(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ガリウム含有ヒドロキシアパタイトコーティングを有する整形外科用インプラント
(51)【国際特許分類】
A61L 27/32 20060101AFI20241015BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20241015BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20241015BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241015BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20241015BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241015BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A61L27/32
A61L27/06
A61L27/40
A61L27/58
A61L27/56
A61L27/54
A61F2/28
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023031717
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2018059429の分割
【原出願日】2018-03-27
【審査請求日】2023-03-02
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513069064
【氏名又は名称】デピュイ・シンセス・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham MA 02767-0350 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ラージェーンドラ・カシナス
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ・エルンスバーガー
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・バス
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン・エヌ・ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハイボー・ク
(72)【発明者】
【氏名】ウェイドン・トン
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61F 2/00- 2/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面と、前記金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層と、を含む整形外科用インプラントであって、前記ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、前記(002)XRDピークが前記(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有
する、整形外科用インプラント。
【請求項2】
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001°2θ~約0.5°2θシフトしている(002)XRDピークを生成する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項3】
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピーク
の格子d間隔に比べて
、約0.001Å~約0.05Åのd間隔シフトに対応する、(002)XRDピーク
の短い格子d間隔を生成する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項4】
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークの格子d間隔に比べて、約0.001Å~0.0158Åのd間隔シフトに対応する、短い(002)XRDピークの格子d間隔を生成する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項5】
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークの格子d間隔に比べて、0.0015Å~約0.0158Åのd間隔シフトに対応する、短い(002)XRDピークの格子d間隔を生成する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項6】
前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、3.4348Å~3.4491Åの(002)XRDピークの格子d間隔を生成する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項7】
前記ヒドロキシアパタイト層が約75nm未満の平均結晶子径を有する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項8】
前記ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項9】
前記ヒドロキシアパタイト層がインビトロで24時間超にわたって連続的に溶解する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項10】
前記ヒドロキシアパタイト層が、約0重量%~約5重量%の炭酸塩を含む、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項11】
前記ガリウムイオンが、前記ヒドロキシアパタイト層の約0.01重量%~約10重量%含まれる、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項12】
前記ヒドロキシアパタイト層が前記金属表面に接触している、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項13】
前記金属表面がチタン酸塩を含む、請求項
12に記載の整形外科用インプラント。
【請求項14】
前記金属表面がチタン酸ナトリウムを含む、請求項
13に記載の整形外科用インプラント。
【請求項15】
前記金属表面が、水酸化物で処理されたチタン表面である、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項16】
前記ヒドロキシアパタイト層が結晶質である、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項17】
前記ヒドロキシアパタイト層の有する、結晶ヒドロキシアパタイトの相純度が90%超である、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【請求項18】
前記ヒドロキシアパタイト層が、約15m
2/g~約200m
2/gの表面積を有する、請求項1に記載の整形外科用インプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
同時係属の米国特許出願第15/472,189号「ORTHOPEDIC IMPLANT HAVING A CRYSTALLINE CALCIUM PHOSPHATE COATING AND METHODS FOR MAKING THE SAME」(代理人整理番号第265280-259106、DSP5297USNP)に対して相互参照が行われ、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概してガリウム含有ヒドロキシアパタイトコーティングに関するものであり、より具体的には、溶液堆積ガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングを有する整形外科用インプラントと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
骨の修復にはしばしば、治癒プロセス中に、欠如した骨の置換又は骨の支持を行うための整形外科用インプラントの使用を伴う。典型的には、そのような整形外科用インプラントを骨誘導性材料でコーティングして、骨成長又は生物学的固定を促すことが望ましい。
【0004】
ヒドロキシアパタイト(HA)は骨及び歯に見られる天然起源の鉱物である。研究によりHAは骨誘導性であることが示されており、この理由から整形外科用インプラントにはHAがコーティングされている。HAでインプラントをコーティングするための様々なプロセスが知られている。インプラントをコーティングするのに用いられるプロセスの1つが、プラズマスプレーである。このプロセスでは、キャリアーガスを用いてHA粉末を高温のトーチへ供給する。HA粉末は部分的に融解し、これが高速度で基材に衝突し、ここで急速に冷やされて室温になる。このプロセスは、HAと、他のリン酸カルシウム相と、非晶質リン酸カルシウムとの混合物を生じる。これらの相は生体内での溶解度に大きな差がある。その結果、プラズマスプレーヒドロキシアパタイト(PSHA)フィルムは生体内で均一に溶解又は分解しない。この不均一分解により、インプラント近傍に粒子が生じることがあり、これによって炎症カスケードが引き起こされ、骨溶解に至ることがある。この粒子は更に、関節表面に入り込むことがあり、摩耗の増大をもたらし得る。最後に、このプロセスは「見通し線」プロセスであるため、セメントレスインプラントの多孔性構造をコーティングするのにはあまり適していない。PSHAプロセス又は後処理方法を適用して、生体内で長い吸収時間を有する高結晶性のコーティングをもたらすことができる。この属性は、比較的厚く安定したコーティングが長期間のうちに剥離する懸念を生じさせる。
【0005】
生物学的固定のためにHAコーティングを生成する他の方法としては、スパッタリング、蒸着、化学蒸着などの物理的方法が挙げられる。これらの物理的方法は、生物学的アパタイトのナノ結晶度と大きな表面積を再生するものではないため、結果として得られるコーティングは均一に溶解できず、粒子を放出する可能性がある。
【0006】
HAコーティングを製造する溶液(又は懸濁液)方法も試みられている。例えば、Zitelli、Joseph P.and Higham,Paul (2000)「A Novel Method For Solution Deposition of Hydroxyapatite Onto Three Dimensionally Porous Metallic Surfaces:Peri-Apatite HA」は、スラリー又は細かく分割されたHA粒子を作製することを伴うプロセスについて記述しており、この中にインプラントを入れ、スラリー粒子の付着によりコーティングされる。大きな表面積の微小結晶性コーティングが作製されるが、この基材に対する接着力は低い。
【0007】
電気化学的支援による溶液堆積も開発されている。このプロセスでは、インプラントを水溶液中に吊した状態で、水を加水分解するのに必要な電圧を超える電圧を、インプラントに印加する。このプロセスにより、インプラント表面にリン酸カルシウムの堆積が生じる。典型的に、堆積したフィルムは、リン酸カルシウム(CaP)相の混合物であり、後処理を行ってこのフィルムを純粋なHA相に変換する必要がある。不良な接着力もこれらのフィルムで懸念となる。最後に、不規則な粒子を伴う多孔性インプラントに対する電気化学的電流を制御するのは難しく、このプロセスの規模を拡大するのは困難になる。
【0008】
バイオミメティックプロセスも開発されている。これらのプロセスは、体液濃度に似せた溶液を採用し、典型的には体温近くで実施される。これらのプロセスは、骨様のアパタイトを生じ得るが、数マイクロメートルの厚さのフィルムを作製するのに数日又は数週間を必要とする。そのような方法に伴う速度を高める試みは、インプラント表面上の結晶成長に比べて、再現性のあるpH制御、堆積速度、及び生長速度において、複雑な状況をもたらす。高速度で形成されたフィルムは、非晶質材料を含むことが見出されている。更に、堆積速度が制御されていないため、標的のコーティング重量又は厚さを達成するのが困難である。
【0009】
ガリウム(Ga)をアパタイトコーティングに加える試みが従来から行われている。しかしながら従来の方法は、特定のカルシウム部位が置換されるようにGaイオンをヒドロキシアパタイト格子にドーピングすることに成功していない。
【0010】
上述のように、ヒドロキシアパタイトコーティングを整形外科用インプラントに適用することで、骨誘導性を高めることができるが、この際に用いる方法は、迅速であるが特定の好ましくない又は予測不能な特性を有するコーティングをもたらす方法か、あるいは、より好ましい生成物が得られるが形成に数日間かかり得る方法のいずれかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
必要とされているのは、迅速に形成することができ、かつ、粒子を生じることなく数週間にわたって均一に分解する性質を備える微小構造を有する、コンフォーマルなリン酸カルシウムコーティングである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のいくつかの実施形態は、下記に列挙された項目に記述される。
1.金属表面と、金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層とを含む整形外科用インプラントであって、ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイト層が結晶質である、整形外科用インプラント。
2.金属表面と、金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層とを含む整形外科用インプラントであって、ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、整形外科用インプラント。
3.金属表面と、金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層とを含む整形外科用インプラントであって、ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイト層は、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有する、整形外科用インプラント。
4.金属表面と、金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層とを含む整形外科用インプラントであって、ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイト層はインビトロで2時間以上連続的に溶解する、整形外科用インプラント。
5.金属表面と、金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層とを含む整形外科用インプラントであって、ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイト層が、赤外分光法で測定した際に、炭酸塩を実質的に含まない、整形外科用インプラント。
6.ガリウムイオンが、ヒドロキシアパタイト層の結晶格子内に置換される、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
7.ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001°2θ~約0.1°2θシフトしている(002)XRDピークを生成する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
8.ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001Å~約0.05Åのd間隔シフトに対応する(002)XRDピークを生成する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
9.ガリウムイオンが、ヒドロキシアパタイト層の約0.01重量%~約5重量%含まれる、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
10.ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
11.ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約10~約75nmの平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
12.ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約20~約70nmの平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
13.ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
14.ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの2~5倍の強度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
15.ヒドロキシアパタイト層がインビトロで2時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
16.ヒドロキシアパタイト層がインビトロで5時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
17.ヒドロキシアパタイト層がインビトロで24時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
18.ヒドロキシアパタイト層が6週間以内に生体内で再吸収される、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
19.ヒドロキシアパタイト層が、約0重量%~約5重量%の炭酸塩を含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
20.ヒドロキシアパタイト層が、赤外分光法で測定した際に、炭酸塩を実質的に含まない、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
21.ヒドロキシアパタイト層が金属表面に接触している、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
22.金属表面が金属酸化物を含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
23.金属表面がチタンを含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
24.金属表面がコバルトクロム合金を含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
25.金属表面が酸化チタンを含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
26.金属表面がチタン酸塩を含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
27.金属表面がチタン酸ナトリウムを含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
28.金属表面が多孔性金属酸化物表面を含む、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
29.金属表面が、水酸化物で処理されたチタン表面である、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
30.水酸化物が1M以上の濃度を有する、第29項に記載の整形外科用インプラント。
31.水酸化物が2M以上の濃度を有する、第29項又は第30項に記載の整形外科用インプラント。
32.水酸化物が水酸化ナトリウムである、第29~31項のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
33.水酸化物が水酸化カリウムである、第29~32項のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
34.チタン表面が、水酸化物で処理された後に、熱処理されていない、第29~33項のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
35.金属表面が約50nm超の厚さを有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
36.金属表面が、約50nm~約1μmの厚さを有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
37.金属表面が、約50nm~約100nmの厚さを有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
38.ヒドロキシアパタイト層が約90%超の結晶度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
39.ヒドロキシアパタイト層が、約70重量%~約100重量%の結晶度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
40.ヒドロキシアパタイト層の有する、結晶ヒドロキシアパタイトの相純度が90%超である、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
41.ヒドロキシアパタイト層が、ASTM F1044に従い測定されたときに約20MPa~約80MPaの剪断強度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
42.ヒドロキシアパタイト層が、ASTM F1147に従い測定されたときに約50MPa~約100MPaの引張強度を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
43.ヒドロキシアパタイト層が、着色料が存在しないとき、透明又は半透明である、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
44.ヒドロキシアパタイト層のCa/P比が1~2である、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
45.ヒドロキシアパタイト層が、約15m2/g~約200m2/gの表面積を有する、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
46.ヒドロキシアパタイト層が、生理学的条件下で粒子を放出しない、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
47.ヒドロキシアパタイト層が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト層である、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
48.ガリウムがヒドロキシアパタイト層全体に分配されている、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラント。
49.患者の治療方法であって、方法が、前述のいずれか一項に記載の整形外科用インプラントを患者に投与する工程を含む、方法。
【0013】
更に、本発明のいくつかの実施形態は、下記に列挙された項目に記述される。
1.ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、ヒドロキシアパタイトがその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイトが結晶質である、骨誘導性組成物。
2.ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、ヒドロキシアパタイトが、[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、骨誘導性組成物。
3.ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有する、骨誘導性組成物。
4.ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、ヒドロキシアパタイトがその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイトはインビトロで2時間以上連続的に溶解する、骨誘導性組成物。
5.ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、ヒドロキシアパタイトがその中にガリウムイオンを含み、ヒドロキシアパタイトが、赤外分光法で測定した際に、炭酸塩を実質的に含まない、骨誘導性組成物。
6.ガリウムイオンが、ヒドロキシアパタイトの結晶格子内に置換される、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
7.ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001°2θ~約0.1°2θシフトしている(002)XRDピークを生成する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
8.ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001Å~約0.05Åのd間隔シフトに対応する(002)XRDピークを生成する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
9.ガリウムイオンが、ヒドロキシアパタイトの約0.01重量%~約5重量%含まれる、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
10.ヒドロキシアパタイトが[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
11.ヒドロキシアパタイトが[001]方向に約10nm~約75nmの平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
12.ヒドロキシアパタイトが[001]方向に約20nm~約70nmの平均結晶子径を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
13.ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
14.ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、(002)XRDピークが(112)XRDピークの2~5倍の強度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
15.ヒドロキシアパタイトがインビトロで2時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
16.ヒドロキシアパタイトがインビトロで5時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
17.ヒドロキシアパタイトがインビトロで24時間以上にわたって溶解する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
18.ヒドロキシアパタイトが6週間以内に生体内で再吸収される、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
19.ヒドロキシアパタイトが、約0重量%~約5重量%の炭酸塩を含む、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
20.ヒドロキシアパタイトが、赤外分光法で測定した際に、炭酸塩を実質的に含まない、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
21.ヒドロキシアパタイトが金属表面に接触している、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
22.金属表面が金属酸化物を含む、第21項に記載の骨誘導性組成物。
23.金属表面がチタンを含む、第21項又は第22項に記載の骨誘導性組成物。
24.金属表面がコバルトクロム合金を含む、第21項又は第23項に記載の骨誘導性組成物。
25.金属表面が酸化チタンを含む、第21~24項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
26.金属表面がチタン酸塩を含む、第21~25項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
27.金属表面がチタン酸ナトリウムを含む、第21~26項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
28.金属表面が多孔性金属酸化物表面を含む、第21~27項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
29.金属表面が、水酸化物で処理されたチタン表面である、第21~28項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
30.水酸化物が1M以上の濃度を有する、第29項に記載の骨誘導性組成物。
31.水酸化物が2M以上の濃度を有する、第29項又は第30項に記載の骨誘導性組成物。
32.水酸化物が水酸化ナトリウムである、第29~31項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
33.水酸化物が水酸化カリウムである、第29~32項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
34.チタン表面が、水酸化物で処理された後に、熱処理されていない、第29~33項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
35.金属表面が約50nm超の厚さを有する、第29~34項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
36.金属表面が、約50nm~約1μmの厚さを有する、第29~35項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
37.金属表面が、約50nm~約100nmの厚さを有する、第29~36項のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
38.ヒドロキシアパタイトが約90%超の結晶度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
39.ヒドロキシアパタイトが、約70重量%~約100重量%の結晶度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
40.ヒドロキシアパタイトの有する、結晶ヒドロキシアパタイトの相純度が90%超である、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
41.ヒドロキシアパタイトが、ASTM F1044に従い測定されたときに約20MPa~約80MPaの剪断強度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
42.ヒドロキシアパタイトが、ASTM F1147に従い測定されたときに約50MPa~約100MPaの引張強度を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
43.ヒドロキシアパタイトが、着色料が存在しないとき、透明又は半透明である、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
44.ヒドロキシアパタイトのCa/P比が1~2である、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
45.ヒドロキシアパタイトが、約15m2/g~約200m2/gの表面積を有する、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
46.ヒドロキシアパタイトが、生理学的条件下で粒子を放出しない、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
47.ヒドロキシアパタイトがカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトを含む、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
48.ガリウムがヒドロキシアパタイト全体に分配されている、前述のいずれか一項に記載の骨誘導性組成物。
【0014】
更に、本発明のいくつかの実施形態は、下記に列挙された項目に記述される。
1.ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法であって、方法が、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びガリウムイオンを含む過飽和溶液に金属表面を接触させる工程と、コーティング工程中に過飽和溶液に接触する空気の量を減らす工程とを含む、方法。
2.ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法であって、方法が、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びガリウムイオンを含む過飽和溶液に金属表面を接触させる工程を含み、接触工程中に溶液のpHの変動が0.1pH単位/時未満である、方法。
3.ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法であって、方法がカルシウムイオン、リン酸イオン、及びガリウムイオンを含む過飽和溶液に金属表面を接触させる工程を含み、ヒドロキシアパタイトが金属表面に、0.05μm/h~1.5μm/hの速度で形成される、方法。
4.ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法であって、方法が、ガリウムイオン及びリン酸イオンを含む第1溶液と、カルシウムイオンを含む第2溶液とを混合して過飽和溶液を形成する工程と、過飽和溶液に金属表面を接触させる工程とを含む、方法。
5.金属表面が金属酸化物表面である、前述のいずれか一項に記載の方法。
6.ヒドロキシアパタイトコーティングが、金属表面を含む整形外科用インプラント上に形成される、前述のいずれか一項に記載の方法。
7.コーティング工程中に過飽和溶液に接触する空気の量を減らす工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
8.接触工程中に、過飽和溶液のpHの変動が0.1pH単位/時未満である、前述のいずれか一項に記載の方法。
9.接触工程中に、pHが、0.15pH単位未満である所定値分低下させる工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
10.ヒドロキシアパタイトが金属表面に、0.05μm/h~1μm/hの速度で形成される、前述のいずれか一項に記載の方法。
11.ヒドロキシアパタイトがカルシウム欠損ヒドロキシアパタイトである、前述のいずれか一項に記載の方法。
12.過飽和溶液のpHが約7.5~約7.9である、前述のいずれか一項に記載の方法。
13.過飽和溶液のカルシウム濃度が約1.4mM~約1.8mMである、前述のいずれか一項に記載の方法。
14.過飽和溶液のリン酸塩濃度が約2mM~約2.3mMである、前述のいずれか一項に記載の方法。
15.過飽和溶液のガリウム濃度が約0.01mM~約1.0mMである、前述のいずれか一項に記載の方法。
16.ヒドロキシアパタイトコーティング形成工程に伴うギブズ自由エネルギー変化が、接触工程の開始時に、約8kJ/mol~約8.4kJ/molである、前述のいずれか一項に記載の方法。
17.コーティングが、単位表面積当たりの速度約0.015mg/hr・mm2~約0.05mg/hr・mm2で形成される、前述のいずれか一項に記載の方法。
18.約0.5時間~約12時間後に、過飽和溶液から金属表面を除去する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
19.除去工程後に、金属表面を、金属表面に接触していなかった追加量の過飽和溶液に接触させる工程を更に含む、第18項に記載の方法。
20.過飽和溶液の温度が約45℃~約50℃である、前述のいずれか一項に記載の方法。
21.過飽和溶液の温度が約46.5℃~47.5℃である、前述のいずれか一項に記載の方法。
22.過飽和溶液が更に塩及び緩衝液を含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
23.塩が塩化ナトリウムであり、かつ緩衝液がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンである、第22項に記載の方法。
24.接触工程中に、過飽和溶液を攪拌する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
25.不均質結晶成長が金属表面で起こり、かつ均質結晶成長が起こらない、前述のいずれか一項に記載の方法。
26.金属表面を形成するために、インプラント本体上にチタン層を形成する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
27.金属表面を塩基に接触させることにより、金属表面を活性化する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
28.塩基が水酸化物アニオンである、第27項に記載の方法。
29.金属表面が二酸化チタン表面を含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
30.金属表面が活性化された金属表面を含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
31.金属表面がチタン酸塩を含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
32.プロセスが、不活性雰囲気条件下で起こる、前述のいずれか一項に記載の方法。
33.プロセスが、アルゴン雰囲気下で起こる、前述のいずれか一項に記載の方法。
34.カルシウム溶液とリン酸塩溶液とが約15℃~約35℃で混合される、前述のいずれか一項に記載の方法。
35.ヒドロキシアパタイトコーティングが、接触工程の後に、結晶度を高めるための更なる処理が行われない、前述のいずれか一項に記載の方法。
36.方法が、金属表面のリン酸カルシウムコーティングの量に関して検証される、前述のいずれか一項に記載の方法。
37.ヒドロキシアパタイトコーティングが主に不均質核生成により形成され、これによって過飽和溶液は、接触工程中に、目に見える濁りがないままである、前述のいずれか一項に記載の方法。
38.ヒドロキシアパタイトコーティングが、接触工程中にわたって実質的に持続的な速度で形成される、前述のいずれか一項に記載の方法。
39.カルシウムイオンとリン酸イオンの量に基づいて、ヒドロキシアパタイトコーティングの量を決定する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
40.少なくとも2つの堆積シーケンスが採用されている、前述のいずれか一項に記載の方法。
41.過飽和(supersatured)溶液のpHに基づいて、ヒドロキシアパタイトコーティングの量を決定する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
42.接触工程の持続時間に基づいて、ヒドロキシアパタイトコーティングの量を決定する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
43.接触工程中に、過飽和溶液のpHの変動が約0.01~約0.1pH単位/時である、前述のいずれか一項に記載の方法。
44.コーティングが、単位表面積当たりの速度約0.005mg/hr・mm2~約0.015mg/hr・mm2で形成される、前述のいずれか一項に記載の方法。
45.過飽和溶液の初期pHが約7.5~約7.9であり、過飽和溶液の温度が約38℃~約60℃である、前述のいずれか一項に記載の方法。
46.表面のひび割れを軽減するため、コーティングをリン酸塩溶液中で加熱する工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
47.表面のひび割れを軽減するため、コーティングを超臨界流体に接触させる工程を更に含む、前述のいずれか一項に記載の方法。
48.前述のいずれか一項に記載の方法により形成された、骨誘導性組成物。
49.前述のいずれか一項に記載の方法により形成された、骨誘導性組成物を含む整形外科用インプラント。
【0015】
本発明の上述の並びに他の目的、特徴及び利点は、以下の説明文及び添付図面から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】結晶質及び非晶質の、厚さ50nm~500nmの二酸化チタン(TiO
2)コーティングされた基材の上に形成された、ヒドロキシアパタイトコーティングの重要を示すグラフである。
【
図2】水酸化物で処理した後の、厚さ200nmの非晶質TiO
2コーティングの走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図3】水酸化物で処理されていない、厚さ200nmの結晶質TiO
2コーティングのSEM画像である。
【
図4】見通し角X線回折(XRD)スペクトルオーバーレイであり、水酸化物処理ありの場合となしの場合の厚さ200nmの非晶質TiO
2コーティング、及び、水酸化物処理ありの場合となしの場合の厚さ500nmの非晶質TiO
2コーティングの、スペクトルを示す。
【
図5】見通し角XRDスペクトルオーバーレイであり、水酸化物処理ありの場合となしの場合の厚さ200nmの結晶質TiO
2コーティング、及び、水酸化物処理ありの場合となしの場合の厚さ500nmの結晶質TiO
2コーティングの、スペクトルを示す。
【
図6】CoCrMoコア上に電着塗装されたチタン層のSEM画像である。
【
図7】フルスケールのコーティング容器の画像である。
【
図8】倍率15000倍でのSoDHAコーティングのSEM画像である。
【
図9A】倍率100倍でのSoDHAコーティングのSEM画像である。
【
図9B】倍率400倍でのSoDHAコーティングのSEM画像である。
【
図10】それぞれの堆積プロセスの経過にわたる、pHと、ヒドロキシアパタイト析出物の重量との関係を示すグラフである。
【
図11】溶液堆積ヒドロキシアパタイト(SoDHA)プロセスについて、様々な表面積での堆積速度を示すグラフである。
【
図12】
図7に示すフルスケール堆積システムにおけるSoDHAプロセスにより作製された5つのサンプルのCa/P比を示すグラフである。
【
図13】
図12に説明されている5つのサンプルにおけるヒドロキシアパタイトの結晶度を示すグラフである。
【
図14】
図12に説明されている5つのサンプルにおける、SoDHAプロセスにより形成された材料中の結晶質ヒドロキシアパタイトのパーセンテージを示すグラフである。
【
図15】
図12に説明されている5つのサンプルにおけるヒドロキシアパタイトの引張強度を示すグラフである。
【
図16】
図12に説明されている5つのサンプルにおけるヒドロキシアパタイトの剪断強度を示すグラフである。
【
図17】本明細書に記述されるXRD特性評価研究に使用される股関節ステムクーポン器具を示す。
【
図18】0重量%~20重量%Ga溶液条件でコーティングされたガリウム置換SoDHA HAディスクの、重ね合わせたXRDスキャンを示す。
【
図19】
図18の重ね合わせたXRDスキャンの、25°~27°2θを示す。
【
図20】0重量%~20重量%Ga溶液条件で形成されたガリウム置換SoDHA HAディスクの%Gaを示す。
【
図21】SoDHA-G HA削り粉末のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを示す。
【
図22】ガリウム置換SoDHA HAサンプルの溶解速度を示すグラフである。
【
図23】米国国立標準技術研究所(NIST)標準のHAサンプルの溶解速度を示すグラフである。
【
図24】加熱時に識別可能な発熱性ピークが示されていない、SoDHA削り粉末のDSCトレースを示す。
【
図25】イヌモデルにおけるSoDHAコーティング及びガリウム置換SoDHAコーティングを有するインプラントの骨内部成長を示す。
【
図26A】後処理なしの空気乾燥ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率400倍でのSEM画像である。
【
図26B】scCO
2-乾燥ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率400倍でのSEM画像である。
【
図27】炉乾燥ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率400倍でのSEM画像である。
【
図28A】リン酸塩-Gaストック溶液中で2時間70℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率800倍でのSEM画像である。
【
図28B】リン酸塩-Gaシロップ溶液中で2時間70℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率1000倍でのSEM画像である。
【
図29A】リン酸塩-Gaストック溶液中で1時間90℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率501倍でのSEM画像である。
【
図29B】リン酸塩-Gaシロップ溶液中で1時間90℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率500倍でのSEM画像である。
【
図30A】リン酸塩-Gaストック溶液中で2時間90℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率500倍でのSEM画像である。
【
図30B】リン酸塩-Gaシロップ溶液中で2時間90℃で熱水処理した後の、ガリウム置換SoDHAコーティングの、倍率500倍でのSEM画像である。
【
図31】後処理なしのSoDHAコーティング、後処理なしのガリウム置換SoDHAコーティング、及び、熱水処理されたガリウム置換SoDHAコーティングの、重ね合わせたXRDスキャンを示す。
【
図32A】ひび割れ密度定量法を表わす代表的な画像を示す。
【
図32B】ひび割れ密度定量法を表わす代表的な画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明には様々な改変及び代替的形態が考えられるが、その特定の実施形態を図面に例として示し、本明細書に詳細に記載する。ただし、本発明を開示される特定の形態に限定することを何ら意図するものではなく、その逆に、添付の特許請求の範囲において定義される発明の趣旨並びに範囲に包含されるすべての改変物、均等物及び代替物を網羅することを意図するものであることが理解されるべきである。
【0018】
本発明は、リン酸カルシウムコーティングされた整形外科用インプラント、例えばガリウム置換ヒドロキシアパタイト(HA)でコーティングされた整形外科用インプラントと、その製造方法に関するものである。理論に束縛されるものではないが、コーティング中のガリウムの存在により、従来のヒドロキシアパタイトコーティングに比べて生体適合性を強化することが可能になると考えられる。本発明において、ガリウムイオン(Ga+3)はヒドロキシアパタイト(HA)格子に組み込まれるか又はドーピングされ、これによって、HAコーティングが生体内で数週間にわたって吸収される際に、この治療的イオンの局所的な制御された放出が可能になる。ガリウムは新たに形成された骨に蓄積して、新しい骨の形成を助け、炎症をダウンレギュレーションすることができ、また抗菌作用を所有する。本明細書に記述されるガリウム置換HAコーティングは、植え込み部位での骨形成能力を強化し、かつ抗菌効果を促進する、多機能コーティングに使用することができる。
【0019】
本明細書に記述されるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは、均一性の高い微小構造を有する。このインプラントが人体又は動物の体内に使用されると、ガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングが、粒子を放出することなく、長期間にわたって均一に分解する。いくつかの実施形態において、この期間は6週間以下である。本明細書に記述されるコーティングは更に、例えば従来のコーティングよりも高い引張強度などの、有利な接着及び/又は密着特性を有する。加えて、本明細書に記述されるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは、制御されながらも迅速な成長プロセスにより基材上に迅速に形成することができ、これにより、プロセス診断を利用した検証を実施することができ、これによって、部品のコーティング重量を測定する必要なしに、部品のバッチの合計コーティング重量を測定することが可能になり、これにより、コーティングの均一な微小構造及び化学的組成がもたらされる。
【0020】
溶液堆積セラミックコーティングは、乾燥中にひび割れを起こしやすい場合がある。コーティング厚さが増加すると、この作用は悪化することがある。いくつかの例において、溶液堆積ガリウム置換SoDHA(SoDHA-G)コーティングでは、形成後に乾燥する際に、ひび割れが観察されることがある。理論に束縛されるものではないが、ガリウムを含まないSoDHAコーティングに比べて、SoDHA-Gコーティングはひび割れに対するより大きな傾向を呈し、このことは潜在的に、ヒドロキシアパタイト格子内にガリウムをドーピングすることに伴う格子ひずみの結果によるものである可能性がある。本明細書に記述される、乾燥時のひび割れを軽減するための2つの例示的な独立した方法には、(1)有機溶媒交換と超臨界溶媒抽出、及び(2)熱水処理による再析出ひび割れ修復、が挙げられる。有機溶媒交換と再析出ひび割れ修復は、互いに独立に、又は組み合わせて実施可能であることが理解されよう。
【0021】
本明細書に記述される組成物及び方法は、生存性改善のための整形外科用インプラントのセメントレス固定を改善し、かつ、セメントレスインプラントの使用を、セメント使用インプラントが現在の治療標準となっている手順にも拡大することができる。これにより、手術時間が短縮され、医療コストが削減されることが、当業者には理解されよう。
【0022】
ガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティング
本明細書に記述されるリン酸カルシウムコーティングは、ガリウム置換HAを含む。本明細書で使用されるとき、HAは、カルシウムイオンがガリウムで置換されたカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)を含むがこれに限定されない。いくつかの実施形態において、本明細書に記述されるHAは、非化学量論的なガリウム置換HAである。ガリウム置換HAは、式Ca10-xGax(PO4)6(OH)2-x(CO3)xで表わされるものであり、式中、xは約0~約1、又は約0.1~約1である。本明細書に記述される式は、化学量論的当量を記述することが理解されよう。HAコーティングは、特徴的なカルシウム対リン比(Ca/P比)を有する。このCa/P比は、約1~約2、約1.2~約2、約1.3~約2、約1.39~約2、約1~約1.8、約1.2~約1.8、約1.3~約1.8、約1.39~約1.8、約1~約1.7、約1.2~約1.7、約1.3~約1.7、約1.39~約1.7、約1~約1.649、約1.2~約1.649、約1.3~約1.649、約1.39~約1.649、又は約1.5~約1.67であり得る。ガリウム置換HAは、HAコーティングが形成され得る溶液の、カルシウム及びリンの濃度を調節することにより、改変することができることが理解されよう。
【0023】
ガリウム置換HAコーティングにおいては、従来のHAに比べて、カルシウムイオンの一部がガリウムイオンで置換されている。本明細書で作製される生理活性ガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは、好ましくは、ガリウムイオン対カルシウムイオンのモル比が約1:10~約1:5000、約1:10~約1:1500、又は約1:20~約1:1500である。したがって、このCa/P比は、ヒドロキシアパタイト格子へのGa置換の関数として変化させることができる。
【0024】
下記に詳しく記述されるように、このガリウム置換HAコーティングは過飽和溶液から形成可能であり、この過飽和溶液は、コーティングプロセスの間、溶液中の均質な核生成により、実質的に濁りがないままである。いくつかの実施形態において、このガリウム置換HAコーティングは炭酸塩を含んでおらず、これにより、コーティング形成中のpH調節が支援される。理論に束縛されるものではないが、均質な核生成により実質的に濁りがない溶液から堆積することは、予測可能なコーティング速度で堆積されるガリウム置換HA、並びに、高い結晶度、均質な微小構造、及び強化された生体適合性を有するガリウム置換HAコーティングに、役割を果たしていると考えられる。いくつかの実施形態において、このコーティングの炭酸塩の重量%は、約0%~約25%、約0%~約20%、約0%~約15%、約0%~約10%、約0%~約5%、約0%~約3%、約0%~約2%、約0%~約1%、約0%~約0.1%、約0.1%~約25%、約0.1%~約20%、約0.1%~約15%、約0.1%~約10%、約0.1%~約5%、約0.1%~約3%、約0.1%~約2%、約0.1%~約1%、約1%~約25%、約1%~約20%、約1%~約15%、約1%~約10%、約1%~約5%、約1%~約3%、約1%~約2%、約2%~約25%、約2%~約20%、約2%~約15%、約2%~約10%、約2%~約5%、又は約2%~約3%である。いくつかの実施形態において、コーティング中の炭酸塩の濃度は、赤外分光法などの分光測定法により測定される。このコーティングは実質的に炭酸塩を含まなくてよい。本明細書で使用されるとき、「実質的に炭酸塩を含まない」コーティングとは、赤外分光法で測定したときに、1500cm-1~1300cm-1の間に識別可能な炭酸塩ピークを有さないコーティングを指す。
【0025】
本明細書に記述されるコーティングの、結晶質ガリウム置換HAの重量%は、約50%~約100%、約60%~約100%、約70%~約100%、約80%~約100%、約90%~約100%、約50%~約99%、約60%~約99%、約70%~約99%、約80%~約99%、約90%~約99%、約50%~約95%、約60%~約95%、約70%~約95%、約80%~約95%、又は約90%~約95%である。理論に束縛されるものではないが、このコーティングは不均質核生成により形成され、これにより、主に結晶質ガリウム置換HA又はOCPを含むコーティングが得られると考えられる。
【0026】
ガリウム置換HAコーティングのガリウム置換HA成分は、例えば示差走査熱量測定(DSC)で測定されるとき、高い結晶度を有する。この結晶度は、約50%超、約80%超、約90%超、約95%超、約96%超、約97%超、約80%~約99.9%、約90%~約99.9%、約95%~約99.9%、約96%~約99.9%、又は約97%~約99.9%である。
【0027】
コーティングのガリウム置換HA成分は、その主に含まれる相において、高い結晶質相純度を有する。この結晶質相純度は、約80%超、約90%超、約95%超、約96%超、約97%超、約80%~約99.9%、約90%~約99.9%、約95%~約99.9%、約96%~約99.9%、又は約97%~約99.9%である。この、ガリウム置換HAコーティングにおけるガリウム置換HA成分の高い結晶度及び高い結晶質相純度は、粒子放出を回避しつつ、生体内における生体適合性と均一な分解を強化する。いくつかの実施形態において、結晶度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0028】
このコーティングのガリウム置換HA成分は、非晶質成分が少ないか、又は非晶質成分を含まない。この非晶質含有量は、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約0.1%~約3%、約0.1%~約5%、約0.1%~約10%、又は約0.1%~約20%である。非晶質含有量は、検出限界を下回ることがある。いくつかの実施形態において、非晶質含有量は示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0029】
ガリウム置換HAコーティングの結晶構造は、X線分光法、例えば粉末X線回折分光法を用いて特性評価することができる。ガリウム置換HAコーティングは、粉末X線回折により特性評価されるとき、いくつかの特徴的な2θ回折角を呈する。カッコ内に示される数字は、各ピークに伴うミラー指数である。ガリウム置換HAコーティングのX線スペクトルは、約26±2°(002)、約28±2°(102)、約32±2°(112)、約50±2°(213)、及び約53±2°(004)又は26±0.5°(002)、約28±0.5°(102)、約32±0.5°(112)、約50±0.5°(213)、約53±0.5°(004)を含む2θ回折角を呈し得る。ガリウム置換HAコーティングのX線スペクトルは、約26±1°(002)、約28±1°(102)、約32±1°(112)、約50±1°(213)、及び約53±1°(004)を含む2θ回折角を呈し得る。ガリウム置換HAコーティングのX線スペクトルは、約25.58±0.1°、約28.13±0.1°、約31.75±0.1°、32.17±0.1°、約49±0.1°、及び約53±0.1°を含む2θ回折角を呈し得る。本明細書に述べられる回折角は、機器の変動により規則的にシフトすることがあることが理解されよう。
【0030】
ガリウム置換HAコーティングのXRDスペクトルは、特徴的な相対強度を有する。本明細書で使用されるとき、XRDスペクトルのピークの相対強度は、ピーク強度を、スペクトル中の最も強いピーク強度で割ったものを指す。(002)、(211)、(112)、(202)、(213)、及び(004)方向に伴うピークは、それぞれ、100%、40~50%、45~55%、15~25%、10~20%、及び15~25%の相対強度を有し得る。(002)、(211)、(112)、(202)、(213)、及び(004)方向に伴うピークのいずれか1つは、それぞれ、100%、30~60%、35~65%、5~35%、0~30%、及び5~35%の相対強度を有し得る。いくつかの実施形態において、ヒドロキシアパタイト層が有する(002)ピーク:(211)ピークのXRD強度比は、約1超、約1.25超、約1.5超、約1.75超、約2.0超、約2.5超、約3.0超、約3.5超である。
【0031】
X線分光法を用いて特性評価した場合、ガリウム置換の結果として、(002)ピークの2θ回折角は、ガリウムなしの溶液堆積プロセスで形成されたHAコーティングに比べてシフトしている。結果として得られる(002)回折ピークのシフトは、およそ約0.25°以下、約0.2°以下、約0.15°以下、約0.01°~約0.25°、約0.01°~約0.2°、約0.01°~約0.15°、約0.05°~約0.25°、約0.05°~約0.2°、又は約0.05°~約0.15°であり得る。(002)回折ピークのシフトは、ガリウムイオン濃度の増加に伴って増加し得る。この(002)回折ピーク2θのシフトは、約0.001Å~約0.05Å、約0.0025Å~約0.025Å、又は約0.0037Å~約0.0226Åのd間隔に関連している。
【0032】
このガリウム置換HAコーティングは更に、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて特性評価することができる。このガリウム置換HAコーティングは、PO4
3-の特徴である約1100cm-1のFTIRバンドを呈する。このガリウム置換HAコーティングは、炭酸塩の特徴である約1400~1500cm-1のFTIRバンドを欠いている。
【0033】
いくつかの実施形態において、このガリウム置換HAコーティングはナノ結晶質である。したがって、本開示のガリウム置換HAコーティングは、X線回折又は走査型電子顕微鏡により測定したとき、小さな結晶子径をもたらす。ガリウム置換ヒドロキシアパタイトは、約1nm~約100nm、約5nm~約100nm、約10nm~約100nm、約15nm~約100nm、約1nm~約80nm、約5nm~約80nm、約10nm~約80nm、約15nm~約80nm、又は約15nm~約70nmの範囲の平均結晶子径を有する。(002)方向の平均結晶子径は、約60nm~約80nm、約65nm~約75nm、約66nm~約73nm、又は約68nm~約69nmである。(200)方向の平均結晶子径は、約10nm~約30nm、約15nm~約25nm、約16nm~約23nm、又は約18nm~約22nmである。(210)方向の平均結晶子径は、約40nm~約60nm、約45nm~約55nm、約46nm~約53nm、又は約48nm~約52nmである。いくつかの実施形態において、ガリウム置換HAフィルムは少なくとも一方向に、光の波長より小さい結晶子径を有し、この粒は、異なる屈折率を有する第2の非晶質又は結晶質相の存在なしに、互いに結合されている。そのような実施形態において、このコーティングは透明又は半透明である。
【0034】
本開示のガリウム置換HAコーティングは、多孔性が高く、大きな表面積を有する。この表面積は、約5m2/g~約100m2/g、約10m2/g~約75m2/g、約10m2/g~約50m2/g、約10m2/g~約200m2/g、約10m2/g~約150m2/g、約10m2/g~約100m2/g、約50m2/g~約200m2/g、約50m2/g~約150m2/g、約50m2/g~約100m2/g、又は約15m2/g~約35m2/gである。この表面積は、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)法を用いて決定することができる。この表面積は、下記に詳しく記述されるように、これらのコーティング上に治療薬を吸着させる際に顕著な改善をもたらし得る。この増大された搭載能力を利用して、治療薬の用量及び遅延放出を調節することができ、これにより治療効果を高めることができる。
【0035】
理論に束縛されるものではないが、ガリウム置換HA結晶子径低減のもう1つの利点は、インプラント表面の表面ナノ形状を精密化し、これによって、植え込み後の血液由来のフィブリノゲン吸着を高め得ることである。これによって血小板の接着と活性化が増大し、これが炎症性カスケード及び治癒プロセスのイニシエーターとなる。ナノ形状は更に、インプラント表面に対するフィブリン凝塊(又は細胞外基質)の接着強度を高めることが示されており、これにより、新たな骨形成中の完全性、及び、治癒プロセス全体にわたる創面収縮を確実なものにする。
【0036】
本明細書に記述されるコーティングは、ASTM F1926に記述されるカルシウム電極で測定されるとき、インビトロにおいて、実質的に持続的な速度で、又は長期間にわたって持続的な速度で、カルシウム及び/又はガリウムを放出し得る。本明細書で使用されるとき、実質的に持続的な速度とは、毎時間で20%未満の変動の速度である。本明細書で使用されるとき、持続的な速度とは、毎時間で5%未満の変動の速度である。このコーティングは、少なくとも約5時間、少なくとも約10時間、少なくとも約15時間、少なくとも約20時間、約5時間~約100時間、約5時間~約50時間、約5時間~約30時間、約5時間~約25時間、約10時間~約100時間、約10時間~約50時間、約10時間~約30時間、約10時間~約25時間、約15時間~約100時間、約15時間~約50時間、約15時間~約30時間、又は約15時間~約25時間にわたり、実質的に持続的な速度でカルシウムを放出し得る。このコーティングは、少なくとも約5時間、少なくとも約10時間、少なくとも約15時間、少なくとも約20時間、約5時間~約100時間、約5時間~約50時間、約5時間~約30時間、約5時間~約25時間、約10時間~約100時間、約10時間~約50時間、約10時間~約30時間、約10時間~約25時間、約15時間~約100時間、約15時間~約50時間、約15時間~約30時間、又は約15時間~約25時間にわたり、持続的な速度でカルシウムを放出し得る。
【0037】
本明細書に記述されるガリウム置換HAコーティングは、従来記述されてきたコーティングに比べ、基材に対する高い接着性と高い密着性を有し得る。接着性及び密着性は、引張及び剪断のピーク応力値の測定により定量することができる。本明細書に記述されるコーティングは、整形外科用インプラントの表面から外向きに延出し得る。本明細書で使用されるとき、剪断応力は、バルク方向表面に平行な応力成分であり、引張応力はバルク方向表面から離れる応力成分である。
【0038】
ガリウム置換HAコーティングの剪断ピーク応力は、ASTM F1044により測定されるとき、約10MPa~約150MPa、約10MPa~約100MPa、約10MPa~約75MPa、約10MPa~約65MPa、又は約28.2MPa~約63.6MPaであり得る。引張ピーク応力は、ASTM F1147により測定されるとき、約25MPa~約120MPa、約40MPa~約120MPa、約50MPa~約120MPa、約60MPa~約120MPa、約68MPa~約120MPa、25MPa~約100MPa、約40MPa~約100MPa、約50MPa~約100MPa、約60MPa~約100MPa、約68MPa~約100MPa、25MPa~約95MPa、約40MPa~約95MPa、約50MPa~約95MPa、約60MPa~約95MPa、約68MPa~約95MPa、25MPa~約90MPa、約40MPa~約90MPa、約50MPa~約90MPa、約60MPa~約90MPa、又は約68MPa~約90MPaであり得る。
【0039】
ガリウム置換HAコーティングは、約150nm以上の整形外科用インプラントの表面から接着面までが測定されるとき、約1μm~約50μm、約1μm~約25μm、約1μm~約20μm、約1μm~約15μm、約1μm~約10μm、約1μm~約8μm、約3μm~約50μm、約3μm~約25μm、約3μm~約20μm、約3μm~約15μm、約3μm~約10μm、約3μm~約8μm、約5μm~約50μm、約5μm~約25μm、約5μm~約20μm、約5μm~約15μm、約5μm~約10μm、約5μm~約8μm、又は約7μmの平均厚さを有し得る。
【0040】
Porocoat又はGriptionなどの多孔性内部成長表面を適用した場合、ガリウム置換HAコーティングは、約1~約100mg/cm2、約1~約75mg/cm2、約1~約50mg/cm2、約1~約25mg/cm2、約1~約12mg/cm2、約5~約100mg/cm2、約5~約75mg/cm2、約5~約50mg/cm2、約5~約25mg/cm2、約5~約12mg/cm2、約7~約15mg/cm2、約7~約14mg/cm2、約7~約12mg/cm2、約9~約15mg/cm2、約9~約14mg/cm2、約9~約12mg/cm2、約9~約11mg/cm2、約9~約12mg/cm2、又は約8~約12mg/cm2の、単位表面積当たり重量を有し得る。
【0041】
本明細書に記述されるガリウム置換HAコーティングでコーティングされた整形外科用インプラントが、患者又は動物(例えばイヌ)に使用された場合、生体内での吸収速度は、そのガリウム置換HAコーティングが約3~約15週間、約4~約15週間、約5~約15週間、約6~約15週間、約3~約14週間、約4~約14週間、約5~約14週間、約6~約14週間、約3~約12週間、約4~約12週間、約5~約12週間、約6~約12週間、約1~約6週間、又は約6週間未満のうちに吸収されるような値となる。
【0042】
いくつかの実施形態において、ガリウム置換HAコーティングは更に、1つ以上の追加の治療薬を含む。このコーティングは、改善された骨伝導能、及び/又は抗炎症性材料の送達のための、追加材料を担ってもよい。
【0043】
この治療薬には、タンパク質、脂肪、(リポ)多糖類、成長因子、細胞増殖抑制剤、ホルモン抗生物質、抗感染症薬、抗アレルギー剤、抗炎症剤、プロゲステロン剤、体液剤、解熱薬、及び栄養剤が挙げられ得る。治療薬は、骨伝導性物質、骨誘導性物質、又は骨伝導性と骨誘導性の両方である物質であり得る。
【0044】
金属表面
本明細書に記述されるリン酸カルシウム層は、整形外科用インプラントの表面付近に配置される。この表面は金属表面であってよく、例えばチタン又はCoCr合金表面、あるいは二酸化チタン(TiO2)表面であってよい。いくつかの実施形態において、金属層の外側表面は非晶質であり、金属層の残り部分は結晶質である。他の実施形態において、金属層全体が結晶質である。例えば、表面とリン酸カルシウムコーティングとの間の界面は活性化された層を含んでよく、ここからリン酸カルシウムコーティングが核生成して外向きに成長することができる。表面全体がHAでコーティングされてよく、あるいは、表面にマスキングが行われ、表面のうち所定の部分がHAでコーティングされてもよいことが理解されよう。
【0045】
この表面は活性化された金属表面であってもよい。例えば、金属表面がチタン表面であるとき、この表面は活性化されてチタン酸塩の外側表面を形成し、これにより核生成が促進され、チタン表面とリン酸カルシウムコーティングとの間の接着が増大する。下記で詳しく記述されるように、チタン表面の活性化により更に、更なる熱処理なしに、そこから生じるリン酸カルシウム層の制御された結晶成長が促進される。いくつかの実施形態において、自然の酸化物、又はパッシベーションプロセスにより生成された酸化物は、水酸化物処理によりチタン酸塩に転換される。いくつかの実施形態において、このチタン酸塩はチタン酸ナトリウムである。あるいは、結晶質TiO2をインプラントコアに適用することができる。そのような結晶質フィルムは、更なる処理なしに、核生成を誘発する。いくつかの実施形態において、インプラント表面は、チタン合金以外のものからなる。この場合、活性化は、nmスケールの結晶質TiOxフィルムをインプラント表面に付着させることにより達成され得る。あるいは、薄い非晶質TiOx層を付着させ、この非晶質フィルムを水酸化物処理することによりチタン酸塩に転換することができる。活性化の更なる方法としては、当業者には明らかであるように、COOH、NH2、又はその他の荷電部分を含む表面を形成することが挙げられる。
【0046】
いくつかの実施形態において、インプラントのコア全体がチタンである。他の実施形態において、チタンはインプラントコアの少なくとも一部分にコーティングされ、これが更に、本明細書に記述されるリン酸カルシウムコーティングでコーティングされる。このインプラントコア及び/又は表面は、CoCrMo又はPEEKなどの材料を含み得る。
【0047】
あるいは、このインプラントは、好適な材料を含み得、例えばシリコン系材料、セラミック系材料、又はポリマー系材料を含み得る。その他の想到される材料には、コバルト、クロム、鉄、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、及びこれらの合金(例えば、チタン合金及びタンタル合金)、並びにコバルト、コバルト-クロム合金、及びステンレス鋼が挙げられる。このインプラントは、生体適合性ポリマー、天然又は合成ポリマーを含んでよく、例えばポリエチレン(例えば超高分子量ポリエチレン又はポリエチレンオキシド)、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、その他の多糖類、及び前述の任意のもののコポリマー(例えば、ポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー)を含んでよく、これには、合成ポリマー(例えばポリHEMA)からなる組織工学足場材料及び生物学的マクロ分子(例えばコラーゲン及びコンドロイチン硫酸)が挙げられる。
【0048】
この金属又は金属酸化物層は、少なくとも約25nm、少なくとも約30nm、少なくとも約35nm、少なくとも約40nm、少なくとも約45nm、少なくとも約50nm、少なくとも約60nm、少なくとも約70nm、少なくとも約80nm、少なくとも約90nm、又は少なくとも約100nmの厚さを有し得る。いくつかの実施形態において、この層は、約25nm~約125nm、約30nm~約125nm、約35nm~約125nm、約40nm~約125nm、約45nm~約125nm、約50nm~約125nm、約25nm~約100nm、約30nm~約100nm、約35nm~約100nm、約40nm~約100nm、約45nm~約100nm、又は約50nm~約100nmの厚さを有し得る。100nm未満のフィルムは、水酸化物処理の後、干渉色を呈さなくなることがある。好ましい層厚さは、整形外科用インプラントの望ましい色プロファイルに基づいて決定することができる。
【0049】
チタン表面の結晶構造は、例えば粉末X線回折などのX線分光法を用いて特性評価することができる。このチタン表面は、粉末X線回折により特性評価されるとき、いくつかの特徴的な2θ回折角を呈する。チタンフィルムのX線スペクトルは、約26°、約28°、約32°、約49°、及び約53°の2θ回折角を呈する。
【0050】
この金属表面は、HAコーティングでコーティングされる前に改変することができる。例えば、この金属表面は、生体適合性基材に対するアパタイトコーティングの接着性を促進するために、表面粗さに関して改変することができる。金属表面の粗さを改変するための可能な方法としては、酸エッチング又はグリットブラストが挙げられる。
【0051】
酸化チタンの形成と活性化
上述のように、酸化チタン層は、整形外科補綴物表面に形成することができる。TiO2層形成の好ましいプロセスは、コンフォーマル(見通し外)であり、コアに対して強力に接着するフィルムを作製するものである。原子層堆積は、良好に接着しかつ均一な厚さの、非晶質フィルムと結晶質フィルムの両方を作製可能であることが示されている。TiO2フィルムのゾル・ゲルプロセス及び電着も利用することができる。
【0052】
表面が形成され、又は他の方法で利用可能になった後、表面活性化を実施して、核生成とリン酸カルシウムの成長を促進することができる。酸化チタン表面に塩基条件を適用してこれを活性化することができる。いくつかの実施形態において、このチタン表面を、水酸化ナトリウムなどの水酸化物源で処理する。水酸化物処理は、金属に多孔性チタン酸塩表面を生成し、これが核生成及びリン酸カルシウムの成長を促進する。
【0053】
ガリウム置換溶液堆積ヒドロキシアパタイト(SoDHA-G)プロセス
本明細書に記述されるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは、過飽和溶液からの堆積により、活性化された表面上に形成される。十分に最適化された過飽和値で、安定な核が形成され、活性表面から成長し、これによって、本明細書に記述されるリン酸カルシウムコーティングがもたらされる。理論に束縛されるものではないが、この成長は主に、下記で詳しく記述される条件下において、均質メカニズムではなく、不均質核生成メカニズムにより起こると考えられる。このプロセスは、例えば上述のコーティングのような、ガリウム置換ヒドロキシアパタイト生成物をもたらす。
【0054】
カルシウム溶液及びリン酸塩/ガリウム溶液を調製し、希釈により望ましい濃度に調節する。このカルシウム溶液及びリン酸塩/ガリウム溶液を混合して、ヒドロキシアパタイトに関する、過飽和溶液がもたらされる。活性化された表面を有する整形外科用インプラント前駆体が、過飽和溶液に接触することにより、濁りを生じない溶液条件下で、再現性のある速度でのガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティング形成がもたらされる。いくつかの実施形態において、この基材は結晶質TiO2フィルム表面を有し、これは必ずしも活性化されていない。いくつかの実施形態において、この基材は、例えば水酸化物などの塩基で処理された非晶質フィルム表面を有する。インプラントにマスキングが行われ、インプラントの選択された部分のみに堆積が可能になるようにできることが想到される。
【0055】
溶液の濁りは、紫外線範囲を評価する光学センサーを用いて決定することができる。430nmで動作するOptek AS16Fプローブセンサーを利用して、溶液中の均質な核生成による濁りが検出された。理論に束縛されるものではないが、制御された速度でのコーティングは、主に、不均質核生成により生じると考えられる。
【0056】
コーティング溶液の過飽和の度合は、溶液中のカルシウムイオン、リン酸イオン、及びガリウムイオンの活性と、溶液のpHに依存する。活性は更に、溶液の濃度、種形成、及びイオン強度に依存する。このカルシウムストック溶液及びリン酸ストック溶液を混合して、望ましいリン酸カルシウム生成物に関する、過飽和溶液がもたらされる。活性化された表面を有する整形外科用インプラントが、過飽和溶液に接触することにより、迅速な再現性のある速度でのガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティング形成がもたらされる。
【0057】
インプラントは、HA相に関して過飽和した溶液中でコーティングされる。いくつかの実施形態において、この過飽和溶液は、Ga(NO3)3、Ca(NO3)、K2HPO4、KH2PO4、NaCl、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝液を含む。HPO4
2-/-H2PO4の比は、標的の溶液pHを達成するよう選択することができる。当業者には理解されるように、NO3及びK以外の他の対イオンも利用することができる。カルシウム及びリン酸塩/ガリウム濃縮液は、規定濃度で入手することができ、これを使用濃度まで希釈してから、混合して、最終的な過飽和溶液を作製することができる。
【0058】
HAの形成に使用される溶液は、約0.5~約1.5mM、約0.6~約1.5mM、約0.7~約1.5mM、約0.5~約1.3mM、約0.6~約1.3mM、約0.7~約1.3mM、約0.5~約1.1mM、約0.6~約1.1mM、約0.7~約1.1mM、約0.5~約1.05mM、約0.6~約1.05mM、約0.7~約1.05mM、又は約0.62~約1.05mMの濃度のカルシウムカチオンを含む。いくつかの実施形態において、このカルシウムイオンはCa2+である。
【0059】
HAの形成に使用される溶液は、約0.75mM~約1.75mM、約1.0mM~約1.75mM、約1.25mM~約1.75mM、約0.75mM~約1.5mM、約1.0mM~約1.5mM、約1.25mM~約1.5mM、約0.75mM~約1.35mM、約1.0mM~約1.35mM、約1.25mM~約1.35mM、約0.75mM~約1.3mM、約1.0mM~約1.3mM、又は約1.25mM~約1.3mMの濃度のリン酸アニオンを含む。いくつかの実施形態において、リン酸イオンはPO4
3-、HPO4
2-、H2PO4
-、又はこれらの組み合わせである。
【0060】
HAの形成に使用されるリン酸塩溶液は、約0.01mM~約0.4mM、約0.01mM~約0.3mM、約0.01mM~約0.2mM、約0.01mM~約0.1mM、約0.01mM~約0.4mM、約0.05mM~約0.3mM、約0.05mM~約0.2mM、又は約0.05mM~約0.1mMの濃度のガリウムカチオンを含む。いくつかの実施形態において、このガリウムイオンはGa3+である。いくつかの実施形態において、ガリウムの供給源は、Ga(NO3)3である。
【0061】
ガリウム置換HAの形成に使用される溶液は、約7.5~約8、約7.55~約8、約7.6~約8、約7.65~約8、約7.5~約7.9、約7.55~約7.9、約7.6~約7.9、約7.65~約7.9、7.5~約7.85、約7.55~約7.85、約7.6~約7.85、約7.65~約7.85、7.5~約7.8、約7.55~約7.8、約7.6~約7.8、約7.65~約7.8、7.5~約7.75、約7.55~約7.75、約7.6~約7.75、約7.65~約7.75、7.5~約7.7、約7.55~約7.7、約7.6~約7.7、約7.65~約7.7、又は約7.684のpHを有する。このpHは、所与のコーティング繰り返しにおいて、コーティングプロセスの最初のpHであり得る。このpHは、溶液が25℃のときのpHであり得る。
【0062】
いくつかの実施形態において、pHを安定させるために、緩衝液がこの過飽和溶液に含まれる。いくつかの実施形態において、この緩衝液はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液である。Trisの濃度は、約1mM~約10mM、約2mM~約10mM、約3mM~約10mM、1mM~約8mM、約2mM~約8mM、約3mM~約8mM、1mM~約6mM、約2mM~約6mM、約3mM~約6mM、又は約5mMである。
【0063】
イオン強度を高めるため、この過飽和溶液に塩が含まれ得る。いくつかの実施形態において、この塩は塩化ナトリウムである。塩の濃度は、約100mM~約200mM、約100mM~約175mM、約100mM~約160mM、125mM~約200mM、約125mM~約175mM、約125mM~約160mM、140mM~約200mM、約140mM~約175mM、又は約140mM~約160mMである。
【0064】
コーティングプロセス中の溶液の温度は、約40℃~約50℃、42℃~約50℃、44℃~約50℃、46℃~約50℃、約40℃~約48℃、42℃~約48℃、44℃~約48℃、46℃~約48℃、46.5℃~約47.5℃、又は約47℃である。インプラントは、プロセス温度から0.5℃以内に維持され得る。
【0065】
HAは溶解度の低い塩であり、Kspは10-120の桁であるため、制御された不均質核生成が起こり得る「メタ安定ゾーン」が非常に狭い。驚くべきことに、この範囲が存在することが見出され、これによって、制御された様相で、比較的安定な過飽和溶液が、整形外科用インプラントの活性化された表面上に結晶質ガリウム置換HAを堆積させることが可能になる。この範囲を特定する際に、低い過飽和濃度では核生成速度が遅くなり、高い過飽和濃度では、制御されない迅速な核生成速度及び生長となり、基材上に不均一な成長をもたらすことが観察された。理論に束縛されるものではないが、過剰な過飽和の条件下でのコーティングは、主に均質な核生成及び生長により起こると考えられる。
【0066】
様々な条件が、溶液安定性を高めることができる。いくつかの実施形態において、溶液は、堆積プロセスが生じる温度ではなく、室温で混合される。いくつかの実施形態において、カルシウムストック溶液を、NaCl及びTrisを含むリン酸塩ストック溶液に加える。いくつかの実施形態において、ストック溶液の温度は室温を下回らない。いくつかの実施形態において、この溶液は、粗い壁面ではなく滑らかな壁面を有する容器に収容される。
【0067】
驚くべきことに、望ましい時間枠で、制御されたガリウム置換HA結晶成長を可能にするような、過飽和溶液濃度の範囲、あるいは、ギブズ自由エネルギーの範囲を、特定することが可能であった。ガリウム置換SoDHAプロセスに使用される溶液は、ガリウム置換HAの形成のためのdGが約7kJ/mol~約9kJ/mol、7kJ/mol~約8.8kJ/mol、7kJ/mol~約8.6kJ/mol、7kJ/mol~約9.4kJ/mol、7kJ/mol~約8.2kJ/mol、7.2kJ/mol~約9kJ/mol、7.2kJ/mol~約8.8kJ/mol、7.2kJ/mol~約8.6kJ/mol、7.2kJ/mol~約9.4kJ/mol、7.2kJ/mol~約8.2kJ/mol、7.4kJ/mol~約9kJ/mol、7.4kJ/mol~約8.8kJ/mol、7.4kJ/mol~約8.6kJ/mol、7.4kJ/mol~約9.4kJ/mol、7.4kJ/mol~約8.2kJ/mol、7.6kJ/mol~約9kJ/mol、7.6kJ/mol~約8.8kJ/mol、7.6kJ/mol~約8.6kJ/mol、7.6kJ/mol~約9.4kJ/mol、7.6kJ/mol~約8.2kJ/mol、7.8kJ/mol~約9kJ/mol、7.8kJ/mol~約8.8kJ/mol、7.8kJ/mol~約8.6kJ/mol、7.8kJ/mol~約9.4kJ/mol、7.8kJ/mol~約8.2kJ/mol、約8.0kJ/mol~約8.4kJ/mol、約8kJ/mol、約8.2kJ/mol、又は約8.4kJ/molとなるように構成された。
【0068】
ガリウムなしのHA形成のdGと、SoDHA HAプロセスのガリウムなしのHAに関する溶液の相対的過飽和が、表1に列記されている。これらの代表的な値は、本明細書に開示される方法に伴う可能な値として限定的するものではない。
【0069】
【0070】
下記に詳しく記述されるように、このガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは過飽和溶液から形成可能であり、この過飽和溶液は、コーティングプロセスの間、溶液中の均質な核生成により、実質的に濁りがないままである。理論に束縛されるものではないが、均質な核生成により実質的に濁りがない溶液から堆積することは、予測可能なコーティング速度で、高い結晶度、均質な微小構造、及び強化された生体適合性を有して堆積されるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングに、役割を果たしていると考えられる。
【0071】
ガリウム置換HAは溶解度の低い塩であり、制御された不均質核生成が起こり得る「メタ安定ゾーン」が非常に狭い。驚くべきことに、望ましい時間枠での制御されたガリウム置換ヒドロキシアパタイト結晶の不均質核生成と成長が可能な、過飽和レベル及び温度の範囲を特定することが可能であった。これらの過飽和値で、安定な核が形成され、活性表面から成長し、これによって、本明細書に記述されるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングがもたらされる。
【0072】
このガリウム置換SoDHAプロセスは更に、基材と接触しているときに溶液を攪拌することを含む。ストック溶液の混合中に攪拌が少なすぎると、溶液を不安定化させることがある。ストック溶液の混合中に強い剪断攪拌を行うと、溶液を不安定化させることがある。攪拌は、かき混ぜにより行うことができる。
【0073】
このプロセスは、過飽和溶液に接触している空気の量を低減することを含む。いくつかの実施形態において、このプロセスは、例えばアルゴン又は窒素雰囲気などの、不活性雰囲気条件下で実施することができる。この不活性雰囲気は、過飽和溶液中への二酸化炭素の溶け込みを制限する(二酸化炭素が溶け込むと、CaP堆積を起こさずにpHを変化させ、内部プロセス監視としてpHを使用する妨げとなり得る)。そのような条件下で、結果として得られるガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティングは実質的に炭酸塩を含まない。
【0074】
このプロセスは、制御されながらも比較的迅速なコーティング速度で起こる。コーティング速度は、コーティング質量又はコーティング厚さで記述することができる。コーティング溶液中の一定数のインプラントについて、大きな比表面積を有するインプラント(例えば、多孔性金属内部成長構造によりコーティングされたもの)で、より大きなコーティング重量が得られる。しかしながらコーティング厚さは、インプラントの比表面積とはほぼ独立している。最後に、質量に基づくコーティング速度と厚さに基づくコーティング速度は、
図11に見られるように、総表面積/コーティング溶液体積の関数である。
【0075】
このプロセスは、厚さが約0.01μm/h~約10μm/h、約0.01μm/h~約5μm/h、約0.01μm/h~約4μm/h、約0.01μm/h~約3μm/h、約0.01μm/h~約2μm/h、約0.01μm/h~約1μm/h、約0.1μm/h~約10μm/h、約0.1μm/h~約5μm/h、約0.1μm/h~約4μm/h、約0.1μm/h~約3μm/h、約0.1μm/h~約2μm/h、約0.1μm/h~約1μm/h、約0.5μm/h~約10μm/h、約0.5μm/h~約5μm/h、約0.5μm/h~約4μm/h、約0.5μm/h~約3μm/h、約0.5μm/h~約2μm/h、又は約0.5μm/h~約1μm/hの速度で(at a rate of about a rate of about)増加するようガリウム置換HAを堆積させる。
【0076】
このプロセスは、約0.005mg/hr・mm2~約0.09mg/hr・mm2、約0.005mg/hr・mm2~約0.025mg/hr・mm2、0.005mg/hr・mm2~約0.0225mg/hr・mm2、0.005mg/hr・mm2~約0.02mg/hr・mm2、0.005mg/hr・mm2~約0.0175mg/hr・mm2、約0.005mg/hr・mm2~約0.015mg/hr・mm2、約0.0075mg/hr・mm2~約0.09mg/hr・mm2、約0.0075mg/hr・mm2~約0.025mg/hr・mm2、0.0075mg/hr・mm2~約0.0225mg/hr・mm2、0.0075mg/hr・mm2~約0.02mg/hr・mm2、0.0075mg/hr・mm2~約0.0175mg/hr・mm2、約0.0075mg/hr・mm2~約0.015mg/hr・mm2、約0.025mg/hr・mm2~約0.09mg/hr・mm2,約0.01mg/hr・mm2~約0.025mg/hr・mm2、0.01mg/hr・mm2~約0.0225mg/hr・mm2、0.01mg/hr・mm2~約0.02mg/hr・mm2、0.01mg/hr・mm2~約0.0175mg/hr・mm2、又は約0.01mg/hr・mm2~約0.025mg/hr・mm2の速度で、Gription上にHAを堆積させる。
【0077】
このコーティングプロセスは、「一定組成物」又は「可変組成物」プロセスであり得る。
【0078】
一定組成物プロセスにおいては、インプラント上へのガリウム置換ヒドロキシアパタイトの堆積により消費される反応物質が、コーティングプロセス全体にわたって、ほぼ連続的に堆積溶液に補充される。試薬の追加は、溶液からのガリウム置換ヒドロキシアパタイトの析出に対応するpHの降下に基づいて実施される。よって、堆積溶液中に補充されるプロセス試薬の量は、インプラント上に堆積するガリウム置換ヒドロキシアパタイトの量の代用物となる。理論に束縛されるものではないが、ガリウムがHAに含まれていないとき、「滴定液」(CDHAの析出により引き起こされるpHの変化に対応して、堆積溶液に補充される溶液)の組成物を計算する式は下記のものであり得る:
・TCaNO3=(Nb)(WCaNO3)+(10-x)Ceff
・TP=(Nb)(WPO4)+6 Ceff
・TNaCl=(Nb)(WNaCl)-(20-2x)Ceff
・TKOH=(Nb)(WKOH)+(14-2x)Ceff
式中、Ceffは、追加された滴定液の1リットル当たりの析出したCaPのモル数に等しく、xはCDHAの非化学量論的係数であり、Nb=溶液に滴定液を加えるビュレットの数、及びWは過飽和溶液中の反応物質の濃度である。
【0079】
可変組成物プロセスでは、一定組成物プロセスにより達成されるような一定の高い推進力を維持するのではなく、析出の化学的推進力によって、高い推進力範囲を維持する量だけ初期条件から下がることが許される。溶液からCaPが析出することによりコーティング試薬のある程度の割合が消耗することによって推進力の下限に達すると、このコーティング溶液は廃棄され、新しいコーティング溶液が堆積プロセス容器に追加される。可変組成物プロセスの一実施形態は、溶液pHの変化と、コーティング溶液から析出するガリウム置換ヒドロキシアパタイトの量及び組成(the amount and composition of hydroxyapatite)との間の、定量的関係を利用する。この関係は、コーティング溶液をいつ廃棄して新しい溶液と交換すべきかを判定し、また、ガリウム置換ヒドロキシアパタイトコーティング重量が達した所定のプロセスエンドポイントを判定するのに、使用することができる。緩衝液の量は、ガリウム置換ヒドロキシアパタイト析出に伴うpH低減を少なくし、同時に、内部プロセス診断の際にpH変化を使用できるように、選択される。いくつかの実施形態において、このpH測定は、連続的ではなく間欠的に行うことができる。コーティング速度は、堆積シーケンス回数が少ないほど、またコーティングシーケンスの数が多いほど、増大する。いくつかの実施形態において、コーティング溶液は炭酸塩を含んでおらず、このことは、コーティング形成中のプロセス監視又は制御としてpHを使用するのに役立ち得る。
【0080】
理論に束縛されるものではないが、ガリウムが含まれていないとき、この反応は、表2に示す化学量論により進行すると考えられる。
【0081】
【0082】
表2に示すように、リン酸カルシウムの析出は、カルシウム及びリン酸塩濃度の低下と、pHの低下とを伴う。これらの濃度及びpHの変化は、反応の進行と共に過飽和の程度を低減し、堆積速度の低下を伴う。
【0083】
pHと析出量の関係は、異なる溶液量に拡大することができる。このpH変化と析出相量の関係は、予測可能な析出量が確実に形成されるようにするプロセスモニターとして利用することができる。
【0084】
過飽和溶液のpHは、生じているコーティングの程度を判定するために監視され得る。いくつかの実施形態において、カルシウム濃度、リン酸塩濃度、及びpHのうち1つ以上が所定レベルまで低下するまでの間、基材は溶液に接触している。
【0085】
ガリウム置換SoDHAの核生成速度、成長速度、及び相対的推進力は、ガリウム置換HAが析出するにつれて変化するが、析出が進行する際にこれらの値の変化を最小限に抑えるプロセスが開発された。この、インプラントをコーティングするために使用されるプロセスは、可変組成物プロセスであった。本明細書で使用されるとき、可変組成物プロセスとは、プロセスの過程にわたって熱力学的変数の変化が許容されるプロセスを指す。本明細書に記述される可変組成物プロセスにおいて、インプラントは複数の溶液バッチによりコーティングされてよく、これによりイオン濃度とpHが、各繰り返し手順中に所定のレベルまでしか低下しないようにできる。濃度変化の度合を低減するため、複数の連続的析出が使用され、各堆積シーケンスは、整形外科用インプラントを新しい溶液に接触させることが含まれた。堆積に伴うpH変化は、この溶液を緩衝液(例えばTRIS緩衝液)で緩衝することにより低減され得る。
【0086】
いくつかの実施形態において、3回シーケンスの堆積が実施された。3回シーケンスの堆積プロセスについて、各堆積シーケンス中の濃度変化は、1回の堆積シーケンスの場合に比べて、3分の2に低減される。いくつかの実施形態において、1回のみの堆積シーケンスが実施される。いくつかの実施形態において、2回又は3回の堆積シーケンスが実施される。1~10回、2~10回、3~10回、1~5回、2~5回、又は3~5回の堆積シーケンスが実施され得る。いくつかの実施形態において、採用される堆積シーケンスの回数は、インプラントの表面積と、コーティング容器の体積との比に依存する。インプラント表面積/体積の比が大きいほど、コーティングシーケンスの回数が多くなり、シーケンスが短くなり得る。表面積/体積比が小さいほど、シーケンスの回数が少なくなり、シーケンス当たりの持続時間が長くなり得る。pH緩衝と溶液の更新を組み合わせることにより、熱力学的推進力の変化を最小限に抑え、堆積プロセス全体にわたって同じリン酸カルシウム相が確実に作製されるようにするのに役立ち得る。
【0087】
本発明の方法による、溶液堆積組成物との合計接触時間は、典型的に約30分間以上である。合計接触時間は好ましくは約8時間以下である。より好ましくは、この生体適合性基材は、約1分間~約2時間、約1分間~約1時間、約1分間~約30分間、約5分間~約2時間、約5分間~約1時間、約5分間~約30分間、約2時間以下、約1時間以下、又は約30分間以下の、複数のシーケンス接触時間の対象となる。一般に、合計接触時間が長いほど、またコーティングシーケンスが短いほど、より厚い生理活性ヒドロキシアパタイトコーティングがもたらされる。加えて、この接触時間は、どの回においても、コーティングされる生理活性基材の数に依存する。
【0088】
いくつかの実施形態において、析出物重量とpH変化の関係を使用して、SoDHA-Gプロセスの進行が監視される。付加的な実施形態において、析出物重量と、カルシウム及び/又はリン酸塩濃度の変化との関係を使用して、SoDHA-Gプロセスの進行が監視されてもよい。他の実施形態において、このプロセスは、所定量の時間とpHにわたって実施され、カルシウム濃度とリン酸塩濃度は監視されない。
【0089】
いくつかの実施形態において、SoDHA-Gコーティングを乾燥させるのに超臨界流体が採用され得る。このプロセスは、コーティングに含まれる水を、有機溶媒で置き換えた後、超臨界流体で抽出することを含む。SoDHA-Gコーティング形成の後、有機溶媒交換を実施する。これは、コーティングされた物品を所定時間にわたって有機溶媒に浸すことにより行われる。コーティング中の有機溶媒の置換の後、このコーティングされた物品を容器に入れ、ここに超臨界流体を導入する。次に、超臨界流体の臨界温度より上の温度に維持しながら、容器を大気圧まで減圧する。このようにして超臨界流体が超臨界状態から気体へと直接減圧され、これによって、ひび割れの原因となり得る液体毛管力の形成を回避する。
【0090】
いくつかの実施形態において、この有機溶媒はアルコールである。例えば、この有機溶媒はメタノール、エタノール、又はイソプロパノールである。いくつかの実施形態において、この超臨界流体は超臨界CO2(scCO2)である。
【0091】
加えて、いくつかの実施形態において、このSoDHA-Gコーティングは熱水再析出条件に曝すことができる。SoDHA-Gコーティング形成後、このコーティングは、リン酸塩ガリウム溶液中に入れて加熱され得る。この熱水処理は、約50℃~約350℃、約60℃~約350℃、約70℃~約350℃、約80℃~約350℃、約50℃~約150℃、約60℃~約150℃、約70℃~約150℃、約80℃~約150℃、約50℃~約99℃、約60℃~約99℃、約70℃~約99℃、約80℃~約99℃、約50℃~約95℃、約60℃~約95℃、約70℃~約95℃、約80℃~約95℃、約50℃~約90℃、約60℃~約90℃、約70℃~約90℃、約80℃~約90℃、約50℃~約85℃、約60℃~約85℃、約70℃~約85℃、約80℃~約85℃、約50℃~約80℃、約60℃~約80℃、又は約70℃~約80℃の温度で実施され得る。このコーティングは、約15分間~約24時間、約15分間~約4時間、約15分間~約3時間、約15分間~約2時間、約30分間~約24時間、約30分間~約4時間、約30分間~約3時間、約30分間~約2時間、約1時間~約24時間、約1時間~約4時間、約1時間~約3時間、約1時間~約2時間、又は約2時間、加熱され得る。
【0092】
本明細書に記述される方法は、基材上に成長する材料の量を最大化し、かつ、懸濁液中で均一に析出する材料による表面上への固結量を最小限に抑える。加えて、これらの方法は、制御された予測可能な堆積速度をもたらし、高い接着性と密着性を備えたフィルムを生成し、かつ、粒子を放出せずに均一に分解する均一な微小構造を生成する。予測可能な堆積速度によって、標的のフィルム厚さを容易に達成することができる。この方法は更に、多孔性構造に好適な被覆を提供し、様々なインプラント形状に好適である。
【0093】
定義
本明細書で使用されるとき、生成物の相対的過飽和(S)は、式S=[IAP/Ksp]1/vで表わされ、式中、IAPはこの生成物のイオン活性であり、Kspはこの生成物の溶解度定数であり、vはこの生成物の単位式におけるイオンの数である。
【0094】
本明細書で使用されるとき、相変化に伴うギブズ自由エネルギー変化(dG)は、式dG=RT/v*ln[IAP/Ksp]で表わされ、式中、Rは普遍気体定数であり、Tは絶対温度であり、Kspはこの生成物の溶解度定数であり、vはこの生成物の単位式におけるイオンの数である。
【0095】
本明細書で使用されるとき、相対的過飽和Sは、(IAP/Ksp)1/vに等しい。
【0096】
本明細書で使用されるとき、均質な析出又は均質核生成とは、異物表面が関与しない、過飽和溶液からの固体相の核生成を指し、濁った過飽和コーティング溶液をもたらす。
【0097】
本明細書で使用されるとき、不均質な析出又は不均質核生成とは、堆積プロセス中に実質的に濁りのない過飽和溶液からの、不純物相上の固体相の核生成を指す。
【0098】
本明細書で使用されるとき、「リン酸八カルシウム」又は「OCP」は、式Ca8(HPO4)2(PO4)4を有するリン酸カルシウムを指す。
【0099】
本明細書で使用されるとき、過飽和とは、溶質が平衡を超えて濃縮されている溶液を指す。濃度が飽和点を上回るとき、この溶液は過飽和と呼ばれる。
【0100】
本明細書で使用されるとき、溶解研究を参照し、インビトロとは、ASTM F1926に記述されるように、pH 7.4でのTris緩衝食塩水溶液中を指す。
【実施例】
【0101】
実施例1-TiO2フィルムの原子層堆積によるCoCrの活性化
Beneq(Helsinki、Finland)によるCoCrグリットブラスト表面上に、原子層堆積によってTiO2フィルムが調製された。このフィルムはTiCl4及びH2O前駆体から作製された。非晶質フィルムは90℃で作製され、結晶質(鋭錐石+金紅石)フィルムは200℃で作製された。フィルムは、実施例3に記述される方法に従い、水酸化物で活性化された(4時間、5M NaOH、60℃)。500、200、100、及び50nmの非晶質フィルム(500A、200A、100A、及び50A)並びに500及び200nmの結晶質フィルム(500℃、200℃)が、SoDHA法により、実施例5及び6に詳しく記述される公称濃度を用いて、ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する能力について評価された。
【0102】
サンプルのHAコーティング重量は、
図1に示すように、約6mg~約8mgの範囲であった。非晶質フィルムと結晶質フィルムの両方が、強塩基による活性化の後、HAの核生成が可能であった。コーティング実験により、堆積した結晶質酸化チタンとして堆積が生じたが、これは、NaOHエッチングされた非晶質又は結晶質酸化チタンで観察されるよりも低い速度であったことが示された。
【0103】
HAコーティング前の、厚さ200nmの活性化された非晶質フィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を、
図2に示す。HAコーティング前の、厚さ200nmの活性化された結晶質フィルムの、SEM画像を、
図3に示す。非晶質フィルムでは、特徴的なチタン酸塩の形状が明らかであった。厚さ100nmを超えて調製されたフィルムは、水酸化物処理後に干渉色を示した。
【0104】
NaOHでの活性化前と活性化後の、厚さ200nm及び500nmの、非晶質及び結晶質チタンコーティングについて、見通し角X線回折(XRD)スペクトルが取得された。非晶質フィルムのXRDスペクトルを
図4に示す。結晶質フィルムのXRDスペクトルを
図5に示す。
【0105】
実施例2-CoCr合金上のTiO2フィルムの電解形成
0.05M TiCl4及び0.25M H2O2の、メタノール/水(3/1体積%)混合溶媒中の電解質溶液を調製した。この溶液のpHを、0.9~1.0に固定した。化学薬品はすべてACSグレードであった。電解質溶液を調製するために、TiCl4を溶媒にゆっくりと加え、次いでH2O2を加えた。H2O2の添加中に、透明から濃いオレンジ色の急激な色変化が観察された。これはペルオキソ錯体の形成を示す。調整及びpH測定後、電解液を約4℃で保管し、必要に応じてpHを調節した。望ましい電荷密度まで、定電流で電着を行った。温度は低温槽により0℃に固定した。自作のLabviewプログラム(Xantrex XDC 300-20電源を制御する)を構築して、電流電荷密度を制御しながら、電圧-時間曲線を記録した。印加される電荷密度は2.5C/cm2~40CC/cm2の範囲に固定された。電流密度は-50mA/cm2~-50mA/cm2の間で変化した。
【0106】
メタノール/水(3/1体積%)混合溶媒中の0.05M TiCl
4、0.5M H
2O
2溶液(pH=0.97)で、良好なフィルム均質性が得られた。-1.1V、1時間、60℃で、良好な成長が生じた。
図6は、CoCrMo基材上でのこれらの条件下で電着したチタンコーティングを示すSEM画像である。
【0107】
実施例3:チタン表面の活性化
DePuy Gription多孔性金属コーティングでコーティングされた直径2.5センチメートル(1インチ)のTi6-4ディスクを、下記の工程でクリーニングし、活性化した。逆浸透(RO)水及びアルカリ洗剤の入った容器内にディスクをセットし、超音波発生機で15分間×2回洗浄した。次に、RO水のみの入った容器にディスクをセットし、超音波発生機で15分間×2回洗浄した。4枚のディスクを500mLのビーカーに入れ、200mLの5M NaOHを加えた。ディスクを二次格納容器に入れ、ビーカーの上にゆるいキャップをかぶせた。ビーカーの温度を60℃に設定し、4時間保持した。ディスク(desks)をビーカーから取り出し、超音波発生機を用いてRO水で15分間×4回すすいだ。ディスクを60℃の炉に入れて一晩乾燥させた。本明細書に開示される方法において、CaPの核生成と成長を促進する傾向に対する、この活性化層の熱処理の影響は見られなかった。下記に報告される実施例は、活性化表面の熱処理なしで実施された。コーティング実験により、結晶質チタンとして堆積が生じたが、これは、NaOHエッチングされた非晶質チタンで観察されるよりも低い速度であったことが示された。
【0108】
実施例4:ストック溶液の調製
1L容器中での直径2.5センチメートル(1インチ)のディスクのHAコーティングのための濃縮溶液及びストック溶液が、下記の工程で調製された。
【0109】
36mM Ca溶液を調製した。きれいな2リットル瓶を取得し、磁気攪拌棒を瓶の中に入れた。8.50194gのCa(NO3)を計り取り、この2リットル瓶に入れた。瓶をアルゴンで3~5分間パージした。1000mlの脱イオン(DI)水(電気抵抗18MΩ以上)を瓶に加えた。この瓶を攪拌プレート上に置き、Ca(NO3)が完全に溶解するまで、その内容物を攪拌した。この溶液を、0.22μm細胞培養減圧フィルター(Corning、漏斗容積1000mL;受容器:90mm;孔径:0.22μm;PES、No.:431098)を用いて濾過した。
【0110】
40mMリン酸塩(Pi)溶液を調製した。きれいな2リットル瓶を取得し、磁気攪拌棒を瓶の中に入れた。5.444gのKH2PO4を計り取り、この2リットル瓶に入れた。19.0387gのTrisと、273.675gのNaClを計り取り、瓶に加えた。瓶をアルゴンで3~5分間パージした。18MΩ以上のDI水898.1mLを加えた。手動ピペットを使って、5.8mLの6N HClを瓶に加えた。この瓶を攪拌プレート上に置き、Tris、NaCl、及びKH2PO4が完全に溶解するまで攪拌した。溶液の最終体積は1Lであり、溶液のpHは25℃で約8.23であった。必要に応じて、HCl又はNaOHを使用して、pHをこの値に調節することができる。この溶液を、0.22μm細胞培養減圧フィルター(Corning、漏斗容積1000mL;受容器:90mm;孔径:0.22μm;PES、No.:431098)を用いて濾過した。
【0111】
495.3mLの2.0787mM Caストック溶液を調製した。前に調製した36mMカルシウム溶液を攪拌プレート上に置き、5分間攪拌した。きれいな1リットル瓶を、アルゴンでパージした。28.6mLの36mMカルシウム溶液を、ピペットを用いて加えた。18MΩ以上のDI水466.7mLを加えた。
【0112】
500mLの2.5690mM Piストック溶液を調製した。前に調製した40mMリン酸塩溶液を攪拌プレート上に置き、5分間攪拌した。きれいな1リットル瓶を、アルゴンでパージした。32.112mLの40mMリン酸塩溶液を、ピペットを用いて加えた。18MΩ以上のDI水467.888mLを加えた。
【0113】
1.7792mM Ca溶液を調製した。前に調製した36mMカルシウム溶液を攪拌プレート上に置き、5分間攪拌した。きれいな1リットル瓶を、アルゴンでパージした。36mMカルシウム溶液と、18MΩ DI水とを混合して、望ましい濃度を得た。
【0114】
500mLの2.2262mM Pi溶液を調製した。前に調製した40mMリン酸塩溶液を攪拌プレート上に置き、5分間攪拌した。きれいな1リットル瓶を、アルゴンでパージした。40mMリン酸塩溶液と、18MΩ DI水とを混合して、望ましい濃度を得た。
【0115】
ガリウム/リン酸塩ストック溶液を調製した。最初に、上述のように、40mMのリン酸塩濃縮液を希釈することにより、約2Lの1.2730mMリン酸塩ストック溶液を調製した。この溶液を脇に置いた。次に、きれいな2L瓶を入手した。GaNO3/リン酸塩溶液の望ましい重量% Gaに基づいて、GaNO3水和物を秤で秤量し、これを2本目の空のきれいな2L瓶に入れた。約200~300mLのリン酸塩ストック溶液を、GaNO3の入った2L瓶に加えた。GaNO3と200~300mLのリン酸塩ストック溶液が入った瓶にキャップをした。瓶を振盪することにより、濁った溶液が形成された。この溶液を、きれいな500mLメスフラスコに移した。メスフラスコの充填線に達するまで、リン酸塩ストック溶液を加えた。メスフラスコの中身を、前に溶液が入っていた2L瓶に戻した。メスフラスコをあと2回、リン酸塩ストック溶液で充填し、毎回、このストック溶液を、GaNO3の入った2L瓶に加えた。別に50mLのリン酸塩ストック溶液をメスシリンダーで測り取り、GaNO3溶液に加えた。この溶液が入った2L瓶にキャップをして、再び振盪し、すべての固体が溶解してGaNO3/リン酸塩溶液を形成していることを再確認した。
【0116】
ガリウム/リン酸塩は、Gaが5~20重量%の比で調製された。混合の後、6N NaOHをマイクロリットル単位で加えて、pHを8.3~8.4に調節した。
【0117】
実施例5:1L容器での溶液堆積によるHAコーティング
直径2.5センチメートル(1インチ)の多孔性金属コーティングされたチタンクーポンをコーティングした。1Lジャケット容器のカバーを提供して、堆積プロセス中にアルゴン被覆ガスを可能にした。実施例4により調製された500mLの2.569mMリン酸塩ストック溶液を1Lジャケット容器に加え、この容器を攪拌棒プレート上に置いた。撹拌棒を200rpmで作動させた。次に、実施例4により調製された495.3mLの2.0787mM Caストック溶液をこの容器に注いだ。NaCl希釈に伴う体積増大により、25℃での合計体積は1Lであった。溶液のpHは7.68、計算されたdGは8.242であった。HAの相対的SSは、コーティングプロセス最初の時点で22.15であった。加熱した水浴をジャケット容器に循環させ、この溶液を47℃まで温めた。温度は0.5℃範囲内に制御された。温度センサーは、NIST追跡可能RTDで較正した。エッチングされた(活性化された)ディスクを固定具に配置し、1Lジャケット容器中に吊されるようにした。
【0118】
コーティング後、ディスクをDI水の第1容器に移し、1分間浸した。次に、ディスクをDI水の第1容器から第2容器に移し、1分間浸した。次に、ディスクをDI水の第2容器から第3容器に移し、1分間浸した。浸した後、ディスクを6ウェルトレイに移し、60℃の炉で60分間乾燥させた。
【0119】
このプロセスを、毎回新しい溶液を用いて、3回繰り返した。各シーケンスは、固定値のdpHで対照がとられた。より大きなインプラントSA/V比には、短いコーティングシーケンスをより多い回数で使用することができる。低いSA/V比には、シーケンス当たりの持続時間が長いシーケンスを、より少ない回数で使用することができる。動物研究(実施例17)で使用された941mm2/Lに等しいSA/V比で、合計コーティング時間5.73時間、コーティングシーケンス2.35回、シーケンス当たりの持続時間2.44時間が用いられた。
【0120】
コーティング後、ディスクをDI水の第1容器に移し、1分間浸した。次に、ディスクをDI水の第1容器から第2容器に移し、1分間浸した。次に、ディスクをDI水の第2容器から第3容器に移し、1分間浸した。浸した後、ディスクを6ウェルトレイに移し、60℃の炉で60分間乾燥させた。
【0121】
実施例6:フルスケールプロセスの検証
実施例5に示される公称プロセスを、
図7に示す「フルスケール」システムを用いて繰り返した。このフルスケールシステムは、1つ以上のコーティングシーケンスの1回のコーティング作業で、最大で40個の臼蓋、又は16本の股関節ステムをコーティングするよう設計されている。一連のコーティング作業は、標準DePuy TriLock BPS股関節ステム、又は直径2.5センチメートル(1インチ)のクーポン(
図17に示す)を受容するよう改変された股関節ステムの両方を利用して、公称規模と、プロセス限界を超える、及び下回る値で行われた。プロセス限界は、Ca及びリン酸塩濃度が±2%、pH単位が±0.06として定義された。コーティングは、実施例に記述されるように、様々な方法で特性評価された。
【0122】
実施例7:プロセスモニターとしてのdpHの使用
公称値での実施例5に記述されるSoDHAプロセス、Trisなしでの公称値での実施例5に記述されるSoDHAプロセス、5mMありの公称値での実施例5に記述されるSoDHAプロセスについて、pH及び析出質量が監視された。pHと析出量の関係は、例えばMicromath Scientific Software(9202 Litzsinger Road、Saint Louis、Missouri 63144)から販売される溶液熱力学ソフトウェア「Chemist」バージョン1.0.3を使用して、異なる溶液量及び緩衝液強度に拡大することができる。このpH変化と析出相量の関係は、標的の析出量が形成されることを確認するプロセスモニターとして利用することができる。析出したCaP相の量の関数として、反応物質の濃度及び活性を計算するよう、表2にまとめられている関係に基づいて、スプレッドシートカルキュレーターが構築された。このカルキュレーターによりモデル化され得るCaP相には、化学量論的HA、化学量論的OCP、非化学量論的CDHA、及びHA又はCDHAとOCPとの混合物が挙げられる。析出したCaP相の各増分について、減少した反応物質濃度がChemistに入力され、Chemistが緩衝液タイプ及び分析のレベルに基づいてシステムpHを計算する。
図10は、次の式からなるCaPの合計mgの関数としての、予測pH対実験値のプロットを示す。
1)式Ca
10-x(PO
4)
6-x(HPO
4)
x(OH)
2-xのCDHAであり、式中x=1.0以下、
a)TRIS緩衝液なし
b)5mM TRIS緩衝液あり
2)80% OCPと20% CDHAの混合物であり、式中x=1.5であり、5mM TRISあり。
【0123】
このプロットの実験値は、実施例5から得たものである。
【0124】
実施例8:HAコーティングの特性評価
図8は、倍率15000倍でのSoDHA HAコーティングされた平坦なチタンディスクの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図9A及び9Bは、それぞれ倍率100倍及び400倍での、SoDHA HAコーティングされた多孔性内部成長構造(Gription)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。HAコーティングはディスク表面にわたって連続的であったことがわかる。
【0125】
図11は、一定のdG、温度、及び攪拌度合での、堆積速度(mg/hr)に対する様々な表面積(mm
2)を有する基材の効果を示す。材料は、実施例5に記述される公称条件を用いて、フルスケール堆積システムにおいて公称値でHAコーティングされた。表面積が増加するとコーティング速度が低下することがわかる。この傾向を利用して、所与の基材について、表面積に基づいてコーティング時間を推定することができる。
【0126】
バルクHA及びOCPの密度は、約3.1g/cm3で同様である。実施例5により公称値で調製された、平坦クーポン上に7mgの、HAの堆積は、表面積5.07cm2、厚さ約7マイクロメートルを有し、これは実際の密度約1.97g/cm3、多孔性約36%に対応している。
【0127】
実施例9:フルスケールプロセスの特性評価
公称及びプロセス限界値で実施例5によるフルスケールシステムプロセスにより調製されたコーティングは、下記の特性を満たした。
コーティング重量:投影表面積当たり0.08~0.12mg/mm2
リートベルト解析による結晶質HA%:70%超
非晶質リン酸カルシウム%:DSCによる検出限界未満(実施例11に記述される)。
【0128】
XRD結晶子径パラメーター:
1/β (200)1.63+-0.13
1/β (002)4.15+-0.10
1/β (210)1.5+-0.10
【0129】
ASTM F1147により測定される引張接着(グリットブラスト平坦面):68MPa超、Ca/P比:1.39~1.65
【0130】
図12~16は、公称条件及びプロセス限界条件で評価された、フルスケールシステムから得られたデータをまとめたものである。すべての場合において、エラーバーはデータの3標準偏差に等しい。
【0131】
図12は、公称及びプロセス限界での、実施例6によるフルスケールシステムにおける堆積により調製された、HAコーティングされた材料のCa/P比を示す。Ca/P比は、湿潤化学的方法により決定される。「NIST」は、米国国立標準技術研究所標準のヒドロキシアパタイトを指す。
【0132】
図13は、公称及びプロセス限界での、実施例6によるフルスケールシステムにおける堆積により調製された、HAコーティングされた材料の、XRDにより測定されたコーティングの結晶度を示す。結晶度は、コーティング上で選択された回折ピーク下の面積に基づいて測定され、高結晶質のNIST標準の同じピーク下の面積と比較した。報告されていない材料残部は、PSHA堆積中に見られるように、非晶質ではなかった。100%未満の結晶度値は、フィルムの細かい粒度を反映し、粒界が乱れている事実を示し、回折ピーク面積にはあまり寄与しない。非晶質含有量はDSCにより測定される。
【0133】
図14は、実施例6によるフルスケールシステムにおける堆積により調製された、HAコーティングされた基材における、すべての結晶質材料のうち、結晶質材料としてのHAのパーセンテージを示す。換言すれば、フィルムの相純度の測定値である。
【0134】
図15は、実施例6によるフルスケールシステムにおける堆積により調製されたHAフィルムの、ASTM F1147により測定された引張接着を示す。
【0135】
図16は、実施例6によるフルスケールシステムにおける堆積により調製されたHAフィルムの、ASTM F1044により測定された剪断接着を示す。
【0136】
実施例10-示差走査熱量測定(DSC)
示差走査熱量測定(DSC)はこれまで、プラズマスプレーされたヒドロキシアパタイト材料において、非晶質リン酸カルシウム相の熱再結晶を直接観察し定量的に測定するのに研究されてきた。非晶質リン酸カルシウムは、様々な温度(500℃~750℃の範囲内)で起こる一連の発熱反応によって再結晶し、プラズマスプレーパラメーター(例えばプラズマ出力、供給速度、コーティング厚さなど)の変化に依存して異なる強度を有することが報告されている。反応は、約500~550℃の発熱ピーク(材料中のヒドロキシル基豊富な非晶質領域の結晶化)、約600~650℃の発熱ピーク(ヒドロキシルイオンがヒドロキシル基涸渇領域に拡散)、及び約720~750℃の発熱ピーク(オキシアパタイト相の結晶化)に見られる。
【0137】
この例において、DSCは、725℃まで加熱した際の不純物及び/又は非晶質相の結果として、ヒドロキシアパタイト/リン酸カルシウム材料中に生じ得る何らかの相転移(例えば再結晶化)を観察するのに使用される。
【0138】
実施例5により調製された溶液堆積SoDHA HA粉末は、平坦なTi64証明クーポンから削り取られた。各粉末材料を、DSCを用いて最低3回試験された。Pyris DSC解析ソフトウェアを使用して、全粉末サンプルについてピーク面積とピーク位置(550~710℃)を測定し、結果として得られる再結晶エネルギー(J/g)を計算した。
【0139】
コーティングされたTi証明クーポンから削られたSoDHA粉末のDSC解析を
図24に示す。これには、加熱による識別可能な発熱ピークは示されていない。
【0140】
関心領域、すなわち550℃~710℃において、SoDHA削り粉末について生成されたDSC加熱曲線には、発熱ピークは見られなかった。このことは、ガラス状非晶質相が、あったとしてもごくわずかであることを示す。DSC曲線に基づき、試験されたSoDHA粉末中のガラス状非晶質材料は2重量%未満であった。また、DSCを用いて解析されたSoDHA粉末は、試験後に灰色であった。このことは、少量のチタンが削り取り時に基材から除去され、これがDSC試験中に酸化したものであることを示す。
【0141】
実施例11:第1のガリウム置換SoDHAコーティング試行
ガリウムドーピング研究は最初に、カルシウムストック用液にガリウムイオンを添加する。カルシウム溶液の代わりにガリウム/カルシウム溶液を使用して、実施例6に記述されるプロセスを繰り返した。この方法は、堆積プロセスを不安定化させ、この方法で形成されたフィルム中に見られるガリウムは、別の相として存在していた。カルシウムストック溶液に硝酸ガリウムを添加した後の様々な時間間隔で、濁りが観察された。これはコーティング効率が低いことを反映し、この方法で作製されたコーティング中に検出されたガリウムは、粒子を含んだ分離したガリウムとして存在していた。望ましいSoDHAコーティングの表面に、かなりの量の、ゆるく結合したリン酸カルシウム析出物が生じた。
【0142】
実施例12:ガリウム置換SoDHAコーティング
実施例6に記述されるプロセスを繰り返したが、ただし下記のとおり行った。リン酸塩溶液の代わりにガリウム/リン酸塩溶液を使用した。500mLのカルシウム溶液を、ガリウム/リン酸塩溶液に加えた。この実験開始時のpHは典型的に7.68~7.8であった。
【0143】
驚くべきことに、リン酸塩及びTRIS及びNaClを含むストック溶液にガリウムを加えることによって、HA格子にガリウムが組み込まれた。この組み込みは、実施例9に詳しく述べられているように、格子パラメーター、結晶子径、及びBET表面積の、ガリウム用量に依存するシフトを示すデータによって実証されている。ガリウム置換SoDHAコーティング試行は、Tris緩衝リン酸塩(Pi)ストック溶液中にGa塩(Ga(NO3)3)を加えることで、溶液の濁りなしに、試験物品を不均質コーティングすることができるコーティング効率を備えて作製されたことを示している。
【0144】
このプロセスは、
図7に示すコーティング容器での「フルスケール」システムを用いて繰り返された。フルスケールシステムでは、40個の臼蓋を、64Lの過飽和溶液中に入れた。
【0145】
実施例13:Ga置換HAコーティングのXRD特性評価
この実施例では、実施例12によるフルスケールシステムにおける堆積により調製されたガリウム置換HAコーティングが、XRDにより特性評価された。
【0146】
コーティング溶液に加えられたHA格子中のGaが0重量%、5重量%、10重量%、15重量%及び20重量%を表す6つのコーティングディスクを、X線回折(XRD)分光法で解析した。
【0147】
ガリウム置換HA削り粉末は、粉末XRD(及びそれに伴うリートベルト解析とFWHM解析)で解析した。コーティングされたHA材料をTi基材まで削り取る際、粉末中にTi混入が生じないように、注意が必要である。コーティングされた平坦基材それぞれについて、粉末の量が比較的小量(4~9mg)であるため、6つの基材を削り、約15~20mgのガリウム置換HA粉末を得た。コーティングされたガリウム置換HAディスクのXRDスキャンは、背景と共に測定され、この背景はPanalytical X’Pertソフトウェアを用いて計算され除去された。
【0148】
図18にこのXRDプロットの重ね合わせを示す。この図は、X線装置の検出限界範囲内でガリウム置換HAコーティングが相純粋であること(第2相に伴うXRDピークが観察されない)、及び、このHAコーティングが001結晶方向で高度にテクスチャ化されていることを示している。
【0149】
ガリウム20重量%のサンプルについて、表3は、ガリウム置換HAサンプルでXRDを用いて測定された、様々なピークの相対強度と共に、2θ°値を示す。背景はPanalytical X’Pertソフトウェアを用いて計算され除去された。各ピークの相対強度が、スキャン中の最も強いピークに対するパーセンテージとして計算された。コーティングには好ましい向きがあるため、NIST SRMデータに公開されているすべてのピークが、コーティングされたガリウム置換HAコーティング中に観察されるわけではないことに注意されたい。また、無作為な向きのHA粉末における100%強度ピークは31.70°2θにある(211)ピークであり、一方、コーティングされたガリウム置換HAディスクで観察される100%強度ピークは、約25.95°2θにある(002)ピークであることに注意されたい。(002)ピークの強度増大は、001方向に高度に方向付けられている結晶であることを示す。
【0150】
【0151】
図18に示すように、Ga重量%が増加すると、HA結晶相含有量の低減が観察された。このことは、Gaの重量%が増加するにつれて、XRDトレースのピーク強度が低下していることからわかる。また、ガリウム置換SoDHAコーティング中のGaが増加するにつれて、(002)ピークの規則的なシフトが、より高い2θ角度(d間隔の減少に対応)で観察されることがわかる。表4は、様々なガリウム濃度の溶液で形成されたコーティング済みディスクで測定された、平均HA(002)ピーク位置を示す。格子d間隔が徐々に減少していることは、より大きなCa
2+イオン(0.99Å)の代わりに、より小さなGa
3+イオン(0.62Å)がHA格子のCA1格子部位を置換していることと、整合している。
【0152】
【0153】
(002)ピークシフトの解析により、コーティングされたディスクの観察結果、すなわち、SoDHAコーティングにおいてGa重量%が増加するにつれて(002)d間隔が減少することが確認されている。このことは、HA格子のCa1部位のGa置換が増加していることと整合している。これらのデータは、ガリウムがヒドロキシアパタイト格子内に首尾よく置換されたことを示している。
【0154】
実施例14-追加のガリウム置換HAコーティング結果
実施例12により、5重量%、10重量%、20重量%の硝酸ガリウムを有する溶液から形成されたガリウム置換HAコーティングについて、SoDHA格子中のガリウムの重量%が測定された。この結果を
図20に示す。
【0155】
表5に提示される結果は、実施例12により様々なGa量の溶液で形成されたガリウム置換ヒドロキシアパタイトサンプル中の、結晶質ヒドロキシアパタイト、非晶質、及び乱れた結晶質の成分含有量を示す。
【0156】
【0157】
表6に示すように、FWHM解析により、(200)、(002)及び(210)方向の平均結晶子径は、GaがHA格子内に導入されると、大幅に低減されることがわかる。(200)、(002)及び(210)方向の平均結晶子径を表7に示す。(200)方向の結晶子径は、10重量% Ga添加以降は小さすぎて測定不能であることがわかる。理論に束縛されるものではないが、HAコーティングにおける結晶子径の低減は、非常に小さな結晶子径に伴うピーク幅拡大により、リートベルト解析による結晶度の計算値が減少した主な理由であると考えられる。
【0158】
【0159】
【0160】
実施例15-FTIR特性評価
実施例12で形成されたガリウム置換SoDHA HAのFTIRスペクトルが取得された。このFTIRスペクトルを
図21に示す。
【0161】
実施例16-溶解
実施例12で形成されたガリウム置換SoDHAコーティングと、NISTヒドロキシアパタイト参照材料の溶解速度が測定された。これは、pH 7.4のTris緩衝食塩水溶液にサンプルを入れ、カルシウム濃度の変化を測定することにより測定された。
図22は、ガリウム置換SoDHAコーティングの溶解結果を示し、
図23はNIST標準の溶解結果を示す。NISTサンプルは2時間未満後にカルシウム放出が停止したが、ガリウム置換SoDHAサンプルはカルシウムを20時間以上にわたって放出し、明確な溶解プラトーは見られなかった。
【0162】
実施例17-イヌ研究
この前臨床試験の目的は、整形外科用インプラントでのガリウムドーピングされたヒドロキシアパタイトコーティングに対する骨の反応を測定することである。インプラントは、イヌの柱状骨内に直列接合又は隙間接合のいずれかで配置された。手術から6週間後に、組織を採取した。結果の測定は、インプラント固定(機械的破壊試験により測定)、骨の表面成長と骨の内部成長(後方散乱走査型電子顕微鏡及び組織学検査により測定)、隙間内の新骨充填(組織学検査により測定)であった。二次的方法として破壊的組織学検査が含められ、これにより、インプラント周囲の組織反応を報告し、ガリウム置換HAコーティングの残存%の定量を行った。
【0163】
インプラントは、大型の、骨格が成熟した、雑種血統のハウンド種イヌの海綿骨内に形成された、円筒形の欠損内に配置された。イヌの骨構造はヒトの骨に非常に類似しているため、イヌが試験のモデルとして選択された。本研究に選択されたインプラントの部位は、大きな海綿骨体積を提供する。合計5匹のイヌが本研究に参加した。研究用繁殖のハウンド種5匹(22~27kg)が本研究に使用された。成長板の閉鎖を示すX線エビデンスにより、骨格成熟が確認された。イヌは手術前に少なくとも2週間の期間にわたって環境順応させた。実験動物は研究の全期間にわたって単一の施設に収容された。5匹は到着時に健康であると見られ、担当獣医による手術前検査で、明らかな異常は見られなかった。
【0164】
インプラント固定に対するこれらのコーティングの影響は、1mm隙間、及び直列又は精密接合の両方において評価された。これらは、ヒトにおける関節全置換術において遭遇するインプラント対宿主骨接合シナリオの範囲を表わすものである。1匹当たり4つの欠損を海綿骨内に形成して、直径6mmインプラントの多孔性コーティング表面と宿主骨との間に、直列及び放射方向に1mmの隙間で接合する、横並びの領域を形成した。これらの欠損は、上腕骨近位側、大腿骨遠位側、脛骨近位側において、両側に形成された。1mm放射方向隙間接合で単独インプラントを配置するために、1匹当たり2つの追加の欠損が、両側上腕骨の第1欠損の遠位側、海綿骨内に形成された。これを行ったのは、本モデルにおいて横並びのインプラント埋入に好適な解剖学的部位の数が限られているためである。
【0165】
下記の試験物品が使用された。
SoDHA HAコーティング(SoDHAコーティングのHAバージョン)を備えたGription(商標)インプラント-長さ10mm及び11mm、直径6mm(直列インプラント)又は直径8mm(1mm隙間インプラント)。
【0166】
ガリウム置換SoDHA HAコーティング(SoDHAコーティングのガリウム置換HAバージョン)を備えたGription(商標)-長さ10mm及び11mm、直径6mm(直列インプラント)又は直径8mm(1mm隙間インプラント)。
【0167】
本研究のすべての実験操作は、地域機関の動物飼育使用委員会により審査と承認を受けた(プロトコルNo.2008A0083-R2、2014年6月23日承認)。本研究の動物は、動物福祉法の要件に従って取り扱い、維持した。
【0168】
イヌは、ステンレススチール製走路を備えた、床面積約24平方フィートのケージで飼育された。床は、衛生管理のため除去可能なビニルコーティングされた拡張メッシュ床で持ち上げられていた。ケージは少なくとも1日1回、必要に応じてそれ以上、ホースで水洗いし、排泄物の蓄積を防いだ。動物は、毎日の清掃中にその場に留まり、動物が乾いた状態を保てるような手段がとられた。飼育施設に使用した洗浄剤又は消毒剤はすべて、USDA「食品安全」として指定されたものであり、担当獣医により使用が認められたものである。
【0169】
ケージ及び保持室の衛生管理は、2~6週間ごとに(生物学的モニタリングに基づく頻度で)加圧洗浄機又はその他の認可された薬剤を使用して行われた。衛生管理時には動物はケージから他に移され、熱水又は消毒薬溶液に曝露するのを防いだ。消毒薬溶液が使用された場合は、ケージ及び室内のすべての表面を完全にすすいだ。
【0170】
イヌには、USDA及び全米研究評議会規定に従い体重と活動量に適切な量の給餌が行われた。すべての食餌はステンレス鋼製ボウルで与えられた。手術処置が予定されていないすべての動物に、少なくとも1日1回給餌された。手術処置が予定されている動物は、手術前の12~24時間、絶食させた。本研究の妥当性に干渉すると見なされる周知の汚染物は存在しない。
【0171】
本研究の動物は、新鮮で清潔な水に自由にアクセスできた。本研究の妥当性に干渉すると見なされる周知の汚染物は存在しない。
【0172】
動物に、術前の精神安定剤としてアセプロマジン(0.05mg/kg IM)が投与され、ケタミン塩酸塩及びジアゼパムの静脈注射により全身麻酔が導入された。イヌは挿管され、酸素中イソフルランの混合気吸入により麻酔が維持された。脈拍、心拍数、呼吸、反射(眼、つねり)のモニターにより、手術面が評価された。静脈内カテーテルが腕頭静脈内に配置され、周術期抗生物質(セファゾリン)が投与された。手術中を通して維持量の滅菌等張液(LRS又は類似物)が投与された。四肢すべてについて順に手術準備が行われ、体毛は刈られた(前肢は肘から肩甲骨近位側まで、後肢は膝から股関節まで)。手術用消毒薬で初期皮膚準備を行った後、イヌを手術室に移し、側臥位に置いた。上側になっている前肢及び後肢を静注用スタンドからテープで宙吊りにし、上腕骨及び大腿骨の外側面を手術用消毒薬(ポビドンヨード又はクロルヘキシジン)とアルコールの組み合わせでスクラブした。手術部位を、滅菌ドレープ及び接着性抗菌切開ドレープ(3M(St.Paul,MN)販売のIoban 2)で隔離した。小さな切開(長さ20mm未満)を、上腕骨近位側の外側面と大腿骨外側の遠位側面に形成し、両方の骨の骨幹端領域を露出させた。ドリルを用いてガイドワイヤーを配置し、蛍光透視検査を用いて、ガイドワイヤーが皮質表面に対して90度の角度で柱状骨内に向いていることを確認した。次に管状ドリルビットを用いて、直径6mm、全長20mmの穴を開けた。ドリル穴の近位側半分を更にドリルで広げ、最終直径を8mmとした。同じ手順を上腕骨と大腿骨両方に用いた。合計4個のインプラントを埋入した。6mmインプラントが各欠損に挿入され、カスタムインパクターを使用して、ドリル穴の遠位側半分へと完全に押し込んだ。次に、8mmインプラント(各端に8mmのワッシャーを備えた、コア直径6mmのインプラント)をドリル穴に入れ、完全に収めた。このようにして、各骨欠損には、インプラント-骨界面で直列接合したインプラント1つと、ガリウム置換HAコーティングされたインプラントと周囲骨との間に円周方向1mmの隙間を備えたインプラント1つが含められた。上腕骨及び大腿骨インプラントの埋入後に、表皮下吸収性縫合糸(Monocryl、PDS II又は類似物)で皮膚切開を閉じ、皮膚ステープルで修復を補強した。創傷を接着性包帯材で覆い、イヌの身体を裏返し、皮膚をスクラブして、最初の側についての記述と全く同じ手順でインプラントを埋入した。上腕骨及び大腿骨インプラントの埋入後、左右の脛骨の内側面の皮膚を、手術用消毒薬(ポビドンヨード又はクロルヘキシジン)とアルコールの組み合わせでスクラブした。手術部位を、滅菌ドレープ及び接着性抗菌切開ドレープ(3M(St.Paul,MN)販売のIoban 2)で隔離した。内側脛骨の骨幹端に、小さな切開(長さ20mm未満)を形成した。前と同様にガイドワイヤーを配置し、内側脛骨皮質に対して直角に、海綿骨内に単一のドリル穴(直径6mm、長さ10mm)を形成した。6mmインプラントを、直列接合に配置し、前の記述と同様に皮下及び皮膚を閉じた。手術後、イヌは、麻酔から回復するまで緊密にモニターされた。イヌの嚥下反射が回復したら、気管内チューブを除去した。この時点で、静脈内カテーテルがあれば除去した。術後の疼痛管理には、手術後3日間にわたり6~12時間おきにアヘン鎮痛剤(ブプレノルフィン)が含まれた。非ステロイド系抗炎症剤(カルプロフェン又はメロキシカム)を、術後最初の朝に投与し、手術後7~10日間継続した。研究チームメンバーはイヌを1日に最低2回モニターし、術後10~14日後にステープルが除去された。
【0173】
指定された時点で、イヌはペントバルビタールナトリウムの静脈過剰投与により安楽死させ、心臓呼吸活動の停止により死亡を確認した。左右の上腕骨近位側、大腿骨遠位側、脛骨近位側の手術部位を露出させ、写真を撮影し、インプラントと周囲骨の完全性を保つようにしながら検死用のこぎりで切断した。各インプラント周囲の骨の反応を調べるために、2面で近接X線撮影を行った。骨検体をマイクロCT(分解能30μm)で調べてから、氷詰めにして翌朝到着便でDePuy Synthes Joint Replacement(Warsaw、Indiana)に送付した。Warsawオフィスでの受け取り後、検体はインプラント軸に対して直角に切断され、半分はDePuy Synthesでの機械的試験に使用され、残り半分は70%アルコールに入れてOhio State Universityに戻され、脱灰組織学検査を行った。
【0174】
実施例18-組織学的結果
Technovit 7200により処理され、ダイヤモンドバンドのこぎりを用いてインプラント軸に対して直角に切断された、インプラント-骨界面の固定検体で、脱灰組織学検査が行われた。カスタム配列のジグを使用して、インプラント配置と切断が正確になるようにした。各インプラントから2つの切片を調製した。各切片は最終厚さ100~150μmまで削り、研磨し、表面をゴールドナートリクロームで染色した。骨の接触、線維組織形成、補綴物周囲の炎症の性質と度合が記述された。
【0175】
インプラント-骨界面を含む埋め込みブロックが研磨され、グラファイトでコーティングされ、後方散乱SEMを用いて検査された。インプラントの全周囲にわたってグレースケール画像が撮影され、インプラント表面の骨付加生長とインプラント表面内の骨内部成長の画分パーセンテージが、半自動画像解析(Bioquant Osteo II)を用いて測定された。インプラント表面の残留HAコーティングの線形程度(%)が測定された。
【0176】
各スライドについて、処置を知らない状態で、組織形態計測的分析を実施した。各インプラントの隙間と、付加的な量の周囲組織とを含んだ、低倍率のデジタル画像を各切片について撮影した。静的な組織形態計測的分析を行って、インプラント表面に対する骨の付加生長%、多孔性コーティング内の骨%、及び隙間領域内の骨%を決定した。内部成長は、合計空隙%として測定された。評価された追加のパラメーターとしては、平均コーティング厚さが含められた。SoDHA HA、及びガリウム置換SoDHA HA隙間インプラントについて、様々な検体に対して平均した結果を表8に示す。また、Ga添加による骨内部成長に対する利点を示すデータが、
図25のグラフに示されている。
【0177】
【0178】
組織学的データにより、上腕骨上近位側において、Gription(商標)SoDHA-ガリウムインプラントは、両方のGription(商標)SoDHAよりも、顕著に(2倍超)良好な性能が示されている。インプラント周囲において炎症、粒子、及びX線透過性がないことに基づいて、植え込みから6週間後のいずれかのインプラント部位で検出されるインプラント又は試験HAコーティングに対する有害反応は存在しない。
【0179】
実施例19-有機溶媒交換と超臨界CO2溶媒抽出
実施例12の記述に従いSoDHA-Gコーティングを形成した後、コーティングされたGription(商標)及びグリットブラストされた平坦なクーポンをDI水ですすいだ。残った水性溶媒を、エタノールを用いて浸漬工程で3回交換した。研究で行った浸漬時間は1時間及び20時間であった。エタノールでの有機溶媒交換の後、クーポンをラック上に置き、100mLステンレス鋼製容器に挿入した。クーポンをエタノールで覆い、容器の上側エンドキャップを閉じた。CO2流は、容器の上から下に向かって流れ出る方向であった。容器を液体CO2で10MPa(100bar)に加圧し、室温下、気体CO2流量約2リットル/分で、液体エタノールを液体CO2で置換した。置換時間は約1/2時間であった。エタノールを置換した後、容器を38℃に加熱し、流量5リットル/分の気体で、超臨界CO2を用いて、4時間乾燥させた。4時間の割当て乾燥時間の後、温度をCO2臨界温度の32℃超に維持しながら、容器の圧力を大気圧まで下げた。この圧力降下は、ガス流量約1リットル/分で行い、約1/2時間かけた。
【0180】
処理済み(
図26A)及び未処理(
図26B)のフィルムの表面形態を、走査型電子顕微鏡で調べた。scCO
2処理は、通常の乾燥に比べ、SoDHA-Gコーティングのひび割れを大幅に低減した。
【0181】
実施例20-SoDHA-Gの熱水処理による再析出
実施例12により調製されたSoDHA-Gコーティングされたクーポンを、DI水から、実施例4により調製された15mLの40mMリン酸塩-Ga(Pi)シロップ溶液、又は実施例4により調製された15mLの2.2262mMリン酸塩-Ga(Pi)ストック溶液の入ったガラス瓶へと、迅速に移した。このガラス瓶をキャップで密封した。SoDHA-Gフィルムの熱水処理は、70℃又は90℃で2時間実施した。熱水処理の後、SoDHA-Gコーティングされたクーポンを過剰量のDI水で1分間すすぎ、60℃の炉で1時間乾燥させた。
【0182】
SoDHA-G及び熱水処理SoDHA-G(SoDHA-G-HT)フィルムの表面形態を、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、Quanta 600 F)で調べた。SoDHA-Gの走査型電子顕微鏡画像を
図27に示す。リン酸塩-Gaストック溶液、及びリン酸塩-Gaシロップ溶液で処理されたフィルムについて、70℃で2時間熱水処理されたSoDHA-G-HTの走査型電子顕微鏡画像を、それぞれ
図28A及び
図28Bに示す。リン酸塩-Gaストック溶液、及びリン酸塩-Gaシロップ溶液で処理されたフィルムについて、90℃で1時間熱水処理されたSoDHA-G-HTの走査型電子顕微鏡画像を、それぞれ
図29A及び
図29Bに示す。リン酸塩-Gaストック溶液、及びリン酸塩-Gaシロップ溶液で処理されたフィルムについて、90℃で2時間熱水処理されたSoDHA-G-HTの走査型電子顕微鏡画像を、それぞれ
図30A及び
図30Bに示す。
図26~30Bは、熱水処理の温度と時間を最適化することにより、ひび割れの改善が明らかとなっている。X線回折測定(Philips Analytical)により、45kV、40mAでCu Kα放射を使用して、SoDHA及びSoDHA-HTフィルムの相組成が同定された。
図31に示すように、SoDHA、SoDHAーG、及びSoDHAーG HT(PiーGaストック溶液中、90℃で2時間熱水処理)のX線回折パターンを、4°~60°(2θ)にわたり、0.02°刻み、0.01°/sで収集した。このXRDの結果は、ヒドロキシアパタイトの(002)ピークは熱水処理後にシフトしていないことを示し、これは、格子からの計測可能なGa喪失がないことを示している。
【0183】
実施例12により調製されたSoDHAーGコーティングされたGription(商標)クーポン5枚を、DI水から、実施例4により調製された250mLの2.2262mMリン酸塩-Ga(Pi)ストック溶液の入ったガラス瓶へと、迅速に移した。実施例12により調製されたSoDHAーGコーティングされたGription(商標)クーポン10枚を、DI水から、実施例4により調製された250mLの40mMリン酸塩-Ga(Pi)シロップ溶液の入ったガラス瓶へと、迅速に移した。このガラス瓶をキャップで密封した。SoDHAーGフィルムの熱水処理は、90℃で2時間実施した。熱水処理の後、SoDHAーGコーティングされたGription(商標)クーポンを過剰量のDI水で1分間すすぎ、60℃の炉で1時間乾燥させた。
【0184】
熱水処理したコーティングと通常の乾燥を行った(熱水処理なし)コーティングを、0.1M塩酸に溶かし、この溶液を、誘導結合プラズマ(ICP)原子発光分析でガリウムの分析を行った。熱処理なしのコーティング、及び、リン酸塩-Gaストック溶液で処理したコーティングのガリウム含有量は、それぞれ2.58重量%、2.71重量%であった。しかしながら、予想外のこととして、リン酸塩-Gaシロップ溶液で熱水処理されたコーティングのガリウム含有量は、5.67重量%に増加した。このことは、高濃度のガリウム含有溶液での熱水処理は、ヒドロキシアパタイトコーティングのガリウム含有量を高める有効な方法であったことを明らかにしている。
【0185】
実施例21-ひび割れ定量
実施例19及び20による後処理のひび割れ改善効果を、画像分析を用いて定量した。これは、所定の水平グリッド上で、ひび割れ交差の数を測定することにより行った。画像は倍率1000倍でmFEI Quanta 600 F SEMにより撮影され、これをAxio Visionソフトウェア(AxioVision SE64、リリース4.9.1.0、Carl Zeiss Microscopy GmbH販売)と25本の水平グリッド線(長さ193.5μm、垂直方向に6μm離間)が画像のほぼ全体にわたって置かれた。次に、画像内のひび割れとグリッド線の交点を手作業でマークした。交点はオペレーターが手作業で選び、ソフトウェアによる誤差を排除した。所与の面積内の交点の数を、SoDHA-Gコーティングの表面ひび割れ度合の定量測定値として使用した。この方法を示す代表的な画像が
図32に示されている。
【0186】
60℃の通常の乾燥を受け、後処理工程がない、グリットブラストクーポン上のSoDHA-Gコーティングは、交点が600以上であったが、熱水処理されたSoDHA-Gコーティングは、ひび割れ交点が200~400であった。最適化された熱水処理パラメーターでのSoDHA-Gが、ひび割れが最小限であり、交点は200未満であった。代表的な通常乾燥と後処理コーティングについての、ひび割れ交点の数及び交点密度を、表9に示す。
【0187】
【0188】
図面及び上記の説明において本発明を詳細に例証及び説明してきたが、このような例証及び説明は、その性質上、あくまで例示的なものであって限定的なものとは見なすべきではなく、あくまで代表的な実施形態を示しかつ説明してきたのにすぎず、本発明の趣旨の範囲内に含まれるすべての変更及び改変は保護されることが望ましいことが理解される。
【0189】
本明細書に記述されるガリウム置換HAコーティングの様々な構造に基づく本発明の複数の利点が存在する。本発明のコーティングそれぞれの代替的な実施形態は、記載した特徴のすべてを有していない場合もあるが、依然としてこのような特徴の利点の少なくともいくつかから恩恵を享受していることが留意される。当業者であれば、本発明の1つ以上の特徴を取り入れた、「特許請求の範囲」において定義される本発明の趣旨及び範囲に包含されるリン酸カルシウムコーティングを独自に実施することが容易に可能であろう。
【0190】
〔実施の態様〕
(1) 金属表面と、前記金属表面の少なくとも一部分の上に堆積されたヒドロキシアパタイト層と、を含む整形外科用インプラントであって、前記ヒドロキシアパタイト層がその中にガリウムイオンを含み、前記ヒドロキシアパタイト層が結晶質である、整形外科用インプラント。
(2) 前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001°2θ~約0.5°2θシフトしている(002)XRDピークを生成する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(3) 前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001Å~約0.05Åのd間隔シフト(d-spacing shift)に対応する(002)XRDピークを生成する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(4) 前記ヒドロキシアパタイト層が約75nm未満の平均結晶子径を有する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(5) 前記ヒドロキシアパタイト層が[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
【0191】
(6) 前記ヒドロキシアパタイト層が、XRDを行った際に、(002)XRDピーク及び(112)XRDピークを生成し、前記(002)XRDピークが前記(112)XRDピークの1.5~10倍の強度を有する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(7) 前記ヒドロキシアパタイト層がインビトロで24時間超にわたって連続的に溶解する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(8) 前記ヒドロキシアパタイト層が、約0重量%~約5重量%の炭酸塩を含む、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(9) 前記ガリウムイオンが、前記ヒドロキシアパタイト層の約0.01重量%~約10重量%含まれる、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(10) 前記ヒドロキシアパタイト層が前記金属表面に接触している、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
【0192】
(11) 前記金属表面がチタン酸塩を含む、実施態様10に記載の整形外科用インプラント。
(12) 前記金属表面がチタン酸ナトリウムを含む、実施態様11に記載の整形外科用インプラント。
(13) 前記金属表面が、水酸化物で処理されたチタン表面である、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(14) 前記ヒドロキシアパタイト層が、約70重量%~約100重量%の結晶度を有する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(15) 前記ヒドロキシアパタイト層の有する、結晶ヒドロキシアパタイトの相純度が90%超である、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
【0193】
(16) 前記ヒドロキシアパタイト層が、約15m2/g~約200m2/gの表面積を有する、実施態様1に記載の整形外科用インプラント。
(17) ヒドロキシアパタイトを含む骨誘導性組成物であって、前記ヒドロキシアパタイトが、その中にガリウムイオンを含み、前記ヒドロキシアパタイトが結晶質であり、かつ前記ヒドロキシアパタイトが、XRDを行った際に、ガリウムを含まない結晶ヒドロキシアパタイトの(002)XRDピークに比べて約0.001°2θ~約2°2θシフトしている(002)XRDピークを生成する、骨誘導性組成物。
(18) 前記ヒドロキシアパタイトが[001]方向に約75nm未満の平均結晶子径を有する、実施態様17に記載の骨誘導性組成物。
(19) ヒドロキシアパタイトコーティングを形成する方法であって、前記方法が、カルシウムイオン、リン酸イオン、及びガリウムイオンを含む過飽和溶液に金属表面を接触させる工程を含み、前記接触工程中に前記溶液のpHの変動が0.2pH単位/時未満である、方法。
(20) ガリウムイオン及びリン酸イオンを含む第1溶液と、カルシウムイオンを含む第2溶液とを混合して過飽和溶液を形成する工程と、前記過飽和溶液に金属表面を接触させる工程と、を更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0194】
(21) 前記ヒドロキシアパタイトコーティングが主に不均質核生成により形成され、これによって前記過飽和溶液は、前記接触工程中に、目に見える濁りがないままである、実施態様19に記載の方法。
(22) 少なくとも2つの堆積シーケンスが採用される、実施態様19に記載の方法。
(23) 前記ヒドロキシアパタイトコーティングが、単位表面積当たりの速度約0.01mg/hr・mm2~約0.03mg/hr・mm2で形成される、実施態様19に記載の方法。
(24) 前記過飽和溶液の初期pHが約7.5~約7.9であり、前記過飽和溶液の初期温度が約38℃~約60℃である、実施態様19に記載の方法。
(25) 前記金属表面が金属酸化物表面である、実施態様19に記載の方法。
【0195】
(26) 前記過飽和溶液のカルシウム濃度が約1.4mM~約1.8mMである、実施態様19に記載の方法。
(27) 前記過飽和溶液のリン酸塩濃度が約2mM~約2.3mMである、実施態様19に記載の方法。
(28) 約0.5時間~約12時間後に、前記過飽和溶液から前記金属表面を除去する工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
(29) 表面のひび割れを軽減するため、前記コーティングをリン酸塩溶液中で加熱する工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
(30) 前記コーティングをガリウム含有溶液中で加熱して、前記コーティングのガリウム含有量を最大15重量%に高める工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。
【0196】
(31) 表面のひび割れを軽減するため、前記コーティングを超臨界流体に接触させる工程を更に含む、実施態様19に記載の方法。