(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】サンプル特性評価のための超高分解能時間領域分光法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3586 20140101AFI20241015BHJP
【FI】
G01N21/3586
(21)【出願番号】P 2022573798
(86)(22)【出願日】2021-02-11
(86)【国際出願番号】 EP2021053298
(87)【国際公開番号】W WO2021160725
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-11-27
(32)【優先日】2020-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311016455
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】518202378
【氏名又は名称】サントラル・リール・アンスティテュ
(73)【特許権者】
【識別番号】522320006
【氏名又は名称】ウニベルシテ・ドゥ・リール
(73)【特許権者】
【識別番号】522222489
【氏名又は名称】ウニベルシテ・ポリテクニック・オー-ドゥ-フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】522320017
【氏名又は名称】ジュニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペレッティ,ロマン
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034085(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0307520(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
G01J 3/00- 4/04
G01J 7/00- 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの物理パラメータ
(pi)の組を特定する方法であって、
- A 測定サンプル時間トレースEs(t)を取得するステップであって、前記測定サンプル時間トレースEs(t)は、時間領域分光法により、期間Tを有し、且つコム周波数を示す電磁パルスを周期的に発出する励起ビーム(EB)によってサンプル(S)を照明し、及び前記サンプルに由来する電磁場をコヒーレント検出によって時間の関数として検出することによって取得されており
、サンプル時間トレースが測定される持続時間は、tmaxであり、ここで、tmax<Tである、ステップ、
- B 測定参照時間トレースEref(t)を取得するステップであって、前記測定参照時間トレースEref(t)は、ステップAと同じ条件において、ただし前記サンプルの存在なしでの照明及び検出によって取得されている、ステップ、
- C 前記期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点にゼロ値を付与することによって得られる、Eref0(t)と呼ばれる拡張参照時間トレースを特定し、及びTに等しい時間ウィンドウについて計算される、前記拡張参照時間トレースの離散フーリエ変換
【数1】
を特定するステップ、
- D 前記拡張参照時間トレースの前記フーリエ変換
【数2】
及び前記サンプルの物理挙動モデルから、前記物理パラメータ(pi)の組に依存する、サンプル周波数モデル
【数3】
と呼ばれる、周波数領域での前記サンプルのインパルス応答のモデリングを特定するステップ、
- E 前記物理パラメータ(pi)の組に最適化アルゴリズムを適用するステップであって、
- E1 物理パラメータ(pi)を初期化するサブステップ、
- 以下のサブステップ:
- E2 推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれる、前記サンプル周波数モデル
【数4】
の逆離散フーリエ変換を計算するサブステップ、
- E3
関数fに従って、前記測定サンプル時間トレースEs(t)
と推定時間トレースEest(t)との間の差からエラー関数(ε
er{pi})を計算するサブステップ
であって、fは、形態学的距離を定義する関数であり、
【数5】
である、サブステップ
を、前記エラー関数を最小化する物理パラメータの値(pi
opt)の組を得るまで繰り返し実行するサブステップ
を含むステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記励起ビーム(EB)は、THz領域内にあり、100GHz~30THzに含まれる周波数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記
サンプル時間トレースが測定される持続時間tmaxは、前記測定参照時間トレースのエネルギーの95%超を含むように選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記サンプル周波数モデル
【数6】
は、フーリエ変換Eref0(ω)に、サンプル挙動を特徴付ける伝達関数T(ω)を乗じることを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記伝達関数T(ω)は、複素屈折率n(ω)に依存する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
誘電率ε(ω)と呼ばれる前記複素屈折率の二乗は、各スペクトル線に関するドルーデ・ローレンツモデルに追従し、スペクトル線は、3つのパラメータ、振幅(M)、減衰率(γ)と呼ばれる幅及び中心周波数(ω0)の組によって特徴付けられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エラー関数は、
【数7】
として定義される、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
サンプル(S)を特性評価するための特性評価装置(50)であって、
- 測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を記憶するメモリ(MEM)であって、前記測定サンプル時間トレースEs(t)は、時間領域分光法により、期間Tを有し、且つコム周波数を示す電磁パルスを周期的に発出する励起ビーム(EB)によって前記サンプル(S)を照明し、及び前記サンプルに由来する電磁場をコヒーレント検出によって時間の関数として検出することによって取得されており
、サンプル時間トレースが測定される持続時間は、tmaxであり、ここで、tmax<Tであり、
前記測定参照時間トレースEref(t)は、測定サンプル時間トレースEs(t)と同じ条件において、ただし前記サンプルの存在なしでの照明及び検出よって取得されている、メモリ(MEM)、
- 処理ユニット(PU)であって、
- 前記期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点にゼロ値を付与することによって得られる、Eref0(t)と呼ばれる拡張参照時間トレースを特定し、及びTに等しい時間ウィンドウについて計算される、前記拡張参照時間トレースの離散フーリエ変換
【数8】
を特定すること、
- 前記拡張参照時間トレースの前記フーリエ変換Eref0(ω)及び前記サンプルの物理挙動モデルから、物理パラメータ(pi)の組に依存する、サンプル周波数モデル
【数9】
と呼ばれる、周波数領域での前記サンプルのインパルス応答のモデリングを特定すること、
- 前記物理パラメータ(pi)に最適化アルゴリズムを適用することであって、
- 物理パラメータを初期化するステップ、
- 以下のサブステップ:
- 推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれる、前記サンプル周波数モデル
【数10】
の逆離散フーリエ変換を計算するサブステップ、
-
関数fに従って、前記測定サンプル時間トレースEs(t)
と推定時間トレースEest(t)との間の差からエラー関数(ε
er{pi})を計算する
サブステップであって、fは、形態学的距離を定義する関数であり、
【数11】
である、サブステップ
を、前記エラー関数を最小化する物理パラメータの値(p
opti)の組を得るまで繰り返し実行するステップ
を含む、適用すること
を行うように構成された処理ユニット(PU)
を含む特性評価装置(50)。
【請求項9】
分光光度計(Spectro)であって、
- 請求項8に記載の特性評価装置(50)、
- 測定装置(MeD)であって、
- サンプル(S)を前記励起ビーム(EB)によって照明するように構成された光源(LS)、
- 前記測定サンプル時間トレースEs(t)及び前記測定参照時間トレースEref(t)を検出するように構成された検出器(D)
を含む測定装置(MeD)
を含む分光光度計(Spectro)。
【請求項10】
請求項1~7の何れか一項に記載のステップを実施するように適合されたコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラムを組み込んだコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、時間領域分光法(TDS)により、サンプルの物理パラメータを特定する方法に関する。特に、本発明は、サンプルの測定時間トレースをフィッティングし、且つそのようにして物理パラメータを抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時間領域分光法は、今日、テラヘルツ時間領域(THz-TDS)において、すなわち0.1THz~30THzの周波数の励起ビームを使用することによって実行される定着した技術である。THz-TDSは、半導体、強誘電体、超導電体、液体、気体、生体分子、炭水化物等の分子結晶、バンドパスフィルタ、マイクロ流体回路構成に埋め込まれたメタサーフェス等、様々な材料を調査できることが証明されている。
【0003】
測定関数が干渉法を通した時間領域データの自己相関であるフーリエ変換赤外分光計とは対照的に、THz-TDSは、THz周波数範囲内の電界を直接測定することに基づく。
【0004】
一般的なTHz-TDS装置の動作原理を
図1に示す。THz励起ビームEBは、光伝導性THzアンテナ又は非線形結晶NLにより、フェムト秒レーザLによって生成される近赤外パルスの光整流効果によって発出される(
図1に示す)。励起ビームEBは、
図2に示されている。これは、期間Tで周期的に発出される電磁/光パルス20からなり(左側)、そのスペクトル21は、周波数コムを含む(右側)。何れの周期性もTDS法の実行にとって重要である。
【0005】
今日、電磁(THz)パルスは、フェムト秒レーザパルスの光整流又はフェムト秒レーザパルスによって照明される光伝導性THzアンテナによって取得され得る。
【0006】
THz範囲内にあるために、パルスは、数百フェムト秒~数ピコ秒にわたり継続すべきである。レーザの繰返し周波数frep(1/Tに等しい)は、GHz~サブHz周波数で様々であり得る。
【0007】
次に、レンズ又は放物面鏡を用いてパルスビームをコリメートし、それを調査対象のサンプルSに向かって方向付ける。サンプルから発せられる透過(又は反射)パルスは、その後、光学システムによって収集されて、検出器Dに偏向される。検出器は、電磁波の電界を時間の関数としてフェムト秒~数百ピコ秒又はさらにナノ秒に及ぶスケールで測定する。これは、光伝導性又は電気光学サンプリングによって行われ得る。時間サンプリングは、典型的には、電動移動ステージ上に取り付けられたミラーで構成される遅延線DLを用いてコヒーレント検出によって行われ、
図3に示されるように、最大時間エクスカーションtmaxを有する遅延Δtが導入される。時間サンプリングは、その繰返し率がわずかに異なる2つの周波数コムのビート測定を通しても実行できる(HASSOPSと呼ばれる技術)。2回の測定間の時間間隔は、サンプリング期間tsと呼ばれ、周波数サンプリングfs=1/tsである。下記では、時間トレースと呼ばれる、電界測定が行われる時間範囲をtmaxと呼ぶ。
【0008】
典型的なサンプル期間tsは、10~50fsである。平均エネルギーではなく、THzパルスの電界を直接測定できることにより、波形の位相及び振幅の両方を把握することができ、したがってサンプルの吸光係数及び屈折率に関する情報が提供される。本願では、測定サンプル時間トレースをEs(t)と呼び、サンプルがない状態で測定された参照時間トレースをEref(t)と呼ぶ。
【0009】
材料分析の場合、材料パラメータを取得する通常の方法は、記録されたパルス時間トレースEs(t)及びEref(t)(サンプルがある場合及びない場合)のフーリエ変換を行うことである。線形概算では、これらの2つのスペクトルの比は、複素透過係数と呼ばれ、以下のように記述することができる。
【数1】
【0010】
【数2】
及び
【数3】
は、それぞれ時間領域信号Es(t)及びEref(t)のフーリエ変換であり、
【数4】
は、複素屈折率であり、実部が遅延に対応し、虚部が材料中への吸光に対応し、dは、測定しなければならないサンプルの厚さであり、ωは、式ω=2πfによって周波数に関連付けられる角周波数である。項
【数5】
は、2つの空気/材料界面に関する通常入射でのフレネル係数の積であり、
【数6】
は、サンプル中のファブリペロー多重反射を考慮に入れた項である。
【0011】
式(1)は、いわゆる順問題を設定し、
【数7】
及び
【数8】
が分かっている場合、
【数9】
を得ることができる。実験により、
【数10】
及び
【数11】
が得られるため、実際の関心対象は、「逆問題」であり、すなわち、
【数12】
及び
【数13】
が分かれば、
【数14】
を特定することができる。
【0012】
一般に、サンプルの関心対象の物理パラメータを特定するための第一の方法10は、以下の原理的なステップ:
- サンプルのある場合及びない場合の実験を実行するステップ、すなわちEs(t)及びEref(t)を測定するステップ(ラクトースに関する例が
図4に示されており、領域5は、減衰正弦曲線後の振動に対応する)、
- 両方の時間トレース
【数15】
及び
【数16】
のtmax(測定値がある場合)に等しい時間ウィンドウについて離散フーリエ変換を計算し(
図4の信号に基づく
図5を参照されたく、ピーク6は、減衰正弦曲線5のフーリエ変換の主成分に対応する)、及び測定伝達関数
【数17】
を特定するステップ、
- サンプルの厚さを測定するステップ、
- 屈折率の実部及び/又は虚部
【数18】
を、(勾配フリー又は準ニュートン等の最小化アルゴリズムを使用して)エラー関数を最小化することによって抽出するステップであって、エラー関数は、係数エラーδρ及びモデル化された透過係数
【数19】
と測定透過係数
【数20】
との間の位相エラーδψから定義され、抽出は、全ての単一の信号周波数について行われる(ラクトースに関する
図6を参照されたく、d=900μm±20μmである)ステップ、
- 屈折率がドルーデ・ローレンツモデル等のモデルに追従することを前提として、屈折率をフィッティングして材料パラメータを取得するステップ
を含む。材料パラメータは、典型的には、スペクトル線の強度及び共振周波数並びに/又は線幅である(以下を参照されたい)。
【0013】
ステップii)に関して、離散フーリエ変換(DFT)は、周期的離散関数のフーリエ変換を特定するための数学的ツールである。DFTの計算は、FFTアルゴリズム(高速フーリエ変換)によって最も頻繁に実行される。
【0014】
サンプルと相互作用する電磁パルスには、サンプルの屈折率の実部
【数21】
に関する遅延及び屈折率の虚部
【数22】
に関する吸光が生じる。
図4の遅延Rは、
【数23】
に関する時間遅延であり、
図4の振動5は、サンプルの吸光を波として見たものを示し、ピーク6は、
【数24】
に関する周波数領域の吸光ピークである。
【0015】
ステップ(v)に関して、ドルーデ・ローレンツモデルは、サンプル中において、光が下降調波振動子内の電子と相互作用するという前提に基づく。その運動方程式は、時間領域の指数関数によって減衰する正弦曲線で表すことができ(
図4の5を参照されたい)、これは、周波数ドメインのローレンツ曲線に対応する。吸光スペクトル線は、したがって、
図7に示されるローレンツ曲線を辿る。このモデルは、特に、ガス分光法において圧力が数十マイクロバールより高くなり次第、使用される。
【0016】
ローレンツ曲線を辿る各スペクトル線は、3つのパラメータ:最大値M、線幅γ、共鳴周波数f0によって特徴付けられ、それぞれ物理パラメータp1、p2及びp3に対応する(この場合、i=1~3である)。
【0017】
この第一の方法は、確実な結果を示しているが、幾つかの欠点がある。
【0018】
第一に、サンプル厚さの精密な測定が必要である。第二に、結果が因果律(この問題ではクラマース・クローニッヒの関係式の形態をとる)に従わず、したがって誤った結果が導かれ得る。
【0019】
上述の方法の欠点の幾つかを克服するために、Perettiの刊行物と呼ぶ刊行物“THz-TDS time-trace analysis for the extraction of material and metamaterial parameters”form Peretti et all,IEEE transactions on Terahertz science and technology,vol9,no.2,March 2019”は、測定されたTHzパルスの初期時間領域データ比較に基づく第二の方法を記載している。このような方法を実施するための理論上の方法は、
- (i)持続時間tmaxについての測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を取得するステップ、
- (ii)サンプルが、参照パルスを、モデル化されたパルスにどのように変換するかを説明するパラメータ{p
i}の組に依存するモデルE
model{p
i}(t)を特定するステップ、
- (iii)モデル化されたパルスと、測定された(サンプル)パルスとの間の差のL
2ノルム(差の二乗の合計の平方根)に等しい、最小化のための目的関数Obj{p
i}
【数25】
を特定するステップ、
- (iv)目的関数を最小化するパラメータpiの値の組を特定するステップ
となるであろう。
【0020】
この方法は、サンプルの厚さdが分かっていることを必要とせず、因果律に従っており、なぜなら、厚さがパラメータとして得られ、またエラー計算が時間領域内で行われるためである。
【0021】
残念ながら、サンプルが、参照パルスを、モデル化されたパルスにどのように変換するかを説明するモデリングは、時間領域において知られていない。既知のモデルの何れも、周波数ドメイン内でのサンプル挙動:
【数26】
を説明するものである。
【0022】
しかしながら、式(2)の公式化の実践的利点は、関数のノルムがそのフーリエ変換のノルムと同じであると明示するパーセバルの定理によって得られ、これは、目的関数Obj{p
i}が、以下の式:
【数27】
を用いて計算され得ることを意味し、式中、
ω
max=π/dtであり、ここで、dtは、サンプル期間tsに対応し、
ω
min=-π/dtである。
【0023】
したがって、式(3)では、目的関数は、周波数領域でのサンプル挙動のモデリングと、測定サンプル時間トレースEs(t)の離散フーリエ変換との間の差の関数として表現される。
【0024】
これは、極めて好都合であり、時間及び周波数の両方の領域での目的関数の計算が可能となる。この方法は、したがって、周波数領域で直接実行することができ、繰返しごとのフーリエ変換の計算が不要となる。
【0025】
DFTを使用することにより、上述の2つの方法は、それらのデータが周期的であり、期間が記録の時間の長さに対応することを前提とする。その結果、これらは、2つのパルス間の時間距離Tが遅延線の最大エクスカーションtmaxと正確に等しいことを前提とし、これは、一般的に誤りである。
【0026】
周波数領域で実行されるが、時間領域でのフィットに対応する、Perettiの刊行物に記載されている第二の方法20は、
図8に示されており、以下のステップを含む:
- ステップA0:測定サンプル時間トレースEs(t)を取得するステップ、
- ステップB0:測定参照時間トレースEref(t)を取得するステップ、
- ステップC0:tmaxに等しい時間ウィンドウについてEs(t)の離散フーリエ変換
【数28】
を特定するステップ、
- ステップC0’:tmaxに等しい時間ウィンドウについてEref(t)の離散フーリエ変換
【数29】
を特定するステップ。
【0027】
これらのステップは、第一の方法10のステップ(i)及び(ii)と同じである。
- ステップD0:物理(所定の)パラメータpiに依存するサンプルの物理挙動モデルからサンプル周波数モデル
【数30】
を特定するステップ。このモデルは、周波数領域でのサンプルのインパルス応答のモデリングを行う。
【0028】
典型的には、モデル
【数31】
は、参照時間トレース
【数32】
のフーリエ変換に、式(1)の複素屈折率に関する伝達関数
【数33】
を乗じることを含む。
【数34】
- ステップE0:物理パラメータpiの組に最適化アルゴリズムを適用するステップであって、
- E1 物理パラメータを初期化するステップ、
- その後、測定サンプル時間トレース
【数35】
の離散フーリエ変換とサンプル周波数モデル
【数36】
との間の差から目的関数Obj{pi}を特定するステップE2を、前記目的関数を最小化するパラメータpiの値を得るまで繰り返し実行するステップ
を含むステップ。例えば、目的関数が所定の閾値より小さくなるまで繰り返す。
【0029】
例えば、目的関数は、以下の差の二乗(最小二乗アルゴリズム)から特定される。
【数37】
【0030】
方法は、計算を幾つかのステップで実行し、時間領域でのフィットを実現するが、周波数領域での簡単な計算を使用する。
【0031】
バルク中実材料に関して、Perettiの刊行物は、複数のドルーデ・ローレンツモデルを実装しており、これは、電子共振子(マトリクス振動、振動電荷等)の組としてサンプルの誘電率を定義し、以下の誘電率関数を導く。
【数38】
式中、ε
∞は、関心対象範囲と比較した高周波数での誘電率であり、ω
pは、プラズマ周波数であり、γ
pは、減衰率であり、k
maxは、考慮される振動子の数であり、ω
ok、γ
k及びΔε
kは、それぞれk番目の振動子の共鳴角周波数、減速率(線幅)及び強さ(最大、誘電率単位で表される)である。
【0032】
項
【数39】
は、自由キャリアの存在のためにルドルーデ項である。
【0033】
式(6)は、
【数40】
の式(1)に導入され、モデル
【数41】
は、式(5)によって定義される。
【0034】
したがって、自由キャリアのない1つの均一な層の場合(ドルーデ項が0に等しい)、伝播は、フレネル係数及び複数のローレンツ振動子モデルを通して3×k+1の物理パラメータpiの組を用いてモデル化されることになる。
【0035】
最適化アルゴリズムでは、したがって、各スペクトル線kについてパラメータp1kopt、p2kopt、p3koptの3つの値の組プラスε∞の値が得られ、目的関数が最小化される。
【0036】
メタサーフェスに関する
【数42】
及び
【数43】
の他のモデルもPerettiの刊行物に記載されており、これは、時間領域結合モード理論(TDCMT)と呼ばれる。
【0037】
上述の方法は、前述の調波振動子モデルを使用して波の時間トレースを直接モデル化し、この振動子(固有周波数、減衰持続時間及び電磁波との結合)のパラメータを、モデルがサンプル時間トレースとマッチするように調整することを提案している。これを行うために、パーセバルの定理により、最適化アルゴリズムが周波数領域について実行される。
【0038】
Perettiの刊行物に記載されている方法には、様々な利点がある:(i)サンプル厚さの正確な測定が不要である。実際、炭化水素又は半導体ウェハ等の材料のサブマイクロメートルレベルの精度での正確なサンプル厚さを取得することは、困難である。したがって、このステップを回避することは、真の改善である。(ii)屈折率モデリングの問題は、全体として分析され、したがって通常の周波数につき2つの値と比較して、フィットのためのわずかなパラメータでよく、この方法は、ノイズの影響をはるかに受けにくい。これにより、屈折率に関して非常に高い精度に到達できる。(iii)残留フィットエラーは、振幅ユニット内にあるため、このエラーの解釈を明確に行うことができ、それは、実験のよりよい理解及び実装されるモデルの見落としの発見の可能性につながる。(iv)フィットは、時間領域で行われるため(最適化は、周波数領域で行われる)、強力な吸光があっても位相が失われず、追加のステップが不要である。(v)最後に、これにより、ドルーデ・ローレンツモデルを用いた材料パラメータの精密、且つ確実、且つ一貫した取得だけでなく、メタ材料のそれらも可能となる。
【0039】
あらゆる古典的な方法と同様に、Perettiの刊行物に記載されている方法にも幾つかの欠点がある。主なものは、分解能であり、これは、最大時間遅延tmaxの値によって限定される。
【0040】
実際、パーセバルの定理により、最適化は、周波数領域内で行われる。時間ウィンドウtmaxで実行される離散フーリエ変換
【数44】
及び
【数45】
の計算(FFTアルゴリズムによる)は、スペクトル分解能に直接的な影響を与え(以下を参照されたい)、これは、スペクトル線の幅を測定するか、又は2つの近接するスペクトル線を区別することが可能であることを意味する。
【0041】
スペクトル分解能δf、すなわちスペクトル線幅を測定するか、又は2つの隣接する線を区別する能力は、通常のいわゆるフーリエ不確実性限界によって限定され、これは、置換線の総遅延時間の逆周波数に対応する:
δf=1/tmax。
【0042】
tmaxが約1ns(実現可能な最良値)であるとき、スペクトル分解能は、最良で1GHzの範囲である。
【0043】
1/tmaxのこのスペクトル限界は、DFT計算から直接得られる。
【0044】
関数fの標準フーリエ変換は、
【数46】
である。
【0045】
間隔[n,n+1[で一定の関数fでは、離散フーリエ変換は、
【数47】
である。
【0046】
周期的関数fで周期についてy1~yNのN個の離散値をとる場合、DFTは、以下の式によって与えられる。
【数48】
【0047】
時間及び周波数は、2つの共役的な大きさであるため、DFTのスペクトル分解能は、ハイゼンベルクフーリエ基準によって限定される。DFTは、フーリエ変換限定分解能δfを有し、簡潔に言えば、
【数49】
である。
【0048】
実際に、DFT計算は、tmaxと正確に等しい周期性をとるため、tmax直後の時点に対応する情報は、0直後の時点に対応する情報に等しいと考えられる。これは、よく知られたスペクトルエイリアシングである。例えば、刊行物Xu,J.,Yuan,T.,Mickan,S.,&Zhang,X.C.(2003),“Limit of spectral resolution in terahertz time-domain spectroscopy”,Chinese Physics Letters,20(8),1266は、SNR(信号対ノイズ比)が1より高いと仮定して、時間がtmaxに限定された電磁パルスの検出が式(7)の分解能の周波数限定につながると説明している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0049】
【文献】“THz-TDS time-trace analysis for the extraction of material and metamaterial parameters”form Peretti et all,IEEE transactions on Terahertz science and technology,vol9,no.2,March 2019”
【文献】Xu,J.,Yuan,T.,Mickan,S.,&Zhang,X.C.(2003),“Limit of spectral resolution in terahertz time-domain spectroscopy”,Chinese Physics Letters,20(8),1266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0050】
したがって、サンプルの物理パラメータを、前述のスペクトル限界を克服し、したがって改善されたスペクトル分解能を有するTDS技術が実行されたそのサンプルから生じる電磁界の測定から特定する新規な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0051】
第一の態様によれば、サンプルの物理パラメータの組を特定する方法が提供され、これは、
- A 測定サンプル時間トレースEs(t)を取得するステップであって、測定サンプル時間トレースEs(t)は、時間領域分光法により、期間Tを有し、且つコム周波数を示す電磁パルスを周期的に発出する励起ビームによってサンプルを照明し、及びサンプルに由来する電磁場をコヒーレント検出によって時間の関数として検出することによって取得されており、サンプル時間トレースが測定される持続時間は、tmaxであり、ここで、tmax<Tである、ステップ、
- B 測定参照時間トレースEref(t)を取得するステップであって、測定参照時間トレースEref(t)は、ステップAと同じ条件において、ただしサンプルの存在なしでの照明及び検出によって取得されている、ステップ、
- C 期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点にゼロ値を付与することによって得られる、Eref0(t)と呼ばれる拡張参照時間トレースを特定し、及びTに等しい時間ウィンドウについて計算される、拡張参照時間トレースの離散フーリエ変換
【数50】
を特定するステップ、
- D 拡張参照時間トレースのフーリエ変換
【数51】
及びサンプルの物理挙動モデルから、物理パラメータの組に依存する、サンプル周波数モデル
【数52】
と呼ばれる、周波数領域でのサンプルのインパルス応答のモデリングを特定するステップ、
- E 物理パラメータの組に最適化アルゴリズムを適用するステップであって、
- E1 物理パラメータを初期化するサブステップ、
- 以下のサブステップ:
- E2 推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれる、サンプル周波数モデル
【数53】
の逆離散フーリエ変換を計算するサブステップ、
- E3 測定サンプル時間トレースEs(t)と推定時間トレースEest(t)との間の差からエラー関数を計算するサブステップ
を、前記エラー関数を最小化する物理パラメータの値の組を得るまで繰り返し実行するサブステップ
を含むステップ
を含む。
【0052】
第一の態様の発展形態によれば、励起ビームは、THz領域内にあり、100GHz~30THzに含まれる周波数を有する。
【0053】
第一の態様のさらなる発展形態によれば、最大時間遅延tmaxは、測定参照時間トレースのエネルギーの95%超を含むように選択される。
【0054】
第一のもののさらなる発展形態によれば、サンプル周波数モデル
【数54】
は、フーリエ変換Eref0(ω)に、サンプル挙動を特徴付ける伝達関数T(ω)を乗じることを含む。
【0055】
好ましくは、伝達関数T(ω)は、複素屈折率n(ω)に依存する。
【0056】
第一の態様のさらなる発展形態によれば、誘電率ε(ω)と呼ばれる複素屈折率の二乗は、各スペクトル線に関するドルーデ・ローレンツモデルに追従し、スペクトル線は、3つのパラメータ、振幅、減衰率と呼ばれる幅及び中心周波数の組によって特徴付けられる。
【0057】
第一の態様のさらなる発展形態によれば、エラー関数は、
【数55】
として定義される。
【0058】
第二の態様によれば、サンプルを特性評価するための特性評価装置が提供され、前記装置は、
- 測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を記憶するメモリであって、測定サンプル時間トレースEs(t)は、時間領域分光法により、期間Tを有し、且つコム周波数を示す電磁パルスを周期的に発出する励起ビームによってサンプルを照明し、及びサンプルに由来する電磁場をコヒーレント検出によって時間の関数として検出することによって取得されており、サンプル時間トレースが測定される持続時間は、tmaxであり、ここで、tmax<Tであり、
測定参照時間トレースEref(t)は、測定サンプル時間トレースEs(t)と同じ条件において、ただしサンプルの存在なしでの照明及び検出によって取得されている、メモリ、
- 処理ユニットであって、
- 期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点にゼロ値を付与することによって得られる、Eref0(t)と呼ばれる拡張参照時間トレースを特定し、及びTに等しい時間ウィンドウについて計算される、拡張参照時間トレースの離散フーリエ変換
【数56】
を特定すること、
- 拡張参照時間トレースのフーリエ変換Eref0(ω)及びサンプルの物理挙動モデルから、物理パラメータの組に依存する、サンプル周波数モデル
【数57】
と呼ばれる、周波数領域でのサンプルのインパルス応答のモデリングを特定すること、
- 物理パラメータに最適化アルゴリズムを適用することであって、
- 物理パラメータを初期化するステップ、
- 以下のサブステップ:
*推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれる、サンプル周波数モデル
【数58】
の逆離散フーリエ変換を計算するサブステップ、
*測定サンプル時間トレースEs(t)と推定時間トレースEest(t)との間の差からエラー関数を計算するサブステップ
を、前記エラー関数を最小化する物理パラメータの値の組を得るまで繰り返し実行するステップ
を含む、適用すること
を行うように構成された処理ユニット
を含む。
【0059】
第三の態様によれば、分光光度計であって、
- 本発明の第二の態様による特性評価装置、
- 測定装置であって、
- サンプルを励起ビームによって照明するように構成された光源、
- 測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を検出するように構成された検出器
を含む測定装置
を含む分光光度計が提供される。
【0060】
以下では、下記の添付の図面を参照して本発明の実施形態並びにそのさらなる目的又は利点を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図2】サンプルを照明する励起ビームの時間(左)及び周波数(右)の挙動を示す。
【
図4】時間の関数としてのサンプルの測定時間トレースEs(t)及び参照時間トレースEref(t)の例を示す。
【
図5】時間トレースEs(t)及びEref(t)の両方の、tmaxに等しい時間ウィンドウについての離散フーリエ変換
【数59】
及び
【数60】
を示す。
【数61】
及び虚部
【数62】
を示す。
【
図9】時間信号のFFTによって得られた時間領域(左側)及びスペクトル領域(右側)の参照及びサンプル信号を示す。
図9a(下)は、tmaxのスケールでの時間信号及びtmaxに等しい時間ウィンドウで得られた周波数信号を示し、
図9b(上)は、各種のTのスケールでの時間信号及びTに等しい時間ウィンドウで得られた周波数信号を示す。
【
図11A】1kPaの圧力でのサンプルの透過スペクトルを示す。
【
図11B】約f0=0.573THzの吸光スペクトルの拡大図を示す。
【
図12】異なる方法:本発明による方法、従来技術、データベースによって得られた圧力Pの関数としての中心周波数の値の比較を示す。
【
図13】異なる方法:本発明による方法、従来技術、データベースによって得られた圧力Pの関数としての減衰率γ(FWHMとも呼ばれる)の値を示す。
【
図14】本発明による、サンプルを特性評価するための特性評価装置50を示す。
【
図16】測定装置がコンピュータI/Oインタフェースに接続され、特性評価装置がコンピュータ内にある、本発明の実施形態を示す。
【
図17】測定装置がI/Oインタフェースを介してコンピュータに接続され、特性評価装置が、コンピュータCompの通信サブシステムにインターネットを介して接続されたリモートサーバ内にある、他の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明者らは、TDS実験の詳細な分析を行い、従来技術の方式では常に時間ウィンドウtmaxについてDFTが実行されるという初期の所見を得た。その結果、前述のように、励起ビームEBの光パルスの周期性がtmaxに等しいと仮定されることになる。
【0063】
この仮定は、実際の実験条件では誤りである。典型的には、2つのパルス間の期間Tは、tmaxより大きい。現在利用可能なレーザの場合、Tは、s~nsの範囲であり(GHZ~Hzの繰返し率に対応する)、すなわち、tmaxは、典型的には、Tの20%未満である。市販のレーザの繰返し率は、容易に変更することができず、非常に高い繰返し率、すなわちTが10ns未満であるレーザは、極めて高価であり、扱いにくい。
【0064】
したがって、特定の方法では、従来技術で行われているDFTの計算は、経験と一致しない。その主な結果は、スペクトル限界が1/tmaxに等しいことである。
【0065】
分解能の改善は、
図9に示されるように、測定が全期間Tについて行われた場合に得ることができる。左側は、時間領域の信号を示し、右側は、時間信号のFFTによって得られるスペクトル領域の曲線を示す。
【0066】
信号Trは、シミュレーションによる参照時間トレースEref(t)の例であり、信号T1~T3は、T1からT3に減少する周波数幅Δvを示す吸光線を有するサンプルで得られた、シミュレーションによるサンプル時間トレースEs(t)の例(すなわちT1からT3への時間領域のトレースの拡張)である。
【0067】
図の下側部分a)では、信号は、10psの時間tmaxについてのみ入手でき、図の上側部分b)では、信号は、期間T(100psに等しい)より長い持続時間(300ps)について入手できた。
【0068】
下側部分a)のスペクトルは、tmaxに等しい時間ウィンドウを用いてFFTによって計算された。周波数領域の分解能Resは、限定され、Δvの減少は、観察できないことが分かり、すなわち、スペクトル分解能は、1/tmax=100GHzに限定される。
【0069】
上側部分b)のスペクトルは、Tに等しい時間ウィンドウを用いてFFTによって計算された。周波数領域の分解能では、Δvの減少を観察できることが分かり、すなわち、スペクトル分解能は、1/T=10GHzである。
【0070】
図の下側部分は、Tより短い持続時間tmaxについて行われた実際の実験の限界を示す。具体的には、この実験では、分解能は、時間の比T/tmaxに等しく、ここでは10の係数で低下した。このスペクトル限界は、気体の狭い線の特性評価にとって非常に大きい欠点である。
【0071】
本発明による、サンプルの物理パラメータの組を特定する方法30が
図10に示されている。方法30は、測定サンプル時間トレースEs(t)を取得するステップAと、測定参照時間トレースEref(t)を取得するステップBとを含む。好ましくは、両方の測定時間トレース、サンプルの時間トレース及び参照時間トレース(ステップAと同じ条件において、ただしサンプルの存在なしでの照明及び検出によって得られる)は、前述のように古典的なTDS装置によって得られる。測定サンプル時間トレースEs(t)は、周期Tの、周波数コムを示す電磁パルス(波長が10μm未満である場合、光パルスと呼ばれ得る)を周期的に発出する励起ビームEBによってサンプルSを照明して特徴付け、且つサンプルに由来する電磁場(透過又は反射)をコヒーレント検出によって時間の関数として検出することによって得られている。典型的には、コヒーレント検出は、遅延線を含むか、又はHassops実験(デュアル周波数コム)に基づく。
【0072】
好ましくは、励起ビームEBは、THz領域にあり、0.1THz~30THzに含まれる周波数を有するが、特許請求される方法30は、照明及び検出装置が利用可能となる場合、より高い周波数(IR、可視)も外挿法によって推定できる。
【0073】
両方の時間トレースが測定される持続時間は、tmaxと呼ばれ、ここで、tmaxは、Tより短い。
【0074】
特許請求される方法30のステップA及びBは、前述のPerettiの刊行物の方法20のステップA0及びB0と同じである。
【0075】
ステップCでは、Eref0(t)と呼ばれる拡張された(「パディングされた」ともいわれる)参照時間トレースが特定される。Eref0(t)は、期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点、すなわちt=tmax後でt=Tまでの時点にゼロ値を付与することによって得られる。これらの時点には、何れの任意の値も付与できるが、ゼロは、間隔]tmax,T]でほとんど又は全くパルスエネルギーが見られないことを表現するための最善の値である。この理由から、好ましくは、最大時間遅延tmaxは、測定参照時間トレースのエネルギーの95%超(好ましくは99%)を含むのに十分に大きくなるように選択される(方法の精度は、このパーセンテージの値と共に向上する)。データを計算する前に未知の値を0とするこの方法は、「0パディング」として知られる。
【0076】
また、ステップCでは、拡張参照時間トレースEref0(t)の離散フーリエ変換
【数63】
が特定され、計算は、Tに等しい時間ウィンドウについて実行され、これは、Eref0(t)が期間T全体にわたることから可能である。
【数64】
【0077】
したがって、
【数65】
を計算するDFTは、時間ウィンドウtmaxについて実行される、方法20の、
【数66】
を計算するステップC0’のDFTと異なる。
【0078】
次に、ステップDでは、サンプル周波数モデル
【数67】
と呼ばれる、周波数領域でのサンプルのインパルス応答のモデリングが特定される。サンプル周波数モデルは、物理パラメータpi(iは、パラメータのインデックスである)の組に依存し、拡張参照時間トレース及びサンプルの物理挙動モデルのフーリエ変換
【数68】
から得られる。ステップDのモデリングは、方法20のステップD0のモデリングと同じであるが、特許請求される方法30のモデリングは、
【数69】
と異なる
【数70】
から定義される点が異なる。
【0079】
好ましくは、サンプル周波数モデル
【数71】
は、フーリエ変換
【数72】
に、サンプル挙動を特徴付ける伝達関数T(ω)を乗じることを含む。
【数73】
【0080】
好ましくは、伝達関数T(ω)は、前述のように、複素屈折率n(ω)に依存する(式(1)を参照されたい)。
【0081】
モデルの選択は、サンプルに依存するが、分光法による線の形状が物理の法則によって決められるため、制約される。
【0082】
1つの実施形態によれば、誘電率ε(ω)と呼ばれる複素屈折率の二乗は、各スペクトル線に関するドルーデ・ローレンツモデルに追従し(ただし、それに限定されない)、すなわち、各スペクトル線は、ローレンツ分布の形状に追従する。この場合、スペクトル線kは、式(6)で説明されているように、3つのパラメータ:振幅p1=Δεk(誘電単位における)、減衰率と呼ばれる幅p2=γk及び中心(共鳴)周波数p3=ω0kの組によって特徴付けられる。このモデルは、気体のスペクトル線のモデリングに適している。
【0083】
ステップEでは、最適化アルゴリズムが物理パラメータpiの組に適用される。まず、サブステップE1では、物理パラメータpiが初期化され、その後、以下のサブステップE2及びE3が繰り返し実行される。
【0084】
E2では、サンプル周波数モデルの逆離散フーリエ変換
【数74】
が計算される。この逆離散フーリエ変換は、推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれ、以下のように特定される。
【数75】
tsは、サンプル時間である。
【0085】
ここで、実験の実際の期間、すなわちレーザ源の繰返し率Tが計算に使用される。そのため、モデル及び実験は、同じ周期性に追従し、あらゆるDFT折り返し(エイリアシング)アーチファクトを防止するが、実際のものを再現する。その結果、フーリエ-ハイゼンベルク限界より狭い線では、モデリングによって導入される追加情報により、時間信号が時間ウィンドウの右側の縁を越え、左側の縁でその最初に戻ることになる。依然として、この信号は、フィットされ、そのため、フーリエ-ハイゼンベルク基準より高い分解能が得られる。
【0086】
次に、E3では、エラー関数εer{pi}が測定サンプル時間トレースEs(t)と推定時間トレースEest(t)との間の差から計算され、すなわち、εer{pi}は、関数fに従って[Es(t)-Eest(t)]に依存し、fは、形態学的距離を定義する関数である。
【数76】
【0087】
繰返しは、エラー関数を最小化するパラメータpiの値の組を得るまで続く。例えば、繰返しは、エラー関数が所定の閾値より小さくなるか、又は展開が止まったときに停止する。
【0088】
終了した最適化の結果は、パラメータpiの値の組である。
【0089】
ローレンツモデルに追従する気体スペクトル線の場合、線ごとのパラメータの3つの値の組(Δεk、γk、ω0k)が提供される。p3=ω0kにより、気体の識別が可能となり、p1=Δεkは、気体の圧力に関係し、p2=γkは、気体の温度に関係する。
【0090】
最適化が0~tmaxのtの値について行われる点に留意することが重要である。記録されたデータEs(t)は、tmaxについてのみ入手可能である(時間フレームT全体についての測定は、前述のように不可能である)。Es(t)上に存在しない情報を追加することができないため、モデルの時間フレームの一部分のみが、記録されたデータEs(t)と比較され得る。典型的には、Eest(t)の利用可能な算出データの約10%(tmax/Tの比)がエラー計算に使用される。
【0091】
その結果、仮定が満たされないため、Perettiの刊行物の方法20で以前に行われていたように、パーセバルの定理を用いて曲線を比較し、周波数領域のエラーを計算することができない。
【0092】
パーセバルの定理を使用できないため、ステップ2における各繰返しでは、時間領域のモデル化されたデータの取得及びその後のエラー計算には、高速フーリエ変換を行わなければならない(ステップE3)。
【0093】
エラー関数の選択は、最適化の種類に依存する。エラー関数の例は、二乗平均の平方根の差である。
【数77】
【0094】
例として、拡張ラグランジュ粒子群オプティマイザが条件付き最適化を実行するために使用される。
【0095】
サンプル挙動、すなわち、
【数78】
が追従するか、又は該当する場合にはT(ω)が追従する式は、既知である。この「アプリオリ」知識は、非常に重要であり、なぜなら、それにより、この条件付き再構成アルゴリズムを何れの情報も失わずに実行できるからであり、それにより、分解能は、Perettiの刊行物の方法20よりはるかに高くなる(超分解能)。
【0096】
例えば、気体のスペクトル線の理論物理学によって与えられる知識から、記録される線は、時間領域の指数関数的減衰正弦曲線に対応する周波数領域内のローレンツ分布形状を辿ると言うことができる。超分解能は、各減衰正弦曲線が3つのパラメータ:振幅、中心周波数及び減衰率のみによって説明されることに依拠する。パラメータを取得するためにわずかな時間領域点があればよく、全時間トレースの点の総数の一部より振動子の数が少ないという限定がある(一般化フーリエ-ハイゼンベルク不確実性)。換言すれば、TDSシステムは、情報として全時間トレースを記録し、それから3k+1のパラメータを取得することが多くの場合に望まれる。時間領域内で計算を行うことは、周波数領域内で各δf(δfは、フーリエ変換の周波数ステップである)の情報の検索を行う代わりに、わずかなモード(k個の振動子)が検索され、したがってスパース情報とも呼ばれるはるかに少ない情報が検索されることを意味する。この制約により、分解能は、超分解能微鏡検査法と同様に、信号対ノイズ比及びフィットを最適化する計算方法によってのみ限定されることになる。
【0097】
特許請求されるサンプルパラメータ特定方法30は、非常に広いスペクトルについて高分解能分光法を実行することにより、TDSスペクトル内に存在する情報量を十分に利用することを可能にする。それにより、例えば気体の数百の線(同じ気体又は混合物)を検査することにより、したがって異なる成分の相対濃度を測定することによりイベントをモニタすることができる。
【0098】
多くの計算時間(1回の繰返しにつき1回のDFT)を費やす、特許請求される方法の速度を高めるために、特許請求される方法の1つの実施形態において、制約アルゴリズムの代わりに高調波反転方式がとられる。高調波反転は、全ての要件が満たされた場合に使用され得、特に励起パルスがディラックのパルスにごく近くなるようにして、システムを時間トレースの大部分で十分に弛緩させることが確実となるようにすることが重要である。
【0099】
方法のパフォーマンスを試験するために、アンモニア(NH
3)の時間トレースを、小型の可搬式オールファイバ型分光計である市販のTHz-TDS TERASMART Menlo(登録商標)によって記録した。これは、繰返し率100MHZのフェムト秒レーザ(90fsパルス)を使用する。THzパルスの持続時間は、200GHz~5THzのスペクトルで約400fsである。光路長8cmのブリュースタアングルシリコンウィンドウガスセルを光路内にセットして測定を行った。13分間の実験を3mb~100mbの異なる圧力で繰り返した。1kPa(10mb)でのサンプルの透過スペクトルで、
図11Aに示されるスペクトルが得られた。主な吸光ピークは、f0=0.573THzでのピークである。
【0100】
図11Bは、f0=0.573THzのピーク及びその前後のFFTの拡大図を示す。周波数サンプリングfsが1.2GHZに等しい状態では、ピークは、1点でのみ見えることが分かる。
【0101】
図12は、特許請求される方法30によって得られる、圧力Pに関する中心周波数の値f0を示し(曲線121、三角)、
図13は、特許請求される方法30によって得られる、圧力Pに関する減衰率γ(FWHMとも呼ばれる)の値を示す(曲線131、三角)。
【0102】
データベースのHitran 2016から抽出されたNH
3のデータも比較のために
図12及び13にプロットされている(それぞれ曲線122及び132、四角)。方法30によって特定された物理パラメータの値f0及びγは、γ及びf0の何れについても、Hitranからのデータに非常によく適合し、したがって特許請求される方法のきわめて高い精度を実証している。
【0103】
Perettiの方法20で得られたf0及び減衰率の値も比較のためにプロットされている(それぞれ曲線123及び133、丸)。
図13では、方法20によってFWHMの高い値で良好な結果が得られることが分かり、これは、高い圧力に対応するが、10mb未満の圧力でのFWHMの値は、方法20の不十分な周波数分解能のため、格段に精度が低くなる。
【0104】
NH3の約530GHzに焦点を当てることに加えて、スペクトルの他の線の分析を行い、530GHz~3THz超の全てのスペクトルに沿った超分解能を得た。より具体的には、約1250GHzの線に焦点を当てた。この線は、実際に、350MHz(遅延線の「フーリエ変換」分解能限界の3分の1)だけ分離されるダブレットである。特許請求される超分解能の方法により、ダブレットの各線の周波数は、数mBarまでの圧力について、30MHzより高い精度で得られている。したがって、分解能限界より低いダブレット分割が実現されており、これは、超分解能であることの確固たる証拠である。
【0105】
特許請求される方法の高い分解能から、THzパルスへのTDS超分解能方法30の適用により、THz-TDSの用途が特に呼吸アナライザのような大気又は健康の目的のため及び産業環境の管理のための気体分光法に広がる。
【0106】
他の態様によれば、本発明は、
図14に示される、サンプルSを特性評価するための特性評価装置50に関する。装置50は、既に定義した測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を記憶するメモリMEMと、処理ユニットPUであって、
- 期間Tにおいて広がり、且つ測定が行われなかった時点にゼロ値を付与することによって得られる、Eref0(t)と呼ばれる拡張参照時間トレースを特定し、及びTに等しい時間ウィンドウについて計算される、拡張参照時間トレースの離散フーリエ変換
【数79】
を特定すること、
- 物理パラメータpiの組(ω)に依存する、サンプル周波数モデル
【数80】
と呼ばれる、周波数領域でのサンプルのインパルス応答のモデリングを拡張参照時間トレースのフーリエ変換
【数81】
及びサンプルの物理挙動モデルから特定すること、
- 物理パラメータ(pi)の組に対して最適化アルゴリズムを適用することであって、
- 物理パラメータ(pi)を初期化するサブステップ、
- 以下のサブステップ:
- 推定サンプル時間トレースE
est{p
i}(t)と呼ばれる、サンプル周波数モデル
【数82】
の逆離散フーリエ変換を計算するサブステップ、
- 測定サンプル時間トレースEs(t)と推定時間トレースEest(t)との間の差からエラー関数(ε
er{pi})を計算するサブステップ
を、前記エラー関数を最小化する物理パラメータの値(pi
opt)の組を得るまで繰り返し実行するサブステップ
を含む、適用すること
を行うように構成された処理ユニットPUとを含む。
【0107】
他の態様によれば、本発明は、
図15に示される分光計Spectroに関し、これは、i)サンプルSを励起ビームEBによって照明するように構成された光源LSと、測定サンプル時間トレースEs(t)及び測定参照時間トレースEref(t)を検出するように構成された検出器Dとを含む測定装置MeDと、ii)特性評価装置50とを含む。
【0108】
上述の実施形態は、単に非限定的な例であると理解されたい。特に、測定装置MeD及び特性評価装置50は、異なる要素内に配置され、何れの組合せでも一緒に使用され得る。
【0109】
ある実施形態において、
図16に示されるように、MeDは、I/Oインタフェース703を介してコンピュータCompに接続され得、特性評価装置50 DBPは、コンピュータ内に配置される。他の実施形態では、
図17に示されるように、MeDは、I/Oインタフェース703を介してコンピュータCompに接続され得、特性評価装置50は、コンピュータCompの通信サブシステム720にインターネット75を介して接続されたリモートサーバ76に配置され得る。
【0110】
他の態様において、本発明は、特許請求される方法のステップを実施するように適合されたコンピュータプログラムに関する。他の態様では、本発明は、そのコンピュータプログラムを組み込んだコンピュータ可読媒体に関する。