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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   B62K 25/08 20060101AFI20241015BHJP
   B62K 5/007 20130101ALI20241015BHJP
   B62K 5/08 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B62K25/08 Z
B62K5/007
B62K5/08
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023510141
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014361
(87)【国際公開番号】W WO2022208875
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(72)【発明者】
【氏名】長沢 健太
(72)【発明者】
【氏名】河村 公之
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正典
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-48611(JP,A)
【文献】特開2012-214097(JP,A)
【文献】特開平5-229325(JP,A)
【文献】特開2003-261039(JP,A)
【文献】特開2010-64560(JP,A)
【文献】特開2016-106869(JP,A)
【文献】特開2006-312393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 25/08
B62K 5/007
B62K 5/08
B60G 7/00- 7/04
B60G 9/00- 9/04
A61G 5/00- 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵輪を含む少なくとも三輪の車輪と、
前記車輪のうちの少なくとも二輪を駆動する少なくとも一つの駆動源と、
前記操舵輪を支持するアッパーアームおよびロアアームを有するサスペンションと、
を備えた車両であって、
前記車両が水平な路面で静止している状態において、
前記ロアアームの垂れ角は前記アッパーアームの垂れ角よりも大きく、
前記ロアアームの垂れ角と前記アッパーアームの垂れ角との差は5度以上である、車両。
【請求項2】
前記ロアアームの垂れ角と前記アッパーアームの垂れ角との差は、5度以上9度以下である、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記サスペンションのホイールストロークに対する前記操舵輪のキャンバー角の変化量は、5度以上である、請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記サスペンションのホイールストロークに対する前記操舵輪のキャンバー角の変化量は、5度以上10度以下である、請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記サスペンションがバウンドストロークした場合、前記操舵輪のキャンバー角はネガティブキャンバーとなり、
前記サスペンションがリバウンドストロークした場合、前記操舵輪のキャンバー角はポジティブキャンバーとなる、請求項1から4のいずれかに記載の車両。
【請求項6】
前記車両が水平な路面で静止している状態において、
前記アッパーアームの垂れ角は、15度以上であり、
前記ロアアームの垂れ角は、20度以上である、請求項1から5のいずれかに記載の車両。
【請求項7】
前記車両が水平な路面で静止している状態において、
前記アッパーアームの垂れ角は、15度以上20度以下であり、
前記ロアアームの垂れ角は、20度以上25度以下である、請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの揺動角は、30度以上である、請求項1から7のいずれかに記載の車両。
【請求項9】
前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの揺動角は、30度以上60度以下である、請求項8に記載の車両。
【請求項10】
前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上である、請求項1から9のいずれかに記載の車両。
【請求項11】
前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上150mm以下である、請求項10に記載の車両。
【請求項12】
前記サスペンションのホイールストロークは、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上である、請求項1から11のいずれかに記載の車両。
【請求項13】
前記サスペンションのホイールストロークは、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上0.80倍以下である、請求項12に記載の車両。
【請求項14】
前記操舵輪は内輪および外輪を含み、
前記内輪の切角の最大値は、50度以上であり、
前記外輪の切角の最大値は、35度以上である、請求項1から13のいずれかに記載の車両。
【請求項15】
前記内輪の切角の最大値は、50度以上80度以下であり、
前記外輪の切角の最大値は、35度以上80度以下である、請求項14に記載の車両。
【請求項16】
前記車両の最小回転半径は、前記操舵輪のトレッド幅の2.5倍以下である、請求項1から15のいずれかに記載の車両。
【請求項17】
前記車両の最小回転半径は、1400mm以下である、請求項1から16のいずれかに記載の車両。
【請求項18】
前記操舵輪の外径は、前記車両の全長の0.26倍以上である、請求項1から17のいずれかに記載の車両。
【請求項19】
前記操舵輪の外径は、前記車両の全長の0.26倍以上0.4倍以下である、請求項18に記載の車両。
【請求項20】
前記操舵輪の外径は、前記車両のホイールベースの0.43倍以上である、請求項1から19のいずれかに記載の車両。
【請求項21】
前記操舵輪の外径は、前記車両のホイールベースの0.43倍以上0.67倍以下である、請求項1から20のいずれかに記載の車両。
【請求項22】
前記車両はハンドル形電動車椅子であり、
乗員が操舵を行うハンドルと、
前記乗員が座るシートと、
をさらに備える、請求項1から21のいずれかに記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関する。
【背景技術】
【0002】
人間を乗せて走行する車両の一つとして、ハンドル形電動車椅子が知られている(例えば特許文献1)。ハンドル形電動車椅子は、電動カートと称される場合もある。
【0003】
一般的に、ハンドル形電動車椅子は、比較的平坦な舗装路を走行する用途で利用されている。例えば、ユーザは、ハンドル形電動車椅子に乗ることで、自宅と店舗との間を移動して買い物を行ったりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-247155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような車両の走行性能をより向上させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態に係る車両は、操舵輪を含む少なくとも三輪の車輪と、前記車輪のうちの少なくとも二輪を駆動する少なくとも一つの駆動源と、前記操舵輪を支持するアッパーアームおよびロアアームを有するサスペンションと、を備えた車両であって、前記車両が水平な路面で静止している状態において、前記ロアアームの垂れ角は前記アッパーアームの垂れ角よりも大きく、前記ロアアームの垂れ角と前記アッパーアームの垂れ角との差は5度以上である。
【0007】
ロアアームの垂れ角をアッパーアームの垂れ角よりも大きくし、垂れ角の差を5度以上とすることにより、サスペンションがストロークしたときのアッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。これによりサスペンションと操舵輪との間のクリアランスが大きくなり、ホイールストロークを大きくすることと操舵輪の切角を大きくすることとの両方を実現することができる。
【0008】
ある実施形態において、前記ロアアームの垂れ角と前記アッパーアームの垂れ角との差は、5度以上9度以下であってもよい。
【0009】
ロアアームの垂れ角とアッパーアームの垂れ角の差が大きいことにより、サスペンションがストロークしたときのアッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0010】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークに対する前記操舵輪のキャンバー角の変化量は、5度以上であってもよい。
【0011】
サスペンションのストロークに応じて操舵輪のキャンバー角が大きく変化することにより、アッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0012】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークに対する前記操舵輪のキャンバー角の変化量は、5度以上10度以下であってもよい。
【0013】
サスペンションのストロークに応じて操舵輪のキャンバー角が大きく変化することにより、アッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0014】
ある実施形態において、前記サスペンションがバウンドストロークした場合、前記操舵輪のキャンバー角はネガティブキャンバーとなり、前記サスペンションがリバウンドストロークした場合、前記操舵輪のキャンバー角はポジティブキャンバーとなってもよい。
【0015】
サスペンションのストロークに応じて、キャンバー角がネガティブキャンバーとポジティブキャンバーとの間で変化することにより、アッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0016】
ある実施形態において、前記車両が水平な路面で静止している状態において、前記アッパーアームの垂れ角は、15度以上であり、前記ロアアームの垂れ角は、20度以上であってもよい。
【0017】
アッパーアームおよびロアアームの垂れ角がそれぞれ15度以上および20度以上と大きいことにより、ロール剛性を高めることができる。
【0018】
ある実施形態において、前記車両が水平な路面で静止している状態において、前記アッパーアームの垂れ角は、15度以上20度以下であり、前記ロアアームの垂れ角は、20度以上25度以下であってもよい。
【0019】
アッパーアームおよびロアアームの垂れ角が大きいことにより、ロール剛性を高めることができる。
【0020】
ある実施形態において、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの揺動角は、30度以上であってもよい。
【0021】
アッパーアームおよびロアアームの揺動角が30度以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0022】
ある実施形態において、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの揺動角は、30度以上60度以下であってもよい。
【0023】
アッパーアームおよびロアアームの揺動角が大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0024】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上であってもよい。
【0025】
ホイールストロークが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0026】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、60mm以上150mm以下であってもよい。
【0027】
ホイールストロークが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0028】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上であってもよい。
【0029】
ホイールストロークがアッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0030】
ある実施形態において、前記サスペンションのホイールストロークは、前記アッパーアームおよび前記ロアアームそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上0.80倍以下であってもよい。
【0031】
ホイールストロークが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0032】
ある実施形態において、前記操舵輪は内輪および外輪を含み、前記内輪の切角の最大値は、50度以上であり、前記外輪の切角の最大値は、35度以上であってもよい。
【0033】
操舵輪の切角が大きいことにより車両の最小回転半径を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【0034】
ある実施形態において、前記内輪の切角の最大値は、50度以上80度以下であり、前記外輪の切角の最大値は、35度以上80度以下であってもよい。
【0035】
操舵輪の切角が大きいことにより車両の最小回転半径を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【0036】
ある実施形態において、前記車両の最小回転半径は、前記操舵輪のトレッド幅の2.5倍以下であってもよい。
【0037】
トレッド幅に対する最小回転半径が小さいことで、小回りを利かせることができる。
【0038】
ある実施形態において、前記車両の最小回転半径は、1400mm以下であってもよい。
【0039】
車両の最小回転半径が小さいことで、小回りを利かせることができる。
【0040】
ある実施形態において、前記操舵輪の外径は、前記車両の全長の0.26倍以上であってもよい。
【0041】
車両の全長に対して操舵輪の外径が0.26倍以上と大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0042】
ある実施形態において、前記操舵輪の外径は、前記車両の全長の0.26倍以上0.4倍以下であってもよい。
【0043】
車両の全長に対して操舵輪の外径が大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0044】
ある実施形態において、前記操舵輪の外径は、前記車両のホイールベースの0.43倍以上であってもよい。
【0045】
車両のホイールベースに対して操舵輪の外径が0.43倍以上と大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0046】
ある実施形態において、前記操舵輪の外径は、前記車両のホイールベースの0.43倍以上0.67倍以下であってもよい。
【0047】
車両のホイールベースに対して操舵輪の外径が大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0048】
ある実施形態において、前記車両はハンドル形電動車椅子であり、乗員が操舵を行うハンドルと、前記乗員が座るシートと、をさらに備えてもよい。
【0049】
ホイールストロークが大きく且つ操舵輪の切角が大きいハンドル形電動車椅子を実現することができる。
【発明の効果】
【0050】
ロアアームの垂れ角をアッパーアームの垂れ角よりも大きくし、垂れ角の差を5度以上とすることにより、サスペンションがストロークしたときのアッパーアームおよびロアアームそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。これによりサスペンションと操舵輪との間のクリアランスが大きくなり、ホイールストロークを大きくすることと操舵輪の切角を大きくすることとの両方を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】実施形態に係る車両1を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る車両1を示す左側面図である。
図3】実施形態に係る車両1を示す正面図である。
図4A】実施形態に係る車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。
図4B】実施形態に係る車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。
図5】実施形態に係るリアサスペンション50を示す正面図である。
図6】実施形態に係る車両1の電気的構成を示すブロック図である。
図7】実施形態に係るフロントサスペンション40を示す正面図である。
図8】実施形態に係るフロントサスペンション40を示す正面図である。
図9】比較例のフロントサスペンション40aを示す正面図である。
図10】比較例のフロントサスペンション40aを示す正面図である。
図11】実施形態に係るフロントサスペンション40を示す正面図である。
図12】実施形態に係る操舵輪4Lおよび4Rの切角を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。以下の説明において、前、後、上、下、左、右は、それぞれ車両のシートに着座した乗員から見たときの前、後、上、下、左、右を意味するものとする。車両の左右方向を車幅方向と称する場合がある。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0053】
図1は、実施形態に係る車両1を示す斜視図である。図2は、車両1を示す左側面図である。図3は、車両1を示す正面図である。車両1の構造を分かりやすく説明するために、図2および図3ではボディカバーの一部の図示を省略している。車両1は、例えばハンドル形電動車椅子であるが、本発明はそれに限定されない。以下では、車両1がハンドル形電動車椅子である場合の例を説明する。
【0054】
車両1は、車体フレーム2(図2)を備える。車体フレーム2は、アンダーフレーム2u、リアフレーム2r、シートフレーム2sおよびフロントフレーム2f(図3)を備える。アンダーフレーム2uは、車両1の前後方向に延びている。アンダーフレーム2uの後部からリアフレーム2rが上方に延びており、リアフレーム2rの上部からシートフレーム2sが後方に延びている。アンダーフレーム2uの前部からフロントフレーム2fが上方に延びている。
【0055】
フロントフレーム2f(図3)の上部には、ヘッドチューブ22(図2)が設けられている。ヘッドチューブ22は、その内部を通るステアリングコラム26を回転可能に支持している。ステアリングコラム26の上端部には、乗員が操舵を行うハンドル6が設けられている。ハンドル6にはアクセル操作子7(図1)および左右一対のバックミラー9が設けられている。
【0056】
ボディカバー28は、車体フレーム2の一部を覆うように設けられている。ボディカバー28には、フロントガード29が設けられている。乗員の前方にフロントガード29が配置されていることで、乗員は走行時に安心感を得ることができる。
【0057】
フロントフレーム2f(図3)には、独立懸架のフロントサスペンション40が設けられている。フロントサスペンション40は、アッパーアーム41L、ロアアーム42L、ショックアブソーバ45Lを有する。アッパーアーム41Lの一端は、ピボット46Lを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。アッパーアーム41Lの他端は、ピボット47Lを介してナックルアーム44Lを回転可能に支持している。ロアアーム42Lの一端は、ピボット48Lを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。ロアアーム42Lの他端は、ピボット49Lを介してナックルアーム44Lを回転可能に支持している。ナックルアーム44Lは、前輪4Lを回転可能に支持している。
【0058】
また、フロントサスペンション40は、アッパーアーム41R、ロアアーム42R、ショックアブソーバ45Rを有する。アッパーアーム41Rの一端は、ピボット46Rを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。アッパーアーム41Rの他端は、ピボット47Rを介してナックルアーム44Rを回転可能に支持している。ロアアーム42Rの一端は、ピボット48Rを介してフロントフレーム2fに回転可能に支持されている。ロアアーム42Rの他端は、ピボット49Rを介してナックルアーム44Rを回転可能に支持している。ナックルアーム44Rは、前輪4Rを回転可能に支持している。フロントサスペンション40は、ナックルアーム44Lおよび44Rを介して前輪4Lおよび4Rを回転可能に支持している。前輪4Lおよび4Rは操舵輪である。
【0059】
フロントサスペンション40は、ダブルウィッシュボーン式サスペンションと称される場合がある。本明細書において、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのアーム形状は、A字状(V字状)に限定されない。本明細書において、「ダブルウィッシュボーン式」は、上下一対のアームで車輪を支持するサスペンション方式の総称である。
【0060】
フロントフレーム2fにはサスペンションタワー27が設けられている。ショックアブソーバ45Lおよび45Rそれぞれの上部は、サスペンションタワー27によって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ45Lの下部は、アッパーアーム41Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ45Rの下部は、アッパーアーム41Rを回転可能に支持している。
【0061】
フロントフレーム2fは、車幅方向の中心近傍の位置で上下方向に延びている。サスペンションが取り付けられるフレーム部分には、サスペンションが路面から受けた衝撃が伝達されるため、高い強度が求められる。サスペンションタワー27を車体の左右端部付近に設けた場合、車幅方向の中心部から左右方向に延びるフレーム部分に高い強度を確保する必要があり、車体重量が大きくなる。車幅方向の中心近傍に位置するフロントフレーム2fにサスペンションタワー27を設けることで、上記のような高い強度の左右方向に延びるフレーム部分が不要になり、車体重量を軽くすることができる。
【0062】
ショックアブソーバ45Lおよび45Rは、アッパーアーム41Lおよび41Rに取り付けられている。
【0063】
図4Aおよび図4Bは、車両1が備えるステアリング機構の概要を示す平面図である。ステアリングコラム26の下端部にはピットマンアーム49が取り付けられている。タイロッド43Lの一端およびタイロッド43Rの一端のそれぞれは、ピットマンアーム49に回転可能に接続されている。タイロッド43Lの他端はナックルアーム44Lに回転可能に接続されている。タイロッド43Rの他端はナックルアーム44Rに回転可能に接続されている。
【0064】
図4Aは直進走行時のステアリング機構を示している。カーブを走行するとき、乗員はハンドル6(図1)を回転させる。図4Bを参照して、乗員がハンドル6を回転させて発生した操舵力は、ステアリングコラム26を介してピットマンアーム49に伝達される。ピットマンアーム49はステアリングコラム26を中心に回転し、タイロッド43Lおよび43R、ナックルアーム44Lおよび44Rを介して、前輪4Lおよび4Rに操舵力が伝達される。伝達された操舵力により前輪4Lおよび4Rの切角が変化し、車両1は、左または右に曲がりながら走行することができる。
【0065】
図1および図2を参照して、シートフレーム2sには、乗員が座るシート3が設けられている。シート3は、シートフレーム2sに設けられたシートベース31と、シートベース31に設けられたクッション32とを備える。
【0066】
シートベース31は、プレート材またはボトムプレートとも称される。シートベース31は、シート3の底部を構成し、シート3全体の強度を担保する役割を有する。そのため、シートベース31は、比較的剛性の高い材料から形成されている。シートベース31の材料として、例えば金属材料またはポリプロピレンなどの合成樹脂材料を用いることができるが、それらに限定されない。
【0067】
クッション32は、シートベース31の表面に重ねられている。クッション32は、良好な乗り心地を維持するために、適度な弾力性を長期間に亘って保つ材料から形成され得る。クッション32の材料として、例えば発泡ポリウレタン(ウレタンフォーム)を用いることができるが、それに限定されない。
【0068】
シート3の両サイドには、乗員が腕を置くアームレスト38が設けられている。アームレスト38はサイドガードの役割も果たしている。シート3の後部には、乗員がもたれかかる背もたれ39が設けられている。
【0069】
アンダーフレーム2uには、乗員が足を置くフットボード8(図1)が設けられている。フットボード8には滑り止め加工がなされている。乗員の乗り降りが容易なように、フットボード8の上面は概ね平坦な形状を有している。
【0070】
アンダーフレーム2uの後部には、独立懸架のリアサスペンション50(図2)が設けられている。図5は、リアサスペンション50を示す正面図である。リアサスペンション50は、トレーリングアーム式サスペンションと称される場合がある。
【0071】
リアサスペンション50は、リアアーム51Lおよび51Rと、ショックアブソーバ55Lおよび55Rとを有する。リアアーム51Lおよび51Rは、スイングアームである。リアアーム51Lの前部は、ピボット56Lを介してアンダーフレーム2uの左後方部に回転可能に支持されている。リアアーム51Rの前部は、ピボット56Rを介してアンダーフレーム2uの右後方部に回転可能に支持されている。
【0072】
ショックアブソーバ55Lの上部およびショックアブソーバ55Rの上部のそれぞれは、リアフレーム2r(図2)によって回転可能に支持されている。ショックアブソーバ55Lの下部は、リアアーム51Lを回転可能に支持している。ショックアブソーバ55Rの下部は、リアアーム51Rを回転可能に支持している。
【0073】
リアアーム51Lの後部には、電動モータ60Lが設けられている。電動モータ60Lはインホイールモータであり、電動モータ60Lに後輪5Lが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Lを介して後輪5Lを回転可能に支持している。リアアーム51Rの後部には、電動モータ60Rが設けられている。電動モータ60Rはインホイールモータであり、電動モータ60Rに後輪5Rが設けられている。リアサスペンション50は、電動モータ60Rを介して後輪5Rを回転可能に支持している。後輪5Lおよび5Rは駆動輪である。
【0074】
本実施形態の車両1は、サイズが大きい車輪4L、4R、5Lおよび5Rを採用している。前輪および後輪の外径は例えば14インチ以上であるが、これに限定されない。サイズが大きい前輪および後輪を採用することにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0075】
本実施形態では、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて、後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。左右の車輪の回転を独立に制御することで、車両1の旋回時の挙動の安定性を高めることができる。デファレンシャルギアを備える車両では、一方の駆動輪が空転したときに、他方の駆動輪に駆動力が伝わりにくくなるという課題がある。本実施形態では、後輪5Lおよび5Rの一方が空転したとしても、他方がグリップ力を発揮することで走行を安定して継続することができる。
【0076】
なお、後輪5Lおよび5Rを駆動する電動モータはインホイールモータに限定されない。例えば、一つの電動モータから後輪5Lおよび5Rに駆動力が伝達されてもよい。
【0077】
ここでは、電動モータ60Lおよび60Rが後輪5Lおよび5Rを駆動する二輪駆動の形態を例示したが、車両1は四輪駆動であってもよい。その場合は、前輪4Lおよび4Rのそれぞれに対してもインホイールモータが設けられる。なお、一つの電動モータから前輪4Lおよび4Rに駆動力が伝達されてもよい。また、一つの電動モータから前輪4Lおよび4Rと後輪5Lおよび5Rのそれぞれに駆動力が伝達されてもよい。
【0078】
本実施形態の車両1は、独立懸架のフロントサスペンション40および独立懸架のリアサスペンション50を備える。また、二つの電動モータ60Lおよび60Rを用いて後輪5Lおよび5Rを互いに独立して駆動する。これにより、路面の凹凸に対する追従性を向上させ、駆動力を安定して路面に伝達することができる。また、車両の旋回性能を高めることができる。本実施形態によれば、未舗装路や段差に対する車両の走破性を高めることができる。
【0079】
なお、リアサスペンション50は独立懸架式のサスペンションに限定されず、車軸懸架のサスペンションであってもよい。
【0080】
本実施形態では電動モータとしてインホイールモータを採用している。これにより、車両のボディ部分に電動モータおよび動力伝達機構を配置するスペースを確保する必要がなくなり、省スペース化を実現することができる。また、車両1の左右方向に延びるドライブシャフトが不要であるため、リアサスペンション50はドライブシャフトによる制約を受けない。リアサスペンション50では、リアアーム51Lおよび51Rは前後方向に延びており、ピボット56Lおよび56Rが後輪5Lおよび5Rの回転軸57よりも前方に位置している。このような構成により、リアサスペンション50のホイールストロークを大きくできる。
【0081】
例えば、リアサスペンション50のホイールストロークは60mm以上であるが、これに限定されない。ホイールストロークが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。リアサスペンション50のホイールストロークの上限は車両1のサイズにより異なり得、例えば150mmであるが、これに限定されない。
【0082】
また、ドライブシャフトが不要であり且つ車両後方の中心部付近にリアアーム52Lおよび51Rが位置しないことから、車両後方の中心部付近に空間を確保することができる。車両後方の中心部付近に空間があることにより、独立懸架のリアサスペンション50の動作に応じて左右の後輪5Lおよび5Rの上下方向における位置に大きな差が発生した場合でも、車両本体部分を地面に接触しにくくすることができる。なお、インホイールモータを使用せず、一つの電動モータから後輪5Lおよび5Rに駆動力を伝達する場合は、車両1はドライブシャフトを備えていてもよい。
【0083】
次に、電動モータ60Lおよび60Rの制御を説明する。図6は、車両1の電気的構成を示すブロック図である。車両1は、制御装置70を備える。制御装置70は、車両1の動作を制御する。制御装置70は、例えばMCU(Motor Control Unit)である。典型的には、制御装置70はデジタル信号処理を行うことが可能なマイクロコントローラ、信号処理プロセッサ等の半導体集積回路を有する。
【0084】
制御装置70は、プロセッサ71、メモリ72、駆動回路73Lおよび73Rを備える。プロセッサ71は、電動モータ60Lおよび60Rの動作を制御するとともに、車両1の各部の動作を制御する。メモリ72は、電動モータ60Lおよび60Rおよび車両1の各部の動作を制御するための手順を規定したコンピュータプログラムを格納している。プロセッサ71は、メモリ72からコンピュータプログラムを読み出して各種制御を行う。制御装置70には、バッテリ10から電力が供給される。制御装置70およびバッテリ10は、車両1の任意の位置に設けられ、例えばシート3の下方に設けられるが、それに限定されない。バッテリ10は、車両1に対して着脱可能に設けられ得る。例えばバッテリ10は、シート3の後方に着脱可能に設けられてもよい。バッテリ10をシート3周辺の車両端部に配置することで、乗員はバッテリ10の着脱を容易に行うことができる。
【0085】
アクセル操作子7は、乗員のアクセル操作量に応じた信号をプロセッサ71に出力する。舵角センサ75は、例えばヘッドチューブ22またはステアリングコラム26に設けられ、ステアリングコラム26の回転角に応じた信号をプロセッサ71に出力する。
【0086】
電動モータ60Lには、回転センサ61Lが設けられている。回転センサ61Lは、電動モータ60Lの回転角を検出し、回転角に応じた信号をプロセッサ71および駆動回路73Lへ出力する。プロセッサ71および駆動回路73Lは、回転センサ61Lの出力信号から電動モータ60Lの回転速度を演算する。
【0087】
電動モータ60Rには、回転センサ61Rが設けられている。回転センサ61Rは、電動モータ60Rの回転角を検出し、回転角に応じた信号をプロセッサ71および駆動回路73Rへ出力する。プロセッサ71および駆動回路73Rは、回転センサ61Rの出力信号から電動モータ60Rの回転速度を演算する。後輪5Lおよび5Rのサイズは予めメモリ72に記憶されており、電動モータ60Lおよび60Rの回転速度から車両1の走行速度を演算することができる。
【0088】
プロセッサ71は、アクセル操作子7の出力信号、舵角センサ75の出力信号、車両の走行速度、およびメモリ72に格納されている情報などから、適切な駆動力を発生させるための指令値を演算し、駆動回路73Lおよび73Rへ送信する。プロセッサ71は、車両の走行状態に応じて、駆動回路73Lおよび73Rに互いに異なる指令値を送信し得る。
【0089】
駆動回路73Lおよび73Rは、例えばインバータである。駆動回路73Lは、プロセッサ71からの指令値に応じた駆動電流を電動モータ60Lに供給する。駆動回路73Rは、プロセッサ71からの指令値に応じた駆動電流を電動モータ60Lに供給する。駆動電流が供給された電動モータ60Lおよび60Rが回転することで、後輪5Lおよび5Rは回転する。電動モータ60Lおよび60Rが減速機を備える場合は、それらの減速機を介して後輪5Lおよび5Rに回転が伝達される。
【0090】
上述したように、本実施形態の車両1は、外径が大きい車輪4L、4R、5Lおよび5Rを備えている。これにより、未舗装路および段差に対する走破性を高めることができる。一方で、車両1の全長(前後方向の長さ)には制限が設けられている場合がある。例えば、ハンドル形電動車椅子に関する日本産業規格“JIS T 9208:2016”では、車両の全長は1200mm以下と制限されている。このように車両1の全長に制限がある場合に、車輪の外径を大きくすると、ホイールベースは短くなる。
【0091】
図2を参照して、本実施形態の車輪4L、4R、5Lおよび5Rそれぞれの外径Dwは、例えば車両1の全長Loの0.26倍以上と相対的に大きい。また、車輪の外径Dwは、例えば車両1のホイールベースWBの0.43倍以上と相対的に大きい。このように、車輪のサイズが相対的に大きいと、車輪の切角を大きくすることが困難である。車輪の外径Dwの上限は、例えば車両1の全長Loの0.4倍であるが、これに限定されない。車輪の外径Dwは、例えばホイールベースWBに対して最大で0.67倍であるが、これに限定されない。
【0092】
また、操舵輪として外径および幅が大きい車輪を用いた場合、操舵輪を支持するサスペンションと操舵輪とが干渉しやすくなり、操舵輪の切角を大きくすることが困難となる。しかし、ハンドル形電動車椅子等の車両では小回りが利くがことが求められ、操舵輪の切角を大きくすることが求められる。また、外径が大きく幅も大きい車輪を用いた場合、車輪が上下方向にストロークしたときにもサスペンションと干渉しやすくなり、ホイールストロークを大きくすることが難しいという課題がある。
【0093】
以下、切角およびホイールストロークを大きくすることができる本実施形態のフロントサスペンション40の詳細を説明する。
【0094】
図3を参照して、アッパーアーム41Lおよび41Rと、ロアアーム42Lおよび42Rの角度を説明する。
【0095】
図3は、シート3(図1)に質量75kgのおもりを乗せて水平な路面15で静止している所定状態の車両1を示している。おもりは、ハンドル形電動車椅子に関する日本産業規格“JIS T 9208:2016”に規定されているおもりのうちの一つである。このようなおもりをシート3に乗せることで、車両1に人間が乗った状態を疑似的に実現することができる。
【0096】
図3に示すように、フロントサスペンション40のアッパーアーム41Lおよびロアアーム42Lは、車幅方向(左右方向)の中心部から左方向に向かって、徐々に高さが低くなるように傾いている。すなわち、アッパーアーム41Lおよびロアアーム42Lには垂れ角θ41Lおよびθ42Lがついている。垂れ角は、フロントサスペンション40の正面視において車幅方向とアームの長手方向とがなす角度である。車両1が水平な路面15で静止している場合、車幅方向は水平方向と平行であり得る。アームの長手方向は、例えばフロントフレーム2f側のピボットの中心からナックルアーム側のピボットの中心に向かう方向である。垂れ角は下反角と称される場合がある。
【0097】
フロントサスペンション40のアッパーアーム41Rおよびロアアーム42Rは、車幅方向の中心部から右方向に向かって、徐々に高さが低くなるように傾いている。すなわち、アッパーアーム41Rおよびロアアーム42Rには垂れ角θ41Rおよびθ42Rがついている。
【0098】
アッパーアーム41Lおよび41Rの垂れ角θ41Lおよびθ41Rは、例えば15度以上である。ロアアーム42Lおよび42Rの垂れ角θ42Lおよびθ42Rは、例えば20度以上である。アームそれぞれの垂れ角が大きいことにより、車両1のロール剛性を高めることができる。アッパーアーム41Lおよび41Rの垂れ角θ41Lおよびθ41Rの上限は、例えば20度であるが、それに限定されない。ロアアーム42Lおよび42Rの垂れ角θ42Lおよびθ42Rの上限は、例えば25度であるが、それに限定されない。シート3に上記のおもりを乗せていない状態(乗員が乗車していない状態に相当)においても、フロントサスペンション40の各アームには垂れ角がついていることは言うまでもない。
【0099】
本実施形態では、ロアアーム42Lの垂れ角θ42Lは、アッパーアーム41Lの垂れ角θ41Lよりも大きい。ロアアーム42Lの垂れ角θ42Lとアッパーアーム41Lの垂れ角θ41Lとの差は、例えば5度以上である。また、ロアアーム42Rの垂れ角θ42Rは、アッパーアーム41Rの垂れ角θ41Rよりも大きい。ロアアーム42Rの垂れ角θ42Rとアッパーアーム41Rの垂れ角θ41Rとの差は、例えば5度以上である。ロアアームの垂れ角とアッパーアームの垂れ角との差を5度以上とすることにより、後述するような所望のキャンバー角の変化量を得ることができる。ロアアームの垂れ角とアッパーアームの垂れ角との差の上限は、例えば9度であるが、それに限定されない。例えば、垂れ角の差の上限は8度であってもよい。
【0100】
図7および図8は、フロントサスペンション40を示す正面図である。以下では、主に、アッパーアーム41L、ロアアーム42L、ナックルアーム44Lおよび前輪4Lの特徴について説明するが、アッパーアーム41R、ロアアーム42R、ナックルアーム44Rおよび前輪4Rの特徴もそれと同じである。また、本実施形態における操舵輪は前輪であるため、前輪を操舵輪と称する場合がある。
【0101】
図7は、操舵輪4Lが上方向に移動したとき、すなわちフロントサスペンション40が縮んだときのフロントサスペンション40を示している。図8は、操舵輪4Lが下方向に移動したとき、すなわちフロントサスペンション40が伸びたときのフロントサスペンション40を示している。
【0102】
本願発明者らは、ロアアーム42Lの垂れ角θ42L図3)をアッパーアーム41Lの垂れ角θ41Lよりも大きくすることにより、フロントサスペンション40がストロークしたとの操舵輪4Lのキャンバー角θcの変化量を大きくできることを見出した。例えば、ホイールストロークに対するキャンバー角θcの変化量を5度以上とすることができる。
【0103】
フロントサスペンション40のストロークに応じてキャンバー角θcが大きく変化することにより、フロントサスペンション40がストロークしたときのアッパーアーム41Lの長手方向LD1とタイヤ中心線CtLとがなす角θuの変化量を小さくすることができる。また、フロントサスペンション40がストロークしたときのロアアーム42Lの長手方向LD2とタイヤ中心線CtLとがなす角θlの変化量を小さくすることができる。
【0104】
アームの長手方向とタイヤ中心線とがなす角の変化量が小さいことは、アームと操舵輪との間の位置関係の変化が少ないことを意味する。これによりフロントサスペンション40と操舵輪4Lとの間のクリアランスを大きくすることができる。クリアランスが大きいことで、操舵輪4Lの切角を大きくできるとともに、ホイールストロークを大きくすることができる。
【0105】
図9および図10は、比較例として、ロアアーム42Lの垂れ角θ42L図3)とアッパーアーム41Lの垂れ角θ41Lとが等しいフロントサスペンション40aを示す正面図である。フロントサスペンション40aでは、アッパーアーム41Lの長手方向LD1とロアアーム42Lの長手方向LD2とは平行である。図9は、操舵輪4Lが上方向に移動したときのフロントサスペンション40aを示している。図10は、操舵輪4Lが下方向に移動したときのフロントサスペンション40aを示している。
【0106】
フロントサスペンション40aでは、ストロークしたときにキャンバー角が実質的に変化しない。このため、ストロークしたときのアッパーアーム41Lの長手方向LD1とタイヤ中心線CtLとがなす角θuの変化量が大きくなっている。同様に、ストロークしたときのロアアーム42Lの長手方向LD2とタイヤ中心線CtLとがなす角θlの変化量が大きくなっている。
【0107】
アームの長手方向とタイヤ中心線とがなす角の変化量が大きいことは、アームと操舵輪との間の位置関係の変化が大きいことを意味する。アームと操舵輪との間の位置関係の変化が大きいことにより、クリアランスを確保することは困難である。
【0108】
一方、上述したように、本実施形態のフロントサスペンション40では、アームと操舵輪との間の位置関係の変化が少ない。これによりフロントサスペンション40と操舵輪4Lとの間のクリアランスを大きくすることができ、操舵輪4Lの切角を大きくできるとともに、ホイールストロークを大きくすることができる。
【0109】
また、本実施形態では、フロントサスペンション40がバウンドストロークした場合、操舵輪4Lのキャンバー角θcはネガティブキャンバーとなり得る。また、フロントサスペンション40がリバウンドストロークした場合、操舵輪4Lのキャンバー角θcはポジティブキャンバーとなり得る。フロントサスペンション40のストロークに応じて、キャンバー角θcがネガティブキャンバーとポジティブキャンバーとの間で変化することにより、アームの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0110】
なお、ホイールストロークに対するキャンバー角θcの変化量の上限は、例えば10度であるが、それに限定されない。
【0111】
図11は、本実施形態のフロントサスペンション40を示す正面図である。図11において、バウンドストロークした状態のフロントサスペンション40を実線で示し、リバウンドストロークした状態のフロントサスペンション40を点線で示している。
【0112】
本実施形態では、フロントサスペンション40と操舵輪4Lとの間のクリアランスを大きくできることにより、アームの揺動角およびホイールストロークを大きくすることができる。
【0113】
アッパーアーム41Lの揺動角θs1およびロアアーム42Lの揺動角θs2のそれぞれは、例えば30度以上である。揺動角が30度以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。また、ホイールストロークWSは、例えば60mm以上である。ホイールストロークWSが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0114】
また、ホイールストロークWSは、アッパーアーム41Lの長手方向の長さD41図7)の0.5倍以上であるとともに、ロアアーム42Lの長手方向の長さD42の0.5倍以上である。アームの長手方向の長さは、例えばフロントフレーム2f側のピボットの中心とナックルアーム側のピボットの中心との間の長さである。アームの長さに対してホイールストロークWSが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0115】
揺動角θs1およびθs2の上限は、例えば60度であるが、それに限定されない。ホイールストロークWSの上限は、例えば150mmであるが、それに限定されない。ホイールストロークWSは、例えばアームの長手方向の長さに対して最大で0.80倍であるが、それに限定されない。
【0116】
次に、操舵輪4Lおよび4Rの切角について説明する。図12は、操舵輪4Lおよび4Rの切角を示す図である。図12中の符号CtLおよびCtRは、操舵輪4Lおよび4Rのタイヤ中心線を表している。図12では、車両1が右に旋回するときの切角を示している。本実施形態では、フロントサスペンション40と操舵輪4Lとの間のクリアランスを大きくできることにより、操舵輪4Lおよび4Rの切角を大きくすることができる。
【0117】
車両1が右に旋回するとき、操舵輪4Rは内輪となり、操舵輪4Lは外輪となる。本実施形態において、内輪の切角の最大値は例えば50度以上であり、外輪の切角の最大値は例えば35度以上である。
【0118】
この例では、外輪の切角よりも内輪の切角が大きくなっている。このような内輪と外輪との間の切角の関係は、例えばアッカーマン式ステアリングを採用することにより実現され得る。また、例えば、内輪の切角と外輪の切角とを互いに独立して制御するステアリングシステムによって実現されてもよい。
【0119】
上述のように操舵輪4Lおよび4Rの切角が大きいことにより車両1の最小回転半径を小さくでき、小回りを利かせることができる。内輪の切角の最大値は、例えば80度以下であるが、それに限定されない。外輪の切角の最大値は、例えば80度以下であるが、それに限定されない。
【0120】
上述のように、本実施形態では車両1の最小回転半径を小さくすることができる。例えば、車両1の最小回転半径は、操舵輪4Lおよび4Rのトレッド幅TWの2.5倍以下と小さくすることができる。車両1の最小回転半径は、例えば、1400mm以下である。車両1の最小回転半径が小さいことで、小回りを利かせることができる。
【0121】
上述の実施形態の説明では、車両1は四輪のハンドル形電動車椅子であったが、車両1はそれに限定されない。車両1は、ジョイスティック形電動車椅子であってもよい。車両1は、車椅子に限定されず、別の車両であってもよい。
【0122】
また、車両1の車輪の数は四輪に限定されない。車輪の数は三輪以上であればよい。また、車輪を駆動する駆動源は電動モータに限定されず、内燃機関であってもよい。また、一つの駆動源から複数の車輪に駆動力が伝達されてもよい。
【0123】
以上、本発明の例示的な実施形態を説明した。
【0124】
本発明のある実施形態に係る車両1は、操舵輪4L、4Rを含む少なくとも三輪の車輪と、車輪のうちの少なくとも二輪を駆動する少なくとも一つの駆動源60L、60Rと、操舵輪4L、4Rを支持するアッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rを有するフロントサスペンション40と、を備えた車両1であって、車両1が水平な路面15で静止している状態において、ロアアーム42L、42Rの垂れ角はアッパーアーム41L、41Rの垂れ角よりも大きく、ロアアーム42L、42Rの垂れ角とアッパーアーム41L、41Rの垂れ角との差は5度以上である。
【0125】
ロアアーム42L、42Rの垂れ角をアッパーアーム41L、41Rの垂れ角よりも大きくし、垂れ角の差を5度以上とすることにより、フロントサスペンション40がストロークしたときのアッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。これによりフロントサスペンション40と操舵輪4L、4Rとの間のクリアランスが大きくなり、ホイールストロークWSを大きくすることと操舵輪4L、4Rの切角を大きくすることとの両方を実現することができる。
【0126】
ある実施形態において、ロアアーム42L、42Rの垂れ角とアッパーアーム41L、41Rの垂れ角との差は、5度以上9度以下であってもよい。
【0127】
ロアアーム42L、42Rの垂れ角とアッパーアーム41L、41Rの垂れ角の差が大きいことにより、サスペンション40がストロークしたときのアッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0128】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSに対する操舵輪4L、4Rのキャンバー角の変化量は、5度以上であってもよい。
【0129】
フロントサスペンション40のストロークに応じて操舵輪4L、4Rのキャンバー角が大きく変化することにより、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0130】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSに対する操舵輪4L、4Rのキャンバー角の変化量は、5度以上10度以下であってもよい。
【0131】
フロントサスペンション40のストロークに応じて操舵輪4L、4Rのキャンバー角が大きく変化することにより、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0132】
ある実施形態において、フロントサスペンション40がバウンドストロークした場合、操舵輪4L、4Rのキャンバー角はネガティブキャンバーとなり、フロントサスペンション40がリバウンドストロークした場合、操舵輪4L、4Rのキャンバー角はポジティブキャンバーとなってもよい。
【0133】
フロントサスペンション40のストロークに応じて、キャンバー角がネガティブキャンバーとポジティブキャンバーとの間で変化することにより、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向とタイヤ中心線とがなす角度の変化量を小さくすることができる。
【0134】
ある実施形態において、車両1が水平な路面15で静止している状態において、アッパーアーム41L、41Rの垂れ角は、15度以上であり、ロアアーム42L、42Rの垂れ角は、20度以上であってもよい。
【0135】
アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rの垂れ角がそれぞれ15度以上および20度以上と大きいことにより、ロール剛性を高めることができる。
【0136】
ある実施形態において、車両1が水平な路面15で静止している状態において、アッパーアーム41L、41Rの垂れ角は、15度以上20度以下であり、ロアアーム42L、42Rの垂れ角は、20度以上25度以下であってもよい。
【0137】
アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rの垂れ角が大きいことにより、ロール剛性を高めることができる。
【0138】
ある実施形態において、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの揺動角は、30度以上であってもよい。
【0139】
アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rの揺動角が30度以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0140】
ある実施形態において、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの揺動角は、30度以上60度以下であってもよい。
【0141】
アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rの揺動角が大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0142】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSは、60mm以上であってもよい。
【0143】
ホイールストロークWSが60mm以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0144】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSは、60mm以上150mm以下であってもよい。
【0145】
ホイールストロークWSが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0146】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSは、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上であってもよい。
【0147】
ホイールストロークWSがアッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上と大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0148】
ある実施形態において、フロントサスペンション40のホイールストロークWSは、アッパーアーム41L、41Rおよびロアアーム42L、42Rそれぞれの長手方向の長さの0.5倍以上0.80倍以下であってもよい。
【0149】
ホイールストロークWSが大きいことにより、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができる。
【0150】
ある実施形態において、操舵輪4L、4Rは内輪および外輪を含み、内輪の切角の最大値は、50度以上であり、外輪の切角の最大値は、35度以上であってもよい。
【0151】
操舵輪4L、4Rの切角が大きいことにより車両1の最小回転半径を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【0152】
ある実施形態において、内輪の切角の最大値は、50度以上80度以下であり、外輪の切角の最大値は、35度以上80度以下であってもよい。
【0153】
操舵輪4L、4Rの切角が大きいことにより車両1の最小回転半径を小さくでき、小回りを利かせることができる。
【0154】
ある実施形態において、車両1の最小回転半径は、操舵輪4L、4Rのトレッド幅の2.5倍以下であってもよい。
【0155】
トレッド幅に対する最小回転半径が小さいことで、小回りを利かせることができる。
【0156】
ある実施形態において、車両1の最小回転半径は、1400mm以下であってもよい。
【0157】
車両1の最小回転半径が小さいことで、小回りを利かせることができる。
【0158】
ある実施形態において、操舵輪4L、4Rの外径Dwは、車両1の全長Loの0.26倍以上であってもよい。
【0159】
車両1の全長Loに対して操舵輪4L、4Rの外径Dwが0.26倍以上と大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0160】
ある実施形態において、操舵輪4L、4Rの外径Dwは、車両1の全長Loの0.26倍以上0.4倍以下であってもよい。
【0161】
車両1の全長Loに対して操舵輪4L、4Rの外径Dwが大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0162】
ある実施形態において、操舵輪4L、4Rの外径Dwは、車両1のホイールベースの0.43倍以上であってもよい。
【0163】
車両1のホイールベースに対して操舵輪4L、4Rの外径Dwが0.43倍以上と大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0164】
ある実施形態において、操舵輪4L、4Rの外径Dwは、車両1のホイールベースの0.43倍以上0.67倍以下であってもよい。
【0165】
車両1のホイールベースに対して操舵輪4L、4Rの外径Dwが大きいことで、未舗装路や段差に対する走破性を高めることができるとともに、乗り心地を高めることができる。
【0166】
ある実施形態において、車両1はハンドル形電動車椅子であり、乗員が操舵を行うハンドル6と、乗員が座るシート3と、をさらに備えてもよい。
【0167】
ホイールストロークWSが大きく且つ操舵輪4L、4Rの切角が大きいハンドル形電動車椅子を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明は、車両の分野において特に有用である。
【符号の説明】
【0169】
1:車両(ハンドル形電動車椅子)、 2:車体フレーム、 2f:フロントフレーム、 2u:アンダーフレーム、 2r:リアフレーム、 2s:シートフレーム、 3:シート、 4L、4R:前輪、 5L、5R:後輪、 6:ハンドル、 7:アクセル操作子、 8:フットボード、 9:バックミラー、 10:バッテリ、 15:路面 22:ヘッドチューブ、 26:ステアリングコラム、 27:サスペンションタワー、 28:ボディカバー、 29:フロントガード、 31:シートベース、 32:クッション、 38:アームレスト、 39:背もたれ、 40:フロントサスペンション、 41L、41R:アッパーアーム、 42L、42R:ロアアーム、 43L、43R:タイロッド、 44L、44R:ナックルアーム、 45L、45R:ショックアブソーバ、 46L、46R:ピボット、 47L、47R:ピボット、 48L、48R:ピボット、 49L、49R:ピボット、 49:ピットマンアーム、 50:リアサスペンション、 51L、51R:リアアーム、 55L、55R:ショックアブソーバ、 56L、56R:ピボット軸、 57:回転軸 60L、60R:電動モータ、 61L、61R:回転センサ、 70:制御装置、 71:プロセッサ、 72:メモリ、 73L、73R:駆動回路、 75:舵角センサ
図1
図2
図3
図4A
図4B
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図12