(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマー及び対応するポリマー組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0227 20160101AFI20241015BHJP
C08G 75/0254 20160101ALI20241015BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241015BHJP
C08L 81/02 20060101ALI20241015BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C08G75/0227
C08G75/0254
C08L101/00
C08L81/02
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2022522368
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2020078357
(87)【国際公開番号】W WO2021074017
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-09-07
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン, マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ジェオル, ステファン
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-031231(JP,A)
【文献】特開平04-001268(JP,A)
【文献】特開平02-294332(JP,A)
【文献】米国特許第05296579(US,A)
【文献】B JANHSEN; ET AL,INTRA- VERSUS INTERMOLECULAR ELECTRON TRANSFER IN RADICAL NUCLEOPHILIC AROMATIC SUBSTITUTION OF DIHALO(HETERO)ARENES - A TOOL FOR ESTIMATING [PI]-CONJUGATION IN AROMATIC SYSTEMS,CHEMICAL SCIENCE,2017年,VOL:8, NR:5,PAGE(S):3547 - 3553,http://dx.doi.org/10.1039/C7SC00100B
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ以下の式で表される繰り返し単位R
PAS1とR
PAS2とを含むポリ(アリーレンスルフィド)(「PAS」)ポリマー:
[-Ar
1-S-], (1)
[-Ar
2-S-], (2)
(式中、
- -Ar
1-は、下記式
【化1】
からなる群から選択され;
- -Ar
2-は、下記式
【化2】
により表され;
- R及びR’は、それぞれの場合において、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;
- Tは、結合、-CO-、-SO
2-、-O-、-C(CH
3)
2、フェニル、及び-CH
2-からなる群から選択され;
- iは、それぞれの場合において0~4の独立して選択される整数であり;
- j及びkは、それぞれの場合において0~3の独立して選択される整数である)。
【請求項2】
-Ar
1-が下記式:
【化3】
で表される、請求項1に記載のPASポリマー。
【請求項3】
各位置におけるkがゼロである、請求項1又は2に記載のPASポリマー。
【請求項4】
前記PASポリマー中の繰り返し単位の総数に対する前記PASポリマー中の繰り返し単位(R
PAS2)の濃度が0.5モル%~15モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のPASポリマー。
【請求項5】
前記PASポリマー中の繰り返し単位の総数に対する前記PASポリマー中の繰り返し単位(R
PAS2)の濃度が0.5モル%~8モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のPASポリマー。
【請求項6】
少なくとも95℃のT
gを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のPASポリマー。
【請求項7】
少なくとも200℃のT
mを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のPASポリマー。
【請求項8】
ASTM D256に従って決定される少なくとも30J/gの衝撃強度を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のPASポリマー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のPASポリマーと、カルボン酸、カルボキシレート、無水物、エポキシド、ウレタン、アミド、ケトン、イソシアネート、尿素、ハロゲン、活性化エーテル、エステル、及び酸塩化物からなる群から選択される官能基を含む追加的なポリマーと、を含むポリマー組成物(PC)。
【請求項10】
前記追加のポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項9に記載のポリマー組成物(PC)。
【請求項11】
前記追加のポリマーが熱硬化性ポリマー又は熱硬化性前駆体である、請求項9に記載のポリマー組成物(PC)。
【請求項12】
前記追加のポリマーが、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、ベンゾオキサジン、ビスマレイミド、ポリアミド酸溶液、ポリエステル熱硬化性樹脂、ビニルエステル、シアネートエステル、及び尿素-ホルムアルデヒド樹脂からなる群から選択される、請求項11に記載のポリマー組成物(PC)。
【請求項13】
繊維補強充填剤又は強化
剤をさらに含む、請求項10~12のいずれか一項に記載のポリマー組成物(PC)。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のPASポリマー又は請求項9~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物(PC)を含む、自動車構成部品
又は航空宇宙用構成部
品。
【請求項15】
反応混合物中で、
次式:X
1-Ar
1-X
2を有するジハロ芳香族モノマーと、
次式:X
3-Ar
2-X
4を有するジハロカルバゾール含有モノマーと、
硫黄化合物と、
を反応させることを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のPASポリマーの製造方法であって、
- X
1~X
4は独立して選択されるハロゲンであり、
- -Ar
1-は、下記式
【化4】
からなる群から選択され;
- -Ar
2-は、下記式
【化5】
によって表され;
・ R及びR’は、それぞれの場合において、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;
・ Tは、結合、-CO-、-SO
2-、-O-、-C(CH
3)
2、フェニル、及び-CH
2-からなる群から選択され;
・ iは、それぞれの場合において0~4の独立して選択される整数であり;
・ j及びkは、それぞれの場合において0~3の独立して選択される整数であり;
- 前記硫黄化合物が、チオ硫酸塩、チオ尿素、チオアミド、単体硫黄、チオカルバメート、金属二硫化物及びオキシ硫化物、チオカーボネート、有機メルカプタン、有機メルカプチド、有機硫化物、アルカリ金属硫化物及び二硫化物、並びに硫化水素からなる群から選択され
る、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年10月15日出願の米国仮特許出願第62/915155号及び2019年11月04日出願の欧州特許出願第19206825.2号に基づく優先権を主張する、2020年10月9日に出願された国際出願第PCT/EP2020/078357号の国内段階移行であり、これらそれぞれの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
優れた熱的特性及び機械的特性を有するポリ(アリーレンスルフィド)(「PAS」)ポリマーが提供される。PASポリマー組成物、PASポリマー及びPAS組成物の製造方法、並びにPASポリマー及びPASポリマー組成物が組み込まれた物品も提供される。
【背景技術】
【0003】
ペンダントアミンを有するポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーは、少なくとも、カルボン酸、カルボキシレート、無水物、エポキシド、ウレタン、アミド、ケトン、イソシアネート、尿素、ハロゲン、活性化エーテル、エステル、及び酸塩化物などの(ただしこれらに限定されない)多くの種類の官能基とアミンが反応できるため、望ましい。ペンダントアミンが多様な官能基と反応する能力は、ペンダントアミン基を含まない類似のPASポリマーと比較して、PASポリマーブレンド中のPASポリマーと他のポリマーとの間の相溶性を高める。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様では、ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーが提供される。ポリ(アリーレンスルフィド)(「PAS」)ポリマーは、それぞれ以下の式(1)及び(2)で表される繰り返し単位R
PAS1及びR
PAS2を含む:
[-Ar
1-S-], (1)
[-Ar
2-S-], (2)
(式中、
- -Ar
1-は、下記式
【化1】
からなる群から選択され;
- -Ar
2-は、下記式
【化2】
によって表され;
- R及びR’は、それぞれの場合において、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;
- Tは、結合、-CO-、-SO
2-、-O-、-C(CH
3)
2、フェニル、及び-CH
2-からなる群から選択され;
- iは、それぞれの場合において0~4の独立して選択される整数であり;
- i及びkは、それぞれの場合において0~3の独立して選択される整数である)。
【0005】
いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも95℃のTgを含む。加えて又は代わりに、いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも200℃のTmを含む。さらに追加の又は代替の実施形態では、PASポリマーは、ASTM D256に従って決定される少なくとも30J/gの衝撃強度を含む。
【0006】
第2の態様では、ポリマー組成物(PC)が提供される。ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと、カルボン酸、カルボキシレート、無水物、エポキシド、ウレタン、アミド、ケトン、イソシアネート、尿素、ハロゲン、活性化エーテル、エステル、及び酸塩化物からなる群から選択される官能基を含む追加的なポリマーと、を含む。いくつかの実施形態では、追加的なポリマーは熱可塑性ポリマーである。いくつかの実施形態では、追加的なポリマーは、熱硬化性ポリマー又は熱硬化性前駆体である。いくつかの実施形態では、追加的に又は代わりに、ポリマー組成物(PC)は、繊維質補強充填剤又は強化剤、好ましくは繊維質補強充填剤を含む。
【0007】
さらなる態様では、PASポリマー若しくはポリマー組成物(PC)を含む、自動車構成部品、航空宇宙用構成部品、又はオイル及びガス用構成部品が提供される。
【0008】
さらに別の態様では、PASポリマー(PASP)の製造方法が提供される。方法は、反応混合物中で、次式:X1-Ar1-X2を有するジハロ芳香族化合物と、次式:X3-Ar2-X4を有するジハロカルバゾール含有モノマーと、硫黄化合物(「SC」)とを反応させることを含み、ここで、X1~X4は独立して選択されるハロゲンであり、Ar1及びAr2は上で定義した通りであり、硫黄化合物は、チオ硫酸塩、チオ尿素、チオアミド、単体硫黄、チオカルバメート、金属二硫化物及びオキシ硫化物、チオカーボネート、有機メルカプタン、有機メルカプチド、有機硫化物、アルカリ金属硫化物及び二硫化物、並びに硫化水素からなる群から選択され、好ましくは硫黄化合物はアルカリ金属硫化物であり、最も好ましくは硫黄化合物はNa2Sである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書では、ジハロカルバゾール含有モノマーから形成された繰り返し単位を含むポリ(アリーレンスルフィド)(「PAS」)ポリマー(PASP)が記述される。驚くべきことに、このようなモノマーを望ましい濃度でPASポリマーに組み込むことで、高分子量を維持しながらもアミン含有量を改善できることが見出された。加えて、驚くべきことに、PASホモポリマーや、一級アミンを含む繰り返し単位が組み込まれたPASポリマーと比較して、本明細書に記載のPASポリマーが増加したガラス転移温度(Tg)を有していることが見出された。PASポリマー、及びPASポリマー組成物は、限定するものではないが、自動車用物品、航空宇宙用物品、航空用物品、並びに石油及びガス用物品などの多様な物品の中に望ましく組み込むことができる。
【0010】
上述したように、驚くべきことに、ジハロカルバゾール含有モノマーを望ましい濃度でPASポリマーに組み込むことで、高分子量を維持しながらもアミン含有量を改善できることが見出された。アミン成分をPASポリマーの中に導入する従来の方法には、ジクロロアニリン(「DCA」)(例えば3,5-DCA)との共重合が含まれる。しかしながら、下の実施例に示されるように、驚くべきことに、比較的低いコモノマー濃度では、3,5-DCAを使用して高分子量(例えば>10,000g/mol)のPASポリマーを形成することができないことが発見された。さらに、同様に驚くべきことに、望ましいジハロカルバゾールコモノマー濃度を有するPASポリマーでは、ジハロカルバゾール含有モノマーが2,7-位にハロゲンを有する場合にのみ高分子量PASポリマーを得られることが発見された。
【0011】
本明細書において使用される、所定の繰り返し単位を「含まない」とは、PASポリマー中の所定の繰り返し単位の濃度が1モル%未満、好ましくは0.5モル%未満、より好ましくは0.1モル%未満、さらに好ましくは0.01モル%未満、さらに好ましくは0.001モル%未満、最も好ましくは0モル%(検出不可能)であることを意味する。
【0012】
本出願において、任意の説明は、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本開示の他の実施形態に適用可能であり、またそれらと交換可能である。さらに、要素又は成分が、列挙された要素若しくは成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に企図される関連する実施形態では、要素又は成分は、個別の列挙された要素若しくは成分のいずれか1つであり得るか、又は明示的に列挙された要素若しくは成分の任意の2つ以上からなる群から選択され得;要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分も、このようなリストから省略され得ることが理解されるべきである。加えて、端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0013】
特に具体的に限定されない限り、用語「アルキル」、並びに「アルコキシ」、「アシル」及び「アルキルチオ」などの派生用語は、本明細書で使用される場合、それらの範囲内に直鎖、分岐鎖及び環状部分を含む。アルキル基の例は、メチル、エチル、1-メチルエチル、プロピル、1,1-ジメチルエチル、及びシクロプロピルである。特に具体的に記述しない限り、各アルキル及びアリール基は、無置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシ、スルホ、C1~C6アルコキシ、C1~C6アルキルチオ、C1~C6アシル、ホルミル、シアノ、C6~C15アリールオキシ若しくはC6~C15アリールから選択されるがそれらに限定されない1個以上の置換基で置換されていてもよい。ただし、置換基が立体的に適合性を有し、化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。用語「ハロゲン」又は「ハロ」には、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれ、フッ素が好ましい。
【0014】
用語「アリール」は、フェニル、インダニル、又はナフチル基を意味する。アリール基は、1つ以上のアルキル基を含み得、この場合、「アルキルアリール」と呼ばれることもあり;例えば芳香族基及び2つのC1~C6基(例えば、メチル又はエチル)から構成され得る。アリール基は、1つ以上のヘテロ原子、例えばN、O又はSも含み得、この場合、これは、「ヘテロアリール」基と呼ばれることもあり;これらのヘテロ芳香環は、他の芳香族系と縮合し得る。そのようなヘテロ芳香環には、フラニル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジニル及びトリアジニル環構造が含まれるが、それらに限定されない。アリール又はヘテロアリール置換基は、無置換であるか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1~C6アルコキシ、スルホ、C1~C6アルキルチオ、C1~C6アシル、ホルミル、シアノ、C6~C15アリールオキシ若しくはC6~C15アリールから選択されるが、それらに限定されない1つ以上の置換基で置換され得るが、ただし、置換基が立体的に適合性を有し、且つ化学結合及び歪みエネルギーの規則が満たされていることを条件とする。
【0015】
PASポリマー
PASポリマーは、それぞれ次式(1)、(2)で表される繰り返し単位(R
PAS1)と繰り返し単位(R
PAS2):
[-Ar
1-S-], (1)
[-Ar
2-S-], (2)
を含み、
-Ar
1-は、以下の群の式:
【化3】
から選択される式によって表され、
Rは、それぞれの場合において、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;Tは、結合、-CO-、-SO
2-、-O-、-C(CH
3)
2、フェニル、及び-CH
2-からなる群から選択され;iは、それぞれの場合において0~4の独立して選択される整数であり;jは、それぞれの場合において0~3の独立して選択される整数である。明確にするために記載しておくと、上の式の各ベンジル環は、4-i水素(式(3)及び(4))又は3-j水素(式(5))を有する。したがって、i又はjがゼロの場合には、対応するベンジル環は無置換である。本明細書全体を通して、同様の表記法が使用される。さらに、各式(3)~(5)は、2つの破線の結合を含んでおり、一方の結合は繰り返し単位(R
PAS1)の明確な硫黄原子への結合であり、もう一方の結合は繰り返し単位(R
PAS1)の外側の原子への結合である(例えば隣接する繰り返し単位)。全体を通じて類似の表記法が使用される。
【0016】
好ましい実施形態では、i及びjは、各場合でゼロである。好ましくは、-Ar
1-は、式(3)又は(4)のいずれか、より好ましくは式(3)(ポリフェニレンスルフィドの繰り返し単位に対応する[-Ar
1-S-])によって表され、さらに好ましくは-Ar
1-は以下の式:
【化4】
によって表される。
より好ましくは、-Ar
1-は式(3’)で表され、iはゼロである。
【0017】
好ましくは、-Ar
2-は、以下の式:
【化5】
によって表され、
式中、R’は、それぞれの場合において、C
1~C
12アルキル基、C
7~C
24アルキルアリール基、C
7~C
24アラルキル基、C
6~C
24アリーレン基、及びC
6~C
18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され、kは、それぞれの場合において0~3の独立して選択される整数である。好ましくは、kは各場合でゼロである(例えば-Ar
2-は、2,7-ジハロカルバゾールから形成される)。
【0018】
いくつかの実施形態では、PASポリマー中の繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)の合計濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも98モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%である。本明細書において、ポリマー中の繰り返し単位のモル濃度は、別段の明示的な規定がない限り、そのポリマー中の繰り返し単位の総数に対するものである。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS1)の濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも85モル%、少なくとも88モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも97モル%、少なくとも98モル%、少なくとも98.5モル%、又は少なくとも99モル%である。
【0019】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS2)の濃度は少なくとも0.5モル%、少なくとも1モル%、少なくとも1.5モル%、少なくとも2モル%、又は少なくとも2.5モル%である。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS2)の濃度は、約15モル%以下、約12モル%以下、約10モル%以下、又は約8モル%以下である。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS2)の濃度は、少なくとも0.5モル%~15モル%、0.5モル%~12モル%、0.5モル%~10モル%、0.5モル%~8モル%、1モル%~15モル%、1モル%~12モル%、1モル%~10モル%、1モル%~8モル%、2モル%~8モル%、又は2.5モル%~8モル%である。
【0020】
いくつかの実施形態では、PASポリマーは、より高い濃度の繰り返し単位(RPAS2)を有する。そのような実施形態では、繰り返し単位(RPAS2)の濃度は、0.5モル%から99モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、60モル%以下、50モル%以下、40モル%以下、30モル%以下、又は20モル%以下である。
【0021】
当然、いくつかの実施形態では、PASポリマーは、それぞれ互いに異なり、且つ繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)とは異なる、追加の繰り返し単位を有することができる。そのような一実施形態では、PASポリマーは、式(1)による1種以上の追加の繰り返し単位、又は式(2)による1種以上の追加の繰り返し単位を含む。式(1)及び(2)による追加の繰り返し単位を含むいくつかの実施形態では、式(1)及び(2)による繰り返し単位の総濃度は、繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)について上で示した範囲内であり、式(1)及び(2)による繰り返し単位の総数に対する式(1)による繰り返し単位の総数の比率は、繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)について上で示した範囲内である。当然、別の実施形態では、式(1)及び(2)による追加の繰り返し単位の濃度、並びに式(1)及び(2)による繰り返し単位の数に対する、式(1)による追加の繰り返し単位の総数は、繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)について示した上の範囲とは異なる。
【0022】
いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも10,000g/モル、少なくとも20,000g/モル、少なくとも25,000g/モル、少なくとも30,000g/モル、又は少なくとも35,000g/モルの重量平均分子量(「Mw」)を有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、150,000g/モル以下、100,000g/モル以下、90,000g/モル以下、85,000g/モル以下、又は80,000g/モル以下のMwを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、10,000g/モル~150,000g/モル、20,000g/モル~100,000g/モル、25,000g/モル~90,000g/モル、30,000g/モル~85,000g/モル、又は35,000g/モル~80,000g/モルのMwを有する。Mwは、下の実施例に記載されるように測定することができる。
【0023】
PASポリマーは、アモルファスであっても半結晶性であってもよい。本明細書において、アモルファスポリマーは、5ジュール/g(「J/g」)以下の融解エンタルピー(「ΔHf」)を有する。当業者であれば、PASがアモルファスである場合、それが検出可能なTmを有さないことを認識するであろう。したがって、当業者であれば、PASポリマーがTmを有する場合にはそれが半結晶性ポリマーを指すことを認識するであろう。好ましくは、PASポリマーは半結晶性である。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも10J/g、少なくとも20J/g、少なくとも、又は少なくとも25J/gのΔHfを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、90J/g以下、70J/g以下、又は60J/g以下のΔHfを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、10J/g~90J/g又は20J/g~70J/gのΔHfを有する。ΔHfは、以下の実施例で説明する通りに測定することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも95℃又は少なくとも99℃のTgを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、200℃以下又は150℃以下のTgを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、95℃~200℃、99℃~150℃、95℃~200℃、又は99℃~150℃のTgを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも200℃、少なくとも220℃、少なくとも240℃、又は少なくとも250℃の溶融温度(「Tm」)を有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、350℃以下、320℃以下、300℃以下、又は285℃以下のTmを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、200℃~350℃、220℃~320℃、240℃~300℃、又は250℃~285℃のTmを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも140℃又は少なくとも150℃の結晶化温度(「Tc」)を有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、250℃以下、又は220℃以下のTcを有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、140℃~250℃又は150℃~220℃のTcを有する。Tg、Tm、及びTcは、以下の実施例で説明する通りに測定することができる。いくつかの実施形態では、PASポリマーはアモルファスであり、それは少なくとも90℃、少なくとも95℃、又は少なくとも100℃のTgを有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、PASポリマーは、少なくとも30ジュール/グラム(「J/g」)、又は少なくとも35J/gの衝撃強度を有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、150J/g以下又は125J/g以下の衝撃強度を有する。いくつかの実施形態では、PASポリマーは、30J/g~150J/g、35J/g~150J/g、30J/g~125J/g、35J/g~125J/gの衝撃強度を有する。別段の記載がない限り、本明細書で使用される衝撃強度は、以下の実施例に記載される通りに測定されるノッチ付きアイゾット衝撃強度を指す。
【0026】
PASポリマーの合成
PASポリマーは、当該技術分野で公知の方法によって合成することができる。1つのアプローチでは、PASポリマーの合成は、重合プロセス及びその後の回収プロセスを含む。重合プロセスは、ジハロ芳香族モノマーと、ジハロカルバゾール含有モノマー(第1のジハロ芳香族モノマーとは異なる)と、硫黄化合物とを溶媒中で重合してPASポリマーを形成する重合反応と、重合反応が止まる停止反応とを含む。
【0027】
重合反応は、反応混合物中で次式:X
1-Ar
1-X
2のジハロ芳香族モノマーと、次式: X
3-Ar
2-X
4を有するジハロカルバゾール含有モノマーと、硫黄化合物(SC)(まとめて「反応成分」)を、以下のスキームに従って重合溶媒中で反応させることを含む;
【数1】
(式中、X
1~X
4は、独立して選択されるハロゲンであり、-Ar
1-及び-Ar
2-は上で示した通りであり、SCは以下に記載する硫黄化合物である)。好ましくは、X
1とX
2は同じハロゲンであり、X
3とX
4は同じハロゲンである。より好ましくは、X
1とX
2が共に塩素であるか、X
3とX
4が共に臭素である。好ましくは、X
1-Ar
1-X
2は、パラ-ジハロベンゼン、最も好ましくはパラ-ジクロロベンゼンである。好ましくは、X
3-Ar
2-X
4は2,7-ジブロモカルバゾールである。当業者であれば、反応スキーム(S1)の-Ar
1-及び-Ar
2-が、上で詳細に説明され、反応スキーム(S1)に示されている繰り返し単位(R
PAS1)及び(R
PAS2)にそれぞれ組み込まれることを認識するであろう。したがって、繰り返し単位(R
PAS1)及び(R
PAS2)についての上述した-Ar
1-及びAr
2-の優先度及び実施形態は、反応スキーム(S1)の-Ar
1-及び-Ar
2-にも適用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、X
3-Ar
2-X
4は2,7-ジハロカルバゾールである(kはそれぞれの場合においてゼロである)。いくつかの実施形態では、反応成分は、分子量変更剤をさらに含むことができる。
【0028】
硫黄化合物(SC)は、チオ硫酸、チオ尿素、チオアミド、単体硫黄、チオカルバメート、金属二硫化物及びオキシ硫化物、チオカーボネート、有機メルカプタン、有機メルカプチド、有機硫化物、アルカリ金属硫化物及び二硫化物、並びに硫化水素からなる群から選択される。好ましくは、硫黄化合物はアルカリ金属硫化物である。いくつかの実施形態では、アルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物から系内で生成される。例えば、Na2Sが特に望ましいアルカリ金属硫化物である。Na2Sは、NaSHとNaOHから系内で生成することができる。
【0029】
重合溶媒は、反応温度(後述)において反応成分の溶媒となるように選択される。いくつかの実施形態では、重合溶媒は、極性非プロトン性溶媒である。望ましい極性非プロトン性溶媒の例は、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、n,n-エチレンジピロリドン、n-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)、ピロリドン、カプロラクタム、n-エチルカプロラクタム、スルホラン、n,n’-ジメチルアセトアミド、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含むが、これらに限定されない。好ましくは、重合溶媒はNMPである。重合溶媒がNMPを含む実施形態では、NMPは、NaOHと反応して、n-メチル-1,4-アミノブタノエートを形成することができる。
【0030】
上記の通り、いくつかの実施形態では、反応成分は、分子量変更剤をさらに含む。分子量変更剤は、分子量変更剤を含まない合成スキームにより設けられたPASポリマーと比較して、PASポリマーの分子量を増加させる。好ましくは、分子量変更剤は、アルカリ金属カルボキシレートである。アルカリ金属カルボキシレートは、式:R’CO2M’(式中、R’は、C1~C20ヒドロカルビル基、C1~C10ヒドロカルビル基、又はC1~C5ヒドロカルビル基、M’は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、又はセシウムからなる群から選択される)で表される。好ましくは、M’は、ナトリウム又はカリウムであり、最も好ましくはナトリウムである。好ましくは、アルカリ金属カルボン酸は、酢酸ナトリウムである。
【0031】
重合反応は、X1-Ar1-X2、X3-Ar2-X4、及びSCが重合してPASポリマーを形成するように選択された反応温度で反応成分を接触させることによって実施される。いくつかの実施形態では、反応温度は、170℃~450℃、又は200℃~285℃である。反応時間(重合反応の継続時間)は、10分~3日、又は1時間~8時間であり得る。重合反応中、反応成分を液相に維持するために圧力(反応圧力)が選択される。いくつかの実施形態では、反応圧力は、0ポンド/平方インチゲージ(「psig」)~400psig、30psig~300psig、又は100psig~250psigであり得る。
【0032】
重合反応は、反応混合物を重合反応が止まる温度まで冷却することによって停止させることができる。「反応混合物」は、重合反応中に形成される混合物を指し、任意の残りの反応成分、形成されたPASポリマー、及び反応副生成物を含む。冷却は、当技術分野で知られている様々な技術を使用して実施することができる。いくつかの実施形態では、冷却は、急速に反応混合物をフラッシングすることによって行うことができる。いくつかの実施形態では、冷却は、液体急冷を含み得る。液体急冷では、急冷液体を反応混合物に加えて反応混合物を冷却する。いくつかの実施形態では、急冷液体は、重合溶媒、水、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、急冷液体の温度は、約15℃~99℃であり得る。いくつかの実施形態では、急冷液体の温度は、54℃~100℃(例えば急冷液体が溶媒である実施形態では)又は15℃~32℃(例えば急冷液体が水である実施形態では)であり得る。冷却は、反応器ジャケット又はコイルを使用して、重合反応が行われる反応容器(「重合反応器」)を冷却することによってさらに促進することができる。明確にするために記載しておくと、重合反応の停止は反応成分の完全な反応を意味するものではない。一般的には、停止は、重合反応がi)実質的に完了若しくは、ii)目標収率に到達したとき、又はiii)反応成分のさらなる反応がPASポリマーの平均分子量の著しい増加をもたらさないときに開始される。
【0033】
停止後、PASポリマーは、PASポリマー混合物として存在する。PASポリマー混合物は、水、重合溶媒、塩(例えば塩化ナトリウム及び酢酸ナトリウム)を含む反応副生成物、PASオリゴマー、及び未反応の反応成分(総称して「反応後化合物」)を含む。一般的に、停止後、PASポリマー混合物は、PASポリマーを含む液相及び固相を有するスラリー(液体急冷中又はフラッシング中に溶媒から析出する)として存在する。いくつかの実施形態では、PASポリマー混合物は、例えば、停止後のスラリーの濾過によって、湿潤PASポリマーとして存在することができる。
【0034】
停止に続いて、回収プロセスが実施される。回収プロセスは1回以上の洗浄を含み、各洗浄は、重合中に形成されたPASポリマーを液体と接触させることを含む。各洗浄液は、水、酸水溶液、及び金属カチオン水溶液から独立して選択される。本明細書の開示に基づいて、当業者であれば、本明細書に記載のPASポリマーを得るための回収プロセスを選択する方法を認識するであろう。
【0035】
回収プロセスに続いて、PASポリマー混合物を乾燥させることができる。乾燥は、乾燥したPASポリマーを得るために、PASポリマー混合物を実質的に乾燥させることができる任意の温度で実施することができる。望ましくは、乾燥プロセスは、PASポリマーの酸化的硬化を防ぐのを助けるように選択される。例えば、乾燥プロセスが少なくとも100℃の温度で実施される場合、乾燥は、実質的に非酸化性の雰囲気(例えば実質的に無酸素の雰囲気、又は大気圧よりも低い圧力で、例えば真空下で)で実施することができる。乾燥プロセスが100℃未満の温度で行われる場合、大気圧未満の圧力で乾燥を行うことにより乾燥プロセスを促進することができ、その結果、PASポリマー混合物から液体成分を気化させることができる。乾燥が100℃未満の温度で行われる場合、ガス状の酸化性の雰囲気(例えば、空気)の存在は、一般的に、PASポリマーの検出可能な硬化をもたらさない。
【0036】
重合、停止、回収(水処理、酸処理、及び金属カチオン処理を含む)、及び乾燥を含むPASポリマー合成については、2013年12月19日に出願されたFodorらの米国特許出願公開第2015/0175748号明細書で説明されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0037】
PASポリマー組成物
ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと少なくとも1種の他の成分とを含み、少なくとも1種の他の成分は、追加のポリマー、熱硬化性前駆体(例えばエポキシ樹脂)、硬化剤(例えば脂肪族、脂環式、及び芳香族のモノアミン及びポリアミン)、補強剤、強化剤、可塑剤、着色剤、顔料、帯電防止剤、染料、潤滑剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤(限定するものではないが、ハロゲンフリー難燃剤など)、造核剤、及び酸化防止剤からなる群から選択される。
【0038】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中のPASポリマーの濃度は、少なくとも1重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、又は少なくとも40重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中のPASポリマーの濃度は、99.95重量%以下、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、又は60重量%以下である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中のPASポリマーの濃度は、20重量%~99.95重量%、20重量%~95重量%、20重量%~85重量%、20重量%~80重量%、20重量%~70重量%、又は20重量%~60重量%である。本明細書で使用される場合、ポリマー組成物中の成分の濃度は、別途明記しない限り、ポリマー組成物(PC)中の総重量に対するものである。
【0039】
上述したように、PASポリマーは、望ましくは、ポリマーブレンドの中に組み込むことができ、ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと以下に記載される追加のポリマーとを含む。(ジハロカルバゾール含有モノマーからの)PASポリマーのペンダントアミンは、限定するものではないが、カルボン酸、カルボキシレート、無水物、エポキシド、ウレタン、アミド、ケトン、イソシアネート、尿素、ハロゲン、活性化エーテル、エステル、及び酸塩化物を含む様々な官能基と反応することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと、カルボン酸、カルボキシレート、無水物、エポキシド、ウレタン、アミド、ケトン、イソシアネート、尿素、ハロゲン、活性化エーテル、エステル、及び酸性塩化物からなる群から選択される官能基を含む追加のポリマーとを含み得る。官能基は、追加のポリマーの鎖末端又は追加のポリマーの主鎖上(すなわちポリマー鎖を終わらせない繰り返し単位中)に存在することができる。いくつかの実施形態では、追加のポリマーは熱可塑性ポリマーである。いくつかのそのような実施形態では、追加のポリマーは、ポリ(アリールエーテルスルホン)、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(アリールエーテルケトン)、ポリウレタン、ポリエステル、及びポリカーボネートからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、追加のポリマーは熱硬化性ポリマー又は熱硬化性前駆体である。いくつかのそのような実施形態では、追加のポリマーは、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、ベンゾオキサジン、ビスマレイミド、ポリアミド酸溶液、ポリエステル熱硬化性樹脂、ビニルエステル、シアネートエステル、及び尿素-ホルムアルデヒド樹脂からなる群から選択される。当然、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、上述した複数の追加のポリマーを含むことができ、これらは、全ての熱可塑性ポリマー、全ての熱硬化性ポリマー、又はそれらの混合物であってよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、補強剤(補強繊維又は充填剤とも呼ばれる)をさらに含む。それらは、繊維状及び粒子状の補強剤から選択することができる。繊維状補強充填材は、本明細書では、平均長さが幅及び厚さの両方よりも著しく大きい、長さ、幅及び厚さを有する材料であると考えられる。一般に、そのような材料は、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも50の、長さと、最大の幅及び厚さとの間の平均比として定義されるアスペクト比を有する。いくつかの実施形態では、補強繊維(例えばガラス繊維又は炭素繊維)は3mm~50mmの平均長さを有する。いくつかのそのような実施形態では、補強繊維は、3mm~10mm、3mm~8mm、3mm~6mm、又は3mm~5mmの平均長さを有する。代替の実施形態では、補強繊維は、10mm~50mm、10mm~45mm、10mm~35mm、10mm~30mm、10mm~25mm、又は15mm~25mmの平均長さを有する。補強繊維の平均長さは、ポリマー組成物(PC)に組み込まれる前の補強繊維の平均長さとして理解することができ、或いはポリマー組成物(PC)中の補強繊維の平均長さとして理解することができる。ガラス繊維の場合、それらは円形(円形断面)であっても平坦(限定するものではないが、卵形、楕円形、又は長方形などの非円形断面)であってもよい。
【0041】
補強充填剤は、鉱物充填剤(タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)、ガラス繊維、炭素繊維、合成ポリマー繊維、アラミド繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、炭化ホウ素繊維、ロックウール繊維、スチール繊維及びウォラストナイトから選択され得る。
【0042】
繊維充填剤の中でも、ガラス繊維が好ましく;これらには、Additives for Plastics Handbook,2nd edition,John Murphyのチャプター5.2.3,p.43~48に記載されているようなチョップドストランドであるA-、E-、C-、D-、S-及びR-ガラス繊維が含まれる。好ましくは、充填剤は、繊維充填剤から選択される。充填剤は、より好ましくは、高温の用途に耐えられる補強繊維である。
【0043】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の補強剤(例えばガラス又は炭素繊維)の濃度は、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも15重量%、又は少なくとも20重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の補強剤の濃度は、70重量%以下、65重量%以下、又は60重量%以下である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の補強剤の濃度は、5重量%~70重量%、10重量%~70重量%、10重量%~65重量%、10重量%~60重量%、15重量%~60重量%、又は20重量%~60重量%である。
【0044】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は難燃剤をさらに含む。難燃剤は、ハロゲンを含まない難燃剤であってもハロゲン化難燃剤であってもよい。好ましくは、難燃剤は、ハロゲンを含まない難燃剤である。ハロゲンを含まない難燃剤としては、限定するものではないが、ホスフィン酸塩(「ホスフィネート」)、ジホスフィン酸塩(「ジホスフィネート」)、及びこれらの縮合生成物からなる群から選択される有機リン化合物が挙げられる。ホスフィネートがハロゲンを含まない難燃剤である。適切なホスフィネートとしては、限定するものではないが、2002年4月2日に発行されたJeneweinらの米国特許第6,365,071号明細書に記載されているものが挙げられ、これは参照により本明細書に組み込まれる。特に好ましいホスフィネートは、アルミニウムホスフィネート、カルシウムホスフィネート、及び亜鉛ホスフィネートである。アルミニウムホスフィネートの中でも、アルミニウムエチルメチルホスフィネート及びアルミニウムジエチルホスフィネート、並びにこれらの組み合わせが好ましい。ハロゲン化難燃剤としては、1,2-ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリスチレン、クロレンド酸無水物、塩素化パラフィン、デカブロモビフェニル、デカブロモジフェニルエタン、デカブロモジフェニルオキシド、デクロランプラス、ジブロモネオペンチルグリコール、エチレン-ビス(5,6-ジブロモノルボルナン-2,30ジカルボキシイミド)、エチレン-ビス(テトラブロモフタルイミド)、ハロゲン化ポリエーテルポリオール、ヘキサブロモシクロドデカン、オクタブロモジフェニルオキシド、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ペンタブロモジフェニルオキシド、ポリ(ジブロモスチレン)、ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート)、テトラブロモ-ビスフェノール-A、テトラブロモ-ビスフェノール-A、ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモフタレートジオール、及びテトラブロモフタル酸無水物が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、ハロゲン化難燃剤は、臭素化又は塩素化された化合物又はポリマーである。
【0045】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の難燃剤の濃度は、少なくとも1重量%、少なくとも3重量%、又は少なくとも5重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の難燃剤の濃度は、30重量%以下、25重量%以下、又は20重量%以下である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)中の難燃剤の濃度は、1重量%~30重量%、3重量%~25重量%、又は5重量%~20重量%である。
【0046】
ポリマー組成物(PC)は、強化剤も含み得る。強化剤は、一般に、低いTgのポリマーであり、例えば室温未満、0℃未満、さらには-25℃未満のTgを有する。その低いTgの結果として、強化剤は、典型的には、室温でエラストマー性である。強化剤は、官能化されたポリマー主鎖であり得る。
【0047】
強化剤のポリマー主鎖は、ポリエチレン及びそれらのコポリマー、例えばエチレン-ブテン;エチレン-オクテン;ポリプロピレン及びそれらのコポリマー;ポリブテン;ポリイソプレン;エチレン-プロピレン-ゴム(EPR);エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム(EPDM);エチレン-アクリレートゴム;ブタジエン-アクリロニトリルゴム、エチレン-アクリル酸(EAA)、エチレン-酢酸ビニル(EVA);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(ABS)、ブロックコポリマースチレンエチレンブタジエンスチレン(SEBS);ブロックコポリマースチレンブタジエンスチレン(SBS);メタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)タイプのコア-シェルエラストマー、又は上記の1つ以上の混合物を含むエラストマー主鎖から選択することができる。
【0048】
強化剤が官能化されている場合、主鎖の官能化は、官能基を含むモノマーの共重合又はさらなる官能化成分を用いたポリマー主鎖のグラフト化に由来することができる。
【0049】
官能化された強化剤の具体的な例は、これらに限定されないが、エチレンと、アクリル酸エステルとグリシジルメタクリレートとのターポリマー、エチレンとブチルエステルアクリレートとのコポリマー;エチレンと、ブチルエステルアクリレートとグリシジルメタクリレートとのコポリマー;エチレン-無水マレイン酸コポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたEPR;無水マレイン酸でグラフトされたスチレンコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたSEBSコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたスチレン-アクリロニトリルコポリマー;無水マレイン酸でグラフトされたABSコポリマーを含む。官能化された強化剤のさらに具体的な例には、エチレンとグリシジルメタクリレートとのコポリマー、並びにエチレンとメタクリル酸とのコポリマーも含まれる。
【0050】
強化剤は、組成物(C)の総重量を基準として1重量%超、2重量%超、又は3重量%超の合計量で組成物(C)中に存在し得る。強化剤は、ポリマー組成物(PC)の総重量を基準として、30重量%未満、20重量%未満、15重量%未満、又は10重量%未満の総量で組成物(C)中に存在し得る。
【0051】
組成物(C)は、可塑剤、着色剤、顔料(例えば、カーボンブラック及びニグロシンなどの黒色顔料)、帯電防止剤、染料、潤滑剤(例えば、直鎖低密度ポリエチレン、ステアリン酸カルシウム若しくはマグネシウム又はモンタン酸ナトリウム)、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、造核剤、及び酸化防止剤など、当技術分野で一般に使用されている他の従来の添加剤も含み得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、本質的に、PASポリマーとガラス繊維とからなる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、本質的に、PASポリマーと強化剤とからなる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、本質的に、PASポリマーとガラス繊維と強化剤とからなる。ポリマー組成物(PC)に関して本明細書で使用される場合、「本質的に~からなる」は、明示的に記載されている成分以外の成分の濃度が5重量%未満、2重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%未満、又は0.01重量%未満であることを示す。
【0053】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと、10重量%~60重量%のガラス繊維(当然強化剤などの他の成分を含み得る)とを含む。いくつかのそのような実施形態では、ポリマー組成物(PC)中のPASポリマーの濃度は20重量%~90重量%である。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと5重量%~30重量%の強化剤とを含む。いくつかのそのような実施形態では、ポリマー組成物(PC)中のPASポリマーの濃度は70重量%~95重量%である。
【0054】
ポリマー組成物(PC)の調製
ポリマー組成物(PC)は、当技術分野において周知の方法を用いて製造することができる。1つのアプローチでは、ポリマー組成物(PC)は、PASポリマーと特定の成分(例えば追加のポリマー、補強充填剤、難燃剤、安定剤、及び他の任意の成分)とを溶融ブレンドすることによって製造することができる。
【0055】
ポリマー成分と非ポリマー成分とを混合するために、いずれの溶融ブレンド法も使用され得る。例えば、ポリマー成分及び非ポリマー成分は、一軸スクリュー押出機若しくは二軸スクリュー押出機、撹拌機、一軸スクリュー若しくは二軸スクリューニーダー又はバンバリーミキサー等の溶融ミキサーに供給され得、添加するステップは、全ての成分の同時添加又はバッチ式の段階的添加であり得る。ポリマー成分及び非ポリマー成分がバッチ式で徐々に添加される場合、ポリマー成分及び/又は非ポリマー成分の一部がまず添加され、次いで十分に混合された組成物が得られるまで、その後に添加される残りのポリマー成分及び非ポリマー成分と溶融混合される。補強剤が長い物理的形状(例えば、長いガラス繊維)を示す場合、補強された組成物を調製するために延伸押出成形が使用され得る。
【0056】
上で詳細に説明したように、ポリマー組成物(PC)が熱硬化性ポリマー又は熱硬化性前駆体を含む場合、粉末形態のPASポリマー(1ミクロン~500ミクロン、好ましくは2ミクロン~200ミクロン、最も好ましくは5ミクロン~100ミクロンのD50によって特徴付けられる)は、熱硬化性前駆体に添加剤を分散させるために先行技術で公知の任意の装置を使用して、任意の他の添加剤とともに、熱硬化性ポリマー又は熱硬化性前駆体とブレンドすることができる。
【0057】
物品及び用途
PASポリマー及びポリマー組成物(PC)は、望ましくは物品に組み入れることができる。
【0058】
物品は、特に、携帯用電子デバイス、LEDパッケージング、オイル及びガス関係の構成要素、食品に接触する構成要素(食品フィルム及びケーシングを含むが、これらに限定されない)、電気部品及び電子部品(コンピュータ用電源装置の構成部品、データシステム及びオフィス機器、並びに表面実装技術と互換性のあるコネクタ及び接点を含むが、これらに限定されない)、医療機器の構成部品、建設関係の構成部品(冷却及び加熱システム用のパイプ、コネクタ、マニホールド、及びバルブ;ボイラー及びメーターの構成部品;ガスシステムのパイプ及び付属品;並びにミニサーキットブレーカー用の電気保護装置、コンタクタ、スイッチ、及びソケットを含むが、これらに限定されない)、産業用構成部品、配管構成部品(パイプ、バルブ、付属品、マニホールド、シャワータップ、及びシャワーバルブを含むが、これらに限定されない)、自動車部品、及び航空宇宙用構成部品(船内キャビン構成部品を含むが、これらに限定されない)において使用することができる。
【0059】
本物品は、例えば、携帯用電子デバイス構成部品であり得る。本明細書で用いる場合、「携帯用電子デバイス」は、便利に運ばれ且つ様々な場所で使用されることが意図される電子デバイスを意味する。携帯用電子デバイスとしては、携帯電話、携帯情報端末(「PDA」)、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、ウェアラブルコンピューティングデバイス(例えば、スマートウォッチ、スマートグラス等)、カメラ、携帯オーディオプレーヤー、携帯ラジオ、全地球位置測定システム受信機、及び携帯ゲームコンソールを挙げることができるが、それらに限定されない。携帯用電子デバイス構成部品は、例えば、無線アンテナ及び本組成物(C)を含み得る。この場合、無線アンテナは、WiFiアンテナ又はRFIDアンテナであり得る。また、携帯用電子デバイス構成部品はアンテナハウジングであり得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、携帯用電子デバイス構成部品は、アンテナハウジングである。いくつかのそのような実施形態では、無線アンテナの少なくとも一部分は、ポリマー組成物(PC)上に配置される。それに加えて又はその代わりに、無線アンテナの少なくとも一部をポリマー組成物(PC)からずらすことができる。いくつかの実施形態では、デバイス構成部品は、取付け穴又は他の締結デバイス(それ自体と、回路基板、マイクロホン、スピーカー、ディスプレイ、バッテリー、カバー、ハウジング、電気若しくは電子コネクタ、ヒンジ、無線アンテナ、スイッチ、又はスイッチパッドを含むが、それらに限定されない、携帯用電子デバイスの別の構成部品との間のスナップフィットコネクタを含むが、それらに限定されない)を持った取付け構成部品のものであることができる。いくつかの実施形態では、携帯用電子デバイスは、入力デバイスの少なくとも一部であることができる。
【0061】
電気及び電子デバイスの例としては、限定するものではないが、コネクタ、コンタクタ、スイッチ、フレキシブル及び非フレキシブルプリント回路基板が挙げられる。
【0062】
オイル及びガス関係の構成部品の例としては、限定するものではないが、コンプレッサーリング、ポペット、バックアップシールリング、電気コネクタ、ラビリンスシール、モーターエンドプレート、ベアリング、ブッシング、サックロッドガイド、及びダウンホールチューブが挙げられる。
【0063】
自動車部品の例としては、限定するものではないが、熱管理システムの構成部品(限定するものではないが、サーモスタットハウジング、水入口/出口バルブ、水ポンプ、水ポンプインペラ、並びにヒーターコア及びエンドキャップなど)、空気管理システム構成部品(限定するものではないが、ターボチャージャーアクチュエータ、ターボチャージャーバイパスバルブ、ターボチャージャーホース、EGRバルブ、CACハウジング、排気ガス再循環システム、電子制御スロットルバルブ、及び熱風ダクトなど)、トランスミッション構成部品及びローンチ装置構成部品(限定するものではないが、デュアルクラッチトランスミッション、自動マニュアルトランスミッション、連続可変トランスミッション、自動トランスミッション、トルクコンバーター、デュアルマスフライホイール、パワーテイクオフ、クラッチシリンダー、シールリング、スラストワッシャー、スラストベアリング、ニードルベアリング、及びチェックボールなど)、自動車用電子部品、自動車用照明部品(限定するものではないが、モーターエンドキャップ、センサー、ECUハウジング、ボビン及びソレノイド、コネクタ、回路保護/リレー、アクチュエータハウジング、Liイオンバッテリーシステム、並びにヒューズボックスなど)、トラクションモーター及びパワーエレクトロニクス構成部品(限定するものではないが、バッテリーパックなど)、燃料及び選択的触媒還元(「SCR」)システム(限定するものではないが、SCRモジュールのハウジング及びコネクタ、SCRモジュールのハウジング及びコネクタ、燃料フランジ、ロールオーバーバルブ、クイックコネクト、フィルターハウジング、燃料レール、燃料供給モジュール、燃料ホース、燃料ポンプ、燃料インジェクターOリング、及び燃料ホースなど)、流体システム構成部品(例えば燃料システム構成部品)(限定するものではないが、入口及び出口バルブ、並びに流体ポンプ構成部品など)、内部構成部品(例えばダッシュボード構成部品、ディスプレイ構成部品、及びシート構成部品など)、並びに構造及び軽量化構成部品(例えばギア及びベアリング、サンルーフ、ブラケット及びマウント、電気式バッテリーハウジング、熱管理構成部品、ブレーキシステム要素、並びにポンプ及びEGRシステム)が挙げられる。
【0064】
物品は、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)から、熱可塑性樹脂に適合した任意のプロセス、例えば押出、射出成形、ブロー成形、回転成形又は圧縮成形によって成形することができる。
【0065】
物品は、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)から、例えばフィラメントの形態にある材料の押出の工程を含むプロセスによって、又は材料のレーザー焼結の工程を含むプロセス(この場合は材料は粉末形態である)によって、印刷することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)は、望ましくは3次元印刷用途に組み込むことができる。1つの用途は、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)を含む部品材料を提供すること、及び部品材料から3次元物体の層を印刷すること、を含む、積層造形システムによる3次元(「3D」)物体の製造方法に関する。
【0067】
したがって、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)は、3D印刷、例えば溶融フィラメント製造(熱溶解積層法「FDM」としても知られている)のプロセスで使用される糸又はフィラメントの形態であり得る。
【0068】
PASポリマー又はポリマー組成物(PC)は、3D印刷、例えば選択的レーザー焼結法(SLS)のプロセスに使用される、粉末、例えば実質的に球形の粉末の形態であってもよい。
【0069】
PASポリマー又はポリマー組成物(PC)は、複合材料に組み込むことができる。複合材料は、熱可塑性マトリックスに埋め込まれた連続補強繊維を含む。いくつかの実施形態では、連続補強繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、ホウ素カーバイド繊維、ロックウール繊維、鋼繊維、アラミド繊維、天然繊維(例えば綿、リネン、及び木材)、及びこれらの1種以上の任意の組み合わせから選択される。好ましくは、連続補強繊維はガラス繊維又は炭素繊維である。本明細書で使用される場合、連続補強繊維は、少なくとも5ミリメートル(「mm」)、少なくとも10mm、少なくとも25mm、又は少なくとも50mmの、最長寸法における平均長さを有する補強繊維である。熱可塑性マトリックスには、PASポリマー又はポリマー組成物(PC)が含まれる。複合材料は、一方向複合材料(例えばテープ)又は多方向複合材料(例えば織布、マット、又は層状布)にすることができる。
【0070】
上記物品を製造するための、PASポリマー及びポリマー組成物(PC)又は物品の使用も想定されており、物体を3D印刷するための、上記PASポリマー又はポリマー組成物(C)の使用も同様である。
【実施例】
【0071】
本実施例は、本明細書に記載のPASポリマーの合成並びに熱及び衝撃性能を実証するものである。
【0072】
原材料
1-メチル-2-ピロリドン(「NMP」)(>99.0%): TCIから入手
硫化水素ナトリウム(「NaSH」)(55~60重量%): AkzoNobelから入手
1,4-ジクロロベンゼン(「DCB」)(≧99):Alfa Aesarから入手
水酸化ナトリウム(≧97.0%): Fisher Chemicalから入手
酢酸ナトリウム(≧99%):VWRケミカルズから入手
3,5-ジクロロアニリン(「3,5-DCA」)(≧98%): Alfa Aesarから入手
3,6-ジブロモカルバゾール(「3,6-DBC」)(≧98.0%): TCIから入手
2,7-ジブロモカルバゾール(「2,7-DBC」)(≧97%): AccelaChemBioから入手
【0073】
PASポリマーの合成
実施例1:(2.5モル%の2,7-DBC co-PAS)1Lのオートクレーブ反応器に、31.25gの水酸化ナトリウム(0.781モル)、20.74gの酢酸ナトリウム(0.253モル)、74.05gのNaSH(58.00重量%、0.766モル)、6.22gの2,7-DBC(0.019モル)、及び205mLのNMPを入れた。反応器をパージし、窒素で10psigまで加圧し、400rpmで連続的に撹拌するように設定した。別の添加容器に109.80gのDCB(0.747モル)と50gのNMPを入れた。添加容器をパージし、窒素で90psigまで加圧し、100℃に加熱した。反応器を1.5℃/分で240℃まで加熱した。150℃に到達させた後、反応器をコンデンサーに通し、反応器が200℃に到達するまで、約40mLの透明な凝縮液を少量の窒素流(60mL/分)下で回収した。この時点でコンデンサーを取り外し、窒素の流れを停止し、添加容器内のDCB/NMP混合物を反応器に速やかに添加した。添加容器に追加の30mLのNMPを充填し、パージして窒素で90psigに加圧し、内容物を反応器に直ちに添加した。密閉された反応器を240℃で2時間保持し、1.5℃/分で265℃に加熱し、265℃で2時間保持し、1.0℃/分で200℃に冷却し、最後に室温まで放冷した。得られたスラリーを200mLのNMPで希釈し、反応器から取り出し、80℃まで加熱し、中程度の多孔性の焼結ガラスフィルターを通して濾過した。濾過ケーキを100mLの温かいNMP(60℃)で1回洗浄した。固体を300mLの加熱されたDI水(70℃)中で15分間撹拌し、中程度の多孔性のガラスフィルターで濾過した。このプロセスを合計5回繰り返した。すすぎ洗いした固体を、窒素下、100℃で一晩真空オーブン中で乾燥させることで、77.15gの白色の粒状固体を得た。この実施例と以降の実施例についてのGPC、DSC、ASTMタイプV引張、及びASTMノッチ付きアイゾットデータを下の表に示す。
【0074】
実施例2:(5モル%の2,7-DBC co-PAS)31.52gの水酸化ナトリウム(0.788モル)、20.92gの酢酸ナトリウム(0.255モル)、74.68gのNaSH(58.00重量%、0.773モル)、12.55gの2,7-DBC(0.039モル)、107.89gのDCB(0.734モル)、及び合計287mLのNMPを用いて、実施例1の手順に従って合成した。83.30gの微細な白色粒状固体が得られた。
【0075】
実施例3:(10モル%の2,7-DBC co-PAS)31.35gの水酸化ナトリウム(0.784モル)、20.80gの酢酸ナトリウム(0.254モル)、72.76gのNaSH(59.21重量%、0.768モル)、24.97gの2,7-DBC(0.077モル)、101.66gのDCB(0.692モル)、及び合計286mLのNMPを用いて、実施例1の手順に従って合成した。82.60gの白色粉末が得られた。
【0076】
反例1:(PASホモポリマー)45.89gの水酸化ナトリウム(1.147モル)、30.45gの酢酸ナトリウム(0.371モル)、106.95gのNaSH(58.96重量%、1.125モル)、165.34gのDCB(1.125モル)、及び合計418mLのNMPを用いて、実施例1の手順に従って(2,7-DBCを使用しなかったことを除く)合成した。112.60gの粒状白色固体が得られた。
【0077】
反例2:(10モル%の3,5-DCA co-PAS)37.30gの水酸化ナトリウム(0.932モル)、24.75gの酢酸ナトリウム(0.302モル)、86.56gのNaSH(59.21重量%、0.914モル)、14.81gの3,5-DCA(0.091モル)、120.95gのDCB(0.823モル)、及び合計340mLのNMPを使用して、実施例1の手順に従って(2,7-DBCの代わりに3,5-DCAを使用したことを除く)合成した。重合の結果、通常の最大圧力よりも高くなった(典型的な150psigに対して170psig)。反応混合物は、チオフェノール及び他の分解種の強い臭いがする褐色のスラッジであった。すすぎ洗いにより淡褐色粉末が得られた。
【0078】
反例3:(10モル%の3,6-DBC co-PAS)31.17gの水酸化ナトリウム(0.779モル)、20.69gの酢酸ナトリウム(0.252モル)、72.35gのNaSH(59.21重量%、0.764モル)、24.83gの3,6-DBC(0.076モル)、101.09gのDCB(0.688モル)、及び合計204mLのNMPを使用して、実施例1の手順に従って(2,7-DBCの代わりに3,6-DBCを使用したことを除く)合成した。重合の結果、通常の最大圧力よりも高くなった(典型的な150psigに対して170psig)。反応混合物は、チオフェノール及び他の分解種の強い臭いがする褐色のスラッジであった。すすぎ洗いし、淡褐色の粉末を得た。
【0079】
試験方法
熱性能:Tg、Tm、及びΔHfは、20℃/分の加熱及び冷却速度を用いて、ASTM D3418に従って示差走査熱量分析(「DSC」)を使用して決定した。それぞれのDSC試験に対して3つの走査を用いた:350℃までの第1加熱、続いて30℃への第1冷却、続いて350℃までの第2加熱。Tg、Tm、及びΔHfは、第2加熱から決定した。
【0080】
分子量:Mwは、1-クロロナフタレン移動相及びポリスチレン標準を用いて、PL 220高温GPCを使用する210℃でのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した。
【0081】
衝撃性能:ノッチ付きアイゾット値は、室温で0.125インチの曲げ棒を使用してASTM D256に従って決定した。
【0082】
熱及び衝撃性能
試験結果を表1に示す。表の中の「E」は実施例を示し、「CE」は反例を示す。
【表1】
【0083】
表1を参照すると、E3とCE2の比較は、アミン成分をPASポリマーに組み込む従来のアプローチでは望ましいモノマー濃度で十分な分子量が得られないことを示している。例えば、3,5-DCAから形成された10モル%の繰り返し単位を有するCE2の分子量は4,300g/モルであった。他方で、2,7-DBCから形成された10モル%の繰り返し単位を有するE3の分子量は40,900g/モルであり、これは高分子量PASに相当する。同様に、E3とCE3を比較すると、高分子量のPASポリマーは、ジハロカルバゾール含有モノマーのハロゲンが2,7-位にある場合にのみ得られることが実証される。3,6-DBCから形成された10モル%の繰り返し単位を有するCE3は、3,600g/モルの分子量しか有していなかった。他方で、2,7-DBCから形成された10モル%の繰り返し単位を有するE3の分子量は40,900g/モルであった。驚くべきことに、2,7-DCBを2.5モル%しか含まない(E1)のサンプルは、PASホモポリマー(CE1)と比較して衝撃強度が改善された。なお、CE2及びCE3に関しては、Mwが低すぎてTg測定値を得られなかった(上記にて「観察されなかった」と記録された)。
【0084】
上記の実施形態は、例示的であり、限定的でないことが意図される。さらなる実施形態は、本発明の概念内である。加えて、本発明は、特定の実施形態に関連して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく形式及び詳細における変更がなされ得ることを認識するであろう。上記の文献の参照によるいかなる援用も、本明細書における明確な開示に反する主題が援用されないように限定される。