%未満である。このような範囲であれば、得られる反応物は、体液(例えば、血液)との接触により、より高い膨潤倍率を発揮できる。
【0029】
反応物が2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である場合には、2官能性マクロマーの含有量は、反応物の全重量に対して、40重量%以下、好ましくは1重量%以上35重量%未満、より好ましくは2重量%を超え20重量%未満、特に好ましくは3~15重量%である。このような範囲であれば、得られる反応物は、より適切な柔軟性(可撓性)を発揮できる。
【0030】
なお、上記第一の側面において、エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の含有量は、反応物を製造する際の全成分(エチレン系不飽和モノマーおよび架橋剤ならびに使用する場合には他のモノマー)の合計仕込み量(重量)に対する各成分の仕込み量(重量)の割合と実質的に同等である。同様にして、第二の側面において、2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤の含有量は、反応物を製造する際の全成分(2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマーおよび架橋剤ならびに使用する場合には他のモノマー)の合計仕込み量(重量)に対する各成分の仕込み量(重量)の割合と実質的に同等である。
【0031】
(反応物の製造)
反応物の製造は、特に制限されず、特表2011-507637号公報等の公知の方法が同様にしてまたは適宜修飾して適用できる。具体的には、反応物がエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である(第一の側面)場合には、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤、溶媒ならびに反応開始剤および/または反応促進剤を混合し(混合工程1)、前記混合物を反応させる(重合工程1)方法(好ましい形態1)が好ましい。また、反応物が2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物である(第二の側面)場合には、2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤、溶媒ならびに反応開始剤および/または反応促進剤を混合し(混合工程2)、前記混合物を反応させる(重合工程2)方法(好ましい形態2)が好ましい。
【0032】
以下、上記好ましい形態を説明する。ただし、本発明は、下記形態に限定されない。
【0033】
好ましい形態1の混合工程1では、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤、溶媒ならびに反応開始剤および/または反応促進剤を混合する。ここで、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤の種類及び添加量は、特に制限されず、上記(エチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物)における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0034】
また、好ましい形態2の混合工程2では、2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤、溶媒ならびに反応開始剤および/または反応促進剤を混合する。ここで、2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤の種類及び添加量は、特に制限されず、上記(2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物)における説明と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0035】
混合工程1,2で使用できる溶媒としては、次工程である重合を進行できるものであれば特に制限されない。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA、イソプロパノール)、ジクロロメタン、アセトンなどが挙げられる。上記溶媒は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。溶媒の使用量は、特に制限されないが、上記成分の均一な混合などの観点から、上記成分の合計濃度(固形分濃度)が、好ましくは30~70重量%、より好ましくは35~60重量%である。
【0036】
混合工程1,2で使用できる反応開始剤は、次の重合工程1,2で重合反応を開始できるものであれば特に制限されず、公知の反応開始剤が使用できる。具体的には、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)などが挙げられる。上記反応開始剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。反応開始剤の量は、次の重合工程1,2で重合反応を開始できる限り特に制限されない。具体的には、混合工程1では、反応開始剤は、エチレン系不飽和モノマー 1モルに対して、好ましくは1.0×10-3~3.0×10-3モル程度である。また、混合工程2では、反応開始剤は、エチレン系不飽和モノマー 1モルに対して、好ましくは1.0×10-3~3.0×10-3モル程度である。
【0037】
混合工程1,2で使用できる反応促進剤は、次の重合工程1,2で重合反応を促進できるものであれば特に制限されず、公知の反応促進剤が使用できる。具体的には、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、水溶性AIBN誘導体(例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩)などが挙げられる。上記反応促進剤は、単独で使用してもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。反応促進剤の量は、次の重合工程1,2で重合反応を促進できる限り特に制限されない。具体的には、混合工程1では、反応促進剤は、エチレン系不飽和モノマー 1モルに対して、好ましくは1.0×10-4~5.0×10-4モル程度である。また、混合工程2では、反応促進剤は、エチレン系不飽和モノマー 1モルに対して、好ましくは1.0×10-4~5.0×10-4モル程度である。
【0038】
なお、反応開始剤および反応促進剤の少なくとも一方を、エチレン系不飽和モノマーや架橋剤などと混合すればよいが、好ましくは次の重合工程の進行しやすさ、反応時間等の観点から、反応開始剤及び反応促進剤双方を混合することが好ましい。
【0039】
混合工程1,2において、ポロシゲンをさらに添加してもよい。ポロシゲンを使用するにより、塞栓剤に細孔を形成できる。ゆえに、体液との接触を高め、より迅速に膨潤をさせることができる。ここで、ポロシゲンとしては、特に制限されないが、塩化ナトリウム、氷、スクロース、および重炭酸ナトリウムなどが挙げられる。ポロシゲンをさらに使用する場合のポロシゲンの添加量は、塞栓剤中の細孔の形成の程度に応じて適切に調節できる。例えば、ポロシゲンの添加量は、エチレン系不飽和モノマーおよび架橋剤ならびに使用する場合には他のモノマーの合計仕込み量(重量)(第一の側面)または2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマーおよび架橋剤ならびに使用する場合には他のモノマーの合計仕込み量(重量)(第二の側面)に対して、1~3倍程度である。
【0040】
次に、上記混合工程1,2で得られた混合物を反応させる(重合または架橋反応を行う)(重合工程1,2)。これにより、本発明に係る反応物(ハイドロゲルフィラメント)が得られる。
【0041】
ここで、反応条件は、エチレン系不飽和モノマーと架橋剤とが(重合工程1)または2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤とが(重合工程2)十分反応(重合/架橋)する条件であれば特に制限されず、使用するエチレン系不飽和モノマー及び架橋剤など(重合工程1)または使用する2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー及び架橋剤など(重合工程2)の種類や量によって適切に選択できる。具体的には、反応温度は、好ましくは10~60℃程度である。また、反応時間は、好ましくは1~6時間程度である。かような条件であれば、本発明に係る反応物(ハイドロゲルフィラメント)をより効率的に製造できる。
【0042】
また、反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下等で行うこともできる。また、反応を、混合物を攪拌しながら行ってもよい。
【0043】
また、混合物を管中に注入して、反応を行うことが好ましい。これにより、所望の形状および大きさを有する反応物を得ることができる。または、混合物を管中に注入した管をマンドレルにまきつけた後、反応を行ってもよい。これにより、らせん状、渦巻き状等の複雑な形状を有する反応物を得ることができる。ここで、管を構成する材料は、特に制限されないが、反応温度で変形しない材質が好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(例えば、東レ・デュポン(株)製のハイトレル(HYTREL)(登録商標))等の樹脂が使用できる。重合後のサンプルは、管内で乾燥させることで、径が細くなるため、マンドレルなどで押し出すことで、容易に取り出すことができる。なお、ハイトレル(登録商標)は溶媒溶解性に優れるため、重合後に管から反応物を容易に取り出すことができる。
【0044】
上記反応後、必要であれば、反応物を洗浄し、未反応のエチレン系不飽和モノマー、架橋剤(好ましい形態1)または未反応の2官能性マクロマー、エチレン系不飽和モノマー、架橋剤(好ましい形態2)を除去してもよい。
【0045】
上記洗浄工程に代えてまたは加えて、反応物をpHの低いまたは高い溶液中でインキュベーションしてもよい。特にエチレン系不飽和モノマーが(メタ)アクリル酸またはこれらの塩等のカルボキシル基(またはカルボン酸塩由来の基)を有する場合には、反応物をpHの低い溶液中でインキュベーションすることが好ましい。これにより、溶液中の遊離プロトンが反応物のネットワーク内のカルボキシル基をプロトン化する。反応物は、カルボキシル基が脱プロトンするまで膨潤しないため、膨潤を制御することができる。また、エチレン系不飽和モノマーがN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン基を有する場合には、反応物をpHの高い溶液中でインキュベーションすることが好ましい。これにより、アミン基を脱プロトン化する。反応物は、アミン基がプロトン化するまで膨潤しないため、膨潤を制御することができる。ここで、インキュベーション時間及び温度、ならびに溶液のpHは、特に制限されず、所望の膨潤の程度(例えば、膨潤速度)に応じて適切に選択できる。一般に、インキュベーション時間および温度は膨潤制御の大きさに正比例し、溶液pHは反比例する。また、十分量の溶液中でインキュベーションすることが好ましい。これにより、反応物は、溶液中でより膨潤することができる。また、より多くの数のカルボキシル基をプロトン化にまたはより多くのアミン基の脱プロトン化に利用できるため、膨潤速度をより所望の程度に制御できる。インキュベーション終了後は、過剰の溶液を洗浄・除去し、脱水する。なお、低pH溶液で処理した反応物は未処理に比してより小さな寸法に脱水できる。このため、当該工程により、より小径なカテーテルを介して反応物を所望の部位に送達できるため、患者に与える侵襲をさらに抑制できるため、好ましい。
【0046】
上記反応工程および/または上記洗浄工程および/または上記インキュベーション工程後、反応物を脱水する。これにより、本発明に係る反応物(脱水状態)が得られる。なお、反応物(脱水状態)は、カテーテル(イントロデューサーシース)中に充填される。また、この反応物(脱水状態)を充填したカテーテルは、包装し、滅菌して、製品形態にしてもよい。
【0047】
(プライミング液)
プライミング液は、可視化剤および溶媒を含む。
【0048】
ここで、可視化剤は、特に制限されず、X線、蛍光X線、超音波、蛍光法、赤外線、紫外線等の確認方法によって適宜選択されうる。
【0049】
視認性の低下速度は、可視化剤の種類によって制御することができる。具体的には、反応物に含まれるエチレン系不飽和モノマー由来の構成要素がプライミング液で電離して、陽イオンまたは陰イオンを生じる場合には、可視化剤は、エチレン系不飽和モノマー由来の構成要素が生成するイオンと逆のイオン(すなわち、陰イオンまたは陽イオン)をプライミング液で形成することが好ましい。このような形態では、反応物を可視化剤を含むプライミング液でプライミングすると、エチレン系不飽和モノマー由来の構成要素と可視化剤とが静電気的に相互作用し、エチレン系不飽和モノマー由来の構成要素の陽イオンまたは陰イオンと、可視化剤の陰イオンまたは陽イオンと、がイオン結合する。このため、塞栓剤を所定の部位(例えば、動脈瘤)に留置した後は、可視化剤は比較的ゆっくり体液(例えば、血液)中で流出、拡散する(可視化剤の視認性はゆっくり低下する)。すなわち、本発明の好ましい形態では、エチレン系不飽和モノマーは、イオン性官能基を有し、かつ可視化剤は、前記エチレン系不飽和モノマーのイオン性官能基に対するカウンターイオンを前記プライミング液中で形成する。上記好ましい形態において、プライミング液中で陰イオンを形成するエチレン系不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、その塩等のカルボキシル基(またはその塩)を有する化合物、2-(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、その塩等のスルホン酸基(またはその塩)を有する化合物などが挙げられる。また、プライミング液中で陽イオンを形成するエチレン系不飽和モノマーとしては、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびこれらの4級化物等のアミド基を有する化合物などが挙げられる。プライミング液中で陰イオンを形成する可視化剤としては、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオキサグル酸、イオトロクス酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミンなどが挙げられる。ここで、塞栓剤キットにおける、反応物とプライミング液との混合比は、特に制限されず、所望の視認性低下速度に応じて適宜選択されうる。例えば、塞栓剤キットにおける、反応物とプライミング液との混合比(反応物:可視化剤の重量比)が、好ましくは1:50~1000、より好ましくは1:100~500となるような割合である。
【0050】
または、可視化剤が、プライミング液でほとんど電離しない(非イオン性である)こともまた好ましい。このような形態では、反応物を可視化剤を含むプライミング液でプライミングしても、反応物の構成要素(例えば、エチレン系不飽和モノマー)と可視化剤とはほとんど相互作用しない。このため、塞栓剤を所定の部位(例えば、動脈瘤)に留置した後は、可視化剤は比較的迅速に体液(例えば、血液)中に流出、拡散する(可視化剤の視認性は迅速に低下する)。すなわち、本発明の他の好ましい形態では、可視化剤は、プライミング液中で非イオン性である。非イオン性の可視化剤としては、イオヘキソール、イオパミドール、イオプロミド、イオメプロール、イオトロラン、イオベルソール、イオジキサノール、イオキシランなどが挙げられる。ここで、塞栓剤キットにおける、反応物の重量に対するプライミング液の使用量は、特に制限されず、所望の視認性低下速度に応じて適宜選択されうる。例えば、塞栓剤キットにおける、反応物の重量に対するプライミング液の使用量の比(重量比)が、好ましくは1:1~1000、より好ましくは1:2~500となるような割合である。
【0051】
また、プライミング液として、市販品を使用してもよい、市販品としては、例えば、イオパーク(富士製薬工業株式会社製)、オムニパーク(第一三共株式会社製)、イオパミロン(バイエル薬品株式会社製)、イオメロン(エーザイ株式会社製)、オプチレイ(ゲルベ・ジャパン株式会社製)、プロスコープ(アルフレッサファーマ株式会社製)、ビジパーク(第一三共株式会社製)、ウログラフィン(バイエル薬品株式会社製)、ヘキサブリックス(ゲルベ・ジャパン株式会社製)などを使用することができる。また、プライミング液はカテーテルのプライミングにて通常使用される溶媒で希釈して用いることもできる。具体的には、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝液等の緩衝液、リンガー溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液などが挙げられる。これらのうち、可視化剤の溶解性などの観点から、生理食塩水が好ましく使用される。また、プライミング液のpHは、特に制限されないが、生体のpHと同等の6.8~7.6程度であることが好ましい。加えて、溶媒の使用量もまた特に制限されず、通常、カテーテルのプライミングに使用されるのと同様の量が使用される。具体的には、溶媒の使用量は、プライミング液中の可視化剤の濃度が、好ましくは15~1500mg/mL、より好ましくは100~1000mg/mLとなるような量である。
【0052】
(カテーテル)
本発明の塞栓剤キットでは、上記反応物はカテーテル内腔に収容される。ここで、カテーテルとしては、特に制限されず、通常塞栓剤を収容するのに使用されるのと同様の長尺状のカテーテル(イントロデューサーシース)が使用できる。具体的には、特開2015-181673号公報、特開2014-221432号公報、特開2013-198668号公報などに開示されるカテーテル(長尺体)が使用できる。
【0053】
(塞栓剤キットの用途)
本発明の塞栓剤キットでは、反応物及び可視化剤を含むプライミング液は別々に準備される。この反応物をプライミング液でプライミングすることによって、造影性を有する塞栓剤となる。すなわち、本発明は、2官能性マクロマーとエチレン系不飽和モノマーと架橋剤との反応物を、可視化剤を含むプライミング液に含浸することを有する、塞栓剤の準備方法をも提供する。
【0054】
本発明によると、カテーテルの内腔に収容される反応物を、可視化剤を含むプライミング液でプライミングすると、カテーテル内腔の空気が除かれると共に、反応物に造影性が付与される。このため、プライム反応物(塞栓剤)は高密度の可視化剤を含むため、塞栓剤を所定の部位に留置するまでは、塞栓剤の位置をX線等の適当な手段で十分視認できる。一方、留置後は、可視化剤は体液(例えば、血液)中に流出、拡散する上、反応物が膨潤するため、膨潤後の塞栓剤中の可視化剤量(密度)が低下し、X線等の適当な手段での視認性が低下する。このため、塞栓剤は、留置した後であっても、エンドリークの原因となる血管(例えば、下腸間膜動脈や腰動脈等)を介した瘤内への造影剤の流入の確認をほとんどまたは全く妨げない。ゆえに、本発明の塞栓剤を使用することにより、エンドリーク、特にエンドリーク Type IIの有無を有効に確認できる。加えて、所望の部位(例えば、動脈瘤)内に留置後は、塞栓剤(反応物)は膨潤するため、少ない回数でステントグラフト(グラフト)との空隙を埋めることができる。なお、本発明は、上記によって限定されない。
【0055】
このため、本発明の塞栓剤は、ステントグラフト内挿術と組み合わせて使用すると特に有効である。したがって、本発明は、動脈瘤を治療する方法において使用するための第一または第二の側面に係る塞栓剤キットであって、前記方法が、前記治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入した後に、前記動脈瘤の内面と動脈瘤の外面との間に形成された空間に、プライミング液でプライミングされた反応物(塞栓剤)を導入することを有する塞栓剤キットを包含する。また、本発明は、第一または第二の側面に係る塞栓剤キットおよびグラフトを有する、治療システムをも提供する。上記態様において、動脈瘤を治療する方法に使用するための治療システムであって、前記方法が、前記治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入した後に、前記動脈瘤の内面と前記グラフトの外面との間に形成された空間に、プライミング液でプライミングされた反応物(塞栓剤)を導入することを含む。また、下記に詳述するが、プライミング液でプライミングされた反応物(塞栓剤)は、プッシャーによりカテーテル内腔から所望の部位(例えば、動脈瘤)内に留置される。ゆえに、本発明に係る塞栓剤キットは、前記プライミング液でプライミングされた反応物を前記カテーテルの内腔から押し出すためのプッシャー(長尺状の押出プッシャー)をさらに有することが好ましい。
【0056】
また、下記に詳述するが、本発明の塞栓剤キットは、カテーテルの内腔に反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し、この充填済みカテーテルにプライミング液を導入して前反応物をプライミング液でプライミングした後、プッシャーによりカテーテル内腔から所望の部位(例えば、動脈瘤)内に留置される。ゆえに、本発明の一実施形態では、動脈瘤を治療する方法において使用するための上記第一または第二の側面に係る塞栓剤キットであって、前記方法が、前記カテーテルの前記内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルに、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;少なくとも1つのプッシャー(例えば、押出プッシャー、および必要に応じて送達用プッシャー)を用いて、前記充填済みカテーテルの前記内腔および前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記プライム反応物を前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、塞栓剤キットをも提供する。好ましくは、動脈瘤を治療する方法において使用するための上記第一または第二の側面に係る塞栓剤キットであって、前記方法が、前記カテーテルの前記内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャー(長尺状の押出プッシャー)を前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;送達用プッシャー(長尺状の送達用プッシャー)を前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、塞栓剤キットである。同様にして、本発明の一実施形態では、動脈瘤を治療する方法において使用するため上記第三の側面に係る治療システムであって、前記方法が、前記カテーテルの前記内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルに、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;少なくとも1つのプッシャー(例えば、押出プッシャー、および必要に応じて送達用プッシャー)を用いて、前記充填済みカテーテルの前記内腔および前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記プライム反応物を前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、治療システムをも提供する。好ましくは、動脈瘤を治療する方法において使用するため上記第三の側面に係る治療システムであって、前記方法が、前記カテーテルの前記内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入し;前記動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;送達用プッシャーを前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、治療システムである。
【0057】
本発明の一実施形態では、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;動脈瘤の治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルに、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;少なくとも1つのプッシャー(例えば、押出プッシャー、および必要に応じて送達用プッシャー)を前記充填済みカテーテルの前記内腔および前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記プライム反応物を前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、動脈瘤を治療する方法をも提供する。好ましくは、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;動脈瘤の治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入し;前記動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;送達用プッシャーを前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、動脈瘤を治療する方法をも提供する。
【0058】
以下では、上記好ましい用途を、治療対象を動脈瘤として、図1を参照しながら説明する。なお、本発明は、上記第一または第二の側面に係る塞栓剤を使用する以外は、特開2015-181673号公報、特開2014-221432号公報、特開2013-198668号公報などに開示される公知の方法と同様の手技が適用できる。このため、本発明は、下記によって限定されない。
【0059】
まず、内腔に本発明に係る反応物(脱水状態)(例えば、脱水ハイドロゲルフィラメント)2を充填したカテーテル1(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)、押出プッシャー3および送達用プッシャー4を準備する(図1A)。ここで、反応物は脱水状態である(例えば、脱水ハイドロゲルフィラメント)。カテーテル1(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)の大きさは、特に制限されず、充填する反応物(例えば、脱水ハイドロゲルフィラメント)の大きさ、適応される部位(動脈瘤)の大きさ、動脈瘤に留置するためのゲル挿入用カテーテルの大きさ等に応じて適宜選択される。例えば、反応物(脱水ハイドロゲルフィラメント)は、上述したような大きさであることが好ましい。ここで、カテーテル1は、ストレート形状でもよいが、長い反応物をコンパクトに収納するために渦巻き状であってもよい。カテーテル1(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)の長さは、3~500cm程度であり、好ましくは10~100cmである。このような長さであれば、ゲル挿入用カテーテルから反応物を押し出しやすく、瘤内に挿入する反応物の本数を抑えることができ、効率がよい。カテーテル1(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)の内径は、0.4~3.4mm程度である。カテーテル1(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)の外径は、0.5~3.5mm程度である。また、押出プッシャー3は、下記に詳述するが、プライミング液でプライミングされた反応物(プライム反応物、塞栓剤)をカテーテル1から動脈瘤に留置するためのゲル挿入用カテーテル13内に押し出すために使用される。押出プッシャー3の大きさは、特に制限されず、カテーテル1の大きさ等に応じて適宜選択される。例えば、押出プッシャー3の長さは3.5~501cm(好ましくは10.5~101cm)程度である。押出プッシャー3の外径は、プライム反応物の押し出しやすさなどの観点から、カテーテル1の内径に対して0.02~2.0mm程度小さいことが好ましい。送達用プッシャー4は、下記に詳述するが、ゲル挿入用カテーテル13内に押し出されたプライム反応物(塞栓剤)をゲル挿入用カテーテル13から動脈瘤14に押し出すために使用される。送達用プッシャー4の大きさは、特に制限されず、ゲル挿入用カテーテル13の大きさ等に応じて適宜選択される。例えば、送達用プッシャー4の長さは、20~1000cm程度である。送達用プッシャー4の外径は、プライム反応物の押し出しやすさなどの観点から、ゲル挿入用カテーテル13の内径に対して0.02~5.0mm程度小さいことが好ましい。この充填済みカテーテル1の内腔に、シリンジ6を介してプライミング液5を導入して、カテーテル内腔の空気を除く(プライミング)と同時に、反応物に造影性(視認性)を付与する。これにより、プライム反応物(塞栓剤)2’(膨潤前)がカテーテル(充填済みカテーテル)1に準備される(図1B)。このようにプライミング処理を反応物の留置操作前に行うことにより、反応物の膨潤を抑える(充填済みカテーテル内での詰まりを防ぐ)ことができる。
【0060】
次に、標準的インターベンション手技により、X線透視下で、大腿動脈から動脈瘤14にゲル挿入用カテーテル13を挿入・留置する。この次に、製造社の指示書に従って、治療を必要とする患者の動脈瘤14内にステントグラフト10を留置する(図1C)。なお、本形態では、ステントグラフトを導入する前に、ゲル挿入用カテーテルを導入したが、当該導入順は上記形態に限定されず、ゲル挿入用カテーテル導入前にステントグラフトを導入してもよい。すなわち、本発明に係る動脈瘤を治療する方法において使用するための治療システム(または、動脈瘤を治療する方法)において、前記方法は、カテーテル内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入し;前記動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;少なくとも1つのプッシャー(例えば、押出プッシャー、および必要に応じて送達用プッシャー)を、前記充填済みカテーテルの前記内腔および前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有していてもよい。好ましくは、前記方法は、カテーテル内腔に前記反応物を充填した充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にグラフトを導入し;前記動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、前記プライミング液でプライミングされた前記充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;送達用プッシャーを前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する。
【0061】
上記で準備されたカテーテル1(プライム反応物2’が収容された)をゲル挿入用カテーテル13の内腔に挿入し(図1E1)、プライム反応物2’を押出プッシャー3を用いてゲル挿入用カテーテル13内腔に押し出す(図1E2)。カテーテル1を抜去した(図1E3)後、送達用プッシャー4を用いて、ゲル挿入用カテーテル13の先端からプライム反応物2’をステントグラフト10の外面と動脈瘤14の内面との間に形成された空間内に押し出す(図1D図1E4)。これにより、脱水状態のプライム反応物2’は血液と接触して膨潤する(プライム反応物2”)。プライム反応物2’が動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間を十分埋める(膨潤したプライム反応物2’の体積≧動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間体積)まで、上記操作を繰り返す(図1F)。適切な量の膨潤状態のプライム反応物2”が動脈瘤14内に留置されたことを確認した後は、送達用プッシャー4及びゲル挿入用カテーテル13を抜去する。これにより、動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間が十分量のプライム反応物2”で埋まる(図1G)。
【0062】
なお、上記形態において、カテーテル1(ゲル充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)をゲル挿入用カテーテル13に挿入した状態で、カテーテル1から塞栓物を直接動脈瘤内に押し出してもよい。すなわち、本発明の他の実施形態では、動脈瘤を治療する方法において使用するための塞栓剤キットまたは治療システムであって、前記方法が、カテーテル内腔に本発明に係る反応物が充填されたゲル充填済みカテーテルを準備し;前記治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に前記プライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、前記プライミング液でプライミングされた前記ゲル充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャー(長尺状の押出プッシャー)を前記ゲル充填済みカテーテルの前記内腔に挿入し;前記ゲル挿入用カテーテルを介して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、塞栓剤キットまたは治療システムをも提供する。
【0063】
本発明の他の実施形態では、カテーテル内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物が充填されたゲル充填済みカテーテルを準備し;動脈瘤の治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記ゲル充填済みカテーテルを挿入し;押出プッシャー(長尺状の押出プッシャー)を前記ゲル充填済みカテーテルの前記内腔に挿入し;前記ゲル挿入用カテーテルを介して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、動脈瘤を治療する方法をも提供する。
【0064】
以下、上記形態を図2を参照しながら説明する。なお、以下では、上記図1の説明と重複する部分については説明を省略する。
【0065】
まず、内腔に本発明に係る反応物(脱水状態)(例えば、脱水ハイドロゲルフィラメント)2を充填したカテーテル1(ゲル充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)および押出プッシャー3を準備する(図2A)。次に、充填済みカテーテル1の内腔に、シリンジ6を介してプライミング液5を導入して、カテーテル内腔の空気を除く(プライミング)と同時に、反応物に造影性(視認性)を付与する。これにより、プライム反応物(塞栓剤)2’(膨潤前)がカテーテル(充填済みカテーテル)1に準備される(図1B)。このようにプライミング処理を反応物の留置操作前に行うことにより、反応物の膨潤を抑える(充填済みカテーテル内での詰まりを防ぐ)ことができる。さらに、標準的インターベンション手技により、X線透視下で、大腿動脈から動脈瘤14にゲル挿入用カテーテル13を挿入・留置した後、製造社の指示書に従って、治療を必要とする患者の動脈瘤14内にステントグラフト10を留置する(図2C)。なお、本形態では、ステントグラフトを導入する前に、ゲル挿入用カテーテルを導入したが、当該導入順は上記形態に限定されず、ゲル挿入用カテーテル導入前にステントグラフトを導入してもよい。次に、上記で準備されたカテーテル1(プライム反応物2’が収容された)をゲル挿入用カテーテル13の先端近傍(ゲル挿入用カテーテル13の端面から1~2mmほど押し出される、または基端側の領域)にまで挿入する(図2E1)。さらに、プライム反応物2’を押出プッシャー3を用いてゲル挿入用カテーテル13から押し出し、ステントグラフト10の外面と動脈瘤14の内面との間に形成された空間内に留置する(図2D図2E2)。これにより、脱水状態のプライム反応物2’は血液と接触して膨潤する(プライム反応物2”)。適切な量のプライム反応物2’が動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間を十分埋める(膨潤したプライム反応物2”の体積≧動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間体積)まで、上記操作を繰り返す(図2F)。適切な量の膨潤状態のプライム反応物2”が動脈瘤14内に留置されたことを確認した後は、押出プッシャー3及びゲル挿入用カテーテル13を抜去する。これにより、動脈瘤14の内面とステントグラフト10の外面との間の空間が十分量のプライム反応物2”で埋まる(図2G)。
【0066】
ここで、プライム反応物(塞栓剤)2’は留置するまでは血液と接触しないので、プライム反応物2’内には高密度で可視化剤が存在する。このため、プライム反応物2’を動脈瘤14内に留置するまでは、X線透視等の適当な手段により良好に視認できる。一方、プライム反応物2’が動脈瘤14内に留置されると、プライム反応物2’に含まれる可視化剤は血流により瘤内に流出、拡散する。また、プライム反応物2’は瘤内の血液を吸収して膨潤する(図1Gまたは図2G中の膨潤状態のプライム反応物2”)。このため、膨潤状態のプライム反応物2”中の可視化剤の密度が低下する。このため、膨潤状態のプライム反応物2”の視認性は低下する。このため、下腸間膜動脈15や腰動脈からのエンドリーク16を確認するために、造影剤を大動脈から流した場合に、膨潤状態のプライム反応物2”は動脈瘤14内と下腸間膜動脈および腰動脈間への造影剤の流出入の確認をほとんどまたは全く妨げない(図1H)。ゆえに、本発明の塞栓剤キットを使用することにより、エンドリーク、特にエンドリーク Type IIの有無を有効に確認できる。
【0067】
すなわち、本発明のさらなる他の実施形態では、エンドリークを診断する方法において使用するための診断システムであって、
前記方法が、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填したゲル充填済みカテーテルを準備し;治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に、可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;長尺状の押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;長尺状の送達用プッシャーを前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、診断システムをも提供する。
【0068】
本発明のさらなる他の実施形態では、エンドリークを診断する方法において使用するための診断システムであって、
前記方法が、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填したゲル充填済みカテーテルを準備し;治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に、可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;長尺状の押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入し;前記ゲル挿入用カテーテルを介して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出すことを有する、診断システムをも提供する。
【0069】
本発明のさらなる他の実施形態では、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填したゲル充填済みカテーテルを準備し;治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に、可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;長尺状の押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記ゲル挿入用カテーテル内腔に押し出し;長尺状の送達用プッシャーを前記ゲル挿入用カテーテル内腔に挿入して、前記ゲル挿入用カテーテルの前記内腔内の前記プライム反応物を、前記送達用プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出した後;造影剤を前記動脈瘤内に流して、エンドリークの有無を判断することを有する、エンドリークを診断する方法をも提供する。
【0070】
本発明のさらなる他の実施形態では、カテーテルの内腔にエチレン系不飽和モノマーと架橋剤と必要に応じて2官能性マクロマーとの反応物を充填したゲル充填済みカテーテルを準備し;治療を必要とする患者の動脈瘤にゲル挿入用カテーテルを導入し;前記動脈瘤にグラフトを導入し;前記充填済みカテーテルの前記内腔に、可視化剤を含むプライミング液をプライミングしてプライム反応物を得;前記ゲル挿入用カテーテルの内腔に、内腔に前記プライム反応物を有する前記充填済みカテーテルを挿入し;長尺状の押出プッシャーを前記充填済みカテーテルの前記内腔に挿入し;前記ゲル挿入用カテーテルを介して、前記プライム反応物を、前記押出プッシャーで前記グラフトの外面と前記動脈瘤の内面との間に形成された空間内に押し出した後;造影剤を前記動脈瘤内に流して、エンドリークの有無を判断することを有する、エンドリークを診断する方法をも提供する。
【実施例
【0071】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0072】
実施例1、比較例1
アクリル酸ナトリウム 3g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド 0.00175g、水 5mL、塩化ナトリウム 8g、反応開始剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TEMED) 10μL、および反応促進剤として過硫酸アンモニウム(APS)溶液(APS濃度:20重量%)) 10μLを混合し、混合物を調製した。この混合物を、ポリエチレン製のチューブ(内径:3mm、長さ:200cm)内に充填し、室温(25℃)で2時間、重合反応を行った。得られた重合物を減圧乾燥して、チューブから取り出し、未反応物質を除去した後、反応物1を得た。
【0073】
別途、プライミング液として、可視化剤を含まないリン酸バッファー(pH7.4)をプライミング液1、市販のイオパーク350注(富士製薬工業株式会社製、イオヘキソール含有量:75.49g/100mL、ヨード含有量:35g/100mL)をプライミング液2として準備した。
【0074】
上記反応物1を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液1 1mLを注入した後、反応物1を取り出し、プライム反応物1(比較例)を得た。
【0075】
次に、上記反応物1を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液2 1mLを注入した後、反応物1を取り出し、プライム反応物2(実施例)を得た。この際、反応物1の量に対するプライミング液2の使用量の比(重量比)は、1:250であった。
【0076】
次に、上記反応物1を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液2 1mLを注入した後、反応物1を取り出した。これをリン酸バッファー50mLに浸漬し、24時間室温で放置して膨潤させ、プライム反応物3(実施例)を得た。なお、プライム反応物3は、プライム反応物2を膨潤させたものである。
【0077】
プライム反応物1、2、3、プライミング液1 1.5mL、プライミング液2 1.5mLを、各々、マイクロチューブに入れ、X線CT装置(メーカー:株式会社アールエフ、型番:NAOMI-CT)に設置し、管電圧80kV、電流20mVの条件下でX線照射して、X線像を観察した。なお、本例では、プライム反応物2はプライミング直後で瘤内への留置前の状態を想定しており、プライム反応物3は瘤内へ留置24時間後の状態(膨潤後の状態)を想定している。
【0078】
結果を図3に示す。なお、図3中では、参考として、プライミング液1(リン酸バッファー)およびプライミング液2(イオパーク350注)でのX線像を合わせて示す。図3から示されるように、プライム反応物1の視認性はリン酸バッファーと同程度であったが、プライム反応物2は造影剤に近い程度まで良好に視認することができた。また、プライム反応物3はリン酸バッファーでの浸漬により膨潤し、プライム反応物3の視認性はリン酸バッファーと同程度まで有意に低下したことがわかる。この結果から、可視化剤を含むプライミング液で反応物をプライミングすることにより、瘤内に挿入(血液などの体液との接触)前は十分な視認性を示し、挿入時の塞栓剤の位置を容易に確認できる(造影剤と識別可能な視認性を有する)と考察される。
【0079】
実施例2、比較例2
アクリル酸ナトリウム 3g、N,N’-メチレンビスアクリルアミド 0.00167g、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド(分子量:10,000g/モル) 0.375g、水 5mL、塩化ナトリウム 8g、反応開始剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TEMED) 10μL、および反応促進剤として過硫酸アンモニウム(APS)溶液(APS濃度:20重量%)) 10μLを混合し、混合物を調製した。この混合物を、ポリエチレン製のチューブ(内径:3mm、長さ:200cm)内に充填し、室温(25℃)で2時間、重合反応を行った。得られた重合物を減圧乾燥して、チューブから取り出し、未反応物質を除去した後、反応物2を得た。
【0080】
別途、プライミング液として、可視化剤を含まないリン酸バッファー(pH7.4)をプライミング液1、市販のイオパーク350注(富士製薬工業株式会社製、イオヘキソール含有量:75.49g/100mL、ヨード含有量:35g/100mL)をプライミング液2として準備した。
【0081】
上記反応物2を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液1 1mLを注入した後、反応物2を取り出し、プライム反応物4(比較例)を得た。
【0082】
次に、上記反応物2を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液2 1mLを注入した後、反応物2を取り出し、プライム反応物5(実施例)を得た。この際、反応物2の量に対するプライミング液2の使用量の比(重量比)は、1:125であった。
【0083】
次に、上記反応物2を1cmにカットし、PTFE/ナイロン製の2層チューブ(内径:1.3mm、長さ:5cm)に入れ、上記チューブに上記プライミング液2 1mLを注入した後、反応物2を取り出した。これをリン酸バッファー50mLに浸漬し、24時間室温で放置して膨潤させ、プライム反応物6(実施例)を得た。なお、プライム反応物6は、プライム反応物5を膨潤させたものである。
【0084】
プライム反応物4、5、6、プライミング液1(リン酸バッファー) 1.5mL、プライミング液2 1.5mLを、各々、マイクロチューブに入れ、X線CT装置(メーカー:株式会社アールエフ、型番:NAOMI-CT)に設置し、管電圧80kV、電流20mVの条件下でX線照射して、X線像を観察した。なお、本例では、プライム反応物5はプライミング直後で瘤内への留置前の状態を想定しており、プライム反応物6は瘤内へ留置24時間後の状態(膨潤後の状態)を想定している。
【0085】
結果を図4に示す。なお、図4中では、参考として、プライミング液1(リン酸バッファー)およびプライミング液2(イオパーク350注)でのX線像を合わせて示す。図4から示されるように、プライム反応物4の視認性はリン酸バッファーと同程度であったが、プライム反応物5はプライム反応物2の視認性を超え、造影剤と同程度まで良好に視認することができた。また、プライム反応物6はリン酸バッファーでの浸漬により膨潤し、プライム反応物6の視認性はリン酸バッファーと同程度まで有意に低下したことがわかる。この結果から、可視化剤を含むプライミング液で反応物をプライミングすることにより、瘤内に挿入(血液などの体液との接触)前は十分な視認性を示し、挿入時の塞栓剤の位置を容易に確認できる(造影剤と識別可能な視認性を有する)と考察される。
【0086】
また、図3のプライム反応物2と図4のプライム反応物5とを比較すると、プライム反応物5の方が高い視認性を示す。この結果は、2官能性マクロマー(ポリ(エチレングリコール)ジメタクリルアミド)の存在により反応物の親水性が増し、プライミング液中への浸漬でより多くの可視化剤(イオヘキソール)が反応物中に取り込まれたためであると推測される。
【0087】
本出願は、2020年3月31日に出願された日本特許出願番号2020-062464号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0088】
1…カテーテル(充填済みカテーテル、イントロデューサーカテーテル)、
2…脱水状態の反応物(例えば、脱水ハイドロゲルフィラメント)
2’…プライム反応物(塞栓剤)、
2”…膨潤状態のプライム反応物、
3…押出プッシャー、
4…送達用プッシャー、
5…プライミング液、
10…ステントグラフト、
13…ゲル挿入用カテーテル、
14…動脈瘤、
15…下腸間膜動脈、
16…エンドリーク。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4