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特許7571146電荷ストリッピング機構を用いたイオン注入システムにおける金属汚染制御のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】電荷ストリッピング機構を用いたイオン注入システムにおける金属汚染制御のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20241015BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20241015BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H01J37/317 A
H01J37/147 D
H01J37/248 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022545121
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 US2021016996
(87)【国際公開番号】W WO2021159045
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】62/971,473
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505413587
【氏名又は名称】アクセリス テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,コーソン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修
(72)【発明者】
【氏名】ボナコルシ,ゲニセ
(72)【発明者】
【氏名】ビンツ,ウィリアム
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-303569(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0101213(US,A1)
【文献】M.A.C. Hotchkis et al.,Sulphur hexafluoride as a stripper gas for tandem accelerators,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms,volume 302, pages 14-18,2013年05月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン注入システムであって、
所望の種の所望のイオンおよび汚染物質種の微量金属イオンを発生させ、前記所望の種の前記所望のイオンは第1電荷状態にあり、前記所望のイオンと前記微量金属イオンとの電荷対質量比は等しい、イオン源と、
第1イオンビームを画定するために前記イオン源から前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを引き出す引出装置と、
前記第1イオンビームから前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを選択することによって、質量分析イオンビームを画定する質量分析器と、
前記質量分析イオンビームを第1エネルギーから第2エネルギーまで加速させる加速器と、
前記所望のイオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、第2電荷状態の前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを含む第2イオンビームを画定する電荷ストリッピング装置と、
前記電荷ストリッピング装置の下流に配置されており、前記第2電荷状態の前記所望のイオンのみを選択的に通過させることによって、前記第2電荷状態の前記所望のイオンを含み、かつ、前記微量金属イオンを含まない最終イオンビームを画定する電荷セレクタと、を備え
前記電荷ストリッピング装置は、ポンプおよびガス源を備え、
前記ポンプは、前記ガス源からガスをポンピングし、前記加速器内に向かう前記ガスの流れを制御し、
前記ガスの前記流れは、前記所望の種の前記所望のイオンから電子をストリッピングするように設定されており、
前記ガスは、六フッ化硫黄を含む、イオン注入システム。
【請求項2】
前記電荷セレクタは、前記電荷ストリッピング装置に近接して配置された電磁質量分析器を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項3】
前記電荷ストリッピング装置は、前記加速器内に配置されている、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項4】
前記加速器は、複数の加速ステージを含み、
前記電荷ストリッピング装置は、前記複数の加速ステージのうちの少なくとも2つの間に配置されている、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項5】
前記加速器はRF加速器を含み、
前記複数の加速ステージはそれぞれ、加速場を発生させる1つ以上の共振器を含む、請求項4に記載のイオン注入システム。
【請求項6】
前記加速器は、定常DC高電圧によって前記所望のイオンを加速させるDC加速器を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項7】
前記加速器は、RF加速器を含むとともに、加速RF場を発生させる1つ以上の共振器を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項8】
前記電荷セレクタは、エネルギーフィルタを含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項9】
走査イオンビームを画定するために前記最終イオンビームを往復走査するスキャナをさらに備える、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項10】
前記スキャナは、前記走査イオンビームを画定するために前記最終イオンビームをそれぞれ静電的または電磁的に走査する静電スキャナまたは電磁スキャナを含む、請求項9に記載のイオン注入システム。
【請求項11】
前記走査イオンビームを平行化し、かつ、シフトさせる角度補正レンズをさらに備える、請求項9に記載のイオン注入システム。
【請求項12】
前記所望のイオンは、ヒ素イオンを含み、
前記微量金属イオンは、チタンおよび鉄のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項13】
前記第1電荷状態の前記所望のイオンが75As3+イオンを含む場合、前記微量金属イオンは50Ti2+イオンを含み、
前記第1電荷状態の前記所望のイオンが75As4+イオンを含む場合、前記微量金属イオンは56Fe3+イオンを含む、請求項12に記載のイオン注入システム。
【請求項14】
イオン注入システムであって、
75 As3+イオンおよび 50 Ti2+イオンを含むイオンビームをビームラインに沿って発生させるイオン源と、
前記ビームラインに沿って前記イオンビームを質量分析するための質量分析器と、
前記ビームラインに沿って配置されており、前記イオンビームを第1エネルギーから第2エネルギーまで加速させる加速器と、
前記ビームラインに沿って前記 75 As3+イオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、 75 As4+イオンおよび前記 50 Ti2+イオンを含むストリッピングイオンビームを画定する電荷ストリッピング装置と、
前記ビームラインに沿って前記電荷ストリッピング装置の下流に配置されており、前記ビームラインに沿って最終イオンビームを画定するために前記ストリッピングイオンビーム中の前記 75 As4+イオンを選択し、前記最終イオンビームは前記 75 As4+イオンおよびロの前記 50 Ti2+イオンを含む、電荷セレクタ装置と、を備える、イオン注入システム。
【請求項15】
前記加速器は、複数の加速ステージを含み、
前記電荷ストリッピング装置は、前記複数の加速ステージのうちの少なくとも1つの下流に配置されている、請求項14に記載のイオン注入システム。
【請求項16】
前記加速器の下流に配置されたエネルギーフィルタをさらに備え、
前記電荷セレクタ装置は、前記複数の加速ステージのうちの少なくとも2つの間に配置されており、
前記エネルギーフィルタは、前記最終イオンビームをフィルタリングする、請求項15に記載のイオン注入システム。
【請求項17】
微量金属汚染を軽減しながら、高電荷状態イオンをワークピースに注入する方法であって、
イオン源の内部において、第1電荷状態にある所望の種の所望のイオンを発生させるステップであって、前記所望のイオンを発生させるステップは、汚染物質種の微量金属イオンをさらに発生させ、前記所望の種と前記汚染物質種との電荷対質量比は等しい、ステップと、
前記イオン源から前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを引き出すことによって第1イオンビームを画定する、ステップと、
前記第1イオンビームを質量分析することによって、質量分析イオンビームを画定する、ステップと、
前記質量分析イオンビームを電荷ストリッピング要素に通すステップであって、前記電荷ストリッピング要素は前記所望のイオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、第2電荷状態の前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを含む第2イオンビームを画定する、ステップと、
前記第2イオンビームを電荷セレクタ素子に通すことによって、前記第2電荷状態の前記所望のイオンを含み、かつ、前記微量金属イオンを含まない最終イオンビームを画定する、ステップと、
前記第2電荷状態の前記所望のイオンを前記ワークピースに注入するステップと、を含み、
前記電荷ストリッピング要素は、ポンプおよびガス源を備え、
前記ポンプは、前記ガス源からガスをポンピングし、加速器内に向かう前記ガスの流れを制御し、
前記ガスの前記流れは、前記所望の種の前記所望のイオンから電子をストリッピングするように設定されており、
前記ガスは、六フッ化硫黄を含む、方法。
【請求項18】
前記質量分析イオンビームを加速させるステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願へのリファレンス]
本出願は2020年2月7日に出願された米国仮出願第62/971,473号の利益を主張する。当該出願の内容全体は、参照(リファレンス)により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本開示は一般に、イオン注入システムに関し、より詳細には、汚染を制御し、所望の電荷状態(荷電状態,帯電状態)に応じた高エネルギーのイオンビーム電流を増加させるためのシステムおよび方法に関する。
【0003】
[背景]
半導体デバイスの製造においては、半導体に不純物をドープするためにイオン注入が用いられる。イオンビームに由来するイオンによって、半導体ウェハなどのワークピースをドープするために、イオン注入システムは多く利用される。これにより、n型またはp型の材料ドーピングを生じさせることができる。または、集積回路の製造時にパッシベーション層を形成できる。所定のエネルギーレベルにおいて、かつ、制御された濃度において、特定のドーパント材料の不純物をウェハに選択的に注入するために、このようなビーム処理がしばしば使用される。これにより、集積回路の製造時に、半導体材料を生成できる。イオン注入システムは、半導体ウェハをドーピングするために使用される場合、選択されたイオン種をワークピースに注入して、所望の外因性材料を生成する。例えば、アンチモン、ヒ素、またはリンなどのソース材料から生じたイオンを注入すると、「n型」外因性材料ウェハが得られる。一方、多くの場合、「p型」外因性材料ウェハは、ボロン(ホウ素)、ガリウム、またはインジウムなどのソース材料を用いて生じたイオンから生じる。
【0004】
典型的なイオン注入器(イオン注入装置)は、イオン源と、イオン引出デバイスと、質量分析デバイスと、後段加速部の有無によらず、ビーム輸送デバイスと、ウェハ処理デバイスとを含む。イオン源は、所望の原子または分子ドーパント種のイオンを生じさせる。これらのイオンは、イオン引出デバイス、典型的には、イオン源から到来したイオン流れを励起し、導き、イオンビームを形成する電極のセットによって、イオン源から引き出される。所望のイオンは、質量分析デバイス(典型的には、引き出されたイオンビームの質量分散または分離を実行する磁気ダイポール(磁気双極子))内において、イオンビームから分離させられる。ビーム輸送デバイスは、典型的には、一連の集束デバイスを含む真空システムであり、イオンビームの所望の特性を維持しながら、分析されたイオンビームをウェハ処理デバイスへと輸送する。最後に、半導体ウェハは、ウェハハンドリングシステムを介して、ウェハ処理デバイスに出入りするように輸送させられる。ウェハハンドリングシステムは、処理される予定のウェハを分析されたイオンビームの正面(前方)に配置し、処理された後のウェハをイオン注入デバイスから取り除くために、1つ以上のロボットアームを含みうる。
【0005】
RFベース加速器およびDCベース加速器は、イオン注入器内に実装されてもよい。この場合、加速器における複数の加速ステージ(加速段)を通じて、イオンが繰り返し加速されうる。例えば、RFベース加速器は、電圧駆動型の加速ギャップを有しうる。RF加速場の時間変化する性質と複数の加速ギャップとに起因して、最終ビームエネルギー(最終的なビームエネルギー)に影響を及ぼす多数のパラメータが存在する。イオンビームの電荷状態分布は変化しうるので、イオンビーム内の電荷値を最初に意図された単一の値に維持するためには、かなりの努力が払われる。
【0006】
[概要]
本発明では、高エネルギーレベルにおける注入レシピ(例えば、イオンビームエネルギー、質量、電荷値、ビーム純度、ビーム電流、および/または注入の総ドーズ量レベル)に対する重要な需要が、イオン源について不必要に妥協することなく、より高いビーム電流およびビーム純度を提供することを要求していると理解する。したがって、高純度のビーム電流を増加させるためのシステムまたは方法を提供する。
【0007】
したがって、以下では、本開示の一部の態様についての基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化された概要を提示する。本概要は、本開示の広範な概観ではない。これは、本発明のキーポイントまたは主要な要素を識別することを意図していないし、本発明の範囲を規定することも意図していない。その目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、本開示の一部のコンセプトを簡略化された形態にて提示することにある。
【0008】
本発明の態様は、イオン(例えば、ヒ素イオン)をワークピースに注入するためのイオン注入プロセスを容易にする。例示的な一態様によれば、イオンビームを形成するように構成されたイオン源と、イオンビームを選択的に輸送するように構成されたビームラインアセンブリと、イオンをワークピースに注入するためにイオンビームを受け入れるように構成されたエンドステーションとを有するイオン注入システムが提供される。
【0009】
例示的な一態様によれば、イオン源は、所望の種の所望のイオンおよび汚染物質種の微量金属イオンの両方を発生させる。例えば、前記所望の種の前記所望のイオンは、第1電荷状態にあり、前記所望のイオンと前記微量金属イオンとの電荷対質量比が等しい。引出装置は、第1イオンビームを画定するために前記イオン源から前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを引き出す。質量分析器は、前記第1イオンビームから前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを選択することによって、質量分析イオンビーム(質量分析されたイオンビーム)を画定するように構成される。加速器は、前記質量分析イオンビームを第1エネルギーから第2エネルギーまで加速させる。電荷ストリッピング装置は、前記所望のイオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、第2電荷状態の前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを含む第2イオンビームを画定する。さらに、電荷セレクタは、前記電荷ストリッピング装置の下流に配置されており、前記第2電荷状態の前記所望のイオンのみを選択的に通過させる。したがって、前記第2電荷状態の前記所望のイオンを含み、かつ、前記微量金属イオンを含まない最終イオンビームが画定される。エンドステーションはさらに、所望のイオンをワークピースに注入のために前記最終イオンビームを受け入れてもよい。
【0010】
一実施例によれば、前記電荷セレクタは、前記電荷ストリッピング装置に近接して配置された電磁質量分析器を含む。別の実施例では、前記電荷ストリッピング装置は、前記加速器内に配置されている。
【0011】
例えば、前記加速器は、複数の加速ステージを含み、前記電荷ストリッピング装置は、前記複数の加速ステージのうちの少なくとも2つの間に配置されてもよい。例えば、前記加速器は、RF加速器を含み、前記RF加速器は、加速RF場を発生させる1つ以上の共振器を含んでもよい。例えば、RF加速器において、前記複数の加速ステージがそれぞれ、加速場を発生させる1つ以上の共振器を含む。
【0012】
別の実施例では、前記加速器は、定常DC高電圧によって前記所望のイオンを加速させるDC加速器を含む。さらに別の実施例では、前記電荷セレクタは、エネルギーフィルタを含む。さらに、走査イオンビーム(走査されたイオンビーム)を画定するために前記最終イオンビームを往復走査するスキャナを設けてもよい。例えば、前記スキャナは、前記走査イオンビームを画定するために前記最終イオンビームをそれぞれ静電的または電磁的に走査する静電スキャナまたは電磁スキャナを含んでもよい。別の実施例では、前記ワークピースへ注入するために前記走査イオンビームを平行化し、かつ、シフトさせる角度補正レンズが設けられる。
【0013】
さらに別の実施例によれば、電荷ストリッピング装置は、ポンプおよびガス源を備え、前記ポンプは、前記ガス源からガスをポンピングし、前記加速器内に向かう前記ガスの流れを制御し、前記ガスの前記流れは、前記所望の種の前記イオンから電子をストリッピングするように設定されている。例えば、前記ガスは、六フッ化硫黄を含む。
【0014】
例えば、前記所望のイオンは、ヒ素イオンを含み、前記微量金属イオンは、チタンまたは鉄を含んでもよい。例えば、前記第1電荷状態の前記所望のイオンは75As3+イオンを含み、前記微量金属イオンは50Ti2+イオンを含んでもよい。別の実施例では、前記第1電荷状態の前記所望のイオンは75As4+イオンを含み、前記微量金属イオンは56Fe3+イオンを含んでもよい。
【0015】
別の例示的な態様によれば、第1電荷状態イオンおよび微量金属イオンを含むイオンビームをビームラインに沿って発生させるイオン源を備えるイオン注入システムが提供される。前記ビームラインに沿って前記イオンビームを質量分析するための質量分析器が設けられる。加速器は、前記ビームラインに沿って配置されており、前記イオンビームを第1エネルギーから第2エネルギーまで加速させる。
【0016】
例えば、電荷ストリッピング装置は、システム内に設けられ、前記ビームラインに沿って前記第1電荷状態イオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、第2電荷状態イオンおよび前記微量金属イオンを含むストリッピングイオンビーム(ストリッピングされたイオンビーム)を画定する。例えば、電荷セレクタ装置は、前記ビームラインに沿って前記電荷ストリッピング装置の下流に配置されており、前記ビームラインに沿って最終イオンビームを画定するために前記ストリッピングイオンビーム中の前記第2電荷状態イオンを選択し、前記最終イオンビームは前記第2電荷状態イオンおよびほぼゼロの前記微量金属イオンを含む。さらに、前記ビームラインに沿って配置されており、前記第2電荷状態イオンが注入されるワークピースを支持するエンドステーションが設けられてもよい。
【0017】
一実施例では、前記加速器は、複数の加速ステージを含み、前記電荷ストリッピング装置は、前記複数の加速ステージのうちの少なくとも1つの下流に配置されている。例えば、前記複数の加速ステージは、個々の加速器装置内に画定された多重(multiple)加速ステージから構成されてもよい。あるいは、前記複数の加速ステージは、複数の個々の加速器装置によって、または複数の個々の加速器装置内に画定されてもよい。例えば、前記電荷セレクタ装置はさらに、複数の加速ステージのうち少なくとも2つの間に配置されてもよい。例えば、イオン注入装置は、前記加速器の下流に配置されたエネルギーフィルタをさらに備え、前記エネルギーフィルタは、前記最終イオンビームをフィルタリングする。
【0018】
別の実施例では、走査イオンビームを画定するために前記最終イオンビームを往復走査するスキャナがシステム内に設けられる。前記スキャナは、前記走査イオンビームを画定するために、前記最終イオンビームをそれぞれ静電的または電磁的に走査する静電スキャナまたは電磁スキャナを含んでもよい。
【0019】
さらに別の態様によれば、微量金属汚染を軽減しながら、高電荷状態イオンをワークピースに注入する方法が提供される。例えば、前記方法は、イオン源の内部において第1電荷状態にある所望の種の所望のイオンを発生させるステップであって、前記所望のイオンを発生させるステップは、汚染物質種の微量金属イオンをさらに発生させ、前記所望の種と前記汚染物質種との電荷対質量比は等しい、ステップを含む。前記イオン源から前記所望のイオンおよび微量金属イオンを引き出すことによって第1イオンビームを画定する。一実施例では、前記第1イオンビームを質量分析することによって、質量分析イオンビームを画定する。一実施例では、前記質量分析イオンビームを加速させる。例えば、前記質量分析イオンビームを電荷ストリッピング要素に通し、前記電荷ストリッピング要素は前記所望のイオンから少なくとも1つの電子をストリッピングすることによって、第2電荷状態の前記所望のイオンおよび前記微量金属イオンを含む第2イオンビームを画定する。前記第2イオンビームを電荷セレクタ素子に通すことによって、前記第2電荷状態の前記所望のイオンを含み、かつ、前記微量金属イオンを含まない最終イオンビームを画定する。さらに、前記第2電荷状態の前記所望のイオンを前記ワークピースに注入する。
【0020】
[図面の簡単な説明]
図1Aは、本開示の一態様に係るイオン注入システムを示す簡略化された上面図である;
図1Bは、本開示の一態様に係る、加速器の後に電荷ストリッパを有するイオン注入システムを示す簡略化された上面図である;
図2は、本開示の少なくとも1つの態様に係るイオン注入システムの一部である;
図3は、アルゴンおよび六フッ化イオウを通るヒ素ビームの電荷状態分布を示す;
図4は、電荷をストリッピングする場合に使用される種々の媒体を示す;
図5は、本開示の別の実施例に係る金属汚染低減方法を示すフローチャート図である;
図6は、本開示のさらに別の実施例に係る金属汚染低減方法を示すフローチャート図である;
図7は、本開示のさらに別の実施例に係るイオン注入システムの例示的な配置図である;
【0021】
図8は、本開示のさらなる実施例に係る注入システムの簡略化された概略配置図である。
【0022】
[詳細な説明]
イオン注入は半導体ワークピースおよび/またはウェハ材料にドーパントを選択的に注入するために、半導体装置製造において使用される化学プロセスである拡散とは対照的に、物理プロセスである。したがって、注入の動作は、ドーパントと半導体材料との間の化学的相互作用に依存しない。イオン注入のために、ドーパント原子/分子はイオン化され、分離され、時には加速または減速され、ビームへと形成され、ワークピースまたはウェハを掃引する。ドーパントイオンは、ワークピースに物理的に衝撃を与え、表面に入り、典型的には、ワークピースの結晶格子構造内においてワークピースの表面下に静止するに至る。Satohの共有米国特許No.8,035,080(当該特許の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる)は、ビーム電流を増加させるための様々なシステムおよび方法を記載している。
【0023】
本発明では、(例えば、イメージセンサの形成に使用される)高エネルギー注入応用が金属汚染に非常に敏感であり得ると理解する。高エネルギー応用は、より高い最終エネルギー注入を得るために、三重電荷(例えば、As3+)、四重電荷(例えば、As4+)、またはさらに高電荷のイオン等の、より高い電荷状態のイオン(例えば、ヒ素イオン)の使用を要求することが多い。しかしながら、このようなより高い電荷状態のイオンを発生させ、引き出すことは、引き出されたイオンビーム内に微量金属イオンが形成される危険性を高め得る。
【0024】
例えば、イオン注入は、CMOSイメージセンサ(CIS)などの金属汚染に非常に敏感な一部のデバイスの集積回路(IC)製造のために使用される。ここで、上述のような汚染は、いわゆる白画素および暗電流性能問題と同様に、デバイス性能に影響を与え得る。表面金属汚染および高エネルギー金属汚染などの金属汚染をより低いレベルにすることが、CISデバイス製造のための高エネルギーイオン注入に起因してますます望まれている。例えば、高エネルギーイオン注入システムでは、加速ステージを通してより高い最終注入エネルギーを得るために、多重電荷状態のイオン(multiple-charge state ion)が使用される。しかしながら、注入のためにイオン源から高電荷状態のイオンを引き出すことは、潜在的な「高エネルギー金属汚染リスク」をもたらす。それによって、イオン源から発生した少量であるが追跡可能な量の1つ以上の汚染イオンがエネルギーを得て、分析磁石、電気フィルタ、および速度フィルタを通過し、最終的にワークピースに注入され得る。
【0025】
本開示では、イオンビーム内の上記微量金属イオンは、所望のさらに高電荷のイオンと共にワークピースに注入され、結果として得られるICに潜在的な問題を引き起こすので、上記注入においては望ましくない可能性があると理解する。これまで、これらの微量金属汚染イオンの一部は、所望の高電荷状態イオンビームからフィルタリングすることができなかった。例えば、イオン源から引き出されたヒ素イオンビームでは、イオン源内で発生したヒ素三重電荷(75As3+)イオンとチタン二重電荷(50Ti2+)イオンとは、両方とも同じ磁気剛性(magnetic rigidity)、エネルギー対電荷比、および速度を有するので、一般に、下流分析磁石、電気フィルタ、および速度フィルタによって区別することができない。したがって、両方のイオンがワークピースに到達し、それゆえ高エネルギー金属イオンのワークピースへの注入(例えば、Ti汚染)が引き起こされる。別の同様の実施例では、ヒ素四重電荷(75As4+)イオンを選択するように構成されるとき、一般的に、下流分析磁石によって分離することができないのは鉄三重電荷(56Fe3+)イオンである。
【0026】
本開示では、引き出されたイオンビーム(例えば、75As3+)から選択された低電荷状態(より低い電荷状態)イオンから開始し、次いで、例えばイオンビームの輸送中に1つの電子をストリッピングして、所望のより高い電荷状態のイオンビーム(例えば、75As4+)を発生させることによって、微量金属汚染に対する解決策を提供する。例えば、低電荷状態イオンから開始し、電荷ストリッピング処理の後に所望のより高い電荷状態のイオンを選択することによって、選択された低電荷状態イオンに最初に伴う微量金属汚染イオンを所望のより高い電荷状態のイオンから分離することができる。一方、高電荷状態イオンは、必要に応じて、注入のための最終エネルギーまでさらに加速させることができる。そうすることによって、本開示では例えば、低電荷状態のイオン発生に使用され得るより低いアーク電力により、イオン源内に最初に形成される微量金属イオンの量を低減することができ、同時に、ワークピース内に注入される前に所望のより高い電荷状態のイオンから微量金属イオンを除去するためのフィルタ機構を提供し、それゆえ、ワークピース内の微量金属汚染を低減することができる。
【0027】
上記汚染を軽減するために、本開示では所望のイオンの電荷状態を得るように構成された電荷ストリッパを提供し、その結果、ビームラインに沿って下流で、電荷ストリッピング後に所望のイオンを選択することによって、汚染イオン(例えば、上述のTiまたはFeイオン)を分離することができる。
【0028】
ここで図面を参照すると、本開示をより良く理解するために、図1A図1Bは、本開示の様々な例示的な態様に係る、例示的なイオン注入システム100を示す。例えば、イオン注入システム100は、後述するように、後部加速注入装置と呼ばれることがある。
【0029】
例えば、図1Aのイオン注入システム100は、ソース(供給源)チャンバアセンブリ102を備える。ソースチャンバアセンブリ102は、イオン源104と、イオンを引き出し中間エネルギーまで加速させ、一般にイオンビーム108を形成する引出電極106とを備える。例えば、質量分析器110は、分析イオンビーム112を画定するためにイオンビーム108から不要なイオン質量および電荷種を除去する。この場合、加速器114は、加速イオンビーム116を画定するために分析イオンビームを加速させるように構成されている。本開示の一実施例によれば、例えば、加速器114は、イオンがRF場によって繰り返し加速されるRF線形粒子加速器(LINAC)を含む。または、加速器114は、DC加速器(例えば、タンデム静電加速器)を含み、当該DC加速器において、イオンは静止DC高電圧により加速される。
【0030】
例えば、イオン注入システム100は、加速器114の下流に配置されたエネルギーフィルタ118をさらに備える。エネルギーフィルタは、最終エネルギーイオンビーム120を画定するために、加速器114の出力から現れる加速イオンビーム116(加速されたイオンビーム)から不要なエネルギースペクトルを除去するように構成される。例えば、ビームスキャナ122は、エネルギーフィルタ118から出る最終エネルギーイオンビーム120を走査し、それによって最終エネルギーイオンビームを高速周波数において前後に走査し、走査イオンビーム124を画定するように構成される。例えば、ビームスキャナ122は、最終エネルギーイオンビーム120を静電的または電磁的に走査して走査イオンビーム124を画定するように構成される。
【0031】
走査イオンビーム124はさらに、角度補正レンズ126に通される。角度補正器レンズは、散開する走査されたビーム124を最終イオンビーム128に変換するように構成される。例えば、角度補正レンズ126は、走査イオンビーム124を平行化してシフトさせ、最終イオンビーム128を画定するように構成されてもよい。例えば、角度補正レンズ126は、最終イオンビーム128を画定するように構成された電磁デバイスまたは静電デバイスを備えてもよい。
【0032】
例えば、最終イオンビーム128はその後、プロセス(処理)チャンバまたはエンドステーション132内に選択的に配置され得るワークピース130(例えば、半導体ウェハ)内に注入される。例えば、ワークピース130は、ワークピース130の全面が均一に照射されるように、ハイブリッド走査方式により最終イオンビーム128に直交して移動(例えば、紙面の内外に移動)してもよい。本開示では、ワークピース130に対して最終イオンビーム128を走査するための様々な他の機構および方法を理解し、すべてのこのような機構および方法は、本開示の範囲内にあると考えられることに留意されたい。
【0033】
例えば、図1A図1Bのイオン注入システム100は、ハイブリッド並列走査シングルワークピースイオン注入システムとして構成されてもよい。例えば、注入システム100は、主加速器114が質量分析器110の下流かつエネルギーフィルタ118の上流に配置されているので、後部加速注入装置134とも呼ばれ得る。例えば、この種のイオン注入装置は、加速器の出力における不要なエネルギースペクトルを除去するために、加速器114の後にエネルギーフィルタ118を設ける。しかしながら、本開示では、本開示の様々な態様が図1A図1Bの例示的なシステム100を含むがこれに限定されない、任意のタイプのイオン注入システムに関連して実施され得ることを理解されたい。
【0034】
一実施例では、イオン電荷量(q)を増加させることによって加速器114を通過するイオン粒子の最終運動エネルギーを増加させてもよい。一実施形態では、イオン電荷状態(q)は、図1Aに示すように加速器114内に、または図1Bに示すように2つの加速器114Aと114Bとの間に、電荷ストリッパ136を設けることによって増加させることができる。例えば、加速器114は多くの形態をとってもよく、図1Aに図示される実施例に示されるように、単一の加速器装置によって、または単一の加速器装置の中に画定される任意の数の加速ステージを含み得る、あるいは図1Bに図示される実施例に示されるように、複数の加速器装置によって、または複数の加速器装置の中に画定される任意の数の加速ステージを含み得る。例えば、RF加速器である加速器114では、図1Aに示すように、多数の(例えば、6つ以上の)加速ステージは加速場を発生させるための共振器(図示せず)を備えてもよく、加速ステージのうちの少なくとも1つはその加速ステージにおいて共振器の代わりに電荷ストリッパ136を備えてもよい。
【0035】
別の実施例では、イオン粒子は、加速器114内に配置された電荷ストリッパ136の前に、例えば、加速器内の第1の複数の加速ステージを介して加速されてもよい。また、電荷ストリッパ136の後に、例えば、加速器114内の第2の複数の加速ステージを介して加速されてもよい。あるいは、第1の複数の加速ステージが加速器114の外部にあってもよい。例えば、図示されていないが、第1の複数の加速ステージは質量分析器110に関連付けられてもよく、したがって、イオンビーム108は電荷ストリッパ136に入る前に加速され、質量分析される。
【0036】
別の実施例では、図1Bに示すように、電荷ストリッパ136は、第1加速器114Aの下流または後に配置され得る。例えば、電荷セレクタ138は、ストリッピング処理後により高い電荷を有する所望のイオンを選択するために、電荷ストリッパ136の後に配置される。したがって、選択されたより高い電荷状態のイオンは第2の加速器114Bに入り、元の電荷状態のイオンより高い最大エネルギーを得ることができる。図1Aおよび図1Bの構成を比較すると、例えば、図1Bに示す電荷セレクタ138は、他の電荷状態イオンが第2加速器114Bに入るのを防止しながら、所望のイオン種の特定のイオン電荷状態のみを選択するように構成し得る。したがって、状況によっては、図1Aに示す構成と比較し、図1Bに示すシステム100の構成は、完全に加速された後に所望のイオンのエネルギースペクトルを大幅に浄化(purify)し得る。
【0037】
一実施例では、図1Aの質量分析イオンビーム112は、イオンの正味電荷(net electrical charge)が正であり得る第1電荷状態を含む陽イオン(正イオン)(例えば、75As3+)を含む。第1電荷状態の陽イオンの一部は、電荷ストリッパ136に侵入した後、第2電荷状態のより多くの陽イオン(例えば、75As6+)に変換され得る。その結果、加速器114から出射する加速イオンビーム116は、より低い濃度の第1電荷状態の正イオンと、第1電荷状態を使用することによって利用可能な最大運動エネルギーレベルを超えるエネルギーを有する、ある濃度の第2電荷状態のイオンとを含む。電荷ストリッパ136の電荷ストリッピング処理から変換された第2電荷状態のイオンの濃度は例えば、イオン源104から直接引き出された当該第2電荷状態のイオンと比較して、より高くなり得る。例えば、イオン源104から引き出されたイオンビーム108は、ヒ素、ホウ素、リン、または他の種など、任意のビーム種を含んでもよい。
【0038】
図2は、本開示の一態様に係るイオン注入システムの例示的な加速器200の一部に関する、一実施例を示す。例えば、加速器200はRF加速器を備えていてもよく、かつ、加速ステージ202、204、205、206、208、210、および212として本実施例において示されている任意の個数の加速ステージを備えていてもよい。加速ステージ202、204、205、206、208、210、および212は、それぞれ、その両側にRF加速場(図示せず)を発生させるために、例えばRF共振器によって駆動される少なくとも1つの加速器電極214を含んでよい。電荷状態(例えば、正味荷電または価数)を伴う荷電粒子の入射イオンビーム216は、加速器電極の開口部を連続して通過することができる。加速の原理は、当技術分野で公知である。
【0039】
ビーム集束は、加速器200内に組み込まれたレンズ217(例えば、複数の静電四極レンズ)によって提供されてよい。一実施形態では、加速器200は、第1電荷状態に応じた最大運動エネルギーレベルまで、一価イオンを加速させることができる。一実施形態では、より高い第2電荷状態のイオンを採用して、より低い第1電荷状態に応じた最大運動エネルギーレベルよりも高いエネルギーレベルに到達させてよい。したがって、第1電荷状態のイオンを含む入射イオンビーム216は、入射ビームとして加速器200に入射し、かつ、より高い、またはより低い正味荷電原子価の、第2電荷状態のイオンへと変換されてよい。加速器200内に組み込まれた電荷ストリッパ220による手法と同様の手法によって、入射イオンビーム216内の電子を除去することによって、入射イオンビーム216は、より高い電荷状態である第2電荷状態のイオンを含む出射イオンビーム218へと変換される(例えば、75As3+は75As6+へと変換される)。このように、第1電荷状態に応じた最大運動エネルギーレベルを超えて、ビームエネルギーを増加させることができる。
【0040】
入射イオンビーム216が引き出され、かつ、形成された後、例えば、入射イオンビームは、加速器200(例えば、13.56MHzの12共振器RF線形加速器)によって加速されてよい。本開示における加速器は、特定の加速器または特定のタイプの線形加速器(LINAC)に限定されない。一実施形態では、加速器200は、(i)その内部において入射イオンビーム216を加速させるために加速器200内に組み込まれた第1の複数の加速ステージ230と、(ii)出射イオンビーム218として加速器200を出ていくように、入射イオンビーム216をさらに加速させるために加速器200内に組み込まれた第2の複数の加速ステージ232と、を含んでよい。第1の複数の加速ステージは、図2に図示された実施例では、例えば加速器200内かつ電荷ストリッパ220の上流に組み込まれている。但し、第1の複数の加速ステージ230は、質量分析器(例えば、図1の質量分析器110)の前方に代替的に配置されてよい。したがって、ある濃度の第2電荷状態のイオンを生じさせるための高いストリッピング効率をもたらすために十分に高く、イオン源において利用可能な量よりも大きい十分なエネルギーを、第1の複数の加速ステージが第1電荷状態のイオンに提供する限り、電荷ストリッパ220は例えば、加速器200の任意の加速ステージに配置されてよい。
【0041】
例えば、RF加速器の共振器は、任意の加速ステージにおいて、荷電ストリッパ220に置き換えられてよい。一実施例では、例えば、電荷ストリッパ220は、入射イオンビーム216の方向において、(i)加速器の第1の複数の加速ステージ230のうちの少なくとも1つより下流、かつ、(ii)加速器200の第2の複数の加速ステージ232のうちの少なくとも1つより上流に、配置されてよい。他の実施例では、例えば、加速器200の第1の複数の加速ステージ230の数は、第2の複数の加速ステージ232の数より多くてもよく、または少なくてよい。あるいは、加速器200の第1の複数の加速ステージ230の数と、第2の複数の加速ステージ232の数とは、等しくてよい。ステージの数は、図2に示した例に限定されない。
【0042】
さらなる実施形態では、加速器200に入射する入射イオンビーム216は、第1電荷状態の陽イオンビームを含む。そして、出射イオンビーム218は、第1電荷状態よりも正の電荷状態を含む第2電荷状態の陽イオンビームを含む。入射イオンビーム216は、例えば、ストリッパ管234(例えば、重い分子量ガスによって満たされた薄い管)を含む電荷ストリッパ220に入射してよい。また、電荷ストリッパ220は例えば、隣り合う加速器の部位に流入するガス流の量を減らす、または制御するために、ガス源238からガスを圧送するための、ポンプ236(例えば、差動ターボポンプ)を備えてよい。ガスは例えば、入射イオンビーム216から効率的に電子をストリッピング(剥奪)し、かつ、より高い正の電荷状態を含む出射イオンビーム218内に、より高濃度のイオンを生じさせるために、六フッ化硫黄(SF)または別の高分子量ガスを含む。電荷ストリッパ220および/またはポンプ236は例えば、ガス源238から電荷ストリッパ220へのガスの流量を調節するように構成された制御装置(制御デバイス)240を含んでよい。ガスの流量は、入射イオンビーム216のエネルギー、電流、および/または種のうちの少なくとも1つに、機能的に基づき得る。電荷ストリッパ220は、当該電荷ストリッパ220の両側に、ポンピングバッフル242(例えば、差動ポンピングバッフル)をさらに含んでいてよい。ポンピングバッフル228は例えば、差動ポンプ236とともに、隣り合う加速器ステージ(例えば、加速器ステージ205および加速器ステージ206)への気体の漏れ(漏出)を最小限に抑えるように機能してよい。
【0043】
例えば、第1線形加速器(linear accelerator, LINAC)によって加速させられたイオンビームは、第2線形加速器を介してより高いエネルギーゲインを得るために、イオンの電荷状態を増加させるように、電荷ストリッパ220内のイオンを取り囲む電子をストリッピングするように構成された、気体の層に導かれる。例えば、ヒ素(As)の最高エネルギー領域では、第1LINACを介して加速させられた3+ヒ素イオンが、電荷ストリッパ220によって6+ヒ素イオンへとストリッピングされる。例えば、7MeVの3+ヒ素イオンの約8%が、このようにして6+ヒ素イオンへと変換される。しかしながら、仮に変換がより効率的になれば、より多くの6+ビーム電流が得られるだろう。
【0044】
タンデムの高エネルギー加速器は、一般に、高エネルギーイオンを発生させるための電荷ストリッピングに依存する。このため、当該タンデム高エネルギー加速器は、当該電荷ストリッピングのために、アルゴンガスを従来から利用してきた。いわゆる「超高エネルギー」タンデム加速器においては、極めて薄い炭素ホイルも電荷ストリッパとして利用されている。但し、炭素ホイルの寿命は短いため、イオン注入の任意の産業的使用における適用性が制限されており、現在、学術的な研究用の加速器にのみ使用されていることが知られている。例えば、10MeVのヨウ素イオンビームを、種々のガスおよびホイルに通した場合に関連する電荷ストリッピング能力が、図3のグラフ300に示されている。
【0045】
これまで、イオンのストリッピングは、一般に、図4のグラフ400に示されている通りのガスに限定されており、主にアルゴンガスの利用に限定されていた。例えば、ガスストリッパ内でヒ素イオンをストリッピングするために、六フッ化硫黄(SF)ガスが有利に利用されることが可能であり、それによって、電荷状態分布がより高い電荷状態に移行(シフト)する傾向が生じ、したがって、例えば6+イオンの収率が、アルゴンガスにおいて従来認識されている収率のほぼ2倍になる。
【0046】
図3のグラフ300は、一実施例に係る、7200KeVのヒ素3+イオンビームを、(i)SFを含むガスストリッパと、(ii)アルゴンを含むガスストリッパと、に通した後の電荷状態分布の比較を示す。示されるように、SFの使用は5+イオン収率および6+イオン収率を2倍にし、したがって、5+イオンビームおよび6+イオンビームの最終ビーム電流を2倍に増加させる。このような有効性の増加は明らかであり、6+イオンに関して、ストリッパ中においてアルゴンを利用する場合、約8%の変換が達成されるのに対し、SFを利用すると、約16%の変換、すなわち2倍の量の6+ビームが得られる。
【0047】
ガスストリッパは例えば、イオンを物質に通過させることによって動作する。したがって、イオンが十分に速い速度において物質を通過する場合、ストリッパ内のバックグラウンドガス原子または固体膜原子との相互作用によって、イオンビームが電子を失う傾向がある。このため、イオンビームは、イオンがストリッパにどれだけ速く入射するかに応じて、より高い電荷を有してストリッパから出射する。一部の状況ではガスストリッパが望ましい場合があるが、本開示ではさらに、より高い電荷イオンの集団(ポピュレーション)を提供するために、非常に薄い炭素膜を使用した薄膜ストリッパの利用が意図される。しかしながら、ガスストリッパと比較して、薄膜ストリッパは、処理要件に応じて潜在的により短い寿命を有する可能性がある。
【0048】
例示的なガスストリッパでは、一般的には、ガスストリッパ内に管が設けられる。この場合、ストリッピングガスが管の中心に供給され、ガスは周囲の真空よりも高いガス密度を有する。管の末端には、最少量のストリッピングガスがシステムの残りの部分に伝播するように、(例えば、真空ポンプによって)真空が設けられる。このようにして、ストリッパ内により高い圧力の領域が設けられる。これにより、加速させられたヒ素イオンは当該より高い圧力の領域を通過し、ストリッピングガス原子と相互作用し、したがって、イオンから電子をストリッピングし、ストリッパから放出されるイオンの電荷を、より高める。このようなより高電荷のイオンは、タンデム加速器においても有利に利用され得る。
【0049】
例えば、アルゴンは約40の分子量を有し、一方、SFは約146の分子量を有し、アルゴンよりもかなり重い。したがって、1つの仮説は、ストリッパ内において利用される気体が重いほど、イオンビームから電子をストリッピングする効率が高くなる、というものである。SFは、商業的使用のためにより容易に利用可能な、より重い気体分子の1つであり、したがって、他のより重い気体よりも、有益であると考えられる。しかしながら、他の重い分子量のガス(例えば、アルゴンより重い)を、電子ストリッピングのために同様に利用してもよい。SFは例えば、高電圧アークを抑制するのに効率的なガスであるため、有利である可能性がある。
【0050】
これまで、SFは、ガスストリッパまたはビームラインの他の場所において使用するために望ましいガスとは考えられていなかった。例えば、SFは環境的に有害であり、SFガスが大気中にポンプによって排出されること、または、その他の方法によりガスストリッパ内の封止(封じ込め)から逃れることが懸念される。したがって、本開示はさらに、SFを、より毒性の低いおよび/または揮発性の低い成分へと分解することを意図する。または、本明細書に記載された方法によると、SFをリサイクルして再利用することも可能である。
【0051】
SFが従来、高電圧絶縁体のためのタンク内のビームラインの外部のアークを抑制するために使用されてきたことに対して、電子をストリッピングするためにビームライン内においてSFを利用しており、当該ビームラインは、従来のSFの使用とは著しく異なった環境および効用を提供することが、理解される。従来、当業者はビームラインの真空における高電圧領域において、SFを使用するように動機付けされておらず、その理由は、SFの使用は電圧の保持を困難にする可能性があるからであった。例えば、SFが真空内部に提供される場合、スパークを誘発する傾向があり、したがってSFをガスストリッパ内において使用することは、SFの存在を当業者は望まないため、直観に反していることが理解される。ビームライン内において、SFは有害なアークまたはスパークを引き起こすと想定される。
【0052】
SFは、従来のガスストリッパにおいて使用されるアルゴンガスよりも重いガスであり、コンダクタンスがガスの分子量の平方根に反比例することから、管を介したコンダクタンスが低くなり、高圧力領域を局所化することを促進するので、SFがガスストリッパにおいて有利に追加の利点を提供し得る。例えば、局所的な高圧力領域を生成するために、ガスストリッパの管の中央にSFが供給され得る。水素などのより軽いガスをガスストリッパに使用する場合、当該ガスは急速に拡散するので、局在化させることが困難である。
【0053】
1つ以上の実施例によれば、種々のシステムおよび方法が本明細書において提供され、イオン源においてより高い電荷状態、または異なる電荷状態を使用せずに、電荷状態に応じた最大運動エネルギーにおいて利用可能なビーム電流を増加させる。例えば、イオン注入システムのイオン源は、イオンビームを発生させるために、特定の電荷状態(例えば75As3+)のイオン(例えばヒ素イオン)を含んでよい。イオン注入システム内(例えば、ビーム経路に沿って配置された加速器内)のプロセスは、イオンの初期電荷を変化させるように、当該イオンに作用しうる(例えば、荷電交換反応)。例えば、一実施例においては、3という正味正電荷を含むヒ素イオンを加速器内に選択し、ガス源およびターボポンプを含む電荷ストリッパによって電子をストリッピングしてよい。本開示に係るガス源は、六フッ化硫黄(SF)などの高分子量ガスを含む。
【0054】
一実施形態においては、加速器は、複数の加速ステージと、電荷ストリッパとを、内部に含んでよい。高速イオンが電荷ストリッパ内のガスの、別の分子または別の原子に近接すると、イオンは当該別の分子または別の原子から、電子を奪う(ピックアップする)(すなわち、電子捕獲反応)こと、または、当該別の分子または別の原子のせいで電子を失う(すなわち、電荷ストリッピング反応)ことが起こりうる。前者の反応はイオン荷電の値を1つ減らす。例えば、電荷が1のイオンは、中性原子、つまり、電気的に中性の原子になる。後者は、イオン電荷の値を1だけ増加させる(例えば、電荷が1のイオンは、電荷が2のイオンになる)。
【0055】
一実施例においては、第1正電荷状態(例えば、+3の正味の正電荷または価数)を有する陽イオン(例えば、ヒ素イオン)が、電荷ストリッパおよび複数の加速ステージを備える加速器に引き込まれる。それぞれの加速ステージは、ビーム経路に沿ってイオンを加速させるために、RF加速場を発生させるRF共振器を備えていてよい。電荷ストリッパは、(i)高分子量ガス(例えばSF)を加速器内に放出するためのガス源と、(ii)ガスを排出し、ガスが加速ステージに流入することを防止するための、真空を生じさせるためのターボポンプとを備えてよい。電子のイオンをストリッピングし、したがって加速器に入射する陽イオンを加速器から出射する第2電荷状態(例えば、+6の正味の正電荷または価数)のより高い陽イオンへと変換させるように、電荷ストリッパにより加速器内の加速ステージのうちの1つを置き換えてよい。
【0056】
ここで、図5および図6を参照すると、種々の方法500および600が提供され、汚染を制御し、所望の電荷状態のために実質的に高エネルギーのイオンビーム電流を増加させる。例示的な方法500および600が一連のアクト(動作)またはイベントとして本明細書に示され、説明されているが、本開示においては一部のステップが本開示にしたがって本明細書に示され、説明されたものとは別の様々な順序で、および/または他のステップと同時に起こり得るので、そのようなアクトまたはイベントの順序は、図示された順序によって限定されないことにも留意されたい。加えて、本開示に係る方法を実施するために、図示されたすべての工程が必要とされるわけではない。さらに本方法は、本明細書に図示され、説明されたシステムおよび装置に関連しているだけでなく、図示されていない他のシステムにも関連して実施され得ることが理解されるだろう。
【0057】
図5の方法500は、502から開始する。動作504において、イオン源は、第1電荷状態イオンおよび微量金属イオンを発生させる。これにより、動作506において、第1電荷状態イオンおよび微量金属イオンを含む第1イオンビームを引き出すか、他の方法で形成する。動作506において形成された第1イオンビームを例えば、質量分析器内に向かわせる。これにより、第1イオンビームを質量分析する。質量分析器に応じた磁界強度は、荷電対質量比(電荷対質量比)に応じて選択することができる。一実施例では、質量分析はイオン源の下流で行ってもよい。
【0058】
一実施例では、第1電荷イオンと、同じ磁気剛性を有する微量金属イオンとを(例えば、質量分析器を介して)選択して加速器に入射させてもよい。選択された第1電荷状態イオンは、イオン源において利用可能な電荷状態よりも高い電荷状態へのストリッピング効率を、より高める効果を生み出すエネルギーまで加速させられる。動作508において、より高いエネルギーへの加速後、電荷ストリッパを介して少なくとも1つの電子を第1電荷状態イオンからストリッピングして、第2電荷状態イオンおよび微量金属イオンを含む第2イオンビームを画定する。動作510において、第2イオンビームから第2電荷状態イオンを選択し、微量金属イオンがほぼゼロである、第2電荷状態イオンから主に構成される最終イオンビームを形成する。「ほぼゼロ」の微量金属イオンとは、第1イオンビーム中または第2イオンビーム中の微量金属イオンの量と比較して、最終イオンビーム中の微量金属イオンの実質的な減少を示唆することに留意されたい。したがって、「ほぼゼロ」は、ゼロの微量金属イオンまたは実質的に少数の微量金属イオンと解釈することができ、イオン注入にとって重要ではないと考えることができる。一実施例では、動作512において、(1つ以上の)第2正電荷状態の(1つ以上の)陽イオンを最終エネルギーまでさらに加速させてもよい。したがって、本開示では、動作514において、最終イオンビームが第2電荷状態イオンをワークピースに注入する前に、第2イオンビームから微量金属イオンを約50%~100%除去する。
【0059】
図6を参照すると、図6の方法600は、602から開始する。動作604において、イオン源は、第1電荷状態イオンおよび微量金属イオンを含むイオンビームを発生させる。例えば、第1変化状態のイオンは、75As3+イオンを含み、この場合、微量金属イオンは、50Ti2+を含んでもよい。第1電荷状態の様々な他のイオンが、様々な他の微量金属イオンを伴って発生させられてもよく、そのようなすべての組合せが本開示の範囲内にさらに入ることが本開示で理解されることに留意されたい。例えば、第1変化状態のイオンは、75As4+イオンを含み、この場合、微量金属イオンは、56Fe3+イオンを含んでもよい。
【0060】
イオンビームは例えば、種々のビーム種(例えばヒ素)であってもよい。動作606において、特定の順序に全く関係なく、イオンビームを加速させ、質量分析してもよい。動作608において、イオンビーム内の微量金属イオンを伴って第1電荷状態イオンを同時に選択し、加速器に入射させてもよい。動作610において、第1電荷状態イオンを最終エネルギーまでさらに加速させ、イオンビームを電荷ストリッパに通すことによって、電子をストリッピングし、第1電荷状態イオンを第2電荷状態(例えばAs4+)に変換してもよい。動作612において、第2電荷状態イオンをイオンビームから選択し、それによって、第2電荷状態イオンをワークピースに注入する前に、実質的にすべての微量金属イオンをイオンビームから除去してもよい。
【0061】
本明細書で議論する例示的な汚染事例(例えば、Asイオンビーム中のFe汚染)は一実施例に過ぎず、本発明はさらに、同様の原理による他のすべての金属汚染の軽減を意図することを理解されたい。
【0062】
一般的に、イオン源から引き出された所望のイオンはとして表記でき、引き出されたイオンビーム内に埋め込まれた汚染イオンはである。ここで、「m」はイオンXの原子量であり、「a」はイオンXの電荷状態であり、「n」は汚染イオンYの原子量であり、「b」はイオンYの電荷状態である。所望のイオンがエネルギー「a*E」を有し、汚染イオンがエネルギー「b*E」を有している場合、かつ、原子量比「m/n」が電荷比「a/b」に等しい場合に、このことは適用可能である。この場合、汚染イオンYは、磁気フィルタ、静電気フィルタ、および速度フィルタによって分離(例えば、区別)することができない。
【0063】
ドーパントガス材料をイオン源のアークチャンバに導入してイオンを発生させた場合、プラズマの形成中に、複数の電荷状態のドーパント種が、可能性のある微量金属イオンと共に生じる。例えば、Asイオンを得るために、AsHを含むドーパントガス材料がプラズマ点火のためのイオン源のアークチャンバに供給されるとき、多くの異なる電荷状態の75Asイオン(例えば、As+、As2+、As3+、As4+など)、および50Ti2+、56Fe3+などの1つ以上の微量金属イオンが、イオン源において生じる。イオン源のアークチャンバは、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、および他の金属などの金属から構成される様々な金属構成要素を含んでもよい。アークチャンバはまた、チタン(Ti)、鉄(Fe)および/または他の金属などの微量金属を含み得る他の構成要素を含んでもよい。
【0064】
一般に、イオン源のアークチャンバからイオンを引き出し、イオンビームを形成してイオンビームを質量分析器に向けるために、引出電極に引出電圧Vが印加される。しかしながら、状況によっては、異なる種のイオンが、それらの質量対電荷比が実質的に類似または同一であるため、質量分析器から出力されるように選択され得る。例えば、質量分析器がイオンビームから75As3+イオンを選択するように構成されているとき、75As3+と同じ質量対電荷比を有する50Ti2+などのイオンが質量分析器によって選択され得る(例えば、Tiにおける50/2は質量対電荷比25に等しく、これはAsにおける75/3と同じである)。そのため、本実施例では、50Ti2+および75As3+イオンの両方が質量分析器を通過して、さらなる加速のための下流のビームライン構成要素に入る。このようなさらなる加速の前では、50Ti2+イオンに対する例示的な75As3+イオンのエネルギー比(例えば、EAs/ETi)は、引出電圧およびそれぞれのイオンの電荷状態に起因して3:2であることに留意されたい。また、それらの質量比も3:2であるため、運動エネルギーの式E=(1/2)mvを使用して導き出すことができるように、75As3+イオンの速度(vAs)および50Ti2+イオンの速度(vTi)は、実質的に類似または同一である。
【0065】
第1電荷状態イオン(例えば、75As3+イオン)および微量金属イオン(例えば、50Ti2+微量金属イオン)を含むイオンビームが下流のRF線形加速器(LINAC)によってさらに加速されるとき、両方のイオンは例えば、RF LINACへのそれぞれの入射速度が実質的に同じであるために、加速電極におけるRF相変化(RF phase change)と同期する。したがって、それぞれのイオンは、実質的に同じ最終速度およびエネルギー比(例えば、3:2)でRF LINACから出射する。RF LINACは、加速度を提供すると同時に、速度フィルタとしても機能し得る。ただし、75As3+イオンと50Ti2+イオンとが同一の速度のため、RF LINACはそれらを区別できない。
【0066】
上述したRF LINACではなく、DCベース加速器によってイオンビームが加速される状況では、イオンのエネルギーゲインは、それぞれの電荷状態と加速のために提供される電圧とに基づいている。したがって、同様の方法により、75As3+イオンと50Ti2+イオンとの最終エネルギー比率も同じになる(例えば、3:2)。
【0067】
例えば、下流の電磁石は、RF加速器またはDCベース加速器による最終加速後であっても、上述と同様の理由によりイオンを分離することができない。他方、異なるエネルギー対電荷比の選択によりイオンを分離するために、イオン注入システムにおいて静電エネルギーフィルタを使用してもよい。しかしながら、この場合、静電エネルギーフィルタはどちらも分離できない。なぜなら、最終加速後、75As3+イオンと50Ti2+とのエネルギー比率は3:2であり、それらの電荷比率も3:2であるからである。
【0068】
したがって、低電荷状態イオンを加速させるための実質的なビームライン長を追加することなく、ワークピースへの注入のための高エネルギーを得るために、高電荷状態イオンが所望される場合、イオン源からの上述の特定の微量金属汚染メカニズムのためのフィルタ解決法が必要とされる。
【0069】
このように本開示は、電荷ストリッパと、電荷状態セレクタとを備える例示的な装置を記載する。この場合、電荷状態セレクタは、電荷ストリッパの下流かつ隣に位置する電磁質量分析器である。この組み合わされた装置は例えば、電荷状態セレクタがイオンビームから75As3+イオン(例えば、第1電荷状態)ではなく75As4+イオン(例えば、第2電荷状態)を選択するように設定されているとき、75As3+イオンが電荷ストリッピング処理を通過した後、50Ti2+のような微量金属イオンを上述のイオンビームから即座に除去する。75As4+イオンの質量対電荷比は75/4(すなわち18.75)であり、50Ti2+イオンの質量対電荷比は依然として50/2(すなわち25)であり、したがって、微量金属イオンが同様の速度であっても、微量金属イオンを取り除くことができる。
【0070】
したがって、電荷ストリッパの後に位置する電荷状態セレクタが75As3+イオンではなく75As4+イオンを選択するように設定されている場合、例えば、微量金属50Ti2+イオンは選択されないため、イオンビームから除去される。実際、電荷ストリッピング後に75As4+と共に電荷状態セレクタ磁石を通過するように選択され得る他のTi電荷状態イオンは存在しない。したがって、選択された75As4+イオンは、イオンビーム中の微量金属50Ti2+汚染なしに、追加のRFまたはDCベース加速器によってさらに加速され、注入のための所望のより高いエネルギーに到達し得る。それによって、ワークピースに所望の注入を提供する。
【0071】
別の実施形態では、電荷状態セレクタは静電フィルタを含んでもよい。静電フィルタは、電荷ストリッピング処理後にエネルギー対電荷比に基づいて所望の第2電荷状態イオンを選択する。例えば、上述のように、第1電荷状態イオン75As3+と微量金属イオン50Ti2+とのエネルギー比は3:2であり、その電荷比も3:2である。したがって、静電フィルタは、同じエネルギー対電荷比(すなわち1)のため、イオンを分離することができない。電荷ストリッピング処理後、静電フィルタはそのエネルギー対電荷比が3:4である第2電荷状態イオン75As4+を選択するように構成され、50Ti2+の微量金属イオンは、2:2でのその異なったエネルギー対電荷比のためにフィルタ除去される。ここでも、75As4+と共に静電フィルタを通過させるために電荷ストリッピング後に選択される他の潜在的な50Ti電荷状態イオンはない。選択された75As4+イオンは、イオンビーム中の微量金属50Ti2+汚染なしに、追加のRFまたはDCベース加速器によってさらに加速され、注入のための所望のより高いエネルギーに到達し得る、それによって、ワークピースに所望の注入を提供する。
【0072】
本開示では、質量分析磁石がイオン源から75As4+イオンを選択するように構成され、イオン源からの56Fe3+微量金属イオンが汚染物質となり、75As4+イオンと共に質量分析器を通過し得る場合にも、上述した微量金属汚染の同様のメカニズムが起こり得ることが理解される。同様に、上述の電荷ストリッパと下流の電荷状態セレクタとを組み合わせたフィルタ解決法も同様に利用してもよい。
【0073】
本開示はさらに、特定のドーパントおよび/または加速度レベルを有する電荷状態の組み合わせを選択することを提供する。図7は、本発明のさらに別の実施例に係る簡略化されたシステム700をさらに示す。例えば、イオンビーム702はイオン源704において形成され、当該イオンビームがイオン源から引き出され、質量分析器705によって質量分析され、第1加速器706(例えば、線形加速器またはLINAC)および電荷ストリッパ708を通過する。上述のように、第1加速器706の出口におけるイオンビーム702は、イオン源704からの第1電荷状態イオン(例えば、75As3+)および微量金属イオン(例えば、56Ti2+)を含み得る。本実施例における電荷ストリッパ708は、第1加速器706と第1磁石710との間に配置され、第1電荷状態イオンを、所望の第2電荷状態イオン(例えば、75As4+)を含む他の電荷状態イオンに変換するように構成されている。第2加速器712(例えば、いわゆるエネルギーブースタまたはE-ブースタ)が、第1磁石710と第2磁石714との間にさらに設けられ、第1磁石710によって選択された第2電荷状態イオンをより高いエネルギーまで加速させてもよい。第2磁石714を通過した後、イオンビーム702は、ワークピースに注入するためのエンドステーション716に向けられる。例えば、第1磁石710は、電荷状態セレクタとして利用されてもよい。
【0074】
例えば、第1磁石710は、第1加速器706とE-ブースタ712との間に設けられる第1の60°の磁石を含んでもよい。第2磁石714は、エネルギーフィルタリングのためにEブースタの後に設けられる120°の磁石を含んでもよい。第1磁石710および第2磁石714の特定の角度が本明細書で説明されるが、様々な代替形態も存在し、本開示の範囲内に入るものとして意図されることに留意されたい。
【0075】
上記実施例の1つの有利な態様において、電荷ストリッパ708の下流に配置された第1磁石710は一般に、電荷ストリッパ708を経て第1電荷状態イオンからストリッピング処理された後の所望の第2電荷状態イオンを選択するように第1磁石710を設定することによって、その他全ての電荷状態および微量金属イオンを除去する。
【0076】
代替の実施形態では、図8に示されるように、図7に示された第2加速器712および第2磁石714は省略され得る。図8の電荷ストリッパ708における電荷ストリッピングの後、例えば、微量金属イオン汚染を伴わない、第1磁石710によって選択された第2電荷状態の第2電荷状態イオンビーム702を、さらなる加速なしにエンドステーション716内のワークピースに注入してもよい。
【0077】
本発明は特定の応用方法および特定の実施形態に関して示され、説明されてきたが、本明細書および添付の図面を読み取り、理解することにより、均等な変更および修正が他に想起されることが理解されよう。特に、上述のコンポーネント(アセンブリ、デバイス、回路、システムなど)によって実行される様々な機能に関して、そのようなコンポーネントを説明するために使用される用語(「手段」への言及を含む)は別段の指示がない限り、開示されたコンポーネントの指定された機能を実行する任意のコンポーネントに対応する(すなわち、機能的に均等である)ことが意図され、たとえ、開示された構造と構造的に均等ではなくても、本明細書で示された本開示の例示的な実施形態において機能を実行する。
【0078】
加えて、本開示の特定の構成は複数の実施形態のうちの1つのみに関して開示され得るが、そのような構成は任意の所与の応用方法、または特定の応用方法に対して望ましく、かつ有利であり得るように、他の実施形態の1つ以上の他の構成と組み合わせてよい。さらに、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」という用語、およびそれらの変形は、本明細書の詳細な説明、または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される限りにおいて、これらの用語は、「備える」という用語と同様に、包括的であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1A】本開示の一態様に係るイオン注入システムを示す簡略化された上面図である。
図1B】本開示の一態様に係る、加速器の後に電荷ストリッパを有するイオン注入システムを示す簡略化された上面図である。
図2】本開示の少なくとも1つの態様に係るイオン注入システムの一部である。
図3】アルゴンおよび六フッ化イオウを通るヒ素ビームの電荷状態分布を示す。
図4】電荷をストリッピングする場合に使用される種々の媒体を示す。
図5】本開示の別の実施例に係る金属汚染低減方法を示すフローチャート図である。
図6】本開示のさらに別の実施例に係る金属汚染低減方法を示すフローチャート図である。
図7】本開示のさらに別の実施例に係るイオン注入システムの例示的な配置図である。
図8】本開示のさらなる実施例に係る注入システムの簡略化された概略配置図である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8