(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】電子銃、X線発生管、X線発生装置およびX線撮影システム
(51)【国際特許分類】
H01J 35/06 20060101AFI20241015BHJP
H01J 35/16 20060101ALI20241015BHJP
H01J 35/08 20060101ALI20241015BHJP
H01J 35/14 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
H01J35/06 E
H01J35/16
H01J35/08 F
H01J35/14
(21)【出願番号】P 2023175930
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2022171845の分割
【原出願日】2016-01-29
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】辻野 和哉
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-066694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0114830(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0259206(US,A1)
【文献】特開平01-143198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子の照射によりX線を発生するターゲットを含み接地される陽極と、前記ターゲットに電子を照射する陰極と、前記陽極と前記陰極とを絶縁し前記陽極、前記陰極とともに真空容器を構成する絶縁管と、を備え前記陽極と前記陰極間に管電圧が印加されるX線発生管の前記陰極に適用され前記ターゲットに向けて電子ビームを照射する電子銃であって、
電子を放出する電子放出部と、前記電子放出部から放出された電子が通過する電子通過孔をそれぞれが有するとともに前記ターゲットに向かう方向にこの順で配置される引出電極と集束電極と、前記引出電極と前記集束電極を電気的に絶縁し支持するために管周方向に離散的に設けられた複数の絶縁支持部材と、を有し、
前記
電子放出部から前記集束電極を電子が通過するまでの放出電子の通過経路である電子通過路から管径方向の外側に見て前記絶縁支持部材が直視される部分を前記複数の絶縁支持部材のいずれもが有さないように前記引出電極と前記集束電極のそれぞれが前記複数の絶縁支持部材を遮る導電性の遮蔽部を有している電子銃。
【請求項2】
前記X線発生管は、前記陽極に前記ターゲットと電気的に接続され前記絶縁管の一端と気密性を有して接続される陽極部材と、前記陰極に前記絶縁管の他端と気密性を有して接続される陰極部材と、を有し、
前記陰極部材と電気的に接続され、前記陰極部材とともに前記陰極を構成する請求項1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記集束電極は、電圧源により電位規定されていることを特徴とする請求項2に記載の電子銃。
【請求項4】
前記集束電極は、前記導電性の前記遮蔽部を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項5】
前記導電性の前記遮蔽部は、前記複数の絶縁支持部材が前記電子通過路から直視される部分を有さないように設けられることを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項6】
前記集束電極は、前記電子通過路を規定する電子通過孔が設けられ、管径方向に延在する環状部と、前記環状部に連なり前記電子通過路に沿って延在する管状部と、を有し、
前記導電性の遮蔽部は、前記管状部の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項7】
前記導電性の遮蔽部は、前記絶縁支持部材の低抵抗化を抑制するように構成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項8】
前記導電性の遮蔽部は、前記電子放出部に由来する金属粒子のうち管径方向の外側に向かう成分が前記絶縁支持部材上に堆積することを抑制するように構成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項9】
管径方向における外側から見て前記絶縁支持部材が直視されない様に、前記絶縁支持部材の管径方向における外側に外周管状部を有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項10】
前記外周管状部は、前記集束電極の一部を構成することを特徴とする請求項9に記載の電子銃。
【請求項11】
前記陽極は、前記電子銃からの電子ビームの照射を受けてX線を発生するターゲット層を有し、前記ターゲット層と前記電子放出部との間には加速電場が形成される請求項1~10のいずれか1項に記載の電子銃。
【請求項12】
前記加速電場は、前記電子銃から放出された電子が前記管電圧に対応する静電ポテンシャルを受けて加速され前記ターゲット層に入射するように、少なくとも前記電子銃の陽極側終端と前記ターゲット層との間において形成されている請求項11に記載の電子銃。
【請求項13】
前記加速電場は、前記電子通過路を経た電子が前記管電圧に対応する静電ポテンシャルを受けて加速され前記ターゲット層に入射するように、少なくとも前記集束電極と前記ターゲット層との間において形成されている請求項
11または12に記載の電子銃。
【請求項14】
請求項2または3に記載の電子銃と、前記電子銃
とともに前記陰極を構成する前記陰極部材と、前記ターゲット
とともに前記陽極を構成する前記陽極
部材と
、前記陽極部材と前記陰極部材とに管軸方向の一端と他端において接続される前記絶縁管と、を有す
るX線発生管。
【請求項15】
請求項
14に記載のX線発生管と、前記ターゲットと前記電子放出部とのそれぞれに電気的に接続され、前記ターゲットと前記電子放出部との間に印加される管電圧を出力する駆動回路と、を備え
るX線発生装置。
【請求項16】
請求項
15に記載のX線発生装置と、
前記X線発生装置から放出され被検体を透過したX線を検出するX線検出装置と、
前記X線発生装置と前記X線検出装置とを連携して制御するシステム制御装置と、
を備えることを特徴とするX線撮影システム。
【請求項17】
接地される陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極とを絶縁し前記陽極、前記陰極とともに真空容器を構成する絶縁管と、を備え、前記陽極と前記陰極間に管電圧が印加される真空管に適用され前記陰極を構成する電子銃であって、
電子を放出する電子放出部と、前記電子放出部から放出された電子が通過する電子通過孔をそれぞれが有するとともに前記陽極に向かう方向にこの順で配置される引出電極と集束電極と、前記引出電極と前記集束電極を電気的に絶縁し支持するために管周方向に離散的に設けられた複数の絶縁支持部材と、を有し、
前記
電子放出部から前記集束電極を電子が通過するまでの放出電子の通過経路である電子通過路から管径方向の外側に見て前記絶縁支持部材が直視される部分を前記複数の絶縁支持部材のいずれもが有さないように前記引出電極と前記集束電極のそれぞれが前記複数の絶縁支持部材を遮る導電性の遮蔽部を有している電子銃。
【請求項18】
前記陽極は、前記電子銃からの電子ビームの照射を受けてX線を発生するターゲット層を有し、前記ターゲット層と前記電子放出部との間には加速電場が形成される請求項
17に記載の電子銃。
【請求項19】
前記加速電場は、前記電子銃から放出された電子が前記管電圧に対応する静電ポテンシャルを受けて加速され前記ターゲット層に入射するように、少なくとも前記電子銃の陽極側終端と前記陽極との間において形成されている請求項
18に記載の電子銃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器および産業機器分野における非破壊X線撮影等に適用できるX線発生装置、および該X線発生装置を備えるX線撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年半導体デバイス等の微細化や多層化が進み産業分野における半導体集積回路基板に代表される電子デバイス検査においてはX線発生管を備えたX線検査装置が用いられている。
【0003】
ターゲットに電子ビームを照射する電子源として、管軸方向に沿ってターゲットに向けて突出させた電子銃を備えたX線発生管が知られている。
【0004】
特許文献1には、ターゲット側に複数のグリッド電極を備える電子銃とすることにより、ターゲット上に形成される焦点の位置精度とマイクロフォーカス化が図られることが開示されている。
【0005】
また、かかる電子銃が備える複数のグリッド電極は、それぞれが絶縁性の部材により支持されることにより、電極間の距離が規定されるとともに、各電極に所定の電位が印加されるように構成されている。
【0006】
特許文献2には、微小焦点化を意図して、管軸方向に延びる絶縁性の支柱に複数のグリッド電極が間隔をあけて支持された電子銃を備えたX線発生管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002‐298772号公報
【文献】特開2007‐66694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数のグリッド電極が絶縁部材により支持されたグリッド電極を電子銃に備えるX線発生管が適用されたX線撮影システムにおいて、撮影画像の品質低下が生じる場合があった。
【0009】
本願発明者の検討により、X線発生管の動作履歴に伴い発生する焦点位置または焦点形状の変動が、かかる撮影品質の低下に関係していることが判った。
【0010】
本願発明は、絶縁部材に支持されたグリッド電極を有した電子銃を備え、焦点の位置または形状の変動が抑制された信頼性の高いX線発生管、X線発生装置を提供することを目的とする。また、本願発明は、本願発明に係るX線発生装置を備えることにより、高画質のX線撮影が可能なX線撮影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
電子の照射によりX線を発生するターゲットを含み接地される陽極と、前記ターゲットに電子を照射する陰極と、前記陽極と前記陰極とを絶縁し前記陽極、前記陰極とともに真空容器を構成する絶縁管と、を備え前記陽極と前記陰極間に管電圧が印加されるX線発生管の前記陰極に適用され前記ターゲットに向けて電子ビームを照射する電子銃であって、
電子を放出する電子放出部と、前記電子放出部から放出された電子が通過する電子通過孔をそれぞれが有するとともに前記ターゲットに向かう方向にこの順で配置される引出電極と集束電極と、前記引出電極と前記集束電極を電気的に絶縁し支持するために管周方向に離散的に設けられた複数の絶縁支持部材と、を有し、
前記電子放出部から前記集束電極を電子が通過するまでの放出電子の通過経路である電子通過路から管径方向の外側に見て前記絶縁支持部材が直視される部分を前記複数の絶縁支持部材のいずれもが有さないように前記引出電極と前記集束電極のそれぞれが前記複数の絶縁支持部材を遮る導電性の遮蔽部を有していることを特徴とする。
【0012】
本発明の実施形態に係る第2の電子銃は、接地される陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極とを絶縁し前記陽極、前記陰極とともに真空容器を構成する絶縁管と、を備え、前記陽極と前記陰極間に管電圧が印加される真空管に適用され前記陰極を構成する電子銃であって、
電子を放出する電子放出部と、前記電子放出部から放出された電子が通過する電子通過孔をそれぞれが有するとともに前記陽極に向かう方向にこの順で配置される引出電極と集束電極と、前記引出電極と前記集束電極を電気的に絶縁し支持するために管周方向に離散的に設けられた複数の絶縁支持部材と、を有し、
前記電子放出部から前記集束電極を電子が通過するまでの放出電子の通過経路である電子通過路から管径方向の外側に見て前記絶縁支持部材が直視される部分を前記複数の絶縁支持部材のいずれもが有さないように前記引出電極と前記集束電極のそれぞれが前記複数の絶縁支持部材を遮る導電性の遮蔽部を有している。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、X線発生管の電子銃が、電子通過路からみて絶縁支持部材が直視されないように遮る導電部を有することで、焦点の位置または形状の変動が抑制された信頼性の高いX線発生管、X線発生装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るX線発生管を示す概略構成図(a)~(h)である。
【
図2】参考形態に係るX線発生管を示す概略構成図(a)~(i)である。
【
図3】本発明の課題に係る、散乱金属粒子の絶縁支持部材上への推定された堆積過程の概念図(a)~(f)である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るX線発生管を示す概略構成図(a)~(j)である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係るX線発生管を示す概略構成図(a)~(h)である。
【
図6】本発明の第4の実施形態に係るX線発生装置を示す概略構成図である。
【
図7】本発明の第5の実施形態に係るX線撮影システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。これらの実施形態に記載されている構成部材の寸法、材質、形状、その相対配置などは、この発明の範囲を限定する趣旨のものではない。また、本明細書で特に図示又は記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知の技術を適用する。
【0016】
<X線発生管>
図1は、本願発明の第1の実施形態に係るX線発生管1が示されている。X線発生管1は、本願発明の基本的な特徴である導電部を備えた透過型のX線発生管である。
【0017】
図1(a)、(b)は、X線発生管1の基本的な構成を示す2面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のX線発生管1を陽極側から見た正面図である。また、
図1(c)は、本実施形態のX線発生管1を駆動した際に、ターゲット上に形成される焦点が示されている
図1(b)の部分拡大図である。また、
図1(d)は、
図1(a)に示すX線発生管1の電子銃4bを拡大した断面図である。さらに、また、
図1(e)~(h)は、
図1(d)に示す仮想平面A-A、B-B、C-C、D-Dにおける、電子銃4bの断面を示す断面図である。
【0018】
本実施形態では、電子放出部40から放出された電子ビームをターゲット層5cに照射することによりターゲット5bからX線を発生させる。このため、ターゲット層5cは支持基板5dが電子銃4bに向いている面に配置されている。即ち、電子放出部40はターゲット5bに対向するように陰極4に配置されている。電子放出部40から放出された電子は、X線発生管1に印加された管電圧により陰極4と陽極5との間に形成された加速電場により、ターゲット層5cでX線を発生させる為に必要な入射エネルギーまで加速される。
【0019】
陽極5はターゲット5bとターゲット5bに接続される陽極部材5aとを備え、X線発生管1の陽極電位を規定する電極として機能している。
【0020】
陽極部材5aは、導電性材料からなりターゲット層5cと電気的に接続される。陽極部材5aは、
図1に示すように、支持基板5dの周囲に接続されターゲット5bを保持している。
【0021】
また、ターゲット層5cは、高い原子番号、高融点、高比重の金属元素として、タンタル、モリブデン、タングステン等のターゲット金属が含有されている。一方、支持基板5dは、X線の透過性が高く、熱伝導性が高い材料が好ましく、例えば、ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミ、グラファイト、ベリリウム等を用いることができる。特に、ダイヤモンドは、sp3結合に由来する高い熱伝導性と、放射線に対する高い透過性とを有している点において透過型ターゲットの支持基板材料として好ましい。
【0022】
X線発生管1の内部は、電子線の平均自由行程を確保することを目的として、真空となっている。X線発生管1の内部の真空度は、1×10-4Pa以下であることが好ましく、電子放出部40の電子放出特性の安定化の観点からは、1×10-6Pa以下であることがより一層好ましい。本実施形態においては、電子放出部40およびターゲット層5cは、それぞれ、X線発生管1の内部空間または内面に配置されている。
【0023】
X線発生管1の内部の真空は、不図示の排気管および真空ポンプを用いて排気された後、かかる排気管を封止することにより、形成される。X線発生管1の内部には、真空度の維持を目的として、不図示のゲッタが配置される場合もある。
【0024】
X線発生管1は、陰極電位に規定される電子放出部40と、陽極電位に規定されるターゲット層5cとの間の電気的絶縁を図る目的において、陽極部材5aと陰極部材4aとの間に絶縁管2が狭持されている。即ち、絶縁管2は、管軸方向において一端と他端とが、それぞれ陽極部材5aと陰極部材4aとに接続されている。
【0025】
絶縁管2は、ガラス材料やセラミクス材料等の絶縁性材料で構成される。セラミクスからなる絶縁管2は、強度を担保する意図において、外周面を0.1μm~100μm厚のガラス層で保護される。
【0026】
本実施形態において、絶縁管2、電子放出部40を備えた陰極4、ターゲット5bを備えた陽極5は、真空度を維持するための気密性と大気圧に耐える堅牢性とを有する外囲器を構成している。従って、陰極4及び陽極5は、絶縁管2の管軸方向の両端にそれぞれ接続されることにより、外囲器の部分を構成する。同様にして、支持基板5dは、ターゲット層5cで発生したX線をX線発生管1の外に取り出す透過窓の役割を担うとともに、外囲器の部分を構成していると言える。
【0027】
<電子銃>
次に本願発明のX線発生管の特徴である電子銃について、
図1(a)、(d)、(e)~(h)を用いて説明する。
【0028】
陰極4は、電子放出部40、グリッド電極42、および、グリッド電極を支持する絶縁支持部材41と、を備える電子銃4bと陰極部材4aを備え、ターゲット5bと電子放出部40とが対向するように配置されている。
【0029】
電子放出部40は、タングステンフィラメント、含浸型カソード、酸化物カソードなどの熱陰極電子源や、モリブデンからなるspindt型カソード等の冷陰極電子源が適用される。
【0030】
本実施形態の電子銃4bは、
図1(a)に示す通り、陰極部材4aより陽極5の側に向かって突出している。このように陽極5の側に電子銃4bを突出させた配置とすることは、絶縁耐圧を低下させずに焦点位置精度を担保することと意図するものである。即ち、陰極4と陽極5の間を接続する絶縁管2の沿面経路を所定距離以上に離す、一方で、電子銃4bとターゲット5bとの距離を所定距離以下とすることにより、電子放出部40より放出された電子線が管径方向の電場の影響を受け難くされている。
【0031】
電子銃4bは、陽極5の側に突出している部分に電子放出部40、グリッド電極42が配置される、かかる部分をヘッド部と称する。また、ヘッド部を陰極部材4aに対して支えている部分をネック部と称する。本実施形態のネック部には、
図1(d)~(h)に示すように、電子放出部40を支えるカソード支持部45、引き出しグリッド電極43に引き出し電位を給電する給電部43d、集束グリッド電極44に集束電位を給電する給電部44d、が配置されている。
【0032】
電子銃4bは、
図1(d)~(h)に示す様に、電子通過孔43f、電子通過孔44fを備えた引き出しグリッド電極43、集束グリッド電極44と、かかるグリッド電極43、集束グリッド電極44を支持する絶縁支持部材41と、を備えている。グリッド電極43、集束グリッド電極44が備える電子通過孔43f、44fは、電子放出部40からターゲット5bに向かう方向に電子通過路7を規定する。
【0033】
引き出しグリッド電極43および、集束グリッド電極44のいずれも、電子通過路7を通過する電子の運動を規制し、電子ビームのビーム径を規定するという点において共通するため、本願発明においては、グリッド電極42と、まとめて称する。
【0034】
また、引き出しグリッド電極43は、電子放出部40から放出された電子が電子通過孔43fを通過する電子の通過量を経時的に制御することを意図して設けられており、不図示の電圧源より複数の電位が切り替えられて印加される。一方、集束グリッド電極44は、電子に対して集束電場を形成しターゲット5b上に形成する焦点8の大きさを規定することを意図して設けられ、電子放出部40に対して所定の電位差を有した集束グリッド電位が不図示の電圧源より印加される。
【0035】
なお、本願明細書における電子通過路7は、電子放出部40から放出された電子が集束グリッド電極44を通過するまでの通過経路に対応する。
【0036】
引き出しグリッド電極43は、電子通過孔43fが設けられ管径方向および周方向に延在する環状部43aを備えており、環状部43aの外縁において電子通過路7の周囲に90度間隔で4つ配置された絶縁支持部材41a~41dにより支持されている。
【0037】
絶縁支持部材41a~41dは、グリッド電極42との接続部における熱応力を緩和するために、グリッド電極42と線膨張係数の整合がはかられる。グリッド電極42がモリブデン(300Kにおけるα=4.8×10-6K-1)で構成されている場合は、アルミナ(300Kにおけるα=7.0×10-6K-1)が適用される。グリッド電極42と絶縁支持部材41a~41dとは不図示のろう材を介して接合されている。
【0038】
なお、グリッド電極43、集束グリッド電極44のそれぞれが複数配置される形態も本願発明の実施態様(不図示)に含まれる。従って、グリッド電極42が、3以上である形態も本願発明の実施態様(不図示)に含まれる。かかる態様においては、絶縁支持部材41は、複数のグリッド電極42の少なくとも2つを電気的に絶縁するとともに支持する。
【0039】
また、集束グリッド電極44は、
図1(d)、(h)に示す様に、引き出しグリッド電極43の電子通過孔43fを通過した電子が通過可能な電子通過孔44fが設けられ管径方向および周方向に延在する環状部44aを備えている。
【0040】
なお、環状部43a、44aは、管径方向(yz平面)に平行である必要は無く、電子通過路7を規定するだけの電場が形成する形態であればよく、すり鉢状(コーン状)であっても良い。また、環状部43a、44aは、メッシュ状グリッド、スパイラル状グリッド電極、多重環状電極等の不連続な形状であっても良い。
【0041】
<第1の実施形態>
次に、本願発明の特徴である導電部を備えた第1の実施形態に係るX線発生管について、
図1(a)~(h)の各図を用いてより詳細に説明する。
【0042】
本実施形態のグリッド電極42は、電子放出部40に近い側に引き出しグリッド電極43、電子放出部40から遠い側に集束グリッド電極44を備えている。引き出しグリッド電極43は、さらに、管軸方向に延在する管状部43b、43cを備えている。管状部43b、43cは、管径方向と交差する方向に延在しているとも言える。管状部43bおよび43cは、電子放出部40の側と、集束グリッド電極44の側と、に環状部43aからそれぞれ突出している管状の突出部である。管状部43b、43cは、引き出しグリッド電極43の部分であり、環状部43aとともに、不図示の電圧源に電気的に接続されて電位規定されている。
【0043】
また、集束グリッド電極44は、環状部44aの外縁において、電子通過路7の周りに90度間隔で4つ配置された絶縁支持部材41a~41dにより支持されている。環状部44aは、ターゲット5bに対向するように配置されている。
【0044】
なお、環状部44aは、環状部43aと同様にして、電子通過路7を規定するだけの電場が形成されればよく、すり鉢状(コーン状)やメッシュ状の形態であっても良い。
【0045】
本実施形態の集束グリッド電極44は、さらに、管軸方向に延在す管状部44b、44cを備えている。管状部44b、44cは、管径方向と交差する方向に延在しているとも言える。管状部44bおよび44cは、電子放出部40の側と隣接する陽極5の側とにそれぞれ突出している管状の突出部である。管状部44b、44cは、集束グリッド電極44の部分であり、環状部44aとともに、不図示の電圧源に電気的に接続されて電位規定されている。
【0046】
管状部43bは、
図1(d)、(e)に示す様に、電子通過路7から絶縁支持部材41が直視されないように、陰極部材4bの側に突出している。ここで、管状部43bは、引き出しグリッド電極43と電子放出部40とが短絡しないように、管径方向において電子放出部40に対して離間している。
【0047】
また、管状部43c、管状部44bは、
図1(d)、(g)に示す様に、電子通過路7から絶縁支持部材41が直視されないように、管軸方向において重なる様に、互いに反対方向に突出している。即ち、グリッド電極42(43、44)同士が短絡しないように、環状部44aと環状部43a、及び、管状部43cと管状部44bは、それぞれ離間している。
【0048】
なお、引き出しグリッド電極43、集束グリッド電極44は、
図1(d)、(g)に示すように、互いの環状部43a、44aが管軸方向に対向し、互いの管状部43c、44bが管径方向に対向する部分を有する一対のグリッド電極42であると言える。このような環状部43a、44a(導電部6)を備えることにより、本実施形態の電子銃4bは、絶縁支持部材41a~41d上への管径方向に移動する散乱金属粒子の堆積が抑制される。
【0049】
また、管状部43cは管状部44bより、管径方向において内側に位置している。即ち、環状部43aが電子放出部40に近い側に位置する引き出しグリッド電極43の管状部43cは、環状部44aが電子放出部40から遠い側に位置する集束グリッド電極44の管状部44bより、管径方向において内側に位置しているとも言える。
【0050】
導電部6(管状部43b、43c、44b)は、電子通過路7から飛翔する金属粒子が、絶縁支持部材41に堆積することを抑制し、絶縁支持部材41の絶縁性を維持する役割を担う。これにより、電子放出部40、グリッド電極42(43、44)は、安定してそれぞれの所定の電位に規定される。この為、本実施形態に係るX線発生管1は、動作履歴に伴う焦点8の大きさ、位置および形状の変動が抑制され高い信頼性を有するものとなる。
【0051】
導電部6(管状部43b、43c、44b)は、本実施形態においては、グリッド電極42(43、44)の部分であって導電性を有している。従って、隣接する電子放出部40、グリッド電極42(43、44)が短絡しない範囲において、かかる導電部6(管状部43b、43c、44b)に金属粒子が堆積しても、グリッド電極による電場規定作用の変動が生じない。
【0052】
本実施形態に係るX線発生管1によれば、電子通過路7からみて絶縁支持部材41が直視されないように遮る導電部6(管状部43b、43c、44b)を電子銃4bが有することで、絶縁支持部材41の絶縁性が担保される。このような導電部6(管状部43b、43c、44b)を有する電子銃4bを備えることで、焦点8の大きさ、位置および形状の変動が抑制された信頼性の高いX線発生管1を提供することが可能となる。
【0053】
なお、本実施形態においては、導電部6(43b、43c、44b)は、グリッド電極42(43、44)の部分であったが、グリッド電極42(43、44)とは、電気的に分離した金属材料を配置する形態も本発明に含まれる。一方で、グリッド電極42(43、44)が配置されるスペースにおいて、導電部6とグリッド電極42との短絡、または導電部6と電子放出部40との短絡、を抑制する為には、本実施形態のように導電部6がグリッド電極42の部分であることが好ましい。
【0054】
また、本実施形態においては、
図1(e)、(g)に示す様に導電部6(43b、43c、44b)は、電子通過路7からみて絶縁支持部材41a~41dが直視されないように遮る管状の形態をとっているが、管状であることは必須では無い。例えば、周方向に離散的に配置さている絶縁支持部材41a~41dのそれぞれに対応して、周方向に離散的に導電部を配置する形態(不図示)も本発明の態様に含まれる。
【0055】
電子通過路7から金属粒子が飛翔し、絶縁支持部材41a~41dに堆積する機序については、後述する。
【0056】
<参考形態>
本願発明者は、絶縁支持部材に支持されたグリッド電極を備える電子銃を有するX線発生管において、X線発生管の駆動履歴に伴う焦点径の変動を確認した。
【0057】
図2(a)~(e)は、グリッド電極42、43が管状部(導電部)を備えていない点において第1の実施形態と相違する参考形態に係るX線発生管301が図示されている。
【0058】
図2(a)~(h)は、第1の実施形態に係る
図1(a)~(h)に対応して示されている。一方、
図2(i)は、10
4回の曝射動作後のX線発生管304に認められた焦点308を模式的に示すものであって、第1の実施形態と相違し焦点径の拡大が見て取れる。
【0059】
本願発明者の鋭意なる検討の結果、絶縁支持部材に支持されたグリッド電極を備える電子銃を有するX線発生管において、駆動履歴に伴う焦点径の変動に関し以下の5点の観測事実を確認した。
・焦点径の変動は、休止期間により回復が無く、不可逆的であったこと。
・焦点径の変動量に対する相関係数の二乗R2は、管電圧<曝射強度≒電子線の照射量<電子放出源のフィラメント電流、の順であったこと。
・変動量が大きかったX線発生管の電子銃を解析したところ、グリッド電極間、グリッド電極と電子銃との間のノード間抵抗の減少が認められたこと。
・変動量が大きかったX線発生管の電子銃を分析したところ、絶縁支持部材の表面組成に特定の金属の増加が認められたこと。
・増加が認められた金属は、電子放出部由来の成分Baが支配的であったこと。
【0060】
かかる観測事実に基づき本願発明者は、「焦点径の変動要因は、X線発生管の動作に伴う絶縁支持部材341への散乱金属粒子の堆積にある」ものと推定するに至った。
【0061】
<散乱金属粒子発生の素過程>
次に、
図3(a)~(f)を用いて、本願発明の課題に係る散乱金属粒子の発生と絶縁支持部材上への堆積に係る、本願発明者が推敲した素過程を説明する。
【0062】
X線発生管301の内部は、不可避に残留するガスと共に、金属粒子が浮遊している。かかる金属粒子は、電子放出部340、ターゲット層305cの構成材料の一部が真空空間に放出された成分と考えられる。金属粒子の放出過程は、X線発生管の曝射動作、電子銃の電子放出動作に依拠していた観測結果から、
図3(a)に示す様に、電子放出部340からの蒸発、ターゲット層305c、グリッド電極342に対するスパッタリング等が考えられる。
【0063】
浮遊している金属粒子は数eV以下程度の運動エネルギーである為、大半は発生箇所またはその近傍に捕獲されるが、残部は、
図3(b)、(c)に示す様に、電子、X線の照射を受けて、陽イオン化する。
【0064】
酸化バリウムが含侵された含浸型の電子放出部340を例に、電子放出部340から蒸散したBa粒子のイオン化過程を[化1]、[化2]に示す。
Ba (X-ray入射)→ Ba+ + e― [化1]
Ba (+e-入射) → Ba+ + 2e― [化2]
【0065】
一方、発生した金属イオンは、電子銃304bまたはX線発生管301内部の電場から受ける静電力により、
図3(d)に示す様に、陰極部材304の側に移動し、その大半が、陰極304に捕獲される。捕獲された金属イオンは、[化3]のように、陰極304上で電子を受け渡され金属層として堆積すると考えられる。
Ba
+ + e
- → Ba [化3]
【0066】
なお、陰極304に堆積する金属は、陰極304を構成する陰極部材304a、電子放出部340の電場規定性能に影響を与えないため許容される。
【0067】
一方、金属イオンの残部は、陰極304に捕獲される前に、
図3(e)に示す様に、散乱電子、電子ビームと再結合し、電子ビーム、散乱電子の運動エネルギーの一部を受け取り、中性の散乱金属粒子となる。
【0068】
かかる散乱金属粒子は、電場の影響を受けない為に、管径方向(yz平面)への移動が可能であり、
図3(f)に示す様に、絶縁支持部材341の表面に金属粒子が固定化され、金属層を堆積させる。この結果、導電部6(管状部)を有さない電子放出部304bを有するX線発生管301は、グリッド電極343、344の電場規定性能が駆動履歴に伴い低下する。この結果、X線発生管301の動作履歴に伴い、
図2(c)に示す初期の焦点8から
図2(i)に示すデフォーカスされた焦点308への焦点サイズの変動が観測されるものと考えられる。
【0069】
<第2の実施形態>
図4は、第2の実施形態に係るX線発生管1を示すものである。
図4(a)~(h)の各図は、
図1(a)~(h)の呈示の方法に準じている。本実施形態は、
図4(d)及び
図4(e)~(h)に示す様に、絶縁支持部材41の外側から見て絶縁支持部材41a~41dを隠す外周管状部44eを備えている点において第1の実施形態と相違する。
【0070】
なお、本実施形態においては、外周管状部44eは、集束グリッド電極44の給電部44dを兼ねており、集束グリッド電極44(グリッド電極42)の部分であるとも言える。
【0071】
電子銃4bの内側に位置する導電部6(管状部43b、43c、44b)は、電子通過路7からみて絶縁支持部材41a~41dを遮蔽している。これに対して、電子銃4bの外側に位置する導電部6(管状部44e)は、電子銃4bと絶縁管2に挟まれた領域から見て絶縁支持部材41a~41dを遮蔽している。
【0072】
以下に
図4(a)~(j)を用いて、外周管状部44eが導電部として発現する技術的意義を説明する。
【0073】
<<後方散乱電子に係る散乱金属粒子>>
実質的に初速度0で電子放出部40から放出された電子は、電子通過路7を経た後、管電圧Vaの静電ポテンシャルを受けて加速され、運動エネルギーVa(eV)でターゲット5bに入射する。
【0074】
ターゲット5bでは、ターゲット層5cの内部で熱エネルギー、二次電子、オージェ電子に変換され、残部がX線に変換される。ターゲット層5c内部でターゲット金属と相互作用し減速した成分である二次電子、オージェ電子は、0-500(eV)の運動エネルギーしか有さずにターゲット層5cの後方に放出されるため、殆どが、陽極5に再入射し捕獲される。
【0075】
一方、ターゲット層5cの表面で、入射電子のうち20%~40%程度は弾性散乱する。ターゲット層5cの表面で弾性散乱した後方散乱電子は、運動エネルギーVa(eV)を有しており、電子放出部40の等電位面上にある領域まで到達しうる。
【0076】
陽極5の側に陰極部材4aから突出した電子銃4bを備えたX線発生管1は、陰極4陽極5の間の電場は、
図4(i)の様に、陰極4の側において電子銃4bによる変形を受けている。
【0077】
ターゲット層5cから弾性散乱した後方散乱電子は、散乱角度分布を有しており、電子銃4bに向かって散乱する成分ばかりでなく、電子銃4bと絶縁管2との間の空間にも到達する成分が存在する。
【0078】
図4(i)には、管径方向に異なるY座標を有する管軸方向X0(y=-Ψ/2)、X1(y=0)および、X2(y=-Ψ/4)が示されている。また、
図4(j)には、管軸方向X0(y=-Ψ/2)、X1(y=0)および、X2(y=-Ψ/4)に沿った仮想線状の電位分布が示されている。ここで、陽極部材5aの直径Ψ(m)である。
【0079】
電子放出部40の静電ポテンシャルは、カソード電位-Va(eV)であるため、X2(y=-Ψ/4)に沿って移動する後方散乱電子は、電子放出部40より陰極部材4aの側に到達する。
【0080】
従って、電子銃4bと絶縁管2との間の空間に到達する後方散乱電子は、X線発生管1の内部空間に微量に含まれる金属(陽)イオンと再結合し、中性の散乱金属粒子に変化する。即ち、電子銃4bと絶縁管2との間の空間に到達する後方散乱電子は、電子銃4bと絶縁管2との間の空間に散乱金属粒子を発生させ、絶縁支持部材41に金属粒子を堆積させる要因となると考えられる。
【0081】
本実施形態の外周管状部44e(導電部)は、かかる電子銃4bと絶縁管2との間の空間に発生する散乱金属粒子が絶縁支持部材41a~41dに堆積し絶縁支持部材41を低抵抗化することを抑制するものである。これにより、電子放出部40、グリッド電極42(43、44)は、それぞれの所定の電位に安定して規定される。この為、本実施形態に係るX線発生管1は、
図4(c)に示す様に、動作履歴に伴う焦点8の大きさ、位置および形状の変動が、より一層抑制され高い信頼性を有するものとなる。
【0082】
外周管状部44eは、管径方向の外側から絶縁支持部材41a~41d上に散乱金属粒子が堆積する事を抑制するために絶縁支持部材41a~41dの外側に設けられた導電部であるとも言える。
【0083】
第1および第2の実施態様に係るX線発生管は、透過型のターゲットを備えた透過型X線発生管に適用した例を示した。しかしながら、絶縁支持部材にグリッド電極が支持された電子銃を備えているX線発生管に適用され、反射型のターゲットを備えた反射型X線発生管も本発明の態様に含まれる。
【0084】
<第3の実施形態>
図5は、第3の実施形態に係るX線発生管1を示すものである。
図5(a)~(h)の各図は、
図1(a)~(h)の呈示の方法に準じている。本実施形態は、
図5(d)及び
図5(g)に示す様に、導電部を構成する環状部43c、44bの管径方向における位置関係において第1の実施形態、第2の実施形態と相違する。即ち、管径方向において、互いに対向する環状部43c、44bは、陰極4の側に位置する引き出しグリッド電極43の管状部43cが、陽極5の側に位置する集束グリッド電極44の管状部44bより、管径方向において外側に位置している。また、陰極4の側に位置する引き出しグリッド電極43の管状部43cは、陽極5の側に位置する集束グリッド電極44の管状部44bにより、電子通過路7から直視されないように配置されているとも言える。
【0085】
このような配置をとることにより、集束グリッド電極44の環状部44aで後方散乱した不図示の反射電子が、引き出しグリッド電極43の管状部43cに入射する現象が抑制され、引き出しグリッド電極43の電位変動が抑制される。
【0086】
本実施形態のX線発生管1によれば、曝射動作履歴に伴い、絶縁支持部材41a~dの絶縁性の低下が抑制されるだけでなく、グリッド電極に入射する反射電子の影響が抑制されている。
図5(b)、(c)に示すように、焦点8の中心8cの位置がより一層安定した、より一層信頼性の高いX線発生管提供することが可能となる。
【0087】
<X線発生装置>
次に、
図6を用いて、本発明のX線発生管を備えたX線発生装置の構成例について説明する。
【0088】
図6には、第4の実施形態に係るX線発生装置101が示されている。X線発生装置101は、第1または第2の実施形態に係るX線発生管1、および、X線発生管1を駆動するための駆動回路106と、X線発生装置102および駆動回路106を収納する収納容器107と、を備えている。
【0089】
駆動回路106は、陰極および陽極の間に管電圧を印加する管電圧回路106aと、電子銃4bの電子放出量を制御する電子量制御回路106bとを有している。管電圧回路106aにより、ターゲット層5cと電子放出部40との間に加速電場が形成される。ターゲット層5cの層厚と金属種とに対応して、管電圧Vaを適宜設定することにより、撮影に必要な線種を選択することができる。
【0090】
X線発生管1及び駆動回路106を収納する収納容器107は、容器としての十分な強度を有し、かつ放熱性に優れたものが望ましく、その構成材料として、例えば真鍮、鉄、ステンレス等の金属材料が用いられる。
【0091】
本実施形態の収納容器107は、X線発生管1の陽極5と電気的に接続され、接地電位に規定されている。
【0092】
一方、収納容器107内のX線発生管1と駆動回路106以外の余空間には、絶縁性流体108が充填されることにより、収納容器107の収納されている部材と収納容器107との電気的絶縁が担保される。収納容器107に収納されている部材には、X線発生管1、駆動回路106、及び、不図示の配線等が含まれる。
【0093】
絶縁性流体108は、電気絶縁性を有する液体で、収納容器107の内部の電気的絶縁性を維持する役割と、X線発生管1の冷却媒体としての役割とを有する。絶縁性流体108としては、鉱油、シリコーン油、パーフロオロ系オイル等の電気絶縁油、SF6等の絶縁性ガス等が用いられる。
【0094】
本実施形態のX線発生装置101は、少なくとも第1~第3の実施形態いずれかに係るX線発生管1が適用されることにより、電子線の集束性能における安定性が担保された電子銃を備えるため、焦点8の変動が抑制された信頼性の高いものとなる。
【0095】
<X線撮影システム>
次に、
図7を用いて、本発明のX線発生装置を備えたX線撮影システムの構成例について説明する。
【0096】
図7には、第5の実施形態に係るX線撮影システム200が示されている。X線撮影システム200は、X線発生装置101から放出され被検体204を透過したX線を検出するX線検出装置201と、X線発生装置101とX線検出装置201とを連携して制御するシステム制御装置201と、を備えている。
【0097】
駆動回路106は、システム制御装置202による制御の下に、X線発生管1に各種の制御信号を出力する。駆動回路106が出力する制御信号により、X線発生装置101から放出されるX線束の放出状態が制御される。
【0098】
X線発生装置101から放出されたX線束は、被検体204を透過して検出器206で検出される。検出器206は、検出したX線を画像信号に変換して信号処理部205に出力する。
【0099】
信号処理部205は、システム制御装置202による制御の下に、画像信号に所定の信号処理を施し、処理された画像信号をシステム制御装置202に出力する。
【0100】
システム制御装置202は、処理された画像信号に基づいて、表示装置203に画像を表示させるための表示信号を表示装置203に出力する。表示装置203は、表示信号に基づく画像を、被検体204の撮影画像としてスクリーンに表示する。
【0101】
本実施形態のX線撮影システム200は、第4の実施形態に係るX線発生装置101を備えることにより、焦点8の変動が抑制され高品質の撮影画像を再現性良く取得することができる。なお、X線撮影システムは、工業製品の非破壊検査や人体や動物の病理診断に適用される。
【符号の説明】
【0102】
1 X線発生管
2 絶縁管
4 陰極
4b 電子銃
5 陽極
5b ターゲット
6 導電部
7 電子通過路
40 電子放出部
41 絶縁支持部材
42 グリッド電極
43 引き出しグリッド電極
44 集束グリッド電極