(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】人工毛髪用繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/188 20060101AFI20241015BHJP
A41G 3/00 20060101ALI20241015BHJP
D01F 6/48 20060101ALI20241015BHJP
D01F 6/90 20060101ALI20241015BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
D06M13/188
A41G3/00 A
D01F6/48 A
D01F6/90 301
D06M13/224
(21)【出願番号】P 2022541160
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2021024657
(87)【国際公開番号】W WO2022030147
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020134401
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】村岡 喬梓
(72)【発明者】
【氏名】相良 祐貴
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-332468(JP,A)
【文献】特開2008-007891(JP,A)
【文献】国際公開第2008/010515(WO,A1)
【文献】特開2011-184831(JP,A)
【文献】特開2016-211130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
A61L 15/00 - 33/18
A63H 3/44
D01F 1/00 - 9/04
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂繊維と、
該合成樹脂繊維に付着した、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、
及びステアリン酸
塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、を有し、
前記化合物の合計含有量が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である、
人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記化合物が、ステアリン酸、
及びステアリン酸
塩からなる群より選ばれる1種以上のステアリン酸類を少なくとも含有し、
該ステアリン酸類の含有量が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.15wt%未満である、
請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記パルミチン酸塩が、パルミチン酸ナトリウム塩であり、
前記ステアリン酸塩が、ステアリン酸塩ナトリウム塩である、
請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記合成樹脂繊維が、塩化ビニル樹脂を含む繊維、又は、ポリアミド樹脂を含む繊維である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
メタノールによる可溶化分が、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、
及びステアリン酸
塩からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、を含み、
該化合物が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である、
人工毛髪用繊維。
【請求項6】
塩化ビニル樹脂を含む繊維、又は、ポリアミド樹脂を含む繊維である、
請求項5に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】
前記化合物が、ステアリン酸、
及びステアリン酸
塩からなる群より選ばれる1種以上のステアリン酸類を少なくとも含有する、
請求項5又は6に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】
前記パルミチン酸塩が、パルミチン酸ナトリウム塩であり、
前記ステアリン酸塩が、ステアリン酸塩ナトリウム塩である、
請求項5~7のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、単に「人工毛髪用繊維」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
頭髪製品に使用する人工毛髪繊維は、合成樹脂繊維を人毛に近づけるために、滑り性を向上させたり、帯電防止性を付与したり、又は光沢性を向上させたりするなど、各種処理がなされている。例えば、特許文献1には、帯電防止性と滑りの向上や、べたつきの低減を目的として、所定の繊維処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人工毛髪繊維には編み込んで長時間使用するような用途がある。このような頭髪装飾製品は、身近なおしゃれの手段として普及しており、特にアフリカをはじめ全世界的に供給されている。しかしながら、生活習慣によっては頭髪装飾製品の消費者が頻繁には洗髪できないこともあり、その際に頭皮の痒みなどが発生するという問題があることが分かってきている。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、頭皮の痒みを低減することのできる人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、所定の繊維処理剤成分の処理量を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
合成樹脂繊維と、
該合成樹脂繊維に付着した、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上の化合物と、を有し、
前記化合物の合計含有量が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である、
人工毛髪用繊維。
〔2〕
前記化合物が、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上のステアリン酸類を少なくとも含有し、
該ステアリン酸類の含有量が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.15wt%未満である、
〔1〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔3〕
前記パルミチン酸塩が、パルミチン酸ナトリウム塩であり、
前記ステアリン酸塩が、ステアリン酸塩ナトリウム塩である、
〔1〕又は〔2〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔4〕
前記合成樹脂繊維が、塩化ビニル樹脂を含む繊維、又は、ポリアミド樹脂を含む繊維である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
〔5〕
メタノールによる可溶化分が、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上の化合物と、を含み、
該化合物が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である、
人工毛髪用繊維。
〔6〕
塩化ビニル樹脂を含む繊維、又は、ポリアミド樹脂を含む繊維である、
〔5〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔7〕
前記化合物が、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上のステアリン酸類を少なくとも含有する、
〔5〕又は〔6〕に記載の人工毛髪用繊維。
〔8〕
前記パルミチン酸塩が、パルミチン酸ナトリウム塩であり、
前記ステアリン酸塩が、ステアリン酸塩ナトリウム塩である、
〔5〕~〔7〕のいずれか一項に記載の人工毛髪用繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、頭皮の痒みを低減することのできる人工毛髪用繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
〔人工毛髪用繊維〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、合成樹脂繊維と、該合成樹脂繊維に付着した、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上の化合物(以下、「特定化合物」ともいう。)と、を有し、化合物の合計含有量が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である。
【0011】
本実施形態においては、所定の特定化合物を特定し、その合計含有量の上限を規定することにより、人工毛髪用繊維を用いた頭髪装飾製品を装着した時に感じる痒みなどを低減することができる。また、他方で、その特定化合物の合計含有量の下限を規定することにより、当該特定化合物が奏する滑り性やその他の効果を必要以上に損なうことなく、人工毛髪用繊維の品質を維持することが可能となる。以下、本実施形態の人工毛髪用繊維の構成について、詳説する。
【0012】
〔合成樹脂繊維〕
合成樹脂繊維としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニル樹脂を含む繊維、ポリエチレン樹脂繊維、ポリアミド樹脂を含む繊維、ポリエステル樹脂を含む繊維、エチレンビニルアルコールを含む繊維が挙げられる。このなかでも、好ましくは、塩化ビニル樹脂を含む繊維及びポリアミド樹脂を含む繊維である。このような繊維を用いることにより、加工性や、触感などの品質がより向上する傾向にある。本実施形態の人工毛髪用繊維は、1種の繊維からなるものであってもよいし、2種以上の異なる材質の繊維を混合して用いてもよい。
【0013】
なお、「樹脂を含む繊維」には、所定の樹脂単体からなる繊維の他に、後述するような製造方法により、所定の樹脂と、必要に応じて添加する添加剤とを含む組成物を繊維状に成形したものが含まれる。
【0014】
塩化ビニル樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、各種のコポリマー樹脂が挙げられる。塩化ビニル樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
塩化ビニル樹脂におけるコポリマー樹脂としては、特に制限されないが、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピオン酸ビニルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-アクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニル-アクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂等の塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-エチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル-プロピレンコポリマー樹脂等の塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂;塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマー樹脂、塩化ビニル樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂の混合物、塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマーが挙げられる。
【0016】
これらのなかでも、塩化ビニル樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂の混合物、塩化ビニル-アクリロニトリルコポリマーが好ましい。このような樹脂を用いることにより、加工性や、滑り性や触感などの品質がより向上する傾向にある。
【0017】
また、ポリアミド樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、またはこれらの共重合体が挙げられる。塩化ビニル樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
このなかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66の共重合体が好ましい。このような樹脂を用いることにより、加工性や、滑り性や触感などの品質がより向上する傾向にある。
【0019】
〔特定化合物〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上の特定化合物を含む。特定化合物は人工毛髪用繊維の表面に付着したものである。
【0020】
パルミチン酸塩及びステアリン酸塩を構成する塩としては、特に制限されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。このなかでも、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。パルミチン酸ナトリウム塩及び/又はステアリン酸塩ナトリウム塩を用いることにより、装着時の痒みがより抑制され、また滑り性や触感がより向上する傾向にある。
【0021】
パルミチン酸グリセリド及びステアリン酸グリセリドとしては、特に制限されないが、例えば、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドが挙げられる。また、本実施形態におけるパルミチン酸グリセリド及びステアリン酸グリセリドには、グリセリンにパルミチン酸又はステアリン酸がエステル結合したものであれば、グリセリンの他の水酸基に他の脂肪酸や乳酸などの他のカルボン酸がエステル結合したものも含まれる。
【0022】
このなかでも、特定化合物は、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上のステアリン酸類を含むことが好ましく、ステアリン酸、ステアリン酸塩がより好ましい。このようなステアリン酸類を含むことにより、装着時の痒みがより抑制され、また滑り性や触感がより向上する傾向にある。
【0023】
特定化合物の合計含有量は、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満であり、好ましくは人工毛髪用繊維の総量に対して、0.07wt%以上0.13wt%以下であり、さらに人工毛髪用繊維の総量に対して、0.8wt%以上0.12wt%以下である。特定化合物の合計含有量が0.05wt%以上であることにより、滑り性や触感がより向上する。また、特定化合物の合計含有量が0.15wt%未満であることにより、装着時の痒みがより抑制される。
【0024】
本実施形態において、特定化合物の合計含有量とは、特定化合物の総量という意味であり、特定化合物が2種以上含まれる場合にはその合計の含有量であり、特定化合物が1種のみ含まれる場合にはその化合物の含有量を意味する。特定化合物の合計含有量は、例えば、合成繊維を処理する処理剤により調整することができる。
【0025】
特定化合物のなかでも、パルミチン酸、パルミチン酸塩、及びパルミチン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上のパルチミン酸類(以下、単に「パルチミン酸類」ともいう)の含有量は、人工毛髪用繊維の総量に対して、好ましくは0.15wt%未満であり、より好ましくは0.01~0.10wt%であり、さらに好ましくは0.01~0.06wt%である。パルチミン酸類の含有量が上記範囲内であることにより、装着時の痒みがより抑制され、また滑り性や触感がより向上する傾向にある。
【0026】
特定化合物のなかでも、ステアリン酸類の含有量は、人工毛髪用繊維の総量に対して、好ましくは0.15wt%未満であり、より好ましくは0.01wt%以上0.15wt%未満であり、さらに好ましくは0.04wt%以上0.12wt%未満である。ステアリン酸類の含有量が上記範囲内であることにより、装着時の痒みがより抑制され、また滑り性や触感がより向上する傾向にある。
【0027】
なお、特定化合物の合計含有量は、人工毛髪用繊維をメタノールに浸漬して、浸漬後のメタノールを乾燥させることでメタノールに溶けた成分量から特定することができる。
【0028】
〔その他の添加剤〕
本実施形態の人工毛髪用繊維には、必要に応じて、その他の添加剤を用いてもよい。その他の添加剤は、人工毛髪用繊維の表面に付着したものであっても、繊維を構成する樹脂組成物に混合されたものであってもよい。
【0029】
その他の添加剤としては、特に制限されないが、例えば、熱安定剤、滑剤が挙げられる。なお、熱安定剤又は滑剤として上記特定化合物に相当する化合物が人工毛髪用繊維の表面に付着する場合には、その量は、上述の特定化合物の合計含有量に制限されるものとする。
【0030】
(熱安定剤)
熱安定剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、錫系熱安定剤、Ca-Zn系熱安定剤、ハイドロタルサイト系熱安定剤、エポキシ系熱安定剤、β-ジケトン系熱安定剤が挙げられる。このなかでも、Ca-Zn系熱安定剤とハイドロタルサイト系熱安定剤が好ましい。このような熱安定剤を用いることにより、人工毛髪製品の製品寿命を延ばし、繊維の変色が抑制されるほか、繊維を形成する際の組成物の熱分解を抑制することができる。熱安定剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
錫系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ジメチルスズメルカプト、ジメチルスズメルカプタイド、ジブチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプト、ジオクチルスズメルカプトポリマー、ジオクチルスズメルカプトアセテートなどのメルカプト錫系熱安定剤、ジメチルスズマレエート、ジブチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエート、ジオクチルスズマレエートポリマーなどのマレエート錫系熱安定剤、ジメチルスズラウレート、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートなどのラウレート錫系熱安定剤が挙げられる。
【0032】
Ca-Zn系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどがある。
【0033】
ハイドロタルサイト系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、マグネシウム及び/又はアルカリ金属とアルミニウムあるいは亜鉛とからなる複合塩化合物、マグネシウム及びアルミニウムからなる複合塩化合物、また、これら複合塩化合物の結晶水を脱水した化合物が挙げられる。
【0034】
エポキシ系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などがある。
【0035】
βジケトン系熱安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ステアロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタンなどがある。
【0036】
熱安定剤の含有量は、合成樹脂繊維100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部であり、より好ましくは1.0~3.0質量部である。熱安定剤の含有量が上記範囲内であることにより、人工毛髪製品の製品寿命が延長され、繊維の変色が抑制されるほか、繊維を形成する際の組成物の熱分解が抑制される傾向にある。
【0037】
(滑剤)
滑剤としては、従来公知のものであれば特に制限されないが、例えば、金属石鹸系滑剤、高級脂肪酸系滑剤、エステル系滑剤、高級アルコール系滑剤が挙げられる。このような滑剤を用いることにより、手触り以外にも、組成物の溶融状態、ならびに組成物と押出し機内の、スクリュー、シリンダー、ダイスなどの金属面との接着状態を制御するためにも有効である。滑剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
金属石鹸系滑剤としては、特に制限されないが、例えば、Na、Mg、Al、Ca、Baなどのステアレート、ラウレート、パルミテート、オレエートなどの金属石鹸が例示される。
【0039】
高級脂肪酸系滑剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、またはこれらの混合物などが例示される。
【0040】
高級アルコール系滑剤としては、ステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどが例示される。
【0041】
エステル系滑剤としては、アルコールと脂肪酸からなるエステル系滑剤やペンタエリスリトールまたはジペンタエリスリトールと高級脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、またはこれらの混合物などのペンタエリスリトール系滑剤やモンタン酸とステアリルアルコール、パルミチルアルコール、ミリスチルアルコール、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの高級アルコールとのエステル類のモンタン酸ワックス系滑剤が例示される。
【0042】
滑剤の含有量は、合成樹脂繊維100質量部に対して、好ましくは0.2~5.0質量部であり、より好ましくは1.0~4.0質量部である。滑剤の含有量が上記範囲ないであることにより、紡糸時におけるダイ圧上昇や、糸切れ、ノズル圧力の上昇などを抑制でき、生産効率がより向上する傾向にある。
【0043】
また、添加剤としては、上記の他に、加工助剤、艶消し剤、可塑剤、強化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、顔料、着色改善剤、導電性付与剤、香料等などを使用することができる。
【0044】
〔人工毛髪用繊維の製造方法〕
本実施形態の人工毛髪用繊維の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、上記合成樹脂繊維に用いる樹脂と、必要に応じて添加剤とを含む組成物を紡糸して合成樹脂繊維を得る工程と、得られた合成樹脂繊維を繊維処理剤により処理する工程とを含む方法が挙げられる。
【0045】
(組成物の調製)
また、紡糸する組成物は、合成樹脂繊維に用いる樹脂と、必要に応じて用いる添加剤とを、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、リボンブレンダーなどを使用して混合し、得られたパウダーコンパウンドを溶融混合することで得られたペレットコンパウンドであってもよい。
【0046】
パウダーコンパウンドの製造方法は、ホットブレンドでもコールドブレンドでもよく、製造条件として通常の条件を使用できる。組成物中の揮発分を減少する観点からは、ブレンド時のカット温度を105℃~155℃まで上げたホットブレンドを使用することが好ましい。
【0047】
また、ペレットコンパウンドの製造には、例えば、単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機、同方向2軸押出し機、コニーダー、プラネタリーギアー押出し機、ロール混練り機などの混練り機を使用することができる。
【0048】
ペレットコンパウンドを製造する際の条件は、特に限定はされないが、組成物の熱劣化を防ぐため樹脂温度を185℃以下になるように設定することが好ましい。またペレットコンパウンド中に少量混入しうるスクリューの金属片や保護手袋についている繊維を取り除くため、スクリューの先端付近にメッシュを設置することもできる。
【0049】
ペレットコンパウンドの製造にはコールドカット法を採用できる。コールドカットの際に混入し得る切り粉(ペレット製造時に生じる微粉)などを除去する手段を採用することが可能である。また、長時間使用しているとカッターが刃こぼれをおこし、切り粉が発生しやすくなるため、適宜交換することが好ましい。
【0050】
(紡糸工程)
紡糸工程では、上記のようにして得られた組成物、例えばペレットコンパウンドを、シリンダー温度150℃~190℃、ノズル温度180±15℃の範囲で、押出し、溶融紡糸することができる。この際に用いるノズルの断面形状は、作製する人工毛髪用繊維の断面形状に応じて適宜設定することができる。
【0051】
また、ノズルから溶融紡糸された未延伸の合成樹脂繊維は、加熱円筒(加熱円筒温度250℃)に導入されて瞬間的に熱処理され、ノズル直下約4.5mの位置に設置した引取機にて巻き取ることができる。この巻き取りの際、該未延伸糸の繊度が所望の太さとなるように引取速度を調節することができる。
【0052】
なお、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を未延伸の糸にする際には、従来公知の押出し機を使用できる。例えば単軸押出し機、異方向2軸押出し機、コニカル2軸押出し機などを使用できる。
【0053】
(延伸及び熱処理)
上記のようにして得られた未延伸の合成樹脂繊維に対して、延伸処理を施したり熱処理を施したりすることができる。一例として、未延伸の合成樹脂繊維を延伸機(空気雰囲気下105℃)で3倍に延伸後、熱処理機(空気雰囲気下110℃)を用いて0.75倍で熱処理を施し(繊維全長が処理前の75%の長さに収縮するまで熱収縮させて)、繊度が58~62デニールになるようにし、人工毛髪用繊維を作製することができる。
【0054】
(ギア加工)
またさらに、上記のようにして得られた人工毛髪用繊維は、必要に応じて、ギア加工されていてもよい。ギア加工とは、2つの噛み合う高温のギアの間に繊維束を通すことによって捲縮を施す方法であり、使用するギアの材質、ギアの波の形、ギアの端数などは特に限定されない。繊維材質、繊度、ギア間の圧力条件等によってクリンプの波形状は変化しうるが、ギア波形の溝の深さ、ギアの表面温度、加工速度によってクリンプの波形状をコントロールできる。
【0055】
ギア加工条件には、特に制限はないが、好ましくは、ギア波形の溝の深さは0.2mm~6mm、より好ましくは0.5mm~5mm、ギアの表面温度は30~100℃、より好ましくは40~80℃、加工速度は0.5~10m/分、より好ましくは1.0~8.0m/分である。
【0056】
(表面処理)
紡糸工程以降の任意の段階で、得られた合成樹脂繊維を繊維処理剤により処理することができる。これにより、合成樹脂繊維の表面に、任意の添加剤を塗布することができる。繊維処理剤は、溶剤や上述の各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、繊維処理剤としては、特定化合物を所定量含むものを用いることができる。
【0057】
繊維処理剤の塗布は、繊維に液体を塗布する従来公知の手段を用いることができる。例えば、繊維処理剤が付着した表面を有するロールにより人工毛髪用繊維に塗布する手段(ロール転写法);繊維処理剤を貯めた液体槽に基材繊維を浸す手段;ブラシ、刷毛等の塗り具を介して基材繊維に繊維処理剤を付着させる手段等が挙げられる。
【0058】
〔他の態様〕
上記では合成樹脂繊維に特定化合物が付着した人工毛髪用繊維について記載したが、上述のとおり、特定化合物は、合成樹脂繊維に付着する代わりに合成樹脂繊維を構成する組成物に含まれたり、合成樹脂繊維に付着し、かつ合成樹脂繊維を構成する組成物に含まれたりする態様もある。
【0059】
このような本実施形態の他の態様として、メタノールによる可溶化分が、パルミチン酸、パルミチン酸塩、パルミチン酸グリセリド、ステアリン酸、ステアリン酸塩、及びステアリン酸グリセリドからなる群より選ばれる1種以上の化合物と、を含み、該化合物が、人工毛髪用繊維の総量に対して、0.05wt%以上0.15wt%未満である人工毛髪用繊維について説明する。
【0060】
当該態様の人工毛髪用繊維は、上記と同様に合成樹脂繊維から構成されるものであり、特定化合物の含有量をメタノールによる可溶化分として規定するものである。これにより、可溶化分には、表面に付着した特定化合物の他、可溶化分として繊維から抽出できる特定化合物が含まれる。可溶化分として繊維から抽出できる特定化合物についても長時間の使用により、痒みなどの要因となる可能性がある。
【0061】
なお、他の態様において、合成樹脂繊維、特定化合物、及び任意の添加剤については、上記と同様とすることができる。また、人工毛髪用繊維の製造方法についても、上記と同様とすることができる。
【0062】
メタノールによる可溶化分の測定方法は、以下の通りである。まず、人工毛髪用繊維10gを200mlのスクリュー管にとり、そのスクリュー管にメタノール100mlを入れ5回転倒させて混合した後、常温で1時間以上静置浸漬させる。その後、抽出液を別の200mlのスクリュー管に入れ、40℃で窒素吹付乾燥させる。そして、その乾燥物を公知の手法により分析することにより、可溶化分に含まれる成分とその量を特定することができる。ここで、公知の分析手法としては、特に制限されないが、例えば、NMR、IR,GPC,各種MSが挙げられる。
【0063】
〔人工毛髪用繊維を用いた製品〕
本実施形態の人工毛髪用繊維は、ヘアウィッグ、ヘアピース、ブレード、エクステンンョンヘアー等の頭飾品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
[人工毛髪用繊維の製造]
1.繊維処理剤の準備
表1に示す成分を同表に示す配合量(質量部)で配合して、繊維処理剤を得た。なお、各成分としては以下のものを用いた。
ステアリン酸Na :東京化成工業株式会社/S0081
パルミチン酸Na :東京化成工業株式会社/P0007
ステアリン酸 :富士フィルム和光純薬
パルミチン酸 :富士フィルム和光純薬
ステアリン酸グリセリド:花王/エキセルS-95
パルミチン酸グリセリド:花王/エキセルVX-95
【0066】
2.合成樹脂繊維の準備
人工毛髪用繊維の製造に用いる合成樹脂繊維として、以下の塩化ビニル系繊維を用いた。繊維の平均繊度は、55~70dtexであった。なお、平均繊度は、N=100の測定値の平均により求めた。
塩化ビニル系繊維:ポリ塩化ビニル(大洋塩ビ株式会社:TH-700)を繊維状に紡糸して使用
【0067】
3.繊維処理剤の塗布
各実施例、比較例について、合成樹脂繊維の製造工程において延伸が終了した後、ロール転写法によって、繊維の表面に繊維処理剤を塗布して、人工毛髪用繊維を得た。人工毛髪用繊維に付着した繊維処理剤の各有効成分の付着量を表1に示す。
【0068】
4.各成分の付着量
上記のように製造した人工毛髪用繊維10gを200mlのスクリュー管にとり、そのスクリュー管にメタノール100mlを入れ5回転倒させて混合した後、常温で1時間以上静置浸漬させ、その後、抽出液を別の200mlのスクリュー管に入れ、40℃で窒素吹付乾燥させ、可溶化分の合計量を算出した。次いで、可溶化分を、NMR(AVANCE III500:Bruker社製)及びLC-MS(Agilent1100:Agilent Tecknology社製)を用いて特定した。また、特定した可溶化分から、パルミチン酸又はそのNa塩とステアリン酸又はそのNa塩の付着量を求めた。なお、本実施例で使用した合成樹脂繊維は、繊維処理剤により塗布された成分以外の添加剤を含まないため、可溶化分は合成樹脂繊維に付着した特定化合物の合計含有量と同義となる。
【0069】
[痒み性の評価]
痒み性の評価は、実施例及び比較例の人工毛髪用繊維を用いて作製した頭髪製品400gを被験者10人が24h装着し、次の評価基準で評価した。
◎:頭皮の痒みを感じない被験者が9割以上10割以下
○:頭皮の痒みを感じない被験者が7割以上9割未満
△:頭皮の痒みを感じない被験者が5割以上7割未満
×:頭皮の痒みを感じない被験者が5割未満
【0070】
[滑り性の評価]
滑り性の評価は、実施例及び比較例の人工毛髪用繊維を長さ250mm、重量20gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りにより判定で、次の評価基準で評価した。
◎:技術者全員が、引っ掛かりが無く滑り性が良いと評価したもの
○:引っ掛かりが無く滑り性が良いと評価した技術者が9割以上10割未満
△:引っ掛かりが無く滑り性が良いと評価した技術者が7割以上9割未満
×:引っ掛かりが無く滑り性が良いと評価した技術者が7割未満
【0071】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる人工毛髪用繊維として産業上の利用可能性を有する。