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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241015BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20241015BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 302A
C22C38/14
C21D9/46 G
C21D9/46 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022530217
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(86)【国際出願番号】 IB2020062011
(87)【国際公開番号】W WO2021124136
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/061102
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルラド,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,カンイン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,コラリ
(72)【発明者】
【氏名】ケーゲル,フレデリク
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123245(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220598(WO,A1)
【文献】特開2006-283130(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延熱処理鋼板であって、重量パーセントで
C:0.12~0.25%
Mn:3.0~8.0%
Si:0.70~1.50%
Al:0.3~1.2%
B:0.0002~0.004%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
0.2%≦Mo≦0.5%
を含み、
任意に、重量パーセントで以下の元素のうちの1つ以上
V≦0.2%
Nb≦0.06%
Ti≦0.05%
を含み、
組成の残部は、鉄及び製錬から生じる不可避的不純物である組成を有する鋼から製造され、
当該鋼板が、表面分率で、
-5%~45%のフェライトと、
-25%~85%の分配マルテンサイトであって、2x10/mm未満の炭化物密度を有する当該分配マルテンサイトと、
-10%~30%の残留オーステナイトと、
-8%未満のフレッシュマルテンサイトと、
-当該フレッシュマルテンサイトの一部が、10%未満の総表面分率で島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)の形状で残留オーステナイトと組み合わされていることと
からなるミクロ組織を有し、
フレッシュマルテンサイト及び島状マルテンサイト-オーステナイトのサイズが0.7μm未満であり、
MPaで表される降伏強度YS、MPaで表される引張強度TS、%で表される一様伸びUE、%で表される全伸びTE、%で表される穴広げ率HER、及び重量パーセントで表されるケイ素含有量が、次式:
(YS*UE+TS*TE+TS*HER)/%Si>65000
を満たす、
冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
マンガン含有量が3.0%~5.0%である、請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
ケイ素含有量が0.80%~1.30%である、請求項1~2のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
前記ミクロ組織が最大で6%のフレッシュマルテンサイトを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
降伏強度YSが950MPaより大きい、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
引張強度TSが1180MPaより大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
一様伸びが10%より大きい、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
穴広げ率が25%より大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
本請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板の製造方法であって、以下の連続する
-鋼を鋳造して半製品を得る工程であって、当該半製品が請求項1に記載の組成を有する、工程と、
-スラブを1150℃~1300℃である温度Treheatで再加熱する工程と、
-再加熱したスラブを800℃~950℃である仕上げ圧延温度FRTで熱間圧延して熱間圧延鋼板を得る工程と、
-熱間圧延鋼板を200℃~700℃である巻取り温度Tcoilで巻き取る工程と、
-熱間圧延鋼板を550℃~700℃である第1の焼鈍温度TA1で焼鈍し、当該鋼板を前記TA1温度で30秒~50時間の保持時間tA1にわたって維持する工程と、
-熱間圧延鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を得る工程と、
-冷間圧延鋼板をAe3-10℃を超える第2の焼鈍温度TA2まで再加熱し、当該鋼板を当該TA2温度で1秒~1000秒である保持時間tA2にわたって維持して、焼鈍時に、マルテンサイト及びベイナイトを含み、その合計は80%を超え、20%未満のフェライト、並びに20%未満の島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)及び炭化物の合計を含むミクロ組織を得る工程であって、島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)のマルテンサイトは、フレッシュマルテンサイトであり、Ae3は、式:
Ae3=890-20*√%C+20*%Si-30*%Mn+130*%Al
から計算される、工程と、
-冷間圧延鋼板をAe3より低く、(Ae1+Ae3)/2より高い温度TA3まで再加熱し、当該鋼板を当該焼鈍温度TA3で3秒~1000秒である保持時間tA3にわたって維持する工程であって、Ae1は、式:
Ae1=670+15*%Si-13*%Mn+18*%Al
から計算される、工程と、
-冷間圧延鋼板を(Ms-50℃)未満の焼入れ温度TQで焼入れして、焼入れ鋼板を得る工程であって、Msは、式:
Ms=560-(30*%Mn+13*%Si-15*%Al+12*%Mo)-600*(1-exp(-0,96*%C))
から計算される、工程と、
-焼入れ鋼板を350℃~550℃である分配温度TPまで再加熱し、当該焼入れ鋼板を当該分配温度で1秒~1000秒である分配時間にわたって維持する工程と、
-鋼板を室温まで冷却して、冷間圧延熱処理鋼板を得る工程と
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い延性及び成形性を有する冷間圧延高強度鋼板及びそのような鋼板を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の車体構造部材及び車体パネルの部品などの様々なアイテムを製造するために、DP(二相)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼から製造された鋼板を使用することが知られている。
【0003】
自動車産業における主要な課題の1つは、安全要件を無視することなく、地球環境保全の観点から車両の燃料効率を改善するために車両の重量を減少させることである。これらの要件を満たすために、新しい高強度鋼が、改善された降伏強度及び引張強度、並びに良好な延性及び成形性を備えた鋼板を有するように、製鋼産業によって継続的に開発されている。
【0004】
公報WO2019123245は、焼入れ及び分配処理により、1000MPa~1300MPaである降伏強度YS、1200MPa~1600MPaである引張強度TS、少なくとも10%の一様伸びUE、少なくとも20%の穴広げ率HERを有する高強度及び高成形性冷間圧延鋼板を得るための方法を記載している。この冷間圧延鋼板のミクロ組織は、表面分率で:10%~45%のフェライト、最大で1.3μmの平均粒径を有し、フェライトの表面分率とフェライトの平均粒径との積は最大で35μm%であり、8%~30%の残留オーステナイト、前記残留オーステナイトは1.1*Mn%より高いMn含有量を有し、Mn%は鋼のMn含有量を示し、最大で8%のフレッシュマルテンサイト、最大で2.5%のセメンタイト、及び残部は分配マルテンサイト(partitioned martensite)からなる。1.1*Mn%より高いMn含有量を有する残留オーステナイトの少なくとも8%の表面分率は、高延性及び高強度の組み合わせを得ることを可能にする。
【0005】
熱間圧延鋼板の焼鈍中、オーステナイトはマンガンで富化される。本発明による冷間圧延後の焼鈍は、より微細なフレッシュマルテンサイト及び島状M-Aを有するミクロ組織を均質化し、したがって、公報WO2019123245の特徴を与えない。
【0006】
公報WO2018220430は、部品を製造するために熱間成形される鋼板に関する。次いで、鋼部品は、再加熱される前に冷却され、後処理温度に維持され、室温に冷却される。このような熱間成形工程は、この部品及び成形ツールの形状のために、鋼部品の激しい局所変形を誘起し、ミクロ組織の局所的な変性をもたらした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2019/123245号
【文献】国際公開第2018/220430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、上述の課題を解決し、950MPaより大きい降伏強度、1180MPaより大きい引張強度、10%より大きい一様伸び、及び25%より大きい穴広げ率HERを有する鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。鋼板はまた、請求項2~10のいずれか一項に記載の特徴を含むことができる。別の目的は、請求項11に記載の方法を提供することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、本発明を詳細に説明し、制限を導入することなく実施例によって例示する。
【0011】
以下、Ae1は、それを下回るとオーステナイトが完全に不安定になる平衡変態温度を示し、Ae3は、それを上回るとオーステナイトが完全に安定になる平衡変態温度を示し、Msは、マルテンサイト変態開始温度、すなわち、オーステナイトが冷却時にマルテンサイトに変態し始める温度を示す。これらの温度は、以下の式から計算することができる。
【0012】
Ae1=670+15*%Si-13*%Mn+18*%Al
Ae3=890-20*√%C+20*%Si-30*%Mn+130*%Al
Ms=560-(30*%Mn+13*%Si-15*%Al+12*%Mo)-600*(1-exp(-0,96*C))
本発明による鋼の組成は、重量パーセントにより、次のものを含む。
【0013】
本発明によれば、炭素含有量は0.12%~0.25%である。添加量が0.25%を超えると、鋼板の溶接性が低下する可能性がある。炭素含有量が0.12%未満である場合、残留オーステナイト分率は、十分な伸び及び引張強度を得るのに十分に安定化されない。好ましい実施形態では、炭素含有量は0.15%~0.25%である。
【0014】
本発明によれば、マンガン含有量は、オーステナイトの安定化とともに十分な伸びを得るために3.0%~8.0%である。添加量が8.0%を超えると、中心偏析のリスクが増大し、降伏強度及び引張強度が損なわれる。3.0%未満では、最終組織は不十分な残留オーステナイト分率を含むため、延性及び強度の所望の組み合わせは達成されない。好ましい実施形態では、マンガン含有量は3.0%~5.0%である。
【0015】
本発明によれば、ケイ素含有量は0.70%~1.50%である。少なくとも0.70%のケイ素添加量は、十分な量の残留オーステナイトを安定化させるのに役立つ。1.50%を超えると、酸化ケイ素が表面に形成され、鋼の被覆性が損なわれる。好ましい実施形態では、ケイ素含有量は0.80%~1.30%である。
【0016】
アルミニウムは精錬中に液相中の鋼を脱酸するための非常に有効な元素であるため、アルミニウム含有量は0.3%~1.2%である。アルミニウム含有量は、介在物の発生を回避し、酸化の問題を回避するために1.2%以下である。好ましい実施形態では、アルミニウム含有量は0.3%~0.8%である。
【0017】
ホウ素含有量は、鋼の焼入れ性を高め、鋼板の溶接性を改善するために0.0002%~0.004%である。任意に、いくつかの元素を本発明による鋼の組成に添加することができる。
【0018】
ニオブは、熱間圧延中にオーステナイト粒を微細化し、析出強化をもたらすために、任意に最大で0.06%添加することができる。好ましくは、添加されるニオブの最小量は0.0010%である。0.06%を超えると、降伏強度及び伸びが所望のレベルで確保されない。
【0019】
モリブデンは最大で0.5%添加することができる。モリブデンは残留オーステナイトを安定化させ、したがって分配中のオーステナイト分解を低減する。0.5%を超えると、モリブデンの添加は費用がかかり、必要とされる特性を考慮すると非効果的である。
【0020】
バナジウムは、析出強化をもたらすために、任意に最大で0.2%添加することができる。
【0021】
チタンは、析出強化をもたらすために、最大で0.05%添加することができる。チタンレベルが0.05%以上である場合、降伏強度及び伸びが所望のレベルで確保されない。好ましくは、BNの形成からホウ素を保護するために、ホウ素に加えて最低0.01%のチタンが添加される。
【0022】
鋼の組成の残部は、鉄及び製錬から生じる不純物である。この点で、少なくともP、S及びNは、不可避的不純物である残留元素とみなされる。それらの含有量は、Sについては0.010%未満、Pについては0.020%未満、Nについては0.008%未満である。
【0023】
次に、本発明による冷間圧延熱処理鋼板のミクロ組織について説明する。冷間圧延熱処理鋼板は、表面分率で、5%~45%のフェライト、25%~85%の分配マルテンサイトであって、厳密に2x10/mm未満の炭化物密度を有する前記分配マルテンサイト、10%~30%の残留オーステナイト、8%未満のフレッシュマルテンサイトからなるミクロ組織を有する。フレッシュマルテンサイトの一部は、残留オーステナイトと組み合わされて、10%未満の総表面分率で島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)を形成する。好ましい実施形態では、これらの島状M-Aは、2以下の形状係数を有する。
【0024】
フェライトは、(Ae1+Ae3)/2~Ae3である温度で焼鈍中に形成される。フェライト分率が5%未満である場合、一様伸びは10%に達しない。フェライト分率が45%より高い場合、1180MPaの引張強度及び950MPaの降伏強度が達成されない。
【0025】
冷間圧延熱処理鋼板のミクロ組織は、鋼の高い延性を確保するために、25%~85%の分配マルテンサイトを含み、前記分配マルテンサイトは、厳密に2x10/mm未満の炭化物密度を有する。分配マルテンサイトは、焼鈍後の冷却時に形成され、次いで分配工程中に分配されたマルテンサイトである。好ましくは、ミクロ組織は、40%~80%の分配マルテンサイトを含む。
【0026】
冷間圧延熱処理鋼板のミクロ組織は、鋼の高い延性を確保するために、10%~30%の残留オーステナイト及び8%未満のフレッシュマルテンサイトを含む。好ましくは、ミクロ組織は、最大で6%のフレッシュマルテンサイトを含む。フレッシュマルテンサイトは、冷間圧延熱処理鋼板の室温での冷却中に形成される。フレッシュマルテンサイト及び島状マルテンサイト-オーステナイトのサイズは0.7μm未満である。
【0027】
本発明による鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者はその方法を定義することができる。しかしながら、以下の工程を含む本発明による方法を使用することが好ましい。
【0028】
さらに熱間圧延が可能な半製品には、上記の鋼組成が提供される。半製品は、熱間圧延を容易にすることができるように1150℃~1300℃である温度Treheatまで加熱され、最終熱間圧延温度FRTは800℃~950℃であり、熱間圧延鋼板を得る。FRTの最大値は、オーステナイト粒の粗大化を回避するために選択される。好ましくは、FRTは、800℃~910℃である。
【0029】
次いで、熱間圧延鋼を冷却し、200℃~700℃である温度Tcoilで巻き取る。好ましくは、巻取り温度は、(Ms-100℃)~550℃である。
【0030】
巻き取り後、鋼板を酸洗いして、酸化を除去することができる。
【0031】
次いで、熱間圧延鋼板の冷間圧延性及び靭性を改善するために、熱間圧延鋼板は、550℃~700℃の第1の焼鈍温度TA1で焼鈍され、前記焼鈍温度で30秒~50時間の保持時間tA1にわたって維持する。
【0032】
次いで、熱間圧延焼鈍鋼板は、例えば、0.7mm~3mm、又はさらに良好には0.8mm~2mmの範囲であり得る厚さを有する冷間圧延鋼板を得るために、冷間圧延される。冷間圧延圧下率は、好ましくは20%~80%である。20%未満では、その後の熱処理中の再結晶は好ましくなく、冷間圧延熱処理鋼板の延性を損なう可能性がある。80%を超えると、冷間圧延中にエッジ割れのリスクがある。
【0033】
次いで、冷間圧延鋼板は、Ae3-10℃を超える第2の焼鈍温度TA2まで再加熱され、前記TA2温度で1秒~1000秒である保持時間tA2にわたって維持して、焼鈍時に、マルテンサイト及びベイナイトを含み、その合計は80%を超え、厳密に20%未満のフェライト並びに厳密に20%未満の島状マルテンサイト-オーステナイト(M-A)及び炭化物の合計を含むミクロ組織を得る。
【0034】
島状マルテンサイト-オーステナイトのマルテンサイトは、フレッシュマルテンサイトである。80%を超えるマルテンサイト及びベイナイトの合計に含まれるマルテンサイトは、自己焼戻しマルテンサイトである。マルテンサイトの種類の決定は、電界放射型電子銃(「FEG-SEM」)を備えた走査型電子顕微鏡により行うことができ、定量化することができる。
【0035】
次いで、冷間圧延鋼板は、焼入れ及び分配処理(Q&P)を受ける。焼入れ及び分配処理は、以下の工程を含む。
【0036】
-オーステナイト及びフェライト組織を得るために、冷間圧延鋼板を厳密にAe3より低く、(Ae1+Ae3)/2より高い温度TA3まで再加熱し、前記焼鈍温度TA3で3秒~1000秒である保持時間tA3にわたって維持する工程。
【0037】
-冷間圧延鋼板を(Ms-50℃)未満の焼入れ温度TQで焼入れして、焼入れ鋼板を得る工程。この焼入れ工程中、オーステナイトは部分的にマルテンサイトに変態する。焼入れ温度が(Ms-50℃)より高い場合、最終組織中の焼戻しマルテンサイトの分率が低すぎ、8%を超えるフレッシュマルテンサイト分率をもたらし、これは鋼の全伸びに有害である。
【0038】
-焼入れ鋼を350℃~550℃である分配温度TPまで再加熱し、室温に冷却される前に前記分配温度で1秒~1000秒である分配時間にわたって維持する工程。
【0039】
本発明による冷間圧延熱処理鋼板は、950MPaより大きい降伏強度YS、1180MPaより大きい引張強度TS、10%より大きい一様伸びUE、25%より大きい穴広げ率HERを有する。
【0040】
好ましくは、本発明による冷間圧延熱処理鋼板は、次式:(YS*UE+TS*TE+TS*HER)/%Si>65000を満たす、MPaで表されるYS及びTS、%で表されるUE、全伸びTE及びHER、並びに重量パーセントで表されるケイ素含有量%Siを有する。
【0041】
この式は、所与のケイ素含有量に対する機械的特性のレベルを示す。
【0042】
好ましくは、全伸びTEは14%より大きい。
【0043】
YS、TS、UE及びTEは、ISO規格ISO 6892-1に従って測定される。HERは、ISO規格ISO 16630に従って測定される。
【0044】
次に、本発明を以下の実施例によって例示するが、これらは決して限定的なものではない。
【実施例
【0045】
表1に組成をまとめた3つのグレードを半製品に鋳造し、表2にまとめた処理パラメータに従って鋼板に加工した。
【0046】
表1-組成
試験した組成を次の表にまとめ、元素含有量を重量パーセントで表す。
【0047】
【表1】
【0048】
表2-処理パラメータ
鋳放しの鋼半製品を1200℃で再加熱し、仕上げ圧延温度FRTで熱間圧延し、巻き取り、温度TA1で最初に熱処理し、冷間圧延する前に前記TA1温度で保持時間ta1にわたって維持した。第2の焼鈍を温度TA2で行い、冷間圧延鋼を、焼入れ及び分配処理(Q&P)の前に、前記TA2温度で保持時間ta2にわたって維持し、続いて室温で冷却する。次の特定の条件を適用した。
【0049】
【表2】
【0050】
次に、焼鈍した鋼板を分析し、Q&P前、Q&P後の対応するミクロ組織要素及びQ&P後の機械的特性をそれぞれ表3、4及び5にまとめた。
【0051】
表3-Q&P処理前の鋼板のミクロ組織
試験した試料のミクロ組織を決定し、次の表にまとめた。
【0052】
【表3】
【0053】
B:ベイナイト表面分率を表す
F:フェライト表面分率を表す
M:マルテンサイト表面分率を表す
M-A:島状マルテンサイト-オーステナイト表面分率を表す
表面分率は、以下の方法により決定される。試験片を冷間圧延熱処理鋼板から切り出し、研磨し、それ自体が既知の試薬でエッチングして、ミクロ組織を明らかにする。その後、切片を、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡、例えば、BSE(後方散乱電子)装置に連結された電界放射型電子銃を備えた走査型電子顕微鏡(「FEG-SEM」)を用いて、5000倍を超える倍率で検査する。
【0054】
各構成要素の表面分率の決定は、それ自体が既知の方法による画像解析を用いて実施される。残留オーステナイト分率は、例えば、X線回折(XRD)によって決定される。
【0055】
tA2中に温度TA2で焼鈍されていない試験6及び7では、Q&P前のミクロ組織は冷間圧延鋼板のミクロ組織である。試験1~5では、Q&P前に与えられたミクロ組織は、第2の焼鈍後に得られたミクロ組織である。
【0056】
表4-Q&P処理後の鋼板のミクロ組織
試験した試料のミクロ組織を決定し、次の表にまとめた。
【0057】
【表4】
【0058】
γ:残留オーステナイト表面分率を表す
PM:分配マルテンサイト表面分率を表す
FM:フレッシュマルテンサイト表面分率を表す
F:フェライト表面分率を表す
M-A:島状マルテンサイト-オーステナイト表面分率を表す
第2の焼鈍により、0.7μm未満のサイズを有する微細なフレッシュマルテンサイト及び島状M-Aを有するより均質なミクロ組織が存在する。これに対して、試験6及び7では、第2の焼鈍がなく、したがって、オーステナイト中のMnのより顕著な富化があり、より不均質なサイズ分布を有する10%を超えるより大きなフレッシュマルテンサイト及び島状M-Aを形成する。
【0059】
表5-Q&P処理後の冷間圧延熱処理鋼板の機械的特性
試験した試料の機械的特性を決定し、次の表にまとめた。
【0060】
【表5】
【0061】
これらの実施例は、本発明による鋼板、すなわち実施例1~4が、それらの特定の組成及びミクロ組織により、すべての目標とする特性を示す唯一のものであることを示している。
【0062】
試験5では、本発明に従って、鋼Aを熱間圧延し、巻き取り、1回目に焼鈍し、2回目に焼鈍する前に冷間圧延する。焼入れ及び分配工程の間、鋼を低温TA3まで加熱し、オーステナイトを制限し、したがって冷却中にフェライトを優位(favorizing)にする。最終鋼板の降伏強度は950MPa未満であり、式(YS*UE+TS*TE+TS*HER)/%Siは65000に達しなかった。
【0063】
試験6及び7では、鋼C及びAはそれぞれ、焼入れ及び分配処理の前に再加熱されていない。Q&P前のミクロ組織は97%フェライト系であり、Q&P後のフレッシュマルテンサイトの高い含有量をもたらす。この大きなサイズのフレッシュマルテンサイトの高い分率は、25%未満の穴広げ率をもたらし、式(YS*UE+TS*TE+TS*HER)/%Siは65000未満となる。