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特許7571139クエン酸シンターゼの活性が弱化した新規な変異型ポリペプチド及びそれを用いたL-アミノ酸生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】クエン酸シンターゼの活性が弱化した新規な変異型ポリペプチド及びそれを用いたL-アミノ酸生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20241015BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241015BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241015BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241015BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241015BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20241015BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N5/10
C12P13/06 B
C12P13/08 D
C12P13/06 C
C12P13/06 Z
C12P13/08 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022536601
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 KR2020010243
(87)【国際公開番号】W WO2021153866
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0010823
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12649P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アン,チャン・ホン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジュ・ウン
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ヒュン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イ,イムサン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジー・ヘ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ハユン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1335789(KR,B1)
【文献】国際公開第2010/038905(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0280542(US,A1)
【文献】Agric. Biol. Chem.,1982年,Vol.46, No.1,pp.101-107
【文献】Biotechnol. Bioeng.,2012年,Vol.109,pp.2070-2081
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 1/00
C12P 13/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸がイソロイシン(isoleucine)に置換された、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、100%未満の配列同一性を有し、
置換前の前記312番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンである、変異前のポリペプチドに比べて弱化したクエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチド。
【請求項2】
前記変異型ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列からなるものである、請求項1に記載の変異型ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む、L-アミノ酸を生産する微生物であって、
前記L-アミノ酸は、ロイシン、リシン、バリン、イソロイシン及びO-アセチルホモセリンからなる群から選択される少なくとも1つである、L-アミノ酸を生産する微生物。
【請求項6】
前記微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)である、請求項5に記載のL-アミノ酸を生産する微生物。
【請求項7】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項6に記載のL-アミノ酸を生産する微生物。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む微生物を培地で培養するステップを含むL-アミノ酸生産方法。
【請求項9】
前記方法は、培養した培地又は微生物からL-アミノ酸を回収するステップをさらに含み、
前記L-アミノ酸は、ロイシン、リシン、バリン、イソロイシン及びO-アセチルホモセリンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項8に記載のL-アミノ酸生産方法。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸がイソロイシン(isoleucine)に置換された、クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含み、前記変異型ポリペプチドは、前記配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、100%未満の配列同一性を有する、L-アミノ酸を生産する微生物のL-アミノ酸生産における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)の活性が弱化した新規な変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドを含む微生物、及び前記微生物を用いたL-アミノ酸生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は、L-アミノ酸及びその他の有用物質の生産に多く用いられているグラム陽性微生物である。前記L-アミノ酸及びその他の有用物質を生産すべく、高効率生産微生物及び発酵工程技術の開発のために様々な研究が行われている。例えば、L-リシンの生合成に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させたり、生合成に不要な遺伝子を除去するなどの標的物質特異的アプローチ方法が主に用いられている(特許文献1)。
【0003】
一方、L-アミノ酸のうちL-リシン、L-トレオニン、L-メチオニン、L-イソロイシン、L-グリシンは、アスパラギン酸由来アミノ酸であり、アスパラギン酸の前駆体であるオキサロ酢酸(oxaloacetate)の合成レベルが前記L-アミノ酸の合成レベルに影響を及ぼす。
【0004】
クエン酸シンターゼ(Citrate synthase;CS)は、微生物の解糖過程で生成されるアセチルCoAとオキサロ酢酸を重合してクエン酸を生成する酵素であると共に、TCA回路への炭素流入を決定する重要な酵素である。
【0005】
クエン酸シンターゼをコードするgltA遺伝子の欠損によるL-リシン生産菌株のphenotype変化に関する内容は、先行技術文献で報告されている(非特許文献1)。しかし、gltA遺伝子欠損菌株においては、菌株の生長が阻害されるだけでなく、糖消費速度が大幅に低下して単位時間当たりのリシン生産量が低下するという欠点がある。よって、効果的なL-アミノ酸生産能の向上及び菌株の生長を共に考慮した研究が依然として求められている現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8048650号明細書
【文献】米国特許第8465962号明細書
【文献】韓国登録特許第10-1335789号公報
【文献】米国特許第10662450号明細書
【文献】韓国登録特許第10-2011994号公報
【文献】韓国登録特許第10-0924065号公報
【文献】韓国登録特許第10-0057684号公報
【文献】米国特許第9109242号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】Ooyen et al.,Biotechnol.Bioeng.,109(8):2070-2081,2012
【文献】J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989
【文献】F.M.Ausubel et al.,CurrentProtocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York
【文献】Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8
【文献】Binder et al.Genome Biology 2012,13:R40
【文献】Appl.Enviro.Microbiol.,Dec.1995,p.4315-4320
【文献】Appl.Microbiol.Biothcenol.(1999,52:541-545)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特定のレベルにクエン酸シンターゼ活性を弱化させた新規な変異型ポリペプチドを用いるとL-アミノ酸の生産量が増加することを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドを提供する。
【0010】
本出願は、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
本出願は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0011】
本出願は、前記変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む、L-アミノ酸を生産する微生物を提供する。
【0012】
本出願は、前記変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む微生物を培地で培養するステップを含むL-アミノ酸生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本出願のクエン酸シンターゼの基質に対する活性が変化した、L-アミノ酸を生産するコリネバクテリウム属微生物を培養すると、従来の非改変ポリペプチドを有する微生物に比べて高収率でL-アミノ酸を生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0015】
本出願の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドを提供する。
【0016】
本出願において、配列番号1の配列は、クエン酸シンターゼ活性を有するアミノ酸配列であってもよい。具体的には、配列番号1の配列は、gltA遺伝子によりコードされるクエン酸シンターゼ活性を有するタンパク質配列であってもよい。配列番号1のアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicun)由来のものであるが、これに限定されるものではなく、前記アミノ酸配列を含むタンパク質と同じ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であればいかなるものでもよい。また、本出願におけるクエン酸シンターゼ活性を有するタンパク質は、たとえ配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であると定義したとしても、配列番号1のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、本出願のクエン酸シンターゼ活性を有するタンパク質に含まれることは当業者にとって自明である。具体的には、本出願のクエン酸シンターゼ活性を有するタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の変異対象となるタンパク質に含まれることは言うまでもない。
【0017】
本出願における「クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)」とは、微生物の解糖過程で生成されるアセチルCoAとオキサロ酢酸を重合してクエン酸を生成する酵素であって、TCA回路への炭素流入を決定する重要な酵素である。具体的には、クエン酸合成酵素としてTCA回路の最初の段階で速度調節の役割を果たす。また、前記酵素は、アセチルCoAと4炭素オキサロ酢酸の分子からの2炭素酢酸残基の縮合反応を触媒して6炭素酢酸を形成する。本出願における前記クエン酸シンターゼは、クエン酸合成酵素、CS、GltAタンパク質又はGltAと混用されてもよい。
【0018】
本出願における「変異型(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により上記列挙した配列(the recited sequence)とは異なるが、前記タンパク質の機能(functions)又は特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。変異型ポリペプチドは、数個のアミノ酸置換、欠失又は付加により識別される配列(identified sequence)とは異なる。このような変異型は、一般に前記ポリペプチド配列の1つを改変し、その改変したポリペプチドの特性を評価することにより識別することができる。すなわち、変異型の能力は、本来のタンパク質(native protein)より向上するか、変わらないか又は低下する。このような変異型は、一般に前記ポリペプチド配列の1つを改変し、その改変したポリペプチドの反応性を評価することにより識別することができる。また、一部の変異型には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異型も含まれる。他の変異型には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異型も含まれる。
【0019】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異型は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有すしてもよい。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられ、疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、グリシン及びトリプトファンが挙げられる。通常、保存的置換は、生成されるポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を及ぼさない。
【0020】
また、変異型は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質のN末端のシグナル(又はリーダー)配列に結合されてもよい。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0021】
本出願における「クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチド」とは、クエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列の一部が置換されることにより野生型より弱化したクエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドを意味する。本出願においては、クエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列上で少なくとも1つのアミノ酸が変異し、その活性が野生型と比較して弱化することにより、炭素の流れを効率的に均衡にする変異型ポリペプチドを意味する。
【0022】
具体的には、前記変異型ポリペプチドは、前記クエン酸シンターゼ活性を有する様々なタンパク質において、配列番号1のアミノ酸配列の312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異型ポリペプチドである。前記「他のアミノ酸」とは、置換前とは異なるアミノ酸を意味し、置換前のアミノ酸を除くアミノ酸であればいかなるものでもよい。
【0023】
より具体的には、前記変異型ポリペプチドは、前記クエン酸シンターゼ活性を有する様々なタンパク質において、配列番号1のアミノ酸配列の312番目の位置に相当するメチオニンが他のアミノ酸に置換された変異型ポリペプチドであってもよい。前記メチオニンがアラニン(alanine)、アルギニン(arginine)、アスパラギン(asparagine)、アスパラギン酸(aspartic acid)、システイン(cysteine)、グルタミン酸(glutamic acid)、グルタミン(glutamine)、グリシン(glycine)、ヒスチジン(histidine)、イソロイシン(isoleucine)、ロイシン(leucine)、リシン(lysine)、フェニルアラニン(phenylalanine)、プロリン(proline)、セリン(serine)、トレオニン(threonine)、トリプトファン(tryptophan)、チロシン(tyrosine)及びバリン(valine)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸に置換されたものであり、より具体的には、イソロイシンに置換された変異型配列であるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、前述したように置換されたアミノ酸残基には、天然アミノ酸だけでなく、非天然アミノ酸も含まれる。前記非天然アミノ酸としては、例えばD-アミノ酸、ホモ(Homo)アミノ酸、β-ホモ(Beta-homo)アミノ酸、N-メチルアミノ酸、α-メチルアミノ酸、異常アミノ酸(例えば、シトルリンやナフチルアラニンなど)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、本出願における「特定アミノ酸が置換された」とは、他のアミノ酸に置換されたと表記していなくても、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたことを意味することは言うまでもない。
【0025】
本出願における「相当する(corresponding to)」とは、タンパク質もしくはペプチドにおいて列挙される位置のアミノ酸残基であるか、又はタンパク質もしくはペプチドにおいて列挙される残基に類似、同一もしくは相当するアミノ酸残基を意味する。本出願における「相当領域」とは、一般に関連タンパク質又は比較タンパク質における類似する位置を意味する。
【0026】
本出願において、本出願に用いられるポリペプチド内のアミノ酸残基位置に特定ナンバリングが用いられる。例えば、比較する対象のポリペプチドと本出願のポリペプチドの配列をアラインメントすることにより、本出願のポリペプチドのアミノ酸残基位置に相当する位置を再ナンバリングすることができる。
【0027】
本出願が提供する、クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドは、前述したクエン酸シンターゼにおいて特異的位置のアミノ酸が置換され、L-アミノ酸の生産能が変異前のポリペプチドに比べて向上したものであってもよい。
【0028】
前記変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列と80%以上、100%未満の配列相同性を有するものであるが、これに限定されるものではない。具体的には、本出願の前記変異型ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するものであり、また、そのような相同性を有して前記タンパク質に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、312番目の位置のアミノ酸配列以外に、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0029】
また、本出願に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に用いられることは言うまでもない。例えば、前記変異型ポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、特定の活性を付与する特定の312番目の変異以外に、当該配列番号のアミノ酸配列の前後への無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、そのような配列付加や突然変異を有するものも本出願に含まれることは言うまでもない。
【0030】
配列番号1のアミノ酸配列において312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異型ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列を含むものであってもよい。より具体的には、配列番号1のアミノ酸配列において312番目の位置に相当するメチオニンがイソロイシンに置換された変異型ポリペプチドは、配列番号3からなるものであってもよい。また、前記変異型ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列、又はそれと80%以上、100%未満の相同性を有するアミノ酸配列を含むが、これらに限定されるものではない。具体的には、本出願の前記変異型ポリペプチドには、配列番号3、及び配列番号3と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するポリペプチドが含まれる。また、そのような相同性を有して前記タンパク質に対応する効能を示すアミノ酸配列であれば、312番目の位置のアミノ酸配列以外に、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0031】
本出願の目的上、前記クエン酸シンターゼの活性が弱化した変異型ポリペプチドを含む微生物は、L-アミノ酸の収率は増加するが、糖消費速度は対照群と同程度であることを特徴とする。これは、クエン酸シンターゼの活性調節により、TCA回路への炭素の流れと、L-アミノ酸生合成の前駆体として用いられるオキサロ酢酸の供給量間の好適な均衡が得られ、L-アミノ酸生産量が増加することを示唆するものである。
【0032】
前記「相同性」とは、2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド部分(moiety)間の同一性の割合を意味する。与えられたアミノ酸配列又は塩基配列に一致する程度を意味し、百分率で表される。本出願において、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列は「相同性率」で表される。一部分から他の部分までの配列間の相同性は周知の当該技術により決定される。例えば、スコア(score)、同一性(identity)、類似度(similarity)などのパラメーター(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的にはBLAST2.0を用いるか、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献2、3)で決定されてもよい。
【0033】
本出願の他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0034】
配列番号1のアミノ酸配列、クエン酸シンターゼ及び変異型ポリペプチドについては前述した通りである。
【0035】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味し、より具体的には前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0036】
本出願のポリヌクレオチドは、本出願のクエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。本出願において、クエン酸シンターゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子は、gltA遺伝子であり、前記遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のものであるが、これらに限定されるものではない。また、前記遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列であり、より具体的には配列番号2の塩基配列を含む配列であるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、配列番号1のアミノ酸配列において312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。例えば、本出願の変異型ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列であるが、これに限定されるものではない。より具体的には、配列番号4で表されるポリヌクレオチド配列からなるものであるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のアミノ酸配列において312番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、非特許文献2)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性もしくは同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1ΥSSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1ΥSSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1ΥSSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0039】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0040】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0041】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献4参照)。
【0042】
本出願のさらに他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0043】
配列番号1のアミノ酸配列、クエン酸シンターゼ、変異型ポリペプチド及びポリヌクレオチドについては前述した通りである。
【0044】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0045】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pCR2.1、pDC、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0046】
本出願に使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。また、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内で標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。また、前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0047】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。
【0048】
また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。
【0049】
前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。前記形質転換する方法は、ポリヌクレオチドを細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(Ca(HPO、CaHPO又はCa(PO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野の切断及び連結酵素などを用いて作製することができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
本出願のさらに他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む、L-アミノ酸を生産する微生物を提供する。
【0052】
配列番号1のアミノ酸配列、クエン酸シンターゼ、変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチド及びベクターについては前述した通りである。
【0053】
前記微生物は、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むか、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
また、前記微生物は、野生型ポリペプチドを含む微生物に比べて微生物の生育や糖消費速度が阻害されることなく、L-アミノ酸の生産能が向上し、その微生物からL-アミノ酸を高収率で得ることのできるものである。
【0055】
本出願における「変異型ポリペプチドを含む微生物」とは、自然に弱いL-アミノ酸生産能を有する微生物、又はL-アミノ酸生産能のない親株にL-アミノ酸生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、前記微生物は、クエン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドに少なくとも1つのアミノ酸変異を含む変異型ポリペプチドを発現する微生物であり、前記アミノ酸変異は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含むものである。前記微生物から発現するクエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドは、弱化した活性を有するものであるが、これに限定されるものではない。
【0056】
前記微生物は、変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むか、変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されて変異型ポリペプチドを発現する細胞又は微生物であり、本出願の目的上、前記宿主細胞又は微生物は、前記変異型ポリペプチドを含み、L-アミノ酸を生産する微生物であればいかなるものでもよい。
【0057】
本出願における「L-アミノ酸を生産する微生物」とは、自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は弱化されるなどの原因により、特定機序が強化又は弱化された微生物であって、目的とするL-アミノ酸生産のために遺伝的変異を起こすか、活性を弱化させた微生物である。本出願の目的上、前記L-アミノ酸を生産する微生物とは、前記変異型ポリペプチドを含み、培地中の炭素源から目的とするL-アミノ酸を野生型や非改変微生物と比較して過剰量で生産する微生物を意味する。本出願における前記「L-アミノ酸を生産する微生物」は、「L-アミノ酸生産能を有する微生物」又は「L-アミノ酸生産微生物」と混用されてもよい。
【0058】
前記L-アミノ酸生産微生物が生産するL-アミノ酸は、ロイシン、リシン、バリン、イソロイシン及びO-アセチルホモセリンからなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
例えば、前記L-アミノ酸を生産する微生物には、エシェリキア(Escherichia)属、セラチア(Serratia)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacteria)属、サルモネラ(Salmonella)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属などの微生物菌株が含まれる。具体的には、コリネバクテリウム属微生物であり、より具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
具体的には、L-アミノ酸を生産する微生物は、コリネバクテリウム属微生物にイソプロピルリンゴ酸シンターゼの変異体[leuA_(R558H,G561D)]を導入してL-ロイシン生産能を有するようにしたCJL-8100菌株、コリネバクテリウム属微生物に3種の変異[pyc(P458S),hom(V59A),lysC(T311I)]を導入してL-リシン生産能を有するようにしたコリネバクテリウムCJ3P(非特許文献5)、バリン生産菌株であるコリネバクテリウムKCCM11201P(特許文献2)、L-イソロイシン生産菌株であるコリネバクテリウムKCCM11248P(特許文献3)、又はコリネバクテリウム属微生物に、O-アセチル-ホモセリン分解経路であるシスタチオニンγ-シンターゼをコードするmetB遺伝子とO-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼをコードするmetY遺伝子を欠損させ、O-アセチル-ホモセリン生合成を増大させるために、アスパルトキナーゼをコードするlysC遺伝子のL-リシン(L-Lysine)及びL-トレオニン(L-Threonine)に対するフィードバック阻害解除のための変異(L377K)(特許文献4)を導入してO-アセチル-ホモセリン生産能を有するようにしたコリネバクテリウム・グルタミカムであるが、これらに限定されるものではない。本出願の目的上、前記L-アミノ酸を生産する微生物は、前記変異型ポリペプチドをさらに含み、目的とするL-アミノ酸の生産能が向上したものであってもよい。
【0061】
本出願における「コリネバクテリウム属微生物」は、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。より具体的には、本出願におけるコリネバクテリウム属微生物は、クエン酸シンターゼ活性が非改変微生物より弱化しながらも、L-アミノ酸の収率は増加し、糖消費速度は同程度であるコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である。
【0062】
本出願のさらに他の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端から312番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された、クエン酸シンターゼ(citrate synthase)活性を有する変異型ポリペプチド、前記変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む微生物を培地で培養するステップを含むL-アミノ酸生産方法を提供する。
【0063】
配列番号1のアミノ酸配列、クエン酸シンターゼ、変異型ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物については前述した通りである。
【0064】
前記方法は、当該技術分野で公知の最適化された培養条件及び酵素活性条件において当業者が容易に決定することができる。具体的には、微生物の培養は、特に限定されるものではないが、公知の回分培養法、連続培養法、流加培養法などにより行うことができる。ここで、培養条件は、特にこれらに限定されるものではないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニア)又は酸性化合物(例えば、リン酸又は硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5~9、具体的にはpH6~8、最も具体的にはpH6.8)に調節し、酸素又は酸素含有ガス混合物を培養物に導入して好気性条件を維持してもよい。培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。上記培養により生産されたL-アミノ酸は、培地中に分泌されるか、又は細胞内に残留する。
【0065】
また、用いられる培養用培地は、炭素供給源として糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、デンプン及びセルロース)、油脂(例えば、大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセリン及びエタノール)、有機酸(例えば、酢酸)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母エキス、肉汁、麦芽エキス、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素)、無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、それらに相当するナトリウム含有塩などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、培地は、その他金属塩(例えば、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄)、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長促進物質を含むが、これらに限定されるものではない。
【0066】
前記方法は、前記培養ステップの後に、培養した培地又は微生物からL-アミノ酸を回収するステップをさらに含むが、これらに限定されるものではない。
【0067】
前記培養ステップで生産されたL-アミノ酸を回収する方法は、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とするアミノ酸を回収することができる。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするL-アミノ酸を回収することができる。
【0068】
また、前記回収ステップは、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。よって、前述したように回収されるL-アミノ酸は、精製された形態であってもよく、L-アミノ酸を含有する微生物発酵液であってもよい。
【0069】
前記L-アミノ酸は、ロイシン、リシン、バリン、イソロイシン及びO-アセチルホモセリンからなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本出願のさらに他の態様は、前記クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを含むコリネバクテリウム属微生物又はその培養液を含むL-アミノ酸生産用組成物を提供する。
【0071】
前記微生物は、コリネバクテリウム属であり、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミカムであるが、これらに限定されるものではない。これらについては、前述した通りである。
【0072】
前記L-アミノ酸生産用組成物とは、本出願のクエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドによりL-アミノ酸を生産する組成物を意味する。前記組成物は、前記クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチド、又は前記クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを作動させる構成を含むものであればいかなるものでもよい。前記クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドは、導入された宿主細胞で作動可能に連結された遺伝子を発現させるようにベクターに含まれる形態であってもよい。
【0073】
前記組成物は、凍結保護剤又は賦形剤をさらに含んでもよい。前記凍結保護剤又は賦形剤は、非自然発生(non-naturally occurring)の物質、又は自然発生の物質であるが、これらに限定されるものではない。他の具体例として、前記凍結保護剤又は賦形剤は、前記微生物が自然に接触しない物質、又は前記微生物と自然に同時に含まれない物質であるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本出願のさらに他の態様は、前記クエン酸シンターゼ活性を有する変異型ポリペプチドを含むコリネバクテリウム属微生物のL-アミノ酸生産における使用を提供する。
【実施例
【0075】
以下、実施例を挙げて本出願を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
gltA変異の発見
1-1.gltAを含むベクターの作製
クエン酸シンターゼ活性を有するgltA変異ライブラリーを作製するために、まずgltAの一部を含む組換えベクターを作製した。野生型gltAのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicun)野生株の染色体を鋳型とし、配列番号5及び6のプライマーを用いてPCRを行い、上記増幅産物をTOPOクローニングキット(Invitrogen)で大腸菌ベクターpCR2.1にクローニングしてpCR-gltAを得た。
【0077】
1-2.gltA変異ライブラリーの作製
実施例1-1で作製したベクターに基づいてgltA変異ライブラリーを作製した。ライブラリーは、エラープローン(error-prone)PCRキット(clontech Diversify(登録商標) PCR Random Mutagenesis Kit)を用いて作製した。変異が起こる条件で、配列番号5及び6をプライマーとしてPCR反応を行った。具体的には、1000bp当たり0~3つの変異が起こる条件で、94℃で30秒間予熱処理(pre-heating)し、その後94℃で30秒間、68℃で1分30秒間の過程を25サイクル行った。ここで、得られたPCR産物をメガプライマー(megaprimer,500~125ng)として、95℃で50秒間、60℃で50秒間、68℃で12分間の過程を25サイクル行い、その後DpnIで処理し、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含有するLB固体培地に塗抹した。形質転換したコロニー20種を選択してプラスミドを得て、ポリヌクレオチド配列を分析した結果、2変異/kbの頻度で異なる位置に変異が導入されたことが確認された。約20,000個の形質転換した大腸菌コロニーを採取してプラスミドを抽出した。これをpTOPO-gltA-ライブラリーと命名した。
【0078】
本実施例において用いたプライマーを表1に示す。
【0079】
【表1】
【実施例2】
【0080】
作製したライブラリーの評価及び変異体の選択
実施例1-2で作製したpTOPO-gltA-ライブラリーをコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicun)ATCC13032にエレクトロポレーションで形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する栄養培地に塗抹して変異遺伝子が挿入された菌株10,000個のコロニーを確保し、各コロニーをATCC13032/pTOPO_gltA(mt)1~ATCC13032/pTOPO_gltA(mt)10000と命名した。
【0081】
確保した10,000個のコロニーのうち、ロイシン生産が増加したコロニーを確認するために、各コロニーに対して次の方法で発酵力価評価を行った。
【0082】
・生産培地:グルコース100g,(NHSO 40g,大豆タンパク質(Soy Protein)2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KHPO 1g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1,000μg,パントテン酸カルシウム2,000μg,ニコチンアミド3,000μg,CaCO 30g(蒸留水1リットル中),pH7.0
加圧殺菌した生産培地25mlと25ug/mlのカナマイシンを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各コロニーを白金耳で接種し、その後30℃、200rpmで60時間振盪培養した。培養終了後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC,SHIMAZDU LC20A)を用いた方法によりロイシン生産量を測定し、野生型コリネバクテリウム・グルタミカム菌株に比べてロイシン生産能が最も向上した菌株1種を選択した。選択した菌株から生産されたロイシン濃度を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
次に、前記突然変異菌株の遺伝子変異を確認するために、配列番号7及び8のプライマーを用いて、ATCC13032/pTOPO_gltA(mt)3142菌株においてPCRとシーケンシングを行い、gltA遺伝子を野生型ATCC13032と比較した。前記菌株は、gltA遺伝子に変異を含むことが確認された。
【0085】
具体的には、ATCC13032/pTOPO_gltA(mt)3142菌株は、gltA遺伝子の936番目のヌクレオチドであるGがCに置換されていることが確認された。これは、gltAのアミノ酸配列において312番目のメチオニンがイソロイシンに置換される変異である。よって、以下の実施例においては、前記変異がコリネバクテリウム属微生物のロイシン生産量に影響を及ぼすか否かについて確認する。
【実施例3】
【0086】
gltA選択変異のロイシン生産能の確認
3-1.gltA変異を含む挿入ベクターの作製
実施例2で選択した変異を菌株に導入するために、挿入用ベクターを作製した。gltA(M312I)変異導入用ベクターの作製には、部位特異的突然変異誘発(Site directed mutagenesis)法を用いた。コリネバクテリウム・グルタミカム野生型の染色体を鋳型とし、配列番号9及び10のプライマー対、配列番号11及び12のプライマー対を用いてPCRを行った。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分30秒間を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。その結果、得られた遺伝子断片をSmaI制限酵素で切断した線状のpDCベクターとインフュージョン(In-Fusion)酵素を用いてDNA断片間の末端15塩基の相同配列を結合させてクローニングし、312番目のアミノ酸であるメチオニンをイソロイシンに置換するベクターpDC-gltA(M312I)を作製した。
【0087】
3-2.ATCC13032菌株への変異体の導入及び評価
実施例3-1で作製したpDC-gltA(M312I)ベクターをATCC13032に形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。選択した1次菌株にさらに2次交差(cross-over)を行い、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換した菌株にgltA遺伝子変異が導入されたか否かは、配列番号7及び8のプライマーを用いてPCRを行い、その後塩基配列を分析することにより、菌株に変異が導入されたことが確認された。作製された菌株をATCC13032_gltA_M312Iと命名した。
【0088】
前述したように作製したATCC13032_gltA_M312I菌株のロイシン生産能を評価するために、フラスコ発酵力価評価を行った。実施例2の生産培地をそれぞれ25ml含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032、及び前述したように作製したATCC13032_gltA_M312Iをそれぞれ1白金耳接種し、その後30℃、200rpmで60時間振盪培養してロイシンを生産した。培養終了後に、HPLCによりロイシンの生産量を測定した。実験を行った各菌株における培養液中のロイシン濃度を表3に示す。
【0089】
【表3】
【実施例4】
【0090】
ロイシン生産株におけるgltA選択変異のロイシン生産能の確認
コリネバクテリウム属野生型の菌株は、ロイシンを生産したとしても極微量を生産するにすぎない。よって、ATCC13032由来のロイシン生産菌株を作製し、選択した変異を導入してロイシン生産能を確認する実験を行った。具体的な実験は次の通りである。
【0091】
4-1.ロイシン生産株CJL-8100菌株の作製
ATCC13032由来の高濃度のロイシン生産菌株を作製するために、イソプロピルリンゴ酸シンターゼ(isopropylmalate synthase,以下「IPMS」という)変異体を導入したCJL-8100菌株を作製した。当該変異は、IPMSをコードするleuA遺伝子の1673番目のヌクレオチドであるGがAに置換され、IPMSタンパク質の558番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンに置換される変異と、1682番目、1683番目のヌクレオチドであるGCがATに置換され、561番目のアミノ酸であるグリシンがアスパラギン酸に置換される変異とを含む。
【0092】
前記leuA変異を含むpDC-leuA(R558H,G561D)ベクターをATCC13032に形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。選択した1次菌株にさらに2次交差を行い、leuA遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換した菌株に変異が導入されたか否かは、配列番号13及び14のプライマーを用いてPCRを行い、その後塩基配列を分析することにより、変異が導入されたことが確認された。前記pDC-leuA(R558H,G561D)ベクターで形質転換されたATCC13032_leuA_(R558H,G561D)菌株をCJL-8100と命名した。
【0093】
4-2.CJL-8100菌株へのgltA変異体の導入及び評価
ロイシン生産菌株であるCJL-8100を実施例3-1で作製したpDC-gltA(M312I)ベクターで形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。選択した1次菌株にさらに2次交差を行い、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換した菌株にgltA遺伝子変異が導入されたか否かは、配列番号7及び8のプライマーを用いてPCRを行い、その後塩基配列を分析することにより、菌株にgltA変異が導入されたことが確認された。作製されたCJL8100_gltA_M312IをCA13-8104と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms,KCCM)に2019年12月20日付けで寄託番号KCCM12649Pとして寄託した。
【0094】
前述したように作製したCA13-8104菌株のロイシン生産能を評価した。実施例2と同様にフラスコ培養を行い、培養終了後に、HPLCを用いた方法によりロイシン生産量を測定した。培養結果を表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
表4に示すように、ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJL8100は、親株であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032に比べてロイシン生産能が著しく向上することが確認された。ロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJL8100菌株にgltA M312I変異を導入したCJL8104菌株は、親株CJL8100に比べてロイシン生産能が10%向上することが確認された。
【0097】
また、ロイシン生産菌株であるCJL-8100に、実施例1-2で作製したpTOPO-gltA-ライブラリーのうちpTOPO-gltA(mt)3142をエレクトロポレーションで形質転換し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する培地から前記ベクターが形質転換された菌株を選択した。選択した菌株をCJL8100/pTOPO_gltA(mt)3142と命名した。
【0098】
前述したように作製したCJL8100/pTOPO_gltA(mt)3142菌株のロイシン生産能を評価した。実施例2と同様にフラスコ培養を行い、培養終了後に、HPLCを用いた方法によりロイシン生産量を測定した。培養結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
上記実施例の結果から、クエン酸シンターゼであるgltAのアミノ酸配列において、前記312番目の位置のアミノ酸がgltA酵素活性に重要な位置であることが確認された。
【実施例5】
【0101】
gltA変異株(M312I)が導入されたCJ3P菌株の作製及びリシン生産量の分析
L-リシンを生産するコリネバクテリウム・グルタミカムに属する菌株においてもクエン酸シンターゼ活性変化の効果があることを確認するために、野生株に3種の変異[pyc(P458S),hom(V59A),lysC(T311I)]を導入し、L-リシン生産能を有するようになったコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P(非特許文献5)を対象に、実施例3と同様にgltA(M312I)変異が導入された菌株を作製した。前述したように作製した菌株をCJ3P::gltA(M312I)と命名した。次の方法で対照群であるCJ3P菌株とCJ3P::gltA(M312I)のリシン生産量を測定した。まず、種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、32℃、200rpmで72時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。培養終了後に、HPLC(Waters 2478)を用いてL-リシンの濃度を測定した。それを表6に示す。
【0102】
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO 4g,KHPO 8g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース100g,(NHSO 40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KHPO 1g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO 30g(蒸留水1リットル中)
【0103】
【表6】
【0104】
表6に示すように、リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P菌株にgltA(M312I)変異を導入したCJ3P::gltA(M312I)菌株は、親株に比べてリシン生産量が127%向上することが確認された。
【実施例6】
【0105】
バリン生産株におけるgltA選択変異のバリン生産能の確認
ロイシンと同じく代表的な分枝鎖アミノ酸であるバリンに対しても選択した変異が効果を発揮するか否かを確認するために、コリネバクテリウム属バリン生産菌株KCCM11201P(特許文献2)にも選択した変異を導入してバリン生産能を確認する実験を行った。
【0106】
KCCM11201Pを実施例3-1で作製したpDC-gltA(M312I)ベクターで形質転換し、相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン25mg/Lを含有する培地から選択した。選択した1次菌株にさらに2次交差を行い、目標遺伝子の変異が導入された菌株を選定した。最終的に形質転換した菌株にgltA遺伝子変異が導入されたか否かは、配列番号7及び8のプライマーを用いてPCRを行い、その後塩基配列を分析することにより、菌株にgltA変異が導入されたことが確認された。作製された菌株をKCCM11201P-gltA(M312I)と命名した。
【0107】
前述したように作製したKCCM11201P-gltA(M312I)菌株のバリン生産能を評価した。実施例2-2と同様にフラスコ培養を行い、培養終了後に、HPLCを用いた方法によりバリン生産量を測定した。培養結果を表7に示す。
【0108】
【表7】
【0109】
表7に示すように、バリン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11201P菌株にgltA M312I変異を導入したKCCM11201P-gltA(M312I)菌株は、親株であるKCCM11201Pに比べてバリン生産能が7%向上することが確認された。
【0110】
この結果から、クエン酸シンターゼであるgltAのアミノ酸配列において、前記312番目の位置のアミノ酸がgltA酵素活性に重要な位置であることが確認された。
【実施例7】
【0111】
イソロイシン生産株におけるgltA選択変異のL-イソロイシン生産能の確認
7-1.L-イソロイシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248PからのgltA(M312I)ORF変異が導入されたL-イソロイシン菌株の作製及びL-イソロイシン生産能の評価
実施例4と同様に、L-イソロイシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11248P(特許文献3)に実施例3-1で作製した組換えプラスミドpDC-gltA(M312I)を染色体上での相同組換えにより導入した菌株を作製し、KCCM11248P::gltA(M312I)と命名した。作製した菌株を次の方法で培養し、イソロイシン生産能を比較した。
【0112】
種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。前記種培地及び生産培地の組成は、それぞれ次の通りである。
【0113】
<種培地(pH7.0)>
グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO 4g,KHPO 8g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
グルコース50g,(NHSO 12.5g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(Corn Steep Solids)5g,尿素3g,KHPO 1g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO 30g(蒸留水1リットル中)
培養終了後に、HPLCによりL-イソロイシンの生産能を測定した。実験を行った各菌株における培養液中のL-イソロイシン濃度を表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
表8に示すように、L-イソロイシン生産菌株KCCM11248Pに比べて、gltA(M312I)変異が導入されたKCCM11248P::gltA(M312I)においてL-イソロイシンの濃度が約36%増加することが確認された。よって、gltA(M312I)遺伝子の変異によりL-イソロイシンの生産能が向上することが確認された。
【0116】
この結果は、コリネバクテリウム属L-イソロイシン生産菌株におけるgltA(M312I)変異の導入がL-イソロイシン生産に効果的であることを示すものである。
【0117】
7-2.コリネバクテリウム・グルタミカム野生株ATCC13032からのgltA(M312I)ORF変異が導入されたL-イソロイシン菌株の作製及びL-イソロイシン生産能の評価
gltA(M312I)変異導入がL-イソロイシン生産能に及ぼす効果を確認するために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032(以下、WT)菌株をベースにlysC(L377K)変異体(特許文献5)とhom(R407H)変異体(特許文献4)を導入して菌株を作製し、公知のトレオニンデヒドラターゼ(L-threonine dehydratase)をコードする遺伝子にilvA(V323A)変異(非特許文献6)を導入してL-イソロイシン生産能を比較した。
【0118】
WTの染色体を鋳型とし、配列番号15及び16又は配列番号17及び18のプライマーを用いてPCRを行った。用いたプライマーの配列を表9に示す。
【0119】
【表9】
【0120】
PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、lysC遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の509bpのDNA断片と、3’末端下流の520bpのDNA断片がそれぞれ得られた。
【0121】
増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号15及び18のプライマーでPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、377番目のロイシンがリシンに置換されたアスパルトキナーゼ変異体をコードするlysC遺伝子の変異を含む1011bpのDNA断片が増幅された。
【0122】
コリネバクテリウム・グルタミカム中で複製不可能なpDZベクター(特許文献6)と1011bpのDNA断片を制限酵素XbaIで処理し、その後DNAリガーゼを用いて連結し、次いでクローニングすることによりプラスミドを得た。これをpDZ-lysC(L377K)と命名した。
【0123】
前述したように得られたpDZ-lysC(L377K)ベクターをWT菌株に電気パルス法(非特許文献7)で導入し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地から形質転換菌株を得た。2次交差を経て、染色体上に挿入されたDNA断片によりlysC遺伝子にヌクレオチド変異を導入した菌株であるWT::lysC(L377K)を得た。ヌクレオチド変異が導入された遺伝子は、配列番号15及び18のプライマーを用いたPCRを行い、その後シーケンシングにより野生型lysC遺伝子の配列と比較して最終確認した。
【0124】
また、hom(R407H)を導入したベクターを作製するために、WTゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19及び20、配列番号21及び22のプライマーを用いてPCRを行った。用いたプライマーの配列を表10に示す。
【0125】
【表10】
【0126】
PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、hom遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の220bpのDNA断片と、3’末端下流の220bpのDNA断片が得られた。これら2つのPCR productを鋳型とし、配列番号5及び8のプライマーを用いてPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、hom遺伝子の変異を含む440bpのDNA断片が増幅された。
【0127】
前述したpDZベクターと440bpのDNA断片を制限酵素XbaIで処理し、次いでDNAリガーゼを用いて連結し、その後クローニングすることによりプラスミドを得て、それをpDZ-hom(R407H)と命名した。
【0128】
前述したように得られたpDZ-hom(R407H)ベクターをWT::lysC(L377K)菌株に電気パルス法で導入し、その後カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地から形質転換菌株を得た。2次組換え過程(cross-over)を経て、染色体上に挿入されたDNA断片によりhom遺伝子にヌクレオチド変異を導入した菌株WT::lysC(L377K)-hom(R407H)を得た。
【0129】
上記実施例と同様に、WT::lysC(L377K)-hom(R407H)菌株に実施例3-1で作製した組換えプラスミドpDC-gltA(M312I)を染色体上での相同組換えにより導入した菌株を作製し、WT::lysC(L377K)-hom(R407H)-gltA(M312I)と命名した。
【0130】
ilvA遺伝子を対象に、公知のilvA(V323A)変異を導入したベクターを作製するために、変異位置を中心に、5’末端上流を増幅するためのプライマー1対(配列番号23及び24)と3’末端下流を増幅するためのプライマー1対(配列番号25及び26)を設計した。配列番号23及び26のプライマーは、各末端にBamHI制限酵素部位(下線表示)を挿入し、配列番号24及び25のプライマーは、交差するように設計した部位にヌクレオチド置換変異(下線表示)が位置するようにした。前記プライマーの配列を表11に示す。
【0131】
【表11】
【0132】
WTの染色体を鋳型とし、配列番号23及び24、配列番号25及び26のプライマーを用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行うものとした。その結果、ilvA遺伝子の変異を中心に、5’末端上流の627bpのDNA断片と、3’末端下流の608bpのDNA断片が得られた。
【0133】
増幅された2つのDNA断片を鋳型とし、配列番号23及び26のプライマーでPCRを行った。95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で7分間の重合反応を行った。その結果、323番目のバリンがアラニンに置換されたIlvA変異体をコードするilvA遺伝子の変異を含む1217bpのDNA断片が増幅された。
【0134】
pECCG117(特許文献7)ベクターと1011bpのDNA断片を制限酵素BamHIで処理し、DNAリガーゼを用いて連結し、その後クローニングすることによりプラスミドを得た。これをpECCG117-ilvA(V323A)と命名した。
【0135】
pECCG117-ilvA(V323A)ベクターを上記実施例のATCC13032::hom(R407H)-lysC(L377K)-gltA(M312I)に導入した菌株を作製した。また、その対照群として、ATCC13032::-hom(R407H)-lysC(L377K)にilvA(V323A)変異のみ導入した菌株も作製した。
【0136】
前述したように作製した菌株を実施例4-1のフラスコ培養法と同様に培養し、培養液中のL-イソロイシン濃度を分析した。その結果を表12に示す。
【0137】
【表12】
【0138】
表12に示すように、野生型菌株ATCC13032::-hom(R407H)-lysC(L377K)/pECCG117-ilvA(V323A)に比べて、gltA(M312I)変異が導入されたATCC13032::hom(R407H)-lysC(L377K)-gltA(M312I)/pECCG117-ilvA(V323A)においてL-イソロイシンの濃度が約43%増加することが確認された。
【0139】
この結果は、コリネバクテリウム属L-イソロイシン生産菌株におけるgltA(M312I)変異の導入がL-イソロイシン生産に効果的であることを示すものである。
【実施例8】
【0140】
向上したO-アセチルホモセリン生産能を有する菌株の作製及びO-アセチルホモセリン生産能の評価
gltA(M312I)変異導入によりO-アセチル-ホモセリンの生産に及ぼす影響を把握するために、O-アセチル-ホモセリン分解経路であるシスタチオニンγ-シンターゼをコードするmetB遺伝子とO-アセチルホモセリン(チオール)-リアーゼをコードするmetY遺伝子を欠損させ、O-アセチル-ホモセリン生合成を増大させるべく、アスパルトキナーゼをコードするlysC遺伝子(配列番号11)に、lysC遺伝子のL-リシン(L-Lysine)及びL-トレオニン(L-Threonine)に対するフィードバック阻害解除のための変異(L377K)(特許文献4)を導入してO-アセチル-ホモセリン生産菌株を作製した。
【0141】
まず、metB遺伝子を欠損させるために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型としたPCRにより、O-アセチルホモセリン分解経路のシスタチオニンγ-シンターゼ(cystathionine gamma-synthase)をコードするmetB遺伝子を確保した。米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH GenBank)からmetB遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号Ncgl2360,配列番号27)を確保し、それに基づいてmetB遺伝子のN末端部分とリンカー部分を含むプライマー(配列番号28及び29)、C末端部分とリンカー部分を含むプライマー(配列番号30及び31)を合成した。プライマー配列を表13に示す。
【0142】
【表13】
【0143】
ATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号28及び29、配列番号30及び31のプライマーを用いてPCRを行った。ポリメラーゼとしてはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は、96℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行うものとした。その結果、metB遺伝子のN末端部分とリンカー部分を含む558bpの増幅された遺伝子と、metB遺伝子のC末端部分とリンカー部分を含む527bpの増幅された遺伝子がそれぞれ得られた。
【0144】
前述したように得られた増幅された2つの遺伝子を鋳型としてPCRを行った。PCR条件は、96℃で60秒間の変性、50℃で60秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を10サイクル行い、その後配列番号2及び5を添加して重合反応を20サイクル行うものとした。その結果、metB遺伝子のN末端-リンカー-C末端を含む1064bpの不活性化カセットが得られた。上記PCRにより得られたPCR断片末端に含まれる制限酵素XbaI、SalIを処理し、制限酵素XbaI、SalIが処理されたpDZ(特許文献8)ベクターにライゲーション(ligation)によりクローニングし、最終的にmetB不活性化カセットがクローニングされたpDZ-△metB組換えベクターを作製した。
【0145】
作製したpDZ-△metBベクターをATCC13032に電気パルス法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でmetB遺伝子が不活性化されたATCC13032△metBを得た。不活性化されたmetB遺伝子は、配列番号28及び31のプライマーを用いたPCRを行い、その後metB遺伝子が不活性化されていないATCC13032と比較して最終確認した。
【0146】
O-アセチル-ホモセリンの他の分解経路であるmetY遺伝子を欠損させるために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型としたPCRにより、O-アセチルホモセリン分解経路のO-アセチルホモセリンチオールリアーゼ(O-acetylhomoserine(thiol)-lyase)をコードするmetY遺伝子を確保した。米国国立衛生研究所の遺伝子バンク(NIH GenBank)からmetY遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号Ncgl0625,配列番号32)を確保し、それに基づいてmetY遺伝子のN末端部分とリンカー部分を含むプライマー(配列番号33及び34)、C末端部分とリンカー部分を含むプライマー(配列番号35及び36)を合成した。プライマー配列を表14に示す。
【0147】
【表14】
【0148】
ATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、配列番号33及び34、配列番号35及び36のプライマーを用いてPCRを行った。ポリメラーゼとしてはPfuUltraTMハイフィデリティDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用い、PCR条件は、96℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行うものとした。その結果、metY遺伝子のN末端部分とリンカー部分を含む548bpの増幅された遺伝子と、metY遺伝子のC末端部分とリンカー部分を含む550bpの増幅された遺伝子が得られた。前述したように得られた増幅された2つの遺伝子を鋳型としてPCRを行った。PCR条件は、96℃で60秒間の変性、50℃で60秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を10サイクル行い、その後配列番号33及び34を添加して重合反応を20サイクル行うものとした。その結果、metY遺伝子のN末端-リンカー-C末端を含む1077bpの不活性化カセットが得られた。上記PCRにより得られたPCR断片末端に含まれる制限酵素XbaI、SalIを処理し、制限酵素XbaI、SalIが処理されたpDZ(特許文献8)ベクターにライゲーション(ligation)によりクローニングし、最終的にmetY不活性化カセットがクローニングされたpDZ-△metY組換えベクターを作製した。
【0149】
作製したpDZ-△metYベクターをATCC13032△metB菌株に電気パルス法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でmetY遺伝子が不活性化されたATCC13032△metB△metYを得た。不活性化されたmetY遺伝子は、配列番号7及び10のプライマーを用いたPCRを行い、その後metY遺伝子が不活性化されていないATCC13032と比較して最終確認した。
【0150】
O-アセチルホモセリン生成を増大させるために、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032由来のアスパルトキナーゼをコードするlysC遺伝子(配列番号11)に、lysC遺伝子のL-リシン(L-Lysine)及びL-トレオニン(L-Threonine)に対するフィードバック阻害解除のための変異(L377K)(特許文献4)を導入すべく、実施例7-2で作製したpDZ-lysC(L377K)ベクターをATCC13032△metB△metY菌株に電気パルス法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でlysC遺伝子にヌクレオチド変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032△metB△metY lysC(L377K)を得た。ヌクレオチド変異が導入された遺伝子は、配列番号15及び18のプライマーを用いたPCRを行い、その後シーケンシングにより野生型lysC遺伝子の配列と比較して最終確認した。
【0151】
実施例3-1で作製したpDC-gltA(M312I)ベクターをATCC13032△metB△metY lysC(L377K)菌株に電気パルス法で形質転換し、2次交差過程を経て、染色体上でgltA遺伝子にヌクレオチド変異が導入されたコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032△metB△metY lysC(L377K)gltA(M312I)を得た。最終的に形質転換した菌株にgltA遺伝子変異が導入されたか否かは、配列番号7及び8のプライマーを用いてPCRを行い、その後塩基配列を分析することにより、菌株に変異が導入されたことが確認された。
【0152】
前述したように作製したコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032△metB△metY lysC(L377K)とATCC13032△metB△metY lysC(L377K)gltA(M312I)菌株のO-アセチルホモセリン生産能を比較するために、次の方法で培養し、培養液中のO-アセチルホモセリンを分析した。
【0153】
次の培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに菌株を1白金耳(inoculation loop)接種し、37℃、200rpmで20時間振盪培養した。HPLCを用いてO-アセチルホモセリン濃度を分析した。分析した濃度を表15に示す。
【0154】
L-O-アセチルホモセリン生産培地(pH7.2)
グルコース30g,KHPO 2g,尿素3g,(NHSO 40g,ペプトン2.5g,CSL(Sigma)5g(10ml),MgSO・7HO 0.5g,メチオニン400mg,CaCO 20g(蒸留水1リットル中)
【0155】
【表15】
【0156】
表15の結果から分かるように、gltA(M312I)変異を導入したATCC13032△metB△metY lysC(L377K)gltA(M312I)菌株は、ATCC13032△metB△metY lysC(L377K)菌株に比べてO-アセチル-L-ホモセリン生産能が31%向上することが確認された。
【0157】
この結果から、クエン酸シンターゼであるgltAのアミノ酸配列において、前記312番目の位置のアミノ酸がgltA酵素活性に重要な位置であることが確認された。
【0158】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0159】
【表16】
【配列表】
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